説明

クロロゲン酸を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤及びその製造方法

本発明はクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤に関する。より詳しくは、本発明は、過発現が疾病の病理的機序に関与するトランスグルタミナーゼの作用を抑制するためのクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤とこれらの新規の用途に関するものである。本発明は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を活性成分で含む、トランスグルタミナーゼ抑制剤及びトランスグルタミナーゼの抑制方法を提供する。本発明によるクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を利用してトランスグルタミナーゼを抑制する新規の方法はトランスグルタミナーゼが過発現する疾患を持った対象に安全な方法で副作用なしに容易に適用されてトランスグルタミナーゼを抑制する効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤に関する。より詳しくは本発明は、多様な疾病の病因に関与するトランスグルタミナーゼの作用を抑制するためのクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤と、その新規の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスグルタミナーゼ(Transglutaminase)は、正常状況では血液の凝固や傷の治癒などの保護作用をする酵素である。しかし、その発現が調節できない場合には、多くの疾病の病理的機序に主な役目をすると知られている(総説.Soo-Youl Kim : New Target Against Inflammatory Diseases: Transglutaminase 2. Archivum Immunologiae & Therapiae Experimentalis 52, 332-337, 2004)。
【0003】
特に、炎症を伴う疾病、つまりリウマチ性関節炎(rheumatoid arthritis)、糖尿病、炎症性筋炎(inflammatory myositis)、動脈硬化、脳卒中、肝硬変、乳房癌、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(Huntington)、脳炎(encephalitis)及び小児脂肪便症(Celiac disease)などにおいてトランスグルタミナーゼの発現が特に増加する。また、癌の転移(metastasis)、化学的耐性、放射線耐性においてもNF−κBの発現増加及びトランスグルタミナーゼの発現増加が観察された(Soo-Youl Kim. Transglutaminase 2 in inflammation. Front Biosci. 11, 3026-3035, 2006)。
【0004】
いまだ癌の化学的耐性とトランスグルタミナーゼがどのように連関しているかは明かされていないが、化学的耐性を持つ乳房癌細胞に対してトランスグルタミナーゼの発現を抑制する場合、癌細胞が抗癌剤に敏感に反応して死滅される(Antonyak et al., Augmentation of tissue transglutaminase expression and activation by epidermal growth factor inhibit doxorubicin-induced apoptosis in human breast cancer cells. J Biol Chem. 2004 Oct 1;279(40):41461-7; Dae-Seok Kim et al. Reversal of Drug Resistance in Breast Cancer Cells by Transglutaminase 2 Inhibition and Nuclear Factor-KB Inactivation. Cancer Res. 2006. in press)。
【0005】
また、最近トランスグルタミナーゼが活性化する分子水準の病理的機序が明かされることにより、トランスグルタミナーゼの抑制の妥当性が一層具体化された(Key Chung Park, Kyung Cheon Chung, Yoon-Seong Kim, Jongmin Lee, Tong H. Joh, and Soo-Youl Kim. Transglutaminase 2 induces nitric oxide synthesis in BV-2 microglia. Biochem. Biophys. Res. Commun. 