説明

クーラント穴付き切削工具

【課題】外周刃や底刃などの異なる切刃を有し、それらに対応する複数の分岐穴を有するクーラント穴が形成されたクーラント穴付き切削工具において、いずれか一方の切刃を専ら使用するときでもクーラントが無駄に消費されたり必要以上の供給圧を要したりすることのないクーラント穴付き切削工具を提供する。
【解決手段】工具本体にクーラント穴17が形成されていて、このクーラント穴17は工具本体の刃部11において複数の分岐穴18a、18bに分岐させられているとともに、クーラント穴17には複数の分岐穴18a、18bの間でクーラントを供給する分岐穴18を選択可能とする切替手段3が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具本体の刃部に冷却、潤滑用のクーラントを供給するクーラント穴が形成されたクーラント穴付き切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなクーラント穴付き切削工具として、特許文献1には、一端に切削油(クーラント)供給口を形成し他端にはエンドミルの刃先中央(底刃中央)に開口する中心軸方向に穿設された中空の軸管と、エンドミル軸内において該軸管と連通し、かつ端部がエンドミル外部の外周刃の刃溝部に開口する中空切削油噴出口を設けたクーラント穴付きエンドミルが提案されている。
【0003】
また、特許文献2にも、同様にエンドミルの先端中央に開口する軸方向クーラント穴と、この軸方向クーラント穴から分岐して外周刃の刃溝に開口する分岐穴とを備え、外周刃による側面切削のときには軸方向クーラント穴の先端をプラグで塞ぐとともに、底刃による正面切削の際にはプラグを外すようにしたクーラント穴付きエンドミルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−100728号公報
【特許文献2】米国特許第3037264号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このうち特許文献1に記載されたクーラント穴付きエンドミルでは、エンドミルの外周刃のみを使用する側面切削の場合も、エンドミルの刃先中央に開口した軸管からクーラントが噴出させられることになる一方、専らエンドミル先端の底刃のみを使用するような切込み深さの浅い溝切削の場合も、外周刃の刃溝部に開口する噴出口からクーラントが噴出することになるため、いずれの場合もクーラントが無駄に消費されることになるのは勿論、切削に使用される切刃に向けてクーラントを供給するにも必要以上の供給圧でクーラントを供給しなければならず、クーラントを供給する工作機械の供給手段等にも余計な負担を強いることになる。
【0006】
この点、側面切削のときには軸方向クーラント穴の先端をプラグで塞ぐようにした特許文献2に記載のクーラント穴付きエンドミルでは、この側面切削の場合にはクーラントが無駄に消費されたり必要以上のクーラント供給圧を要したりすることはないが、専ら底刃のみを使用する溝切削のような場合は、切削に使用されない外周刃の刃溝に開口する分岐穴からもクーラントが噴出し続けるため、やはりクーラントが無駄に消費されるとともに必要以上の供給圧でクーラントを供給しなければならない。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにエンドミル先端の底刃に向けた分岐穴とエンドミル外周の外周刃に向けた分岐穴とを有するエンドミルのような複数の分岐穴を有するクーラント穴が形成されたクーラント穴付き切削工具において、いずれか一方の切刃を専ら使用するときでもクーラントが無駄に消費されたり必要以上の供給圧を要したりすることのないクーラント穴付き切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、工具本体にクーラント穴が形成されていて、このクーラント穴は上記工具本体の刃部において複数の分岐穴に分岐させられているとともに、該クーラント穴には上記複数の分岐穴の間でクーラントを供給する分岐穴を選択可能とする切替手段が備えられていることを特徴とする。
【0009】
従って、このようなクーラント穴付き切削工具においては、上記複数の分岐穴が上述のように異なる切刃に向けて開口させられている場合に、いずれか一方の切刃を専ら使用するときは、使用する切刃に向けて開口する分岐穴にクーラントが供給されるように上記切替手段によって分岐穴を選択することにより、他方の分岐穴へのクーラントの供給を止めて、無駄にクーラントが消費されたり必要以上のクーラント供給圧を要したりするのを防ぐことができる。
