クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびBを含有する薬学的組成物
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレ毒素および/またはトキソイドを含む組成物ならびに対応する方法に関する。本発明の組成物は、毒素の安定性を増大するおよび/または凝集を低減する一つまたは複数の賦形剤を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)トキソイドを含む組成物および対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
クロストリジウム・ディフィシレ(C.ディフィシレ)毒素AおよびBは、院内下痢症および偽膜性大腸炎として現れるC.ディフィシレ関連疾患(CDAD)に関与している(Kuijper et al., Clinical Microbiology and Infection 12(Suppl. 6):2-18, 2006(非特許文献1); Drudy et al., International Journal of Infectious Diseases 11(1):5-10, 2007(非特許文献2); Warny et al., Lancet 366(9491): 1079-1084, 2005(非特許文献3); Dove et al., Infection and Immunity 58(2):480-488, 1990(非特許文献4); Barroso et al., Nucleic Acids Research 18(13):4004, 1990(非特許文献5))。これらの毒素をホルムアルデヒドで処理することにより、完全に不活性化され、かつ少なくとも部分的な免疫原性を保持した、対応するトキソイドAおよびBが生じる(Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995(非特許文献6))。両方のトキソイドを利用したワクチン接種はハムスター、成人健常者、および再発性CDADを有する患者において有効であることが明らかにされている(Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995(非特許文献6); Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001(非特許文献7); Sougioultzis et al., Gastroenterology 128(3):764-770, 2005(非特許文献8); Torres et al., Vaccine Research 5(3):149-162, 1996(非特許文献9))。さらに、遊離およびアルミニウム塩(アジュバント)結合トキソイドの投与によって適切な免疫反応が起こる(Torres et al., Vaccine Research 5(3): 149-162, 1996(非特許文献9); Giannasca et al., Infection and Immunity 67(2):527-538, 1999(非特許文献10))。両トキソイドの同時投与は、個々のタンパク質のみの投与よりも有効である(Kim et al., Infection and Immunity 55(12):2984-2992, 1987(非特許文献11))。したがってAトキソイドもBトキソイドもともにワクチン開発の候補である。その立体構造完全性の改善および/またはその凝集傾向の低減は最適な保存安定性を生み出すのに望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kuijper et al., Clinical Microbiology and Infection 12(Suppl. 6):2-18, 2006
【非特許文献2】Drudy et al., International Journal of Infectious Diseases 11(1):5-10, 2007
【非特許文献3】Warny et al., Lancet 366(9491): 1079-1084, 2005
【非特許文献4】Dove et al., Infection and Immunity 58(2):480-488, 1990
【非特許文献5】Barroso et al., Nucleic Acids Research 18(13):4004, 1990
【非特許文献6】Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995
【非特許文献7】Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001
【非特許文献8】Sougioultzis et al., Gastroenterology 128(3):764-770, 2005
【非特許文献9】Torres et al., Vaccine Research 5(3):149-162, 1996
【非特許文献10】Giannasca et al., Infection and Immunity 67(2):527-538, 1999
【非特許文献11】Kim et al., Infection and Immunity 55(12):2984-2992, 1987
【発明の概要】
【0004】
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイド(例えば、トキソイドAおよびBが、例えば、5:1〜1:5、例えば3:2(A:B)の比率で存在している、C.ディフィシレ毒素Aおよび/またはBのトキソイド)と、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延するならびに/または毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大する、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物(例えば、ワクチン組成物)などの、組成物を提供する。一つの例では、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/またはトキソイドの凝集を50%またはそれ以上だけ低減するまたは遅延する。別の例では、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/またはトキソイドの熱安定性を0.5℃またはそれ以上だけ増大する。任意で、本発明の組成物はアジュバント(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、またはヒドロキシリン酸アルミニウム化合物などのアルミニウム化合物)を含んでもよい。組成物は、液体形態、乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、または泡乾燥形態であることができる。
【0005】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、例えば、緩衝剤、等張化剤(tonicity agent)、単純炭水化物(simple carbohydrate)、糖、炭水化物重合体、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリアミノ酸、多価アルコールおよびそれらのエーテル、界面活性剤、脂質、表面活性剤、酸化防止剤、塩、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、ホルムアルデヒド、またはそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。各種例では、(i)緩衝剤は、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、および重炭酸塩からなる群より選択され、5〜100 mMの濃度であり、(ii)等張化剤は、1〜50 mMの濃度で、マンニトールであり;(iii)糖は、1〜30%の濃度で、ソルビトール、トレハロース、およびスクロースより選択され;(iv)アミノ酸、オリゴペプチド、またはポリアミノ酸は最大100 mMの濃度で存在し;(v)多価アルコールは、最大20%の濃度で、分子量200〜10,000のグリセロール、ポリエチレングリコール、およびそれらのエーテルからなる群より選択され;(vi)界面活性剤および脂質は、最大0.5%の濃度で、デオキシコール酸ナトリウム、ツイーン(Tween)20、ツイーン80、およびプルロニック(pluronic)からなる群より選択され;(vii)炭水化物重合体はデキストランおよびセルロースより選択され;(viii)塩は、最大150 mMで、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、および酢酸マグネシウムからなる群より選択され; ならびに(ix)ホルムアルデヒドは0.001〜0.02%で存在する。
【0006】
そのような賦形剤の具体例としては、表1、表2、表8、または表9に記載のものが挙げられる。他の例では、組成物は、任意によりスクロースおよび/またはホルムアルデヒドとの組み合わせで、クエン酸ナトリウムもしくはカリウム、および/またはリン酸ナトリウムもしくはカリウムを含む。したがって、各種例では、組成物は、クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mM(例えば、10〜30 mMまたは20 mM)のクエン酸(またはリン酸)ナトリウムまたはカリウム、2〜20%(例えば、2〜10%または5%)のスクロース、ならびに0.020%以下(≦0.020%)(例えば、0.016%)のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5(例えば、6.5〜8.0または7.5)を含む。他の例では、ソルビトール、デキストロース、および/またはツイーン80の組み合わせが用いられる。
【0007】
本発明はまた、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドと、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延する、ならびに/または毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大する、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物を作出する方法を提供する。これらの方法は、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを提供する段階およびクロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを、本明細書において記述されるものなどの、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と混合する段階を含む。組成物は、本明細書において記述されるように、液体形態で保存されてもよく、または凍結乾燥されてもよい。
【0008】
本発明はさらに、本明細書において記述の組成物を被験体に投与する段階を伴う、被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する方法を提供する。一つの例では、患者はC.ディフィシレ疾患を抱えていないが、その疾患を発症するリスクがあり、別の例では、患者はC.ディフィシレ疾患を抱えている。さらに、本発明は、被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する際の、またはこの目的に用いるための薬物の調製での、本発明の組成物の使用を含む。
【0009】
本発明はいくつかの利点を提供する。例えば、本明細書において記述される賦形剤の使用は、トキソイドを含む薬学的産物(例えば、ワクチン)の産生に重要である、C.ディフィシレトキソイドAおよびBの物理的安定性の増大ならびに/または凝集の低減もしくは遅延をもたらすことができる。さらに、本発明の比率(例えば、3:2のA:B)を使用することおよび投与の直前にアジュバントを添加する(保存ワクチンを処方する際ではなく)ことにより、免疫原性の増大をもたらすことができる。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トキソイドA(x)の、20%トレハロース(□)、20%スクロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロース(●)、20%グリセロール(△)、0.05%ツイーン80(▲)、0.1%プルロニックF68(◇)の存在下での、構造安定性に及ぼす溶質作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナル;(c)ANS発光強度;(d)ANS発光ピーク位置; および(b)DSCサーモグラム。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図2】トキソイドB(x)の、20%トレハロース(□)、20%スクロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロース(●)、20%グリセロール(△)、0.05%ツイーン80(▲)、0.1%プルロニックF68(◇)の存在下での、構造安定性に及ぼす溶質作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナル;(c)ANS発光強度;(d)ANS発光ピーク位置; および(b)DSCサーモグラム。温度の記録は測定2回の平均を表す。各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図3】トキソイドA(x)の、10%ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(□)、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での、熱安定性に及ぼす溶質の組み合わせの作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナルによって観察した、および(b)OD 350 nm。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.05未満であった。
【図4】トキソイドB(x)の、10%ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(□)、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での、熱安定性に及ぼす溶質の組み合わせおよびその作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナルによって観察した、および(b)OD 350 nm。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.05未満であった。
【図5】温度の関数としての、ツイーン80(□)の、10%デキストロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での特性に関する試験: 0.05%ツイーン80(a)および0.1%ツイーン80(b)の208 nm CDシグナル; 0.05%ツイーン80(c)および0.1%ツイーン80(d)のOD 350 nm; 0.05%ツイーン80(e)および0.1%ツイーン80(f)のMSD数(黒四角)に基づくおよび対数正規数(黒菱形)に基づく流体力学直径。DLS測定の性質を考慮すると、1 μm超(>)のサイズは正確ではない。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図6】ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(◆)、デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、ソルビトール、デキストロースおよび0.05%ツイーン80(▲)、ソルビトール、デキストロースおよび0.1%ツイーン80(x)、ソルビトールおよびデキストロース(◇)の存在下でのトキソイドA(a)およびトキソイドB(b)についてCD 208 nmのシグナルで観察した熱転移の中点(Tm)に及ぼす溶質濃度の作用に関する試験。
【図7】トキソイドA(a〜c)およびトキソイドB(d〜f)についての温度の関数としての流体力学直径。図中で黒四角はMSD数に基づく直径を表し、黒菱形は対数正規数に基づく直径を表す。DLS測定の性質を考慮すると、1 μm超(>)のサイズは正確ではない。(a,d)タンパク質のみ;(b,e)10%ソルビトールおよび10%デキストロースの存在下のタンパク質;(c,f)10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80の存在下のタンパク質。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図8】Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)結合試験: トキソイドA(◇)およびトキソイドB(▲)についての2 M NaClの存在下での(a)吸着等温線および(b)脱着等温線。
【図9】pH領域5.5〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドAの二次構造に関する試験。
【図10】pH領域5.5〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドBの二次構造に関する試験。
【図11】pH領域5.5〜8.0にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドAの融解温度に関する試験。
【図12】pH領域5.0〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドBの融解温度に関する試験。
【図13】固定保存温度でさまざまなpH値での経時的な凝集に関する試験。
【図14】37℃でのトキソイドAの塩依存性の凝集に関する経時的試験。
【図15】37℃でのトキソイドBの塩依存性の凝集に関する経時的試験。
【図16】ワクチン製剤の凍結乾燥パラメータに関する試験。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレ毒素および/またはトキソイドならびに有益な特性を組成物にもたらす一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む組成物を提供する。例えば、および以下でさらに記述されるように、本発明の組成物に含まれる賦形剤は、組成物のトキソイド成分の一つもしくは複数の安定性の増大および/またはトキソイドの凝集の低減もしくは遅延をもたらすことができる。
【0013】
本発明の組成物に含めることができるC.ディフィシレトキソイドは、当技術分野において公知のいくつかの方法のいずれかを用いて作出することができる。例えば、ホルムアルデヒドによる不活性化を伴う方法を用いることができる(例えば、Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001を参照のこと)。好ましくは、組成物にはトキソイドAもトキソイドBもともに含まれるが、これらのトキソイドの一方のみを含む組成物も本発明に含まれる。毒素の供給源として使用できる例示的なC.ディフィシレ菌株はATCC 43255(VPI 10463)である。これらのトキソイドはさまざまな比率、例えば、5:1(A:B)〜1:5(A:B)で組成物に存在することができる。具体例では、比率は2:1、3:1、または3:2(A:B)でありうる。本発明の組成物中のトキソイドの総量は、例えば、100 ng〜1 mg、100 ng〜500 μg、1〜250 μg、10〜100 μg、25〜75 μg、または50 μgでありうる。組成物は任意で一単位投与量としてバイアル中に保存されてもよい。