323, 1055-1062, 2004; Jongmin Lee,Yoon-Seong Kim, Dong-Hee Choi, Moon S. Bang, Tay R. Han , Tong H. Joh, and Soo-Youl Kim. Transglutaminase 2 induces NF-κB activation via a novel pathway in BV-2 microglia. J. Biol. Chem. 279, 53725-53735, 2004; ; Dae-Seok Kim et al. Reversal of Drug Resistance in Breast Cancer Cells by Transglutaminase 2 Inhibition and Nuclear Factor-KB Inactivation. Cancer Res. 2006. in press)。
【0006】
炎症は主にNF−κB転写物質の活性化に起因する。NF−κBは信号伝達体系によるキナーゼ(kinase)によって活性化すると知られた。しかし、キナーゼの助けなしにもNF−κBが活性化することが知られることにより、キナーゼ抑制剤の実効性が減少した(Tergaonkar et al., IkappaB kinase-independent IkappaBalpha degradation pathway: functional NF-kappaB activity and implications for cancer therapy. Mol Cell Biol. 2003 Nov;23(22):8070-83.)。
【0007】
本発明者による以前の研究において、トランスグルタミナーゼがキナーゼ(IKK、NAK)の助けなしに、I−κBaを架橋結合してNF−κBを活性化させるということが報告された(Jongmin Lee, et al. Transglutaminase 2 induces NF-kB activation via a novel pathway in BV-2 microglia. J. Biol. Chem. 279, 53725-53735, 2004)。トランスグルタミナーゼはカルシウム依存性酵素で、細胞内カルシウムの増加だけでもNF−κBを活性化させることができるものである。
【0008】
炎症反応において、NF−κB転写因子の活性化によってトランスグルタミナーゼを含む炎症性因子とその抑制剤であるI−κBaの発現が増加するので、正常の場合にはI−κBaによってNF−κBが連続活性化しないが、晩成炎症疾患では続いてNF−κBが活性化する。おもしろい現象は、TNF−aまたはLPS(lipopolysaccharide)などによるNF−κBの活性化によってトランスグルタミナーゼの発現が誘導されることである。したがって、非正常的に活性化したトランスグルタミナーゼが炎症細胞においてNF−κBを直接活性化させるか、活性化したNF−κBをさらに維持させることで炎症を持続させる役目をすると予想される(図1)。また、このような悪性回路は癌組職において癌の転移及び薬物抵抗性を誘発する主原因になることができる(Jongmin Lee, et al. Transglutaminase 2 induces NF-κB activation via a novel pathway in BV-2 microglia. J. Biol. Chem. 279, 53725-53735, 2004)。
【0009】
したがって、トランスグルタミナーゼの抑制剤はNF−κBの連続サイクルを切る重要な物質になることができ、本発明者が提案したステロイド製剤代替効果はまさにこれに根拠したものと思われる(Sohn, J., Kim, T.-I., Yoon, Y.-H., and Kim, S.-Y.: Transglutaminase Inhibitor: A New Anti-Inflammatory Approach in Allergic Conjunctivitis. J. Clin. Invest. 111, 121-8, 2003)。
【0010】
トランスグルタミナーゼ活性を抑制する物質としては、アミン化合物が知られており、代表的にシスタミン(nature Genetics 18, 111-117, 1998; Nature Medicine 8, 143-149, 2002)とプトレッシン(putrescine)である。また、モノダンシルカダベリン(monodansylcadaverine)(J. Med. Chem. 15, 674-675, 1972)、w−ジベンジルアミノアルキルアミン(w−dibenzylaminoalkylamine)(J. Med. Chem. 18, 278-284, 1975)、3−ハロ−4,5−ジヒドロイソオキサゾール(Mol. Pharmacol. 35, 701-706, 1989)、2−[(2−オキソプロピル)チオール]イミダゾリウム誘導体(Blood, 75, 1455-1459, 1990)などの化学的抑制剤が開発されているが、いずれも生体において非特異的に他の酵素の抑制を誘発する毒性が知られている。
【0011】
