説明

グリセリン脱水によるアクロレインの製造方法

【課題】
グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造するに際して、アクロレイン収率を低下させずに、コーキングを抑制し、活性劣化を抑制することができる触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】
結晶性メタロシリケート合成時に含有する対カチオン種(L原子とする)と結晶性メタロシリケート中のT原子の割合がL/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートを出発物質として使用し、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものを触媒としてとして使用し、グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンの脱水反応用触媒に関し、特にグリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造する際に、コークの生成を抑制しつつ、アクロレインを生産することができる触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物油から製造されるバイオディーゼルは、化石燃料の代替燃料としてだけではなく、二酸化炭素の排出量が少ない点でも注目され、需要の増大が見込まれている。このバイオディーゼルを製造するとグリセリンが副生するため、その有効利用を図る必要がある。グ
リセリンの利用の一態様としては、グリセリンをアクロレインの原料に使用することが挙げられる。
【0003】
グリセリンから脱水反応によりアクロレインを製造するに際して、固体酸触媒を使用することは古くから知られている。例えば、液相条件で、酸強度関数Hが+2以下の固体酸触媒としてMFI型ゼオライトであるHZSM−5を使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法(特許文献1参考)、気相条件でHが−10<H<−16の範囲にある固体酸触媒として、HZSM−5をエアロジルと混合して使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法(特許文献2参考)が開示されている。
【0004】
また気相条件にて、20質量%のベントナイトおよび80質量%のHZSM−5で構成される触媒を使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法が開示されている。この触媒を構成するHZSM−5には、H型と記述されているものの、NaOが0.55質量%含有していることが明記されている(非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1で開示されたものは、使用した触媒であるHZSM−5に関して詳細な記載はないが、HZSM−5のH値が−8.0以下であり、そのようなH値を有する触媒はグリセリンから気相脱水反応によりアクロレインを製造するには適当ではないということが記載されており、アクロレインの初期収率はわずか45%と低く、わずか4時間の運転で、触媒がかなり不活性化したという記述がなされている。
【0006】
また反応温度が340℃以上の条件では、触媒寿命が極めて短くなることを記載しており、反応温度380℃では反応後の触媒が黒色であること、すなわちコークによる触媒劣化が著しいことを示唆する記述がなされている。
【0007】
また特許文献2では、Chemie Uetikon社製のHZSM−5(Zeocat PZ)を触媒として使用し、グリセリンの気相脱水反応を実施しているが、グリセリン転換率、アクロレイン収率に経時的な低下が認められ、触媒劣化が生じている。
【0008】
また非特許文献1で、HZSM−5というようにプロトン型に変換されていることを示唆する記述がなされているものの、使用しているHZSM−5にはNaOが0.55質量%、L/T値に計算し直すとL/T=0.4の割合でゼオライト合成段階で使用されるNaが含有しており、アクロレイン収率も極めて低い。
【0009】
【特許文献1】特開平06−211724号公報明細書
【特許文献2】国際公開WO2006−087083号公報明細書
【非特許文献1】Le H.Dao, Reaction of Model Compounds of Biomass−Pyrolysis Oils over ZSM−5 Zeolite Catalysts,American Chemical Society,1988,376,p.328−341
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、グリセリンからアクロレインを合成する反応において結晶性メタロシリケートを触媒として使用した場合、最も問題となるのはアクロレイン収率が経時的に低下すること、すなわち触媒の活性劣化である。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、結晶性メタロシリケート合成時に含有する対カチオン種(L原子とする)と結晶性メタロシリケート中のT原子の割合がL/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートを出発物質として使用し、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものを触媒として使用すれば、アクロレイン収率を低下させることなく、コーク量を低減することができ、またコークの燃焼温度を下げることが可能となり、上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
