説明

クランクケース油中の燃料節約改善剤および耐摩耗剤としての酒石酸誘導体ならびにそれらの調製

低硫黄性、低灰性、および低リン性の潤滑剤中の本発明の酒石酸化合物を用いる調合剤は、摩耗および摩擦を軽減し、そして燃料節約を改善する。本発明は、内燃機関を潤滑にするのに適した、以下の成分を含む低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑剤組成物を提供する:(a)潤滑粘度の油、および(b)式Iによって表される物質および6〜12個の炭素原子のアルコールの縮合生成物;ここで、各Rは独立して、Hまたはヒドロカルビル基であるか、またはここでこのR基は一緒になって環を形成し;そしてここでRがHの場合、この縮合生成物は、任意に、アシル化またはホウ素化合物との反応によりさらに官能基化され; ここで上記潤滑剤組成物は、最大約1.0までの硫酸灰分値、最大約0.08重量パーセントまでのリン含有量、および最大約0.4重量パーセントまでの硫黄含有量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低硫黄性、低灰分性、低リン性(low phosphorous)の潤滑剤組成物および内燃機関を潤滑にする方法に関連し、燃焼節約の改善および燃焼節約の維持ならびに摩耗および摩擦の軽減を提供する。
【背景技術】
【0002】
燃料節約は非常に重要であり、例えばエンジン内の摩擦を軽減することにより、燃料節約の改善を促進し得る潤滑剤は重要な価値がある。本発明は、追加のパッケージを含む低硫黄性、低灰分性、低リン性(low phosphorous)の潤滑剤組成物を提供し、このことが内燃機関中における燃料節約を改善することにつながる。この改善は摩擦調整剤成分(friction modifier component)が専らまたは主にタータレート(tartrate)である、追加のパッケージを提供することによりもたらされる。
【0003】
特許文献1(Barrer、1980年12月2日)は、きしみおよび摩擦の効果的な軽減並びに燃料節約における改善のための、潤滑剤および燃料中での添加剤として有用な酒石酸イミド(tartrimide)を開示している。
【0004】
特許文献2(Davisら、1990年8月28日)は、(A)潤滑粘度の油(oil of lubricating viscosity)(B)コハク酸アシル化剤と特定のアミンとの反応により生成するカルボン酸誘導体、および(C)スルホン酸またはカルボン酸の塩基性のアルカリ金属塩を含む、内燃機関のための潤滑油組成物を開示している。実例となる潤滑剤組成物(Lubricant III)は、粘度指数調整剤を含む基油;ベーシックマグネシウムアルキレイテッドベンゼンスルホネート(basic magnesium alkylated benzene sulfonate);オーバーベースドアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(overbased sodium alkylbenzene sulfonate);ベーシックカルシウムアルキレイテッドベンゼンスルホネート(basic calcium alkylated benzene sulfonate);コハク酸イミド分散剤;およびジチオリン酸の亜鉛塩を含む。
【0005】
特許文献3(Chamberlin、1982年4月27日)は、内燃機関の燃料節約の改善のための潤滑剤組成物を開示している。この組成物は、特定の硫化した組成物(カルボン酸のエステルに基づく)および塩基性のアルカリ金属スルホン酸塩を含む。追加の成分は、少なくとも一つの油分散性の界面活性剤または分散剤、粘度改善剤、およびリン含有酸の特定の塩を含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4,237,022号明細書
【特許文献2】米国特許4,952,328号明細書
【特許文献3】米国特許4,326,972号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関を潤滑にするのに適した、以下の成分を含む低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑剤組成物を提供する:
(a)潤滑粘度の油、および
(b)式Iによって表される物質および6〜12個の炭素原子のアルコールの縮合生成物;
【0008】
【化1】

ここで、各Rは独立して、Hまたはヒドロカルビル基であるか、またはここでこのR基は一緒になって環を形成し;そしてここでRがHの場合、この縮合生成物は、任意に、アシル化またはホウ素化合物との反応によりさらに官能基化され;
ここで上記潤滑剤組成物は、最大約1.0までの硫酸灰分値、最大約0.08重量パーセントまでのリン含有量、および最大約0.4重量パーセントまでの硫黄含有量を有する。
【0009】
本発明は、さらにこの潤滑剤組成物をエンジンへ供給することを含む、内燃機関を潤滑にする方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
種々の好ましい特徴および実施形態は、非制限的な説明として下に記述する。
【0011】
本発明は上に記述されたような組成物を提供する。しばしばこの組成物は、一つの局面において0.4重量パーセント未満、別の局面において0.3重量パーセント未満、さらに別の局面において0.2重量パーセントまたはそれより低い、そしてさらに別の局面において0.1重量パーセントまたはそれより低い、全量の硫黄含有量を有する。しばしば本発明の組成物中の主要な硫黄源は、慣習的な希釈油に由来する。全量の硫黄含有量の代表的な範囲は、0.1〜0.01重量パーセントである。
【0012】
しばしばこの組成物は、この組成物の800ppm未満または800ppmに等しい、別の局面おいて500ppmに等しいまたは500ppm未満、さらに別の局面において300ppmに等しいまたは300ppm未満、さらに別の局面において200ppmに等しいまたは200ppm未満、そしてさらに別の局面において100ppmに等しいまたは100ppm未満の、全量のリン含有量を有する。全量のリン含有量の代表的な範囲は、500〜100ppmである。
【0013】
しばしばこの組成物は、この組成物の1.0重量パーセント未満、一つの局面において0.7重量パーセントに等しいまたは0.7重量パーセント未満、さらなる別の局面において0.4重量パーセントに等しいまたは0.4重量パーセント未満、さらなる別の局面において0.3重量パーセントに等しいまたは0.3重量パーセント、そしてさらなる別の局面において0.05重量パーセントに等しいまたは0.05重量パーセントの、ASTM D−874によって測定されたような全量の硫酸灰分含有量を有する。全量の硫酸灰分含有量の代表的な範囲は、0.7〜0.05重量パーセントである。
【0014】
(潤滑粘度の油)
この低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑油組成物は、1つ以上の基油を含み、一般的に主要な量で存在する(すなわち、約50重量パーセントより多い量)。一般的に、この基油は、この潤滑油組成物の約60重量パーセントより多い量、または約70重量パーセントより多い量、あるいは約80重量パーセントより多い量で存在する。この基油の硫黄含有量は、代表的には0.2重量パーセント未満である。