【0010】
ここで、このような切替手段として、例えば特許文献2に記載のクーラント穴付き切削工具のように分岐穴をプラグで塞ぐようにしたのでは、分岐穴の数が多いときに切替操作に多くの時間を要するとともにプラグの管理等も煩雑となる。そこで、これら複数の分岐穴を、クーラント穴の周方向と軸線方向のうち少なくとも一方にずらして分岐するとともに、上記切替手段を、クーラント穴の内周面に摺接して回転可能に収容された円筒状部材とし、この円筒状部材に複数の貫通穴を形成して、これら複数の貫通穴を互いに、一部の貫通穴が上記複数の分岐穴のうち一部の分岐穴に連通したときに、残りの貫通穴は残りの分岐穴とはずらされるように形成することにより、この円筒状部材の回転操作だけで容易かつ短時間に分岐穴の切り替えが可能となる。
【0011】
ここで、このような円筒状部材よりなる切替手段を上述のようにクーラント穴の内周面に摺接して回転可能に収容するには、上記工具本体を硬質材料より形成するとともに、上記円筒状部材は上記硬質材料よりも硬度が低い金属材料より形成し、上記クーラント穴の内周面には環状溝を形成して、上記円筒状部材を、その外周面が上記クーラント穴の内周面に密着して上記環状溝と係合させることにより該内周面に摺接して回転可能とすればよい。円筒状部材の外周面がクーラント穴内周面の環状溝と係合することにより、円筒状部材の回転は許容しつつその軸線方向の移動は拘束して抜け止めすることができるため管理が容易となるとともに、この環状溝以外ではクーラント穴内周面に円筒状部材外周面が摺接可能に密着することにより、クーラントの漏れを防止することができる。
【0012】
特に、本発明は、上記特許文献1、2に記載の発明と同様にクーラント穴付きエンドミルに適用して好適であり、すなわち上記工具本体が、上記刃部に底刃と外周刃とを有するエンドミルの該刃部が形成された工具本体であり、上記複数の分岐穴が上記底刃と外周刃とに上記クーラントを供給するようにそれぞれ開口させられている場合において、上記切替手段を、上記底刃に上記クーラントを供給する底刃分岐穴と上記外周刃に上記クーラントを供給する外周刃分岐穴との間でクーラントを供給する分岐穴を選択可能とすることにより、これら底刃と外周刃のいずれか一方の切刃を専ら使用するときでもクーラントが無駄に消費されたり必要以上の供給圧を要したりするのを確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、使用されない切刃に向けてのクーラントの供給を止めてクーラントの無駄な消費を防ぐとともにクーラントの供給圧の低減を図ることができ、効率的で経済的な切削加工を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態である切削ヘッドが取り付けられたクーラント穴付きヘッド交換式エンドミルを示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態の切削ヘッドの(a)斜視図、(b)側面図、(c)正面図である。
【図3】図2に示す切削ヘッド(ただしヘッド本体1はヘッド本体素材1A)において、クーラント穴が外周刃分岐穴に連通しているときの(a)図2(c)におけるYY断面図、(b)図2(c)におけるZZ断面図である。
【図4】図2に示す切削ヘッド(ただしヘッド本体1はヘッド本体素材1A)において、クーラント穴が底刃分岐穴に連通しているときの(a)図2(c)におけるYY断面図、(b)図2(c)におけるZZ断面図である。
【図5】図2に示す切削ヘッドのヘッド本体素材1Aの(a)斜視図、(b)正面図、(c)側面図、(d)背面図、(e)側断面図である。
【図6】図2に示す切削ヘッドの切替手段(円筒状部材3)の素材である円筒状部材素材3Aの(a)斜視図、(b)正面図、(c)側面図、(d)背面図、(e)側断面図である。
【図7】図5に示すヘッド本体素材1Aに図6に示す切替手段(円筒状部材3)を取り付ける状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるクーラント穴付きソリッドエンドミルを示す側面図である。
