説明

グルコース−6−リン酸脱水素酵素含有試薬及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素安定化方法

【課題】 従来知られているG6PDHの安定化剤よりG6PDHの保存安定性を向上させることのできる安定化剤を含むG6PDH含有試薬を提供すること。
【解決手段】 グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)と、一般式(I)
【化1】


(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤とを含有するG6PDH含有試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(以下、G6PDHとする)を含有する臨床検査用試薬及び試薬中のG6PDHを安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
G6PDHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)などの補酵素の存在下でグルコース−6−リン酸(以下、G6Pとする)を酸化して6−ホスホノグルコノ−δ−ラクトン及び還元型NAD(NADH)又は還元型NADP(NADPH)を生成する反応又はその逆反応を触媒する酵素である。この触媒作用を利用して、G6PDHは様々な臨床検査用試薬に用いられている。しかしながら試薬中のG6PDHは不安定であるため、試薬にG6PDHの安定化剤を含有させる必要がある。
【0003】
このような安定化剤を含む試薬として、例えば特許文献1に記載のクレアチンキナーゼ(以下、CKとする)活性測定用試薬が知られている。この試薬には、G6PDHを安定化するための安定化剤としてヒドロキシルアミン類又はアルデヒド捕捉剤が含有されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−59566
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来知られているG6PDHの安定化剤よりG6PDHの保存安定性を向上させることのできる安定化剤を含むG6PDH含有試薬を提供すること、及び前記安定化剤を用いてG6PDHを安定化するG6PDH安定化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)と、一般式(I)
【0007】
【化1】

(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤とを含有するG6PDH含有試薬を提供する。
【0008】
また、本発明は、試薬中のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)を安定化する方法であって、G6PDHと、一般式(I)
【0009】
【化2】

(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤とを共存させることを特徴とするG6PDH安定化方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、G6PDHを安定化させる安定化剤を含む、保存安定性の優れたG6PDH含有試薬を提供することができる。また、試薬中のG6PDHを安定化する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施形態のG6PDH含有試薬は、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)と、一般式(I)
【0012】
【化3】

(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤とを含有する。
【0013】
「安定化剤」とは、G6PDH試薬中でG6PDHと共存させることによりG6PDHの失活を抑制し、保存安定性を向上させることのできる物質のことである。また、本明細書においては「安定化剤」は、安定化剤の塩や誘導体をも含む。
【0014】
一般式(I)に示される安定化剤のR1において、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンなどが挙げられる。
低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルコキシカルボニルのアルキル部分としては、直鎖または分岐状の炭素数1〜6の、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec −ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
シクロアルキルとしては、炭素数3〜8の、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。
低級アルケニルとしては、直鎖または分岐状の炭素数2〜6の、例えばビニル、アリル、イソプロペニル、4-ペンテニル、5-ヘキセニル等が挙げられる。
アラルキルとしては、炭素数7〜15の、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、フェニルプロピル等が挙げられる。
