説明

グリケーション抑制能を有する植物抽出物及びその製造方法

【課題】日常的な食習慣のある材料に由来する物質であって、長期間安全に摂取でき、生体内でアルドースレダクターゼ阻害、ジカルボニル化合物生成阻害を示し、AGEの生成を阻害しうる、かつ体内への吸収性に優れたグリケーション阻害剤及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明者らは、そのようなグリケーション阻害剤を含む、糖尿病及びその合併症を予防又は改善しうる飲食品又はその素材、医薬品又はその素材等を提供する。
【解決手段】A)ヤマブドウ(Vitis coignetiae)植物の果皮、種子、及び果実の搾りかす、B)カリン(Pseudocydonia sinensis)植物の果実、果皮、種子、及び果実の搾りかす、及びC)前記いずれかの加工物から選択される1種以上の材料を、70℃以上の温度で水又は水性液体で抽出することを特徴とする、グリケーション抑制能を有する植物抽出物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリケーション後期段階生成物(アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツともいう;以下「AGE」ということがある)の生成阻害能力を有する、ヤマブドウ(Vitis coignetiae)の果実を搾汁して残る搾りかすなどの植物材料の抽出物及びその製造方法、及びこの抽出物を含有又は使用する組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、特に腎障害や白内障などの合併症が社会生活をおくる上で大きな問題となる生活習慣病である。糖尿病の患者数の増大により、その治療にかかる費用は1兆円を超すと云われており、糖尿病合併症を抑制できれば、患者の健康な社会生活の維持だけではなく、医療費の削減などの社会的経済的効果も大きい。
【0003】
糖尿病合併症は、いずれも、高血糖に伴う腎臓、水晶体、神経タンパク質の非酵素的糖化反応(グリケーション)が原因であることが示されている(非特許文献1)。
【0004】
グリケーションは、アミノカルボニル反応として古くから知られていた褐変反応であり、前記段階と後期段階との二段階からなる。前記段階においては、タンパク質のアミノ基と還元糖のアルデヒド基やケトン基とが非酵素的に反応し、シッフ塩基を経てアマドリ転移生成物が生成される。この反応は可逆的である。後期段階においては、活性酸素の発生を含む複雑な反応を経て、AGEが生成される。この反応は不可逆的である。
【0005】
これらの反応は生体内でも起こっており、加齢によって生体内にAGEが蓄積され、様々な組織障害を引き起こすことが示唆されている。さらに、生体内では、高血糖状態で活性化されたポリオール経路などで、AGEの前駆物質となるジカルボニル化合物が産生されることも知られている(非特許文献2)。
【0006】
グリケーションを阻害する薬剤としては、アミノグアニジンが知られている。アミノグアニジンは、糖尿病合併症に有効であることが実験動物により証明されている(非特許文献1)が、同時に、強い副作用を有することもわかっている。また、ポリオール経路の律速酵素であるアルドースレダクターゼを阻害する薬剤も開発されている(非特許文献2)が、このような薬剤のAGE生成阻害又は蓄積阻害に関する有効性についてはよくわかっていない。
【0007】
より副作用が少なく、グリケーションを阻害し、糖尿病又はその合併症を予防しうる物質は、広く自然界に存在する植物素材から見出されている(特許文献1〜4)。たとえば、ソバなどに含まれ、日常的に食習慣のあるフラボノイドの1つであるルチンを、糖尿病モデルラットに経口投与することにより、AGE生成の前期段階や複雑な後期段階が阻害されることも示唆されている(非特許文献3)。
【0008】
最近、ヤマブドウ抽出物にも抗グリケーション活性があり、経口摂取によりAGE生成を抑制することがわかってきた(非特許文献4、5)。ヤマブドウは、一般にブドウの4〜5倍以上の豊富なポリフェノールを含有し、特に低分子ポリフェノール成分が多いことが知られている。
また、カリンについては抗グリケーション活性を有する旨の報告はない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−130671
【特許文献2】特開2004−250445