【0014】
本発明の組成物は、例えば、緩衝剤(例えば、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、もしくは重炭酸塩; 5〜100 mM; 使用できるクエン酸塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、および亜鉛塩が挙げられる); 等張化剤(例えば、マンニトール; 1〜50 mM); 糖もしくは糖アルコール(例えば、ソルビトール、トレハロース、もしくはスクロース; 1〜30%)または炭水化物重合体(例えば、デキストランおよびセルロース)などの、炭水化物; アミノ酸、オリゴペプチド、もしくはポリアミノ酸(最大100 mM); 多価アルコール(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール、もしくはそれらのエーテル、分子量200〜10,000、および濃度最大20%); 界面活性剤、脂質、もしくは表面活性剤(例えば、最大0.5%の濃度のツイーン20、ツイーン80、もしくはプルロニック); 酸化防止剤; 塩(例えば、最大150 mMの塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、もしくは酢酸マグネシウム); アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン); ゼラチン; ホルムアルデヒド(0.001〜0.02%); あるいはそれらの組み合わせなどの、一つまたは複数の化合物を含む。
【0015】
本発明の組成物に使用できる賦形剤の例としては、以下の表1、2、8、および9に記載されているものが挙げられる。各種例では、賦形剤は、(i)例えば、下記の試験法(例えば、示差走査熱量測定法(DSC))によって測定されるように(例えば、少なくとも0.5℃、例えば、0.5〜5℃、1〜4℃、もしくは2〜3℃の)熱安定性の増大、および/または(ii)例えば、下記の試験法によって測定されるように、例えば、50%もしくはそれ以上(例えば、60%もしくはそれ以上、70%もしくはそれ以上、80%もしくはそれ以上、90%もしくはそれ以上、95%もしくはそれ以上、98%もしくはそれ以上、99%もしくはそれ以上、または100%)のトキソイドA、トキソイドB、もしくはトキソイドAとトキソイドBの両方の凝集の低減もしくは遅延をもたらすものでありうる。トキソイド凝集物を含む組成物も本発明に含まれる。
【0016】
したがって例示的な賦形剤および緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム(例えば、0.01〜0.2 M、例えば、0.02〜0.1 M)、スクロース(例えば、1〜20%または5〜10%)、ソルビトール(例えば、4〜20%または5〜10%)、トレハロース(例えば、4〜20%または5〜10%)、ツイーン80(例えば、0.05〜0.1%)、ジエタノールアミン(例えば、0.3 M)、ヒスチジン(例えば、0.02〜0.3 M)、グアニジン(例えば、0.3 M)、デキストロース(例えば、5〜20%)、グリセロール(例えば、20%)、アルブミン(例えば、1〜2.5%)、ラクトース(例えば、10〜20%)、マンニトール(例えば、10%)、スクロース(例えば、5〜20%)、プルロニックF-68(例えば、0.1%)、2-OHプロピルβ-CD(例えば、5〜10%)、デキストランT40(例えば、0.03〜0.08 mg/ml)、Brij(例えば、0.01〜0.1%)、リジン(例えば、0.3 M)、ツイーン20(例えば、0.01〜0.05%)、およびアスパラギン酸(例えば、0.15 M)(表1、2、8、および9参照)が挙げられる。これらの賦形剤は、表に記載した濃度で本発明において用いることができる。あるいは、当技術分野において理解されているように、例えば0.1〜10倍だけ、それらの量を変化させることもできる。当技術分野において公知である他の炭水化物、糖アルコール、表面活性剤、およびアミノ酸を本発明の組成物に含めることもできる。
【0017】
賦形剤および緩衝剤は個別にまたは組み合わせて用いることができる。組み合わせの一例として、組成物は、トキソイド安定性に関して利益をもたらすことが明らかにされている、クエン酸ナトリウムおよびスクロースを含むことができる。これらの成分の量は、例えば、10〜30 mM、15〜25 mM、または20 mMのクエン酸ナトリウム; および1〜20%または5〜10%スクロースでありうる。これらの成分に加えて、そのような組成物は、0.001〜0.020、0.01〜0.018、もしくは0.16%のホルムアルデヒドなどの、少量のホルムアルデヒドを含むことができる。そのような組成物のpHは、例えば、5.5〜8.0または6.5〜7.5であることができ、組成物は液体形態または凍結乾燥形態で、例えば2〜8℃にて、保存することができる。この組成物の変化形として、クエン酸ナトリウムをリン酸ナトリウム(10〜30 mM、15〜25 mM、もしくは20 mM)と置き換えてもよく、および/またはスクロースをソルビトール(例えば4〜20%もしくは5〜10%)またはトレハロース(例えば4〜20%もしくは5〜10%)と置き換えることもできる。組成物の他の変化形が本発明に含まれ、それは本明細書に記載の他の成分の使用を伴う。上記に基づいて、本発明の例示的な組成物は、20 mMクエン酸ナトリウム、5%スクロース、および0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5を含む。
【0018】
別の例では、組成物は、凝集および安定性に関して利益をもたらすことが明らかにされている組み合わせである、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80を含む(下記参照)。これらの成分の量は、例えば、5〜15%、8〜12%、または10%ソルビトール; 5〜15%、8〜12%、または10%デキストロース; および0.01〜1%、0.025〜0.5%、または0.05〜0.1% ツイーン80でありうる。これらの成分が10%(ソルビトールおよびデキストロース)ならびに0.05〜0.1% ツイーン80)で存在する具体例を後述する。別の例では、賦形剤はデキストロース(10%)およびソルビトール(10%)である。
【0019】
本発明の組成物は液体形態または乾燥形態で保存することができ、後者には例として、凍結乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、および泡乾燥形態が含まれる。したがって、上記のように、一つまたは複数の賦形剤に加えて、本発明の組成物は、例えば、NaCl(例えば、150 mM)を含有するリン酸ナトリウム(例えば、5 mM)で緩衝化できる液体培地(例えば、食塩水または水)を含むことができる。本発明の組成物の例示的なpH範囲は5〜10、例えば、5〜9、5〜8、5.5〜9、6〜7.5、または6.5〜7である。さらに、組成物は一つまたは複数の安定化剤を含むこともできる。他の例では、組成物は凍結乾燥形態で存在し、そのような組成物は投与の前に液体培地(例えば、食塩水または水)の使用によって再構成することができる。
【0020】
本発明の組成物は任意で、トキソイドまたは毒素抗原および上記の賦形剤に加えて、一つまたは複数のアジュバントを含むことができる。本発明において使用できるアジュバントは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、およびヒドロキシリン酸アルミニウムなどの、アルミニウム化合物を含む。標準的な方法を用いて抗原をアルミニウム化合物で沈殿させるか、またはアルミニウム化合物に吸着させることができる。具体例として、ミョウバン(例えば、Rehydragel LV(登録商標), Reheis, Inc., Berkeley Heights, New Jersey; 最大で、例えば、2 mgのAlOH/用量、例えば、約1.5 mgのAlOH/用量; Alhydrogel(登録商標)(例えば、Alhydrogel(登録商標)2%;(水酸化アルミニウムアジュバント)), Brenntag Biosectror, Frederickssund, Denmark(AlOH3))を用いることができる。使用されるアルミニウムの量は、例えば、100〜850 μg/用量、200〜600 μg/用量、または300〜600 μg/用量であることができる。
【0021】
本発明に含まれる製剤に対する一つの取り組みでは、トキソイドおよび賦形剤をともに製剤化すること、次いで投与の直前に、ミョウバンアジュバントなどのアジュバントを加えることを伴う。この取り組みは、以下でさらに記述するように、免疫原性を増大することが見出された。別の取り組みでは、アジュバントを保存の前に製剤に含有させる(液体形態でまたは凍結乾燥形態で)。本発明の組成物および方法に使用できるさらなるアジュバントは、RIBI(ImmunoChem, Hamilton, MT)、QS21(Aquila), Bay(Bayer)およびポリホスファゼン(Virus Research Institute, Cambridge, MA; WO 95/2415)を含む。
【0022】
本発明はまた、本明細書において記述される組成物を作出する方法も含み、これには、例えば、Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001によって記述されているトキソイドの産生、および薬学的製剤の標準的な方法を用いた本明細書に記述の一つまたは複数の賦形剤とのトキソイドの混合が伴われる。上記のように、組成物は液体形態でまたは凍結乾燥形態で保存することができる。凍結乾燥は標準的な方法を用いて行うことができ(例えば、下記例を参照のこと)、凍結乾燥された材料は、投与の前に、アジュバントありまたはなしで滅菌液(例えば、水、食塩水、または任意の所望の賦形剤を含む溶液)中にて再構成することができる。
【0023】
さらに、本発明は、C.ディフィシレ感染または疾患の予防および処置における組成物の使用を含む。したがって、本発明は、再発性CDADなどの、C.ディフィシレ関連疾患(CDAD)ならびに下痢症(例えば、院内下痢症)および偽膜性大腸炎を含むCDADの特徴を予防するまたは処置するための本発明の組成物の投与を含む。当技術分野において公知であるように、CDADは、入院している被験者など、抗生物質による被験者の処置と関連していることが多い。したがって、本発明の処置方法はそのような患者の処置において用いることができる。さらに、本発明による処置を抗生物質(例えばバンコマイシンおよび/もしくはメトロニダゾール)処置ならびに/または受動免疫療法と組み合わせることもできる(例えば、米国特許第6,214,341号を参照のこと)。本発明の投与方法を患者の受動免疫で用いるためのC.ディフィシレ免疫グロブリンの作出において使用することもできる(例えば、米国特許第6,214,341号を参照のこと)。
【0024】
本発明はまた、改善された特性を有するC.ディフィシレ毒素またはトキソイドを含んだ組成物を作出するために使用できる賦形剤を特定する方法も含む。これらの方法には、組成物の毒素および/またはトキソイド成分の一つまたは複数の、凝集の低減もしくは遅延および/または安定性の増大をもたらす条件の特定を円滑にする、以下でさらに記述するものなどの、スクリーニング試験法が伴われる。これらの方法には、以下でさらに記述するように凝集試験法および安定性試験法が含まれる。さらに、本発明は、溶解性、免疫原性、および粘性試験法を含む、望ましい製剤を特定するための他の試験法の使用も含む。
【0025】
本発明の組成物は、例えば、経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)経路により、当業者によって適切であると判定される量でおよび投薬計画で投与することができる。例えば、100 ng〜1 mg、100 ng〜500 μg、1〜250 μg、10〜100 μg、25〜75 μg、または50 μgのトキソイドを投与することができる。予防または治療の目的で、ワクチンを、例えば1、2、3、または4回投与することができる。複数用量を投与する場合、その用量を、例えば1週間〜1ヶ月間、相互に分け隔てることができる。別の例では、各50 μgの4用量を8週間にわたって筋肉内に投与することができる。
【0026】
実施例I
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびBの物理的安定性を向上させる条件を明らかにすべく、安定化化合物のスクリーニングを行った。30種類のGRAS(generally regarded as safe; 一般に安全と認められる)化合物について、さまざまな濃度で数通りの組み合わせにより、2部構成でスクリーニングを行った。まず、ハイスループットな凝集試験により、負荷条件下でトキソイドの凝集を遅延または阻止する化合物のスクリーニングを行った(pH 5〜5.5のトキソイドを55℃で55または75分間インキュベートした)。両タンパク質を安定化させた化合物についてはさらに、未変性様であると推定される折り畳み状態を導く条件下(pH 6.5)で、折り畳みがほどけることを遅延させる能力を調べた。Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)の表面上におけるトキソイドの熱安定性は示差走査熱量測定(DSC)により観察し、特定の賦形剤の存在下における有意な改善も示した。両トキソイドの凝集を効果的に阻害した化合物についてはさらに、これらタンパク質の構造安定性を向上させる能力を調べた。アジュバントに結合したトキソイドの安定化剤を特定するため、選択した賦形剤についてさらにアジュバント結合トキソイドの熱安定性を向上させる能力を調べた。結論として、本試験において、物理的安定性の高い薬学的製剤の設計に利用することが可能なさまざまな条件下(温度および溶質)における遊離型トキソイドおよびアジュバント結合トキソイドの挙動に関する情報が得られた。
【0027】
実験材料および方法
材料
既報の方法(Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001)を用いて、高度精製型のトキソイドAおよびBを作成した。タンパク質の濃度は280 nmにおける紫外吸光により測定し、濃度1 mg/mLでトキソイドAについては吸光度単位1.173、トキソイドBについては吸光度単位0.967を使用した。使用した試薬はいずれも分析等級のものであり、Sigma社(ミズーリ州St. Louis)から購入した。賦形剤スクリーニング試験には150 mM NaClを含むリン酸ナトリウム緩衝剤(5 mM、pH 5.0、5.5、6.5)を使用した。また、撹拌試験およびアジュバント試験には150 mM NaClを含むリン酸ナトリウム緩衝剤(5 mM、pH 6.5)を使用した。緩衝剤の交換には、Slide-A-Lyzer(登録商標)Dialysis Cassettes, 10 kDa MWCO(Pierce社、イリノイ州Rockford)を使用し、冷蔵温度でタンパク質を透析した。
【0028】
賦形剤スクリーニング試験
凝集試験:約30種類のGRAS(一般に安全と認められる)化合物が持つトキソイドの凝集を阻害する能力について、58種類の濃度で数通りの組み合わせによりスクリーニングを行った。タンパク質の凝集は、96ウェルプレートリーダー(Spectra Max M5、Molecular Devices社、カリフォルニア州Sunnyvale)を用いて350 nmでの光学密度測定(OD 350 nm)により観察した。この凝集試験は、55℃で、トキソイドA(1.2 mg/ml)についてはpH 5.5、トキソイドB(0.5 mg/ml)についてはpH 5.0で行った。これらのタンパク質はこのような条件下において、部分的に折り畳みがほどけ、自然に結合する。したがって、こういった2つの過程を妨害する賦形剤の安定化作用を検出することが可能である。対応するpHで賦形剤を含む96ウェルプレートのウェルにタンパク質を加え、この試料を、トキソイドAの場合は75分間、トキソイドBの場合は55分間、55℃でインキュベートした。5分ごとに350 nmで溶液の光学密度を観察した。同時に、化合物を加えないタンパク質溶液および賦形剤を加えた緩衝剤単独(ブランク)の対照について試験を行った。データ分析前にブランクを差し引くことにより、内因性の緩衝剤-賦形剤挙動について測定値を補正した。各試料の評価は三重に行った。凝集阻害率(%)は以下の式を用いて算出した。
上式で、ΔOD350(E)は賦形剤存在下におけるタンパク質のOD 350 nmの変化を示し、ΔOD350(C)は賦形剤不在下におけるタンパク質のOD 350 nmの変化を示す(Peek et al., Journal of Pharmaceutical Sciences 96(1):44-60, 2006)。
【0029】
構造安定性試験:トキソイド溶液の試験は、CD測定について濃度0.2 mg/ml、蛍光および紫外吸光分析について濃度0.1 mg/mlで行った。この範囲では濃度依存性は認められなかった。測定の再現性を確かめるため、各試料の評価は二重に行った。
【0030】
遠紫外円偏光二色性(CD)分光法:CDスペクトルは6ポジションペルチェ温度コントローラを備えたJasco J-810 分光偏光計を用いて取得した。CDスペクトルは走査速度20 nm/分、積算回数2回、レスポンス時間2秒で260〜190 nmで取得した。208 nmにおけるCDシグナルを昇温速度15℃/時により10〜85℃の温度範囲で0.5℃ごとに観察し、タンパク質の熱転移(融解曲線)を調べた(光路長0.1 cmの密封キュベット内にて)。CDシグナルはJasco Spectral Managerソフトウェアによりモル楕円率に変換した。熱転移の中点温度はOriginソフトウェアを使用し、融解曲線のシグモイドフィッティングにより測定した。
【0031】
ANS蛍光分光法:外因性プローブである8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(8-Anilino-1-naphthalene sulfonate、ANS)の蛍光発光により、タンパク質上における非極性部位のアクセシビリティを観察した。各試料にはタンパク質に対して20倍モル過剰のANSが含まれた。発光スペクトルはステップサイズ2 nm、372 nmでのANS励起後の露光時間1秒とし400〜600 nmで収集した。発光スペクトルは10〜85℃の温度範囲で平衡時間5分とし2.5℃ごとに収集した。各々の対応するpHにおけるANS-緩衝剤ベースラインを生の発光スペクトルから差し引いた。発光スペクトルのピーク位置はOriginソフトウェアを使用し多項式フィットにより測定した。
【0032】
高分解能紫外吸光分光法:高分解能紫外吸光スペクトルはAgilent 8453紫外可視分光光度計を使用して取得した。タンパク質の凝集については、350 nmにおけるODを10〜85℃の温度範囲で2.5℃ごとに観察することにより調べ、各温度で5分間インキュベートした(平衡に達するのに十分である)。
【0033】
動的光散乱法:pH 6.5におけるタンパク質の平均流体力学的直径(単独および賦形剤存在下)を動的光散乱測定器(Brookhaven Instrument社、ニューヨーク州Holtzille)を用いて分析した。この測定器は50 mWダイオード励起レーザー(λ = 532 nm)を備えており、入射光に対して90°で散乱光の観察を行った。自己相関関数はデジタル自動相関計(BI-9000AT)を使用して算出した。流体力学的直径はキュムラント法(対数正規数に基づく)を用いて、Stokes-Einsteinの式による拡散係数から計算した。データは非負制約付き最小二乗アルゴリズムに適応させ、多峰分布(MSD)を算出した。測定器には循環式恒温水槽RTE111(Neslab社、ニューハンプシャー州Newington)が装備されており、10〜85℃の温度範囲で流体力学的直径を観察した。
【0034】