L/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートにアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子を添加した触媒を使用すれば、アクロレイン収率を低下させずに、コーク量を低減することができ、またコークの燃焼温度を下げることが可能となり、活性劣化を抑制することができる。
【0013】
さらに上記触媒において、結晶性メタロシリケート中のT原子とL原子、M原子の割合が0<(L+M)/T<1.0の範囲になるようにM原子を添加することがより効果的である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のようなM原子を含有させた結晶性メタロシリケートを触媒に使用することで、グリセリンの気相脱水反応によりアクロレインを製造するに際して、アクロレイン収率を低下させずに、コーク量を低減することができ、またコークの燃焼温度を下げることが可能となり、活性劣化を抑制することができる。
【0015】
また本発明の触媒を使用すれば、原料グリセリンの濃度に依存せず、アクロレインを高収率で製造することができ、かつ活性劣化を抑制することができるため、生産効率が大きく向上する。すなわち原料を高濃度化できることで、添加水の蒸発および液化に伴う多大なエネルギー損失も削減され、経済的にも極めて有利にアクロレインを製造することが可能となる。上記したような効果により、グリセリン脱水反応によりアクロレインを製造する工業的製造方法の確立がより容易に可能となることが期待される。
【0016】
本発明のようなM原子を含有させた結晶性メタロシリケートが、グリセリンからアクロレインを合成する反応の触媒として効果を発揮する理由としては、以下のようなことが推測できる。触媒の活性点の強さ、位置、分布がコーク生成量およびコーキングの進行度合(コーキングが進行すると、コーク燃焼温度が高温側にシフトしていく)に影響している可能性があり、特に強い活性点を多数有している場合には、コーキングが著しく促進され、活性劣化が急速に進行する可能性がある。本発明のようにM原子を添加することで、活性点の強さ、分布を適度に調節することでアクロレイン収率を低下させずに、コーキングを抑制し、活性劣化を抑制できると推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。
【0018】
(触媒)
本発明の触媒はグリセリンの気相脱水反応によりアクロレインを製造する方法に有用なものであって、特定の処理をした結晶性メタロシリケートに、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものを触媒として使用することを特徴とする。
【0019】
上記結晶性メタロシリケートは、合成時に含有する対カチオン種(L原子とする)と結晶性メタロシリケート中のT原子の割合をL/Tで表した場合、L/T<0.3になるまで、好ましくはL/T<0.2、より好ましくはL/T<0.1、さらに好ましくはL/T<0.05、さらに好ましくはL/T<0.01、最も好ましくはこのL原子のほぼ全部がプロトンに置き換えられた、すなわちL/Tが0(検出限界以下)になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートである。L原子は結晶性メタロシリケート合成時に、原料溶液または原料水性スラリー中にアルカリ原料として添加され、通常は合成後も含有されており、結晶格子外に存在するイオン交換可能なカチオン種である。このL原子としてはLi、Na、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、およびLa等を例示することができる。
【0020】
上記結晶性メタロシリケートの合成方法としては、公知の合成方法が挙げられる。例えば、水熱合成法、ドライゲルコンバージョン法、固相結晶化法などにより合成することができる。
【0021】
具体的に例えばZSM−5の製法の一例を示すと、米国特許3702886号広報明細書記載の水熱合成法、特開2000−344515号広報明細書記載のドライゲルコンバージョン法、特開2001−058817号広報明細書記載の固相結晶化法などで合成されたZSM−5を例示することができる。
【0022】
上記結晶性メタロシリケートをプロトン型に変換するには、通常、結晶性メタロシリケート合成時に添加されるアルカリ原料、すなわちL原子をアンモニウムイオンなどとのイオン交換によって除去し、高温での熱処理を行うことでプロトン型に変換することができる。
【0023】
L/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートを調製するためには、このイオン交換および熱処理の工程を1回ずつ行っても良いし、複数回繰り返し行っても良い。
【0024】
上記結晶性メタロシリケートにおいて、SiとT原子の割合は10<Si/T<3000であることが好適であり、より好ましくは10<Si/T<1500、さらに好ましくは10<Si/T<800、最も好ましくは10<Si/T<400である。
