説明

グリース組成物およびその製造法

【課題】増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油が均質に分散しているグリース組成物およびその製造法を提供する。
【解決手段】互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物からなり、一方の基油が他方の基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散してなるグリース組成物。かかるグリース組成物は、例えば互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物を3本ロールミルで2回以上混練することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物およびその製造法に関する。さらに詳しくは、互いに相溶性のない2種類の増稠剤配合基油が均質に分散しているグリース組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素系グリースは、パーフルオロポリエーテルを基油として、テトラフルオロエチレンの単独重合体(PTFE)またはヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、エチレン等との共重合体(FEP、PFA、ETFE等)を増稠剤として、これらに防錆剤等の各種添加剤を少量宛配合して構成されており、低温性、高温耐久性、酸化安定性、耐薬品性などが求められる過酷な条件下で使用されている。
【0003】
しかしながら、基油および増稠剤が共に含フッ素重合体であるため、高価なだけではなく、被潤滑材料である樹脂、金属、ゴム等とのなじみが悪く、高荷重のような条件下では潤滑に必要な油膜が形成されず、摩耗が発生したり、摩擦係数が高くてトルクの伝達効率が悪く、また防錆性、耐腐食性に劣るなどの問題がみられる。
【0004】
こうした問題点を解決するために、フッ素系グリースに非フッ素系グリースを混合して用いることが提案されており、例えば特許文献1には、水素添加した鉱油および/または合成潤滑油、フルオロポリエーテル油および有機または有機増粘剤を含んでなるグリースであって、潤滑油+フルオロポリエーテル油/増粘剤重量比が97:3〜80:20であり、潤滑油/フルオロポリエーテル油重量比が95:5〜60:40であるグリースが記載されている。
【特許文献1】特開平7−268370号公報
【0005】
かかる基油混合物を用いたグリースを調製するための混合には、Manto Galvin型ホモジナイザーまたは3本シリンダーホモジナイザー(3本シリンダーは、3分割型シリンダーブロック型ホモジナイザーと考えられる)等のホモジナイザーを用い、ホモジナイザー処理の回数は、良好な均質性を得るために、通常の非フッ素系グリースに行う処理回数の2〜3倍にするのが好ましいとされている。しかるに、後記比較例の結果に示されるように、ホモジナイザーによる混合処理ではその処理回数を増やしても、均質なグリース混合物を得ることは困難である。
【0006】
また、本出願人の出願に係る特許文献2〜3には、非フッ素系グリースおよびフッ素系グリースよりなる潤滑グリース組成物の製造に際しては、3本ロールもしくは高圧ホモジナイザーで十分に混練する方法がとられると記載されてはいるが、3本ロールと高圧ホモジナイザーは均等の混練手段であるとされ、またその混練回数についての言及はみられない。
【特許文献2】特開2003−96480号公報
【特許文献3】特開2006−182923号公報
【0007】
かかるグリース混合物はフッ素系グリース単体よりも廉価であるばかりではなく、相手材に対する耐摩耗性の点でもすぐれてはいるが、この場合には相溶性の点からグリースを形成するフッ素系基油の混合割合が限定され、その結果としてフッ素系グリースの有する良好な耐熱性という特性が十分に発揮されず、また互いに相溶性のない基油同士を均質分散させる指標がなく、分散度合いによってはそれぞれのグリースの基油が離油してしまう場合やせん断を適用すると急激に軟化するなどの問題点がみられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油が均質に分散しているグリース組成物およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物からなり、一方の基油が他方の基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散してなるグリース組成物によって達成される。かかるグリース組成物は、例えば互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物を3本ロールミルで2回以上混練することにより製造される。
【発明の効果】
【0010】
互いに相溶性のない非フッ素系基油とフッ素系基油の一方の基油が他方の基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散しているというミクロ的な分散状態を形成させることにより、
(1) 高温での油分離(離油度)が少ない
(2) せん断安定性にすぐれている
(3) 摩擦係数が低く、安定している
(4) 摩耗が少ない
