説明

クレマスチンフマル酸塩含有固形製剤及びクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法

【課題】崩壊性に優れると共に経時でのクレマスチンフマル酸塩の含有量低下を抑制でき、さらに、錠剤にした場合には硬度が低く、摩損度が高い錠剤物性の良好な固形製剤を提供する。
【解決手段】(A)クレマスチンフマル酸塩と、(B)クロスカルメロース又はその塩と、(C)アスコルビン酸又はその塩とを含有し、(C)/(B)で表される質量比が3〜20であることを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレマスチンフマル酸塩を含有する固形製剤及びクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗ヒスタミン薬であるクレマスチンフマル酸塩は、鼻炎症状を緩和する薬物として、鼻炎薬やかぜ薬に配合されている。これらは即効性が期待される医薬製剤であるため、顆粒や錠剤等の固形製剤とした場合、崩壊性を高めることが必要である。また、水無しで服用可能な口腔内崩壊錠やチュアブル錠のニーズも高まっている。そのため、製剤の崩壊性を高める目的で、崩壊剤を配合した製剤設計の機会が増加している。一方、クロスカルメロース又はその塩は少量で崩壊性向上効果及び安定性が高く、さらに打錠圧による物性の影響を受けにくい等、優れた性能を有する崩壊剤である。
【0003】
【特許文献1】特開平11−302200号公報
【特許文献2】特開2001−58944号公報
【特許文献3】特開2003−506316号公報
【特許文献4】特開2006−77018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クレマスチンフマル酸塩とクロスカルメロース又はその塩とを併用する製剤にすると、クレマスチンフマル酸塩の含有量が低下するという問題が生じることが判明した。本発明は上記事情に鑑みなされたもので、崩壊性に優れると共にクレマスチンフマル酸塩の含有量低下を抑制でき、さらに、錠剤にした場合には硬度が低く、摩損度が高い錠剤物性の良好な固形製剤及びクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法を提供することを目的とする。本発明のさらなる課題は、アスコルビン酸の配合により生じる、固形製剤の褐変を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、クレマスチンフマル酸塩とクロスカルメロース又はその塩とを含有する固形製剤にアスコルビン酸又はその塩を配合し、(C)/(B)で表される質量比を3〜20にすることにより、崩壊性に優れると共にクレマスチンフマル酸塩の含有量低下を抑制でき、さらに、錠剤にした場合には錠剤物性が良好な固形製剤が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記固形製剤及びクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法を提供する。
[1].(A)クレマスチンフマル酸塩と、(B)クロスカルメロース又はその塩と、(C)アスコルビン酸又はその塩とを含有し、(C)/(B)で表される質量比が3〜20であることを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤。
[2].(B)の含有量が0.5〜30質量%である[1]記載の固形製剤。
[3].さらに、二酸化ケイ素を含有する[1]又は[2]記載の固形製剤。
[4].口腔内崩壊錠又はチュアブル錠である[1]〜[3]のいずれかに記載の固形製剤。
[5].(A)クレマスチンフマル酸塩と(B)クロスカルメロース又はその塩とを含有する固形製剤において、(C)アスコルビン酸又はその塩を、(C)/(B)で表される質量比が3以上となる量配合することを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法。
上記[3]の課題は、アスコルビン酸の配合により固形製剤が褐変することを抑制することである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、崩壊性に優れると共に、クレマスチンフマル酸塩とクロスカルメロース又はその塩とを併用する場合に生じる、クレマスチンフマル酸塩の含有量低下を抑制でき、さらに、錠剤にした場合には錠剤物性が良好なクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤は、(A)クレマスチンフマル酸塩と、(B)クロスカルメロース又はその塩、(C)アスコルビン酸又はその塩を含有し、(C)/(B)で表される質量比が3〜20であるものである。
【0009】
(A)クレマスチンフマル酸塩
クレマスチンフマル酸塩は抗ヒスタミン剤である。(A)成分の含有量は、一人の摂取量が1〜2mg/dayとなるように、1日服用回数と製剤服用量によって適宜設定される。特に、抗ヒスタミン剤としての効果を発揮するための配合量としては、8歳以上が1日1mg(1日2回)、15歳以上が1日2mg(1日2回)が適当である。具体的には、(A)成分の含有量は、固形製剤中0.005〜2質量%が好ましく、0.02〜2質量%がより好ましい。
【0010】
(B)クロスカルメロース又はその塩
クロスカルメロース又はその塩を配合することで崩壊性を改善することができる。クロスカルメロース又はその塩としては、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、中でもクロスカルメロースナトリウムが好ましい。なお、クロスカルメロースナトリウムとは、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0011】
