説明

クラッドロウ材及びクラッドロウ材の製造方法

【課題】加工時に発生するロウ材の割れ及び剥離を抑制し、より加工性を向上させるクラッドロウ材を提供する。
【解決手段】銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により金属板21に一体化されたロウ材組成層22とを有するクラッドロウ材であって、金属板21とロウ材組成層22との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層23が設けられるという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッドロウ材及びクラッドロウ材の製造方法であって、特に粉末圧延によって製造されるクラッドロウ材及びクラッドロウ材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッドロウ材は、金属の基材にロウ付け特性を有するロウ材を固着させてなるものであって、例えば、シート状のロウ材を圧延処理により基材に圧着して形成されるものと、粉末状のロウ材を粉末圧延処理により基材に圧着した後、焼成されて形成されるものとが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
このように形成されたクラッドロウ材は、ロウ材により形成されるロウ材組成層がロウ付け特性を有し、また、ロウ材組成層が基材に固着されることから、曲げ加工、プレス加工等の加工時に、ロウ材組成層が基材に追従するための加工性が良いという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3554305号公報
【特許文献2】特開2005−238298号公報
【特許文献3】特開2004−25251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッドロウ材は、ロウ材の種類によっては、そのロウ材が有する延性が乏しく脆いという特性により、上記加工時、ロウ材組成層に割れが発生して基材から剥離してしまうことがあり、曲げ加工やプレス加工にある程度の制限を課さざるを得なかった。なお、例えば、ロウ材組成層がリン銅ロウで形成される場合であれば、銀成分を添加することにより延性の向上を図る方法も採られているが、添加する銀が高価であるためコスト高になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、加工時に発生するロウ材の割れ及び剥離を抑制し、より加工性を向上させるクラッドロウ材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により上記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材であって、上記基材と上記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、基材とロウ材組成層との接触面積が増加することで接合強度が上昇する。また、本発明では、当該中間層が、リンを微量に含むことにより、銅から成る基材より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層の割れ及び剥離を防止することができる。
なお、本発明は、中間層のリンの含有量が2wt%を超える場合、延性を乏しくするリン化銅(CuP)が発生するため、当該中間層のリンの含有量が2wt%以下であることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、上記ロウ材組成層は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ロウ材組成層がロウ付け特性を十分に発揮することができる。
【0009】
また、本発明は、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により上記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材の製造方法であって、上記基材と上記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層を形成する中間層形成工程を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、基材とロウ材組成層との接触面積が増加することで接合強度が上昇する。また、本発明では、当該中間層が、リンを微量に含むことにより、基材より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層の割れ及び剥離を防止することができる。
なお、本発明は、中間層のリンの含有量が2wt%を超える場合、延性を乏しくするリン化銅(CuP)が発生するため、当該中間層のリンの含有量が2wt%以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記中間層形成工程は、上記ロウ材組成層を固相線温度以上の温度で加熱する加熱工程と、上記加熱工程の後に、上記ロウ材組成層を固相線温度未満の温度で保持する保持工程とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、粉末圧延により固着されたロウ材組成層を固相線温度以上の温度で融解させ、後に固相線温度未満の温度で保持することで、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層との境界面で、リンの拡散現象を起こさせ、基材とロウ材組成層の間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層を形成することができる。
【0011】
また、本発明は、上記保持工程は、上記保持する時間の長さに応じて上記中間層の厚さを調節する調節工程を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ロウ材組成層の固相線温度未満の温度で保持する時間を調節することによりにより、形成される中間層の厚さを調節することができる。
【0012】
