説明

クラッチ装置

【課題】クラッチディスクがフライホイールに完全係合されたときに駆動伝達系の歯車組の歯面のガタ打ち音が発生するのを防止することができるクラッチ装置を提供すること。
【解決手段】クラッチ装置10は、フライホイール13と入力軸14とを相対回転自在に連結する軸受45と、一端部46aが軸受45のインナレース45bに取付けられるとともに、他端部46bがハブプレート19に対向する自由端を構成し、入力軸14と一体回転するコイルスプリング46とを備え、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16から離隔された状態からプレッシャプレート16によりフライホイール13側に押圧されてフライホイール13に完全係合される前に、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19に当接して弾性変形されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関し、特に、車両等に搭載され、内燃機関の出力軸と歯車組を有する動力伝達系との間で動力を伝達および遮断するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内燃機関と歯車組を有する駆動伝達系とを連結するクラッチ装置が用いられており、このクラッチ装置は、内燃機関からの回転トルクを駆動伝達系に伝達および遮断するようになっている。
【0003】
このクラッチ装置は、内燃機関の出力軸に連結されたフライホイールと、フライホイールに固定されたクラッチカバーと、動力伝達系の入力軸にスプライン嵌合されたハブプレートを有するクラッチディスクと、クラッチカバーに軸線方向に摺動自在かつ相対回転不能に装着されるとともにクラッチディスクをフライホイールに押圧するプレッシャプレートとを備えている。
【0004】
このクラッチ装置は、プレッシャプレートの軸線方向の移動によってフライホイールおよびクラッチディスクを係合または解放することにより、内燃機関の動力を、フライホイールからクラッチディスクを介して入力軸に伝達または遮断するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、このクラッチ装置にあっては、変速後のクラッチ係合時にプレッシャプレートを軸線方向一方に移動させることにより、フライホイールとプレッシャプレートによってクラッチディスクを挟持することにより、内燃機関の動力をフライホイールからクラッチディスクを介して入力軸に伝達するようになっている。
【0006】
このため、ハブプレートと入力軸とを連結するスプライン歯の歯面間にガタがある場合には、変速後のクラッチ係合時にスプライン歯の歯面間のガタ詰めが行われて、運転者にとって不快なガタ打ち音が発生してしまう。
このガタ打ち音は、内燃機関から駆動伝達系に入力されるクラッチトルクの傾きによって大きく左右される。
【0007】
具体的には、従来のクラッチ装置は、プレッシャプレートを軸線方向一方に移動させてクラッチディスクをフライホイールに向かって押圧すると、図7に示すように、クラッチディスクがフライホイールに完全係合される直前(P点)でクラッチトルクが急激に上昇する特性となる。すなわち、クラッチトルクの傾きが急激に上昇するカーブを描く。
【0008】
このため、ハブプレートと入力軸とを連結するスプライン歯の歯面間にガタがある場合には、変速後のクラッチ係合時にフライホイールからクラッチディスクに大きなクラッチトルクが入力され、入力軸とハブプレートとのスプライン歯の歯面間のガタ詰めが行われて、運転者にとって不快なガタ打ち音が発生してしまうのである。
【0009】
入力軸とハブプレートとのスプライン歯の歯面間のガタ打ち音が発生するのを防止するものとしては、駆動伝達系の入力軸とクラッチディスクのハブプレートとの間に介装され、入力軸のスプライン歯とガタを有さずにスプライン嵌合される環状部材と、環状部材をハブプレートに押圧して環状部材をハブプレートに摩擦接触させる皿ばねとを備えたクラッチディスクがある(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
このクラッチディスクは、環状部材が入力軸のスプライン歯とガタを有さずにスプライン嵌合されるので、環状部材によって入力軸とハブプレートとのスプライン歯の歯面間のガタ詰めを行うことができ、入力軸とハブプレートとのガタ打ち音が発生するのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−127507号公報
【特許文献2】特開平2−97717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような従来のクラッチディスクにあっては、ハブプレートに設けられた環状部材が入力軸のスプライン歯とガタを有さずにスプライン嵌合されるので、入力軸とハブプレートとのスプライン歯の歯面間のガタ詰めを行うことができるが、変速後にクラッチディスクがフライホイールに係合されてクラッチディスクから入力軸に伝達されるクラッチトルクが大きくなると、駆動伝達系の歯車組のガタ打ち音を発生させてしまう。
