説明

グルテン摂取に関連する障害を有する個々の患者の健康向上のための微生物

本発明は、食物アレルギー、具体的にはセリアック病の治療のための微生物、および該微生物を選別するための方法に関する。この微生物の作用機構には(i)自然免疫および適応免疫応答の制御、(ii)腸管腔内における毒性のグルテンペプチドエピトープの濃度の低減、(iii)有害な抗原および細菌に対する防御バリア機能の強化、および(iv)消化を促進する酵素活性の付与が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、食品産業分野および薬剤分野に関し、具体的には、プロバイオティクス分野、ならびにこれから派生する、機能性食品および新規な食品、プロバイオティクス、シンバイオティクス、栄養補助食品(nutraceutical)または食品サプリメント、および臨床的に応用可能な薬剤組成物の形の製品に関する。
【0002】
〔背景技術〕
セリアック病は、穀類のグルテンタンパク質に対する慢性的不耐性によって引き起こされ、遺伝的素因を有する患者が罹患する、免疫性の腸疾患、つまり腸の疾患の一種である。この疾患は、臨床的には広範囲の疾患を指し、典型的形態、非典型的形態、無症候性形態、および潜在性形態などを含む。典型的形態は、生後数年間(6ヶ月〜24ヶ月)にもっとも頻繁に存在し、主に腸の症状および関連する変化(吸収疾患、慢性の下痢、体重減少、腹部膨満、成長遅延など)を伴って現れる。セリアック病は、現在もっともよくみられる慢性疾患であり、有病率は一般的な集団の0.7%〜2.0%、第一度近親者の15%〜20%に達する。さらに、グルテンの摂取およびセリアック病は、他の障害にも関連しており、例えば、ダウン症候群、1型糖尿病、疱疹状皮膚炎、ミオパチー、多発性硬化症、関節炎、自閉症、統合失調症、鬱病、リンパ腫、および運動失調などがその例としてあげられる。グルテン摂取と、精神性障害、神経性障害、および行動性障害との間の関係は、エグゾーフィン(exorphins)などの、オピオイド活性を有する生理活性ペプチドの生成の結果であると考えられている。
【0003】
グルテンタンパク質(グリアジン、および類似のプロラミンおよびグルテニン)は、セリアック病およびその他の関連する障害を引き起こす、主要な環境的要因を代表するものである。これらのタンパク質は、プロリンおよびグルタミンに富んだペプチド配列を含有しているので、食品中の他のタンパク質に比べて消化酵素に対する耐性が強く、腸管腔中に残存できる。遺伝的素因を有する患者にとって、これらのペプチドは、自然免疫系および適応免疫系の両方が関与する異常反応の原因となる。この異常反応は、広く、腸の粘膜の慢性的炎症、上皮内リンパ球の増加、陰窩の過形成、および腸の絨毛の進行性悪化(絨毛が全く消滅することもある)につながる。グルテンの摂取につづいて生成される毒性のペプチドは、腸の上皮を通過することがあり、好ましくは組織におけるトランスグルタミナーゼの作用による脱アミド化につづいて、抗原提示細胞のHLA−DQ2またはHLA−DQ8分子によって認識される。こうすることによって、このペプチドはT細胞受容体に提示され、T細胞受容体を活性化する。これには、CD4抗原(ヘルパー(Th)とも呼ばれる)の発現およびリンパ球亜集団への分化が関与し、それゆえ、獲得免疫が関与する。Th2の亜集団は、B細胞と相互作用をし、B細胞は、血漿細胞に分化して抗−グリアジン抗体、抗−筋内膜抗体、および抗−組織トランスグルタミナーゼ抗体を産生する。亜集団Th1は、炎症促進性のサイトカイン(主にIFN−γ)分泌の増加およびIFN−γ/IL−10比の増加の原因となる(Salvati et al 2005. Recombinant human interleukin 10 suppresses gliadin dependent T cell activation in ex vivo cultured coeliac intestinal mucosa. Gut. 54: 46-53)。グルテンペプチドは、さらに、サイトカインIL−15によって媒介される、腸の上皮における応答を引き起こし、これには自然免疫系が関与している(Green and Jabri 2006. Celiac disease. Ann Rev Med. 57:207-21)。摂取されたグリアジンは、上皮細胞におけるIL−15の産生を促進するが、この産生が、上皮内細胞の傷害性CD8のTリンパ球のクローン増殖およびIFN−γの発現を助ける(Jabri et al. 2000. Selective expansion of intraepithelial lymphocytes expressing the HLA-E-specific natural killer receptor CD94 in celiac disease. Gastroenterology. 118 :867-79; Mention et al., 2003. Interleukin 15: a key to disrupted intraepithelial lymphocyte homeostasis and lymphomagenesis in celiac disease. Gastroenterology. 125: 730-45; Forsberg et al. 2007. Concomitant increase of IL-10 and pro-inflammatory cytokines in intraepithelial lymphocyte subsets in celiac disease. Int Immunol. 2007:19, 993-1001)。また、セリアック病患者の腸の細菌叢の組成は、コントロールとなる健常者の組成と比較すると不均衡であり、炎症促進性を有する細菌が圧倒的に多く、また、乳酸菌およびビフィドバクテリウム属の比率が低いことを特徴としている(Sanz et al., 2007. Differences in faecal bacterial communities in coeliac and healthy children as detected by PCR and denaturing gradient gel electrophoresis. FEMS Immunol Med Microbiol. 51(3):562-8. Nadal et al., 2007. Imbalance in the composition of the duodenal microbiota of children with coeliac disease. J Med Microbiol. 2007 Dec; 56(Pt 12):1669-74; Collado et al. 2009. Specific duodenal and faecal bacterial groups are associated with paediatric celiac disease. J Clin Pathol. 62: 264-269)。活動型セリアック病やその他の関連する障害の場合には、腸管腔および上皮における、グルテンと有害な細菌の増加との組み合わせは、トリガー因子として作用するか、または病理過程および炎症促進性反応を助けるかしうる。同様に、ある細菌種の存在または非存在は、グルテン毒性を助けるか、あるいはグルテン毒性に対して防御するかしうる。
【0004】
セリアック病は発生率が高く、重症度も高いが、いまのところセリアック病患者に対する治療法は存在しない。唯一の代替策は、生涯にわたってグルテンを含まない食事を厳格に続けることである。この食事に関する勧告に従うことは困難であり、患者は、胃腸症状、栄養疾患、および健康に対するさらに高いリスク(免疫不全、骨粗鬆症、不妊性、癌など)に苦しみ続けることになる。また、患者の腸の生態系のバランスは、完全に復元されることはない。また、不応性セリアック病(5%〜10%)の患者は、この食事に関する勧告に対して反応を示さない。
【0005】
現在研究中の、セリアック病治療のための別の治療法またはコ−アジュバントとしては、植物または微生物から得られるタンパク質分解酵素を経口投与して、グルテンペプチドの胃腸での消化を加速させるというものがある(Shan et al. 2005. Enzyme treatment of foodstuffs for celiac sprue. 米国特許出願公開第2005/0249719号明細書; Marti et al. 2006. Prolyl endopeptidase mediated destruction of T cell epitopes in whole gluten. 米国特許出願公開第2006/0286601号明細書; Stepniak y Koning. 2006. Enzymatic gluten detoxification: the proof of the pudding is in the eating! Trends Biotechnol. 24:433-4; Gass et al. 2007. Combination enzyme therapy for gastric digestion of dietary gluten in patients with celiac sprue. Gastroenterology. 133:472-80)。この治療方法の有効性は、タンパク質製剤およびペプチド製剤、またはその組み換え型の等価物を使って、モデル系においては実証されている。しかし、インビボにおける有効性を実証するために、食品中に存在するグルテンを摂取する個々の患者において実施する研究がさらに必要である。この治療法は、グルテンを含まない食事におけるアジュバントとして潜在的な利点を有するものの、その効果は酵素製剤の摂取時刻に大きく依存し、たまたまグルテンを摂取した場合の毒性の閾値を低下させるだけである。その他の提案されている代替物としては、組織トランスグルタミナーゼ阻害剤の化合物の開発(Khosla et al., 2006. Transglutaminase inhibitors and methods of use thereof、国際公開第2007025247号パンフレット)、グリアジンペプチドを捕捉可能な抗体(Fox, 2007. Antibody therapy for treatment of diseases associated with gluten intolerance. 米国特許出願公開第2007/0184049号明細書)、グルテンペプチドがHLA−DQ2またはHLA−DQ8分子に結合する部位をブロックする化合物(Sollid et al. 2007. Drug therapy for celiac sprue. 米国特許出願公開第2007/0161572号明細書;Peakman and Chicz. 2007. Peptide epitopes recognized by disease promoting CD4+ T lymphocytes. 米国特許出願公開第2007/0142622号明細書)、IFN−γなどの炎症促進性のサイトカイン拮抗薬(Maroun et al., 2007. Interferon antagonists useful for the treatment of interferon related diseases. 米国特許出願公開第2007/0160609号明細書)、組み換え型の制御性サイトカインの経口投与(Salvati et al., 2005. Recombinant human interleukin 10 suppresses gliadin dependent T cell activation in ex vivo cultured coeliac intestinal mucosa. Gut. 2005; 54:46-53)、炎症反応に関与する接着分子の阻害剤、および傍細胞透過性の増加の原因となるゾヌリンの拮抗薬(Paterson and Ginski. 2007. Formulations for a tight junction effector 米国特許出願公開第2007/0196501号明細書)などがある。これらの治療方法を実施するには、関与する分子をいくつかの生物学的プロセスにおいて修飾することが必須であり、この分子を使用することによって、望ましくない二次的な効果が生じる可能性がある。食品産業の分野では、ある品種のコムギを遺伝子操作したり、穀類の発酵プロセスにおいて、毒性のエピトープを分解できるタンパク質分解酵素および乳酸桿菌を使用したりすることによって、人が摂取する食品における、毒性のエピトープの存在を排除する方法が開発されている。以上のように、これらの研究の目的は、セリアック病それ自体を予防または治療するのではなく、セリアック病患者の食事を改善し、より多種多様な製品をセリアック病患者に提供することである(Rizzello et al. 2007. Highly efficient gluten degradation by lactobacilli and fungal proteases during food processing: new perspectives for celiac disease. Appl Environ Microbiol.73:4499-507)。