【図9】図8に示す実施形態のエンドミル本体素材の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図7は、本発明の第1の実施形態を示すものであって、この第1の実施形態は、本発明をクーラント穴付きのヘッド交換式エンドミルの切削ヘッドに適用したものである。この切削ヘッドは、超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質材料により一体形成された本実施形態における工具本体としてのヘッド本体1と、このヘッド本体1を形成する上記硬質材料よりも硬度が低いステンレス鋼やダイス鋼等の鋼材のような塑性変形可能な金属材料よりなる連結部材2と、本実施形態における切替手段としての円筒状部材3とから構成されている。このような切削ヘッドは、上記連結部材2を介して図1に示すように円筒軸状のホルダ4の先端部に取り付けられ、このホルダ4が工作機械の主軸に取り付けられてヘッド本体1の中心軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、被削材に切削加工を施してゆく。
【0016】
ヘッド本体1は、図2に示すように先端側(図2(b)において左側)から後端側(図2(b)において右側)に向けて順に、切刃が形成される刃部11と、切削ヘッドの交換の際にレンチ等が係合させられる係合部12と、これら刃部11および係合部12よりも外径が一段小さく、しかもこの外径が後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされた軸線Oを中心とする円錐台状のテーパ軸部13が形成されている。なお、このテーパ軸部13の外周面が軸線Oに対してなす傾斜角度は1°〜20°の範囲内とされるのが望ましく、より望ましくは1°〜5°の範囲内、さらに望ましくは1°〜3°の範囲内とされて、本実施形態では2°とされている。
【0017】
刃部11の外周には、ヘッド本体1の先端から後端側に向けて軸線O回りにエンドミル回転方向Tの後方側に捩れる切屑排出溝14が周方向に等間隔に複数条(本実施形態では4条)形成され、これらの切屑排出溝14の外周側辺稜部には上記切刃として外周刃15aが、また先端側辺稜部には同じく切刃として底刃15bが形成されている。なお、本実施形態のヘッド交換式エンドミルはラジアスエンドミルであって、これら外周刃15aと底刃15bとが交差するコーナ部には、1/4円弧等の凸曲線状をなすコーナ刃15cが形成されている。
【0018】
図5は、このような切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cが形成される前のヘッド本体1の素材となるヘッド本体素材1Aを示すものであり、上記硬質材料の焼結等によって製造されたこのようなヘッド本体素材1Aに、上記連結部材2と図6に示す円筒状部材3とが図2、図3および図7に示すように取り付けられた上で、刃部11の切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cと、上記係合部12とが形成されてヘッド本体1に製造される。
【0019】
このヘッド本体素材1Aには、図5(e)に示すようにテーパ軸部13の後端面に開口して先端側に延びる連結部材取付穴16と、この連結部材取付穴16のさらに先端側に連通して該連結部材取付穴16より一段小径とされた有底の円筒状部材取付穴17とが軸線Oに沿って形成されていて、これら連結部材取付穴16と円筒状部材取付穴17とによりクーラント穴が形成されている。従って、本実施形態では、クーラント穴の軸線はヘッド本体1の中心となる軸線Oと同軸とされている。また、このうち円筒状部材取付穴17からは該円筒状部材取付穴17よりもさらに小径とされた複数の分岐穴18が形成されている。
【0020】
さらに、連結部材取付穴16の内周面には、軸線Oに沿った断面が円弧等の凹曲線状をなして軸線O回りに周回するす環状溝16aが、テーパ軸部13の後端面と、連結部材取付穴16と円筒状部材取付穴17との境界部とから間隔をあけて複数条(本実施形態では3条)形成されている。また、円筒状部材取付穴17の内周面にも同じく断面凹曲線状をなして軸線O回りに周回する環状溝17aが、連結部材取付穴16との境界部と分岐穴18の開口部との間に間隔をあけて1条形成されている。
【0021】
