説明

クロマトグラフィー用カラム管

【課題】耐圧性に優れたプラスチック製のクロマトグラフィー用カラム管を提供すること。
【解決手段】繊維強化プラスチックを含んでなるクロマトグラフィー用カラム管であって、該プラスチック中の強化繊維は、織物、編物、組み物、引き揃え、引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットの形態を有する、クロマトグラフィー用カラム管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧性に優れたプラスチック製のクロマトグラフィー用カラム管、それを用いたクロマトグラフィー用カラム、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に使用されるカラム管は、その内部に充填された充填剤の所定の分離性能を安定して発揮するために、圧力による変形が極めて少ない耐圧性でなければならない。さらに、これらの管は溶離剤に対して不活性である必要もある。これらの点から、HPLC用のカラム管としては、通常、ステンレス鋼製の管が使用されている。しかしながら、ステンレス鋼製の管は、分取用に大型化した場合、その重量が問題となり、取扱いが困難となる。また、特に充填剤が一体型(モノリス)の場合、充填剤と管との間に隙間が生じ、意図された分離性能が発揮できないこともある。さらに、分離対象が金属イオンで変性する場合や、溶離剤が金属を攻撃する場合など、ステンレス鋼製の管を使用することができない場合がある。
【0003】
近年、ステンレス鋼製の管の代替として、耐圧性プラスチック製の管も開発されている。例えば、ガラス繊維や炭素繊維で強化されたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる管(特許文献1および2)、熱硬化性ポリイミドからなる管(特許文献3)などが開発されている。このような管の場合、分取用に大型化しても軽量であるので取扱いは容易であり、また、ステンレス鋼製の管が使用できない分離対象、溶離剤についても使用することができる。さらに、押出成型、射出成型、注型成型によって、一体型充填剤の周囲にプラスチック管を形成させることで、一体型充填剤と管が隙間なく密着したカラムを製造することができる(特許文献2および3)。しかしながら、これらの管の耐圧性は、HPLCでの使用に十分に満足できるものではなかった。
【特許文献1】特表2003−504460号公報
【特許文献2】特表2003−530571号公報
【特許文献3】特開平10−197508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐圧性に優れたプラスチック製のクロマトグラフィー用カラム管、それを用いた分離性能に優れたクロマトグラフィー用カラム、およびそれらの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、プラスチック中の強化繊維が織物、編物、組み物、引き揃え、引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットの形態を有する繊維強化プラスチックを使用することで、従来のプラスチック製のカラム管よりも顕著に高い耐圧性を有するカラム管が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明には以下のものが含まれる。
〔1〕繊維強化プラスチックを含んでなるクロマトグラフィー用カラム管であって、該プラスチック中の強化繊維は、織物、編物、組み物、引き揃え、引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットの形態を有する、クロマトグラフィー用カラム管。
〔2〕繊維強化プラスチックは、強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグをベースとする、上記〔1〕に記載のクロマトグラフィー用カラム管。
〔3〕(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、芯材の周囲に被覆する工程、
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程、および
(3)該芯材を除去する工程
を含んでなる、上記〔1〕または〔2〕に記載のクロマトグラフィー用カラム管の製造方法。
〔4〕上記〔1〕または〔2〕に記載のクロマトグラフィー用カラム管と、該管に充填された多孔質体とを含んでなる、クロマトグラフィー用カラム。
〔5〕多孔質体は一体型多孔質体である、上記〔4〕に記載のクロマトグラフィー用カラム。
〔6〕(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、多孔質体を含んでなる芯材の周囲に被覆する工程、および
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程
を含んでなる、上記〔5〕に記載のクロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のクロマトグラフィー用カラム管は、プラスチック中の強化繊維が所定の形態を有することで、従来のプラスチック製カラム管よりも顕著に優れた耐圧性を有する。したがって、当該カラム管に充填剤を充填したクロマトグラフィー用カラムは、従来のプラスチック製カラム管を用いたカラムよりも、はるかに高い圧力下でのクロマトグラフィーに使用することができる。
また、一体型充填剤(一体型多孔質体)を芯として、特にプリプレグ法によって、その周囲に上記カラム管を形成したカラムは、充填剤とカラム管との密着性が高く、分離性能の低下を生じさせる充填剤とカラム管の間の隙間は実質的に存在しないため、極めて高い分離性能を有する。
さらに、本発明によれば、上記クロマトグラフィー用カラム管およびカラムを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のクロマトグラフィー用カラム管は、繊維強化プラスチックを含んでなる。
上記繊維強化プラスチックに用いるプラスチックとしては、所望のクロマトグラフィーにおける溶媒に対する化学的安定性、必要とされる耐圧性などに応じて、種々の熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物を使用することができる。
【0008】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられる。これらは、単独で、または2種以上の混合物として使用することができる。
