説明

クリアインク組成物

【課題】人物写真などの表面に塗布されるインク組成物であり、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いクリアインク組成物を提供する。
【解決手段】光重合性化合物と、光重合開始剤と、酸化防止剤と、を含むクリアインク組成物であって、前記光重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含有し、前記酸化防止剤はリン系酸化防止剤を含有し、前記リン系酸化防止剤の含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である、クリアインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリアインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人物写真などの美観を高める目的で、クリアインクを塗装することが広く行われている。そのクリアインクの塗膜は人物写真などの最表面に存在することになるため、特に審美性及び硬化性に優れたクリアインク組成物が求められており、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、ヒンダードフェノール系抗酸化剤及びリン系抗酸化剤を含有する熱硬化型のクリア塗料組成物により、加熱硬化による黄変を極力少なくする技術が開示されている(特許文献1)。また、硬化性に優れたインク組成物として、特許文献2には、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、アルキッドアクリレートのいずれかを含みビニルカプロラクタムを希釈剤として配合したインク組成物が開示されている。さらに、硬化性に優れたインク組成物として、特許文献3には、N−ビニルラクタム類、重合禁止剤及び酸化防止剤を含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−155397号公報
【特許文献2】特許第2880845号明細書
【特許文献3】特開2009−120628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1は、熱硬化時のウレタン系クリア塗料の黄変の改良に留まり、ウレタン系以外のクリア塗料の黄変の改良に関する技術は何ら開示していない。また、上記特許文献2は、硬化性に優れたインク組成物を開示しているが、審美性に関する技術を何ら開示していない。さらに、上記特許文献3における組成では、クリアインクに応用した際に黄変が目立ってしまう。そのため、依然として、審美性及び硬化性に優れた塗膜を形成するクリアインク組成物が強く求められている。
【0006】
そこで、本発明は、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いクリアインク組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、クリアインクと、その他のインク、例えばシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインクとでは、黄変の影響度が全く異なることを見出した。即ち、シアンインク等では黄変の影響が外観に殆ど影響しない一方、クリアインクは黄変の影響度が大きく、クリアインクが一旦黄変すると、外観を大きく損なうことを見出した。そこで、クリアインク組成物に特化して更に検討を重ねた結果、N−ビニルカプロラクタム、光重合開始剤、及び所定量のリン系酸化防止剤を含むクリアインク組成物が、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
光重合性化合物と、光重合開始剤と、酸化防止剤と、を含むクリアインク組成物であって、前記光重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含有し、前記酸化防止剤はリン系酸化防止剤を含有し、前記リン系酸化防止剤の含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である、クリアインク組成物。
[2]
前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤をさらに含有する、[1]に記載のクリアインク組成物。
[3]
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である、[2]に記載のクリアインク組成物。
[4]
前記リン系酸化防止剤は、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリデシルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノオクチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、及びトリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイトからなる群より選択される1種以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載のクリアインク組成物。
[5]
前記光重合開始剤は、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドからなる群より選択される1種以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載のクリアインク組成物。
[6]
前記N−ビニルカプロラクタムの含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、1〜20質量%である、[1]〜[5]のいずれかに記載のクリアインク組成物。
[7]
インクジェット記録用である、[1]〜[6]のいずれかに記載のクリアインク組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本発明の一実施形態は、光重合性化合物と、光重合開始剤と、酸化防止剤と、を含むクリアインク組成物に係る。当該クリアインク組成物において、上記光重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含有し、上記酸化防止剤はリン系酸化防止剤を含有し、上記リン系酸化防止剤の含有量が、当該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である。
以下、本実施形態に係るクリアインク組成物を構成するか又は構成し得る、各成分を詳細に説明する。
【0011】
[光重合性化合物]
本実施形態のクリアインク組成物に含まれる光重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合して、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0012】
〔N−ビニルカプロラクタム〕
上記光重合性化合物は、下記式(1)で表されるN−ビニルカプロラクタムを含有する。
【0013】
[化1]

・・・(1)
【0014】
