説明

クロロフィル関連化合物を有効成分とするアポリポプロテインB分泌抑制剤

【課題】 明確なアポリポプロテインB分泌抑制活性を有しており、なおかつ安全性の高いアポリポプロテインB分泌抑制剤およびその製造方法を提供とすることを課題とする。
【解決手段】 クロロフィル関連化合物を有効成分とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。または、クロロフィル関連化合物を含有する植物、藻類または細菌の抽出物より得られるクロロフィル関連化合物を有効成分とすることを特徴とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロフィル関連化合物を有効成分として含有することを特徴とするアポリポプロテインB分泌抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アポリポプロテインは、リポタンパクを構成する血漿タンパク質であり、脂質を血液中に可溶化して各臓器へ運搬する機能を有している。アポリポプロテインにはアポリポプロテインA、アポリポプロテインB(以下、アポBと略称する)、アポリポプロテインCなどがあり、そのうちアポBは、VLDL、LDL、カイロミクロンといったリポタンパクの主要な構成タンパク質である。VLDL、LDL、カイロミクロンといったリポタンパクには1粒子あたり1分子のアポBが含まれ、リポタンパク粒子の構造維持あるいはLDL受容体への結合に重要な機能を果たしている(非特許文献1)。
【0003】
また、肝臓または小腸のミクロソーム画分の内腔に存在するMTP(ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質;microsomal triglyceride transfer protein)がアポBにトリグリセリド(TG)やコレステロールエステル(CE)を組み込むことによって、VLDLおよびカイロミクロンが形成され、血液中に分泌される(非特許文献2)。
従って、アポB分泌が抑制されると、VLDLやカイロミクロンの形成・分泌が抑制されることから、アポB分泌抑制剤は、血中の中性脂肪を低減し、動脈硬化を予防する効果が期待できる。
【0004】
共役トリエン酸系脂肪酸、その塩、その誘導体が、α−リノレン酸と比較してアポBの分泌を阻害する作用を有していることが開示されている(特許文献1)。しかし、実際には、共役トリエン酸系脂肪酸がα−リノレン酸を添加した時と比較してアポB分泌が抑制されたというだけであり、活性の面で充分満足といえる結果が得られていない。また、CP−346086といったMTP阻害剤の投与によってアポBの分泌が抑制されるが、肝細胞内に脂質を蓄積させるといった副作用も報告されている(非特許文献3)。このため、明確なアポB分泌抑制活性を有しており、なおかつ安全性の高いアポB分泌抑制剤の開発が望まれていた。
【0005】
クロロフィルは、植物や藻類、細菌に含まれる緑色のポルフィリン系色素で光合成において中心的な役割を担っている。また、緑色植物や藻類などのクロロフィルにはクロロフィルa, b, c, d等があり、光合成細菌のクロロフィルはバクテリオクロロフィルと呼ばれる。さらに、クロロフィルは酸・熱・酵素活性によって分解され、クロロフィリド、フェオフィチン、フェオホルバイド、ピロフェオホルバイド、メチルフェオホルバイド、フィトールなどのクロロフィル分解物へ変換されることが知られている。その他、クロロフィルの作用として、環境ホルモン排泄作用(特許文献2)や口臭除去作用(特許文献3)が開示されている。
【特許文献1】特開2002−265985
【特許文献2】特開2001−157559
【特許文献3】特開2003−250491
【非特許文献1】日本臨牀、2001年、59巻 増刊号2、109−113頁
【非特許文献2】日本臨牀、2001年、59巻 増刊号2、226−235頁
【非特許文献3】Journal of Lipid Research Volume 44, 2003, 1887-1901
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記を鑑み、アポB分泌抑制活性を有しており、なおかつ安全性の高いアポB分泌抑制剤を提供とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、クロロフィル関連化合物がアポB分泌抑制活性を有していることを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明が提供するのは以下の通りである。
(1) クロロフィル関連化合物を有効成分とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。
(2) クロロフィル関連化合物を含有する植物、藻類または細菌の抽出物より得られるクロロフィル関連化合物を有効成分とすることを特徴とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。
(3) クロロフィル関連化合物が、クロロフィル、クロロフィリド、フェオフィチン、フェオホルバイド、ピロフェオホルバイド、メチルフェオホルバイドおよびクロリンからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)または(2)のアポリポプロテインB分泌抑制剤。
(4) (1)〜(3)いずれかのアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する医薬用または動物薬用組成物。
(5) (1)〜(3)いずれかのアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する飲食用組成物。
(6) (1)〜(3)いずれかのアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する医薬部外品用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、クロロフィル関連化合物を有効成分とするアポB分泌抑制剤を提供する。本発明のアポB分泌抑制剤は、明確なアポB分泌抑制活性を有しており、安全性の高いアポB分泌抑制剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0011】
本発明でいうクロロフィル関連化合物とは、クロロフィル、クロロフィル誘導体またはクロロフィルを由来とする分解物の総称のことをいう。
【0012】
本発明において、クロロフィルは特に限定されない。具体的には、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルc、クロロフィルd、バクテリオクロロフィルなどが挙げられる。また、これらクロロフィルの塩、エステル体などのクロロフィル誘導体であってもよい。クロロフィルを由来とする分解物の場合、その分解の度合いは特に限定されず、具体的には、クロロフィリド、フェオフィチン、フェオホルバイド、ピロフェオホルバイド、メチルフェオホルバイド、クロリン、フィトールなどが挙げられるが、本発明ではクロロフィル由来分解物としては、テトラピロール環を保持しているクロロフィリド、フェオフィチン、フェオホルバイド、ピロフェオホルバイド、メチルフェオホルバイド、クロリンが活性の点から好ましい。