【0013】
すなわち、駆動伝達系の歯車組は、互いに対向する歯面間にガタがあるため、クラッチディスクから入力軸に伝達されるクラッチトルクが大きくなると、歯車組の歯面間のガタ詰めが行われてしまい、歯車組の歯面のガタ打ち音を発生させてしまう。
【0014】
このように従来のクラッチディスクは、ハブプレートと入力軸とのスプライン歯の歯面間のガタ詰めを行うだけのものであって、駆動伝達系の歯車組の歯面間のガタ詰めを行うことを考慮していなかった。
【0015】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、クラッチディスクがフライホイールに完全係合されたときに駆動伝達系の歯車組の歯面のガタ打ち音が発生するのを防止することができるクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るクラッチ装置は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関の出力軸に連結されたフライホイールと、前記フライホイールに対向して配置された摩擦接触部および歯車組が設けられた駆動伝達系の入力軸に軸線方向に移動自在かつ、相対回転不能に取付けられたハブプレートとを含んで構成されるクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたクラッチカバーおよび前記摩擦接触部を前記フライホイールに押圧するプレッシャプレートを有するクラッチカバー組立体とを備え、前記プレッシャプレートによって前記摩擦接触部を前記フライホイールに係合および前記フライホイールから離隔させることにより、前記フライホイールと前記入力軸との間で動力を伝達および遮断するクラッチ装置であって、前記フライホイールと前記入力軸とを相対回転自在に連結する連結部材と、一端部が前記連結部材または前記ハブプレートのいずれか一方に取付けられるとともに、他端部が前記連結部材または前記ハブプレートのいずれか他方に対向する自由端を構成し、前記入力軸または前記ハブプレートと一体回転する弾性部材とを備え、前記摩擦接触部が前記フライホイールから離隔された状態から前記プレッシャプレートにより前記フライホイール側に押圧されて前記フライホイールに完全係合される前に、前記弾性部材の他端部が前記連結部材または前記ハブプレートに当接して弾性変形するように構成されている。
【0017】
このクラッチ装置は、変速後にプレッシャプレートにより摩擦接触部がフライホイール側に押圧されて摩擦接触部がフライホイールに完全係合する前に、例えば、弾性部材の他端部がハブプレートに当接する。
【0018】
このため、プレッシャプレートにより摩擦接触部をフライホイールに向かって押圧する押圧力と弾性部材からハブプレートに加わる反力とにより、フライホイールの回転トルクを、フライホイールと一体回転するクラッチカバーを介してクラッチディスクに伝達することができ、ハブプレートから入力軸に微小な予荷重を入力することができる。
【0019】
このため、摩擦接触部がフライホイールに係合してフライホイールからクラッチディスクを介して入力軸に大きな回転トルクが入力する前に、駆動伝達系の歯車組の歯面間のガタ詰めを行うことができ、歯車組の歯打ち音が発生するのを防止することができる。
【0020】
また、変速時にプレッシャプレートにより摩擦接触部がフライホイール側に押圧されることが解除され、摩擦接触部がフライホイールから離隔するときに、弾性部材によってハブプレートがフライホイールから離隔する方向に付勢される。
【0021】
このため、摩擦接触部をフライホイールから完全に切り離すことができ、引き擦りトルクが発生するのを防止することができる。
【0022】
すなわち、摩擦接触部がフライホイールから完全に切り離されないと、運転者がクラッチペダルを踏み込んでいるにもかかわらず、クラッチディスクを介して内燃機関の回転トルクが駆動伝達系に伝達されて、所謂、引き擦りトルクが駆動伝達系に伝達されてしまう。このため、例えば、変速機の変速にかかる操作性が悪化したり、摩擦接触部が摩耗し易くなるといった不具合が発生する。
【0023】
本発明では、クラッチディスクをフライホイールから切り離すときに、弾性部材によってハブプレートをフライホイールから離隔する方向に付勢して摩擦接触部をフライホイールから完全に切り離すことができるので、引き擦りトルクが発生するのを防止することができる。
【0024】
上記(1)のクラッチ装置において、(2)前記弾性部材の自然長は、前記プレッシャプレートにより前記摩擦接触部の押圧が解除されて前記摩擦接触部が前記フライホイールから離隔された状態にあるときに、前記弾性部材の他端部が前記連結部材または前記ハブプレートから離隔する長さに設定されるものから構成されている。