また、本発明は、上記ロウ材組成層は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ロウ材組成層がロウ付け特性を十分に発揮することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により上記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材であって、上記基材と上記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が設けられるという構成を採用することによって、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、基材とロウ材組成層との接触面積が増加することで接合強度が上昇する。また、本発明では、当該中間層が、リンを微量に含むことにより、基材より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層の割れ及び剥離を防止することができる。
【0014】
また、本発明によれば、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により上記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材の製造方法であって、上記基材と上記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層を形成する中間層形成工程を有するという構成を採用することによって、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が、銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、基材とロウ材組成層との接触面積が増加することで接合強度が上昇する。また、本発明では、当該中間層が、リンを微量に含むことにより、基材より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層の割れ及び剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態におけるクラッドロウ材の製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における中間層の厚みと加熱時間との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるクラッドロウ材の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における塑性変形時に亀裂が発生したクラッドロウ材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一の部材には同一の参照符号が付されている。また、理解を容易にするために、これらの図面は、縮尺を適宜変更している。
【0017】
始めに、本実施形態における中間層を有するクラッドロウ材の製造方法について説明する。
図1は、クラッドロウ材シート(クラッドロウ材)1を製造する製造装置Dの構成図を示す。
製造装置Dは、ロウ材組成を有する原料粉末Xを貯蓄するホッパ3Aと、ホッパ3Aに貯蓄された原料粉末Xを後述する圧延ローラ4Aに向けて搬送して供給するベルトフィーダ5Aと、圧延ローラ4Aの周面に供給された原料粉末Xと金属板(基材)21とを圧延する圧延ローラ4A、4Bと、圧延加工された原料粉末X及び金属板21を加熱処理する加熱炉6と、加熱処理を経て形成されるクラッドロウ材シート1を巻き取る回収ローラ8とを有する。
【0018】
原料粉末Xは、ロウ材組成を有する粉末から構成される。原料粉末Xは、例えば、銅成分及びリン成分を含む粉末から構成される。
また、基材と成る金属板21は、例えば、銅成分を有する銅板から構成される。
【0019】
ホッパ3Aは、上部及び下部が開口し、断面形状が下方に向かうに従って漸次縮径する中空構造を有する構成となっている。
【0020】
ベルトフィーダ5Aは、ホッパ3Aの下部と接続され、不図示の回転駆動機構と接続されて回転駆動することで、ホッパ3Aの下部から原料粉末Xを搬送する構成となっている。また、ベルトフィーダ5Aは、搬送先が、圧延ローラ4Aの上方に位置しており、原料粉末Xを圧延ローラ4Aの周面上に供給する構成となっている。
なお、ベルトフィーダ5Aは、圧延ローラ4Aの幅と略同一の幅を有しており、圧延ローラ4Aの幅方向に亘って均一に、原料粉末Xを供給可能な構成となっている。
【0021】
圧延ローラ4A、4Bは、一対となっており、ベルトフィーダ5Aの下方に設けられる。また、圧延ローラ4A、4Bは、互いの周面が所定の間隔で平行対峙するように配置される。そして、圧延ローラ4A、4Bは、不図示の回転駆動機構により回転駆動することによって、圧延ローラ4A、4Bの間に挿入される部材を圧延する構成となっている。
【0022】
加熱炉6は、圧延ローラ4A、4Bの下方に設置され、加熱部6aと、保持部6bとを有する構成となっている。
加熱部6aは、加熱部6a内へプーリ9を介して挿入された圧延ローラ4A、4Bにより圧延された原料粉末X及び金属板21を原料粉末Xの固相線温度以上の温度(例えば、約720度以上)で加熱して融解させる構成となっている。
保持部6bは、加熱部6aの下流に設置され、加熱部6aの加熱処理を経た後に固相線温度未満の温度で保持して中間層23を形成する構成となっている。
【0023】
回収ローラ8は、不図示の回転駆動機構により回転駆動可能に担持される。そして、回収ローラ8は、加熱炉6による加熱処理の工程を経たクラッドロウ材シート1を巻き取る構成となっている。
【0024】
続いて、上記構成の製造装置Dの動作について説明する。
製造装置Dは、始めに、不図示の計量装置によって、原料粉末XをJIS規格のリン銅ロウである成分割合(例えば、BCuP−1、BCuP−2等)に対応させるように、リンを5〜9wt%含有し、残部が銅と不可避不純物とからなるように調整してホッパ3Aに搬送する。
【0025】
ホッパ3A内に搬送されて貯蓄された原料粉末Xは、ホッパ3A下部に接続されたベルトフィーダ5Aの駆動によって、ホッパ3A下部から搬出され、圧延ローラ4Aに向けて搬送・供給される。
【0026】
圧延ローラ4A、4Bは、所定の距離で回転駆動することによって、圧延ローラ4A,4B間に供給された原料粉末Xと、圧延ローラ4A、4Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送される金属板21とを対峙部で圧延する。当該圧延によって、原料粉末Xが金属板21にめり込む形で固着され、数十マイクロメートルの粉体層となって金属板21にロウ材組成層22が形成される。
