クローラクレーンの旋回フレーム
【課題】クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームであって、重量増加を抑制しつつ座屈防止可能な構造を有する旋回フレームを提供する。
【解決手段】旋回フレームを構成する底板1の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板2が左右直立して延設される一方、前記側板2の上下端面に、夫々上部フランジ3及び下部フランジ4が形成されると共に、前記側板2の高さ方向中央部近傍hに、この側板2内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5が接合されてなる。
【解決手段】旋回フレームを構成する底板1の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板2が左右直立して延設される一方、前記側板2の上下端面に、夫々上部フランジ3及び下部フランジ4が形成されると共に、前記側板2の高さ方向中央部近傍hに、この側板2内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5が接合されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラ(無限軌道)を有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
先ず、クローラクレーンにおける旋回フレームの構造と座屈につき、添付図4〜7を参照しながら説明する。
図4は一般的なクローラクレーンの概要を示す模式的外観図、図5は図4のクローラクレーンの上部旋回フレームを上方より斜視した模式的斜視図、図6は全体座屈に関係する荷重による旋回フレームの変形状態に係り、図(a)は通常作業時の場合を誇張して示す模式的側面図、図(b)は地切り作業時の場合を誇張して示す模式的側面図である。また、図7は従来技術に係る旋回フレームにおける座屈モードを示し、図(a),(b)が全体座屈モードを示す模式的平面図、図(c),(d)が局部座屈モードを示す模式的平面図である。
【0003】
クローラクレーンとは、図4に示す様にラチス構造のブーム11を備えた、クローラ(無限軌道)12aで自走可能なクレーンのことである。基本的な構造としては、前端部に設けられたラチス構造のブーム11と、クローラ12aを有する下部走行体12と、前記下部走行体12の上部に設置される上部旋回体13と、前記下部走行体12と上部旋回体13に固定され、前記上部旋回体13を旋回自在に搭載する旋回ベアリング14と、上部旋回体13の後端部に設けられたカウンターウエイト15が備えられている。前記ブーム11はガイケーブル16を介して起伏されると共に、旋回ベアリング14の中心である旋回中心を支点に、前記上部旋回体13を介して吊り荷Wとカウンターウエイト15を釣り合わせてバランスを取っている。
【0004】
そして、前記上部旋回体3の中央部には、図5に示す旋回フレーム17が配設されている。前記旋回フレーム17を構成する底板18には、長手方向に左右直立して側板19,19が延設されると共に、これら側板19,19の上下端面に、夫々上部フランジ20a及び下部フランジ20bが形成されている。また、前記側板19,19の前端部には、ブーム基端部を支承するブームフット部11a,11aが設けられている。
【0005】
この様なクローラクレーンの旋回フレーム17において、通常のクレーン作業時には、ブーム11からの負荷荷重は、図6(a)に示す如く、ブームフット部11aからブーム軸力P1が旋回フレーム17に対して後方下方向に、旋回フレーム17後端のガイケーブル定着部16aからはケーブル張力(ブーム11を後方よりガイケーブル16で引張る張力)P2が旋回フレーム17に対して前方上方向に負荷される。
【0006】
これらの荷重P1,P2により、旋回フレーム17は前後方向から圧縮荷重を受け、これらの荷重P1,P2が大きい場合、側板19と上部及び下部フランジ20a,20bが横方向(面外方向)に部分的に変形する図7(a)に二点鎖線で示す局部座屈モードや、図7(b)に二点鎖線で示す全体的に変形する全体座屈モードの座屈を生じる。
図7(c),(d)については後述する。
【0007】
特に、ブーム11先端が地面に接地した状態からブーム11を持ち上げる地切り時には図6(b)に示したように、旋回フレーム17はクレーン作業時より更に大きな圧縮荷重を受ける。この様に旋回フレーム自体に大きな圧縮荷重を受けるのは、クローラクレーンに特有なものである。即ち、旋回フレームがラフテレーンクレーンのようなホイールクレーンより前後方向に長寸で、且つ前端側と後端側に相反する方向の荷重を同時に受ける為大きな曲げモーメントが作用するからである。それ故、クローラクレーンの旋回フレーム17はこのような大きな曲げモーメントに伴う圧縮荷重を受けても、座屈を生じない構造を有することが求められる。
【0008】
この様なクローラクレーンにおける旋回フレーム17の座屈対策としては、側板19,19の上下端面に、夫々上部フランジ20a及び下部フランジ20bを形成することで、圧縮荷重による側板の鉛直方向へのそりを抑制することで、側板の横方向の変形を防止するようにしている。それでも強度が不足する際には、側板19,19の板厚を増加したり、補強リブを設置する方法が考えられるが、何れの方法も板厚を厚くし過ぎたり、補強リブを多数設置すると重量の大幅増加に繋がってしまう。
【0009】
一方、このようなクローラクレーンは作業現場への移送時には、ブームやクローラを取り外して分解輸送されるものの、輸送時の重量制限が厳しくなる中で、できる限りの軽量化が希求されている。このような背景から、重量増加を最小限に抑制して必要な座屈強度を満足する構造の旋回フレームを提供することが喫急の課題である。
【0010】
