説明

クリアインク組成物

【課題】各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、経過後の印字安定性にも優れるクリアインク組成物を提供する。
【解決手段】難水溶性のアルカンジオールと、難水溶性のアルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子と、フルオレン樹脂とを含んでなり、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、クリアインク組成物に関し、より詳細には、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、かつ経過後の印字安定性にも優れるクリアインク組成物に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録方法は、インク小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで銀塩写真やオフセット印刷によってのみ実現されてきた高精細印刷の分野にまでインクジェット記録方法が用いられるようになっている。それに伴い、銀塩写真やオフセット印刷の分野で用いられてきた印画紙やアート紙等に匹敵する高光沢性の記録媒体、いわゆる専用紙をインクジェット記録に使用して、銀塩写真並の光沢感を有する画像を実現できるインクジェット記録用のインクが開発されている。また、普通紙を用いた場合であっても、銀塩写真並の画質を実現できるインクジェット記録用のインクが開発されている。
【0003】
また、高品質の画像を実現するために、インク組成物と共に、着色剤を含まないクリア組成物を記録媒体に付着させて記録を行うことが提案されている。例えば、特開2003−335058号公報(特許文献1)には、着色剤を含むインク組成物により画像を形成し、その画像上にクリアインク組成物を付着させることが提案されている。
【0004】
ところで、近年、デジタルデータからの画像形成技術が普及したことに伴い、特に印刷分野では、デスクトップパブリッシング(DTP)が普及しつつある。DTPにより印刷を行う場合であっても、実際の印刷物との光沢感や色感を確認するために、事前に色校正用プルーフを作製することが行われている。このプルーフの出力に、インクジェット記録方式を適用することが行われており、DTPにおいては印刷物の色再現、安定性再現が求められることから、記録媒体として、通常、インクジェット記録用の専用紙が使用されている。
【0005】
インクジェット記録用の専用紙は、印刷本紙に実際に印刷した出力物と光沢感や色感が同じになるように作製されている。このように、印刷本紙の種類に応じて専用紙の材質が適宜調整されているが、多種多様の印刷本紙に全て対応した専用紙を作製するのは製造コストの上昇を招く。そこで、色校正用途においては、専用紙よりも印刷本紙にインクジェット記録を行いたいとの要望がある。また専用紙を用いずに、直接印刷本紙にインクジェット記録を行ったものを最終校正見本とできれば、校正にかかるコストを大幅に低減できると考えられる。また、印刷分野で広く使用されている、ポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂に無機フィラー等を混合してフィルム化した合成紙は、リサイクル性に優れ、環境に優しい材料として近年注目されている。
【0006】
印刷本紙は、その表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙であるが、塗工層のインク吸収能力が乏しいという特徴を有する。そのため、インクジェット記録に一般的に用いられている水性の顔料インクを使用すると、記録媒体(印刷本紙)へのインクの浸透性が低く、画像に滲みや凝集むらが生じる場合がある。
【0007】
上記の問題に対し、例えば、特開2005−194500号公報(特許文献2)には、界面活性剤としてポリシロキサン化合物を用い、溶解助剤として1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオールを添加することにより、滲みが改善され、かつ専用紙に対する光沢性にも優れる顔料系インクが開示されている。また、特開2003−213179号公報(特許文献3)、特開2003−253167号公報(特許文献4)、および特開2006−249429号公報(特許文献5)には、グリセリンや1,3−ブタンジオール等のジオールやペンタントリオール等のトリオールアルコール溶剤をインク中に添加することにより、インクの記録媒体への浸透性を制御し、高品質な画像が得られることが提案されている。
【0008】
また、特開2009−209338号公報(特許文献6)には、吸水性の低い記録媒体において印刷斑のない高品質な記録物を得ることができる、着色剤と、水と、難水溶性のアルカンジオールと、水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、界面活性剤とを含むインク組成物が提案されている。また、特開2009−297924号公報(特許文献7)には、定着性に優れ、かつ印刷斑のない高品質な記録物を得ることができる、難水溶性のアルカンジオールと、水溶性アルコールと、水と、ポリマー微粒子とを少なくとも含んでなり、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物が提案されている。しかしながら、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、かつ経過後の印字安定性にも優れるインク組成物については、未だ希求されているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−335058号公報
【特許文献2】特開2005−194500号公報
【特許文献3】特開2003−213179号公報
【特許文献4】特開2003−253167号公報
【特許文献5】特開2006−249429号公報
【特許文献6】特開2009−209338号公報
【特許文献7】特開2009−297924号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、今般、難水溶性のアルカンジオールと、難水溶性のアルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコール(以下、単に「水溶性アルコール」という場合もある)と、水と、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子と、フルオレン樹脂とを含んでなり、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物とすることにより、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、かつ経過後の印字安定性にも優れるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、かつ経過後の印字安定性にも優れるクリアインク組成物を提供することである。
【0012】
そして、本発明によるクリアインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールと、難水溶性のアルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子と、フルオレン樹脂とを含んでなり、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物である。
【0013】
本発明によれば、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができ、かつ経過後の印字安定性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ポリオレフィンワックスを含むクリアインク組成物を被記録面へ吐着させて形成された吐着乾燥直後の記録画像の塗膜を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の塗膜表面に摩耗要因を付与した後の記録画像の塗膜を模式的に示す断面図である。
【発明の具体的説明】
【0015】
<定義>
本明細書において、アルカンジオールは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
【0016】
また、水溶性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。
【0017】
<クリアインク組成物>
本発明によるクリアインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールと、難水溶性のアルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子と、フルオレン樹脂とを含んでなり、かつ着色剤を含まないものである。このように、特定のアルコール成分を含むことにより、印刷本紙、とりわけインク吸収能力の比較的高い、アート紙、POD用途紙(例えば、リコー株式会社製のリコービジネスコートグロス100等)、レーザープリンタ専用紙(例えば、セイコーエプソン株式会社製、LPCCTA4等)において、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現でき、吐出安定性にも優れたインク組成物を実現できる。
【0018】
また、凝集とは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色(インクの色数のことではない)で印刷した際)に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、記録媒体表面または着色インク膜表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。また、白筋とは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色で印刷した際)に、局所的な同系色の色濃度斑がなく、記録ヘッドの駆動方向に、記録媒体の表面または着色インク膜表面がインクで被覆されない部分が筋上に残る現象を意味する。また、ザラツキ感または埋まり不良とは、上記と同様に面として印刷した際に、局所的な同系色の色濃度斑がなく、かつ記録媒体の表面がインクで被覆されない部分が残存し、記録媒体の表面または着色インク膜表面がざらざらとした粒状感がある現象を意味する。