示差走査熱量測定(DSC):DSCはオートサンプラーを備えたMicroCal VPDSC(MicroCal社、マサチューセッツ州Northampton)を使用して行った。60℃/時の走査速度により10〜90℃の範囲において、トキソイド(0.5 mg/ml)のみのサーモグラムおよび賦形剤が存在した場合のトキソイドのサーモグラムを測定した。各スキャンを開始する前に、充填したセルを10℃で15分間平衡化した。分析前に各タンパク質スキャンから緩衝剤単独のサーモグラムを差し引いた。
【0035】
撹拌試験:賦形剤の存在下および不在下において、濃度0.4 mg/mlのトキソイド溶液の試験を行った。タンパク質試料(0.4 ml)を1.5 ml遠心分離管に入れ、回転機(Thermomixer R、Eppendorf AG社、ドイツHamburg)の中で300 rpm、4℃の恒温にて72時間振盪した。タンパク質の濃度およびOD 350 nmを回転の前後に測定し、管壁への吸着および凝集を評価した。試料は4℃にて速度10,000xgで10分間遠心分離し、上清の濃度およびOD 350 nmを測定し、不溶性凝集物の形成を検出した。タンパク質の構造はCDにより評価した。各試料の測定は二重に行った。
【0036】
アジュバント試験
水酸化アルミニウム(Alhydrogel(登録商標))(水酸化アルミニウムアジュバント)への吸着:結合等温線を作成することにより、さまざまな濃度(0.025〜1 mg/ml)においてトキソイドがAlhydrogel(登録商標)(Brenntag Biosectror社、デンマークFrederickssund、水酸化アルミニウムアジュバント)に吸着する能力を測定した。0.4 mg/mlのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)を含むタンパク質溶液を転倒型試験管回転機に入れ、冷蔵温度で20分間混和した。試料を14,000xgで30秒間遠心分離し、アジュバントをペレットにした。上清に残っているタンパク質の濃度の数値を用いて結合曲線を作成した。同一の方法により、賦形剤の存在下でタンパク質がAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合する能力を測定した。この場合、Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)をタンパク質-賦形剤溶液に加えた。
【0037】
トキソイドのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)からの脱着:タンパク質のAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)からの脱着は、2 M NaClの存在下において評価した。上記のように、トキソイドAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)のペレットを調製した。NaCl溶液の添加前にペレットを緩衝剤(pH 6.5)で洗浄し、上清に存在するタンパク質を除去した。Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)溶液を転倒型試験管回転機に入れ、冷蔵温度で20分間混和した。試料を14,000xgで30秒間遠心分離し、アジュバントをペレットにした。上清に含まれるタンパク質の濃度を用いて脱着等温線を作成した。
【0038】
Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの安定性:MicroCal VP-AutoDSC(MicroCal社、マサチューセッツ州Northampton)を使用し、DSCによりAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの熱安定性を観察した。上記の方法により、0.5 mg/mlのトキソイドを0.4 mg/mlのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合させた。走査速度60℃/時で10〜90℃におけるトキソイドのサーモグラムを測定した。各スキャンの前に、試料を10℃で15分間平衡化した。分析前に各タンパク質/アジュバントスキャンからAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)単独のサーモグラムを差し引いた。
【0039】
結果および考察
賦形剤スクリーニング試験
GRAS化合物が凝集を阻止または遅延させる能力を調べるため、負荷条件下においてトキソイドを単独および賦形剤の存在下でインキュベートした(55℃でインキュベーション)。インキュベーション時間中、350 nmにおけるODの変化を観察することによりハイスループットな方法でトキソイドの凝集を観察した。さらに混濁度の変化から凝集阻害率(%)を計算し、トキソイドAについては表1、トキソイドBについては表2にまとめる。
【0040】
トキソイドAのハイスループット凝集試験において、半数を超す賦形剤により経時的にOD 350 nmの増加が遅延または阻止され、凝集が90%またはそれ以上阻害されたことがわかった(表1)。被験賦形剤のうち、2.5%アルブミン、2.5%α-シクロデキストリン、0.1%ツイーン80、0.3 Mヒスチジン、および0.3 MリジンによりOD 350 nmが即時に高値となったことから、トキソイドAはこれらの条件下で不溶性であることが示唆される。それ以外に16種類の賦形剤の存在下でもトキソイドAの凝集は有意に亢進し、その中でも25 mMおよび50 mMアルギニン/グルタミン合剤、0.3 Mアルギニン、および0.3 Mプロリンは特に強力であった。
【0041】
15種類の賦形剤の存在下において90%またはそれ以上のトキソイドB凝集阻害が生じた(表2)。0.3 Mヒスチジンまたは0.2 Mクエン酸ナトリウムが存在した場合、OD 350 nmが即時に高値となった。それ以外の20種類の化合物では観察期間中、凝集がより段階的に誘発された。0.015 M塩化カルシウム、0.15 Mアスコルビン酸、および0.3 Mアルギニンの存在下では、極度に高いOD 350 nmの上昇が認められた。
【0042】
多くの場合、両トキソイドの凝集は同一の賦形剤により促進された(表1および表2)。対照的に、5% 2-OHプロピルγ-CD、0.01%および0.1%ツイーン20、0.15 Mアスパラギン酸、および0.3 MグアニジンではトキソイドBの凝集のみが促進された。さらに、0.015 M塩化カルシウムが存在した場合、トキソイドAよりもトキソイドBで凝集度がはるかに大きかった。これは、塩化カルシウムの存在下では毒素AのC末端領域の熱安定性が上昇することがわかっていることと関連している可能性がある(Demarest et al., Journal of Molecular Biology 346(5):1197-1206, 2005)。溶質により誘起される凝集に対する反応にトキソイド間で差があることは、おそらく対応する毒素間に構造的な相違があることに関連があると思われる(Warny et al., Lancet 366(9491):1079-1084, 2005; Just et al., Reviews of Physiology, Biochemistry and Pharmacology 152:23-47, 2005)。被験化合物にイノシトールリン酸が入っていないことは、観察されたトキソイドの凝集が自己触媒的切断を伴わないことを示唆するものである(Reineke et al., Nature (London, United Kingdom) 446(7134):415-419, 2007)。トキソイドの凝集は、ほとんどの被験炭水化物、界面活性剤、シクロデキストリンにより阻害された。以下の賦形剤は両トキソイドの凝集を効率的に阻害することが確認された:20%トレハロース、20%スクロース、10%ソルビトール、10%デキストロース、および20%グリセロール。
【0043】
上記の炭水化物、ソルビトール、グリセロール、2種の表面活性剤(0.05%/0.1%ツイーン80および0.1%プルロニックF-68)についてさらに、ANS蛍光、加熱時のCDシグナル変化、DSCを観察することにより、pH 6.5においてタンパク質の二次構造および三次構造を安定化させる能力を調べた(図1および図2)。トキソイドAでは20%スクロースおよび20%トレハロースが存在した場合、二次構造変化の早期発生が認められ、残りの賦形剤により熱転移が約2℃遅延した(図1a)。驚くべきことに、トキソイドBでは20%スクロースが存在した場合にのみ、二次構造変化の早期発生が認められ、残りの賦形剤により熱転移が約1℃遅延した(図2a)。トレハロースおよび/またはスクロースの存在下において、トキソイドの二次構造変化の早期発生が認められたことは、これらの溶質により部分的に折り畳みがほどけた状態が安定化したことによって説明できる。さらに、トキソイドは多糖類がそのC末端炭水化物認識反復配列に結合する際、部分的に折り畳みがほどけた状態にある可能性(Greco et al., Nature Structural & Molecular Biology 3(5):460-461, 2006)も除外できない。この2番目の機序により構造の不安定化が生じた場合、トレハロースの存在下においてこれら2つのトキソイドの挙動に差があることは、トキソイド間の構造的相違(C末端領域はトキソイドAでは30反復、トキソイドBでは19反復を有する)に関連している可能性がある(Just et al., Reviews of Physiology, Biochemistry and Pharmacology 152:23-47, 2005)。単糖(デキストロース)が両トキソイドの二次構造に対して安定化作用を及ぼすことがわかったのは興味深い。温度誘起による両トキソイドの折り畳みがほどけることとそれに関連するANSの結合は化合物の存在による影響を受けなかった(図1b、図2b)。界面活性剤が温度誘起によるトキソイドの折り畳みがほどけることに及ぼす影響をDSCにより観察したが、有意には見えなかった(図1c、図2c、表3)。これらの知見から示唆されることは、賦形剤は十分解説された選択的除外機序によりトキソイドの構造を強力に安定化するものではなく、むしろタンパク質結合を担うタンパク質/タンパク質相互作用の直接遮断といった他の機序によりその凝集を阻害するということである(Timasheff, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99(15):9721-9726, 2002; Timasheff, Advances in Protein Chemistry 51(Linkage Thermodynamics of Macromolecular Interactions):355-432, 1998)。
【0044】
より活性の高い薬剤の組み合わせが二次構造に及ぼす影響を調べるため、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80の合剤から得られた結果についてトキソイドの熱転移をCDで、凝集をOD 350 nmで観察することにより特徴分析を行った(図3および図4)。ツイーン80(0.05%または0.1%)の単独溶液またはソルビトールおよび/またはデキストロースを含む溶液を加熱することにより、そのミセル構造に変化が生じ、この変化はCDシグナルの低下およびOD 350 nmで観察された光散乱の増加によって明らかにされた(図5)。賦形剤の濃度は熱転移の温度に対しほぼ線形の影響を及ぼした(図6)。これは、賦形剤はタンパク質結合を直接阻害することによって凝集を阻止するという仮説を裏付けるものである。表4および表5に、賦形剤が熱転移に及ぼす影響をまとめる。10%デキストロースと10%ソルビトールを併用した場合、0.05%ツイーン80が存在しても存在しなくても、両トキソイドの熱転移の中点は最大限まで遅延する傾向がある(トキソイドAでは約4℃、トキソイドBでは約10℃)(図3)。このことは、安定化化合物の相乗効果および/またはより高い総濃度のいずれかによって説明が可能である。トキソイドBの場合、同合剤の存在下で転移の発生温度は遅延しなかったが、熱転移の中点は有意に遅延した。これは2種またはそれ以上の賦形剤の存在下ではトキソイドBの折り畳みがほどけることがより段階的であったことに関連している可能性があった。トキソイドAでは安定化化合物の存在下で凝集(OD 350 nmにより観察)の有意な遅延が認められた(図4a)。賦形剤の存在下および不在下におけるトキソイドの流体力学的直径も動的光散乱法(DLS)により観察した(図7)。トキソイドAでは賦形剤の存在下で、以前に認められた流体力学的直径増加の発生遅延が認められたが(図7a〜c)、トキソイドBで認められた影響はそれよりも小さかった(図7d〜f)。これらの知見は、本試験の対象となったワクチン賦形剤となりうる化合物の特定の組み合わせは、選択的水和の機序とタンパク質結合の直接阻害の両方によりタンパク質の構造を安定化させることを示唆している。そういった安定化化合物を使用することによって、保存中のトキソイドの物理的安定性を向上させることが可能である。
【0045】
撹拌試験
保存用バイアル内壁へのタンパク質吸着、不溶性凝集物の形成、およびタンパク質熱安定性の変化を観察することにより、トキソイドの物理的安定性に撹拌が及ぼす効果を調べた。賦形剤が存在しても不在でも、タンパク質濃度、OD 350 nm、CD融解物に有意な変化が認められなかったことから、この撹拌による負荷を加えた場合トキソイドに重大な物理的変化は生じないことがわかった。
【0046】
アジュバント試験
アジュバント結合等温線により、トキソイドは低濃度でAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に効率的に結合し、より高いタンパク質濃度で結合が飽和されることが明らかになった(図8a)。0.5 mg/mlのトキソイドはAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に95%またはそれ以上結合するため、DSCを用いてアジュバントの表面上におけるタンパク質の安定性を直接観察することが可能である。2 M NaClを添加した場合にトキソイド脱着が認められなかったことは、トキソイドとAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)の相互作用は、タンパク質/水酸化アルミニウム相互作用においてしばしば観察されるように、単に静電的ではないことを示している(図8b;Gupta et al., Pharmaceutical Biotechnology 6:229-248, 1995; Seeber et al., Vaccine 9(3):201-203, 1991; White et al., Developments in Biologicals (Basel, Switzerland) 103 (Physico-Chemical Procedures for the Characterization of Vaccines):217-228, 2000)。
【0047】
トキソイドAではAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)への結合時、その熱安定性に検出可能な変化は認められなかったが、アジュバントに結合したトキソイドBではTmが約1.4℃まで低下した。ほとんどの賦形剤の存在下で、Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの分画は若干減少した(表6および表7)。このことは、賦形剤がおそらくタンパク質および/またはアジュバントと直接相互作用することにより、トキソイドのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)結合を部分的に妨害することを示唆している。表6(トキソイドA)および表7(トキソイドB)に、賦形剤の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したタンパク質の熱安定性をまとめる。賦形剤が存在した場合、転移温度の低下または上昇のいずれかにより、アジュバント結合トキソイドの熱安定性が妨害される。10%ソルビトールの存在下では両トキソイドにおいて熱安定性の低下が認められたが、10%ソルビトールおよび10%デキストロースの存在下ではトキソイドBの熱安定性だけが低下した。さらに、ツイーン80はアジュバント結合トキソイドBの場合にしか安定化作用を示さなかった。一方、デキストロース(10%)は両トキソイドの熱安定性に安定化作用を示した。興味深いことに、3種の賦形剤の併用(10%ソルビトールおよび10%デキストロースに0.05%または0.1%ツイーン80を併用)により、両アジュバント結合トキソイドの熱転移が3〜4℃上昇する傾向があった。
【0048】
結論
系統的な方法で安定化剤スクリーニングを行い、クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB両方の熱安定性を改善させる賦形剤を特定した。選択した賦形剤の存在下でAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの試験を行い、アジュバント結合タンパク質の物理的安定性を改善させる条件を特定した。本試験では、保存安定性の高い製剤の設計に利用することが可能なさまざまな条件下(温度、溶質)におけるトキソイドの物理的挙動に関する情報も得られた。
【0049】
実施例II
C.ディフィシレトキソイドワクチンの安定性および免疫原性プロファイルの改善を目指し、同ワクチンの製剤に加える別の変更について研究を行った。同ワクチンを用いて得られた今日までの前臨床および臨床データは、安定性および免疫原性プロファイルの改善が今後の臨床試験を支えるにあたって重要となることを示すものであった。
【0050】
pH
最大限の安定性をもたらすpHを決定することは製剤改善の試みの一環であった。試験はpH 5.5〜7.5の範囲で-65℃、5℃、25℃、および37℃にて最高28日間保存した液体試料を用いて行った。安定性プロファイルを確認するため、以下の方法を用いた。
1. 円偏光二色性(CD)分光法(二次構造の変化)
2. 円偏光二色性(CD)分光法(融解温度Tmの変化)
3. 分光測光法(OD 350 nm)およびサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)(凝集物形成)
【0051】
トキソイドAではpH 6.0を超えた場合、トキソイドBでは被験pH範囲全体においてCDスペクトルで二次構造の変化は認められなかった(図9および図10; Salnikova et al., J. Pharm. Sci. 97(9):3735-3752, 2008)。CD測定から取得した融解点データにより、両トキソイドの安定性はpH 7.0を超えると最大になることが明らかになった(図11および図12)。
【0052】
凝集物形成(モノマー率[%])および面積回復率(%)についてSEC-HPLCにより分析を行ったところ、pH 6〜7.5の範囲におけるトキソイドAおよびBの凝集状態は、≦-60℃の範囲ではほとんど差がなかった。しかし、温度が上昇した場合(特に5℃を超えた場合)、このpH範囲における凝集状態の差はより明白になり、pH値が低いほど凝集レベルが大きく変化する傾向があった。Salnikovaら(J. Pharm. Sci. 97(9):3735-3752, 2008)が述べたように、これにはより低いpH値において350 nmにおける光学密度の増加を伴う。
【0053】
固定保存温度(≦-60℃)でさまざまなpH値において凝集を経時的に評価したところ(図13)、その結果から凝集状態は超低温で非常に安定していることが示され、低pH値(<pH 7.0)では凝集が促進されることが示唆された。これらのデータを念頭に置き、ワクチン原料を保存するpHを7.5と仮に定めた。
【0054】
イオン強度
最大限の安定性をもたらすイオン強度を決定することも製剤改善の試みの一環であった。試験はさまざまな濃度(0〜300 mM)の塩化ナトリウムとともに、20 mMクエン酸ナトリウム緩衝剤(pH 7.25)中、-65℃、5℃、25℃、および37℃で最大28日間保存した液体試料を用いて行った。また、NaClを5%スクロースに置き換えて試験を行った。安定性プロファイルを確認するために使用した方法はSEC-HPLC、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)、および外観であった。
