説明

グリオキシル酸水溶液の製造方法

本発明は、グリオキサールの水溶液を、触媒量の硝酸及び/又は窒素酸化物、グリオキサールを酸化しない強酸の少なくとも一種の存在下に、式Ka/Q>10(式中、Kaは、総括物質移動容量係数(h−1)であり、そしてQは、1モルのグリオキサール当たりの反応によって放出される熱負荷である。)を満たす条件を維持することによって、酸素又は酸素含有ガスで酸化することによってグリオキシル酸水溶液を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリオキシル酸水溶液を得るための産業的な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリオキサールの水溶液を酸化してグリオキシル酸の水溶液にするのに酸素を使用することは周知である。
【0003】
フランス国特許出願公開第2372141A号(特許文献1)に記載されている方法は、4〜10重量%の硝酸の存在下に反応液中で行われるものである。酸化反応は発熱反応であるため、冷却システムが故障している場合、この酸の量によって安全性の問題が生じることがある。さらに、該方法により、残留硝酸を含むグリオキシル酸の水溶液が生成し、その残留硝酸は電気透析のような手間のかかる及び/又は費用のかかる後続の処理によって除去しなければならない。
【0004】
欧州特許出願公開第349406A号(特許文献2)及び中国特許出願公開第1634847A号(特許文献3)は、塩酸のような無機強酸の存在下における、酸化触媒としての一酸化窒素(NO)又は亜硝酸ナトリウム(NaNO)の使用を教示している。しかしながら、これらの方法は、硝酸の消費に起因する多量のNOを生じさせ、これは大気中に放出されるか、あるいは有害な方法によって処理しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】フランス国特許出願公開第2372141A号
【特許文献2】欧州特許出願公開第349406A号
【特許文献3】中国特許出願公開第1634847A号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemical Engineering and Processing, 33, (1994), 247−260
【0007】
本発明は前述の欠点を排除して、次をもたらすのに役立つ。
【0008】
− グリオキシル酸の高い収量を得ること、
− グリオキサールの高い転化(率)を得ること、
− 硝酸及び/又は窒素酸化物類の消費量を低減させること、
− 環境に有害なNOガスの形成を低減させること、
− 副生成物としてのシュウ酸の形成を最小限に抑えること、及び
− 最終グリオキシル酸溶液中で残留硝酸の高い濃度を排除すること。
【0009】
それ故、本発明は、グリオキサールの水溶液を酸素又は酸素含有ガスで酸化することによってグリオキシル酸の水溶液を製造する方法に関し、該方法において、上記の酸化が、
− グリオキサール1モル当たり0.005〜0.1モルという触媒量の硝酸及び/又は少なくとも一種の窒素酸化物の存在下で、
− グリオキサールを酸化しない強酸の存在下で、そして
− 式Ka/Q>10(式中、Kaは、総括物質移動容量係数(total volumetric mass transfer coefficient)(h−1)であり、そしてQは、反応によって放出される熱負荷(ワット/グリオキサール1モル)である。)を満たす条件を維持することによって、
行われることを特徴とする。
【0010】
上記の本発明による方法及び以下の詳細な説明において、モル数で表されるグリオキサールの量は、酸化反応の開始時における水溶液中で使用されるグリオキサールの量である。
【0011】
本発明において、酸化触媒は、硝酸及び/又は窒素酸化物類から選択することができる。グリオキサール1モル当たり約0.005〜0.1モルの触媒が一般にしようされ、好ましくは、約0.01〜0.07モルの触媒、そして特に約0.01〜0.06モルの触媒が使用される。
【0012】
窒素酸化物類は、次の気体から選択することができる:一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、四酸化二窒素(N)、三酸化二窒素、(N)、又はそれらの混合物。
【0013】
窒素酸化物類としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀、硝酸銅のような硝酸又は亜硝酸の金属塩、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0014】
本発明の実施の好ましい局面によれば、硝酸が酸化触媒として用いられる。硝酸の等級及び濃度は、従来の硝酸による酸化方法において用いられている等級及び濃度と同様であってよい。例として、濃度20〜68重量%の硝酸水溶液が挙げられる。
【0015】
本発明の方法は、グリオキサールを酸化しない強酸の存在下で実施される。グリオキサール1モル当たり0.05〜1モルの量の強酸、そして特にグリオキサール1モル当たり0.2〜0.7モルの量の強酸を使用するのが好ましい。
【0016】
本発明に関して、“強酸”とは1未満のpKaを有する酸を意味する。グリオキサールを酸化しない強酸の中では、例として、塩酸、臭化水素酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸のようなスルホン酸、又はそれらの混合物が挙げられ、より好ましくは塩酸である。
