説明

グルタチオン産生促進組成物

【課題】
経口投与組成物として好適な、生体内に於ける酸化ストレス防御及び解毒機能を向上せしめるためのグルタチオン産生促進作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
キク科セイヨウノコギリソウの植物体を30%冷エタノールで24時間抽出し、凍結乾燥した抽出物にグルタチオン産生促進作用が存することを見いだした。本抽出物はγ-グルタミルシステインシンセターゼ(GCS)遺伝子の発現を促進することを機作の一つとする。キク科ノコギリソウ属の植物抽出物を含有する経口投与組成物として好適な、グルタチオン産生促進作用を有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体の抽出物を含有する、グルタチオン産生促進用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(γ-L-グルタミル-L-システイニルグリシン)は酸性のトリペプチドで、細菌、植物、動物に広く存在する最も代表的な低分子チオール化合物である。その役割としては、グルタチオントランスフェラーゼの補酵素として発がん物質等をシステイン抱合体へと誘導する形で、その解毒作用に関与し、又グルタチオンペルオキシダーゼの補酵素として活性酸素種の不活性化に関与する。その活性本体はグルタチオンに含まれるSH基であり、2分子の還元型グルタチオン(GSH)が酸化されてGSSGとなることにより、相手分子の毒性、攻撃性を低減する効果を有する。又、タンパク質分子のSH基を維持することによりその立体構造並びに生理活性を保持させる作用も有する。通常グルタチオンは酸化型の形で生体内に保持され、必要時にグルタチオン還元酵素により還元体へと還元されて利用される。ここに於いて、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの総量であるトータルグルタチオンレベルを高く保持することの重要性が存する。しかしながらシステイン抱合体形成に使用されたグルタチオンは、MRP1等のトランスポーターを介して生体外に排出されてしまうことから、過剰な活性酸素種による酸化ストレスや異物の付加により、生体内のトータルグルタチオンレベルが低下してしまう現象が少なからず存した。この様な現象は、紫外線暴露等による皮膚の炎症(ニキビ、アトピー性皮膚炎含む)・黒色化(シミ、ソバカス含む)、動脈硬化、糖尿病、薬物中毒、妊娠中毒、白内障、慢性肝疾患、虚血性心疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、免疫疾患、腎臓病、肺疾患、癌等あらゆる疾患を引き起こしたり、重篤化させたりする他、生理的な加齢に伴う老化の要因のひとつともなっている。即ち、生体内に於いてトータルグルタチオンレベルを上昇させる手段の開発が望まれていたと言える。
【0003】
そのためグルタチオンそのものは医薬品として日本薬局方に収載されており、例えばグルタチオンそのものあるいはその前駆体を白内障や肺疾患の治療に用いたり、美白化粧料に用いたりすることは知られていた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。
【0004】
あるいは、生体内に於いてグルタチオン産生を促進する方策も考えられ、この様な作用を有する植物も知られている(例えば、特許文献4、特許文献5を参照)。しかしながら、これらについては機作が明確でないためにグルタチオン産生促進作用を常に一定に発現させるのには困難があった。更に、キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体の抽出物にグルタチオン産生促進作用が存することも全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平02−45420号公報
【特許文献2】特開平05−301811号公報
【特許文献3】特開平08−319242号公報
【特許文献4】特開2006−348052号公報
【特許文献5】特開2006−347934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、グルタチオン産生促進用の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況に鑑みて、本発明者らはグルタチオン産生促進作用を有する物質を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体の抽出物にその様な作用を見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体の抽出物であることを特徴とする、グルタチオン産生促進用の組成物。
(2)前記キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物がセイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)であることを特徴とする、(1)に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
(3)前記グルタチオンの産生促進用の組成物に於いて、γ-グルタミルシステイン合成酵素の発現の促進を機作に含むことを特徴とする、(1)又は(2)に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
(4)経口投与組成物であることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
(5)次に示す疾患予防及び/又は改善効果を目的とする組成物であることを特徴とする、(1)〜(4)何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
(疾患)しみ、にきび、アトピー性皮膚炎、動脈硬化、糖尿病、薬物中毒、妊娠中毒、白内障、慢性肝疾患、腎疾患、肺疾患
(6)前記キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体を、冷アルコール溶液に24時間浸漬し、濾過後凍結乾燥して得られる抽出物であることを特徴とする、(1)〜(5)何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グルタチオン産生促進用の組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<1>本発明のグルタチオン産生促進用の組成物の必須成分であるキク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体抽出物
本発明のグルタチオン産生促進用の組成物は、キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。前記キク科ノコギリソウ属の植物としては、ノコギリソウ(Achillea alpina L.)、セイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)等が挙げられるが、セイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)が特に好適に例示できる。抽出物の作製に用いる植物部位としては、地上部が好適に例示できる。
