説明

クラリスロマイシンの結晶形態0

【課題】抗菌治療有効性を有する新規エリスロマイシンA形態化合物およびその製造方法の提供。
【解決手段】下記式で示される新規抗生物質6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物、その製造方法、該化合物を含んで成る医薬組成物、および治療薬としてのその使用法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療有効性を有する化合物およびその製造方法に関する。本発明は特に、新規化合物6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態0溶媒化物、その製造方法、該化合物を含んで成る医薬組成物、および治療薬としてのその使用に関する。
【0002】
発明の背景
6−O−メチルエリスロマイシンA(クラリスロマイシン)は、式:
【0003】
【化2】

で示される半合成マクロライド系抗生物質である。6−O−メチルエリスロマイシンAの2種の結晶形態、「形態I」および「形態II」が同定されている。結晶形態は、それらの単結晶または粉末回折図形によって同定される。
【0004】
6−O−メチルエリスロマイシンAは、グラム陽性細菌、ある種のグラム陰性細菌、嫌気性細菌、MycoplasmaおよびChlamidiaに対して優れた抗菌活性を示す。それは酸性条件下で安定であり、経口投与された場合に有効である。子供および成人における上部気道の感染に対する有効な治療法である。6−O−メチルエリスロマイシンAは、錠剤または経口懸濁剤として入手可能である。現在市販されている薬剤は、熱力学的により安定な6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを使用して製剤化されている。
【0005】
経口懸濁剤は、子供および老人などの錠剤を飲み込むのが困難な患者に特に有用である。しかし、6−O−メチルエリスロマイシンAは著しい苦味を有するので、味を遮断する従来の方法は味のよい懸濁剤を製造することに成功していない。最終的に、6−O−メチルエリスロマイシンA−カルボマー(アクリル酸コポリマー)複合体によって、経口懸濁剤に使用するのに充分に味のよい粒子が得られることが見い出された。米国特許第4808411参照。
【0006】
経口懸濁液に使用される6−O−メチルエリスロマイシンA−カルボマー複合体は、6−O−メチルエリスロマイシンAを有機溶媒、好ましくはエタノールに分散し、別にカルボマーをエタノールに分散し、2つの溶液を混合して所望の反応生成物を生成し、大部分の溶媒を蒸発させ、混合物を水で希釈して、カルボマー−6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物複合体を沈殿させることによって製造される。
【0007】
発明の要旨
6−O−メチルエリスロマイシンAは、「形態0」として指称される第三結晶形態において存在することができる。結晶形態0、IおよびIIは、同一の抗菌活性スペクトルを有する。化合物がエタノールからの再結晶によって精製される、下記に概説する特許文献に開示されている種々の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンAは、結晶形態0−エタノレートの初期形成を生じる。形態0溶媒化物は、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、および酢酸イソプロピルを使用して形成することもできる。形態0溶媒化物は、約0℃〜約50℃の温度において乾燥させることによって溶媒を結晶格子から除去することによって、非溶媒化形態Iに変換される。形態0は、約70℃〜110℃の温度において、真空下に加熱することによって、非溶媒化結晶形態IIに変換される。
【0008】
前記の6−O−メチルエリスロマイシンA−カルボマー複合体は、6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを使用して製造される。エネルギーおよび材料取り扱いにおける実質的な節約は、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物からカルボマー複合体を形成し、それによって結晶形態IIを製造するために必要とされる真空乾燥段階を省くことによって行われる。6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物は、非溶媒化6−O−メチルエリスロマイシンA形態IおよびIIの製造における有用な中間体でもある。
【0009】
従って、本発明は、その原則的実施態様において、式:
【0010】
【化3】

[式中、Sは、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから成る群から選択される溶媒化分子である。]
で示される、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物として指称される新規結晶性抗生物質を提供する。
【0011】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物は、4.581°±0.2、6.498°±0.2、7.615°±0.2、9.169°±0.2、10.154°±0.2、11.009°±0.2、11.618°±0.2、12.495°±0.2、13.772°±0.2、14.820°±0.2、16.984°±0.2、18.221°±0.2、18.914°±0.2および19.495°±0.2の粉末X線回折図形における2−θ角位置を特徴とする。
【0012】
他の実施態様において、本発明は治療的有効量の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、医薬的に許容される担体との組み合わせにおいて含んで成る組成物を提供する。
【0013】
