説明

グリス用容器

【課題】容器の液密性を維持しながら容器変形を生じないグリス用容器を提供する。
【解決手段】加熱されたグリスを収納した容器胴体1に対して、ガスケット101付きの天蓋2が着脱可能に締め付けられるグリス用容器であって、ガスケットは、天蓋の全周にわたり存在し、かつ、2液を混合し発泡させたウレタン材からなり成形後では独立気泡と連続気泡とが混在する構造を有して、グリスの温度降下に伴い容器胴体内に生じる負圧に対して通気性を有し、かつグリスに対して液密性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばグリスを収納するグリス用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば潤滑用グリスを収納する容器の一例として、JIS Z 1620に規定される鋼製ペール缶が良く用いられる。このJIS Z 1620に規定されるように、ペール缶には種々のタイプが存在し、その中の一つに例えば図4に示すような、天蓋2の外周部につめ(ラグ)4を設けた取り外し可能なつめ付き天蓋2を、つめ4により胴体に締め付けるラグタイプがある。
【0003】
また一般的に、ペール缶における容器胴体1の開口側端部1aは、いわゆるカールと呼ばれ、カール加工がなされている。天蓋2が取り外し式であるペール缶では、天蓋2は、カール加工された開口側端部1aに嵌合可能なように、その内面2aに、天蓋の周囲に沿って溝2bを有し、この溝2bの内側には、ガスケット3を装填している。
よって、上記ラグタイプのペール缶10をグリス収納用に用いる場合、容器胴体1内にグリスを充填した後、天蓋2の溝2bを容器胴体1の開口側端部1aに嵌合させて天蓋2が装着され、さらに、つめ4を開口側端部1aのカール加工曲面に沿って折り曲げることで、容器胴体1に天蓋2が締め付けられる。この締め付けにより、ガスケット3が圧縮され、容器胴体1内のグリスは、ペール缶10内に密封される。
【0004】
ガスケットの機能は、一般的に認識されているように、ガスケットが装着された部分の内側と外側とで、気体及び液体を通過不可能にすることであり、上述したようなグリス用のペール缶10においても、ガスケット3は、上述の機能を満足するものが選択され、その一例として、塩化ビニル製のガスケットが使用されている。したがって、従来、塩化ビニル製のガスケットを用いたラグタイプのペール缶10の密封性試験では、缶内に水を入れて横倒しにし、かつ缶内圧を10kPaまで加圧した場合でも、液体漏れ及び気体漏れが共に無い状態を達成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS Z 1620(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、一般的に、ペール缶にグリスを充填する場合には、グリスの粘性を下げ流動性を上げることで充填が迅速に行えることから、グリスは約85℃まで加熱される。このように高温のグリスがペール缶10に充填された後、上述のように天蓋2が容器胴体1に装着され密封が行われる。
【0007】
したがって、充填後のグリスの温度降下によるグリス自体の収縮、及び、上記温度降下に伴うペール缶内空気の収縮により、ペール缶10内は、外気に対して負圧になる。一方、ガスケット3は、上述のように、その機能を発揮することから、ペール缶10は、図5に示すように、容器胴体1に凹み6が発生し、変形してしまう。このような容器胴体1の変形は外観を悪くし、グリスメーカーにとっては品質管理上、絶対に許容できない事象の一つである。一方、容器メーカーにおいても、この問題は、対策を講じねばならない懸案の一つになっていた。
【0008】
この変形問題を解決するために、従来、グリス充填用ペール缶においては、天蓋2におけるガスケット3の周囲の一箇所を僅かに切除して、ガスケット3に通気部を形成していた。
【0009】
この通気部により、グリス充填用ペール缶の内外の通気性が確保され、上述の変形の発生は解決できた。しかしながら、上記通気部を介して、水分や、グリスの芳香を好む虫の浸入が可能となるという新たな問題が発生した。
【0010】
これに対して、グリス充填用ペール缶の変形を防止し、かつ、水分及び虫の浸入を防止する方法として、容器胴体に使用する鋼板の板厚を上げる方法がある。しかしながら、この方法は、容器のコストアップを招くとともに、問題解決のための企業努力を全く行わない非常に安直な方法であり、好ましくない。
【0011】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、容器内外の遮断を維持しながら容器変形を生じないグリス用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様におけるグリス用容器は、加熱されたグリスを収納した容器胴体に対して、ガスケット付きの天蓋が着脱可能に締め付けられるグリス用容器であって、