【特許文献3】特開2004−217544
【特許文献4】特開2004−217545
【非特許文献1】Singh, R., Barden, A., Mori, T., and Beilin, L. (2001) Diabetologia 44: 129-146
【非特許文献2】Dunlop,M. (2000) Kidney Int. 58 suppl77: S3-S12
【非特許文献3】Nagasawa, T., Tabata, N., Ito, Y., Aiba, Y., Nishizawa, N. and Kitts, D. D.(2003) Mol. Cell. Biochem. 252: 141-147
【非特許文献4】第57回 日本栄養・食糧学会大会講演要旨集(平成15年5月17〜19日)、236頁、3D−08a
【非特許文献5】日本食品科学工学会 第51回大会講演集(2004年9月2〜4日)、51頁、2Ca12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、日常的な食習慣のある材料に由来する物質であって、長期間安全に摂取でき、生体内でアルドースレダクターゼ阻害、ジカルボニル化合物生成阻害を示し、AGEの生成を阻害しうる、かつ体内への吸収性に優れたグリケーション阻害剤及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明者らは、そのようなグリケーション阻害剤を含む、糖尿病及びその合併症を予防又は改善しうる飲食品又はその素材、医薬品又はその素材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、日常的な食習慣がありフラボノイド類が豊富な果実、野菜類に着目し、鋭意検討を行った結果、フラボノイドを多く含むカリン植物の果実類、及び特に果汁について生体内で強いグリケーション抑制作用を有することが知られているヤマブドウ植物の果実の搾りかす等から、グリケーション阻害物質を豊富に含み、その体内への吸収性が高い抽出物及びそれを効率的に製造する方法を開発し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明によれば、
〔1〕 A)ヤマブドウ(Vitis coignetiae)植物の果皮、種子、及び果実の搾りかす、B)カリン(Pseudocydonia sinensis)の植物の果実、果皮、種子、及び果実の搾りかす、及びC)前記いずれかの加工物、から選択される1種以上の材料を、70℃以上の温度で水又は水性液体で抽出することを特徴とする、グリケーション抑制能を有する植物抽出物の製造方法;
〔2〕前記温度が70℃以上120℃以下の範囲内である、前記〔1〕記載の方法;
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕記載の方法によって製造された、グリケーション抑制能を有する植物抽出物;
〔4〕前記〔3〕記載の植物抽出物からなるグリケーション抑制剤;
〔5〕前記〔3〕記載の植物抽出物を含む飲食品、医薬品又は飼料用素材組成物;
〔6〕前記〔3〕記載の植物抽出物又は前記〔5〕記載の素材組成物を原料として含む飲食品組成物;
〔7〕前記〔3〕記載の植物抽出物又は前記〔5〕記載の素材組成物を原料として含む医薬品組成物;
〔8〕前記〔3〕記載の植物抽出物又は前記〔5〕記載の素材組成物を原料として含む飼料組成物、
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体内でアルドースレダクターゼ抑制作用、ジカルボニル生成阻害作用を示し、強いグリケーション抑制能を有するポリフェノール類、特にカテキン類及びアントシアニジン類などのフラボノイド類を豊富に含有する抽出物を、ヤマブドウ果実の搾りかす等又はカリンの果実等から簡便な工程で効率よく抽出することができる。本発明の抽出物は、生体における有効成分の吸収効率が優れており、糖尿病や糖尿病合併症などに有効であり、かつ安全な飲食品、医薬品の原料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の抽出物を製造するための原料としては、A)ヤマブドウ(Vitis coignetiae)植物の果皮、種子、及び果実の搾りかす;B)カリン(Pseudocydonia sinensis)植物の果実、果皮、種子、及び果実の搾りかす;及びC)前記いずれかの加工物から選択される1種以上を使用することができる。果実の搾りかすは、圧搾などにより果汁を搾った後のかすであって、一般に種子、果皮などが含まれるが、果汁分は少ない。