【0013】
また、上記クロロフィル関連化合物は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明において使用されるクロロフィル関連化合物は、天然由来のものであっても化学合成したものであってもよい。天然由来の場合、クロロフィル関連化合物は、これらを含有する植物、藻類、細菌から得ることができる。その植物、藻類、細菌は、クロロフィル関連化合物を含有するものであれば特に限定されず、具体的には、高菜、ケール、パセリ、明日葉、ほうれん草、三つ葉、春菊、茶葉、チンゲンサイ、大麦若葉、クマザサ、クロレラ、スピルリナ等が挙げられる。本発明において、これらの植物、藻類、細菌よりクロロフィル関連化合物を単離する場合、これらクロロフィル関連化合物を含有する植物、藻類、細菌より、エタノール、アセトン、メタノール等の有機溶媒でクロロフィル関連化合物を抽出することで、得ることが出来る。得られた抽出物よりさらにクロロフィル関連化合物を精製単離しても良いが、抽出物中に有効量のクロロフィル関連化合物が含有されている場合、抽出物をそのまま使用しても構わない。
【0015】
本発明において、アポB分泌抑制効果は、被験物質のアポB分泌抑制剤を哺乳動物に投与或いは摂取させる方法、或いは培養肝細胞に被験物質を作用させる事により評価可能であるが、培養肝細胞を用いた方法が、感度、再現性、簡便性において優れており、通常この方法が用いられる。培養肝細胞を用いる方法の場合、例えば、予めヒト肝細胞(HepG2)を24穴プレート中に植え込み24時間培養し、更に被験物質を含む1%牛血清アルブミン含有DMEM培地に交換し24時間培養を行った後、培養液を採取し、培養液中に含有されるアポBをサンドイッチ法ELISA(エンザイムリンクドイムノソーベントアッセイ)により定量することができる(T.Yanagita et.al., Current Therapeutic Reserch., 60(8), 423,1999)。またアポBの抗体を用いてウエスタンブロッティング法で定量することも可能である。この評価系において、溶媒対照と比較して20%以上アポBの分泌量が減少したサンプルを「アポB分泌抑制活性あり」と判定する。
【0016】
本発明のアポB分泌抑制剤を含有する組成物は、医薬用、動物薬用、飲食用、医薬部外品用の組成物として利用することができる。ここで、飲食用組成物としては、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品等も含まれ、医薬用としてはOTCなども含まれる。
【0017】
本発明のアポB分泌抑制剤またはそれを含有する組成物における、クロロフィル関連化合物の含有量は、特に限定されないが、組成物重量に対して、好ましくは0.001〜99.999重量%、より好ましくは0.01〜99.9重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.01〜30重量%の範囲である。
【0018】
本発明のアポB分泌抑制剤や、これを含有する組成物は、そのまま直接摂取することもできるし、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用して用いることもできる。これらの成型剤における本発明のアポB分泌抑制剤の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。これら飲食用の組成物を摂取する場合、その摂取量は有効成分であるクロロフィル関連化合物の量に換算して成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは1〜300mg/kg体重である。
【0019】
医薬品または医薬部外品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。これら製剤の投与量としては、クロロフィル関連化合物の量に換算して、成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
Hep-G2細胞(ヒト肝癌由来培養細胞)を24穴培養プレートに1×106cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎児血清)、10mL/Lペニシリン・ストレプトマイシン溶液(それぞれ5000IU/mL、5000μg/mL、Invitrogen社)、37mg/Lアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium、Invitrogen社)を用いた。被検物質を含む1%ウシ血清アルブミン(Sigma社)含有DMEMに交換し、24時間培養した。溶媒対照(コントロール)としてDMSOを用い、0.1%となるように添加した。コントロールおよび被検物質で処理した際に培地中の分泌されたアポB量は、ELISA Kit(CaldioCHEK社)にて測定した。コントロールのアポB分泌量を100%として被検物質のアポB分泌量を算出した。
【0022】
被験物質としてクロロフィル関連化合物である、クロロフィルa、クロロフィルb、フェオフィチンa、フェオホルバイドa、ピロフェオホルバイドa(それぞれ1μg/mL)で処理した際のアポB分泌量を表1に示す。
【0023】
【表1】

表1から明らかなように、クロロフィル関連化合物で処理することによって溶媒対照と比較していずれも20%以上アポBの分泌量が減少いることから、クロロフィル関連化合物はアポB抑制活性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロフィル関連化合物を有効成分とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。
【請求項2】
クロロフィル関連化合物を含有する植物、藻類または細菌の抽出物より得られるクロロフィル関連化合物を有効成分とすることを特徴とするアポリポプロテインB分泌抑制剤。
【請求項3】
クロロフィル関連化合物が、クロロフィル、クロロフィリド、フェオフィチン、フェオホルバイド、ピロフェオホルバイド、メチルフェオホルバイドおよびクロリンからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載のアポリポプロテインB分泌抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する医薬用または動物薬用組成物。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1項記載のアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する飲食用組成物。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか1項記載のアポリポプロテインB分泌抑制剤を含有する医薬部外品用組成物。

【公開番号】特開2008−105966(P2008−105966A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288264(P2006−288264)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】