さらにまた、複数の分岐穴18は、円筒状部材取付穴17の内周面から先端側に向かうに従い外周側に延びてヘッド本体素材1Aの外周面に開口する外周刃分岐穴18aと、円筒状部材取付穴17の底面から先端側に向かうに従いやはり外周側に延びてヘッド本体素材1Aの先端面に開口する底刃分岐穴18bとから構成されている。ここで、本実施形態では、4つずつの外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとが、それぞれ周方向に等間隔に、かつ互いには周方向に間隔をあけて交互にずらされて分岐するように形成されている。なお、底刃分岐穴18bは外周刃分岐穴18aよりも僅かに小径とされている。
【0022】
図6は、このような円筒状部材取付穴17に取り付けられる上記円筒状部材3の素材となる円筒状部材素材3Aであり、この円筒状部材素材3Aは、連結部材2と同様に、ヘッド本体1を構成する上記硬質材料よりも硬度が低いステンレス鋼やダイス鋼等の鋼材のような塑性変形可能な金属材料により形成されて、概略有底の円筒状をなしている。ただし、この円筒状部材素材3Aの有底とされた底部には、軸線Oからの半径が底刃分岐穴18bの円筒状部材取付穴17底面における開口部と等しくなる位置に、軸線Oに平行に延びて該底部を貫通する底刃側貫通穴31が、底刃分岐穴18bと同数、周方向に等間隔に形成されている。ここで、軸線O回りの周方向に隣接する2つの底刃側貫通穴31の内周面同士の間の最短間隔は、円筒部材取付穴17の底面における底刃分岐穴18bの開口部の周方向の幅より大きくされるとともに、同じく軸線O回りの周方向に隣接する2つの底刃分岐穴18bの円筒部材取付穴17底面における開口部間の最短間隔は、底刃側貫通穴31の周方向の幅すなわち内径よりも大きくされている。
【0023】
また、円筒状部材素材3Aの円筒壁部にも、円筒状部材素材3Aの底部の先端面を円筒状部材取付穴17の底面に当接させた状態で、軸線O方向における位置が外周刃分岐穴18aと等しくなる位置に、軸線Oに対して垂直に上記円筒壁部を貫通する外周刃側貫通穴32が外周刃分岐穴18aと同数、周方向に等間隔に形成されている。ここで、これら外周刃側貫通穴32と底刃側貫通穴31同士は、本実施形態では周方向において僅かにずれるように形成されており、そのずれ量、すなわち周方向に隣接する外周刃側貫通穴32および底刃側貫通穴31の中心と軸線Oとをそれぞれ結ぶ直線が軸線O方向視においてなす角度は、本実施形態のように外周刃分岐穴18aおよび外周刃側貫通穴32と底刃分岐穴18bおよび底刃側貫通穴31とが互いに同数、それぞれ等間隔に形成されている場合には、外周刃分岐穴18aと外周刃側貫通穴32とが周方向に一致した状態から、360°を外周刃分岐穴18aおよび底刃分岐穴18bとの合計数で除した角度(本実施形態では360°/8=45°)だけ円筒状部材3を回転させたときに、底刃側貫通穴31と底刃分岐穴18bが周方向に一致する角度とされている。
【0024】
なお、円筒状部材素材3Aの内周面は、後端側の大部分が断面円形とされているのに対し、先端側(底部側)の部分は軸線Oに直交する断面が図6(d)に示すように後端側部分がなす円に略内接するような大きさの断面正六角形状とされていて、六角棒レンチに係合可能な係合穴部33とされ、底刃側貫通穴31はこの係合穴部33に部分的に開口するように形成されている。また、軸線O方向における円筒状部材素材3Aの長さは円筒状部材取付穴17の長さ(深さ)よりも僅かに短くされ、ただし円筒状部材素材3Aの底部先端面を円筒状部材取付穴17の底面に当接させた状態で、円筒状部材素材3Aの円筒壁部は円筒状部材取付穴17の環状溝17aよりも後端側に延びるようにされている。
【0025】
ここで、この円筒状部材素材3Aの外径は、ヘッド本体素材1Aにおける円筒状部材取付穴17の内径よりも例えば0.2mm程度小さくされている。そして、このような円筒状部材素材3Aを、円筒状部材取付穴17(クーラント穴)の内周面に摺接して回転可能に収容された円筒状部材3として取り付けるのに、本実施形態では図7に示すように、この円筒状部材素材3Aを円筒状部材取付穴17に挿入した上で、円筒状部材素材3Aの内周部に、その内径よりも僅かに大きな外径の頭部Hを有する軸状のパンチPを後端側から打ち込んで上記係合穴部33の手前まで圧入することにより、円筒状部材素材3Aの円筒壁部を塑性変形させて拡径させるようにしている。
【0026】
