説明

グリッド偏光子

【課題】耐久性、および偏光分離性能等に優れたグリッド偏光子を提供する。
【解決手段】
板状の透明基材と、該透明基材の少なくとも一方の表面に、細長く略平行に延びた複数のグリッド線を含み、グリッド線の全面および透明基材が、誘電体で覆われたグリッド偏光子において、
透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線で囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層で囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下であるグリッド偏光子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリッド偏光子に関し、さらに詳細には、耐久性、偏光分離性能等に優れたグリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光面を自由に設定することができる偏光子としてグリッド偏光子が知られている。これは、多数の線状金属(ワイヤ)を一定の周期で平行に配列したグリッド構造をもつ光学部材である。このような金属のグリッド構造を形成すると、グリッドの周期が入射光の波長より短い場合に、グリッド構造を形成している線状金属に対して平行な偏光成分は反射し、垂直な偏光成分は透過するため、単一偏光を作りだす偏光子として機能する。このグリッド偏光子は、光通信ではアイソレーターの光部品として、液晶表示装置では光の利用率を高め輝度を向上させるための部品として、利用することが提案されている。
【0003】
グリッド偏光子のグリッド構造は非常に微細で繊細な構造であるので、表面を擦ったり、引掻いたりなどしたときに、グリッド構造に欠陥が生じることがある。また、外気中の酸素や水蒸気によって、グリッドが酸化劣化して偏光分離性能が低下することがある。そこで、グリッド偏光子には、そのグリッド構造を保護するために保護層が設けられる。
【0004】
特許文献1には、グリッド構造の上面全面に保護層を設けた例が記載されている例が記載されている。しかし、グリッド構造の上面全面に保護層を設けると耐久性は向上するが、偏光反射率、偏光透過率等の光学特性において保護層のないものより大幅に劣ってしまう問題点がある。
【0005】
一方、特許文献2には、保護層が極めて薄い保護層を有するグリッド偏光子が図示されているが、このように薄い保護層では十分な耐久性を維持できるかが問題となる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−70465号公報
【特許文献2】米国特許第7158302号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐久性、および偏光分離性能等に優れたグリッド偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、誘電体で覆われたグリッド偏光子において、
透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線で囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層で囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下であるグリッド偏光子であると、耐久性に優れ、かつ偏光反射率、偏光透過率等の光学特性を失わないグリッド偏光子が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)板状の透明基材と、該透明基材の少なくとも一方の表面に、細長く略平行に延びた複数のグリッド線が形成され、グリッド線および透明基材が、誘電体で覆われたグリッド偏光子において、
透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線とで囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層とで囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下であるグリッド偏光子。
(2)透明基材が、少なくとも一方の表面に細長く線上に延び互いに離間した状態で略平行に複数並ぶ凸条を有するものであり、
グリッド線が、前記凸条の頂に構成された上記のグリッド偏光子。
(3)前記凸条間に金属層が存在し、
透明基材、前記凸条の頂に構成されたグリッド線、金属層および該グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線とで囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層とで囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下である上記のグリッド偏光子。
(4)透明基材、グリッド線、誘電体層、保護層の順で、誘電体層にさらに保護層を積層した上記のグリッド偏光子。