抽出に際して、植物体乃至はその乾燥物は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出は、植物体乃至はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1〜30質量部加えて室温以下で24時間浸漬することが好ましいが、4℃前後で24時間浸漬することが特に好ましい。前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ル等のアルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示でき、30〜80質量%、より好ましくは30質量%エタノ−ル含有水溶液が特に好適に例示できる。浸漬後は室温に戻し、析出した不溶物を濾過により除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去することができるが、凍結乾燥による除去が特に好ましい。溶媒を除去した粉末組成物は、このまま粉末の状態で使用しても良いが、しかる後に、水と酢酸エチル、水とブタノ−ル等の液液抽出や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−等で分画精製しても良い。この様な抽出方法により得られた抽出物で、生体内のグルタチオン合成酵素の発現を促進することによりグルタチオン産生を促進し、活性酸素種の関与する多様な疾患に対する治療効果をもたらすことが期待される。
【0010】
<2>本発明のグルタチオン産生促進用の経口投与組成物
本発明のグルタチオン産生促進用の組成物は、生体内に於いてグルタチオンの産生を高める目的で経口投与組成物として投与するもの、皮膚内のグルタチオン産生量を高める目的で経皮的に投与されるものが存する。経口投与組成物としては、、例えば、菓子やパン、麺等の一般食品、カプセル剤や、錠剤の形態を取る、健康増進の目的を有する食品群(例えば、特定保健用食品等)、顆粒剤、粉末剤、カプセル剤や、錠剤の形態を取る、経口投与医薬等が例示でき、それぞれの製剤で許容される任意成分を含有することができる。この様な任意成分としては、食品であれば、塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、酢等の調味成分、着色成分、フレーバー等の矯臭成分、増粘剤、乳化・分散剤、保存料、安定剤等が好適に例示でき、健康増進の目的を有する食品群や医薬であれば、結晶セルロース、乳糖等の賦形剤、アラビヤガムやヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、クロスカルメロースナトリウム、デンプン等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、矯味、矯臭剤、着色剤等が好ましく例示できる。これらを常法に従って処理することにより、本発明の経口投与組成物は製造することができる。この時、キク科ノコギリソウ属の植物体の抽出物は、総量で、組成物全量に対して、1〜10質量、より好ましくは3〜8質量%含有されることが好ましい。斯くして得られた、本発明の経口投与組成物は、それを飲用することにより、生体内のグルタチオン量を増加させる作用に優れる。この様な作用を発揮させるためには、前記植物の抽出物を総量で、1日あたり、10〜1000mgを1回乃至は数回に分けて飲用することが好ましい。
【0011】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0012】
<実施例1>
小城製薬株式会社より供与されたキク科セイヨウノコギリソウの地上部の乾燥物を200g秤取り、4lの30%含水エタノ−ル水溶液を加え、ホモジナイザ−でホモジナイズ処理を行い、4℃で24時間浸漬し、室温に戻し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、11gの乾燥粉末を得た。
【0013】
<実施例2>
丸善製薬株式会社より供与されたキク科ノコギリソウの地上部の乾燥物を200g秤取り、4lの30%含水エタノ−ル水溶液を加え、ホモジナイザ−でホモジナイズ処理を行い、4℃で24時間浸漬し、室温に戻し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、12gの乾燥粉末を得た。
【0014】
<実施例3>
キク科セイヨウノコギリソウの地上部の乾燥物を200g秤取り、4lの50%含水エタノ−ル水溶液を加え、ホモジナイザ−でホモジナイズ処理を行い、4℃で24時間浸漬し、室温に戻し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、10gの乾燥粉末を得た。
【0015】
<実施例4>
キク科セイヨウノコギリソウの地上部の乾燥物を200g秤取り、4lの70%含水エタノ−ル水溶液を加え、ホモジナイザ−でホモジナイズ処理を行い、4℃で24時間浸漬し、室温に戻し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、5gの乾燥粉末を得た。
【0016】
<実施例5>
キク科セイヨウノコギリソウの地上部の乾燥物を200g秤取り、4lの30%含水エタノ−ル水溶液を加え、ホモジナイザ−でホモジナイズ処理を行い、室温で24時間浸漬し、不溶物を濾過で取り除いた後、凍結乾燥し、14gの乾燥粉末を得た。
【0017】
<試験例1>グルタチオン産生量測定試験
ヒト肝ガン由来細胞株HepG2(ATCC;CRL-11997)を用いてグルタチオン産生量の測定試験を実施した。10容量%牛胎児血清(GIBCO社製)を含むRPMI1640培地(GIBCO社製)に細胞を懸濁し、培養プレートに播種し、CO2インキュベーター(95容量%空気、5容量%二酸化炭素)内、37℃の条件下で24時間培養した。24時間培養後、ジメチルスルホキシドにて懸濁した各抽出物を乾燥固形物量として培地中に20μg/mlの濃度で含む試料添加培地に交換し、さらに24時間培養した。細胞を回収し、その後−30℃で凍結、融解することで細胞を破砕し、細胞内のグルタチオンを溶出させた。1000xgで15分間、20℃で遠心し、上清を測定試料とした。GSH/GSSG−412キット(OXIS Research社製)を用いてグルタチオン量を測定した。即ち、グルタチオン標準品、ブランク、測定試料200μlを、各々のキュベットへ入れ、キット付属のクロモジェン200μlと酵素液200μlを各キュベットに加え、室温で5分間インキュベートした。その後各キュベットにキット付属のNADPH液200μlを添加し、412nmの吸光度の変化を3分間測定した。グルタチオン量は、同時に設定したグルタチオン標準品にて作成した検量線から計算した。これらを元に、グルタチオン産生促進値(検体存在下のグルタチオン産生量/検体非存在下のグルタチオン産生量)を求めた。この値が1.4以上の場合(40%促進)、その検体はグルタチオン産生促進作用を有すると判断した。
【0018】
<試験例2>γ-グルタミルシステインシンセターゼ(GCS)遺伝子の定量試験
上記試験例1と同様の方法でHepG2を培養し、ジメチルスルホキシドにて懸濁した各抽出物を乾燥固形物量として培地中に20μg/mlの濃度で含む試料添加培地に交換し、さらに6時間培養した。その後細胞を回収し、RNAspin Mini RNA isolation kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNAを用いて、以下に示すようにリアルタイムRT-PCR法によりγ-グルタミルシステインシンセターゼ(GCS)遺伝子の定量試験を実施した。即ち、1μgのtotal RNAを鋳型とし、GCS合成プライマー(SIGMA GENOSYS社製)及びPrimeScript 1st strand cDNA synthesis kit(タカラバイオ社製)を用いて逆転写反応を行った。逆転写反応によって得られたGCSのcDNAを滅菌水にて100倍希釈し、鋳型cDNAとした。Ex Taq kit(タカラバイオ社製)を用いてPCR反応を行った後に電気泳動を行った。得られたバンドは画像ソフトを用いて画像として取り込み、ImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いてバンドの濃淡を数値化した。GCS遺伝子の発現量は、β-アクチン遺伝子についても同様に検討した発現量(合成プライマーはSIGMA GENOSYS社製)の相対値として表した。設計した合成プライマーの塩基配列及びPCR反応条件は以下の通りである。
【0019】
GCSの合成プライマー

