説明

クランクシャフト及びその製造方法

【課題】複数の部材を溶接により接合して構成するクランクシャフトにおいて、耐久性の確保に好適なクランクシャフトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】クランクピン5及びメインジャーナル6と、これらを連結するクランクウェブ7とにより構成されるクランクシャフト1であり、前記クランクウェブ7は、メインジャーナル6の軸端が挿入されるジャーナル側部材6Bと、クランクピン5の軸端が挿入されるピン側部材5Bと、が一体に接合されて構成され、前記メインジャーナル6及びクランクピン5の軸端は、前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bへの挿入部のジャーナル側部材とピン側部材の接合面側において、夫々前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bと軸回りに全周溶接した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフト及びその製造方法に関し、特に、複数の部材を溶接等により接合して構成するに好適なクランクシャフト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から軽量化のため、複数の部材を溶接等により接合して組立てるクランクシャフトが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
これは、クランクピン部とジャーナル部とがパイプ材で形成され、クランクアーム部は一対の合せ材により形成され、一方の合せ材にはクランクピン部との結合部としてクランクピン部を形成するパイプ材の外径より大径の穴が設けられ、他方の合せ材にはジャーナル部との結合部としてジャーナル部を形成するパイプ材の外径より大径の穴が設けられ、各穴の内周側にはセレーションが刻設されている。そして、クランクピン部およびジャーナル部を夫々形成するパイプ材の端部はクランクアーム部を形成する一対の合せ材の各穴内において拡管され、その外周部が穴のセレーションに喰い込まされた状態で、クランクアーム部を形成する合せ材に一体に結合されており、一対の合せ材は、互いの合せ面部において接合されている構造を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−177821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関のクランクシャフトには、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用し、この曲げ荷重はクランクピンとクランクアームとの連結部およびジャーナルとクランクアームとの連結部に繰り返しの曲げ応力を発生させる。
【0006】
上記従来例においても、クランクピン部およびジャーナル部を形成するパイプ材の端部を拡管させてその外周部を、内周側にセレーションを刻設した、クランクアームを形成する合せ材の穴に喰い込ませて一体化させるものであるため、上記した曲げ応力は、パイプ材と合せ材との結合部に繰り返し作用することとなる。このため、合せ材の穴とパイプ材の拡管された外周部との嵌合い強度を充分確保したとしても、クランクピンおよびジャーナルの合せ材から突出す根元部には応力集中が生じることとなり、当該根元部位に疲労が生ずる等の耐久性に課題がある。また、パイプ材の端部を拡管させて形成するものであるため、その結合強度が限定され且つ組立作業性も低いものであった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、複数の部材を溶接により接合して構成するクランクシャフトにおいて、耐久性の確保に好適なクランクシャフトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クランクウェブは、メインジャーナルの軸端が挿入されるジャーナル側部材と、クランクピンの軸端が挿入されるピン側部材と、が一体に接合されて構成され、前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端は、前記ジャーナル側部材及びピン側部材への挿入部のジャーナル側部材とピン側部材の接合面側において、夫々前記ジャーナル側部材及びピン側部材と軸回りに全周溶接した構成を備える。
【発明の効果】
【0009】
エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピンとクランクウェブとの連結部及びメインジャーナルとクランクウェブとの連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して応力集中が発生するクランクウェブから突出すクランクピンおよびジャーナルの根元部を避ける挿入先端側で、前記メインジャーナル及びクランクピンと前記ジャーナル側部材及びピン側部材とを結合することができ、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフトの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示すクランクシャフト及びその製造方法を適用したクランクシャフトの第1実施例を示す断面図。
