説明

グリセロールからのアクリル酸の製造方法

【課題】グリセロールからアクリル酸を製造する方法。
【解決手段】分子状酸素の存在下でグリセロールのオキシデハンドレーション(oxydeshydration)反応によって一段階でアクリル酸を製造する。反応は適切な触媒の存在下で気相で行うのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル酸の新規な合成方法に関するものである。
本発明は特に、分子状酸素の存在下でグリセロールからアクリル酸を製造する合成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸の通常の主たる合成方法は酸素を含む混合物を用いたプロピレンの触媒反応手である。この反応では一般に気相で行われ、通常は下記の2段階で行なわれる:
(1)第1段階では多量のプロピレンを酸化しアクロレインを豊富に含む混合物を製造する。アクリル酸の量はマイナーである。
(2)第2段階で上記アクロレインを選択酸化してアクリル酸にする。
【0003】
上記2段階は直列の2つの反応器で行われ、各反応条件は互いに異なり、反応に適した触媒を必要とする。この2段階プロセス中にアクロレインを単離する必要はない。上記反応を単一反応器で行うこともできるが、この場合には多量のアクロレインを分離し、酸化段階で再利用する必要がある。
【0004】
グリセロールからアクロレインを製造する方法も古くから知られている。グリセロール(グリセリンともよばれる)は植物油のメタノリシス(methanolysis)でメチルエステルと同時に得られる。メチルエステル自体は特にディーゼルオイルまたは家庭用燃料油で燃料または可燃物として用いられている。グリセロールは多量に入手可能で、しかも、容易に貯蔵、輸送できる「環境に優しい」イメージのある天然物である。グリセロールの改良は純度に応じた種々研究されており、グリセロールの脱水によるアクロレインの製造法もその一つである。
【0005】
グリセロールからアクロレインを得る反応は下記である:
CH2OH−CHOH−CH2OH <−> CH2=CH−CHO+2H2
【0006】
一般に、水和反応は低温が良く、脱水反応は高温が良い。従って、アクロレインを得るためには、反応をシフトするのに十分な温度および/または分圧を用いる必要がある。反応は液相または気相で行うことができる。この種の反応が酸で触媒されることは公知である。グリセロールからアクロレインを合成する種々の方法は下記文献に記載されている。
【特許文献1】フランス国特許第695,931号公報
【特許文献2】米国特許第2,558,520号明細書
【特許文献3】国際特許出願第99/05085号公報
【特許文献4】米国特許第5,387,720号明細書
【0007】
グリセロールのアクロレインへの脱水反応には一般に副反応が伴い、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテルなどの副生成物が生成する。
【0008】
下記文献では、グリセロールの気相脱水反応で得られた反応生成物を最終気相酸化段階に送ってアクリル酸を得ている。
【特許文献5】国際特許出願第WO2005/073160号
【0009】
この2段階プロセスは純粋グリセロールまたはグリセロールを50重量%以上含む濃縮水溶液を用いて行われる。第1段階の脱水で燐酸とシリカを含浸したアルミナとをベースにした触媒を用い、第2段階の酸化でアルミナに担持したMo−V−W−Cu−O混合酸化物を用いて得られるアクリル酸の収率は55%〜65%である。この方法は直列に連結した2つの反応器で行われ、酸素は第2反応器に供給される気体混合物中に容易に添加できる。この方法を単一反応器で行うこともできる。すなわち、区画された2つの反応帯域の各々で別々の触媒を用いるか、2つの混合触媒を用いる。しかし、この方式では2つの触媒の一つ方が急速に非活性化するため、プロセスのメンテナンスが困難であるという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、驚くことに、グリセロール脱水反応を酸素の存在下で行い、グリセロールの希釈水溶液を用いることで、グリセロールからアクリル酸を直接得ることができる、ということを見出した。
