説明

グルタミン酸高含有酵母エキスおよびその製造方法

【課題】 L−グルタミン酸含量を従来のものよりさらに高めた酵母エキスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 食用酵母を酸性水溶液で抽出し、遠心分離し、得られた上清を担子菌類産生酵素類と接触させ、ついで活性炭処理して、L−グルタミン酸(Na塩として)を13重量%以上含有するグルタミン酸高含有酵母エキスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグルタミン酸高含有酵母エキスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスは天然調味料として広く利用されており、呈味性を改善するために、例えば、乾燥菌体1g当たり15mg以上の遊離グルタミンを細胞内に含有する酵母変異株を消化して細胞内遊離グルタミン由来のグルタミン酸を少なくとも3重量%含む酵母エキスが提案されている(特許文献1参照)。また、菌体内にL−グルタミン酸を蓄積する能力が向上した酵母変異株を使用した酵母エキスが提案されている(特許文献2および3参照)。
【特許文献1】特開2002−171961号公報
【特許文献2】特開平09−313169号公報
【特許文献3】特開平09−294581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来のものよりもL−グルタミン酸含量の高い酵母エキスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、酵母エキスのL−グルタミン酸含量を高めるために鋭意検討を重ねた結果、食用酵母の酸性水溶液抽出と、遠心分離後の上清を担子菌産生酵素類での酵素処理、活性炭処理を組み合わせることにより、従来の酵母エキスよりも、L−グルタミン酸含量を遥かに高めた高品質の酵母エキスを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)L−グルタミン酸(Na塩として)を13重量%以上含有することを特徴とするグルタミン酸高含有酵母エキス、
(2)食用酵母を酸性水溶液で抽出し、遠心分離し、得られた上清を担子菌類産生酵素類と接触させ、ついで活性炭処理することを特徴とする上記(1)記載のグルタミン酸高含有酵母エキスの製造方法、および
(3)酸性水溶液の抽出を、pH1.0〜2.0に調整し、50〜90℃で、10〜60分間行なう上記(2)記載の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来のものよりもL−グルタミン酸含量が非常に高められ、呈味性が著しく改善された高品質の酵母エキスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の酵母エキスの原料として用いる酵母は、通常の食用酵母であれば特に限定するものではなく、生酵母、自体公知の方法で適宜乾燥した乾燥酵母いずれでもよく、例えば、ワイン酵母、パン酵母、清酒酵母、ビール酵母等が使用でき、変異株を使用する必要はない。特に、トルラ酵母(Candida utilis)が好ましく、工業的生産性から乾燥酵母として使用することが好ましい。
本発明の酵母エキスは、粉末、液体、ペースト等いずれの形態でもよく、後に示す方法で測定した溶解色が1.0以下の淡色であり、粉末の場合、粗比容が2.0以下、安息角が45度以下の流動性のよいものが好ましい。
【0008】
本発明の酵母エキスは、食用酵母を酸性水溶液で抽出し、遠心分離し、得られた上清を担子菌類産生酵素類と接触させ、ついで活性炭処理して脱色、脱臭することにより製造できる。
酵母を酸性水溶液で抽出するには、原料酵母として、例えば、乾燥酵母を使用する場合、通常、5〜30重量%、好ましくは、10〜20重量%の濃度で、酵母を水(例えば、イオン交換水等)に懸濁する。懸濁液の濃度が低すぎる場合は生産性の低下を招き、また、濃度が高すぎる場合は、粘度が高くなりすぎ、撹拌等が困難となる。この懸濁液を、塩酸等の酸によりpH1.0〜2.0に調整し、50〜90℃にて、10〜60分間、加熱、攪拌することにより酸性水溶液抽出を行なう。
ついで、常法により遠心分離することにより、L−グルタミン酸を含む画分が上清中に残る。
【0009】
上記の上清を、担子菌産生酵素類と接触させて酵素処理する。用いる担子菌産生酵素類としては、例えば、ホウロクタケ属に属する担子菌、好ましくはヒイロタケを自体公知の方法により培養し、プロテアーゼ、セルラーゼおよびグルカナーゼ含有する培養濾液、その抽出物等を使用することができ、あるいは自体公知の方法により、プロテアーゼ、セルラーゼおよびグルカナーゼを必須構成酵素とする酵素類を採取し、粗製のまま、または精製酵素として用いることができる。