【0025】
上記結晶性メタロシリケートは、T原子がAl原子である結晶性アルミノシリケート(一般にゼオライトともいう)および結晶性アルミノシリケートのT原子としてAl原子の代わりに他の金属原子が結晶格子中に導入された化合物である。他の金属原子の具体例としては、B、Fe、Ga、P、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Ge、As、Y、Zr、In、Sn、Sb、Laなどが挙げられ、これらは単独でも2種以上でもよい。触媒活性および触媒製造のし易さの点から、T原子がAl、B、In、Fe、Ga、Co、NiおよびZnから選択された結晶性メタロシリケートが好適であり、中でもT原子がAlである結晶性アルミノシリケートが特に好適である。
【0026】
上記結晶性メタロシリケートの結晶構造としては、国際ゼオライト学会構造委員会が構造コードで分類している結晶構造のメタロシリケート、並びに、「ZEOLITES,Vol−12,No.5,1992」および「HANDBOOK OF MOLECULAR SIEVES,R.Szostak著,VAN NOST RAND REINHOLD 出版」等に記載された構造のメタロシリケートを挙げることができ、結晶構造が特に限定されるものではない。これらの中でもMFI、MEL、BEA、MWWのいずれかの結晶構造を有するものが、高収率でアクロレインを製造することができる点から好適であり、MFIの結晶構造を有する結晶性メタロシリケートが特に好適である。
【0027】
本発明の触媒において、結晶性メタロシリケートの形態はいかなるものでもよく、例えば球状、柱状、リング状、または鞍状であるとよく、その大きさは直径相当で通常、0.1mm〜10mm程度であると良い。
【0028】
本発明に係る触媒は、上記結晶性メタロシリケートにアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものである。本発明においては、結晶性メタロシリケートにM原子の中から選ばれる少なくとも1つの原子を添加させることによって、グリセリンの気相脱水反応によりアクロレインを製造するに際して、アクロレイン収率を低下させずにコーキングを抑制し、活性劣化を抑制することができる。
【0029】
上記、アルカリ金属原子としてはLi、Na、K、Rb、Csなどが挙げられ、アルカリ土類金属原子としてはBe、Mg、Ca、Sr、Baなどが挙げられる。また、上記希土類金属原子としてはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Hoなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。限定されるわけではないが、本発明においては、これらのM原子の中でもLi、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ceが好適であり、Na、K、Rb、Cs、Ba、Yが特に好適である。
【0030】
M原子の結晶性メタロシリケート中の含有量は、結晶性メタロシリケート中にもともと含有するL原子の量と合わせて考慮する必要があり、好ましくはT原子とL原子、M原子の割合で0<(L+M)/T<1.0であり、より好ましくは0<(L+M)/T<0.8であり、最も好ましくは0<(L+M)/T<0.5である。
【0031】
M原子を結晶性メタロシリケートに添加する方法は、特に限定されず、一般に用いられる触媒調製方法で行われる。例えば混練法、含浸法、イオン交換法などにより担持する方法が挙げられる。M原子を添加するためのM原子を含む原料化合物は、これらの触媒調製方法に応じ必要とされる物性、例えば水溶性等を有している各種化合物から適宜選択される。例えば、これらの塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、窒化物、水酸化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの無機塩、アルコキシド、酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機塩などが挙げられるが、なかでも硝酸塩、炭酸塩が好適である。
【0032】
上記方法により、結晶性メタロシリケートに含有させたM原子は、一般にイオンまたは酸化物の状態をとっており、この状態でもコーキング抑制効果を有し、活性劣化を抑制することができるが、必要に応じ、イオンまたは酸化物の状態にあるM原子を、空気気流下で加熱処理する、すなわち焼成を行ってから使用しても良い。
【0033】
例えば、M原子を含有させた結晶性メタロシリケートを空気気流下、室温から600℃の範囲で処理することができ、その温度範囲は結晶性メタロシリケートの結晶構造が破壊されない範囲に制限される必要がある。結晶性メタロシリケートの結晶構造が破壊されるとT原子が格子外に脱離(T原子がAl原子である結晶性アルミノシリケートの場合でいう、Al原子が格子外脱離する、いわゆる脱アルミ)し、アクロレイン収率を大きく低下させてしまう原因となる場合がある。
【0034】
(アクロレイン製造方法)
次に、本実施形態の触媒を使用したアクロレインの製造方法について説明する。本実施形態におけるアクロレインの製造方法は、固定床反応器、移動床反応器、流動層反応器等から任意に選択した反応器内でグリセリンを含んだ反応原料ガスと触媒を接触させる気相脱水反応によりアクロレインを製造するものである。
