説明

グラスライニング用上ぐすり組成物

【課題】本発明の目的は、ナトリウム成分の溶出が無いグラスライニング製機器を提供することができるグラスライニング用上ぐすり組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、該組成物を構成するフリットがSiO64〜74質量%、ZrO4〜16質量%、RO(ただし、RはLi、K、Csを示す)10〜22質量%、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Baを示す)3〜14質量%及びZnO4を超え10質量%(4を超え8モル)を主成分として含有してなり、NaOが不添加であることを特徴とし、更に、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物には、金属繊維を配合することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング用組成物に関し、更に詳細にはグラスライニング用上ぐすり組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工程においては、シリコン基板上に金属酸化物等をドーピングし、例えばCVD(化学蒸着)法により絶縁膜を付け、スパッタやメッキにより配線を行ない、この操作を反復して回路を構成するが、集積度の向上に伴い配線の線幅は80nm以下にまで微細化されている。また、液晶や有機ELによるディスプレイ製造においては、TFT(薄膜トランジスタ型)型パネルが採用されており、この製造工程においても同様に幅の狭い配線が採用されている。
【0003】
半導体やTFT型パネルを製造する工程においては、フッ酸、リン酸、塩酸、硫酸、アンモニアなどの薬液や、配線用のレジスト液などが使用されるが、これらの液にナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属イオンが混入していると、配線が破壊されたり、レジスト液に前記金属イオンが混入していると、レジストパターンに前記金属イオンが影を形成し、配線が分断されるといった問題点が発生する。前記アルカリ金属のうち、特に、ナトリウム成分は半導体製造の歩留まりに著しい影響を与えるため、半導体製造工程では厳格に避けるべき成分となっている。
【0004】
従って、前記薬液を製造する工程においては、金属成分の溶出防止の点より四フッ化エチレン−パ−フルオロビニルエーテル樹脂(PFA)や四フッ化エチレン樹脂(PTFE)による反応缶、配管類が使用されるが、高温系では樹脂が軟化するので、無機材料、例えばナトリウム成分不在の石英ガラス等が使用されている。
【0005】
ここで、従来の化学薬品を製造する工程においては、金属製の缶体の接触面をガラス質材料でコーティングした所謂グラスライニング製機器が大容量装置を容易に作製できる点により広く採用されている。このグラスライニング製機器に使用されているグラスライニングは、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とし、更に、素地金属と熱膨張率を合わせたり、ガラス溶融時の温度を低下させたり、複数成分の溶解性を確保するために、NaOが配合されている。即ち、NaOは、グラスライニングのガラス網目構造を修飾し、SiO網目構造を切断し、(i)線熱膨張係数を大きくする;(ii)易溶性を大きくするために作用し、グラスライニングには必須の成分となっている。しかしながら、NaOが配合されたグラスライニングからはナトリウム成分が溶出し易く、このナトリウム成分は、薬液製造過程において、薬液等中に混入するため、半導体やTFT型パネルの製造工程に使用される薬液等の製造には、従来のグラスライニング製機器を使用することはできない。
【0006】
一方、石英ガラスはナトリウム成分の溶出は無いが、軟化点が1650℃と高温であり、金属製缶体などの接液面にコートすると金属が酸化・損傷したり、金属製缶体と石英ガラスの熱膨張の差が大きいために、冷却時に石英ガラスの損傷が発生し、石英ガラスのコーティングを大容量装置に適用することが極めて難しい。
【0007】
そこで、グラスライニング製機器のグラスライニング層表面にシリカコーティング層を設けることが提唱されている。例えば、特許文献1には、ライニングガラス層(2)が母材(1)の表面に形成されたグラスライニング被覆製品を製造する方法において、前記ライニングガラス層(2)の表面に、ゾル−ゲル法によりSiOをコーティングすることにより、シリカコーティング層を形成して製造することを特徴とするグラスライニング製品の製造方法(請求項1);ゾルゲル法によりSiOをコーティングする手段が、シリコンのアルコキシド類及びポリエチレングリコールを添加して得られた液をライニングガラス層(2)に噴霧した後、乾燥し焼成する手段である請求項1記載のグラスライニング製品の製造方法(請求項2);ライニングガラス層(2)が母材(1)の表面に形成されたグラスライニング被覆製品を製造する方法において、前記ライニングガラス層(2)の表面に、SiOを塗布することにより、シリカコーティング層(3)を形成して製造することをと特徴とするグラスライニング製品の製造方法(請求項6)が開示されている。また、特許文献1の[0014]〜[0015]段落には、シリカコーティング層の厚みは0.5〜10μmであることも記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.5〜30ミクロン、長さ1.5〜10mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を前記フリット100質量部に対して0.05〜1.5質量部含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物(請求項1);金属繊維がステンレス系金属、貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である請求項1記載の導電性グラスライニング組成物(請求項2)が開示されている。また、特許文献2の請求項3によれば、フリットは8〜22質量%のNaOを含むことが記載されている。
