説明

クリーニングブレード

【課題】球形トナーに対しても良好なクリーニング性能を有するクリーニングブレードを提供する。
【解決手段】静電転写プロセスを利用した画像形成装置に配置され、該画像形成装置が具備する感光ドラム上の残留トナーを摺擦して除去するための、ポリウレタンエラストマーからなるブレード部材を有するクリーニングブレードにおいて、前記ポリウレタンエラストマーが、下記(1)乃至(4)を満たしていることを特徴とするクリーニングブレード。
(1)引張り試験における100%モジュラスが3.0MPa以上5.0MPa以下
(2)引張り試験における破断時伸びが300%以下
(3)硬度が65°以上75°以下(IRHD)
(4)動的粘弾性試験におけるtanδのピーク温度が0℃以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ等の静電転写プロセスを利用した画像形成装置に用いられるクリーニングブレードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機やレーザービームプリンターは、感光ドラム上に形成された静電潜像上にトナーを付着させて、これを複写紙に転写させて複写や印字を行うものである。その転写後に感光ドラム上に残った残留トナーを除去する方法の一つにウレタンエラストマーからなるブレード部材と支持金具(ホルダー)からなるクリーニングブレードを用いる方式が実用化されている。
【0003】
従来、このブレード部材に用いられる材料としては、耐磨耗性等の機械的強度に優れ、かつクリープ性(当接応力による永久変形)の少ないポリエステル系ウレタンエラストストマー、中でも熱硬化性ウレタンエラストマーが用いられてきた。
【0004】
上記ウレタンエラストマーは、ポリイソシアネート、ポリオール、鎖延長剤および触媒を用い、プレポリマー法、セミワンショット法、ワンショット法等により製造される。
【0005】
例えば、プレポリマー法によりクリーニングブレードを製造する場合は、ポリイソシアネートとポリオールを用いてプレポリマーを調製し、このプレポリマーに鎖延長剤及び触媒を添加したのち、これを成形用の金型に注入して硬化させて製造される。
【0006】
クリーニングブレードにより感光ドラム上の残留トナーを完全に除去するためには、感光ドラム外周面上へのブレード部材の接触が、常に一定の状態に保たれている必要がある。そのため、クリーニングブレードと感光ドラムの位置関係を規制したり、支持金具をバネで加圧したりする方法が一般的に行われている。しかしながら、近年、電子写真複写機、レーザービームプリンターの高画質化に伴い、従来よりも粒径が小さく、球形のトナーが使用されるようになった。これに伴い、従来に比べトナーが、感光ドラムとブレード部材との間をすり抜け易くなり、クリーニング不良が発生し易くなっている。また、クリーニング不良は、ブレード部材に用いられているウレタンエラストマーのゴム性の低下により、低温環境下(0 ℃)でさらに悪化する傾向がある。電子写真複写機やレーザービームプリンターの普及に伴い、様々な環境で使用されるようになっている。
【0007】
そこで、球形トナーに対するクリーニング不良を防止する対策として、例えば感光ドラム表面にかかるブレードエッジ部の線圧を上昇させることが挙げられる。しかし、単なる線圧の上昇による対策では、ブレードエッジ部の磨耗またはブレードの当接によるドラムの磨耗が促進されたり、ブレードのビビリ振動による異音が発生したりする等の技術的問題がある。
【0008】
また、球形トナーと不定形トナーとを特定の割合で混合させて使用する方法(例えば、特許文献1,2)が提案されている。しかしながら、このような方法の場合であっても、球形トナーが不定形トナーの隙間をすり抜け、ブレードエッジ部に進みすり抜けることがあるため、球形トナーに対するクリーニング不良の改善は十分になされていない。
【特許文献1】特開平08−62893号公報
【特許文献2】特開平08−95286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、球形トナーに対しても良好なクリーニング性能を有するクリーニングブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、静電転写プロセスを利用した画像形成装置に配置され、該画像形成装置が具備する感光ドラム上の残留トナーを摺擦して除去するための、ポリウレタンエラストマーからなるブレード部材を有するクリーニングブレードにおいて、前記ポリウレタンエラストマーが、下記(1)乃至(4)を満たしていることを特徴とするクリーニングブレードである。