従って、このように塑性変形させられた円筒状部材3は、パンチPが挿入された後端側部分の外周面が円筒状部材取付穴17の内周面に密着して略液密に摺接しつつ軸線O回りに回転可能とされるとともに、円筒状部材取付穴17に形成された環状溝17aにも塑性変形した外周面が入り込んで該環状溝17aと係合することにより、軸線O方向の移動が拘束されて抜け止めされる。なお、パンチPの圧入によって拡径させられた円筒状部材3の内周部の内径は、上記六角棒レンチが挿通可能な大きさとされる。また、こうして塑性変形させられた円筒状部材3において、軸線O回りの周方向に隣接する2つの外周刃側貫通穴32の内面同士の最短間隔は、円筒部材取付穴17の内周面における外周刃分岐穴18aの開口部の周方向の幅より大きくされるとともに、同じく軸線O回りの周方向に隣接する2つの外周刃分岐穴18aの円筒部材取付穴17内周面における開口部間の最短間隔は、円筒状部材3の外周刃側貫通穴32の周方向の幅より大きくされている。
【0027】
次に、こうして円筒状部材3が円筒状部材取付穴17(クーラント穴)に収容された後に、連結部材取付穴16に連結部材2を取り付けるのであるが、本実施形態ではこの連結部材2も円筒状部材3と同様に、上述のような金属材料によって形成された図示されない連結部材素材が塑性変形させられて拡径することにより、連結部材取付穴16に取り付けられるようにされている。
【0028】
すなわち、この連結部材素材は、先端側部分が連結部材取付穴16の内径より僅かに小さな外径の円筒状とされるとともに、後端側部分には連結部材取付穴16の内径よりも大きく、ヘッド本体1のテーパ軸部13後端面の外径よりは小さな外径の雄ねじ部21が形成されたものであり、先端側部分の内周部はこの雄ねじ部21にまで延長させられて連結部材素材を貫通している。
【0029】
ただし、雄ねじ部21は塑性変形することがないように、その内周部の内径は先端側部分よりも僅かに大きくされる。また、軸線O方向における先端側部分の長さは連結部材取付穴16の長さ(深さ)よりも僅かに短くされ、ただし雄ねじ部21の先端面をヘッド本体素材1Aにおけるテーパ軸部13の後端面に当接させた状態で、この先端側部分は連結部材取付穴16の先端側の環状溝16aよりも先端側に延びるようにされている。
【0030】
そして、このように構成された連結部材素材の先端側部分を連結部材取付穴16に挿入した上で、この連結部材素材の内周部に、その先端側部分の内径よりも大きな外径で雄ねじ部21の内径よりは小さな外径の頭部を有する軸状のパンチを後端側から打ち込んで、連結部材取付穴16内で少なくとも先端側の環状溝16aを越える位置まで圧入することにより、連結部材素材の先端側部分を塑性変形させて拡径させ、連結部材2として連結部材取付穴16に取り付ける。
【0031】
従って、こうして拡径させられた連結部材2の先端側部分は、円筒状部材3と同様にその外周面が連結部材取付穴16の内周面に密着するとともに環状溝16aにも塑性変形した外周面が入り込んで係合し、連結部材2は軸線O方向に抜け止めされる。ただし、この連結部材2はヘッド本体1に対して軸線O回りに回転することなく先端側部分の外周面が強固に連結部材取付穴16の内周面に密着するように、連結部材取付穴16と上記先端側部分との内外径差や連結部材素材の内周部とパンチ頭部の内外径差が設定される。図3および図4では、こうして塑性変形させられた先端側部分の内径が雄ねじ部21の内径と等しくなるようにされ、この内径は上記六角棒レンチが挿通可能な大きさとされている。
【0032】
なお、連結部材取付穴16においては環状溝16aを形成するのに代えて、あるいはこれと併せて、その内周面に研磨等を施すことなく、ヘッド本体1を形成する上記超硬合金等の粉末焼結材料を焼結したときの焼結肌のままとして、例えばJIS B 0601:2001(ISO 4287:1997)に規定された最大高さ粗さRzで5μm〜200μmの範囲内の表面粗さ(ただし、基準長さ0.8mm、カットオフ値λs=0.0025mm、λc=0.8mm)の凹凸面とし、これに連結部材素材の先端側部分の塑性変形した外周面を入り込ませることにより、軸線O回りの回転と軸線O方向の移動とを拘束するようにしてもよい。
【0033】
このようにして連結部材2と円筒状部材3(切替手段)とが取り付けられたヘッド本体素材1Aに、上記切屑排出溝14と外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cと係合部12とが形成されてヘッド本体1とされる。そして、このヘッド本体1においては、上記複数の分岐穴18のうち、外周刃分岐穴18aは外周刃15aに向けてクーラントを供給するように切屑排出溝14の溝底に開口させられる一方、底刃分岐穴18bは底刃15bにクーラントを供給するように、該底刃15bのエンドミル回転方向T後方に連なる先端逃げ面に開口させられる。