また、上記熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂との混合物として使用することができる。熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合することで、熱硬化性樹脂を単独使用した場合の脆さなどの欠点を改善することができる。このような目的に使用できる熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)などが挙げられる。これらは、単独で、または2種以上の混合物として使用することができる。
【0009】
上記繊維強化プラスチックに用いるプラスチックのなかでも、機械的強度、耐薬品性に優れていることから、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが特に好ましい。
【0010】
本発明における繊維強化プラスチックに用いる強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、石英繊維、アルミナ繊維などの無機繊維、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維などの有機繊維が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上の混合物として使用することができる。
なかでも、高弾性率を有するガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが好ましく、高強度ガラス繊維(Sガラス繊維)、高弾性率炭素繊維などが特に好ましい。
【0011】
本発明における強化繊維は、長繊維(特にヤーン(糸))を使用してなる織物、編物、組み物、引き揃え、または引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットの形態を有する。ここで織物としては、平織、朱子織、綾織などの二軸織物、または三軸以上の多軸織物が挙げられる。
上記の形態のなかでも、繊維強化プラスチックの繊維含有率を高くでき、繊維の方向性が揃えられていることから、織物、編物、組み物、引き揃え、または引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態が好ましい。
【0012】
本発明における繊維強化プラスチック中の強化繊維の含有量は、特に限定されず、使用する強化繊維の形態などに応じて適宜設定することができる。例えば、強化繊維が織物、編物、組み物、引き揃え、または引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態の場合、繊維強化プラスチック中の強化繊維の含有量は、通常、繊維強化プラスチック全体の30〜40体積%程度であり、チョップドストランド、ペーパー、マットの形態の場合、20〜30体積%程度である。
【0013】
本発明のカラム管の製造方法は、特に限定されず、当該分野で既知の方法を用いることができるが、好適にはプリプレグを用いる方法が挙げられる。ここでいう「プリプレグ」とは、織物、編物、組み物、引き揃え、引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットなどの形態の強化繊維に、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物が、未硬化または半硬化(Bステージ)の状態で含浸されてなる前駆体をいう。プリプレグは、上記織物などの形態の強化繊維に樹脂ワニス(溶剤で希釈した樹脂)を含浸させた後、溶剤を揮散させる方法、離型紙上に樹脂をコーティングし、強化繊維に転写する方法などにより製造することができる。
【0014】
したがって、本発明のクロマトグラフィー用カラム管は、好適には、
(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、芯材の周囲に被覆する工程、
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程、および
(3)該芯材を除去する工程
を含んでなる方法により製造される。
【0015】
具体的には、まず、強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、芯材の周囲に被覆する。ここで芯材は、特に限定されず、従来既知の方法で使用される鋼鉄などの金属製の棒(円柱)などを使用することができる。その直径および長さは、所望のカラム管の中空径および長さに応じて適宜選択することができる。また、後述するように、クロマトグラフィー用カラムの充填材を芯材として使用することもできる。
【0016】
次いで、被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化させる。熱硬化性樹脂の硬化は、特に限定されず、従来既知の方法で行うことができるが、成形体中にボイドが発生しないように注意して行う必要がある。
【0017】
熱硬化性樹脂の硬化後、得られる成形体(管)から芯材を除去する。例えば、金属製の芯材の場合、成形体から単に引く抜くことによって除去することができる。
【0018】
本発明のクロマトグラフィー用カラム管は、従来既知の方法で、その内部に充填剤を充填し、その末端部に通常のクロマトグラフィー用カラムに用いられる部品、例えば、コネクター、フィルター、シールなどを設けて、クロマトグラフィー用カラムとすることができる。
【0019】
上記充填剤としては、特に限定されず、従来既知の種々のタイプのクロマトグラフィー用充填剤を使用することができる。例えば、シリカゲルなどの無機材料、各種ポリマーなどの有機材料の多孔質体を使用することができる。さらに、充填剤の形態は、粒子状でもよく、一体型(モノリス)でもよい。分離性能が高いことに加え、後述するように、充填剤とカラム管が密着したカラムを製造できる点から、好適には一体型多孔質体が挙げられ、例えば、国際公開第2006/126387号に記載された高分子多孔質体などが挙げられる。
【0020】
充填剤として一体型多孔質体を使用する場合、上記のようにカラム管を製造し、次いで、そのカラム管に棒状に成形した一体型多孔質体を充填してもよく、あるいは、カラム管中でモノマーを重合して一体型多孔質体を形成させてもよい。しかしながら、充填剤とカラム管の密着性の点で、プリプレグを用いるカラム管の製造において、一体型多孔質体を芯材として用いる方法が好適である。
