説明

グラウトホールキャップ

【課題】耐火性・防火性を備えた安価なグラウトホールキャップを提案する。
【解決手段】外周囲にネジ加工が施された筒状のネジ部材3と、耐火性のセメント系材料からなるキャップ本体2と、を備えるグラウトホールキャップ1であって、キャップ本体2は、ネジ部材3に包囲されたネジ部12とコンクリート面が露出した耐火部11とを備え、耐火部11は、60mm以上の厚みを有していて、耐火性のセメント系材料は、繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルであり、耐火部11に金網が埋設されていて、さらに、ネジ部材3は、鋼製部材により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウトホールキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネル等のセグメントには、裏込め材注入および組み立て時の治具取付部としてのグラウトホールが形成されているのが一般的である。
グラウトホールは、裏込め材注入後にグラウトホールキャップ等により遮蔽する必要がある。
【0003】
近年、トンネル内に火災が起きた場合に備えて、耐火性、防火性のセグメントが多数開発されており、実用化に至っている。ところが、セグメントが耐火性、防火性であっても、グラウトホールキャップが耐火性、防火性でないと、火災時等にグラウトホールキャップが膨張してセグメントに悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0004】
そのため、特許文献1には、耐火性を備えたグラウトホールキャップとして、セラミックスにより構成されているとともに、背部側に吸熱材が充填されたグラウトホールキャップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−327174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載のグラウトホールキャップは、略全体が高価なセラミックスにより構成されているため、コストが高かった。そのため、トンネル内に多数配置する必要のあるグラウトホールキャップが、トンネルの工事費の高騰化の原因となっていた。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、耐火性・防火性を備えた安価なグラウトホールキャップを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のグラウトホールキャップは、外周囲にネジ加工が施された筒状のネジ部材と、耐火性のセメント系材料からなるキャップ本体と、を備えるグラウトホールキャップであって、前記キャップ本体は、前記ネジ部材に包囲されたネジ部とコンクリート面が露出した耐火部とを備え、前記耐火部は、60mm以上の厚みを有していることを特徴としている。
【0009】
かかるグラウトホールキャップによれば、耐火部を60mm以上確保しているため、十分な耐火安全性を確保することを可能としている。
ここで、耐火部(耐火代)を60mm確保することでセグメントに耐火性能を付与することが可能であることは、文献等(例えば、川村彰誉、中津賢一、佐野陽一、「耐火型セグメントの開発(その2)−実大加熱試験結果−」、土木学会第62回年次学術講演会)において実証されている。
【0010】
また、比較的安価な耐火性のセメント系材料を主体に形成することで、グラウトホールキャップを安価に構成することが可能となる。
【0011】
前記耐火性のセメント系材料が、繊維補強コンクリート、繊維補強モルタル、モルタルまたは高強度モルタルであれば、高温時に膨張することがなく、セグメントに悪影響を及ぼすことがない。また、繊維補強コンクリート、繊維補強モルタル、モルタルまたは高強度モルタルは、比較的安価に入手することができるため、経済的である。
【0012】
また、前記耐火部に金網が埋設されていれば、グラウトホールキャップのひびわれを防止することが可能となる。
【0013】
さらに、前記ネジ部材が、鋼製部材により構成されていれば、高品質かつ安価にネジ部を構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐火性・防火性を備えたグラウトホールキャップを安価に提供ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るグラウトホールキャップのセグメントへの取り付け状況を示す斜視図である。
【図2】グラウトホールキャップを示す斜視図である。