【0015】
この低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑油組成物は、100℃で最大約16.3mm/sまでの、そして一つの実施形態において100℃で5〜16.3mm/s(cSt)の、そして一つの実施形態において100℃で6〜13mm/s(cSt)の、粘度を有し得る。一つの実施形態において、この潤滑油組成物は、0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40または10W−50のSAE Viscosity Gradeを有する。
【0016】
この低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑油組成物は、150℃で最大約4mm/s(cSt)までの、そして一つの実施形態において最大約3.7mm/s(cSt)までの、そして一つの実施形態において2〜4mm/s(cSt)の、そして一つの実施形態において2.2〜3.7mm/s(cSt)の、そして一つの実施形態において2.7〜3.5mm/s(cSt)の、ASTM D4683を用いた手順により測定されるような高温/高ずり粘性(high−shear viscosity)を有し得る。
【0017】
低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑剤組成物において用いられるこの基油は、天然油、合成油またはそれらの混合物であり得る。ただし、そのような油の硫黄含有量は、本発明の低硫黄性、低リン性、低灰分性の潤滑油組成物に要求される、上に述べられた硫黄濃度限界を超えない。有用であるこの天然油としては、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、ならびに鉱物性の潤滑油(例えば、液体の石油および溶媒処理または酸処理された、パラフィンタイプ、ナフテンタイプまたは混合パラフィン−ナフテンタイプの鉱物性の潤滑油)が挙げられる。石炭または頁岩由来の油も、また有用である。合成潤滑油としては、重合化オレフィンおよびインターポリマー化(interpolymerized)オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレン共重合体、など)のような炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)など、そしてそれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼン、など);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニル、など);アルキル化ジフェニルエーテルならびにその誘導体、類似体、および同族体などが挙げられる。
【0018】
エステル化、エーテル化などによって修飾されている末端ヒドロキシル基を有する、アルキレンオキシド重合体およびインターポリマーならびにそれらの混合物は、用いられ得る公知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合化を経て調製された油、これらのポリオキシアルキレン重合体のアルキエーテルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500〜1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000〜1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、あるいはそれらのモノカルボン酸およびポリカルボン酸のエステル(例えば、酢酸エステル、C3〜8の脂肪酸の混成エステル、またはテトラエチレングリコールのカルボン酸ジエステル)により例示される。
【0019】
用いられ得る合成潤滑油の別の適したクラスは、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの特定の例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸などとの反応により形成される混成エステルが挙げられる。
【0020】
合成油として有用なエステルはまたC5〜C12のモノカルボン酸ならびにポリオールおよびポリオールエーテル(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなど)から合成されるものが挙げられる。
【0021】
この油は、ポリ−α−オレフィン(PAO)であり得る。代表的には、このPAOは、4〜30個、または4〜20個、あるいは6〜16個の炭素原子を有するモノマーから誘導される。有用なPAOの例としては、オクテン、デセン、それらの混合物などから誘導されるものが挙げられる。これらのPAOは、100℃で2〜15mm/s(cSt)、または3〜12mm/s(cSt)、あるいは4〜8mm/s(cSt)の粘度を有し得る。有用なPAOの例としては、100℃で4mm/s(cSt)のポリ−α−オレフィン、100℃で6mm/s(cSt)のポリ−α−オレフィン、およびそれらの混合物が挙げられる。1つ以上の前述のPAOを有する鉱油の混合物が、用いられ得る。
【0022】
本明細書の上記に開示されたタイプの、未精製油、精製油、および再精製油、天然油または合成油のいずれか(ならびにこれらの任意の2つ以上の混合物)は、本発明の潤滑剤において用いられ得る。未精製油は、さらなる精製処理をしていない、天然供給源または合成供給源(natural or synthetic source)から直接入手されるものである。例えば、乾留操作から直接入手される頁岩油、一次蒸留から直接入手される石油、またはエステル化工程から直接入手され、さらなる処理なしで用いられるエステル油が、未精製油である。精製油は、それらが1つ以上の性質を改善するために1つ以上の精製工程でさらに処理されていることを除いて、未精製油と同様である。そのような多くの精製技術(例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸抽出または塩基抽出、ろ過、パーコレーション(percolation)など)は、当業者に公知である。再精製油は、すでに使用されている精製油に適用される、精製油を入手するために用いられる工程と同様の工程によって、入手される。そのような再精製油はまた再生油または再処理油として公知であり、しばしば廃添加物(spent additive)および油分解生成物を除去する技術によってさらに処理される。
【0023】
さらに、Fischer−Tropschのガス−液体合成法(gas to liquid synthetic procedure)により調製される油は、公知であり、用いられ得る。
【0024】
(摩擦調整剤)
本発明のタータレートは、酒石酸および1つ以上のアルコールの反応により調製され得る。
【0025】
タータレートを調製するのに有用なアルコールは、6〜12個、または6〜10個、あるいは8〜10個の炭素原子を有し得る。用いられるこのアルコールは、直鎖または分枝であり得、分枝の場合、その分枝は炭素鎖中の任意の点で起こり得、その分枝は任意の長さであり得る。一つの実施形態において、このアルコールは、8〜10個の炭素原子を有する直鎖である。
