説明

グリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物

刺激性のあるデカン酸等の吸収促進剤を配合することなく、安全性の高い添加物のみからなる、吸収性に優れたグリチルリチン経口製剤や直腸注入坐剤を提供する。a)グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩1〜20質量%と、b)中鎖脂肪酸トリグリセリド40〜60質量%と、c)ショ糖脂肪酸エステル5〜25質量%と、d)多価アルコール10〜40質量%と、e)水2〜15質量%とを含有するグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物及びそれを用いて得られる肝臓疾患用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、グリチルリチンの消化管における吸収性に優れたグリチルリチン含有界面活性剤相中油型(O/D)ゲル組成物に関する。
本出願は、日本国特許出願2002−344036号を基礎としており、その内容を本明細書に組み込む。
【背景技術】
グリチルリチン(グリチルリチン酸)は、古くより抗炎症作用を有することが知られ、また、胃液分泌抑制作用、消化器の潰瘍治癒作用、抗アレルギー性を高める作用、免疫抑制活性、肝機能増強作用、解毒作用、ウイルスに対する抵抗力を高める作用等も知られている。特に、肝臓疾患用剤としては、広く臨床領域で用いられている化合物である。グリチルリチンは、製剤としては主に静脈注射薬が用いられているが、慢性肝疾患の治療は長期にわたるため、経口剤あるいは直腸投与が可能な坐薬が望まれている。
しかしながら、グリチルリチンは、グリチルレチン酸と2分子のグルクロン酸とからなる水溶性化合物であるため、小腸内腔のpH7付近ではアニオン性の解離型で存在し、更に分子量が800以上と大きいため、製剤的工夫がなければ消化管からの吸収はほとんど期待できない難吸収性薬物である。そこで、吸収促進剤の添加や脂質中への分散など、これまで多くの製剤的工夫がなされてきた。
例えば、(1)吸収促進剤として中鎖脂肪酸及びその塩類を配合し、さらに可溶化剤によりグリチルリチンを可溶化し、それを腸溶性被膜で被覆した経口製剤や、(2)グリチルリチンを脂肪乳剤又は複合脂質混合体とし、デカン酸などの吸収促進剤等を配合して、水分を蒸発させ乾燥粉末とした後、さらに常法により成型して腸溶性被膜で被覆した経口製剤が提案されている(例えば、特開平10−226650号公報、特開平6−192107号公報参照。)。
また、上記以外にも、(3)グリチルリチンに脂肪酸グリセリドを配合し、腸溶性被膜で被覆したものが提案されている(例えば、特開平3−255037号公報参照。)。
一方、坐薬としては、(4)塩基性水溶液にグリチルリチンを溶解したものや、(5)グリチルリチンを含む坐剤基剤中に、非イオン性界面活性剤、及び水溶性カルボン酸を配合し、pHを調整したものなどが提案されている(例えば、特開平3−2122号公報、特開平5−97680号公報参照。)。
しかしながら、上記(1)、(2)の経口製剤では、吸収促進剤として粘膜刺激性の強いデカン酸などの中鎖脂肪酸の添加が不可欠である。デカン酸は、シロアリ駆除剤として用いられている如く、生体に対する刺激性を有するため、一般には外用剤に使用される。更に、(2)の経口製剤を製造するためには、一旦、O/W型乳化組成物を調製し、次いで、水分蒸発により固体状態にするといった煩雑な工程が必要である。また、(3)の経口製剤は、脂肪酸トリグリセリドにグリチルリチンを分散したのみであって、媒体にグリチルリチンが溶解していないため、再現性のある安定した高吸収性は望むことができない。
また、(4)、(5)の坐薬においても、再現性のある安定したグリチルリチンの高吸収性を望むことは難しい。
本発明は、刺激性のあるデカン酸等の吸収促進剤を配合することなく、安全性の高い添加物のみからなる、吸収性に優れたグリチルリチン経口製剤や直腸注入坐剤を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者らは、D相乳化法と呼ばれる非水乳化法の一種を利用して製造される界面活性剤相中油型ゲル組成物に着目した。即ち、グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩と、中鎖脂肪酸トリグリセリドと、ショ糖脂肪酸エステルと、多価アルコールと、水とを所定の比率で配合した界面活性剤相中油型ゲル組成物とすることによって、グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩が、効率良く、且つ安全に消化管から吸収されること、その結果、慢性肝疾患の治療に非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、a)グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩1〜20質量%、b)中鎖脂肪酸トリグリセリド40〜60質量%、c)ショ糖脂肪酸エステル5〜25質量%、d)多価アルコール10〜40質量%、e)水2〜15質量%を含有するグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物(以下、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物と略す)を提供する。