(5)誘電体層をスパッタリング、蒸着、塗布のいずれかの方法で形成することを特徴とする上記のグリッド偏光子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグリッド偏光子は、光学特性に優れるだけでなく、酸素や水蒸気などによる酸化劣化が起き難く、また外力による歪み、傷などが生じ難く、耐久性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(透明基材)
本発明に用いられる透明基材は、透明樹脂、ガラスなどの透明な材料からなる板状のもの、好ましくは透明樹脂からなる板状のものである。該透明樹脂は、加工性の観点からガラス転移温度が60〜200℃であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましい。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することが
できる。
【0012】
透明樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、脂環式オレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち、透明性、低吸湿性、寸法安定性、加工性の観点から脂環式オレフィンポリマーが好適である。
脂環式オレフィンポリマーとしては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報(米国特許第6,511,756号公報)に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いる透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
透明基材は、たとえば、前記透明樹脂を公知の方法で成形することによって得られる。成形法としては、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。
【0014】
透明基材の平均厚さは、取り扱い性の観点から通常5μm〜10mm、好ましくは20〜500μmである。
透明基材は、400〜700nmの可視領域の光の透過率が80%以上であるものが好ましい。
また、透明基材は、その波長550nmで測定したレターデーションRe(Re=d×(nx−ny)で定義される値、nx、nyは透明基材の面内主屈折率(nx≧ny);dは透明基材の平均厚さである。)によって特に制限されない。
面内の任意2点のレターデーションReの差(レターデーションむら)は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。レターデーションむらが大きいと、液晶表示装置に用いた場合に表示面の明るさにバラツキが生じやすくなる。
【0015】
本発明のグリッド偏光子を製造するにあたって、透明基材として長尺状のものが好ましく用いられる。長尺とは、幅に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有するものを言い、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
長尺状の透明基材の幅は、好ましくは500mm以上、より好ましくは1000mm以上である。本発明のグリッド偏光子では、その製造工程の途中において、任意に、その幅方向の両端を切り落とす(トリミング)ことがある。この場合、前記透明基材の幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0016】
(グリッド線)
本発明のグリッド偏光フィルムを構成するグリッド線は、前記透明基材の少なくとも一方の表面に積層された互いに略平行に延びた線状金属層である。
金属層(グリッド線)に用いる材料としては、導電性のものが好ましく、具体的には、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、ロジウム、スズ等の金属が挙げられる。
金属層は、前記材料を物理蒸着(PVD法)することによって形成することができる。PVD法は、蒸着材料を蒸発・イオン化し、被膜を形成させる方法である。具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング(イオンめっき)法、イオンビームデポジション法等の中から適宜選択することができる。これらのうち真空蒸着法が好適である。真空蒸着法は、真空にした容器の中で、蒸着材料を加熱し気化もしくは昇華して、離れた位置に置かれた基材の表面に付着させ、薄膜を形成する方法である。蒸着材料、基材の種類により、抵抗加熱、電子ビーム、高周波誘導、レーザーなどの方法で加熱される。
【0017】