すなわち、酸素の存在によって脱水反応の他に酸化反応を行うことができ、一段階でグリセロールからアクリル酸が生成でいる。反応媒体中に酸素を供給することの別の利点は使用する触媒上へのコークスの渕約が減少し、触媒の非活性化が阻止され、プロパンアルデヒド、アセトンおよびヒドロキシプロパノン等の副生成物の生成が減ることにある。また、このグリセロールからのアクリル酸の直接製造方法は単一反応器で合成を行うため、必要な投資額が減るという大きな利点もある。
【0011】
本発明方法の原理は下記の2つの連続した脱水、酸化反応をベースにしている:
CH2OH−CHOH−CH2OH <−> CH2=CH−CHO+2H2
CH2=CH−CHO+1/22 −> CH2=CH−COOH
「オキシデハンドレーション(oxydeshydration)反応」とよばれるこの反応方法では、酸化反応の発熱と脱水反応の吸熱とが組み合わされ、上記プロセスの熱平衡が良くなる。
【0012】
本発明方法の別の利点は、化石由来の原料、例えばプロピレンに依存せず、再生可能原料を用いる点にある。従って、この方法は持続可能な開発というグローバルな時代の新しい概念である「環境に優しい化学」の基準を満たしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の対象は、分子状酸素の存在下でグリセロールのオキシデハンドレーション反応によって一段階でアクリル酸を製造する方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記の分子状酸素は空気の形か、分子状酸素を含む気体混合物の形にすることができる。分子状酸素の量はプラント中の全ての場所が燃焼範囲外となるような量を選択する。一般に、本発明方法での酸素含有率は反応に入る気体混合物(グリセロール/H2O/酸素/不活性気体の混合物)の20%を超えないように選択する。
【0015】
グリセロールのアクロレインへの脱水反応は、一般に酸性固体触媒上で行われる。この触媒は例えば天然または合成のシリカ質材料または酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリまたはポリ酸性無機酸で被覆された無機物担体、例えば酸化物;酸化物または混合酸化物またはヘテロポリ酸の中から選択することができる。触媒は硫酸ジルコニア、燐酸ジルコニア、タングステンジルコニア、シリカ質ジルコニア、硫酸チタンまたは酸化錫および燐酸アルミナまたはシリカであるのが好ましい。これらの酸性触媒はグリセロールの脱水反応には適し、生成するアクリル酸の脱着を容易にするが、酸化反応には最適化ではなく、このタイプの触媒ではアクリル酸の収率は制限される。
【0016】
従って、アクリル酸の選択性を良くするため、使用する固体は酸化反応も触媒できるのが好ましい。酸化触媒としては金属の形または酸化物、硫酸塩または燐酸塩の形で存在するMo、V、W、Re、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Te、Sb、Bi、Pt、Pd、RuおよびRhの中から選択される少なくとも一種の元素を含む固体を選択するのが好ましい。脱水反応と酸化反応の両方を触媒可能な単一の触媒を用いることができ、さらに、これら2つの反応の一つをそれぞれが最適な方法で触媒できる触媒の混合物を使用することもできる。この触媒の混合物は触媒の均質混合物にするか、反応器内で触媒を2層に積み重ねたものにすることができる。後者の場合には第1層でグリセロールを脱水してアクロレインを作り、第2層を製造されたアクロレインを酸化してアクリル酸を得るのにより適したものにする。使用する反応器の技術に応じてこれらの形のいずれかを使用できる。
【0017】
本発明の反応は気相または液相行うことができ、気相が好ましい。反応を気相で行う場合には種々の製造技術すなわち固定床プロセス、流動床プロセスまたは循環流動床プロセス等を用いることができる。最初の2つのプロセスでは触媒の再生を固定床または流動床で反応と分けて行うことができる。触媒の再生は例えば製造現場以外で触媒を取り出し、空気中または分子状酸素を含む気体混合物中で燃焼して行うことができる。この場合は、再生温度および圧力を反応温度および圧力と同じにする必要はない。本発明方法では反応器内に分子状酸素または分子状酸素を含む気体が存在するので、触媒の再生を反応と同時に製造現場(in situ)で連続的に行うことができる。この場合、再生は非活性化の抑制といえ、反応温度および圧力で行われる。
