説明

グリコール酸の製造方法

【課題】 反応が選択的にスムーズに進み、且つ触媒の反復使用が可能であり、より経済的に高純度のグリコール酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】 エチレングリコールを酸素分子又は酸素分子含有ガスで接触酸化させてグリコール酸を製造するに際し、触媒成分としてパラジウム、白金などの白金族金属のうち少なくとも1種類及び助触媒成分としてビスマスを共存させた触媒を用いるものであり、この触媒の作用により反応が選択的にスムーズに進み、且つ反復使用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸の製造方法に関する。さらに詳しくはパラジウムまたは白金とビスマスを炭素に担持させた触媒を用いて、エチレングリコールと酸素分子又は酸素分子含有ガスとの接触酸化反応によりグリコール酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコール酸は医薬、化粧品原料の他、金属洗浄剤、ボイラー洗浄、メッキ前処理剤、皮なめし用原料として有用である。
【0003】
従来、グリコール酸の製造方法としては、強酸性触媒の存在下で高温高圧(例えば200℃、900気圧)にてホルムアルデヒドと一酸化炭素及び水から製造する方法が知られている(特許文献1)。しかし過酷な反応条件を必要とする為、耐圧、耐腐食性の特殊な反応装置を必要とする。
【0004】
また、金属担持触媒を用いてエチレングリコールを酸化させて製造する方法が多く提案されている。例えば、特許文献2では、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム化合物の触媒下に苛性アルカリで脱水素する方法が提案されており、エチレングリコールからシュウ酸ナトリウムを得ている。しかしながら、苛性アルカリの存在下に脱水素してカルボン酸塩を製造する方法は、遊離のカルボン酸を製造する場合には、さらに中和脱塩処理が不可欠であり、製造コストが高くなる問題がある。また、これらの提案では、モノエチレングルコールのヒドロキシル基1個を選択的に酸化してヒドロキシ酢酸塩を与える方法についての示唆はない。
【0005】
特許文献3ではアルカリ性水溶液中、白金族元素を主成分とする触媒の存在下でエチレングリコールを酸化させる方法が開示されているが、生成物はグリコール酸のアルカリ塩である為、遊離グリコール酸を得る為には煩雑な操作を必要とし、製造コストが高くなる。
【0006】
特許文献4では非アルカリ性水溶液中、白金炭素触媒を用いてエチレングリコールを酸素含有ガスで酸化する方法が開示されているが、エチレングリコールに対し触媒を10%と多量に使用しても、反応完結には24時間を必要としている。
【0007】
特許文献5では白金族元素にバナジウム、クロム等の元素を共存させることにより反応時間を比較的短くし、高収率、高選択率でグリコール酸を製造するとしている。上記文献の実施例では反応6時間後のみのデータが記載されている。エチレングリコール転化率は72.9mol%、グリコール酸類(グリコール酸+エチレングリコールとグリコール酸の縮合物)の選択率が93.6mol%であり、比較的反応は早いと言えるが、転化率、選択率はともに十分ではない。
【0008】
その他、グリコールを酸素の存在下に酸化してカルボン酸(塩)を製造する方法として、貴金属含有触媒の存在下pH3以下の強酸性溶液中でジエチレングリコールからジグリコール酸を製造する方法(特許文献6)、貴金属含有触媒の存在下pH3以下の強酸性溶液中でジエチレングリコールからジグリコール酸を製造する方法(特許文献7)等が提案されているが、モノエチレングリコールからグリコール酸の生成に関する示唆はない。
【特許文献1】USP2152852
【特許文献2】特開昭50−96516
【特許文献3】特開昭51−86415
【特許文献4】特公昭60−10016
【特許文献5】特開平8−295650
【特許文献6】特開昭53−141219
【特許文献7】特開昭51−131824
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
反応原料であるエチレングリコールと生成物であるグリコール酸はともに水溶性であり、その分離は困難である。さらに、未反応のエチレングリコールが系に残存していると、反応溶媒である水を系から加熱除去する際に、グリコール酸と縮合を起こし純度が低下する。工業的に純度の高いグリコール酸を製造する為には、反応時にエチレングリコールの転化率を可能な限り高くし、精製工程においてエチレングリコールの影響を少なくすることが好ましい。一方、収率を高くする為には、ジカルボン酸であるシュウ酸にまで酸化されることなく、目的物であるグリコール酸を選択的に製造できることも必要となる。
一方、不均一系触媒を何度も繰り返し使用したり連続的に長時間使用する場合、触媒の使用時間が長くなるにしたがって触媒の活性低下は避けられず、一定のエチレングリコールの転化率が得られなくなる。従来このような場合には反応時間の延長、触媒の追加及び触媒の交換等を行うことでエチレングリコールの転化率を高く維持していたが、白金族触媒は高価でありグリコール酸製造に占める触媒コストは比較的大きく、触媒の追加または触媒の交換など、新たな触媒を使用する方法は製造コストを高くする。また、反応時間を延長すると生産量に影響を及ぼしさらには運転管理を煩雑にする。生産量に影響を与えず同一の触媒をできるだけ長時間使用できるようにすることが、グリコール酸の製造コストを低下させるために重要である。