【図3】(a)はグラウトホールキャップの断面図、(b)は(a)のA−A矢視図、(c)は(a)のB−B矢視図である。
【図4】(a)はグラウトホールキャップの変形例を示す断面図、(b)は(a)のC−C矢視図、(c)は(a)のD−D矢視図である。
【図5】(a)〜(c)はグラウトホールキャップの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、図1に示すように、耐火性および防火性を備えたセグメントSに形成されたグラウトホールS1に取り付ける、耐火性および防火性を備えたグラウトホールキャップ1について説明する。
【0017】
グラウトホールキャップ1は、図2に示すように、キャップ本体2と、キャップ本体2の先端部(セグメント外周面側端部)を覆うネジ部材3と、を備えて構成されている。
【0018】
キャップ本体2は、耐火性のセメント系材料により構成されており、図3(a)に示すように、頭部21と軸部22とにより構成されている。
本実施形態では、キャップ本体2をポリプロピレン繊維入りモルタル(以下、「PP入りモルタル」という)の硬化体により構成するが、キャップ本体2を構成する材料は、耐火性のセメント系材料であれば限定されるものではない。例えば、他の繊維補強モルタル、モルタル、高強度モルタル、繊維補強コンクリートやいわゆる耐火コンクリートの粗骨材を取り除いたものを採用してもよい。なお、繊維補強コンクリートや繊維補強モルタルにおいて使用される繊維は限定されるものではなく、例えば、鋼繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、アラミド繊維またはビニロン繊維等の各種繊維、あるいは、これらの繊維の中から複数の繊維を適宜組み合わせたものを使用すればよい。
【0019】
頭部21は、軸部22の直径以上の直径を有して構成されている。頭部21の外周面は、グラウトホールS1の断面形状に対応する形状に形成されている。外周囲がテーパー状に傾斜した断面視逆台形状を呈している。
なお、頭部21の形状は限定されるものではなく、グラウトホールS1の形状に応じて適宜設定すればよい。例えば、図4(a)に示すように、断面視矩形状に形成してもよい。
【0020】
頭部21の端面には、グラウトホールキャップ1の固定時に使用する工具の係止部としての凹部23が形成されている。本実施形態では、図3(b)に示すように、凹部23を平面視正方形とするが、凹部23の形状は限定されるものではなく、例えば、図5(a)に示す凹部23ように平面視五角形にするなど、他の多角形状に形成してもよい。また、凹部23は、図5(b)に示すように十字状や一字状に形成していてもよい。また、例えば、図4(b)に示すように、複数(図面では4つ)の凹部24,24,…を形成してもよい。なお、凹部24の数は、例えば図5(c)に示すように2つにするなど、限定されるものでない。
【0021】
図3(a)および(b)に示すように、頭部21には、ひび割れ防止を目的として、内空側端面から所定のコンクリート被り厚さを確保して金網4が埋設されている。本実施形態では、金網4を凹部23の周囲に配置する。なお、金網4の配置は限定されるものではない。また、金網4は必要に応じて配置すればよく、省略してもよい。また、金網4に代えて、炭素繊維やセラミック等により構成された補強材を埋設してもよい。補強材(金網4)の形状は格子状に限定されない。
【0022】
軸部22は、段付き円柱状に形成されており、先端側部分(セグメントの外面側部分)は、ネジ部材3内に挿入されている。
【0023】
キャップ本体2のネジ部材3に挿入された部分以外の部分(コンクリート面が露出した部分)は、グラウトホールキャップ1の耐火部11を構成している。耐火部11の厚みは、60mm以上となるように構成している。なお、耐火部11の厚みは、60mm以上であれば限定されるものではなく、セグメントSの厚みに応じて適宜設定すればよい。
【0024】
ネジ部材3は、有底円筒状の鋼製部材である。ネジ部材3の外周面には、グラウトホールS1の内面に施された雌ネジに対応する雄ネジが形成されている。本実施形態では、グラウトホールキャップ1のネジ部材3により覆われた部分をネジ部12とする。
ネジ部材3を構成する材料は限定されるものではなく、例えばセラミックス等の無機材料により構成してもよい。
【0025】
ネジ部材3の内部には、キャップ本体2の軸部22の先端部分が収容されている。
【0026】
ネジ部材3には、図3(a)および(c)示すように、内壁面に沿ってリブ32,32,…が形成されており、キャップ本体2との一体化がより強固に行われている。なお、本実施形態では、8枚のリブ32,32,…を放射状に形成しているが、リブ32の枚数や配置は限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
