説明

グリース組成物

【課題】 高温環境下における使用においても長寿命であり、優れた低蒸発性を有し、かつ不燃性であるグリース組成物を提供すること。
【解決手段】 基油として、カチオンとアニオンから構成され、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm3以上であるイオン性液体を含み、かつ、滴点が260℃以上の増ちょう剤を含むグリース組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、さらに詳しくは、高温で長期間使用され、かつ低蒸発性、不燃性のグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
機械の進歩やメンテナンスフリーに対する意識の向上に伴い、グリースを用いた潤滑における使用条件はますます過酷になっている。特に高温環境で長期間安定なグリース組成物は、機械の寿命延長に直結するため、その性能向上が求められていた。
また、近年進歩が目覚しい電子機器部品やその製造設備においては、グリースの分解物による汚染が問題となることから、低蒸発性のグリース組成物が求められていた。
【0003】
高温環境下でも長寿命なグリース組成物として、トリメリット酸エステルを基油としたグリース(例えば、特許文献1〜3参照)、アルキル置換ジフェニルエーテルを基油としたグリース(例えば、特許文献4参照)が提案されている。また、その他、メチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンを基油としたグリース、パーフルオロアルキルポリエーテル(以下「PFAE」という。)を基油としたグリースなどが提案されている。これらのうち、PFAEを基油としたグリースは、高温長寿命性に優れ、雰囲気温度が200℃を超える環境下で多用されている。
しかしながら、PFAEを基油としたグリースは、さらなる高温環境下では、フッ素化油が分解するため、その使用条件には限界がある。従って、現状ではグリースの補給周期を短くするか、部品の交換周期を短くして対応している。
【0004】
また、上述の高温環境下でも長寿命なグリース組成物、特にPFAEを基油としたグリースは、ある温度までは分解しにくい特徴を有するため、低蒸発性グリースとしても有効であるが、いまだその性能は不十分であり、さらなる高温環境下でも低蒸発性を有するグリース組成物が求められていた。
さらに、グリース組成物の多くは、消防法上の非危険物に該当するが、直火に接触する環境や高温の金属に接触する用途などに用いる場合には、炭素、水素、及び酸素を主成分とする基油を用いたグリースでは燃焼してしまう。また、不燃性の基油を用いたグリースであるPFAEを基油としたグリースでは、高温により分解して有毒ガスを発生する可能性があり、シリコーン油を基油としたグリースでは、こうした問題はないものの、境界潤滑領域における潤滑性に劣るという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特公平7−45677号公報
【特許文献2】特開平11−131082号公報
【特許文献3】特開平7−109480号公報
【特許文献4】特開平3−28299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下でなされたもので、高温環境下における使用においても長寿命であり、優れた低蒸発性を有し、かつ不燃性であるグリース組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するイオン性流体と特定の増ちょう剤を組み合わせることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、基油として、カチオンとアニオンから構成され、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm3以上であるイオン性液体を含み、かつ、滴点が260℃以上の増ちょう剤を含むグリース組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下、特に250℃以上の高温環境下における使用においても長寿命であり、優れた低蒸発性を有し、かつ不燃性であるグリース組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のグリース組成物は、カチオンとアニオンから構成され、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm3以上であるイオン性液体を基油として含むことを特徴とする。水やその他の溶媒を含むことなく、カチオンとアニオンのみから形成される高いイオン雰囲気と静電相互作用を得るためには、イオン濃度が1mol/dm3以上であることが必要とされ、好ましくは1.5mol/dm3以上、より好ましくは2mol/dm3以上である。ここで、イオン濃度とは、イオン性液体において、[密度(g/cm3)/分子量MW(g/mol)]×1000で算出される値をいう。
本発明のグリース組成物は、好ましくは、基油として、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体10〜100質量%を含むものであり、イオン性液体としては、下記一般式
(Zp+ k(Aq- m
(式中、Zp+ はカチオン、Aq- はアニオンである。p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たす。k又はmが2以上のとき、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表されるものを用いることができる。本発明においては、上記式においてp、q、k及びmが2以下であることが好ましく、p、q、k及びmが1である、一般式Z+ -(Z+ はカチオン、A- はアニオンである。)で表されるイオン性液体10〜100質量%を含むものがより好ましい。本発明のグリース組成物において、上記イオン性液体の含有量は50〜100質量%が好ましく70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
上記カチオン(Z+ )としては、下記一般式
【0010】
【化1】

