説明

グルカンの酵素処理

【課題】魚類及び他の動物の免疫系を刺激する増長された活性によって特徴付けられる酵母由来の新規なβ−(1−3)−グルカンが提供される。さらに、増加された薬剤活性を有する酵母からのβ−(1−3)−グルカン生成のための新規な方法が提供される。また、動物用ワクチンの活性を増強させるのに有益な酵母に由来する新規な可溶性β−(1−3)−グルカンが提供される。さらにまた、従来の動物用飼料における1つの成分として有用な新規な飼料グレードのグルカン組成物が提供される。
【解決手段】酵母Saccharomyces 属に特に由来し、とりわけ酵母種Saccharomyces cerevisiaeに由来する酵母細胞からの純粋又は飼料グレードグルカンのβ−(1−6)−グルカナーゼによる処理は、宿主動物の免疫システムの刺激を増加させるための使用に適した新規なグルカン生成物を提供する。酵母細胞グルカンの利用性をアジュバントにまで延長するために、かかる酵母細胞グルカンの可溶化が更に開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、しかしそれに限定するものではないが、Saccharomyces 属に由来する酵母グルカンのβ−(1−6)−グルカナーゼを用いた構造修正、並びにかかる構造修正されたグルカンのワクチン及び家畜配合飼料への使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性動物の免疫系が効果量の酵母細胞壁グルカンの投与により刺激を受けることは欧州特許第91111143.3号(公開番号第0466031 A2号)により知られている。また、かかる水性動物に対するワクチンの効果は効果量の酵母細胞壁グルカンをワクチン抗原と共に投与することにより促進されることも知られている。
【0003】
かかるグルカン組成物は、酵母であるSaccharomyces cerevisiae等に由来する粒状グルカンである。かかる粒状グルカンは高分子であり、β−(1−3)−及びβ−(1−6)−結合により結合されたグルコース単位の鎖からなり、かかるグルカンはβ−(1,3)−結合鎖及びβ−(1,6)−結合鎖をその中に有する分枝β−(1,3)−グルカンである。
【0004】
かかる粒状グルカンは商品名「マクロガード(MacroGard)」としてKS Biotec−Mackzymal 社から市販されており、マクロファージ/単球細胞株の強力な活性化剤である。従って、かかる粒状グルカンは免疫系に対して大きな影響を及ぼすものである。
【0005】
Saccharomyces cerevisiaeに由来する粒状グルカンが魚類及び他の動物に様々な有益な効果を有するものと認識される一方で、粒状でありそれ故不溶性形態であるグルカンの使用は限定されている。
【0006】
加えて、現在ではβ−(1−3)−分枝の存在が、粒状グルカンから所望される薬学的効果を得るのに寄与するものであると考えられている。
【0007】
従って、β−(1−3)−結合分枝をグルカン中により容易に存在させるものとするシステムが非常に所望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明により、酵母微生物、特にSaccharomyces 属、中でもとりわけSaccharomyces cerevisiae、に由来する粒状グルカンを、β−(1−6)−グルカナーゼによって処理することにより、免疫系を効果的に刺激し活性が増長されたことを特徴とする修正粒状グルカンを得ることができることが発見された。
【0009】
従って、本発明の1つの具体例においては、魚類及び他の動物の免疫系を刺激する増長された活性によって特徴付けられる酵母由来の新規なβ−(1−3)−グルカンが提供される。
【0010】
本発明の他の具体例においては、増加された薬剤活性を有する酵母からのβ−(1−3)−グルカン生成のための新規な方法が提供される。
【0011】
本発明の他の具体例においては、動物用ワクチンの活性を増強させるのに有益な酵母に由来する新規な可溶性β−(1−3)−グルカンが提供される。
【0012】
本発明の更なる他の具体例においては、従来の動物用飼料における1つの成分として有用な新規な飼料グレードのグルカン組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の上記以外の具体例及び特長は以下の明細書及び特許請求の範囲の記載から明らかになるであろう。
【0014】
β−(1−6)−グルカナーゼ処理グルカン(マクロガード)の調製方法