さらに他の実施態様において、本発明は、治療的有効量の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を哺乳動物に投与することを含んで成る、そのような治療を必要とする宿主哺乳動物における細菌感染の治療法を提供する。
【0014】
さらに他の実施態様において、本発明は、
(a) エリスロマイシンAを6−O−メチルエリスロマイシンAに変換し、
(b) (i)エタノール、(ii)酢酸イソプロピル、(iii)イソプロパノール、および(iv)テトラヒドロフランから成る群から選択される溶媒を使用して、6−O−メチルエリスロマイシンAを処理し、および
(c) 6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を単離する、
ことを含んで成る6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物の製造方法を提供する。
【0015】
さらに他の実施態様において、本発明は、前記方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・エタノレートを提供する。
【0016】
さらに他の実施態様において、本発明は、前記方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・酢酸イソプロピルを提供する。
【0017】
さらに他の実施態様において、本発明は、前記方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・テトラヒドロフランを提供する。
【0018】
さらに他の実施態様において、本発明は、前記方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・イソプロパノレートを提供する。
【0019】
さらに他の実施態様において、本発明は、約25%〜約95%の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物、および約5%〜約75%のカルボマーを含んで成る組成物を提供する。
【0020】
さらに他の実施態様において、本発明は、治療的有効量の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体を哺乳動物に投与することを含んで成る、そのような治療を必要とする宿主哺乳動物における細菌感染の治療法を提供する。
【0021】
さらに他の実施態様において、本発明は、医薬的に許容される液体媒体中に懸濁された6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体を含んで成る経口投与のための懸濁剤を提供する。
【0022】
さらに他の実施態様において、本発明は、約25%〜約95%の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物および約5%〜約75%のカルボマーの、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体の製造方法を提供し、該方法は、
(a) カルボマーを有機溶媒に分散し、および
(b) 段階(a)の分散液と6−O−メチルエリスロマイシン形態0溶媒化物とを混合して、反応生成物を生成する、
ことを含んで成る方法である。
【0023】
さらに他の態様において、本発明は、前記方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体を提供する。
【0024】
さらに他の態様において、本発明は、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を約0℃〜約50℃の温度において乾燥させることを含んで成る、6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの製造方法を提供する。
【0025】
さらに他の態様において、本発明は、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を真空下に約70℃〜約110℃の温度において加熱することを含んで成る、6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの製造方法を提供する。
【0026】
詳細な説明
6−O−メチルエリスロマイシンAは、エリスロマイシンAの6−ヒドロキシ基のメチル化によって製造される。しかし、6位の他に、エリスロマイシンAは、11、12、2’および4”位にヒドロキシ基を有し、これらが全てアルキル化剤と潜在的に反応性である。従って、6−ヒドロキシ基のアルキル化の前に、種々の反応性官能基を保護する必要がある。6−O−メチルエリスロマイシンAの代表的な製造方法が、引用によりここに援用する米国特許第4331803号、第4670549号、第4672109号および第4990602号ならびに欧州特許出願第260938B1号に記載されている。保護基の最終除去の後に、6−O−メチルエリスロマイシンAが、脱保護反応からの残留溶媒、無機塩および他の不純物を含有する固形物、半固形物またはシロップとして存在する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、前記に記載の溶媒を使用してシロップまたは半固形物から直接的に結晶化することができる。あるいは、粗反応生成物が凝固する場合は、固形物を前記の溶媒のいずれかから再結晶することができる。純粋な6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、形態II、または形態Iと形態IIの混合物を、前記の溶媒のいずれかから再結晶することによって得ることができる。本明細書において使用される「6−O−メチルエリスロマイシンA」という語は、いずれかの結晶形態の6−O−メチルエリスロマイシンAおよびそれらの混合物、ならびに、いずれかの純度状態の6−O−メチルエリスロマイシンAを含んで成る非晶質固形物、シロップまたは半固形物、を包含する。