(1)引張り試験における100%モジュラスが3.0MPa以上5.0MPa以下
(2)引張り試験における破断時伸びが300%以下
(3)硬度が65°以上75°以下(IRHD)
(4)動的粘弾性試験におけるtanδのピーク温度が0℃以下
すなわち、本発明者らは、球形トナーに対しても良好なクリーニング性能を有するクリーニングブレードを得るため、種々の検討を行った。その過程において、球形トナーに対するクリーニング性能を表す指標として、引張り試験における100%モジュラスと破断時の伸び、硬度、tanδピーク温度が重要な指標となることを見出した。そして、これらを適切に設定することにより、所期の目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
引張り試験時の100%モジュラスが3.0MPa未満である場合、感光ドラム表面にかかるブレードエッジ部の線圧が不十分であり、トナーがすり抜け、クリーニング不良が発生し易くなり、またブレードエッジが変形しやすくなるため、欠けを生じ易くなる。5.0MPaを超える場合、感光ドラム表面にかかるブレードエッジの線圧が高くなり、ブレードエッジまたは感光ドラム表面の磨耗が発生しやすくなる。また、引張り試験時の破断時伸びが300%を超える場合、感光ドラムとの摺擦によるブレードエッジの欠けが生じた際、欠けが大きくなり易く、クリーニング不良の発生原因となる。
【0012】
硬度が65°(IRHD)未満の場合、ブレードエッジがやわらかくトナーがすり抜けやすい。硬度が75°(IRHD)を超える場合、ブレードエッジが固くなりすぎ、感光ドラムの磨耗が速くなる。
【0013】
動的粘弾性試験におけるtanδピーク温度が、0℃より大きい場合、低温(0〜10℃)環境下において、ウレタンエラストマーのゴム性が減少し、ドラムに対して均一に当接できなくなるため、クリーニング不良が発生しやすくなる。
【0014】
また、前記ポリウレタンエラストマーが下記(A)から(E)の材料を含有し、且つ下記式(I)で算出される(A)ポリイソシアネートの濃度が1.00ミリモル/g以上、1.15ミリモル/g以下であることを特徴とするクリーニングブレードである。
(A)ポリイソシアネート
(B)数平均分子量が2000以上、4000以下のポリオール
(C)分子量が200以下の鎖延長剤
(D)数平均分子量が200より大きく、2000より小さいポリオール
(E)硬化用触媒
(A)ポリイソシアネートの濃度(ミリモル/g)
=Wiso/(Mniso×Wall)×1000 (I)
(ただし、式(I)中、Wisoは(A)ポリイソシアネートの仕込み量(g)、Mnisoは(A)ポリイソシアネートの数平均分子量、Wallは(A)から(E)の材料の合計質量(g)を表す)。
【0015】
ブレード部材を製造する場合、所定の量に調整、混合されたウレタンエラストマー用の原料を成形用の金型に注入し、硬化させて製造される。ここで、金型に注入してから硬化・脱型するまでの時間、すなわち硬化時間は、製造効率に大きく影響する。硬化時間が長ければ、金型数を増やさなければならず、膨大な投資が必要となる。このため、硬化時間を短縮しようと様々な検討がなされている。
【0016】
そこで、硬化時間を短縮するために、ウレタン硬化用の触媒を増量することが挙げられる。しかし、金型内にウレタンエラストマー用の原料が行き渡らなかったり、また、数平均分子量が2000〜4000のポリオールと分子量200以下の鎖延長剤とを組み合わせて用いると、分子量が大きく違うことから反応が不均一になりやすかったりする。その結果、成形品のゆがみ、収縮ムラに起因する表面模様が発生したりするという問題があった。そこで、上記(A)〜(E)を含有するポリウレタン原料組成物を用いることにより、金型への流れ性がよく、収縮ムラに起因する表面模様が発生しないため、生産効率を高めることができる。ここで、ポリウレタンエラストマーを構成するポリエステルポリオールを少なくとも2種類以上にすることによって、ポリウレタンエラストマーのソフトセグメントの結晶性を低下させ、tanδのピーク温度を低温化することができる。
【0017】