【0026】
少なくとも6個の炭素原子のアルコールを用いることは、より短い炭素鎖のアルコールから調製されたその生成物と比較して、小さな揮発性を有する生成物へと誘導されると考えられている。また、少なくとも1つの分枝を有するアルコールを用いることは、油中での生成物の溶解性を促進すると考えられている。したがって、本発明の特定の実施形態は、少なくとも6個の炭素原子の分枝アルコール(例えば、単一の物質としての、または混合物としての、そのいずれかのC6−12またはC6−10の分枝アルコール、あるいはC8−10の分枝アルコール)から調製される生成物を用いる。そのような分枝アルコールは、油中で最大限の溶解性および相溶性を提供し得る。特定の例としては、2−エチルヘキサノールおよびイソトリデイルアルコール(isotrideyl alchol)が挙げられ、この後者は、市販の等級の種々の異性体の混合物を代表とし得る。また、本発明の特定の実施形態において、少なくとも6個の炭素原子の直鎖アルコール(例えば、単一の物質としての、または混合物としての、そのいずれかのC6−12またはC6−10の直鎖アルコール、あるいはC8−10の直鎖アルコール)から調製される生成物を用いる。そのような直鎖アルコールは、油に最適の摩擦性能を提供し得る。
【0027】
本発明のタータレートは、周知の縮合工程を用い、酒石酸または酒石酸の反応等価体(例えば、エステル、酸ハライド、または酸無水物)と1つ以上の対応するアルコールとの反応によって便利よく調製され得る。
【0028】
同様に、アミンのアルキル基は、同様に直鎖または分枝であり得る。
【0029】
本発明のタータレートを調製するために用いられる酒石酸は、市販で入手可能なタイプ(Sargent Welchから入手される)であり得、しばしば(天然の)供給源または(例えば、マレイン酸からの)合成法に依存して、1つ以上の異性体の型(例えば、d−酒石酸、l−酒石酸、またはメソ体の酒石酸)で存在するようである。これらの誘導体は、また当業者に自明である、二酸に対する官能基等価体(例えば、エステル、酸クロリド、酸無水物など)から容易に調製され得る。
【0030】
本発明のタータレートは、タータレートの調製に用いられる特定のアルコールに依存して、固体、半固体、または油であり得る。潤滑剤組成物および燃料組成物を含む油性の組成物中で添加剤としての利用のために、このタータレートは、そのような油性の組成物中で有利に可溶性であり、そして/または安定に分散することができる。したがって、例えば、油中で使用する予定である組成物は、代表的には、それらが用いられている油中で、油溶であり、そして/または安定に分散することができる。本明細書および添付された特許請求の範囲の中で用いられる用語「油溶性の」は、当該組成物が全ての油における全ての割合において混和性であるか、または可溶性であるかを必ずしも意味しない。むしろ、この組成物が油(鉱物性、合成など)中で可溶性であり、そこで溶液に1つ以上の所望の性質を発揮させることを可能にするまで役割を果たすことが意図されることを意味することが、意図される。同様に、厳密な物理的または化学的な感覚において、このような「溶液」は真の溶液であることは必要ではない。代わりにそれらは、本発明の目的のために、本発明の状況で、実用的な目的のために、真の溶液に代替できるほど十分に真の溶液の性質に近い性質を発揮する、マイクロエマルション(micro−emulsion)またはコロイドの分散であると意図され得る。
【0031】
前に示したように、本発明のタータレート組成物は、潤滑剤のための添加剤として有用であり、そこでそれらは、錆および腐食防止剤、摩擦調節剤、耐摩耗剤、ならびに抗乳化剤として役割を果たし得る。それらは、天然の潤滑油および合成潤滑油ならびにそれらの混合物を含む種々の潤滑粘度の油に基づいた種々の潤滑剤中で用いられ得る。これらの潤滑剤には、自動車用エンジンおよびトラック用エンジン、2サイクルエンジン、航空用ピストンエンジン、船舶用ディーゼルエンジンおよび鉄道用ディーゼルエンジンなどを含む火花点火燃焼内燃機関および圧縮点火内燃機関のためのクランクケース潤滑油が挙げられる。それらは、またガスエンジン、ステーショナリーパワーエンジン(stationary power engine)およびタービンなどにおいて用いられ得る。自動変速器用油圧油、トランスアクスル用潤滑剤、ギア用潤滑剤、工作用潤滑剤、油圧作動油および他の潤滑油、ならびにグリース組成物は、また本発明の組成物のそれらの中での混合において有益であり得る。
【0032】
他の摩擦調整剤は、おそらく本発明の潤滑剤中に存在し、ポリオールのエステル(例えば、グリセロールモノオレアート);オレイルアミド;脂肪族ジエタノールアミンおよびそれらの混合物を含み得る。摩擦調整剤の有用な一覧は、米国特許第4,792,410号中に挙げられている。
【0033】
ポリオールのエステルは、グリセロールの脂肪酸エステルを含む。これらは、当該分野において周知の種々な方法によって調製され得る。これらのエステルの多く(例えば、グリセロールモノオレアートおよびグリセロールモノタローエート(glycerol monotallowate))は、工業規模で製造される。本発明のために有用なこのエステルは、油溶性であり、好ましくはC〜C22の脂肪酸または天然物に見られるようなそれらの混合物から調製される。この脂肪酸は、飽和または不飽和であり得る。天然の供給源由来の酸に見られる特定の化合物は、1つのケト基を有するリカン酸を含み得る。有用なC〜C22の脂肪酸は、Rがアルキルまたはアルケニルである、式R−COOHの脂肪酸である。
【0034】
グリセロールの脂肪酸モノエステルは、有用である。モノエステルおよびジエステルの混合物は、用いられ得る。モノエステルおよびジエステルの混合物は、少なくとも約40%のモノエステルを含み得る。モノエステルを約40重量%〜約60重量%含むグリセロールのモノエステルおよびジエステルの混合物は、用いられ得る。例えば、45重量%〜55重量%のモノエステルおよび55重量%〜45重量%のジエステルの混合物含む市販のグリセロールモノオレアートが、用いられ得る。
【0035】
有用な脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸およびエレオステアリン酸、ならびに天然物のタロー、パーム油、オリーブ油、ピーナッツ油由来の酸である。
【0036】
酒石酸およびグリセロールモノオレアートのようなポリオールのエステルは、表面的には同様の分子構造を有するように見え得るが、これらの物質の特定の組み合わせは、例えば、摩耗防止においてどちらの物質を1つだけで用いるよりも実際によりよい性能を提供し得ることが観察される。
【0037】
脂肪酸アミドは、米国特許第4,280,916号中で詳細に論じられている。適切なアミドは、C−C24の脂肪族モノカルボン酸アミドであり、周知である。脂肪酸ベースの化合物(fatty acid base compound)とアンモニアの反応は、脂肪族アミドを生成する。脂肪酸および脂肪酸から誘導されるアミドは、飽和または不飽和のいずれかであり得る。重要な脂肪酸としては、C12のラウリン酸、C16のパルミチン酸およびC18のステアリン酸が挙げられる。他の重要な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸が挙げられ、それらのすべてがC18である。一つの実施形態において、本発明のこの脂肪族アミドは、C18の不飽和脂肪酸から誘導されたものである。