なお、界面活性剤相中油型ゲル組成物(O/Dゲル組成物)とは、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、及び水からなる連続相である界面活性剤相(Detergent相)中に、内相の油(Oil相)が微小油滴となって分散しているゲル状組成物である。このO/Dゲル組成物は、各成分が特定の比率のときのみ、易水溶性の安定なゲル状態が成立する。このO/Dゲル組成物を水中に投入すると、界面活性剤相の速やかな溶解に伴い、ゲルから油滴が放出されO/W型エマルションを生成する。
また、O/Dゲル組成物は、界面活性剤相と油との界面張力の近接性ゆえ、ホモミキサーを用いたO/W型エマルション調製時のような大きな乳化エネルギーを必要とせずに、界面活性剤相中に微細な油滴を生成させることができる。
上記a)が、グリチルリチンモノアンモニウム、グリチルリチンモノナトリウム、グリチルリチンジナトリウム、グリチルリチンモノカリウム、グリチルリチンジカリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、上記b)の脂肪酸組成が、オクタン酸50〜80質量%、デカン酸20〜45質量%であることが好ましい。
また、上記c)が、HLB(Hydrophile−lipophile balance)11以上であることが好ましい。
また、上記d)が、グリセリン、プロピレングリコール、又はこれらの混合物であることが好ましい。
本発明は、上記グリチルリチン含有界面活性剤相中油型(O/D)ゲル組成物を用いて得られる肝臓疾患用剤、皮膚疾患治療剤、及びアレルギー疾患治療剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1はラット十二指腸投与におけるグリチルリチン血清中濃度推移を示すグラフである。
図2はラット十二指腸投与におけるグリチルリチン胆汁中濃度推移を示すグラフである。
図3はラット直腸投与におけるグリチルリチン血清中濃度推移を示すグラフである。
図4はラット直腸投与におけるグリチルリチン胆汁中濃度推移を示すグラフである。
図5はラット経口投与におけるグリチルリチン胆汁中濃度推移を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において使用されるグリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩としては、例えば、ミノファーゲン製薬より入手することができるものが挙げられる。ここで、薬学的に許容される塩としては、例えば、グリチルリチンモノナトリウム、グリチルリチンジナトリウム等のナトリウム塩;グリチルリチンモノカリウム、グリチルリチンジカリウム等のカリウム塩等が挙げられる。また、これら以外にも、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩や、種々の有機アミン塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物中に、グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩は1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%含有される。グリチルリチンの含有量が1質量%未満の場合、グリチルリチンによる効果を十分に得ることができず、20質量%を超えると、O/Dゲル組成物中のグリチルリチンの均一性を確保することが困難で易水溶性ゲルとならないため、水中で速やかなO/Wエマルションを形成できなくなる傾向にある。
本発明において中鎖脂肪酸トリグリセリドは、炭素数6〜12の脂肪酸を構成要素とし、具体的には、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸を有するものであって、1分子中に有する3つの中鎖脂肪酸は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、本発明に使用される中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、脂肪酸組成がオクタン酸50〜80質量%、デカン酸20〜45質量%から構成されるものが特に好ましい。
従来、グリチルリチンの吸収促進剤としてオクタン酸、デカン酸などの脂肪酸が提案されているが、これらと比較して、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、生体に対する安全性が高く、且つ、難吸収性薬物であるグリチルリチンを消化管にて特異的に吸収することができる。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドは40〜60質量%、好ましくは44〜55質量%含有される。中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が上記範囲外の場合、界面活性剤相と油相との経時的分離が起こり、安定したO/Dゲルの形成が困難となる傾向にある。
本発明において使用されるショ糖脂肪酸エステルとしては、脂肪酸エステルが、ステアリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ラウリン酸エステルなどの炭素数10〜18のもので、エステル組成がモノエステル55%以上であるものが挙げられる。また、このような市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)の「J−1816」、「J−1616」、「J−1216」、「J−1811」などが挙げられる。
本発明において、ショ糖脂肪酸エステルの代わりにそれ以外の非イオン性界面活性剤を用いた場合、O/Dゲルは形成されるが、グリチルリチンの吸収性においてはショ糖脂肪酸エステルが好適であった。