また、(A)ポリイソシアネートの濃度が1.00ミリモル/g未満であると、ポリウレタンエラストマー中のハードセグメント量が少なくなり軟らかくなるため、上記条件(1)〜(4)を満たさなくなる場合がある。一方、(A)ポリイソシアネート濃度が1.30ミリモル/gを超えると、ポリウレタンエラストマー中のハードセグメント量が多くなり過ぎ、硬くなるため、上記条件(1)〜(4)の物性を満たさなくなる場合がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、球形トナーに対しても良好なクリーニング性能を有するクリーニングブレードを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のクリーニングブレードは、ポリイソシアネート、ポリオール、鎖延長剤およびウレタン硬化用触媒を含有する液状組成物を、支持部材を配置したクリーニングブレード用成形型に注入し硬化させ、脱型した後所定の寸法に切断して作製することができる。
【0020】
上記ポリイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましいが、特に制限されるものではなく以下のポリイソシアネートも使用できる。例えば、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルジイソシネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジイソシアネート、ポリメチレンフェニルポリイソシアネート、オルトトルイジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、ジメチルジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0021】
上記ポリイソシアネートとともに用いられるポリオールとしては、特に制限されるものではなく、例えば従来公知のポリオールを使用できる。具体例としては、ポリエチレンアジペートポリエステルポリオール、ポリブチレンアジペートポリエステルポリオール、ポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオール、ポリエチレン−プロピレンアジペートポリエステルポリオール、ポリエチレン−ブチレンアジペートポリエステルポリオール、ポリエチレン−ネオペンチレンアジペートポリエステルポリオールなどのアジペート系ポリエステルポリオールなどが挙げられる。また、カプロラクトンを開環重合して得られるポリカプロラクトン系ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオールが挙げられる。また、ポリカーボネートジオールを用いても良い。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0022】
上記鎖延長剤としては、特に制限されるものではなく、例えば従来公知のポリオールを使用できる。具体的には、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、へキサンジオール、1,4−シクロへキサンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール、キシリレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,6−へキサントリオール等の分子量200以下のポリオールが挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0023】
上記ウレタン硬化用触媒としては、三級アミン等のアミン系化合物、有機金属化合物等が挙げられる。ウレタン硬化用触媒は、イソシアヌレート化触媒とウレタン化触媒に大別される。ウレタン硬化用触媒として、イソシアヌレート化触媒とウレタン化触媒を併用することが好ましい。
【0024】
イソシアヌレート化触媒としては、例えば、N−エチルピペリジン、N,N′−ジメチルピペラジン、N−エチルモルフォリン等の第3級アミン;テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや有機弱酸塩;トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリエチルヒドロキシプロピルアンモニウム等のヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや有機弱酸塩;酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、吉草酸、オクチル酸、ミリスチン酸、ナフテン酸等のカルボン酸のアルカリ金属塩の中の1種類、またはその混合物が挙げられる。この中では、成型後にブルームして他のパーツに影響を及ぼすことのないカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましい。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0025】