アリールおよびアロイルのアリール部分としては、フェニル、トリル、ナフチル等が挙げられる。
複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラニル、チオピラニル、ピリジル、チアゾリル、イミダゾリニル、ピリミジニル、トリアジニル、インドリル、キノリル、プリニル、ベンゾチアゾリル等が挙げられる。
低級アルカノイルとしては、直鎖もしくは分岐状の炭素数1〜6の、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリル、ピバロイル、ペンタノイル等が挙げられる。
【0015】
低級アルキルの置換基としては、同一または異なって置換数1〜3の、例えばヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、低級アルキルチオ、ハロゲン、アミノ、モノまたはジアルキル置換アミノ、フタルイミドおよびピロリジニル、ピラゾリル、インドリル等の含窒素複素環基等が挙げられ、低級アルコキシ、低級アルコキシカルボニル、低級アルキルチオ、アルキル置換アミノのアルキル部分は、前記低級アルキルの定義と同じである。
【0016】
アラルキル、アリール、アロイル、および複素環基の置換基としては、同一または異なって1〜5個の、例えば低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、ハロゲン、ニトロ、アミノ等が挙げられ、低級アルキル、低級アルコキシのアルキル部分は、前記低級アルキルの定義と同じである。
【0017】
置換アミノの置換基としては、同一または異なって1〜2個の、例えば前記と同義の低級アルキル、アラルキル、置換もしくは非置換アリール、低級アルカノイル、置換もしくは非置換アロイルおよびアルキリデン等が挙げられ、アルキリデンは直鎖または分岐状の炭素数1〜6の、例えばメチレン、エチリデン、プロピリデン、イソプロピリデン、ブチリデン、イソブチリデン、sec −ブチリデン、tert−ブチリデン、ペンチリデン、ネオペンチリデン、ヘキシリデン等を表す。
【0018】
安定化剤の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩あるいはシュウ酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等の有機酸塩またはナトリウム塩、カリウム塩等の塩基付加塩が挙げられる。
【0019】
本実施形態では、安定化剤として、一般式(I)においてR1が水素である化合物(アミノグアニジン)を用いることが好ましい。
【0020】
試薬中の安定化剤の濃度としては、G6PDHを安定化できる濃度であれば特に限定されない。また、試薬中のG6PDHの濃度としては特に限定されないが、好ましくは10〜10000U/L、より好ましくは100〜10000U/Lである。
【0021】
G6PDHとしては、微生物(例えば、Leuconostoc mesenteroides, Bacillus stearothermophiolus, Azotobacter vinelandii, Pseudomonas fluorescensなど)、酵母、動植物などに由来するものであってもよく、遺伝子組み換え技術を用いて生成されたものであってもよい。
【0022】
G6PDH含有試薬の溶液状態におけるpHとしては、G6PDHを不安定化させるpHでなければ特に限定されないが、5.0〜9.0であることが好ましい。このpHを維持するために、試薬に緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、例えばトリス−塩酸緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グッド緩衝剤などを用いることができる。
【0023】
G6PDH含有試薬は、各成分を凍結乾燥させた状態であってもよいが、溶媒に溶解させた溶液状態であることが好ましい。
また、G6PDH含有試薬は第一試薬及び第二試薬の二試薬からなることが好ましい。この場合、第一試薬及び/又は第二試薬が凍結乾燥した状態であってもよいが、両方の試薬が溶液状態であることが好ましい。G6PDH及び上記安定化剤は第一試薬及び第二試薬の何れに含まれていてもよく、両方に含まれていてもよい。
【0024】
G6PDH含有試薬は臨床検査に用いられる。試料にG6PDH含有試薬を混合させることにより、吸光度の変化などをモニターして試料中の特定の物質の含有量や活性などを測定することができる。試料としては、例えば、血清、血漿、血液、髄液、尿、精液などが挙げられるが、血漿又は血清を用いることが好ましい。
【0025】
