説明

グリコシル化された抗原/抗体又はリガンド/受容体特異性交換体

本発明は、糖類または複合糖質を含む、リガンド/受容体および抗原/抗体特異性交換体に関する。これらの特異性交換体を作製する方法、およびヒト疾患を治療または予防するための上記特異性交換体の使用方法が本明細書中で記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、癌および病原体(例えば、細菌、酵母、寄生虫、真菌、ウイルス等)に起因する疾患を含むヒト疾患を予防および治療するための組成物および方法に関する。より具体的には、本明細書中に記載する実施形態は、被験体中に存在する天然の抗体を病原体へと向け直す(redirect)、グリコシル化された抗原領域を含む特異性交換体(specificity exchanger)の製造および使用に関する。
【0002】
[発明の背景]
特異性交換体は一般に、2つの領域、すなわち特異性ドメインおよび抗原ドメインから構成される。それらの特異性ドメインの性質により区別される2つの一般型の特異性交換体が存在する(例えば、米国特許出願第10/372,735号を参照)。第1の型の特異性交換体は、抗原/抗体特異性交換体である。幾つか異なる型の抗原/抗体特異性交換体を作製することができる(例えば、米国特許第5,869,232号、同第6,040,137号、同第6,245,895号、同第6,417,324号、同第6,469,143号、および米国出願第09/839,447号および同第09/839,666号、ならびに国際出願PCT/SE95/00468号およびPCT/IB01/00844号を参照)。
【0003】
抗原/抗体特異性交換体は、抗体が結合するアミノ酸配列(すなわち、抗原ドメイン)に連結された、抗原に特異的に結合する抗体のアミノ酸配列(すなわち、特異性ドメイン)を含む。抗原/抗体特異性交換体の幾つかの特異性ドメインは、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含み、5個以上35個未満のアミノ酸残基からなり、HIV−1抗原に特異的であるか、あるいは肝炎ウイルス抗原に特異的である。抗原/抗体特異性交換体の幾つかの抗原ドメインは、ウイルス、細菌または真菌由来の抗体結合領域を有するペプチドを含み、5個以上35個未満のアミノ酸残基からなるか、あるいはポリオウイルス、麻疹ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスまたはHIV−1から得られるペプチド(例えば、エピトープを含むペプチド)を含有する。
【0004】
第2の型の特異性交換体であるリガンド/受容体特異性交換体もまた、特異性ドメインおよび抗原ドメインから構成されるが、リガンド/受容体特異性交換体の特異性ドメインは、抗原に結合する抗体の配列とは対照的に、病原体上に存在する受容体に対するリガンドを含む。すなわち、リガンド/受容体特異性交換体は、抗原を結合する抗体の配列を含有せず、代わりに病原体上に存在する受容体とのリガンド相互作用に関して病原体に接着するという点で抗体/抗原特異性交換体と異なる。幾つか異なる型のリガンド/受容体特異性交換体を作製することができる(例えば、米国特許第6,660,842号、米国出願第10/372,735号、および国際出願PCT/IB01/02327号を参照)。
【0005】
リガンド/受容体特異性交換体の幾つかの特異性ドメインは、細菌の接着受容体に対するリガンド(例えば、細胞外フィブリノゲン結合タンパク質もしくは凝集因子AまたはB)であるアミノ酸配列を含み、3個以上27個未満のアミノ酸残基からなり、あるいは細菌、ウイルスまたは癌細胞に特異的である。リガンド/受容体特異性交換体の幾つかの抗原ドメインは、病原体または毒素の抗体結合領域を有するペプチドを含み、5個以上35個未満のアミノ酸残基からなり、あるいはポリオウイルス、TTウイルス、B型肝炎ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスから得られるペプチドを含有する。医学におけるこれらの進歩にもかかわらず、個体中に存在する抗体を標的分子へと向け直す、より多くの特異性交換体が依然として必要である。
【発明の開示】
【0006】
本発明の態様は、少なくとも1つの糖類を連結した200個未満のアミノ酸残基からなる特異性ドメインを含む特異性交換体に関する。幾つかの実施形態では、糖類は、Gal抗原、好ましくはGalα(1,3)Galβである。これらの特異性交換体は、リガンド/受容体特異性交換体または抗原/抗体特異性交換体であり得る。抗原ドメインまたはリンカーが存在しないように、糖類を特異性ドメインに直接連結することができるが、幾つかの実施形態は、糖類のほかに抗原ドメインおよび/またはリンカーを包含する。
【0007】
本明細書中に記載する幾つかの実施形態の特異性交換体は、細菌(例えば、ブドウ球菌属)、ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス(HIV))または癌細胞に結合する。好ましい特異性交換体は、HIVに対するものであり、これらの実施形態の特異性ドメインは、CD4またはCDRペプチド(例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8および配列番号9からなる群から選択される配列)を含むことができ、上記少なくとも1つの糖類は、Galα(1,3)Galβである。上述の特異性交換体は、150、100、50または25個未満のアミノ酸残基からなる特異性ドメインを有することができる。被験体において細菌、ウイルスまたは癌細胞の増殖を低減させるために、あるいはそのような目的に用いられる薬剤および医薬品を調製するために、本明細書中に記載する特異性交換体を使用することができる。
【0008】
[発明の詳細な説明]
糖類または複合糖質(例えば、血液型糖)を含む抗体/抗原特異性交換体およびリガンド/受容体特異性交換体(「特異性交換体」と総称する)が、被験体中に自然に存在する抗体に強く反応し、その結果、上記抗体の、病原体への方向転換が促進されることを発見した。本発明の態様は、好ましくは血液型糖、より好ましくはgal−α−1−3 gal β糖を含む特異性交換体(例えば、抗体/抗原特異性交換体およびリガンド/受容体特異性交換体)に関する。実施形態はまた、病原体の感染や癌のようなヒト疾患を治療するのに使用することができる上記特異性交換体を含む医薬品を包含する。したがって、例えば、上記グリコシル化された特異性交換体を作製する方法、および抗体を病原体上に存在する分子へと向け直すために上記特異性交換体を使用する方法が実施形態である。
【0009】
特異性交換体は、特異性ドメインおよび抗原ドメインを含む。特異性交換体の特異性ドメインは、望ましくは少なくとも3個〜200個のアミノ酸残基、好ましくは少なくとも5個〜100個のアミノ酸残基、より好ましくは8個〜50個のアミノ酸残基、さらに好ましくは10個〜25個のアミノ酸残基からなる。特異性交換体の抗原ドメインは、望ましくは少なくとも3個〜200個のアミノ酸残基、好ましくは少なくとも5個〜100個のアミノ酸残基、より好ましくは8個〜50個のアミノ酸残基、さらに好ましくは10個〜25個のアミノ酸残基からなる。しかしながら、幾つかの実施形態では、特異性交換体は、グリコシル化領域自体が抗原ドメインとして作用するように、グリコシル化された特異性ドメイン(例えば、病原体に対する抗体または病原体上の受容体に対するリガンドの一部)のみを含む。すなわち、本明細書中に記載する本発明の幾つかの態様は、病原体もしくは癌細胞上に存在するエピトープまたは受容体に対する特異性ドメインを含む特異性交換体(すなわち、抗原/抗体およびリガンド/受容体特異性交換体)に関し、ここで上記特異性ドメインは、被験体中に自然に存在する抗体と相互作用する抗原ドメインそのものである1個またはそれ以上の糖(例えば、1個またはそれ以上のgal−α−1−3 gal β糖を有するグリコシル化されたドメイン)に連結される。
【0010】
本明細書中に記載する特異性交換体は、病原体(細菌、酵母、寄生虫、真菌、癌細胞お
よび病原性ペプチドを含むがこれらに限定されない)上の抗原または受容体と相互作用する特異性ドメインを含む。例えば、幾つかの実施形態は、細菌、肝炎ウイルス(例えば、HAV、HBVまたはHCV)、HIV、インフルエンザウイルスのような風邪ウイルス、癌細胞エピトープ、およびヒト疾患に関連するペプチド(例えば、プリオンペプチド、アルツハイマーペプチド(Aβ)、および神経ペプチド)に結合する抗体から得られた配列を含む。他の実施形態は、細胞外マトリックスタンパク質のフラグメント(例えば、フィブリノゲンの3〜5個、8個、9個、10個、12個または14個連続したアミノ酸のような、3〜14個のアミノ酸)、ウイルス(例えば、HAV、HBV、HCV、HIV、インフルエンザウイルス)上の受容体に対するリガンド、あるいは癌細胞または病原性ペプチド上の受容体に対するリガンドを含む特異性ドメインを有する。好ましい実施形態では、例えば、特異性ドメインは、フィブリノゲン、コラーゲン、ビトロネクチン、ラミニン、プラスミノゲン、トロンボスポンジンおよびフィブロネクチンからなる群から選択される細胞外マトリックスタンパク質のフラグメント(例えば、3〜5個、8個、9個、10個、12個、14個、17個および20個連続したアミノ酸のような、3〜20個のアミノ酸)であるリガンドを含む。本明細書中に記載する特異性交換体の幾つかは、病原体上に見出される受容体に結合する(抗原/抗体相互作用またはリガンド/受容体相互作用に関して)。幾つかの実施形態では、受容体は、細菌の接着受容体、例えば、細胞外フィブリノゲン結合タンパク質(Efb)、コラーゲン結合タンパク質、ビトロネクチン結合タンパク質、ラミニン結合タンパク質、プラスミノゲン結合タンパク質、トロンボスポンジン結合タンパク質、凝集因子A(ClfA)、凝集因子B(ClfB)、フィブロネクチン結合タンパク質、凝固酵素および細胞外接着タンパク質からなる群から選択される細菌の接着受容体である。次の節で、抗原/抗体特異性交換体の特異性ドメインについてさらに詳述する。
【0011】
抗原/抗体特異性交換体の特異性ドメイン
抗原/抗体特異性交換体の特異性ドメインは、例えばハプテンのようなある特定の抗原に特異的に結合する任意の抗体のアミノ酸配列を含むことができる。抗原/抗体特異性交換体の好ましい特異性ドメインは、ある特定の抗体の相補性決定領域(CDR)またはフレームワーク領域のアミノ酸配列を含む。抗体のCDRは、抗体の特異性を担う。X線結晶学により、重鎖の可変(V)領域の3つのCDRおよび軽鎖のV領域の3つのCDRはすべて、抗原−抗体複合体におけるエピトープと接触し得ることが示されている。
【0012】
ある実施形態では、様々な抗原に対するmAbのCDRに相当し、かつ各々のmAbの認識能力を模倣することが可能な単一ペプチドは、抗原/抗体特異性交換体の特異性ドメイン中に含ませることができる。具体的には、HIV−1 gp160のV3領域に特異的なmAbのCDRH3に相当するペプチド、またはCD4と相互作用するgp120の領域に特異的な抗体の一部を特異性ドメイン中に含ませることができる。HIV−1のV3領域に向けられたペプチドは、in vitroでアッセイした場合に、無毒化能力(neutralizing capacity)を有することが示された。CDRH3は、mAb F58およびAb C1−5等に由来し得る。CDRH3と同様に、Ab C1−5のCDRH1および/またはCDRH2ドメインもまた、本明細書中に記載する特異性ドメインに使用することができる。他の実施形態では、特異性ドメインは、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)に対するmAbのCDRH2に相当するペプチドを含むことができる。CDRH2は、HBcAgを捕捉する能力を示す。HBcAgまたはB型肝炎ウイルスe抗原(HBeAg)を結合する抗体に由来する幾つかの他のペプチドが同定されている(例えば、2002年7月9日に発行された米国特許第6,417,324号、ならびに2001年4月20日に出願された米国特許出願第09/839,447号および2002年5月21日に出願された米国特許出願第10/153,271号を参照)。これらのペプチド(特異性ドメイン)は、被験体中に存在する抗体をB型肝炎ウイルスへと向け直すように、抗原/抗体特異性交換体に組み込むことができる。次の節で、リガンド/受容体特異性交
換体のための特異性ドメインについてさらに詳述する。
【0013】
リガンド/受容体特異性交換体のための特異性ドメイン
多くの異なる病原体上の多くの異なる受容体を結合する多くの異なるリガンドをリガンド/受容体特異性交換体に組み込むことができるため、リガンド/受容体特異性交換体の多様性もまた同様に膨大である。「病原体」という用語は概して、細菌、寄生生物、真菌、カビ、ウイルスおよび癌細胞を含むがこれらに限定されない、動物における疾患の任意の病因的な作用因子を指す。同様に、「受容体」という用語は、一般的な意味では、「リガンド」(通常、抗体中に見出される配列以外のペプチド、または糖質、脂質、核酸またはそれらの組合せ)と相互作用する分子(通常、抗体中に見出される配列以外のペプチドであるが、糖質、脂質または核酸であり得る)を指すのに使用される。本明細書で意図される受容体は、シグナル伝達に関与する必要はなく、接着(例えば、インテグリン)および分子シグナル伝達(例えば、成長因子受容体)を含むがこれらに限定されない、多くの分子相互作用に関与することができる。
【0014】
ある実施形態では、所望の特異性ドメインは、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、フィブリノゲン、コラーゲン、ビトロネクチン、ラミニン、プラスミノゲン、トロンボスポンジンおよびフィブロネクチン)中に存在するペプチド配列を有するリガンドを含み、特異性ドメインによっては、細菌の接着受容体(例えば、細胞外フィブリノゲン結合タンパク質(Efb)、コラーゲン結合タンパク質、ビトロネクチン結合タンパク質、ラミニン結合タンパク質、プラスミノゲン結合タンパク質、トロンボスポンジン結合タンパク質、凝集因子A(ClfA)、凝集因子B(ClfB)、フィブロネクチン結合タンパク質、凝固酵素および細胞外接着タンパク質)と相互作用するリガンドを含む。
【0015】