循環流動床プロセスでは触媒を2つの容器すなわち反応器と再生器とを循環させる。グリセロール溶液の気化と脱水反応は吸熱反応であり、酸化反応とコークス燃焼から成る触媒再生は発熱反応であり、これら2つの系が互いに補償し合ってプロセスの熱平衡が良くなる。
【0018】
最適プロセスは種々の基準に応じて選択する。固定床プロセスは単純であるという利点がある。流動床プロセスは製造を停止せずに使用済み触媒を連続的に排出して常に未使用の触媒を再導入でき、等温で運転できるという利点がある。循環流動床プロセスは新規に再生した触媒を常に反応器に戻すと同時に反応器と再生器との間のエネルギー交換を補償して反応選択性を最適化できるという利点がある。
【0019】
本発明の一実施例では、本発明方法をプレート式熱交換器型の反応器で行う。この反応器は複数の平板で構成され、プレート間に形成される循環チャネル中に触媒を入れる。この技術は熱交換能力の点で高い熱交換が行える点で多くの利点がある。すなわち、この反応器は発熱反応の熱を容易に除去でき、また、反応開始時または吸熱反応に熱を供給するのに適している。この反応器では触媒を加熱も冷却もできる。系中に熱交換流体を循環させることで熱交換効率は特に良くなる。プレートはモジュールを組み立ててでき、積み重ねることもできる。従って、グリセロールを脱水反応してアクロレインを製造する第1段階と、その後のアクロレインを酸化する第2段階を同じ反応器容積内で行うことができる。モジュール中には上昇流または下降流で供給ができる。触媒の交換を容易にするために、より速く非活性化する触媒が他方の上に載るように触媒の積み重ねを選択する。さらに、モジュールは個々に温度調整して反応をより最適化することもできる。従って、この型の反応器は反応器の寸法、メンテナンスまたは触媒交換に関して融通性が大きい。本発明方法に適合可能なシステムは例えば下記文献に記載の反応器であり、これら特許の内容は本明細書の一部を成す。
【特許文献6】欧州特許第995,491号公報
【特許文献7】欧州特許第1,147,807号公報
【0020】
これらの反応器は反応媒体、特に本発明で用いるような気体の反応媒体の触媒変換に特に適している。下記文献に記載のC3またはC4先駆体の触媒酸化で(メタ)アクロレインまたは(メタ)アクリル酸を製造するプロセスで用いられる平板熱交換器も本発明の対象であるグリセロールの脱水によるアクロレインの製造にも適している。
【特許文献8】米国特許第2005/0020851号明細書
【0021】
分離/精製段階は、水およびアクロレインより高い沸点を有するアクリル酸の製造に適合させなければならない。一緒に製造されるアクロレインはアクリル酸の収率を高めるために単離または再利用することができる。さらに、非選択副生成物(アクロレインおよびアクリル酸以外)を回収、灰化して蒸気またはエネルギーを生成することもできる。本発明プロセスはグリセロール酸素脱水反応の副生成物のエネルギー向上によって、化石炭素を用いた従来プロセス(副生成物の灰化中にCO2が生じる)と比べて、温室効果ガスの放出を大幅に低減することができる。
【0022】
気相反応の実験条件は250〜350℃の温度および1〜5barの圧力であるのが好ましい。連続反応および望ましくない生成物の生成を避けるためには反応器内での滞留時間を制限することが重要である。さらに、滞留時間を増やすことで変換率を高くすることもできる。低い反応温度を用いた時には変換度の低下を補償するために触媒近傍で反応物の接触時間(滞留時間)を長くするのが特に望ましい。酸化力の弱い触媒を用いた時には温度を上げることによってアクリル酸収率を高めることができる。
【0023】