【0027】
「処理する」という語は、前記に定義された6−O−メチルエリスロマイシンAを結晶化するかまたは再結晶することを意味する。
【0028】
6−O−メチルエリスロマイシンAは、種々の合成経路によって、エリスロマイシンAから製造される。1つの方法において、エリスロマイシンAが2’−O−3’−N−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−N−デメチルエリスロマイシンA(I):
【0029】
【化4】

に変換される。次に、6−ヒドロキシ基が、ブロモメタンまたはヨードメタンのようなアルキル化剤および塩基との反応によってメチル化される。接触水素添加によるベンゾイル基の除去、および3’Nの還元的メチル化によって、6−O−メチルエリスロマイシンAが得られる。米国特許第4331803号参照。
【0030】
他の合成経路は、6−O−メチルエリスロマイシンA−9−オキシムのメチル化に関係している。6−O−メチルエリスロマイシンA−9−オキシムは、米国特許第5274085号に開示されているような、エリスロマイシンAと、塩基の存在下の塩酸ヒドロキシルアミンまたは酸の存在下のヒドロキシルアミンとの反応のような当分野で既知の方法によって製造される。オキシムとRX[Rはアリルまたはベンジルであり、Xはハロゲンである。]との反応は、2’−O,3’−N−ジアリルまたはジベンジルエリスロマイシンA−9−O−アリルまたはベンジルオキシムハライドを生成する。前記のような該第四級塩のメチル化、それに続くR基の除去および脱オキシム化によって、6−O−メチルエリスロマイシンAが得られる。米国特許第4670549号参照。
【0031】
式II:
【0032】
【化5】

[式中、Rはアルキル、アルケニル、置換または非置換ベンジル、オキシアルキル、または置換フェニルチオアルキルであり、Rはベンゾイルであり、Rはメチルまたはベンゾイルである。]
で示される6−O−メチルエリスロマイシンAオキシム誘導体のメチル化、それに続く脱保護、脱オキシム化、およびRがベンゾイルである場合の還元性メチル化によって、6−O−メチルエリスロマイシンAが得られる。米国特許第4672109号参照。
【0033】
6−O−メチルエリスロマイシンAの特に有用な製造方法は、式III:
【0034】
【化6】

[式中、Rはアルケニル、置換または非置換ベンジル、または置換アルコキシアルキルであり、Rは置換シリルであり、RはRまたはHである。]
で示されるオキシム誘導体のメチル化に関係している。次に、保護基の除去および脱オキシム化が、酸での処理によって単一段階で行われて、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する。欧州特許出願第260938B1号および米国特許第4990602号参照。
【0035】
6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する好ましい経路が、反応図1に概説が示されている。Streptomyces erythreusの発酵によって製造されるエリスロマイシンAをオキシム化して、Rがアルコキシアルキルのオキシム4を得る。エリスロマイシンAと置換ヒドロキシルアミンRONH2との反応、またはエリスロマイシンAと、塩基の存在下の塩酸ヒドロキシルアミンまたは酸の存在下のヒドロキシルアミンとの反応、それに続くRXとの反応によって、基Rが導入される。次に、2つのヒドロキシ基が同時に保護され、ここでRまたはRは同じであるか、または逐次的に(sequentially)RおよびRが異なる。特に有効な保護基は、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル等のような置換シリル基である。次に、保護基を除去し、化合物を脱保護して、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する。脱保護/脱オキシム化の順序は限定的ではない。保護基が置換シリルである場合に、酸での処理によって、例えば蟻酸または亜硫酸水素ナトリウムを使用して、脱保護および脱オキシム化を単一段階で行うことができる。米国特許第4990602号参照。
【0036】
【化7】

【0037】
本発明の工程態様によれば、前記の方法のいずれかによって製造される6−O−メチルエリスロマイシンAを、所望の溶媒に懸濁し、溶媒のほぼ還流温度に加熱する。次に、加熱を継続し、懸濁液を、ほとんどの固形物を溶解させるのに充分な時間、一般に約10分〜2時間攪拌する。次に、懸濁液を熱間濾過する。必要であれば、溶媒の還流温度またはほぼ還流温度において、濾液を加熱して、清澄な溶液を得る。次に、濾液を周囲温度に徐々に冷却し、任意に氷水浴でさらに冷却する。本明細書において、周囲温度とは約20℃〜約25℃を意味する。次に、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、好ましくは濾過によって、単離し、湿った結晶を密閉容器に移す。
【0038】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物の単離に最も好ましい溶媒はエタノールである。
【0039】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体は、約5重量%〜約75重量%のカルボマーを有機溶媒に分散し、その分散液を約95重量%〜約5重量%の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物と混合することによって製造される。好ましい有機溶媒はアセトンである。次に、その混合物を、抗生物質−カルボマー複合体を形成するのに充分な時間、一般に約0.5〜約12時間攪拌する。次に、固体複合体を、好ましくは濾過によって、単離する。必要であれば、混合物に水を加えて、複合体の沈殿を促進する。次に、集めた沈殿物を乾燥し、通常法によって所望の粒度に粉砕する。