研究者たちは、幾つかの受容体と相互作用する細胞外マトリックスタンパク質の領域をマッピングしてきた(例えば、McDevvit et al., Eur. J. Biochem., 247:416-424 (1997)、Flock, Molecular Med. Today, 5:532 (1999)、およびPei et al., Infect. and Immun. 67:4525 (1999)を参照)。受容体によっては、細胞外マトリックスタンパク質の同じ領域に結合するものもあれば、重複した結合ドメインを有するものもあれば、完全に異なる領域に結合するものもある。好ましくは、特異性ドメインを構成するリガンドは、細胞外マトリックスタンパク質への付着に関与することが明らかにされているアミノ酸配列を有する。しかしながら、病原体上の任意の受容体に対する既知のリガンドの任意のフラグメントを用いることにより、リガンド/受容体特異性交換体を作成することができ、かつこれらのリガンド/受容体特異性交換体の候補を、以下に記載する、病原体上の受容体と相互作用する分子を同定することを目的とした特性評価でスクリーニングできることを理解していただきたい。
【0016】
幾つかの特異性ドメインは、細菌の接着受容体(細胞外フィブリノゲン結合タンパク質(Efb)、コラーゲン結合タンパク質、ビトロネクチン結合タンパク質、ラミニン結合タンパク質、プラスミノゲン結合タンパク質、トロンボスポンジン結合タンパク質、凝集因子A(ClfA)、凝集因子B(ClfB)、フィブロネクチン結合タンパク質、凝固酵素および細胞外接着タンパク質を含むが、これらに限定されない)と相互作用するリガンドを有する。フィブリノゲンのγ鎖のC末端部分に相当するアミノ酸配列を有するリガンドは、ClfA、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の接着受容体へのフィブリノゲンの結合を競合的に阻害することが明らかにされている(McDevvit et al., Eur. J. Biochem., 247:416-424 (1997))。さらに、ブドウ球菌属の生物は、α鎖フィブリノゲンに結合するEfb、フィブリノゲンのαおよびβ鎖の両方と相互作用するClfB、およびフィブリノゲンのγ鎖に結合するFbeのようなより多くの接着受容体を生産する(Pei
et al., Infect. and Immun. 67:4525 (1999))。したがって、好ましい特異性ドメインは、細菌の接着受容体に結合することができる分子(例えば、フィブリノゲン)中に存在
する配列の3〜30個のアミノ酸残基、すなわち少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個または30個の連続したアミノ酸残基を含む。
【0017】
特異性ドメインはまた、ウイルス受容体と相互作用するリガンドを含む。幾つかのウイルス受容体および対応するリガンドが知られており、これらのリガンドまたはそれらのフラグメントをリガンド/受容体特異性交換体に組み込むことができる。例えば、Tongらは、ヘパドナウイルス受容体であるアヒルB型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質のプレSドメインと相互作用する170kdの細胞表面糖タンパク質を同定しており(米国特許第5,929,220号)、またMaddonらは、T細胞表面タンパク質CD4(またはT4と称される可溶性形態)がHIVのgp120と相互作用することを決定している(米国特許第6,093,539号)。したがって、ウイルス受容体と相互作用する特異性ドメインは、アヒルB型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質のプレSドメインの領域(例えば、アミノ酸残基80〜102または80〜104)あるいはHIVのgp120と相互作用するT細胞表面タンパク質CD4(またはT4と称される可溶性形態)の領域(例えば、CD4/T4の細胞外ドメインまたはそれらのフラグメント)を含むことができる。例えば、HIVのCDR(V3結合補体)またはCD4(gp120結合補体)結合ドメインに対するリガンド/受容体特異性ドメインを調製した(表1を参照)。ウイルス受容体用のリガンドはさらに多く存在し、これらの分子またはそれらのフラグメントは特異性ドメインとして使用できる。
【0018】
【表1】

【0019】
特異性ドメインはまた、癌細胞上に存在する受容体と相互作用するリガンドを含むことができる。プロトオンコジーンHER−2/neu(C−erbB2)は、チロシンキナーゼファミリーの表面成長因子受容体であるp185HER2をコードする。乳癌患者の20〜30%は、遺伝子増幅によりHER−2/neu(C−erbB2)をコードする遺伝子を過剰発現する。したがって、HER−2/neu(C−erbB2)に対するリガンドをコードする特異性ドメインを含むリガンド/受容体特異性交換体は、望ましい実施形態である。癌細胞の多くの型はまた、インテグリン受容体を過剰発現するか、または異なった様式で発現する。インテグリンは主に細胞外マトリックスタンパク質と相互作用するが、これらの受容体は、インベイシン(invasin)、RGD含有ペプチド(すなわち、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)および化学物質のようなその他のリガンドと相互作用することが知られている(例えば、米国特許第6,090,944号および同第6,090,388号、ならびにBrett et al., Eur J Immunol, 23:1608 (1993)を参照)。インテグリン受容体に対するリガンドとしては、ビトロネクチン受容体、ラミニン受容
体、フィブロネクチン受容体、コラーゲン受容体、フィブリノゲン受容体、インテグリン受容体と相互作用する分子が挙げられるが、これらに限定されない。次の節では、本明細書中に記載する特異性交換体とともに使用することができる抗原ドメインの幾つかについて記載する。
【0020】
抗原ドメイン
病原体または毒素が多くの異なるエピトープを提示することができるため、リガンド/受容体特異性交換体および抗体/抗原特異性交換体に使用することができる抗原ドメインの多様性は非常に大きい。望ましくは、特異性交換体とともに使用される抗原ドメインは、細菌、真菌、植物、カビ、ウイルス、癌細胞および毒素由来の表面タンパク質または露出タンパク質から得られるペプチドである。抗原ドメインは、好ましくは自然に獲得された免疫性またはワクチン接種による被験体中の既存の抗体によって非自己であることが迅速に認識されるペプチド配列を含むこともまた望ましい。例えば、多くの人々が、小児期疾患(天然痘、麻疹、おたふくかぜ、風疹およびポリオを含むがこれらに限定されない)に対して免疫されている。したがって、これらの病原体上のエピトープに対する抗体は、免疫された人々により生産され得る。望ましい抗原ドメインは、被験体中に存在して天然痘、麻疹、おたふくかぜ、風疹、ヘルペス、肝炎およびポリオのような病原体に応答する抗体により認識される1個またはそれ以上のエピトープを含むペプチドを有する。
【0021】
しかしながら、幾つかの実施形態は、被験体に前もって投与された抗体と相互作用する抗原ドメインを有する。例えば、特異性交換体上の抗原ドメインと相互作用する抗体を、特異性交換体とともに同時投与することができる。さらに、特異性交換体と相互作用する抗体は、一般的には被験体中に存在しない場合があるが、上記被験体は、その体内において高力価の抗体を生成するために生物材料または抗原(例えば、血清、血液または組織)を導入することにより既に抗体を獲得している。例えば、輸血を受けた被験体は、無数の抗体を獲得し、その幾つかが、特異性交換体の抗原ドメインと相互作用しうる。特異性交換体において使用するための幾つかの好ましい抗原ドメインはまた、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、TTウイルスおよびポリオウイルスのような病原体から得られるウイルスエピトープまたはペプチドを含む。
【0022】
好ましくは、抗原ドメインは、「高力価抗体」により認識される病原体もしくは毒素から得られるエピトープまたはペプチドを含む。本明細書中で使用する場合の「高力価抗体」という用語は、抗原(例えば、抗原ドメイン上のエピトープ)に対して高親和性を有する抗体を指す。例えば、酵素免疫測定法(ELISA)では、高力価抗体は、適切な希釈緩衝液でおよそ1:100〜1:1,000の範囲に血清を希釈した後のアッセイで依然として陽性を示す、血清サンプル中に存在する抗体に相当する。他の希釈範囲としては、1:200〜1:1,000、1:200〜1:900、1:300〜1:900、1:300〜1:800、1:400〜1:800、1:400〜1:700、1:400〜1:600等が挙げられる。ある特定の実施形態では、血清と希釈緩衝液との間の比は、およそ1:100、1:150、1:200、1:250、1:300、1:350、1:400、1:450、1:500、1:550、1:600、1:650、1:700、1:750、1:800、1:850、1:900、1:950、1:1,000である。特異性交換体の抗原ドメインに含ませることができる病原体のエピトープまたはペプチドは、スウェーデン特許第9901601−6号、米国特許第5,869,232号、Mol. Immunol. 28:719-726 (1991)およびJ. Med. Virol. 33:248-252 (1991)に開示されるエピトープまたはペプチドを包含する。
【0023】
しかしながら、本明細書中に記載する特異性交換体の抗原ドメインは、ペプチドである必要はない。幾つかの実施形態では、糖、複数の糖、グリコシル化領域またはグリコシル化ドメインそれ自体が、抗原ドメインである。すなわち、幾つかの実施形態は、包含され
ている特異性ドメインは、糖、複数の糖、グリコシル化領域またはグリコシル化ドメインにペプチドリンカーを有して、あるいは有さずに連結されているが、病原体もしくは毒素から得られる抗原ペプチドまたはエピトープを欠如していることを特徴とする、特異性交換体(すなわち、抗原/抗体およびリガンド/受容体特異性交換体)である。このように、グリコシル化された特異性ドメイン(例えば、抗原/抗体およびリガンド/受容体特異性ドメイン)もまた、グリコシル化された特異性交換体と称されるが、この場合には、糖、複数の糖、グリコシル化領域またはグリコシル化ドメインそれ自体が、抗原ドメインである。次の節では、グリコシル化された特異性交換体についてさらに詳述する。
【0024】
糖類および複合糖質を含む特異性交換体
概して、グリコシル化された特異性交換体(すなわち、抗体/抗原特異性交換体およびリガンド/受容体特異性交換体)は、3個以上200個以下のアミノ酸残基からなる抗原ドメイン(例えば、ペプチド骨格)に連結された3個以上200個以下のアミノ酸残基からなる特異性ドメイン、あるいはペプチドを基礎とした抗原ドメインを全く含まない(すなわち、特異性ドメインは、リンカーを有する、あるいは有さないグリコシル化されたドメインそれ自体であり、病原体から得られる抗原ペプチドあるいは病原体のエピトープを含む抗原ペプチドを欠如している)特異性ドメインを含む。抗原ドメインおよび/または特異性ドメインは、ペプチド骨格と一緒に、あるいはそれ自体で、ヒト中に自然に存在する高力価抗体と反応する複数の糖を含むことができる。好ましくは、グリコシル化ドメインまたは領域は、異種活性(xenoactive)抗原である血液型糖(例えば、移植手術での異種移植片の超急性拒絶の基礎となる血液型糖)を含有する。
【0025】
幾つかの実施形態では、例えば、特異性変換体は特異性ドメインを有し、該特異性ドメインは、3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66、67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,もしくは200の間の数、または上記の数以上、かつ/または上記の数以下のアミノ酸残基を有し、特異性ドメインは抗原ドメイン(例えば、ペプチド骨格)に連結される。該抗原ドメインは、3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66、67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,もしくは200の間の数、または少なくとも上記の数以上、かつ/または上記の数以下のアミノ酸残基を有し、ここで抗原ドメインまたは特異性ドメイン、またはそれらの両方は複数の糖類を含む。他の実施形態では、特異性ドメインは、3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66、67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,8
3,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,または200の間の数、または少なくとも上記の数以上、かつ/または上記の数以下のアミノ酸残基を有する。特異性ドメインは複数の糖類(ペプチドリンカー有り/無し、および病原菌のペプチドまたはエピトープ有り/無し、または抗原ドメイン有り/無し)に連結される。実施形態により、「複数の糖類」は少なくとも2、および10,000以上の糖単位を包含することができる。幾つかの実施形態では、例えば、2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66、67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950,1000,1100,1200,1300,1400,1500,1600,1700,1800,1900,2000,2250,2500,2750,3000,3250,3500,3750,4000,4250,4500,4750,5000,5250,5500,5750,6000,7000,8000,9000,10,000の間の数、または少なくとも上記の数、かつ/または上記の数以下の糖単位が直接または間接的に(例えば、ペプチド骨格のリンカーおよび病原体のペプチドまたはエピトープを含む抗原ドメインのような支持体を介して)特異性ドメインに連結される。
【0026】
本明細書中に記載する特異性交換体で使用することができる特異性ドメインの多様性は、多くの異なる抗体/抗原およびリガンド/受容体の相互作用が病原体(例えば、ブドウ球菌属のような細菌)上に存在するため非常に大きい。好ましい特異性ドメインは、ClfAおよびClfBのような細菌の接着タンパク質、あるいはフィブリノゲンのフラグメントと相互作用する他の細菌受容体に向けられ、また特異性ドメインは、肝炎、fluおよびHIVのようなウイルスに向けられる。本明細書中に記載する特異性交換体で使用することができる抗原ドメインの多様性はまた、多くの異なる支持体および多くの異なる糖類または糖類群(groups of saccharides)を使用することができるため非常に大きいものである。「糖類」という用語は、単糖類、二糖類、多糖類(グリカン)、オリゴ糖およびその他の類似化合物を包括的に包含するように広く解釈されることを意図している。「複合糖質」という用語もまた広く解釈されるべきであり、概ね支持体に結合された1つまたはそれ以上の糖質単位(例えば、糖類)から構成される有機化合物を指す。