【0006】
本発明の基本原理は、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium genus)に属する菌株を、セリアック病およびそれに関連する障害の治療および予防のために、プロバイオティクスまたは医薬製剤として使用することである。これを目的として特異的に選別されたビフィドバクテリウム属は、多数の利点を有する。ビフィドバクテリウム属は、新生児の腸管にコロニーを形成するという特殊な能力を有し、この能力によって、新生児の防御(免疫による防御も、その他の防御も含む)の発達と、食事に含まれる抗原に対する経口免疫寛容とに大きく寄与する。この細菌群は、生後数年間、特に母乳で育てられた子供の、腸の細菌叢における主要な構成要素の一つである。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明は、免疫応答を調節できる微生物または菌株を選別する方法を提供する。これらの微生物は、好ましくはビフィドバクテリウム属に属する微生物であって、免疫調節能力を有するので、免疫性疾患、例えばセリアック病の治療または予防に使用可能である。
【0008】
また、本発明は、ビフィドバクテリウム属の新しい菌株(CECT 7347;以後「本発明の菌株」と称する)(IATA−ES1)、その細胞成分、その代謝の結果生じる分泌分子および分泌化合物、ならびにこれらの相互の、および/またはこれらと他の微生物もしくは生理活性化合物との組み合わせのいずれかを、セリアック病およびグルテン摂取に関連するその他の障害(アレルギー、自閉症、運動失調、糖尿病、多発性硬化症など)に罹患している個々の患者に対し、リスクを低減させるとともに、健康と生活の質とを向上させるように設計された製剤の形態にて、提供する。
【0009】
本発明の菌株は、健康な母乳栄養児の糞便から単離され、16 S rRNAおよびtuf遺伝子の配列を決定することによって同定された。この菌株は、セリアック病およびその関連疾患(多発性硬化症、糖尿病、運動失調、など)に特徴的なTh1型炎症促進性応答を制御することができる、免疫調節特性を有する。また、この菌株は、コムギタンパク質およびその他の穀類タンパク質の摂取に起因する、食物性タンパク質に対するIgE依存性アレルギー症に特徴的なTh2型免疫応答を制御することができる、免疫調節特性を有する。本発明の菌株は、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)において、Th1サイトカインIFN−γおよび炎症促進性のサイトカインIL−1の産生量を抑制し、制御性のサイトカインIL10およびTGF−βの産生量を増加させることを特徴とする。本発明の菌株によって誘導されるこのようなサイトカインのプロファイルは、すべてのビフィドバクテリウム属およびヒトの腸内乳酸菌によく見られる特徴ではなく、また、本発明の菌株は、病気にかかりやすくなっている個々の患者において、グルテンタンパク質によって引き起こされる異常免疫応答を調節するのに特に適している。本発明の菌株と他の微生物(例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)ATCC15707)とを組み合わせれば、これらの病状に特徴的な炎症のプロセスの制御に役立つ、制御性のサイトカインIL−10の合成を増強することができる。これらの非生存細菌(例えば、加熱、凍結−解凍、照射などの各種方法で不活性化された細菌)では、細菌の免疫調節特性が維持されている。
【0010】
本発明の菌株は、上述の疾患の原因となるグルテンペプチドを取り込んで加水分解することができ、こうして、毒性のエピトープの濃度およびその潜在的な病原性を低減させることができる。本発明の菌株は、グルテンタンパク質によく見られるプロリンを含有する基質を加水分解するための、特異的なペプチダーゼを有する。この菌株を、多様な特異性を有し、互いの作用を補完できるペプチダーゼを有する他のビフィドバクテリウム菌株と組み合わせると、有毒なエピトープの分解を助ける。ビフィドバクテリウム菌株と、他の微生物、例えば細胞壁にアンカーされたプロテイナーゼを有する、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NCDO712などとの組み合わせは、ビフィドバクテリウム菌株の作用のみによる加水分解の効果をさらに増強できる。
【0011】
本発明の菌株は、上記グルテンペプチドによって誘発される免疫応答を、
(i)制御性のサイトカイン(IL−10)の合成を誘導し、(ii)自然免疫応答および適応免疫応答に由来する炎症促進性のサイトカインIFN−γ、IL−1、IL−8、およびIL−15の産生を低減し、(iii)核内因子κB(実施例3、表3)によって媒介される炎症促進性の経路を阻害することによって調節することができる。
【0012】
本発明の菌株および該菌株に由来する化合物はまた、どちらも、炎症を促進する潜在的な病原性因子を有するセリアック病患者の腸内の細菌叢から単離される病原菌を阻害することができ、腸のバランスの再確立を助けることができる(実施例4、表4および表5)。これらの菌株はまた、活動型セリアック病の患者およびグルテンを含まない食事を摂っている患者の、炎症促進性のサイトカイン(TNF−αおよびIFN−γ)の合成を低減させ、かつ、制御性のサイトカイン(IL−10)の合成を増加させることによって、腸内細菌の炎症促進性応答を阻害することができる。
【0013】
本発明の菌株はまた、栄養分の消化ならびにセリアック病患者に特徴的な吸収疾患および栄養障害症候群の改善を助ける、代謝活性(例えば、ホスファターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、およびN−アセチル−グルコサミニダーゼ)を有する。
【0014】
本発明の菌株は、ムチン(1%〜4%)に接着する能力を有し、胃腸がストレスを受けている条件下(pHが酸性であり、胆汁の濃度が高い;実施例5、表6および表7)でも、また、食品の貯蔵および準備の技術的プロセス(例えば、冷蔵、凍結乾燥、発酵など)においても安定である。インビボでは、本発明の菌株は、経口投与された後、ヒトの体内を通過しても生存することができる。これらすべての性質が、本発明の菌株が腸内で遷延的な持続性および有効性を有すること、ならびにプロバイオティクスおよびシンバイオティクス(プロバイオティクスとプレバイオティクスとの組み合わせ)として使用できることを保証している。さらに、この性質は、本発明の菌株が、セリアック病やその他のグルテン摂取に関連する疾患を有する被験者のリスクを低減し、被験者の健康および生活の質を向上させるための機能性食品、新規食品、食品サプリメント、栄養補助食品、および薬物の形態で使用できることも保証している。
【0015】
上述のように、本発明の第1の態様は、食物アレルギーに対する免疫応答を調節することができる微生物または微生物の菌株を選別するための方法に関し、該方法は、(a)健常者(好ましくは母乳栄養児)から得られるサンプル(好ましくは糞便)から微生物を単離する段階と、(b)免疫応答を調節し、食物アレルギー(好ましくはセリアック病)を引き起こす少なくとも1つの媒介物の作用機構を加水分解、不活性化、または妨害することができる、上記段階(a)の微生物を選別する段階とを含む。好ましくは、段階(a)で選別される微生物が、潜在的なプロバイオティクス属または種に属する。好適な実施形態では、段階(a)で得られる微生物によって調節される上記免疫応答が、Th1型またはTh2型の炎症促進性応答である。また、段階(a)および段階(b)で得られる微生物が、上記免疫応答の調節能力の替わりに、あるいは、上記免疫応答の調節能力に加えて、腸内バリア機能を向上させる上皮細胞の生存能および/または完全性を増加させる能力が得られるように、選別されてもよい。
【0016】
上記方法によって選別される微生物、つまり、食物アレルギーを引き起こす少なくとも1つの媒介物の作用機構を加水分解、不活性化、または妨害し、免疫応答を調節することができる微生物は、食物アレルギーの治療または予防のために使用され得る(以後「本発明の微生物」と称する)。そのため、本発明の第2の態様は、これらの微生物を医薬または食品組成物として使用する方法、好ましくはこれらの微生物を食物アレルギーの治療または予防のために使用する方法に関する。これらの微生物は、どの細菌の属または種に属していてもよく、好ましくはビフィドバクテリウム属、さらに好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)種に属する。
【0017】
本発明の第3の態様は、受託番号CECT 7347の菌株に関する。
【0018】
本発明の第4の態様は、本発明の微生物のうちの少なくとも一つを含む組成物(以後「本発明の組成物」と称する)に関する。好ましくは本発明の菌株に関し、さらに、好ましくは本発明の菌株が上記組成物内に0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、さらに好ましくは10%〜90%の比率で存在する。この組成物は、さらに、例えば、本発明の微生物または本発明の菌株の免疫調節能力、または食物アレルギーを引き起こす媒介物の作用機構を加水分解、不活性化、もしくは妨害する能力などを増強する他の微生物または培地を含んでもよい。
【0019】
本発明の第5の態様は、本発明の微生物に由来する生理活性化合物から得られる組成物に関し、この本発明の微生物の例としては、例えば、本発明の微生物のうちのいずれかの微生物の培養物の上清(以後「本発明の上清」と称する)、本発明の微生物のうちのいずれかの微生物または本発明の菌株の、純粋培養物または混合培養物から得られる抽出物(以後、「本発明の抽出物」と称する)、および当該技術分野において当業者に公知の物理化学的手法および/または生物工学的手法を使って得られる、本発明の微生物または本発明の菌株によって分泌される、細胞成分(つまり細胞成分分画)、代謝物、および生成物などがあげられる。なお、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではない。これらの本発明の微生物により生成された生理活性化合物(以後「本発明における生成された生理活性化合物」と称する)を、食品、食品サプリメント、栄養補助食品、プロバイオティクスまたはシンバイオティクスに基づいた生成物、新規食品、または医薬の調製に使用してもよい。また、同様に、本発明の微生物の、これらとは異なる使用方法も、本発明の一部である。
【0020】
本発明の別の態様は、本発明の組成物、または本発明の少なくとも1つの微生物、好ましくは本発明の菌株を含む食用品の調製のためのサポート材料に関する。好適な実施形態では、本発明の微生物は、サポート材料中に、少なくともサポート材料1gに対して約10cfu/g、好ましくは10cfu/g〜1012cfu/g、さらに好ましくは10cfu/g〜1010cfu/gの量が含有されている。上記の記載によれば、本発明の組成物または本発明のサポート材料を含む任意の食用品または食品サプリメントも、本発明の一部である。
【0021】
本発明の別の態様は、本発明の組成物、本発明に由来する生理活性化合物、本発明の上清、本発明の抽出物、本発明の微生物、本発明の菌株、および必要に応じて、薬理的に受容可能な培地および/または賦形剤のうちの、いずれかの化合物を含む薬学的組成物または食品組成物に関する。上記薬学的組成物または食品組成物が必ず含有しなければならない微生物の量には、その微生物の治療対象として設計される病状の種類によってばらつきがある。好ましくは、この病状は食物アレルギー、さらに好ましくはセリアック病である。食品組成物の調製の場合、また、本発明によれば、少なくとも1つの本発明の微生物または本発明における生成された生理活性化合物が、サポート材料中に、本発明の微生物の場合であれば、好ましくは、サポート材料1gに対して10cfu/g〜1014cfu/g、さらに好ましくは約10cfu/g〜1013cfu/g、さらに好ましくは10cfu/g〜1012cfu/gの量で、また、本発明における生成された生理活性化合物の場合であれば、0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、さらに好ましくは10%〜90%の比で組み込まれる。これらの食品組成物は、栄養補助食品、機能性食品、プロバイオティクス、シンバイオティクス、栄養補助物、または好ましくは食物アレルギー、さらに好ましくはセリアック病の治療または予防のために設計される、その他の任意の種類の製品の調製に使用可能である。