グリセロールは高濃度でも入手可能であるが、水溶液の形で安価に入手可能である。10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%の濃度のグリセロール水溶液を反応器で用いるのが有利である。グリセロールエーテルの生成反応や、製造したアクロレインまたはアクリル酸とグリセロールとの反応のようなパラサイト反応を避けるために、濃度は高くなり過ぎないようにする。さらに、グリセロール水溶液の蒸発のためのエネルギーコストの理由から、グリセロール溶液を過度に稀釈してはならない。いずれの場合も、反応で生成する水を再利用することによってグリセロール溶液の濃度を調節できる。グリセロールの輸送および貯蔵コストを下げるために40〜100重量%の濃縮液を反応器に供給することができる。最適含有量への稀釈は反応で生じた蒸気および稀釈水の一部を再利用して行う。同様に、反応器出口での熱の回収によって反応器に供給されるグリセロール溶液を気化することもできる。
【0024】
塩基性媒体中の植物油のメタノリシスで得られるグリセロールはある種の不純物、例えば塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム、非グリセロール有機物およびメタノールを含むことがある。ナトリウム塩の存在は酸サイトを汚染する危険があり、特に接触脱水反応の毒になるので、イオン交換によるグリセロールの前処理が可能である。
【0025】
従来のプロピレンの選択的酸化によるアクリル酸の製造法と比較して、本発明方法で製造されたアクリル酸は種々の種類または種々の量の不純物を含むことがある。このアクリル酸は用途に応じて当業者に周知の方法で精製できる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例では、長さ85cm、内径が6mmの管から成る管型反応器を用いて大気圧の気相でグリセロール脱水反応を行う。この反応器は選択された反応温度に維持された加熱室中に配置する。用いる触媒は粉砕および/またはペレット化して0.5〜1.0mmの粒子にする。10mlの触媒を反応器に充填して長さ35cmの触媒床を形成する。この触媒床を5〜10分間、反応温度に維持した後、反応物を導入する。本実施例では反応器に20重量%のグリセロールを含む水溶液を12ml/時の平均供給流量で供給し、分子状酸素を0.8l/時(13.7ml/分)の流量で供給する。この場合のO2/気化グリセロール/蒸気相の相対比は6/4.5/89.5である。グリセロール水溶液は加熱室で気化され、触媒を通る。計算された接触時間は約2.9秒である。反応後、砕いた氷で冷却したトラップ中で生成物を凝縮する。
【0027】
排出液のサンプルを定期的に採取する。サンプル採取の度に、流れを止めて緩やかな窒素流を反応器に通してパージする。次いで、反応器出口のトラップを替え、窒素流を止めて反応器に反応物の流れを戻す。試験は触媒の相当の非活性化が見られるまで続ける。
【0028】
各実験毎に導入した質量と出た質量の全質量を測定して物質収支を求めた。同様に、生成物はクロマトグラフィで分析した。下記の2種類の分析を行った:
(1)TCD検出器を備えたCarlo Erbaクロマトグラフ上の充填カラム(FFAPカラム 2m×1/8’’)でのクロマトグラフィによる分析。定量分析は外部標準(2−ブタノン)で行う。
(2)−15℃に貯蔵した上記と同じサンプルを用いたFID検出器を備えたHP6890クロマトグラフ上の毛管カラム(FFAPカラム 50m×0.25mm)でのクロマトグラフィ分析。
【0029】
第1の方法は生成物を迅速に分析するのに適し、特にアクロレインの収率の分析に適している。第2の方法は所定の反応副生成物の詳細分析に用いられる。さらに、シリル化後にGC−MSまたはクロマトグラフィ分析で、これらの結果を確認した。
【0030】
こうして定量化された生成物は未反応グリセロール、生成アクリル酸およびアクロレインである。
【0031】
以下の実施例では、グリセロール変換率および各種生成物の収率を下記で定義する:
グリセロール変換率(%)=(1−残留グリセロールのモル数/導入グリセロールのモル数)×100
アクリル酸収率(%)=生成アクリル酸のモル数/導入グリセロールのモル数
アクロレイン収率(%)=生成アクロレインのモル数/導入グリセロールのモル数。
全ての結果は導入したグリセロールに対するmolパーセンテージで表される。