といった効果が奏せられ、その結果次のような実使用上での効果が得られる。
(a) 高温で長時間使用した場合でも基油の減少がみられない
(b) グリースが軟化することがない
(c) 摩擦係数が低く安定しているため、機器の信頼性が向上する
(d) 摩耗が少ないため、機器の長寿命化が達成される
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
増稠剤配合非フッ素系基油と増稠剤配合フッ素系基油との間で、互いに相溶性のないということは、これら両者を単純に混合したとき均質なグリース組成物を形成し得ないことを意味する。
【0012】
増稠剤配合非フッ素系基油は、非フッ素系基油にこの種の基油に配合される増稠剤を配合し、グリースとして構成される。
【0013】
非フッ素系基油としては、例えばポリ-α-オレフィン、エチレン-α-オレフィンオリゴマー、ポリブテンまたはこれらの水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の合成炭化水素油、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル等のエーテル系合成油、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、ペンタエリスリトールエステル、ジペンタエリスリトールエステル等のエステル系合成油、ポリオールエステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭酸エステル等の合成油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油またはこれらを精製した鉱油等の少くとも一種が用いられる。これらの基油は、40℃における動粘度(JIS K2283準拠)が約2〜1000mm2/秒、好ましくは約10〜500mm2/秒のものが一般に用いられる。
【0014】
これらの非フッ素系基油に配合される増稠剤としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、バリウム等の金属石けんまたは金属複合石けん、脂肪族、脂環状または芳香族のジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等の尿素系化合物、ベントナイト、シリカ等の無機系増稠剤が挙げられ、これらの増稠剤の少くとも一種がベースグリース中約5〜50容積%、好ましくは約7〜40容積%を占めるような割合で用いられる。
【0015】
増稠剤配合フッ素系基油は、フッ素系基油にこの種の基油に配合される増稠剤を配合し、グリースとして構成される。
【0016】
フッ素系基油としては、40℃における動粘度(JIS K2283準拠)が約10〜1500mm2/秒、好ましくは約20〜500mm2/秒のものが一般に用いられ、より具体的には一般式
RfO(CF2O)x(C2F4O)y(C3F6O)zRf
で表わされるものが用いられる。具体的には、例えば下記一般式(1)〜(4)で表わされるようなものが用いられ、この他一般式(5)で表わされるようなものも用いられる。なお、Rfはパーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基等の炭素数1〜5、好ましくは1〜3のパーフルオロ低級アルキル基である。
(1) RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf
ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、テトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
(2) RfO〔CF(CF3)CF2O)〕m(CF2O)nRf
ここで、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCF(CF3)CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
(3) RfO[CF(CF3)CF2O]p(CF2CF2O)q(CF2O)rRf
ここで、p+q+r=3〜200でqおよびrは0であり得、(q+r)/p=0〜2であり、またCF(CF3)CF2O基、CF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
(4) RfO[CF(CF3)CF2O]s(CF2CF2O)tRf
ここで、s+t=2〜200でtは0であり得、t/s=0〜2であり、またCF(CF3)CF2O基およびCF2CF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより、あるいはフッ化セシウム触媒の存在下にヘキサフルオロプロピレンオキサイドまたはテトラフルオロエチレンオキサイドをアニオン重合させ、得られた末端-CF(CF3)COF基を有する酸フロライド化合物をフッ素ガスで処理することによって得られる。
(5) F(CF2CF2CF2O)2〜100C2F5
