説明

クロスメンバ及びクロスメンバユニット製造方法

【課題】クロスメンバを曲げることなくガセットを固定できるクロスメンバを提供する。
【解決手段】クロスメンバ40のフランジ面44の長手方向両端部にはそれぞれ、複数のリベット孔44aが形成されている。フランジ面46の長手方向両端部にも同じ形状のリベット孔が形成されている。リベット孔44aそれぞれに対応するように、ガセット50,60にはリベット孔50a,60aが形成されている。リベット孔44aは楕円形状であり、この楕円の長軸Xはクロスメンバ40の長手方向(矢印W方向)に延びている。これらのリベット孔44aにガセット50,60のリベット孔50a,60aを重ね、この状態でこれらのリベット孔44a,50a,60aにリベットを差し込んで潰すことにより、リベット孔44a,50a,60aにリベットが充満してクロスメンバ40にガセット50,60が固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサイドメンバにガセットを介してリベットで固定されるクロスメンバ及びクロスメンバユニット製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中型や大型のトラック・バスなどのフレーム(車枠)として、はしご形フレームと呼ばれるものが使用されることがある。このはしご形フレームは、通常、車両の長さ方向に延びると共にこの長さ方向に直交する幅方向(車両の幅方向)に所定間隔離れて配置された一対のサイドメンバ(縦材)と、この一対のサイドメンバに長手方向両端部が固定された複数本のクロスメンバ(横材)などから構成されている。クロスメンバには種々の形状があり、その一つとして横断面がコ字状のものが知られている。このような横断面がコ字状のクロスメンバの長手方向両端部をサイドメンバに固定するためにガセットを用いる技術が知られている。
【0003】
図4を参照して、ガセットを用いたクロスメンバについて説明する。
【0004】
図4は、クロスメンバの長手方向両端部にガセットを固定してクロスメンバユニットを作製する様子を示す斜視図である。
【0005】
クロスメンバユニット10は、横断面がコ字状のクロスメンバ12と、このクロスメンバ12の長手方向両端部にそれぞれ固定された4つのガセット18とから構成されている。クロスメンバ12は、コ字状の底辺に相当するウエブ面14(車両の幅方向(矢印W方向)に延びる細長い板状のもの)と、このウエブ面14の幅方向両端辺からほぼ垂直に立ち上がって矢印W方向に延びる細長い一対のフランジ面16,16とから構成されている。一対のフランジ面16,16の長手方向両端部にそれぞれガセット18が固定されるので、クロスメンバ12の長手方向両端部には一対のガセット18が二組固定されることとなる。
【0006】
ガセット18がクロスメンバ12のフランジ面16,16にリベット20で締結されるので、フランジ面16,16及びガセット18には、リベット20が差し込まれるリベット孔16a、18aが形成されている。また、ガセット18には、クロスメンバユニット10をサイドメンバ22に固定するためのリベット孔18bも形成されている。図4では、サイドメンバ22の一部が二点鎖線で表されている。上記した各リベット孔16a、18aを重ね合わせてリベット20を差し込んでこれらのリベット孔16a、18aにリベット20を充満させることによりクロスメンバユニット10が形成される。このクロスメンバユニット10を構成するガセット18のリベット孔18bをサイドメンバ22のリベット孔(図示せず)に重ね合わせてリベット(このリベットは図示せず)を差し込んでこれらのリベット孔18b等にリベットを充満させることによりはしご形フレーム(図示せず)が作製される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5と図6を参照して、上記した従来のクロスメンバユニットの問題点を説明する。図5は、クロスメンバが曲がったクロスメンバユニットを示す平面図である。図6(a)は、リベットでガセットを取り付ける前におけるクロスメンバのリベット孔近傍部分を示す部分拡大図であり、(b)は、リベットでガセットを取り付けた後におけるクロスメンバのリベット孔近傍部分を示す部分拡大図である。
【0008】
クロスメンバ12とガセット18をリベット20(図4参照)で締結する際、リベット20がその軸方向に圧縮されるので、リベット20の直径が増加し(リベット20が太くなり)、この結果、各リベット孔16a、18aが押し拡げられる。このため、クロスメンバ12のうちリベット孔16aの周辺部分は、クロスメンバ12の長さ方向に増加すると同時に、ウエブ面14の剛性がウエブ面14の伸びを拘束するので、フランジ面16はウエブ面14に比べてより大きく変形することがある。このような場合、図5に示すように、クロスメンバ12の長手方向両端部はハの字状に変形するという問題がある。
【0009】