ウレタン化触媒としては、一般に用いられるポリウレタン硬化用の触媒を使用することができ、例えば三級アミン触媒が挙げられる。具体的には、ジメチルエタノールアミン、N、N,N’−トリメチルアミノプロピルエタノールアミンなどのアミノアルコール;トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン;N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミンなどのテトラアルキルジアミン;トリエチレンジアミン、ピペラジン系、トリアジン系などが例示できる。また、通常、ウレタンに用いられる金属触媒でもよく、ジブチル錫ジラウレートなどを例示することができる。この中では、反応性とともに、成形後にブルームして他の部品に影響の及ぼすことのないアミノアルコールが好ましい。さらに好ましくは、N、N,N’−トリメチルアミノプロピルエタノールアミンである。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0026】
本発明のクリーニングブレードのブレード部材に使用される各成分の種類及び配合量は、ポリウレタンエラストマーが後述する(A)乃至(E)を含有することが好ましい。且つ、下記式(I)で算出される(A)ポリイソシアネートの濃度が1.00ミリモル/g以上、1.15ミリモル/g以下を満たすように適宜選択して形成することが好ましい。以下、その好ましい形態を説明する。
(A)ポリイソシアネート
(B)数平均分子量が2000以上、4000以下のポリオール
(C)分子量が200以下の鎖延長剤
(D)数平均分子量が200より大きく、2000より小さいポリオール
(E)硬化用触媒
(A)ポリイソシアネートの濃度(ミリモル/g)
=Wiso/(Mniso×Wall)×1000 (I)
(ただし、式(I)中、Wisoは(A)ポリイソシアネートの仕込み量(g)、Mnisoは(A)ポリイソシアネートの数平均分子量、Wallは(A)から(E)の材料の合計質量(g)を表す)
ここで、(A)ポリイソシアネートの濃度が、1.00ミリモル/g未満であるとポリウレタンエラストマー中のハードセグメント量が少なくなり軟らかくなるため、上記条件(1)〜(4)を満たさなくなる場合がある。一方、(A)ポリイソシアネート濃度が1.15ミリモル/gを超えると、ポリウレタンエラストマー中のハードセグメント量が多くなり過ぎ、硬くなるため、上記条件(1)〜(4)の物性を満たさなくなる場合がある。
【0027】
(A)ポリイソシアネートとしては、前述したポリイソシアネートを用いることができる。4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。(A)〜(D)の合計100質量部に対して、(A)ポリイソシアネートを25〜30質量部使用することが好ましい。
【0028】
(B)ポリオールとしては、ポリオール全体の数平均分子量が2000以上4000以下のものを使用する。(B)ポリオール全体の数平均分子量は2000〜2800が好ましい。(A)〜(D)の合計100質量部に対して、(B)ポリオールを52〜60質量部使用することが好ましい。
【0029】
(A)ポリイソシアネートと(B)ポリオールとは、あらかじめプレポリマー化して使用する。プレポリマー化する際に使用する(A)ポリイソシアネートと(B)ポリオールとの質量比は、30/70〜40/60が好ましい。
【0030】
(C)鎖延長剤としては、前述した分子量200以下の鎖延長剤を用いることができる。1,4−ブタンジオールとトリメチレングリコールが好ましい。(A)〜(D)の合計100質量部に対して、(C)鎖延長剤を3〜5質量部使用することが好ましい。
【0031】
(D)ポリオールとしては、数平均分子量が200よりも大きく、2000よりも小さいポリオールを使用する。具体的には、(D)ポリオール全体の数平均分子量は500〜1500が好ましい。(A)〜(D)の合計100質量部に対して、(D)ポリオールを9〜15質量部使用することが好ましい。
【0032】
(E)ウレタン硬化用触媒としては、全樹脂したウレタン硬化用触媒を用いることができる。イソシアヌレート化触媒とウレタン化触媒を併用することが好ましい。(A)〜(D)の合計100質量部に対して、(E)ウレタン硬化用触媒を0.04〜0.06質量部使用することが好ましい。
【0033】