【0019】
上記のように、特定のアルコール成分を含むことにより、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0020】
印刷本紙に記録する場合に発生するインクの凝集は、インクドットの表面張力が高く、印刷本紙表面とインク滴との接触角が高いために、印刷本紙がインクを弾いてしまうことが原因であると考えられる。低解像度記録した場合に白筋や埋まり不良が発生するような場合であっても、印刷本紙表面に付着したインクの表面張力を低減させると、インクの凝集は抑制される。
【0021】
また、低解像度記録における白筋や埋まり不良は、印刷本紙表面に付着したインクドットが隣接するインクドットと接触して、互いに濡れ広がり、相互に未乾燥のインクが流動することが原因であると考えられる。この相互のインク流動は、隣接するインクドットどうしの付着時間差や付着時の液滴の大きさなどによって、インクドットの乾燥時間が異なることによるものと考えられる。したがって、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現するためには、表面張力が低く、かつ流動性の低いインクを、印刷本紙に付着させることが好ましいと考えられる。
【0022】
ところが、インクの流動性を低減させるために浸透性湿潤剤を用いないと、印刷本紙表面に付着したインクドットの乾燥が速まり、また、インクの吸収も速まるため、付着したインクドット同士が濡れ広がる時間が失われ、その結果、低解像度記録において白筋や埋まり不良が発生するものと考えられる。
【0023】
難水溶性のアルカンジオール
本発明によるクリアインク組成物には、難水溶性のアルカンジオールが含まれる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、難水溶性のアルカンジオールは、片末端アルカンジオールである。また、本発明の好ましい態様によれば、難水溶性のアルカンジオールは、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールである。さらに好ましくは難水溶性の1,2−アルカンジオールであり、ビーディングをより効果的に抑制できる。難水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、または4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールがより好ましい。
【0025】
難水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、1.0〜4.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0質量%である。難水溶性のアルカンジオールのインク組成物への含有量が上記範囲内にあることで、特に下限を下回らずあることが、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において、印刷斑を防止する観点から好ましい。一方、上限を超えずにあることで、難水溶性のアルカンジオールをインク中に完全に溶解しないことを防止できる。
【0026】
水溶性アルコール
本発明によるクリアインク組成物には、特定の水溶性アルコールが含まれる。本発明による特定の水溶性アルコールは、難水溶性アルカンジオールを溶解させる溶解助剤として用いるものである。溶解助剤とは、例えば、20℃において凝集もしくは二相分離等の相溶性のない状態にある、1.2-オクタンジオール10質量%と、純水90質量%とからなる混合物10gに対して、前記水溶性アルコールを10g以下、後添加することによって、透明溶液もしくはコロイド分散状態に変化できるものを意味する。よって、水溶性アルコールであっても、例えば、グリセリンは該当しない。
【0027】
前記水溶性アルコールとしては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチル−1,5−ペンタントリオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、および4−メチル−1,2−ペンタンジオールからなる群から選択される一または二以上が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、15%水溶液とした場合の表面張力が28mN/m以下の水溶性アルカンジオールがより好ましく、印刷中の臭気の観点から、1,2−ヘキサンジオール(表面張力:26.7mN/m)およびジプロピレングリコールからなる群から選択される1種または2種が特に好ましく、1,2−ヘキサンジオールおよびジプロピレングリコールを両方含むことがより好ましい。
【0029】
前記水溶性アルコールは、インク組成物全体に対し、4.0〜20.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは7.0〜12.0質量%であり、さらに好ましくは4.0〜10.0質量%である。水溶性アルコールのインク組成物への含有量が上記範囲内にあることで、特に下限を下回らずあることが、難水溶性のアルカンジオールのインク中への溶解の観点から好ましい。一方、上限を超えずにあることが、インクの初期粘度の観点から好ましく、また各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、さらに定着性に優れる記録物を得ることができる。
【0030】
難水溶性のアルカンジオールと水溶性アルコールとの含有量比は、1:1〜1:20であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:6である。この範囲とすることにより、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、水溶性アルコールの割合が上記範囲にあることで、特に上限を超えずにあることが、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立の観点から好ましい。また、水溶性アルコールの割合が上記範囲にあることで、特に下限を下回らずあることが、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させるとの観点から好ましく、経過時の粘度変化抑制や保存安定性の維持の観点からも好ましい。
【0031】
ポリマー微粒子
本発明によるクリアインク組成物には、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子が含まれる。
【0032】
前記ポリオレフィンは、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンワックスが挙げられる。
【0033】
前記ポリオレフィンワックスは、インク組成物の被記録面への吐着により形成される膜の乾燥膜厚よりも大きい粒径を有するものであることが好ましい。インク膜よりも突出した粒子として被記録面に付着することにより、記録面に圧力がかかった際にポリオレフィンワックス粒子が自ら潰れて、インク膜最表面の滑りを良くすることができると考えられる。すなわち、クリアインク組成物が記録媒体に付着して乾燥すると、図1に示すように、インク塗膜2からポリオレフィンワックス粒子1が突出した状態となる。この状態で、記録画像に摩耗の原因となる外的要因の影響が与えられた場合、図2に示すように、ポリオレフィンワックス粒子1の突出部分が膜表面に広がる。この広がったワックスにより記録画像が摩耗を受けにくくなり、耐擦性が発現するものと考えられる。
【0034】
ポリオレフィンワックスの粒径は、定着性と経過後の印字安定性の観点では、76nm〜800nmが好ましく、とりわけ150nm以上、中でも150nm〜250nmであることが好ましい。なお、ポリオレフィンワックスの粒径とは、マイクロトラック法で測定した粒子直径(平均値)をいう。
【0035】
上記ポリオレフィンワックスは、インクの被記録面へ固着した膜に粒子として残留しやすい点で、その融点若しくは環球法軟化点(JIS K 2207)が110℃以上、特に110〜150℃であることが好ましい。
【0036】
また、ポリオレフィンワックスは、その針入度法硬度(JIS K 2207)が1以上であることが好ましく、より好ましくは2〜5である。
【0037】
ポリオレフィンワックスとしては、インク組成物を被記録面へ吐着させた際に形成される膜(記録画像等の塗膜)中において所定粒径の粒子の状態を保持し得る限り特に制限されるものではなく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造したワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等の単独または複数種が挙げられる。
【0038】
本発明によるポリオレフィンワックスは、図1に示すように、記録媒体上のインク膜において、造膜せずに、存在できる。理由は定かではないが、記録時の温度、乾燥時の温度、溶剤等の可塑効果を受けた後であっても、最低造膜温度(MFT)に至っていない為と考えられる。本発明によるポリオレフィンワックスの最低造膜温度(MFT)の好ましい範囲は、前記理由に拘束されるものではないが、20℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上である。このような、ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することも可能であり、その具体例として、「ケミパールW4005」(ポリエチレン系ワックス、粒径200nm〜800nm、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%、三井化学社製)等のケミパールシリーズを好適に用いることができる。なお、特開2003−201436号公報に記載されているポリオレフィンワックスも好適に使用することができる。
【0039】