[式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
【0011】
で表されるものが好ましい。R1〜R12のエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。炭素数1〜18のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、各種ペントキシ基、各種ヘプトキシ基、各種オクトキシ基などが挙げられる。本発明においては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
上記カチオン(Z+ )のうち、下記一般式
【0012】
【化2】

[式中、R1〜R12は、上記と同じである。]
【0013】
で表されるものがより好ましい。
上記アニオン(A- )としては、例えば、BF4-,PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,C65SO3-,CH3(C64)SO3-,I-,I3-,F(HF)n-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z3-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(Cn(2n+1-x)x)Y1zは、同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)、B(Cm2(2m+14-,P(Cm2(2m+1)6-(式中、Y2は水素原子又はフッ素原子を示し、Y2が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(Cm2(2m+1))は、同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【0014】
【化3】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(Cn(2n+1-x)x)から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
【0015】
で表されるアニオンが好適である。これらのアニオンの中ではフッ素原子を含むものが特に好ましい。
上記アニオン(A- )のうち、PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンがより好ましく、Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンが特に好ましい。
【0016】
基油として用いる一般式(Zp+ k(Aq- mで表されるイオン性液体としては、例えば、下記一般式
【0017】
【化4】

(式中、Mは、H+,Li+,Na+,K+,Pb+及びCs+から選ばれるカチオンであり、nは0〜18の整数である。)
【0018】
で表されるものが挙げられる。
また、基油として用いる一般式Z+ -で表されるイオン性液体として具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムテトラフルオロボレート、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどを挙げることができる。これらのイオン性液体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。全酸化が1mgKOH/gを超えるものを用いる場合は、全酸化が1mgKOH/g以下となるように二種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
本発明においては、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0019】
基油として、二種以上のイオン性液体の混合物を用いると、物性(粘度指数、流動点等)が大きく改善されたグリース組成物を得ることができる。この場合、混合割合は任意とすることができるが、混合による効果を得る点から、各イオン性液体の配合量を混合物基準で10質量%以上とすることが好ましい。この混合物としては、Z+ を一種とA- を二種以上含む混合物、Z+ を二種以上とA- を一種含む混合物及びZ+ を二種以上とA- を二種以上含む混合物が挙げられる。
具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートとアルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートの混合物などが挙げられる。
これらのうち、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートの混合物が好ましい。
また、基油として、下記一般式
【0020】
【化5】

[式中、R1〜R5は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R5は同一でも異なっていてもよい。]
【0021】
で表されるカチオン(イミダゾリウムイオン),F-,Cl-,Br-及びBF4-を含まないイオン性液体を用いると、毒性及び腐食性の無いグリース組成物を得ることができる。このようなイオン性液体として具体的には、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。
これらのうち、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0022】
本発明においては、基油として、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型(Zwitterionic型)からなり、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体も用いることができる。本発明のグリース組成物におけるこのイオン性液体の含有量は10〜100質量%であり、50〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
このイオン性液体は、例えば、下記一般式
【0023】
【化6】