ショ糖脂肪酸エステルは、HLB(Hydrophile−lipophile balance)が11以上であることが好ましく、より好ましくは16以上である。HLBが11以上であると、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物と水(分泌液等)とが接触した際に、O/W型エマルションを安定に生成することができ、消化管におけるグリチルリチンの吸収性が向上する。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物中に、ショ糖脂肪酸エステルは5〜25質量%、好ましくは10〜20質量%含有される。ショ糖脂肪酸エステルの含有量が上記範囲外の場合、界面活性剤相と油相との経時的分離が起こり、安定したO/Dゲルの形成が困難となる傾向にある。
本発明において使用される多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトールなどの糖アルコール等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン、プロピレングリコール、又はこれらの混合物が好ましい。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物中に、多価アルコールは10〜40質量%、好ましくは12〜24質量%含有される。多価アルコールの含有量が上記範囲外の場合、安定したO/Dゲルの形成が困難となる傾向にある。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物中に、水は2〜15質量%、好ましくは4〜10質量%含有される。水の含有量が上記範囲外の場合、易水溶性で安定したO/Dゲルの形成が困難となる傾向にある。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、D相乳化法と呼ばれる非水乳化法の一種を利用して製造することができる(“界面活性剤(D)相乳化法による微細な乳化滴をもつO/Wエマルションの作製”、「日本化学会誌」(10)、1983年、p1399−p1404を参照。)。
例えば、所定量のグリチルリチン、ショ糖脂肪酸エステル、水、多価アルコールを混合溶解した界面活性剤相中に、中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる油相をかき混ぜながら添加して、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得ることができる。
また、本発明による効果を妨げない範囲内で、任意成分を含有させることができる。任意成分としては、例えば、防腐剤、着色料、保湿剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、抗酸化剤などの添加剤を挙げることができる。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、透明〜半透明〜白または白黄色のゲル状で、プレパラート上で水溶性色素ブリリアントブルーを少量混合し、光学顕微鏡で観察すると、連続相である界面活性剤相は色素により着色されているが、微細な球状である内相の油滴が着色されないことから、油滴エマルションの存在が確認できる。
次に、光学顕微鏡下において、プレパラート上でこのグリチルリチン含有O/Dゲル組成物に精製水を少量添加すると、直ちにO/W型のエマルションが生成することが水相の着色状態から観察することができる。この顕微鏡観察によれば、生成したエマルションは、粒径1μm前後の微細な油滴であることがわかる。また、このエマルションは0.5μmのメンブレンフィルターを容易に通過する。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物によるグリチルリチンの吸収性を評価する方法としては、従来の生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)に加え、胆汁中のグリチルリチン回収率とを併用した評価方法を採用する。
従来の吸収性評価の方法は、静脈血中のグリチルリチン濃度を測定して、最高血中濃度、及び血中濃度−時間曲線下面積から生物学的利用率を算出し、製剤の吸収性を評価していた。
ところが、文献(Chem.Pharm.Bull.38(1)、p212−p218、(1990))によれば、グリチルリチンの腸管からの吸収と、肝臓での排泄のクリアランスを調べると、グリチルリチンの吸収と排泄のクリアランスは近接している。従って、腸管より吸収されたグリチルリチンは門脈を経て肝臓に至り、肝臓にて強い初回通過効果を受けて、そのほとんどが未変化体で胆汁中に排泄され、一部が体循環血中を巡ると考えられる。
また、体内に静脈注射されたグリチルリチンの大部分は胆汁中に排泄され、ラットで80〜90%(J.Pharm.Sci.、75(7)、p672−p675(1986))、ヒトで80%(日本薬学会111年会要旨集、28M、11−3)とされている。実際、本発明者らが調べた結果、ラット頚静脈に静脈注射したグリチルリチンは、その94.8%が6時間で胆汁中に排泄された。従って、消化管吸収されたグリチルリチンも、そのほとんどが肝臓から胆汁中に排泄され、一部が体循環血中を巡ると考えられる。
このように、消化管吸収においては、体循環血中を巡るグリチルリチンの割合が少ないと考えられるので、生物学的利用率のみに基づいて吸収性の優劣を評価するよりは、胆汁中のグリチルリチン回収率による評価を併用して判断するほうが妥当であると考えられる。特に、肝疾患治療薬である本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物においては、肝臓を通過したグリチルリチン量としてとらえる胆汁中回収率をもって吸収性を判断する方法には、より合目的性があると考えられる。