【0015】
原料は、好ましくは果実の搾りかすである。搾りかすを原料として用いることにより、果汁由来抽出物と比較してさらに優れた生理作用を有する抽出物を得ることができる上、この抽出物は体内への吸収性においても優れている。さらに、搾りかすを原料とすることは、生産性及び植物の有効利用(廃物利用)の観点からも果汁を用いる場合よりも優れている。
【0016】
加工物としては、前記植物材料の乾燥物、凍結乾燥粉末などが挙げられるが、これらに限らない。
【0017】
抽出工程は、植物原料に水又は水性液体を用いて70℃以上で行う。抽出温度は、好ましくは70℃以上120℃以下である。70℃より低い温度では有効成分の抽出効率が劣っており、また、120℃を超える温度ではそれ以上の抽出効率を期待し難い。抽出効率、操作性、経済性などのバランスから、最も好ましくは80℃以上100℃以下である。
【0018】
抽出に使用する液体としては水が望ましいが、水に、低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、ケトン類(アセトン等)、エステル類(ジエチルエーテル、酢酸エチル類)などを適宜添加又は混合して水性液体として使用しても良い。飲食品又は医薬品などに用いる場合など、これらの溶媒の残留が懸念される場合は、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0019】
抽出は、通常は常圧下で行うが、加圧又は減圧条件下で実施してもよい。抽出時間は、通常約10分〜一晩(18時間)、好ましくは10分〜3時間、最も好ましくは30分〜1時間程度である。
なお、水又は水性液体は、抽出温度又は圧力条件によっては、液体ではなく、蒸気又は気体の形態であってもよい。
【0020】
このようにして得られた液状の抽出物は、そのままグリケーション抑制剤又は飲食品、医薬品、飼料などの素材として利用することができる。抽出物を、吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の手法を用いて濃縮及び/又は精製してもよい。また、噴霧乾燥、凍結乾燥、膜ろ過等による乾燥、濃縮などによって、粉末状、ペースト状などの形態として利用してもよい。
【0021】
本発明の抽出物を飲食品とする場合は、単独で又は他の果実ジュースなどと混合して液状組成物としたり、パンやクッキーなどに混入して固体組成物としたり、又はヨーグルトやジャムなどに混入してクリーム状の組成物としたりすることができる。
また、抽出物を原料として、発酵させて酒類や酢等とすることができる。
【0022】
本発明の抽出物は、医薬品や医薬部外品などに使用することもできる。たとえば、医薬組成物とする場合、抽出物をそのまま、あるいは常用される無機又は有機の担体又は医薬賦形剤を加えて、固形、半固形、又は液状で経口投与剤や、経腸剤、外用剤などの非経口投与剤とすることができる。
このようなグリケーション阻害作用を有する本発明の医薬品組成物の有効な投与量は、投与対象の年齢、体重、一般的な身体状態などに応じて適宜変化させることができるが、たとえば成人1日当たり総ポリフェノール含量に換算して0.01〜10g、一般的には0.05〜5g、さらに一般的には0.1〜0.5gを、経口投与することができる。
【0023】
以下に本発明を実施例によってさらに説明するが、本発明は何らこれらに限定されることはない。
【実施例】
【0024】
実施例1:ヤマブドウ果実搾りかすの抽出物の製造及びそのグリケーション抑制能の試験
ヤマブドウ果実を70℃で10分加熱し、圧搾して果汁を調製した。この圧搾後に得られた搾りかす(10g)に同量の水(10ml)を加えて、100℃で1時間抽出し、本発明の抽出物を得た。この抽出物及び先に調製した果汁をそれぞれ凍結乾燥し、粉末化した。
【0025】