凸条を有する透明樹脂基材にPVD法による金属層を形成させた場合、前記凸条の頂及び前記凸条間に形成される溝の底に金属層が形成される(以下、本願では凸条の頂に形成される金属層を金属層A、凸条間に形成される溝の底に金属層を金属層Bという)。凸条の長手方向に垂直な断面における凸条の頂に形成された金属層Aの形状は特に制限されず、通常は矩形、台形、円形、山形などである。金属層Aの厚さは、特に制限されないが、通常20〜500nm、好ましくは30〜300nm、より好ましくは40〜200nmである。金属層Aの幅および長さは、通常、凸条の頂面の形状にしたがってほぼ決まる。
【0018】
凸条の長手方向に垂直な断面における凸条間に形成される溝の底に形成された金属層Bの形状は、特に制限されず、通常は矩形、台形、円形、山形などである。金属層Bの厚さは、通常20〜500nm、好ましくは30〜300nmである。金属層Bの幅および長さは、通常、溝の底面の形状にしたがってほぼ決まる。
【0019】
金属層Bの形状でも特に好ましいのは金属層Bの畝状凸部の長手方向に垂直な断面における最大厚さH1と、金属層Bの畝状凸部の長手方向に垂直な断面における両端部の最小厚さH2の関係が
0.6≧H2/H1
であるものであり、特に金属層Bの畝状凸部の長手方向に垂直な断面における形状が、中央に高く両側に低くなる形であるもの(図4)が優れた広帯域性及び偏光分離性能を示すことからなお、好ましい。
【0020】
前記のような凹凸面に形成された金属層の一部は、湿式エッチングによって除去することが好ましい。除去される金属層の一部とは、凸条の側壁に形成された部分、凸条の頂の幅からはみ出し部分などである。湿式エッチングは、金属層にエッチング液を接触させる工程と、リンス液で洗浄する工程、およびリンス液を除去する工程を少なくとも含む。
【0021】
金属層にエッチング液を接触させる工程の前に、除去されないようにしたい部分の金属層の上にマスク層を設けてもよい。マスク層には通常無機酸化物膜が用いられる。このマスク層によって金属層の厚さの減少を少なくして金属層の幅を狭くすることができる。
【0022】
マスキング用の無機酸化物は、後述の湿式エッチングに耐えるものであれば特に限定されず、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素または窒化酸化ケイ素などの化合物が挙げられる。これらの中では特に酸化ケイ素が好ましい。積層される無機酸化物膜の厚さは、特に制限されないが、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nmである。無機酸化物膜はPVD法によって形成できる。
【0023】
(誘電体層)
本発明のグリッド偏光子のグリッド線および透明基材は、直接誘電体で覆われている。本願において誘電体で覆われているとは、グリッド線や透明基材が表面に現れないように完全に覆われていることをいう。誘電体としては、透明であるものが好ましく、その例として無機酸化物、無機窒化物、多孔質物質、透明樹脂等があげられ、その中でも無機酸化物、透明樹脂が好ましい。具体的には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等を使用することができ、その中でも酸化ケイ素が特に好ましい。
【0024】
誘電体層とグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線(図5、図6の316で示される線)と、該誘電体層で囲まれる空間(図5、図6の314)の平均断面積Yは、透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線(図5、図6の316で示される線)で囲まれる範囲(図5、図6の313)のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xとの関係は、Y/Xの割合が0.01以上、0.8以下である。
なお、本願で金属層A、Bを同時に有する場合、金属層Aだけでなく金属層Bもグリッド線として機能するが、本願の平均断面積の算出にあたっては金属層Aを基準のグリッド線として平均断面積を求める(図7参照)。つまり、グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線(図7の316で示される線)は、金属層A同士の上部頂点を結ぶ線であり、平均断面積Xを求める際の範囲は、透明基材、グリッド線(金属層A)、金属層Bおよびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線で囲まれる範囲(図7の313)であり、平均断面積Yを求める際の空間は、グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と誘電体層で囲まれる空間(図7の314)である。
【0025】
Y/Xの割合が0.01よりも小さいと短波長領域の特性が著しく劣るため、望ましくない。光学特性が十分であるためには望ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上であることが好ましい。
またY/Xは、誘電体層が存在するため、1未満の数値である。ただし、十分な耐久性を得るためには、材質にもよるが0.8以下の数値、好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.68以下であることが望ましい。