そこで、本発明においては、生物学的利用率と胆汁中回収率とを併用した評価方法を採用する。具体的には、血液からは常法により血清を得て、胆汁は常法にて採取して各々試料とし、試料中のグリチルリチン量をセミミクロHPLC法にて定量する。そして、血清中のグリチルリチン濃度から生物学的利用率(%)を、胆汁中のグリチルリチン濃度から胆汁中回収率(%)を以下の方法で算出し、これらに基づいて吸収性の評価を行う。
生物学的利用率(%)は、グリチルリチンを静脈注射したときの血中濃度−時間曲線下面積に対する、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を消化管投与したときの血中濃度−時間曲線下面積の比率から求める。
胆汁中回収率(%)は、投与したグリチルリチン量に対する、胆汁中に回収されたグリチルリチン量の比率から求める。
以上説明したように、本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、生体内で腸内の分泌液と接触して速やかにO/W型エマルションを形成し、グリチルリチンを非常に効率良く吸収することができるため、体循環するグリチルリチン濃度が上昇し、生物学的利用率が増加する。従って、本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、肝臓疾患用剤として非常に好適である。
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、常法により、錠剤、カプセル剤等の経口製剤、坐剤等、注射剤、様々な形態に調製可能である。これらの中でも、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を直腸投与が可能な坐剤、あるいは腸溶性被膜などで被覆した経口製剤は、特に、長期にわたる治療を必要とする慢性肝疾患患者において、従来の注射剤に比べて、非常に簡便に服用することができる。
グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いて得られる肝臓疾患用剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、成人体重1kgあたりグリチルリチンとして1〜3mgを1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【実施例】
〈グリチルリチン含有O/Dゲル組成物の調製〉
【実施例1、4、8、10】
表1に示す割合で、中鎖脂肪酸トリグリセリド、多価アルコール、グリチルリチンモノアンモニウムを計り取りこれを混合して、次に精製水を加えて混合し、更にショ糖脂肪酸エステルを加えた後、超音波プローブを用いて混合物に超音波を照射して、50〜60℃に加温してグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得た。
【実施例2、3、7、9】
表1に示す割合で、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコール、精製水を計り取り、これを混合し、次にグリチルリチンモノアンモニウムを加えて混合した後、中鎖脂肪酸トリグリセリドを加えて超音波プローブを用いて混合物に超音波を照射して、50〜60℃に加温してグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得た。
【実施例5、6、11】
表1に示す割合で、グリチルリチンモノアンモニウム、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコール、精製水を乳鉢に取り、これを混合し、さらに中鎖脂肪酸トリグリセリドを加えて室温で練合して、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得た。
(比較例1)
表2に示す割合で、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコール、精製水を計り取り、これを混合し、次にグリチルリチンモノアンモニウムを加えて混合した後、中鎖脂肪酸トリグリセリドを加えて超音波プローブを用いて混合物に超音波を照射して、50〜60℃に加温してグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得た。
(比較例2、3)
表2に示す割合で、中鎖脂肪酸トリグリセリド、多価アルコール、グリチルリチンモノアンモニウムを計り取り、これを混合して、次に精製水を加えて混合し、更に非イオン性界面活性剤を加えた後、超音波プローブを用いて混合物に超音波を照射して、50〜60℃に加温してグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を得た。
(比較例4)
表2に示す割合で、グリチルリチンモノアンモニウムを中鎖脂肪酸トリグリセリドに混合し、超音波プローブを用いて超音波を照射し分散して、グリチルリチン分散液を得た。


ミグリオール812;脂肪酸組成がオクタン酸50〜65%、デカン酸30〜45%である中鎖脂肪酸トリグリセリド(ミツバ貿易)
パナセート800;脂肪酸組成がトリカプリリンである中鎖脂肪酸トリグリセリド(日本油脂(株))
J−1816;HLBが16のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株))