【0017】
グリオキサールを酸化しない強酸のその他の例としては、Amberlyst(登録商標)15樹脂及びDowex(登録商標)50WX樹脂のような様々の商品名で販売されている、スルホンタイプのイオン交換樹脂類が挙げられる。上述の樹脂類は、スルホン基を有するポリスチレン骨格を含む。
【0018】
Nafion(登録商標)樹脂のようなスルホン基を有する過フッ素樹脂のようなその他の種類の商業的な樹脂が適しているであろう。
【0019】
有利もは、強酸は水溶液中で使用され、そして好ましくは、濃度10〜37重量%の塩酸水溶液である。
【0020】
本発明の別の方法によれば、グリオキサールを酸化しない強酸を生じさせる化合物を使用することができる。
【0021】
本発明に関連して、“グリオキサールを酸化しない強酸を生じる化合物”とは、水と反応して前記で定義したような強酸を生じることが可能な化合物のいずれかを意味する。その例としては、塩化チオニル(SOCl)、及びAlClのようなルイス酸を挙げることができる。
【0022】
反応系の気体と液体との間での移動が増大することは、本発明の重要な特徴である。なぜならば、それは保存の間に硝酸及び/又は窒素酸化物の投入を低減するように作用し、そして一方ではグリオキシル酸の良好な収量を提供し、他方ではグリオキサールの高い転化率を提供するからである。
【0023】
本発明によれば、反応Q(ワット/グリオキサール1モル)によって放出される熱負荷に対する総括物質移動容量係数Ka(h−1)の比は、Ka/Qが10より大きくなるようでなければならない。
【0024】
総括物質移動容量係数の値は、文献、Chemical Engineering and Processing, 33, (1994), 247−260(非特許文献1)の論文に記載されているように、空気による亜硫酸ナトリウムの酸化の方法によって測定することができる。
【0025】
満たされるべき式Ka/Q>10に関して、一方では、総括物質移動容量係数を調整することが重要であり、他方では、反応媒体の液相の温度及び酸素又は酸素含有ガスの流入量を調整することが重要である。
【0026】
第一の条件は、一般に気相と液相との間の高い交換面積を得、それによって高いKa値を得るように設計された反応装置を選択することによって、満たされる。
【0027】
好ましくは、係数Kaが100h−1〜1000h−1となるような条件の下で反応が遂行される。
【0028】
本発明の方法を実施するため、例えば、内部又は外部に配置された吸引ジェット混合ノズル(suction jet mixing nozzle)を備えた反応器を含む装置を使用することができる。
【0029】
好ましい実施形態によれば、閉回路反応器は、内蔵吸引ジェット混合ノズル、エジェクターとポンプに接続された外部液相流ダクトと共に使用される。
【0030】
例えば、気液混合反応器又はパッキングを備えた気泡塔を含む装置もまた使用することができる。
【0031】
aの値は、反応器のそれぞれの種類に応じた適切な技術的手段を用いて調整される。本発明の方法は、吸引ジェット混合ノズルを備えた反応器(ジェットリアクター)において有利に遂行される。
【0032】
酸化反応によって放出される熱負荷Qは次の式によって決定することができる。
Q=D×Cpwater×Δt/nG
(式中、
Dは、反応器を冷却するための水の流量であり、
Cpは、水の熱容量であり、そして、
Δtは、冷却水の入口温度と出口温度との差であり、
nGは、グリオキサールのモル数である。)
【0033】
好ましくは、Qの値がグリオキサール1モル当たり5〜150ワットであるような条件下で反応は行われる。
【0034】
Qの値は、酸化速度に影響を与える液相温度及びその結果、酸化反応によって放出される熱、又は酸素又は酸素含有ガスの流入量のような様々なパラメーターを変化させることによって調整することができる。
【0035】
本発明の別の形態によれば、総括物質移動容量係数Ka(h−1)と、反応Q(ワット/グリオキサール1モル)によって放出される熱負荷との比は、10<Ka/Q≦100であるようでなければならない。
【0036】
本発明の方法は、一般に、硝酸の水溶液を導入しながら塩酸の水溶液をグリオキサールの水溶液に添加すること、及び任意に亜硝酸ナトリウムをその反応媒体に添加すること、そして最後に酸素又は空気のような酸素含有ガスを、200〜約3000kPaの圧力下で導入することによって実施される。
【0037】
好ましくは酸素が使用される。この場合、酸素の消費量はグリオキサール1モル当たり0.5〜約1モルである。
【0038】
グリオキサールの水溶液としては、市場で入手可能な、通常5〜50重量%のグリオキサールを含有するグリオキサールの水溶液を使用することができる。
【0039】
反応は、普通、周囲温度〜約85℃、有利には35〜約75℃の温度で起こる。必要に応じて、熱負荷Qを一定に保つために温度を調整することができる。
【0040】
反応は、一般に1〜20時間継続される。
【0041】
得られた反応混合物は、様々な用途においてグリオキシル酸の水溶液として使用することができる。あるいはまた、結晶化によって反応混合物からシュウ酸を分離して、グリオキシル酸の水溶液を得ることができる。有利には、反応混合物は、それ自体が周知である蒸留、イオン交換樹脂又は電気透析による処理によってさらに精製することができる。
【実施例】
