説明

グランド型ピアノ

【課題】 消音演奏モード時に、通常演奏モード時と変わらない鍵のタッチ感が得られるとともに、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離を拡大し、それにより、止音を余裕を持って確実に行うことができるグランド型ピアノを提供する。
【解決手段】 上下方向に移動自在のハンマーシャンクフレンジ1と、ハンマーシャンクフレンジ1に回動自在に支持されたハンマー5と、シャンクローラ5cを介してハンマーシャンク5aを載置するレペティションレバー8と、消音演奏モード時に、ハンマーシャンク5aが当接することによって、ハンマーヘッド5bによる打弦を阻止する止音レール15と、消音演奏モード時に、ハンマーシャンクフレンジ1を上方に移動させる駆動装置30と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のグランド型ピアノ(以下、単に「ピアノ」という)として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このピアノは、弦を打弦し、アコースティック音を発生させる通常演奏モードと、打弦を行わず、電子音を発生させる消音演奏モードとに切替え可能に構成されている。このピアノは、水平に張られた弦と、この弦を打弦する回動自在のハンマーと、押鍵に伴い、ハンマーを突き上げ、回動させるとともに、ハンマーの回動の途中でハンマーから離脱するジャックと、ジャックの上側に間隔を隔てて対向するとともに、上下方向に移動自在に設けられたレギュレーティングボタンと、弦とハンマーシャンクの間に進退自在に設けられた止音レールなどを備えている。止音レールは、消音演奏モード時に、弦とハンマーシャンクの間に位置し、回動するハンマーシャンクが当接することにより、ハンマーが弦を打弦する動作を阻止するものである。このように、止音レールによるハンマーの阻止動作は、ハンマーシャンクが止音レールに当接したときの衝撃が演奏者の指先に伝わらないようにするために、ジャックがハンマーから離脱した後に行うことが必要である。
【0003】
このピアノでは、消音演奏モード時に、レギュレーティングボタンが下方に駆動される。これにより、ジャックがハンマーから離脱するタイミングが早くなることによって、ジャックの離脱時における弦とハンマーヘッドとの間の距離が、通常演奏モード時よりも拡大される。それにより、ジャックが離脱してからハンマーヘッドが弦を打弦するまでのハンマーシャンクのストロークが大きくなるため、そのストロークの間で止音レールによる止音を確実に行える。
【0004】
しかし、この従来のピアノでは、消音演奏モード時には、レギュレーティングボタンが下方に駆動され、ジャックがハンマーから離脱するタイミングが早くなるため、レットオフが早くなり、タッチ重さも大きく減少することによって、通常演奏モード時と大きく異なるタッチ感が得られ、違和感が生じてしまう。
【0005】
本発明は、消音演奏モード時に、通常演奏モード時と変わらない鍵のタッチ感が得られるとともに、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離を拡大し、それにより、止音を余裕を持って確実に行うことができるグランド型ピアノを提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特許第3456216号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に張られた弦の打弦を許容する通常演奏モードと、弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノであって、上下方向に移動自在のハンマーシャンクフレンジと、前後方向に延びるハンマーシャンクの後端部にハンマーヘッドを有し、前部の下面にシャンクローラを有するとともに、ハンマーシャンクの前端部においてハンマーシャンクフレンジに回動自在に支持されたハンマーと、後ろ下がりに傾斜した状態で前後方向に延び、シャンクローラを介してハンマーシャンクを載置するレペティションレバーと、鍵の押鍵に伴い、シャンクローラを介して、ハンマーを突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でハンマーから離脱するジャックと、弦とハンマーシャンクの間に進退自在に設けられ、消音演奏モード時に、ハンマーシャンクが当接することによって、ハンマーヘッドによる打弦を阻止する止音レールと、消音演奏モード時に、ハンマーシャンクフレンジを上方に移動させる駆動装置と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ハンマーシャンクは、その前端部において、ハンマーシャンクフレンジに回動自在に支持されるとともに、シャンクローラを介してレペティションレバーに載置されており、離鍵状態では、後ろ下がりに傾斜した状態になっている。