そこで次に、この様なクレーンの旋回フレームにおける上記座屈問題を解決するための従来技術につき、以下添付図8〜11を参照しながら説明する。
図8は従来技術1に係る旋回フレームに係り、図5のB−B線に沿う垂直断面を示す斜視図、図9は従来技術2の一実施形態に係るブーム支持フレームの斜視図、図10は図9のブーム支持フレームを構成する側板の側面図、図11は図10のC−C線に沿う断面を示す斜視図である。
【0011】
先ず、従来技術1に係る旋回フレームの座屈対策は、図8に示す如く、局部座屈モードにおける最も座屈が発生し易い箇所のみの側板19に、水平リブ21a及び垂直リブ21b等の補強リブを設置して変形を抑制しようとするものである。しかしながら、この様な座屈対策構造は、リブ21a,21b設置位置の座屈は抑制されたとしても、例えば、前図7(c)に二点鎖線で示す如く旋回フレーム17前方や、前図7(d)に示す如く旋回フレーム17後方の補強リブが設けられていない部分へ座屈発生箇所が移動し、これら新たに座屈する箇所に更に補強リブを追加設置する必要が生じてくる。従って、場合によっては側板全域に補強リブを設置することとなり、著しい重量増加を伴ってくるという問題点がある。
【0012】
次に、従来技術2に係るブーム支持フレームは、図9〜11に示す如く、ブームを起伏可能に支持するホイールクレーンのブーム支持フレーム30において、ホイールクレーンの車体フレームに旋回可能に設置された旋回台上にその前端部32が支持された状態で立設される一対の側板30a,30aと、前記側板30a,30aの後端部上部に設けられ、ブームを支持するブームフット部38とを具備している。
【0013】
このブーム支持フレーム30は更に、前記旋回台の旋回中心と前記ブームフット部38との間の側板30a,30a部位に設けられ、ブームを起伏させる起伏シリンダを支持するデリックフット部(起伏シリンダ支持部)36と、側板30a,30aの前端部32の近傍からブームフット部38の近傍にかけて延設され、側板30a,30aの座屈を防止する座屈補強部35と、前記側板30a,30aに設けられ、前記座屈補強部35に接続してこれを分断するように側板30a,30a上を延びるリブ37,37とを具備している(特許文献1参照)。
【0014】
しかしながら、上記従来技術2は座屈補強部材を設けるという技術思想は共通するものの、起伏シリンダを有し、図9,10に示す様にブームフット部38がブーム支持フレーム30の後方に位置したホイールクレーンにおける提案である。この場合、図10に示す様に、ブームフット部38とデリックフット部(起伏シリンダ支持部)36とに相反する矢印方向の荷重が作用し、ブーム支持フレーム30が圧縮荷重を受ける。
【0015】
しかし、図10から理解できる様に、両荷重点間のスパンが短いので、曲げモーメントがクローラクレーンにおけるそれより小さい為に、旋回フレームが受ける圧縮荷重は比較的小さい。しかも、ホイールクレーンは自走式であり、もともと分解輸送の為の軽量化という考え方がなく、単に必要な強度の座屈補強構造にするという技術思想であり、従来技術2をクローラクレーンにおける旋回フレームに転用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3469682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームであって、重量増加を抑制しつつ座屈防止可能な構造を有する旋回フレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンを前提とする。そして、このクローラクレーンの旋回フレームとして、これを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなる構成にする。
【0019】
この構成では、旋回フレームを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなるので、上下フランジの存在と相俟って、鉛直上方へのそりを抑制することができ、旋回フレーム全長に亘って座屈強度の弱い部分が無くなる。
【0020】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のクローラクレーンの旋回フレームにおいて、前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなる構成にする。
【0021】
この構成では、前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなるので、この垂直リブを介して上下フランジに水平リブに作用する荷重が分散される為、リブの板厚を従来技術と同程度の厚みにしても、旋回フレーム全体の反りを確実に抑止し局所座屈はもとより、全体座屈を防止することができる。即ち、図8の従来例に係る旋回フレームと比べるとほぼ同等の重量で座屈強度を著しく増加することができる。
【0022】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のクローラクレーンの旋回フレームにおいて、前記水平リブの設置高さ位置の効果的な具体的態様を提供するものである。即ち、前記水平リブの設置高さ位置が次式(1)に定められた側板の高さhの範囲に接合されてなる構成にする。
28.94t<h<b−28.94t (1)
ここで、
t:側板の厚さ
b:側板の垂直方向幅
【発明の効果】
【0023】
以上の様に、本発明におけるクローラクレーンの旋回フレームによれば、側板内面の略前端部から略後端部に水平リブを延設して接合するという簡単な構成とすることができので、軽量化を図ることができる。
【0024】
特に、請求項2に係る発明では、適宜複数の垂直リブを追加するだけで更なる座屈強度の向上が果たせる。
【0025】