上記のようにクロスメンバ12の長手方向両端部がハの字状に変形した場合、図5に示すように、クロスメンバ12に締結されるガセット18もハの字状になった状態で取り付けられることとなる。ガセット18が車両長さ方向(矢印L方向)に長いときは、上記のハの字状の変形は顕著となり、ガセット18のリベット孔18bとサイドメンバ22(図4参照)のリベット孔(図示せず)とにずれが生じる。一致して重なるべき2つのリベット孔に上記のようにずれが生じたときは、このずれたリベット孔にリベット(図示せず)を挿入するために先端の尖ったボルシン(棒状のもの)を差し込んでこじる等して孔を合わせなければならず、手間と労力がかかるという問題がある。
【0010】
また、リベットがリベット孔16aを押し拡げる際には、図6(b)に示すように、二点鎖線で示す状態から実線で示す状態に変化し、この結果、孔縁部分16cに引張応力Fが発生するので、孔縁部分16cから母材が破断するおそれがある。この破断を防止するために、リベット孔16aの余肉を十分に確保しなければならず、リベット孔16aのピッチを小さくして締結部の接合強度を低下させたり、クロスメンバ12のフランジ幅Aを大きくしたりする。このため、材料費やクロスメンバユニットの重量が増加するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、クロスメンバを曲げることなくガセットを固定できるクロスメンバ及びクロスメンバユニット製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明のクロスメンバは、車両のサイドメンバにガセットを介してリベットで固定される、横断面がコ字状のクロスメンバにおいて、
(1)前記ガセットに形成されたリベット孔に対応する、その長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状のリベット孔が形成されたことを特徴とするものである。
【0013】
ここで、
(2)前記コ字状の横断面のうち両翼の先端に最も近いリベット孔が前記楕円形状に形成されたものであってもよい。
【0014】
さらに、
(3)前記楕円形状のリベットの長軸と短軸の差は、1mm以上2mm以下の範囲内であってもよい。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明のクロスメンバユニット製造方法は、車両のサイドメンバに固定されるガセットと、その長手方向両端部に前記ガセットがリベットで固定されたクロスメンバとからなるクロスメンバユニットを製造するクロスメンバユニット製造方法において、
(4)前記ガセットに形成された複数のリベット孔に対応する、前記サイドメンバに形成された複数のリベット孔のうちの少なくとも一つを、前記クロスメンバの長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状に形成しておき、
(5)前記ガセット及び前記サイドメンバ双方のリベット孔を重ねてリベットを差し込んで、これらのリベット孔にリベットを充満させることにより、前記ガセットと前記クロスメンバとを固定して前記クロスメンバユニットを製造することを特徴とするものである。
【0016】
ここで、
(6)前記クロスメンバの長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状のリベット孔を形成する際に、コ字状の横断面をもつクロスメンバの該コ字状横断面の両翼の先端に最も近いリベット孔を、前記楕円形状にしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、クロスメンバにガセットを固定する場合、クロスメンバの楕円形状のリベット孔にリベットが充満し、このリベット孔が押し拡げられる。このとき、リベットは楕円形状から真円形状に変形する。この結果、リベット孔は楕円の短軸方向により伸ばされ、長軸方向にはほとんど伸びない。従って、クロスメンバには曲げ変形が発生せず、サイドメンバと締結されるガセットのリベット孔は左右平行となる。このため、車軸組立時にガセットとサイドメンバの孔がずれることはなくなり、サイドメンバ用のリベット孔にリベットを容易に挿入することができ、組立の作業性が大幅に向上するとともに、孔のずれをボルシンでこじるような労力が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、中型や大型のトラック・バスなどのフレーム(車枠)の一構成部品となるクロスメンバに実現された。
【実施例1】
【0019】
図1を参照して、本発明のクロスメンバの一例を説明する。図1(a)は、本発明のクロスメンバの一例を示す平面図であり、(b)は、このクロスメンバの長手方向一端部にリベットで固定されるガセットを示す平面図であり、(c)は、このクロスメンバの長手方向他端部にリベットで固定されるガセットを示す平面図であり、(d)は、(a)のd―d断面を示す断面図である。