これは、フッ化セシウム触媒の存在下に2,2,3,3-テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含フッ素ポリエーテル(CH2CF2CF2O)nを紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガスで処理することによって得られる。
【0017】
これらのフッ素系基油に配合される増稠剤としては、一般にフッ素樹脂が用いられ、好適にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粉末、テトラフルオロエチレン〔TFE〕-ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕共重合粉末、パーフルオロアルキレン樹脂粉末等が、ベースグリース中約5〜50容積%、好ましくは約10〜40容積%を占めるような割合で用いられる。
【0018】
ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンの乳化重合、けん濁重合、溶液重合などの方法によってポリテトラフルオロエチレンを製造し、それを熱分解、電子線照射分解、物理的粉砕などの方法によって処理して数平均分子量Mnを約1000〜1000000程度としたものが用いられる。また、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとの共重合反応および低分子量化処理も、ポリテトラフルオロエチレンの場合と同様にして行われ、数平均分子量を約1000〜600000程度としたものが用いられる。なお、分子量の制御は、共重合反応時に連鎖移動剤を用いても行うことができる。
【0019】
グリースを形成させるために非フッ素系基油およびフッ素系基油にそれぞれ配合される増稠剤は、分散相となる粒子状基油平均粒径が好ましくは30μm以下と規定され、また後記モルホロジー構造を構築させるためにも、その平均粒径が30μm以下、好ましくは0.1〜20μmのものが用いられる。分散相となる一方の増稠剤含有基油の平均粒径が30μm以上では通常のグリース組成物の保存状態では粒子が破損してしまい、基油同士の相溶性がなくなって均質分散状態が保たれず、非フッ素系グリースの耐熱性の改善およびフッ素系グリースの潤滑性の改善のいずれをも達成することができない。また、せん断を受けると軟化してグリース状を保つことができない。さらに、平均粒径30μm以上では、グリースが接触面に供給されず、摩擦係数および摩耗も大きくなる。
【0020】
また、全増稠剤が組成物中10〜50容積%を占めるような割合で用いられる。この全増稠剤配合割合については、それぞれの基油にそれぞれの増稠剤を配合した非フッ素系基油とフッ素系基油との混合割合との関係で説明することとする。
【0021】
それぞれ増稠剤を配合した非フッ素系基油とフッ素系基油とを均質に分散させるためには、これら両者の容積比と全増稠剤率とが重要である。例えば、全増稠剤率が10容積%の場合には、非フッ素系基油が40〜55容積%で、フッ素系基油が60〜45容積%の範囲以外になければならない。つまり、非フッ素系基油が40容積%より少ない容積比の場合には、非フッ素系基油が分散相である核となり、分散媒である連続相にフッ素系グリースが存在するモルホロジー構造が形成される。また、フッ素系基油が45容積%より少ない容積比の場合には、フッ素系基油が分散相である核となり、分散媒である連続相に非フッ素系基油が存在するモルホロジー構造が形成される。
【0022】
一方、上記規定された各容積比の範囲内では、両者の容積比がほぼ同等となってモルホロジー構造が構築されず、これら両者の基油が均質に混合し合うことがない。このような関係は、全増稠剤率が30容積%まで同じであるが、全増稠剤率が30容積%を超えると、どの容積比でもモルホロジー構造が形成されることが見出された。
【0023】
したがって、増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物の場合には、全増稠剤率が組成物中30〜50容積%となるように設定され、また増稠剤配合非フッ素系基油は組成物中5〜40容積%または55〜95容積%を占め、増稠剤配合フッ素系基油は組成物中95〜60容積%または45〜5容積%を占める場合には、全増稠剤率が組成物中10〜30容積%となるように設定される。
【0024】
全増稠剤率は、それが10容積%未満では、モルホロジー構造の有無に拘わらずグリースが軟くなり、機器からの漏れが生ずるなど、実用上使用することができなくなる。一方、全増稠剤率が50容積%を超えると、グリースは硬くなりすぎ、例えば転がり軸受等では回転しなくなり、使用することができなくなる。また、非フッ素系基油およびフッ素系基油それぞれに適した増稠剤の配合が必要であり、どちらか一方の増稠剤を配合した場合には均質に分散せず、時間の経過と共にどちらかの基油が離油したり、グリースにせん断を与えると急激に軟化し、グリース状を保持できなくなる。
【0025】