N−ビニルカプロラクタムは安全性に優れるとともに、汎用的で安価に入手できる。上記光重合性化合物がN−ビニルカプロラクタムを含有することにより、本実施形態のクリアインク組成物は、インクの硬化性、及び硬化膜の被記録媒体への密着性に優れたものとなる。
【0015】
N−ビニルカプロラクタムの含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、1〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜15質量%である。含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性、及び硬化膜の被記録媒体への密着性が一層優れたものとなる。
【0016】
〔N−ビニルカプロラクタム以外の光重合性化合物〕
また、上記光重合性化合物は、N−ビニルカプロラクタム以外の成分を含有してもよい。かかる成分として、特に限定されないが、従来公知のモノマー及びオリゴマーが挙げられる。
【0017】
ここで、本明細書における「モノマー」とは、数平均分子量が100〜3,000の分子を意味する。本明細書における「オリゴマー」とは、数平均分子量が500〜20,000の分子を意味する。ここで、本明細書における数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される。
【0018】
上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、N−ビニルカプロラクタム以外の窒素原子を有するモノマー、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。
【0019】
上記オリゴマーとしては、特に限定されないが、例えば、窒素原子を有するオリゴマー及び直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、並びに芳香族ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、光重合性化合物は、N−ビニルカプロラクタム以外の窒素原子を有するモノマー、及び(メタ)アクリル酸のエステル(以下、「(メタ)アクリレート」という。)が好ましい。また、光重合性化合物は、窒素原子を有する(メタ)アクリレートがより好ましい。光重合性化合物としてこれらの成分を使用した場合、インクの硬化性、及び硬化膜の被記録媒体への密着性を良好にすることができる。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを包含する用語である。
【0021】
(N−ビニルカプロラクタム以外の窒素原子を有するモノマー)
N−ビニルカプロラクタム以外の窒素原子を有するモノマーの具体例として、特に限定されないが、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1、1−ジメチルメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−i−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエチル(メタ)アクリレート、1−ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチル−2−ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート及びN,N−メチルフェニルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、並びに、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジ−i−ブチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノ(メタ)アクリルアミド、ピペリジノ(メタ)アクリルアミド、N−メチル−2−ピロリジル(メタ)アクリルアミド及びN,N−メチルフェニル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、並びに、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチルメチル(メタ)アクリルアミド及び6−(N,N−ジエチルアミノ)ヘキシル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類、並びに、p−ビニルベンジル−N,N−ジメチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジエチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジヘキシルアミン等のビニルベンジルアミン類、並びに、N,N−ジメチル−4−ビニルベンズアミド、N,N−ジプロピル4−ビニルベンズアミド及びN,N−ジオクチル4−ビニルベンズアミド等のビニルベンズアミド類、並びに、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、及びN−ビニルイミダゾール、が挙げられる。
【0022】
((メタ)アクリレート)
(メタ)アクリレートとして、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。以下において、N−ビニルカプロラクタム以外の窒素原子を有するモノマーとして挙げた(メタ)アクリレート類以外の(メタ)アクリレートの具体例を示す。
【0023】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
これらの中でも、硬化時の塗膜の伸び性が高く、かつ低粘度であるため、特にインクジェット記録時の射出安定性が得られやすいという効果が得られることから、(メタ)アクリレートは単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗膜の硬さが増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。
【0027】
上記の光重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
N−ビニルカプロラクタム以外の光重合性化合物の含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、1〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜15質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性、硬化性及び密着性の点で十分な性能が発現する。
【0028】
[光重合開始剤]
本実施形態のクリアインク組成物に含まれる光重合開始剤は、活性放射線の照射による光重合によって、印刷メディアの表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。ここで、上記活性放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、X線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられる。中でも、紫外線が好ましい。