【0055】
SDS-PAGEまたは外観によっては明らかな差は認められなかった。SEC-HPLCでは高い塩濃度でトキソイドBの凝集がはっきり認められた。トキソイドAの凝集は時間および温度依存性のように見え、唯一分かる作用は50 mM NaClで認められた。トキソイドの安定性を最大にするには、0〜50 mM塩化ナトリウムまたは5%スクロースを添加すべきであることがデータから示される(図14および図15)。
【0056】
緩衝剤の変更および賦形剤の添加
緩衝剤および賦形剤がトキソイドの安定性に及ぼす影響を評価するために予備試験を行った。表8および表9に示すように、経時的なトキソイドの回復率(%)で測定した場合、HPLC-SECから得られたデータは、クエン酸ナトリウム緩衝剤に賦形剤としてソルビトールを加えることにより、安定性が最大になることを示している。
【0057】
凍結乾燥製剤の評価
第II相臨床試験において安定しているであろう凍結乾燥製剤を特定するため、本発明者らはハムスター免疫原性試験を行った。その理由はこの試験が臨床免疫原性に関連する製品変更に対して最高の感度を示す前臨床試験であるからである。予備試験から得たデータにより、緩衝剤としてクエン酸ナトリウムを使用し、安定化賦形剤としてソルビトールを使用する賦形剤スクリーニング試験を行うことになった。ソルビトール製剤ではTg'が低く、凍結乾燥時間が長かったことから、凍結乾燥製剤に含まれるソルビトールの代わりとして、スクロースを安定化賦形剤として導入した。並行試験から得られたデータに基づき、リン酸カリウム緩衝剤およびトレハロースを使用して2番目の凍結乾燥/賦形剤スクリーニング試験も行った。これらの試験および過去の実験データにより、3種の主要製剤、すなわち液体製剤1種および凍結乾燥製剤2種が浮上した。
【0058】
凍結乾燥製剤を調製し、その安定性を実時間条件および加速条件下で評価した。トキソイドAおよびBの個々の安定性プロファイルをさらに綿密に調べるため、これらを別々に保存した。1つの製剤(凍結乾燥、20 mMクエン酸、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5)を-65℃、5℃、または42℃で3ヶ月間保存した後、得られた性状データおよびハムスター免疫原性データを以下に示す。試験開始時および-65℃、5℃、または42℃で3ヶ月間保存した後、製剤間に性状の差はほとんどまたはまったく認められない(表10および表11)。さらに、ハムスター免疫反応について、5℃および42℃で7ヶ月間保存した場合、製剤間に有意差は認められず、同一製剤にホルムアルデヒドを添加した場合と添加しない場合でも有意差は認められない。42℃での保存は高度負荷条件であり、保存中に変化が認められないことから、この結果より製剤はこれよりも低い温度ではさらに相当長期間安定している可能性が非常に高いと言える。しかし、有効期間の推定を目的としたデータに関して統計学的に優れた解析を行うには、割合を計算できるような何らかの定量化可能な変化が観察されることが必要である。現在に至るまで変化が認められないことから、真の割合を計算することは不可能である。これらのデータを考慮し、本発明者らは、20 mMクエン酸、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5中に溶解したC.ディフィシレトキソイドAおよびBからなる凍結乾燥製剤(2〜8℃で保存)を使用することにする。
【0059】
本報告書にて詳述した安定性試験で使用される製剤は、表12にまとめた凍結乾燥サイクルにより調製した。このサイクルでは固体で白色の洗練されたケーキが製造されたが、ピラニ真空計の測定値が低下し、マノメーターの測定値と同等になったことから判断されるように、このサイクルは一次乾燥完了のまさに境界にあった(図16)。この懸念に取り組み、より規模調整可能な工程を作成するため、以下の非常に重要な変更を凍結乾燥サイクルに加えた。
1. より大きな規模での一次乾燥中に確実に製剤物質が凍結状態を保つよう、棚温度を-35℃に下げた。
2. より大きな規模で一次乾燥が確実に完了するよう、一次乾燥を4000分間に延長した。
3. 乾燥を促進し、より規模調整可能な工程を可能にするため、真空度を100 mTに上昇させた。
【0060】
表13に、GMP臨床ロットの処理のためAlthea Technologies社に移管された凍結乾燥サイクルの概要を示す。
【0061】
物理化学的および生物学的特性の要約
実験によって確認されたワクチンの重要な物理化学的および生物学的特性を以下にまとめる。
【0062】
化学的に、このワクチンはC.ディフィシレ毒素AおよびB(それぞれ3:2の割合で存在)の不活化型(トキソイド)を含む。C.ディフィシレ毒素AおよびBはそれぞれ308 kDa、270 kDaの大きなタンパク質であり、構造は類似しているもののはっきり識別できる。
【0063】
物理的に、このワクチンは純度≧90%の溶液として提供され、測定可能な凝集を示す証拠はない。
【0064】
生化学的に、このワクチンのトキソイドAおよびBはウエスタンブロット分析において、その個々の毒素AまたはBに特異的な抗体に対して免疫学的に反応する。
【0065】
生物学的に、このワクチンはハムスターにおいて免疫原性であり、一貫した用量依存性の血清抗体反応を誘発する。ワクチンのトキソイドAおよびBには細胞毒性活性がない。ワクチンのトキソイドA成分は天然の毒素Aで認められるような受容体結合活性を若干保持している。
【0066】
このワクチンは、20 mMクエン酸ナトリウム(pH 7.5)、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒドから構成される緩衝剤中の凍結乾燥製剤として提供される。本製剤は2〜8℃で保存する。
【0067】
凍結乾燥スクリーニング試験
凍結乾燥製剤のスクリーニングを行うため、ハムスター免疫原性を利用して評価を行った。凍結乾燥はFTS LyoStar IIで行った。凍結は、強制的に製剤温度をTg'未満にするのに十分なまで棚温度を下げることにより達成した。一次乾燥は真空に引き、自由水が昇華されるまで維持することによって開始した。次に棚温度を上昇させ二次乾燥を開始し、温度を維持して吸着水を除去することによりさらに製剤を乾燥させた。製剤は5℃、25℃、および42℃の温度条件で安定状態に置かれた。
【0068】
(表1)GRAS賦形剤がトキソイドAの凝集に及ぼす影響。凝集を遅延する/阻止する化合物はプラスの凝集阻害値(%)を有し、凝集を誘起する化合物はマイナスの凝集阻害値(%)を有する。
不確定度は±1%のオーダーである。*高い初期OD 350 nm。
【0069】
(表2)GRAS賦形剤がトキソイドBの凝集に及ぼす影響。凝集を遅延する/阻止する化合物はプラスの凝集阻害値(%)を有し、凝集を誘起する化合物はマイナスの凝集阻害値(%)を有する。
不確定度は±1%のオーダーである。*高い初期OD 350 nm。
【0070】
(表3)溶質(界面活性剤)がトキソイドAおよびBの熱安定性に及ぼす影響。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移の最大ピークの位置に対応する温度である。
【0071】
(表4)賦形剤がトキソイドAの熱転移温度中点(Tm)に及ぼす影響。温度の関数として208 nmでのCDシグナルにより熱転移を観察した。各測定は二重に行った。各測定にはおよそ0.5℃の不確定度がある。
【0072】
(表5)賦形剤がトキソイドBの熱転移温度中点(Tm)に及ぼす影響。温度の関数として208 nmでのCDシグナルにより熱転移を観察した。各測定は二重に行った。各測定にはおよそ0.5℃の不確定度がある。
【0073】
(表6)賦形剤の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドAの熱安定性(特別の定めのない限り)。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移のピーク位置に対応する温度を示す。アジュバントに結合したトキソイドの割合(%)を各条件において1%の不確定度で測定した。各条件を二重に試験した。
【0074】
(表7)溶質の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドBの熱安定性(特別の定めのない限り)。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移のピーク位置に対応する温度を示す。アジュバントに結合したタンパク質の割合(%)を各条件下、1%の不確定度で測定した。各条件を二重に試験した。
【0075】
(表8)
【0076】
(表9)
【0077】
(表10)異なる温度で保存後の凍結乾燥製剤の性状
【0078】
(表11)異なる温度で保存後の凍結乾燥製剤の免疫原性(ハムスターにおける血清抗毒素AおよびB IgGの力価)。
H2CO = ホルムアルデヒド
【0079】
(表12)
【0080】
(表13)
【0081】
上記で引用されている全ての参考文献の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。「一つの(a)」および「その(the)」などの、本明細書における単数形の使用は、文脈上反対のことを指し示している場合を除き、対応する複数形の指示を除外するものではない。したがって、例えば、特許請求の範囲により「一つの(a)」毒素、トキソイドまたは賦形剤の使用が示されているなら、それは、他に指定のない限り、二つ以上の毒素、トキソイドまたは賦形剤の使用を網羅するものと解釈することもできる。他の態様は以下の特許請求の範囲内である。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)トキソイドを含む組成物および対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
クロストリジウム・ディフィシレ(C.ディフィシレ)毒素AおよびBは、院内下痢症および偽膜性大腸炎として現れるC.ディフィシレ関連疾患(CDAD)に関与している(Kuijper et al., Clinical Microbiology and Infection 12(Suppl. 6):2-18, 2006(非特許文献1); Drudy et al., International Journal of Infectious Diseases 11(1):5-10, 2007(非特許文献2); Warny et al., Lancet 366(9491): 1079-1084, 2005(非特許文献3); Dove et al., Infection and Immunity 58(2):480-488, 1990(非特許文献4); Barroso et al., Nucleic Acids Research 18(13):4004, 1990(非特許文献5))。これらの毒素をホルムアルデヒドで処理することにより、完全に不活性化され、かつ少なくとも部分的な免疫原性を保持した、対応するトキソイドAおよびBが生じる(Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995(非特許文献6))。両方のトキソイドを利用したワクチン接種はハムスター、成人健常者、および再発性CDADを有する患者において有効であることが明らかにされている(Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995(非特許文献6); Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001(非特許文献7); Sougioultzis et al., Gastroenterology 128(3):764-770, 2005(非特許文献8); Torres et al., Vaccine Research 5(3):149-162, 1996(非特許文献9))。さらに、遊離およびアルミニウム塩(アジュバント)結合トキソイドの投与によって適切な免疫反応が起こる(Torres et al., Vaccine Research 5(3): 149-162, 1996(非特許文献9); Giannasca et al., Infection and Immunity 67(2):527-538, 1999(非特許文献10))。両トキソイドの同時投与は、個々のタンパク質のみの投与よりも有効である(Kim et al., Infection and Immunity 55(12):2984-2992, 1987(非特許文献11))。したがってAトキソイドもBトキソイドもともにワクチン開発の候補である。その立体構造完全性の改善および/またはその凝集傾向の低減は最適な保存安定性を生み出すのに望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kuijper et al., Clinical Microbiology and Infection 12(Suppl. 6):2-18, 2006
【非特許文献2】Drudy et al., International Journal of Infectious Diseases 11(1):5-10, 2007
【非特許文献3】Warny et al., Lancet 366(9491): 1079-1084, 2005
【非特許文献4】Dove et al., Infection and Immunity 58(2):480-488, 1990
【非特許文献5】Barroso et al., Nucleic Acids Research 18(13):4004, 1990
【非特許文献6】Torres et al., Infection and Immunity 63(12):4619-4627, 1995
【非特許文献7】Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001
【非特許文献8】Sougioultzis et al., Gastroenterology 128(3):764-770, 2005
【非特許文献9】Torres et al., Vaccine Research 5(3):149-162, 1996
【非特許文献10】Giannasca et al., Infection and Immunity 67(2):527-538, 1999
【非特許文献11】Kim et al., Infection and Immunity 55(12):2984-2992, 1987
【発明の概要】
【0004】
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイド(例えば、トキソイドAおよびBが、例えば、5:1〜1:5、例えば3:2(A:B)の比率で存在している、C.ディフィシレ毒素Aおよび/またはBのトキソイド)と、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延するならびに/または毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大する、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物(例えば、ワクチン組成物)などの、組成物を提供する。一つの例では、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/またはトキソイドの凝集を50%またはそれ以上だけ低減するまたは遅延する。別の例では、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/またはトキソイドの熱安定性を0.5℃またはそれ以上だけ増大する。任意で、本発明の組成物はアジュバント(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、またはヒドロキシリン酸アルミニウム化合物などのアルミニウム化合物)を含んでもよい。組成物は、液体形態、乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、または泡乾燥形態であることができる。
【0005】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、例えば、緩衝剤、等張化剤(tonicity agent)、単純炭水化物(simple carbohydrate)、糖、炭水化物重合体、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリアミノ酸、多価アルコールおよびそれらのエーテル、界面活性剤、脂質、表面活性剤、酸化防止剤、塩、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、ホルムアルデヒド、またはそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。各種例では、(i)緩衝剤は、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、および重炭酸塩からなる群より選択され、5〜100 mMの濃度であり、(ii)等張化剤は、1〜50 mMの濃度で、マンニトールであり;(iii)糖は、1〜30%の濃度で、ソルビトール、トレハロース、およびスクロースより選択され;(iv)アミノ酸、オリゴペプチド、またはポリアミノ酸は最大100 mMの濃度で存在し;(v)多価アルコールは、最大20%の濃度で、分子量200〜10,000のグリセロール、ポリエチレングリコール、およびそれらのエーテルからなる群より選択され;(vi)界面活性剤および脂質は、最大0.5%の濃度で、デオキシコール酸ナトリウム、ツイーン(Tween)20、ツイーン80、およびプルロニック(pluronic)からなる群より選択され;(vii)炭水化物重合体はデキストランおよびセルロースより選択され;(viii)塩は、最大150 mMで、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、および酢酸マグネシウムからなる群より選択され; ならびに(ix)ホルムアルデヒドは0.001〜0.02%で存在する。
【0006】
そのような賦形剤の具体例としては、表1、表2、表8、または表9に記載のものが挙げられる。他の例では、組成物は、任意によりスクロースおよび/またはホルムアルデヒドとの組み合わせで、クエン酸ナトリウムもしくはカリウム、および/またはリン酸ナトリウムもしくはカリウムを含む。したがって、各種例では、組成物は、クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mM(例えば、10〜30 mMまたは20 mM)のクエン酸(またはリン酸)ナトリウムまたはカリウム、2〜20%(例えば、2〜10%または5%)のスクロース、ならびに0.020%以下(≦0.020%)(例えば、0.016%)のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5(例えば、6.5〜8.0または7.5)を含む。他の例では、ソルビトール、デキストロース、および/またはツイーン80の組み合わせが用いられる。
【0007】
本発明はまた、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドと、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素および/もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延する、ならびに/または毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大する、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物を作出する方法を提供する。これらの方法は、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを提供する段階およびクロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを、本明細書において記述されるものなどの、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と混合する段階を含む。組成物は、本明細書において記述されるように、液体形態で保存されてもよく、または凍結乾燥されてもよい。