G6PDH含有試薬を用いて定量又は活性測定し得る物質としては、反応系にG6PDHの基質であるグルコース−6−リン酸(以下、G6Pとする)を用いていれば特に限定されない。定量し得る物質としては、例えば、中性脂肪、無機リン酸、ラクトース、マルトース、グリコーゲン、スターチ、シュークロース、グルコース、フルクトース、マンノース、クレアチンリン酸、G6P、フルクトース−6−リン酸、マルトース−6−リン酸、フルクトース−2−リン酸、L−ソルボース−6−リン酸、グルコース−1−リン酸、NAD、NADP、ウリジン三リン酸、アデノシン三リン酸(ATP)、ウリジン二リン酸グルコースなどが挙げられる。また、活性測定し得る物質としては、例えば、CK、CKMB、β−ガラクトシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、アミログルコシダーゼ、インベルターゼ、トランスアルドラーゼ、ガラクトース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、フルクトースジフォスファターゼなどが挙げられる。
【0026】
G6PDH含有試薬によってCKの活性を測定することができる。
CKとは二つのサブユニットからなる二量体のリン酸化酵素である。CKのサブユニットにはB型(脳型)及びM型(筋型)の二種類が存在する。CKには、二種類のサブユニットの組み合わせによって三種類のアイソザイム(CK−MM、CK−MB及びCK−BB)が存在し、CK−MMは骨格筋に多く含まれ、CK−MBは心筋に多く含まれ、CK−BBは脳に多く含まれる。心筋梗塞や筋ジストロフィーなどの疾患によって疾患の原因部位に存在するCKアイソザイムが血液中に逸脱するため、臨床検査において血清などの試料に含まれるCKアイソザイムの活性値は上記疾患を診断する際の重要な指標となる。
【0027】
以下にCKの活性測定に用いられるG6PDH含有試薬について説明する。
CK活性測定のためのG6PDH含有試薬には緩衝剤、SH基を有する化合物(以下、SH化合物とする)、NAD又はNADP、ヘキソキナーゼ(HK)又はグルコキナーゼ(GK)、グルコース、アデノシン二リン酸(ADP)、マグネシウムイオン及びクレアチンリン酸を含有させることが好ましい。またこの場合、測定に供される試料としては、血清や血漿などを用いることができる。
【0028】
試料とG6PDH含有試薬とを混合すると、試料に含まれるCKがSH化合物によって活性化される。CKは血液中に逸脱すると速やかに不活性化されるため、CKの活性を測定するためにはSH化合物によってCKを活性化する必要がある。SH化合物としては、CKを活性化できるものであれば特に限定されないが、例えば、N−アセチル−L−システイン(NAC)、システアミン、ジチオスレイトール(DTT)、システイン、グルタチオン及びチオグリセロールなどを用いることができる。これらのSH化合物は、二種類以上を組み合わせて用いてもよいが、単独で用いることが好ましい。SH化合物の試薬中の濃度は、5〜250mM、好ましくは5〜70mM、より好ましくは10〜25mMである。
【0029】
CKを含む試料に上記成分を含むG6PDH含有試薬を添加することにより、図1に示すような反応系が構築される。図1において、SH化合物によって活性化されたCKは、クレアチンリン酸及びADPからクレアチン及びATPを生成する反応を触媒する(反応1)。試薬に含まれるHK又はGKは、試薬に含まれるグルコース及び反応1で生成したATPからG6P及びADPを生成させる(反応2)。さらに試薬に含まれるG6PDHは、反応2で生成したG6P及びNAD又はNADPから6−ホスホグルコノ−δ−ラクトン及びNADH又はNADPHを生成させる(反応3)。NADH又はNADPHが生成すると試料とG6PDH含有試薬との混合液の波長340nm付近での吸光度が上昇する。この吸光度の上昇をモニターすることにより、試料中のCKの活性を測定することができる。
【0030】
G6PDH含有試薬は第一試薬と第二試薬とからなることが好ましい。上記成分のうち、第一試薬に、緩衝剤、G6PDH、安定化剤、NAD又はNADP、ヘキソキナーゼ(HK)又はグルコキナーゼ(GK)、グルコース、アデノシン二リン酸(ADP)、マグネシウムイオン及びSH化合物を含有させ、第二試薬にはクレアチンリン酸を含有させることが好ましい。
【0031】
上述したように、G6PDHは不安定であるためCK活性測定用のG6PDH含有試薬にG6PDHの安定化剤を含有させることができる。しかしながら、現在安定化剤として知られている化合物はSH化合物を劣化させるためG6PDHの保存安定性を向上させるのに必要な量を添加できず、十分にG6PDHを安定化させることができない。本実施形態の安定化剤は、G6PDHと試薬中に共存させることによって、SH化合物を劣化させることなく十分にG6PDHの保存安定性を高めることができる。
【0032】
上記成分の他に、防腐剤、キレート剤などを適宜試薬に添加してもよい。防腐剤としては例えばアジ化ナトリウムなどを用いることができる。キレート剤は試料中の金属イオンによるCK活性の阻害を抑制するために用いられ、具体的にはEDTAなどを用いることができる。
【0033】
また、界面活性作用を有する化合物を試薬に添加してもよい。例えば、アルブミン、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤などを用いることができ、具体的にはBSA、トライトン類、エマルゲン類などを用いることができる。
【0034】
試料にはアデニレートキナーゼが含まれていることがある。アデニレートキナーゼは特に溶血試料に多く含まれており、CKの活性測定に悪影響を及ぼす。この悪影響を回避するため、試薬にアデニレートキナーゼの作用を阻害する阻害剤を加えることが好ましい。阻害剤の種類としてはアデニレートキナーゼの作用を阻害するものであれば特に限定されないが、例えばアデノシン一リン酸(AMP)やP1P5ジアデノシン−5’−ペンタリン酸(AP5A)などを用いることができる。
