説明

クランクシャフト及びその製造方法

【課題】複数の部材を溶接により接合して構成するクランクシャフトにおいて、耐久性の確保に好適なクランクシャフトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に挿入し、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aの結合穴6,7への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブ4と軸回りに全周溶接する構成を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフト及びその製造方法に関し、特に、複数の部材を溶接等により接合して構成するに好適なクランクシャフト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から軽量化のため、複数の部材を溶接等により接合して組立てるクランクシャフトが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
これは、クランクピン部とジャーナル部とがパイプ材で形成され、クランクアーム部は一対の合せ材により形成され、一方の合せ材にはクランクピン部との結合部としてクランクピン部を形成するパイプ材の外径より大径の穴が設けられ、他方の合せ材にはジャーナル部との結合部としてジャーナル部を形成するパイプ材の外径より大径の穴が設けられ、各穴の内周側にはセレーションが刻設されている。そして、クランクピン部およびジャーナル部を夫々形成するパイプ材の端部はクランクアーム部を形成する一対の合せ材の各穴内において拡管され、その外周部が穴のセレーションに喰い込まされた状態で、クランクアーム部を形成する合せ材に一体に結合されており、一対の合せ材は、互いの合せ面部において接合されている構造を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−177821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関のクランクシャフトには、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用し、この曲げ荷重はクランクピンとクランクアームとの連結部およびジャーナルとクランクアームとの連結部に繰り返しの曲げ応力を発生させる。
【0006】
上記従来例においても、クランクピン部およびジャーナル部を形成するパイプ材の端部を拡管させてその外周部を、内周側にセレーションを刻設した、クランクアームを形成する合せ材の穴に喰い込ませて一体化させるものであるため、上記した曲げ応力は、パイプ材と合せ材との結合部に繰り返し作用することとなる。このため、合せ材の穴とパイプ材の拡管された外周部との嵌合せ強度を充分確保したとしても、クランクピンおよびジャーナルの合せ材から突出す根元部には応力集中が生じることとなり、当該根元部位に疲労が生ずる等の耐久性に課題がある。また、パイプ材の端部を拡管させて形成するものであるため、その結合強度が限定され且つ組立作業性も低いものであった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、複数の部材を溶接により接合して構成するクランクシャフトにおいて、耐久性の確保に好適なクランクシャフトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、メインジャーナル及びクランクピンの軸端を、クランクウェブの夫々の結合穴に挿入し、前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブと軸回りに全周溶接する構成を備える。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明では、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピンとクランクウェブとの連結部及びメインジャーナルとクランクウェブとの連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して応力集中が発生するクランクウェブから突出すクランクピンおよびジャーナルの根元部を避ける挿入先端側で、前記メインジャーナル及びクランクピンと前記ジャーナル側部材及びピン側部材とを結合することができ、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフトの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示すクランクシャフトの断面図。
【図2】同じく要部の拡大断面図。
【図3】本発明の第2実施形態を示すクランクシャフトの断面図。
【図4】同じく要部の断面図。
【図5】クランクピン及びメインジャーナルのオーパラップ状態を説明する説明図。
【図6】第2実施例のクランクシャフトの要部断面図。
【図7】第3実施例のクランクシャフトの要部断面図。