【0008】
本発明はさらに、本明細書において記述の組成物を被験体に投与する段階を伴う、被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する方法を提供する。一つの例では、患者はC.ディフィシレ疾患を抱えていないが、その疾患を発症するリスクがあり、別の例では、患者はC.ディフィシレ疾患を抱えている。さらに、本発明は、被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する際の、またはこの目的に用いるための薬物の調製での、本発明の組成物の使用を含む。
【0009】
本発明はいくつかの利点を提供する。例えば、本明細書において記述される賦形剤の使用は、トキソイドを含む薬学的産物(例えば、ワクチン)の産生に重要である、C.ディフィシレトキソイドAおよびBの物理的安定性の増大ならびに/または凝集の低減もしくは遅延をもたらすことができる。さらに、本発明の比率(例えば、3:2のA:B)を使用することおよび投与の直前にアジュバントを添加する(保存ワクチンを処方する際ではなく)ことにより、免疫原性の増大をもたらすことができる。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トキソイドA(x)の、20%トレハロース(□)、20%スクロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロース(●)、20%グリセロール(△)、0.05%ツイーン80(▲)、0.1%プルロニックF68(◇)の存在下での、構造安定性に及ぼす溶質作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナル;(c)ANS発光強度;(d)ANS発光ピーク位置; および(b)DSCサーモグラム。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図2】トキソイドB(x)の、20%トレハロース(□)、20%スクロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロース(●)、20%グリセロール(△)、0.05%ツイーン80(▲)、0.1%プルロニックF68(◇)の存在下での、構造安定性に及ぼす溶質作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナル;(c)ANS発光強度;(d)ANS発光ピーク位置; および(b)DSCサーモグラム。温度の記録は測定2回の平均を表す。各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図3】トキソイドA(x)の、10%ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(□)、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での、熱安定性に及ぼす溶質の組み合わせの作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナルによって観察した、および(b)OD 350 nm。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.05未満であった。
【図4】トキソイドB(x)の、10%ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(□)、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での、熱安定性に及ぼす溶質の組み合わせおよびその作用に関する試験:(a)208 nmでのCDシグナルによって観察した、および(b)OD 350 nm。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.05未満であった。
【図5】温度の関数としての、ツイーン80(□)の、10%デキストロース(■)、10%ソルビトール(○)、10%デキストロースおよび10%ソルビトール(●)の存在下での特性に関する試験: 0.05%ツイーン80(a)および0.1%ツイーン80(b)の208 nm CDシグナル; 0.05%ツイーン80(c)および0.1%ツイーン80(d)のOD 350 nm; 0.05%ツイーン80(e)および0.1%ツイーン80(f)のMSD数(黒四角)に基づくおよび対数正規数(黒菱形)に基づく流体力学直径。DLS測定の性質を考慮すると、1 μm超(>)のサイズは正確ではない。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図6】ソルビトールおよび0.05%ツイーン80(◆)、デキストロースおよび0.05%ツイーン80(■)、ソルビトール、デキストロースおよび0.05%ツイーン80(▲)、ソルビトール、デキストロースおよび0.1%ツイーン80(x)、ソルビトールおよびデキストロース(◇)の存在下でのトキソイドA(a)およびトキソイドB(b)についてCD 208 nmのシグナルで観察した熱転移の中点(Tm)に及ぼす溶質濃度の作用に関する試験。
【図7】トキソイドA(a〜c)およびトキソイドB(d〜f)についての温度の関数としての流体力学直径。図中で黒四角はMSD数に基づく直径を表し、黒菱形は対数正規数に基づく直径を表す。DLS測定の性質を考慮すると、1 μm超(>)のサイズは正確ではない。(a,d)タンパク質のみ;(b,e)10%ソルビトールおよび10%デキストロースの存在下のタンパク質;(c,f)10%ソルビトール、10%デキストロースおよび0.05%ツイーン80の存在下のタンパク質。温度の記録は測定2回の平均を表し、ここで各データ点は標準誤差0.5未満であった。
【図8】Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)結合試験: トキソイドA(◇)およびトキソイドB(▲)についての2 M NaClの存在下での(a)吸着等温線および(b)脱着等温線。
【図9】pH領域5.5〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドAの二次構造に関する試験。
【図10】pH領域5.5〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドBの二次構造に関する試験。
【図11】pH領域5.5〜8.0にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドAの融解温度に関する試験。
【図12】pH領域5.0〜7.5にわたる円偏光二色性(CD)分光法によるトキソイドBの融解温度に関する試験。
【図13】固定保存温度でさまざまなpH値での経時的な凝集に関する試験。
【図14】37℃でのトキソイドAの塩依存性の凝集に関する経時的試験。
【図15】37℃でのトキソイドBの塩依存性の凝集に関する経時的試験。
【図16】ワクチン製剤の凍結乾燥パラメータに関する試験。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、クロストリジウム・ディフィシレ毒素および/またはトキソイドならびに有益な特性を組成物にもたらす一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む組成物を提供する。例えば、および以下でさらに記述されるように、本発明の組成物に含まれる賦形剤は、組成物のトキソイド成分の一つもしくは複数の安定性の増大および/またはトキソイドの凝集の低減もしくは遅延をもたらすことができる。
【0013】
本発明の組成物に含めることができるC.ディフィシレトキソイドは、当技術分野において公知のいくつかの方法のいずれかを用いて作出することができる。例えば、ホルムアルデヒドによる不活性化を伴う方法を用いることができる(例えば、Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001を参照のこと)。好ましくは、組成物にはトキソイドAもトキソイドBもともに含まれるが、これらのトキソイドの一方のみを含む組成物も本発明に含まれる。毒素の供給源として使用できる例示的なC.ディフィシレ菌株はATCC 43255(VPI 10463)である。これらのトキソイドはさまざまな比率、例えば、5:1(A:B)〜1:5(A:B)で組成物に存在することができる。具体例では、比率は2:1、3:1、または3:2(A:B)でありうる。本発明の組成物中のトキソイドの総量は、例えば、100 ng〜1 mg、100 ng〜500 μg、1〜250 μg、10〜100 μg、25〜75 μg、または50 μgでありうる。組成物は任意で一単位投与量としてバイアル中に保存されてもよい。
【0014】
本発明の組成物は、例えば、緩衝剤(例えば、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、もしくは重炭酸塩; 5〜100 mM; 使用できるクエン酸塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、および亜鉛塩が挙げられる); 等張化剤(例えば、マンニトール; 1〜50 mM); 糖もしくは糖アルコール(例えば、ソルビトール、トレハロース、もしくはスクロース; 1〜30%)または炭水化物重合体(例えば、デキストランおよびセルロース)などの、炭水化物; アミノ酸、オリゴペプチド、もしくはポリアミノ酸(最大100 mM); 多価アルコール(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール、もしくはそれらのエーテル、分子量200〜10,000、および濃度最大20%); 界面活性剤、脂質、もしくは表面活性剤(例えば、最大0.5%の濃度のツイーン20、ツイーン80、もしくはプルロニック); 酸化防止剤; 塩(例えば、最大150 mMの塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、もしくは酢酸マグネシウム); アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン); ゼラチン; ホルムアルデヒド(0.001〜0.02%); あるいはそれらの組み合わせなどの、一つまたは複数の化合物を含む。
【0015】
本発明の組成物に使用できる賦形剤の例としては、以下の表1、2、8、および9に記載されているものが挙げられる。各種例では、賦形剤は、(i)例えば、下記の試験法(例えば、示差走査熱量測定法(DSC))によって測定されるように(例えば、少なくとも0.5℃、例えば、0.5〜5℃、1〜4℃、もしくは2〜3℃の)熱安定性の増大、および/または(ii)例えば、下記の試験法によって測定されるように、例えば、50%もしくはそれ以上(例えば、60%もしくはそれ以上、70%もしくはそれ以上、80%もしくはそれ以上、90%もしくはそれ以上、95%もしくはそれ以上、98%もしくはそれ以上、99%もしくはそれ以上、または100%)のトキソイドA、トキソイドB、もしくはトキソイドAとトキソイドBの両方の凝集の低減もしくは遅延をもたらすものでありうる。トキソイド凝集物を含む組成物も本発明に含まれる。
【0016】
したがって例示的な賦形剤および緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム(例えば、0.01〜0.2 M、例えば、0.02〜0.1 M)、スクロース(例えば、1〜20%または5〜10%)、ソルビトール(例えば、4〜20%または5〜10%)、トレハロース(例えば、4〜20%または5〜10%)、ツイーン80(例えば、0.05〜0.1%)、ジエタノールアミン(例えば、0.3 M)、ヒスチジン(例えば、0.02〜0.3 M)、グアニジン(例えば、0.3 M)、デキストロース(例えば、5〜20%)、グリセロール(例えば、20%)、アルブミン(例えば、1〜2.5%)、ラクトース(例えば、10〜20%)、マンニトール(例えば、10%)、スクロース(例えば、5〜20%)、プルロニックF-68(例えば、0.1%)、2-OHプロピルβ-CD(例えば、5〜10%)、デキストランT40(例えば、0.03〜0.08 mg/ml)、Brij(例えば、0.01〜0.1%)、リジン(例えば、0.3 M)、ツイーン20(例えば、0.01〜0.05%)、およびアスパラギン酸(例えば、0.15 M)(表1、2、8、および9参照)が挙げられる。これらの賦形剤は、表に記載した濃度で本発明において用いることができる。あるいは、当技術分野において理解されているように、例えば0.1〜10倍だけ、それらの量を変化させることもできる。当技術分野において公知である他の炭水化物、糖アルコール、表面活性剤、およびアミノ酸を本発明の組成物に含めることもできる。
【0017】
賦形剤および緩衝剤は個別にまたは組み合わせて用いることができる。組み合わせの一例として、組成物は、トキソイド安定性に関して利益をもたらすことが明らかにされている、クエン酸ナトリウムおよびスクロースを含むことができる。これらの成分の量は、例えば、10〜30 mM、15〜25 mM、または20 mMのクエン酸ナトリウム; および1〜20%または5〜10%スクロースでありうる。これらの成分に加えて、そのような組成物は、0.001〜0.020、0.01〜0.018、もしくは0.16%のホルムアルデヒドなどの、少量のホルムアルデヒドを含むことができる。そのような組成物のpHは、例えば、5.5〜8.0または6.5〜7.5であることができ、組成物は液体形態または凍結乾燥形態で、例えば2〜8℃にて、保存することができる。この組成物の変化形として、クエン酸ナトリウムをリン酸ナトリウム(10〜30 mM、15〜25 mM、もしくは20 mM)と置き換えてもよく、および/またはスクロースをソルビトール(例えば4〜20%もしくは5〜10%)またはトレハロース(例えば4〜20%もしくは5〜10%)と置き換えることもできる。組成物の他の変化形が本発明に含まれ、それは本明細書に記載の他の成分の使用を伴う。上記に基づいて、本発明の例示的な組成物は、20 mMクエン酸ナトリウム、5%スクロース、および0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5を含む。
【0018】
別の例では、組成物は、凝集および安定性に関して利益をもたらすことが明らかにされている組み合わせである、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80を含む(下記参照)。これらの成分の量は、例えば、5〜15%、8〜12%、または10%ソルビトール; 5〜15%、8〜12%、または10%デキストロース; および0.01〜1%、0.025〜0.5%、または0.05〜0.1% ツイーン80でありうる。これらの成分が10%(ソルビトールおよびデキストロース)ならびに0.05〜0.1% ツイーン80)で存在する具体例を後述する。別の例では、賦形剤はデキストロース(10%)およびソルビトール(10%)である。
【0019】
本発明の組成物は液体形態または乾燥形態で保存することができ、後者には例として、凍結乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、および泡乾燥形態が含まれる。したがって、上記のように、一つまたは複数の賦形剤に加えて、本発明の組成物は、例えば、NaCl(例えば、150 mM)を含有するリン酸ナトリウム(例えば、5 mM)で緩衝化できる液体培地(例えば、食塩水または水)を含むことができる。本発明の組成物の例示的なpH範囲は5〜10、例えば、5〜9、5〜8、5.5〜9、6〜7.5、または6.5〜7である。さらに、組成物は一つまたは複数の安定化剤を含むこともできる。他の例では、組成物は凍結乾燥形態で存在し、そのような組成物は投与の前に液体培地(例えば、食塩水または水)の使用によって再構成することができる。
【0020】
本発明の組成物は任意で、トキソイドまたは毒素抗原および上記の賦形剤に加えて、一つまたは複数のアジュバントを含むことができる。本発明において使用できるアジュバントは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、およびヒドロキシリン酸アルミニウムなどの、アルミニウム化合物を含む。標準的な方法を用いて抗原をアルミニウム化合物で沈殿させるか、またはアルミニウム化合物に吸着させることができる。具体例として、ミョウバン(例えば、Rehydragel LV(登録商標), Reheis, Inc., Berkeley Heights, New Jersey; 最大で、例えば、2 mgのAlOH/用量、例えば、約1.5 mgのAlOH/用量; Alhydrogel(登録商標)(例えば、Alhydrogel(登録商標)2%;(水酸化アルミニウムアジュバント)), Brenntag Biosectror, Frederickssund, Denmark(AlOH3))を用いることができる。使用されるアルミニウムの量は、例えば、100〜850 μg/用量、200〜600 μg/用量、または300〜600 μg/用量であることができる。
【0021】
本発明に含まれる製剤に対する一つの取り組みでは、トキソイドおよび賦形剤をともに製剤化すること、次いで投与の直前に、ミョウバンアジュバントなどのアジュバントを加えることを伴う。この取り組みは、以下でさらに記述するように、免疫原性を増大することが見出された。別の取り組みでは、アジュバントを保存の前に製剤に含有させる(液体形態でまたは凍結乾燥形態で)。本発明の組成物および方法に使用できるさらなるアジュバントは、RIBI(ImmunoChem, Hamilton, MT)、QS21(Aquila), Bay(Bayer)およびポリホスファゼン(Virus Research Institute, Cambridge, MA; WO 95/2415)を含む。
【0022】
本発明はまた、本明細書において記述される組成物を作出する方法も含み、これには、例えば、Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001によって記述されているトキソイドの産生、および薬学的製剤の標準的な方法を用いた本明細書に記述の一つまたは複数の賦形剤とのトキソイドの混合が伴われる。上記のように、組成物は液体形態でまたは凍結乾燥形態で保存することができる。凍結乾燥は標準的な方法を用いて行うことができ(例えば、下記例を参照のこと)、凍結乾燥された材料は、投与の前に、アジュバントありまたはなしで滅菌液(例えば、水、食塩水、または任意の所望の賦形剤を含む溶液)中にて再構成することができる。
【0023】
さらに、本発明は、C.ディフィシレ感染または疾患の予防および処置における組成物の使用を含む。したがって、本発明は、再発性CDADなどの、C.ディフィシレ関連疾患(CDAD)ならびに下痢症(例えば、院内下痢症)および偽膜性大腸炎を含むCDADの特徴を予防するまたは処置するための本発明の組成物の投与を含む。当技術分野において公知であるように、CDADは、入院している被験者など、抗生物質による被験者の処置と関連していることが多い。したがって、本発明の処置方法はそのような患者の処置において用いることができる。さらに、本発明による処置を抗生物質(例えばバンコマイシンおよび/もしくはメトロニダゾール)処置ならびに/または受動免疫療法と組み合わせることもできる(例えば、米国特許第6,214,341号を参照のこと)。本発明の投与方法を患者の受動免疫で用いるためのC.ディフィシレ免疫グロブリンの作出において使用することもできる(例えば、米国特許第6,214,341号を参照のこと)。
【0024】