(B)成分の含有量は、打錠適性を損ねず、崩壊性改善ができる点から、固形製剤中1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。また、(B)/(A)で表される、上記(A)成分及び(B)成分の含有質量比は20以上が好ましく、50以上がより好ましい。この比率が20未満であると、崩壊性が悪くなる場合がある。上限は特に限定されないが、100以下程度とすることが好ましい。なお、上記比率は小数点第1位を四捨五入したものである。
【0012】
(C)アスコルビン酸又はその塩
アスコルビン酸又はその塩を配合することにより、クレマスチンフマル酸塩とクロスカルメロース又はその塩とを併用する場合に生じる、クレマスチンフマル酸塩の含有量低下を抑制することができ、ビタミン供与も可能である。アスコルビン酸塩としては、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等が挙げられ、アスコルビン酸カルシウムが好ましい。アスコルビン酸又はその塩は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明においては、(C)/(B)で表される、上記(B)成分及び(C)成分の含有質量比は3〜20であり、5〜17が好ましい。この比率が3未満であると、クレマスチンフマル酸の含有量低下の抑制効果が不十分となり、20を超えるとアスコルビン酸が多くなり、固形製剤の褐変が起こりやすくなる。なお、上記比率は小数点第1位を四捨五入したものである。
【0014】
また、(C)成分の含有量は、薬物としての服用量の点から、一日の摂取量が50〜500mgとなる範囲で、1日服用回数と製剤服用量によって設定されることが好ましい。具体的には、(C)成分の含有量は、固形製剤中0.3〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0015】
(D)二酸化ケイ素
含水二酸化ケイ素が好適に用いられる。二酸化ケイ素を配合することにより、アスコルビン酸の配合により固形製剤が褐変することを抑制することができる。褐変抑制によって糖衣等の被覆がない錠剤とすることが可能となるため、口腔内崩壊錠又はチュアブル錠としても好適に使用可能である。(D)成分の含有量は、固形製剤中1〜10質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましく、2〜4質量%がさらに好ましい。含有量が1質量%未満だと、アスコルビン酸の褐変を抑制する効果が不十分となる場合があり、10質量%を超えると、流動性が悪く、含有量の均一性がとれなくなる場合がある。
【0016】
本発明の固形製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、固形製剤に用いる任意の成分を配合することができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。任意成分としては、他の薬物、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、酸味剤、コーティング剤、香料等が挙げられる。
【0017】
他の薬物としては、風邪薬に配合される以下の薬物が好ましく使用される。例えば、イブプロフェン等の解熱鎮痛剤、ジヒドロコデインリン酸塩、dl−メチルエフェドリン塩酸塩等の鎮咳剤、ブロムヘキシン塩酸塩等の去痰薬、無水カフェイン等の鎮痛補助剤、風邪罹患時に消耗するビタミンを補給するためのビタミン類が挙げられる。
【0018】
賦型剤としては、結晶セルロース、乳糖、コーンスターチ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、マンニトール、エリスリトール等、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、デンプン、アルファー化デンプン等、崩壊剤としては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム等、甘味剤としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等、酸味剤としてはクエン酸等、コーティング剤としては、フィルムコーティング(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、糖衣等が挙げられる。
【0019】
本発明の固形製剤は、クレマスチンフマル酸塩含有固形製剤であり、錠剤が好ましく、水で服用する錠剤として、さらに水なしで服用可能な口腔内崩壊錠又はチュアブル錠としても好適である。なお、本発明において、「口腔内崩壊錠」とは、口中で唾液により2分以内に崩壊する錠剤をいい、「チュアブル錠」とは、口中で咀嚼して服用可能な錠剤をいう。なお、服用時に、必ずしも咀嚼しなくとも、本発明の効果を得ることができる。また、本発明の固形製剤は、後述する実施例の崩壊性評価において、崩壊時間が5分未満であることが好ましい。
【0020】
本発明の固形製剤は、打錠機にて打錠することにより製造できる。このとき、上記各成分は、直接混合してもよく、それぞれ、結合剤等を用いて造粒してから混合してもよい。例えば、上記(A)クレマスチンフマル酸塩及び結合剤を混合し水溶液を得て、これを流動層造粒装置にて湿式造粒して造粒物を得て、この造粒物と(B)クロスカルメロース又はその塩、(C)アスコルビン酸又はその塩、必要に応じて(D)二酸化ケイ素、その他任意成分を混合し、打錠して固形製剤とすることができる。
【0021】
打錠圧等の成型条件は、打錠機、成分の種類や配合量、錠剤の径等により異なるが、崩壊性を損なわない錠剤強度、崩壊速度等となるよう適宜調整する。固形製剤がチュアブル錠である場合には、咀嚼しやすい硬度とすることが好ましい。固形製剤は、錠剤強度が2〜15kgであることが好ましく、4〜8kgであることがより好ましい。ここでいう錠剤硬度とは、モンサント型の錠剤強度試験機によって測定することができる。
【0022】
本発明のクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法は、(A)クレマスチンフマル酸塩と(B)クロスカルメロース又はその塩とを含有する固形製剤において、(C)アスコルビン酸又はその塩を(C)/(B)で表される質量比が3以上となる量を配合するものである。この質量比は3〜20が好ましく、より好ましくは5〜17である。なお、好適な成分、含有量等は上記固形製剤と同様である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示す。