【図8】第4実施例のクランクシャフトの要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のクランクシャフト及びその製造方法を各実施形態に基づいて説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1、2は本発明を4気筒内燃機関に適用するクランクシャフト及びその製造方法の第1実施形態を示し、図1はクランクシャフトの断面図、図2はその一部を拡大して示す断面図である。
【0013】
図1において、クランクシャフト1は、図示しないコンロッドの大端部(1〜4番気筒に対する)を支承するクランクピン2(#1〜#4)と、これらクランクピン2の前後において図示しないシリンダブロックにクランクシャフト1を支承するメインジャーナル3(#1〜#5)と、各クランクピン2とメインジャーナル3とを互いに結ぶクランクウェブ4、および各クランクウェブ4に対してクランクシャフト1の回転中心を挾んで対向する位置に所定の質量を付加するカウンタウェイト5等から構成されている。前記クランクウェブ4及びカウンタウェイト5は一体に形成されており、以下では、これを総称して、「クランクウェブ4」という。
【0014】
各クランクピン2はコンロッドの大端部を支承するために比較的小径に形成され、各メインジャーナル3はクランクピン2に比較して大径に形成されている。前記#1及び#5メインジャーナル3は、中空軸で構成してもよいが、夫々図示しないフライホイールや補機類の駆動用プーリ・スプロケット等が取付けられ、曲げ荷重が作用することから、特に強度及び剛性が要求されるため、中実軸により形成されることが望ましい。また、前記#2〜#4メインジャーナル3は、中実軸で構成してもよいが、クランクシャフト1の軽量化のために、中空軸により形成されることが望ましい。
【0015】
前記各クランクウェブ4(カウンタウェイト5を含む)は、その略中央位置にメインジャーナル3を挿入状態で貫通保持する結合穴6と、カウンタウェイト5となる部分とは反対側においてクランクピン2を挿入状態で貫通保持する結合穴7と、を備える。そして、クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に、メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを挿入することにより、図1に示すように、クランクピン2とメインジャーナル3とが相互に連結されて、クランクシャフト1として組立てられる。以下の各実施形態においては、クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7と、メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aは、圧入嵌合されている。
【0016】
隣接する(#1と#2、#3と#4)クランクピン2同士は#2,#4のメインジャーナル3を挟んで対向するクランク角度位置に配置され、#2,#3のクランクピン2は#3のメインジャーナル3を挟んで同じクランク角度位置に配置される。このため、クランクウェブ4の配列も、#1,#4クランクピン2に結合されるクランクウェブ4の配列と、#2,#3クランクピン2に結合されるクランクウェブ4の配列とは、180°逆方向となっている。
【0017】
前記メインジャーナル3及びクランクピン2のクランクウェブ4の結合穴6,7への圧入時において、メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aとクランクウェブ4の結合穴6,7との嵌合面には、互いの角度位置を位置決めするキー溝を夫々設ける。そして、メインジャーナル3及びクランクピン2のキー溝にキー8を係合させて圧入嵌合させることにより、両軸端2A,3Aに一体化させるクランクウェブ4同士の角度位置を、同一角度若しくは180°角度に正確に位置決めすることができる。この場合のキー溝は、クランクピン2及びメインジャーナル3の互いの背面側に位置するように設けることにより、ピストン及びコンロッドを介してクランクピン2に入力される燃焼荷重が作用しない角度位置に配置できる。
【0018】
次いで、互いに圧入により嵌合しているメインジャーナル3及びクランクピン2の外周面とクランクウェブ4の結合穴6,7の内周面とを、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、夫々矢印D方向からメインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3A側から嵌合面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。なお、メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3A側から、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接による溶融ビードが突出す場合には、突出する部分を研削等により切取り、端面が平坦になるようにすることが望ましい。この場合に、クランクウェブ4の結合穴6,7とメインジャーナル3及びクランクピン2との嵌合面の軸端2A,3Aより離れた反対側、即ち、クランクウェブ4より突出しているメインジャーナル3及びクランクピン2の根元側は、圧入された嵌合状態のままとしている。
【0019】