【0022】
本発明の薬学的組成物または本発明の食品組成物は、好ましくは錠剤、カプセル、マイクロカプセル、粉末、溶液、ペーストなどの形態中に含まれ得る。
【0023】
本発明の別の態様は、本発明の組成物、本発明における生成された生理活性化合物、本発明の上清、本発明の抽出物、本発明の薬学的組成物、本発明の細胞成分分画、本発明の食品組成物、または本発明のサポート材料に関し、本発明の微生物または本発明の菌株が他の微生物、該微生物の培養物から得られる上清、または該微生物の細胞成分分画と組み合わせられる。好ましくは、この微生物は、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属し、好ましくはラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)種に属し、さらに好ましくはラクトコッカス・ラクティスNCDO712株に属する。
【0024】
本発明の最後の態様は、本発明の組成物の別の提供形態に関し、該組成物は、食品、栄養補助食品、医薬製剤、食品サプリメント、プロバイオティクスもしくはシンバイオティクス、または新規食品として調製されてもよい。
【0025】
〔定義〕
母乳栄養児:本説明全体を通じて、本用語は、好ましくは主に母乳で育てられた健常者、好ましくは主に母乳で育てられた年齢が2歳未満の健常者、さらに好ましくは主に母乳で育てられた年齢が1歳未満の健常者、さらに好ましくは主に母乳で育てられた年齢が6ヶ月未満の健常者を指す。
【0026】
健常者:本用語は、好ましくは、専門医師の基準によれば、いかなる種類の慢性の病理または急性の病理にも罹患していない人を指す。好ましくは、この病理は腸の上皮の炎症を誘発するものであり、さらに好ましくはセリアック病である。
【0027】
食物アレルギー:本説明全体を通じて、好ましくは、本用語は、好ましくは乳、卵、豆類、ナッツ類、甲殻類、魚類、軟体動物類、ゴマ、ヒマワリの種子、ワタの種子、ポピーの種子、豆類、エンドウマメ類、およびレンズマメ類によって引き起こされる食物アレルギーを指し、さらに好ましくはグルテンによって引き起こされる食物アレルギーを指す。
【0028】
Th1型炎症促進性応答:コントロールに比較して、好ましくは少なくとも100倍、さらに好ましくは少なくとも15倍、さらに好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも4倍の、Th1型サイトカインの大量生成、好ましくはサイトカインIFN−γの大量生成を引き起こす刺激に対する応答を指す。
【0029】
Th2型炎症促進性応答:コントロールに比較して、少なくとも100倍、さらに好ましくは少なくとも15倍、さらに好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも4倍の、Th2型サイトカインの大量生成、好ましくはサイトカインIL4の大量生成を引き起こす刺激に対する応答を指す。
【0030】
潜在的なプロバイオティクス属または種:好ましくは本説明全体を通じて、本用語は、以下の系統学的部門および原核生物属の種および菌株を指す。すなわち、古細菌(Archaea)、フィルミクテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア(Proteobacteria)、放線菌門(Actinobacteria)、ヴェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)、フソバクテリウム門(Fusobacteria)、スピロヘータ属(Spirochaetes)、フィブロバクター属(Fibrobacters)、デフェリバクター属(Deferribacteres)、デイノコッカス属(Deinococcus)、サーマス属(Thermus)、シアノバクテリア属(Cianobacteria)、メタノブレビバクター属(Methanobrevibacterium)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、連鎖球菌属(Streptococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、コプロコッカス属(Coprococcus)、ズブドリングラヌラム属(Subdolingranulum)、ドレア属(Dorea)、ブレイジア属(Bulleidia)、アナエロフスティス属(Anaerofustis)、双子菌属(Gemella)、ロゼブリア属(Roseburia)、カテニバクテリウム属(Catenibacterium)、ディアリスター属(Dialister)、アナエロトランカス属(Anaerotruncus)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、ファエカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、バクテロイデス属(Bacteroides)、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)、プレボテラ属(Prevotella)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、アッケフマンシア属(Akkermansia)、バチルス属(Bacillus)、ブチリビブリオ属(Butyrivibrio)、およびクロストリジウム属(Clostridium)などである。また、酵母菌属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、トルロプシス属(Torulopsis)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rhizopus)、ムコール属(Mucor)、ペニシリウム属(Penicillium)などの菌類およびイースト菌の種および菌株をも指す。
【0031】
培地:本用語は、好ましくは、本発明の医薬、栄養性の組成物、組成物、サポート材料、上清、および食品の調合において使用するための、本発明の微生物におけるいずれかの特徴(例えば、安定性、免疫調節能力、アレルギーを引き起こす媒介物を接着する能力、発酵させる能力、加水分解する能力、または不活性化する能力など)を向上させる、好ましくは、培養液、基質、プレバイオティクス、ファイバ、生理活性化合物、賦形剤、成分などを指す。
【0032】
サポート材料:好ましくは、サポート材料とは、乳、ヨーグルト、チーズ、発酵乳、発酵乳に基づく食用品、発酵穀類、小麦粉、ジュース、糖、ケーキ、アイスクリーム、子供用剤形などから選別される食品組成物である。
【0033】
医薬:本説明全体を通じて、本用語は、薬学的組成物または剤形を指し、好ましくは、アレルギー、食物アレルギー、腸の炎症性疾患、胃腸の感染症および病原性微生物またはその毒素の転移、腸のバランスの変化(腸内毒素症)、細菌性過成長、腸の透過性の変化、食品に対する不耐性、セリアック病、吸収不良症候群などの治療または予防のために設計された薬学的組成物または剤形を指す。
【0034】
食品組成物:本説明全体を通じて、本用語は、食品(機能的食品、既存の食品、および新規食品)、食品サプリメント、栄養摂取を目的とした処方物、および好ましくはアレルギー、食物アレルギー、腸の炎症性疾患、胃腸の感染症および病原性微生物またはその毒素の転移、腸のバランスの変化(腸内毒素症)、細菌性過成長、腸の透過性の変化、食品に対する不耐性、セリアック病、吸収不良症候群などの治療または予防のために設計された栄養補助食品を指す。
【0035】
微生物に由来する生理活性化合物:構造的部分、細胞成分、細胞成分分画、代謝物、または分泌される分子として、微生物の一部を形成するいずれかの化合物または分子を指す。なお、これらの化合物または分子は、例えば、遠心分離、濾過、凍結乾燥、沈殿、超音波処理、機械的および化学的細胞攪乱、酵素および/または化学的媒介物を使った培養物からの化合物抽出、クロマトグラフィーの手法を使った分離、クローニング、および健康に有益な機能を実施できる生理活性分子をコードする遺伝子の過剰発現を含む、物理化学的手法または生物工学的手法によって得られる。
【0036】
〔図面の簡単な説明〕
(図1)
グリアジンの異なる消化のタンパク質のプロファイルのSDS−PAGE分析。パネルA:1)ペプシンを用いて消化した後のグリアジン(G−P)のコントロール;2)ペプシンおよびトリプシンを用いて消化した後のグリアジン(G−P−T)のコントロール;3)本発明の菌株とともにインキュベートしたG−P;4)本発明の菌株(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)IATA−ES1)とともにインキュベートしたG−P−T。パネルB:1)コントロールG−P;2)コントロールG−P−T;3)本発明の菌株およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NCDO712とともにインキュベートしたG−P;4)本発明の菌株およびLactococcus lactis NCDO712とともにインキュベートしたG−P−T。
【0037】
(図2)
インビトロによるグリアジンの消化の透析可能な画分から得られるクロマトグラムを示す。ピーク2が、本発明の菌株によって加水分解されたと考えられるピークである。
【0038】
(図3)
インビトロにおけるビフィドバクテリウム属の存在下または非存在下で、グリアジン(Gld)の、溶解性を有し消化される画分によって引き起こされる細胞の生存能の変化(リソソーム内の活性として測定)を示す。ウシアルブミン(BSA)(ネガティブコントロール);BifA2(ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis));Bb(ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum))、およびBL(本発明の菌株;ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)IATA−ES1−)。結果は平均値で示し、標準偏差は4通りにて決定する。
【0039】
(図4)
インビトロにおけるビフィドバクテリウム属の存在下または非存在下で、グリアジン(Gld)の、溶解性を有し消化される画分に曝されるCaco−2細胞培養における、炎症促進性のサイトカイン(TNF−α)の生成および核内因子κB(NF−κB)の発現。ウシアルブミン(BSA)(ネガティブコントロール);BifA2(B. animalis);Bb(B. bifidum)、およびBL(本発明の菌株;B. longum IATA−ES1−)。結果は平均値で示し、標準偏差は4回繰り返すことにより決定する。
【0040】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、食物アレルギーにおける免疫応答を調節することができる、微生物または微生物の菌株を選別するための方法に関し、(a)健常者(好ましくは母乳栄養児)から得られるサンプルから微生物を単離するステップと、(b)免疫応答を調節し、食物アレルギー(好ましくはセリアック病)を引き起こす少なくとも1つの媒介物の作用機構を加水分解、不活性化、または妨害することができる、先のステップの微生物を選別するステップとを含む。好ましくは、ステップa)で選別される微生物が、潜在的なプロバイオティクス属または種に属する。
【0041】
本発明の別の態様は、食物アレルギーを引き起こす少なくとも1つの媒介物の作用機構において、加水分解、不活性化、または妨害し、免疫応答を調節することができる微生物に関する。これらの微生物は、好ましくは、食物アレルギー、腸の炎症性疾患、腸内生態系(腸内毒素症)の不均衡、細菌性過成長、吸収不良症候群、胃腸の感染症および病原性微生物またはその毒素の転移、および腸の透過性の変化の治療または予防のために使用可能である。
【0042】