【0035】
原料グリセリンは、精製品でも、粗製品でも、水溶液でもかまわない。
反応原料ガスは、グリセリンのみで構成されているガスであっても良く、反応原料ガス中のグリセリン濃度を調整するためにグリセリン脱水反応に不活性なガスを含んでいても良い。不活性ガスとしては、水蒸気や窒素ガス、空気を挙げることができ、特に水蒸気を添加すると触媒の寿命やアクロレインの収率に対して有利な効果が見られ、好適である。
【0036】
この反応原料ガス中におけるグリセリン濃度は、0.1〜100モル%であれば良く、好ましくは1モル%以上であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率で行うためには、10モル%以上がより好ましい。
【0037】
反応性ガスの流量は単位触媒容積あたりの反応ガス流量(GHSV)で表すと100〜10000hr−1であると良い。好ましくは、5000hr−1以下であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率で、行うためには、3000hr−1以下がより好ましい。
【0038】
反応温度は、200〜500℃であると良く、好ましくは、250〜450℃、更に好ましくは、300〜400℃である。
【0039】
反応圧力は、グリセリンが凝縮しない範囲の圧力であれば特に限定されない。通常、0.001〜1MPaであると良く、好ましくは、0.01〜0.5MPa以下である。
【0040】
以上の方法により、アクロレインを製造することが可能である。製造されたアクロレインは、既に公知の技術を用いての、アクリル酸、1,3−プロパンジオール、アリルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、メチオニン等のアクロレイン誘導体の製造用原料として使用可能である。従って、上記アクロレインの製造方法は、アクロレイン誘導体の製造方法中に取り入れることが当然可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、グリセリン転化率、アクロレイン収率、SV(空間速度)は次の式で算出される値である。
【0042】
グリセリン転化率 =(1−(捕集流出物中のグリセリンのモル数)/(30分問で反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100
アクロレインの収率 =((捕集流出物中のアクロレインのモル数)/(30分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100
SV(空間速度)=(標準条件で換算したガス供給量、L/hr)/(触媒量、L)。
【0043】
(触媒の製造)
(触媒調製比較例1)
次の担持工程、結晶化工程、およびイオン交換工程を実行することにより、H型Al−MFI触媒(T原子がAlであるメタロシリケート成形体)を製造した。
【0044】
(担持工程)
1.40gのNaOHと0.47gのNaAlOを蒸留水15.00gに順次溶解し、更に、10.15gの40質量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液を蒸留水に添加した。そして、この溶液に更に蒸留水を加えて、全量が30mlの含浸液を調整した。
【0045】
次に、シリカ成形体にシリカビーズ(富士シリシア化学社製「キャリアクトQ50」、10 〜20メッシュ、平均細孔径50nm)を使用し、120℃で1日間乾燥したシリカビーズ30gを含浸液に1時間含浸させた。その後シリカビーズを100℃の湯浴上に設置した蒸発皿上で乾燥させた後、更に80℃、窒素気流下で7時間乾燥して、結晶化に必要なNa、Al結晶化剤をシリカビーズに担持させ、結晶性メタノシリケート前駆体を得た。
【0046】
(結晶化工程)
担持工程で得た前駆体を容積100mlのテトラフルオロエチレン製のジャケット付坩堝の中空部に配置し、坩堝の底部に1.00gの蒸留水を入れ、この坩堝を180℃の電気炉内で8時間静置した。
【0047】
(イオン交換工程)
結晶化工程を経た固形物を、60℃の1mol/L硝酸アンモニウム水溶液300gに浸漬して1時間攪拌した後、上澄み液を廃棄した。この操作を複数回繰り返した。その後、固形物を水洗した。
【0048】
(焼成工程)
イオン交換工程後の固形物を、空気気流中において550℃で5時間焼成した。
【0049】
焼成工程後、再度イオン交換工程を行い、更に焼成工程を行うことで本実施例で使用したSi/Al比が100mol/molのH型Al−MFI(T原子がAl)触媒を得た。得られた触媒中に含有するNa量は蛍光X線分析(XRF)にて測定した結果、Na2Oで0.003質量%以下(Na/Al<0.01mol/mol)であった。
【0050】
反応終了後の抜き出し触媒上には、コークが8.5重量%析出していた。またそのコークの燃焼温度は530℃であった。
【0051】
(触媒調製比較例2)
イオン交換工程、焼成工程を各1回に回数を減らした以外は、触媒調製比較例1と同様の調製方法にて、一部分のNaがプロトンに置き換えられたAl−MFI(T原子がAl)触媒を得た。イオン交換工程、焼成工程を減らしたことにより、担持工程にて仕込んだNaの一部が触媒上に残存した。得られた触媒に含有するNaO量は0.43質量%(Na/Al比=0.6mol/mol)であった。