【0038】
脂肪族アミンおよびジエトキシ化された長鎖のアミン(例えば、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−タローアミン)自体は、一般的に本発明の化合物として有用である。両方のタイプのアミンは、市販で入手可能である。脂肪族アミンおよびエトキシ化された脂肪族アミンは、米国特許第4,741,848号中で非常に詳細に記述されている。
【0039】
(その他)
抗酸化剤(すなわち、酸化防止剤)としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノールのようなヒンダード(hindered)フェノール性の抗酸化剤、および以下の式により表されるタイプのようなヒンダードフェノール性のエステル;
【0040】
【化2】

そして特定の実施形態において、
【0041】
【化3】

が挙げられ、ここでRは2〜10個の炭素原子、一つの実施形態において2〜4個の炭素原子、そして別の実施形態において4個の炭素原子を有する直鎖アルキル基または分枝鎖アルキル基である。一つの実施形態において、Rは、n−ブチル基である。別の実施形態において、Ciba製のIrganox L−135TMに見出されるように、Rは8個の炭素であり得る。これらの抗酸化剤の調製は、特許第6,559,105号中で見出され得る。
【0042】
さらなる抗酸化剤としては、ジアルキル(例えば、ジノニル)ジフェニルアミンのような第2級芳香族アミンの抗酸化剤、硫化されたフェノール性抗酸化剤、油溶性の銅化合物、リン含有抗酸化剤、Moのジチオカルバメート(dithiocarbamate)のようなモリブデン化合物、有機スルフィド、有機ジスルフィドおよび有機ポリスルフィド(例えば、ブタジエンおよびブチルアクリレートの硫化されたDiels−Alder付加物)が挙げられ得る。抗酸化剤の広範囲の一覧は、米国特許第6,251,840号中で見出される。
【0043】
本発明と共に用いられるEP/耐摩耗剤は、代表的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(zinc dialkyldithiophosphate)の形態である。そのような機能性の油圧油と共に利用され得る非常に多数の種々のタイプの耐摩耗剤があるが、本発明者は、所望の特性を手に入れるための他の成分と共にジアルキルジチオリン酸亜鉛タイプの耐摩耗剤が、特によく機能することを発見した。一つの実施形態において、ジアルキルジチオリン酸塩(dialkyldithiophosphate)中の(アルコールから誘導される)アルキル基の少なくとも50%は、第二級アルコール由来である第二級の基である。別の実施形態において、このアルキル基の少なくとも50%は、イソプロピルアルコール由来である。
【0044】
自身の性質に依存する無灰性の界面活性剤および分散剤は、燃焼に際して、不揮発性の物質(例えば、三酸化二ホウ素または五酸化リン)を産生し得る。しかしながら、無灰性の界面活性剤および分散剤は、通常金属を含まず、したがって燃焼に際して金属を含有する灰を産生しない。多くのタイプの無灰性の分散剤は、当該分野において公知である。そのような物質は、たとえそれらがインサイチュの別の供給源由来の金属イオンと関連し得えても、一般に「無灰性」として呼ばれる。
【0045】
(1)「カルボキシル分散剤」は、窒素を有する化合物(例えば、アミン)、有機ヒドロキシ化合物(例えば、一価アルコールおよび多価アルコールを含む脂肪族化合物、またはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物)、ならびに/または塩基性の無機物質と反応される、少なくとも34個の炭素原子、そして好ましくは少なくとも54個の炭素原子を有するカルボキシルアシル化剤(酸、無水物、エステルなど)の反応生成物である。これらの反応生成物としては、カルボキシルエステル分散剤の反応生成物であるイミド、アミドおよびエステルが挙げられる。
【0046】
このカルボキシルアシル化剤としては、脂肪酸、イソ脂肪族の酸(isoaliphatic acid)(例えば、8−メチル−オクタデカン酸)、ダイマー酸、付加ジカルボン酸(addition dicarboxylic acid)(不飽和脂肪酸と不飽和のカルボキシル試薬との4+2付加生成物および2+2付加生成物)、トリマー酸、付加トリカルボン酸(addition tricarboxylic acid)(Empol(登録商標)1040、Hystrene(登録商標)5460およびUnidyme(登録商標)60)、ならびにヒドロカルビルで置換されたカルボキシルアシル化剤(オレフィンおよび/またはポリアルケン由来)が挙げられる。一つの実施形態において、このカルボキシルアシル化剤は、脂肪酸である。脂肪酸は、一般的に8〜30個までの炭素原子、または12〜24個までの炭素原子を有する。カルボキシルアシル化剤は、米国特許第2,444,328号、3,219,666号、4,234,435号および6,077,909号中で教示されている。
【0047】
アミンは、モノアミンまたはポリアミンであり得る。このモノアミンは、一般的に1〜24個の炭素原子または1〜12個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロカルビル基を有する。モノアミンの例としては、脂肪族(C8〜30)アミン(ArmeensTM)、プライマリーエーテルアミン(primary ether amine)(SURFAM(登録商標)アミン)、ターシャリー−アリファティックプライマリーアミン(tertiary−aliphatic primary amine)(PrimenesTM)、ヒドロキシアミン(第一級、第二級または第三級アルカノールアミン)、エーテルN−(ヒドロキシヒドロカルビル)アミン、およびヒドロキシヒドロカルビルアミン(EthomeensTMおよびPropomeensTM)が挙げられる。このポリアミンとしては、アルコキシル化されたジアミン(EthoduomeensTM)、脂肪族ジアミン(DuomeensTM)、アルキレンポリアミン(エチレンポリアミン)、ヒドロキシを有するポリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(JeffaminesTM),縮合ポリアミン(少なくとも1つのヒドロキシ化合物と、少なくとも1つの第一級アミノ基または第二級アミノ基を有する少なくとも1つのポリアミン反応物との間の縮合反応)、および複素環式ポリアミンが挙げられる。有用なアミンとしては、米国特許第4,234,435号(Meinhart)および米国特許第5,230,714号(Steckel)中で開示されるものが挙げられる。
【0048】
分散剤が誘導される、このポリアミンは、主に大部分が以下の式に一致するアルキレンアミンを含み、
【0049】
【化4】