【図2】同じく図1のクランクシャフトの中間組立状態を示す説明図。
【図3】同じく図1のクランクシャフトの中間組立状態を示す斜視図。
【図4】メインジャーナル及びクランクピンの軸端の前記ジャーナル側部材及びピン側部材への組立状態を説明する断面図。
【図5】キー及びキー溝の配置状態を説明する説明図。
【図6】第2実施例のクランクシャフトの中間組立状態を示す説明図。
【図7】第3実施例のクランクシャフトの中間組立状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のクランクシャフト及びその製造方法を図1〜図5に示す一実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明を4気筒内燃機関に適用するクランクシャフトの第1実施例を示す断面図である。
【0012】
図1において、クランクシャフト1は、図示しないコンロッドの大端部(1〜4番気筒に対する)を支承するクランクピン5(#1〜#4)と、これらクランクピン5の前後において図示しないシリンダブロックにクランクシャフト1を支承するメインジャーナル6(#1〜#5)と、各クランクピン5とメインジャーナル6とを互いに結ぶクランクウェブ7、および各クランクウェブ7に対してクランクシャフト1の回転中心を挾んで対向する位置に所定の質量を付加するカウンタウェイト8等から構成されている。
【0013】
隣接する(#1と#2、#3と#4)クランクピン5同士は#2及び#4のメインジャーナル6を挟んで対向するクランク角度位置に配置され、#2と#3のクランクピン5は#3のメインジャーナル6を挟んで同じクランク角度位置に配置されている。
【0014】
各クランクピン5はコンロッドの大端部を支承するために比較的小径に形成され、各メインジャーナル6はクランクピン5に比較して大径に形成されている。各クランクピン5と各メインジャーナル6とは、図5に示すように、クランクシャフト1の軸方向から見て、オーバーラップさせた状態で配置されている。
【0015】
前記各クランクピン5とメインジャーナル6とを互いに結ぶクランクウェブ7及びカウンタウェイト8は、図3にも示すように、メインジャーナル6と一体となるジャーナル側部材6Bとクランクピン5と一体となるピン側部材5Bとに分割されている。そして、ジャーナル6及びクランクピン5に対して背面となる面同士を接触させて、ジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bとが結合されることにより、クランクピン5とメインジャーナル6とが相互に連結される。
【0016】
即ち、クランクシャフト1のメインジャーナル6は、図2(A)に示すように、クランクシャフト1の軸方向両端に配置されるジャーナル軸6Aとその一端においてジャーナル側部材6Bを一体化させた端部(#1、#5)ジャーナルユニット2Aと、端部ジャーナルユニット2A間に配置され、ジャーナル軸6Aとジャーナル軸6Aの両軸端においてジャーナル側部材6Bを一体化させた中間(#2〜#4)ジャーナルユニット2Bと、により構成されている(以下では、ジャーナルユニットを総称する場合には、単に「ジャーナルユニット2」とする)。
【0017】
前記端部ジャーナルユニット2Aに使用されるジャーナル軸6Aは、中空軸で構成してもよいが、夫々図示しないフライホイールや補機類の駆動用プーリ・スプロケット等が取付けられて曲げ荷重が作用することから、特に強度及び剛性が要求されるため、中実軸により形成されることが望ましい。また、前記中間ジャーナルユニット2Bに使用されるジャーナル軸6Aは、中実軸で構成してもよいが、クランクシャフト1の軽量化のために、中空軸により形成されることが望ましい。
【0018】
前記中間(#2〜#4)ジャーナルユニット2Bに一体化されるジャーナル側部材6Bは、#2及び#4ジャーナルユニット2Bでは、隣接するクランクピン5の角度位置が反対方向であるため、互いに反対方向の角度位置に固定され、#3ジャーナルユニット2Bでは、隣接するクランクピン5の角度位置が同方向であるため、互いに同方向の角度位置に固定される。
【0019】
前記端部ジャーナルユニット2A及び中間ジャーナルユニット2Bにおけるジャーナル軸6Aとジャーナル側部材6Bとの連結は、図4に示すように、ジャーナル側部材6Bに設けた結合穴6Cに、ジャーナル軸6Aの軸端を挿入し、圧入嵌合することにより一体化させる。
【0020】
前記圧入時において、#2〜#4ジャーナルユニット2Bにおけるジャーナル軸6Aの軸端とジャーナル側部材6Bとの嵌合面には、互いの角度位置を位置決めするキー溝10Aを夫々設け、ジャーナル軸6Aとジャーナル側部材6Bのキー溝10Aにキー10を係合させて圧入嵌合させることにより、両軸端に一体化させるジャーナル側部材6B同士の角度位置を、同一角度若しくは180°角度に正確に位置決めすることができる。
【0021】
この場合のキー溝10Aは、図5に示すように、組立時に隣接して固定されるクランクピン5より離れた領域(例えば、A位置若しくはB位置)に設けることにより、ピストン及びコンロッドを介してクランクピン5に入力される燃焼荷重が作用しない角度位置にキー溝10Aを配置できる。
【0022】