【0024】
[実施例1〜11、比較例1〜7]
実施例4の方法を下記に記載するが、他の実施例、比較例は下記方法に準じて調製した。
イブプロフェン、ブロムヘキシン塩酸塩、クレマスチンフマル酸塩及び乳糖を混合し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSL:日本曹達)を結合剤として、流動層造粒を行い、造粒物を得た。この造粒物と、ジヒドロコデインリン酸塩を結晶セルロースにあらかじめ倍散させた倍散物、無水カフェイン、dl−メチルエフェドリン塩酸塩、アスコルビン酸(又はアスコルビン酸カルシウム)、クロスカルメロースナトリウム(キッコレートND−200:旭化成ケミカルズ)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC:信越化学工業)、含水二酸化ケイ素及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、ロータリー式打錠機にて打錠し、表1、3及び4に示す組成の錠剤300mg/錠を得た。得られた錠剤について下記評価を行った。
【0025】
(1)クレマスチンフマル酸塩の含有量低下
錠剤と乾燥剤をガラス瓶に入れて栓を閉め、50℃・75%RHにて静置した。2週間経過後ガラス瓶から錠剤を取り出し、クレマスチンフマル酸塩の含有量を測定した。
測定はHPLCを用い、日本大衆薬工業協会編「一般用医薬品の試験法II−かぜ薬・解熱鎮痛薬の試験法」を参考に行った。
錠剤20錠を水10mLに崩壊させ、移動相70mLを加えて溶かした。さらに内標準溶液10mLを正確に加えて、移動相で正確に100mLとする。この液をメンブランフィルターでろ過し、試料溶液とする。
別に、クレマスチンフマル酸塩を105℃で4時間乾燥し、その約0.15gを精密に量り、メタノールで正確に200mLとする。この液2mLを正確に量り、内標準溶液5mLを正確に加え、さらに移動相で50mLとする。この液をメンブランフィルターでろ過し、標準溶液とする。
試料溶液、標準溶液10μLにつき、液体クロマトグラフィーにより以下の条件で試験を行い、ピーク面積比から1錠中のクレマスチンフマル酸塩の量を計算し、理論量に対する含有量変化率(%)を算出した。
内標準溶液:4−ヒドロキシ安息香酸n−へキシルのメタノール溶液(1→2500)
[試験条件]
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィーオクテデシルシリル化シリカゲルを充填
カラム温度:40℃
移動相:メタノール/酢酸アンモニウム溶液(77→100000)混液(13/7)
流量:クレマスチンの保持時間が約10分になるように調整
【0026】
<評価基準>
◎:理論量に対する含有量低下率%が0.5%未満
○:理論量に対する含有量低下率%が0.5%以上1%未満
△:理論量に対する含有量低下率%が1%以上5%未満
×:理論量に対する含有量低下率%が5%以上
【0027】
(2)崩壊性
日本薬局方第15改正、一般試験法・崩壊試験法(1)即放性製剤の項に従い、補助盤を使用して、試験液を水とし、試験液の温度を37±2℃として崩壊時間を測定した。崩壊時間が5分未満であるものを〇、崩壊時間が5分以上であるものを×とした。
【0028】
(3)錠剤物性(摩損度)
日本薬局方第15改正、参考情報・錠剤の摩損度試験法に従い、20錠を試料として試験を行った。キャッピングが発生しなかったものを〇、摩損度評価時のキャッピングが発生したものを×とした。
【0029】
【表1】

【0030】
(4)褐変抑制試験(二酸化ケイ素の褐変抑制効果)
錠剤及び乾燥剤をガラス瓶に入れて栓を閉め、50℃・75%RHにて静置した。2週間経過後ガラス瓶から錠剤を取り出し、錠剤の色の変化を測定した。具体的には、色差計(ミノルタ、分光測色計)にて錠剤表面のb値を測定した。保存前後のb値の差が5未満(差がわからないレベル)を○、5以上(差がわかるレベル)を×とした。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
二酸化ケイ素を配合した実施例の錠剤は、素錠の状態で、いずれも50℃・2週間W保存後に変色(アスコルビン酸の褐変)がみられなかった。従って、コーティングを必要とせず、また優れた崩壊性をも有するため、水で服用する錠剤の他、口腔内崩壊錠又はチュアブル錠としても好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クレマスチンフマル酸塩と、(B)クロスカルメロース又はその塩と、(C)アスコルビン酸又はその塩とを含有し、(C)/(B)で表される質量比が3〜20であることを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤。
【請求項2】
(B)成分の含有量が0.5〜30質量%である請求項1記載の固形製剤。
【請求項3】
さらに、(D)二酸化ケイ素を含有する請求項1又は2記載の固形製剤。
【請求項4】
口腔内崩壊錠又はチュアブル錠である請求項1〜3のいずれか1項記載の固形製剤。
【請求項5】
(A)クレマスチンフマル酸塩と(B)クロスカルメロース又はその塩とを含有する固形製剤において、(C)アスコルビン酸又はその塩を、(C)/(B)で表される質量比が3以上となる量配合することを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有量の低下抑制方法。

【公開番号】特開2010−111589(P2010−111589A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282920(P2008−282920)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】