【0035】
さらに、ダブルカイネティック法で活性測定することによりアデニレートキナーゼの悪影響を回避することも可能である。ダブルカイネティック法では、先ずアデニレートキナーゼの活性を測定し、その後クレアチンリン酸を添加し、CKによる酵素反応を開始させて試料に含まれるキナーゼの活性(CKの活性とアデニレートキナーゼの活性との和)を測定する。これらの測定結果の差がCKの活性値となる。
【0036】
なお、上述したCK活性測定用のG6PDH含有試薬に、CKのM型サブユニットを特異的に認識する抗体(以下、抗CK−M抗体とする)を含有させることにより、試料中のCK−MBの活性を測定することが可能となる(Wurzburg et al., 1977, J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 15:131-135)。抗CK−M抗体としては、M型サブユニットを特異的に認識する抗体であればポリクローナル抗体やモノクローナル抗体でもよく、これらを混合して用いてもよい。また、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いることもできる。抗体のフラグメント及びその誘導体としては、具体的にはFab,Fab’,F(ab)及びsFvフラグメントなど(Blazar et al., 1997, J. Immunol., 159: 5821-5833及びBird et al., 1988, Science, 242: 423-426)が例示される。抗体のサブクラスはIgGに限定されず、IgMなどでもよい。
【0037】
(実施例1)
<試薬の調整>
下記に示す組成でCK活性測定用のG6PDH含有試薬を調製した。各成分の濃度は試薬中の濃度を示す。
【0038】
イミダゾール 125mM
EDTA 2.5mM
酢酸マグネシウム 12.5mM
ADP 2.5mM
AMP 6.25mM
AP5A 12.5μM
グルコース 25mM
NADP 2.5mM
NAC 25mM
G6PDH 1875U/L
ヘキソキナーゼ 3750U/L
なお、試薬のpHは6.6に調整された。
【0039】
CK活性測定試薬は上記試薬(第一試薬)とクレアチンリン酸を含む試薬(第二試薬)とからなるが、本実施例では上記試薬に温度負荷をかけてG6PDH及びNACの安定性を分析しているため、第二試薬は用いない。
【0040】
上記組成にアミノグアニジンを添加して、アミノグアニジン濃度の異なる三種類の試薬を調整した。これらの試薬のアミノグアニジン濃度はそれぞれ、10mM、20mM及び40mMであった。これらの試薬に対して37℃で5日間温度負荷をかけた後、G6PDHの残存活性の測定及びNACのSH基の残存量の定量を行なった。
【0041】
G6PDHの活性は以下のようにして測定された。先ずグリシルグリシンを0.1M含む溶液(pH8.5)に20mMの塩化マグネシウム、0.6mMのNADP及び0.5mMのG6Pを溶解させた溶液を調整した。この溶液300μlとG6PDH含有試薬1μlとを混合すると、G6PDHの活性によってNADPHが生成する。NADPHが生成すると、波長340nmにおける吸光度が上昇するため、これを測定することによりG6PDHの活性を算出した。
【0042】
SH基の定量は、DTNB(5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid))を用いて行なった。試薬にDTNBを添加すると、NACが存在する場合はNACのSH基の量に相当する量のジスルフィド結合が切れて5-Mercapto-2-nitrobenzoic acidが生じる。5-Mercapto-2-nitrobenzoic acidが生じると、波長412nmにおける吸光度が上昇するため、これを測定することにより試薬中のSH基を定量した。
【0043】
(比較例1〜3)
比較例1として、上記組成にアミノグアニジンではなく、G6PDH安定化剤として知られているアセトヒドラジンを添加して、アセトヒドラジン濃度の異なる二種類の試薬を調整すること以外は実施例1と同様にしてG6PDHの残存活性の測定及びNACのSH基の残存量の定量を行なった。それぞれの試薬においてアセトヒドラジン濃度は20mM及び40mMであった。
また、比較例2として、アミノグアニジンではなく、G6PDH安定化剤として知られているヒドラジンを添加して、ヒドラジン濃度の異なる二種類の試薬を調整すること以外は実施例1と同様にしてG6PDHの残存活性の測定及びNACのSH基の残存量の定量を行なった。それぞれの試薬においてヒドラジン濃度は20mM及び40mMであった。
また、比較例3として、安定化剤を添加せずにG6PDHの残存活性の測定及びNACのSH基の残存量の定量を行なった。
【0044】
実施例1及び比較例1〜3の測定結果を下記表1に示す。なお、表1においてG6PDHの残存活性及びNACの残存量は百分率で示されている。これらの値は温度負荷をかけずに実施例1に記載の方法で測定したG6PDHの活性値及びNACのSH基の量に対する値である。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1より、温度負荷によってG6PDHの活性が失われており、さらにNACは劣化されてSH基の量が減少した。