ロウ材組成層22が形成された金属板21は、圧延ローラ4A、4Bの下方に位置する加熱炉6にプーリ9を介して挿入される。
【0027】
加熱炉6は、挿入されたロウ材組成層22及び金属板21を加熱することで、ロウ材組成層22と金属板21との間に中間層23を形成させる(中間層形成工程)。
先ず、加熱炉6は、加熱部6aにおいて、ロウ材組成層22の固相線温度以上の温度である約720度以上で加熱して、ロウ材組成層22を全面的に融解させる(加熱工程)。
次いで、加熱炉6は、保持部6bにおいて、ロウ材組成層22が全面的に融解したものをロウ材組成層22の固相線温度未満の一定の温度で保持する(保持工程)。
【0028】
当該中間層形成工程によって、加熱工程によりロウ材組成層22を融解させることで含有するリンが流動しやすくなり、当該加熱工程の後に、保持工程で固相線温度以下の温度に保持して保つことで、つまり、ロウ材組成層22が再び凝固する課程を徐々に推移させることで、リンを含有するロウ材組成層22と、銅成分を含む金属板21との境界面でのリンの拡散現象を生じさせやすくすることができる。当該拡散現象によって、リンが移動して、銅を主成分とし、リンの含有量が2wt%以下の銅成分及びリン成分を有する中間層23が形成されることとなる。
【0029】
また、中間層23は、保持工程において、上記保持する時間の長さに応じて中間層23の厚さを調節することができる(調節工程)。図2は、保持時間の長さに応じて中間層23が形成される厚さの関係を温度ごとに示す図である。当該関係は、例えば、図2に示すように、保持部6bの温度が700度又は650度のものである場合、約10分で10〜20マイクロメートルの中間層23が得られる。逆に、600度以下の温度の場合、中間層23は、100分を超えても5マイクロメートル以下の厚さしか形成されないことが観察できる。
【0030】
ロウ材組成層22の割れ及び剥離を防止する中間層23の厚さは、5マイクロメートル〜20マイクロメートルの間が好ましく、保持部6bの温度が700度〜650度の間であって、約10分の保持時間で中間層23を形成するのが好ましい。
なお、図2の保持工程での保持時間と中間層23の形成される厚さとの関係は、実験結果から導き出されたものである。
【0031】
加熱炉6内で加熱処理され中間層23が形成されたロウ材組成層22及び金属板21は、加熱炉6から搬出された後冷却されて、ロウ付け特性を有するロウ材組成層22と中間層23とが、金属板21上にしっかりと固着される。
【0032】
上記製造工程により製造された、ロウ材組成層22、中間層23及び金属板21から成るクラッドロウ材シート1は、回収ローラ8の回転駆動により巻き取られることによって回収されることとなる。
なお、クラッドロウ材シート1は、原料粉末Xを構成する構成粉末の構成比率や、種類を適宜調整することで、クラッドロウ材シート1の用途に適した機能を備えさせることもできる。
【0033】
続いて、上記のように製造された、クラッドロウ材シート1について、図3のクラッドロウ材シート1の断面図を参照して説明する。
【0034】
図3に示すように、中間層23は、界面形態が隆起または沈降して凸凹形状を有しており、界面形態がフラットの場合と比較すると、ロウ材組成層22及び金属板21との接触面積が増加しているため、接合強度が上昇することとなる。当該界面形態の凹凸形状は、原料粉末Xが粉末圧延処理により、金属板21にめり込む形でロウ材組成層22が形成される工程に起因している。
【0035】
また、中間層23は、電子顕微鏡でX線回折パターンから組織を解析してみると、2wt%以下のリンを微量含有して残部が銅及び不可避不純物から形成されていることが観察される。したがって、中間層23は、リンを微量含有しているため金属板21と比較して、強く、また、ある程度の延性を有しているためクラッドロウ材シート1を加工して塑性変形させるときにロウ材組成層22の割れ及び剥離を抑制することができる。
【0036】
このような中間層23を有するクラッドロウ材シート1は、塑性変形時に、ロウ材組成層22に亀裂が走ってしまった場合であっても、中間層23との界面形状が複雑であることから亀裂の伝播を拡散することができ、製品として致命的な欠陥が発生することを抑制することができる。また、図4に示すように、強度があり延性を有する中間層23で亀裂の伝播が遮られ、ロウ材組成層22の剥離または、金属板21まで亀裂が入ることを抑制することができる。
なお、中間層23は、リンの含有量が2wt%を超えるものである場合、延性を乏しくするリン化銅(CuP)が発生するため、リンの含有量が2wt%以下であることが好ましい。
【0037】
したがって、上述の本実施形態によれば、銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末Xを粉末圧延により金属板21に一体化されたロウ材組成層22とを有するクラッドロウ材であって、金属板21とロウ材組成層22との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層23が設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層23が、銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層22との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、金属板21とロウ材組成層22との接触面積が向上することで接合強度が上昇する。また、本実施形態では、当該中間層23が、リンを微量に含むことにより、金属板21より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層22の割れ及び剥離を防止することができる。
なお、本実施形態は、中間層23のリンの含有量が2wt%を超える場合、延性を乏しくするリン化銅(CuP)が発生するため、当該中間層23のリンの含有量が2wt%以下であることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態は、ロウ材組成層22は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、ロウ材組成層22がロウ付け特性を十分に発揮することができる。
【0039】