[式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。但し、R1〜R12の少なくとも一つは、−(CH2n−SO3-又は−(CH2n−COO-(nはアルキル基の炭素数が1〜18になるような0以上の整数である。)を有する。]
【0024】
で表されるものである。具体的には、1−メチル−1,3−イミダゾリウム−N−ブタンスルホネート及びN,N−ジエチル−N−メチルアンモニウム−N−ブタンスルホネートなどが挙げられる。
【0025】
上記イオン性液体の全酸価は、グリース組成物を塗布される材料の腐食防止の観点から、1mgKOH/g以下であることを要し、好ましくは0.5mgKOH/g以下、より好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
上記イオン性液体の40℃における動粘度は、蒸発損失、及び粘性抵抗による動力損失を抑える点から、1〜1,000mm2/sが好ましく、より好ましくは2〜320mm2/s、さらに好ましくは5〜100mm2/sである。
上記イオン性液体の流動点は、低温時に粘性抵抗が増大することを抑える点から、−10℃以下が好ましく、より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−30℃以下である。
上記イオン性液体の引火点は、基油の蒸発量を少なくする点から、200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。
上記イオン性液体の粘度指数は、温度に対する粘度変化が大きくなりすぎないようにする点から、80以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
【0026】
本発明のグリース組成物は、滴点が260℃以上の増ちょう剤を含むことを特徴とする。ここで滴点とは、グリースが融解して自重で滴下し始める温度であり、本発明ではJIS K2220−2003 8.に準拠して測定した値をいう。増ちょう剤の滴点が260℃以上であると、高温でも液化せずグリースとしての十分な機能を果たすことができる。増ちょう剤の滴点は、好ましくは280℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。
本発明では、滴点が260℃以上の増ちょう剤であれば特に限定されないが、ウレア系増ちょう剤、フッ素樹脂系増ちょう剤、無機系増ちょう剤、カーボン系増ちょう剤などの非石けん系の増ちょう剤が好ましい。非石けん系の増ちょう剤は、石けん系の増ちょう剤に比較して、グリース化が容易であり、しかも250℃以上の高温に長期間さらされた場合にも変質がおきにくいため、高温用グリースとしてバランスのとれた性能が得られる。
【0027】
ウレア系増ちょう剤としては、従来公知のウレア系増ちょう剤のいずれをも使用することができ、具体的には、ジウレア、トリウレア、テトラウレア化合物など、また、ウレア・ウレタン化合物などが挙げられる。
フッ素樹脂系増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、三フッ化エチレン樹脂等が挙げられ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
無機系増ちょう剤としては、シリカゲル;モンモリロナイト、ベントナイトなどの粘土鉱物;窒化ホウ素等が挙げられ、特に有機処理した粘土鉱物を主成分とするものが好ましい
カーボン系増ちょう剤としては、グラファイト;フラーレン;カーボンブラック;カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン等のカーボンナノ物質等が挙げられる。
その他、ナトリウムテレフタラメートなどの非石けん系の増ちょう剤を使用することもできる。
【0028】
上記非石けん系の増ちょう剤のうち、特に250℃以上の高温での長期安定性の観点から、無機系増ちょう剤、及びカーボン系増ちょう剤が好ましい。
本発明のグリース組成物中における、上記増ちょう剤の含有量は3〜50質量%の範囲が好ましい。この範囲であるとグリースとして多用されるちょう度が得やすい。以上の観点から、増ちょう剤の含有量は、6〜25質量%の範囲がさらに好ましい。また、上記増ちょう剤は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明のグリース組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を併用することができ、添加剤としては、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、固体潤滑剤、粘着剤などを挙げることができる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤としては、従来のグリース組成物に使用されているアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物;α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0030】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系化合物;4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤の配合量は、グリース組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.03〜5質量%である。
【0031】
油性剤としては、脂肪族アルコール;脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物;ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物;脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。脂肪族アルコールは、下記一般式(I)
18−OH (I)
(式中、R18は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。)
で表される。炭素数8〜30のアルキル基としては、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ステアリル基、各種ラウリル基、各種パルミチル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアルケニル基としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアルキルアリール基としては、各種ジメチルフェニル基、各種ジエチルフェニル基、各種ジプロピルフェニル基、各種メチルナフチル基、各種エチルナフチル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアリールアルキル基としては、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。これらのうち、ステアリル基及びオレイル基が好ましい。
【0032】
脂肪酸化合物としては、下記一般式(II)
(R19−COO)n1 (II)
(式中、R19は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。X1は、H、K、Na、Mg、Ca、Al、Zn、Fe、Cu及びAgから選ばれる原子である。)
で表される化合物である。R19の炭素数8〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられ、ステアリル基及びオレイル基が好ましい。X1としては、H、K、Al、Znが好ましい。nは1〜3の整数である。
【0033】
ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエルスリトールなどの多価アルコールと、下記一般式(III)
20−COOH (III)
(式中、R20は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。)
で表される脂肪酸とのエステル反応によって得られるものが挙げられる。R20の炭素数8〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられ、オクチル基が特に好ましい。
ソルビタンエステルは、下記一般式(IV)
【0034】
【化7】

(式中、R21〜R25はH、OH及びCH2OCOR26から選ばれる基を示す。R26は炭素数9〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0035】
で表される。R26の炭素数9〜30のアルキル基としては、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ステアリル基、各種ラウリル基、各種パルミチル基などが挙げられる。炭素数9〜30のアルケニル基としては、ノネニル基、デセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。好ましい脂肪酸として、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
グリセライドとしては、下記一般式(V)
【0036】
【化8】