前記ポリマー微粒子は、インク組成物全体に対し、固形分質量濃度で0.2〜2.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.2質量%であり、さらに好ましくは0.4〜1.0質量%である。ポリマー微粒子のインク組成物への含有量が上記範囲内にあることにより、特に上限を超えずにあることにより、さらに光沢性や発色性の観点から好ましい。また、ポリマー微粒子の含有量が上記範囲にあることで、特に下限を下回らずあることにより、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、さらに定着性に優れる記録物を得ることができる。
【0040】
フルオレン樹脂
本発明によるクリアインク組成物には、フルオレン樹脂が含まれる。
【0041】
前記フルオレン樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら限定されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(CAS No.4098−71−9)
2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビスエタノール(CAS No.117344−32−8)
3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸(CAS No.4767−03−7)
N,N−ジエチル−エタンアミン(CAS No.121−44−8)
【0042】
前記フルオレン樹脂は、インク組成物全体に対し、固形分質量濃度で1.0〜10.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは2.0〜10.0質量%であり、さらに好ましくは、2.0〜7.0質量%である。フルオレン樹脂の含有量が上記範囲にあることで、特に上限を上回らずあることにより、さらに目詰まり回復性に優れるインク組成物を得ることができる。また、フルオレン樹脂の含有量が上記範囲にあることで、特に下限を下回らずあることにより、さらに光沢感に優れるインク組成物を得ることができる。
【0043】
本発明によるポリオレフィンワックスは、図1に示すように、記録媒体上のインク膜において、造膜せずに、存在することから、拡散反射によって、光沢感が劣化する場合もあるが、フルオレン樹脂と共に用いることにより、光沢感の劣化を防止することができる。また、ポリオレフィンワックスを記録媒体に定着させるには、上記範囲のフルオレン樹脂が必要であり、フルオレン樹脂の高屈折率の特性から、着色インクの発色性も向上するので、より好ましい。
【0044】
フルオレン樹脂と、ポリマー微粒子との含有量比は、3:1〜30:1であることが好ましく、より好ましくは5:1〜16:1である。この範囲とすることにより、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、さらに定着性に優れ、かつ光沢性や発色性にさらに優れる記録物を得ることができる。
【0045】
界面活性剤
本発明によるクリアインク組成物は、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。記録媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の記録媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリード)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。なお、界面活性剤の本発明のクリアインク組成物への添加にあっては、動的表面張力が26mN/m以下となるように留意することが好ましい。動的表面張力は、例えば、バブルプレッシャー動的表面張力計BP2(KRUS社製)を用いて測定することができる。
【0046】
本発明において用いられる界面活性剤としては、オルガノポリシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。オルガノポリシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記したような二種類のアルコール溶剤を含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0047】
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、オルフィンPD−501(日信化学工業株式会社製)、オルフィンPD−570(日信化学工業株式会社製)、BYK−347(ビックケミー株式会社製)、BYK−348(ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
【0048】
また、オルガノポリシロキサン系界面活性剤として、下記式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜13の整数を表し、mは2〜70の整数を表し、nは1〜8の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(I)の化合物において、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜11の整数を表し、mは2〜50の整数を表し、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることが好ましく、または、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜8の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。あるいは、上記式(I)の化合物において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0〜4であり、nが1または2である一種または二種以上の化合物を含んでなることが好ましく、または、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数、であり、mが0であり、nが1である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のオルガノポリシロキサン系界面活性剤を使用することにより、記録媒体として印刷本紙に印刷した場合であっても、インクの凝集むらがより改善される。
【0049】
上記式(I)の化合物においては、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがより好ましい。このような化合物を使用することによって、より一層インクの凝集むらが改善できる。
【0050】
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、または、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0051】
また、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0052】
さらに、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが6〜12の整数、であり、mが0であり、nが1である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0053】
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0054】
さらに、上記の式(I)においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0であり、nが1である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0055】
前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤は、特に限定されないが、グリセリンを20質量%、1,2−ヘキサンジオールを10質量%、前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を0.1質量%、および水を69.9質量%含むインク組成物とした場合に、そのインク組成物の1Hzの動的表面張力が26mN/m以下のものを使用することが好ましい。動的表面張力は、例えば、バブルプレッシャー動的表面張力計BP2(KRUS社製)を用いて測定することができる。
【0056】
上記界面活性剤は、本発明によるクリアインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.50質量%含有される。また、Rがメチル基である上記界面活性剤と、Rが水素原子である上記界面活性剤を併用した方が、クリアインク組成物の液滴が記録媒体に付着したとき、ドット形状の滲みが抑制されることから、より好ましい。特に、Rがメチル基である上記界面活性剤を使用する場合は、RがHである上記界面活性剤を用いた場合よりも、含有量を多くすることが、インクの凝集斑の観点から、好ましい。
【0057】
さらに、Rがメチル基である上記界面活性剤に対して、RがHである上記界面活性剤の含有量を多くするほど、より好ましい。このようにすることで、キャストコート紙のような、インクを弾き易く、浸透速度が遅い、印刷本紙においても、インクの凝集斑と滲みを改善することができる。
【0058】
また、本発明において用いられる界面活性剤としては、ジェミニ型界面活性剤を好適に使用できる。上記の難水溶性のアルカンジオールと組み合わせてジェミニ型界面活性剤を用いることにより、難水溶性溶剤を均一に分散することができ、その結果、インクの初期粘度を低下させることができる。したがって、インク組成物中への色材の添加量や目詰まり防止剤等の添加量を高めることができ、ひいては、普通紙のみならず、表面にインクを受容するための樹脂や粒子がコーティングされた多孔質な表面を持つ記録媒体においても、優れた発色性を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリード)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生するドット間のインク流動による色濃度斑を防止することができる。この理由は定かではないが、ジェミニ型界面活性剤の優れた配向性によって、難水溶性溶剤と極めて安定なオイルゲルを形成する為に、着色剤の流動性がなくなると考えられる。よって、ジェミニ型界面活性剤の添加による効果は、難水溶性溶剤が多いほど享受できる。なお、「ジェミニ型界面活性剤」とは、二つの界面活性剤分子がリンカーを介して互いに結合した構造を有する界面活性剤を意味する。