【0034】
このように構成された第1の実施形態であるクーラント穴付きヘッド交換式エンドミルの切削ヘッドは、上記ホルダ4に設けられた雌ねじ部に連結部材2の雄ねじ部がねじ込まれることにより、ヘッド本体1のテーパ軸部13がホルダ4のテーパ穴部に密着して上述のように円筒軸状のホルダ4先端部に取り付けられる。そして、このホルダ4の内周部を通して工作機械側から供給されたクーラントが、クーラント穴である連結部材取付穴16と円筒状部材取付穴17に取り付けられた連結部材2と円筒状部材3の内周部を介してヘッド本体1先端部に供給され、さらに切替手段である円筒状部材3の底刃側貫通穴31または外周刃側貫通穴32から底刃分岐穴18bまたは外周刃分岐穴18aを介して噴出させられる。
【0035】
ここで、円筒状部材3における底刃側貫通穴31と外周刃側貫通穴32の周方向の位置と、ヘッド本体1における外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bの円筒状部材取付穴17内開口部の周方向の位置とが、上述のように外周刃分岐穴18aと外周刃側貫通穴32とが周方向に一致した状態から、360°を外周刃分岐穴18aおよび底刃分岐穴18bとの合計数で除した角度だけ円筒状部材3を回転させたときに、底刃側貫通穴31と底刃分岐穴18bが周方向に一致するようにされているので、図3(a)に示すように外周刃側貫通穴32が外周刃分岐穴18aと一致する回転位置に円筒状部材3があるときには、図3(b)に示すように底刃側貫通穴31と底刃分岐穴18bとは連通せず、底刃15b側にクーラントは供給されない。逆に、図4(b)に示すように底刃側貫通穴31と底刃分岐穴18bとが一致する回転位置に円筒状部材3があるときには、図4(a)に示すように外周刃側貫通穴32は外周刃分岐穴18aと連通せず、外周刃15a側にクーラントは供給されない。
【0036】
従って、これら外周刃15aと底刃15bのいずれか一方が専ら切削に使用される場合には、切削ヘッドをホルダ4に取り付ける前に、連結部材2および円筒状部材3の内周部を通して六角棒レンチを挿入して係合穴部33に係合させ、使用される一方の切刃に向けてクーラントが供給されるように切替手段としての円筒状部材3の回転位置を設定して分岐穴18を選択することにより、他方の切刃に向けてクーラントが供給されるのを避けることができる。このため、クーラントが無駄に消費されるのを防ぐことができるとともに、工作機械において必要以上のクーラント供給圧を要することもなく、効率的な切削加工を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態では、クーラントを供給する分岐穴18を選択する切替手段が、クーラント穴である円筒状部材取付穴17の内周面に摺接して回転可能とされた円筒状部材3とされており、上述のようにこの円筒状部材3の回転位置を設定することにより、円筒状部材取付穴17の周方向にずらされて分岐した分岐穴18に円筒状部材3の外周刃側または底刃側の貫通穴31、32の一方を一致させて、使用される切刃にクーラントが供給されるようにしている。このため、例えば使用しない分岐穴をプラグで塞ぐ場合のように、分岐穴18が多くなったときに作業が繁雑となることが無く、簡単かつ速やかに選択する分岐穴18を切り替えることができ、またプラグの紛失などのおそれもなくなって管理が容易になる。
【0038】
しかも、この円筒状部材3は、硬質材料よりなるヘッド本体1よりも低硬度の金属材料によって形成された円筒状部材素材3Aが塑性変形させられて、その外周面がクーラント穴である円筒状部材取付穴17の内周面に密着するとともに環状溝17aと係合することにより、この内周面に摺接して回転可能とされたものであるので、環状溝17aへの上記外周面の係合によって円筒状部材3を円筒状部材取付穴17から抜け止めしつつ回転させることができるとともに、これら内外周面の密着によって、クーラントがその間から漏れ出て切削に使用されない切刃に供給されてしまったり、切削加工中に円筒状部材3が回転してしまったりするのを防ぐことができる。
【0039】