【0009】
更に、特許文献3には、フリットを含むグラスライニング組成物であって、直径0.01ミクロン以上0.5ミクロン未満、長さ0.5〜1500ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を前記フリット100質量部に対して0.001〜0.05質量部含有してなることを特徴とする導電性グラスライニング組成物(請求項1);金属繊維が貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である請求項1記載の導電性グラスライニング組成物(請求項2)」が開示されている。また、特許文献3の請求項3によれば、フリットは8〜22質量%のNaOを含むことが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−131777号公報
【特許文献2】特開平10−81544号公報
【特許文献3】特開平11−116273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなグラスライニング製品の製造方法で得られるグラスライニング製品は、その表面にシリカコーティング層(2)が設置されているために、ナトリウム成分等の溶出はないものの、シリカコーティング層(3)の厚さは0.5〜10μmと非常に薄く、ピンホール等が発生し易く、更に、ライニングガラス層(2)へのシリカコーティング層(3)の付着力も充分なものではなく、剥離等が発生し易く、また、耐用性も問題があり、長期間にわたりグラスライニング製品からのナトリウム成分等の溶出を安定的に防止することができない。なお、上記シリカコーティング層(2)を厚くすると、応力により剥離が発生し易くなるために、コーティング厚を厚くすることによりピンホール等を防止することはできない。
【0012】
また、特許文献2及び3に記載されている導電性グラスライニング組成物においては、フリットに8〜22質量%のNaOが配合されており、ナトリウム成分等の溶出については何ら考慮されていない。
【0013】
従って、本発明の目的は、ナトリウム成分の溶出が無いグラスライニング製機器を提供することができるグラスライニング用上ぐすり組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、グラスライニング製機器を構成するグラスライニング用上ぐすり組成物にナトリウム成分を添加しなくても良好な特性を有するグラスライニングを施釉できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
即ち、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、該組成物を構成するフリットがSiO64〜74質量%、ZrO4〜16質量%、RO(ただし、RはLi、K、Csを示す)10〜22質量%、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Baを示す)3〜14質量%及びZnO4を超え10質量%(4を超え8モル%)を主成分として含有してなり、NaOが不添加であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、フリットがTiO、Al、La及びBからなる群から選択された1種または2種以上を含有してなることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、TiOの含有量が0.1〜5質量%、Alの含有量が0.1〜6質量%、Laの含有量が0.1〜10質量%、Bの含有量が0.1〜4質量%の範囲内にあり、2種以上を併用する場合には、その合計量が0.3〜6質量%の範囲内であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、CoO、Sb、Cr、Fe、SnOか及びCeOからなる群から選択される1種または2種以上の着色成分をフリット100質量%に対して酸化物換算量で3質量%までの量で配合することを特徴とする。
【0019】
更に、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、SiO、Al及びCaO成分のうちの5質量%までをフッ化物の形態で使用することを特徴とする。
【0020】
また、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、線熱膨張係数(100〜400℃)が85〜110×10−7−1の範囲内にあることを特徴とする。
【0021】