【0040】
あるいは、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物と乾燥カルボマーとを、限られた量の有機溶媒中で混合することによって、カルボマー複合体を製造することもできる。次に、溶媒を蒸発によって除去し、それによって、濾過段階を省くことができる。
【0041】
前記工程に使用されるカルボマーは、高度の架橋および増粘力を有する分岐アクリル酸ポリマーである。それらは一般式:
【0042】
【化8】

[式中、nは約10000〜約60000である。]
で示される。平均当量は76であり、分子量は約3000000である。好ましい物質はU.S. Pharmacopoeiaに記載のCarbomer 934Pである。このカルボマーは水溶性樹脂に分類され、その増粘および懸濁特性により、他の医薬組成物に使用されている。溶媒化前状態において、カルボマーは緊密に巻き込まれた分子であり、その増粘特性は制限される。しかし、比較的高い分子量および広範囲な樹脂架橋により、カルボマーは高粘度ゲルを形成することができる。この形成は、初期には、水和および部分的な巻きのほどけ(partial uncoiling)の結果として起こると考えられる。好適な有機または無機塩基を使用するカルボマーの酸根の中和が、分子の巻きをさらにほどき、高粘度溶液を形成するために、必要とされる。
【0043】
「6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体または顆粒」は、前記工程において得られる生成物を意味する。理論に縛られるわけではないが、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物のアミノ基とカルボマーのカルボニル基との間のイオン引力、およびカルボマーのゲル化特性の両方によって、顆粒が団結する(be held together)と考えられる。
【0044】
本発明の抗生物質−カルボマー複合体は、乾燥形態、好ましくは粒子形態で使用することができる。そのような粒子は、食品または飲料と混合することができ、液体懸濁液の製造および経口投与に使用することができ、または経口投与のための通常の全錠剤(whole tablet)または咀嚼錠剤に成形することができる。
【0045】
そのような固体投与形態において、抗生物質−カルボマー複合体が、少なくとも1種類の不活性の医薬的に許容される賦形剤または担体、例えば、クエン酸ナトリウムまたは燐酸二カルシウム、および/または、a)充填剤または増量剤、例えば、澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよび珪酸、b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよびアカシア、c)保湿剤、例えば、クリセロール、d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ポテトまたはタピオカ澱粉、アルギン酸、ある種の珪酸塩、および炭酸ナトリウム、e)溶解遅延剤、例えば、パラフィン、f)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物、g)湿潤剤、例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール、h)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイトクレー、およびi)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物、と混合される。この投与形態は、緩衝剤も含んで成る。
【0046】
ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコール等のような賦形剤を使用して、軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として、同種の固体組成物を使用することもできる。
【0047】
固体投与形態は、被膜および外皮、例えば腸溶被膜および医薬製剤分野において既知の他の被膜を使用して、製造することができる。それらは任意に乳白剤を含有してもよく、および、有効成分のみを、または優先的に、腸管のある部分において、任意に遅延した方法において、放出する組成物であってもよい。使用することができる埋封組成物(embedding compositions)の例は、ポリマー物質およびワックスを包含する。
【0048】
適切であれば、前記賦形剤の1種またはそれ以上を使用して、活性化合物をマイクロカプセル形態にすることもできる。
【0049】
経口投与のための懸濁剤は、抗生物質−カルボマー複合体の他に、当分野において一般に使用される不活性希釈剤、例えば水または他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、グラウンドナッツ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物
を含有することができる。
【0050】
経口組成物は、不活性希釈剤の他に、補助剤、例えば、湿潤剤、乳化および懸濁剤、甘味剤、風味剤、および香料も含有することができる。
【0051】
懸濁剤は、活性化合物の他に、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微晶質セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、およびトラガカントゴミ、ならびにそれらの混合物を含有することができる。
【0052】