【0042】
本発明は、以下の実施例によって非制限的な方法で示される。
【0043】
実施例1
a) 反応器の総括物質移動容量係数(Ka)の測定
二重ジャケット、ポンプ及びエジェクターを含む液相のための外部ループ、及びエジェクターに接続された気相のための外部ループを備えた、予め窒素でパージされた20Lのエナメル鋼製の気液反応器中に、亜硫酸ナトリウム(NaSO)0.8モル/L及び硫酸コバルト(CoSO)1.10−6モル/Lを含有する水溶液10Lを投入する。外部循環は500L/時で開始し、そして反応器を、酸素で200kPa(2バール)に加圧する。圧力は酸素の流量を調整することによって200kPaに一定に保たれる。反応器の総括物質移動容量係数を計算するために亜硫酸ナトリウムの消費量を測定する。
【0044】
この方法によって測定される反応器の総括物質移動容量係数は932h−1である。
【0045】
b) グリオキシル酸水溶液の調製
同じ反応器中に、グリオキサールを40重量%含有する水溶液7250g、塩酸を37重量%含有する水溶液3400g、及び水2611gを投入する。二重ジャケットによってこの混合物を45℃に加熱する。その後、68重量%硝酸を含有する水溶液140gを加える。10分後、水150g中にNaNO6gを含む溶液を導入し、そして反応器を酸素で400kPa(4バール)に加圧する。温度を43±5℃に一定に維持することによって、二重ジャケット中で交換された冷却負荷は1500W(Q=30ワット/グリオキサール1モル)となり、そして、必要に応じ酸素を添加することによって、圧力を400kPa超で一定に維持する。約2時間かけて400NL(NormoLitre)の酸素を添加した後、約1時間で60℃に達するように反応媒体を加熱する。628NLに達したとき酸素の添加を停止する。
【0046】
反応が完了したとき(NaNOの導入後約4時間)、14.24kgの反応混合物が得られる。
【0047】
この反応混合物は、20.3%のグリオキシル酸を含んで、78%の収率を示し、そして、0.5%のグリオキサールは97.5%の転化率を示す。
【0048】
消費された硝酸の量は、グリオキサール1モル当たり0.01モル未満である(ガスクロマトグラフィーによる、反応の終了時における気相の分析)。
【0049】
比較例1
KLa/Qが10未満である条件で反応を遂行すること以外、実施例1で説明した手順を繰り返す。
a) 反応器の総括物質移動容量係数(Ka)の測定
二重ジャケット、ポンプ及びエジェクターを含む液相のための外部ループ、及びエジェクターに接続された気相のための外部ループを備えた、予め窒素でパージされた20Lのエナメル鋼製の気液反応器中に、亜硫酸ナトリウム(NaSO)0.8モル/L及び硫酸コバルト(CoSO)1.10−6モル/Lを含有する水溶液10Lを投入する。外部循環は、500L/時で開始し、そしてその反応器を、酸素で2バールに加圧する。圧力は酸素の流量を調整することによって200kPa(2バール)に一定に維持する。反応器の総括物質移動容量係数を計算するために亜硫酸ナトリウムの消費量を測定する。
【0050】
この方法によって測定される反応器の総括物質移動容量係数は196h−1である。
【0051】
b) グリオキシル酸水溶液の調製
同じ反応器中に、グリオキサールを40重量%含有する水溶液7250g、塩酸を37重量%含有する水溶液3400g、及び水2611gを投入する。二重ジャケットによってこの混合物を45℃に加熱する。その後、68重量%硝酸を含有する水溶液140gを加える。10分後、水150g中にNaNO6gを含む溶液を導入し、そして交換された熱負荷が1500W(Q=30ワット/グリオキサール1モル)であるように反応器に約200NL/時の速度で酸素を供給する。同時に、硝酸68重量%を含有する水溶液232gを、2g/分の速度で加える(さもなければ反応は停止する)。温度を43±2℃に一定に維持する。約2時間かけて400NL(NormoLitre)の酸素を添加した後、1時間で60℃に達するように温度ランプを適用する。601NLに達したとき酸素の添加を停止する。反応の間、約800kPa(8バール)ゲージの圧力に達するまで圧力を徐々に上昇させる。
【0052】
反応が完了したとき、14.37kgの反応混合物が得られる。
【0053】
この反応混合物は、18.8%のグリオキシル酸を含み、73%の収率を示し、そして、0.47%のグリオキサールは97.6%の転化率を示す。
【0054】
結果は、比Ka/Qが10より低い場合、良好なグリオキシル酸の収率及び良好な転化率を得るためには、より多量の硝酸を用いる必要があることを示している。事実、硝酸は反応の間に消費されて、その結果、環境に対して望ましくない副生成物が形成され、かつ最終的なグリオキシル酸溶液中で残留硝酸の濃度は高くなる。
【0055】
実施例2
実施例1に記載した反応器をKa、932h−1、及び外部ループ中の流量500L/時で使用する。この反応器中に、グリオキサールを40重量%含有する水溶液7250g、塩酸を37重量%含有する水溶液3400g、及び水2610gを投入する。この混合物を二重ジャケットによって47℃に加熱する。その後、68重量%硝酸を含有する水溶液140gを加える。10分後、水150g中のNaNO6gの溶液を導入し、そして反応器を酸素で400kPa(4バール)に加圧する。温度を48±1℃に一定に維持することによって、二重ジャケット中で交換された冷却負荷は2250W(Q=30ワット/グリオキサール1モル)となる。必要に応じ酸素を322NL/時(1時間毎のNomoLitre)添加することによって、圧力は400kPa超で一定に維持される。約36分かけて215NL(NormoLitre)の酸素を添加した後、二重ジャケット中で交換された熱負荷を一定に保つために約1時間で55℃に達するように反応媒体を加熱する。添加された酸素の量が525NL(NormoLitre)に達すると、約20分で65℃に達するように温度を高める。628NLに達したとき酸素の添加を停止する。