【0032】
実施例1
触媒(10ml)として下記(1)〜(3)を用いた:
(1) Daiichi Kigensoから入手したタングステンジルコニア(90.7%ZrO2−9.3%WO3)(供給者番号H1417)、すなわち17g、
(2) Daiichi Kigensoから入手の硫酸ジルコニア(90%ZrO2−10%SO4)(供給者番号H1416)、すなわち16.5g、
(3) Daiichi Kigensoから入手した燐酸ジルコニア(91.5%ZrO2−8.5%PO4)(参照番号H1418)、すなわち12.7g。
反応は酸素の非存在下または酸素の存在下で行う。反応温度は300℃または350℃である。結果は[表1]に示してある。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2
グリセロールを結合剤として添加して作った11.8gの酸化触媒(4)を用いた。
触媒(4)の製造
この型の触媒の製造方法は下記文献に記載されている。
【特許文献9】米国特許第6,310.240号
【0035】
下記の溶液AとBから先駆体を調製する:
A溶液
低温脱イオン水:70kg
パラタングステン酸アンモニウム(APT):3,400kg
メタバナジン酸アンモニウム(AMV):2,810kg
ヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM):11,590kg
B溶液
低温脱イオン水:15kg
硝酸ストロンチウム(Sr):0.590kg
硝酸銅(Cu):2,810kg。
【0036】
清澄なA溶液が得られたときにB溶液を30l/時(30分)の流量でカニューレを用いてA溶液中に導入して沈殿を開始する。B溶液は定量ポンプを用いて添加する。直ちに沈殿物が形成され、溶液が変色する。
沈殿の最後(すなわち沈殿開始から2時間後)に水を蒸発させ、得られた乾燥先駆体を225℃の温度で空気下で予備焼成する。
【0037】
ポリ珪酸溶液の調製
28.48重量%のNa2SiO3の珪酸ナトリウム溶液615gを2885gの脱イオン水に添加して、5%Siを含む溶液を作る。この溶液を約1200回転/分で10分間攪拌する。HCR−W2H Dowexイオン交換樹脂を溶液のpHが2.5〜3になるまで添加する。濾紙を取り付けたブフナー漏斗でスラリーを10分間濾過する。回収された濾液(3328g)は橙褐色である。この濾液に1302gの脱イオン水を添加して3.6%のポリ珪酸溶液を得る。この溶液に約40mlの6.9%硫酸溶液を添加してpHを2.5以下に下げる。こうして調製された溶液を低温条件下に貯蔵する。
【0038】
上記の予備焼成した固体を微粉化して10ミクロン以下の粉末を得る(平均粒径が1〜1.8ミクロン)。
【0039】
34.5重量%の固体を含むスラリーを調製する。この固体は60%の触媒、30%のコロイドシリカおよび10%のポリ珪酸以外のシリカを含む。
初期pHが8.25であるNalcoコロイドシリカ溶液(50重量%のNalco 1060)に上記樹脂を添加して、溶液のpHを3以下にする。攪拌を400回転/分で続け、最終pHは2.0である。濾紙を取り付けたブフナー漏斗でスラリーを濾過する。こうして濾過された200gの溶液、200gの予備焼成した固体および557.3gの5%ポリ珪酸溶液を氷中に維持されたフラスコに入れ、このスラリーを800回転/分で15分間攪拌する。
【0040】
このスラリーの乾燥をボーエン噴霧器で下記パラメータで噴水モードで行う:
入口空気温度:370℃、
ノズル内の空気供給圧力:約0.5bar、
懸濁液の供給速度(5〜10℃および4.0以下のpHに維持):200〜250g/分、
入口空気圧力:102mmの水。
【0041】
噴霧化操作中に、出口空気温度は170℃に下がる。
得られた固体は密度が1.0〜1.1g/mlで、平均径が約70ミクロンである球形粒子の形である。
粒径が45〜150ミクロンの画分を篩分けして回収する。煉瓦炉内で400℃で4時間焼成し、得られた粉末を不活性ノートン担体ビーズ床にまく。2kgのノートン担体に対して500gの粉末の比にする。焼成後、粉末を篩い分けで回収する。グリセロールを結合剤として加えて触媒に成形する。