ここで、tは、代表的には10未満の整数であり、Aは水素または代表的には30個までの炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、そしてこのアルキレン基は代表的には8個未満の炭素原子を有するアルキレン基である。このアルキレンアミンとしては、主にメチレンアミン、エチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、他のポリメチレンアミンが挙げられる。それらは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、プロピレンジアミン、デカメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ジ(ヘプタメチレン)トリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(−トリメチレン)トリアミンによって明確に例示される。2つ以上の上に説明されたアルキレンアミンの縮合により入手されるようなより高次の同族体は、同様に有用である。テトラエチレンペンタミンは、特に有用である。
【0050】
ポリエチレンポリアミンとしてまた呼ばれる、このエチレンアミンは、特に有用である。それらは、Encyclopedia of Chemical Technology,Kirk and Othmer、Vol.5、pp,898−905、Interscience Publishers、New York(1950)において表題「Ethylene Amines」のもとで、いくらか詳細に記述される。
【0051】
ヒドロキシアルキルで置換されたアルキレンアミン(すなわち、窒素原子上に1つ以上のヒドロキシアルキル置換基を有するアルキレンアミン)は、同様に有用である。そのようなアミンの例としては、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、モノヒドロキシプロピル)−ピペラジン、ジ−ヒドロキシプロピル(di−hydroxypropy)で置換されたテトラエチレンペンタミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)−テトラ−メチレンジアミン、および2−ヘプタデシル−1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリンが挙げられる。
【0052】
上で説明されたアルキレンアミンまたはヒドキシアルキルで置換されたアルキレンアミンの、アミノ基を用いての、またはヒドロキシル基を用いての縮合により入手されるような、より高次の同族体は、同様に有用である。縮合ポリアミンは、少なくとも1つのヒドロキシ化合物と少なくとも1つの第一級アミノ基または第二級アミノ基を有する少なくとも1つのポリアミン反応物との間の縮合反応によって形成され、このことは、米国特許第5,230,714号および同第5,296,154号(Steckel)に記述される。
【0053】
これらの「カルボキシル分散剤」の例は、英国特許第1,306,529号中で、そして以下に挙げられる多くの米国特許中で、記述される:米国特許第3,219,666号、同第3,316,177号、同第3,340,281号、同第3,351,552号、同第3,381,022号、同第3,433,744号、同第3,444,170号、同第3,467,668号、同第3,501,405号、同第3,542,680号、同第3,576,743号、同第3,632,511号、同第4,234,435号、同第6,077,909号および同第6,165,235号。
【0054】
(2)コハク酸イミド分散剤は、カルボキシル分散剤の一種である。それらは、ヒドロカルビルで置換されたコハク酸アシル化剤と、有機ヒドロキシ化合物、または窒素原子に結合した少なくとも一つの水素を有するアミン、あるいは上記ヒドロキシ化合物およびアミンの混合物との反応生成物である。用語「コハク酸アシル化剤(succinic acylating agent)」は、炭化水素で置換されたコハク酸、またはコハク酸が生成する化合物(succinic acid−producing compound)を表す(この用語はまたその酸自身も含む。)。このような物質としては、代表的には、ヒドロカルビルで置換されたコハク酸、その無水物、そのエステル(ハーフエステルを含む)、およびそのハライドが挙げられる。
【0055】
コハク酸ベースの分散剤(succinic based dispersant)は、代表的には
【0056】
【化5】

のような構造を含む幅広く種類に富んだ化学構造を有する。
【0057】
上の構造において、各々のRは、独立してヒドロカルビル基(例えば、500〜10,000または700〜10,000の
【0058】
【化6】

を有するポリオレフィン由来の基)である。代表的には、このヒドロカルビル基はアルキル基であり、しばしば500〜5000または700〜5000、あるいは代替的に1500〜5000または2000〜5000の分子量を有するポリイソブチル基である。代替的に表すならば、このR基は、40〜500個の炭素原子(脂肪族の炭素原子のような、例えば、少なくとも50個、例えば、50〜300個の炭素原子)を有し得る。
このRは、アルキレン基であり、一般的にエチレン(C)基である。このような分子は、一般的にアルケニルアシル化剤とポリアミンとの反応から誘導され、そして幅広く種類に富んだこの2つの部分の間の結合が、上に示した単純なイミド構造のほかに、可能であり、このことは種々のアミドおよび第四級アンモニウム塩を含む。コハク酸イミド分散剤は、より十分に米国特許第4,234,435号、同第3,172,892号および同第6,165,235号中に記述される。
【0059】
この置換基が誘導される、ポリアルケンは、代表的には、2〜16個の炭素原子の、一般的には2〜6個の炭素原子の重合可能なオレフィンモノマーの、ホモポリマーおよびインターポリマー(interpolymer)である。このカルボキシル分散剤組成物を形成するために、コハク酸アシル化剤と反応されるアミンは、上に記述したようなモノアミンまたはポリアミンであり得る。
【0060】
通常コハク酸イミドは、主としてイミド官能性の形態で窒素を有するので、窒素がアミン塩、アミド、イミダゾリンならびにそれらの混合物の形態であり得るけれども、このコハク酸イミド分散剤は、そのようなイミドの形態として表される。このコハク酸イミド分散剤を調製するために、1つ以上のコハク酸が生成する化合物および1つ以上のアミンが、代表的には水の除去を伴い、任意に通常の液体(実質的には不活性の有機液体溶媒/希釈剤)存在下、高温(一般的に、80℃からこの混合物または生成物の分解点までの範囲において;代表的には100℃〜300℃)で加熱される。
【0061】
追加の詳細な情報および本発明のコハク酸イミド分散剤を調製するための方法の例は、例えば、米国特許第3,172,892号、同第3,219,666号、同第3,272,746号、同第4,234,435号、同第6,440,905号および同第6,165,235号中に包括される。
【0062】
(3)「アミン分散剤」は、比較的高い分子量の脂肪族ハライドおよびアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミンの反応生成物である。それらの例は、例えば、以下の米国特許中に記述される:米国特許第3,275,554号、同第3,438,757号、同第3,454,555号および同第3,565,804号。
【0063】