【0009】
この状態から、鍵が押鍵されると、それに伴い、ジャックが上方に回動し、シャンクローラを介してハンマーを突き上げ、回動させる。このハンマーの回動の途中で、ジャックはハンマーから離脱し、その後、ハンマーは慣性で回動する。通常演奏モード時には、止音レールが退避していて、ハンマーシャンクが止音レールに当接しないことで、ハンマーの回動が許容され、ハンマーヘッドで弦を打弦する。それにより、アコースティックな通常演奏が行われる。一方、消音演奏モード時には、弦とハンマーシャンクの間に止音レールが進入していることで、ジャックの離脱後に、ハンマーシャンクが止音レールに当接する。それにより、ハンマーが停止されることで、ハンマーヘッドによる打弦が阻止され、消音演奏が行われる。
【0010】
本発明によれば、ハンマーシャンクを支持するハンマーシャンクフレンジが上下方向に移動自在に構成されており、消音演奏モード時に、駆動装置によって、ハンマーシャンクフレンジを上方に移動させる。このようにハンマーシャンクフレンジが上方に移動すると、それと同じ移動量でハンマーシャンクの回動中心が上方に移動するのに対し、シャンクローラの位置は、後ろ下がりに傾斜した状態のレペティションレバーに沿って上方に移動する。このため、ハンマーシャンクの傾斜角度は、移動前よりも大きくなる。これにより、通常演奏モード時よりも、離鍵状態におけるハンマーシャンクの傾斜角度が大きくなり、ハンマーヘッドの高さ、すなわち、押鍵に伴って回動するハンマーヘッドの初期位置の高さが低くなるので、ジャックの離脱時におけるハンマーヘッドと弦との距離が拡大する。したがって、ジャックが離脱してからハンマーヘッドが弦を打弦するまでのハンマーシャンクのストロークが大きくなるため、止音レールによる止音を、余裕をもって確実に行うことができる。
【0011】
また、上記のようにハンマーシャンクフレンジを上方に移動させるので、ジャックとシャンクローラなどとの上下方向の位置関係はほとんど変わらず、ジャックがハンマーから離脱するタイミングは、通常演奏モード時とほぼ同じである。したがって、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵のタッチ感を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、ハンマーシャンクフレンジから下方に突出し、押鍵時、レペティションレバーが下方から当接することにより、レペティションレバーの上方への移動を阻止するためのドロップスクリューと、所定の厚さを有し、ドロップスクリューとレペティションレバーの間に進退自在に設けられたドロップスクリュースペーサと、消音演奏モード時に、ドロップスクリュースペーサをドロップスクリューの下側に移動させるスペーサ駆動装置と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、消音演奏モード時に、ハンマーシャンクフレンジが上方に移動するのに伴い、それと一緒にドロップスクリューが上方に移動するので、ドロップスクリューとレペティションレバーとの間隔が広がる。
【0014】
本発明によれば、消音演奏モード時に、スペーサ駆動装置によって、所定の厚さを有するドロップスクリュースペーサをドロップスクリューの下側に移動させる。したがって、ドロップスクリュースペーサとレペティションレバーとの間隔を、通常演奏モード時における、ドロップスクリューとレペティションレバーとの間隔と同じにすることができる。これにより、消音演奏モード時に、ドロップスクリュースペーサに当接することによってレペティションレバーの上方への移動が阻止されるタイミングを通常演奏モード時と同じタイミングに維持できるので、前述した請求項1の作用をより効果的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1および図2は、本発明の第1実施形態によるグランド型ピアノ20(以下、単に「ピアノ」という)の鍵盤装置を、それぞれ離鍵状態および押鍵状態において示している。これらの図に示すように、このピアノ20は、複数の鍵14(1つのみ図示)と、鍵14ごとに設けられ、弦Sを打弦するハンマー5と、鍵14の後部の上側に設けられたアクション7と、ハンマー5を支持するハンマーシャンクフレンジ1と、止音レール15などを備えている。