【0027】
幾つかの実施形態では、特異性ドメインは、複数の糖類および/または複合糖質とともに支持体に連結される。「支持体」は、ペプチド骨格(例えば、上述のような抗原ドメイン)、タンパク質、樹脂、あるいは糖類もしくは特異性ドメインを連結または固定化するのに使用することができる任意の高分子構造であり得る。糖類および特異性ドメインは、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基またはアミノ基と支持体上の反応基を介した共有結合により、酸化ケイ素材料(例えば、シリカゲル、ゼオライト、珪藻土またはアミノ化ガラス)のような無機支持体に結合され得る。幾つかの実施形態では、支持体は、疎水性非共有結合相互作用により特異性ドメインおよび/または糖類もしくは糖類複合体(例えば、糖脂質)の一部と相互作用する疎水性表面を有する。場合によっては、支持体の疎水性表面は、疎水性基が結合されたプラスチックまたは任意の他のポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリエチレンまたはポリビニル)のようなポリマーである。
【0028】
さらに、タンパク質およびオリゴ/多糖類(例えば、セルロース、デンプン、グリコー
ゲン、キトサンまたはアミノ化セファロース)のような支持体を、ヒドロキシル基もしくはアミノ基のような特異性ドメインまたは糖類上の反応基を利用して共有結合を形成するように支持体上の反応基に連結することにより使用できる。糖類および特異性ドメインを付加するため化学的に活性化された他の反応基を有するさらに多くの支持体を使用することができる(例えば、臭化シアン活性化マトリックス、エポキシ活性化マトリックス、チオゲルおよびチオプロピルゲル、クロロギ酸ニトロフェニルおよびクロロギ酸N−ヒドロキシスクシンイミド結合、またはオキシランアクリル系支持体)。
【0029】
より大きな可撓性を付与し、かつ遭遇し得るあらゆる立体障害を克服するために、特異性ドメインおよび/または複数の糖類と支持体との間に適切な長さのリンカー(例えば、λファージの可撓性領域を模倣するように操作した「λリンカー」)を挿入することもまた意図される。最適な結合を可能にするリンカーの適切な長さは、本明細書中に詳述する特性評価において様々なリンカーと結合させた分子をスクリーニングすることにより決定できる。
【0030】
好ましい実施形態は、複合糖質ならびに糖タンパク質、プロテオグリカン、糖ペプチド、ペプチドグリカン、糖アミノ酸、グリコシルアミノ酸、糖脂質および関連化合物と一般に称される、支持体に結合された糖類を含む特異性交換体を包含する。本明細書中に記載する実施形態で使用できる糖タンパク質は、糖質およびタンパク質を含有する化合物を包含する。糖質は、単糖類、二糖類(複数可)、オリゴ糖(複数可)、多糖類(複数可)、それらの誘導体(例えば、スルホ置換またはホスホ置換)および他の類似化合物であり得る。使用できる糖タンパク質には2つの主要な種類、すなわちO結合型グリカンおよびN結合型グリカンが存在する。N結合型糖タンパク質は、タンパク質中のアスパラギン残基のアミド窒素に連結されたN−アセチルグルコサミン残基を含有する。最も一般的なO結合型は、タンパク質のセリンまたはスレオニン残基に連結されたオリゴ糖中の末端N−アセチルガラクトサミン残基を包含する。糖タンパク質を含む特異性交換体は、1個、数個または多数の糖質単位を含むことができる一方で、幾つかの実施形態は、アミノ糖を含有する多糖類である糖タンパク質のサブクラスであるプロテオグリカンを含む。
【0031】
本明細書中に記載する実施形態の幾つかで使用することができる糖ペプチドは、Lおよび/またはDアミノ酸から構成されるオリゴペプチドに連結された糖質を有する化合物を包含する。使用できるペプチドグリカンは、D−グルコサミンおよびムラミン酸{2−アミノ−3−O−[(R)−1−カルボキシエチル]−2−デオキシ−D−グルコース}またはL−タロサミニュロン酸(2−アミノ−2−デオキシ−L−タルロン酸)のいずれかの残基を交互に連結することにより形成されるグリコサミノグリカン(通常、N−アセチル化またはN−グリコシル化されている)を含む。
【0032】
本明細書中に記載する実施形態で使用することができる糖アミノ酸は、単一のアミノ酸に結合した糖類を含むのに対して、使用することができるグリコシルアミノ酸は、グリコシル結合(O−、N−またはS−)によりアミノ酸に連結された糖類を含む化合物を包含する(ハイフンは、糖質が必然的にアミノ基に連結される、という暗示を回避するために使用している)。幾つかの実施形態では、抗原ドメインは、グリコシド結合により、例えばアシルグリセロール、スフィンゴイド、セラミド(N−アシルスフィンゴイド)またはリン酸プレニルのような疎水性部分に連結された1またはそれ以上の単糖類残基を含む化合物である糖脂質を含む。本明細書中に記載する特異性交換体の幾つかはまた、複合糖質(例えば、レクチン)を含むことができる。
【0033】
しかしながら、好ましい実施形態は、一般に血液型抗原と称されるヒトタンパク質または複合糖質を含む特異性交換体を包含する。これらの抗原は、一般に赤血球膜の外側に位置する表面マーカーである。これらの表面マーカーの多くはタンパク質であるが、脂質ま
たはタンパク質に結合した糖質であるものもある。構造的に、本明細書中に記載する実施形態で使用することができる血液型決定基は、I型およびII型として知られる2つの基本的なカテゴリーに分類される。I型は、N−アセチルグルコサミンとの間で1−3β結合されたガラクトースから構成される骨格を含む一方で、II型は、代わって同じ構成単位(building blocks)間の1−4β結合を含む(N−アセチルラクトサミンを参照)。これらの骨格構造のa−フコシル化の位置および程度は、Lewis型およびH型特異性を生じさせる。したがって、N−アセチルグルコサミンのC4ヒドロキシルでのモノフコシル化(I型シリーズ)はLea型を構成するのに対して、この糖のC3ヒドロキシルのフコシル化(II型シリーズ)は、Lex決定基を構成する。ガラクトース領域(sector)のC2ヒドロキシルにおけるLeaおよびLex型のさらなるフコシル化は、それぞれLebおよびLey型を特定する。
【0034】
骨格中のガラクトース部分におけるC2ヒドロキシルでのa−モノフコシル分岐の存在のみが、H型特異性(I型およびII型)を構成する。a−結合ガラクトースまたはa−結合N−アセチルガラクトサミンのヒドロキシル基における置換によるH型のさらなる置換は、なじみ深い血清学的血液型分類A、BおよびOの分子的基盤を提供する(例えば、Lowe, J.B., The Molecular Basis of Blood Diseases, Stamatoyannopoulos, et al., eds., W.B. Saunders Co., Philadelphia, Pa., 1994, 293を参照)。
【0035】
患者の血液型抗原の特定の組をまず決定することにより、患者における特異性交換体の抗原ドメインに対する強力な応答を発生させ、それにより患者中に存在する抗体を、特異性交換体の特異性ドメインに特異的な病原体へと向け直すように、患者のレパートリー以外の1またはそれ以上の血液型抗原を含む特異性交換体を選択することができる。したがって、幾つかの異なる病原体に特異的な特異性交換体を、血液型抗原の多くの異なる組合せを含む抗原ドメインを有するように作成することができ、その結果、強力な免疫応答を任意の特定個体で得ることが可能である。次の節では、糖類および複合糖質、特に血液型抗原を含む特異性交換体の製造についてより詳細に記載する。
【0036】
糖類および複合糖質を含む特異性交換体の作製
抗原/抗体特異性交換体およびリガンド/受容体特異性交換体の製造はすでに記載されている(例えば、米国特許第5,869,232号、同第6,040,137号、同第6,245,895号、同第6,417,324号、同第6,469,143号、同第6,660,842号、ならびに米国出願第09/839,447号、同第09/839,666号、同第09/664,945号、同第10/372,735号および同第09/664,025号、ならびに国際出願PCT/SE95/00468号およびPCT/IB01/00844号およびPCT/IB01/02327号を参照)。これらの特異性交換体の製造は、当該技術分野で既知の方法により糖類および複合糖質を連結する、または組み込むように変更しても良い。
【0037】
しかしながら、かかる血液型物質およびそれらの新規複合糖質の合成を意図する場合に幾つかの問題を考慮する価値はある。経済的な合成を目的とした場合には、従来の複雑な分岐状糖質の合成に共通である、手の込んだ保護基の操作を軽減することが有用である。別の問題は、タンパク質担体に連結された決定基の構築を包含する。かかる構築物を巧妙に作製する際には、糖質決定基と担体との間に適切なスペーサーユニットを組み込むことが有益であるかもしれない(例えば、Stroud, M.R., et al., Biochemistry, 1994, 33, 10672、Yuen, C.-T., et al., J. Biochem., 1994, 269, 1595、およびStroud, M. R., et al., J. Biol. Chem., 1991, 266, 8439を参照)。
【0038】
表2は、特異性交換体に連結され得るか、または組み込まれ得る血液型抗原の包括的リストを提供する。
【0039】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0040】
別の血液型としては、Lewisx−BSA、2’−フコシルラクトース−BSA(2’FL−BSA)、ラクト−N−フコペンタオースII−BSA、ラクト−N−フコペンタオースIII−BSA、ラクト−N−フコペンタオースI−BSA(LNFPI−BSA)、ラクト−N−ジフコヘキサオースI−BSA(LNDFHI−BSA)、血液型A−BSA、血液型B−BSA、グロボトリオース−HSA、Gala1−4Galb1−4Glc−HSA等を挙げることができる。
【0041】
血液型抗原について詳述してきたが、任意の糖類または複合糖質を本明細書中に記載する特異性交換体の抗原ドメイン中に含ませることができることを指摘しておくことは重要である。抗原性糖類および抗原性複合糖質は、当該技術分野で既知であり、V-Labs, Inc.
(Covington, LA)のような商業用供給業者から容易に入手可能である。糖類および複合糖質はまた、従来の技法を用いて(後でより詳細に記載する)合成することもできる。本発明で使用できる見込みのある糖類および複合糖質は、病原体(細菌、ウイルス(例えば、HBV由来のL、MおよびS糖タンパク質、ならびにHIV由来のgp160、gp120およびgp41)、原虫および真菌を含む)、癌細胞、毒素、自己免疫疾患(例えば、狼瘡、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、糖尿病、乾癬、グレーヴズ病等)に冒された細胞に由来し得る。
【0042】
本明細書中に記載する抗原ドメインにおいて使用することができる特定のコア構造の新規糖タンパク質としては、N−アセチルラクトサミン−BSA(3原子スペーサー)、N−アセチルラクトサミン−BSA(14原子スペーサー)、α1−3,α1−6マンノトリオース−BSA(14原子スペーサー)等が挙げられる。本明細書中に記載する抗原ドメインにおいて使用することができる単糖類の新規糖タンパク質としては、N−アセチルグルコサミン−BSA(14原子スペーサー)、N−アセチルガラクトサミン−BSA(14原子スペーサー)等が挙げられる。本明細書中に記載する抗原ドメインにおいて使用することができる腫瘍抗原の新規糖タンパク質としては、T−抗原−HSA Galβ1−3GalNAc−HSA(3原子スペーサー)、Tn−抗原−HSA GalNAcal−O−(Ser−N−Ac−CO)−スペーサー−NH−HSA等が挙げられる。本明細書中に記載する抗原ドメインにおいて使用することができるシアリル化された新規糖タンパク質としては、3’シアリル−N−アセチルラクトサミン−BSA(3原子スペーサ
ー)、3’−シアリル−N−アセチルラクトサミン−BSA(14原子スペーサー)、3’−シアリルLewisx−BSA(3原子スペーサー)、3’−シアリルLewisx−HSA(3原子スペーサー)、3’−シアリル−3−フコシル−ラクトース−BSA(3原子スペーサー)、3’−シアリルLewisx−BSA(14原子スペーサー)等が挙げられる。
【0043】
ある実施形態では、抗原ドメインは、糖質抗原であるGalα(1,3)Galβ(gal抗原)を包含することができる。gal抗原は、グリコシル化酵素であるガラクトシルトランスフェラーゼ(α(1,3)GT)により、ブタ、マウスおよび新世界サルの細胞で大量に生産される。ガラクトシルトランスフェラーゼは、細胞のゴルジ装置中で活性化しており、ガラクトースを糖供与体であるウリジン二リン酸ガラクトース(UDP−ガラクトース)から糖脂質および糖タンパク質の糖鎖上の受容体であるN−アセチルラクトサミン残基へ転移させて、gal抗原を形成する。
【0044】
gal抗原は、α(1,3)GTをコードする遺伝子が進化の過程で不活性化されるようになったため、ヒト、類人猿および旧世界サルでは全く存在しない(Xing et al., O1-2-x1 Cell Research 11(2):116-124 (2001))。ヒトおよび旧世界霊長類は、gal抗原を欠如しているため、ヒトおよび旧世界霊長類は、gal抗原に対して免疫耐性ではなく、消化管細菌による抗原性刺激に応答して、生涯を通して抗gal抗原抗体(抗Gal)を生産する(同文献)。1%もの循環B細胞がこれらの抗体を生産することが可能であると推定されている(同文献)。ドナー器官における内皮細胞の表面上の糖脂質および糖タンパク質上で発現されるgal抗原への抗Galの結合は、補体カスケードの活性化および超急性拒絶を招き、また補体非依存性遅延型異種移植片拒絶の発生において重要な役割を果たす(同文献)。したがって、gal抗原は、強力な免疫応答を作り出す能力を有する。
【0045】