(式中、X2〜X4は、OH又はOCOR27を示す。R27は炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0037】
で表されるものが挙げられる。R27の炭素数8〜30のアルキル基及びアルケニル基としては、上記と同様のものが挙げられる。好ましい脂肪酸として、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、下記一般式(VI)
28mNH3-m (VI)
(式中、R28は、炭素数3〜30、好ましくは炭素数8〜24のアルキル基及びアルケニル基、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜15のアリール基及びアリールアルキル基並びに炭素数2〜30、好ましくは炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基から選ばれる基を示す。mは1〜3の整数である。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン及びトリ置換アミンが挙げられる。上記R28のうちのアルキル基及びアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。炭素数3〜30のアルキル基及びアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基及びアリールアルキルとしては、上記と同様のものが挙げられる。炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などが挙げられる。
これらの油性剤の配合量は、配合効果の点から、グリース組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0038】
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄及び金属を含む極圧剤、リン及び金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子及び/又はリン原子を含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。分子中に硫黄を含む極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、トリアジン化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。
硫化油脂は硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0039】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記一般式(VII)
29−Sa−R30 (VII)
(式中、R29は炭素数2〜15、好ましくは炭素数4〜8のアルケニル基、R30は炭素数2〜15、好ましくは炭素数4〜8のアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜8、好ましくは1〜3の整数を示す。)
で表される化合物が挙げられる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られる。炭素数2〜15のオレフィンとしては、プロピレン、イソブテン及びジイソブテンなどが好ましい。
ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、下記の一般式(VIII)
31−Sb−R32 (VIII)
(式中、R31及びR32は、それぞれ炭素数1〜20好ましくは炭素数4〜18のアルキル基又は環状アルキル基、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアルキルアリール基又は炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。bは2〜8、好ましくは2〜4の整数を示す。)
で表される化合物である。ここで、R31及びR32がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0040】
上記一般式(VIII)におけるR31及びR32としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(IX)又は(X)
【0041】
【化9】

(式中、R33〜R36は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20、好ましくは炭素数4〜13の炭化水素基を示し、c〜fは、それぞれ0〜8、好ましくは1〜4の整数を示す。)
【0042】
で表される1,3,4−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾールなどが好ましく用いられる。このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(XI)
【0043】
【化10】

(式中、R37〜R40は、それぞれ炭素数1〜20、好ましくは炭素数4〜8のアルキル基を示し、gは1〜8、好ましくは1〜3の整数を示す。)
【0044】
で表されるものが好ましく用いられる。このようなアルキルチオカルバモイル化合物の具体例としては、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
硫黄、リン及び金属を含む極圧剤としては、ジアルキルチオカルバミン酸亜鉛(Zn−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸鉛、ジアルキルチオカルバミン酸錫、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)、ナトリウムスルホネート、カルシウムスルホネートなどが挙げられる。
分子中にリンを含む極圧剤として代表的なものは、リン酸エステル類及びそのアミン塩である。リン酸エステルは、下記の一般式(XII)〜(XVI)で表されるリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルを包含する。
【0045】
【化11】