【0020】
クロスメンバ40は、(d)に示すように、横断面がコ字状であり、コ字状の底辺に相当するウエブ面42(車両の幅方向(矢印W方向)に延びる細長い板状のもの)と、このウエブ面42の幅方向(矢印W方向に直交する矢印U方向)両端辺からほぼ垂直に立ち上がって矢印W方向に延びる細長い一対のフランジ面44,46とから構成されている。一対のフランジ面44,46の長手方向両端部にそれぞれガセット50,60が固定されるので、クロスメンバ40の長手方向両端部には一対のガセット50,60が二組固定されることとなる。図1には、フランジ面44の長手方向両端部に固定されるガセット50,60を示しているが、フランジ面46の長手方向両端部に固定されるガセットも同じ形状であるので、ここでは省略する。
【0021】
フランジ面44の長手方向両端部にはそれぞれ、複数(図1では、3つずつの例を示す)のリベット孔44aが形成されている。フランジ面46の長手方向両端部にも同じ形状のリベット孔が形成されているが、ここでは省略する。リベット孔44aそれぞれに対応するように、ガセット50,60にはリベット孔50a,60aが形成されている。後述するように、これらのリベット孔44aにガセット50,60のリベット孔50a,60aを重ね合わせ、この状態でこれらのリベット孔44a,50a,60aにリベットを差し込んで潰すことにより、リベット孔44a,50a,60aにリベットが充満してクロスメンバ40にガセット50,60が固定される。本発明の特徴はリベット孔44aの形状にある。
【0022】
リベット孔44aは楕円形状であり、この楕円の長軸Xはクロスメンバ40の長手方向(矢印W方向)に延びている。この楕円の短軸Yはフランジ面44の幅方向に延びている。長軸Xと短軸Yの差は、1mm以上2mm以下の範囲内であることが好ましいが、図1ではこの差が誇張して描かれている。
【0023】
上記の例では、フランジ面44の長手方向一端部に形成された3つのリベット孔44aの全てを楕円形状にしたが、一つのリベット孔だけを楕円形状にしてもよい。この場合、フランジ面44の幅方向先端44bに(コ字状の横断面のうち両翼の先端に)最も近いリベット孔44’aだけを楕円形状にし、他の2つのリベット孔44aを円形(真円)にする。リベット孔44’aを楕円形状にする理由は、図6を参照して説明したように、孔縁部分16cに引張応力Fが発生させないためであり、リベット孔44’aを楕円形状にしたときの作用・効果については後述する。なお、ガセット50,60のリベット孔50a,60aは全て円形(真円)である。また、ガセット50,60には、サイドメンバに固定するためのリベット孔50b,60bも形成されている。
【0024】
図2、図3を参照して、本発明のクロスメンバユニット製造方法の一例を説明する。図2は、クロスメンバ及びガセット双方のリベット孔を重ね合わせた状態を示す平面図である。図3(a)は、クロスメンバのリベット孔にリベットが充満される前の状態を拡大して示す平面図であり、(b)は、クロスメンバのリベット孔にリベットが充満された後の状態を拡大して示す平面図である。
【0025】
クロスメンバ40の一対のフランジ面44,46の長手方向両端部にそれぞれガセット50,60をリベットで固定することにより、クロスメンバユニット30が製造される。クロスメンバユニット30を製造するに際しては、図2に示すように、ガセット50,60それぞれのリベット孔50a,60aを、これらに対応するリベット孔44a(44’a)に重ね合わせる。続いて、この重ね合わせたリベット孔にリベットを差し込んで潰して、これらのリベット孔にリベットを充満させる。これにより、ガセット50,60とクロスメンバ40とが固定されてクロスメンバユニット30が製造される。
【0026】
上記のように、楕円形状のリベット孔44a(44’a)にリベットが充満し、これらのリベット孔44a(44’a)が押し拡げられるときには、図3(b)の二点鎖線の状態(楕円形状)から実線の状態(真円形状)に変形する。この結果、リベット孔44a(44’a)は楕円の短軸Y方向(クロスメンバ40の幅方向(矢印Z方向))により伸ばされ、長軸X方向(クロスメンバ40の長手方向(矢印W方向))にはほとんど伸びない。
【0027】
従って、クロスメンバ40には、図5や図6を参照して説明したような曲げ変形は発生せず、サイドメンバ(図示せず)と締結されるガセット50,60のリベット孔50b、60bは左右平行となる。このため、車軸組立時にガセット50,60とサイドメンバの孔がずれることはなくなり、リベット孔50b、60bにリベットを容易に挿入することができ、組立の作業性が大幅に向上するとともに、従来のような孔のずれをボルシンでこじるような労力が不要となる。
【0028】