「マクロガード」ブランドのグルカンは、欧州特許第91111143.3号に開示されるようにSaccharomyces cerevisiaeに由来するものである。かかるグルカンは免疫系を刺激することが知られている一方で、本発明の好ましい具体例においては、その活性がβ−(1−6)−グルカナーゼによる処理により増大される。
【0015】
上述のグルカンのグルカナーゼ処理は、グルカン粒子を約20〜50℃の温度範囲で約4〜約8のpH範囲の緩衝媒体に懸濁することにより行われる。適切な緩衝媒体は、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、及びリン酸ナトリウム−カリウムからなる群から選択される。現時点において好ましい緩衝液は酢酸ナトリウム又は酢酸アンモニウムである。グルカンの酵素分解は緩衝媒体にβ−(1−6)−グルカナーゼを添加することにより開始される。
【0016】
本発明における酵母グルカンの修正に適したβ−(1−6)−グルカナーゼは、Trichoderma longibrachiatum 、Trichoderma reesei、Trichoderma harzianum 、Rhizopus chinensis、Gibberella fujikuroi、Bacillus circulans、Mucor lilmalls、及びAcinetobactor からなる群から選択される微生物から得られるものである。それらの中で、現時点で好ましいグルカナーゼはTrichoderma harzianumから得られるものである。
【0017】
グルカンの処理に使用されるβ−(1−6)−グルカナーゼの量は通常は1グラムのグルカンに対して1〜50Uの範囲である。
【0018】
酵素分解は反応混合物を80〜100℃の温度範囲で、好ましくは2〜10分間加熱することにより終了させる。酵素分解を停止させる他の方法には、例えば、プロテアーゼ又は阻害剤を反応混合物に添加すること等がある。
【0019】
それらの代わりに、酵素を洗浄により単に除去することもできる。洗浄した粒子を0.3%ホルマリン(v/v)等の殺菌剤を添加した水に入れて再び懸濁させ、約4℃で保存する。
【0020】
生じる酵素処理グルカンは、β−(1−3)−結合側鎖がβ−(1−6)−結合により付加された分枝β−(1−3)−グルカンであり、実質的にβ−(1−6)−結合鎖を含まないことにより特徴付けられる。この文脈において「β−(1−6)鎖」という語句は、1つより多いβ−(1−6)−結合グルコースユニットの分枝を包含する意のものである。β−(1−6)−グルカナーゼ酵素の分割は4より多いβ−(1−6)−結合グルコースユニットを有する鎖が大部分である分割を確実なものとする。
【0021】
グルカンの利用を更に増加させるために、それは可溶化される。かかる可溶化処理は通常は可溶化剤の存在下において約70〜90℃の温度範囲で約30〜60分間行われる。現在好ましい可溶化剤はギ酸である。可溶化に続いて可溶化剤は除去され、得られたグルカンは蒸留水中で沸騰される。
【0022】
本発明を実施するにあたり、グルカンを最初に酵素処理して次に可溶化することも、それとは逆に可溶化してから酵素処理することもどちらも可能である。
【0023】
本発明の他の具体例において、Saccharomyces cerevisiae等の酵母に由来するβ−(1−6)−グルカナーゼ処理飼料グレードグルカンが提供される。かかる飼料グレードのグルカンは、最初に酵母細胞壁をそこからタンパク質及び脂質を抽出する条件下で水性アルカリ溶液に接触させることにより得ることが可能である。上述の抽出は約50〜80℃の温度範囲で約2〜8時間行われる。現時点で好ましいアルカリ抽出剤は水酸化ナトリウムである。抽出に続いて細胞壁が水性アルカリ溶液から回収され、そこから可溶性細胞壁成分を除去するために洗浄される。洗浄された酵母細胞壁は次にリン酸等の酸による処理によって中和される。その後、中和された洗浄グルカンは滅菌され、乾燥される。
【0024】
飼料グレードのグルカンの処理に適した酵素は、高純度グルカンを処理するのに有用な酵素である。
【0025】
酵素処理飼料グレードグルカンは、グルカン粒子を酵素処理した場合に用いたのと同様の方法により、グルカンをβ−(1−6)−グルカナーゼに接触させることにより調製される。本発明によるβ−(1−6)−グルカナーゼ処理飼料グレードグルカンは家畜用飼料の配合に有用である。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は本発明を例証することを目的として提供される。