【0025】
このクラッチ装置は、弾性部材の自然長がプレッシャプレートにより摩擦接触部の押圧が解除されて摩擦接触部がフライホイールから離隔された状態にあるときに、弾性部材の他端部が、例えば、ハブプレートから離隔する長さに設定される。
【0026】
このため、摩擦接触部がフライホイールから離隔された状態からプレッシャプレートによりフライホイール側に押圧されてフライホイールに完全係合される前の段階でハブプレートから入力軸に微小な予荷重を確実に入力することができる。
【0027】
上記(1)または(2)に記載のクラッチ装置において、(3)前記連結部材が、前記フライホイールの内周部に固定されたアウタレースと、前記入力軸の外周部に固定され、転動体を介して前記アウタレースに連結されたインナレースとを備えた軸受から構成され、前記弾性部材の一端部が前記ハブプレートまたは前記インナレースのいずれか一方に取付けられるものから構成されている。
【0028】
このクラッチ装置は、軸受によってフライホイールと入力軸とが相対回転自在に連結されているので、入力軸とフライホイールとの芯ずれを低減することができる。このため、駆動伝達系の歯車組の噛合する歯車同士の芯ずれを防止することができ、歯車組からガラ音やジャラ音が発生するのを抑制することができる。
【0029】
上記(2)、(3)に記載のクラッチ装置において、(4)前記弾性部材が、前記入力軸を取り囲むようにして設けられ、一端部が前記ハブプレートまたは前記インナレースのいずれか一方に取付けられたばね部材から構成されている。
【0030】
このクラッチ装置は、フライホイールと入力軸とを連結部材で相対回転自在に連結し、ハブプレートと連結部材との間に弾性部材を介装することにより、歯車組の歯面間のガタ詰めを行うことができるため、安価、かつ簡素な構成によって歯車組の歯面のガタ打ち音を抑制することができる。
【0031】
上記(1)〜(4)に記載のクラッチ装置において、(5)前記ハブプレートが前記入力軸にスプライン嵌合されるものから構成されている。
【0032】
このクラッチ装置は、変速後にプレッシャプレートによりクラッチディスクがフライホイール側に押圧されて摩擦接触部がフライホイールに完全係合する前に、プレッシャプレートによりディスクプレートをフライホイールに向かって押圧する押圧力と弾性部材からハブプレートに加わる反力とにより、フライホイールの回転トルクを、フライホイールと一体回転するクラッチカバーを介してクラッチディスクに伝達することができ、ハブプレートから入力軸に微小な予荷重を入力することができる。
【0033】
このため、ハブプレートおよび入力軸のスプライン歯の歯面間のガタ詰めを行うことができ、ハブプレートおよび入力軸のスプライン歯のガタ詰め音が発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、クラッチディスクがフライホイールに完全係合されたときに駆動伝達系の歯車組の歯面のガタ打ち音が発生するのを防止することができるクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、クラッチディスクがフライホイールから切り離された状態のクラッチ装置の断面図である。
【図2】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、図1の要部拡大図である。
【図3】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、クラッチディスクに予荷重が加わった状態のクラッチ装置の断面図である。
【図4】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、図3の要部拡大図である。
【図5】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、クラッチディスクがフライホイールに係合された状態のクラッチ装置の断面図である。
【図6】本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、クラッチストロークとクラッチトルクとの関係を示す図である。
【図7】従来のクラッチ装置のクラッチストロークとクラッチトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係るクラッチ装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図6は、本発明に係るクラッチ装置の一実施の形態を示す図であり、クラッチ装置を車両の手動変速機に適用した例を示している。
【0037】
まず、構成を説明する。
図1において、クラッチ装置10は、クラッチハウジング11内に設けられており、このクラッチハウジング11は、駆動源である内燃機関と駆動伝達系との間に配置されている。