本発明はまた、改善された特性を有するC.ディフィシレ毒素またはトキソイドを含んだ組成物を作出するために使用できる賦形剤を特定する方法も含む。これらの方法には、組成物の毒素および/またはトキソイド成分の一つまたは複数の、凝集の低減もしくは遅延および/または安定性の増大をもたらす条件の特定を円滑にする、以下でさらに記述するものなどの、スクリーニング試験法が伴われる。これらの方法には、以下でさらに記述するように凝集試験法および安定性試験法が含まれる。さらに、本発明は、溶解性、免疫原性、および粘性試験法を含む、望ましい製剤を特定するための他の試験法の使用も含む。
【0025】
本発明の組成物は、例えば、経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)経路により、当業者によって適切であると判定される量でおよび投薬計画で投与することができる。例えば、100 ng〜1 mg、100 ng〜500 μg、1〜250 μg、10〜100 μg、25〜75 μg、または50 μgのトキソイドを投与することができる。予防または治療の目的で、ワクチンを、例えば1、2、3、または4回投与することができる。複数用量を投与する場合、その用量を、例えば1週間〜1ヶ月間、相互に分け隔てることができる。別の例では、各50 μgの4用量を8週間にわたって筋肉内に投与することができる。
【0026】
実施例I
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびBの物理的安定性を向上させる条件を明らかにすべく、安定化化合物のスクリーニングを行った。30種類のGRAS(generally regarded as safe; 一般に安全と認められる)化合物について、さまざまな濃度で数通りの組み合わせにより、2部構成でスクリーニングを行った。まず、ハイスループットな凝集試験により、負荷条件下でトキソイドの凝集を遅延または阻止する化合物のスクリーニングを行った(pH 5〜5.5のトキソイドを55℃で55または75分間インキュベートした)。両タンパク質を安定化させた化合物についてはさらに、未変性様であると推定される折り畳み状態を導く条件下(pH 6.5)で、折り畳みがほどけることを遅延させる能力を調べた。Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)の表面上におけるトキソイドの熱安定性は示差走査熱量測定(DSC)により観察し、特定の賦形剤の存在下における有意な改善も示した。両トキソイドの凝集を効果的に阻害した化合物についてはさらに、これらタンパク質の構造安定性を向上させる能力を調べた。アジュバントに結合したトキソイドの安定化剤を特定するため、選択した賦形剤についてさらにアジュバント結合トキソイドの熱安定性を向上させる能力を調べた。結論として、本試験において、物理的安定性の高い薬学的製剤の設計に利用することが可能なさまざまな条件下(温度および溶質)における遊離型トキソイドおよびアジュバント結合トキソイドの挙動に関する情報が得られた。
【0027】
実験材料および方法
材料
既報の方法(Kotloff et al., Infection and Immunity 69(2):988-995, 2001)を用いて、高度精製型のトキソイドAおよびBを作成した。タンパク質の濃度は280 nmにおける紫外吸光により測定し、濃度1 mg/mLでトキソイドAについては吸光度単位1.173、トキソイドBについては吸光度単位0.967を使用した。使用した試薬はいずれも分析等級のものであり、Sigma社(ミズーリ州St. Louis)から購入した。賦形剤スクリーニング試験には150 mM NaClを含むリン酸ナトリウム緩衝剤(5 mM、pH 5.0、5.5、6.5)を使用した。また、撹拌試験およびアジュバント試験には150 mM NaClを含むリン酸ナトリウム緩衝剤(5 mM、pH 6.5)を使用した。緩衝剤の交換には、Slide-A-Lyzer(登録商標)Dialysis Cassettes, 10 kDa MWCO(Pierce社、イリノイ州Rockford)を使用し、冷蔵温度でタンパク質を透析した。
【0028】
賦形剤スクリーニング試験
凝集試験:約30種類のGRAS(一般に安全と認められる)化合物が持つトキソイドの凝集を阻害する能力について、58種類の濃度で数通りの組み合わせによりスクリーニングを行った。タンパク質の凝集は、96ウェルプレートリーダー(Spectra Max M5、Molecular Devices社、カリフォルニア州Sunnyvale)を用いて350 nmでの光学密度測定(OD 350 nm)により観察した。この凝集試験は、55℃で、トキソイドA(1.2 mg/ml)についてはpH 5.5、トキソイドB(0.5 mg/ml)についてはpH 5.0で行った。これらのタンパク質はこのような条件下において、部分的に折り畳みがほどけ、自然に結合する。したがって、こういった2つの過程を妨害する賦形剤の安定化作用を検出することが可能である。対応するpHで賦形剤を含む96ウェルプレートのウェルにタンパク質を加え、この試料を、トキソイドAの場合は75分間、トキソイドBの場合は55分間、55℃でインキュベートした。5分ごとに350 nmで溶液の光学密度を観察した。同時に、化合物を加えないタンパク質溶液および賦形剤を加えた緩衝剤単独(ブランク)の対照について試験を行った。データ分析前にブランクを差し引くことにより、内因性の緩衝剤-賦形剤挙動について測定値を補正した。各試料の評価は三重に行った。凝集阻害率(%)は以下の式を用いて算出した。
上式で、ΔOD350(E)は賦形剤存在下におけるタンパク質のOD 350 nmの変化を示し、ΔOD350(C)は賦形剤不在下におけるタンパク質のOD 350 nmの変化を示す(Peek et al., Journal of Pharmaceutical Sciences 96(1):44-60, 2006)。
【0029】
構造安定性試験:トキソイド溶液の試験は、CD測定について濃度0.2 mg/ml、蛍光および紫外吸光分析について濃度0.1 mg/mlで行った。この範囲では濃度依存性は認められなかった。測定の再現性を確かめるため、各試料の評価は二重に行った。
【0030】
遠紫外円偏光二色性(CD)分光法:CDスペクトルは6ポジションペルチェ温度コントローラを備えたJasco J-810 分光偏光計を用いて取得した。CDスペクトルは走査速度20 nm/分、積算回数2回、レスポンス時間2秒で260〜190 nmで取得した。208 nmにおけるCDシグナルを昇温速度15℃/時により10〜85℃の温度範囲で0.5℃ごとに観察し、タンパク質の熱転移(融解曲線)を調べた(光路長0.1 cmの密封キュベット内にて)。CDシグナルはJasco Spectral Managerソフトウェアによりモル楕円率に変換した。熱転移の中点温度はOriginソフトウェアを使用し、融解曲線のシグモイドフィッティングにより測定した。
【0031】
ANS蛍光分光法:外因性プローブである8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(8-Anilino-1-naphthalene sulfonate、ANS)の蛍光発光により、タンパク質上における非極性部位のアクセシビリティを観察した。各試料にはタンパク質に対して20倍モル過剰のANSが含まれた。発光スペクトルはステップサイズ2 nm、372 nmでのANS励起後の露光時間1秒とし400〜600 nmで収集した。発光スペクトルは10〜85℃の温度範囲で平衡時間5分とし2.5℃ごとに収集した。各々の対応するpHにおけるANS-緩衝剤ベースラインを生の発光スペクトルから差し引いた。発光スペクトルのピーク位置はOriginソフトウェアを使用し多項式フィットにより測定した。
【0032】
高分解能紫外吸光分光法:高分解能紫外吸光スペクトルはAgilent 8453紫外可視分光光度計を使用して取得した。タンパク質の凝集については、350 nmにおけるODを10〜85℃の温度範囲で2.5℃ごとに観察することにより調べ、各温度で5分間インキュベートした(平衡に達するのに十分である)。
【0033】
動的光散乱法:pH 6.5におけるタンパク質の平均流体力学的直径(単独および賦形剤存在下)を動的光散乱測定器(Brookhaven Instrument社、ニューヨーク州Holtzille)を用いて分析した。この測定器は50 mWダイオード励起レーザー(λ = 532 nm)を備えており、入射光に対して90°で散乱光の観察を行った。自己相関関数はデジタル自動相関計(BI-9000AT)を使用して算出した。流体力学的直径はキュムラント法(対数正規数に基づく)を用いて、Stokes-Einsteinの式による拡散係数から計算した。データは非負制約付き最小二乗アルゴリズムに適応させ、多峰分布(MSD)を算出した。測定器には循環式恒温水槽RTE111(Neslab社、ニューハンプシャー州Newington)が装備されており、10〜85℃の温度範囲で流体力学的直径を観察した。
【0034】
示差走査熱量測定(DSC):DSCはオートサンプラーを備えたMicroCal VPDSC(MicroCal社、マサチューセッツ州Northampton)を使用して行った。60℃/時の走査速度により10〜90℃の範囲において、トキソイド(0.5 mg/ml)のみのサーモグラムおよび賦形剤が存在した場合のトキソイドのサーモグラムを測定した。各スキャンを開始する前に、充填したセルを10℃で15分間平衡化した。分析前に各タンパク質スキャンから緩衝剤単独のサーモグラムを差し引いた。
【0035】
撹拌試験:賦形剤の存在下および不在下において、濃度0.4 mg/mlのトキソイド溶液の試験を行った。タンパク質試料(0.4 ml)を1.5 ml遠心分離管に入れ、回転機(Thermomixer R、Eppendorf AG社、ドイツHamburg)の中で300 rpm、4℃の恒温にて72時間振盪した。タンパク質の濃度およびOD 350 nmを回転の前後に測定し、管壁への吸着および凝集を評価した。試料は4℃にて速度10,000xgで10分間遠心分離し、上清の濃度およびOD 350 nmを測定し、不溶性凝集物の形成を検出した。タンパク質の構造はCDにより評価した。各試料の測定は二重に行った。
【0036】
アジュバント試験
水酸化アルミニウム(Alhydrogel(登録商標))(水酸化アルミニウムアジュバント)への吸着:結合等温線を作成することにより、さまざまな濃度(0.025〜1 mg/ml)においてトキソイドがAlhydrogel(登録商標)(Brenntag Biosectror社、デンマークFrederickssund、水酸化アルミニウムアジュバント)に吸着する能力を測定した。0.4 mg/mlのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)を含むタンパク質溶液を転倒型試験管回転機に入れ、冷蔵温度で20分間混和した。試料を14,000xgで30秒間遠心分離し、アジュバントをペレットにした。上清に残っているタンパク質の濃度の数値を用いて結合曲線を作成した。同一の方法により、賦形剤の存在下でタンパク質がAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合する能力を測定した。この場合、Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)をタンパク質-賦形剤溶液に加えた。
【0037】
トキソイドのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)からの脱着:タンパク質のAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)からの脱着は、2 M NaClの存在下において評価した。上記のように、トキソイドAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)のペレットを調製した。NaCl溶液の添加前にペレットを緩衝剤(pH 6.5)で洗浄し、上清に存在するタンパク質を除去した。Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)溶液を転倒型試験管回転機に入れ、冷蔵温度で20分間混和した。試料を14,000xgで30秒間遠心分離し、アジュバントをペレットにした。上清に含まれるタンパク質の濃度を用いて脱着等温線を作成した。
【0038】
Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの安定性:MicroCal VP-AutoDSC(MicroCal社、マサチューセッツ州Northampton)を使用し、DSCによりAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの熱安定性を観察した。上記の方法により、0.5 mg/mlのトキソイドを0.4 mg/mlのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合させた。走査速度60℃/時で10〜90℃におけるトキソイドのサーモグラムを測定した。各スキャンの前に、試料を10℃で15分間平衡化した。分析前に各タンパク質/アジュバントスキャンからAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)単独のサーモグラムを差し引いた。
【0039】
結果および考察
賦形剤スクリーニング試験
GRAS化合物が凝集を阻止または遅延させる能力を調べるため、負荷条件下においてトキソイドを単独および賦形剤の存在下でインキュベートした(55℃でインキュベーション)。インキュベーション時間中、350 nmにおけるODの変化を観察することによりハイスループットな方法でトキソイドの凝集を観察した。さらに混濁度の変化から凝集阻害率(%)を計算し、トキソイドAについては表1、トキソイドBについては表2にまとめる。
【0040】
トキソイドAのハイスループット凝集試験において、半数を超す賦形剤により経時的にOD 350 nmの増加が遅延または阻止され、凝集が90%またはそれ以上阻害されたことがわかった(表1)。被験賦形剤のうち、2.5%アルブミン、2.5%α-シクロデキストリン、0.1%ツイーン80、0.3 Mヒスチジン、および0.3 MリジンによりOD 350 nmが即時に高値となったことから、トキソイドAはこれらの条件下で不溶性であることが示唆される。それ以外に16種類の賦形剤の存在下でもトキソイドAの凝集は有意に亢進し、その中でも25 mMおよび50 mMアルギニン/グルタミン合剤、0.3 Mアルギニン、および0.3 Mプロリンは特に強力であった。
【0041】
15種類の賦形剤の存在下において90%またはそれ以上のトキソイドB凝集阻害が生じた(表2)。0.3 Mヒスチジンまたは0.2 Mクエン酸ナトリウムが存在した場合、OD 350 nmが即時に高値となった。それ以外の20種類の化合物では観察期間中、凝集がより段階的に誘発された。0.015 M塩化カルシウム、0.15 Mアスコルビン酸、および0.3 Mアルギニンの存在下では、極度に高いOD 350 nmの上昇が認められた。
【0042】
多くの場合、両トキソイドの凝集は同一の賦形剤により促進された(表1および表2)。対照的に、5% 2-OHプロピルγ-CD、0.01%および0.1%ツイーン20、0.15 Mアスパラギン酸、および0.3 MグアニジンではトキソイドBの凝集のみが促進された。さらに、0.015 M塩化カルシウムが存在した場合、トキソイドAよりもトキソイドBで凝集度がはるかに大きかった。これは、塩化カルシウムの存在下では毒素AのC末端領域の熱安定性が上昇することがわかっていることと関連している可能性がある(Demarest et al., Journal of Molecular Biology 346(5):1197-1206, 2005)。溶質により誘起される凝集に対する反応にトキソイド間で差があることは、おそらく対応する毒素間に構造的な相違があることに関連があると思われる(Warny et al., Lancet 366(9491):1079-1084, 2005; Just et al., Reviews of Physiology, Biochemistry and Pharmacology 152:23-47, 2005)。被験化合物にイノシトールリン酸が入っていないことは、観察されたトキソイドの凝集が自己触媒的切断を伴わないことを示唆するものである(Reineke et al., Nature (London, United Kingdom) 446(7134):415-419, 2007)。トキソイドの凝集は、ほとんどの被験炭水化物、界面活性剤、シクロデキストリンにより阻害された。以下の賦形剤は両トキソイドの凝集を効率的に阻害することが確認された:20%トレハロース、20%スクロース、10%ソルビトール、10%デキストロース、および20%グリセロール。
【0043】
上記の炭水化物、ソルビトール、グリセロール、2種の表面活性剤(0.05%/0.1%ツイーン80および0.1%プルロニックF-68)についてさらに、ANS蛍光、加熱時のCDシグナル変化、DSCを観察することにより、pH 6.5においてタンパク質の二次構造および三次構造を安定化させる能力を調べた(図1および図2)。トキソイドAでは20%スクロースおよび20%トレハロースが存在した場合、二次構造変化の早期発生が認められ、残りの賦形剤により熱転移が約2℃遅延した(図1a)。驚くべきことに、トキソイドBでは20%スクロースが存在した場合にのみ、二次構造変化の早期発生が認められ、残りの賦形剤により熱転移が約1℃遅延した(図2a)。トレハロースおよび/またはスクロースの存在下において、トキソイドの二次構造変化の早期発生が認められたことは、これらの溶質により部分的に折り畳みがほどけた状態が安定化したことによって説明できる。さらに、トキソイドは多糖類がそのC末端炭水化物認識反復配列に結合する際、部分的に折り畳みがほどけた状態にある可能性(Greco et al., Nature Structural & Molecular Biology 3(5):460-461, 2006)も除外できない。この2番目の機序により構造の不安定化が生じた場合、トレハロースの存在下においてこれら2つのトキソイドの挙動に差があることは、トキソイド間の構造的相違(C末端領域はトキソイドAでは30反復、トキソイドBでは19反復を有する)に関連している可能性がある(Just et al., Reviews of Physiology, Biochemistry and Pharmacology 152:23-47, 2005)。単糖(デキストロース)が両トキソイドの二次構造に対して安定化作用を及ぼすことがわかったのは興味深い。温度誘起による両トキソイドの折り畳みがほどけることとそれに関連するANSの結合は化合物の存在による影響を受けなかった(図1b、図2b)。界面活性剤が温度誘起によるトキソイドの折り畳みがほどけることに及ぼす影響をDSCにより観察したが、有意には見えなかった(図1c、図2c、表3)。これらの知見から示唆されることは、賦形剤は十分解説された選択的除外機序によりトキソイドの構造を強力に安定化するものではなく、むしろタンパク質結合を担うタンパク質/タンパク質相互作用の直接遮断といった他の機序によりその凝集を阻害するということである(Timasheff, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99(15):9721-9726, 2002; Timasheff, Advances in Protein Chemistry 51(Linkage Thermodynamics of Macromolecular Interactions):355-432, 1998)。
【0044】