【0059】
上記のジェミニ型界面活性剤は、一対の1鎖型界面活性剤の親水基部分を、親水性基を有するリンカーを介して互いに結合させた構造の、2鎖3親水基型界面活性剤であることが好ましい。また、上記の1鎖型界面活性剤の親水基部分が酸性アミノ酸残基であることが好ましく、上記リンカーは塩基性アミノ酸であることが好ましい。具体的には、親水基部分がグルタミン酸またはアスパラギン酸であるような一対の1鎖型界面活性剤を、アルギニン、リシン、またはヒスチジンのようなリンカーを介して結合させた構造の界面活性剤が挙げられる。上記のようなジェミニ型界面活性剤として、本発明においては、下記化学式(II):
【化2】

(式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子またはアルカリ金属を表すが、X、X、およびXの何れもが同時に水素原子またはアルカリ金属となることはなく、LおよびMは、それぞれ独立して0または2を表すが、LおよびMが同時に0または2となることはなく、NおよびPは、それぞれ独立して0または2を表すが、NおよびPが同時に0または2となることはなく、QおよびRは、8〜18の整数を表す)で表される界面活性剤を用いることが好ましい。
【0060】
上記式(II)において、アルカリ金属としてはNaが好ましく、またQおよびRは10程度が好ましい。このような化合物として、N−ラウロイル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物のナトリウム塩とが挙げられる。上記式で表される化合物は、市販されているものを用いてもよく、例えば、N−ラウロイル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物のナトリウム塩を30%含有した水溶液である、ペリセアL−30(旭化成ケミカルズ株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0061】
本発明においては、上記ジェミニ型界面活性剤を使用することにより、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。その結果、記録媒体として印刷本紙に印刷した場合であっても、インクの凝集むらがより改善される。また、本発明によるインク組成物は上記した難水溶性のアルカンジオールを含有するため、上記界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0062】
上記ジェミニ型界面活性剤は、本発明によるインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.50質量%含有される。
【0063】
本発明の好ましい態様によれば、上記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤と、上記ジェミニ型界面活性剤とを同時に含有することができる。この二種の界面活性剤を同時に本発明のインク組成物に含有することにより、さらにブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現でき、また顔料種や樹脂量により流動性が異なる場合の調整剤として効果的である。
【0064】
本発明によるクリアインク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
【0065】
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0066】
<水、その他の成分>
本発明によるクリアインク組成物は、上記した特定のアルコール溶剤、その他の各種添加剤を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0067】
また、本発明によるクリアインク組成物は、上記成分に加えて、浸透溶剤を含んでなることが好ましい。
【0068】
本明細書において、浸透溶剤とは、通常のインクジェット記録用インクに用いられている浸透溶剤を意味し、例えば、グリコールエーテル類が挙げられる。
【0069】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノールなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0070】
上記グリコールエーテル類の中でも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが好ましい。より好ましくは、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルである。
【0071】
上記浸透溶剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
【0072】
また、本発明によるクリアインク組成物は、上記成分に加えて、記録媒体溶解剤を含んでいてもよい。
【0073】
記録媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記記録媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
【0074】
また、本発明によるクリアインク組成物においては、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。湿潤剤は、インクジェットノズル等において、インクが乾燥して固化するのを防ぐ機能を有するものであるため、フィルムのインク吸収性能の低い合成紙にインクを滴下すると、インクが乾燥せず、高速印刷の際に問題となる場合がある。また、湿潤剤が含まれるインクを用いた場合、吸収されないインクが記録媒体表面に存在している状態で、次のインクが記録媒体上に付着するため、凝集斑が発生する場合がある。
【0075】
そのため、本発明においては、このようなインク吸収性能の低い記録媒体を用いる場合に、湿潤剤を実質的に含まない方が好ましい。なお、インクジェットノズルにおいてインクが乾燥固化してしまった場合であっても、湿潤剤を含む溶液を適用することにより、固化したインクを再溶解させることができる。
【0076】
特に、インク吸収性の低い合成紙等に適用する場合には、20℃において液体状態にある湿潤剤を、実質的に含まないことが好ましい。
【0077】
本明細書において湿潤剤とは、通常のインクジェット記録用インクに用いられている湿潤剤を意味し、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール等の炭素数3〜5の水溶性アルカンジオール類や、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン等である。これらの中でも、10Hz表面張力への影響の観点からは、グリセリンが好ましい。また、実質的に含まないとは、これら湿潤剤の添加量が、インク組成物に対して1質量%未満であることを意味する。なお、上記した浸透溶剤の一部は、湿潤剤としても作用することは、当業者にとって明らかであるが、本明細書においては、上記した浸透溶剤は、湿潤剤には含まれないものとする。
【0078】
本発明によるインク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
【0079】
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
【0080】
さらに、pH調整剤、溶解助剤、または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
【0081】
また、本発明によるクリアインク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin 328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
【0082】
インクセット
本発明によるインクセットは、上記したクリアインク組成物と、ブラックインク組成物と、イエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物とを少なくとも含むものである。このようなカラーインク組成物と上記のクリアインク組成物とを組み合わせて用いることにより、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ光沢性や発色性に優れる記録物を得ることができる。
【0083】
本発明の効果を享受するには、例えば、特開2009−209338号公報に記載のインク組成物と共に用いることが好ましい。特に好ましく用いられるブラックインク組成物の態様について以下説明する。
【0084】
ブラックインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本発明においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF-88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブラック6および/またはC.I.ピグメントブラック7を用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
【0085】
本発明によるインクセットに使用されるブラックインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6質量%以上であることが好ましい。
【0086】
本発明において好適に使用できるブラックインク組成物は、アルコール溶剤として、水溶性のアルコール溶剤と、難水溶性のアルコール溶剤との少なくとも二種類の有機溶剤を含む。これら二種類のアルコール溶剤を必須成分として含むことにより、印刷本紙、とりわけインク吸収能力の比較的高い、アート紙、POD用途紙(例えば、リコー株式会社製のリコービジネスコートグロス100等)、レーザープリンタ専用紙(例えば、セイコーエプソン株式会社製、LPCCTA4等)において、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる。