【0026】
透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線で囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の断面積Xと、グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層で囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の断面積Yの測定は、グリッド偏光子をミクロトーム等で長手方向に向かって垂直に切断し、その断面の電子顕微鏡写真を用いて凹凸形状や金属層および誘電体層の寸法を測定し計算することにより行われる。平均断面積は、長手方向に向かって垂直に切断した線上の端部から少なくとも10mm以上離れた箇所から、互いに5mm以上離れた点を数点無作為にサンプリングし、観察像の長さ10μmの範囲内にある断面の平均断面積を求める。
【0027】
誘電体層の形成方法はスパッタリング、蒸着、塗布等の方法で形成することができ、その条件を適宜変更することによって、好ましいY/X値の誘電体層を形成できる。例えば、スパッタリングの場合、出力、ガス種、圧力、温度、時間等を適宜調整することによって、所望のY/X値の誘電体層を形成することができる。誘電体を形成した後の畝状凸部間の空間の畝状凸部の長手方向に対する垂直断面の形状には特に限定はないが、通常は三角形、矩形、台形、円形である。
【0028】
本発明の製造方法によって得られたグリッド偏光フィルムには、さらに誘電体層を形成した側の面に直接または他の層を介して保護層を積層させてもよい。
保護層は、その材質によって特に制限されないが、透明材料からなるものが好ましい。透明材料としては、ガラス、多孔質物質、透明樹脂などが挙げられる。これらのうち、特に透明樹脂からなるものが好ましい。透明樹脂は、前述の透明樹脂フィルムを構成するものとして示したものから適宜選択して用いることができる。
保護層の平均厚さは、取り扱い性の観点から通常5μm〜1mm、好ましくは20〜200μmである。保護層は、波長400〜700nmの可視光線領域の光の透過率が80%以上であるものが好ましい。
【0029】
また、保護層は、その波長550nmで測定したレターデーションRe(Re=d×(nx−ny)で定義される値、nx、nyは保護層の面内主屈折率(nx≧ny);dは保護層の平均厚さである。)によって特に制限されない。面内の任意2点のレターデーションReの差(レターデーションむら)は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。レターデーションむらが大きいと、液晶表示装置に用いた場合に表示面の明るさにバラツキが生じやすくなる。
【0030】
本発明のグリッド偏光子は、直交する直線偏光のうちの一方を透過し、他方を反射する性質を持つ。このような直線偏光を透過光と反射光に分離する性質を利用して、液晶表示装置の輝度向上用の素子として本発明のグリッド偏光子をそのまま、または他の光学素子(偏光子、位相差板など)と組み合わせ積層して用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(グリッド偏光フィルムの透過光目視観察)
作製したグリッド偏光フィルムの透過光を目視により観察した。
【0033】
(偏光透過率、偏光反射率測定)
得られたグリッド偏光フィルムを所定の形状に打ち抜いて、枚葉のグリッド偏光フィルムを得た。450nm、550nm、650nmの波長に対するグリッド偏光フィルムの偏光透過率および偏光反射率を分光光度計V−570(日本分光製)を用いて測定した。
なお、偏光透過率および偏光反射率の測定には直線偏光を使用し、偏光透過率の測定の場合にはグリッド偏光フィルムの透過軸と入射する光の偏光を平行に、また偏光反射率の測定の場合にはグリッド偏光フィルムの透過軸と入射する光の偏光を直交させ、入射角5°における反射率を測定した。
【0034】
(温水試験)
グリッド偏光子フィルムを80℃の温水に1時間浸漬した後、乾燥させたものの偏光透過率、偏光反射率測定を行った。
【0035】
製造例1
8mm×8mm×60mmのSUS製シャンクにろう付けされた寸法0.2mm×1mm×1mmの直方体単結晶ダイヤモンドの0.2mm×1mmの面に、集束イオンビーム加工装置SMI3050(セイコーインスツルメンツ製)を用いてアルゴンイオンビームを用いた集束イオンビーム加工を行い、長さ1mmの辺に平行な幅90nm、長さ80nmの溝をピッチ180nmの矩形形状のパターンを彫り込み、切削工具を作製した。
直径200mmで長さ150mmの円筒形状ステンレス鋼SUS430の曲面全面に、厚さ100μmのニッケル−リン無電解メッキを施し、次いで、先に作製した直線状突起を形成した切削工具と、精密円筒研削盤S30−1(スチューダ製)を用いて、ニッケル−リン無電解メッキ面に、円筒の円周端面と平行な方向に幅90nm、高さ80nmm、ピッチ180nmの直線状の突起を切削加工することにより、転写ロールを得た。なお、集束イオンビーム加工による切削工具の作製と、ニッケル−リン無電解メッキ面の切削加工は、温度20.0±0.2℃、振動制御システム(昭和サイエンス製)により0.5H