【0029】
光重合開始剤として、光照射により分解してラジカルを発生するもの(以下、「ラジカル重合開始剤」という。)、及び光照射により分解してカチオンを発生するもの(以下、「カチオン重合開始剤」という。)が挙げられる。例えば、特開2008−201876号公報、特開2002−80581号公報、及び特開2003−202438号公報には、ラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤が詳細に開示されている。当該公報に開示されたラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤は、参照によって本願に取り込まれる。以下、ラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤を詳細に説明する。
【0030】
〔ラジカル重合開始剤〕
上記のラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0031】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、ラジカル重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系化合物が好ましい。より好ましくは、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドからなる群より選択される1種以上である。さらに好ましくは2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、のうち少なくともいずれかである。かかる場合、優れた内部硬化性を示す。
【0033】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)が挙げられる。
【0034】
〔カチオン重合開始剤〕
カチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、下記一般式(2)で表される構造を有するオニウム塩を挙げることができる。
【0035】
[化2]
[R12a13b14c15dW]m+[MX(n+m)m- ・・・(2)
式中、WはS原子、Se原子、Te原子、P原子、As原子、Sb原子、Bi原子、O原子、ハロゲン原子(例えばI原子、Br原子、Cl原子)、又は、−N+≡N(ジアゾ)である。R12、R13、R14及びR15は同一または異なる有機基である。a、b、c及びdはそれぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。他方、Mは、ハロゲン化物錯体[MX(n+m)]の中心原子を構成する金属原子またはメタロイド原子であり、特に限定されないが、例えば、B原子、P原子、As原子、Sb原子、Fe原子、Sn原子、Bi原子、Al原子、Ca原子、In原子、Ti原子、Zn原子、Sc原子、V原子、Cr原子、Mn原子又はCo原子である。Xはハロゲン原子であれば特に限定されないが、例えば、F原子、Cl原子又はBr原子であり、mはハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷であり、nはMの原子価である。
【0036】
ここで、上記オニウム塩は、光を受けることによりルイス酸を放出する化合物である。
【0037】
一般式(2)における、カチオンであるオニウムイオン(R12a13b14c15dW)の具体例として、特に限定されないが、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル]スルフィド、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル]スルフィド、η5−2,4−(シクロペンタジェニル)[1,2,3,4,5,6−η)−(メチルエチル)−ベンゼン]−鉄(1+)が挙げられる。
【0038】
一般式(2)における陰イオン(MX(n+m))の具体例として、特に限定されないが、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6-)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6-)が挙げられる。
【0039】
上記のオニウム塩として、一般式(2)において、[MX(n+m)]の代わりに下記一般式(3)で表される陰イオン、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリフルオロメタンスルフォン酸イオン(CF3SO3-)、フルオロスルフォン酸イオン(FSO3-)、トルエンスルフォン酸イオン、トリニトロベンゼンスルフォン酸イオン、トリニトロトルエンスルフォン酸イオン等の他の陰イオンを有するオニウム塩が挙げられる。
【0040】
[化3]
[MXn(OH)-] ・・・(3)
ここで、式中、M、X及びnは、それぞれ一般式(2)に示したもの同義である。
【0041】
カチオン重合開始剤の市販品として、特に限定されないが、例えば、UVI−6950、UVI−6970、UVI−6974、UVI−6990(以上、ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製)、アデカオプトマーSP−150、SP−151、SP−170、SP−171(以上、旭電化工業社(ADEKA CORPORATION)製)、Irgacure 261(以上、チバガイギー社(Nihon Ciba-Geigy K.K)製)、CI−2481、CI−2624、CI−2639、CI−2064(以上、日本曹達社(Nippon Soda Co., Ltd.)製)、CD−1010、CD−1011、CD−1012(以上、サートマー社(Sartomer Company Inc.)製)、DTS−102、DTS−103、NAT−103、NDS−103、TPS−102、TPS−103、MDS−103、MPI−103、BBI−101、BBI−102、BBI−103(以上、みどり化学社(Midori Kagaku Co.,Ltd.)製)、Degacure K126(デグサ社(Degussa AG)製)が挙げられる。
【0042】
上記の光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の光重合開始剤の含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、1〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜10質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性及び硬化性の点で十分な性能が発現する。
【0043】
[酸化防止剤]
本実施形態のクリアインク組成物に含まれる酸化防止剤は、加熱硬化時に発生する過酸化物ラジカル物質の発生を抑制することにより、クリアインク組成物、及び当該組成物を硬化させた硬化膜の加温による黄変を抑制する。
【0044】
〔リン系酸化防止剤〕
上記の観点より、上記酸化防止剤はリン系酸化防止剤を含有する。
【0045】