【0052】
(触媒調製実施例1)
0.11gのLiNOを27.98gの蒸留水に溶解させてLi含有溶液を調整した。
ナス型フラスコに触媒調製比較例1と同様の方法で調製し得られたH型Al−MFIを40.0g秤量し、均一に含浸するように十分に振蕩、混合しながら、これに上記Li溶液を加えて3時間吸収、含浸させた。
【0053】
その後、90℃の湯浴上に設置した蒸発皿上で、かき混ぜながら乾燥させ、続いて焼成炉中、空気気流下、120℃で9時間更に乾燥し、最終的に550℃で5時間焼成することで、LiがLi/Al比で0.24mol/mol含有するLi含有触媒を得た。
【0054】
(触媒調製実施例2)
0.02gのNaCOを27.99gの蒸留水に溶解させてNa含有溶液を調整した。
上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、NaがNa/Al比で0.06mol/mol含有するNa含有触媒を得た。
【0055】
(触媒調製実施例3)
0.21gのNaCOを27.92gの蒸留水に溶解させてNa含有溶液を調整した。
上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、NaがNa/Al比で0.60mol/mol含有するNa含有触媒を得た。
【0056】
(触媒調製実施例4)
0.029gのKCOを27.99gの蒸留水に溶解させてK含有溶液を調整した。
上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、KがK/Al比で0.06mol/mol含有するK含有触媒を得た。
【0057】
(触媒調製実施例5)
0.049gのRbCOを27.97gの蒸留水に溶解させてRb含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、RbがRb/Al比で0.07mol/mol含有するRb含有触媒を得た。
【0058】
(触媒調製実施例6)
0.041gのCsCOを27.96gの蒸留水に溶解させてCs含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、CsがCs/Al比で0.04mol/mol含有するCs含有触媒を得た。
【0059】
(触媒調製実施例7)
0.462gのCsCOを27.72gの蒸留水に溶解させてCs含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、CsがCs/Al比で0.43mol/mol含有するCs含有触媒を得た。
【0060】
(触媒調製実施例8)
0.660gのCsCOを27.34gの蒸留水に溶解させてCs含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、CsがCs/Al比で0.61mol/mol含有するCs含有触媒を得た。
【0061】
(触媒調製実施例9)
0.063gのY(COを27.97gの蒸留水に溶解させてY含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、YがY/Al比で0.05mol/mol含有するY含有触媒を得た。
【0062】
(触媒調製実施例10)
0.205gのBa(NOを27.92gの蒸留水に溶解させてBa含有溶液を調整した。上記溶液を含浸液として使用した以外は、触媒調製実施例1と同様にして、BaがBa/Al比で0.12mol/mol含有するBa含有触媒を得た。
【0063】
(触媒調製比較例3)
担持工程にてNaAlOの代わりに、Ga(NO・9HOを1.74g使用した以外は、触媒調製比較例1と同様の調製方法にて、T原子がGaであるメタロシリケート成形体でSi/Ga比が100mol/molのH型Ga−MFI(T原子がGa)触媒を得た。得られた触媒中に含有する触媒中に含有するNa量は蛍光X線分析(XRF)にて測定した結果、NaOで0.003質量%以下(Na/Al<0.01mol/mol)であった。
【0064】
反応終了後の抜き出し触媒上には、コークが8.7重量%析出していた。またそのコークの燃焼温度は537℃であった。
【0065】
(触媒調製実施例11)
0.02gのNaCOを27.99gの蒸留水に溶解させてNa含有溶液を調整した。
ナス型フラスコに触媒調製比較例3と同様の方法で調製し得られたH型Ga−MFIを40.0g秤量し、均一に含浸するように十分に振蕩、混合しながら、これに上記Na溶液を加えて3時間吸収、含浸させた。その後、90℃の湯浴上に設置した蒸発皿上で、かき混ぜながら乾燥させ、続いて焼成炉中、空気気流下、120℃で9時間更に乾燥し、最終的に550℃で5時間焼成することで、NaがNa/Ga比で0.06mol/mol含有するNa含有触媒を得た。
【0066】
(触媒を使用したアクロレインの製造例)
上記の触媒調製比較例および実施例にて製造した触媒を使用して、次の方法で示す常圧気相固定床流通反応形式により、グリセリンを脱水し、アクロレインを製造した。
【0067】
触媒15mlをステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)に充填し、この固定床反応器を360℃の塩浴に浸漬した。その後、反応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた後、80質量%グリセリン水溶液の気化ガスと窒素からなる反応ガス(反応ガス組成:グリセリン27mol%、水34mol%、窒素39mol%)を650hr−1の流量で流通させた。反応器内に反応ガスを流通させてから0.5〜1時間、2.5〜3時間、さらに4.5〜5.0時間の間で30分間における流出ガスをアセトニトリル中に冷却吸収して捕集した。