次いで、互いに圧入により嵌合しているジャーナル軸6Aの外周面とジャーナル側部材6Bの結合穴6Cの内周面とを、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、矢印E方向からジャーナル軸6Aの軸端側から嵌合面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。これによって、メインジャーナル6の軸端は、ジャーナル側部材6Bへの圧入部の、ジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bの接合面側において、ジャーナル側部材6Bと軸回りに全周溶接される。圧入嵌合されたメインジャーナル6の軸端を、ジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bの接合面側である軸端側から、嵌合面に沿ってジャーナル側部材6Bの結合穴6Cに溶接固定したので、結合部位を、応力集中部位となるメインジャーナル6の根元から分離して、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0023】
なお、ジャーナル軸6Aの軸端側から電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接による溶融ビードが突出す場合には、突出する部分を研削等により切取り、端面が平坦になるようにする。この場合に、ジャーナル側部材6Bの結合穴6Cとジャーナル軸6Aとの嵌合面の軸端より離れた反対側、即ち、ジャーナル側部材6Bより突出しているジャーナル軸6Aの根元側は、圧入された嵌合状態のままとしている。
【0024】
また、クランクシャフト1のクランクピン5は、図2(B)に示すように、クランクピン5とその両軸端においてピン側部材5Bを一体化させたクランクピンユニット3(以下では、「ピンユニット3」という)により構成されている。
【0025】
前記クランクピンユニット3に使用されるピン軸5Aは、中実軸で構成してもよいが、クランクシャフト1の軽量化のために、中空軸により形成されることが望ましい。前記クランクピンユニット3のピン軸5Aの軸端に一体化されるピン側部材5Bは、#1〜#4において同じ角度位置に配置されて、ほぼ同一形状に形成されている。そして、#1及び#4ピンユニット3と#2及び#3ピンユニット3とは、隣接するジャーナル6に対しての角度位置が180°だけ反対方向であるため、組立時にはその角度位置が反対方向となるよう配置される。前記クランクピンユニット3におけるピン軸5Aとピン側部材5Bとの連結も、図4に示すように、ピン側部材5Bに設けた結合穴5Cに、ピン軸5Aの軸端を圧入することにより一体化させる。
【0026】
前記圧入時において、クランクピンユニット3におけるピン軸5Aの軸端とピン側部材5Bとの嵌合面には、互いの角度位置を位置決めするキー溝11Aを夫々設け、ピン軸5Aとピン側部材5Bのキー溝11Aにキー11を係合させて圧入嵌合させることにより、両軸端に一体化させるピン側部材5B同士の角度位置を、同一角度に正確に位置決めすることができる。
【0027】
この場合のキー溝11Aは、図5に示すように、組立時に隣接して固定されるジャーナル6より離れた領域(例えば、C位置若しくはD位置)に設けることにより、ピストン及びコンロッドを介してクランクピン5に入力される燃焼荷重が作用しない角度位置にキー溝11Aを配置できる。
【0028】
次いで、互いに圧入により嵌合しているピン軸5Aの外周面とピン側部材5Bの結合穴5Cの内周面とを、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、ピン軸5Aの軸端側から嵌合面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。これによって、クランクピン5の軸端は、ピン側部材5Bへの圧入部の、ジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bの接合面側において、ピン側部材5Bと軸回りに全周溶接される。圧入嵌合されたクランクピン5の軸端を、ジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bの接合面側である軸端側から、嵌合面に沿ってピン側部材5Bの結合穴5Cに溶接固定したので、結合部位を、応力集中部位となるクランクピン5の根元から分離して、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0029】
なお、ピン軸5Aの軸端側から電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接による溶融ビードが突出す場合には、突出する部分を研削等により切取り、端面が平坦になるようにする。この場合に、ピン側部材5Bの結合穴5Cとピン軸5Aとの嵌合面の軸端より離れた反対側、即ち、ピン側部材5Bより突出しているピン軸5Aの根元側は、圧入された嵌合状態のままとしている。
【0030】
前記ジャーナルユニット2及びピンユニット3が、図2(A)(B)に示すように、組立てられた段階において、端部ジャーナルユニット2Aのジャーナル側部材6Bの背面と#1ピンユニット3のピン側部材5Bの背面とを合わせて、両者の背面の合せ面の周囲を外周側から、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、全周に渡って溶接して両者を固定する。この場合に、ジャーナル側部材6Bがピン側部材5Bより小さく形成されているため、ジャーナル側部材6Bの背面の周縁をピン側部材5Bの背面に全周溶接する状態となる。