クラッチハウジング11は、内燃機関側に開口する一端部が図示しないエンジンブロックにボルト締結されており、他端部が図示しない駆動伝達系のトランスアクスルケースに一体に結合されている。
【0038】
クラッチハウジング11内には、フライホイール13が収納されており、このフライホイール13は、内燃機関の出力軸であるクランクシャフト12に複数のボルト12aによって締結されている。
本実施の形態のクラッチ装置10は、内燃機関のクランクシャフト12と駆動伝達系の入力軸14との間に介在する乾式単板タイプの摩擦クラッチから構成されている。
【0039】
このクラッチ装置10は、クランクシャフト12から駆動伝達系の入力軸14への動力伝達経路を接続するクラッチ係合状態およびこの動力伝達経路を切り離すクラッチ解除状態のうち任意の一方の状態に切換え可能であるが、常時はクラッチ係合状態となり、解除操作力が加えられるときに、解除操作力に応じて解除状態あるいは半クラッチ状態なるようになっている。
【0040】
なお、駆動伝達系は、歯車組である変速歯車組を有する変速機、歯車組を有するディファレンシャル装置、ドライブシャフトおよび駆動輪までのドライブラインを含むものである。
【0041】
クラッチ装置10は、フライホイール13と、フライホイール13に隣接するクラッチディスク15と、フライホイール13と一体回転自在となるようにフライホイール13に固定され、フライホイール13との間にクラッチディスク15を収納するクラッチカバー18とを備えている。
【0042】
また、クラッチ装置10は、クラッチディスク15を間に挟んでフライホイール13に対向し、クラッチディスク15をフライホイール13側に押圧するプレッシャプレート16と、プレッシャプレート16をフライホイール13側に押圧して両者を圧接させ、クラッチディスク15をフライホイール13に係合させるダイヤフラムスプリング17とを備えている。
【0043】
なお、ダイヤフラムスプリング17は、ダイヤフラムスプリング17の内周側の複数のフィンガースプリング部分で操作してクラッチ係合状態を解除させることができるようになっている。
【0044】
ダイヤフラムスプリング17は、自由状態ではその外周部がプレッシャプレート16側に大きく湾曲する皿ばね状のものであり、円環状のピポットリング17aおよびクラッチカバー18を介してフライホイール13に対して一定半径位置で拘束されるとともに、ピポットリング17aによる拘束部位より半径方向外側でプレッシャプレート16に圧接係合した状態でクラッチカバー18内に組み込まれている。
【0045】
このダイヤフラムスプリング17は、クラッチカバー18内に組み込まれた状態において、プレッシャプレート16を介してクラッチディスク15をフライホイール13に圧接させるように撓んだ状態となっている。
【0046】
この状態では、内燃機関の回転トルクがクランクシャフト12、フライホイール13およびクラッチディスク15を介して駆動伝達系の入力軸14に伝達される。なお、本実施の形態のクラッチ装置10は、プレッシャプレート16、ダイヤフラムスプリング17およびクラッチカバー18がプレッシャプレート組立体を構成している。
【0047】
クラッチディスク15は、入力軸14にスプライン嵌合されたハブプレート19と、ハブプレート19にコイルスプリング20を介して相対回転自在に連結された一対のディスクプレート21、22とを備えている。
【0048】
入力軸14の外周部14aにはスプライン歯14bが形成されており、ハブプレート19の内周部にはスプライン歯19aが形成されている。このため、ハブプレート19は、入力軸14の軸線方向に移動自在で、かつ、入力軸14に相対回転不能に取付けられている。
【0049】
クラッチディスク15は、ディスクプレート21にクッショニングプレート23を介して連結された摩擦接触部としての一対の摩擦材24a、24bとを備えている。
【0050】
摩擦材24a、24bは、クッショニングプレート23を挟持するようにしてクッショニングプレート23にリベットによって固定されており、フライホイール13に対向して配置されている。
【0051】
コイルスプリング20は、公知のようにハブプレート19およびディスクプレート21、22が相対回転するときに弾性変形するようになっている。
【0052】
具体的には、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16に押圧されてフライホイール13に圧接、すなわち、摩擦材24a、24bがフライホイール13に係合されたときに、内燃機関の回転変動がクラッチディスク15から入力軸14に伝達された場合に、コイルスプリング20が弾性変形してハブプレート19およびディスクプレート21、22を相対回転させることにより、内燃機関の回転変動を減衰する。
【0053】
このため、駆動伝達系の歯車組のジャラ音や車体のこもり音が発生するのを抑制することができる。ここで、ジャラ音とは、内燃機関のトルク変動による回転変動を起振源とした捩り振動によって変速歯車組の空転歯車対が衝突して生じるジャラジャラという異音のことである。