【0087】
本発明において使用される水溶性のアルコール溶剤は、特に限定されないが、水溶性のアルカンジオールを一種もしくは二種以上、または水溶性のアルカンジオールを一種もしくは二種以上と水溶性のアルカントリオールを一種もしくは二種以上とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0088】
前記水溶性のアルカンジオールは、主鎖の炭素数が4〜6のアルカンジオールを一種以上含んでなるものが好ましく、さらに好ましくは分岐鎖を有してもよい1,2−アルカンジオールと、分岐鎖を有してもよい1,3−アルカンジオールとを含んでなるものが好ましい。例えば、前記水溶性のアルカンジオールは、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。これらの中でも、15%水溶液とした場合の表面張力が28mN/m以下の水溶性のアルカンジオールがより好ましく、1,2−ヘキサンジオール(表面張力:26.7mN/m)、4−メチル1,2−ペンタンジオール(表面張力:25.4mN/m)、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール(表面張力:26.1mN/m)が特に好ましい。印刷中の臭気の観点からは、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0089】
前記水溶性のアルカントリオールは、グリセリンのような粘調性を示す物質である。また、前記水溶性のアルカントリオールはグリセリンよりも低い表面張力を示す浸透性潤滑剤である。例えば、10%水溶液とした場合の1,2,6−ヘキサントリオールの粘調性は、の表面張力が54mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の3−メチルペンタン−1,3,5―トリオール(東京化成工業社製、CAS:7564−64−9)は49mN/mである。
【0090】
また、前記水溶性のアルカントリオールとしては、主鎖の炭素数が5以上のアルカントリオールが好ましく、例えば、1,2,6−ヘキサントリオールまたは3−メチルペンタン−1,3,5―トリオール等が挙げられる。これらの中でも、特に、インクの間欠印字性の観点からは、1,2,6−ヘキサントリオールが好ましく、また、インクの定着性の観点からは、3−メチルペンタン−1,3,5―トリオールが好ましい。
【0091】
本発明において使用される難水溶性のアルコール溶剤は、アルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7以上のアルカンジオールであり、さらに好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールであり、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールはより好ましい。
【0092】
上記した二種類のアルコール溶剤において、難水溶性のアルコール溶剤と水溶性のアルコール溶剤との含有量比は、1:1〜1:6であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:3である。この範囲とすることにより、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、水溶性のアルコール溶剤の割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立が困難になる。また、水溶性のアルコール溶剤の割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。
【0093】
さらに、前記難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカンジオールとの含有量比は、1:1〜1:6であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:3である。この範囲とすることにより難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、前記水溶性のアルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立が困難になる。また、前記水溶性のアルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。
【0094】
また、難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカントリオールとの含有量は、1:1〜1:8であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:6である。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低下させることができ、かつ良好な目詰まり回復性を実現できる。一方、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、乾燥性が低下する。また、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも少ないと、目詰まり回復性が悪化し、乾燥性が高まるためインクの濡れ広がる時間を確保できなくなるため、記録媒体をインクが被覆できなくなり、白筋が発生しやすくなる。
【0095】
また、前記水溶性のアルカンジオールと前記水溶性のアルカントリオールとの含有量比は、2:1〜1:18であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙に低解像度で印刷した場合に、白筋やザラツキ感をより抑制することができる。一方、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、乾燥性が低下する。また、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも少ないと、目詰まり回復性が悪化し、乾燥性が高まるためインクの濡れ広がる時間を確保できなくなるため、記録媒体をインクが被覆できなくなり、白筋が発生しやすくなる。
【0096】
さらに、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と水溶性のアルコール溶剤との含有量の和が、インク組成物に対し、11質量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性にも優れる。
【0097】
また、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、11質量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性にも優れる。
【0098】
さらに、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と、前記水溶性のアルカントリオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、11質量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性やカール抑制が良好となる。
【0099】
一方、水溶性のアルコール溶剤は、インク組成物全体に対し、1〜11質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8質量%である。4質量%よりも少ないと、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に溶解させることができない場合がある。一方、8質量%を超えると、インクの初期粘度が高くなる場合があり好ましくない。
【0100】
難水溶性のアルコール溶剤は、インク組成物全体に対し、1〜3質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.5質量%である。1質量%よりも少ないと、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において、印刷斑が生じる場合がある。
【0101】
一方、3質量%を超えると、インク中に完全に溶解しない場合がある。
【0102】
水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、1〜11質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは3〜8質量%である。3質量%よりも少ないと、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に溶解させることができない場合がある。一方、8質量%を超えると、インクの初期粘度が高くなる場合があり好ましくない。
【0103】
水溶性のアルカントリオールは、インク組成物全体に対し、1〜11質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは3〜8質量%である。3質量%よりも少ないと、印刷本紙に低解像度で印刷した場合に、白筋やザラツキ感を生じる場合がある。一方、8質量%を超えると、印刷直後の印刷物の乾燥性が劣ることがある。
【0104】
ブラックインク組成物は、必須成分として界面活性剤を含む。記録媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の記録媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリード)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。界面活性剤としては、上記のクリアインク組成物に使用するものと同様のものを使用することができる。
【0105】
ブラックインク組成物には、顔料を分散させるための分散剤として、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含んでなることが好ましい。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0106】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