上記ガスケットは、天蓋の全周にわたり存在し、かつ、2液を混合し発泡させたウレタン材からなり成形後では独立気泡と連続気泡とが混在する構造を有して、グリスの温度降下に伴い容器胴体内に生じる負圧に対して通気性を有しかつグリスに対して液密性を有する、ことを特徴とする。
【0013】
また、天蓋は、容器胴体の開口側端部に嵌合する溝を天蓋内面の全周囲にわたって有し、上記ガスケットは、上記溝の深さに対してガスケット上面が5割から8割の高さで位置するように構成してもよい。
【0014】
また、当該グリス用容器は、鋼製のペール缶であり、天蓋は、その周囲につめを設けたラグタイプであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1態様におけるグリス用容器によれば、天蓋に設けられるガスケットは、天蓋の全周にわたり存在することから、容器の内外は遮断されている。よって、虫や水分が容器内に侵入することはない。さらに、ガスケットは、独立気泡と連続気泡とが混在する構成を有することから、容器内の負圧に対して通気性を有し、かつグリスに対して液密性を有する。よって、加熱されたグリスを充填しこれが降温したときでも、当該容器内の圧力低下は抑えられ当該容器が変形することはなく、かつ液密性は確保されており、グリスが漏れることもない。
【0016】
天蓋の溝の深さに対してガスケットの上面を5割〜8割の高さに位置させることで、容器製造コストを抑えながら、上述の通気性及び液密性を満足することができる。
【0017】
グリス用容器をラグタイプのペール缶とすることで、従来のペール缶のガスケットを交換するだけで、容易に、上述の通気性及び液密性を満足するグリス用容器を構成することができる。また、ラグタイプであるので、容器胴体に対して天蓋を容易に締め付けることができ、かつJIS Z 1620に規定されるバンドタイプに比べて安価で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態におけるグリス用容器に備わるガスケット部分における容器の断面図である。
【図2】図1に示すガスケットの性質を示すグラフである。
【図3A】従来の塩化ビニル製のガスケットの概略構造を示す断面図である。
【図3B】図1に示すガスケットの概略構造を示す断面図である。
【図4】従来のペール缶を示す図である。
【図5】従来のペール缶において凹みが発生した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態におけるグリス用容器について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。
以下の実施形態では、グリス用容器の一例として、ラグタイプの鋼製ペール缶を用いる場合を例に採る。ペール缶を用いることで、従来のペール缶のガスケットを交換するだけでグリス用容器を構成することができて好ましい。しかしながら、以下に詳しく説明するガスケットを有する容器であればよく、ペール缶に限定するものではない。また、ラグタイプに限定されず、バンドタイプ等、天蓋と容器胴体とを締め付ける手段を有する容器に、本発明は適用可能である。
【0020】
本実施形態のグリス用容器は、JIS Z 1620に規定される、ラグタイプのペール缶を例に採る。その構成は、図4を参照して説明したものに同様であり、カール加工された開口側端部1aを有する容器胴体1と、つめ4及び溝2bを有する天蓋2とを有し、その板厚は共に0.34mmのものである。一方、天蓋2の溝2bに設けるガスケットのみは、以下に説明するように、従来のペール缶のものとは異なる。したがって、以下ではガスケットについてのみ説明を行う。
【0021】
以下の説明では、図1に示すように、本実施形態におけるラグタイプの鋼製ペール缶について、110の符号を付し、このペール缶110の天蓋2の溝2bに設けるガスケットに、101の符号を付す。
【0022】
ガスケット101は、端的に言えば、上述した、一般的に認識されているガスケットとしての機能を満たさない、つまり気体に対するシール性能が悪いガスケットであり、換言すると、従来ではガスケットとして使用できないガスケットに相当する。
【0023】
即ち、一般的に認識されているガスケットは、図2に点線で示すように、ガスケットの圧縮量を増加させシール性能を高めるためには、組み付けによるガスケットの復元力がほぼ2次関数的に増す性質を有する。つまり、強く締め付ければ、それに応じてシール性能は向上する。