培養液は、工業的生産に適した乾燥酵素(水分10%以下)、特に、酵素力価を落とさず粉末化した酵素として用いることが望ましい。乾燥方法としては、自体公知の方法が挙げられるが、酵素を失活させない方法として、例えば、凍結乾燥方法等がある。
担子菌産生酵素類として、例えば、培養液の水溶性部分を乾燥した乾燥物を使用する場合、通常、酵母に対して、0.3〜1.5重量%程度使用する。この乾燥物換算の力価を基準として、培養液の水溶性部分を乾燥したものを適宜、水で希釈して使用することもでき、また、培養液そのものとして使用する場合は、通常、酵母に対して7.5〜37.5重量%程度の割合で使用できる。
また、例えば、力価の異なる2種以上の培養物や精製酵素を混合したり、水等での希釈や、要すれば、商業的に入手しうる酵素類を使用して力価を調整することもでき、担子菌産生酵素類の代わりに、プロテアーゼや、グルカナーゼを使用してもよい。
この担子菌産生酵素類での処理により、呈味性が向上し、また、後のろ過工程でのろ過性を向上させることができる。
かくして、担子菌産生酵素類での処理は、例えば、上清のpHを2.0〜5.5に調整し、これに担子菌産生酵素類の乾燥物を45〜55℃で0.3〜1.5重量%(対固形分)の割合で添加し、8〜15時間接触させて行なう。
酵素処理後、70〜100℃にて、10〜60分間加熱して、酵素を失活させ、ついで、約60℃以下に冷却する。
【0010】
本発明においては、得られた酵素処理液を、さらに、活性炭処理に付す。活性炭処理は、酵素処理液をpH5.0〜6.0に調整し、固形分に対して0.5〜10.0重量%、好ましくは1.0〜5.0重量%の活性炭を添加し、分散した後、50〜60℃で、0.5〜1時間保持することにより行なう。
活性炭として、原料が木材で、950〜1100℃で塩化亜鉛賦活法で賦活したもの、または900℃で水蒸気賦活法で賦活したものや、原料が瀝青炭で950〜1100℃賦活したものを使用した場合は、風味改善効果が必ずしも十分ではないが、木材炭化品を原料とし、水蒸気賦活法にて950〜1100℃で賦活した、細孔容積0.2〜0.6ml/g、細孔直径1〜30nmのものを使用した場合には、十分は改善効果が得られることが判明した。かくして、本発明では、このような活性炭を使用することが好ましい。
ついで、自体公知の方法によりろ過することにより、澄明で味、匂い、色等の外観等の優れた風味良好な所望の酵母エキスを得ることができる。ろ過温度等のろ過条件は特に限定するものではない。
pHの調整は、常法に従い、必要に応じて酸(例、塩酸等)またはアルカリ(例、水酸化ナトリウム等)を用いて行う。
所望により、ろ過後、ろ液の固形分濃度を10〜50重量%、好ましくは30〜40重量%に濃縮してもよい。濃縮方法は特に限定するものではなく、例えば、常圧加熱濃縮、減圧過熱濃縮、冷凍濃縮等の公知の濃縮方法が採用できる。さらに、公知の方法により、乾燥、粉末化してもよい。
【0011】
本発明のグルタミン酸高含有酵母エキスは、公知の酵母エキスと同様に使用することができ、例えば、得られた酵母エキスを農産加工食品(野菜、果実、穀物等の加工品を含む)、水産加工食品(魚介類、海藻等の加工品を含む)畜産加工食品(卵・乳製品等の加工品を含む)、だし・つゆ・ソース・醤油・みそ、合わせ調味料等に使用することができる。
【0012】
以下の参考例、実施例および試験例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「%」は重量%を意味する。
以下の実施例および試験例において、固形分濃度は、食品衛生検査指針 理化学編 厚生省監修 社団法人日本食品衛生協会(1991年)の試験法 1.水分(3)乾燥助剤法に従って、105℃3時間で水分を測定し、100から測定水分を差し引いて算出した。
食塩濃度は、衛生試験法注解 日本薬学会編 金原出版(1990年)(10)塩素イオン1)モール法により測定した。
全窒素量はミクロケルダール法により測定した。また、全窒素量に6.25を乗じてタンパク質量とした。
L−グルタミン酸は、試料を適宜蒸留水で希釈し、メンブランフィルター(0.45μm)で濾過して調製した検液を、サクラ精機社製バイオテックアナライザーM-110型で測定した。
全アミノ酸は、試料(タンパク質5mgに相当)を20%塩酸1mlと共に耐熱性ガラス容器に入れ、密栓して、110℃、20時間加水分解した後、エバポレーターで塩酸を除去し、以下の遊離アミノ酸の測定と同様にして測定した。
遊離アミノ酸は、試料を適宜蒸留水で希釈し、最終希釈はpH2のクエン酸緩衝液で希釈し、メンブランフィルター(0.45μm)で濾過して調製した検液を、島津製作所製高速液体クロマトグラフィーLC−10アミノ酸分析システムを使用して測定した。
溶解色は、試料を固形分1%水溶液となるように蒸留水で希釈し、メンブランフィルター(0.45μm)で濾過して調製した検液を、分光光度計で、測定波長440nm、1cmセルで測定した。