したがって、安全で効果的なトランスグルタミナーゼ特異的抑制剤の開発が要求されている。最近、ソーンらはモルモットに花粉を利用した目アレルギーモデルから、ペプチドで作られたトランスグルタミナーゼ抑制剤を使用してステロイド水準の効果をおさめるのに成功した(Sohn, J., Kim, T.-I., Yoon, Y.-H., and Kim, S.-Y.: Transglutaminase Inhibitor: A New Anti-Inflammory Approach in Allergic Conjunctivitis. J. Clin. Invest. 111, 121-8, 2003)。アチフラミンタンパク質(PLA2抑制剤)とエラフィン(elafin)というタンパク質(非常に強力なトランスグルタミナーゼ基質、Nara, K., et al. 1994. Elastase inhibitor elafin is a new type of proteinase inhibitor which has a transglutaminase-mediated anchoring sequence termed ”cementoin”. J Biochem (Tokyo). 115:441-448)においてトランスグルタミナーゼ触媒部位を真似って合成したペプチドを使用した。特に、炎症を伴う疾病の発生の際、トランスグルタミナーゼの発現が大きく増加し、このような疾病の例として、リウマチ性関節炎、糖尿病、自己免疫筋炎、動脈硬化、脳卒中、肝硬変、悪性乳房癌、脳炎、小児脂肪便症などがある。
【0012】
前述した化合物の外にも他の化学的抑制剤が開発されたが、いずれも生体的に利用される場合に非特異的な他の酵素の抑制を誘発する毒性が知られている実情である。本発明者によって以前に製造されたペプチド抑制剤がトランスグルタミナーゼの抑制剤としてで有効であるが(大韓民国特許出願第10−2006−98921号)、費用と安全性の面でその実用化には依然として問題が残っている。
【0013】
一方、クロロゲン酸はカフェ酸(caffeic acid)及びキナ酸(quinic acid)のエステルで、コーヒーの主要フェノール性成分であり、双子葉植物の葉及び果実から分離される。このようなクロロゲン酸は生コーヒー豆及びローストされたコーヒー豆に含有されている物質であって、メタノール/水の混合溶媒でHPLC−UV抽出するときに易しく抽出される物質であり、すでに開示されている(Bicchi et al., J. Agric. Food Chem., 43, ppl549-1555 (1995))。また、クロロゲン酸はコーヒー及びPsilantusなどの種子に含有されている物質であり、その天然物分離方法及びその系統的分類方法が開示されている(Clifford et al. in Phytochemistry, Vol.28, No.3, pp829-838(1989))。このようなクロロゲン酸は植物代謝の重要な因子であり、抗酸化剤及び食後血流内へのグルコース放出を遅くすることが知られている。
【0014】
また、大韓民国公開特許第10−2001−87593号には、天然または合成クロロゲン酸を内分泌撹乱物質による男性生殖機能の低下に対する予防及び治療用薬剤として使用することについて開示されており、日本特開2002−363075号には、コーヒー、ナンテンの葉、リンゴの未熟果に含まれているクロロゲン酸を高血圧予防及び治療剤として使用することについて開示されており、大韓民国公開特許第10−2006−128907号には、このようなクロロゲン酸を含み、ヒドロキシヒドロキノン含量を低下させることで優れた血圧降下作用を持つコーヒー飲み物について開示されている。しかし、このような先行文献はいずれもクロロゲン酸がトランスグルタミナーゼを抑制する活性を持っていることについては全然開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者はすでに安全性が認められて常用化されている天然物質の中でトランスグルタミナーゼ抑制剤として有用な物質をスクリーニングした結果、クロロゲン酸のトランスグルタミナーゼ抑制剤としての活性を新たに見つけて本発明に至ることになった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤を提供することである。
【0017】
また、本発明の他の目的は、活性成分としてクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を使用するトランスグルタミナーゼの抑制方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む、トランスグルタミナーゼの活性増加によって引き起こされる疾病を治療するための薬剤学的組成物を提供することである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を使用して、トランスグルタミナーゼの活性増加によって引き起こされる疾病を治療する方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】トランスグルタミナーゼが[1,4,−14C]プトレッシンをサクシニル化カゼインに結合させることを測定して、クロロゲン酸がプトレッシンと競争してその反応を抑制することを観察したクロロゲン酸のトランスグルタミナーゼ活性度抑制のインビトロ(in vitro)試験に対するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一面によれば、本発明は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤と、活性成分としてクロロゲン酸を使用してトランスグルタミナーゼの活性を抑制する方法に関するものである。