また、リベット孔44’aの形状が楕円から真円に変形する際は、図3(b)に示すように、クロスメンバ40のフランジ面44のうちリベット孔44’aの縁から幅方向先端44bまでの間の部分(縁部分44c)が凸形になるよう変形する。この理由は、縁部分44cが局部的に面内で曲げられるからである。このように縁部分44cが凸形になるよう変形するので、フランジ面44の幅方向先端44bと縁部分44cの間には曲げモーメントM1が発生し、縁部分44cには圧縮応力f2が発生する。この圧縮応力f2は、リベット孔44’aが押し広げられる際に発生するリベット孔44’aの縁周方向の引張応力と相殺するので、最も応力の集中する孔縁の引張応力は軽減される。従って、リベット孔44’aの縁から幅方向先端44bまでの長さ(厚みであり、余肉)が短いときであっても、このリベット孔44’aにリベットを締結する際の亀裂発生を防止できる。このため、フランジ面44,46の幅を減少させて、クロスメンバの材料費の節減や軽量化を図ることができる。
【0029】
また、フレーム(車枠)の剛性を確保するなどの理由でクロスメンバ40の幅を削減できない場合には、クロスメンバ40の幅方向先端44bに最も近いリベット孔44’aをより幅方向先端44bに近づけることができ、リベットのピッチを増加させることができるので、ガセット50,60とクロスメンバ40の締結強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、本発明のクロスメンバの一例を示す平面図であり、(b)は、このクロスメンバの長手方向一端部にリベットで固定されるガセットを示す平面図であり、(c)は、このクロスメンバの長手方向他端部にリベットで固定されるガセットを示す平面図であり、(d)は、(a)のd―d断面を示す断面図である。
【図2】クロスメンバ及びガセット双方のリベット孔を重ねた状態を示す平面図である。
【図3】(a)は、クロスメンバのリベット孔にリベットが充満される前の状態を拡大して示す平面図であり、(b)は、クロスメンバのリベット孔にリベットが充満された後の状態を拡大して示す平面図である。
【図4】クロスメンバの長手方向両端部にガセットを固定してクロスメンバユニットを作製する様子を示す斜視図である。
【図5】クロスメンバが曲がったクロスメンバユニットを示す平面図である。
【図6】(a)は、リベットでガセットを取り付ける前におけるクロスメンバのリベット孔近傍部分を示す部分拡大図であり、(b)は、リベットでガセットを取り付けた後におけるクロスメンバのリベット孔近傍部分を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
30 クロスメンバユニット
40 クロスメンバ
42 ウエブ面
44,46 フランジ面
44a,44’a リベット孔
50,60 ガセット
50a,60a リベット孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサイドメンバにガセットを介してリベットで固定される、横断面がコ字状のクロスメンバにおいて、
前記ガセットに形成されたリベット孔に対応する、その長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状のリベット孔が形成されたことを特徴とするクロスメンバ。
【請求項2】
前記コ字状の横断面のうち両翼の先端に最も近いリベット孔が前記楕円形状に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のクロスメンバ。
【請求項3】
前記楕円形状のリベットの長軸と短軸の差は、1mm以上2mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロスメンバ。
【請求項4】
車両のサイドメンバに固定されるガセットと、その長手方向両端部に前記ガセットがリベットで固定されたクロスメンバとからなるクロスメンバユニットを製造するクロスメンバユニット製造方法において、
前記ガセットに形成された複数のリベット孔に対応する、前記サイドメンバに形成された複数のリベット孔のうちの少なくとも一つを、前記クロスメンバの長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状に形成しておき、
前記ガセット及び前記サイドメンバ双方のリベット孔を重ねてリベットを差し込んで、これらのリベット孔にリベットを充満させることにより、前記ガセットと前記クロスメンバとを固定して前記クロスメンバユニットを製造することを特徴とするクロスメンバユニット製造方法。
【請求項5】
前記クロスメンバの長手方向に延びる長軸をもつ楕円形状のリベット孔を形成する際に、コ字状の横断面をもつクロスメンバの該コ字状横断面の両翼の先端に最も近いリベット孔を、前記楕円形状にすることを特徴とする請求項4に記載のクロスメンバユニット製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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