【0042】
結果
【表2】

【0043】
実施例3
2つの連続した触媒床を反応器中に充填し、ガス流を第1床、第2床の順に続けて通す。第1触媒床は質量が6.2gの触媒(1)4mlからなり、第2触媒床は結合剤としてのグリセロールを添加して成形した全質量が11.8gの触媒(4)10mlからなる。
この実施例では、上流で14ml/分の流量の酸素を8ml/分の窒素と一緒に導入した。
【0044】
結果
【表3】

【0045】
実施例4
第1触媒床は質量が12.7gの触媒(1)10mlからなり、第2触媒床は結合剤として酢酸を添加して形成した全質量が5.25gの触媒(4)5mlからなる。ガス流を第1床、次いで第2床に続けて通した。
【0046】
結果
【表4】

【0047】
実施例5
実施例4を酸素および窒素の流量を変えて繰り返した。
結果
【表5】

【0048】
実施例6
反応器中に質量が17gの触媒(1)10mlからなる第1触媒床と、5mlの酸化触媒(5)(すなわち質量が6g)からなる第2触媒床とを充填する。
【0049】
触媒(5):MoV0.33Nb0.11(蓚酸塩)0.30(NH4)1.15Si0.93OXの調整
【0050】
A溶液の調製(Mo、V)
下記をビーカーに導入する:
265gの脱イオン水、
13.3gのメタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3−AMV−GFEから入手、バッチ9811694)
61.0gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(Mo724(NH46・4H2O−AHM−Starckから入手、バッチ064/001)。
【0051】
混合物を、清澄な橙黄色が得られるまで、すなわち約30分、攪拌下に80℃に加熱する。ビーカーを時計皿で覆って蒸発を制限する。
次いで、この溶液を攪拌下に室温まで放冷する。
【0052】
蓚酸ニオブ溶液Bの調製
下記をビーカーに導入する:
80gの脱イオン水、
12.9gの蓚酸(C224・2H2O、プロラボから入手、バッチG23G)、6.4gのニオブ酸(Nb25・xH2O、CBMMから入手、強熱減量後79重量%)。
【0053】
帯白色の混合物を60〜70℃の温度で攪拌下に2時間加熱する。時計皿をビーカーに載せて蒸発を制限する。より清澄な溶液が得られ、この溶液を6200回転/分で12分間遠心分離する。遠心分離後、この溶液を室温におき、残存した非溶解固体の軽量沈殿物(5重量%以下)を廃棄する。
【0054】
ゲルの形成
49.2gのコロイドシリカ(シリカのLudox40重量%)をA(Mo、V)溶液に添加する。次いで、蓚酸ニオブ溶液Bを添加するとすぐに厚い鮮黄色のゲルが得られる(攪拌器の設定を攪拌できるように調節する必要がある)。この混合物を室温で30分攪拌する。
【0055】
ゲルの乾燥
得られたゲルを除去し、Teflonで被覆された平皿に入れ、130℃のストーブで一晩熱する。約97.6gの乾燥した漆黒の均質な先駆体が得られる。
【0056】
予備焼成
予備焼成は2℃/分の温度勾配の後、300℃で50ml/分.gの空気流下に4時間行う。毎回、30gの先駆体を120mlの鋼容器に入れて用いる。鋼容器は穴の空いた蓋で覆われ、且つ、熱処理中に固体の温度をモニターするための温度計のさやを備えている。温度は温度計のさやに入っている熱電対で制御される。
【0057】
焼成
焼成は2℃/分の温度勾配の後、600℃で50ml/分.gの空気流下に2時間行う。温度は温度計のさやに入っている熱電対で制御される。窒素を濾過してガス精製カートリッジ上で痕跡量の酸素および湿気を全て除去する。
結果
【表6】

【0058】
実施例7
2つの別々の反応器を用いた。従って、各反応の温度に合わせることができ、場合によっては2つの反応器の間でガスを横から投入することによってガス流の組成を調節することもできる。
質量が17gの触媒(1)10mlを第1反応器に入れる。7.5mlの酸化触媒(6)(すなわち質量が9.2g)を2〜3mlのガラスビーズの後に第2反応器に導入する。グリセロール水溶液の供給量(20重量%のグリセロール)を21g/時に設定する。