本発明では、プレポリマー法に準じて、例えば次のようにしてクリーニングブレードを製造する。まず、クリーニングブレード用成形型を準備し、支持部材となるホルダーを配置する。次にポリオール(好ましくはポリイソシアネートとポリエステルポリオール)を部分的に重合したウレタンゴム用プレポリマー並びにウレタン硬化用触媒及び鎖延長剤を含有し硬化剤を注型機に投入し、ミキシングチャンバー内で攪拌し液状混合物を得る。これを上記成形型内に注入、反応硬化させ、次いで硬化物を脱型し、所定の寸法に切断することにより、ホルダー上にポリウレタンエラストマーからなるブレード部材が成形されたクリーニングブレードを製造することができる。ホルダーのブレード部材を成形する部位には、接着剤を塗布しておくことが好ましい。
【0034】
図1に本発明のクリーニングブレードの構成例を示した。図1に示すクリーニングブレードでは、自由長方向110及びクリーニングブレードの厚み方向120にL字の断面形状を有するブレード部材150が、ホルダー130の長手方向100に対して一様に形成されている。なお、クリーニングブレードにおけるブレード部材の形成位置や形状は、ブレード部材が感光ドラムと当接可能なように適宜選択できる。
【0035】
このようにして得られるクリーニングブレードが有するブレード部材において、以下の条件を満たしていなければならない。
(1)引張り試験における100%モジュラスが3.0MPa以上5.0MPa以下
(2)引張り試験における破断時伸びが300%以下
(3)硬度が65°以上75°以下(IRHD)
(4)動的粘弾性試験におけるtanδのピーク温度が0℃以下
引張り試験時の100%モジュラスが3.0MPa未満である場合、感光ドラム表面にかかるブレードエッジ部の線圧が不十分であり、トナーがすり抜け、クリーニング不良が発生し易くなり、またブレードエッジが変形しやすくなるため、欠けを生じ易くなる。5.0MPaを超える場合、感光ドラム表面にかかるブレードエッジの線圧が高くなり、ブレードエッジまたは感光ドラム表面の磨耗が発生しやすくなる。好ましくは、4.0〜4.5MPaである。
【0036】
また、引張り試験時の破断時伸びが300%を超える場合、感光ドラムとの摺擦によるブレードエッジの欠けが生じた際、欠けが大きくなり易く、クリーニング不良の発生原因となる。好ましくは、250%以下である。また、耐磨耗性の観点から、引張り試験時の破断時伸びは150%以上であることが好ましい。
【0037】
硬度が65°(IRHD)未満の場合、ブレードエッジがやわらかくトナーがすり抜けやすい。硬度が75°(IRHD)を超える場合、ブレードエッジが固くなりすぎ、感光ドラムの磨耗が速くなる。好ましくは、67〜73°(IRHD)である。
【0038】
動的粘弾性試験におけるtanδピーク温度が、0℃より大きい場合、低温(0〜10℃)環境下において、ウレタンエラストマーのゴム性が減少し、ドラムに対して均一に当接できなくなるため、クリーニング不良が発生しやすくなる。好ましくは、−5℃以下である。また、高温領域でのクリーニングの観点から、動的粘弾性試験におけるtanδピーク温度は−15℃以上であることが好ましい。
【0039】
そして、ブレード部材を構成するポリウレタンエラストマーの100%モジュラス、破断時伸び、硬度、tanδピーク温度を設定することにより、球形トナーに対しても、良好なクリーニング性能を有するクリーニングブレードを得ることができる。なお、これらの物性の測定方法については、後述の実施例において説明する。
【0040】
図2は、本発明のクリーニングブレードを適用し得る画像形成装置の一例である。
【0041】
図2は、本発明のクリーニングブレードを適用し得る画像形成装置の一例である。
【0042】
図2に示す画像形成装置では、感光ドラムなどの像担持体51が、支軸を中心に図面上時計方向に所定の周速度をもって回転駆動される。この像担持体51の表面は、コロナ放電器や帯電ローラなどの帯電部材52により所定の極性、電位に様に一次帯電処理される。均一に帯電処理を受けた像担持体51の表面は、次いで、露光手段Lにより目的画像情報の露光(レーザービーム走査露光,原稿画像のスリット露光など)を受け、目的の画像情報に対応した静電潜像53が形成される。その静電潜像53は、次いで、現像手段54によりトナー画像として順次に可視像化される。
【0043】