J−1616;HLBが16のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株))
J−1216;HLBが16のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株))
J−1811;HLBが11のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株))
L−7D;HLBが16のポリグリセリン脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株))
HCO−60;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(日局)
なお、上記のようにして調製されたグリチルリチン含有O/Dゲル組成物について、以下のようにして物性評価を行った。その結果を表1、表2に示す。
(O/Dゲル形成)
プレパラート上で、得られたグリチルリチン含有O/Dゲル組成物に、水溶性色素ブリリアントブルーを少量混合して、光学顕微鏡で観察した。評価基準は以下の通りである。
良好・・・色素により着色された界面活性剤相中に、着色されない微小な油滴が均一に分散している状態が観察された。
不良・・・色素により着色された界面活性剤相と、着色されない油相とが不均一に混合されている状態が観察された。
(O/W乳化性)
得られたグリチルリチン含有O/Dゲル組成物100mgを10mlの蓋付き試験管に取り、精製水10mlに入れた後、ゆっくり10回転させて、O/Wエマルションの生成を観察し、乳化性の指標とした。評価基準は以下の通りである。
良好・・・精製水中に均一な乳白色エマルションが安定して観察された。
不良・・・精製水中で油相が分離し、二層状態が観察された。
(エマルションの粒子径)
エマルションの粒子径については、上記のO/W乳化性確認で得られたエマルションを注射筒に取り、0.5μmメンブレンフィルターの通過を確認して判定した。評価基準は以下の通りである。
良好・・・フィルターの通過前後において、エマルションの乳化状態に変化がなかった。
不良・・・フィルターを通過させた際、目詰まりが生じた。
〈消化管吸収性試験〉
ラットに、グリチルリチンの投与量が10mg/kgとなるように、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を投与した後、血液および胆汁を採取した。血液からは常法により血清を得て、胆汁は常法にて採取して各々試料とし、試料中のグリチルリチン量をセミミクロHPLC法にて定量した。血清中のグリチルリチン濃度から生物学的利用率(%)を、胆汁中のグリチルリチン濃度から胆汁中回収率(%)を算出し、これらに基づいて吸収性の評価を行った。
(試験例1〜2)
実施例1、比較例1で調製したグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いて、中鎖脂肪酸トリグリセリドによるグリチルリチン吸収性への影響について検討した。
グリチルリチンの投与量が10mg/kgとなるように、ラットの十二指腸にグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を投与した。グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を投与して4時間後まで経時的に血液および胆汁を採取して、生物学的利用率(%)と胆汁中回収率(%)を求めた。その結果を表3に示す。

表3に示すように、オクタン酸を主体とするパナセート800を油性基剤として含有するグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いた場合(試験例2)と比較して、デカン酸30〜45%、オクタン酸50〜65%から構成されるミグリオール812を油性基剤として含有するグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いた場合(試験例1)のほうが、グリチルリチンの吸収性に優れていた。
(試験例3〜7)
実施例2〜3、比較例2〜4で調製したグリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)を用いて、ショ糖脂肪酸エステルによるグリチルリチン吸収性への影響を検討した。
グリチルリチンの投与量が10mg/kgとなるように、ラットの十二指腸にグリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)を投与した。グリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)を投与して4時間後まで経時的に血液および胆汁を採取して、生物学的利用率(%)と胆汁中回収率(%)を求めた。その結果を表4に示す。また、試験例1および試験例7における血清中あるいは胆汁中グリチルリチン量の経時的変化を図1、図2に示す。

表4に示すように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であるHCO−60を含有するグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いた場合(試験例6)、グリチルリチンの吸収性が最も低かった。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルであるL−7D(試験例5)と比較して、ショ糖脂肪酸エステルを用いたほうがグリチルリチンの吸収性に優れていた。これらは、いずれもHLBが比較的大きい親水性の非イオン性界面活性剤であるが、グリチルリチンの吸収に関しては、ショ糖脂肪酸エステルが好適であった。