40メッシュ(420ミクロン)より以下の平均直径を有する微細粒子を使用するのが好ましい。小児用懸濁剤に使用するためには、50メッシュ(297ミクロン)より以下の平均粒子直径が望ましい。ある製剤においては、粒子がさらに大きく、10メッシュ(2000ミクロン)より以下、より好ましくは1000ミクロン(約16メッシュ)より以下の平均直径を有する場合もある。
【0053】
口中での活性薬剤の溶解をさらに減少させるために、本発明の複合体をポリマーで被覆することができる。種々のポリマー物質を使用することができる。そのような物質の非限定的例は、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびセラック、ならびに医薬分野における一般精通者に既知の他の多くのポリマーを包含する。商品名によって一般に既知のそのような他のポリマーは、Rohm and Haas Companyから入手可能なEudragit(登録商標)E−100、S−100およびL−100ポリマーを包含する。ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートが最も好ましい。
【0054】
pH感受性被膜の使用は、味を遮断する以外の利点を有する。中性pHにおいて不溶性であるが酸性において可溶性の被膜(例えば、Eudragit(登録商標)E−100)は、口の中性pHにおいて充分に味を遮断することができるが、一方、飲み込んだ後に強酸性の胃内容物中で急速に溶解することができる。これと反対に、腸溶被膜は、酸または水に不溶性であるが、pH5または6より以上の中性緩衝液において急速に溶解する。これによって、製剤において損なわれずに維持されるが、腸内で抗生物質を急速に放出する、抗生物質−カルボマー複合体の懸濁剤の製造が可能になる。従って、この薬剤は、胃の敵対環境から保護され、一方、腸管の高いpHにおいて急速に溶解する。
【0055】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際的な投与レベルは、特定の患者、組成物、および投与形式に関して、所望の治療反応を得るのに有効な量の活性化合物が得られるように変化させることができる。選択される投与レベルは、特定化合物の活性、投与経路、治療される症状の重篤度、治療を受ける患者の健康状態および以前の病歴に依存する。しかし、所望の治療効果を得るのに必要なレベルより低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が得られるまで徐々に投与量を増加することは、当分野の技術の範囲内である。
【0056】
一般に、約1〜約1000mg、より好ましくは約5〜約200mgの6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物/kg体重/日の投与レベルが、哺乳動物患者に投与される。所望であれば、有効一日用量を投与の目的に合わせて、複数回の投与、例えば2〜4回/日に分けることもできる。
【0057】
下記実施例は、当業者が本発明を実施できるようにするために記載されており、単に本発明を例示するものである。それらの実施例は、請求の範囲に規定される本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【実施例1】
【0058】
6−O−メチルエリスロマイシン形態0・エタノレートの製造
米国特許第4990602号の方法により、C−9カルボニルのオキシム化、C−2’およびC−4”ヒドロキシ基の保護、C−6ヒドロキシ基のメチル化、脱オキシム化、および保護基の除去、ならびに、エタノールからの再結晶によって、6−O−メチルエリスロマイシンAをエリスロマイシンAから製造した。
【0059】
前記のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA(20g)、およびエタノール(200mL)の混合物を加熱還流し、不溶物(11.2g)を濾過によって除去した。濾液を透明フラスコに移し、加熱還流した。清澄な溶液を周囲温度に冷却し、次に、氷浴でさらに冷却した。液体をデカンテーションして6−O−メチルエリスロマイシンA形態0エタノレートを得、これを乾燥させずに容器に密封した。6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・エタノレートの単結晶X線回折図形における2−θ角位置は、4.72°±0.2、6.60°±0.2、7.72°±0.2、9.30°±0.2、10.40°±0.2、11.10°±0.2、11.86°±0.2、12.72°±0.2、13.90°±0.2、15.02°±0.2、17.18°±0.2、18.50°±0.2、19.08°±0.2、19.68°±0.2、23.14°±0.2および23.98°±0.2である。
【実施例2】
【0060】
6−O−メチルエリスロマイシン形態0・酢酸イソプロピルの製造
実施例1に記載のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA(10g)、および酢酸イオプロピル(100mL)の混合物を73℃に加熱した。温溶液を濾過して微量の不溶物を除去した。清澄な溶液を周囲温度に徐々に冷却した。液体をデカンテーションし、湿った固形物を乾燥させずに容器に密封した。
【0061】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・酢酸イソプロピルの単結晶X線回折図形における2−θ角位置は、4.76°±0.2、6.70°±0.2、7.80°±0.2、9.128°±0.2、10.56°±0.2、11.96°±0.2、12.24°±0.2、12.36°±0.2、12.60°±0.2、12.84°±0.2、13.96°±0.2、15.16°±0.2、16.68°±0.2、17.28°±0.2、18.52°±0.2、19.18°±0.2、19.80°±0.2、20.56°±0.2、21.52°±0.2および23.96°±0.2である。
【実施例3】
【0062】
6−O−メチルエリスロマイシン形態0・テトラヒドロフランの製造