更に、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維をフリット100質量部に対して0.01〜1.5質量部含有してなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、金属繊維が貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来のナトリウム成分を添加したグラスライニング用上ぐすり組成物と同等またはそれ以上の諸特性を有し、ナトリウム成分の溶出がないグラスライニング層を施釉することができるグラスライニング用上ぐすり組成物を提供できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明においては、グラスライニング用上ぐすり組成物を構成するフリットにナトリウム成分を添加・配合しないことにより、上ぐすり組成物中のナトリウム成分の含量を他の配合原料に付随する不可避不純物のみとし、それによってグラスライニング施釉層からのナトリウム成分の溶出を防止するものである。
【0025】
本発明において、フリットの基本組成は、SiO:64〜74質量%、ZrO:4〜16質量%、RO(RはLi、K、Csを示す):10〜22質量%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを示す):3〜14質量%及びZnO:4を超え10質量%(4を超え8モル%)の範囲内である。ここで、SiOの含有量が74質量%を超えると、高粘性となり、且つ線熱膨張係数が85×10−7−1より小さくなるため好ましくなく、また、64質量%未満であると、耐酸性及び耐水性が低下するため好ましくない。なお、SiOの好適な含有量は、67〜70質量%の範囲内である。また、ZrOの含有量が16質量%を超えると、結晶化し易くなり、且つ高粘性となるため好ましくなく、また、4質量%未満であると、耐水性及び耐アルカリ性が低下するため好ましくない。なお、ZrOの好適な含有量は、6〜12質量%の範囲内である。更に、ROの含有量が22質量%を超えると、耐水性が低下するため好ましくなく、また、10質量%未満であると、高粘性となるため好ましくない。なお、ROの好適な含有量は、15〜19質量%の範囲内である。また、R’Oの含有量が14質量%を超えると、耐酸性が低下するため好ましくなく、また、3質量%未満であると、耐水性が低下するため好ましくない。なお、R’Oの好適な含有量は、4〜10質量%の範囲内である。また、ZnOが10質量%(8モル%)を超えると、高粘性のために好ましくない。なお、ZnOの好適な含有量は、4を超え10質量%(4を超え8モル%)の範囲内である。
【0026】
また、本発明において、フリットは、TiO、Al、La及びBからなる群から選択された1種または2種以上を含有することができる。これらの成分は、グラスライニング焼成中の分相、結晶化を防止し、ガラス網目構造内に強く固定され、網目を充填して引き締め、耐水性能を向上し、気泡の発生を抑制するために作用する。
【0027】
ここで、TiOの含有量は、0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、Alの含有量は、0.1〜6質量%、好ましくは0.2〜4質量%、Laの含有量は、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜6質量%、Bの含有量は、0.1〜4質量%、好ましくは1〜3質量%の範囲内にあり、2種以上を併用する場合には、その合計量が0.3〜6質量%、好ましくは1〜4質量%の範囲内である。なお、これらの成分の含有量並びに合計含有量が上限を超えると、フリットの溶融点が高くなり、溶解性が悪化するために好ましくなく、また、下限を下回ると、添加効果が発現しないために好ましくない。
【0028】
更に、フリットには、CoO、Sb、Cr、Fe、SnO及びCeOからなる群から選択される1種または2種以上の着色成分をフリット100質量%に対して酸化物換算量で3質量%までの量で配合することができる。ここで、着色成分の配合量が酸化物換算量で3質量%を超えると、耐酸性が低下し、また、焼成時に発泡現象が起こるために好ましくない。
【0029】
なお、本発明においては、フリットの溶融を促進するために、上記SiO、Al及びCaO成分のうちの5質量%までをフッ化物の形態で使用することもできる。なお、フッ化物としては、例えばKSiF、KAlF、CaF等を用いることができる。
【0030】
また、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物に導電性を付与するために、金属繊維を配合することができる。使用可能な金属繊維の直径は0.1〜30ミクロン、好ましくは0.2〜10ミクロンの範囲内である。ここで、金属繊維の直径が0.1ミクロン未満では、金属繊維自体の加工が難しく、コストが上昇するために好ましくない。また、直径が30ミクロンを超えると、上ぐすり組成物としてのスリップ粘性が乏しくなり、スプレー施工性が著しく悪くなるために好ましくない。
【0031】
更に、金属繊維の長さは0.005〜3mm、好ましくは0.01〜2mmの範囲内である。ここで、金属繊維の長さが0.005mm未満では、金属繊維自体のチップが難しく、また、該長さが3mmを超えると、上ぐすり組成物としてのスリップ粘性が乏しくなり、スプレー施工性が著しく悪くなるために好ましくない。
【0032】
また、金属繊維の長さ/直径の形状比は、50以上である。金属繊維の長さ/直径の形状比が50未満であると、金属繊維を多量に配合しないと上ぐすり組成物の導電性を向上させることができないため好ましくない。
【0033】
本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物において、配合可能な金属繊維の寸法は上述の範囲内であるが、フリットと混合する際に、金属繊維の粉砕・切断が生じ、上ぐすり組成物を施釉する時には上述の範囲内よりも小さい金属繊維が若干混入することがあるが、このような金属繊維が存在していても得られる上ぐすり組成物施釉層の導電性には何ら影響を及ぼすものではない。