【0054】
また、こもり音は、内燃機関のトルク変動を起振力とする駆動伝達系の捩り共振による振動によって車室内に発生する異音のことである。
また、クラッチ装置10の摩擦材24a、24bは、クラッチペダルの踏み込みに連動して動作するスレーブシリンダ装置31によってフライホイール13に係合およびフライホイール13から離隔するように動作するようになっている。
【0055】
スレーブシリンダ装置31は、クラッチハウジング11に固定されており、駆動伝達系の入力軸14が挿通される貫通孔が形成されたインナボディ32およびインナボディ32の外側に配置されたアウタボディ33を含むシリンダを備えている。
【0056】
インナボディ32は、入力軸14の回転中心軸を中心に円筒状に形成されており、クラッチハウジング11に固定されている。アウタボディ33は、インナボディ32よりも径が大きく形成されており、アウタボディ33の端部はクラッチハウジング11に固定されている。
そして、インナボディ32とアウタボディ33との間には入力軸14の回転中心軸を中心として、環状に延びる空隙部が形成されている。
【0057】
スレーブシリンダ装置31は、インナボディ32とアウタボディ33との間に形成された空隙部内に配置された環状のピストン34を備えており、ピストン34は、 空隙部内を入力軸14の軸線方向に移動自在に設けられている。
【0058】
そして、インナボディ32、アウタボディ33およびピストン34によって、油圧室35が空隙部内に形成されており、油圧室35には、作動油が充填されている。
【0059】
油圧室35には、図示されないマスターシリンダに接続された供給管36が接続されており、油圧室35内には供給管36を介してマスダーシリンダによって加圧された作動油が供給される。
【0060】
レリーズベアリング37は、ピストン34に固定されたインナレース38と、インナレース38に転動体40を介して回転自在に連結されたアウタレース39とを備えており、レリーズベアリング37は、ピストン34が入力軸14の軸線方向に変位することで、ピストン34と共に軸線方向に変位する。
【0061】
また、アウタボディ33とレリーズベアリング37との間にはコイルスプリング41が介装されており、このコイルスプリング41は、レリーズベアリング37が所定の位置となるようにレリーズベアリング37を付勢している。なお、所定の位置においては、ダイヤフラムスプリング17とレリーズベアリング37のアウタレース39とは接触している。
【0062】
このスレーブシリンダ装置31は、クラッチ断続時においては、図示しないクラッチペダルが踏み込まれてマスターシリンダにより作動油圧が発生するとき、マスターシリンダ側から供給管36を介して油圧室35に作動油が供給されるようになっている。
【0063】
この作動油が供給管36から油圧室35に導入されると、ピストン34がレリーズベアリング37を図1中、右方に移動させることにより、レリーズベアリング37がダイヤフラムスプリング17のフィンガースプリング部分を押圧する。
【0064】
このとき、ダイヤフラムスプリング17がピポットリング17aを境に反時計回転方向に回動することにより、プレッシャプレート16の押圧を解除する。このため、プレッシャプレート16がクラッチディスク15をフライホイール13側に押圧しなくなり、フライホイール13からクラッチ装置10に動力が伝達されなくなる。
【0065】
一方、入力軸14の先端部は、フライホイール13の内周部13aまで延出しており、フライホイール13の内周部13aと入力軸14の外周部14aとの間には連結部材としての軸受45が介装されている。
【0066】
この軸受45は、フライホイール13の内周部13aに固定されたアウタレース45aと、入力軸14の外周部14aに固定され、転動体45cを介してアウタレース45aに相対回転自在に連結されたインナレース45bとを備えており、フライホイール13と入力軸14とは軸受45を介して相対回転自在に連結されている。
【0067】
また、入力軸14を取り囲むようにして弾性部材およびばね部材としてのコイルスプリング46が設けられており、このコイルスプリング46の一端部46aは、軸受45のインナレース45bに固定されているとともに、コイルスプリング46の他端部46bは、自由端となっている。
【0068】
本実施の形態のクラッチ装置10は、摩擦材24a、24bがフライホイール13から離隔された状態からプレッシャプレート16によりフライホイール13側に押圧されてフライホイール13に完全係合される前に、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19に当接して弾性変形されるように構成されている。
【0069】