また、請求項3に係る発明では、前記水平リブの設置高さ位置を上下フランジの有効幅と水平リブの有効幅とを考慮した最適位置とすることができるので、最強の座屈強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態におけるクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を説明するための模式的平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面を示す斜視図である。
【図3】長方形板の座屈における有効幅に係り、図(a)は座屈後の面内力分布の変化を示す図、図(b)は有効幅の説明図である。
【図4】一般的なクローラクレーンの概要を示す模式的外観図である。
【図5】図4のクローラクレーンの上部旋回フレームを上方より斜視した模式的斜視図である。
【図6】全体座屈に関係する荷重による旋回フレームの変形状態に係り、図(a)は通常作業時の場合を誇張して示す模式的側面図、図(b)は地切り作業時の場合を誇張して示す模式的側面図である。
【図7】従来技術に係る旋回フレームにおける座屈モードを示し、図(a),(b)が全体座屈モードを示す模式的平面図、図(c),(d)が局部座屈モードを示す模式的平面図である。
【図8】従来技術1に係る旋回フレームに係り、図5のB−B線に沿う垂直断面を示す斜視図である。
【図9】従来技術2の一実施形態に係るブーム支持フレームの斜視図である。
【図10】図9のブーム支持フレームを構成する側板の側面図である。
【図11】図10のC−C線に沿う断面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係るクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を、添付図1〜4を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態におけるクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を説明するための模式的平面図、図2は図1のA−A線に沿う断面を示す斜視図、図3は長方形板の座屈における有効幅に係り、図(a)は座屈後の面内力分布の変化を示す図、図(b)は有効幅の説明図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係るクローラクレーンの上部旋回体を構成する旋回フレームの要部は、図1,2に示す如く、旋回フレーム底板(以下単に、底板とも言う)1と、この底板1の長手方向に左右直立して延設された一対の側板2,2から構成され、この旋回フレームと左右の図示しないデッキフレームとによって、上部旋回体の基本構造が構成されている。そして、クローラを有する下部走行体の上部に、旋回ベアリングを介して前記上部旋回体が旋回可能に設置されている(図示省略)。
【0029】
また、前記側板2,2の上端面には夫々上部フランジ3,3、下端面には夫々下部フランジ4,4が接合されている。前記上部フランジ3,3は、長尺の鋼板を前記側板2,2の上端面に夫々溶接接合して形成される一方、前記下部フランジ4,4も、長尺の鋼板を前記側板2,2の下端面に夫々溶接接合して形成されるが、前記側板2,2の立設位置に該当する底板1を幅方向に拡幅して、この底板1の一部を活用して形成しても良い。
【0030】
そして、本発明の実施の形態に係る旋回フレームの座屈防止構造は、図2に示す如く、前記側板2の高さ方向中央部近傍に、この側板2の内面側の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5が溶接接合されている。また、この水平リブ5の両端部の側板2の内面側には、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを連結すると共に、前記水平リブ5と直交する第1垂直リブ6a,6aが夫々溶接接合されている。
【0031】
更に、前記水平リブ5の長手方向中間部2箇所の側板2の内面側にも、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを連結すると共に、前記水平リブ5と直交する第2垂直リブ6b,6bが夫々溶接接合されている。そして、側板2の前端部には、ブーム基端部7が設けられている。
【0032】
前記上部フランジ3、下部フランジ4、水平リブ5、第1垂直リブ6a、6a、第2垂直リブ6b,6b及びブーム基端部7に係る上記構成は、図1に示す旋回フレームにおいて紙面上方に示す側板2のみならず、紙面下方に示す側板2においても上記同様に構成されている。
【0033】
その結果、図示しないブームからの荷重は、前記ブーム基端部7,7を介して、この旋回フレームに負荷されることとなるが、側板2,2の高さ方向中央部近傍に、この側板2,2内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5,5が接合された簡素な補強構造によって、旋回フレーム全体の反りを抑止し全体座屈を防止することができる。また、従来例に係る旋回フレームと比べて重量が軽減されると共に、補強リブの交差する箇所の少ない構造となるため、溶接施工が容易になる。
【0034】
前記第1垂直リブ6a,6aは、水平リブ5の両端部に配置される場合に限定されることなく、前記水平リブ5の両端部より若干内側に配置され、前記水平リブ5が第1錘直リブ6a,6aから多少突出する構成でも良い。また、前記第2垂直リブ6b,6bは2本に限定されることなく3〜5本でも良いが、何れもリブ本数の増加に伴い重量増加を招くので、要求される座屈強度を満足する必要最小限の本数に留める必要がある。
【0035】