z以上の振動の変位が10μm以下に管理された恒温低振動室内で行った。
【0036】
直径70mmのゴム製ロールからなるニップロールおよび上記転写ロールを使用した転写装置を用い、転写ロールの表面温度160℃、ニップロールの表面温度100℃、フィルムの搬送テンションを0.1kgf/mm2、ニップ圧が0.5kgf/mmの条件で厚さ100μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(ZF−14、日本ゼオン製)表面上に転写ロール表面の形状を転写し、ロール状に巻き取った。得られた長尺フィルムを所定のサイズに切り出し、集束イオンビーム加工観察装置FB−2100(日立製作所製)のマイクロサンプリング装置を使用してTEM用観察断面を作製し、透過電子顕微鏡H−7500(日立製作所製)にてフィルム断面を観察をした結果、フィルム上のパターンは開口部の平均幅90nm、平均高さ80nm、平均ピッチ180nmの矩形の波型形状であった。
【0037】
長尺のパターン付フィルムのパターン形成面に、アルゴンガス存在下にて出力400Wの条件でスパッタリングによりSiO2をフィルムの鉛直方向より70度の方向から斜方成膜し、次いで、逆側から同様に70度の方向から斜方製膜した後、真空蒸着によりアルミニウムをフィルムの鉛直方向から成膜し、ロール状に巻き取った。
加熱装置と攪拌装置を備えたエッチング槽に硝酸5.2%、リン酸73.0%、酢酸3.4%、および残部が水からなる組成(酸成分相当濃度:81.6%)のエッチング液を溜め入れ、エッチング液の温度を33℃に調整したエッチング浴に、アルミニウムを積層した上記フィルムを30秒間浸漬した後、120℃、5分間乾燥し、ロール状に巻き取ることにより、長尺のグリッド偏光フィルムを製造した。
【0038】
長尺のグリッド偏光フィルムを所定のサイズに切り出し、集束イオンビーム加工観察装置FB−2100(日立製作所製)のマイクロサンプリング装置を使用してTEM用観察断面を作製し、透過電子顕微鏡H−7500(日立製作所製)にてフィルム断面を観察したところ図4に示すような形状であることがわかった。畝状凸部の上に形成されたアルミニウムの平均厚さは70nm、溝部に形成されたアルミニウムの最大厚さH1の平均は60nm、両端部の最小厚さH2の平均は4nmであった。グリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xは10620nm2となった。
【0039】
実施例1
製造例1で作製したグリッド偏光子に、出力400W、アルゴン流量25sccm、製膜圧0.80Paの条件にて140秒間SiOスパッタリングを行い表面に誘電体層を積層した。その平均厚さは溝部に形成された金属層の最頂部から40nmであり、垂直断面の平均断面積Yは531nmとなった。Y/Xは0.05であった。
【0040】
実施例2
製造例1で作製したグリッド偏光子に、出力400W、アルゴン流量25sccm、製膜圧0.80Paの条件にて30秒間SiOスパッタリングを行い表面に誘電体層を積層した。その平均厚さは溝部に形成された金属層の最頂部から10nmであった。垂直断面の平均断面積Yは7124nmとなった。Y/Xは0.67であった。
【0041】
実施例3
製造例1で作製したグリッド偏光子に、出力400W、アルゴン流量25sccm、製膜圧0.80Paの条件にて65秒間SiOスパッタリングを行い表面に誘電体層を積層した。その平均厚さは溝部に形成された金属層の最頂部から20nmであった。垂直断面の平均断面積Yは4278nmとなった。Y/Xは0.40であった。
【0042】
実施例4
製造例2で作製したグリッド偏光子に、さらにニトリロトリス(メチレン)トリスルホン酸50%水溶液を塗布し、60℃の温度で20分間乾燥した。垂直断面の平均断面積Yは2970nmとなった。Y/Xは0.30であった。
【0043】
比較例1
製造例1で作製したグリッド偏光子に、出力400W、アルゴン流量25sccm、製膜圧0.80Paの条件にて300秒間SiOスパッタリングを行い表面に誘電体層を積層した。畝状凸部間は完全に誘電体により埋め込まれた状態となった。その平均厚さは溝部に形成された金属層の最頂部から100nmであった。Yは0であり、Y/Xは0となった。
【0044】
比較例2
製造例1で作製したグリッド偏光子に、出力400W、アルゴン流量25sccm、製膜圧0.80Paの条件にて10秒間SiO2スパッタリングを行い表面に誘電体層を積層した。その平均厚さは畝状凸部間の吸光性層の頂部から5nmであった。垂直断面の平均断面積Yは8791nm2となった。Y/Xは0.83であった。
【0045】
比較例3
製造例1で作製したグリッド偏光子に何の処理も行わず、次の評価に用いた。吸光性層の上に何も積層しないためY/Xは1.00となった。