【0107】
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0108】
前記疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0109】
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0110】
これら共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0111】
また、本発明においては、顔料分散剤として、ウレタン樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本発明においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0112】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0113】
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0114】
前記ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0115】
また、本発明においては、顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。
【0116】
前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の質量比(前者/後者)は、1/2〜2/1が好ましいが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、1/1.5〜1.5/1であることが一層好ましい。
【0117】
前記顔料の固形分と、顔料以外の固形分と、の質量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/20〜100/80であることが好ましい。
【0118】
前記共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0119】
前記ウレタン樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0120】
前記フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜200質量部であり、一層好ましくは10〜80質量部である。
【0121】
前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の合計量は、前記顔料100質量部に対して、90質量部以下(さらに好ましくは70質量部以下)となるように用いられることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに光沢性に一層優れたカラー画像を形成できる点で好ましい。
【0122】
前記共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0123】
前記ウレタン樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
【0124】
前記共重合樹脂の質量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
【0125】
前記ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0126】
前記共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
【0127】
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0128】
前記共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0129】
また、前記フルオレン樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(CAS No.4098−71−9)
2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビスエタノール(CAS No.117344−32−8)
3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸(CAS No.4767−03−7)
N,N−ジエチル−エタンアミン(CAS No.121−44−8)
【0130】
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記した界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
【0131】
また、水、その他の成分も、上記したクリアインク組成物と同様のものを使用することができる。
【0132】
本発明において、好適に使用できるイエローインク組成物は、顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、129、および147からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。特に、C.I.ピグメントイエロー74および129を混合して用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
【0133】
本発明によるインクセットに使用されるイエローインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6質量%以上であることが好ましい。
【0134】
マゼンタインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
【0135】
本発明によるインクセットに使用されるマゼンタインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。特に、γ型C.I.ピグメントバイオレット19およびC.I.ピグメントレッド202の固溶体を顔料として用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
【0136】
ここで、「γ型C.I.ピグメントバイオレット19およびC.I.ピグメントレッド202の固溶体」とは、γ型C.I.ピグメントバイオレット19と、C.I.ピグメントレッド202とが固体で互いに溶けた状態をなす結晶を意味する。
【0137】
上記固溶体のγ型C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド202との量比は本発明の範囲内で適宜調整できるが、γ型C.I.ピグメントバイオレット19の質量がC.I.ピグメントレッド202の質量よりも大きいことが好ましい。
【0138】
本発明によるインクセットに使用されるマゼンタインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6質量%以上であることが好ましい。
【0139】
マゼンタインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
【0140】
本発明によるインクセットに使用されるシアンインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
【0141】
本発明によるインクセットに使用されるシアンインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6質量%以上であることが好ましい。
【0142】
シアンインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
【0143】
インクジェット記録方法
本発明によるインクジェット記録方法は、インク組成物として、上記のクリアインク組成物と、イエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物とを少なくとも用い、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うことができる。
【0144】
インク液滴の記録媒体への付着順序としては、ブラックインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、またはイエローインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させた後、クリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させてもよく、逆にクリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させた後、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させてもよい。さらに、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴と、クリアインク組成物の液滴とを、実質的に同時に記録媒体に付着させてもよい。
【0145】
これらの付着順序の中でも、ブラックインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、またはイエローインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させた後、クリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させること、またはブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴と、クリアインク組成物の液滴とを、実質的に同時に記録媒体に付着させることが好ましい。さらに好ましくは、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させた後、クリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させることが好ましい。ここで、実質的に同時とは、プリンタの同一のヘッド内で、異なるノズル列から、同一駆動内で印刷することをいう。