これらの粉末のグリケーション抑制能を調べるため、BSA(20mg/ml)、D-Fructose(500mM)を含む200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に、上記の各粉末(最終濃度0.1mg/ml、0.5mg/ml、又は1mg/ml)又はアミノグアニジン(最終濃度10μM、50μM、100μM)を溶解した試料を用意し、37℃で5日間インキュベーションした。その後、ウェスタンブロット法を用いて各試料に含まれるAGE構造体であるNε−(カルボキシメチル)リジン(Nε-(carboxymethyl)lysine;CMLと略す)を検出した。検出されたCMLの量を、搾りかす等の粉末を加えずに反応させたもの(コントロール)で生成するAGE量を100%(即ち阻害率0%)として表した(相対値±標準誤差(n=4))。
【0026】
結果を図1に示す。本発明のヤマブドウ搾りかす抽出物は、100μMのアミノグアニジンでも阻害を示さない条件下においてAGE生成を濃度依存的に強力に阻害し、さらに、その阻害活性はヤマブドウ果汁抽出物による阻害活性をも有意に上回るものであった。
【0027】
実施例2:カリンを用いた抽出物の製造及びそのグリケーション抑制能の試験
カリンの生果実をそのまま凍結乾燥して得た粉末各1gに、10mlの水を加え、100℃で1時間、抽出を行い、本発明の抽出物を得た。また、抗グリケーション活性を有することが知られているアロニア及びカシスの生果実を用いて同様に抽出物を調製した。
BSA(20mg/ml)及びD-Fructose(500mM)を含む200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に、得られた抽出液の各々を1%(V/V)の量で添加し、37℃で3日間インキュベーションした。比較のため、抽出物の代わりにルチンを添加した試料についても同様に処理した。その後、グリケーション抑制能を、CMLをエピトープとする抗AGEモノクローナル抗体を用いたELISA法により測定した。
【0028】
その結果、ルチン10mMを添加した場合の値を100としたときの相対的なグリケーション阻害率は、アロニアが90、カシスが241であったのに対し、カリンは284であった。したがって、本発明のカリン抽出物は、アロニア、カシス抽出物よりグリケーション抑制能が高く、1%(V/V)の濃度で、10mMのルチンの約3倍近くに相当するグリケーション阻害作用を有していた。
【0029】
実施例3:ヤマブドウ搾りかすの抽出温度の検討
実施例1と同様にして得たヤマブドウ搾りかす50gに10倍量(500ml)の水を加え、室温、45℃、70℃、100℃、又は120℃でそれぞれ1時間抽出を行った。なお、120℃についてはオートクレーブを使用して処理を行った。
得られた抽出液を凍結乾燥し、乾燥重量、Folin-Denis法による総ポリフェノール量、Vanilin-HCl法による総フラバノール量を測定した。
【0030】
また、BSA(20mg/ml)、D-Fructose(500mM)を含む200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に、得られた粉末を最終濃度0.5mg/mlとなるように添加し、37℃で3日間インキュベーションした後、CMLをエピトープとする抗AGEモノクローナル抗体を用いたELISA法によりグリケーション抑制能を測定し、抽出液を加えない場合に生成するAGE量を100(即ち阻害率0%)とした場合の阻害率で示した。
【0031】
その結果、表1に示すように、水を用いて70℃以上の温度で抽出を行うことにより、約6%以上のポリフェノール含量を有し、約20%以上のAGE生成阻害率を示すグリケーション抑制能を有する抽出物が得られることが明らかとなった。また、100℃で抽出を行うことにより、約40%以上の高いグリケーション抑制能を有する粉末を得ることができた。一方、120℃での抽出については、総ポリフェノール含量は100℃より多いものの、総フラバノール含量、AGE生成阻害率については100℃を有意に上回る結果を得られなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例4:ヤマブドウ搾りかす抽出物の濃縮
実施例3において100℃で抽出して得た抽出液250mlを、水で膨潤させたセファデックスLH20カラム(2.0×20cm)に吸着させ、水で洗浄し、70%(V/V)エタノール150ml、続いて60%(V/V)アセトン150mlで溶出させた。得られた各画分を乾燥させ、それぞれから得られる乾燥粉末量とそのポリフェノール含有量を測定した。
【0034】