上記リン系酸化防止剤として、特に限定されないが、例えば、アルキル基及びフェニル基のうち少なくともいずれかを有する、ホスファイト、ジホスファイト又はトリホスファイトが挙げられる。
【0046】
上記の具体例として、特に限定されないが、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト、4つのアルキル基が互いに同一でも異なっていてもよい炭素数12〜15のアルキル基であるテトラアルキル−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(以下、「テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト」という。)、トリデシルホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノオクチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4−イソプロピリデン−ジフェノールアルキルホスファイト、3つのアルキルフェニル基がそれぞれ独立にノニルフェニル基又はジノニルフェニル基であるトリス(アルキルフェニル)ホスファイト(以下、「トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト」という。)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニル−ビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、テトラトリデシル−4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)−ジ−ホスファイト、ヘキサトリデシル1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、及び9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドが挙げられる。
【0047】
好ましいリン系酸化防止剤は、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリデシルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノオクチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、及びトリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイトからなる群より選択される1種以上である。中でも、より好ましいリン系酸化防止剤は、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルモノオクチルホスファイト、及びトリフェニルホスファイトからなる群より選択される1種以上である。中でも、さらに好ましいリン系酸化防止剤はトリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイトである。
【0048】
これらのリン系酸化防止剤の市販品としては、例えば、アデカスタブ 260(商品名、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト)、アデカスタブ 522A(商品名、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト)、アデカスタブ 1500(商品名、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト)、アデカスタブ 3010(商品名、トリデシルホスファイト)、アデカスタブ 135A(商品名、ジフェニルモノデシルホスファイト)、アデカスタブ C(商品名、ジフェニルモノオクチルホスファイト)、アデカスタブ TPP(商品名、トリフェニルホスファイト)、アデカスタブ 1178(商品名、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト)、及びアデカスタブ 329K(商品名、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト)(以上、旭電化工業社(ADEKA CORPORATION)製)が挙げられる。
【0049】
これらの成分を使用した場合、相互に同等レベルでクリアインクの黄変を抑制することができる。
【0050】
リン系酸化防止剤の上述以外の市販品としては、特に限定されないが、例えば、IRGAFOS 126、IRGAFOS 38、IRGAFOS P−EPQ、IRGAFOS P−EPQ FF、IRGAFOS P−EPQ FD(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.)製)、スミライザーTNP、スミライザーTPP−R、スミライザーP−16(以上、住友化学社(Sumitomo Chemical Co., Ltd)製)、アデカスタブPEP−2、アデカスタブPEP−4C、アデカスタブPEP−8、アデカスタブPEP−8F、アデカスタブPEP−8W、アデカスタブPEP−11C、アデカスタブPEP−24G、アデカスタブPEP−36、アデカスタブHP−10、アデカスタブ2112、アデカスタブP、アデカスタブQL、アデカスタブ517(以上、ADEKA CORPORATION製)、HCA(三光社(SANKO Co., Ltd)製)が挙げられる。
【0051】
上記リン系酸化防止剤の含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である。含有量が0.1質量%以上であると、加温時の黄変を効果的に抑制できる。一方、含有量が5質量%以下であると、リン系酸化防止剤がラジカル重合の際に生じるラジカルを殆ど捕捉しないため、ラジカル重合が十分進行し、結果としてインクの硬化性が優れたものとなる。また、上記リン系酸化防止剤の含有量は、上記と同様の観点から、クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜3質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。
【0052】
〔フェノール系酸化防止剤〕
クリアインク組成物、及び当該組成物を硬化させた硬化膜の加熱硬化による黄変を一層効果的に抑制するため、上記の酸化防止剤はフェノール系酸化防止剤をさらに含有することが好ましい。つまり、本実施形態における酸化防止剤は、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の組み合わせが好ましい。
このように、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を併用することにより、相乗効果が得られる。このメカニズムを説明すると、JETI,VoL.47,No.5(1999)に記載されているように、フェノール系酸化防止剤が捕捉した過酸化物を、リン系酸化防止剤がさらに安定化させるというものである。
【0053】