【0056】
反応が完了したとき(NaNOの導入から約2時間)、14.26kgの反応混合物が得られる。
【0057】
この反応混合物は、19.9%のグリオキシル酸を含み、77%の収率を示し、そして、0.5%未満のグリオキサールは97.5%の転化率を示す。
【0058】
消費された硝酸の量は、グリオキサール1モル当たり0.01モル未満である(ガスクロマトグラフィーによる、反応の終了時における気相の分析)。
【0059】
実施例3
実施例1に記載した反応器をKa、932h−1、及び外部ループ中の流量500L/時で使用する。同じ反応器中に、グリオキサールを40重量%含有する水溶液7250g、塩酸を37重量%含有する水溶液3400g、及び水2610gを投入する。混合物を二重ジャケットによって33℃に加熱する。その後、68重量%硝酸を含有する水溶液140gを加える。10分後、水150g中にNaNO6gを含む溶液を導入し、そして反応器を酸素で400kPa(4バール)に加圧する。温度を34±1℃に一定に維持することによって、二重ジャケット中で交換された冷却負荷は95W(Q=1.86ワット/グリオキサール1モル)となる。必要に応じ酸素を13NL/時(1時間毎のNomoLitre)添加することによって、圧力は400kPa超で一定に維持される。約18時間かけて250NL(NormoLitre)の酸素を添加した後、二重ジャケット中で交換された熱負荷を一定に保つために約18時間で39℃に達するように反応媒体を加熱する。添加された酸素の量が500NL(NormoLitre)に達すると、約10分で48℃に達するように温度を高める。628NLに達したとき酸素の添加を停止する。
【0060】
反応が完了したとき(NaNOの導入から約46分)、14.25kgの反応混合物が得られる。
【0061】
この反応混合物は、20.3%のグリオキシル酸を含み、78%の収率を示し、そして、0.5%未満のグリオキサールは97.5%の転化率を示す。
【0062】
消費された硝酸の量は、グリオキサール1モル当たり0.01モル未満である(ガスクロマトグラフィーによる、反応の終了時における気相の分析)。
【0063】
実施例4
a) 反応器の総括物質移動容量係数(Ka)の測定
二重ジャケット、ポンプ及びエジェクターを含む液相のための外部ループ、及びエジェクターに接続された気相のための外部ループを備えた、予めパージされた20Lのエナメル鋼製の気液反応器中に、亜硫酸ナトリウム(NaSO)0.8モル/L及び硫酸コバルト(CoSO)1.10−6モル/Lを含有する水溶液10Lを投入する。外部循環は、400L/時で開始され、そしてその反応器を酸素で200kPa(2バール)に加圧する。その圧力は酸素の流量を調整することによって200kPaに一定に維持される。反応器の総括物質移動容量係数を計算するために亜硫酸ナトリウムの消費量を測定する。
【0064】
この方法によって測定される反応器の総括物質移動容量係数は563h−1である。
【0065】
b) グリオキシル酸の水溶液の調製
同じ反応器中に、グリオキサールを40重量%含有する水溶液7250g、塩酸を37重量%含有する水溶液3400g、及び水2610gを投入する。二重ジャケットによって混合物を38℃に加熱する。その後、68重量%硝酸を含有する水溶液140gを加える。10分後、水150g中にNaNO6gを含む溶液を導入し、そして反応器を酸素で400kPa(4バール)に加圧する。温度を38±1℃に一定に維持することによって、二重ジャケット中で交換された冷却負荷は280W(Q=5.6ワット/グリオキサール1モル)となり、そして、必要に応じて酸素を添加することによって、圧力は400kPa超に一定に維持される。約3時間かけて400NL(NormoLitre)の酸素を添加した後、二重ジャケット中で交換された熱負荷を一定に保つために約9時間で44℃に到達するように反応媒体を加熱する。添加された酸素の量が500NL(NormoLitre)に達したとき、約3時間で53℃に達するように温度を高める。628NLに達したとき酸素の添加を停止する。
【0066】
反応が完了したとき(NaNOの導入から15時間)、14.26kgの反応混合物が得られる。
【0067】
この反応混合物は、20.2%のグリオキシル酸を含み、78%の収率を示し、そして、0.5%未満のグリオキサールは97.5%の転化率を示す。
【0068】
消費された硝酸の量は、グリオキサール1モル当たり0.01モル未満である(ガスクロマトグラフィーによる、反応の終了時における気相の分析)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリオキサールの水溶液を酸素又は酸素含有ガスで酸化することによってグリオキシル酸の水溶液を製造する方法であって、前記の酸化が、
− グリオキサール1モル当たり0.005〜0.1モルという触媒量の硝酸及び/又は少なくとも一種の窒素酸化物の存在下に、