その結果、100℃抽出液250mlの乾燥重量は5g(ポリフェノール260mg)であるのに対し、70%(V/V)エタノール溶出画分150mlの乾燥重量は240mg(ポリフェノール177mg)、60%(V/V)アセトン溶出画分150mlの乾燥重量は40mg(ポリフェノール20mg)であった。したがって、カラムとエタノール及びアセトンによる溶出とを用いてポリフェノールが濃縮された粉末を得ることができた。
【0035】
また、これらの粉末をポリフェノール濃度が0.1mg/mlとなるようにBSA(20mg/ml)、D-Fructose(500mM)を含む200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に添加し、上記と同様にELISA法によりグリケーション抑制を測定した。
【0036】
その結果、AGE生成阻害率は、100℃抽出物で72%、70%エタノール溶出物で85%、60%アセトン溶出物で92%であり、セファデックスLH−20カラム分画によってグリケーション抑制能をもつ画分を濃縮することが可能であることが明らかになった。
【0037】
実施例5:ヤマブドウ搾りかす抽出物を摂取した糖尿病ラットのグリケーション抑制
実施例3と同様にして100℃で調製したヤマブドウ搾りかす抽出物の凍結乾燥粉末について、糖尿病ラットを用いて生体内でのグリケーション抑制を調べた。
【0038】
Wistar系雄ラット(130〜150g)を、正常カゼイン食群(AIN93G組成20%(W/W)カゼイン食、NC群)、糖尿病カゼイン食群(AIN93G組成20%(W/W)カゼイン食、DC群)、糖尿病2.5%(W/W)ヤマブドウ搾りかす抽出物添加食群(AIN93G組成20%(W/W)カゼイン食群に2.5%(W/W)になるようにヤマブドウ搾りかす抽出物粉末を加えた食餌、DV群)の3群に分けた後、糖尿病群に対しストレプトゾトシン(50mg/kg体重)を投与してI型糖尿病を誘導し、30日間飼育した。食餌、飲水は自由摂取とした。解剖時に血液を採取し、血漿中のグルコース濃度を、市販の測定キット(「グルコース B−テストワコー」、和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。
【0039】
結果を図2に示す。血漿中のグルコース濃度(平均値±標準誤差(n=5〜6))は、NC群に対してDC、DV群では有意に上昇していた(P<0.1;図2、パネルA)。しかし、肝臓タンパク質のAGEをウェスタンブロット法で検出したところ、DC群に対し、DV群ではNC群と同程度までAGE蓄積が抑制されていることが認められた(図2、パネルB)。
【0040】
また、ジカルボニル化合物である3−デオキシグルコソン(3−DG)を2,3−ジアミノナフタレン誘導体化後、HPLCで分析した。アルドースレダクターゼ活性を、グリセルアルデヒドを基質として酸化されたNADPH量から測定した。
その結果、3−DG、アルドースレダクターゼ活性ともに、DC群に対し、DV群では有意に低下していた(図3、パネルA、B)。
【0041】
実施例6:ヤマブドウ搾りかす抽出物のポリフェノール成分及びその吸収性
実施例4で得られた70%(V/V)エタノール溶出画分(VL)のポリフェノール類中に含まれる成分を同定するため、LC/MS/MS 、NMR、TOF−MSによる成分解析を実施した。
【0042】
粉末1g中のポリフェノール741mgのうち、確認された成分は、カテキン類ではプロシアニジンB1(25mg)、(+)−カテキン(77mg)、プロシアニジンB2(38mg)、(−)−エピカテキン(64mg)であった。アントシアニンとしては、シアニジン−3,5−ジグルコシド、マルビジン−3,5−ジグルコシド、シアニジン−3−グルコシド、マルビジン−3−グルコシドが確認され、その量は、最も量の多かったシアニジン−3−グルコシド当量として粉末1g当たり11mgであった。
【0043】
この粉末(VL)と、対照として市販されているブドウ種子エキス粉末(1g当たりポリフェノール245mg)を用いて、糖尿病ラットでの吸収性を以下のようにして調べた。6週齢のSD系雄ラットに、VLは200mg/ml、市販ブドウ種子エキス粉末は750mg/mlの濃度に溶解した水溶液を、体重200g当たり1ml、胃内に経口投与した。投与後2時間後に採血し、血漿中のカテキン類濃度を調べたところ、VLでは68μg/ml、市販ブドウ種子エキス粉末では17μg/mlであった。したがって、VLは市販のブドウ種子エキス粉末と比較してより効率的に吸収されたことが明らかであった。
【0044】