ある実施形態では、特異性交換体に連結、または組み込まれるgal抗原は、galα(1,3)gal系の新規糖タンパク質から選択され、Gala1−3Gal−BSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Gal−BSA(14原子スペーサー)、Gala1−3Gal−HSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Gal−HSA(14原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4GlcNAc−BSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4GlcNAc−BSA(14原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4GlcNAc−HSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4GlcNAc−HSA(14原子スペーサー)、Galiliの五糖類−BSA(3原子スペーサー)等を挙げることができる。他の実施形態では、gal抗原は、Gala1−3Galβ1−4Glc−BSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4Glc−HSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−3GlcNAc−BSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−3GlcNAc−HSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4(3−デオキシGlcNAc)−HSA(3原子スペーサー)、Gala1−3Galβ1−4(6−デオキシGlcNAc)−HSA等を含むgalα(1,3)gal類縁体の新規糖タンパク質から選択することができる。
【0046】
Danishefskyらは、幾つかの抗原性糖類および複合糖質、ならびに上記化合物を合成する方法を開示している(例えば、米国特許第6,303,120号を参照)。具体的には、この特許は、Ley関連抗原ならびにオリゴ糖の人工タンパク質複合体を合成する方法を提供する。ある実施形態では、これらの抗原は、B体(entities)とC体との間のα結合、ならびにβ結合された環Dgal−NAc残基を含む新規の一連の特徴を含有する(フコース残基を欠如する関連構造(SSEA−3)の合成に関しては、Nunomura, S.; Ogawa, T., Tetrahedron Lett., 1988, 29, 5681-5684を参照)。一般に、特異性交換体に本
明細書中に記載する糖類もしくは複合糖質を連結するもしくは取り込むために、米国特許第6,303,120号に記載される方法を使用または改変することができる。
【0047】
糖鎖生物学の分野における主要な障害は、純粋かつ化学的に明確な、複雑な糖質および複合糖質を得ることである(Randell, Karla D., et al., High-throughput Chemistry toward Complex Carbohydrates and Carbohydrate-like Compounds, National Research Council of Canada, publication no. 43876, February 13, 2001を参照)。核酸およびポリペプチドと異なり、これらは、非線状分子であり、糖質部分の全合成の開発には多大な困難を強いられる(同文献)。これらのポリヒドロキシ化合物は、一連の単糖類ユニットを含有し、それらの間に様々なグリコシド結合を有する(同文献)。グリコシド結合はそれぞれ、αまたはβアノマー型立体配置で存在することができる(同文献)。したがって、糖質合成は、多くの直交する保護−脱保護スキームを要求する可能性があり、困難なグリコシルカップリング反応を包含する(同文献)。近年、複雑な糖質の自動合成を開発する努力がなされている(同文献)。
【0048】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチドを合成するための技法よりも遥かに複雑ではあるが、糖類および複合糖質を合成するための技法は当該技術分野で既知である。これらの技法は、酵素をベースにしたアプローチ、細胞をベースにしたアプローチ、および化学合成をベースにしたアプローチに該当するよう、以下に示す節で論議する。
【0049】
酵素合成
本明細書中に記載する糖類および複合糖質を合成する種々の方法は、Nishiguchiらに発行された米国特許第6,046,040号(2000年)に見出すことができる。具体的には、この特許は、糖類および複合糖質を合成するために酵素を触媒とするin vitro反応を使用することを開示する。さらにToone et al., Tetrahedron Reports (1990)
(45) 17: 5365-5422を参照されたい。酵素的アプローチは、一つには、酵素は完璧な立体および位置選択性を特色として有し、かつ非常に温和な条件下で反応を触媒することを理由に、糖類および複合糖質の合成に関して人気がある。したがって、大がかりな保護−脱保護スキームは不要であり、アノマー立体配置の制御も簡素化される。
【0050】
本明細書中に記載する特異性交換体の幾つかを生産するために、以下の酵素を使用してもよい:サッカルグリコシルトランスフェラーゼ(saccarglycosyltransferase)、グリコシダーゼ、グリコシルヒドロラーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼ。グリコシルトランスフェラーゼは、細胞における糖質抗原の生合成を調節し、逐次的な様式で糖脂質および糖タンパク質上のオリゴ糖鎖への糖質の付加を担う。グリコシルトランスフェラーゼは、段階的な様式で、タンパク質または脂質への、あるいは伸長中のオリゴ糖の非還元末端への活性化糖の付加を触媒する。通常、比較的多数のグリコシルトランスフェラーゼが糖質を合成するのに使用される。NDP糖残基はそれぞれ、別種のグリコシルトランスフェラーゼを必要とし、現在までに同定された100個を上回るグリコシルトランスフェラーゼは、特有のグリコシド結合の形成を触媒するようである。
【0051】
酵素を触媒とするある合成方法によれば、糖類は、グリカールを利用する固相法を用いて合成される(Danishefsky et al., Science, 260, 1307 (1993))。この方法は、(i)グリカールと3,3−ジメチルジオキシランとの間の反応を可能にするためのジフェニルシリル基を介したポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーへのグリカールの結合(これが、グリカールを1,2−アンヒドロ糖へ変換する)、ならびに(ii)このアンヒドロ糖を糖供与体として用いた、グリコシドグリカールを形成するように適切に保護された種々のグリカールとの反応、を含み、これらの工程が繰り返される。この方法に従って、新たなグリコシド結合が立体選択的に形成される。
【0052】
糖鎖合成の固相法はまた、本明細書中に記載する特異性交換体において使用される糖類または複合糖質を生成するのに使用することができる。この方法は、何の保護もせずにグリコシド結合を立体選択的に形成することが可能である、グリコシルトランスフェラーゼを利用する。これまで、この方法は、利用可能なグリコシルトランスフェラーゼが本質的に限られており、かつ高価であるという事実に起因して、その潜在能力を発揮するに至らなかった。しかしながら、近年、様々なグリコシルトランスフェラーゼの遺伝子が単離され、遺伝子工学的技法によるグリコシルトランスフェラーゼの大量生産は普及している。
【0053】
U.Zehavi等は、本明細書中に記載する特異性交換体の幾つかを製造するのに使用することができる固相合成方法を報告しており、その方法ではグリコシルトランスフェラーゼおよび固相担体上のアミノヘキシル基に結合されたポリアクリルアミドゲルが使用される(Carbohydr. Res., 124, 23 (1983), Carbohydr. Res., 228, 255 (1992)を参照)。この方法は、適切な単糖類を4−カルボキシ−2−ニトロベンジルグリコシドへ変換する工程、このグリコシドを上述の担体のアミノ基と縮合する工程、プライマーとして縮合体を用いてグリコシルトランスフェラーゼにより糖鎖を伸長する工程、および光分解によりオリゴ糖を放出させる工程を含む。
【0054】
これまで、グリコシルトランスフェラーゼは、固相担体に結合された糖類または複合糖質と十分に反応せず、糖鎖の効率的な伸長は達成するのが困難であると一般的に認識されていた。しかしながら、より最近になって、長鎖を有するリンカー(例えば、ヘキサメチレンおよびオクタメチレン)による4−カルボキシ−2−ニトロベンジルグリコシドと固相担体との間の結合により、糖転移収率が最大51%改善されることが発見されている(React. Polym., 22, 171 (1994), Carbohydr. Res., 265, 161 (1994))。
【0055】
C.H. Wongらは、酵素的合成の方法を報告しており、この方法では、グリコシルトランスフェラーゼは、アミノ化されたシリカに結合された糖残基を伸長するのに使用され、完了後に、伸長された糖鎖は、α−キモトリプシンを用いて支持体から切断される(J. Am.
Chem. Soc., 116, 1136 (1994)を参照)。この方法では、トランスグリコシル化反応の収率は55%であった。同様に、M.Meldalらは、グリコシルトランスフェラーゼならびにプライマーとしてジアミノ化ポリ(エチレングリコール)のモノおよびジアクリロイル化合物のポリマーを用いて、糖鎖を伸長する別の方法を報告している。糖鎖は、トリフルオロ酢酸により放出された(J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1849 (1994)を参照)。上述のように、糖鎖が固相担体上でグリコシルトランスフェラーゼにより伸長される場合、糖残基へ固相担体を結合させる基(リンカー)(初期トランスグリコシル化の受容体)の種類によって、トランスグリコシル化の収率は変動する。糖鎖を担体から遊離させる場合には、リンカー中に特異的に切断可能な結合が存在するのが望ましい。グリコシルトランスフェラーゼによる糖鎖伸長では、反復使用を可能にする固定化グリコシルトランスフェラーゼの使用もまた望ましい。好ましくは、固定化グリコシルトランスフェラーゼが糖鎖伸長に使用される場合、反応は、水溶性担体上で実施される。
【0056】
Nishiguchiらに発行された米国特許第6,046,040号(2000年)は、固定化グリコシルトランスフェラーゼおよび水溶性担体を用いた糖鎖合成について記載している。したがって、本明細書中に記載の糖含有抗原ドメインを生成するためのアプローチの1つでは、以下の工程を使用できる:(i)選択的に切断可能な結合を有するリンカーを介して水溶性ポリマーの側鎖へ糖鎖を結合することによりプライマーを作製し、かつ上記プライマーを、糖ヌクレオチドの存在下で固定化グリコシルトランスフェラーゼと接触させて、上記プライマーの糖残基へ上記糖ヌクレオチドの糖残基を転移させる工程、(ii)工程(i)を少なくとも1回繰り返すことにより、複数の糖残基の転移により糖鎖を伸長する工程、(iii)必要に応じて、副生したヌクレオチドまたは未反応の糖ヌクレオチドを除去する工程、および(iv)必要に応じ、工程(i)〜(iii)を繰り返し、か
つ複数の糖残基の転移により伸長された糖鎖を結合している上述のプライマーから、リンカー中の切断可能な結合を選択的に切断することにより糖鎖を放出する工程。米国特許第6,046,040号に開示される方法は、同様にオリゴ糖、糖ペプチドおよび糖脂質のような最適な糖鎖構造を有する複合糖質を合成する際に使用できる。糖類または複合糖質合成の自動スキームへの酵素の適用もまた可能である。溶液法および固相法はともに、自動合成に使用することができる。
【0057】
幾つかの実施形態では、酵素を利用して糖類および複合糖質を合成する装置を、本発明において使用することができる。例えば、米国特許第5,583,042号は、特定の糖類および複合糖質を合成するための、グリコシルトランスフェラーゼを組合せて利用する装置について記載している。次の節は、糖類または複合糖質を含む特異性交換体を製造するための幾つかの細胞をベースにしたアプローチについて記載する。
【0058】
細胞をベースとした合成
in vitroでの酵素を触媒とする反応を使用するほかに、任意の利用可能な細胞をベースとした方法を用いて、本明細書中に記載する糖類および複合糖質を合成することができる。米国特許第6,458,937号は、糖類および複合糖質を合成するための幾つかの細胞をベースとしたプロトコルについて記載している。本明細書中に記載する特異性交換体を合成するためのアプローチの1つでは、糖類および複合糖質はまず、(a)細胞を第1の単糖類と接触させること、および(b)上記細胞を、上記細胞が(i)上記第1の単糖類を細胞内に取り込み、(ii)上記第1の単糖類を第2の糖類へと生化学的にプロセシングし、(iii)上記糖類を担体に結合させて複合糖質を形成し、かつ(iv)上記複合糖質を細胞外に発現させて選択的反応性の官能基を含む細胞外複合糖質を形成する条件下でインキュベートすること、により作製される。続いて、上記官能基を含有する複合糖質を、反応性の官能基を含む特異性交換体と反応させることにより、上記複合糖質および特異性交換体は連結される。主題の組成物は、例えば、特異性交換体上に存在する類似の官能基と選択的に反応する窒素またはエーテル結合官能基を含む細胞適合性単糖類を含むことができる。
【0059】
別のアプローチでは、糖類および複合糖質は、a)細胞を、第1の官能基を含む第1の単糖類と接触させること、および(b)上記細胞を、上記細胞が(i)上記第1の単糖類を細胞内に取り込み、(ii)上記第1の単糖類を、第2の官能基を含む第2の単糖類へと生化学的にプロセシングし、(iii)上記第2の単糖類を担体に結合させて、第3の官能基を含む複合糖質を形成し、かつ(iv)上記複合糖質を細胞外に発現させて、第4の選択的反応性の官能基を含む細胞外複合糖質を形成する条件下でインキュベートすること、により合成することができる。
【0060】
上記方法により合成される細胞外複合糖質は、膜結合形態(例えば、膜結合糖脂質または糖タンパク質)、細胞近接構造と結合した形態(例えば、細胞外マトリックス成分または隣接細胞)あるいは周囲の培地もしくは液体中での形態(例えば、分泌糖タンパク質として)のような多数の形態で提示され得る。上記第4の官能基の選択的反応性により、上記細胞により提示される複合糖質の選択的なターゲッティングが可能となる。例えば、表面関連複合糖質の第4の官能基は、細胞表面の関連領域の状況に応じて、複合糖質の選択的ターゲッティングを可能とする反応性を提供することができる。反応性は、より反応性の大きい状況に選択的に影響されるかもしれない。例えば、複合糖質に結合した第4の官能基は、複合糖質の部位に近接して存在するが複合糖質と結合はしていない官能基と比較した場合、より大きい到達性、より大きな頻度、または高い反応性を提供する。好ましい実施形態では、第4の官能基は、複合糖質の提示領域に特有である。
【0061】
第4の官能基により提供される選択的反応性は、核反応性(例えば、ホウ素原子の中性