【0146】
本発明による記録方法においては、記録媒体として合成紙や印刷本紙を用いることが好ましく、とりわけ、アート紙、POD(プリントオンデマンド)用途に用いられる高画質用紙およびレーザープリンタ用の専用紙において、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる。POD用途の高画質用紙としては、例えば、リコービジネスコートグロス100(リコー株式会社製)等が挙げられる。また、レーザープリンタ用の専用紙としては、例えばLPCCTA4(セイコーエプソン株式会社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0147】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0148】
<クリアインク組成物>
下記表1の組成に従い各成分を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インクを調製した。下記表1中の数値はインク中の含有量(質量%)を表す。表1中、
フルオレン系樹脂(フルオレン樹脂)は、CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーをモノマー構成比率略50質量%含有する、分子量3300の樹脂である。
スチレン−アクリル系樹脂は、分子量1600、酸価150の共重合体である。
AQUACER515は、ポリエチレン系ワックス、粒径100〜200nm、融点130℃、固形分30%であるビックケミージャパン(株)製を使用し、
スルホン酸エステル樹脂は、以下に記載のとおり調製した。
ケミパールW4005は、ポリエチレン系ワックス、粒径200nm〜800nm、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%である三井化学社製を使用した。
オルフィンE1010は、日信化学工業(株)製を使用した。
【0149】
なお、表中の界面活性剤Xは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物からなる界面活性剤である。
【0150】
また、界面活性剤Yは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物からなる界面活性剤である。
【0151】
また、界面活性剤Zは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0であり、nが1である化合物からなる界面活性剤である。
【0152】
スルホン酸エステル樹脂の調製
下記の各成分を2リットルビ−カ−に仕込み、100rpmで10分間攪拌し、モノマー乳化液を得た。
エチレン性不飽和モノマー:メチルメタクリレート 348g(58部)
ブチルアクリレート 240g(40部)
アクリル酸 12g(2部)
反応性乳化剤:アクアロンKH−10の15%水溶液 30g
(第一工業製薬社製、硫酸エステル基およびポリオキシエチレン基を含有)
連鎖移動剤:2−エチルヘキシルチオグリコレート 6g
水: 450g
【0153】
次に、水520gおよび上記と同様の反応性乳化剤15%水溶液90gを、2Lセパラブルフラスコに投入し、180rpmで攪拌しながら60℃に昇温し、過硫酸アンモニウム2gを仕込んで70℃へ昇温した。
【0154】
この反応性乳化剤水溶液中に、重合温度75℃を維持したまま3時間かけて、上記で得られたモノマー乳化液を逐次添加して乳化重合を行った。その後、重合溶液を80℃に昇温して1時間熟成させた後、冷却した。次いで、重合溶液に10%アンモニア水溶液を添加して中和し、pHが7.3となるよう調整した。
【0155】
得られたスルホン酸エステル樹脂の平均粒子径造膜温度、および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、平均粒子径が50nmであり、造膜温度は15℃であり、Mw=45,000であった。なお、平均粒子径はPhotal PAR-III(大塚電子社製)を用いて測定し、造膜温度は造膜温度試験器(理学工業社製)を用いて測定した。また、重量平均分子量は、標準ポリスチレンを検量線として、GPC装置(SC8010(GPC)、東ソー社製)を用いて測定した。測定条件は以下の通りとした。
・溶離液:テトラヒドロフラン
・カラム:G4000HXL(東ソ−社製)
・流速 :1000μL/分
・カラム温度:40℃
【表1】

【0156】
<評価>
定着性の評価
インクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)の二つのインクカートリッジに参考例1のブラックインク組成物を充填し、プリンターの排紙側に向かって最も左の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)に装着した。また、クリアインク組成物(実施例1〜10、比較例1〜5のクリアインク組成物)を、二つのインクカートリッジに充填し、プリンターの排紙側に向かって左から3番目の列(市販商品においてはシアンインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはマットブラックインクカートリッジ装着位置)に装着した。まず、印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)にブラックインクを用いて、720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inchでベタ印刷を行い、1分以内に続いて、黒色ベタ印刷物上に、クリアインクを、720×720dpiの解像度、1ドット3ngのドット重量で1.0mg/inchでオーバーコートした後、常温で放置して5分間乾燥させた。その後、学振型摩擦堅牢試験機(AB−301 COLOR FASTNESS RUBBING TESTER、TESTER SANGYO.,LTD製)を用いて荷重500g×10回の試験を行なった。この印刷物についてスキャナで画像を取り込み、Photoshopで画像を2値化し定着面積率を算出した。評価基準は以下の通りとした。
なお、参考例1のインク組成物の評価については、上記ベタ印刷を行った後、常温で放置して乾燥させた後、同様に定着面積率を算出して、以下の評価基準により評価した。
S:印字面の定着面積率が95%以上である。
A:印字面の定着面積率が80%以上95%未満である。
B:印字面の定着面積率が50%以上80%未満である。
C:印字面の定着面積率が30%以上50%未満である。
D:印字面の定着面積率が30%未満である。
評価結果は、表2に示される通りであった。
【0157】
発色向上の評価
インクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)の二つのインクカートリッジに参考例1のブラックインク組成物を充填し、プリンターの排紙側に向かって最も左の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)に装着した。また、クリアインク組成物は、二つのインクカートリッジに充填し、プリンターの排紙側に向かって左から3番目の列(市販商品においてはシアンインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはマットブラックインクカートリッジ装着位置)に装着した。まず、印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、参考例1のブラックインクを用いて、720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inchでベタ印刷を行い、続いて、黒色ベタ印刷物上に、クリアインクを720×720dpiの解像度、1ドット3ngのドット重量で、1.0mg/inchでオーバーコートした後、常温で30分放置して乾燥させた。この印刷物について、グレタグ社製SPM50を用いて測定した。その結果を以下の基準で判断した。
A:クリアインクのオーバーコート前後でOD値が0.2以上向上する。
B:クリアインクのオーバーコート前後でOD値が0.1以上0.2未満向上する。
C:クリアインクのオーバーコート前後でOD値が0.1未満向上する。
評価結果は、表2に示される通りであった。
【0158】
経過後の印字安定性の評価
調製したクリアインクおよびブラックインクを、70℃の環境下で3日間放置した後、インクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、キャラクターパターンを連続で印刷した。その際に、印字開始から1 0 時間経過した時点における、ドット抜け及びインクの飛び散りの有無を観察した。その結果を以下の基準で判断した。
A : ドット抜け及びインクの飛び散り回数が、5 回以下であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
B : ドット抜け及びインクの飛び散り回数が、6 〜 1 0 回であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
C : ドット抜け及びインクの飛び散り回数が、6 〜 1 0 回であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復しなかった。
評価結果は、表2に示される通りであった。
【0159】
クリアインク自体の凝集斑の評価
印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、調製したクリアインクを720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inchでベタ印刷を行い常温で30分放置して乾燥させた。得られた記録物において、凝集斑の有無を目視により判別した。判別基準は以下の通りとした。
A:凝集斑および埋まり不良による筋斑がない。
B:凝集斑はないが、埋まり不良による筋斑がある。
C:凝集斑および埋まり不良による筋斑がある。
評価結果は、表2に示される通りであった。
【0160】
クリアインク自体の光沢向上の評価