また、本実施形態は、銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末Xを粉末圧延により金属板21に一体化されたロウ材組成層22とを有するクラッドロウ材の製造方法であって、金属板21とロウ材組成層22との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層23を形成する中間層形成工程を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層23が、銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層22との間で、界面形態が複雑に形成され、仲介するため、金属板21とロウ材組成層22との接触面積が増加することで接合強度が上昇する。また、本実施形態では、当該中間層23が、リンを微量に含むことにより、銅から成る金属板21より強く、ある程度の延性も有しているため、加工時のロウ材組成層22の割れ及び剥離を防止することができる。
なお、本実施形態は、中間層23のリンの含有量が2wt%を超える場合、延性を乏しくするリン化銅(CuP)が発生するため、当該中間層23のリンの含有量が2wt%以下であることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態は、中間層形成工程は、ロウ材組成層22を固相線温度以上の温度で加熱する加熱工程と、上記加熱工程の後に、ロウ材組成層22を固相線温度未満の温度で保持する保持工程とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、粉末圧延により固着されたロウ材組成層22を固相線温度以上の温度で融解させ、後に固相線温度未満の温度で保持することで、銅成分を含む金属板21と、銅成分及びリン成分を含むロウ材組成層22との境界面で、リンが拡散現象を起こし、金属板21とロウ材組成層22の間に銅を主成分とし、リンの含有量が2wt%以下の銅成分及びリン成分を含む中間層23を形成することができる。
【0041】
また、本実施形態は、上記保持工程は、上記保持する時間の長さに応じて中間層23の厚さを調節する調節工程を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、保持時間を調節することによりにより、形成される中間層23の厚さを任意に調節することができる。
【0042】
また、本実施形態は、ロウ材組成層22は、ロウ材組成層22は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本実施形態では、ロウ材組成層22がロウ付け特性を十分に発揮することができる。
【0043】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0044】
例えば、上述した本実施形態では、ロウ材組成層22は、JIS規格のリン銅ロウであるBCuP−1、BCuP−2の成分割合に対応させるように、リンを5〜9wt%含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる原料粉末Xから形成されると説明した。しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、ロウ材組成層22は、例えば、JIS規格のBCuP−3等の他のJIS規格のリン銅ロウの成分割合で混合される原料粉末Xから形成される構成であっても良い。また、上記成分割合からなる合金の原料粉末Xから形成される構成であっても良い。
【0045】
なお、上述した製造装置Dにおいて、クラッドロウ材シート1のクラッド層22及び中間層23を金属板21の片面だけでなく、両面に形成することも可能である。この場合、クラッドロウ材シート1の製造にあたり、ホッパ3B及びベルトフィーダ5Bを稼動させ、ホッパ3Bにも原料粉末Xを搬送し、圧延ローラ4Bの周面上に原料粉末Xを供給することで、金属板21の両面にロウ材組成層22及び中間層23を形成させることができる(図1参照)。
【符号の説明】
【0046】
1…クラッドロウ材シート(クラッドロウ材)、21…金属板(基材)、22…ロウ材組成層、23…中間層、X…原料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により前記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材であって、
前記基材と前記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層が設けられることを特徴とするクラッドロウ材。
【請求項2】
前記ロウ材組成層は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であることを特徴とする請求項1に記載のクラッドロウ材。
【請求項3】
銅成分を含む基材と、銅成分及びリン成分を含む原料粉末を粉末圧延により前記基材に一体化されたロウ材組成層とを有するクラッドロウ材の製造方法であって、
前記基材と前記ロウ材組成層との間に、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が2wt%以下の中間層を形成する中間層形成工程を有することを特徴とするクラッドロウ材の製造方法。
【請求項4】
前記中間層形成工程は、前記ロウ材組成層を固相線温度以上の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後に、前記ロウ材組成層を固相線温度未満の温度で保持する保持工程とを有することを特徴とする請求項3に記載のクラッドロウ材の製造方法。
【請求項5】
前記保持工程は、前記保持する時間の長さに応じて前記中間層の厚さを調節する調節工程を有することを特徴とする請求項4に記載のクラッドロウ材の製造方法。
【請求項6】
前記ロウ材組成層は、銅成分及びリン成分を含み、リンの含有量が5〜9wt%であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のクラッドロウ材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−41958(P2011−41958A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191125(P2009−191125)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(591056569)ナイス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】