酸素を2つの反応器の上流に導入し、これらの反応器の反応温度を280℃に設定する。
【0059】
触媒(6)の調製
この触媒は不活性担体を被覆して調製した触媒である。コータ(被覆装置)は電気モータで回転し、プロパンの火炎で加熱した。
下記の出発材料を調製する:
5mmビーズのノートン担体SA5218 36kg
A溶液
低温脱イオン水:70リットル
パラタングステン酸アンモニウム(APT):1,700kg
メタバナジン酸アンモニウム(AMV):2,810kg
ヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM):11,590kg
B溶液
低温脱イオン水:15リットル
硝酸ストロンチウム(Sr):0.590kg
硝酸銅(Cu):2,810kg。
【0060】
A溶液をコータ中で調製する。最初に冷水を導入し、コータのスイッチを入れる。内容物があふれ出ないようにコータの速度を制御する。次いで、タングステン塩(APT)、バナジウム塩(AMV)およびモリブデン塩(AHM)を続けて導入する。
次にガス(プロパン)流量を2500l/時に設定し、コータの加熱を開始する。
この間に、B溶液を調製する。上記の塩を所定タンクに入れ、冷水を注入し、タンクの加熱を開始し、攪拌器のスイッチを入れる。このタンクを出る溶液の流量は均一に、30l/時にしなければならない(タンクは約30分で空にしなければならない)。定量ポンプを用いて、沈殿段階中に確実に一定の流量になるようにする。
【0061】
A溶液が沸騰し始めた時(約100℃の安定な温度)に、プロパン流量を2000l/時に減らす。
溶液が100℃になったときに、コータがあふれないように、10 lの低温脱イオン水を添加する。約1時間で清澄な橙色の溶液が得られる。
清澄な溶液Aが得られたら、A溶液にカニューレを用いてB溶液を30 l/時の流量で(30分)注入して沈殿を開始する。B溶液は定量ポンプを用いて添加する。ガス(プロパン)流量を1500 l/時に設定する。直ぐに沈殿物が形成され、溶液が変色する。
【0062】
沈殿の最後(すなわち沈殿開始から2時間後)にコータ内に十分な空間があることを確認し、全担体を素早く添加する。次いで、プロパン流量を1000 l/時に減らす。担体の添加によって溶液がわずかに冷却される。数分後、溶液が再び沸点に達する。溶液を沸点で維持し、気化させる。この段階は1時間30分かかる。
被覆の最後に、コータの温度を徐々に上げて、ビーズを完全に乾燥させる。ビーズの温度は108℃を超えない。この温度に達する前にコータの加熱のスイッチを切る。
【0063】
ビーズの含水率をメトラーLJ16赤外デシケーターを用いてモニターする。約10gのビーズのサンプルを採り、デシケーターに入れる。デシケーターは160℃、5分の時間設定、重量ロスモード(重量%)の表示にプログラムされている。重量ロスが2.0重量%〜2.5重量%で安定したとき(すなわち加熱停止から30分後)に被覆を停止する。
54kgの乾燥先駆体を回収する。排出中に微粉が得られることもある。本発明の場合は、0.734kgの微粉が回収される。
【0064】
焼成は煉瓦炉内の蓋付きのアルミトレー中で行う。6つのトレーからなる平皿6つを用意し、約2kgの先駆体を各平皿に6回注入し、高さを等しくする。このようにして、サンプリング用に回収した1.5kgを除く、全ての先駆体を焼成する。
各トレーに蓋をする。
平皿を(400℃に予熱した)煉瓦炉に入れる。焼成中に達する最大温度は401℃であり、煉瓦炉内の滞留時間は4時間である。
4時間後、平皿を400℃のまま煉瓦炉から取り出し、放冷する。
【0065】
篩分け後、48.5kgの灰黒色の触媒(6)が得られた。
化学的ストリッピングによって測定した、担体に結合した活性材料の含有率は27.9重量%である。500mlの触媒の詰めた充填密度を測定する。得られた値は1.37kg/リットルである。平均粒径は5.07mm(100個の粒子の平均)。水銀ポロシメータで測定した細孔容積は0.1682ml/gである。
結果
【表7】

【0066】
実施例8
実施例7を繰り返すが、酸化温度を変え、脱水反応器温度を280℃に設定し、2つの反応器の上流で導入する酸素の流量を一定にした。
結果
【表8】