一方、ガスケット101は、図2に実線で示すように、ガスケットの圧縮量を増加させても、組み付けによるガスケットの復元力がほとんど変化しない不変領域102を有する。つまり、ガスケット101は、締め付けられているにも拘わらず、シール性能が余り向上しない性質を有する。この性質を利用することで、以下に説明するように、ガスケット101は、気体は通すが液体は通さない、つまり通気性を有し、かつ液密性を有することが可能となる。
【0024】
このようなガスケット101は、以下の材料から作製される。即ち、上述したように従来のガスケット3は、塩化ビニル製であったのに対し、ガスケット101は、2液を混合し発泡させたウレタン材からなる。詳しく説明すると、ガスケット101は、ウレタン樹脂を主剤としたポリオールミックスと、硬化剤とを混合させたものである。ポリオールミックスは、ポリオールと、水と、触媒との混合物であり、硬化剤は、発泡剤のイソシアネートである。このような2液混合発泡ウレタン材は、従来の塩化ビニル材と比較して以下のような特徴を有する。
【0025】
即ち、従来のガスケット3の塩化ビニル材は、独立気泡を有し、その断面では図3Aに示すように、各気泡31がつながっておらず独立した構造を有する。いわゆるクローズセルと呼ばれる構造である。このため、塩化ビニル材は、圧縮時に、圧縮方向に直角な横方向への変形を伴い、これにより、弾力性が有り、復元力を有する。よって塩化ビニル材は、一般的に認識されているガスケットとしての機能を満足する材料として優れている。
【0026】
一方、ガスケット101の2液混合発泡ウレタン材は、一部に連続気泡を有し、その断面では図3Bに示すように、独立気泡101aと、各独立気泡101aがつながった連続気泡101b、いわゆるオープンセル、とが混在した構造を有する。オープンセルは、圧縮時に横方向への変形を伴わない。よって、独立気泡101aと連続気泡101bとが混在する構造のガスケット101では、圧縮初期時には横方向へ変形しないが、圧縮力の増加に伴い横方向への変形を伴う。この結果、ガスケット101は、上述した不変領域102を有し、通気性を有し、かつ液密性を有するという性質を有する。
【0027】
このようなガスケット101は、2液を混合させた液体の状態で天蓋2の溝2b内へ充填され、その後、硬化して形成される。尚、図1は、形成後の状態を図示しており、充填の際には、天蓋2は、図1に示す状態が反転され、液体状の2液混合発泡ウレタン材が溝2bに充填される。また、上述のように発泡剤を含むことから、ガスケット101の上面101cは、盛り上がり円弧状になる。
【0028】
ガスケット101は、上述のように材料自体の構造に基づいて、通気性を有しかつ液密性を有するという性質を有するが、出願人は、このような性質を達成するための、ガスケット101用の適切な、溝2bへの充填量が存在することを見出した。
即ち、図1に示すように、天蓋2の溝2bの底面2cからガスケット101の上面101cまでの距離、換言するとガスケット101の厚みTは、底面2cから天蓋2の内面2aまでの、溝2cの深さDに対して、5割から8割とするのが好ましい。この範囲における厚みTを有するガスケット101は、従来と同様のテスト方法である、当該ペール缶110の容器胴体1内に水を入れ横倒しにし、かつ当該ペール缶110内を3kPa以上に加圧した場合には、ガスケット101を通して空気が漏れる、つまり通気性を有することが確認され、一方、水の漏れは確認されなかった。尚、加圧値が2kPaでは、空気漏れも確認されなかった。
【0029】
厚みTが、上述の適正範囲を外れる場合、つまり5割未満では、液体の漏れが発生し、8割を超えたときには、気密性が生じ気体を漏らすことができなくなる。
【0030】
このようにガスケット101の厚みTには適切な範囲が存在するが、製造コスト及び余裕度の観点から、本実施形態では、厚みT、つまり溝2bの底面2cからガスケット101の上面101cまで高さは、溝2cの深さDの6割を目標に設定している。
【0031】
ガスケット101の通気性及び液密性の確認試験方法として、上述のように水を入れ横倒しにしペール缶内を加圧する方法を採った。一方、説明したような缶変形を生じさせる負圧は、容器胴体1及び天蓋2の板厚が0.34mmの場合、実缶によるバキュームテストによれば約−10kPaである。したがって、ガスケット101の性能確認試験方法として用いた加圧値である3kPaの値は、性能確認試験行うにあたり十分に妥当で適正な値であると言える。さらに、確認試験ではグリスよりも液漏れし易い水を用いており、この点からもガスケット101の確認試験方法に問題はない。
【0032】
また、ガスケット101を設けたペール缶110、及び、従来の塩化ビニル製のガスケット3を使用したペール缶10のそれぞれに、95℃の温水を入れこれを5℃まで冷却して、各ペール缶内を減圧状態とし、各ペール缶の変形確認試験も行った。この試験結果によれば、本実施形態のペール缶110では、減圧による変形はなかったが、従来の塩化ビニル製のガスケット3を使用したペール缶10は、大きく変形した。この試験結果からも、上述のガスケット101は、通気性能を有することがわかる。