本発明は、さらに、各種作用機構を利用することによって、グルテンの摂取に関連する疾患に罹患しているまたは罹患しやすくなっている個々の患者のリスクを低減し、健康状態を向上させる剤形を生成するために有用な微生物を提供し、該微生物が、健常者の腸内の細菌叢から抗炎性および制御性を得るために単離および選別された、非遺伝的に修正された微生物であることを特徴とする。
【0043】
該微生物の複数の作用機構には、(i)グルテンの毒性および免疫原性を有するペプチドによって引き起こされる自然免疫応答および適応免疫応答を制御すること、(ii)グルテンペプチドを輸送および加水分解することによって、腸管腔中の毒性のエピトープの濃度を低減すること、(iii)セリアック病患者の胃腸管から単離される、細菌またはその他の炎症促進性を有する媒介物および病原性因子に対して作用する、防御バリア機能を強化すること、(iv)これらの患者に典型的な吸収不良症候群を和らげるために、ペプチダーゼに加えて、栄養分の消化および供給を助ける酵素活性を提供することなどが含まれる。ただし、これらの作用機構は例示にすぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。本微生物は、上述した効果以外に、以下に列挙する有益な効果を奏することができる。すなわち、炎症に関連する酸化ストレスの低減、腸の透過性の制御、保護機能を有する有益なグラム陽性菌のコロニー形成の支持、抗原提示細胞の機能の制御、毒性のペプチドと宿主の免疫適格性上皮細胞との相互作用の阻害、金属プロテアーゼとの相互作用、細胞周期およびアポトーシスの制御、細胞の増殖および分化の制御、および神経内分泌機能の制御などの効果である。ただし、これらの効果は例示にすぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。(De Stefano et al., 2007. Lycopene, quercetin and tyrosol prevent macrophage activation induced by gliadin and IFN-γ.Eur J Pharmacol. 2; 566 (1-3):192-9; Silano et al., 2007. A decapeptide from durum wheat prevents celiac peripheral blood lymphocytes from activation by gliadin peptides. Pediatr Res. 61(1):67-71; Gross et al. 2007. Role of neuropeptides in inflammatory bowel disease. Inflamm Bowel Dis. 3(7):918-32)。
【0044】
本発明の微生物は、好ましくはビフィドバクテリウム属に属する。この属の微生物は、食品、新規食品、プロバイオティクス、シンバイオティクス、食品サプリメント、栄養補助食品、およびセリアック病およびその関連疾患の治療または予防のための医薬製剤の調製において長所を有する。ビフィドバクテリウム属は、新生児の腸管にコロニーを形成する特殊な能力を有し、新生児の防御の発達に大きく寄与する。
【0045】
ある具体的な実施形態において、本発明の微生物は、好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)種に属する。一例をあげると、この種に属する本発明の菌株は、健康な母乳栄養児の糞便から単離され、16S rRNA遺伝子(実施例6)およびtuf遺伝子の配列決定によって特定された。なお、この例によって本発明の権利範囲が限定されるものではない。配列決定された断片(1437塩基)は、プライマー27fおよびプライマー1401rを使ってPCRによって増幅され、配列決定には、文献(Satokari et al., 2001. Appl. Environ. Microbiol. 67, 504-513; Favier et al. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68, 219-226)に記載の方法にしたがって、プライマー530fおよびプライマーU−968fをも使用した。得られた配列を、データベース(GenBank)中の既知の配列とアラインメントしたところ、ビフィドバクテリウム・ロンガム種の14の異なる菌株およびその中でもビフィドバクテリウム・ロンガムBG3(受託番号AY735403.1)と同一の配列について、最大類似度が検出された。Ventura et al. (Analysis, characterization, and loci of the tuf genes in Lactobacillus and Bifidobacterium species and their direct application for species identification. Appl Environ Microbiol. 2003; 69(11):6908-22)に記載のプライマーを使って、tuf遺伝子(498pb)の一部が増幅され、配列決定された。この場合にもまた、B.longum種について、具体的には、上記と同じ方法にそって、菌株B.longum ATCC 15707(受託番号AY372042.1)に対応する配列について、最大類似度が検出された。
【0046】
これは、他の適宜選別されるこの属および種の菌株と同様の方法で本発明の免疫系を制御するための理想的な性質を、B.longumが提供し、グルテンの摂取に関連する疾患を有する個々の患者において同じ有益な効果を提供することを示している。
【0047】
本発明の別の態様は、B.longum種に属し、国際寄託(スペイン)(Coleccion Espanola de Cultivos Tipo−CECT、本部:Burjassot(Valencia))に2007年12月20日に寄託された(受託番号CECT 7347)菌株に関する。この菌株は、実施例6に記載するように、データベース(GenBank)に現在登録されている他の種との、16S rRNA遺伝子配列における相同性によれば、また、この菌株とは別の菌株とのtuf遺伝子における相同性によれば、B.longum種に属する。後者は、医薬製剤または医薬、食品(新規な食品または機能的食品)または栄養補助物、または食品サプリメントにおいて使用することを可能にする性質を有する、ビフィドバクテリウム属の菌株の一例である。
【0048】
本発明の微生物、および好ましくは本発明の菌株は、その保護性および代謝性を相乗作用または相補的作用を通じて向上させるために、他の微生物および生理活性化合物と組み合わせてもよい。この相乗作用または相補的作用の例としては、例えば、制御性のサイトカインの全合成量およびその種類が増加すること、病原菌に対する阻害能力および腸内バリア機能が強化されること、ならびにペプチダーゼおよび消化を助けるその他の酵素が、その全濃度または種類および特異性を増加させることによって寄与を増加させることなどがあげられる。
【0049】
したがって、本発明の別の態様は、ビフィドバクテリウム属を他の微生物または生理活性化合物と相補的および/または相乗効果的に組み合わせた、免疫制御性の応答、およびグルテンの免疫原性を有する毒性のペプチドの分解を助ける組み合わせを含む。微生物の一例をあげると、B.longumATCC 15707株が、表1(実施例1)に示すように、IL−10の合成を誘導する高い能力を有することによって、本発明の菌株の免疫調節効果を補強することができる。この作用は、第2の菌株によってのみ生成されるTGF−βの誘導も補完する(表1、実施例1)。また、ラクトコッカス・ラクティスNCD0712株は、ビフィドバクテリウム属によるグルテンペプチドの分解を補完および強化することができ、これにより、細胞エンドペプチダーゼとともに、細胞外タンパク質分解活性を有するので、グルテンの毒性のエピトープの濃度、ならびにそのエピトープの腸に対する損傷および腸外の損傷を低減することができる。タンパク質分解活性の強化は、実施例2および図1に示すが、この例では、本発明の菌株およびラクトコッカス・ラクティスNCD0712(図1、パネルB、レーン3および4)の細胞懸濁液とともに、グリアジンによって消化されたサンプルをインキュベートした後に、タンパク質のバンドがほぼ完全に消滅することがわかる。この加水分解は、本発明の菌株のみを用いてなされる加水分解に比べて、よく進行した(図1、パネルA、レーン3および4)。
【0050】
本発明の別の態様は、本発明の微生物、好ましくは、本発明の菌株、ならびに免疫調節を目的として別の方法(凍結、加熱、放射など)によって不活性化された生存不能な、本発明の微生物および本発明の菌株の等価物の使用に関する。
【0051】
別の方法(凍結、加熱、放射など)によって不活性化された本発明の生存不能な微生物は、治療目的または予防目的のための有用性が持続されており、また、本発明の一部でもある。ビフィドバクテリウム属の免疫調節効果は、少なくとも部分的には、構造的構成物質(DNA、細胞壁の成分など)によって奏される。これによって、ビフィドバクテリウム属が、生存能を必ずしも維持しなくても、その免疫調節特性の一部を維持することが可能になる(Lammers et al., 2003. Immunomodulatory effects of probiotic bacteria DNA: IL-1 and IL-10 response in human peripheral blood mononuclear cells. FEMS Immunol Med Microbiol. 38: 165-72)。したがって、実施例3および表3は、周期的に凍結および解凍することによって不活性化された本発明の菌株の細胞懸濁液は、末梢血単核球とともにコ−インキュベートされると、炎症促進性のサイトカイン(例えばIFN−γ)の合成量を低減させ、かつ制御性のサイトカイン(例えばIL−10)の合成量を増加させることによって、グリアジンによって引き起こされる炎症促進性応答を調節することができることを示す。
【0052】
また、周知の手法によって得られる、本発明の微生物から生成される生理活性化合物、例えば構造的化合物、代謝から得られる化合物、本発明の微生物または菌株のいずれかによって分泌される分子などは、本発明の一部をなし、免疫応答を調節するために使用可能である。例えば、遠心分離、濾過、凍結乾燥、沈殿、超音波処理、機械的細胞攪乱および化学的細胞攪乱、酵素および/または化学的媒介物を有する培養物に基づいた化合物の抽出、クロマトグラフィー手法を用いた分離、上記化合物をコードする遺伝子のクローニング、および上記化合物の過剰発現などを含む物理化学的手法および生物工学的手法である。
【0053】
実施例1および表1は、ビフィドバクテリウム属の細胞表層の一部を形成する構造的成分が、少なくとも部分的には、制御性のサイトカイン(IL−10およびTGF−β)の誘導および生成の原因となることを示す。実施例3および表3では、グリアジンによって消化されたサンプルが、本発明の菌株の生存不能な細胞懸濁液とともにコ−インキュベートされ、同実施例および表には、これらの細胞の構造的成分が、グリアジンによってもたらされる炎症促進性応答を低減できること、および制御性のサイトカイン(IL−10)の合成量を増加させられることも示されている。同様に、本発明の菌株によって分泌される構造的成分、代謝物、および物質は、実施例4および表4に示すように、セリアック病患者から単離された、潜在的に病原菌となりうる菌の増殖を阻害する効果を発揮した。上記の実施例では、本菌株の細胞培養の阻害効果を二重層法により評価した。この評価法では、阻害効果がこれらすべての成分の相乗効果的作用によって引き起こされるように、細胞ならびに代謝物および分泌物の両方を病原微生物に接触するように配置する。さらに、先に凍結乾燥しておいた細胞を含まない培養物の上清を阻害性媒介物として使用することによって、ビフィドバクテリウム属が培養液に分泌する代謝物および化合物の該阻害効果を評価した。このようにして、培養液に放出された化合物が、セリアック病患者の単離された潜在的な病原体に対して阻害効果を奏することが示された(表5)。
【0054】
本発明の具体的な実施形態において、本発明の微生物、本発明の組成物、本発明における生成された生理活性化合物、本発明の上清、本発明の抽出物、本発明の医薬品または栄養性の組成物、本発明の菌株、その細胞成分または細胞成分分画、その代謝によって生じる化合物、ならびに分泌される分子およびこれらの組み合わせは、グルテンの有害なペプチドまたは他の食物アレルギーによって引き起こされる自然免疫応答および適応免疫応答を制御または調節できることを特徴とする。