図2に示すように、エンジン駆動に合わせて矢印A、Bに示す繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピン2とクランクウェブ4との連結部及びメインジャーナル3とクランクウェブ4との連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して、クランクウェブ4から突出すクランクピン2およびジャーナル6の根元部(図中矢印C参照)で応力集中が発生する。しかし、本実施形態のクランクシャフト1においては、クランクピン2及びメインジャーナル3と、これらを連結するクランクウェブ4とにより構成され、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、前記クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に圧入嵌合させ、結合穴6,7への圧入部の先端部において、夫々クランクウェブ4と軸回りに全周溶接している。
【0020】
即ち、クランクウェブ4から突出すクランクピン2およびジャーナル6の根元部(図中矢印C参照)を避けた圧入先端側で前記メインジャーナル3及びクランクピン2と前記クランクウェブ4とを結合しており、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0021】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0022】
(ア)メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に挿入、圧入嵌合させ、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aの結合穴6,7への圧入部分の先端において、夫々クランクウェブ4と軸回りに全周溶接する構成を備える。このため、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピン2とクランクウェブ4との連結部及びメインジャーナル3とクランクウェブ4との連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して応力集中が発生するクランクウェブ4から突出すクランクピン2およびジャーナルの根元部を避ける圧入先端側で、前記メインジャーナル3及びクランクピン2と前記ジャーナル側部材及びピン側部材とを結合することができ、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0023】
(第2実施形態)
図3〜図7は、本発明を適用したクランクシャフト及びその製造方法の第2実施形態を示し、図3〜5は第1実施例のクランクシャフトを示し、図6,7は第2,3実施例のクランクシャフトを示す。本実施形態においては、クランクピン2とメインジャーナル3とが軸方向から見てオーパラップしているクランクシャフト1の構成を第1実施形態に追加したものである。なお、図1、2と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0024】
本実施形態のクランクシャフト1においては、図5に示すように、各クランクピン2と各メインジャーナル3とは、クランクシャフト1の軸方向から見て、オーバーラップさせた状態で配置されている。このため、各クランクピン2と各メインジャーナル3とを、第1実施形態に示すように、クランクウェブ4を貫通させて配置したのでは、クランクピン2とメインジャーナル3との軸端2A,3Aがクランクウェブ4部分で干渉することになる。
【0025】
図3,4に示す第1実施例のクランクシャフト1においては、クランクピン2とメインジャーナル3との軸端2A,3Aの干渉を避けるために、クランクウェブ4に設ける結合穴6,7のクランクピン2及びメインジャーナル3の軸端2A,3Aの圧入嵌合方向の先端側において、その内径を小径に縮径した縮径部6A,7Aを形成している。この縮径部6A,7Aは、結合穴6,7の内周面を全周において内側へ突出させて形成する。
【0026】
従って、結合穴6,7に圧入嵌合されるクランクピン2とメインジャーナル3の軸端2A,3Aの軸方向長さは、前記結合穴6,7より縮径部6A,7Aの軸方向長さを差引いた長さとなるよう短く形成している。この場合に、クランクピン2とメインジャーナル3とは軸方向から見てオーパラップする大きさ、即ち、第1実施例に比較して大きい外径を備えるため、結合穴6,7の深さが短くなっても、結合穴6,7と嵌合する面積(嵌合径×嵌合長さ)を第1実施形態に比較して同等以上に確保することができ、その係合強度を確保することができる。
【0027】
前記クランクウェブ4に設けるクランクピン2の結合穴6,7に対する圧入嵌合深さは、メインジャーナル3の結合穴6,7に対する圧入嵌合深さより大きく形成している。これにより、メインジャーナル3の外径がクランクピン2の外径より大きいことから、メインジャーナル3の軸端2A,3Aとその結合穴6,7との嵌合面積(嵌合径×嵌合長さ)を確保しやすいこととなる。また、メインジャーナル3に比べて大きい曲げ応力が発生するクランクピン2の結合穴6,7に対する挿入長さを増加させることで、その係合強度を確保して、耐久性を向上させることができる。
【0028】