【0027】
例1
本実施例は本発明の実施における使用に適した免疫刺激グルカン粒子を得るために使用されるプロトコールを提供するものである。
【0028】
500gのSaccharomyces cerevisiaeを3リットルの6%水性NaOH溶液中に懸濁した。この懸濁液を室温において一晩攪拌した。攪拌後、懸濁液を2000×gで25分間遠心分離器にかけた。上澄みを捨て、不溶性の残留物を3リットルの3%NaOH溶液に再び懸濁させ、75℃で3時間培養した後一晩冷却させた。次に懸濁液を2000×gで25分間遠心分離器にかけ、上澄みを捨てた。残留物を次に3%NaOH溶液に再び懸濁させ、加熱し、前述したのと同様に遠心分離を行った。
【0029】
次に、残った不溶性残留物のpHを酢酸を用いて4.5に調節した。この不溶性残留物を2リットルの水で3回洗浄し、それぞれの洗浄の後、2000×gで25分間遠心分離器にかけることにより回収した(上澄みは捨てた)。次に残留物を3リットルの0.5M酢酸水溶液中に懸濁させた。懸濁液を90℃で3時間加熱した。次に、懸濁液を室温にまで冷却した。冷却の後、不溶性残留物を2000×gで25分間遠心分離器にかけることにより回収した。この処理(pHを4.5に調節してから冷却した残留物を回収するまで)を6回繰り返した。
【0030】
次に、不溶性残留物を3リットルの蒸留水中に懸濁させ、100℃にて30分間攪拌し、冷却し、2000×gで25分間遠心分離した。上澄みを捨てた。このようにした不溶性残留物を4回洗浄した。この残留物を次に2リットルのエタノール中に懸濁し、78℃にて2時間加熱した。このエタノールによる洗浄を4度繰り返した。次に残留物を室温にて3リットルの蒸留水で4回洗浄しエタノールを除去し、それにより所望されるグルカン生成物の懸濁液を得た。
【0031】
例2
この実施例はTrichoderma harzianum から分離されたβ−(1−6)−グルカナーゼを使用する実質的にβ−(1−6)−結合鎖を含まないグルカン粒子を得るためのプロトコールを提供するものである。
【0032】
例1に従い調製された200mgのグルカン粒子を10Uのβ−(1−6)−グルカナーゼと共に40mlの50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)中に懸濁させ37℃において6時間連続して攪拌した。グルカン粒子の酵素分解を、懸濁液を100℃にて5分間加熱することにより終了させた。次に、粒子を200mlの無菌蒸留水を使用した2000×gの10分間の遠心分離により3回洗浄し、その後185mgの乾燥酵素処理グルカンを得た。
【0033】
上記の酵素処理はβ−(1−6)−結合鎖におけるβ−(1−6)−結合を分割するのみであり、分枝点から延伸するβ−(1−6)−結合グルコシル残基を除去することはない。生じる酵素処理グルカンは、β−(1−6)−結合により付加されたβ−(1−3)−結合側鎖を有する分枝β−(1−3)−グルカンであり、実質的にβ−(1−6)−結合鎖を有さないことによって特徴付けることが可能である。
【0034】
例3
この例は例1により調製されたグルカン粒子をギ酸(HCOOH)を使用した加水分解により可溶化させるプロトコールを提供するものである。
【0035】
2.0gのグルカン粒子を1.0リットルの90%ギ酸に懸濁させ、一定した攪拌の下で80℃にて45分間加熱した。懸濁液を35℃まで冷却し、ギ酸を蒸発させた。加水分解された粒子を含む残留物を500mlの蒸留水中にて3時間沸騰させた後、冷却した懸濁液を、0.44μmフィルタを通してろ過し、冷凍し、凍結乾燥して1.9gの乾燥可溶性粒子を得た。この凍結乾燥可溶性粒子を次に100mlの蒸留水に溶かし、5000ダルトンの名目分子量カットオフ(NMWCO)を有する管状透析膜を使用して水道水に対して24時間の透析を行い、最後に凍結乾燥した。これにより1.8gの可溶性グルカン生成物を得た。
【0036】
例4
この例は例1により調製されたグルカン粒子、及び例2により調製されたβ−(1−6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子の大西洋鮭(Atlantic salmon) の免疫反応における生物学的効果を例証するものである。
【0037】