ここで今、長さa、幅b(<a×1/2)の長方形板の幅方向両端が自由端支持され、単純圧縮を受けて座屈した後、更に圧縮荷重Pを増せば面内力σxの分布はもはや一様ではなくなり、図3(a)に示す曲線(2)〜(4)の様に両端が荷重と共に増加する一方、中央部は座屈時の値よりそれほど増加しない。この分布を、図3(b)に示す如く等価な段階状分布に置き換え、両端近傍に最大応力σLに等しい一様応力が分布し、中央部は無応力であると見做すとき、前記最大応力σLの分布する幅wを有効幅という。
【0036】
この様な矩形状平板の有効幅wは、次式(2)で求められる。
w=0.85t√(E/σc) (2)
ここで、
t:矩形状平板の板厚
E:矩形状平板のヤング率
σc:矩形状平板の座屈応力
であり、√(E/σc)は(E/σc)の平方根を表す。
【0037】
そして、旋回フレームを構成する側板2を上記長方形板と見做せば、側板2の材質が鋼板の場合、E=7.10×104[MPa],σc=2.45×102[MPa]であるので、上式(2)から求められる有効幅wは次式(3)で表せる。
w=14.47t (3)
【0038】
よって、前記側板2の高さ方向の中央部近傍に水平リブ5を接合するならば、上部フランジ3及び下部フランジ4の有効幅wと前記水平リブ5の有効幅wとを考え、側板にかかる圧縮荷重はこれら有効幅を合わせた4wの幅で受けると考えられる。しかし、フランジとリブの有効幅が重なってしまうと、荷重を受ける範囲は4w以下となってしまう。荷重を受ける幅が長いほどその断面に生じる応力は小さくなるので、フランジとリブの有効幅が重ならない様にするために、前記水平リブ5が、前記側板2に対して、次式(1)に定められた高さhの範囲に接合されるのが好ましい。
28.94t<h<b−28.94t (1)
【0039】
前記水平リブ5は、前記側板2の内面側の略前端部から略後端部まで、不連続部を有することなく延設して前記側板2に溶接接合されることが肝要である。また、前記第1垂直リブ6a,6a及び第2垂直リブ6b,6bは、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを不連続部を有することなく連結すると共に、前記水平リブ5と直交して前記側板2に溶接接合されることが肝要である。この様な溶接構成によって、側板2を底板として、前記上下部フランジ3,4及び第1垂直リブ6a,6aによって箱体8が形成されると共に、この箱体8の内部もしくはほぼ内部に、前記箱体8、水平リブ5及び第2垂直リブ6b,6bによって井桁状構造9が形成されるためである。
【0040】
そして、前記水平リブ5が、前記側板2に対して、上式(1)に定められた高さhの範囲に接合されることによって、前述の箱体8及び井桁状構造9と相まって荷重負荷時における旋回フレーム全体の反りが抑えられ、旋回フレーム全体の座屈強度が向上する。その結果、前図7(c),(d)に示した旋回フレーム側板の局部座屈が防止できるのみならず、前図7(a),(b)に示す様な旋回フレーム側板の全体座屈が防止可能となる。
【0041】
<実施例>
図2に示した本発明の実施の形態に係る旋回フレームにおいて、水平リブ5の高さhを上式(1)の範囲内に溶接接合して形成された実施例と、図8に示した従来例に係る補強を施した比較例の旋回フレームとを各種諸元につき解析し、その解析結果を表1に示す。表1の解析結果は、比較例の各諸元の解析結果で正規化した値を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
表1において、「全体座屈を起こす時の固有値」とは、変形モードが全体座屈(弾性座屈)となる時の荷重が、入力荷重の何倍になるかという値で、固有値が大きいほど、そのモードの変形は起こり難いということを示す。そして固有値を用いて弾塑性座屈が起きる応力を計算し、この値が『座屈許容応力値(座屈許容値)』となる。また、座屈変形を起こしている部材の最も変位の大きい位置での発生応力を『座屈変形の原因となる応力』と考え、この原因となる応力で座屈許容値を割った値を『座屈許容値に対する余裕率』と呼んでいる。表1より、実施例に係る旋回フレームは、比較例に係る旋回フレームに比べて約4%の重量低減が可能となる上、座屈強度も向上していることが分かる。
【0044】
以上説明した通り、本発明に係るクローラクレーンの旋回フレームにおける座屈防止構造によれば、旋回フレームを構成する底板の長手方向に、一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合される一方、前記側板内面に、前記上部及び下部フランジを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなるので、簡素な補強構造によって旋回フレーム全体の反りを抑止し全体座屈を防止することができる。また、従来例に係る旋回フレームと比べて重量が軽減されると共に、補強リブの交差する箇所の少ない構造となるため、溶接施工が容易になる。
【符号の説明】
【0045】
1:(旋回フレーム)底板,
2:側板,
3:上部フランジ, 4:下部フランジ,
5:水平リブ,
6a:第1垂直リブ, 6b:第2垂直リブ,
7:ブーム基端部,
8:箱体,
9:井桁状構造
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラ(無限軌道)を有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
先ず、クローラクレーンにおける旋回フレームの構造と座屈につき、添付図4〜7を参照しながら説明する。
図4は一般的なクローラクレーンの概要を示す模式的外観図、図5は図4のクローラクレーンの上部旋回フレームを上方より斜視した模式的斜視図、図6は全体座屈に関係する荷重による旋回フレームの変形状態に係り、図(a)は通常作業時の場合を誇張して示す模式的側面図、図(b)は地切り作業時の場合を誇張して示す模式的側面図である。また、図7は従来技術に係る旋回フレームにおける座屈モードを示し、図(a),(b)が全体座屈モードを示す模式的平面図、図(c),(d)が局部座屈モードを示す模式的平面図である。