メインジャーナル3及びクランクピン2をクランクウェブ4結合穴6,7に圧入嵌合させると、メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aが前記縮径部6A,7Aの軸方向端面に当接して両者の軸方向の位置決めが行われる。次いで、互いに圧入により嵌合しているメインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3A面と各クランクウェブ4の結合穴6,7の縮径部6A,7Aとを、矢印E方向より、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、縮径部6A,7Aの端面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。
【0029】
一般に、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接の場合、接合部が溶融して溶接ビードとして盛り上がる。しかしながら、本実施形態では、各クランクウェブ4の背面側の結合穴6,7の終端に縮径部6A,7Aがあるため、盛り上がる溶接ビードが存在しても、各クランクウェブ4の背面側から突出することがない。その他の構成は、第1実施例と同様に構成される。
【0030】
本実施例のクランクシャフト1において、クランクピン2及び#2〜#4メインジャーナル3は、中実軸で構成してもよいが、本実施例ではクランクシャフト1の軽量化のために、中空軸により形成している。そして、前記クランクピン2及び#2〜#4メインジャーナル3を中空軸で構成する場合に、図示した形状のように、結合穴6,7の縮径部6A,7Aの内径とクランクピン2及び#2〜#4メインジャーナル3を中空軸の内径とを概略同一径に形成する場合には、中空軸で構成するクランクピン2及び#2〜#4メインジャーナル3の軸端2A,3Aと縮径部6A,7Aとの当接面を溶接すると、その溶融ビードの熱が均等にクランクウェブ4とクランクピン2及びメインジャーナル3とへ伝わり、溶接品質を安定させる効果がある。
【0031】
また、本実施例のクランクシャフト1においては、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、前記クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に圧入嵌合させ、結合穴6,7への圧入部の先端部において、夫々クランクウェブ4の縮径部6A,7Aと軸回りに全周溶接している。一般に、図4に示すように、エンジン駆動に合わせて矢印A、Bに示す繰返しの曲げ荷重が作用して、クランクピン2とクランクウェブ4との連結部及びメインジャーナル3とクランクウェブ4との連結部に繰り返し作用する曲げ応力に対して、クランクウェブ4から突出すクランクピン2およびジャーナル6の根元部(図中矢印C参照)で応力集中が発生する。
【0032】
しかし、本実施例では、クランクウェブ4から突出すクランクピン2およびジャーナル6の根元部(図中矢印C参照)を避けた圧入先端側で前記メインジャーナル3及びクランクピン2と前記クランクウェブ4の縮径部6A,7Aとを結合しており、結合部位と応力集中部位とを分離でき、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0033】
図6に示す第2実施例のクランクシャフト1においては、メインジャーナル3の軸端3Aの外径を拡大させたものである。前記軸端3Aの外径の拡大は、ジャーナルを形成する一般部位から所定の曲率Rをもって徐々に拡大させ、曲率Rの終端より拡大させた外径の軸端3Aを形成することで、外径が急激に変化することによる応力集中を避けるようにしている。
【0034】
このように構成することで、クランクピン2の軸端2Aに比較して、圧入長さが短くなるメインジャーナル3の軸端3Aの外径を拡大させて、その圧入嵌合面積(嵌合径×嵌合長さ)を大きくして、その係合強度を向上させることができる。
【0035】
また、メインジャーナル3の軸端3Aの外径が曲率Rを介して拡大されていることにより、この拡大された軸端3Aの外周と結合穴6の内周とを全周に渡って、矢印F方向から、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接することもでき、応力集中部位を回避しつつ、メインジャーナル3の軸端3Aとクランクウェブ4の結合穴6との間の接合部を増やすことができる。このことは、メインジャーナル3の軸端3Aとクランクウェブ4の結合穴6との嵌合深さをより浅く形成することを可能とでき、その分だけ、クランクピン2の軸端2Aとクランクウェブ4の結合穴7との嵌合深さを大きくして、メインジャーナル3に比べて大きい曲げ応力が発生するクランクピン2の結合穴7に対する挿入長さを増加させることで、その係合強度を確保して、耐久性を向上させることができる。
【0036】
図7に示す第3実施例のクランクシャフト1においては、メインジャーナル3のクランクウェブ4に嵌合させる軸端3Aを、クランクウェブ4の背面に到達するよう延長した構成を、第2実施例に追加したものである。即ち、メインジャーナル3のクランクウェブ4に嵌合する大径とした軸端3Aの先端から小径に形成した第2の軸端3Bを一体に形成し、この第2の軸端3Bの外周を結合穴6の縮径部6Aの内周に圧入させた構成としている。この第2の軸端3Bは、中空軸で形成したメインジャーナル3の中空穴の内径を小径化することで、第1の軸端3Aの前方に形成可能としている。