【0021】
したがって、本発明のクロマトグラフィー用カラムは、好適には、
(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、多孔質体を含んでなる芯材の周囲に被覆する工程、および
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程
を含んでなる方法により製造される。
【0022】
上記カラムの製造方法は、多孔質体を含んでなる芯材(すなわち、一体型多孔質体)を除去しないことを除いて、上記プリプレグを用いるカラム管の製造方法と同様に行うことができる。
【0023】
上記方法において、プリプレグを被覆する前に、例えば一体型多孔質体を熱収縮性プラスチックの管で覆うことなどによって、一体型多孔質体の周囲に予め熱収縮性プラスチックの層を設けることが好適である。熱収縮性プラスチックは、収縮してカラム管と一体型多孔質体との間の結合剤として作用し、カラム管と一体型多孔質体との隙間をさらに減少させることができる。この場合、一体型多孔質体と、該多孔質体を被覆する熱収縮性プラスチック由来の層と、該層を被覆する繊維強化熱硬化性樹脂由来の層を含んでなるカラムが得られる。
【0024】
上記熱収縮性プラスチックとしては、特に限定されず、熱収縮性を有する各種の樹脂、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂などが挙げられるが、耐薬品性の点から、好適にはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。
【0025】
また、上記熱収縮性プラスチックは、熱硬化性樹脂の硬化とは別の工程で収縮させることもできるが、プリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する際に同時に収縮させることが好適である。
【0026】
上記のように一体型多孔質体を芯材としてプリプレグを用いて製造される本発明のクロマトグラフィー用カラムは、一体型多孔質体とカラム管との密着性が高く、分離性能の低下を生じさせる充填剤とカラム管との間の隙間は存在しない。したがって、当該カラムの分離性能は、極めて高い。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
〔実施例1〕
(1)ネットワーク状に連結した連続貫通孔を有する多孔質部材の作製
0.1モル濃度硝酸5.47gと、EOPOEO5800(平均分子量5,800;アルドリッチ社製)0.7gを混合し、60℃の恒温槽にて1時間攪拌した。1,2−ビストリメトキシシリルエタン(BTME)2mlを、BTME:0.1M HNO3aq=1:38(モル比)となるように混合して5分間攪拌し、溶液を円柱状のガラスチューブに注いで60℃の恒温槽にてゲル化させた後、24時間エージングを行った。熟成したゲルをチューブから取り出し、水、1.5モル尿素水溶液の順にそれぞれ1日浸漬し、再びチューブに入れて密閉した後、150℃にて24時間水熱処理を行った。水熱処理したゲルをチューブから取り出し、水、エタノール水溶液(30体積%)の順にそれぞれ2時間浸漬し、3日間乾燥した後、350℃で5時間熱処理を行った。
【0029】
(2)順相条件下におけるカラムの評価
上記(1)に示す方法で作製した円柱状のゲルを直径4.6mm、長さ50mmに成形し、熱収縮チューブで覆った後、外径が6.5mmになるようにプリプレグ(三菱レーヨン製、パイロフィルCSテープとクロスプリプレグ)を巻いた。その後、135℃のオーブンに入れて硬化することによって液体クロマトグラフィー用カラムを得た。得られたカラムについて、順相条件下においてクロマトグラフィー評価を行った(図1)。ヘキサン/2−プロパノール=98/2(v/v)を移動相とし、トルエン、ジニトロトルエン、ジニトロベンゼンをサンプルとして用いた。
その結果、図1のように通常のクロマトグラフィー条件において使用可能となり、高流速域による高いカラム負荷圧下においても、カラムを破壊することなく性能を維持することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で製造した液体クロマトグラフィー用カラムについて、順相条件下においてクロマトグラフィー評価を行った結果を示す。図中、最初のピークからトルエン、ジニトロトルエン、ジニトロベンゼンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックを含んでなるクロマトグラフィー用カラム管であって、該プラスチック中の強化繊維は、織物、編物、組み物、引き揃え、引き揃えた繊維束をステッチ糸で結束した形態、チョップドストランド、ペーパーまたはマットの形態を有する、クロマトグラフィー用カラム管。
【請求項2】
繊維強化プラスチックは、強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグをベースとする、請求項1に記載のクロマトグラフィー用カラム管。
【請求項3】
(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、芯材の周囲に被覆する工程、
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程、および
(3)該芯材を除去する工程
を含んでなる、請求項1または2に記載のクロマトグラフィー用カラム管の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のクロマトグラフィー用カラム管と、該管に充填された多孔質体とを含んでなる、クロマトグラフィー用カラム。
【請求項5】
多孔質体は一体型多孔質体である、請求項4に記載のクロマトグラフィー用カラム。
【請求項6】
(1)強化繊維と熱硬化性樹脂とを含んでなるプリプレグを、多孔質体を含んでなる芯材の周囲に被覆する工程、および
(2)該被覆されたプリプレグ中の熱硬化性樹脂を硬化する工程
を含んでなる、請求項5に記載のクロマトグラフィー用カラムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197119(P2009−197119A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39715(P2008−39715)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)
【Fターム(参考)】