【0003】
クローラクレーンとは、図4に示す様にラチス構造のブーム11を備えた、クローラ(無限軌道)12aで自走可能なクレーンのことである。基本的な構造としては、前端部に設けられたラチス構造のブーム11と、クローラ12aを有する下部走行体12と、前記下部走行体12の上部に設置される上部旋回体13と、前記下部走行体12と上部旋回体13に固定され、前記上部旋回体13を旋回自在に搭載する旋回ベアリング14と、上部旋回体13の後端部に設けられたカウンターウエイト15が備えられている。前記ブーム11はガイケーブル16を介して起伏されると共に、旋回ベアリング14の中心である旋回中心を支点に、前記上部旋回体13を介して吊り荷Wとカウンターウエイト15を釣り合わせてバランスを取っている。
【0004】
そして、前記上部旋回体3の中央部には、図5に示す旋回フレーム17が配設されている。前記旋回フレーム17を構成する底板18には、長手方向に左右直立して側板19,19が延設されると共に、これら側板19,19の上下端面に、夫々上部フランジ20a及び下部フランジ20bが形成されている。また、前記側板19,19の前端部には、ブーム基端部を支承するブームフット部11a,11aが設けられている。
【0005】
この様なクローラクレーンの旋回フレーム17において、通常のクレーン作業時には、ブーム11からの負荷荷重は、図6(a)に示す如く、ブームフット部11aからブーム軸力P1が旋回フレーム17に対して後方下方向に、旋回フレーム17後端のガイケーブル定着部16aからはケーブル張力(ブーム11を後方よりガイケーブル16で引張る張力)P2が旋回フレーム17に対して前方上方向に負荷される。
【0006】
これらの荷重P1,P2により、旋回フレーム17は前後方向から圧縮荷重を受け、これらの荷重P1,P2が大きい場合、側板19と上部及び下部フランジ20a,20bが横方向(面外方向)に部分的に変形する図7(a)に二点鎖線で示す局部座屈モードや、図7(b)に二点鎖線で示す全体的に変形する全体座屈モードの座屈を生じる。
図7(c),(d)については後述する。
【0007】
特に、ブーム11先端が地面に接地した状態からブーム11を持ち上げる地切り時には図6(b)に示したように、旋回フレーム17はクレーン作業時より更に大きな圧縮荷重を受ける。この様に旋回フレーム自体に大きな圧縮荷重を受けるのは、クローラクレーンに特有なものである。即ち、旋回フレームがラフテレーンクレーンのようなホイールクレーンより前後方向に長寸で、且つ前端側と後端側に相反する方向の荷重を同時に受ける為大きな曲げモーメントが作用するからである。それ故、クローラクレーンの旋回フレーム17はこのような大きな曲げモーメントに伴う圧縮荷重を受けても、座屈を生じない構造を有することが求められる。
【0008】
この様なクローラクレーンにおける旋回フレーム17の座屈対策としては、側板19,19の上下端面に、夫々上部フランジ20a及び下部フランジ20bを形成することで、圧縮荷重による側板の鉛直方向へのそりを抑制することで、側板の横方向の変形を防止するようにしている。それでも強度が不足する際には、側板19,19の板厚を増加したり、補強リブを設置する方法が考えられるが、何れの方法も板厚を厚くし過ぎたり、補強リブを多数設置すると重量の大幅増加に繋がってしまう。
【0009】
一方、このようなクローラクレーンは作業現場への移送時には、ブームやクローラを取り外して分解輸送されるものの、輸送時の重量制限が厳しくなる中で、できる限りの軽量化が希求されている。このような背景から、重量増加を最小限に抑制して必要な座屈強度を満足する構造の旋回フレームを提供することが喫急の課題である。
【0010】
そこで次に、この様なクレーンの旋回フレームにおける上記座屈問題を解決するための従来技術につき、以下添付図8〜11を参照しながら説明する。
図8は従来技術1に係る旋回フレームに係り、図5のB−B線に沿う垂直断面を示す斜視図、図9は従来技術2の一実施形態に係るブーム支持フレームの斜視図、図10は図9のブーム支持フレームを構成する側板の側面図、図11は図10のC−C線に沿う断面を示す斜視図である。
【0011】
先ず、従来技術1に係る旋回フレームの座屈対策は、図8に示す如く、局部座屈モードにおける最も座屈が発生し易い箇所のみの側板19に、水平リブ21a及び垂直リブ21b等の補強リブを設置して変形を抑制しようとするものである。しかしながら、この様な座屈対策構造は、リブ21a,21b設置位置の座屈は抑制されたとしても、例えば、前図7(c)に二点鎖線で示す如く旋回フレーム17前方や、前図7(d)に示す如く旋回フレーム17後方の補強リブが設けられていない部分へ座屈発生箇所が移動し、これら新たに座屈する箇所に更に補強リブを追加設置する必要が生じてくる。従って、場合によっては側板全域に補強リブを設置することとなり、著しい重量増加を伴ってくるという問題点がある。
【0012】
次に、従来技術2に係るブーム支持フレームは、図9〜11に示す如く、ブームを起伏可能に支持するホイールクレーンのブーム支持フレーム30において、ホイールクレーンの車体フレームに旋回可能に設置された旋回台上にその前端部32が支持された状態で立設される一対の側板30a,30aと、前記側板30a,30aの後端部上部に設けられ、ブームを支持するブームフット部38とを具備している。
【0013】
このブーム支持フレーム30は更に、前記旋回台の旋回中心と前記ブームフット部38との間の側板30a,30a部位に設けられ、ブームを起伏させる起伏シリンダを支持するデリックフット部(起伏シリンダ支持部)36と、側板30a,30aの前端部32の近傍からブームフット部38の近傍にかけて延設され、側板30a,30aの座屈を防止する座屈補強部35と、前記側板30a,30aに設けられ、前記座屈補強部35に接続してこれを分断するように側板30a,30a上を延びるリブ37,37とを具備している(特許文献1参照)。