菌種番号3175/88番であるAeromonas salmonicida 亜種salmonicidaのA層(+)分離株(Vikan Veterinary Fish Research Station, Namsos,ノルウェイ)を使用した。この細菌をブレインハートインフュージョン肉汁(Difco, USA)を用いた振とう培養機に入れて14℃で30時間培養し、次に、細菌を含んだ培地を3000×gで10分間遠心分離した。ペレットを0.9%生理食塩水に再び懸濁し、0.5%(v/v)のホルマリンを加え、14℃で24時間培養して殺菌した。次に、そのホルマリンを加えた培地を無菌0.9%生理食塩水で洗浄し、0.3%のホルマリンを含む0.9%生理食塩水中に2×109 ml−1細菌濃度まで再懸濁させた。細菌懸濁液を同量の生理食塩水又は異なるグルカン懸濁液(10mg ml−1)と混合した。最終濃度が0.3%(v/v)になるまでワクチンにホルマリンを加えた。
【0038】
これらの実験を行うにあたり、2つのグループの実験魚を用いた。ワクチン実験においては20〜40gの2年子前の大西洋鮭を使用した。グルカン注入後の血中ライソザイム活性を測定するために血清を採取する実験においては、50〜70gの大西洋鮭を用いた。これらの魚は空気を満たした12℃の新鮮な水が供給される150リットルのタンクで飼育し、市販されているad libitumペレットを1日に2回与えた。
【0039】
ワクチン注射実験においては、それぞれのグループのうちの40匹に、0.1mlの異なるワクチン調製物又は対照としてグルカンを含まないワクチンをIP注入した。注射の後、6、10、及び18週間後にそれぞれのグループのうち10匹から吸引管(Venoject, Terumo−Europe, ベルギー)を使用して血液を採取した。血液サンプルを4℃で一晩おいて凝固させ、管を2000×gで10分間遠心分離することにより血清を採取した。それぞれの血清サンプルをミクロニック(Micronic)血清管(Flow Laboratories Ltd., Lugano,スイス)に移し、使用するまで−80℃で保存した。
【0040】
血中ライソザイム活性に対するグルカンの影響を測定するために、0.3mlの異なるグルカンを含有する生理食塩水又は(−)の対照として0.3mlの生理食塩水を鮭にIP注入した。グルカンは10mg ml−1の濃度で投与した。吸引管(Venoject)を使用して、注入から10日及び20日後に、それぞれのグループのうち10匹から血液サンプルを採取した。2000×gの遠心分離にかけるまで管を氷上に保存し、遠心分離の後、それぞれの血清サンプルをミクロニック血清管に移し、使用するまで−80℃で保存した。
【0041】
ライソザイム活性は、pH5.75の0.04Mリン酸ナトリウム緩衝液に0.2mg ml−1の凍結乾燥Micrococcus lysodeikticus を基質として用いた濁度測定法により測定した。血清(20μl)を3mlの懸濁液に加え、0.5分及び4.5分後の540nmにおける吸光度の減少を22℃で測定した。ライソザイム活性の1単位は0.001分−1における吸光度の減少と定義した。結果は10匹の魚の血清における平均ライソザイム活性として表されている(表1及び表2)。
【0042】
鮭血清中のA. salmonicidaのA層に対する特異的抗体のレベルを酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により測定した。A層タンパク質をA. salmonicida細胞全体から精製し(Bjornsdottir 等(1992), Journal of Fish Diseases, 15:105−118) 、タンパク質含有量をBio−Rad 研究所(リッチモンド、USA)から得た染料−試薬濃縮物を用いて測定した(Bradford, M.M. (1976), Analytical Biochemistry, 72:248−254)。ミクロ滴定プレートを、5μg ml−1のA層タンパク質濃度を有するpH9.6の50mM炭酸緩衝液を100μl使用して被覆し、4℃にて一晩培養した。ハバード シュタイン(Havardstein) 等により記述された方法(Journal of Fish Diseases (1990, 13:101−111)に従って更に手順を進めた。それぞれの血清サンプルの測定を3つの異なる希釈度(1:500、1:1000、及び1:2000)で行う前に、プールされた血清サンプルの抗体滴定を行った。吸光度をマルチスキャン MCC/340 MK II (Flow Laboratories Ltd)を用いて492nmで測定した。結果を10匹の魚血清の1:2000希釈における細菌のA層に対する平均抗体反応として表した(表1及び2)。