より活性の高い薬剤の組み合わせが二次構造に及ぼす影響を調べるため、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80の合剤から得られた結果についてトキソイドの熱転移をCDで、凝集をOD 350 nmで観察することにより特徴分析を行った(図3および図4)。ツイーン80(0.05%または0.1%)の単独溶液またはソルビトールおよび/またはデキストロースを含む溶液を加熱することにより、そのミセル構造に変化が生じ、この変化はCDシグナルの低下およびOD 350 nmで観察された光散乱の増加によって明らかにされた(図5)。賦形剤の濃度は熱転移の温度に対しほぼ線形の影響を及ぼした(図6)。これは、賦形剤はタンパク質結合を直接阻害することによって凝集を阻止するという仮説を裏付けるものである。表4および表5に、賦形剤が熱転移に及ぼす影響をまとめる。10%デキストロースと10%ソルビトールを併用した場合、0.05%ツイーン80が存在しても存在しなくても、両トキソイドの熱転移の中点は最大限まで遅延する傾向がある(トキソイドAでは約4℃、トキソイドBでは約10℃)(図3)。このことは、安定化化合物の相乗効果および/またはより高い総濃度のいずれかによって説明が可能である。トキソイドBの場合、同合剤の存在下で転移の発生温度は遅延しなかったが、熱転移の中点は有意に遅延した。これは2種またはそれ以上の賦形剤の存在下ではトキソイドBの折り畳みがほどけることがより段階的であったことに関連している可能性があった。トキソイドAでは安定化化合物の存在下で凝集(OD 350 nmにより観察)の有意な遅延が認められた(図4a)。賦形剤の存在下および不在下におけるトキソイドの流体力学的直径も動的光散乱法(DLS)により観察した(図7)。トキソイドAでは賦形剤の存在下で、以前に認められた流体力学的直径増加の発生遅延が認められたが(図7a〜c)、トキソイドBで認められた影響はそれよりも小さかった(図7d〜f)。これらの知見は、本試験の対象となったワクチン賦形剤となりうる化合物の特定の組み合わせは、選択的水和の機序とタンパク質結合の直接阻害の両方によりタンパク質の構造を安定化させることを示唆している。そういった安定化化合物を使用することによって、保存中のトキソイドの物理的安定性を向上させることが可能である。
【0045】
撹拌試験
保存用バイアル内壁へのタンパク質吸着、不溶性凝集物の形成、およびタンパク質熱安定性の変化を観察することにより、トキソイドの物理的安定性に撹拌が及ぼす効果を調べた。賦形剤が存在しても不在でも、タンパク質濃度、OD 350 nm、CD融解物に有意な変化が認められなかったことから、この撹拌による負荷を加えた場合トキソイドに重大な物理的変化は生じないことがわかった。
【0046】
アジュバント試験
アジュバント結合等温線により、トキソイドは低濃度でAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に効率的に結合し、より高いタンパク質濃度で結合が飽和されることが明らかになった(図8a)。0.5 mg/mlのトキソイドはAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に95%またはそれ以上結合するため、DSCを用いてアジュバントの表面上におけるタンパク質の安定性を直接観察することが可能である。2 M NaClを添加した場合にトキソイド脱着が認められなかったことは、トキソイドとAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)の相互作用は、タンパク質/水酸化アルミニウム相互作用においてしばしば観察されるように、単に静電的ではないことを示している(図8b;Gupta et al., Pharmaceutical Biotechnology 6:229-248, 1995; Seeber et al., Vaccine 9(3):201-203, 1991; White et al., Developments in Biologicals (Basel, Switzerland) 103 (Physico-Chemical Procedures for the Characterization of Vaccines):217-228, 2000)。
【0047】
トキソイドAではAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)への結合時、その熱安定性に検出可能な変化は認められなかったが、アジュバントに結合したトキソイドBではTmが約1.4℃まで低下した。ほとんどの賦形剤の存在下で、Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの分画は若干減少した(表6および表7)。このことは、賦形剤がおそらくタンパク質および/またはアジュバントと直接相互作用することにより、トキソイドのAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)結合を部分的に妨害することを示唆している。表6(トキソイドA)および表7(トキソイドB)に、賦形剤の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したタンパク質の熱安定性をまとめる。賦形剤が存在した場合、転移温度の低下または上昇のいずれかにより、アジュバント結合トキソイドの熱安定性が妨害される。10%ソルビトールの存在下では両トキソイドにおいて熱安定性の低下が認められたが、10%ソルビトールおよび10%デキストロースの存在下ではトキソイドBの熱安定性だけが低下した。さらに、ツイーン80はアジュバント結合トキソイドBの場合にしか安定化作用を示さなかった。一方、デキストロース(10%)は両トキソイドの熱安定性に安定化作用を示した。興味深いことに、3種の賦形剤の併用(10%ソルビトールおよび10%デキストロースに0.05%または0.1%ツイーン80を併用)により、両アジュバント結合トキソイドの熱転移が3〜4℃上昇する傾向があった。
【0048】
結論
系統的な方法で安定化剤スクリーニングを行い、クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB両方の熱安定性を改善させる賦形剤を特定した。選択した賦形剤の存在下でAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドの試験を行い、アジュバント結合タンパク質の物理的安定性を改善させる条件を特定した。本試験では、保存安定性の高い製剤の設計に利用することが可能なさまざまな条件下(温度、溶質)におけるトキソイドの物理的挙動に関する情報も得られた。
【0049】
実施例II
C.ディフィシレトキソイドワクチンの安定性および免疫原性プロファイルの改善を目指し、同ワクチンの製剤に加える別の変更について研究を行った。同ワクチンを用いて得られた今日までの前臨床および臨床データは、安定性および免疫原性プロファイルの改善が今後の臨床試験を支えるにあたって重要となることを示すものであった。
【0050】
pH
最大限の安定性をもたらすpHを決定することは製剤改善の試みの一環であった。試験はpH 5.5〜7.5の範囲で-65℃、5℃、25℃、および37℃にて最高28日間保存した液体試料を用いて行った。安定性プロファイルを確認するため、以下の方法を用いた。
1. 円偏光二色性(CD)分光法(二次構造の変化)
2. 円偏光二色性(CD)分光法(融解温度Tmの変化)
3. 分光測光法(OD 350 nm)およびサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)(凝集物形成)
【0051】
トキソイドAではpH 6.0を超えた場合、トキソイドBでは被験pH範囲全体においてCDスペクトルで二次構造の変化は認められなかった(図9および図10; Salnikova et al., J. Pharm. Sci. 97(9):3735-3752, 2008)。CD測定から取得した融解点データにより、両トキソイドの安定性はpH 7.0を超えると最大になることが明らかになった(図11および図12)。
【0052】
凝集物形成(モノマー率[%])および面積回復率(%)についてSEC-HPLCにより分析を行ったところ、pH 6〜7.5の範囲におけるトキソイドAおよびBの凝集状態は、≦-60℃の範囲ではほとんど差がなかった。しかし、温度が上昇した場合(特に5℃を超えた場合)、このpH範囲における凝集状態の差はより明白になり、pH値が低いほど凝集レベルが大きく変化する傾向があった。Salnikovaら(J. Pharm. Sci. 97(9):3735-3752, 2008)が述べたように、これにはより低いpH値において350 nmにおける光学密度の増加を伴う。
【0053】
固定保存温度(≦-60℃)でさまざまなpH値において凝集を経時的に評価したところ(図13)、その結果から凝集状態は超低温で非常に安定していることが示され、低pH値(<pH 7.0)では凝集が促進されることが示唆された。これらのデータを念頭に置き、ワクチン原料を保存するpHを7.5と仮に定めた。
【0054】
イオン強度
最大限の安定性をもたらすイオン強度を決定することも製剤改善の試みの一環であった。試験はさまざまな濃度(0〜300 mM)の塩化ナトリウムとともに、20 mMクエン酸ナトリウム緩衝剤(pH 7.25)中、-65℃、5℃、25℃、および37℃で最大28日間保存した液体試料を用いて行った。また、NaClを5%スクロースに置き換えて試験を行った。安定性プロファイルを確認するために使用した方法はSEC-HPLC、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)、および外観であった。
【0055】
SDS-PAGEまたは外観によっては明らかな差は認められなかった。SEC-HPLCでは高い塩濃度でトキソイドBの凝集がはっきり認められた。トキソイドAの凝集は時間および温度依存性のように見え、唯一分かる作用は50 mM NaClで認められた。トキソイドの安定性を最大にするには、0〜50 mM塩化ナトリウムまたは5%スクロースを添加すべきであることがデータから示される(図14および図15)。
【0056】
緩衝剤の変更および賦形剤の添加
緩衝剤および賦形剤がトキソイドの安定性に及ぼす影響を評価するために予備試験を行った。表8および表9に示すように、経時的なトキソイドの回復率(%)で測定した場合、HPLC-SECから得られたデータは、クエン酸ナトリウム緩衝剤に賦形剤としてソルビトールを加えることにより、安定性が最大になることを示している。
【0057】
凍結乾燥製剤の評価
第II相臨床試験において安定しているであろう凍結乾燥製剤を特定するため、本発明者らはハムスター免疫原性試験を行った。その理由はこの試験が臨床免疫原性に関連する製品変更に対して最高の感度を示す前臨床試験であるからである。予備試験から得たデータにより、緩衝剤としてクエン酸ナトリウムを使用し、安定化賦形剤としてソルビトールを使用する賦形剤スクリーニング試験を行うことになった。ソルビトール製剤ではTg'が低く、凍結乾燥時間が長かったことから、凍結乾燥製剤に含まれるソルビトールの代わりとして、スクロースを安定化賦形剤として導入した。並行試験から得られたデータに基づき、リン酸カリウム緩衝剤およびトレハロースを使用して2番目の凍結乾燥/賦形剤スクリーニング試験も行った。これらの試験および過去の実験データにより、3種の主要製剤、すなわち液体製剤1種および凍結乾燥製剤2種が浮上した。
【0058】
凍結乾燥製剤を調製し、その安定性を実時間条件および加速条件下で評価した。トキソイドAおよびBの個々の安定性プロファイルをさらに綿密に調べるため、これらを別々に保存した。1つの製剤(凍結乾燥、20 mMクエン酸、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5)を-65℃、5℃、または42℃で3ヶ月間保存した後、得られた性状データおよびハムスター免疫原性データを以下に示す。試験開始時および-65℃、5℃、または42℃で3ヶ月間保存した後、製剤間に性状の差はほとんどまたはまったく認められない(表10および表11)。さらに、ハムスター免疫反応について、5℃および42℃で7ヶ月間保存した場合、製剤間に有意差は認められず、同一製剤にホルムアルデヒドを添加した場合と添加しない場合でも有意差は認められない。42℃での保存は高度負荷条件であり、保存中に変化が認められないことから、この結果より製剤はこれよりも低い温度ではさらに相当長期間安定している可能性が非常に高いと言える。しかし、有効期間の推定を目的としたデータに関して統計学的に優れた解析を行うには、割合を計算できるような何らかの定量化可能な変化が観察されることが必要である。現在に至るまで変化が認められないことから、真の割合を計算することは不可能である。これらのデータを考慮し、本発明者らは、20 mMクエン酸、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒド、pH 7.5中に溶解したC.ディフィシレトキソイドAおよびBからなる凍結乾燥製剤(2〜8℃で保存)を使用することにする。
【0059】
本報告書にて詳述した安定性試験で使用される製剤は、表12にまとめた凍結乾燥サイクルにより調製した。このサイクルでは固体で白色の洗練されたケーキが製造されたが、ピラニ真空計の測定値が低下し、マノメーターの測定値と同等になったことから判断されるように、このサイクルは一次乾燥完了のまさに境界にあった(図16)。この懸念に取り組み、より規模調整可能な工程を作成するため、以下の非常に重要な変更を凍結乾燥サイクルに加えた。
1. より大きな規模での一次乾燥中に確実に製剤物質が凍結状態を保つよう、棚温度を-35℃に下げた。
2. より大きな規模で一次乾燥が確実に完了するよう、一次乾燥を4000分間に延長した。
3. 乾燥を促進し、より規模調整可能な工程を可能にするため、真空度を100 mTに上昇させた。
【0060】
表13に、GMP臨床ロットの処理のためAlthea Technologies社に移管された凍結乾燥サイクルの概要を示す。
【0061】
物理化学的および生物学的特性の要約
実験によって確認されたワクチンの重要な物理化学的および生物学的特性を以下にまとめる。
【0062】
化学的に、このワクチンはC.ディフィシレ毒素AおよびB(それぞれ3:2の割合で存在)の不活化型(トキソイド)を含む。C.ディフィシレ毒素AおよびBはそれぞれ308 kDa、270 kDaの大きなタンパク質であり、構造は類似しているもののはっきり識別できる。
【0063】
物理的に、このワクチンは純度≧90%の溶液として提供され、測定可能な凝集を示す証拠はない。
【0064】
生化学的に、このワクチンのトキソイドAおよびBはウエスタンブロット分析において、その個々の毒素AまたはBに特異的な抗体に対して免疫学的に反応する。
【0065】
生物学的に、このワクチンはハムスターにおいて免疫原性であり、一貫した用量依存性の血清抗体反応を誘発する。ワクチンのトキソイドAおよびBには細胞毒性活性がない。ワクチンのトキソイドA成分は天然の毒素Aで認められるような受容体結合活性を若干保持している。
【0066】
このワクチンは、20 mMクエン酸ナトリウム(pH 7.5)、5%スクロース、0.016%ホルムアルデヒドから構成される緩衝剤中の凍結乾燥製剤として提供される。本製剤は2〜8℃で保存する。
【0067】
凍結乾燥スクリーニング試験
凍結乾燥製剤のスクリーニングを行うため、ハムスター免疫原性を利用して評価を行った。凍結乾燥はFTS LyoStar IIで行った。凍結は、強制的に製剤温度をTg'未満にするのに十分なまで棚温度を下げることにより達成した。一次乾燥は真空に引き、自由水が昇華されるまで維持することによって開始した。次に棚温度を上昇させ二次乾燥を開始し、温度を維持して吸着水を除去することによりさらに製剤を乾燥させた。製剤は5℃、25℃、および42℃の温度条件で安定状態に置かれた。
【0068】
(表1)GRAS賦形剤がトキソイドAの凝集に及ぼす影響。凝集を遅延する/阻止する化合物はプラスの凝集阻害値(%)を有し、凝集を誘起する化合物はマイナスの凝集阻害値(%)を有する。
不確定度は±1%のオーダーである。*高い初期OD 350 nm。
【0069】
(表2)GRAS賦形剤がトキソイドBの凝集に及ぼす影響。凝集を遅延する/阻止する化合物はプラスの凝集阻害値(%)を有し、凝集を誘起する化合物はマイナスの凝集阻害値(%)を有する。
不確定度は±1%のオーダーである。*高い初期OD 350 nm。
【0070】
(表3)溶質(界面活性剤)がトキソイドAおよびBの熱安定性に及ぼす影響。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移の最大ピークの位置に対応する温度である。
【0071】
(表4)賦形剤がトキソイドAの熱転移温度中点(Tm)に及ぼす影響。温度の関数として208 nmでのCDシグナルにより熱転移を観察した。各測定は二重に行った。各測定にはおよそ0.5℃の不確定度がある。
【0072】
(表5)賦形剤がトキソイドBの熱転移温度中点(Tm)に及ぼす影響。温度の関数として208 nmでのCDシグナルにより熱転移を観察した。各測定は二重に行った。各測定にはおよそ0.5℃の不確定度がある。
【0073】
(表6)賦形剤の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドAの熱安定性(特別の定めのない限り)。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移のピーク位置に対応する温度を示す。アジュバントに結合したトキソイドの割合(%)を各条件において1%の不確定度で測定した。各条件を二重に試験した。
【0074】
(表7)溶質の存在下および不在下におけるAlhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムアジュバント)に結合したトキソイドBの熱安定性(特別の定めのない限り)。熱安定性(Tm)をDSCによって観察した。Tmは、熱転移のピーク位置に対応する温度を示す。アジュバントに結合したタンパク質の割合(%)を各条件下、1%の不確定度で測定した。各条件を二重に試験した。
【0075】
(表8)
【0076】
(表9)
【0077】
(表10)異なる温度で保存後の凍結乾燥製剤の性状
【0078】
(表11)異なる温度で保存後の凍結乾燥製剤の免疫原性(ハムスターにおける血清抗毒素AおよびB IgGの力価)。
H2CO = ホルムアルデヒド
【0079】
(表12)
【0080】
(表13)
【0081】
上記で引用されている全ての参考文献の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。「一つの(a)」および「その(the)」などの、本明細書における単数形の使用は、文脈上反対のことを指し示している場合を除き、対応する複数形の指示を除外するものではない。したがって、例えば、特許請求の範囲により「一つの(a)」毒素、トキソイドまたは賦形剤の使用が示されているなら、それは、他に指定のない限り、二つ以上の毒素、トキソイドまたは賦形剤の使用を網羅するものと解釈することもできる。他の態様は以下の特許請求の範囲内である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)の毒素またはトキソイドと一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物であって、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大するおよび/または毒素もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延する、組成物。
【請求項2】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素またはトキソイドの凝集を50%またはそれ以上低減するまたは遅延する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素またはトキソイドの熱安定性を0.5℃またはそれ以上増大する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
C.ディフィシレ毒素AおよびBのトキソイドを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
トキソイドAおよびBが5:1(A:B)〜1:5(A:B)の比率で組成物中に存在する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
トキソイドAおよびBが3:1〜3:2、または1:1(A:B)の比率で組成物中に存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