組成物中にはさらに、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、固体潤滑剤などの従来潤滑剤に使用されている添加剤を必要に応じて配合することができる。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、C4〜C20のアルキル基を有するアルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤、さらにはリン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0026】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、また腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0027】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等のイオウ系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等のイオウ系化合物金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物などが挙げられる。
【0028】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられる。また、他の固体潤滑剤としては、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、窒化シラン、メラミンシアヌレート等が挙げられる。これらの他の固体潤滑剤についても、その平均一次粒径は30μm以下、好ましくは0.1〜20μmのものが用いられる。
【0029】
本発明に係るグリース組成物の製造法としては、次のような方法が挙げられる。
(1) 非フッ素系基油中に石けん系、尿素系等の増稠剤を配合し、3本ロールミルまたは高圧ホモジナイザーで混練して、非フッ素系グリースを作る。また、フッ素系基油とフッ素樹脂とを混合釜中で混ぜ、その後3本ロールミルまたは高圧ホモジナイザーで混練して、フッ素系グリースを作る。これら2種類のグリースを混合釜中で混ぜ、3本ロールミルで2回以上混練してグリース組成物を調製する。その際のロール締め圧は、約0.2〜7MPa程度に設定される。
(2) 上記の如くにして作った非フッ素系グリースに、フッ素系基油およびフッ素樹脂を加え混合釜中で混ぜた後、3本ロールミルで2回以上混練してグリース組成物を調製する。その際のロール締め圧は、約0.2〜7MPa程度に設定される。
【0030】
混練に用いられる3本ロールミルとしては、一般に油圧式のものが用いられる。また、酸化防止剤その他の各種添加剤は、増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の少くとも一方を製造する段階もしくはこれらを混合釜中で混ぜる段階で添加が行われる。
【0031】
このようにして調製されたグリース組成物は、互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物からなり、一方の増稠剤配合基油が他方の増稠剤配合基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散している。
【0032】
ここで、モルホロジー構造とは、広い意味では非晶性高分子におけるポリマーブレンドやブロック共重合体等のポリマーアロイ中の分子の凝集状態なども対象に含まれるが、本発明においては、海島構造状態で一方の増稠剤配合基油が分散相を形成し、他方の連続相を形成する増稠剤配合基油中に粒子状で均質に分散している構造を指している。
【0033】
分散相として粒子状に分散している一方の増稠剤配合基油は、その平均粒径が30μm以下、好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下の粒子状となった増稠剤配合基油が、分散相全粒子中50%以上、好ましくは75%以上、特に好ましくは90%以上の体積率で分散されている。体積率は、顕微鏡の写真上から観察される粒子の全面積を計測し、観察面内における面積率を計算し、これを(3/2)乗して体積率に換算することにより算出される。
【0034】
このような分散相増稠剤配合基油が粒子状となって連続相増稠剤配合基油中に均質に分散されている状態、すなわちモルホロジー構造を形成して分散されている状態は、3本ロールミルを用い、それを用いた混練を2回以上行った場合に初めて非フッ素系グリースとフッ素系グリースとの混合物からなるグリース組成物が得られるものであり、このような混練を1回しか行わなかった場合や高圧ホモジナイザーを用いて2回以上混練を行っても、このような混練状態を得ることはできない。
【0035】
このように互いに相溶性のない非フッ素系グリースとフッ素系グリースとを均質に分散させることにより、外観上均質であるばかりではなく、グリース組成物のどの部分を採取しても同じ潤滑効果のものが得られる。さらに、ミクロ的な部分までも均質化されているため、加熱した場合の離油が少なく、耐熱性にもすぐれている。また、せん断を受けても軟化し難いことから、グリースの長寿命化が実現でき、相手材に対する耐摩耗性にすぐれ、摩擦係数が低くかつ安定していることから、このグリースを使用する機器の省エネルギー化、高精度化を実現させる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
実施例1〜10
グリースA(非フッ素系グリース):2重量%のアミン系酸化防止剤を配合したトリメリット酸エステル油(40℃動粘度100mm2/秒)中に、増稠剤としてベースグリース中10容積%を占める脂肪族ジウレア化合物を添加し、3本ロールで2回混練して調製した