【0055】
本発明の菌株は、セリアック病およびその関連疾患(ダウン症候群、糖尿病1型、疱疹状皮膚炎、ミオパチー、多発性硬化症、関節炎、自閉症、統合失調症、鬱病、リンパ腫および運動失調)に特徴的なTh1型炎症促進性応答、およびコムギおよび他の穀物性タンパク質の摂取の結果引き起こされるTh2型アレルギー性反応を、制御することができる免疫調節特性が得られるように選別された。この菌株は、末梢血単核球(PBMC;実施例1、表1)によって、サイトカインTh1 IFN−γ(例えば<100pm/ml)および炎症促進性のサイトカインIL−1(例えば<150pm/ml)のわずかな生成を誘導する能力、ならびに制御性のサイトカインIL10(例えば>800pm/ml)およびTGF−β(例えば>50pmol/m)の多量の生成を誘導することを特徴とする。これらのビフィドバクテリウム属によって誘導されたサイトカインのプロファイルは、すべてのビフィドバクテリウム属およびヒトの腸の乳酸菌(実施例1、表1)に共通して見られる特徴ではなく、活動型セリアック病に罹患しやすくなっている個々の患者および活動型セリアック病患者においてコムギタンパク質がもたらす異常免疫応答を調節するために、特に理想的なプロファイルである。これらの試験(実施例1および表1)において刺激として選別された菌株の細胞懸濁液を使用する場合に、これらの免疫調節効果が検出されることは、このビフィドバクテリウム属の細胞表層の一部を形成する構造的成分が、制御性のサイトカインの生成(IL−10およびTGF−β)を誘導することにより、グルテンペプチドが有する毒性および免疫原性による効果を低減させ得ることの、少なくとも部分的な原因となることを示唆している。また、実施例3および表3では、グリアジンによって消化されたサンプルとともにコ−インキュベートされた本発明の菌株(周期的に凍結および解凍することによって不活性化されている)の生存不能な細胞懸濁液を使用することによって、グリアジンによって引き起こされる炎症促進性のサイトカイン(例えばINF−γおよびIL−15)の合成量を低減すること、および制御性のサイトカイン(例えばINFIL−10)の合成量を増加させることができることが示されている。したがって、細菌の生存能を厳密に必ずしも維持しなくても、ビフィドバクテリウム属の細胞の構造的成分が、グルテンによって引き起こされる異常免疫応答を制御することができることが実証される。
【0056】
本発明の微生物、本発明の菌株、本発明における生成された生理活性化合物、その細胞成分、代謝によって生じる化合物、分泌される分子、およびこれらの組み合わせは、セリアック病患者の胃腸管から単離された有害な細菌、例えば炎症促進性を有する細菌、および病原性因子を有する細菌などに対する防御バリア機能を強化できることを特徴とする。
【0057】
本発明の微生物は、セリアック病患者の腸から単離された、病原性となる潜在的能力および有毒となる潜在的能力を有する細菌を阻害することができる(実施例4、表4および5)。これらの病原体には、病原要因(例えば線毛)をコードし、毒性のある系統学的なグループ(例えば、B2)に属する大腸菌(Escherichia coli)種の菌株、バクテロイデス属(Bacteroides)の菌株、組織の障害に寄与する金属プロテアーゼを生成するその他の属の菌株、十二指腸のバイオプシーから単離された溶血性の菌株などが含まれる。実施例4および表4では、この菌株の細胞培養物全体における、セリアック病患者から単離された病原体に対する阻害効果が二重層法を使って示され、またこの方法によって、これらの効果が本発明の菌株によって分泌される構造的成分、代謝物、および物質によって引き起こされることが実証されている。表5もまた、このビフィドバクテリウム属が培地に分泌した代謝物および化合物のみを含有する、この菌株の培養物の細胞を含まない上清の阻害効果を示している。どちらの場合も、比較目的の他の菌株を使ってアッセイして得た阻害効果に比較して、選別した菌株を使って得られる阻害効果は大きい。このようにして、本発明の微生物または本発明の菌株は、腸内生態系の復元に寄与し、また、炎症のプロセスを助け、上皮の透過性を増加させる微生物起源の抗原性負荷の低減にも寄与する。同様に、この選別された菌株は、末梢血単核球において、セリアック病患者の腸内の細菌叢によって活性化される炎症促進性のサイトカイン(例えばIFN−γおよびTNF−α)の合成を阻害することができる。例えば、セリアック病患者の細菌叢を用いた活性化状態でPBMCによって生成されるIFN−γの濃度、およびTNF−αの濃度は、本発明の菌株の存在下で、それぞれ、90.8pmol/mlから8.2pmol/mlに、1966.3pmol/mlから295.2pmol/mlに低減される(実施例7)。この菌株は、セリアック病患者の腸内の細菌叢によって同時に低減される制御性のサイトカイン(IL−10)の合成を、活性化することもできる。このようにして、例えば、セリアック病患者の細菌叢によって誘導されるIL−10の値は、ビフィドバクテリウム属の菌株IATA−H1の活性化によって、49.3pmol/mlから107.5pmol/mlに増加する。この免疫調節機構によって、この選別された菌株が、腸のバランスの復元に寄与することができ、また、有害な細菌叢によって引き起こされ、さらにグルテンによっても引き起こされることによって炎症を永続化させる悪循環を発生させ得る、免疫系の過剰な活性化の回避に寄与することができる。
【0058】
また、本発明の微生物は、胃腸における消化の結果生じるグルテンペプチドを輸送する能力を有し、こうすることによって、有害なエピトープの濃度を低減することを特徴とする。
【0059】
具体的に、本発明の菌株は、胃腸におけるグリアジンの消化、ペプシン(P)の作用を利用した胃における消化の結果生じる生成物、およびトリプシン(T)およびパンクレアチン(X)の作用を利用した腸における消化により生成される毒性のペプチドを受容する能力を有する(実施例2、図1)。選別された株の生存可能な細菌の存在下でグリアジンをインキュベートすることによって、グリアジンの濃度、およびELISAサンドイッチ法によってR5抗体を使って同定される毒性のエピトープの存在量が低減される。したがって、該インキュベーションによって、腸内および腸外のレベルで起こりうる有害な効果が低減される。例えば、ELISAサンドイッチ法によって決定される2349ppmのグルテンの、(実施例2に示すように)ペプシン、トリプシン、およびパンクレアチンで消化されたグリアジンのサンプルの毒性のエピトープの濃度が、本発明の菌株の細胞懸濁液を用いてインキュベートした後に、グルテンが169ppmにまで低減された。同様に、胃腸と同じ条件で消化され、除去サイズが15kDa未満の膜を用いて透析されたグリアジンを用いて本発明の菌株をインキュベートし、つづいて該菌株を逆相HPLCによって分析することによって、#2画分の濃度を少なくとも10%低減する、このビフィドバクテリウム属の能力が明らかになった。これは、試験を行った他の菌株が持たない性質である(実施例8、図2)。なお、#2画分は、消化されたグリアジンの主要画分であり、質量分析によって特定される免疫原性ペプチドを含有する画分である。B.longum IATA−ES1株のこの性質が有する、腸の上皮に対する生物学的効果は、実施例8に記載のように、グリアジンによって消化された別のサンプルのCaco−2細胞培養におけるインキュベーション後、実証された。この実施例は、試験を行った他の菌株とは異なり、本発明の菌株は、上皮細胞の生存能を上記のように増加させることができることを実証している(実施例8、図3)。また、本発明の菌株をグリアジンによって消化されたサンプルとともにコ−インキュベートすることによって、炎症促進性のサイトカイン(例えばTNF−α)の合成、および炎症促進性の遺伝子の発現の原因となるNκB因子の発現に対する後者の効果が減少した(実施例8、図4)。
【0060】
グリアジンの消化により生成されるオリゴペプチドを捕獲する、本発明の微生物、好ましくは本発明の菌株の能力は、腸内と同じ条件、および胆汁塩の存在下で再現される。ラクトコッカス・ラクティス NCDO712とともにコ−インキュベートすることによって、この再現能力は増強される(実施例2、図1)。なお、該NCDO712は、大腸にコロニーを形成することはできないが、壁にアンカーされたプロテアーゼおよびその他のペプチダーゼの作用を利用して、摂取されたグルテンを加水分解する第1の段階において共通補助剤として作用することはできる。ラクトコッカス・ラクティス NCD0712の作用を利用したタンパク質分解活性の強化は、図1で実証されている。同図からは、グリアジンによって消化されたサンプルを本発明の菌株、およびラクトコッカス・ラクティス NCD0712の細胞懸濁液を用いてインキュベートした後に、タンパク質のバンドがほぼ完全に消滅したことがわかる(図1、パネルB、レーン3および4)。この加水分解は、本発明の菌株だけを使ってなされる加水分解に比べて、よく進行した(図1、パネルA、レーン3および4)。グルテンに対するビフィドバクテリウム属の活性はまた、抽出物の形態において、ラクトコッカス・ラクティス NCDO712のプロテアーゼおよびペプチダーゼとともにコ−インキュベートすることによって増強可能である。
【0061】
本発明の菌株は、有害抗原として作用するペプチドを代謝するだけではなく、免疫制御性の機構を利用することによっても、グルテンの毒性のペプチドと個々の患者の免疫応答性細胞との相互作用によって引き起こされる異常な免疫応答を調節することができる(実施例3、表3)。胃腸においてグリアジンによって消化されたサンプルの存在下でPBMCととにもコ−インキュベートされた、選別された菌株の生存可能なまたは不活性化された細菌懸濁液は、胃のペプシン(P)、腸のトリプシン(T)、およびパンクレアチン(X)の作用によって、消化のそれぞれの局面においてこれらのタンパク質の炎症促進性効果に対抗することができる。本菌株は、適応免疫応答および自然免疫応答の原因となる、炎症促進性のサイトカインIFN−γ、IL−1、IL−8、およびIL15の生成量の低減、ならびに制御性のサイトカインIL−10の合成量の増加を誘導することができる(実施例3、表3)。これらの効果は、少なくとも部分的に、ELISAアッセイ(Trans AM NFκB, Active Motive、ベルギー)によって決定される核内因子(NF)κB、p50、p65(RelA)、c−Rel、およびRel Bの別のサブユニットの阻害が原因である。この転写因子の阻害は、炎症プロセス、具体的には、セリアック病において発生する炎症プロセスの、キーとなる制御点を表わす多数の炎症促進性の遺伝子の発現の阻害をともなう(Jelinkova et al., 2004. Gliadin stimulates human monocytes to production of IL-8 and TNF-alpha through a mechanism involving NF-κB. FEBS Lett. 571(1-3):81-5)。
【0062】
本発明の微生物、本発明における生成された生理活性化合物、その細胞成分、代謝によって生じる化合物、分泌される分子、およびこれらの組み合わせは、そのペプチダーゼ活性によってグルテンペプチドを加水分解することができ、有害なエピトープの濃度を低減することを特徴とする。一例をあげると、本発明の菌株は、広い特異性を有するペプチダーゼと、プロリンを含有する基質に対する特異性を有するペプチダーゼとを有する。この基質はグリアジン中に非常に豊富に存在し、既存の酵素によるグルテンペプチドの加水分解を制限する(実施例2、表2)。具体的に、この菌株は、最も活発なイミノペプチダーゼ活性(>300U/mg protein)を有する菌株の一つである。同様に本菌株は、プロリル−エンドペプチダーゼ活性(>8U/mg protein)、X−プロリル−ジペプチジル−ペプチダーゼ(>15U/mg protein)、ならびにプロリダーゼおよびプロリナーゼ活性(>15U/mg protein)を提供する。本菌株は、トリペプチダーゼ活性(基質Gleu−Gly−Glyに対して、>130U/mg protein)およびロイシル−アミノペプチダーゼ活性(>70U/mg protein)をも有する。プロリンを含有する基質(例えばPro−pNA)に対するこの菌株の活性は、他の乳酸菌において検出される活性(特にPro−pNA/Leu−pNA活性比)より高い(Di Cagno et al. 2004. Sourdough bread made from wheat and nontoxic flours and started with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue patients. Appl Environ Microbiol. 70:1088-96; De Angelis et al. 2006. VSL#3 probiotic preparation has the capacity to hydrolyze gliadin polypeptides responsible for celiac sprue. Biochim Biophys Acta. 2006 1762(1):80-93)。プロリンを含有する基質に対するこの高い活性は、プロリンの含有量が多いグルテンペプチドの特異的な加水分解を助ける。