【0014】
しかしながら、上記従来技術2は座屈補強部材を設けるという技術思想は共通するものの、起伏シリンダを有し、図9,10に示す様にブームフット部38がブーム支持フレーム30の後方に位置したホイールクレーンにおける提案である。この場合、図10に示す様に、ブームフット部38とデリックフット部(起伏シリンダ支持部)36とに相反する矢印方向の荷重が作用し、ブーム支持フレーム30が圧縮荷重を受ける。
【0015】
しかし、図10から理解できる様に、両荷重点間のスパンが短いので、曲げモーメントがクローラクレーンにおけるそれより小さい為に、旋回フレームが受ける圧縮荷重は比較的小さい。しかも、ホイールクレーンは自走式であり、もともと分解輸送の為の軽量化という考え方がなく、単に必要な強度の座屈補強構造にするという技術思想であり、従来技術2をクローラクレーンにおける旋回フレームに転用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3469682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームであって、重量増加を抑制しつつ座屈防止可能な構造を有する旋回フレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンを前提とする。そして、このクローラクレーンの旋回フレームとして、これを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなる構成にする。
【0019】
この構成では、旋回フレームを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなるので、上下フランジの存在と相俟って、鉛直上方へのそりを抑制することができ、旋回フレーム全長に亘って座屈強度の弱い部分が無くなる。
【0020】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のクローラクレーンの旋回フレームにおいて、前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなる構成にする。
【0021】
この構成では、前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなるので、この垂直リブを介して上下フランジに水平リブに作用する荷重が分散される為、リブの板厚を従来技術と同程度の厚みにしても、旋回フレーム全体の反りを確実に抑止し局所座屈はもとより、全体座屈を防止することができる。即ち、図8の従来例に係る旋回フレームと比べるとほぼ同等の重量で座屈強度を著しく増加することができる。
【0022】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のクローラクレーンの旋回フレームにおいて、前記水平リブの設置高さ位置の効果的な具体的態様を提供するものである。即ち、前記水平リブの設置高さ位置が次式(1)に定められた側板の高さhの範囲に接合されてなる構成にする。
28.94t<h<b−28.94t (1)
ここで、
t:側板の厚さ
b:側板の垂直方向幅
【発明の効果】
【0023】
以上の様に、本発明におけるクローラクレーンの旋回フレームによれば、側板内面の略前端部から略後端部に水平リブを延設して接合するという簡単な構成とすることができので、軽量化を図ることができる。
【0024】
特に、請求項2に係る発明では、適宜複数の垂直リブを追加するだけで更なる座屈強度の向上が果たせる。
【0025】
また、請求項3に係る発明では、前記水平リブの設置高さ位置を上下フランジの有効幅と水平リブの有効幅とを考慮した最適位置とすることができるので、最強の座屈強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態におけるクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を説明するための模式的平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面を示す斜視図である。
【図3】長方形板の座屈における有効幅に係り、図(a)は座屈後の面内力分布の変化を示す図、図(b)は有効幅の説明図である。
【図4】一般的なクローラクレーンの概要を示す模式的外観図である。
【図5】図4のクローラクレーンの上部旋回フレームを上方より斜視した模式的斜視図である。
【図6】全体座屈に関係する荷重による旋回フレームの変形状態に係り、図(a)は通常作業時の場合を誇張して示す模式的側面図、図(b)は地切り作業時の場合を誇張して示す模式的側面図である。
【図7】従来技術に係る旋回フレームにおける座屈モードを示し、図(a),(b)が全体座屈モードを示す模式的平面図、図(c),(d)が局部座屈モードを示す模式的平面図である。
【図8】従来技術1に係る旋回フレームに係り、図5のB−B線に沿う垂直断面を示す斜視図である。
【図9】従来技術2の一実施形態に係るブーム支持フレームの斜視図である。
【図10】図9のブーム支持フレームを構成する側板の側面図である。