印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、調製したクリアインクを720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inchでベタ印刷を行い常温で30分放置して乾燥させた。得られた記録物において、光沢度計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。判別基準は以下の通りとした。
A:白地に比べて光沢度が10以上向上する。
B:白地に比べて光沢度が5以上10未満向上する。
C:白地に比べて光沢度が5未満向上する。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0161】
目詰まり回復性の評価
上記のインクカートリッジおよびインクジェットプリンタを用い、インク交換ボタンを押してからコンセントを抜いた。このように、ヘッドキャップが外れた状態にしてからプリンタを40℃15%RHの環境に2日間放置した。放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価した。
A:クリーニング操作を3回繰り返して目詰まりが回復する。
B:クリーニング操作を3回繰り返して目詰まりが回復しない。
【0162】
【表2】

【0163】
印字後のインクの定着性
インクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)の二つのインクカートリッジに参考例1のブラックインク組成物を充填し、プリンターの排紙側に向かって最も左の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはイエローインクカートリッジ装着位置)に装着した。また、実施例2のクリアインク組成物は、二つのインクカートリッジに充填し、プリンターの排紙側に向かって左から3番目の列(市販商品においてはシアンインクカートリッジ装着位置)と、その右隣の列(市販商品においてはマットブラックインクカートリッジ装着位置)に装着した。
【0164】
連続印刷の場合
まず、印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)にブラックインクを用いて、720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inch2でベタ印刷を行い、1分以内に続いて、黒色ベタ印刷物上に、クリアインクを、720×720dpiの解像度、1ドット3ngのドット重量で1.0mg/inchでオーバーコートした後、常温で放置して乾燥させた。常温で放置乾燥させながら断続的に、学振型摩擦堅牢試験機(AB−301 COLOR FASTNESS RUBBING TESTER、TESTER SANGYO.,LTD製)を用いて荷重500g×10回の試験を行なった。この印刷物についてスキャナで画像を取り込み、Photoshopで画像を2値化し定着面積率を算出した。評価基準は以下の通りとした。
【0165】
同時印刷の場合
印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、参考例1のブラックインク組成物と実施例2のクリアインク組成物を720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で同時に印刷した。このとき、ブラックインクのインク付着量は、3mg/inchであり、クリアインクのインク付着量は、1.0mg/inchになるように記録画像ファイルを作成し、ヘッド駆動に合わせて、同時に印刷した。その後、常温で放置乾燥させながら断続的に、学振型摩擦堅牢試験機(AB−301 COLOR FASTNESS RUBBING TESTER、TESTER SANGYO.,LTD製)を用いて荷重500g×10回の試験を行なった。この印刷物についてスキャナで画像を取り込み、Photoshopで画像を2値化し定着面積率を算出した。評価基準は以下の通りとした。
【0166】
評価基準
S:印字面の定着面積率が95%以上である。
A:印字面の定着面積率が80%以上95%未満である。
B:印字面の定着面積率が50%以上80%未満である。
C:印字面の定着面積率が30%以上50%未満である。
D:印字面の定着面積率が30%未満である。
【0167】
評価結果を下記表3および表4に記載する。なお、表3の「クリアインク有」とは、ブラックインク付着の1分以内にクリアインクを付着した場合を表し、表4の「クリアインク有」とは、ブラックインク付着と同時にクリアインクを付着した場合を表し、表3および表4の「クリアインク無」とは、ブラックインクのみ付着した場合を表す。
【0168】
【表3】

【0169】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性のアルカンジオールと、難水溶性のアルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、少なくともポリオレフィンを含むポリマー微粒子と、フルオレン樹脂とを含んでなり、かつ着色剤を含まない、クリアインク組成物。
【請求項2】
前記難水溶性のアルカンジオールが、炭素数7以上のアルカンジオールである、請求項1に記載のクリアインク組成物。
【請求項3】
前記難水溶性のアルカンジオールが1,2−オクタンジオールである、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記水溶性アルコールが、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチル−1,5−ペンタントリオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、および4−メチル−1,2−ペンタンジオールからなる群から選択される一または二以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記フルオレン樹脂が、CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーをモノマー構成比率略50質量%含有するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィンがポリオレフィンワックスである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項7】
前記難水溶性アルカンジオールの含有量が、インク組成物全体に対して、2.0〜4.0質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項8】
前記水溶性アルコールの含有量が、インク組成物全体に対して、7.0〜12.0質量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項9】
前記難水溶性アルカンジオールと、前記水溶性アルコールとの含有量比が、1:1〜1:20である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項10】
前記フルオレン樹脂の含有量が、インク組成物全体に対して、2.0〜10.0質量%である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項11】
前記ポリマー微粒子の含有量が、インク組成物全体に対して、0.2〜1.2質量%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項12】
前記フルオレン樹脂と、前記ポリマー微粒子との含有量比が、3:1〜30:1である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項13】
界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項14】
前記界面活性剤が、インク組成物に対し、0.01〜1.0質量%含まれてなる、請求項13に記載のクリアインク組成物。
【請求項15】
前記界面活性剤が、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤および/またはジェミニ型界面活性剤である、請求項13または14に記載のクリアインク組成物。
【請求項16】
前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤が、下記式:
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜13の整数を表し、mは2〜70の整数を表し、nは1〜8の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなる、請求項15に記載のクリアインク組成物。
【請求項17】
前記ポリオルガノシロキサン系界面活性剤が、下記式:
【化2】

(式中、Rはメチル基を表し、aは6〜18の整数を表し、mは0〜4であり、nは1または2である。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなる、請求項15に記載のクリアインク組成物。
【請求項18】
ブラックインク組成物と、イエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物と、請求項1〜17のいずれか一項に記載のクリアインク組成物と含んでなる、インクセット。
【請求項19】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として、請求項18に記載のインクセットを用いる、インクジェット記録方法。
【請求項20】
ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させた後、クリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴と、クリアインク組成物の液滴とを、実質的に同時に記録媒体に付着させる、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252118(P2011−252118A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128206(P2010−128206)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】