比容は、試料をメスシリンダーに漏斗で静かに投入し、投入した試料の重量および容積を測定し、単位重量当たりの容積で表した。
【実施例1】
【0013】
トルラ酵母(Candida utilis)の10%懸濁液を36%塩酸でpH1.7に調整し、60℃で10分間加熱した。これを遠心分離して上清を得た。この上清をエバポレーターで固形分20%まで濃縮した後、36%NaOHでpH4.0に調整し、固形分に対して0.64%の割合で担子菌産生酵素類乾燥粉末を加え、50℃で5時間保持した。反応終了後、90℃で10分間加熱し、60℃に冷却した。この反応終了液に、固形分に対して1.5%の活性炭を加えてろ過し、ろ液をエバポレーターで濃縮した。濃縮液をノズル式噴霧乾燥機で乾燥し、粉末を得た。得られた酵母エキスの成分分析値を以下に示した。

【試験例1】
【0014】
グルタミン酸高含有酵母エキスの担子菌産生酵素類処理条件の検討
トルラ酵母(Candida utilis)の10%懸濁液を36%塩酸でpH1.7に調整し、60℃で10分間加熱した。これを遠心分離して上清を得た。この上清をエバポレーターで固形分20%まで濃縮した後、36%NaOHでpH4.0に調整し、固形分に対して0.64%の割合で担子菌産生酵素類乾燥粉末を加え、50℃で0、3、5、7、および12時間保持した。反応終了後、90℃で10分間加熱し、60℃に冷却した。この反応終了液に、固形分に対して3.0%の活性炭を加えてヌッチェでろ過し、ろ過速度を観察した。得られた酵母エキスの1%水溶液を調製し、官能検査した。官能検査は、8名の専門パネルによるプロファイル法で、濃厚感、酵母臭の強弱を、以下の基準で5段階評価した。
0:なし、1:わずかに強い、2:やや強い、3:強い、4:かなり強い
結果を表1に示す。
【表1】

表1に示すごとく、反応時間3〜5時間で濃厚感が強くなり、酵母臭が弱くなった。また、ろ過性が、反応時間の経過とともに良好となった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
以上記載したごとく、本発明によれば、L−グルタミン酸含量の非常に高い、呈味性の著しく改善された酵母エキスを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−グルタミン酸(Na塩として)を13重量%以上含有することを特徴とするグルタミン酸高含有酵母エキス。
【請求項2】
食用酵母を酸性水溶液で抽出し、遠心分離し、得られた上清を担子菌類産生酵素類と接触させ、ついで活性炭処理することを特徴とする請求項1記載のグルタミン酸高含有酵母エキスの製造方法。
【請求項3】
酸性水溶液の抽出を、pH1.0〜2.0に調整し、50〜90℃で、10〜60分間行なう請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−129835(P2006−129835A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325346(P2004−325346)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(502118328)武田キリン食品株式会社 (27)
【Fターム(参考)】