また、6週齢のSD系雄ラットを2群に分け、一方にストレプトゾトシンを45mg/kg体重となるように投与してI型糖尿病を誘導し、0.2%(W/W)のVLを含有するAIN93G組成の20%(W/W)カゼイン食で20日間飼育した。採血した血漿中のカテキン含量を測定した結果、糖尿病群で0.394±0.074(μg/ml)、健常群で0.609±0.384(μg/ml)で、有意な差はみられなかった。したがって、VLは、糖尿病態においても吸収されており、糖尿病態を改善することが示唆された。
【0045】
実施例7:ヤマブドウワイン及び搾りかす抽出液からの酢の醸造
ヤマブドウ果実を70℃にて加熱した後、圧搾した果汁及びその搾りかすを用いた酢の醸造を次のように実施した。得られた果汁10Lにワイン酵母Saccharomyces cerevisiae L-2226を接種し品温15℃で発酵を行った。発酵途中、Brix11°でグルコースを補糖してBrix23°とし、さらに発酵させ、Brix9°の時点で発酵停止してアルコール12%のワインとした。一方、搾りかすには2倍量(V/V)の水を加え、70℃で30分加熱して抽出液を得た。果汁のpH、ワインのpHともに約2.9と酢酸菌の生育には低いことから、アンモニアを添加してpH3.5とした。
搾りかす抽出液935mlにエタノールを55ml添加した液990ml、及びワインをアルコール濃度5.5%となるように希釈した液990mlに、それぞれ酢酸菌(Acetobacter aceti NBRC3281)培養液を10ml添加し、静置して30℃、3週間培養して酢酸濃度が約5%の酢を得た。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、搾りかす抽出液から調整した酢は、色調も充分良好であり、ポリフェノール量はワインから醸造した酢より多く、DPPHラジカル消去活性も非常に高いことがわかった。したがって、搾りかす抽出物は食品素材としても非常に有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明のヤマブドウ搾りかす抽出物のグリケーション抑制能を示す図である。
【図2】図2は、本発明のヤマブドウ搾りかす抽出物を摂取した糖尿病ラットにおけるグリケーションの抑制を示す図である。パネル(A)は血漿中グルコース濃度、パネル(B)は肝臓におけるAGE蓄積を示す図である。
【図3】図3は、本発明のヤマブドウ搾りかす抽出物を摂取した糖尿病ラットにおけるグリケーションの抑制を示す図である。パネル(A)は3−DGの生成量の変化、パネル(B)はアルドースレダクターゼ活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)ヤマブドウ(Vitis coignetiae)植物の果皮、種子、及び果実の搾りかす、
B)カリン(Pseudocydonia sinensis)植物の果実、果皮、種子、及び果実の搾りかす、及び
C)前記いずれかの加工物
から選択される1種以上の材料を、70℃以上の温度で水又は水性液体で抽出することを特徴とする、グリケーション抑制能を有する植物抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記温度が70℃以上120℃以下の範囲内である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法によって製造された、グリケーション抑制能を有する植物抽出物。
【請求項4】
請求項3記載の植物抽出物からなるグリケーション抑制剤。
【請求項5】
請求項3記載の植物抽出物を含む飲食品、医薬品又は飼料用素材組成物。
【請求項6】
請求項3記載の植物抽出物又は請求項5記載の素材組成物を原料として含む飲食品組成物。
【請求項7】
請求項3記載の植物抽出物又は請求項5記載の素材組成物を原料として含む医薬品組成物。
【請求項8】
請求項3記載の植物抽出物又は請求項5記載の素材組成物を原料として含む飼料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131599(P2007−131599A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328561(P2005−328561)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【Fターム(参考)】