薬学的組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
アジュバントをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
アジュバントがアルミニウム化合物を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
アルミニウム化合物が水酸化アルミニウム化合物である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
液体形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、または泡乾燥形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、緩衝剤、等張化剤、単純炭水化物、糖、炭水化物重合体、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリアミノ酸、多価アルコールおよびそれらのエーテル、界面活性剤、脂質、表面活性剤、酸化防止剤、塩、アルブミン、ゼラチン、ホルムアルデヒド、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
緩衝剤が、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、および重炭酸塩からなる群より選択され、5〜100 mMの濃度である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
等張化剤が、1〜50 mMの濃度で、マンニトールである、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
糖が、1〜30%の濃度で、ソルビトール、トレハロース、およびスクロースより選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
アミノ酸、オリゴペプチド、またはポリアミノ酸が、最大100 mMの濃度で存在する、請求項13記載の組成物。
【請求項18】
多価アルコールが、最大20%の濃度で、分子量200〜10,000のグリセロール、ポリエチレングリコール、およびそれらのエーテルからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項19】
界面活性剤および脂質が、最大0.5%の濃度で、デオキシコール酸ナトリウム、ツイーン(Tween)20、ツイーン80、およびプルロニック(pluronic)からなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項20】
炭水化物重合体がデキストランおよびセルロースより選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項21】
塩が、最大150 mMで、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、および酢酸マグネシウムからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項22】
ホルムアルデヒドが0.0〜0.02%で存在する、請求項13記載の組成物。
【請求項23】
一つまたは複数の賦形剤が、表1、表2、表8、または表9に記載の一つまたは複数の賦形剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項24】
クエン酸ナトリウムまたはカリウムを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項25】
リン酸ナトリウムまたはカリウムを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項26】
スクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項27】
クエン酸ナトリウムもしくはカリウムおよびスクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項28】
リン酸ナトリウムもしくはカリウムおよびスクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項29】
ホルムアルデヒドをさらに含む、請求項24〜28のいずれか一項記載の組成物。
【請求項30】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mMのクエン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜20%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、10〜30 mMのクエン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜10%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 6.5〜8.0を含む、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、20 mMのクエン酸ナトリウム、5%のスクロース、ならびに0.016%のホルムアルデヒド、pH 7.5を含む、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mMのリン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜20%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項34】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、10〜30 mMのリン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜10%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 6.5〜8.0を含む、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、20 mMのリン酸カリウム、5%のスクロース、ならびに0.016%のホルムアルデヒド、pH 7.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項36】
一つまたは複数の賦形剤がソルビトールを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項37】
一つまたは複数の賦形剤がデキストロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項38】
一つまたは複数の賦形剤がツイーン80を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項39】
一つまたは複数の賦形剤が、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項40】
クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドと一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物を作出する方法であって、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大し、および/または毒素もしくはトキソイドの凝集を低減し、もしくは遅延し、該方法が、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを提供する段階と、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と混合する段階とを含む、方法。
【請求項41】
被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する方法であって、請求項1〜39のいずれか一項記載の組成物を被験体に投与する段階を含む、方法。
【請求項42】
患者はC.ディフィシレ疾患を有さないが、その疾患を発症するリスクがある、請求項41記載の方法。
【請求項43】
患者がC.ディフィシレ疾患を有する、請求項41記載の方法。
【請求項1】
クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)の毒素またはトキソイドと一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物であって、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大するおよび/または毒素もしくはトキソイドの凝集を低減するもしくは遅延する、組成物。
【請求項2】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素またはトキソイドの凝集を50%またはそれ以上低減するまたは遅延する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素またはトキソイドの熱安定性を0.5℃またはそれ以上増大する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
C.ディフィシレ毒素AおよびBのトキソイドを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
トキソイドAおよびBが5:1(A:B)〜1:5(A:B)の比率で組成物中に存在する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
トキソイドAおよびBが3:1〜3:2、または1:1(A:B)の比率で組成物中に存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
薬学的組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
アジュバントをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
アジュバントがアルミニウム化合物を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
アルミニウム化合物が水酸化アルミニウム化合物である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
液体形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
乾燥粉末形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、または泡乾燥形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、緩衝剤、等張化剤、単純炭水化物、糖、炭水化物重合体、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリアミノ酸、多価アルコールおよびそれらのエーテル、界面活性剤、脂質、表面活性剤、酸化防止剤、塩、アルブミン、ゼラチン、ホルムアルデヒド、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
緩衝剤が、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、ヒスチジン、炭酸塩、および重炭酸塩からなる群より選択され、5〜100 mMの濃度である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
等張化剤が、1〜50 mMの濃度で、マンニトールである、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
糖が、1〜30%の濃度で、ソルビトール、トレハロース、およびスクロースより選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
アミノ酸、オリゴペプチド、またはポリアミノ酸が、最大100 mMの濃度で存在する、請求項13記載の組成物。
【請求項18】
多価アルコールが、最大20%の濃度で、分子量200〜10,000のグリセロール、ポリエチレングリコール、およびそれらのエーテルからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項19】
界面活性剤および脂質が、最大0.5%の濃度で、デオキシコール酸ナトリウム、ツイーン(Tween)20、ツイーン80、およびプルロニック(pluronic)からなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項20】
炭水化物重合体がデキストランおよびセルロースより選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項21】
塩が、最大150 mMで、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、および酢酸マグネシウムからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項22】
ホルムアルデヒドが0.0〜0.02%で存在する、請求項13記載の組成物。
【請求項23】
一つまたは複数の賦形剤が、表1、表2、表8、または表9に記載の一つまたは複数の賦形剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項24】
クエン酸ナトリウムまたはカリウムを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項25】
リン酸ナトリウムまたはカリウムを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項26】
スクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項27】
クエン酸ナトリウムもしくはカリウムおよびスクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項28】
リン酸ナトリウムもしくはカリウムおよびスクロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項29】
ホルムアルデヒドをさらに含む、請求項24〜28のいずれか一項記載の組成物。
【請求項30】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mMのクエン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜20%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、10〜30 mMのクエン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜10%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 6.5〜8.0を含む、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、20 mMのクエン酸ナトリウム、5%のスクロース、ならびに0.016%のホルムアルデヒド、pH 7.5を含む、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、5〜100 mMのリン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜20%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 5.5〜8.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項34】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、10〜30 mMのリン酸ナトリウムまたはカリウム、2〜10%のスクロース、ならびに≦0.020%のホルムアルデヒド、pH 6.5〜8.0を含む、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
クロストリジウム・ディフィシレトキソイドAおよびB、20 mMのリン酸カリウム、5%のスクロース、ならびに0.016%のホルムアルデヒド、pH 7.5を含む、請求項29記載の組成物。
【請求項36】
一つまたは複数の賦形剤がソルビトールを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項37】
一つまたは複数の賦形剤がデキストロースを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項38】
一つまたは複数の賦形剤がツイーン80を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項39】
一つまたは複数の賦形剤が、ソルビトール、デキストロース、およびツイーン80を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項40】
クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドと一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物を作出する方法であって、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を欠く組成物に比べて、毒素もしくはトキソイドの熱安定性を増大し、および/または毒素もしくはトキソイドの凝集を低減し、もしくは遅延し、該方法が、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを提供する段階と、クロストリジウム・ディフィシレの毒素またはトキソイドを一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と混合する段階とを含む、方法。
【請求項41】
被験体においてC.ディフィシレに対する免疫反応を誘導する方法であって、請求項1〜39のいずれか一項記載の組成物を被験体に投与する段階を含む、方法。
【請求項42】
患者はC.ディフィシレ疾患を有さないが、その疾患を発症するリスクがある、請求項41記載の方法。
【請求項43】
患者がC.ディフィシレ疾患を有する、請求項41記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2010−539172(P2010−539172A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524889(P2010−524889)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/010767
【国際公開番号】WO2009/035707
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(503389389)サノフィ パスツール バイオロジクス カンパニー (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/010767
【国際公開番号】WO2009/035707
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(503389389)サノフィ パスツール バイオロジクス カンパニー (17)
【Fターム(参考)】
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