【0031】
次いで、#1ピンユニット3のピン側部材5Bの背面と、#2ジャーナルユニット2Bのジャーナル側部材6Bの背面とを、同様に電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接に溶接接合させ、続いて、#2ジャーナルユニット2Bに#2ピンユニット3を溶接接合させる。そして、順次、#2ピンユニット3と#3ジャーナルユニット2B、#3ジャーナルユニット2Bと#3ピンユニット3、・・・・・と順次、溶接接合させ、最終的に#5ジャーナルユニット2Aを溶接接合させることにより、組立が完了し、図1に示すクランクシャフト1を得ることができる。
【0032】
なお、上記した接合順序は、上記した順序に限られず、クランクシャフト1の軸方向中央部分から軸方向端部に向かって順次溶接接合してもよい。また、ピン側部材5Bとジャーナル側部材6Bとを溶接接合することによりクランクシャフト1として組立てる場合について説明したが、上記両者をボルトナット、リベット等の締結手段により結合させてクランクシャフト1として組立てるものであってもよい。
【0033】
以上の構成のクランクシャフト1においては、クランクピン5及びメインジャーナル6と、これらを連結するクランクウェブ7とにより構成されるクランクシャフト1であり、前記クランクウェブ7がメインジャーナル6の軸端を圧入嵌合して備えるジャーナル側部材6Bとクランクピン5の軸端を圧入嵌合して備えるピン側部材5Bとに分離され且つ一体に接合されて構成される。そして、前記メインジャーナル6及びクランクピン5の軸端は前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bへの圧入部の先端部において、夫々前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bと軸回りに全周溶接している。
【0034】
このため、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピン5とクランクウェブ7との連結部及びメインジャーナル6とクランクウェブ7との連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して応力集中が発生するクランクウェブ7から突出すクランクピン5およびジャーナル6の根元部(図中矢印F参照)を避ける圧入先端側で、前記メインジャーナル6及びクランクピン5と前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bとを結合することができ、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0035】
また、クランクウェブ7をジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bとに分割しているため、軸方向から見てメインジャーナル6とクランクピン5との軸同士がオーバーラップしているクランクシャフト1であっても、ジャーナル6及びクランクピン5の夫々の端部での各側部材との接合構成とすることが可能となる。
【0036】
さらに、クランクウェブ7を構成するジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bとが、その背面同士を接触させて接触面の周縁を外周側から全周溶接しているため、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接により短時間に接合させることができる。
【0037】
また、ジャーナルユニット2及びピンユニット3の各側部材5B,6Bと軸部材5A,6Aとの位置決めのために両者間にキー10,11を配置する場合において、図5に示すように、クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピン5とメインジャーナル6との各中心を結んだ直線Kに沿った領域及び各中心を通り前記直線Kに対して垂直な直線Lに沿った領域にキー溝10A,11A及びキー10,11が配置されていない構成としている。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5に作用し、クランクピン5によりクランクウェブ7に圧縮応力や引張り応力が作用しても、キー溝10A,11A及びキー10,11に作用することがなく、クランクシャフト1の耐久性を向上できる。
【0038】
また、クランクピンユニット3の各側部材5Bと軸部材5Aとの位置決めのために両者間にキー11を配置する場合において、クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、メインジャーナル6の中心から離れる、クランクピン5の中心より外側の領域M、すなわち、クランクピン断面の、メインジャーナル6から遠い側の半円域にキー溝11A及びキー11が配置されている構成としている。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5に作用しても、キー溝11A及びキー11は荷重方向の背面側にあり、前記燃焼荷重が作用せず、クランクシャフト1の耐久性を損なうことがない。