また、試験例7に示したように、中鎖脂肪酸トリグリセリド中に単にグリチルリチンを分散させたグリチルリチン分散液では、グリチルリチンの吸収は向上せず、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物のグリチルリチン吸収に対する優位性が示された。
従って、ショ糖脂肪酸エステルが特異的にグリチルリチンの吸収向上に寄与していることが判明した。
(試験例8〜9)
実施例1、比較例4で調製したグリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)を用いて、O/Dゲル組成物のグリチルリチンの吸収性への影響を検討した。
グリチルリチンの投与量が10mg/kgとなるように、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)をラットの直腸に投与した。グリチルリチン含有O/Dゲル組成物(グリチルリチン分散液)を投与して4時間後まで経時的に血液および胆汁を採取して、生物学的利用率(%)と胆汁中回収率(%)を求めた。その結果を表5に示す。また、試験例8における血清中あるいは胆汁中グリチルリチン量の経時的変化を図3、図4に示す。

表5に示すように、中鎖脂肪酸トリグリセリド中に単にグリチルリチンを分散させたグリチルリチン分散液では、グリチルリチンの吸収は向上せず、グリチルリチン含有O/Dゲル組成物のグリチルリチン吸収に対する優位性が示された。
(試験例10〜11)
実施例5、実施例6で調製したグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いて、多価アルコールによるグリチルリチン吸収性への影響について検討した。
グリチルリチンの投与量が10mg/kgとなるように、ラットの十二指腸にグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を投与した。グリチルリチン含有O/Dゲル組成物を投与して4時間後まで経時的に血液および胆汁を採取して、生物学的利用率(%)と胆汁中回収率(%)を求めた。その結果を表6に示す。

表6から明らかなように、多価アルコールとしてプロピレングリコール、グリセリンを用いた場合、共に優れた吸収性を示した。
(試験例12)
実施例1で調製したグリチルリチン含有O/Dゲル組成物をグリチルリチン10mg/kgとなるようにゾンデでラットに経口投与して6時間後まで経時的に胆汁を採取して胆汁中回収率(%)を求めた。その結果を表7に示す。また、試験例12における胆汁中グリチルリチン量の経時的変化を図5に示す。

表7から明らかなように、実施例1で調製されたグリチルリチン含有O/Dゲル組成物は、経口投与でグリチルリチン15%以上の吸収性を示した。
【産業上の利用可能性】
本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物によれば、消化管におけるグリチルリチンの吸収を安全に、且つ、効率良く達成できる。
また、本発明のグリチルリチン含有O/Dゲル組成物を用いて得られる肝臓疾患用剤は、特に、長期の治療を要する慢性肝疾患に好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)グリチルリチン、及びその薬学的に許容される塩1〜20質量%、
b)中鎖脂肪酸トリグリセリド40〜60質量%、
c)ショ糖脂肪酸エステル5〜25質量%、
d)多価アルコール10〜40質量%、及び
e)水2〜15質量%、
を含有するグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物。
【請求項2】
前記a)が、グリチルリチンモノアンモニウム、グリチルリチンモノナトリウム、グリチルリチンジナトリウム、グリチルリチンモノカリウム、グリチルリチンジカリウムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物。
【請求項3】
前記b)の脂肪酸組成が、オクタン酸50〜80質量%、デカン酸20〜45質量%である請求項1又は2記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物。
【請求項4】
前記c)のHLB(Hydrophile−lipophile balance)が11以上である請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物。
【請求項5】
前記d)が、グリセリン、プロピレングリコール、又はこれらの混合物である請求項1〜4のいずれかに記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物を用いて得られる肝臓疾患用剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物を用いて得られる皮膚疾患治療剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のグリチルリチン含有界面活性剤相中油型ゲル組成物を用いて得られるアレルギー疾患治療剤。

【国際公開番号】WO2004/047846
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555052(P2004−555052)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015096
【国際出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】