【0034】
金属繊維は、貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である。貴金属系金属繊維としては、例えばAg繊維(体積抵抗率:1.6×10−6Ωcm)、Au繊維(体積抵抗率:2.4×10−6Ωcm)、Pt繊維(体積抵抗率:10.6×10−6Ωcm)等を使用することができる。更に、白金と白金族金属との合金繊維としては、例えばPtと、Pd、Ir、Rh、OsまたはRuとの合金からなるものを使用することができる。
【0035】
なお、金属繊維のフリットへの添加量は、フリット100質量部に対して0.01〜1.5質量部、好ましくは0.05〜1.0質量部である。金属繊維の添加量が0.01質量部未満であると、導電性の大幅な向上が望めず、また、該添加量が1.5質量部を超えると、スリップ粘性が乏しくなり、スプレー施工性が著しく悪くなるために好ましくない。なお、金属繊維の添加量が上記範囲内であれば、グラスライニング焼成面での発泡や、凹凸現象がなく、良好な品質のグラスライニングを得ることができる。
【0036】
上述のような組成を有するグラスライニング用上ぐすり組成物は、例えば、フリットに慣用の添加剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、塩化バリウム)等及び所定量の水またはエチルアルコール等を添加してスリップを調製し、グラスライニング用上ぐすり組成物として施釉することができる。
【0037】
本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物を用いて施釉したグラスライニング層の線熱膨張率100〜400℃は、85〜110×10−7−1の範囲内にあり、母材上に下ぐすりを介して強固に施釉することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物を実施例により更に説明する。
実施例1
以下の表1に示す配合割合にて、フリットを配合した。
【0039】
【表1】

【0040】
次に、SiO+TiO+ZrO:55質量%(55モル%)、NaO+KO+LiO:19質量%(21モル%)、CaO+BaO:6質量%(6モル%)、B+Al:17質量%(15.5モル%)、CoO+NiO+MnO:3質量%(2.5モル%)の組成を有するフリットに、フリット100質量%に対して外割で7質量%の粘土、カルボキシメチルセルロース水溶液(濃度:1質量%)1質量%、亜硝酸ナトリウム水溶液(濃度:0.3質量%)5質量%並びに水を添加して下ぐすり組成物のスリップを調製し、母材105mmφ×1mm厚さの丸板(材質:SPCC炭素鋼板)に施釉して860℃で20分間焼成することにより、厚さ0.3〜0.4mmの下ぐすり層を得た。
次に、表1に示す組成を有する本発明品及び比較品100質量%に対して外割でカルボキシメチルセルロース水溶液(濃度:1質量%)33質量%、塩化バリウム水溶液(濃度:1質量%)0.1質量%並びに水を添加して上ぐすり組成物のスリップを調製し、上述のようにして作製した下ぐすり層の上に施釉して800℃で20分間焼成する操作を3回反復することにより厚さ0.6〜0.7mmの上ぐすり層を形成した。なお、下ぐすり層と上ぐすり層の合計厚さは約1.0mmであった。
【0041】
得られた試験体について、耐水性及び線熱膨張係数を下記の操作に従って測定した。得られた結果を表1に併記する。
<耐水性>
耐水性は、JIS R 4301に規定される沸騰くえん酸試験装置を用いて行なった。まず、試験体を純水で洗浄し、次いでエタノールで洗浄した。その後、試験体を110±5℃の乾燥器内で約2時間乾燥し、デシケータ内で2時間放冷した。得られた試験体を秤量して得られた質量をmとした。次に、試験体を装置に装填してイオン交換水を用い、沸騰状態で7日間試験した後、試験体を装置から取り外し、水洗しながらソフトスポンジで3回こすり、試験体を110±5℃の乾燥器内で約2時間乾燥し、デシケータ内で2時間放冷した。得られた試験体を秤量して得られた質量をmとした。得られた結果から、質量減耐食度(A)を下記の式より求めた。
A=[(m−m)/B]/7
A:質量減耐食度(g/m/24時間)
B:試験体がイオン交換水に接触した面積(m
:試験体の試験前の質量(g)
:試験体の試験後の質量(g)
<線熱膨張係数>
上述と同様にして作製した試験体から下ぐすり層+上ぐすり層を剥離して上ぐすり層片を採取し、上ぐすり層片を800℃×20分間にわたり再溶融して2〜4mmφ×12mmの試験体を得、ブルカー・エイ・エックス・エス(株)製の熱膨張計(TD−5000S)を用いて測定した。
【0042】
次に、JIS R 4301に規定される沸騰くえん酸試験装置を用い、80℃の超純水(比抵抗:2MΩ)×30日の溶出試験を行なった。試験後、溶出試験に用いた超純水について、原子吸光分析によりSi4+、Na、K、Liの濃度を測定した。得られた結果を表2に示す。なお、Naの欄の「<0.01」は検出限界以下を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
また、本発明品と比較品のppbレベル溶出成分を比較するために、50℃の超純水(比抵抗:18MΩ)×120時間の溶出試験を行った。
試験体は、13mmφ×80mm長さの鉄素地丸棒(低炭素鋼)全面に上述と同様の工程にてグラスライニング施工したものを用い、試験容器はオールPTFE製容器に超純水200mlを入れて50℃の温水バス中で溶出させた。