【0068】
吸収した液の一部を採り、ガスクロマトグラフィ(GC)により、流出物の定性および定量分析を行った。GCによる定性分析の結果、グリセリン、アクロレインと共に1−ヒドロキシアセトンなどの副生成物が検出された。また、定量分析結果から、グリセリン転化率およびアクロレイン収率を算出した。
【0069】
反応後、反応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた後に触媒を抜き出し、熱重量−示差熱分析(TG−DTA)によって触媒に付着したコークを測定した。熱分析は、空気流通下、室温から900℃まで10℃/min.で昇温後、10分間保持する条件で行い、触媒上に析出したコークは全て燃焼除去させ、その間の重量減少をコーク蓄積量として、また発熱ピークトップの温度をコーク燃焼温度とした。
【0070】
(反応結果)
表1および表2に得られた反応結果、コークの分析結果をまとめた。表中の記述に関して、グリセリンはGLY、アクロレインはACRと略号で記した。また反応経過時間は捕集終了後の時間で示した。
【0071】
表1、2より、本発明のようにM原子を添加した結晶性メタロシリケートは、コークの生成量が抑制されており、経時的な活性劣化は認められない。
【0072】
またコークの燃焼温度を低下させることができており、コーキングの進行を抑制していることがわかる。このことは燃焼除去による再生処理を容易に実施できる可能性がある。
【0073】
また、比較例2および実施例3より、同量のNa含有量であっても、結晶性メタロシリケート製造時に含有するL原子としてのNaが多く含有していると、アクロレイン収率を大きく低下させていることがわかる。
【0074】
表3の結果から、本発明の効果は結晶性メタロシリケートのT原子の種類に影響されないことがわかる。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、結晶性メタロシリケート合成時に含有する対カチオン種(L原子とする)と結晶性メタロシリケート中のT原子の割合がL/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートに、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものを触媒として使用することにより、グリセリンの気相脱水反応によりアクロレインを製造するに際して、アクロレイン収率を低下させずに、コーキングを抑制し、活性劣化を抑制することができる。
【0079】
また本発明の触媒を使用すれば、高濃度のグリセリンを原料に使用した場合においても、アクロレイン収率を低下させずに製造することができ、かつ活性劣化を抑制することができるため、生産効率が大きく向上することが期待できる。
【0080】
また、コークの燃焼温度が低下するため、劣化した触媒を再生(燃焼除去)する際に必要とされる温度が低くなり、脱水反応と再生時の温度差が少なく、再生処理における温度の昇降温が少なくなる、若しくは不要になる事が期待され、触媒再生工程を容易に行うことができる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンからアクロレインを生成する脱水反応において、結晶性メタロシリケート合成時に含有する対カチオン種(L原子とする)と該結晶性メタロシリケート中のT原子の割合がL/T<0.3になるまでプロトン型に変換された結晶性メタロシリケートに、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1つの原子(M原子とする)を添加したものを触媒として使用することを特徴とするアクロレインの製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、結晶性メタロシリケート中のT原子とL原子、M原子の割合が0<(L+M)/T<1.0であることを特徴とする請求項1記載のアクロレインの製造方法。
【請求項3】
前記触媒の結晶性メタロシリケートにおいて、SiとT原子の割合が10<Si/T<3000であることを特徴とする請求項1〜2記載のアクロレインの製造方法。
【請求項4】
前記触媒のM原子が、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ceから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3記載のアクロレインの製造方法。
【請求項5】
前記結晶性メタロシリケートの結晶構造がMFIであることを特徴とする請求項1〜4記載のアクロレインの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の製造方法で使用されるアクロレイン製造用触媒。

【公開番号】特開2008−137951(P2008−137951A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325963(P2006−325963)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】