比較例2より、G6PDHの活性の低下はある程度抑制されているが、NACが劣化したためにSH基の量が大きく減少した。
比較例3より、NACが劣化せずSH基の量は減少していないが、安定化剤を添加していないためにG6PDHの活性が失われた。
実施例1においては、SH基の量を減少させることなく、G6PDHの活性を保つことができた。
【0047】
以上より、安定化剤としてG6PDH含有試薬にアミノグアニジンを添加すると、NACを劣化させることなくG6PDHの活性が保たれ、G6PDHの保存安定性を向上できることが判った。
【0048】
(実施例2)
実施例1で用いたG6PDH含有試薬にアミノグアニジンを20mMの濃度で添加し、37℃で30日間温度負荷をかけ、G6PDHの活性測定及びNACのSH基の定量を行なった。活性測定及び定量は実施例1と同様の方法により、温度負荷前、温度負荷開始から7日後、温度負荷開始から14日後、温度負荷開始から20日後及び温度負荷開始から30日後に行なった。
【0049】
(比較例2)
A社、B社、C社、D社、E社及びF社から発売されているCK活性測定用試薬の第一試薬(試薬A〜試薬F)に対してそれぞれ37℃で温度負荷をかけ、G6PDHの活性測定及びNACのSH基の定量を行なった。活性測定及び定量は実施例2と同様にして行なった。
また、対照として実施例1で調整した試薬(対照試薬:アミノグアニジン無添加)に37℃で温度負荷をかけ、G6PDHの活性測定及びNACのSH基の定量を行なった。活性測定及び定量は実施例2と同様にして行なった。
【0050】
実施例2及び比較例2のG6PDHの活性測定結果を表2及び図2に示す。また、実施例2及び比較例2のSH基の定量結果を表3及び図3に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表2及び図2より、市販の試薬A〜F及び対照試薬のうち、何れの試薬においても、温度負荷をかけるとG6PDHの活性が著しく低下したが、アミノグアニジンを添加した実施例2の試薬では30日間の温度負荷後でも66.9%の残存活性を示した。また、表3及び図3より、試薬A〜F及び対照試薬に比べて実施例2の試薬はSH基の残存量が多かった。
【0054】
以上より、安定化剤としてアミノグアニジンを添加したG6PDH含有試薬は、アミノグアニジン無添加の試薬及び市販の試薬に比べてG6PDH及びNACの保存安定性が高いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】CK活性測定の反応系を示した模式図である。
【図2】G6PDHの残存活性を示すグラフである。
【図3】SH基の残存量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)と、
一般式(I)
【化1】

(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤と、
を含有するG6PDH含有試薬。
【請求項2】
前記一般式(I)中のR1が水素である請求項1記載のG6PDH含有試薬。
【請求項3】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、ヘキソキナーゼ又はグルコキナーゼ、グルコース、アデノシン二リン酸、マグネシウムイオン、SH基を有する化合物及びクレアチンリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物をさらに含有する請求項1又は2記載のG6PDH含有試薬。
【請求項4】
前記SH基を有する化合物が、N−アセチル−L−システイン(NAC)、システアミン、ジチオスレイトール(DTT)、システイン、グルタチオン及びチオグリセロールからなる群より選択される少なくとも一つである請求項3記載のG6PDH含有試薬。
【請求項5】
試薬中のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)を安定化する方法であって、
G6PDHと、
一般式(I)
【化2】

(式中、R1は水素、ハロゲン、ヒドロキシル、置換若しくは非置換低級アルキル、シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルケニル、置換若しくは非置換アラルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換複素環基、低級アルカノイル、置換若しくは非置換アロイル、ピリジルカルボニル、低級アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換アミノの何れかである)で表される安定化剤と、
を共存させることを特徴とするG6PDH安定化方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−6746(P2007−6746A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189835(P2005−189835)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】