【0022】
クロロゲン酸は前述したように大部分双子葉植物の果実や葉などに存在し、その化学名は3−[[3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペニル]オキシ]−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸であり、3−カフェオイルキナ酸(3−caffeoylquinic acid)と呼ばれることもある。天然で得られたクロロゲン酸の場合には、異性質体であるイソクロロゲン酸及びネオクロロゲン酸が少量含有されている場合もあり、加水分解の際にカフェ酸を生成する。前記クロロゲン酸の分子式はC1618であり、分子量は354.30であり、その構造式は次のようである。
【0023】
【化1】

【0024】
本発明において、クロロゲン酸は天然または合成のものを使用することができ、天然のクロロゲン酸はリンゴ、梨、桃のようなバラ科植物の果実(未熟果含み)、コーヒー豆、カカオ豆またはぶどうの種、アーティチョークなどから公知の方法で抽出された天然フェノール及びポリフェノール系抽出物から公知の方法による分離精製によって収得できる(H. Li et al., J. Chromatogr. A 1098(2005) 66-74 and V. Ossipov et al., J. Chromatogr. A 721(1996) 59-68)。また、合成されたクロロゲン酸は公知の方法による合成によって収得できる(M. Lepelley et al., Plant Science 172(2007) 978-996 and J. Stockigt et al., FEBS LETTERS 42(1974) 131-134)。このような天然または合成クロロゲン酸は直接製造するか、あるいは市販品の使用が可能である。
【0025】
クロロゲン酸の誘導体は天然物から分離されるエステル形態のもので、メチルクロロゲネート、エチルクロロゲネートが知られており、アメリカ登録特許6,632,459号には、クロロゲン酸のヒドロキシル基部分がカフェ酸に置換されたクロロゲン酸の誘導体について開示されており、本発明によるトランスグルタミナーゼ抑制剤はこのようなクロロゲン酸と同等なトランスグルタミナーゼ抑制効果を持つ誘導体を含む。
【0026】
また、本発明によるトランスグルタミナーゼ抑制剤は、クロロゲン酸の薬剤学的に許容可能な塩を含む。このようなクロロゲン酸の塩の形態としては、クロロゲン酸ナトリウム、クロロゲン酸カリウム及びクロロゲン酸マグネシウムが知られており、本発明による好適なクロロゲン酸の塩の形態は、クロロゲン酸ナトリウム(sodium chlorogenate)またはクロロゲン酸カリウム(potassium chlorogenate)である。
【0027】
本発明の具体的な一実施例において、本発明者はトランスグルタミナーゼが[1,4,−14C]プトレッシン(putrescine)をサクシニル化カゼインに結合させることを測定して、クロロゲン酸がプトレッシンと競争してその反応を抑制することを観察した。インビトロ(in vitro)実験において、14Cで標識されたプトレッシンをサクシニル化カゼインと結合させるトランスグルタミナーゼの反応にクロロゲン酸を添加したとき、トランスグルタミナーゼの活性はクロロゲン酸の濃度が増加するほど減少した(図1)。よって、クロロゲン酸がトランスグルタミナーゼの抑制剤であることが分かり、トランスグルタミナーゼが過発現するとき、クロロゲン酸を使用して増加したトランスグルタミナーゼの活性を減らすことができることが分かる。
【0028】
他の面によれば、本発明は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む、トランスグルタミナーゼの活性増加による疾病を予防、治療するための薬剤学的組成物と、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を使用して前記疾病を治療する方法に関するものである。
【0029】
本発明において、用語“予防”とは、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む組成物の投与によって、トランスグルタミナーゼの活性増加によるすべての疾病の発病を抑制させるか発病を引き延ばすすべての行為をいい、“治療”とは、前記薬剤学的組成物の投与によって、トランスグルタミナーゼの活性増加によるすべての疾病を好転させるかよく変更するすべての行為を意味する。