【0046】
上記一般式(XII)〜(XVI)において、R41〜R51は炭素数4〜30、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示し、R41〜R51は同一でも異なっていてもよい。
リン酸エステルとしては、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどがあり、具体的には、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどが挙げられる。
【0047】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどが挙げられる。
【0048】
酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどが挙げられる。さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば、一般式(XVII)
52hNH3-h (XVII)
(式中、R52は、炭素数3〜30、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜15のアリール基もしくはアリールアルキル基又は炭素数2〜30、好ましくは炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基を示し、hは1、2又は3を示す。また、R52が複数ある場合、複数のR52は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(XVII)におけるR52のうちの炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0049】
モノ置換アミンとしては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができる。ジ置換アミンとしては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールアミンなどが挙げられる。トリ置換アミンとしては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどが挙げられる。
これら極圧剤の配合量は、配合効果及び経済性の点から、グリース組成物全量基準で、通常0.01〜30質量%程度であり、より好ましくは0.01〜10質量%である。
【0050】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体)などが挙げられる。
これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、グリース組成物全量基準で、通常0.5〜35質量%程度であり、好ましくは1〜15質量%である。
防錆剤としては、金属系スルホネート、コハク酸エステルなどを挙げることができる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、グリース組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.05〜5質量%である。
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどを挙げることができる。これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、グリース組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.01〜1質量%である。
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、銅、ニッケル、窒化ほう素、メラミンシアヌレートなどが挙げられ、好ましい配合量は、グリース組成物全量基準で、通常0.1〜60質量%程度であり、好ましくは0.3〜30質量%である。
粘着剤としては、ポリブテン、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系重合体、分散型オレフィン系重合体、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、好ましい配合量は、グリース組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%程度である。
【0051】
本発明のグリース組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲でその他の基油を併用することができる。その他の基油としては、例えば、鉱油や合成油の中から適宜選ぶことができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系基系原油、中間基系原油又はナフテン系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、これらの留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
また、合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマー及びこれらの水素化物、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)、二塩基酸エステル、芳香族ポリプロピレンカルボン酸エステル(例えば、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルなど)、リン酸エステルなどのエステル化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアロマ系化合物、シリコーン油、ポリフェニル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ホスファーゼン化合物、フッ素系オイル(例えば、フルオロカーボン、パーフルオロポリエーテルなど)などが挙げられる。
これらのその他の基油は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のグリース組成物においては、粘度の低下や腐食を防止する点から、水分混入量がグリース組成物基準で3000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。グリース組成物の水分混入量を500質量ppmとするには非水溶性のイオン性液体を用いることが好ましい。
【0052】
本発明のグリース組成物に含まれるイオン性液体の電気的特性を利用し、グリース組成物に電場を印加することにより、摩擦面に積極的にカチオンやアニオンを吸着させ、潤滑保護膜を形成させることができる。この潤滑保護膜により、摩擦特性などの潤滑特性を制御することができる。電場を印加する方法としては、(1) 互いに摺動する二つの被潤滑材の摩擦箇所にグリースを満たし、摩擦箇所を挟んで電極を被潤滑材に非接触で配置して、グリースに電圧を印加する方法、(2) 導電性材料からなり、互いに摺動する二つの被潤滑材の摩擦箇所にグリースを満たし、二つの被潤滑材に直接電圧を印加する方法などが挙げられる。印加電圧は、安全性、経済性及び印加効果の点から、通常0.1〜5×106mV程度、好ましくは0.1〜5×103mV、より好ましくは0.1〜100mVである。印加電圧は、直流でも交流でもよい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、グリース組成物の諸特性は下記の方法に従って測定した。
(1)ちょう度番号;JIS K2220−2003表1に基づく分類に準拠した。
(2)滴点;JIS K2220−2003 8.に規定される試験方法に準拠して測定した。
(3)外観;JIS K2220−2003 21.(湿潤試験)用のSPCC鋼板を溶剤で洗浄後、グリース組成物を2.0mm厚に塗布し、150℃及び300℃まで加熱した直後に、グリース状(半固形状)を保てるか否か評価した。保てる場合をグリース状、保てない場合を液状と記載する。
(4)高温長期安定性;JIS K2220−2003 21.(湿潤試験)用のSPCC鋼板を溶剤で洗浄後、グリース組成物を2.0mm厚に塗布し、250℃で12時間加熱した後のグリースの状態を評価した。評価基準としてはグリース状を維持しているか、又は固化するかで行った。
(5)5%減温度;示差熱分析装置を用い、温度を10℃/分の速度で昇温し、初期の質量から5質量%減少した温度を測定した。5%減温度が高いほど、耐蒸発性・耐熱性に優れることを示す。
【0054】
実施例1〜7、及び比較例1〜6
第1表に示す配合成分によりグリース組成物を調製し、上記特性について測定した。その結果を第1表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
(注)
*1 イオン性液体1:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
*2 イオン性液体2:ブチルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
*3 イオン性液体3:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムビステトラフルオロボレート
*4 ポリアルファオレフィン:1−デセンのオリゴマー
*5 PFAE:パーフルオロアルキルポリエーテル(Solvat Solexis社製、Fomblin M03)
*6 芳香族エステル:トリノルマルオクチルトリメリテート
*7 酸化防止剤:4,4−ジブチルジフェニルアミン
*8 ベントナイト:NL Industries Inc. 製「ベントン27」
*9 カーボンナノ物質:カーボンナノチューブパウダー(Single-Wall Carbon Nanotubes、L−SWNT(グレード)、(株)ニューメタルス・エンド・ケミカルス・コーポレーション製)
*10 グラファイト:日本チアソン(株)製「SLA1255」
*11 シリカゲル:日本エアロジル(株)製「アエロジル200」
*12 ジウレア:脂肪族アミンとジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の反応物
*13 リチウム石けん:12−ヒドロキシステアリン酸リチウム
*14 PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、一次粒子径0.15μm
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のグリース組成物は、高温環境下における使用においても長寿命であり、優れた低蒸発性を有し、かつ不燃性であるので、過酷な条件であっても良好な潤滑性を示すことができ、またメンテナンスフリーの要求にも答え得るものである。また、グリースの分解物による汚染が問題となる電子機器部品やその製造設備にも好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として、カチオンとアニオンから構成され、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm3以上であるイオン性液体を含み、かつ、滴点が260℃以上の増ちょう剤を含むグリース組成物。
【請求項2】
基油として、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体10〜100質量%を含む請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
イオン性液体が、下記一般式
(Zp+ k(Aq- m
(式中、Zp+ はカチオン、Aq- はアニオンである。p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たす。k又はmが2以上のとき、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
基油として、一般式Z+ -(Z+ はカチオン、A- はアニオンである。)で表され、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体10〜100質量%を含む請求項3に記載のグリース組成物。
【請求項5】
二種以上のイオン性液体の混合物である請求項4に記載のグリース組成物。
【請求項6】
+ を一種とA- を二種以上含む混合物、Z+ を二種以上とA- を一種含む混合物又はZ+ を二種以上とA- を二種以上含む混合物である請求項5に記載のグリース組成物。
【請求項7】
イオン性液体を構成するカチオン(Z+ )が下記一般式
【化1】