子反応性)および化学的反応性(共有結合および非共有結合反応性をそれぞれ含む)を含む各種形態をとり得る。いずれの場合でも、第4の官能基は、必要とする選択的反応性に対して十分であるべきである。提示の状況に応じて、多種多様の化学的反応性を利用して選択性を提供してもよい。例えば、細胞表面に結合した複合糖質に適用可能な第4の官能基としては、細胞表面において通常は利用しにくい共有結合反応基(アルケン、アルキン、ジエン、チオール、ホスフィンおよびケトンを含む)が挙げられる。適切な非共有結合性の反応基としては、ビオチンのようなハプテン、およびジニトロフェノールのような抗原が挙げられる。
【0062】
さらなる実施形態では、発現される複合糖質の性質は、第1の単糖類、細胞型およびインキュベーション条件の関数である。これらの実施形態では、細胞の常在性生化学的経路は、第1の単糖類を第2の単糖類へ生化学的にプロセシングし、上記第2の単糖類を細胞内担体(例えば、オリゴ/多糖類、脂質またはタンパク質)へ結合させ、かつ最終的な複合糖質を細胞外で発現させるように作用する。あるいは、発現された複合糖質はまた、さらなる操作の関数であっても良い。例えば、第4の官能基は、当初細胞により発現された第3の官能基を修飾することに由来しても良い。例えば、第3の官能基は、第4の官能基を生成するために発現後の処理(例えば、化学的切断または活性化)を要する潜在的な官能基、または遮蔽もしくはブロックされた官能基を含むかもしれない。そのような処理は、細胞にとって内因性の酵素により、あるいは外因性の操作により達成され得る。したがって、第3および第4の官能基は、細胞内外においてなされるプロセシングに応じて、同一であっても、または異なっていても良い。
【0063】
以上に示されるように、官能基は、別の官能基の、遮蔽された、潜在的な、または未完成の形態であり得る。遮蔽または保護された官能基およびそれらの遮蔽されていない対応物の例を表3に示す。遮蔽基は、任意の都合の良い方法で遊離させることができる。例えば、ケタールまたはエノールエーテルは、低pHで促進される加水分解により、対応するケトンに変換され得る。あるいは、特定の保護基を切断することによって官能基の遮蔽を外す、多くの特異的酵素が既知である。
【0064】
【表3】

【0065】
対照的に、細胞内複合糖質(第3の官能基を含む)の性質は、一般に第1の単糖類、細胞型およびインキュベーション条件のみの関数である。例えば、第1および第2の単糖類、ならびに細胞内複合糖質に組み込まれた糖類部分(ならびに、第1、第2および第3の官能基)は、細胞によるプロセシングに応じて、同じであり得るか、または異なり得る。例えば、第1の単糖類または官能基、細胞および条件は、それぞれ、化学的に別個の第2の単糖類または官能基を形成するように相互作用し得る。例えば、単糖類を相互変換し、かつ/または様々な官能基を化学的に変換する多くの生化学的経路が既知である。したがって、所定の相互変換が、第1の単糖類、細胞およびインキュベーション条件の選択により提供される。
【0066】
第1の単糖類は、細胞の、許容性の生化学的経路を利用して、細胞外複合糖質の発現を達成するように選択される。例えば、シアル酸生合成の多くの経路が、多種多様なマンノースおよびグルコース誘導体に対して許容性であることが示されている。第1の官能基は、様々な方法で第1の単糖類に組み込まれ得る。好ましい実施形態では、官能基は、窒素またはエーテル結合される。
【0067】
開示される方法によれば、真核細胞、特に哺乳類細胞(例えば、ブタ、マウスおよび新世界サル)および原核細胞を含む多種多様の細胞が使用され得る。細胞は、培養系中に存在してもよく(例えば不死化培養物または初代培養物)、あるいはin situに存在(例えば生物体中に存在)してもよい。
【0068】
本明細書中の方法はまた、細胞に結合された生成物を形成することを志向する。概して、これらの方法は、上述のように細胞外複合糖質を発現させることを包含し、ここで発現された複合糖質は、例えば膜または細胞外マトリックス成分に結合されることにより、細胞に近接して保持される。続いて、第4の官能基は、第4の官能基と選択的に反応する作用物質と接触させられて、生成物を形成する。
【0069】
多種多様の作用物質を用いて、多種多様の生成物を生成することができるかもしれない。一般に、作用物質の選択は、第4の官能基および所望の生成物の性質により左右される。例えば、化学的に活性な第4の官能基に対しては、作用物質は、第4の官能基と選択的に化学反応する第5の官能基を提供する。例えば、第4の官能基がケトンである場合、適切な第5の官能基としては、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、アシルヒドラジド、チオセミカルバジドおよびβ−アミノチオールが挙げられる。他の実施形態では、第5の官能基は、抗体イディオトープのような選択的な非共有結合基である。さらに別の実施形態では、適切な作用物質としては、ホウ素原子のような放射線増感剤を含む第4の官能基と選択的に反応するα粒子のような放射能、また、表面金属錯体を含む第4の官能基と反応する、酸素のような酸化剤等が挙げられる(例えば細胞毒性酸化性種などを生成するため)。あるいは、細胞表面上の官能基は、外部の作用物質(例えば、電子顕微鏡法による検出用の標識としてはたらく重金属)の添加を必要としない特有の特性を有してもよい。細胞表面官能基と作用物質の相互作用により形成される生成物のさらなる例を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
作用物質は活性化因子部分を高頻度で含み、細胞で所望の活性を提供する。細胞または周辺細胞の生理機能を変更させる部分、細胞を標識する部分、細胞を環境的刺激に感作させる部分、病原体または遺伝子トランスフェクションへの細胞の感受性を変更させる部分等を含む多種多様の活性化因子部分が使用され得る。活性化因子部分としては、たとえば毒素、薬物、検出可能標識、遺伝子ベクター、分子受容体およびキレート化剤が挙げられる。
【0072】
本願の開示する方法において有用な、多種多様の組成物を本明細書中で提供する。これ
らの組成物は、官能基、好ましくは窒素またはエーテル結合官能基を含む細胞適合性単糖類を含み、その基は、細胞表面で選択的に反応性である。かかる化合物の官能基の例としては、アルキン、ジエン、チオール、ホスフィン、ホウ素、特にケトンが挙げられる。置換または無置換アルキルという用語は、アルコキシ、シクロアルキル、ヘテロアルキルおよび類似化合物を包含するように意図される。同様に、置換または無置換アリールという用語は、アリールオキシ、アリールアルキル(アリールアルコキシ等を含む)、ヘテロアリール、アリールアルキニルおよび類似化合物を包含するように意図される。置換または無置換アルケニルという用語は同様に、シクロアルケニル、ヘテロアリール等を包含するように意図される。類似誘導体は、生体組込みの許容性の経路を有する他の単糖類を用いて作製される。かかる単糖類は、以下に記載するような利便性の高い細胞およびタンパク質をベースとしたスクリーニングで容易に同定される。例えば、細胞表面複合糖質へ組み込まれた機能化単糖類は、相補的な反応性の官能基を有する蛍光標識を用いて検出することができる。機械化されたハイスループット光学式読取りに適した、細胞をベースとしたアッセイは、ビオチンヒドラジドとの反応、続くFITC標識アビジンとのインキュベーションにより細胞表面上のケトン保有単糖類を検出すること、および続いて自動フローサイトメトリーにより細胞表面上の蛍光マーカーの存在を定量化することを包含する。利便性の高いタンパク質をベースとしたスクリーニングは、複合糖質の単離(例えば、ゲルブロット)、アフィニティー固定化、および相補性反応プローブによる検出(例えば、ケトン保有複合糖質はビオチンヒドラジドで検出される)、続くアビジン−アルカリホスファターゼまたはアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼによるインキュベーションを包含する。あるいは、通常の官能基を保有する単糖類はまた、複合糖質の加水分解、続く単糖類の自動HPLC分析により検出することができる。以下の節は、化学合成方法を利用する本明細書中に記載する特異性交換体を製造するための幾つかのアプローチについて記載する。
【0073】
化学合成
酵素を触媒とする方法および細胞をベースとした方法のほかに、糖類および複合糖質を含む特異性交換体は、化学合成に関する方法を用いて作製することができる。糖類および複合糖質を合成するのに使用される方法の例は、Pamela Sears et al., Toward Automated Synthesis of Oligosaccharides and Glycoproteins, Carbohydrates and Glycobiology 291 Science 2344 (March 23, 2001)に見出すことができる。化学合成のほとんどの方法が、ルイス酸によるアノマー脱離基の活性化を包含する。広範囲に使用されている第1の技法の1つである、ハロゲン化グリコシルをカップリングするケーニヒス・クノール法は、依然として慣用法であり、今日までに使用される他の多くのグリコシド化試薬でも、基本的に同様の機構で反応が進行する。
【0074】
糖類および複合糖質の化学合成もまた、自動で実施することができる。一般に、自動合成に関しては、反応を固相上で行うのが便利である。このアプローチでは、反応物質の迅速な除去、比較的容易な精製、および、(ライブラリー構築の場合には)位置によるか(2次元アレイ「チップ」方式と同様)、あるいは「ミックスおよびスプリット(mix and split)」型ライブラリー構築に対してはアクセサリーコード化(accessory encoding)反応(ここで、鎖が伸長されると同時に、標識は固体支持体に付加される)によるか、あるいは高周波によるコード化コンビナトリアルケミストリー技術による、生成物のコード化が可能になる。ポリエチレングリコールをベースとした樹脂のような親水性支持体は、ポリエチレンで被覆されたポリスチレンコアを有するTentagelのような「ハイブリッド」樹脂と同様、良好な結果を伴って使用されている。程度は低くなるが、たとえばポリエチレングリコールや誘導体のような可溶性支持体が、糖類合成に使用されている。
【0075】
糖類および複合糖質合成に使用することができる別のアプローチは、ワンポット(one-pot)反応である。ワンポット反応は、種々の保護された糖の反応性プロフィールに依存
して、合成する生成物を決定する。糖の反応性は、使用する保護基およびアノマー活性化基に大きく依存する。最も反応性が高いものから最も反応性が低いものまで順に基質を添加することにより、所望の目的化合物を主生成物として確実に得ることができる。このアプローチでは、種々の保護糖の相対的反応性に関する広範囲な定量データを有していることが重要であり、それらは、現在ではグリコミクスの技術分野の当業者により作成されつつある。これらの反応は通常、溶液中で行われるが、最終的に反応物質の除去を容易にするために、最終的なアクセプターは固相に結合されていてもよい。
【0076】
このアプローチは、コンピュータプログラムのような自動化を通じてさらに効率的なものにすることができる。段階的な固相合成と比較して、ワンポットアプローチは、構成単位の合成段階のみで保護基操作を行い、したがって自動化に関して、かつオリゴ糖構造のより大きな多様性に関してより大きな潜在能力を保持している。
【0077】
さらに、幾つか他の方法論を使用して、本明細書中に記載する特異性交換体に結合または組み込まれる糖ペプチドおよび糖タンパク質を合成することができる。これらの方法の幾つかは、Pamela Sears et al., Toward Automated Synthesis of Oligosaccharides and Glycoproteins, Carbohydrates and Glycobiology 291 Science 2344 (March 23, 2001)で議論されている。アプローチの1つでは、本明細書中に記載する特異性交換体への糖類鎖の結合は段階的様式で達成され、非還元末端から始まって、還元末端へと進む。上に概説したグリカールをベースにした合成スキームおよびワンポット戦略を用いる場合と同様に、最終的なアクセプターは、アミノ酸、ペプチドまたは糖ペプチドであり得る。セリンまたはスレオニンのようなヒドロキシル化アミノ酸へのカップリングについては、その化学反応はグリコシド結合を構築する際に使用するのと全く同じである:活性化されたアノマー位置は、ペプチド上の脱保護したヒドロキシル基により直接攻撃される。NH2結合グリコシドの場合では、還元末端を有する糖は通常、まず糖アジドとして調製され、続いて還元されて、カルボジイミド活性化を介して遊離アスパラギン酸にカップリングされる。アクセプターは、アミノ酸であることが可能であり、それに対しては、生成物は固相ペプチド合成(SPPS)スキームに組み込まれて、目的の糖ペプチドを生成することができるか、あるいはそれ自体が最終ポリペプチドであってもよい。通常1〜3個の糖を保有するグリコシル化されたアミノ酸が、多くの糖ペプチドの固相合成でうまく使用されている。
【0078】
ある特定の実施形態では、本明細書中に記載する特異性交換体を含有する糖ペプチドは、化学的または酵素的方法により、還元末端から非還元末端へと段階的方法でペプチドをグリコシル化することにより合成することができる。通常、単一のグリコシル化されたペプチドはSPPSにより作製され、糖は選択的に脱保護され、オリゴ糖は、段階的方法で構築される。前記の個々にグリコシル化されたペプチドは、SPPSにより構築することができ、糖を完全に脱保護して、3つの連続的なグリコシルトランスフェラーゼの反応に用いられる基質を提供することができる。これらの糖ペプチドの合成もまた自動化することができる。
【0079】
グリコシル化されたペプチドを糖タンパク質へと伸長することもまた、多数のアプローチにより達成することができる。複数の研究者(Allen, P.Z., and Goldstein, I. J., Biochemistry, 1967, 6, 3029; Rude, E., and Delius, M. M., Carbohydr. Res., 1968, 8, 219: Himmelspach, K., et al., Eur. J. Immunol., 1971, 1, 106: Fielder, R. J.,
et al., J. Immunol., 1970, 105, 265)が、例えば、タンパク質担体への糖質の結合に関する幾つかの技法を開発した。それらの多くにおいては、リンカー自体が抗原決定基の導入を受けてしまい、結果的にポリクローナル抗体が生成してしまった。Kabat (Arakatsu, Y., et al., J. Immunol., 1966, 97, 858)およびGray(Gray, G. R., Arch. Biochem.