表1.グルカン粒子とβ−(1−6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子との大西洋鮭の免疫反応における生物学的影響の違い

生理食塩水 未処理グルカン β−(1,6)−グルカナーゼ
対照 粒子 処理グルカン粒子

注入後の
ライソザイム活性
(U/ml)
10日 304 505 529
20日 330 407 454

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グルカン 未処理グルカン β−(1,6)−グルカナーゼ
非含有 粒子含有 処理グルカン粒子含有
ワクチン ワクチン ワクチン

注入後の
抗体反応
(吸光度)
6週間 0.165 0.255 0.376
10週間 0.059 0.355 0.500
18週間 0.037 0.197 0.142

未処理グルカン粒子及びβ−(1,6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子の注入は共に、注入後10日及び20日後双方において生理食塩水対照と比較して相当高い(p<0.01)ライソザイム活性を誘発した。注入後20日ではβ−(1,6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子を注射された魚のライソザイムレベルは未処理粒子を注射された魚と比較して意味ある高さ(p<0.05)を示した。
【0043】
β−(1,6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子が3回全てのサンプリングにおいてアジュバントを含有しないワクチンと比較して相当高い(p<0.05)抗体反応を発生させた一方で、未処理グルカン粒子は注入後10及び18週において相当高い抗体反応を発生させた。β−(1,6)−グルカナーゼ処理グルカン粒子が注射後10週間において未処理グルカン粒子よりも相当高い(p<0.05)抗体反応を発生させたのに対して、注射後6及び18週間では両者の間に意味ある違いは観察されなかった。

表2.グルカン粒子及び可溶化グルカンの生物学的影響

生理食塩水 未処理グルカン 可溶化グルカン
対照 粒子 粒子

ライソザイム活性
(U/ml)
注入後10日 304 505 603
注入後20日 330 407 773

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グルカン 未処理グルカン 可溶化グルカン
非含有 粒子含有 粒子含有
ワクチン ワクチン ワクチン

アジュバント効果
(吸光度)
注入後 6週間 0.165 0.255 0.184
注入後10週間 0.059 0.355 0.349
注入後18週間 0.037 0.197 0.120