【図11】図10のC−C線に沿う断面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係るクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を、添付図1〜4を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態におけるクローラクレーンの旋回フレーム座屈防止構造を説明するための模式的平面図、図2は図1のA−A線に沿う断面を示す斜視図、図3は長方形板の座屈における有効幅に係り、図(a)は座屈後の面内力分布の変化を示す図、図(b)は有効幅の説明図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係るクローラクレーンの上部旋回体を構成する旋回フレームの要部は、図1,2に示す如く、旋回フレーム底板(以下単に、底板とも言う)1と、この底板1の長手方向に左右直立して延設された一対の側板2,2から構成され、この旋回フレームと左右の図示しないデッキフレームとによって、上部旋回体の基本構造が構成されている。そして、クローラを有する下部走行体の上部に、旋回ベアリングを介して前記上部旋回体が旋回可能に設置されている(図示省略)。
【0029】
また、前記側板2,2の上端面には夫々上部フランジ3,3、下端面には夫々下部フランジ4,4が接合されている。前記上部フランジ3,3は、長尺の鋼板を前記側板2,2の上端面に夫々溶接接合して形成される一方、前記下部フランジ4,4も、長尺の鋼板を前記側板2,2の下端面に夫々溶接接合して形成されるが、前記側板2,2の立設位置に該当する底板1を幅方向に拡幅して、この底板1の一部を活用して形成しても良い。
【0030】
そして、本発明の実施の形態に係る旋回フレームの座屈防止構造は、図2に示す如く、前記側板2の高さ方向中央部近傍に、この側板2の内面側の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5が溶接接合されている。また、この水平リブ5の両端部の側板2の内面側には、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを連結すると共に、前記水平リブ5と直交する第1垂直リブ6a,6aが夫々溶接接合されている。
【0031】
更に、前記水平リブ5の長手方向中間部2箇所の側板2の内面側にも、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを連結すると共に、前記水平リブ5と直交する第2垂直リブ6b,6bが夫々溶接接合されている。そして、側板2の前端部には、ブーム基端部7が設けられている。
【0032】
前記上部フランジ3、下部フランジ4、水平リブ5、第1垂直リブ6a、6a、第2垂直リブ6b,6b及びブーム基端部7に係る上記構成は、図1に示す旋回フレームにおいて紙面上方に示す側板2のみならず、紙面下方に示す側板2においても上記同様に構成されている。
【0033】
その結果、図示しないブームからの荷重は、前記ブーム基端部7,7を介して、この旋回フレームに負荷されることとなるが、側板2,2の高さ方向中央部近傍に、この側板2,2内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブ5,5が接合された簡素な補強構造によって、旋回フレーム全体の反りを抑止し全体座屈を防止することができる。また、従来例に係る旋回フレームと比べて重量が軽減されると共に、補強リブの交差する箇所の少ない構造となるため、溶接施工が容易になる。
【0034】
前記第1垂直リブ6a,6aは、水平リブ5の両端部に配置される場合に限定されることなく、前記水平リブ5の両端部より若干内側に配置され、前記水平リブ5が第1錘直リブ6a,6aから多少突出する構成でも良い。また、前記第2垂直リブ6b,6bは2本に限定されることなく3〜5本でも良いが、何れもリブ本数の増加に伴い重量増加を招くので、要求される座屈強度を満足する必要最小限の本数に留める必要がある。
【0035】
ここで今、長さa、幅b(<a×1/2)の長方形板の幅方向両端が自由端支持され、単純圧縮を受けて座屈した後、更に圧縮荷重Pを増せば面内力σxの分布はもはや一様ではなくなり、図3(a)に示す曲線(2)〜(4)の様に両端が荷重と共に増加する一方、中央部は座屈時の値よりそれほど増加しない。この分布を、図3(b)に示す如く等価な段階状分布に置き換え、両端近傍に最大応力σLに等しい一様応力が分布し、中央部は無応力であると見做すとき、前記最大応力σLの分布する幅wを有効幅という。
【0036】
この様な矩形状平板の有効幅wは、次式(2)で求められる。
w=0.85t√(E/σc) (2)
ここで、
t:矩形状平板の板厚
E:矩形状平板のヤング率
σc:矩形状平板の座屈応力
であり、√(E/σc)は(E/σc)の平方根を表す。
【0037】
そして、旋回フレームを構成する側板2を上記長方形板と見做せば、側板2の材質が鋼板の場合、E=7.10×104[MPa],σc=2.45×102[MPa]であるので、上式(2)から求められる有効幅wは次式(3)で表せる。
w=14.47t (3)
【0038】
よって、前記側板2の高さ方向の中央部近傍に水平リブ5を接合するならば、上部フランジ3及び下部フランジ4の有効幅wと前記水平リブ5の有効幅wとを考え、側板にかかる圧縮荷重はこれら有効幅を合わせた4wの幅で受けると考えられる。しかし、フランジとリブの有効幅が重なってしまうと、荷重を受ける範囲は4w以下となってしまう。荷重を受ける幅が長いほどその断面に生じる応力は小さくなるので、フランジとリブの有効幅が重ならない様にするために、前記水平リブ5が、前記側板2に対して、次式(1)に定められた高さhの範囲に接合されるのが好ましい。
28.94t<h<b−28.94t (1)
【0039】
前記水平リブ5は、前記側板2の内面側の略前端部から略後端部まで、不連続部を有することなく延設して前記側板2に溶接接合されることが肝要である。また、前記第1垂直リブ6a,6a及び第2垂直リブ6b,6bは、前記上部フランジ3と下部フランジ4とを不連続部を有することなく連結すると共に、前記水平リブ5と直交して前記側板2に溶接接合されることが肝要である。この様な溶接構成によって、側板2を底板として、前記上下部フランジ3,4及び第1垂直リブ6a,6aによって箱体8が形成されると共に、この箱体8の内部もしくはほぼ内部に、前記箱体8、水平リブ5及び第2垂直リブ6b,6bによって井桁状構造9が形成されるためである。