(4)「Mannich分散剤」は、アルキル基が少なくとも30個の炭素原子を有する、アルキルフェノールと、アルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。以下の米国特許中に記述されるこの物質は、実例となる:米国特許第3,036,003号、同第3,236,770号、同第3,414,347号、同第3,448,047号、同第3,461,172号、同第3,539,633号、同第3,586,629号、同第3,591,598号、同第3,634,515号、同第3,725,480号、同第3,726,882号および同第3,980,569号。
【0064】
(5)処理後の分散剤は、カルボキシル分散剤、アミン分散剤またはMannich分散剤と、試薬(例えば、ジメルカプトチアジアゾール、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素で置換された無水コハク酸、ニトリルエポキシド、ホウ素化合物、リン化合物など)との反応によって入手される。この種の代表的な物質は、以下の米国特許中に記述される:米国特許第3,200,107号、同第3,282,955号、同第3,367,943号、同第3,513,093号、同第3,639,242号、同第3,649,659号、同第3,442,808号、同第3,455,832号、同第3,579,450号、同第3,600,372号、同第3,702,757号および同第3,708,422号。
【0065】
(6)ポリマー分散剤は、油溶性のモノマー(例えば、デシルメタクリレート、ビニルデシルエーテル)および極性の置換基を有するモノマー(例えば、アミノアルキルアクリレートまたはアクリルアミドおよびポリ−(オキシエチレン)−置換アクリレート)を用いた高分子量オレフィンのインターポリマーである。それらポリマー分散剤の例は、以下の米国特許中に記述される:米国特許第3,329,658号、同第3,449,250号、同第3,519,656号、同第3,666,730号、同第3,687,849号、および同第3,702,300号。
【0066】
この組成物は、また1つ以上の界面活性剤を含み得、これは通常塩、および特にオーバーベースド塩(overbased salt)である。オーバーベースド塩、すなわちオーバーベースド物質は、単相(single phase)、すなわち金属およびこの金属と反応した特定の酸性有機化合物の化学量論によって存在する金属含有量よりも多くの金属含有量によって特徴づけられた均一ニュートン系(homogeneous Newtonian system)である。このオーバーベースド物質は、酸性物質(代表的には、無機酸または低級カルボン酸、好ましくは、二酸化炭素)と、酸性の有機化合物、上記酸性有機物質のための少なくとも一つの不活性な有機溶媒(例えば、鉱油、ナフサ、トルエン、キシレン)を含む反応媒体、化学量論過剰の金属塩基および促進剤を含む混合物との反応によって調製される。
【0067】
本発明のオーバーベースド組成物の調製において有用である酸性の有機化合物としては、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノールまたはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、この酸性有機化合物は、スルホニル基またはチオスルホニル基を有するカルボン酸またはスルホン酸(例えば、ヒドロカルビルで置換されたベンゼンスルホン酸)およびヒドロカルビルで置換されたサリチル酸である。本発明のこのオーバーベースド組成物を調製するのに有用である別のタイプの化合物は、サリキサレート(salixarate)である。本発明に有用であるこのサリキサレートの記述は、公開のWO04/04850中に見出され得る。
【0068】
オーバーベースド塩を調製するのに有用である金属化合物は、一般的に任意の第1族または第2族金属化合物(元素周期表のCAS版)である。この金属化合物の第1族金属はとしては、第1a族アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)ならびに第1b族金属(例えば、銅)が挙げられる。この第1族金属は、好ましくはナトリウム、カリウム、リチウムおよび銅であり、好ましくはナトリウムまたはカリウムであり、そしてさらに好ましくはナトリウムである。この金属塩基の第2族金属としては、第2a族アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)ならびに第2b族金属(例えば、亜鉛またはカドミウム)が挙げられる。好ましくは、第2族金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたは亜鉛であり、好ましくはマグネシウムまたはカルシウムであり、さらに好ましくはカルシウムである。
【0069】
本発明のオーバーベースド界面活性剤の例としては、スルホン酸カルシウム、石炭酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、カルシウムサリキサレートおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない
オーバーベースド物質、すなわち界面活性剤の量は、存在する場合、一つの実施形態において組成物の0.05〜3重量パーセント、または0.1〜3重量パーセント、または0.1〜1.5重量パーセント、あるいは0.15〜1.5重量パーセントである。
【0070】
安定な泡の形成を減少させるまたは防止するために用いられる消泡剤としては、ケイ素または有機ポリマーが挙げられる。これらの例および追加の消泡組成物は、Henry T.Kernerによる「Foam Control Agents」(Noyes Data Corporation,1976),page125−162中に記述される。
【0071】
本発明の組成物は、エンジンの操作の間、潤滑剤がエンジンの重要な部分に運ばれるような方法で、潤滑剤を内燃機関(例えば、ステーショナリーガスパワード(stationary gas−powered)内燃機関)に供給することによって、実用において潤滑剤として用いられ、それによってこのエンジンを潤滑にする。
【0072】
本明細書中に用いたように、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、通常の感覚において用いられ、このことは当業者に周知である。特に、この用語は分子の残りに直接結合された炭素原子を有し、そして主に炭化水素の性質を有する基を表す。ヒドロカルビル基の例としては、炭化水素置換基、すなわち脂肪族置換基(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式置換基(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)、ならびに芳香族、脂肪族および脂環式で置換された芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分を通じて完成される(例えば、2つの置換基が共同して環を形成する)、環式の置換基;置換された炭化水素基、すなわち本発明の状況において、置換基の主な炭化水素の性質を変えない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロ、フルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)を有する置換基;ヘテロ置換基、すなわち主に炭化水素の性質を有する一方で、本発明の状況において、その他の点では炭素原子から構成される環または炭素鎖中に、炭素以外の他のものを有する置換基が挙げられる。ヘテロ原子としては、硫黄、酸素、窒素が挙げられ、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基を含む。一般的には、2つ以下、好ましくは1つ以下の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル基中に10炭素原子ごとに存在し;代表的には、ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は無い。