本発明は反応が選択的にスムーズに進み、且つ触媒の反復使用が可能であり、より経済的に高純度のグリコール酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記問題点を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成した。即ち、本発明のグリコール酸の製造方法は、エチレングリコールを酸素分子又は酸素分子含有ガスで接触酸化させてグリコール酸を製造するに際し、触媒成分としてパラジウム、白金などの白金族金属のうち少なくとも1種類及び助触媒成分としてビスマスを共存させた触媒を用いるものであり、この触媒の作用により反応が選択的にスムーズに進み、且つ反復使用が可能である事が分かった。特に、白金族金属とビスマス触媒を用いた場合は、白金族金属のみの場合と比較して、モノエチレングリコールからグリコール酸を高い選択性でスムーズに製造し、且つ反復使用を可能にしているが、これは助触媒成分であるビスマスの寄与が大きいことを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によると、反応原料のエチレングリコール及び触媒として白金族金属とビスマスを含有する水溶液中に酸素分子又は酸素分子含有ガスを導入し、接触酸化することによりエチレングリコールの転化率が高くなり、生成物のグリコール酸を高純度で製造することが可能である。又、本発明の製造方法によれば、安価なエチレングリコールを原料に用い、特に高温高圧を必要とせず、少ない触媒使用量で、また反応時間が比較的短くて高収率、高選択率でグリコール酸を工業的に有利に合成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられるエチレングリコールは工業的に製造されている一般に入手可能なものが使用可能である。通常、水に溶解混合した状態で反応に用いられる。エチレングリコールの濃度は1〜50wt%、反応速度と最大の選択性との理由から好ましくは5〜30wt%の範囲で実施される。
【0013】
本発明の方法において反応温度は20〜80℃が選ばれるが、反応温度の高い時には分解等、副生成物を増大し、収率の低下が起こる為、好ましくは40〜60℃の範囲で実施される。
【0014】
エチレングリコールを酸素分子又は酸素分子含有ガスで接触酸化させグリコール酸を製造するにあたり、触媒成分として白金族金属およびビスマスの存在下に反応させる。白金族金属としては白金又はパラジウム又は白金とパラジウムの混合体が好ましく、またその触媒成分は、担体も含めた触媒全体を100重量%とした場合に、白金又はパラジウム又は白金とパラジウムの混合体のうちの1種類の白金属成分を0.01〜30重量%、ビスマスを0.01〜20重量%含有するものであれば好ましく、さらに好ましくは白金属成分0.1〜10重量%とビスマス0.1〜10重量%、特に好ましくは白金属成分1〜8重量%とビスマス0.5〜5重量%である。
【0015】
本発明に使用可能なビスマス含有白金系炭素触媒は市販の物で良く、例えばエヌ・イー・ケムキャット社のMB−52(2%Bi+5%Pt/C)等が挙げられる。触媒の添加量は反応原料であるエチレングリコールに対して0.5〜10wt%の範囲が適している。
【0016】
本発明に使用される酸化剤は酸素分子又は酸素分子含有ガスであって通常酸素、又は空気が用いられる。反応液中の溶存酸素濃度を高める為、加圧下で行うことにより反応時間を短縮することが可能である。
【実施例】
【0017】
以下に挙げる実施例によって本発明をさらに説明する。
(実施例1)
内容積5Lの酸素ガス導入管を備えた攪拌機付きオートクレーブに15wt%エチレングリコール水溶液740g、及びビスマス含有白金触媒(エヌ・イー・ケムキャット社製MB−52触媒)3.26gを加えた。液温を50℃に保ち、容器内圧力を酸素で5kg/cmに保持させながら10時間反応させた。反応液の一部を取り出し、触媒をろ別した後液体クロマトグラフィーで分析した結果、エチレングリコールの転化率は98.9%であり、うちグリコール酸は95.8%、エチレングリコールとグリコール酸の縮合物は2.8%、シュウ酸は0.3%であった。
【0018】
(実施例2)
実施例1で用いた触媒をろ過により回収し、その触媒をそのままリサイクル使用した。実施例1に準じて10時間反応を行った。10回リサイクル使用し、触媒の耐久性を調べた。結果を表1に示す。この結果から10回目でも反応時間が延びず、かつ反応選択性も保持されており、ビスマス含有白金触媒の効果を確認した。
【表1】

【0019】
(比較例1)
触媒を5%Pt/Cに代えた他は、実施例1に準じて反応を行った。反応液を同様に液体クロマトグラフィーで分析した結果、エチレングリコールの転化率は83.0%であり、うちグリコール酸は78.0%、エチレングリコールとグリコール酸の縮合物は4.5%、シュウ酸は0.5%であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールを酸素分子又は酸素分子含有ガスで接触酸化させグリコール酸を製造するにあたり、触媒成分として白金族金属およびビスマスの存在下に反応させることを特徴とするグリコール酸の製造方法。
【請求項2】
白金族金属が白金又はパラジウム又は白金とパラジウムの混合体であることを特徴とする請求項1に記載のグリコール酸の製造方法。
【請求項3】
触媒成分が、担体も含めた触媒全体を100重量%とした場合に、白金又はパラジウム又は白金とパラジウムの混合体のうちの1種類の白金属成分を0.01〜30重量%、ビスマスを0.01〜20重量%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のグリコール酸の製造方法。







【公開番号】特開2006−117576(P2006−117576A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306233(P2004−306233)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】