【0037】
そして、メインジャーナル3の第1,2の軸端3A,3Bをクランクウェブ4の結合穴6及び縮径部6Aの内周に圧入嵌合させると、第1の軸端3Aが前記縮径部6Aの軸方向端面に当接して両者の軸方向の位置決めが行われる。次いで、互いに圧入により嵌合しているメインジャーナル3の第1、2の軸端3A,3Bの外周面とクランクウェブ4の結合穴6及び縮径部6Aの内周面とを、矢印F,G方向より、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、第1、2の軸端3A,3Bの周面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。
【0038】
本実施例においては、メインジャーナル3とクランクウェブ4との接合面が、第1,2の軸端3A,3Bとクランクウェブ4の結合穴6及び縮径部6Aとなるため、圧入長さを長く確保することができ、係合強度を高めて、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0039】
また、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接する部位が、クランクウェブ4の側面に露出しているため、矢印F,Gで示すように、軸方向からビームを照射することができ、ビームが届きやすく、製造が容易である。
【0040】
しかも、メインジャーナル3の第1の軸端3Aとクランクウェブ4の結合穴6との嵌合深さをより浅く形成することを可能とでき、その分だけ、クランクピン2の軸端2Aとクランクウェブ4の結合穴7との嵌合深さを大きくして、メインジャーナル3に比べて大きい曲げ応力が発生するクランクピン2の結合穴7に対する挿入長さを増加させることで、その係合強度を確保して、耐久性を向上させることができる。
【0041】
図8に示す第4実施例のクランクシャフト1においては、クランクピン2のクランクウェブ4に嵌合させる軸端2Aを、クランクウェブ4の背面に到達するよう延長した構成を、第3実施例に追加したものである。即ち、クランクピン2のクランクウェブ4に嵌合する軸端2Aの先端から小径に形成した第2の軸端2Bを一体に形成し、この第2の軸端2Bの外周を結合穴7の縮径部7Aの内周に圧入させた構成としている。この第2の軸端2Bは、中空軸で形成したクランクピン2の中空穴の内径を小径化することで、第1の軸端2Aの前方に形成可能としている。
【0042】
そして、クランクピン2の第1,2の軸端2A,2Bをクランクウェブ4の結合穴7及び縮径部7Aの内周に圧入嵌合させると、第1の軸端2Aが前記縮径部7Aの軸方向端面に当接して両者の軸方向の位置決めが行われる。次いで、互いに圧入により嵌合しているクランクピン2の第2の軸端2Bの外周面とクランクウェブ4の結合穴7の縮径部7Aの内周面とを、矢印J方向より、電子ビーム溶接若しくはレーザビーム溶接により、第2の軸端2Bの周面に沿って全周に渡って溶接して両者を固定する。
【0043】
本実施例においては、クランクピン2とクランクウェブ4との接合面が、第1,2の軸端2A,2Bとクランクウェブ4の結合穴7及び縮径部7Aとなるため、圧入長さを長く確保することができ、係合強度を高めて、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。
【0044】
また、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接する部位が、クランクウェブ4の側面に露出しているため、矢印Jで示すように、軸方向からビームを照射することができ、ビームが届きやすく、製造が容易である。
【0045】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0046】
(イ)メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に圧入嵌合させ、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aの結合穴6,7への圧入部分の先端において、夫々クランクウェブ4と軸回りに全周溶接するクランクシャフト1である。そして、前記結合穴6,7は、クランクピン2及びメインジャーナル3の軸端2A,3Aの圧入嵌合方向の先端側において、その内径を小径に縮径した縮径部6A,7Aを備え、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aを、前記縮径部6A,7Aの軸方向端面に当接させて前記クランクウェブ4の夫々の結合穴6,7に圧入嵌合させ、前記メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aの結合穴6,7への圧入部分の先端において、夫々クランクウェブ4の縮径部6A,7Aと軸回りに全周溶接している。このため、クランクピン2とメインジャーナル3とが軸方向から見てオーバーラップするクランクシャフト1にも適用でき、その耐久性、組立性を向上させることができる。
【0047】