グリースB(非フッ素系グリース):2重量%のアミン系酸化防止剤を配合したポリ-α-オレフィン油(40℃動粘度30mm2/秒)中に、増稠剤としてベースグリース中30容積%を占めるバリウム複合石けんを添加し、3本ロールで2回混練して調製した
グリースC(フッ素系グリース):RfO〔CF(CF3)CF2O〕mRfで表わされる分子構造を有し、40℃動粘度230mm2/秒の基油中に、増稠剤としてベースグリース中30容積%を占めるPTFE粉末(平均粒子径0.3μm)を添加し、3本ロールで2回混練して調製した
グリースD(フッ素系グリース):RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRfで表わされる分子構造を有し、40℃動粘度150mm2/秒の基油中に、増稠剤としてベースグリース中30容積%を占めるPTFE粉末(平均粒子径0.3μm)を添加し、3本ロールで2回混練して調製した
【0038】
上記非フッ素系グリース(グリースA、B)とフッ素系グリース(グリースC、D)とを所定の容積比で混合し、30℃の混合釜中で60分間十分に攪拌、混合した後、3本ロールミル(ロール締め圧10kgf/cm2=0.98MPa)で2回混練した
【0039】
得られたグリース組成物について、次の各項目の評価または測定を行った。
外観:目視で観察し、均質なものを○、不均質なものを×と評価
粒径:分散粒子の粒径を顕微鏡(600倍または1500倍)で観察し、撮影した写真上の粒 子の長径を粒径とした
耐熱性(離油度):JIS K2220.11に準拠し、180℃、24時間後の離油度(重量%)を測定 (値が小さい程良い)
せん断安定性(稠度変化):ASTM D183に準拠し、シェルロール試験を行い、80℃の温 度条件下で、グリースを封入した円筒を165rpmで24時間回 転させ、その試験前後の稠度変化を測定(値が小さい程良 い)
摩擦係数:平板上に直径5mm、高さ10mmの円柱を載せ、平板を温度 室温、速度 1m/秒 、荷重 9.8N、材質 SUS304、摺動形態 面接触の条件下で回転させて測定 (値が小さい程良い)
摩耗特性:ASTM D2266に準拠し、シェル四球試験を温度75℃、回転数1200回/分、荷 重392N、時間60分間の条件下で行い、摩耗痕径を測定(値が小さい程良い)
【0040】
比較例1〜6
非フッ素系グリース(グリースA、B)とフッ素系グリース(グリースC)とを所定の容積比で混合し、30℃の混合釜中で60分間十分に攪拌、混合した後、高圧ホモジナイザー(100bar)で1回(比較例1〜5)または2回(比較例6)混練した。
【0041】
比較例7
実施例7において、3本ロールミル混練回数が1回に変更された。
【0042】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、グリース組成物中の全増稠剤容積率(増稠剤率)と共に、次の表に示される。なお、各実施例での外観はすべて○、各比較例での外観はすべて×であった。また、図1は実施例7で得られたグリース組成物の600倍顕微鏡写真であり、また図2は比較例1で得られたグリース組成物の600倍顕微鏡写真である。

グリース(容積%) 増稠剤率 粒径 離油 稠度 摩擦 摩耗痕
(容積%) (μm) 度(%) 変化 係数 径 (mm)
実施例1 93 − 7 − 16 5 0.5 48 0.04 0.3
〃 2 75 − 25 − 19 10 0.7 48 0.04 0.4
〃 3 25 − 75 − 27 10 0.9 32 0.05 0.6
〃 4 − 25 75 − 27 10 0.7 30 0.05 0.6
〃 5 − 50 50 − 32 10 0.4 32 0.05 0.3
〃 6 − 42 58 − 32 10 0.3 28 0.05 0.3
〃 7 75 − 25 − 21 20 0.7 41 0.04 0.5
〃 8 60 − − 40 21 20 0.9 45 0.03 0.6
〃 9 37 − 63 − 15 20 1.1 41 0.05 0.4
〃 10 − 60 40 − 21 25 0.9 38 0.04 0.4
比較例1 75 − 25 − 21 35 1.5 55 0.06 0.7
〃 2 − 42 58 − 29 40 2.8 57 0.07 0.8
〃 3 53 − 47 − 22 50 1.7 68 0.06 0.7
〃 4 − 50 50 − 20 50 2.5 60 0.08 0.7
〃 5 50 − 50 − 23 60 2.0 62 0.07 0.8
〃 6 75 − 25 − 21 35 1.4 55 0.06 0.7
〃 7 75 − 25 − 21 35 1.2 50 0.06 0.7
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例7で得られたグリース組成物の600倍顕微鏡写真である
【図2】比較例1で得られたグリース組成物の600倍顕微鏡写真である
【産業上の利用可能性】
【0044】
前記の如き特性を有する本発明のグリース組成物は、転がり軸受、すべり軸受、焼結軸受、ギヤ、バルブ、コック、オイルシール、電気接点等の摺動部個体間接触部の潤滑および保護を目的として、あるいは耐熱性はそれ程要求されないが、耐摩耗性やせん断安定性が要求される部分などに好適に用いられる。