【0033】
さらにまた、実際の使用方法に準じ、ペール缶110の容器胴体1内に加熱グリスを充填し、ガスケット101を設けた天蓋2で容器胴体1を封止した性能確認試験方法も行い、勿論、ペール缶110に凹み等の損傷が発生せず、かつグリス漏れも無いことを確認している。
【0034】
以上のように本実施形態では、グリス用容器としてペール缶110を用いた場合を例に採っているが、上述の、ガスケット101の厚みTの適正範囲は、ペール缶の場合に限られない。即ち、溝を有する天蓋を容器胴体の開口側端部に装着する容器において、上記溝内にガスケット101を設ける場合に、上記適正範囲は有効である。
【0035】
以上説明したように通気性能及び液密性能を備えたガスケット101を設けた天蓋2は、従来と同様に、容器胴体1内に加熱グリスが充填された後、容器胴体1の開口側端部1aに天蓋2の溝2bを嵌合させ、ガスケット101を介して装着され、さらに、つめ4を折り曲げて、容器胴体1に締め付けられる。上述したように、ガスケット101は、組み付けによるガスケットの復元力がほとんど変化しない不変領域102を有すること、また、溝2bの深さDに対してガスケット101の厚みTが上述の適正範囲に設定されていることから、容器胴体1に天蓋2を締め付ける際、天蓋2の締め付け力に注意を払う必要はない。よって、従来通りの作業を行うことで、ガスケット101において、上述の、通気性有り、かつ液密性有りの性能が達成される。
【0036】
したがって、本実施形態におけるペール缶110によれば、容器胴体1内に加熱グリスが充填された後、容器胴体1に天蓋2を装着し締め付けが行われ、グリス温度が降下し冷えた状態でも、ペール缶110に凹み等の外観損傷は、発生しない。さらに、天蓋2の全周にわたりガスケット101が存在し、かつガスケット101は液密性能を有することから、ペール缶110内に水分や虫が侵入することはなく、かつ収納物のグリスが缶外へ漏れ出すこともない。
【0037】
また、ペール缶110は、ラグタイプであるので、容器胴体1に対して天蓋2を容易に締め付けることができ、かつJIS Z 1620に規定されるバンドタイプに比べて安価で構成可能である。
【0038】
以上の説明は、容器内への充填物としてグリスを収納する場合にて説明を行ったが、収納物はグリスに限定されない。即ち、以上の説明から明らかなように、本発明は、容器内を天蓋によって封じた後、容器内が負圧に変化して容器に損傷を生じさせるような収納物を収納する容器に対して適用可能なことは明らかである。
【0039】
また、以上の説明は、容器としてペール缶を例に採り、その容器胴体は円筒形である。しかしながら、容器の外形は、円筒形に限定されず、例えば四角等の角筒形であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えばグリスを収納するような容器に適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…容器胴体、1a…開口側端部、2…天蓋、2b…溝、
101…ガスケット、110…ペール缶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたグリスを収納した容器胴体(1)に対して、ガスケット(101)付きの天蓋(2)が着脱可能に締め付けられるグリス用容器であって、
上記ガスケットは、天蓋の全周にわたり存在し、かつ、2液を混合し発泡させたウレタン材からなり成形後では独立気泡と連続気泡とが混在する構造を有して、グリスの温度降下に伴い容器胴体内に生じる負圧に対して通気性を有しかつグリスに対して液密性を有する、
ことを特徴とするグリス用容器。
【請求項2】
天蓋は、容器胴体の開口側端部(1a)に嵌合する溝(2b)を天蓋内面の全周囲にわたって有し、
上記ガスケットは、上記溝の深さ(D)に対してガスケット上面(101c)が5割から8割の高さで位置する、請求項1記載のグリス用容器。
【請求項3】
当該グリス用容器は、鋼製のペール缶であり、天蓋は、その周囲につめを設けたラグタイプである、請求項1又は2に記載のグリス用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236632(P2012−236632A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107040(P2011−107040)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(595100598)株式会社ジャパンペール (7)
【Fターム(参考)】