(ウ)クランクウェブ4に設けるクランクピン2の結合穴6,7に対する圧入嵌合深さは、メインジャーナル3の結合穴6,7に対する圧入嵌合深さより大きく形成している。このため、メインジャーナル3の外径がクランクピン2の外径より大きいことから、メインジャーナル3の軸端2A,3Aとその結合穴6,7との嵌合面積(嵌合径×嵌合長さ)を確保しやすい。また、メインジャーナル3に比べて大きい曲げ応力が発生するクランクピン2の結合穴6,7に対する挿入長さを増加させることで、その係合強度を確保して、耐久性を向上させることができる。
【0048】
(エ)メインジャーナル3及びクランクピン2は、中空軸により形成され、前記メインジャーナル3及びクランクピン2とクランクウェブ4とは、中空穴の端部と縮径部6A,7Aの端部との間で軸回りに全周溶接している。このため、クランクシャフト1を軽量化することができる。
【0049】
(オ)メインジャーナル3及びクランクピン2の中空軸により形成された内径は、当該メインジャーナル3及びクランクピン2の軸端2A,3Aが当接する縮径部6A,7Aの内径と同等に形成されている。このため、中空軸で構成するクランクピン2及びメインジャーナル3の軸端2A,3Aと縮径部6A,7Aとの当接面の溶接時に、その溶融ビードの熱が均等にクランクウェブ4とクランクピン2及びメインジャーナル3とへ伝わり、溶接品質を安定させる効果がある。
【0050】
(カ)図6〜図8に示すクランクシャフト1においては、クランクウェブ4の結合穴6に圧入嵌合されるメインジャーナル3の軸端3Aは、ジャーナルを形成する一般部位から所定の曲率アールRをもって徐々に拡大させ、曲率アールRの終端より拡径させた外径に形成され、結合穴6の内面との間で軸回りに全周溶接している。このため、クランクピン2の軸端2Aに比較して、圧入長さが短くなるメインジャーナル3の軸端3Aの外径を拡大させて、その圧入嵌合面積(嵌合径×嵌合長さ)を大きくして、その係合強度を向上させることができる。また、メインジャーナル3の軸端3Aの外径が曲率Rを介して拡大されていることにより、この拡大された軸端3Aの外周と結合穴6の内周とを全周に渡って、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接することもでき、応力集中部位を回避しつつ、メインジャーナル3の軸端3Aとクランクウェブ4の結合穴6との間の接合部を増やすことができる。
【0051】
(キ)図8に示すクランクシャフト1では、メインジャーナル3若しくはクランクピン2のクランクウェブ4の結合穴6,7に圧入嵌合される軸端2A,3Aには、結合穴6,7の縮径部6A,7Aに圧入嵌合する第2の軸端2B,3Bが設けられ、前記メインジャーナル3若しくはクランクピン2の軸端2A,3Aの結合穴6,7への圧入部分の先端での縮径部6A,7Aとの軸回りに全周溶接は、第2の軸端2B,3Bの外周面と縮径部6A,7Aの内周面との全周溶接へ変更している。このため、メインジャーナル3若しくはクランクピン2とクランクウェブ4との接合面が、第1,2の軸端2A,3A,2B,3Bとクランクウェブ4の結合穴6,7及び縮径部6A,7Aとなり、圧入長さを長く確保することができ、係合強度を高めて、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。また、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接する部位が、クランクウェブ4の側面に露出しているため、軸方向からビームを照射することができ、ビームが届きやすく、製造が容易である。
【0052】
(ク)図7に示すクランクシャフト1においては、メインジャーナル3のクランクウェブ4の結合穴6に圧入嵌合される軸端3Aには、結合穴6の縮径部6Aに圧入嵌合する第2の軸端3Bが設けられ、前記メインジャーナル3の軸端3Aの結合穴6への圧入部分の先端での縮径部6Aとの軸回りに全周溶接は、第2の軸端3Bの外周面と縮径部6Aの内周面との全周溶接へ変更されている。このため、メインジャーナル3とクランクウェブ4との接合面が、第1,2の軸端3A,3Bとクランクウェブ4の結合穴6及び縮径部6Aとなるため、圧入長さを長く確保することができ、係合強度を高めて、クランクシャフト1の耐久性を向上させることができる。また、レーザビーム溶接若しくは電子ビーム溶接する部位が、クランクウェブ4の側面に露出しているため、軸方向からビームを照射することができ、ビームが届きやすく、製造が容易である。しかも、メインジャーナル3の第1の軸端3Aとクランクウェブ4の結合穴6との嵌合深さをより浅く形成することを可能とでき、その分だけ、クランクピン2の軸端2Aとクランクウェブ4の結合穴7との嵌合深さを大きくして、メインジャーナル3に比べて大きい曲げ応力が発生するクランクピン2の結合穴7に対する挿入長さを増加させることで、その係合強度を確保して、耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 クランクシャフト
2 クランクピン
2A、3A、2B、3B 軸端
3 メインジャーナル
4 クランクウェブ
5 カウンタウェイト
6、7 結合穴