【0039】
また、ジャーナルユニット2の各側部材6Bと軸部材6Aとの位置決めのために両者間にキー10を配置する場合において、クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピン5の中心から離れる、メインジャーナル6の中心より外側の領域N、すなわち、メインジャーナル断面の、クランクピン5から遠い側の半円域にキー溝10A及びキー10が配置されている構成としている。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5からクランクウェブ7に作用しても、キー溝10A及びキー10は荷重方向の背面側にあり、前記燃焼荷重が作用せず、クランクシャフト1の耐久性を損なうことがない。
【0040】
図6及び図7は、クランクシャフトの第2実施例及び第3実施例を示す要部の断面図である。本実施例においては、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aが圧入嵌合する各側部材5B,6Bの結合穴5C6Cが、その背面側の終端において縮径(第2実施例)若しくは拡径(第3実施例)した構成としている。
【0041】
図6に示す第2実施例のクランクシャフト1においては、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aが圧入嵌合する各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cが、その背面側の終端において縮径した縮径部13を備える。この縮径部13は、結合穴5C,6Cの内周面を全周において内側へ突出させるものが図示されているが、結合穴5C,6Cの内周面を部分的に内側へ突出させるものであってもよい。
【0042】
前記ジャーナル軸6A及びピン軸5Aを各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cに圧入嵌合させると、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aの先端が前記縮径部13の軸方向端面に当接して両者の軸方向の位置決めが行われる。次いで、互いに圧入により嵌合しているジャーナル軸6A及びピン軸5Aの軸端面と各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cの縮径部13とを、矢印G方向より、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、縮径部13の端面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。その他の構成は、第1実施例と同様に構成される。
【0043】
一般に、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接の場合、接合部が溶融して溶接ビードとして盛り上がる。しかしながら、本実施例では、各側部材5B,6Bの背面側の結合穴5C,6Cの終端が縮径されているため、盛り上がる溶接ビードが存在しても、各側部材5B,6Bの背面側から突出することがなく、研削等により平面上に仕上げる必要もない。
【0044】
図7に示す第3実施例のクランクシャフト1においては、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aが圧入嵌合する各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cが、その背面側の終端において拡径した拡径部14を備える。この拡径部14は、結合穴5C,6Cの内周面を全周において外径側へ窪ませる。
【0045】
前記ジャーナル軸6A及びピン軸5Aを各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cに圧入嵌合させると、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aの先端は前記拡径部14内に進入し、各側部材5B,6Bの背面に当接させて配置している治具表面に当接して両者の軸方向の位置決めが行われる。次いで、互いに圧入により嵌合しているジャーナル軸6A及びピン軸5Aの軸外周面と各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cの内周面とを、矢印J方向より、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、拡径部14の端面側から軸外周面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。その他の構成は、第1実施例と同様に構成される。
【0046】
一般に、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接の場合、接合部が溶融して溶接ビードとして盛り上がる。しかしながら、本実施例では、各側部材5B,6Bの背面側の結合穴5C,6Cの終端が拡径されているため、盛り上がる溶接ビードが存在しても、各側部材5B,6Bの背面側から突出することがなく、研削等により平面上に仕上げる必要もない。