【0020】
β-アクチンの合成プライマー

【0021】
PCR反応条件

【0022】
図1にキク科セイヨウノコギリソウの抽出物を添加したときのヒト肝ガン由来細胞株HepG2のグルタチオン産生量及びGCS遺伝子の発現量を示す。グルタチオン産生量は、ジメチルスルホキシドのみ添加したコントロールに於けるグルタチオン産生量に対する比で、又GCS遺伝子の発現量も同様にジメチルスルホキシドのみ添加したコントロールに於けるGCS遺伝子の発現量に対する比で示してある。キク科セイヨウノコギリソウの抽出物は、コントロールに比べて2.5〜4.5倍のグルタチオン産生を促進し、1.2〜1.5倍のGCS遺伝子の発現を促進する。又、キク科セイヨウノコギリソウの地上部の乾燥物を室温で浸漬するよりも4℃で浸漬したほうが、グルタチオン産生促進に関わる有効成分を多く含有する乾燥粉末を製造できることが判る。以上の結果より、本発明の組成物はグルタチオン合成酵素の発現を促進することを機作の一つとしており、新規な作用機序に則ったグルタチオン産生促進作用を有することが判る。
【0023】
<実施例6>
下記表1に示す処方に従って、本発明の経口投与組成物である、錠剤状の食品を作製した。即ち、10%エタノール10質量部を噴霧しながら、処方成分100質量部をニューマルメライザー(不二パウダル株式会社製)で造粒し、40℃で3時間送風乾燥した後、150mg錠に打錠し、本発明の食品1を得た。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、機能性食品等の食品に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】キク科セイヨウノコギリソウの植物抽出物を添加したときのヒト肝ガン由来細胞株HepG2のグルタチオン(GSH)の産生量及びγ-グルタミルシステインシンセターゼ(GCS)遺伝子の発現量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体の抽出物であることを特徴とする、グルタチオン産生促進用の組成物。
【請求項2】
前記キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物がセイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)であることを特徴とする、請求項1に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
【請求項3】
前記グルタチオンの産生促進用の組成物に於いて、γ-グルタミルシステイン合成酵素の発現の促進を機作に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
【請求項4】
経口投与組成物であることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
【請求項5】
次に示す疾患予防及び/又は改善効果を目的とする組成物であることを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物。
(疾患)しみ、にきび、アトピー性皮膚炎、動脈硬化、糖尿病、薬物中毒、妊娠中毒、白内障、慢性肝疾患、腎疾患、肺疾患
【請求項6】
前記キク科ノコギリソウ属(Achillea sp.)の植物体を、冷アルコール溶液に24時間浸漬し、濾過後凍結乾燥して得られる抽出物であることを特徴とする、請求項1〜5何れか1項に記載のグルタチオン産生促進用の組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280572(P2010−280572A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132792(P2009−132792)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】