Biophys. 1974, 163, 426)は、それぞれ、遊離の還元オリゴ糖の酸化的または還元的カ
ップリングに依存する結合方法を開発した。しかしながら、これらの技法の主な不都合は、オリゴ糖の還元末端の完全性を犠牲にしたことである。1975年には、Lemieuxは、リンカーの抗原性の問題を軽減し、かつオリゴ糖全体を無傷の状態のままとする8−カルボメトキシ−1−オクタノールリンカーの使用について記載した(Lemieux, R. U., et al., J. Am. Chem. Soc., 1975, 97, 4076)。同様に、BernsteinおよびHallにより記載されるアリルグリコシド法は、複合糖質を生産するのに有効であった(Bernstein, M.A., and Hall, L.D., Carbohydr. Res., 1980, 78, C1.)。この技法では、遮蔽を外された糖のアリルグリコシドは、オゾン化した後、還元的な構築を行う。続いて、得られたアルデヒドは、シアノ水素化ホウ素ナトリウムによりタンパク質担体に還元的にカップリングされる。
【0080】
短いペプチドはまた、「天然のペプチド連結」戦略により、より大きなペプチドへとカップリングさせることができる。しかしながら、糖タンパク質合成に対するより簡単なアプローチは、細胞をベースとした方法により達成できる。この方法により生産されるグリカンは、グリコシル化部位周辺の局所的なタンパク質構造および細胞中で生産される糖プロセシング酵素の相対量を含む多くの要因により決定されるだろう。これらの要因の多くはまた、細胞系列により多様であり、したがってある細胞系で生産される糖タンパク質は、別の細胞系で生産される同じタンパク質とは異なるグリコシル化がなされる場合もありうる。
【0081】
しかしながら、得られた生成物は、多くのスキームに関して出発点として使用することができ、ここで糖鎖は、単純な均質のコアに至るまで消化された後、酵素的に再合成される。例えば、N−グリコシル化されたタンパク質は、エンドグリコシダーゼを使用することにより最内部のN−アセチルグルコサミンに至るまで消化された多糖を有することができ、このようにして不均質な集団を均質な集団に変換できるが、ここで各グリコシル化部位は、単一の糖のみを結合する。次に、これらの単純な糖タンパク質は、グリコシルトランスフェラーゼまたはエンドグリコシダーゼを触媒とするトランスグリコシル化を使用することにより、酵素的に合成されて、グリカンの大きさおよび複雑さを増大させることができる。トランスグリコシダーゼによるアプローチは、N2結合されたオリゴ糖の最内部のN−アセチルグルコサミン残基間を切断する酵素であるエンドグリコシダーゼの基質特異性により制限される。ある特定の実施形態では、エンドグリコシダーゼは、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)由来のエンドグリコシダーゼMであってもよく、それは、広範囲の高マンノース型グリカン、ハイブリッド型グリカンおよび複合型グリカンを受容する。
【0082】
別の選択は、プロテアーゼを使用することによりグリコシル化された部分を除去した後、その代わりに短い化学的に合成された糖ペプチドを再結合させることである。この結合は、プロテアーゼまたは翻訳後にタンパク質から自分自身を切除することが可能な自己スプライシングポリペプチドであるインテインの使用により酵素的に達成できる。後者の場合では、置換されることになるペプチドセグメントは、遺伝子レベルでインテインをコードする配列により置換される。
【0083】
プロテアーゼは、熱力学的アプローチまたは反応速度論的アプローチのいずれかを用いて、ペプチド合成を触媒することができる。熱力学的アプローチでは、通常は生成物の沈殿により、あるいは水の活性が低い溶媒中で反応を行うことにより、ペプチドを縮合させて、より大きな生成物を形成する。酵素活性、安定性および溶解性に関する限りでは、より有用なアプローチは反応速度論的アプローチであり、ここでペプチドエステルは、加水分解とアミノ分解との間の競合を受ける。加水分解に対するアミノ分解の比は、有機共溶媒を添加して水濃度を下げてアミンのイオン化を抑制することにより、あるいはアミン求核試薬濃度を増加させることにより、あるいは酵素活性部位を修飾することにより改善す
ることができる。酵素修飾に関しては、セリンプロテアーゼの活性部位であるセリンをシステインに変換することが、ペプチドリガーゼを作出するのに非常に有効であることが知られている。タンパク質のグリコシル化が、それらタンパク質のプロテアーゼ活性に対する感受性を低下させることは長い間知られており、したがって糖ペプチドを、プロテアーゼを用いてカップリングすることは困難だと推断されることになるかもしれない。しかしながら、サブチリシンを触媒とする糖ペプチド合成の体系的研究により、形成される結合部位にグリコシル化部位が存在しない場合にはプロテアーゼは首尾よく糖ペプチドをカップリングできること、およびカップリングの収率は、グリコシル化部位が、形成される結合から離れて位置するにつれて改善されたことが明らかとなっている。最も有効かつ実用的な糖ペプチドエステル脱離基の1つは、改変型Rinkアミド樹脂から生成されるベンジル型エステルであり、トリフルオロ酢酸により切断される。
【0084】
別のアプローチは、糖ペプチドの、より大きなタンパク質へのインテイン媒介性カップリングを使用することである。COOH末端のエクステインを除去し、続いて外因的に添加した求核試薬(これは、糖ペプチドであってもよい)により反応を完了させることにより、天然のスプライシング反応に干渉することが可能である。天然のペプチド連結戦略と同様に、ペプチドは好ましくは、NH2末端にシステインを含有する。
【0085】
糖タンパク質の精製手順は、グリコシル化されていないタンパク質の精製と非常に類似し得る。糖タンパク質の精製における第1の工程は、通常、糖タンパク質を可溶化することである。培地中に分泌される糖タンパク質は、無血清培地を使用して細胞を成長させた場合に、精製するのが比較的容易である。小胞中に捕捉されたままである糖タンパク質(ニワトリThy−1で見られるような)は、界面活性剤を用いて可溶化することができる。いったん界面活性剤中に入れたら、タンパク質は、水性緩衝液に対して透析することができる。
【0086】
糖タンパク質を可溶化した後、様々なクロマトグラフィ精製スキームを使用して、糖タンパク質を精製することができる。ある実施形態では、レクチンアフィニティクロマトグラフィを使用することができる。レクチンは、特定の糖類および複合糖質に高親和性で結合する非免疫タンパク質または糖タンパク質である。それらの結合特異性により、レクチンは、糖質および複合糖質に関して一連の範囲の特異性を示す。これらのレクチンは、各種支持体上に容易に固定化することができ、アフィニティクロマトグラフィに使用することができる。いったんカップリングされれば、レクチンは、たいていの緩衝液で安定である。
【0087】
Aryaらにより実施された研究は、人工糖ペプチドライブラリーのパラレル合成に関する自動多工程固相戦略の開発を導いてきた(Arya, P. et al., 7 Med. Chem. Lett, 1537, 1997)。幾つかの実施形態では、本明細書中に記載する特異性交換体は、この戦略で構築される。図1は、このアプローチを示す。
【0088】
したがって、アセテート体として保護される種々のαまたはβ炭素結合された糖質をベースとしたアルデヒドおよびカルボン酸誘導体(図1の18.1を参照)を、非常に自由自在な、かつ制御された様式で、N末端部分または短ペプチド/偽ペプチド(例えば、特異性ドメイン、または抗原ドメインに連結された特異性ドメイン)の内部アミド窒素のいずれかに組み込むことができる。C−グリコシドの鎖長は、変化させることができ、糖質部分は、ピラノースまたはフラノースのいずれかの形態で合成することができる。単糖類およびそれらの誘導体は、単なる利用可能な糖質構成単位ではない。ある特定の実施形態では、二糖類および高次オリゴ糖もまた、糖質構成単位として使用することができる。C−グリコシドは一般的に、酵素的な、および酸/塩基加水分解に対して、それらのO−グリコシド対応物よりも安定である。この方法は、アミノ酸の選択が制限されるグリコシル
化されたアミノ酸構成単位よりも融通が利く。
【0089】
このアプローチを用いて、人工糖ペプチドのライブラリーを、糖質−タンパク質相互作用を精査するために容易に合成することができる。糖質の多重コピーを教示する幾つかの「ワーキングモデル」が開発されている(図1の18.2、18.3および18.4を参照)のに対して、ジペプチドスカフォールド(dipeptide scafold)は、生物学的標的との二次的な相互作用に寄与し得る(Arya, P. et al., 8 Med. Chem. Lett. 1127, 1998; Arya, P. et al., 7 Med. Chem. 2823, 1999)。
【0090】
最初に、人工糖ペプチドは、ペプチド合成機で収斂法により合成した(Kutterer, et al., 1 J. Comb. Chem. 28, 1999)。これらの人工糖ペプチドライブラリーの合成は、完全に自動化された多重有機合成機に首尾よく移行して、合成における各工程を最適化した(Arya, P. et al., 2 Comb. Chem. 120, 2000)。この方法論は、RinkアミドMBHA樹脂またはTentaGel誘導体化Rinkアミド樹脂のような固体支持体樹脂へアミノ酸をカップリングすることを包含する。アミノ酸上の保護基を除去した後、糖アルデヒドに対して、樹脂に結合させたアミノ基を用いた還元的アミノ化(図1中の18.3および18.4を参照)、続いて第2のアミノ酸のアミノ酸カップリングを施す。アミノ酸を脱保護した後、第2の還元的アミノ化を行うことができ、かつ/または糖酸をカップリングすることができる。次に、糖部分を脱アセチル化して、化合物を樹脂から切断する。96個の化合物ライブラリーの合成が、ちょうど24個のジペプチドと2つの糖アルデヒドから得られる(Randell, Karla D., et al., High-throughput Chemistry toward Complex Carbohydrate and Carbohydrate-like Compounds, National Research Council of Canada, publication no. 43876, February 13, 2001を参照)。
【0091】
最近の文献は、本明細書中に記載する特異性交換体を製造するのに使用することができる別のアプローチについて記載している。多価環状新規糖ペプチドの合成が達成されている(Wittmann, V.; Seeberger, et al., 39 Chem. Int. Ed. 4348, 2000を参照)。Alloc保護基に基づいた新規ウレタン型リンカーがグリコシル化反応用に開発され、グリコシル化反応は実質的に定量的に進行する。環状ペプチド(例えば、特異性交換体)のライブラリーは、Sieberリンカーを介して連結されたTentaGel樹脂上で、スプリットおよびミックス方法を用いて合成することができる。図2はこのアプローチを示す。
【0092】
図2に示す合成反応は、ウェルから少量の樹脂を抜き取って、エレクトロスプレー質量分析と組み合わせたHPLCによって分析することによりモニタリングできる。糖部分のp−ニトロフェニルカーボネート誘導体(図2中の19.2を参照)を、DIPEAの存在下、5倍過剰(結合点1個当たり)の糖を用いて、環状ペプチドの3つの点に1工程で結合させた。18個の環状新規糖ペプチド(図2中の19.3を参照)のライブラリーを効率よく合成することができる。この方法論は、糖質部分間の距離ならびに糖質部分自体を変化させることにより、多くの異なるライブラリーの合成に応用することができる。以下の節は、特異性交換体および/または糖類もしくは複合糖質へのリンカーの組込みについて論述する。
【0093】
リンカー
ある特定の実施形態では、糖類または複合糖質は、上述のように、リンカーにより、あるいは共通の担体分子との結合により、特異性交換体に連結することができる。幾つかの実施形態では、リンカーは、特異性交換体の少なくとも1つのアミノ酸に糖類を連結するのに使用される。概して、「リンカー」という用語は、分子の可撓性を促進するか、立体障害を低減させるか、あるいは特異性交換体を支持体または他の分子へ結合させる要素を指す。任意の適切なリンカーを用いて、糖類および/または複合糖質を特異性交換体へ結
合させることができる。ある特定の実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコールであり得る。
【0094】
特異性交換体に組み込むことができる他のタイプのリンカーとしては、アビジンまたはストレプトアビジン(またはそれらのリガンドであるビオチン)が挙げられる。ビオチン−アビジン/ストレプトアビジン結合により、多数の特異性交換体を一緒に(例えば、樹脂のような支持体を通じて、あるいは直接)結合することができ、あるいは個々の特異的交換体を糖類または複合糖質に連結することができる。
【0095】
特異性交換体に含ませることができるリンカーの別の例は、λファージ上に見出される配列を有することから、「λリンカー」と称される。好ましいλ配列は、ファージの可撓性アーム(flexible arm)に相当する配列である。これらの配列は、より大きな可撓性を提供し、かつ立体障害を低減させるように、特異性交換体中に(例えば、特異性ドメインと糖類または複合糖質との間に、または特異性ドメインおよび/または糖類および複合糖質の多量体間に)含ませることができる。以下の実施例は、複数の糖類を含む特異性交換体の製造について記載する。
【実施例】
【0096】
<実施例1>
フィブリノゲンγ鎖のフラグメントを含む同一の特異性ドメイン(およそ20個のアミノ酸残基からなる)を有する2つの異なるリガンド/受容体特異性交換体を、ペプチドおよび複合糖質合成における標準的な技法を用いて生産する。第1の特異性交換体(特異性交換体1)は、ポリオウイルスから得られるペプチドを有する抗原ドメインを包含する。このポリオウイルスペプチドは、ポリオを接種した個体から得られるヒト血清中に存在する抗体により認識される。第2の特異性交換体(特異性交換体2)は、上述の技法の1つまたは別の一般的に使用されるアプローチを用いて糖類抗原(例えば、gal−α−1−3 gal)を特異性交換体に付加したこと以外は、特異性交換体1と同一である。このgal抗原もまた、上述の抗ポリオペプチド抗体を有する個体から得られるヒト血清中に存在する抗体により認識される。特異性交換体1および特異性交換体2は、固定化ClfA受容体を同様に良く結合すると予測される、同一の特異性ドメインを有するため、糖類含有抗原ドメインの、gal抗原を欠如している抗原ドメインよりも多くの抗体をヒト血清から集める(recruit)能力は、サンドイッチ型プレートアッセイで直接分析できる。
【0097】
上記に応じて、上記2つのリガンド/受容体特異性交換体の段階的希釈物を調製し、組換えClfAを、50mMの炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)中で、96ウェルマイクロタイタープレートに10μg/mlにて4℃で一晩受動的に吸着させる。次に、希釈したリガンド/受容体特異性交換体を、穏やかに揺らしながらClfAを結合させたプレートに4℃で60分間アプライする。幾つかのウェルにおいて、特異性交換体を添加する前に、BSAのようなブロッキング剤を添加して、非特異的結合を減少させる。次に、プレートを50mMの炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)2mlで4回洗浄して、あらゆる未結合特異性交換体を除去する。洗浄後に、50mMの炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)中のポリオウイルスペプチドおよびgal抗原の両方に対する抗体を有する被験体から得られるヒト血清1ml(すなわち、比1:1)を、ウェルに添加して、プレートを4℃で一晩穏やかに揺らす。再びBSAを加えて、非特異的結合を阻止してもよい。すでに実施した洗浄工程を繰り返して、あらゆる非特異的結合抗体を除去する。
【0098】
続いて、幾つかの分析方法を使用することができる。1つのアプローチでは、結合した抗体を、典型的な抗体溶出緩衝液(例えば、グリシン塩化物、pH2.5、Yarmush et al., Biotechnol. Prog. 8:168-178 (1992)を参照)を用いて特異性交換体から溶出させて、溶出液の吸光度を分光光度的に検出する。場合によっては、色素を用いて、検出レベル
を改善させる。あるいは、溶出液を膜にブロッティングさせることができ(例えば、ドットブロットマニホールドを用いて)、溶出液中のタンパク質量を、銀染色、蛍光または色素ベースのアッセイを用いて定量化することができる。溶出液はまた、ポリアクリルアミドゲルに適用し、電気泳動により分離して、染色するかまたは膜に転写することができ、続いてそれをヒト免疫グロブリンG、AおよびMに特異的なペルオキシダーゼ標識した抗体(Sigmaから入手可能なペルオキシダーゼ標識した多価ヒト免疫グロブリン)を用いてウェスタンブロットに供する。さらに、特異性交換体を結合したヒト血清由来の抗体量もまた、上述のペルオキシダーゼ標識した多価抗体を使用する典型的なサンドイッチ型アッセイを用いて、in situで(すなわち、プレートから溶出させることなく)決定することができる。これらの分析方法により、プレートを、ジニトロ−フェニレン−ジアミン(Sigma)とのインキュベーションにより発色させて、吸光度を分析する。