【0047】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0048】
(ア)クランクピン5及びメインジャーナル6と、これらを連結するクランクウェブ7とにより構成されるクランクシャフト1であり、前記クランクウェブ7がメインジャーナル6の軸端を圧入嵌合して備えるジャーナル側部材6Bとクランクピン5の軸端を圧入嵌合して備えるピン側部材5Bとに分離され且つ一体に接合されて構成され、前記メインジャーナル6及びクランクピン5の軸端は前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bへの圧入部の先端部において、夫々前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bと軸回りに全周溶接している。このため、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピン5とクランクウェブ7との連結部及びメインジャーナル6とクランクウェブ7との連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して応力集中が発生するクランクウェブ7から突出すクランクピン5およびジャーナル6の根元部を避ける圧入先端側で、前記メインジャーナル6及びクランクピン5と前記ジャーナル側部材6B及びピン側部材5Bとを結合することができ、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0049】
(イ)図6に示すクランクシャフト1では、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aが圧入嵌合する各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cが、その背面側の終端において縮径した縮径部13を備え、前記互いに圧入により嵌合しているジャーナル軸6A及びピン軸5Aの軸端面と各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cの縮径部13とが、縮径部13の端面に沿って全周に渡って溶接されている。このため、盛り上がる溶接ビードが存在しても、各側部材5B,6Bの背面側から突出することがなく、研削等により平面上に仕上げる必要もない。
【0050】
(ウ)図7に示すクランクシャフト1では、ジャーナル軸6A及びピン軸5Aが圧入嵌合する各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cが、その背面側の終端において拡径した拡径部14を備え、前記互いに圧入により嵌合しているジャーナル軸6A及びピン軸5Aの軸外周面と各側部材5B,6Bの結合穴5C,6Cの内周面とが、拡径部14の端面側から軸外周面に沿って全周に渡って溶接されている。このため、盛り上がる溶接ビードが存在しても、各側部材5B,6Bの背面側から突出することがなく、研削等により平面上に仕上げる必要もない。
【0051】
(エ)メインジャーナル6とクランクピン5との軸同士が、軸方向から見てオーバーラップしている。このため、クランクウェブ7をジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bとに分割して、ジャーナル6及びクランクピン5の夫々の端部での各側部材5B,6Bとの接合構成とすることが可能となる。
【0052】
(オ)クランクウェブ7を構成するジャーナル側部材6Bとピン側部材5Bとが、その背面同士を接触させて接触面の周縁を外周側から全周溶接している。このため、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接により短時間に接合させることができる。
【0053】
(カ)クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピン5とメインジャーナル6との各中心を結んだ直線上の領域及び各中心から前記直線に対して直角となる領域を避けて、ジャーナル6及びクランクピン5の各側部材5B,6Bと軸部材5A,6Aとの位置決めのためのキー溝10A,11A及びキー10,11を配置する。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5に作用し、クランクピン5によりクランクウェブ7に圧縮応力や引張り応力が作用しても、キー溝10A,11A及びキー10,11に作用することがなく、クランクシャフト1の耐久性を向上できる。
【0054】
(キ)クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、メインジャーナル6の中心から離れる、クランクピン5の中心より外側の領域にキー溝11A及びキー11が配置されている。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5に作用しても、キー溝11A及びキー11は荷重方向の背面側にあり、前記燃焼荷重が作用せず、クランクシャフト1の耐久性を損なうことがない。
【0055】