【0063】
このように、本発明の菌株、本発明における生成された生理活性化合物、細胞成分、代謝によって生じる化合物、分泌される分子、およびこれらの組み合わせは、食事によって摂取された栄養分の消化を助け、吸収疾患症候群およびセリアック病患者に特徴的な栄養不足を改善するペプチダーゼ(例えば、ホスファターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、およびN−アセチル−グルコサミニダーゼ)の活性に加えて、代謝活性を有する。
【0064】
最後に、別の具体的な実施形態は、グルテンの摂取またはその他の食物アレルギーに関連する疾患を有する患者のリスクを低減し、健康状態を改善するための剤形の生成における、本発明の微生物、本発明における生成された生理活性化合物、細胞成分、代謝によって生じる化合物、分泌される分子、およびこれらの他の微生物との組み合わせの使用である。
【0065】
本発明の菌株を使って調製される剤形は、工業的に製造可能であって、例えば食品(機能的食品、既存の食品、および新規食品)、食品サプリメント、栄養補助食品、薬学的組成物、プロバイオティクス、および/またはシンバイオティクス、または新規な食品などの、消費に対する様々な提供形態を創造する(ただしこれらは例示にすぎないのであって、本発明の権利範囲を限定するものではない)。
【0066】
本発明の菌株は、ムチン(1%〜4%)に対する接着能を有し、胃酸のpH(2.0;2.5および3.0)ならびに小腸に存在する高濃度の胆汁塩(0.5;1.0;2.0;および3.0%)に対する耐性を有する。この耐性は、プロバイオティクスが腸管を通過する際における、ならびに食品発酵のプロセスおよび保存期間中における、プロバイオティクスの生存を制限する主要な生物学的バリアを構成する(実施例5、表6)。例えば、本菌株は、pH2.0〜2.5で90分間のインキュベーションを行った後、56%〜86%の生存能および増殖能を維持する。したがって、本菌株は、表6からわかるように、他の単離された菌株および現在市販のプロバイオティクスの一部に比べて、高い確率で生存し、かつ機能する。本菌株は、インビボで胃腸内の通過に対する耐性を有する。発酵乳の形態で、10−10cfu/mlの投与量を一日2回、4週間のあいだ投与した後、本菌株は糞便から回収され、その濃度は、初期濃度(プロバイオティクス製品を摂取していない状態)に対して、対数表示では少なくとも1単位増加する。選別されたビフィドバクテリウム属は、各種食品および飲み物の中で増殖し、生存可能な状態で残存し、ビフィドバクテリウム属の摂取のための理想的なキャリアを形成する。例えば、選別されたビフィドバクテリウム属は、乳を発酵および凝固させることができ、発酵乳および他の乳の誘導体の調製のために使用可能である。選別されたビフィドバクテリウム属は、食品、食品サプリメント、および医薬製剤を製造および保存するための技術的処理(例えば、凍結乾燥温度および冷蔵温度)に対しても耐性を有し、工業的に利用可能であることを保証している。
【0067】
本発明の具体的な態様は、本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明における生成された生理活性化合物を、食品の形態で剤形を調製するために使用することを含む。
【0068】
このように、本発明の微生物は、食品剤形の一部を形成することができ、通常の栄養価を超えた、グルテン摂取に関連する疾患を有する患者の健康上のリスクの低減および健康状態の改善に対する、有益な効果を提供する。
【0069】
本発明の別の具体的な態様は、本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明における生成された生理活性化合物を、非食品マトリクスで提供され、天然の生理活性物質と定義づけられる、栄養補助食品の形態で製剤を生成する際に使用することを含む。なお、この場合、この栄養補助食品は、グルテン摂取に関連する疾患を有する患者において有益な効果を奏し、患者のリスクを低減し、健康状態を改善する。
【0070】
本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明における生成された生理活性化合物を使用して、健康補助食品または食品サプリメントを得る場合、この健康補助食品または食品サプリメントは、その組成中に、健康を目的として食事を補完することを視野に入れた、および特定の場合には、グルテン摂取に関連する疾患を有する患者において有益な効果を奏し、患者のリスクを低減し、健康を向上させる目的で、微生物または微生物により生成される生理活性化合物を含む。
【0071】
本発明の別の具体的な態様は、本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明の生理活性化合物を、医薬製剤の生成において使用することを含む。この場合、この医薬製剤は、グルテン摂取に関連する疾患を有する患者の健康上のリスクの低減および健康状態の改善に対して有益な効果を奏する医薬として使用可能な、生物学的にアクティブな組成物の調製において使用される。
【0072】
本発明の別の具体的な実施形態では、本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明の生理活性化合物は、プロバイオティクスおよび/またはシンバイオティクス(プロバイオティクスおよびプレバイオティクスの組み合わせ)の生成において使用され、そこでは、該微生物は、例えば生きている状態または凍結乾燥された状態で、食品アレルギー、好ましくはグルテンの摂取に関連するアレルギーを有する個々の患者に対して有益な効果または治療用効果を実現することができる、適切な量および条件で組み込まれ、こうすることによって、患者のリスクを低減し、健康状態を改善する。
【0073】
最後に、本発明の具体的な目的は、本発明の微生物、本発明の菌株、または本発明の生理活性化合物を、新しい食品の調製において使用することを含む。新規な食品とは、グルテン摂取に関連する疾患に罹患している患者において有益な効果を奏し、患者のリスクを低減し、健康状態を改善し得る、欧州連合内で1997年5月15日の時点までの間に人が食するために通常供されなかったあらゆる食品または成分を意味する。
【0074】
〔実施例〕
〔実施例1:ビフィドバクテリウム属の菌株を、末梢血単核球(PBMC)においてサイトカインの生成を調節する能力によって選別する方法〕
(1.ビフィドバクテリウム属およびその他の腸の乳酸菌の培養物および上清の調製)
24時間培養したこれらの菌株を、0.05%のシステイン(MRS−C)を含有する10mlのMRS増殖培地(Scharlau Chemie S.A.、Barcelona、Spain)に、1%において播種し、嫌気条件において37℃で22時間インキュベートした。(AnaeroGen;Oxoid、Basingstoke、UK)。遠心分離(6,000g、15分間)によって細胞を回収し、PBS(リン酸ナトリウム10mM、塩化ナトリウム130mM、pH7.4)で二回洗浄し、20%のグリセロールを含有するPBSに再懸濁した。これらの懸濁液を等分した試料を液体窒素により凍結させ、−80℃で保存した。MRSCプレート上で48時間インキュベートした後に計数することによって、凍結・融解サイクルを経た後の生細胞の個数を決定した。生存率は、どの場合にも90%を超えていた。等分した各試料は1回の試験にのみ使用した。死滅した細菌による効果を評価するために、いくつかの試料について低温による不活性化(−20℃で凍結して融解することを3回繰り返す)および熱による不活性化(30分間、80℃)を行なった。得られた上清のpH値をNaOHにより7.2に調整し、濾過(孔径0.22μm、Millipore社、Bedford、MA)して、わずかに存在する生細胞を取り除くことによってエステル化した。細胞を含まない該上清の等分試料を、次に使用するまで−80℃で保存した。
【0075】
(2.PBMCの単離および活性化)
ヘパリンを含むチューブ内における、4人の健康なボランティア(24歳〜40歳、平均年齢30歳)の末梢血液から、PBMCを単離した。このPBMCを、フィコール勾配(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)中において遠心分離することによって単離した。RPMI1640培地(Cambrex社、New York、USA)を用いて細胞を洗浄し、10%のウシ胎児血清(Gibco社、Barcelona、Spain)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、および100U/mlのペニシリン(Sigma社)をさらに含有するRPMI1640培地により1×10個/mlの密度に調節した。このPBMCを、刺激剤の存在下または非存在下で、平底型24ウェルのポリスチレン製プレート(Corning社、Madrid、Spain)において、5%のCOのもとで、37℃で24時間インキュベートした。生存細菌と死滅細菌との懸濁液を、1×10CFU/ml、および上清の容量を150μlにおいて、刺激として使用した。ポジティブコントロールとして、大腸菌(E.coli)O111:B4の、精製されたリポ多糖類(purified lipopolysaccharide:LPS)(Sigma, St. Louis, MO)を、1μg/mlの濃度で使用した。ネガティブコントロールとして、非活性化されたPBMCにおけるサイトカインの産生量について試験を行った。各種類の刺激について、各実験つき2回ずつ試験した。培養上清を遠心分離によって回収し、分割し、等分試料の形態で、サイトカインの検出まで−20℃で保存した。
【0076】
(3.サイトカインの同定)
ELISA Bioscience kit(BD Biosciences、San Diego、CA)を製造業者の指示にしたがって使用して、上述した上清のサイトカイン(IL−1、IFN−γ、IL−10、およびTGF−β)の濃度を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
〔実施例2:グルテンペプチドを加水分解し輸送することによって、グルテンペプチドの毒性を低減できるビフィドバクテリウム属を選別する方法〕
グルテンの免疫学的な毒性応答の原因となるペプチド内に存在する、プロリンを含有するペプチド配列を加水分解するための、広範囲の細胞内ペプチダーゼおよび特定の細胞内ペプチダーゼの活性を定量化することによって、グルテンから生成されるタンパク質およびペプチドを加水分解する菌株の能力を測定した。MRSCにおいて16時間〜18時間増殖させた細菌性培養物の細胞を、遠心分離(9000×g、10分間、4℃)によって回収し、50mMのTris緩衝液(pH7)で二回洗浄し、同じ緩衝液により、最初の培養体積に対して10倍に濃縮して再懸濁した。細胞の体積に対して2倍の体積のガラスビーズを加え、Bead−Beater(Biospec Products社、USA)を使って、1.5分間のパルスを2回印加して、この細胞を機械的に破壊した。遠心分離(8000g、10分間)にかけて、不溶解性の断片および細胞を取り除いた後に得られた上清を、活性試験のための酵素の抽出液として使用した。試験を行った基質は、以下に列挙する。すなわち、幅広い特異性を有するアミノペプチダーゼを検出するためのLeu−パラニトロアニリド(−pNA)、幅広い特異性を有するアミノペプチダーゼおよびトリペプチダーゼを検出するためのLeu−Leu−Gly、プロリル−エンドペプチダーゼを検出するためのSuc−Ala−Pro−pNA、イミノペプチダーゼを検出するためのPro−AMC、X−プロリル−ジペプチジル−ペプチダーゼを検出するためのGly−Pro−AMC;プロリダーゼを検出するためのVal−Pro、およびプロリナーゼを検出するためのPro−Glyである。パラニトロアニリドから生じる基質の場合、反応混合液は、0.5mMの基質および50μlの酵素の抽出液を含有する200μlの50mMリン酸塩緩衝液(pH7.2)により構成した。該反応混合液を、37℃で最大30分間インキュベートした。上述した基質の加水分解およびパラニトロアニリンの放出を、分光光度計(550 Microplate Reader、Bio−Rad、Hercules、CA、USA)を用いて419nmで監視した。L−アミノ酸オキシダーゼアッセイ(Hejgaard, 1978, Rapad assay to detect peptidases in column effluent fractions using L-amino acid oxidase. Analytical Biochem 90: 835-839)を用いて、ペプチドの加水分解を同定した。0.05mMの濃度を含む反応緩衝液の100μlを、50μlの酵素の抽出液とともに20分間インキュベートした。この期間につづいて、100μlのL−アミノ酸オキシダーゼ試薬を加え、5分間のインキュベーションの後、530nmにて吸光度を測定した。BioRad社の市販キット(Hercules、CA、USA)を使って、ブラッドフォード(Bradford)法により、タンパク質濃度を測定した。1ユニットの活性は、1μmolの基質を37℃で1分間に加水分解できる酵素の量として規定した。この活性を、U/mg タンパク質で表わした。