このため、コイルスプリング46の自然長は、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16によりフライホイール13から離隔された状態にあるときに、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19から離隔する長さに設定されている。
【0070】
なお、本実施の形態のクラッチ装置10において、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16による押圧が解除されてフライホイール13から離隔された状態からフライホイール13側に押圧されてフライホイール13に完全係合される前とは、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16による押圧が解除されてフライホイール13から離隔された状態から摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16に押圧されてフライホイール13に接触する前の状態、またはフライホイール13に接触して半クラッチ状態となる状態を含み、少なくともクランクシャフト12からクラッチディスク15を介して入力軸14に動力を伝達する前の状態を言う。
【0071】
次に、作用を説明する。
図1に示すように、変速操作に伴うクラッチの切断時に、クラッチペダルが踏み込まれてマスターシリンダにより作動油圧が発生するとき、マスターシリンダ側から供給管36を介して油圧室35に作動油が供給される。
【0072】
この作動油が供給管36から油圧室35に導入されると、ピストン34がレリーズベアリング37を図1中、右方に移動させることにより、レリーズベアリング37がダイヤフラムスプリング17のフィンガースプリング部分を押圧する。
【0073】
このとき、ダイヤフラムスプリング17がピポットリング17aを境に反時計回転方向に回動することにより、プレッシャプレート16の押圧を解除する。このため、プレッシャプレート16がクラッチディスク15をフライホイール13側に押圧しなくなり、フライホイール13からクラッチ装置10を介して入力軸14に動力が伝達されなくなる。このとき、図1、図2に示すように、コイルスプリング46の他端部46bは、ハブプレート19から離隔している。
【0074】
次いで、変速後にクラッチペダルの踏み込みを解除してクラッチを接続するときには、マスターシリンダ側から供給管36を介して油圧室35に作動油が供給されなくなる。このとき、ダイヤフラムスプリング17がピポットリング17aを境に時計回転方向に回動することにより、プレッシャプレート16が図3中、右方に移動する。
【0075】
このとき、プレッシャプレート16が摩擦材24a、24bをフライホイール13に向かって押圧するため、ハブプレート19が入力軸14の軸線方向に沿って図3中、右方に移動する。
【0076】
ハブプレート19が入力軸14の軸線方向に沿って移動すると、図3、図4に示すように、摩擦材24a、24bがフライホイール13に接触する前に、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19に当接して、コイルスプリング46が圧縮される。
【0077】
すなわち、本実施の形態のクラッチ装置10は、摩擦材24a、24bがフライホイール13から離隔された状態からプレッシャプレート16によりフライホイール13側に押圧されてフライホイール13に接触する前に、コイルスプリング46の一端部46aがハブプレート19に当接して弾性変形するように構成される。
【0078】
このため、プレッシャプレート16により摩擦材24a、24bをフライホイール13に向かって押圧する押圧力とコイルスプリング46からハブプレート19に加わる反力とにより、フライホイール13の回転トルクを、フライホイール13と一体回転するクラッチカバー18を介してクラッチディスク15に伝達することができ、ハブプレート19から入力軸14に微小な予荷重を入力することができる。
【0079】
図6は、クラッチペダルが踏み込まれて摩擦材24a、24bがフライホイール13から離隔した状態から摩擦材24a、24bがフライホイール13に完全係合されるまでのクラッチストロークとクラッチトルク(フライホイール13からクラッチディスク15に伝達されるトルク)の関係を示す図である。
【0080】
本実施の形態のクラッチ装置10は、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19に当接してから摩擦材24a、24bがフライホイール13に当接するまでの予荷重は、図6の破線で囲む領域Bで示すようにフラットなものとなる。なお、領域Aは、プレッシャプレート16とフライホイール13との離隔距離が最大の状態からプレッシャプレート16が摩擦材24a、24bに当接する間でのクラッチストロークである。
【0081】