像担持体51の表面に形成されたトナー画像は、次いで、転写手段55により転写材Pの表面側に転写されていく。なお、転写材Pは、不図示の給紙手段部から像担持体51の回転と同期取りされて適正なタイミングをもって像担持体51と転写手段55との間の転写部へ搬送される。本例の転写手段55はコロナ放電器であり、転写材Pの裏からトナーと逆極性の帯電を行うことで像担持体51表面のトナー画像が転写材Pの表面側に転写されていく。転写手段55は、ローラタイプであっても良い。また、4色のトナーを用いてカラー画像を出力するカラーLBPなどにおいては、4色のカラー画像をそれぞれ現像し可視化するために、例えば、一旦ローラやベルト等の中間転写体にトナーを転写し、トナー画像が転写材Pの表面側に転写される。トナー画像の転写を受けた転写材Pは、像担持体55から分離されて加熱定着ロールなどの定着手段58へ先送されて像定着を受け、画像形成物として出力される。
【0044】
転写後の像担持体51の表面は、クリーニング手段56で残留トナーなどの付着汚染物の除去を受けて洗浄面化され、繰り返して作像に供される。このクリーニング手段56として、本発明のクリーニングブレードが好適に使用できる。
【0045】
本発明のクリーニングブレードを適用し得る画像形成装置としては、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ等の静電転写プロセスを利用した画像形成装置を挙げることができる。また、像担持体、帯電手段、現像手段およびクリーニング手段のような画像形成装置における構成物品のうち、複数の要素を一体的に組み込んだプロセスカートリッジとし、プロセスカートリッジを装置本体に対して着脱可能とすることもできる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例および比較例を示す。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
(熱硬化性ポリウレタン原料組成物の調製)
表1に示す割合にて、(A)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、(B)ポリブチレンアジペートポリエステルポリオール(PBA,数平均分子量2000)とを80℃窒素雰囲気下120分間反応させ、プレポリマーを得た。また、表1に示す割合にて、(C)1,4−ブタンジオール(1,4−BD)及びトリメチロールプロパン(TMP)、(D)ポリへキシレンアジペートポリエステルポリオール(PHA,数平均分子量1000)並びに(E)触媒を混合し、硬化剤を得た。
【0048】
上記プレポリマーと上記硬化剤とを用いてブレード部材の成形を行うとき、イソシアネート基に対する水酸基の比(α値)が0.65になる割合にて混合したポリウレタン原料組成物を調製した。また、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)用の単分散ポリスチレンをGPCにより、そのピークカウント数と単分散ポリスチレンの数平均分子量 との検量線を作成し、常法に従って算出する。かかるサンプルの測定条件は、カラム:G3000PWXL×2本(東ソー社製)、溶出溶媒:20mMリン酸緩衝液、検出器:示差屈折計、流速:0.5mL/分、試料溶液使用量:10μL、およびカラム温度:45℃とした。)
(クリーニングブレードの製造)
あらかじめ支持部材としてホルダーを用意し、このホルダーの片端面に接着剤を塗布した。上型と下型で構成されるクリーニングブレード用成形型に、上記ホルダーに接着剤を塗布した片端部がキャビティ内に突出した状態で配置し、上記熱硬化性ポリウレタン原料組成物をキャビティ内に注入した。これを130℃の加熱温度で反応硬化させ、次いで硬化物を脱型し、所定の寸法に切断することで、ホルダー上にブレード部材が成形されたクリーニングブレードを作製した。
【0049】
このように作製したクリーニングブレードについて、引張り試験における100%モジュラス及び破断時の伸びの測定、硬度の測定、tanδピーク温度の測定、並びに画像評価、流れ性評価、凹み模様評価を行った。
【0050】
[100%モジュラス(M100)の測定]
作製したクリーニングブレードを構成するブレード部材の100%モジュラスの測定は、上島製作所製の引張り試験機(商品名:ユニトロンTS−3013)を用い、JIS K6251に基づいて行った。結果を表3に示す。
【0051】
[破断時伸び(EB)の測定]
作製したクリーニングブレードを構成するブレード部材の破断時伸びの測定は、上島製作所製の引張り試験機(商品名:ユニトロンTS−3013)を用い、JIS K6251に基づいて行った。結果を表3に示す。
【0052】
[硬度の測定]
作製したクリーニングブレードを構成するブレード部材の国際ゴム硬さの測定は、ウォーレス(H.W.WALLACE)社製の硬度計を用い、JIS K6253に基づいて行った。結果を表3に示す。
【0053】