試験後、超純水について、ICP(誘導結合プラズマ発光分析法)により、Na、Ca、K、Ba、Liの濃度を測定した。得られた結果を表3に示す。なお、Ca及びBaの欄の「<0.01」は検出限界以下を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
本発明品は、比較品に比べて、Naの溶出量が1/10以下で、且つK、Liの溶出量も明らかに少ないことが判った。
【0047】
更に、上述と同様の試験体を用い、0.7質量%塩酸水溶液を用い、80℃温水バス中で溶出を行った以外は上述と同様の方法で溶出試験を行い、試験後の超純水について、ICPにより、Na、Ca、K、Li、Mg、Zn、Alの濃度を測定した。得られた結果を表4に示す。なお、Ca、Mg、Znの欄の「<0.01」並びにAlの欄の「<0.02」は検出限界以下を示す。
【0048】
【表4】

【0049】
本発明品は、0.7質量%塩酸水溶液、80℃下の厳しい条件下でもNa、Ca、K及びLiの溶出量が少ないことが判る。
【0050】
実施例2
上述の本発明品(1)及び(2)並びに下ぐすり100質量部に対して直径0.6ミクロン、長さ2mmの白金繊維を表5に記載する割合で添加して上ぐすり組成物を作成した。
次に、実施例1と同様の施工方法にて下ぐすり層を施釉した丸板に、上記白金繊維含有上ぐすり組成物を下記の表5に記載する条件にて施釉して上ぐすり層を形成した。
得られたグラスライニングについて、図1に示す三端子法による抵抗測定法で、体積抵抗率を求め、得られた結果を表5に併記する。なお、比較のため、比較品(3)の上ぐすり組成物を表5に示す条件にて施釉して得られたグラスライニングについて、同様に体積抵抗率を測定した。
【0051】
【表5】

【0052】
表中、導電性の◎は、極めて良好、○は、良好、×は、劣るをそれぞれ示す。
【0053】
なお、本発明品4及び5について、実施例1と同様に沸騰くえん酸試験、超純水溶出試験並びに塩酸水溶液溶出試験を行ったところ、実施例1と同等の結果が得られ、ナトリウム成分の溶出量が極めて少ないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のグラスライニング用上ぐすり組成物は、ナトリウム成分の混入が嫌われる薬液等を製造するためのグラスライニング製機器の上ぐすり組成物として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明品の体積抵抗率を測定するための三端子法による抵抗測定法の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラスライニング用上ぐすり組成物を構成するフリットがSiO64〜74質量%、ZrO4〜16質量%、RO(ただし、RはLi、K、Csを示す)10〜22質量%、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Baを示す)3〜14質量%及びZnO4を超え10質量%を主成分として含有してなり、NaOが不添加であることを特徴とするグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項2】
フリットがTiO、Al、La及びBからなる群から選択された1種または2種以上を含有してなる、請求項1記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項3】
TiOの含有量が0.1〜5質量%、Alの含有量が0.1〜6質量%、Laの含有量が0.1〜10質量%、Bの含有量が0.1〜4質量%の範囲内にあり、2種以上を併用する場合には、その合計量が0.3〜6質量%の範囲内である、請求項2記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項4】
CoO、Sb、Cr、Fe、SnO及びCeOからなる群から選択される1種または2種以上の着色成分をフリット100質量%に対して酸化物換算量で3質量%までの量で配合する、請求項1ないし3のいずれか1項記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項5】
SiO、Al及びCaO成分のうちの5質量%までをフッ化物の形態で使用する、請求項1ないし4のいずれか1項記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項6】
線熱膨張係数(100〜400℃)が85〜110×10−7−1の範囲内にある、請求項1ないし5のいずれか1項記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項7】
更に、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維をフリット100質量部に対して0.01〜1.5質量部含有してなる、請求項1ないし6のいずれか1項記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。
【請求項8】
金属繊維は、貴金属系金属、及び白金と白金族金属との合金からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項7記載のグラスライニング用上ぐすり組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−143788(P2009−143788A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325818(P2007−325818)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】