【0040】
そして、前記水平リブ5が、前記側板2に対して、上式(1)に定められた高さhの範囲に接合されることによって、前述の箱体8及び井桁状構造9と相まって荷重負荷時における旋回フレーム全体の反りが抑えられ、旋回フレーム全体の座屈強度が向上する。その結果、前図7(c),(d)に示した旋回フレーム側板の局部座屈が防止できるのみならず、前図7(a),(b)に示す様な旋回フレーム側板の全体座屈が防止可能となる。
【0041】
<実施例>
図2に示した本発明の実施の形態に係る旋回フレームにおいて、水平リブ5の高さhを上式(1)の範囲内に溶接接合して形成された実施例と、図8に示した従来例に係る補強を施した比較例の旋回フレームとを各種諸元につき解析し、その解析結果を表1に示す。表1の解析結果は、比較例の各諸元の解析結果で正規化した値を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
表1において、「全体座屈を起こす時の固有値」とは、変形モードが全体座屈(弾性座屈)となる時の荷重が、入力荷重の何倍になるかという値で、固有値が大きいほど、そのモードの変形は起こり難いということを示す。そして固有値を用いて弾塑性座屈が起きる応力を計算し、この値が『座屈許容応力値(座屈許容値)』となる。また、座屈変形を起こしている部材の最も変位の大きい位置での発生応力を『座屈変形の原因となる応力』と考え、この原因となる応力で座屈許容値を割った値を『座屈許容値に対する余裕率』と呼んでいる。表1より、実施例に係る旋回フレームは、比較例に係る旋回フレームに比べて約4%の重量低減が可能となる上、座屈強度も向上していることが分かる。
【0044】
以上説明した通り、本発明に係るクローラクレーンの旋回フレームにおける座屈防止構造によれば、旋回フレームを構成する底板の長手方向に、一対の側板が左右直立して延設される一方、前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合される一方、前記側板内面に、前記上部及び下部フランジを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなるので、簡素な補強構造によって旋回フレーム全体の反りを抑止し全体座屈を防止することができる。また、従来例に係る旋回フレームと比べて重量が軽減されると共に、補強リブの交差する箇所の少ない構造となるため、溶接施工が容易になる。
【符号の説明】
【0045】
1:(旋回フレーム)底板,
2:側板,
3:上部フランジ, 4:下部フランジ,
5:水平リブ,
6a:第1垂直リブ, 6b:第2垂直リブ,
7:ブーム基端部,
8:箱体,
9:井桁状構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームであって、
この旋回フレームを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、
前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、
前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなることを特徴とするクローラクレーンの旋回フレーム。
【請求項2】
前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなることを特徴とする請求項1に記載のクローラクレーンの旋回フレーム。
【請求項3】
前記水平リブが、次式(1)に定められた側板の高さhの範囲に接合されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のクローラクレーンの旋回フレーム。
28.94t<h<b−28.94t (1)
ここで、
t:側板の厚さ
b:側板の垂直方向幅
【請求項1】
クローラを有する下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に設置された上部旋回体と、この上部旋回体の先端側に設けられた起伏可能なブームと後端側に設けられたカウンターウエイトとを備えたクローラクレーンにおける旋回フレームであって、
この旋回フレームを構成する底板の長手方向に、先端上部にブームフット部が形成された一対の側板が左右直立して延設される一方、
前記側板の上下端面に、夫々上部フランジ及び下部フランジが形成されると共に、
前記側板の高さ方向中央部近傍に、この側板内面の略前端部から略後端部に延設された水平リブが接合されてなることを特徴とするクローラクレーンの旋回フレーム。
【請求項2】
前記側板内面に、前記上部フランジと下部フランジとを連結すると共に、前記水平リブに直交する垂直リブが複数接合されてなることを特徴とする請求項1に記載のクローラクレーンの旋回フレーム。
【請求項3】
前記水平リブが、次式(1)に定められた側板の高さhの範囲に接合されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のクローラクレーンの旋回フレーム。
28.94t<h<b−28.94t (1)
ここで、
t:側板の厚さ
b:側板の垂直方向幅
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−254414(P2010−254414A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105395(P2009−105395)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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