6A、7A 縮径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクピン及びメインジャーナルとこれらを連結するクランクウェブとにより構成されるクランクシャフトであり、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端を、前記クランクウェブの夫々の結合穴に挿入し、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブと軸回りに全周溶接していることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記結合穴は、クランクピン及びメインジャーナルの軸端の挿入方向の先端側において、その内径を小径に縮径した縮径部を備え、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端を、前記縮径部の軸方向端面に当接させて前記クランクウェブの夫々の結合穴に挿入し、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブの縮径部と軸回りに全周溶接していることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
前記クランクウェブに設けるクランクピンの結合穴に対する挿入深さは、メインジャーナルの結合穴に対する挿入深さより大きく形成していることを特徴とする請求項2に記載のクランクシャフト。
【請求項4】
前記メインジャーナル及びクランクピンは、中空軸により形成され、
前記メインジャーナル及びクランクピンとクランクウェブとは、前記メインジャーナル及びクランクピンの中空穴の端部と縮径部の端部との間で軸回りに全周溶接していることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のクランクシャフト。
【請求項5】
前記メインジャーナル及びクランクピンの中空軸により形成された内径は、当該メインジャーナル及びクランクピンの軸端が当接する縮径部の内径と同等に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のクランクシャフト。
【請求項6】
前記メインジャーナル若しくはクランクピンのクランクウェブの結合穴に挿入される軸端には、結合穴の縮径部に挿入される第2の軸端が設けられ、
前記メインジャーナル若しくはクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端での縮径部との軸回りに全周溶接は、第2の軸端の外周面と縮径部の内周面との全周溶接へ変更されていることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項7】
前記メインジャーナルのクランクウェブの結合穴に挿入される軸端には、結合穴の縮径部に挿入される第2の軸端が設けられ、
前記メインジャーナルの軸端の結合穴への挿入部分の先端での縮径部との軸回りに全周溶接は、第2の軸端の外周面と縮径部の内周面との全周溶接へと変更していることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項8】
前記クランクウェブの結合穴に挿入されるメインジャーナルの軸端は、ジャーナルを形成する一般部位から所定の曲率アールRをもって徐々に拡大させ、曲率アールRの終端より拡径させた外径に形成され、結合穴の内面との間で軸回りに全周溶接していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項9】
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端は、前記クランクウェブの夫々の結合穴に圧入嵌合していることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一つに記載のクランクシャフト。
【請求項10】
クランクピン及びメインジャーナルとこれらを連結するクランクウェブとにより構成されるクランクシャフトの製造方法であり、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端を前記クランクウェブの夫々の結合穴に挿入し、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブと軸回りに全周溶接することを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
【請求項11】
前記結合穴は、クランクピン及びメインジャーナルの軸端の挿入方向の先端側において、その内径を小径に縮径した縮径部を備え、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端を前記縮径部の軸方向端面に当接させて前記クランクウェブの夫々の結合穴に挿入し、
前記メインジャーナル及びクランクピンの軸端の結合穴への挿入部分の先端において、夫々クランクウェブの縮径部と軸回りに全周溶接することを特徴とする請求項10に記載のクランクシャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−210003(P2010−210003A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56337(P2009−56337)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】