− グリオキサールを酸化しない強酸の存在下に、そして
− 式Ka/Q>10(式中、Kaは、総括物質移動容量係数(h−1)であり、そしてQは、反応によって放出される熱負荷(ワット/グリオキサール1モル)である。)を満たす条件を維持することにより行われることを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
グリオキサール1モル当たり約0.01〜0.07モルという触媒量の硝酸及び/又は窒素酸化物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリオキサール1モル当たり約0.01〜0.06モルという触媒量の硝酸及び/又は窒素酸化物が使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒素酸化物が、次の気体:一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、四酸化二窒素(N)、三酸化二窒素、(N)又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素酸化物が、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀、硝酸銅のような硝酸又は亜硝酸の金属塩、又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
グリオキサールを酸化しない強酸がグリオキサール1モル当たり0.05〜1モルの量で使用されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
グリオキサールを酸化しない強酸がグリオキサール1モル当たり0.2〜0.7モルの量ので使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
グリオキサールを酸化しない強酸が、塩酸、臭化水素酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
グリオキサールを酸化しない強酸が塩酸であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
グリオキサールを酸化しない強酸として、そのような強酸を発生させる化合物が使用されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
aが100h−1〜1000h−1であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、内部又は外部に配置された吸引ジェット混合ノズルを備えた反応器を含む装置を用いて実施されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、内蔵吸引ジェット混合ノズル、及びエジェクターとポンプに接続された外部液相流ダクトを備える閉回路の反応器を含む装置を用いて実施されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、撹拌式気液反応器又はパッキングを含む気泡塔を含む装置を用いて実施されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記Qが5〜150ワット/グリオキサール1モルであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記総括物質移動容量係数Ka(h−1)と、反応Q(ワット/グリオキサール1モル)によって放出される熱負荷との比が、10<Ka/Q≦100のであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記酸素又は酸素含有ガスが、200〜約3000kPaの圧力下で導入されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
酸素が使用されることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
酸素消費量が、グリオキサール1モル当たり0.5〜約1モルであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、周囲温度〜約85℃の温度で遂行されることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、35℃〜約75℃の温度で遂行されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記反応器が1時間〜20時間遂行されることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−510041(P2011−510041A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543486(P2010−543486)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050661
【国際公開番号】WO2009/092734
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509281726)クラリアント・スペシャルティ・ファイン・ケミカルズ(フランス) (3)
【Fターム(参考)】