【0099】
上述の分析により、ポリオペプチド単独(すなわち、特異性交換体1)よりも、ポリオペプチドおよびgal抗原(すなわち、特異性交換体2)から構成される抗原ドメインに、ヒト血清由来の抗体がかなり多く結合することを確認できると思われる。ClfA受容体は、ブドウ球菌属のような病原体上に存在するため、このアッセイにより、gal抗原(例えば、gal−α−1−3 gal)を含む特異性交換体は、被験体中に存在する天然抗体を集めるのにより有効であり、したがってこれらの抗体を病原体へと向け直すのにより有効であることも確認される。次の実施例は、幾つかのグリコシル化されたリガンド/受容体特異性交換体を合成する際に使用したアプローチについて記載する。
【0100】
<実施例2>
HIV−1糖タンパク質120と相互作用するCD4受容体領域(Mizukami T., Fuerst T.R., Berger E.A. & Moss B., Proc Natl Acad Sci USA. 85, 9273-7 (1988)を参照)に対応する特異性ドメインを含む、幾つかのグリコシル化されたリガンド/受容体特異性交換体(表1を参照)を固相上で合成した。Fmoc化学反応を用いて、ペプチドを自動合成装置で生産した(Ed. Chan W.C. & White P.D. Fmoc solid phase peptide Synthesis-a practical approach (2000) Oxford university press.を参照)。固体支持体(樹脂)に結合された状態の各ペプチドを、少量画分と大量画分に分けた。少量ペプチド画分は、TFAによる処理により樹脂から切断したのに対して、大量画分は、樹脂に結合させた状態にし、グリコシル化を待つ状態のままにした。切断したペプチドを、逆相HPLC(λ=220nm)により分析して、純度を検査した。分析後、切断したペプチドは凍結乾燥させた。
【0101】
糖Gal−α 1−3を含む試薬は、ヒト抗Gal−α 1−3 Gal抗体を吸着することがわかっている(Rieben R., von Allmen E., Korchagina E. Yu. Et al. Xenotransplantation. 2, 98-106 (1995))。Gal−α1−3 Gal−βの化学式を、化学式1として以下に提供する。
【0102】
【化1】

【0103】
糖試薬(Galα1−3 Galβ−O(CH23NH2(Lectinity corp.、製品番号88)を、アスパラギン酸(化学式2)の側鎖とカップリングさせた:
【0104】
【化2】

【0105】
アミノ酸はN末端およびC末端の両方で保護された。糖アミノ基とアミノ酸カルボキシル基との間の共有結合が形成された(合成1を参照)。
【0106】
【化3】

【0107】
カップリング反応は、Fmoc保護基がλ=266nmの波長でUV光を強力に吸収するため、反応混合物からのサンプルを、逆相HPLCによってλ=266nmを用いて分析することによりモニタリングした。カップリング反応は、4〜6時間後に停止させた。糖アミノ酸を、逆相HPLC(λ=266nm)で精製した。精製した糖アミノ酸を凍結乾燥させた。
【0108】
次に、糖アミノ酸の脱保護を行った。CD4ペプチドへの糖アミノ酸のカップリングを可能にするために、OtBu保護基を、TFAによる処理により、糖アミノ酸のC末端から切断した(合成2を参照)。
【0109】
【化4】

【0110】
脱保護を、逆相HPLC(λ=266nm)によりモニタリングした。およそ2時間後、脱保護反応を停止させた。TFAの大部分は、窒素ガスにより蒸発させた。残りの溶液を水で1/10に希釈した。脱保護された糖アミノ酸を、逆相HPLC(λ=266nm)で精製した。精製され、かつ脱保護された糖アミノ酸を凍結乾燥させた。
【0111】
糖アミノ酸の脱保護後に、CD4およびCDR特異性ドメインペプチドへのカップリングを行った。糖アミノ酸を、Fmoc化学反応を用いて、樹脂に結合させた特異性ドメインのN末端に共有結合させた(合成3を参照)。カップリング反応は、およそ6時間後に停止させた。
【0112】
【化5】

【0113】
グリコシル化された特異性交換体を脱保護して、TFAによる処理によりそれらの固体支持体から切断した。切断したグリコシル化された特異性交換体を逆相HPLC(λ=220nm)で分析して、グリコシル化されていない対応するペプチドと比較して純度を検査した。グリコシル化に特異的なピークを逆相HPLC(λ=220nm)で精製した。精製したグリコシル化された特異性交換体を凍結乾燥させた。凍結乾燥後、各グリコシル化された特異性交換体の画分をMALDI−MSで分析して、その特性(identity)を検証した。以下の実施例は、リガンド/受容体特異性交換体が病原体の増殖を阻害するか否かを決定するために実施することができる、幾つかの細胞をベースとした特性評価について記載する。
【0114】
<実施例3>
病原体をベースとした特性評価の1つのタイプは、支持体上に配置した細菌へのリガンド/受容体特異性交換体の結合を包含する。実施例1と同様に、別個のアッセイを行って、特異性交換体1および特異性交換体2の結合親和性を比較する。ClfAを生産する細菌(例えば、黄色ブドウ球菌または大腸菌)を、培養液中あるいは適切な成長培地の幾つかの寒天プレート上で(例えば、LBブロス、血液ブロス、LB寒天または血液寒天)成長させる。細菌が一面を覆うように集密するまで細胞を成長させる。次に、特異性交換体1および特異性交換体2の幾つかの希釈物を別個のプレートに添加する。例えば、別々のプレートに、総量200μlのPBS中、特異性交換体1または特異性交換体2のいずれかを500mg、1mg、5mg、10mg、25mgおよび50mg施す。プレートを37℃で少なくとも4時間インキュベートする。
【0115】
次に、未結合のリガンド/受容体特異性交換体を、PBSを用いた連続洗浄(例えば、洗浄1回当たりPBS2mlを用いて3回洗浄)により除去する。次に、実施例1で使用したヒト血清(すなわち、それらは、ポリオペプチドおよびgal抗原の両方に対する抗
体を含有する)の段階希釈物をプレートに添加する(例えば、ヒト血清の1:100〜1:1000の希釈物が提供される)。60分のインキュベーション後に、プレートをPBSで洗浄して(例えば、洗浄1回当たりPBS2mlを用いて3回洗浄)、未結合の一次抗体を除去する。続いて、細菌タンパク質、特異性交換体およびヒト抗体を膜に転写する。適切な対照としては、膜自体、リガンド/受容体特異性交換体無しでヒト血清由来の抗体と共に膜に転写された細菌タンパク質、およびリガンド/受容体特異性交換体は有するがヒト血清由来の抗体無しで膜に転写された細菌タンパク質が挙げられる。
【0116】
続いて、細菌へと向け直された抗体の量は、実施例1に記載するように、ヒト免疫グロブリンG、AおよびMに特異的なペルオキシダーゼ標識した抗体を使用することにより確認することができる。二次抗体の適切な希釈物を60分間膜と接触させて、未結合の二次抗体を膜からPBSで洗浄する(例えば、洗浄1回当たりPBS2mlを用いて3回洗浄)。次に、ジニトロ−フェニレン−ジアミン(Sigma)とともに膜をインキュベートすることにより、結合した二次抗体を検出する。
【0117】
gal抗原を含む特異性交換体(特異性交換体2)は、特異性交換体1よりも効率的に、ヒト血清中に存在する抗体を細菌病原体へと向け直したことをデータは示している。この実施例もまた、複数の糖類または複合糖質(例えば、gal−α−1−3 gal)を含む特異性交換体が、in vivoで被験体中に存在する抗体を病原体へと向け直す際により有効であることを実証している。次の実施例は、グリコシル化されたリガンド/受容体特異性交換体のHIVと相互作用する能力を評価するために実施される、病原体をベースとした特性評価について記載する。
【0118】
<実施例4>
HIVに特異的なグリコシル化されたリガンド/受容体特異性交換体を、実施例2に記載するアプローチにしたがって作成した。グリコシル化された特異性交換体の、ヒトGal−α1,3−Gal特異的抗体を結合する能力を評価するために、同一のリガンド/受容体特異性交換体のグリコシル化された型およびグリコシル化されていない型をマイクロタイタープレートの固相上にコーティングした。4つのヒト血清を、コーティングしたペプチドに結合させ、酵素標識した抗ヒト抗体により結合したヒト抗体を表示した。結果は、グリコシル化されたペプチドのみがヒト抗体を結合できることを示した(ヒト血清IB72、図3)。
【0119】
グリコシル化された特異性交換体の、病原体に結合する能力をさらに評価するために、最も反応性が高いヒト血清(IB72)を用いて、グリコシル化されたペプチドの競合アッセイを行った。簡潔に述べると、Gal−α1,3−Gal標識したウシ血清アルブミン(Gal−BSA)を、96ウェルマイクロプレート上へ、炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)中で+4℃にて一晩コーティングした。ヒト血清の希釈物、および糖ペプチド(グリコシル化されたHIV特異的リガンド/受容体特異性抗体またはGal−BSA)またはグリコシル化されていないペプチド(HIV特異的リガンド/受容体特異性交換体またはBSA)の希釈物を、1%ウシアルブミン、2%ヤギ血清および0.05%Tween20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1時間プレインキュベートした。次に、混合物を、コーティングしたプレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした後、0.05%Tween20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で3回洗浄した。
【0120】
結合した抗体を、アルカリホスファターゼと結合させたヤギ抗ヒト多価Igを用いて表示した。プレートを上述のようにインキュベートして、洗浄した。プレートを室温で30分間、ホスファターゼ基質とともに発色させて、1M NaOHで反応を停止させた。405nm/650nmでの光学密度(OD)を決定して、阻害を定量化した。結果を図4
に提供するが、図4は、Gal−BSAへ結合するヒト抗体が、Gal−BSAまたはグリコシル化されたペプチドのいずれかによってのみ阻害される可能性を示している。このようにして、Gal−α1,3−Gal特異的抗体を結合する特異性交換体が生成された。上述と同じ条件でヒト血清と混合したGal−BSAを陽性対照として使用し、100%の阻害が観察された。
【0121】
以下の実施例は、複数の糖類または複合糖質(例えば、gal−α−1−3gal)を含む特異性交換体が、in vivoで被験体中に存在する抗体を病原体へと向け直す際により有効であることを示す。
【0122】
<実施例5>
リガンド/受容体特異性交換体の、病原体感染を阻害する能力を評価するのに適した多くの動物モデルが存在する。マウスは、維持し易く、かつ細菌感染、ウイルス感染および癌の影響を受け易いことから好ましい。チンパンジーもまた、ヒトに近い遺伝的類縁性のため好ましい。
【0123】
リガンド/受容体特異性交換体の、マウスにおける細菌感染を治療する能力を試験するために、以下の特性評価を実施することができる。およそ8週齢かつ体重25グラムの数匹の雌CF−1異系交配マウス(Charles Rivers Laboratories)に、黄色ブドウ球菌の一晩培養物を腹腔内接種する。マウスから血液サンプルを採取して、試験を行い、黄色ブドウ球菌が被験体中に存在することを確認する。
【0124】
感染マウスに、実施例1および実施例2に記載する、適切な量の特異性交換体1または特異性交換体2を注射する。実施例1および実施例2で使用したヒト血清の少量のサンプル(例えば、0.5mL)もまた感染マウスに注射する。ヒト血清注射後の最大2週間までの様々な時点で、黄色ブドウ球菌の存在および有病率に関してモニタリングする。黄色ブドウ球菌感染の増進または減退をプロットする。
【0125】
データは、特異性交換体2が特異性交換体1よりも黄色ブドウ球菌の増殖を効率的に阻害したことを示し、gal抗原の存在が、被験体中に存在するヒト血清を病原体へと向け直す際により効率的であったことを立証する。以下の節は、糖類および/または複合糖質を含む特異性交換体を含む幾つかの医薬品について記載する。
【0126】
糖類および/または複合糖質を含む特異性交換体を含む医薬品
本明細書中に記載する特異性交換体は、病原体による感染を治療または予防する化合物を必要とする被験体へ投与するための医薬品への組込みに適している。これらの薬理学的に活性な化合物は、ヒトを含む動物へ投与するための薬剤を生産するための製剤学における従来の方法に従って加工することができる。有効成分は、修飾有りおよび無しで、医薬品製品に組み込むことができる。さらに、本発明の薬理学的に活性な化合物を幾つかの経路により送達する医薬品または治療薬の製造は、本発明の態様である。例えば、本明細書中に記載する特異性交換体をコードする配列を有するDNA、RNAおよびウイルスベクター(これらに限定されない)は、本発明の実施形態で使用される。具体化された特異性交換体をコードする核酸は、単独で、あるいは他の有効成分と組み合わせて投与することができる。
【0127】
特異性交換体は、従来の賦形剤、すなわち、本明細書中に記載する薬理学的に活性な成分と不都合な反応を生じない非経口、経腸(例えば、経口)もしくは局所用途に適した薬学的に許容可能な有機または無機キャリア物質と混合して使用することができる。適切な薬学的に許容可能なキャリアとしては、水、塩溶液、アルコール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、糖質(例えば、ラクトース
、アミロースまたはデンプン)、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられるが、これらに限定されない。使用することができるさらに多くの賦形剤は、Remmington's Pharmaceutical Sciences, 15th Edition, Easton: Mack Publishing Company, pages 1405-1412
and 1461-1487 (1975)、およびThe National Formulary XIV, 14th Edition, Washington, American Pharmaceutical Association (1975)に記載されている。薬学的調製物は滅菌することができ、望ましくは、助剤が特異性交換体と不都合な反応を生じない限りは、助剤、例えば潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝液、着色物質、風味物質および/または芳香物質等と混合することができる。
【0128】
複数の糖類および/または複合糖質を含む特異性交換体を有する特定の医薬品の投与の有効用量および方法は、患者の個々の必要性および求められる治療または予防措置に基づいて様々であり得る。かかる化合物の治療上の有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物において標準的な薬学的手順により決定することができる(例えば、ED50(集団の50%において治療上有効な用量))。例えば、特異性交換体の有効用量は、上述の特性評価を用いて評価できる。次に、これらの評価から得られたデータは、ヒトを含む他の生物で使用するための投与量の範囲を策定するのに使用される。かかる化合物の投与量は、好ましくは毒性の無いED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、特異性交換体の型、使用する投薬形態、生物の感受性および投与経路に応じて、この範囲内で多様である。
【0129】
特異性交換体の一般的な投与量は、投与経路に応じて、およそ1〜100,000マイクログラムから、最大総用量約10グラムまで多様であり得る。望ましい投与量としては、約250mg〜1mg、約50mg〜200mg、および約250mg〜500mgが挙げられる。
【0130】
幾つかの実施形態では、特異性交換体の用量は、好ましくはおよそ0.1μM〜500μMの組織または血液濃度、あるいはその両方をもたらす。望ましい用量は、約1〜800μMの組織または血液濃度、あるいはその両方をもたらす。好ましい用量は、約10μM以上〜約500μMの組織または血液濃度をもたらす。800μMを上回る組織濃度をもたらす用量は好ましくはないが、それらを使用することはできる。また、血液レベルで測定される場合に組織中で安定な濃度を維持するように、特異性交換体の持続注入もまた提供できる。
【0131】