可溶化グルカン粒子の注入は、注入後10日及び20日後双方において未処理グルカン粒子と比較して相当高い(p<0.01)ライソザイム活性を誘発した。可溶化グルカン粒子及び未処理グルカン粒子の間にはワクチン抗原に対する増加された抗体反応を起こさせる能力に関していかなるサンプリングポイントにおいても意味ある差異は観察されなかった。注入後10及び18週間において両者は共にアジュバント非含有ワクチンより相当高い(p<0.05)抗体反応を発生させたが、注射後6週間においてはそうではなかった。
【0044】
例5
この例は動物飼料への使用に適したグルカン組成物を得るためのプロトコールを提供するものである。
【0045】
Saccharomyces cerevisiaeの乾燥細胞壁物質1000kgをステンレス鋼製タンク中において温度65℃の水5300リットルに懸濁させた。かかる細胞壁懸濁液に、苛性濃度が約3%になるように50%w/wNaOH227リットルを加えた。得られた混合物を次に約60℃で約4時間攪拌した。
【0046】
初期抽出期間の後、混合物の重量が2倍になるように懸濁液を約65℃の水8000kgを用いてステンレス鋼の攪拌洗浄タンク中で希釈した。得られた希釈混合物を次に約15分攪拌し、その間温度を約60℃に保った。その後、得られた混合希釈懸濁液をノズル遠心分離器(Alfa Laval DX209)で遠心分離した。上澄みを捨てた。得られた濃縮細胞壁懸濁物を8000kgの水を入れた第二の鋼攪拌洗浄タンクに連続して導入し、最終重量が14500kgになるように調節して混合物に水を加えた。得られた懸濁液を次に温度60〜65℃で15分間混合した。その後、攪拌混合物を遠心分離にかけた。
【0047】
得られた細胞壁懸濁液物を8000kgの水を含んだ第三の容器に連続して加えた。最終重量が14500kgになるように60℃の水を加えた。得られた懸濁液を60〜65℃で15分間攪拌し、その後遠心分離にかけた。
【0048】
遠心分離に続いて、得られた細胞壁濃縮物をステンレス鋼保存タンクに移し、約5〜10℃に冷却した。得られた冷却懸濁物をステンレス鋼攪拌タンク中で固体懸濁物のpHが5.5〜7.5になるような量のリン酸(H3PO4)により処理した。
【0049】
中和の後、得られた中和混合物をインラインプレート及びフレーム熱交換器を通すことにより18秒間75℃に加熱して滅菌した。
【0050】
滅菌の後、得られた滅菌混合物を次に注入空気温度が少なくとも140〜150℃及び排気温度が約65〜70℃に保たれたスプ レー乾燥機においてスプレー乾燥し、300kgの乾燥グルカン生成物を得た。
【0051】
例6
この例は飼料グレードグルカンのβ−(1−6)−グルカナーゼによる処理のプロトコール及び効果を提供するものである。
【0052】
例5に従って調製された25gの飼料グレードグルカンを2リットル用コニカルフラスコ中の1.25リットルの50mM酢酸ナトリウム(pH5.0)に懸濁させた。グルカン粒子を振とうにより懸濁液中に保持し、懸濁液を30℃に加熱してTrichoderma harzianumから精製されたβ−(1−6)−グルカナーゼを最終濃度が1.8U/gグルカンになるように加えた。
【0053】
β−1,6−結合グルコースの酵素による除去の時間経過をモニターするために、異なるタイムポイントにおいて1mlの懸濁液アリコットを抜き取り、2000×gで遠心分離し、0.2mlの上澄みの遊離還元炭水化物分析(Nelson 等(1944), Journal of Biological Chemistry, 153:315−80)を行った。グルカン懸濁液を28時間培養し、その間遊離還元炭水化物の離脱速度は非常に低いことが観察された。グルカン粒子を次に2000×gの遠心分離によりペレット化し、pH5.0の50mM酢酸ナトリウム中で1度及び水中で1度洗浄した。
【0054】
まず最初に、室温でエタノールを使用してペレットの脱水素を4回行い、次に室温で空気乾燥させることによりウェットグルカンから飼料添加物としての使用に適した微細な乾燥粉末を調製した。
【0055】
飼料グレードグルカンを上述したようにT. harzianum由来のβ−(1−6)−グルカナーゼにより処理した。結果は表3に示されている。

表3.T. harzianum由来のβ−(1−6)−グルカナーゼによる処理の間における飼料グレードグルカンからのグルコースの遊離

酵素反応 遊離グルコース
時間 [グルカン中の総合
[h] グルコースにおける%]
0 0.0
0.5 1.9
1 2.6
2 3.3
3 3.7
4 4.0
5 4.3
2 5.5
8 5.6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母供給源に由来する構造的に変更した分枝β−(1−3)−グルカンであって、該グルカンはβ−(1−3)結合鎖を有し、該β−(1−3)結合鎖はβ−(1−6)結合により付加され、該グルカンはβ−(1−6)結合鎖を実質的に含まないことを特徴とするグルカン。
【請求項2】
前記グルカンは4より多いβ−(1−6)結合グルコースユニットの鎖を含まないことを特徴とする請求項1に記載のグルカン。
【請求項3】
前記グルカンは不溶性であることを特徴とする請求項1に記載のグルカン。
【請求項4】
前記グルカンは可溶性であることを特徴とする請求項1に記載のグルカン。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のグルカンと薬学的に許容可能なキャリアとからなる医薬組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のグルカンと薬学的に許容可能なキャリアとからなる飼料グレード組成物。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のグルカンと一つ以上の飼料組成物からなる動物飼料。
【請求項8】
β−(1−3)結合及び該β−(1−6)結合鎖を有する分枝β−(1−3)−グルカンを、得られるグルカンがβ−(1−3)結合グルコースユニットを含有し実質的にβ−(1−6)結合鎖を含まないような条件下でβ−(1−6)グルカナーゼと接触させることを含む酵母からグルカン生成物を調製する方法。
【請求項9】
酵素処理に対して、先に行うか又は後に行う可溶化ステップを含み、該可溶化ステップはギ酸による前記グルカンの処理を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。

【公開番号】特開2007−228974(P2007−228974A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130872(P2007−130872)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【分割の表示】特願平7−528093の分割
【原出願日】平成7年4月18日(1995.4.18)
【出願人】(507125457)エイエス バイオテク−マックジマル (2)
【Fターム(参考)】