【0045】
具体的には、次のような各種機器・機械・装置の各種部位に好適に適用される。
・自動車では、電動ラジエータファンモータ、ファンカップリング、電制EGR、電子制 御スロットバルブ、オルターネータ、アイドラプーリ、電動ブレーキ、ハブユニット 、ウォーターポンプ、パワーウィンドウ、ワイパ、電動パワーステアリング等の耐熱 性、せん断安定性が要求される転がり軸受、すべり軸受またはギヤ部分
自動変速機用コントロールスイッチ、レバーコントロールスイッチ、ブッシュスイッ チ等の耐熱性、せん断安定性、耐摩耗性が要求される電気接点部分
ビスカスカップリングのXリング部分、排気ブレーキのOリング等、耐熱性、せん断安 定性が要求されるゴムシール部分
ヘッドライト、シート、ABS、ドアロック、ドアヒンジ、クラッチブースタ、2分割フ ライホイール、ウィンドレギュレータ、ボールジョイント、クラッチブースタ等の転 がり軸受、すべり軸受、ギヤ、摺動部等
・事務用機器では、複写機、レーザービームプリンタ等の定着ロール、定着ベルト等の 耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、すべり軸受、樹脂フィルムの摺動部また はギヤ部等
・樹脂製造装置では、フィルムテンター、フィルムラミネータ、バンバリーミキサの耐 熱性、耐荷重性が要求される転がり軸受、すべり軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・製紙装置ではコルゲートマシンの耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、すべり 軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・木材加工装置では、コンチプレス等の耐熱性、耐摩耗性が要求される転がり軸受、す べり軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等
・食品用機械では、パン焼器、オーブン等のリニアガイド、耐熱性、耐摩耗性が要求さ れる転がり軸受等
・工作機械のスピンドル、サボモータ等の低摩擦係数が要求される転がり軸受、すべり 軸受等
・せん断安定性、耐摩耗性が要求される携帯電話のヒンジの摺動部等
・半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡等の真空ポンプにおける転がり軸受、ギ ヤ、電子制御装置の遮断機の転がり軸受等
・家電・情報機器では、パソコンの冷却ファン、掃除機、洗濯機等の転がり軸受、すべ り軸受、オイルシール等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物からなり、一方の基油が他方の基油中にモルホロジー構造を形成して粒子状で均質に分散してなるグリース組成物。
【請求項2】
いずれも増稠剤を配合した非フッ素系基油およびフッ素系基油の一方の基油が平均粒径30μm以下の粒子状で他方の基油中に均質に分散している請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物からなり、全増稠剤率が組成物中30〜50容積%である請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】
増稠剤配合非フッ素系基油5〜40容積%または55〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜60容積%または45〜5容積%の混合物からなり、全増稠剤率が組成物中10〜30容積%である請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項5】
海島構造状態で一方の増稠剤配合基油が分散相を形成し、他方の連続相を形成する増稠剤配合基油中に粒子状で均一に分散してモルホロジー構造を形成している請求項1記載のグリース組成物。
【請求項6】
互いに相溶性のない増稠剤配合非フッ素系基油および増稠剤配合フッ素系基油の混合物を3本ロールミルで2回以上混練することを特徴とするグリース組成物の製造法。
【請求項7】
増稠剤配合非フッ素系基油5〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜5容積%の混合物からなり、全増稠剤率が30〜50容積%となる量の増稠剤が配合された混合物について混練が行われる請求項6記載のグリース組成物の製造法。
【請求項8】
増稠剤配合非フッ素系基油5〜40容積%または55〜95容積%および増稠剤配合フッ素系基油95〜60容積%または45〜5容積%の混合物からなり、全増稠剤率が10〜30容積%となる量の増稠剤が配合された混合物について混練が行われる請求項6記載のグリース組成物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−35590(P2009−35590A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199089(P2007−199089)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】