実施例1に記載のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA(10g)、およびテトラヒドロフラン(20mL)の混合物を50℃に加熱した。温溶液を濾過し、濾液を周囲温度に徐々に冷却した。液体をデカンテーションし、湿った固形物を乾燥させずに容器に密封した。
【実施例4】
【0063】
6−O−メチルエリスロマイシン形態0・イソプロパノレートの製造
実施例1に記載のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA(5g)、およびイソプロパノール(20mL)の混合物を60℃に加熱した。温溶液を重力濾過して10mLの清澄な濾液を得、周囲温度に徐々に冷却した。液体をデカンテーションし、湿った固形物を乾燥させずに容器に密封した。
【実施例5】
【0064】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物の6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iへの変換
実施例1〜4に記載のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、真空炉(40〜45℃、4〜8インチHg)で乾燥させる。6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの粉末X線回折図形における2−θ角位置は、5.16°±0.2、6.68°±0.2、10.20°±0.2、12.28°±0.2、14.20°±0.2、15.40°±0.2、15.72°±0.2および16.36°±0.2である。
【実施例6】
【0065】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物の6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIへの変換
実施例1〜4に記載のように製造された6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物をバイアルに入れ、真空炉(4〜9インチHg、100〜110℃)で18時間加熱して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶を得る。6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIは223.4℃で融解する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの粉末X線回折図形における2−θ角位置は、8.52°±0.2、9.48°±0.2、10.84°±0.2、11.48°±0.2、11.88°±0.2、12.36°±0.2、13.72°±0.2、14.12°±0.2、15.16°±0.2、16.48°±0.2、16.92°±0.2、17.32°±0.2、18.08°±0.2、18.40°±0.2、19.04°±0.2、19.88°±0.2および20.48°±0.2である。
【実施例7】
【0066】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0−カルボマー複合体の製造
約1.5重量部の6−O−メチルエリスロマイシン形態0・エタノレートおよび1重量部のCarbomer 934Pのアセトン中の混合物を、混合物が均質になるまで攪拌することによって、所望の複合体を製造する。次に、攪拌しながら水を加え、得られる沈殿物を約30分間攪拌する。固形物を真空濾過によって分離し、水で洗浄する。次に、湿った濾過ケークを30メッシュ篩にかけ、真空炉で約40℃で乾燥する。複合体の有効性(potency)を熱量分析によって測定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

[式中、Sは、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから成る群から選択される溶媒化分子である。]
で示される、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物として指称される結晶性抗生物質。
【請求項2】
4.581°±0.2、6.498°±0.2、7.615°±0.2、9.169°±0.2、10.154°±0.2、11.009°±0.2、11.618°±0.2、12.495°±0.2、13.772°±0.2、14.820°±0.2、16.984°±0.2、18.221°±0.2、18.914°±0.2および19.495°±0.2の粉末X線回折図形における2−θ角位置を特徴とする請求項1に記載の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物。
【請求項3】
4.72°±0.2、6.60°±0.2、7.72°±0.2、9.30°±0.2、10.40°±0.2、11.10°±0.2、11.86°±0.2、12.72°±0.2、13.90°±0.2、15.02°±0.2、17.18°±0.2、18.50°±0.2、19.08°±0.2、19.68°±0.2、23.14°±0.2および23.98°±0.2の粉末X線回折図形における2−θ角位置を特徴とする名称6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・エタノレートを有する請求項1に記載の結晶性抗生物質。
【請求項4】
4.76°±0.2、6.70°±0.2、7.80°±0.2、9.128°±0.2、10.56°±0.2、11.96°±0.2、12.24°±0.2、12.36°±0.2、12.60°±0.2、12.84°±0.2、13.96°±0.2、15.16°±0.2、16.68°±0.2、17.28°±0.2、18.52°±0.2、19.18°±0.2、19.80°±0.2、20.50°±0.2、21.52°±0.2および23.96°±0.2の粉末X線回折図形における2−θ角位置を特徴とする名称6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・酢酸イソプロピルを有する請求項1に記載の結晶性抗生物質。