【0030】
本発明において、トランスグルタミナーゼの活性増加による疾病は、トランスグルタミナーゼが過発現するときのようにその活性が増加することにより引き起こされるすべての疾病を含むが、具体的には神経系疾患と癌を含む。
【0031】
神経系疾患の場合、神経細胞の死亡または損傷に係わる疾患で、特にアルツハイマー病、多発脳梗塞性認知症、アルツハイマー病と多発脳梗塞性認知症の混合型、パーキンソン病、甲状腺機能低下症、アルコール性認知症、ハンチントン病などの中枢神経系細胞の損傷及び死亡による中枢神経系疾患が代表的である。このような疾病の主要症状は、認知機能の障害と、言語、判断、抽象力、空間時間的適応力及びその他の新技術習得の障害などを含み、性格変化、情緒的不安定などの病症が現れ、終局には死亡に至ることになる。このうち、本発明の薬剤学的組成物は神経組職内でトランスグルタミナーゼが過発現するときのようにその活性が増加した疾病に使用できる。具体的には、脳においてトランスグルタミナーゼが過発現するハンチントン病(Nature Medicine, Vol 8. Number 2 , February 2002 pp143-149)、小脳と大脳皮質においてトランスグルタミナーゼが過発現するアルツハイマー病(The Journal of Biological Chemistry, Vol. 274. No. 43. Issue Of October 22, pp 30715-30721)、αシヌクレイン(α synuclein)がトランスグルタミナーゼによって凝集するパーキンソン病(PNAS, February 18,2003, Vol. 100, no.4, pp2047-2052)などに使用できるが、これらに制限されなく、神経組職内でトランスグルタミナーゼが過発現するすべての疾病の治療に使用できる。
【0032】
癌の場合、癌の転移、化学的耐性、放射性耐性を持つ癌においてトランスグルタミナーゼの著しい発現の増加が確認されるので、トランスグルタミナーゼの抑制は癌予防及び治療の面でも重要である。本発明のクロロゲン酸を含む薬剤学的組成物を使用して予防または治療可能な具体的な癌は、トランスグルタミナーゼの増加が現れる癌、具体的には大膓癌、小腸癌、直膓癌、肛門癌、食道癌、膵膓癌、胃癌、腎臓癌、子宮癌、乳房癌、肺癌、リンパ腺癌、甲状腺癌、前立腺癌、白血病、皮膚癌、結腸癌、脳腫瘍、膀胱癌、卵巣癌、胆嚢癌などを含み、これらに制限されない。
【0033】
本発明のクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む組成物及び治療方法は、人間のみならず、トランスグルタミナーゼの活性増加によって疾病が発病可能な牛、馬、羊、豚、山羊、ラクダ、レイヨウ、犬、猫などの哺乳動物にも使用可能である。
【0034】
本発明のクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む薬剤学的組成物は単一剤としても使用することができ、公認の薬学組成物を含んで複合剤に製造して使用することもできる。
【0035】
クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む薬剤学的組成物は、クロロゲン酸を含むカプセルに賦形剤なしに充填するか微粒状の固体担体、液体担体または両者と均一で充分に接触させて製造することができる。その後、必要な場合は、生成物を好ましい製剤に成形して使用することができる。適した賦形剤の例としては、澱粉、水、食塩水、エタノール、グリセロール、リンゲル液及びデキストロース溶液などをあげることができ、文献(Remington's Pharmaceutical Science, 19thEd., 1995, Mack Publishing Company, Easton PA)などに開示されているように、技術分野に知られた適合した製剤に製剤化することができる。
【0036】
本発明のクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む薬剤学的組成物は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を有効成分として含むいずれの剤型にも適用可能であり、経口用または非経口用にも製造することができる。非経口用剤型としては、注射用、塗布用、エアロゾールなどのスプレー型であることができ、好ましくは注射用またはエアロゾールなどのスプレー形態であり、経口用剤型も好ましい。
【0037】