このため、摩擦材24a、24bがフライホイール13に係合してフライホイール13からクラッチディスク15を介して入力軸14に大きな回転トルクが入力する前に、ハブプレート19から入力軸14に入力される予荷重によって駆動伝達系の変速機の変速歯車組やディファレンシャル装置の歯車組の歯面間のガタ詰めを行うことができ、歯車組の歯打ち音が発生するのを防止することができる。
【0082】
また、入力軸14がハブプレート19にスプライン嵌合しているため、ハブプレート19から入力軸14に入力される微小な予荷重によってハブプレート19および入力軸14のスプライン歯19a、14bの歯面間のガタ詰めを行うことができ、ハブプレート19および入力軸14のスプライン歯19a、14bからガタ詰め音が発生するのを防止することができる。
【0083】
次いで、図5に示すように、プレッシャプレート16によって摩擦材24a、24bがフライホイール13側にさらに押圧されると、コイルスプリング46が軸受45のインナレース45bとハブプレート19との間でさらに圧縮されるとともに、摩擦材24a、24bがフライホイール13に係合し、所謂、半クラッチ状態から完全係合状態に移行する。このときの特性は、図6のC領域で示すようにクラッチトルクが急激に上昇する。
【0084】
このため、内燃機関の回転トルクがクランクシャフト12からフライホイール13およびクラッチディスク15を介して入力軸14に伝達される。
【0085】
一方、変速操作に伴うクラッチの切断時に、クラッチペダルが踏み込まれてマスターシリンダにより作動油圧が発生し、スレーブシリンダ装置31によってレリーズベアリング37がダイヤフラムスプリング17のフィンガースプリング部分が押圧される。
【0086】
すなわち、本実施の形態のクラッチ装置10は、変速時にプレッシャプレート16により摩擦材24a、24bがフライホイール13側に押圧されることが解除され、摩擦材24a、24bがフライホイール13から解放されるときに、ハブプレート19と軸受45のインナレース45bとの間で圧縮されていたコイルスプリング46が伸張することにより、ハブプレート19がフライホイール13から離隔する方向に付勢される(図3参照)。
【0087】
このため、摩擦材24a、24bをフライホイール13から完全に切り離すことができ、引き擦りトルクが発生するのを防止することができる。
【0088】
すなわち、摩擦材24a、24bがフライホイール13から完全に切り離されないと、運転者がクラッチペダルを踏み込んでいるにもかかわらず、クラッチディスク15を介して内燃機関の回転トルクが駆動伝達系に伝達されて、所謂、引き擦りトルクが駆動伝達系に伝達されてしまう。このため、例えば、変速機の変速にかかる操作性が悪化したり、摩擦材24a、24bが摩耗し易くなるといった不具合が発生する。
【0089】
本実施の形態のクラッチ装置10は、クラッチディスク15の解放時にコイルスプリング46によってハブプレート19をフライホイール13から離隔する方向に付勢して摩擦材24a、24bをフライホイール13から完全に切り離すことができるので、引き擦りトルクが発生するのを防止することができる。
【0090】
また、本実施の形態の連結部材は、フライホイール13の内周部13aに固定されたアウタレース45aと、入力軸14の外周部14aに固定され、転動体45cを介してアウタレース45aに連結されたインナレース45bとを備えた軸受45から構成され、コイルスプリング46の一端部46aがインナレース45bに取付けるように構成される。
【0091】
したがって、軸受45によってフライホイール13と入力軸14とを相対回転自在に連結することができるため、入力軸14とフライホイール13との芯ずれを低減することができる。このため、駆動伝達系の変速歯車組の噛合する歯車同士の芯ずれを防止することができ、変速歯車組からガラ音やジャラ音が発生するのを抑制することができる。
【0092】
なお、ガラ音とは、変速機をニュートラルに変速したアイドル時に、内燃機関のトルク変動による回転変動を起振源とした捩り振動によって、無負荷状態にある歯車対が衝突して生じるガラガラという異音のことである。
【0093】
また、本実施の形態のクラッチ装置10は、コイルスプリング46の自然長が、摩擦材24a、24bがプレッシャプレート16によりフライホイール13から離隔された状態にあるときに、コイルスプリング46の他端部46bがハブプレート19から離隔する長さに設定されている。
【0094】
このため、摩擦材24a、24bがフライホイール13から離隔された状態からプレッシャプレート16によりフライホイール13側に押圧されてフライホイール13に接触する前の段階で、ハブプレート19から入力軸14に微小な予荷重を確実に入力することができる。
【0095】
また、本実施の形態のクラッチ装置10は、弾性部材が、入力軸14を取り囲むようにして設けられ、一端部46aが軸受45のインナレース45bに取付けられたコイルスプリング46から構成されるので、フライホイール13と入力軸14を軸受45で相対回転自在に連結し、ハブプレート19と軸受45のインナレース45bとの間にコイルスプリング46を介装するだけの簡単な構成によって、駆動伝達系の変速機の変速歯車組、ディファレンシャル装置の歯車組およびスプライン歯19a、14bの歯面間のガタ詰めを行うことができる。