【請求項5】
名称6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・テトラヒドロフランを有する請求項1に記載の結晶性抗生物質。
【請求項6】
名称6−O−メチルエリスロマイシンA形態0・イソプロパノレートを有する請求項1に記載の結晶性抗生物質。
【請求項7】
治療的有効量の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、医薬的に許容される担体との組み合わせにおいて含んで成る組成物。
【請求項8】
治療的有効量の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を哺乳動物に投与することを含んで成る、そのような治療を必要とする宿主哺乳動物における細菌感染の治療法。
【請求項9】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物の製造方法であって、該方法が、
(a) エリスロマイシンAを6−O−メチルエリスロマイシンAに変換し、
(b) エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから成る群から選択される溶媒を使用して、段階aで製造された6−O−メチルエリスロマイシンを処理し、および
(c) 6−O−メチルエリスロマイシン形態0溶媒化物結晶を単離する、
ことを含んで成る方法。
【請求項10】
段階(a)が、
(i) エリスロマイシンAをエリスロマイシンA9−オキシム誘導体に変換し、
(ii) 段階aで製造されたエリスロマイシンA9−オキシム誘導体の2’および4”ヒドロキシ基を保護し、
(iii) 段階bの生成物をメチル化剤と反応させ、
(iv) 段階cの生成物を、脱保護し、脱オキシム化して、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する、
ことを含んで成る請求項9に記載の方法。
【請求項11】
溶媒がエタノールである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシン形態0・エタノレート。
【請求項13】
溶媒が酢酸イソプロピルである請求項10に記載の方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシン形態0・酢酸イソプロピル。
【請求項15】
溶媒がイソプロパノールである請求項10に記載の方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシン形態0・イソプロパノレート。
【請求項17】
溶媒がテトラヒドロフランである請求項10に記載の方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシン形態0・テトラヒドロフラン。
【請求項19】
約25〜約95%の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物、および約5%〜約75%のカルボマーを含んで成る複合体。
【請求項20】
治療的有効量の請求項19に記載の複合体を哺乳動物に投与することを含んで成る、そのような治療を必要とする宿主哺乳動物における細菌感染の治療法。
【請求項21】
医薬的に許容される不活性希釈剤中に懸濁された請求項19に記載の複合体を含んで成る、経口投与のための懸濁剤。
【請求項22】
約25〜約95%の6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物、および約5%〜約75%のカルボマーの、6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体の製造方法であって、該方法が、
(a) カルボマーを有機溶媒に分散させ、および
(b) 段階(a)の分散液と6−O−メチルエリスロマイシン形態0溶媒化物とを混合して、反応生成物を得る、
ことを含んで成る方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法によって製造される6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物−カルボマー複合体。
【請求項24】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を約0℃〜約50℃の温度において乾燥させることを含んで成る、6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの製造方法。
【請求項25】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態0溶媒化物を、真空下で、約70℃〜110℃の温度において加熱することを含んで成る、6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの製造方法。

【公開番号】特開2009−137975(P2009−137975A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327022(P2008−327022)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【分割の表示】特願2003−311358(P2003−311358)の分割
【原出願日】平成9年12月19日(1997.12.19)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】