【0079】
グリアジンが消化されて生じるペプチドを輸送および加水分解する菌株の能力を、電気泳動によって同定した。この場合、細胞懸濁液を、655nmにおいて4の光学濃度(10cfu/mlと等価)に調節し、3つの異なるグリアジンの加水分解産物とともに、0.2%のグルコースを加えたPBSにて最終濃度300μg/ml〜600μg/mlとし、インキュベートした。グリアジンの加水分解産物(Sigma、St. Louis、MO)は、胃腸の消化のプロセスを以下のようにシミュレートすることによって得られた。すなわち、A)100gのグリアジンを、37°で2時間、2gの精製ペプシンによって1LのHCL 0.2N(pH:1.8)中で消化した(この加水分解産物をG−Pと称する)。B)その結果生じた消化物を、2NのNaOHを用いてpHを8に調節した後、2gのトリプシンを加えることによって、トリプシンにより消化した(この加水分解産物をG−P+Tと称する)。C)つぎに、この2度消化されたサンプルを、2gのパンクレアチンを用いて処理し、pH8において2時間攪拌した(この加水分解産物をG−P+T+Xと称する)。各段階での消化の後、サンプルを10,000gで10分間、遠心分離し、さらに別の試験のために、その上清を−20℃で保存した。消化されたサンプルを、100℃で30分間インキュベートすることによって不活性化した。細菌懸濁液を、3種類のグリアジンの加水分解産物(A、B、およびC)の存在下、37℃で6時間、嫌気条件においてインキュベートした。顕微鏡用の市販のシステムLIVE/DEAD BacLight Kit(Molecular Probes、Leiden、The Netherlands)を製造業者の指示にしたがって使用して、インキュベーション中の生存数の変化を同定した。生存細菌(緑)および死滅細菌(赤)を、オリンパス社のBX51型落射蛍光顕微鏡(東京、日本)で計数した。どの場合にも、インキュベーションの後、生存数減少の最小値(0.0%〜11.5%)が検出された。インキュベーション期間の後、遠心分離にかけて不溶解性の細胞およびタンパク質を取り除き、上清を濾過(孔径0.22μm、Millipore社、Bedford、MA)して、わずかに存在している生細胞を取り除くことによってエステル化した。慣用されている15%ポリアクリルアミドゲル、およびTris−トリシンゲル(直線勾配10%〜20%のReadyゲル、濃縮用ゲル4%、Bio−Rad社、Barcelona、Spain)を用いて、ペプチドを分離し、バンドの消滅を、評価することによって、複数種類のグリアジンの加水分解産物を輸送および使用する菌株の能力を同定した。タンパク質は、Coomassie Brilliant Blue R−250で染色することによって視覚化した。選別された細菌の作用による、グリアジンの輸送および消化の結果生じた毒性のエピトープの低減を、ELISAサンドイッチ法 R5 アッセイ(Centro Nacional de Biotecnologia、Madrid)により評価した。
【0080】
【表2】

【0081】
〔実施例3:免疫調節特性のために選別したビフィドバクテリウム属の菌株とのコ−インキュベーションを用いた、免疫応答性細胞においてグリアジンによって引き起こされる免疫応答の選別制御〕
選別された菌株(10−10CFU/ml)の懸濁液と、比較目的のためのその他の懸濁液とを、実施例3に記載のようにして得られた複数種類のグリアジンの加水分解産物(P、P+T、およびP+T+P)、およびPBMCとともに、濃度10cfc/mlで24時間インキュベートした。コントロール刺激として、細菌および大腸菌(E.coli)O111:B4のLPSを含まない、複数種類のグリアジンの加水分解産物を使用した。また、いかなる刺激をも加えない条件で、基底のサイトカイン産生を検出した。PBMCを単離する方法、活性化する方法、およびサイトカインを検出するための方法は、実施例1に記載した通りである。
【0082】
【表3】

【0083】
〔実施例4:潜在的な病原性を有するセリアック病患者の腸の細菌叢からの単離菌の増殖を阻害する、選別されたビフィドバクテリウム属の能力〕
実施例1に記載の方法につづいて、免疫調節特性にしたがって先に選別されたビフィドバクテリウム属の菌株の抗微生物活性を、(i)二重層法および(ii)寒天拡散法の2つの方法で同定した。
【0084】
潜在的な病原性を有する、セリアック病患者の腸内の細菌叢から単離された細菌を指示菌として使った二重層法で、各菌株の抗菌活性を包括的に評価した。ビフィドバクテリウム属はMRS−Cプレートにおいて約2cmの線状に増殖させ、最適な条件で16時間インキュベートし、その後のビフィドバクテリウム属の成長をクロロホルムにより阻害した。指示菌を、10−10CFU/mlの濃度で10mlの適切な半流動性寒天に播種し、保護菌の寒天の層の上に注ぎ、嫌気条件において37℃でインキュベートした。24時間後に、ビフィドバクテリウム属の培養線の周囲における阻害輪(inhibition halo)を測定した。
【0085】
タンパク質特性を有する化合物の分泌に起因する抗菌活性を評価するために、寒天において拡散させる手法を使用した。各ビフィドバクテリウム属を24時間培養したものを、10mlのMRS−C増殖培地に1%で播種し、37℃で16時間インキュベートした。遠心分離(12.000g、15分間、4℃)によって上清を得て、凍結乾燥によって濃縮した。凍結乾燥させたサンプルを、pH6.5の50mMリン酸塩緩衝液1mlの中に再懸濁し、発酵によって生成される有機酸の効果を取り除くために、pHが6.5になるまでNaOHで中和し、濾過によって無菌化した。これらのサンプルは、ビフィドバクテリウム属によって生成された抗菌活性を有するタンパク質が同定される可能性がある、未精製の抽出液を構成した。指示菌を、10−10個/mlの濃度で10mlの適切な半流動性寒天に播種し、同じ培地の寒天の固体層の上に注いだ。固化後、5mmのウェルを作成し、各ビフィドバクテリウム属の、中和された無菌の抽出液を40μl加えた。抽出液を、4℃で4時間拡散させ、つづいて指示菌または病原性微生物に対して最適な条件でインキュベートした。インキュベートした後、ウェルの周囲の阻害輪を測定した。
【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
〔実施例5 胃腸のストレスの条件に対する、ビフィドバクテリウム属の耐性の評価〕
摂取後のプロバイオティクス生存能を制限する最初の生物学的バリアを構成する胃液の酸性条件に対する、単離されたビフィドバクテリウム属の耐性を、回収した個々の菌株について確認した。この確認をするために、3g/lのペプシン(Sigma、St. Louis、MO)を含有するPBSにおいて、各菌株の細胞懸濁液(10個/ml)を調製し、HClを用いてpHを2に調節し、37℃で合計120分間インキュベートした。MRS−C寒天プレートを用いて計数することにより生存能を決定するために、平均的な胃内容排出の時間(90分間)を含めた、それぞれ異なる時間(0分間、90分間、および120分間)において、一定分量を分取した。つづいて、酸性pHに対して耐性を有する菌株の、他のストレス条件、例えば胆汁、NaCl、および高温などに対する許容性を、調べた。調べる対象となる菌株の、胆汁に対する許容性を知るために、様々な濃度(0.5%〜1.5%)の牛胆汁エキス(Sigma、St. Louis、MO)を加えたMRS−Cにおいて、その菌株の増殖能力を評価した。各培地200μlの一定分量に、24時間培養したものを1%で播種し、マルチウェルプレートに載せ、37℃でインキュベートした。550 Microplate Reader分光光度計(Bio−Rad社、Hercules 、CA)を用いて、655nmにおける吸光度を測定することによって、増殖を監視した。
【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
〔実施例6:選別したビフィドバクテリウム属の単離および同定〕
分析に先立つ少なくとも1ヶ月間、ビフィドバクテリウム属を含有する食品を摂取せず、かつ、抗生物質を使ったいかなる治療も受けなかった健康な母乳栄養児の糞便から、ビフィドバクテリウム属の菌株を単離した。サンプルは4℃で保管し、回収から2時間以内に分析した。各サンプル2gを、濃度が130mMのNaCl(PBS)を含有する10mMのリン酸塩緩衝液で希釈し、Lab−Blender 400型ストマッカー(Seward Medical、London、UK)で3分間ホモジナイズし、そしてペプトン水で希釈した。多様な10倍希釈液の0.1mlの一定分量を、0.05%のシステイン(Sigma、St. Louis、MO;MRS−C)および80μg/mlのムピロシン(mupirocin)を含有するMRS寒天(Man Rogosa and Sharpe社、Scharlau、Barcelona)に播種した。嫌気条件における、37℃、48時間のインキュベーションにつづいて(AnaeroGen、Oxoid、UK)、単離されたコロニーを選別し、グラム染色法を利用してその形態を調べることによって、このコロニーの同一性を確認した。リボゾームの16S RNA遺伝子における1.35kbの断片を増幅するプライマー(LM26およびLM3)を用いて、Kaufman et al.(1997, Identification and quantification of Bifidobacterium species isolated from food with genus-specific 16S rRNA-targeted probes by colony hybridization and PCR. Appl. Environ. Microbiol. 63: 1268-1273)に記載の方法に基づいて、属特異的なPCRによって、単離された菌の同一性を確認した。また、全DNAから、16S rRNA遺伝子の配列を決定した。配列決定された断片を、プライマー27fおよび1401rを用いて増幅し、GFX(商標)PCRの市販のシステム(Amershan、Bioscience、UK)を用いて精製した。配列決定には、プライマー530fおよびU−968fについても、別の著者(Jonson, 1994. Similarity analysis of rRNAs. In Methods for General and Molecular Bacteriology; Gerhard, P.; Murray, R. G.E.; Wood, W.A.; Krieg, N.R., Eds. American Society for Microbiology, Washington, DC. Pp 683-700; Satokari et al., 2001. Bifidobacterial Diversity in Human Feces Detected by Genus-Specific PCR and Denaturating Gradient Gel Electrophoresis. Appl. Environ. Microbiol. 67, 504-513; Favier et al. 2002. Molecular Monitoring of Succession of Bacterial Communities in Human Neonates. Appl. Environ. Microbiol. 68, 219-22)によって記載された方法にしたがって使用した。配列決定は、自動DNA配列決定装置ABI 3700(Applied Biosystem社、Foster City、CA)を用いて実施された。最も緊密に関連する配列を、BLASTアルゴリズムを使ってGenBankデータベースで検索した(Altschul et a., 1990. Basic local alignment search tool. J. Mol Biol. 215, 403-410)。