【0096】
このため、安価、かつ簡素な構成によって駆動伝達系の変速機の変速歯車組、ディファレンシャル装置の歯車組およびスプライン歯19a、14bの歯面間のガタ打ち音を抑制することができる。
【0097】
また、本実施の形態のクラッチ装置10は、軸受45のインナレース45bにコイルスプリング46の一端部46aが取付けられているが、ハブプレート19にコイルスプリング46の一端部46aを取付け、軸受45のインナレース45bに対向するコイルスプリング46の他端部46bを自由端としてもよい。この場合には、コイルスプリング46がハブプレート19と一体回転する。
【0098】
以上のように、本発明に係るクラッチ装置は、クラッチディスクがフライホイールに完全係合されたときに駆動伝達系の歯車組の歯面のガタ打ち音が発生するのを防止することができるという効果を有し、車両等に搭載され、内燃機関の出力軸と歯車組を有する動力伝達系との間で動力を伝達および遮断するクラッチ装置等として有用である。
【符号の説明】
【0099】
10 クラッチ装置
12 クランクシャフト(出力軸)
13 フライホイール
13a 内周部
14 入力軸
14a 外周部
16 プレッシャプレート(クラッチカバー組立体)
17 ダイヤフラムスプリング(クラッチカバー組立体)
18 クラッチカバー(クラッチカバー組立体)
19 ハブプレート
24a、24b 摩擦材(摩擦接触部)
45 軸受(連結部材)
45a アウタレース
45b インナレース
45c 転動体
46 コイルスプリング(弾性部材、ばね部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸に連結されたフライホイールと、前記フライホイールに対向して配置された摩擦接触部および歯車組が設けられた駆動伝達系の入力軸に軸線方向に移動自在かつ、相対回転不能に取付けられたハブプレートとを含んで構成されるクラッチディスクと、前記フライホイールに固定されたクラッチカバーおよび前記摩擦接触部を前記フライホイールに押圧するプレッシャプレートを有するクラッチカバー組立体とを備え、
前記プレッシャプレートによって前記摩擦接触部を前記フライホイールに係合および前記フライホイールから離隔させることにより、前記フライホイールと前記入力軸との間で動力を伝達および遮断するクラッチ装置であって、
前記フライホイールと前記入力軸とを相対回転自在に連結する連結部材と、一端部が前記連結部材または前記ハブプレートのいずれか一方に取付けられるとともに、他端部が前記連結部材または前記ハブプレートのいずれか他方に対向する自由端を構成し、前記入力軸または前記ハブプレートと一体回転する弾性部材とを備え、
前記摩擦接触部が前記フライホイールから離隔された状態から前記プレッシャプレートにより前記フライホイール側に押圧されて前記フライホイールに完全係合される前に、前記弾性部材の他端部が前記連結部材または前記ハブプレートに当接して弾性変形するように構成したことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記弾性部材の自然長は、前記プレッシャプレートにより前記摩擦接触部の押圧が解除されて前記摩擦接触部が前記フライホイールから離隔された状態にあるときに、前記弾性部材の他端部が前記連結部材または前記ハブプレートから離隔する長さに設定されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記連結部材が、前記フライホイールの内周部に固定されたアウタレースと、前記入力軸の外周部に固定され、転動体を介して前記アウタレースに連結されたインナレースとを備えた軸受から構成され、前記弾性部材の一端部が前記ハブプレートまたは前記インナレースのいずれか一方に取付けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記弾性部材が、前記入力軸を取り囲むようにして設けられ、一端部が前記ハブプレートまたは前記インナレースのいずれか一方に取付けられたばね部材からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記ハブプレートが前記入力軸にスプライン嵌合されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載のクラッチ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−61032(P2013−61032A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200666(P2011−200666)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】