正確な投与量は、治療されるべき患者を考慮して、主治医により選択される。用法および用量は、十分なレベルの活性部分(moiety)を提供するように、あるいは所望の効果を維持するように調節される。考慮可能なさらなる要因としては、疾患の重篤性、治療される生物の年齢、および生物の体重または大きさ、食習慣、投与の時間および頻度、薬物の併用(複数可)、反応感受性、ならびに療法に対する寛容性/応答が挙げられる。短期作用性の薬学的組成物は、毎日もしくはより高頻度で投与されるのに対して、長期作用性の薬学的組成物は、2日以上に1度、1週間に1度または2週間に1度、あるいはさらに低頻度で投与される。
【0132】
医薬品の投与経路としては、局所、経皮、非経口、胃腸、経気管支および経肺胞が挙げられるが、これらに限定されない。経皮投与は、特異性交換体を皮膚に浸透させることが可能なクリーム、リンス、ゲル等の塗布により達成される。非経口経路の投与としては、電気的注射または直接注射、例えば、中心静脈ラインへの直接的注射、静脈内注射、筋内注射、腹腔内注射、皮内注射または皮下注射が挙げられるが、これらに限定されない。胃腸経路の投与としては、摂取および直腸が挙げられるが、これらに限定されない。経気管
支および経肺胞経路の投与としては、経口または鼻内からの吸入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
経皮または局所投与に適した本明細書中に記載する特異性交換体を有する組成物は、皮膚に直接塗布されるか、または経皮デバイス(「経皮パッチ」)のような保護キャリアへ組み込まれる、薬学的に許容可能な懸濁液、オイル、クリームおよび軟膏が挙げられるが、これらに限定されない。適切なクリーム、軟膏等の例は、例えば医師用添付文書集(Physician's Desk Reference)に見出すことができる。適切な経皮デバイスの例としては、例えばChinenらに1989年4月4日に発行された米国特許第4,818,540号に記載されている。
【0134】
非経口投与に適した本明細書中に記載する特異性交換体を有する組成物としては、薬学的に許容可能な滅菌等張溶液が挙げられるが、これに限定されない。かかる溶液としては、中心静脈ラインへの注射、静脈内注射、筋内注射、腹腔内注射、皮内注射または皮下注射用の生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
経気管支および経肺胞投与に適した本明細書中に記載する特異性交換体を有する組成物としては、各種タイプの吸入用エーロゾルが挙げられるが、これらに限定されない。これらの経気管支投与および経肺胞投与に適したデバイスもまた実施形態である。かかるデバイスとしては、噴霧器および気化器が挙げられるが、これらに限定されない。現在入手可能な噴霧器および気化器の多くの形態を、本明細書中に記載する特異性交換体を有する組成物を送達するように容易に適合させることができる。
【0136】
胃腸投与に適した本明細書中に記載する特異性交換体を有する組成物としては、摂取用の薬学的に許容可能な粉末、摂取用の丸剤または液体、および直腸投与陽の坐剤が挙げられるが、これらに限定されない。使い易さを理由として、胃腸投与、特に経口投与は好ましい実施形態である。いったん特異性交換体を含む医薬品が得られたら、病原体感染を治療または防止する必要のある生物にその医薬品を投与することができる。
【0137】
本発明の態様はまた、人工装具、埋没物および器具のような医療機器用のコーティングが挙げられる。医療用デバイスでの使用に適したコーティングは、特異性交換体を含有するゲルまたは粉末により、あるいは特異性交換体が懸濁されたポリマーコーティングにより提供することができる。デバイスのコーティング用の適切なポリマー材料は、生理学的に許容可能であり、かつ治療上有効な量の特異性交換体を拡散させることができるものである。適切なポリマーとしては、ポリウレタン、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、シリコーンエラストマー、コラーゲン、絹等が挙げられるが、これらに限定されない。かかるコーティングは、例えば、米国特許第4,612,337号に記載されている。以下の節は、本明細書中に記載する特異性交換体を用いて疾患を治療および防止する方法について記載する。
【0138】
複数の糖類および/または複合糖質を含む特異性交換体を用いた疾患の治療および予防
本明細書中に記載する特異性交換体を含む医薬品を、受容体を有する病原体による感染を治療および/または予防する必要のある被験体に投与することができる。これらを必要としている、かかる被験体は、病原体と接触する危険性のある個体、またはすでに病原体に感染した個体を包含し得る。これらの個体は、標準的な臨床または診断技法により同定できる。
【0139】
アプローチの1つでは、例えば、細菌感染を患う被験体を、病原体の増殖を阻害する作用物質を必要としている被験体として同定する。続いて、この被験体に、治療上有効量の
本明細書中に記載する特異性交換体を提供する。この方法で使用される特異性交換体は、細菌上に存在する受容体と相互作用する特異性ドメイン(例えば、細胞外フィブリノゲン結合タンパク質(Efb)、コラーゲン結合タンパク質、ビトロネクチン結合タンパク質、ラミニン結合タンパク質、プラスミノゲン結合タンパク質、トロンボスポンジン結合タンパク質、凝集因子A(ClfA)、凝集因子B(ClfB)、フィブロネクチン結合タンパク質、凝固酵素および細胞外接着タンパク質)を含む。特異性交換体はまた、当該被験体中に存在する高力価抗体により認識される、複数の糖類および/または複合糖質を有する抗原ドメインを含む。被験体に特異性交換体を提供する前に、抗原ドメインを認識する高力価抗体の存在に関して、当該被験体をスクリーニングすることもまた望ましい場合がある。このスクリーニングは、上述のように、固定化された抗原ドメインまたは特異性交換体を用いて、EIAまたはELISAにより達成することができる。
【0140】
同様に、ウイルス感染を阻害する作用物質を必要としている被験体に、特定の病原因子上に存在する受容体を認識する特異性交換体を投与することができる。したがって、ウイルス感染を阻害する作用物質を必要としている被験体は、標準的な臨床または診断手順により同定される。次に、当該被験体に対して、その個体に感染している型のウイルス上に存在する受容体と相互作用する、治療上有効な量の特異性交換体を提供する。上述のように、特異性交換体を投与するに先立って、特異性交換体の抗原ドメインと相互作用するのに十分な力価の抗体を当該被験体が有するかどうかを決定することが望ましい場合がある。
【0141】
同様に、癌の増殖を阻害する作用物質を必要としている被験体に、癌細胞上に存在する受容体と相互作用する特異性交換体を投与することができる。例えば、癌の増殖を阻害する作用物質を必要としている被験体は、標準的な臨床または診断手順により同定される。続いて、当該被験体に、被験体に感染している癌細胞上に存在する受容体と相互作用する治療上有効な量の特異性交換体を提供する。上述のように、特異性交換体を投与する前に、特異性交換体の抗原ドメインと相互作用するのに十分な力価の抗体を被験体が有するかどうかを決定することが望ましい場合がある。
【0142】
本明細書中に記載する特異性交換体はまた、疾患の発症を防止するための予防薬として被験体に投与することもできる。実際に、本明細書中に記載する特異性交換体を、予防目的で(例えば、細菌感染、ウイルス感染または癌を防止するために)誰にでも投与することができる。しかしながら、特定の疾患にかかる危険性の高い被験体が同定され、特異性交換体を提供することが望ましい。疾患にかかる危険性の高い被験体としては、疾患の家族歴を有する個体、高齢者または子供、あるいは病原体と頻繁に接触している個体(例えば、医療従事者)が挙げられる。したがって、受容体を有する病原体により感染されつつある危険性のある被験体を同定した後、予防上有効量の特異性交換体を提供する。
【0143】
本明細書中に記載する特異性交換体に関する予防的な用途の1つは、特異性交換体を、医療用デバイスまたは埋没物へコーティングまたは架橋させることに関する。埋め込み可能な医療用デバイスは、多数の細菌種による感染用の病巣として作用する傾向がある。このようなデバイスに関連した感染は、これらの生物がデバイスの表面に付着して、コロニーを形成する傾向があることによって促進される。したがって、通常、医療用デバイスの埋め込みに付随する有害な生物学的反応を促進する傾向の低い表面を開発することが大いに必要である。
【0144】
アプローチの1つでは、医療用デバイスは、特異性交換体を含有する溶液中でコーティングされる。埋め込み前に、医療用デバイス(例えば、人工弁)を、例えば、特異性交換体の溶液中で保管することができる。医療用デバイスはまた、特異性交換体を有する粉末またはゲル中でコーティングすることもできる。例えば、グローブ、サックおよび子宮内
デバイスを、細菌またはウイルス受容体と相互作用する特異性交換体を含有する粉末またはゲル中でコーティングすることができる。いったん身体中に埋め込まれれば、これらの特異性交換体は、病原体による感染に対する予防的防壁を提供する。
【0145】
幾つかの実施形態では、特異性交換体は、医療用デバイスに固定化される。上述のように、医療用デバイスは、特異性交換体を結合させることができる支持体である。固定化は、特異性交換体と医療用デバイスとの間での疎水性相互作用により行われてもよいが、特異性交換体を医療用デバイスへ固定化するための好ましい方法は、共有結合を包含する。例えば、特異性交換体上の反応基と相互作用する反応基を有する医療用デバイスを製造することができる。
【0146】
アプローチの1つでは、pH4〜9、かつ温度約0℃〜50℃の水溶液中で、過ヨウ素酸塩を、2−アミノアルコール部分を含む特異性交換体と結合させ、アルデヒド官能基を有する交換体を形成する。次に、アルデヒド官能基を有する交換体を、第1級アミン部分を含む医療用デバイスの生体材料表面と組み合わせて、イミン部分により支持体表面上に特異性交換体を固定化する。続いて、イミン部分を還元剤と反応させて、第2級アミン結合により生体材料表面上に固定化された特異性交換体を形成する。同様の化学反応を用いて、同様に糖を支持体および/または特異性交換体の特異性ドメインに結合させることができる。分子を医療用デバイスに架橋するための他のアプローチ(例えば、米国特許第6,017,741号に記載されるような)は、本明細書中に記載する特異性交換体を固定化するように変更することができる。
【0147】
実施形態および実施例を参照して、本発明を記載してきたが、本発明の精神を逸脱することなく、様々な変更がなされ得ることが理解されるべきである。したがって、本発明は、併記の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】糖ペプチドライブラリーを人工的に合成するのに使用することができる方法を示す図である。
【図2】環状糖ペプチドを人工的に合成する方法を示す図である。
【図3】4つの異なるヒト血清サンプルに対する、グリコシル化された(gal−α−1,3 gal−β)またはグリコシル化されていない抗原ドメインを含むCD4リガンド/受容体特異性交換体の種々の反応性を示す図である。「X」軸は、5μg/mlで供給された特異性交換体を示し、「Y」軸は、結合された抗体を検出した後の405/650でのODを示す。
【図4】グリコシル化された(gal−α−1,3 gal−β)ウシ血清アルブミン(BSA)の存在下での、グリコシル化された(gal−α−1,3 gal−β)またはグリコシル化されていない抗原ドメインを含むCD4リガンド/受容体特異性交換体の結合の阻害を示す図である。「X」軸は、ペプチド濃度を示し、「Y」軸は、結合された抗体を検出した後の405/650でのODを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Galα(1,3)Galβに連結された配列番号1から9からなる群から選択される特異性ドメインを含む、抗体をHIVへと向け直す特異性交換体。
【請求項2】
前記特異性ドメインは配列番号1で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項3】
前記特異性ドメインは配列番号2で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項4】
前記特異性ドメインは配列番号3で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項5】
前記特異性ドメインは配列番号4で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項6】
前記特異性ドメインは配列番号5で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項7】
前記特異性ドメインは配列番号6で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項8】
前記特異性ドメインは配列番号7で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項9】
前記特異性ドメインは配列番号8で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項10】
前記特異性ドメインは配列番号9で示される、請求項1に記載の特異性交換体。
【請求項11】
Galα(1,3)Galβ特異的抗体をHIVへと向け直す方法であって、Galα(1,3)Galβに連結された配列番号1から9からなる群から選択される特異性ドメインを含む特異性交換体を提供すること、及び
前記抗体を前記HIVウイルスへと向け直すため、前記HIVウイルスを前記特異性交換体及び前記Galα(1,3)Galβ特異的抗体に接触させること
を含む方法。
【請求項12】
前記特異性ドメインは配列番号1で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記特異性ドメインは配列番号2で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記特異性ドメインは配列番号3で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記特異性ドメインは配列番号4で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記特異性ドメインは配列番号5で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記特異性ドメインは配列番号6で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記特異性ドメインは配列番号7で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記特異性ドメインは配列番号8で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記特異性ドメインは配列番号9で示される、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
HIVの治療及び予防用の薬品を調製するための、Galα(1,3)Galβに連結された配列番号1から9からなる群から選択される特異性ドメインを含む、抗体をHIV
へと向け直す特異性交換体の使用。
【請求項22】
前記特異性ドメインは配列番号1で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記特異性ドメインは配列番号2で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記特異性ドメインは配列番号3で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項25】
前記特異性ドメインは配列番号4で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項26】
前記特異性ドメインは配列番号5で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項27】
前記特異性ドメインは配列番号6で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項28】
前記特異性ドメインは配列番号7で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項29】
前記特異性ドメインは配列番号8で示される、請求項21に記載の使用。
【請求項30】
前記特異性ドメインは配列番号9で示される、請求項21に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−516157(P2007−516157A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502508(P2006−502508)
【出願日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001083
【国際公開番号】WO2004/069873
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(501429782)
【Fターム(参考)】