【0067】
実施例9
実施例7を2つの反応器内の酸素流量を変えて繰り返した。所要酸素の一部を2つの反応器の上流に導入し(酸素1)、補足の酸素は2つの反応器の間にある横の入口を介して供給した(酸素2)。温度は280℃に設定した。
結果
【表9】

【0068】
実施例10
酸素の代わりに空気を用いて実施例7を繰り返した。所要酸素を(そのまま、または、混合物として)2つの反応器の上流に全部導入する(気体1)か、または、補足の酸素を2つの反応器の間にある横の入口を介して供給した(気体2)。
結果
【表10】

【0069】
参考例
上記特許文献5(国際特許出願第WO2005/073160号公報)の実施例1〜5を再現しこものを参考例1〜5とした。触媒は上記特許に記載の手順に従って調製したが、担体材料の寸法を小さく(0.5〜1.6mm)し、反応は小さい径(25mmでなく、6mm)の反応器で行った。加熱装置としてはオーブンを用いた。
【表11】

【0070】
得られた結果から、アクリル酸の生成量よりもアクロレインの生成量の方が多いことが分かる。これは酸化反応のための触媒の活性が不十分であることを示している。さらに、得られたアクリル酸およびアクロレインの収率は上記特許文献5(国際特許出願第WO2005/073160号公報)に記載の収率よりもはるかに低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状酸素の存在下でグリセロールのオキシデハンドレーション(oxydeshydration)反応によって一段階でアクリル酸を製造する方法。
【請求項2】
分子状酸素が空気または分子状酸素を含む気体混合物の形をしている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリセロールが水溶液の形をしており、反応器内でのこの水溶液の濃度が10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応で生じた蒸気および稀釈水の一部を再利用することによって反応器内でグリセロール溶液の希釈を行い、反応器には40〜100重量%のグリセロールの濃縮液を供給する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
反応を脱水反応と酸化反応の両方を触媒可能な単一の触媒の存在下で行うか、これら2つの反応の一つをそれぞれ触媒する触媒の混合物の存在下で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
単一触媒または酸化触媒が、金属の形または酸化物、硫酸塩または燐酸塩の形で存在するMo、V、W、Re、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Te、Sb、Bi、Pt、Pd、RuおよびRhの中から選択される少なくとも一種の元素を含む固体である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
反応を気相で行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応を固定床反応器、流動床反応器または循環流動床反応器で行う請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応を250〜350℃の温度で行う請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
反応をプレート熱交換器で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−538781(P2008−538781A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508255(P2008−508255)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000907
【国際公開番号】WO2006/114506
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】