上記フェノール系酸化防止剤として、特に限定されないが、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレネーテットフェノール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アセテート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。
【0054】
好ましいフェノール系酸化防止剤は、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。かかる成分を使用した場合、保存安定性及び硬化性の点で十分な性能が発現する。
【0055】
フェノール系酸化防止剤の市販品として、特に限定されないが、例えば、IRGANOX 1010、IRGANOX 1520L(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)が挙げられる。
【0056】
上記フェノール系酸化防止剤の含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、保存安定性及び硬化性の点で十分な性能が発現する。
【0057】
〔上記以外の酸化防止剤〕
上記の酸化防止剤は、リン系及びフェノール系以外のものを含有してもよい。かかる酸化防止剤として、特に限定されないが、例えば、アミン系及び硫黄系が挙げられる。
【0058】
本実施形態における酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記酸化防止剤のうちリン系及びフェノール系以外の酸化防止剤の含有量は、クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜3質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性及び硬化性の点で十分な性能が発現する。
【0059】
[上記以外に含まれ得る成分]
本実施形態のクリアインク組成物は、上記の光重合性化合物、光重合開始剤及び酸化防止剤以外の成分を含んでもよい。かかる成分として、特に限定されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、表面調整剤(界面活性剤)、重合禁止剤、定着剤、防黴剤及び防腐剤が挙げられる。
続いて、以下では本実施形態に係るクリアインク組成物の物性を詳細に説明する。
【0060】
[クリアインク組成物の物性]
〔クリアインク組成物の色差〕
本明細書におけるクリアインク組成物の色差(ΔE)の算出方法は、後述する実施例において用いた方法を採用する。60℃で1週間保管した後のΔEとして、0以上50未満が好ましく、0以上20未満がより好ましい。ΔEが上記範囲内であるクリアインク組成物を塗装に用いた場合、人物写真などの美観を高めることができる。
【0061】
〔クリアインク組成物の硬化性〕
本明細書における硬化性は、後述の実施例において示したように、インク塗装を綿棒で擦り、擦過痕が付かなくなるまでに要する照射時間(タックフリー)により評価する。
【0062】
詳細にいえば、フィルム(#125−E20)に膜厚10μmとなるようにクリアインク組成物を塗布し、ピーク波長395nm、照度70mW/cm2のLED Firefly(Phoseon社製)を照射して、クリアインク組成物を硬化させる。こうして、クリアインク組成物が硬化した塗膜が得られる。そして、荷重100gをかけながら綿棒(Jhonson and Jhonson社製)で上記塗膜を擦り、擦過痕が着かなくなるまでに要する照射時間を測定する。
【0063】
クリアインク組成物の硬化性として、好ましくはタックフリーになる時間が60秒未満であり、より好ましくはタックフリーになる時間が30秒未満である。
【0064】
以上のように、本実施形態は、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いクリアインク組成物を提供することができる。
【0065】
[クリアインク組成物の用途]
本実施形態のクリアインク組成物は、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いため、優れた審美性が要求される人物写真用、塗膜保護用やマット調用のクリア塗料として用いることができる。これらの中でも、クリアインク組成物は、人物写真用のクリア塗料として用いることが好ましい。
【0066】
[硬化膜の物性]
本発明の他の実施形態に係る硬化膜は、上記クリアインク組成物を硬化させることによって得られる。
〔硬化膜の色差〕
本明細書における硬化膜の色差(ΔE)の算出方法は、後述する実施例において用いた方法を採用する。60℃で1週間保管した後のΔEとして、1.0未満が好ましく、0.5未満がより好ましい。ΔEが上記範囲内である硬化膜を塗膜とすることにより、人物写真などの美観を高めることができる。
【0067】
[インクジェット記録方法]
上記の実施形態に係るクリアインク組成物は、インクジェット記録用として使用されることが好ましい。即ち、本発明の他の実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、被記録媒体上に、上記クリアインク組成物を吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、上記インク組成物を硬化する硬化工程とを含む。このようにして、被記録媒体上で硬化したインク組成物により、塗膜が形成される。
なお、インクジェット記録方法に関する以下の説明においては、クリアインク組成物及び他の色のインク組成物を、単に「インク組成物」と称する。
【0068】
〔吐出工程〕
上記吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インク組成物の吐出は、インク組成物の粘度を所定値まで下げた後にインク組成物を所定温度に加熱することによって行うのが好ましい。上記所定値は、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以下である。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0069】
上記のインク組成物のような放射線硬化型インク組成物は、通常のインクジェット記録用インクで使用される水性インク組成物より粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。かかるインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。従って、吐出時のインクの温度はできるだけ一定に保つことが好ましい。
【0070】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出されたインク組成物が、活性放射線を照射することによって硬化する。これは、インク組成物に含まれる重合開始剤が活性放射線の照射により分解して、ラジカル、酸及び塩基などの開始種を発生し、ラジカル重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進されるためである。このとき、インク組成物において重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0071】
ここで、上記の活性放射線としては、上述のとおり、α線、β線、γ線、電子線、X線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられ、好ましくは紫外線(UV)である。