[式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
で表されるカチオンから選ばれるものである請求項4〜6のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項8】
イオン性液体を構成するカチオン(Z+ )が下記一般式
【化2】

[式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
で表されるカチオンから選ばれるものである請求項7に記載のグリース組成物。
【請求項9】
イオン性液体を構成するアニオン(A- )が、BF4-,PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,C65SO3-,CH3(C64)SO3-,I-,I3-,F(HF)n-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z3-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(Cn(2n+1-x)x)Y1zは、同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)、B(Cm2(2m+1)4-,P(Cm2(2m+1)6-(式中、Y2は水素原子又はフッ素原子を示し、Y2が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(Cm2(2m+1))は、同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【化3】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(Cn(2n+1-x)x)から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項4〜8のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項10】
イオン性液体を構成するアニオン(A- )が、PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,((Cn(2n+1-x)x)Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び下記一般式
【化4】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(Cn(2n+1-x)x)から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項9に記載のグリース組成物。
【請求項11】
イオン性液体を構成するアニオン(A- )が、Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び下記一般式
【化5】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(Cn(2n+1-x)x)から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項10に記載のグリース組成物。
【請求項12】
イオン性液体が、下記一般式
【化6】

[式中、R1〜R5は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R5は同一でも異なっていてもよい。]
で表されるカチオン,F-,Cl-,Br-及びBF4-を含まない請求項4〜11のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項13】
基油として、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型からなり、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体10〜100質量%を含むグリース組成物。
【請求項14】
イオン性液体が、下記一般式
【化7】

[式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。但し、R1〜R12の少なくとも一つは、−(CH2n−SO3-又は−(CH2n−COO-(nはアルキル基の炭素数が1〜18になるような0以上の整数である。)を有する。]
で表される請求項13に記載のグリース組成物。
【請求項15】
イオン性液体の40℃における動粘度が1〜1,000mm2/sである請求項1〜14のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項16】
イオン性液体の流動点が−10℃以下である請求項1〜15のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項17】
イオン性液体の粘度指数が80以上である請求項1〜16のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項18】
イオン性液体の引火点が200℃以上である請求項1〜17のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項19】
増ちょう剤が非石けん系増ちょう剤である請求項1〜18のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項20】
増ちょう剤が無機系増ちょう剤及び/又はカーボン系増ちょう剤である請求項19に記載のグリース組成物。
【請求項21】
増ちょう剤がグリース組成物全量に対して、3〜50質量%である請求項1〜20のいずれかに記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2006−291011(P2006−291011A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112597(P2005−112597)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】