[tanδピーク温度の測定]
作製したクリーニングブレードを構成するブレード部材のtanδピーク温度の測定は、セイコーインスツルメンツ社製DMS6100(商品名)を使用し、次のようにして測定した。まず、作製したクリーニングブレードのブレード部材から短冊状の試験片を準備した。次にこの試験片を測定長さが20mmとなるように固定した後、この試験片に振幅5μm、周波数10Hzで歪みをかけ、昇温スピード2℃/minにて、約0.5℃ごとに−30℃から60℃までのtanδを測定した。そして、このtanδの値が最大になる温度をtanδのピーク温度とした。
【0054】
[画像評価]
作製したクリーニングブレードをキヤノン社製LASER SHOT LBP−2510(商品名)に組込みクリーニング性の試験を行い、クリーニング性を観察した(10℃/30%,23℃/55%環境下)。ここで、クリーニング性が良好なものを〇、クリーニング不良が発生したものについて、その程度に応じて△(軽微なもの)もしくは×(顕著なもの)で示した。結果を表3に示す。
【0055】
[流れ性評価]
クリーニングブレード成形金型への流れ性として、反応硬化させて成形したクリーニングブレードを目視で観察し、流れ不良による未充填部位の有無を検査し、次の基準で型への流れ性を評価した。
【0056】
○:未充填部位が見られなかった。
【0057】
×:未充填部位が認められた。
【0058】
[凹み模様評価]
反応硬化させて成形した100個のクリーニングブレードについて目視で外観を観察し、ブレード部材に凹み模様の発生の見られたクリーニングブレードの数を求め、次の基準で評価した。
【0059】
○:凹み模様の認められたものの数が0個であった。
【0060】
△:凹み模様の認められたものの数が1〜30個であった。
【0061】
×:凹み模様の認められたものの数が31個以上であった。
【0062】
実施例2
表1に示す配合でプレポリマーおよび硬化剤を調製し、α値を0.6とした以外は、実施例1と同様にしてクリーニングブレードを作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
比較例1
(D)ポリオールを使用せず、表2に示す配合でプレポリマーおよび硬化剤を調製し、α値を0.65にした以外は、実施例1と同様にしてクリーニングブレードを作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
比較例2
表2に示す配合でプレポリマーおよび硬化剤を調製し、α値を0.8にした以外は、実施例1と同様にしてクリーニングブレードを作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
なお、表1および表2中のMDI、PBA、PHA、1,4−BD、TMP、並びに(E)触媒であるヌレート化触媒及びウレタン化触媒の欄中の数字は質量部を表す。
【0068】
また、上記各構成材料としては以下のものを用いた。
・4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI):ミリオネートMT(商品名)、日本ポリウレタン工業(株)製
・ポリブチレンアジペートポリエステルポリオール(PBA):ニッポラン4010(商品名)、日本ポリウレタン工業(株)製
・1,4−ブタンジオール(1,4−BD):三菱化学(株)製
・トリメチロールプロパン(TMP):三菱ガス化学(株)製
・ポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオール(PHA):ニッポラン164(商品名)、日本ポリウレタン工業(株)製
・ウレタン硬化用触媒(ウレタン化触媒):POLYCAT 17(商品名)、東ソー(株)製
・ウレタン硬化用触媒(ヌレート化触媒):P15(商品名)、エアプロダクツジャパン社製
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示す結果から分かるように、実施例1〜2で作製したクリーニングブレードにおいては、クリーニング不良が発生せず良好なクリーニング性能を示した。また、(D)ポリオールを用いているため、型への流れ性,凹み模様にも問題がなかった。これに対し、比較例1で作製したクリーニングブレードにおいては、ポリウレタンエラストマーの100%モジュラスおよびtanδのピーク温度が本発明の範囲外であり、10℃/30%の低温低湿環境下において、クリーニング不良による画像不良が発生した。また、(D)ポリオールを使用していないため、型への流れ性不良、凹み模様が発生した。