(ク)クランクピン5とメインジャーナル6とをクランクシャフト1の中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピン5の中心から離れる、メインジャーナル6の中心より外側の領域にキー溝10A及びキー10が配置されている。このため、ピストン及びコンロッドを介して入力される燃焼荷重がクランクピン5からクランクウェブ7に作用しても、キー溝10A及びキー10は荷重方向の背面側にあり、前記燃焼荷重が作用せず、クランクシャフト1の耐久性を損なうことがない。
【符号の説明】
【0056】
1 クランクシャフト
2 ジャーナルユニット
3 クランクピンユニット
5 クランクピン
6 メインジャーナル
7 クランクウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクピン及びメインジャーナルと、これらを連結するクランクウェブとにより構成されるクランクシャフトであり、
前記クランクウェブは、メインジャーナルの軸端が挿入されるジャーナル側部材と、クランクピンの軸端が挿入されるピン側部材と、が一体に接合されて構成され、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端は、前記ジャーナル側部材及びピン側部材への挿入部のジャーナル側部材とピン側部材の接合面側において、夫々前記ジャーナル側部材及びピン側部材と軸回りに全周溶接していることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記メインジャーナルまたはクランクピンが挿入される側部材の結合穴が、その背面側の終端において縮径した縮径部を備え、
前記メインジャーナルまたはクランクピンの軸端面と側部材の結合穴の縮径部とが、縮径部の端面に沿って全周に渡って溶接されていることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
前記メインジャーナルまたはクランクピンが挿入される側部材の結合穴が、その背面側の終端において拡径した拡径部を備え、
前記メインジャーナルまたはクランクピンの軸外周面と側部材の結合穴の内周面とが、拡径部の端面に沿って全周に渡って溶接されていることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項4】
前記メインジャーナルとクランクピンとの軸同士が、軸方向から見てオーバーラップしていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項5】
前記クランクウェブを構成するジャーナル側部材とピン側部材とが、その背面同士を接触させて接触面の周縁を外周側から全周溶接していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項6】
前記クランクピンとメインジャーナルとをクランクシャフトの中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピンとメインジャーナルとの各中心を結んだ直線に沿った領域及び前記クランクピンとメインジャーナルの各中心を通り前記直線に対して垂直な直線に沿った領域を避けて、ジャーナル及びクランクピンの各側部材と軸部材との位置決めのためのキー溝及びキーを配置することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項7】
前記クランクピンとメインジャーナルとをクランクシャフトの中心軸に垂直な平面に投影させた際に、メインジャーナルの中心から離れる、クランクピンの中心より外側の領域にキー溝及びキーが配置されていることを特徴とする請求項6に記載のクランクシャフト。
【請求項8】
前記クランクピンとメインジャーナルとをクランクシャフトの中心軸に垂直な平面に投影させた際に、クランクピンの中心から離れる、メインジャーナルの中心より外側の領域にキー溝及びキーが配置されていることを特徴とする請求項6に記載のクランクシャフト。
【請求項9】
前記メインジャーナルまたはクランクピンの軸端は、メインジャーナルまたはクランクピンが挿入される前記側部材に圧入嵌合されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項10】
クランクピン及びメインジャーナルと、これらを連結するクランクウェブとにより構成されるクランクシャフトの製造方法であり、
前記メインジャーナルの軸端に圧入嵌合するジャーナル側部材とクランクピンの軸端に圧入嵌合するピン側部材とに分離して前記クランクウェブを形成し、
前記メインジャーナルの軸端を、前記ジャーナル側部材に挿入すると共に、ジャーナル側部材とピン側部材の接合面側と、ジャーナル側部材とを軸回りに全周溶接してジャーナルユニットを形成し、
前記クランクピンの軸端を、前記ピン側部材に挿入すると共に、ジャーナル側部材とピン側部材の接合面側と、ピン側部材とを軸回りに全周溶接してクランクピンユニットを形成し、
前記ジヤーナル側部材とピン側部材とを結合することにより、前記ジャーナルユニットとクランクピンユニットとを一体化させて形成することを特徴とするクランクシャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−210002(P2010−210002A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56324(P2009−56324)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】