さらに、こうしてクーラントの漏れを防止するのに樹脂やゴム製のOリングなどを必要としないので、例えば切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、コーナ刃15cが形成されたヘッド本体1の刃部11の表面に各種のコーティング被膜を被覆するような場合にヘッド本体1が高温となっても、上述のようなクーラントの漏れを確実に防止することが可能である。
【0040】
一方、本実施形態では、本発明を切削工具の刃部11に外周刃15aと底刃15bとが形成されたエンドミルに適用しており、軸線O方向の切込みが小さくて専ら底刃15bだけが切削に使用される場合や、逆に径方向の切込みが小さくて専ら外周刃15aだけが切削に使用される場合でも、複数の分岐穴18を上述のような外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとすることにより、特に上記切替手段としての円筒状部材3の回転によって確実かつ容易にこれら外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとの間でクーラントを選択的に供給することが可能となる。
【0041】
なお、上記第1の実施形態では、本発明を、ヘッド交換式のこのようなエンドミルに適用した場合について説明したが、図8および図9に示す第2の実施形態のように、ヘッド交換式ではない一般的なソリッドエンドミルに本発明を適用することも可能である。ここで、これら図8および図9において、図1ないし図7に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を簡略化する。
【0042】
すなわち、この第2の実施形態においては、軸線Oを中心とした略円筒状をなすエンドミル本体41全体が超硬合金等の上記硬質材料により形成されており、切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、コーナ刃15cが形成される前の図9に示すこのエンドミル本体41のエンドミル本体素材42のように、その後端から先端側に向けてクーラント穴43が軸線Oに沿って形成されていて、このクーラント穴43の先端部が円筒状部材取付穴17とされている。
【0043】
そして、この円筒状部材取付穴17に、第1の実施形態と同様の切替手段としての円筒状部材3が回転可能かつ抜け止めされて取り付けられるとともに、この円筒状部材取付穴17から外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとが分岐穴18として分岐させられていて、図8に示すように切屑排出溝14の溝底と底刃15bのエンドミル回転方向T後方側に連なる先端逃げ面に開口させられ、選択的に供給されるクーラントを外周刃15aまたは底刃15bに供給可能としている。
【0044】
従って、このような第2の実施形態のクーラント穴付き切削工具であるソリッドエンドミルにおいても、外周刃15aと底刃15bのいずれか一方が専ら切削に使用される場合には、エンドミル本体41の後端側からクーラント穴43に六角棒レンチを挿入して円筒状部材3を回転させることにより、使用される一方の切刃にクーラントを供給するとともに、他方の切刃への供給は停止することができ、クーラントの無駄や供給圧の低下を防ぐことができる。
【0045】
なお、これら第1、第2の実施形態では、本発明をヘッド交換式やソリッドのラジアスエンドミルに適用した場合について説明したが、ボールエンドミルやスクエアエンドミルなどの他の種のエンドミルや、エンドミル以外のクーラント穴付き切削工具に適用することも可能である。また、これら第1、第2の実施形態では、複数の分岐穴18を切替手段によって選択してエンドミルの外周刃15aと底刃15bのいずれか一方にのみクーラントを供給するようにしているが、これと併せて、例えば円筒状部材3を回転させたときに外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bの双方に連通するような複数の貫通穴32を形成したり、あるいは乾式切削用に外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bのいずれにも貫通穴32が連通しない円筒状部材3の回転位置を設けるようにしてもよい。
【0046】