【0016】
このピアノ20は、ハンマー5による弦Sの打弦により、アコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー5による打弦を阻止し、電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに、切り替えて演奏されるように構成されている。以下、ピアノ20を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」として説明を行うものとする。
【0017】
鍵14は、その中央に形成されたバランス孔(図示省略)を介して、バランスピン(図示省略)に回動自在に支持されている。弦Sは、フレーム(図示省略)に張られており、前後方向に水平に延びている。
【0018】
ハンマー5は、前後方向に延びるハンマーシャンク5aと、ハンマーシャンク5aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド5bと、ハンマーシャンク5aの前部の下面に取り付けられたシャンクローラ5cなどで構成されている。シャンクローラ5cは、例えば、内側のクロスとその外側に巻いたスキンから円柱状に形成されており、ハンマーシャンク5aに固定されている。
【0019】
ハンマーシャンクフレンジ1は、左右方向に延びる水平なセンターピン11を介して、ハンマーシャンク5aの前端部を支持しており、それにより、ハンマー5は、センターピン11を中心として回動自在である。ハンマーシャンクフレンジ1の後端部には、下方に突出するドロップスクリュー12が設けられている。また、ハンマーシャンクフレンジ1は、後述する駆動装置30によって、上下方向に移動するように構成されている。
【0020】
これらのハンマーシャンクフレンジ1は、左右方向に並んだ状態で、シャンクレール2の上面に保持されている。シャンクレール2は、左右方向に延びており、筬(図示省略)の上に左右方向に並んだ状態で設けられた複数のブラケット6(1つのみ図示)に取り付けられている。このシャンクレール2の下面には、レギュレーティングレール4が一体に設けられている。このレギュレーティングレール4には、レギュレーティングボタン4aが下方に突出するように設けられている。
【0021】
アクション7は、ウィッペン21と、ウィッペン21に取り付けられたレペティションレバー8およびジャック10を備えている。ウィッペン21は、その後端部において、ウィッペンレール24に固定されたウィッペンフレンジ22に回動自在に支持されており、中央部において、鍵14の後部に設けられたキャプスタンスクリュー23に載置されている。
【0022】
レペティションレバー8は、前後方向に延びており、その中央部でウィッペン21に回動自在に取り付けられている。レペティションレバー8は、レペティションスプリング16によって、図1の反時計方向に付勢されており、それにより、後ろ下がりに傾斜した状態に保たれている。レペティションレバー8の前部には、上下方向に貫通するジャック案内孔9が形成されており、このジャック案内孔9の一部を塞いだ状態でシャンクローラ5cが載置されている。レペティションレバー8の上面の前端部には、レバースキン13が設けられている。レペティションレバー8は、このレバースキン13を介して、ハンマーシャンクフレンジ1に設けられたドロップスクリュー12に、上下方向に所定間隔を隔てた状態で対向している。
【0023】
ジャック10は、L字状に形成されており、上下方向に延びる突き上げ部10aと、その下端部の角部から前方に延びる当接部10bで構成されている。ジャック10は、その角部を介して、ウィッペン21に回動自在に取り付けられている。ジャック10の突き上げ部10aの上端部は、レペティションレバー8のジャック案内孔9に挿入され、シャンクローラ5cとわずかな間隔を隔てた状態で対向している。また、ジャック10の当接部10bは、レギュレーティングボタン4aと所定間隔を隔てて下方から対向している。
【0024】
止音レール15は、弦Sとハンマーシャンク5aの間に配置され、左右方向に延びており、回動自在に設けられている。止音レール15には、ストッパ15aが設けられ、ストッパ15aには、弾性を有するクッション15bが設けられている。また、止音レール15は、演奏モードを切り替えるために棚板の下面に設けられた操作レバー(いずれも図示省略)に、ワイヤ(図示せず)などを介して連結されている。そして、止音レール15は、この操作レバーの操作に応じて、ストッパ15aがハンマーシャンク5aの回動範囲に進入する進入位置(図1および図2の実線位置)と、ハンマーシャンク5aの回動範囲から退避する退避位置(2点鎖線位置)に回動する。