【0072】
活性放射線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線硬化型インクジェット記録用インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、LED(UV−LED)及びLD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0073】
また、発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)を活性放射線源として用いることが可能である。特に、紫外線源を要する場合、紫外LED及び紫外LDを使用することができる。
【0074】
このようにして、上記実施形態のクリアインク組成物を含むインク組成物は、活性放射線の照射により高感度で硬化することで、被記録媒体の表面に画像を形成することができる。
【実施例】
【0075】
以下、上記の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示す通りである。
〔光重合性化合物〕
・トリプロピレングリコールジアクリレート(V#310HP、大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製)
・N−ビニルカプロラクタム(ビニルカプロラクタム(製品名)、BASF社製)
・ジプロピレングリコールジアクリレート(APG100、新中村化学工業社(Shin Nakamura Chemical Co., Ltd.)製)
〔光重合開始剤〕
・Darocure TPO(チバスペシャルティーケミカルズ社製)
・Irgacure 819(チバスペシャルティーケミカルズ社製)
〔界面活性剤〕
・BYK3500(ビッグケミー・ジャパン社製)
〔重合禁止剤〕
・Irgastab UV22(チバスペシャルティーケミカルズ社製)
【0077】
〔ヒンダードアミン光安定剤〕
・TINUVIN 123(チバスペシャルティーケミカルズ社製)
〔酸化防止剤〕
(フェノール系)
・Irganox 1520L(チバスペシャルティーケミカルズ社製)
(リン系)
・ADEKASTAB 329K(ADEKA CORPORATION製)
・ADEKASTAB C(ADEKA CORPORATION製)
・ADEKASTAB TPP(ADEKA CORPORATION製)
【0078】
[測定方法及び評価]
(1.クリアインク組成物の黄変)
クリアインク組成物の加温前後の色相を、分光光度計(U−3300、日立社製)を用いて測定し、色差を算出した。加温放置は、30ccスクリュー管にクリアインク組成物を30g添加し蓋を閉めた後、60℃に保持した恒温槽に1週間放置することにより行った。評価基準は以下の通りである。
A:ΔEが0以上20未満、
B:ΔEが20以上50未満、
C:ΔEが50以上。
【0079】
(2.硬化膜の黄変)
基板(サブストレート#125−E20)に膜厚10μmとなるようにクリアインク組成物をバーコーターで塗装し、メタルハライドランプで硬化させた。得られた塗膜の加温前後の色相をSpcetrolino(GretagMacbeth社製)により測定し、色差を算出した。加温放置は、60℃に保持した恒温槽に1週間放置することにより行った。評価基準は以下の通りである。
A:ΔEが0以上0.5未満、
B:ΔEが0.5以上1.0未満、
C:ΔEが1.0以上。
【0080】
(3.硬化性)
フィルム(ルミラーS10)に膜厚10μmとなるようにクリアインク組成物を塗布し、波長400nm、照度70mW/cm2のLED Firefly(Phoseon社製)を照射して、クリアインク組成物を硬化させ塗膜を得た。塗膜を綿棒で擦り、擦過痕が付かなくなるまでに要する照射時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
A:照射時間が30秒未満、
B:照射時間が30秒以上60秒未満、
C:照射時間が60秒以上。
【0081】
[実施例1〜6、比較例1〜6]
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、これを撹拌することにより、UV硬化性クリアインク組成物を得た。評価結果を下記表1に示す。なお、表中の空欄部分は無添加を意味する。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示した結果より、N−ビニルカプロラクタム、光重合開始剤、及び所定量のリン系酸化防止剤を含むクリアインク組成物が、硬化性に優れ、かつ加温時に黄変し難いことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性化合物と、光重合開始剤と、酸化防止剤と、を含むクリアインク組成物であって、
前記光重合性化合物はN−ビニルカプロラクタムを含有し、
前記酸化防止剤はリン系酸化防止剤を含有し、
前記リン系酸化防止剤の含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である、クリアインク組成物。
【請求項2】
前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤をさらに含有する、請求項1に記載のクリアインク組成物。
【請求項3】
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、0.1〜5質量%である、請求項2に記載のクリアインク組成物。
【請求項4】
前記リン系酸化防止剤は、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリデシルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノオクチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、及びトリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイトからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリアインク組成物。
【請求項5】
前記光重合開始剤は、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクリアインク組成物。
【請求項6】
前記N−ビニルカプロラクタムの含有量が、該クリアインク組成物の総量に対し、1〜20質量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のクリアインク組成物。
【請求項7】
インクジェット記録用である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のクリアインク組成物。

【公開番号】特開2011−194573(P2011−194573A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60337(P2010−60337)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】