本発明の薬剤学的組成物を含む経口投与用剤型としては、例えば錠剤、トローチ剤、ロジェンジ(lozenge)、水溶性または油性懸濁液、粉末、料粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップ、及びエリキシル剤に製剤化できる。錠剤及びカプセルなどの剤型に製剤するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンにトール、澱粉、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンのような結合剤、ジカルシウムフォスフェートのような賦形剤、トウモロコシ澱粉またはサツマイモ澱粉のような崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウムまたはポリエチレングリコールワックスのような潤滑油を含むことができ、カプセル剤型の場合、前述した物質の外にも脂肪油のような液体担体をさらに含むことができる。
【0038】
本発明の薬剤学的組成物を非経口で投与する場合、非経口投与は、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの注射用形態、坐剤注入方式または呼吸器を通じて吸入可能にするエアロゾール剤などのスプレー用に製剤化できる。注射用剤型に製剤化するためには、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を安定剤または緩衝剤とともに水に混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与用に製剤する。坐剤として注入するためには、ココアバターまたは他のグリセリドなどの通常の座薬ベースを含む座薬または治療下剤のような直腸投与用組成物に製剤化できる。エアロゾール剤などのスプレー用に剤型化する場合、水分散された濃縮物または湿潤粉末が分散されるように推進剤などを添加剤とともに配合することができる。
【0039】
本発明の薬剤学的組成物は、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻腔内、吸入、眼球内及び皮下の経路を通じて通常の方式で投与することができる。非経口投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、経皮及び動脈内注射及び注入を含む投与方式を意味する。本発明のクロロゲン酸を含む薬剤学的組成物の非経口投与は、所望純度のクロロゲン酸を薬剤学的に許容可能な担体、つまり使用濃度及び投与量で受容体に非毒性で、他の製剤成分と混合可能な担体と混合して単位投与量の剤型に調剤することが好ましい。特に、製剤は、酸化剤、及び人体に有害であると知られた他の化合物を含まないことが好ましい。
【0040】
本発明のクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体は1種以上の薬剤学的に許容可能な賦形剤とともに薬剤学的組成物として投与できる。人間患者に投与される場合、本発明の薬剤学的組成物の1日総使用量は正しい医学的判断範囲内で医師によって決定可能であるのは当業者に明らかなことである。特定の患者に対する具体的な治療的有効量は達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が使用されるか否かによる具体的組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物とともに使用されるか同時に使用される薬物を含む多様な因子と医薬分野によく知られた類似因子によって違うように適用することが好ましい。当該技術分野に知られた適合した製剤は文献(Remington's Pharmaceutical Science, 19thEd., 1995, Mack Publishing Company, Easton PA)に記載されている。したがって、本発明の目的に適したクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体の有効量は前述した事項を考慮して決定することが好ましい。
【0041】
以下、本発明は例示のために開示する下記の実施例によってより明らかになるであろうが、下記の実施例が本発明の範囲を限定するものない。
【実施例】
【0042】
〔トランスグルタミナーゼ活性度抑制に対するin vitro試験〕
トランスグルタミナーゼが[1,4,−14C]プトレッシンをサクシニル化カゼインに結合させることを測定して、クロロゲン酸がプトレッシンと競争してその反応を抑制することを観察した。
【0043】
サクシニル化したカゼインはCalbiochem(Cat.No.573464)から購入し、前記粉末1gを5mM DTTを含む反応緩衝溶液50ml(0.1M Tris−acetate(pH 8.0)、10mM CaCl、0.15M NaCl、1.0mM EDTA)に溶解させた。この溶液は使用前にDeep freezerに保管する。[1、4−14C]プトレッシンジヒドロクロリドはGE Healthcare(Cat.No.CFA301)から購入し、そのストック溶液を放射線量(radiological dosage)が5μCi/mlに達するまで蒸溜水で希釈させた。トランスグルタミナーゼ2はSigma−Aldrich(Cat.No.T5398)から購入し、最終濃度が1unit/mlになるように蒸溜水で希釈させた。クロロゲン酸のストック溶液はクロロゲン酸(Sigma−Aldrich、Cat.No.C3878)をDMSOに10mM濃度でとかして製造した後、これをDMSOで希釈してそれぞれの濃度に製造した。