【0025】
ハンマーシャンクフレンジ1を移動させる駆動装置30は、図3に示すように、シャンクレール2と、シャンクレール2とその上側のハンマーシャンクフレンジ1との間に配置されたフレンジ突き上げカム17と、ハンマーシャンクフレンジ1の上側に設けられたフレンジ押えカム18と、シャンクレール2に設けられたガイドロッド3などで構成されている。
【0026】
前述したように、シャンクレール2は、ブラケット6に取り付けられ、左右方向に延びており、その上面には、ピアノ20のすべてのハンマーシャンクフレンジ1(1つのみ図示)が、左右方向に並んだ状態で保持されている。
【0027】
各ハンマーシャンクフレンジ1の中央には、上下方向に貫通するガイド孔3aが形成されている。ガイドロッド3は、ガイド孔3aに通されるとともに、シャンクレール2にねじ込まれている。それにより、ハンマーシャンクフレンジ1は、ガイドロッド3に沿って上下方向にスライド自在である。
【0028】
フレンジ突き上げカム17は、ハンマーシャンクフレンジ1ごとに、ガイドロッド3の前後に1つずつ設けられている。各フレンジ突き上げカム17は、楕円形状を有しており、左右方向に延びる軸27に偏心した状態で固定されている。これらの軸27、27は、前述した操作レバーにワイヤなどを介して連結されている。また、前後のフレンジ突き上げカム17、17は、ハンマーシャンクフレンジ1の下面に形成された凹部1a、1aと、シャンクレール2の上面に形成された凹部2a、2aとで形成される空間に収容されている。
【0029】
フレンジ押えカム18もまた、ハンマーシャンクフレンジ1ごとに、ガイドロッド3の前後に1つずつ設けられている。各フレンジ押えカム18は、楕円形状を有しており、左右方向に延びる軸28に固定されている。これらの軸28、28は、上述した操作レバーにワイヤなどを介して連結されている。
【0030】
以上の構成により、フレンジ突き上げカム17およびフレンジ押えカム18は、操作レバーの操作に応じて軸27、28が回動することにより、互いに同期して回動する。具体的には、操作レバーが操作されていないときには、図3(a)に示すように、フレンジ突き上げカム17が前後方向に長い横向きの状態になるとともに、フレンジ押えカム18が上下方向に長い縦向きの状態になり、それにより、ハンマーシャンクフレンジ1は、下側の通常演奏位置に位置する。また、フレンジ突き上げカム17が凹部1a、2aに収容されているので、この状態では、ハンマーシャンクフレンジ1は、凹部1a、2a以外の部分でシャンクレール2に接した状態で、安定して支持される。
【0031】
一方、この状態から操作レバーが操作されると、軸27、28が回動することにより、図3(b)に示すように、フレンジ突き上げカム17が縦向きの状態になるとともに、フレンジ押えカム18が横向きの状態になる。これにより、ハンマーシャンクフレンジ1は、フレンジ突き上げカム17で突き上げられることによって、ガイドロッド3に沿って上方にスライドし、上方の消音演奏位置に移動する。
【0032】
また、図3に示すように、ハンマーシャンクフレンジ1の下側には、ドロップスクリュースペーサ19が設けられている。このドロップスクリュースペーサ19は、ハンマーシャンクフレンジ1が上述したように上方に移動するのに伴い、ドロップスクリュー12もまた上方に移動するのに応じて、レペティションレバー8との間隔が大きくなるので、これを補償するためのものである。このドロップスクリュースペーサ19は、板状のもので、左右方向に延びており、その厚さは、ハンマーシャンクフレンジ1の上方への移動距離とほぼ同じに設定されている。
【0033】
図4に示すように、ドロップスクリュースペーサ19は、ブラケット6にスライド自在に載置されている。ドロップスクリュースペーサ19の上面には、複数の歯を前後に配列したラック26が形成されており、このラック26にピニオン25が噛み合っている。このピニオン25の軸25aは、前述した操作レバーにワイヤなどを介して連結されている。以上の構成により、ドロップスクリュースペーサ19は、操作レバーが操作されていないときに、その後端部がドロップスクリュー12の下側から前方に退避する退避位置(2点鎖線位置)に位置し、操作レバーが操作されるのに応じて、ピニオン25が図4の時計方向に所定角度回転することで、ドロップスクリュー12の下側に進入する進入位置(実線位置)に移動する。本実施形態では、ピニオン25およびラック26などによってスペーサ駆動装置31が構成されている。