また、キャップ本体2とネジ部材3との接合性を高める部材は、リブ32に限定されるものではなく、例えば、図4(a)および(c)に示すように、ネジ部材3の底部に配設された鉤形部材33やピン形部材を採用してもよい。
【0027】
グラウトホールキャップ1は、型枠の底部にネジ部材3を配設した状態で、PP入りモルタルを当該型枠内(ネジ部材3内)に打設(充填)し、養生することにより形成する。
【0028】
ネジ部材3内に充填されたPP入りモルタルが硬化することで、軸部22とリブ32とが噛み合って、キャップ本体2とネジ部材3との一体化が実現する。
これにより、グラウトホールキャップ1は、ネジ部12とネジ部12の内空側に一体に形成された耐火部11とを備えて構成される。
【0029】
以上、本実施形態のグラウトホールキャップ1によれば、60mm以上の厚みの耐火部11(耐火代)を確保しているため、耐火性・防火性に優れたグラウトホールキャップ1が構成される。つまり、トンネル内に火災が生じた場合であっても、60mm以上の耐火代により鋼製部材からなるネジ部材3に熱の伝達が抑制されて、当該ネジ部材3の熱による膨張を防止または低減させることができる。
【0030】
グラウトホールキャップ1は、ネジ部12に鋼製のネジ部材3が配設されているため、グラウトホールS1への締め込み時に、破損することが防止されている。
【0031】
キャップ本体2は、PP入りモルタルにより構成されているため、耐火性、防火性に優れているとともに、セグメントSの一部として十分な強度も備えている。
【0032】
キャップ本体2の頭部は、側面が傾斜しているため、セグメントホールS1へ設置する際などにおいて、角部が接触することでコンクリート製の頭部が破損する可能性を低減することができる。
また、頭部21に形成される締め込み用係止部として凹部23を形成しているため、トンネル内空に突出部分が形成されることがない。
【0033】
頭部21に金網が配設されているため、頭部21のひび割れが抑制される。
【0034】
グラウトホールキャップ1は、PP入りモルタルと鋼製部材とを組み合わせて構成されているため、材料費が従来のセラミックスを主体に構成された耐火性、防火性を備えたグラウトホールキャップと比較して安価である。また、構築方法も簡易なため、製造コストが安価である。
【0035】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0036】
例えば、キャップ本体2を構成するPP入りモルタル(繊維補強モルタル)に混入する補強繊維の量は例えばセグメントを構成するコンクリートと同程度とするなど、適宜設定すればよい。
【0037】
グラウトホールキャップ1をグラウトホールS1に設置したら、凹部23に充填材等を充填して、トンネル内面を平坦にしてもよい。
また、凹部23には、熱緩衝材を充填してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 グラウトホールキャップ
11 耐火部
12 ネジ部
2 キャップ本体
3 ネジ部材
4 金網
S セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周囲にネジ加工が施された筒状のネジ部材と、
耐火性のセメント系材料からなるキャップ本体と、を備えるグラウトホールキャップであって、
前記キャップ本体は、前記ネジ部材に包囲されたネジ部とコンクリート面が露出した耐火部とを備え、
前記耐火部は、60mm以上の厚みを有していることを特徴とするグラウトホールキャップ。
【請求項2】
前記耐火性のセメント系材料が、繊維補強コンクリート、繊維補強モルタル、モルタルまたは高強度モルタルであることを特徴とする、請求項1に記載のグラウトホールキャップ。
【請求項3】
前記耐火部に金網が埋設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のグラウトホールキャップ。
【請求項4】
前記ネジ部材が、鋼製部材により構成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のグラウトホールキャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184956(P2011−184956A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51712(P2010−51712)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】