比較例2で作製したクリーニングブレードにおいては、ポリウレタンエラストマーの100%モジュラスおよび破断時伸びが本発明の範囲外であるため、感光ドラムに対する十分な当接圧が得られず、また、大きな欠けが発生したため、クリーニング不良が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態にかかるクリーニングブレードの概略構成を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるクリーニングブレードを適用し得る画像形成装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0072】
51 像担持体
52 帯電手段
53 静電潜像
54 現像手段
55 転写手段
56 クリーニング手段
58 定着手段
130 ホルダー
150 ブレード部材
L 露光手段
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電転写プロセスを利用した画像形成装置に配置され、該画像形成装置が具備する感光ドラム上の残留トナーを摺擦して除去するための、ポリウレタンエラストマーからなるブレード部材を有するクリーニングブレードにおいて、前記ポリウレタンエラストマーが、下記(1)乃至(4)を満たしていることを特徴とするクリーニングブレード。
(1)引張り試験における100%モジュラスが3.0MPa以上5.0MPa以下
(2)引張り試験における破断時伸びが300%以下
(3)硬度が65°以上75°以下(IRHD)
(4)動的粘弾性試験におけるtanδのピーク温度が0℃以下
【請求項2】
前記ウレタンエラストマーが少なくとも下記(A)から(E)の材料を含有し、且つ下記式(I)で算出される(A)ポリイソシアネート濃度が1.00ミリモル/g以上、1.15ミリモル/g以下であることを特徴とする請求項1記載のクリーニングブレード。
(A)ポリイソシアネート
(B)数平均分子量が2000以上、4000以下のポリオール
(C)分子量が200以下の鎖延長剤
(D)数平均分子量が200より大きく2000より小さいポリオール
(E)硬化用触媒
(A)ポリイソシアネートの濃度(ミリモル/g)
=Wiso/(Mniso×Wall)×1000 (I)
(ただし、式(I)中、Wisoは(A)ポリイソシアネートの仕込み量(g)、Mnisoは(A)ポリイソシアネートの数平均分子量、Wallは(A)から(E)の材料の合計質量(g)を表す)
【請求項3】
前記(B)数平均分子量が2000以上、4000以下のポリオールが、ポリブチレンアジペートポリエステルポリオール及びポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオールの少なくとも一方を含み、数平均分子量が2000以上、4000以下であり、
前記(D)数平均分子量が200より大きく、2000より小さいポリオールが、ポリブチレンアジペートポリエステルポリオール及びポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオールの少なくとも一方を含み、数平均分子量が200より大きく、2000より小さく、
前記ポリウレタンエラストマーが、少なくとも前記(A)及び(B)から得られるプレポリマーと、少なくとも前記(C)乃至(E)を含む硬化剤とを、ポリブチレンアジペートポリエステルポリオールとポリヘキシレンアジペートポリエステルポリオールとの両者を含み、イソシアネート基に対する水酸基のモル比(α値)が0.5以上0.7以下となるように混合し硬化して得られることを特徴とする請求項2記載のクリーニングブレード。
【請求項4】
前記(A)ポリイソシアネートが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする請求項2または3記載のクリーニングブレード。
【請求項5】
前記(E)ウレタン硬化用触媒が、イソシアヌレート化触媒とウレタン化触媒とを含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のクリーニングブレード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−139743(P2008−139743A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327999(P2006−327999)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】