【0034】
次に、上述した構成のピアノ20の動作を説明する。通常演奏モードでは、図1に2点鎖線で示すように、止音レール15は退避位置に位置し、ハンマーシャンクフレンジ1は下方の通常演奏位置に位置するとともに、ドロップスクリュースペーサ19は、退避位置に位置している。図1に示す離鍵状態では、ハンマーシャンク5aは、シャンクローラ5cを介してレペティションレバー8に載置されており、後ろ下がりに傾斜している。
【0035】
この離鍵状態から、鍵14が押鍵されると、ウイッペン21が上方に回動するとともに、これに取り付けられたレペティションレバー8やジャック10がウイッペン21と一緒に上方に移動する。その後、レペティションレバー8がレバースキン13を介してドロップスクリュー12に当接し、上方への移動が規制されることによって、ジャック10の突き上げ部10aが、シャンクローラ5cを介してハンマー5を突き上げる。その後、ジャック10の当接部10bが、レギュレーティングボタン4aに当接し、ジャック10の上方への移動が規制されることによって、ジャック10が、ウイッペン21に対して時計方向に回動し、シャンクローラ5cから離脱する。
【0036】
このときのハンマーヘッド5bの位置は、図2に2点鎖線で示され、弦Sとの距離はL1で示される。その後、ハンマー5は慣性で回動する。また、止音レール15は退避位置に位置しているので、ハンマーシャンク5aは止音レール15に当接しない。それにより、ハンマー5の回動が許容され、ハンマーヘッド5bで弦Sを打弦することによって、アコースティックな通常演奏が行われる。
【0037】
一方、消音演奏モードで演奏を行う場合には、操作レバーを操作することによって、止音レール15を進入位置に移動させ、ハンマーシャンクフレンジ1を上方の消音演奏位置に移動させるとともに、ドロップスクリュースペーサ19を進入位置に移動させる。このように、ハンマーシャンクフレンジ1が上方に移動すると、それと同じ移動量で、ハンマーシャンク5aの回動中心が上方に移動する。これに伴い、シャンクローラ5cは、後ろ下がりに傾斜したレペティションレバー8に沿って上方かつ前方に斜めに移動する。それにより、ハンマーシャンク5aの傾斜角度は、移動前よりも大きくなる。その結果、ハンマーシャンク5aの後端部に設けられたハンマーヘッド5bの位置が低くなる。
【0038】
この状態で、鍵14が押鍵されると、アクション7が通常演奏モードと同様に動作し、ジャック10が、シャンクローラ5cを介してハンマー5を突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中でシャンクローラ5cから離脱する。このときのハンマーヘッド5bの位置は、図2に実線で示されており、離鍵状態におけるハンマーヘッド5bの位置が低くなっていることで、ハンマーヘッド5bと弦Sとの距離L2は、通常演奏モード時の距離L1よりも大きくなる。その後、回動するハンマー5のハンマーシャンク5aが進入位置に位置する止音レール15に当接することで、ハンマー5の回動が阻止され、ハンマーヘッド5bによる弦Sの打弦が阻止され、消音演奏が行われる。
【0039】
以上のように、ジャック10の離脱時におけるハンマーヘッド5bと弦Sとの間の距離L2が、通常演奏モード時の距離L1よりも拡大されるため、ジャック10が離脱してからハンマーヘッド5bが弦Sを打弦するまでのハンマーシャンク5aのストロークが大きくなることによって、止音レール15による止音を、余裕をもって確実に行うことができる。
【0040】
また、ドロップスクリュースペーサ19が進入位置に位置しているので、ドロップスクリュースペーサ19とレペティションレバー8との間隔は、通常演奏モード時における、ドロップスクリュー12とレペティションレバー8との間隔と同じである。したがって、消音演奏モード時に、ドロップスクリュースペーサ19に当接することによってレペティションレバー8の上方への移動が阻止されるタイミングを、通常演奏モード時と同じタイミングに維持できる。
【0041】
また、レギュレーティングボタン4aとジャック10の当接部10bや、ジャック10とシャンクローラ5cのそれぞれの上下方向の位置関係はほとんど変わらないので、ジャック10がハンマー5から離脱するタイミングは、通常演奏モード時とほぼ同じである。以上により、通常演奏モード時とほとんど変わらない鍵14のタッチ感を得ることができる。