【0073】
上に記述されたいくつかの物質は、最終調合物の成分が最初に添加された成分と異なり得るように、最終調合物において相互作用し得るということが公知である。例えば、金属イオン(例えば、界面活性剤の)は、他の分子の他の酸性またはアニオン性部分へ移動し得る。意図された使用において本発明の組成物を用いる際に形成された生成物を含む、これにより形成された生成物は、簡単には記載しにくいものであり得る。それにも関わらず、すべてのこのような改質および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれており、本発明は、上に記述された成分の混合によって調製される組成物を含む。
【実施例】
【0074】
本発明は、特に有利な実施形態を説明する以下の実施例によってさらに例示される。この実施例は、本発明を例示するために提供されるが、この実施例は本発明を制限することを意図しない。
【0075】
潤滑剤は、摩耗軽減および摩擦軽減のための1%クメンヒドロペルオキシドを用いた高速往復運動リグ試験(High Frequency Reciprocating Rig 1% cumene hydroperoxide(HFRR 1%CHP)test)およびCameron−Plint高温往復運動摩耗試験(Cameron−Plint High Temperature Reciprocating Wear test)で評価される。
【0076】
このHFRR 1% CHP試験は、軽減されたリンおよび硫黄のレベルを有する潤滑剤の摩擦性能および摩耗性能を評価するために用いられる。摩耗痕の直径(wear scar diameter)およびフィルムの厚さのパーセント(percent film thickness)は、平らな鋼板に接してスライドする鋼製のボールベアリングを往復運動させることを利用することにより、測定される。この試験は、市販で入手可能である摩擦試験装置(tribology test equipment)の一種である高速往復運動リグと共に、1%のクメンヒドロペルオキシド(CHP)を用いて行われる。
【0077】
このCameron−Plint高温往復運動摩耗試験は、潤滑剤の摩擦性能および摩耗性能を評価するために用いられる。平らな鋼板に接してスライドする鋼製のボールベアリングを往復運動させることを利用することにより、得られる摩耗痕の直径およびフィルムの厚さのパーセントが、測定単位である。この試験は、市販で入手可能である摩擦試験装置の一種であるCameron−Plint往復運動摩耗リグを用いて行われる。
【0078】
以下の調合物は、潤滑粘度の油中で調製され、他に指示がない限り、潤滑粘度の油中における追加の成分の量は重量パーセントである:0.15%の流動点降下剤(約35%の希釈油を含む)、8%の粘度指数改善剤(約91%の希釈油を含む)、0.89%の希釈油、5.1%のコハク酸イミド分散剤(約47%の希釈油を含む)、0.48%のジアルキルジチオリン酸亜鉛(C1を除いて、0.98%を含有する)(各々約9%の希釈油を含む)、1.53%のオーバーベースドカルシウムスルホネート界面活性剤(overbased calcium sulfonate detergent)(約42%の希釈油を含む)、0.1%のグリセロールモノオレアート(約0%の希釈油を含む)、3.44%の抗酸化剤(約5%の希釈油を含む)、90〜100ppmの市販の消泡剤、および残りの基油。
【0079】
上の調合物には、以下の表に見出される成分が添加され、1%クメンヒドロペルオキシドを用いた高速往復運動リグ試験およびCameron−Plint高温往復運動摩耗試験が行われる。この結果は以下の表中に見出される。
【0080】
【表1】

成分1:(DL)酒石酸/C8〜10アルコール/2−エチルヘキシルアルコール(50:50)(水を除いた)
成分2:(DL)酒石酸/C8〜10アルコール/トリデシルアルコール(50:50)(水を除いた)
成分3:(DL)酒石酸/C12〜14アルコール/2−エチルヘキシルアルコール(50:50)(水を除いた)
成分4:酒石酸エチルへキシル
この結果は、低硫黄性、低灰性および低リン性の潤滑剤中で本発明のタータレートを用いた調合物(実施例1〜4)がタータレートを含有しない、組成物へ送達される0.05%重量パーセントのリンを有する低SAPS調合物(C2)と比較して摩耗を軽減することを示す。それらは、さらにより高いリンを有する、便利なGF−3調合物(C1)と比較して等価な摩耗保護を提供する。
【0081】
この潤滑剤は、さらにHFRR Low PS試験で評価される。このHFRR Low PS試験は、軽減されたリンおよび硫黄のレベルを有する潤滑剤の摩擦性能および摩耗性能を評価するために用いられる。摩耗痕の直径およびフィルムの厚さのパーセントは、平らな鋼板に接してスライドする鋼製のボールベアリングを往復運動させることを利用することにより、測定される。この試験は、市販で入手可能である摩擦試験装置の一種である高速往復運動リグと共に、1%のクメンヒドロペルオキシド(CHP)を用いて行われる。
【0082】
以下の調合物は、潤滑粘度の油中で調製され、他に指示がない限り、潤滑粘度の油中における追加の成分の量は重量パーセントである:0.15%の流動点降下剤(約35%の希釈油を含む)、8%の粘度指数改善剤(約91%の希釈油を含む)、0.41%の希釈油、5.0%のコハク酸イミド分散剤(約47%の希釈油を含む)、0.63%のジアルキルジチオリン酸亜鉛(各々約9%の希釈油を含む)、1.53%のオーバーベースドカルシウムスルホネート界面活性剤(約42%の希釈油を含む)、2.2%の抗酸化剤(約5%の希釈油を含む)、90〜100ppmの市販の消泡剤、および残りの基油。
【0083】
上の調合物には、以下の表に見出される成分が添加され、高速往復運動リグLow PS試験が行われる。この結果は以下の表中に見出される。
【0084】
【表2】

成分5:GMO:SNFOの50:50混合物
成分6:C8〜10のタータレート
この結果は、低硫黄性、低リン性および低灰性の潤滑剤中で本発明のタータレートを用いた調合物(実施例5〜6)がタータレートを含有しない、組成物へ送達される0.05%重量パーセントのリンを有する低SAPS調合物(C3〜C5)と比較して摩耗を軽減することを示す。
【0085】