さらに、上記各実施形態では、複数の分岐穴18である外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとが、クーラント穴である円筒状部材取付穴17の内面に、軸線O方向にずらされて開口するように分岐させられるとともに、周方向にもずらされて開口するように分岐させられているが、特に捩れた外周刃15aを有するエンドミルのような切削工具では、軸線O方向のどの位置に外周刃分岐穴18aをあけるかによってそのクーラント穴への開口部の位置も変わるので、例えば外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとが周方向には同じ位置で分岐させられていてもよい。
【0047】
また、このように外周刃分岐穴18aと底刃分岐穴18bとを複数の分岐穴18として切替手段によりクーラントの供給を選択するだけでなく、例えばクーラント穴の軸線O方向にずらして分岐した複数の外周刃分岐穴18aの間で切替手段によりクーラントを供給する分岐穴を選択したり、あるいはクーラント穴の底面から底刃15bの先端逃げ面に開口する底刃分岐穴18bと底刃15bのギャッシュに開口する底刃分岐穴とを周方向にずらして形成して、これらの底刃分岐穴の間でクーラントを供給する分岐穴を選択したりするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 ヘッド本体(工具本体)
1A ヘッド本体素材
2 連結部材
3 円筒状部材(切替手段)
3A 円筒状部材素材
4 ホルダ
11 刃部
12 係合部
13 テーパ軸部
15a 外周刃
15b 底刃
16 連結部材取付穴(クーラント穴)
16a、17a 環状溝
17 円筒状部材取付穴(クーラント穴)
18 分岐穴
18a 外周刃分岐穴
18b 底刃分岐穴
21 雄ねじ部
31 底刃側貫通穴
32 外周刃側貫通穴
33 係合穴部
41 エンドミル本体(工具本体)
42 エンドミル本体素材
43 クーラント穴
O ヘッド本体1、エンドミル本体41の軸線
T エンドミル回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体にクーラント穴が形成されていて、このクーラント穴は上記工具本体の刃部において複数の分岐穴に分岐させられているとともに、該クーラント穴には上記複数の分岐穴の間でクーラントを供給する分岐穴を選択可能とする切替手段が備えられていることを特徴とするクーラント穴付き切削工具。
【請求項2】
上記複数の分岐穴は、上記クーラント穴の周方向と軸線方向のうち少なくとも一方にずらされて分岐させられており、上記切替手段は、上記クーラント穴の内周面に摺接して回転可能に収容された円筒状部材であって、この円筒状部材には複数の貫通穴が形成されていて、これら複数の貫通穴は互いに、一部の貫通穴が上記複数の分岐穴のうち一部の分岐穴に連通したときに、残りの貫通穴は残りの分岐穴とはずらされるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクーラント穴付き切削工具。
【請求項3】
上記工具本体は硬質材料より形成されるとともに、上記円筒状部材は上記硬質材料よりも硬度が低い金属材料より形成されており、上記クーラント穴の内周面には環状溝が形成されていて、上記円筒状部材は、その外周面が上記クーラント穴の内周面に密着して上記環状溝と係合させられることにより該内周面に摺接して回転可能とされていることを特徴とする請求項2に記載のクーラント穴付き切削工具。
【請求項4】
上記工具本体は、上記刃部に底刃と外周刃とを有するエンドミルの該刃部が形成された工具本体であり、上記複数の分岐穴は上記底刃と外周刃とに上記クーラントを供給するようにそれぞれ開口させられていて、上記切替手段は、上記底刃に上記クーラントを供給する底刃分岐穴と上記外周刃に上記クーラントを供給する外周刃分岐穴との間でクーラントを供給する分岐穴を選択可能とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のクーラント穴付き切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35094(P2013−35094A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172032(P2011−172032)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】