【0046】
実施例1〜4、比較例1〜3について温水試験前後の(a)450nm、(b)550nm、(c)650nmの波長に対するグリッド偏光フィルムの偏光透過率、偏光反射率を表1に示した。
なお、判定基準は以下のとおりである。
光学特性判定;80℃の温水に1時間浸漬する前の各波長において
60%以上の偏光透過率、偏光反射率であるものを○
60%未満のものを有する場合を×
耐久性判定;グリッド偏光子フィルムを80℃の温水に1時間浸漬した後に、
偏光透過率、偏光反射率が温水浸漬前よりも10%以上低下したものを×
偏光透過率、偏光反射率が温水浸漬前よりも10%未満低下したものを○
【0047】
表1に示すように実施例1〜4においては偏光透過率、偏光反射率とも良好で、温水試験後もその値を維持しており、耐久性を有することが判った。一方、比較例1に温水試験においては耐久性があることが判ったが、光学特性においては短波長側の偏光透過率、偏光反射率に問題があることが判った。比較例2、3においては光学特性は良好であったが、温水試験後にその値を維持することができず、耐久性に問題があることが判った。
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】グリッド偏光子の一実施態様を示す斜視概念図である。
【図2】グリッド偏光子の他の一実施態様を示す斜視概念図である。。
【図3】図2のグリッド偏光子の断面を示す概念図である。
【図4】溝に形成された金属層Bの形状の一実施態様を説明するための概念図である。
【図5】本発明のグリッド偏光子の一実施態様を示す断面図である。
【図6】本発明のグリッド偏光子の一実施態様を示す断面図である。
【図7】本発明のグリッド偏光子の一実施態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
310:透明基材
311:グリッド線
311’:金属層
312:誘電体層積層前の空間
313:透明基材、前記凸条の頂に構成されたグリッド線、金属層および該グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線とで囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の断面
314:グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層とで囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の断面
315:誘電体層
316:グリッド線の上部頂点を結ぶ線

H1:金属層Bの最大厚さ
H2:金属層Bの最小厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の透明基材と、該透明基材の少なくとも一方の表面に、細長く略平行に延びた複数のグリッド線が形成され、グリッド線および透明基材が、誘電体で覆われたグリッド偏光子において、
透明基材、グリッド線、およびグリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線とで囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層とで囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下であるグリッド偏光子。
【請求項2】
透明基材が、少なくとも一方の表面に細長く線上に延び互いに離間した状態で略平行に複数並ぶ凸条を有するものであり、
グリッド線が、前記凸条の頂に構成された請求項1記載のグリッド偏光子。
【請求項3】
前記凸条間に金属層が存在し、
透明基材、前記凸条の頂に構成されたグリッド線、金属層および該グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線とで囲まれる範囲のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Xと
グリッド線の上部頂点を結ぶ線を最上部とした線と、該誘電体層とで囲まれる空間のグリッド線の長手に垂直な方向の平均断面積Yとの
Y/Xの割合が0.01以上0.8以下である請求項2に記載のグリッド偏光子。
【請求項4】
透明基材、グリッド線、誘電体層、保護層の順で、誘電体層にさらに保護層を積層した請求項1〜3のいずれかに記載のグリッド偏光子。
【請求項5】
誘電体層をスパッタリング、蒸着、塗布のいずれかの方法で形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグリッド偏光子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−86095(P2009−86095A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253259(P2007−253259)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】