上で触れられている各々の文書は本明細書中において参考として援用される。実施例を除き、またはそれ以外で明確に指示のない限り、物質、反応条件、分子量、炭素原子の数などの量を特定する本記述中のすべての数的な量は、単語「約」により修飾されると解釈される。他に指示のない限り、本明細書中で触れられる各々の化学製品または組成物はこの異性体、副生成物、誘導体、および通常市販の等級で存在すると解釈されるような他の物質を含有し得る市販の等級の物質であるものとして解釈されるべきある。しかしながら、各々の化学成分の量は、他に指示の無い限り、市販の物質中に慣例上存在し得る任意の溶媒または希釈油を除いて表される。本明細書中に記載される最大限および最小限の量、範囲および比率は、独立して組み合わされ得ると解釈される。同様に、本発明の各々の要素に関する範囲および量は、任意の他の要素に関する範囲または量と共に用いられ得る。本明細書で用いたように、表現「本質的に〜から成る」は、考慮中の組成物の基本の特徴および新規の特徴に著しく影響しない物質の包含を許容する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)潤滑粘度の油、および
(b)式Iで表される物質および6〜12個の炭素原子を有するアルコールの縮合生成物
を含む、内燃機関中での使用に適した低硫黄性、低リン性、低灰性の潤滑剤組成物であって;
【化7】

ここで各々のRは、独立してHまたはヒドロカルビル基であり、またはここで該R基は一緒になって環を形成し;そしてここでRがHの場合、該縮合生成物は、任意に、アシル化またはホウ素化合物との反応によりさらに官能基化され;
ここで前記潤滑剤組成物は、最大約1.0までの硫酸灰分値、最大約0.08重量パーセントまでのリン含有量、および最大約0.4重量パーセントまでの硫黄含有量を有する、潤滑剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記アルコールが直鎖、分枝またはそれらの混合物である、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、前記アルコールが約8個〜約10個の炭素原子を有する、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、前記縮合生成物(b)が直鎖のC8−10アルキルのタータレートエステルである、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記縮合生成物の量が約0.05〜約5.0重量パーセントである、組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物であって、縮合生成物の前記量が約0.1〜約2.0重量パーセントである、組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物であって、縮合生成物の前記量が約0.25〜約1.25重量パーセントである、組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、ジアルキルジチオリン酸の金属塩(metal dialkyldithiophosphate)をさらに含む、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物であって、前記ジアルキルジチオリン酸の金属塩がジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、その該アルキル基の少なくとも約50パーセントが第二級アルキル基である、組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物であって、分散剤をさらに含む、組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の組成物であって、前記分散剤がコハク酸イミドである、組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物であって、少なくとも1つのカルシウムオーバーベースド界面活性剤をさらに含む、組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物であって、前記カルシウムオーバーベースド界面活性剤がスルホン酸カルシウム、石炭酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、カルシウムサリキサレートおよびそれらの混合物からなる群より選択される、組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物であって、少なくとも1つの抗酸化剤をさらに含む、組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物であって、前記抗酸化剤がヒンダードフェノール、アリールアミンおよびそれらの混合物からなる群より選択される、組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物であって、(b)以外の追加の摩擦調整剤をさらに含む、組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の組成物であって、前記追加の摩擦調整剤がグリセロールモノオレアート、オレイルアミド、脂肪族ジエタノールアミンおよびそれらの混合物からなる群より選択される、組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物であって、消泡剤をさらに含む、組成物。
【請求項19】
潤滑粘度の油、ならびに式Iで表される物質および6〜12個の炭素原子を有するアルコールの縮合生成物を前記エンジンに供給することを含む、内燃機関を潤滑にする方法であって;
【化8】

ここで該生成物中で各々のRは、独立してHまたはヒドロカルビル基であり、またはここで該R基は一緒になって環を形成し;あるいはここでRがHの場合、生じるヒドロキシル基は、アシル化またはホウ素化合物との反応によりさらに官能基化され;
ここで前記潤滑剤組成物は、最大約1.0までの硫酸灰分値、最大約0.08重量パーセントまでのリン含有量、および最大約0.4重量パーセントまでの硫黄含有量を有する、方法。
【請求項20】
潤滑剤組成物を調製する方法であって、
(a)潤滑粘度の油、ならびに式Iで表される物質および6〜12個の炭素原子を有するアルコールの縮合生成物の混合する工程であって、
【化9】

ここで該生成物中で各々のRは、独立してHまたはヒドロカルビル基であり、またはここで該R基は一緒になって環を形成し;あるいはここでRがHの場合、生じるヒドロキシル基は、アシル化またはホウ素化合物との反応によりさらに官能基化される工程;
潤滑剤組成物中で生じる工程であって、ここで前記潤滑剤組成物は、最大約1.0までの硫酸灰分値、最大約0.08重量パーセントまでのリン含有量、および最大約0.4重量パーセントまでの硫黄含有量を有する工程、を含む、方法。

【公表番号】特表2010−511075(P2010−511075A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538530(P2009−538530)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/085547
【国際公開番号】WO2008/067259
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】