【0044】
基質溶液は450μlのサクシニル化したカゼイン溶液及び[1、4−14C]プトレッシンジヒドロクロリド溶液50μlを混合して製造した。それぞれのサンプルを、96μlの反応緩衝液、3μlのクロロゲン酸のストック溶液及び1μlのトランスグルタミナーゼストック溶液を混合して製造した。10分間37℃でサンプルをインキュベーションした後、基質溶液500μl及びサンプル溶液100μlをよく混合し、この混合物を37℃で時間インキュベーションした。4.5mlの冷たい(4℃)7.5%TCAを付け加えて反応を停止させ、全溶液を1時間4℃で保管した。TCA−タンパク質沈殿物をGF/ガラスフィルターで濾過し、冷たい5%TCA25mlで洗浄して乾燥した。架橋されたタンパク質の放射能をベータ(β)−カウンター(Beckman Coulter)で測定し、標準としてDMSO−対照群の活性によって補正した。測定された数値をトランスグルタミナーゼの活性で示した。同一条件下でこのような分析を三回繰り返した。その値は下記の表1に示すようである。
【0045】
【表1】

【0046】
また、その平均値をクロロゲン酸の濃度に対して示した。IC50数値は一般の非線形回帰法によって計算した。これは1.4915(±0.1229)μMに決定された。
【0047】
クロロゲン酸の濃度によって測定された相対的なトランスグルタミナーゼ抑制活性を図1に示した。図1に示すように、トランスグルタミナーゼの活性はクロロゲン酸の濃度に依存して抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を活性成分で含むトランスグルタミナーゼ抑制剤及びトランスグルタミナーゼの抑制方法を提供する。
【0049】
本発明によるクロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩、またはその誘導体を利用してトランスグルタミナーゼを抑制する新規の方法は、トランスグルタミナーゼが過発現する疾患を持った対象に安定な方法で副作用なしに容易に適用してトランスグルタミナーゼを抑制する効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩及びその誘導体よりなる群から選ばれる物質を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤。
【請求項2】
クロロゲン酸の塩はクロロゲン酸ナトリウムまたはクロロゲン酸カリウムであることを特徴とする、請求項1に記載のトランスグルタミナーゼ抑制剤。
【請求項3】
クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩及びその誘導体よりなる群から選ばれる物質を使用してトランスグルタミナーゼの活性を抑制する方法。
【請求項4】
トランスグルタミナーゼの活性増加によって引き起こされる疾病を治療または予防するために、クロロゲン酸、その薬剤学的に許容可能な塩及びその誘導体よりなる群から選ばれる物質を含むことを特徴とする、薬剤学的組成物。
【請求項5】
クロロゲン酸の塩は、クロロゲン酸ナトリウムまたはクロロゲン酸カリウムであることを特徴とする、請求項4に記載の薬剤学的組成物。
【請求項6】
前記疾病は癌または神経系疾患であることを特徴とする、請求項4に記載の薬剤学的組成物。
【請求項7】
神経系疾患はアルツハイマー病、ハンチントン病またはパーキンソン病であることを特徴とする、請求項6に記載の薬剤学的組成物。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項の薬剤学的組成物を投与することを含むことを特徴とする、トランスグルタミナーゼの活性増加によって引き起こされる疾病の治療または予防方法。
【請求項9】
前記疾病は癌または神経系疾患であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
神経系疾患はアルツハイマー病、ハンチントン病またはパーキンソン病であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−529188(P2010−529188A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512072(P2010−512072)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/KR2008/003264
【国際公開番号】WO2008/153318
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(507151124)ナショナル キャンサー センター (9)
【Fターム(参考)】