【0042】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施できる。実施形態では、ハンマーシャンクフレンジ1の駆動装置30をフレンジ突き上げカム17、フレンジ押えカム18およびガイドロッド3などで構成しているが、この駆動装置として、適当な他の任意の構成を採用することができる。例えば、フレンジ突き上げカム17の軸27およびフレンジ押えカム18の軸28そのものを楕円形状のカムとして構成してもよい。それにより、ハンマーシャンクフレンジ1ごとにカムを設ける必要がなくなり、駆動装置の構成を簡略化することができる。また、ハンマーシャンクフレンジ1およびシャンクレール2に形成した凹部1a、2aにカムを収容しているが、これらの凹部1a、2aを省略することもできる。さらに、シャンクレール2を上方に移動させることにより、これに保持されたすべてのハンマーシャンクフレンジ1を一度に移動させてもよい。それにより、ハンマーシャンクフレンジ1の移動をばらつきなく行えるとともに、駆動装置の簡略化を図ることができる。
【0043】
また、実施形態では、止音レール15、フレンジ突き上げカム17の軸27、フレンジ押えカム18の軸28およびピニオン25が、操作レバーに機械的に連結されているが、これらを操作レバーの操作に応じて作動するモータなどで電気的に駆動することも、本発明の範囲内である。その他、本発明の趣旨の範囲内において、細部の構成を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のグランド型ピアノの鍵盤装置を離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】図1の鍵盤装置を押鍵状態において示す側断面図である。
【図3】(a)は、通常演奏モード時における図1の鍵盤装置の部分拡大側断面図、(b)は、消音演奏モード時における同様の部分拡大側断面図である。
【図4】スペーサ駆動装置の部分拡大側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ハンマーシャンクフレンジ
5 ハンマー
5a ハンマーシャンク
5b ハンマーヘッド
5c シャンクローラ
8 レペティションレバー
10 ジャック
12 ドロップスクリュー
14 鍵
15 止音レール
19 ドロップスクリュースペーサ
20 ピアノ
30 駆動装置
31 スペーサ駆動装置
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に張られた弦の打弦を許容する通常演奏モードと、前記弦の打弦を阻止する消音演奏モードに切り替えて演奏されるグランド型ピアノであって、
上下方向に移動自在のハンマーシャンクフレンジと、
前後方向に延びるハンマーシャンクの後端部にハンマーヘッドを有し、前部の下面にシャンクローラを有するとともに、前記ハンマーシャンクの前端部において前記ハンマーシャンクフレンジに回動自在に支持されたハンマーと、
後ろ下がりに傾斜した状態で前後方向に延び、前記シャンクローラを介して前記ハンマーシャンクを載置するレペティションレバーと、
鍵の押鍵に伴い、前記シャンクローラを介して、前記ハンマーを突き上げ、回動させるとともに、その回動の途中で前記ハンマーから離脱するジャックと、
前記弦と前記ハンマーシャンクの間に進退自在に設けられ、前記消音演奏モード時に、前記ハンマーシャンクが当接することによって、前記ハンマーヘッドによる打弦を阻止する止音レールと、
前記消音演奏モード時に、前記ハンマーシャンクフレンジを上方に移動させる駆動装置と、
を備えていることを特徴とするグランド型ピアノ。
【請求項2】
前記ハンマーシャンクフレンジから下方に突出し、押鍵時、前記レペティションレバーが下方から当接することにより、当該レペティションレバーの上方への移動を阻止するためのドロップスクリューと、
所定の厚さを有し、前記ドロップスクリューと前記レペティションレバーの間に進退自在に設けられたドロップスクリュースペーサと、
前記消音演奏モード時に、前記ドロップスクリュースペーサを前記ドロップスクリューの下側に移動させるスペーサ駆動装置と、をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のグランド型ピアノ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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