【0092】
〔実施例7:活動型疾患を有するセリアック病患者およびグルテンを含まない食事による治療後の患者の、腸内の細菌叢が変化することによって引き起こされる炎症促進性応答を制御する、ビフィドバクテリウム属の菌株の能力の評価〕
(1.腸のビフィドバクテリウム属の評価用培養物および評価用糞便サンプルの準備)
ビフィドバクテリウム属の菌株を24時間培養したものを、約0.05%のシステイン(MRS−C)を含有する10mlのMRS増殖培地(Scharlau Chemie S.A.社、Barcelona、Spain)に、1%で播種し、嫌気条件において37℃で22時間インキュベートした(AnaeroGen; Oxoid、Basingstoke、UK)。遠心分離によって(6,000g、15分間)細胞を回収し、PBS(10mMのリン酸ナトリウム、130mMの塩化ナトリウム、pH7.4)で2回洗浄し、20%のグリセロールを含有するPBSで再懸濁した。これらの懸濁液の等分試料を、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。凍結・融解サイクルを経た後の生細胞の個数を、48時間のインキュベーションの後にMRSCプレート上で再計数することによって決定した。生存率は、どの場合にも90%を超えていた。各試料は1回の試験にだけ使用した。
【0093】
(診断時に)活動型疾患をともない、グルテンを含まない食事により少なくとも2年間の治療を受けたセリアック病患者から採取した糞便を、末梢血単核球において刺激として使用するために、リン酸塩緩衝液で1/10に希釈し、ストマッカーにおいて3分間〜5分間ホモジナイズし、−20℃で凍結させた。コントロールとして、糞便サンプルを健常者からも採取した。
【0094】
(2.PBMCの単離および活性化)
ヘパリンを含むチューブ内において、4人の健康なボランティア(24歳〜40歳、平均年齢30歳)の末梢血液のPBMCを単離した。このPBMCは、フィコール勾配(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)中において遠心分離することによって単離した。RPMI1640培地(Cambrex社、New York、USA)を用いて細胞を洗浄し、10の%ウシ胎児血清(Gibco社、Barcelona、Spain)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、および100U/mlペニシリン(Sigma社)をさらに含有するRPMI1640培地より、1×10個/mlの密度に調節した。このPBMCを、刺激剤の存在下または非存在下で、平底型24ウェルのポリスチレン製プレート(Corning社、Madrid、Spain)において、5%のCO2のもとで、37℃で24時間インキュベートした。健常者、活動型セリアック病患者、および非活動型セリアック病患者の糞便の抽出物を、1×10CFU/mlの生存細菌の細胞懸濁液30μlの存在下または非存在下において、刺激として使用した。ポジティブコントロールとして、大腸菌O111:B4の、精製されたリポ多糖類(LPS)(Sigma、St. Louis、MO)を、1μg/mlの濃度で使用した。ネガティブコントロールとして、非活性化されたPBMCにおけるサイトカインの産生量について試験を行なった。刺激については、各種類を各実験つき二回ずつ試験した。培養の上清を、遠心分離によって回収し、分割し、等分試料の形態で、サイトカインの検出まで−20℃で保存した。
【0095】
(3.サイトカインおよび細胞性活性化マーカーの同定)
ELISA kits of Bioscience(BD Biosciences、San Diego、CA)を製造業者の指示にしたがって使用して、上述した上清のサイトカイン(IFN−γ、IL−10、およびTGF−β)の濃度を測定した。互いに異なるリンパ球集団のマーカーおよび活性化のマーカーを、FITC(eBioscience社、San Diego、CA)で標識をした抗CD4、CD8、およびCD86抗体、ならびにフローサイトメトリー(フローサイトメーターEPICS(登録商標)XL−MCL; Beckman Coulter 、Florida)を使って検出した。免疫応答において核内因子(NF)κBによって媒介されるシグナル伝達系との関連を、その阻害剤(ラクタシスチン)を加えることによって同定した。
【0096】
(結果)
セリアック病患者の糞便は、細菌叢の組成における変化を示し、PBMCにおいて、炎症促進性のサイトカイン(TNF−αおよびIFN−γ)については健常者より高く産生を誘導し、抗炎症のサイトカインIL−10については健常者より低く産生を誘導した。セリアック病患者の糞便は、さらに、コントロール糞便に比較すると、T細胞の活性化に必須の表面分子CD86の合成を増加させた。ビフィドバクテリウム属とともにコ−インキュベートすると、セリアック病患者の糞便細菌叢によって誘導される炎症促進性のサイトカインのプロファイルが制御され、TNF−αおよびIFN−γの合成量を低減し、IL−10の合成量を増加することができる。ラクタシスチンの存在下でサイトカインの合成が阻害されることは、NF κBが、ビフィドバクテリウム属によって発揮される免疫調節効果に関与していることを示唆している。
【0097】
〔実施例8 インビトロの消化プロセスにおいて生成されたグリアジンの各フラクションにおける特性、ビフィドバクテリウム属によるグリアジンの胃腸での消化により生じるペプチドの減少の特性、およびそれらの生物学的効果〕
(1.グリアジンの胃腸における消化)
全アミノ酸配列が入手可能なグリアジンのタンパク質のアイソフォームのうち4つ(α−/β−、γ−、およびω−グリアジン)を含有する、市販のグリアジンの試薬を使用した(Sigma社、G3375)。
【0098】
市販のグリアジン抽出物の互いに異なる部分標本(150mg)を、等張性生理食塩水溶液(140mMのNaCl、5mMのKCl)にpH3にて溶解させ、この混合液を、攪拌しながらバス内で55℃まで30分間加熱した。サンプルは、ペプシン(Sigma社、P7000)(800〜2500UI/mg protein)、ブタのパンクレアチン(P1750)(活性、4×USP)、および胆汁抽出液(B3883)を用いて、胃腸の消化シミュレーション過程に供した。
【0099】
胃における消化のシミュレーション(0.1MのHCl/pH3/1時間の条件でペプシンを使用し、攪拌した)は、遠心分離チューブ(50ml)において実施した。胃のシミュレーションにつづいて、腸の段階(0.1MのNaHCO3/pH6.9〜7/2時間の条件でパンクレアチンおよび胆汁を使用し、攪拌した)を、15KDの孔径を有する透析膜(Spectra/Por 2.1、Spectrum Medical社、Gardena、CA)を備えた、2つの部屋から成るシステムの上側分室(供給側)(1.5ml)において実施した。下側分室(受け取り側)には、生理食塩水溶液を入れた(1ml)。消化過程が完了した時点で、胃腸における消化のシミュレーションによって得られたサンプルの上清(4000rpm/5分間/4℃)に含まれるタンパク質の合計含有量、および市販のキット(Sigma者、TP0200)を使ってローリー法で透析されたサンプルに含まれるタンパク質の合計含有量を定量化した。
【0100】
(2.インビトロの消化過程後の、グリアジンの各フラクションについてのクロマトグラフィー分析)
グリアジンを分析するために、逆相クロマトグラフィーを適用した。この分離は、Hewlett Packard製1050HPLC装置を使って、BioBasic C18 カラム(5μm 4.6×250mm)を用いて実施した。使用した移動相は、(A)アセトニトリル(ACN、HPLC品質)の15%(v/v)水溶液、および0.1%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)、ならびに(B)ACNの80%(v/v)水溶液、および0.1%(v/v)のTFAからなっていた。使用した溶出勾配は、0分〜5分では溶媒Bの5%までの直線勾配、5分〜12分では溶媒Bの20%までの直線勾配であった。さらに、100%の溶媒Bを使って、カラムを5分間洗浄し、初期条件を使って3分間平衡化させた。サンプルを、ナイロン膜(13mm 0.22 μm Millex GN、Millipore)を使って濾過した。各処理について、3つの独立した等分試料を分析した(100μl)。紫外線領域における吸収を、210nmで監視した。
【0101】
(3.逆相クロマトグラフィーを電気噴霧MsMs(RP−HPLC−ESI−MS/MS)と組み合わせて使った、グリアジンのペプチド配列特定)
四重極イオントラップ(Esquire−LC−Ms(n)、Bruker Daltonics、Billerica、MA)を備えた質量分光計と組み合わせてAgilent HPLC系装置を使用し、BioBasic C18 カラム(5μm 4.6×250mm)において、クロマトグラフィーによる分離を実施した。採用したクロマトグラフィー溶出勾配は、前段に記載したものである。分析では、窒素を噴霧される乾燥気体として使用し、ヘリウムを、約5×10−3barの圧力で分子衝突させるための気体として使用した。衝突のキャピラリー電圧を4kVで維持した。質量スペクトルを、質量/負荷が500〜5000の範囲で監視した。この方法により、15個のスペクトルの平均質量分析(Ms)および5個のスペクトルの連続質量分析Ms(n)が示される。質量連続分析を実施するためのイオン電流の限界値を5000に決定した。前駆体イオンは、0.39V〜2.6Vの電圧ランプで断片化され、m/z範囲が4.0において単離された。m/zスペクトルのデータを、製造業者が提供する分析ソフトウェア(Data Analysis version 3、Bruker Daltonics)を使って処理および変換した。スペクトルMs(n)のペプチド配列を、分析ソフトウェア(BioTools version 2.1 (Bruker Daltonics))を使って決定した。
【0102】
(4.胃腸において消化されたグリアジンをビフィドバクテリウム属とともにコ−インキュベートする効果)
第1項で得られた、胃腸において消化されたグリアジンのサンプルを、腸の上皮モデルとして使用される、Caco−2細胞のトランスウェル(transwell)の培養物の尖端部分(供給側)に設置した腸のビフィドバクテリウム属(例えば本発明の菌株)の存在下および非存在下においてコインキュベートした。本発明の菌株(IATA−ES1)の存在下でのグリアジンの毒性効果の低減を評価することを目的として、ビフィドバクテリウム属の存在下および非存在下、下側分室(受け取り側)のCaco−2細胞培養物において、炎症促進性のサイトカインTNF−αおよびNFκBの合成量を、ELISA法により測定した(図3および図4)。
【0103】
(結果:胃腸において消化されたグリアジンのサンプルを透析することによって得られた、15KD未満のタンパク質画分のRP−HPLC分析)
クロマトグラフィーによって分離したところ(図2)、#2画分が主要な画分である、5つのペプチド画分の存在が明らかになった。本発明者らの実験室で単離された、異なる菌株(つまり、本発明の菌株(IATA−ES1)およびビフィドバクテリウム属 A2)の存在下において、グリアジン由来のペプチドの透析可能性を調べたところ、これらの細菌がグリアジンに対して、具体的には#2画分に対して、タンパク質分解能力を有することが実証された。#2画分のもっとも重要な低下を引き起こした菌株は、本発明の菌株(IATA−ES1)であり、調査時の条件においてこの画分の10%を超える量を低下させた。
【0104】
〔実施例9:抗原提示に関連する樹状細胞における、グリアジンに誘導される成熟化と炎症促進性の表現型とを制御する、ビフィドバクテリウム属の菌株の能力の評価〕
(1.腸のビフィドバクテリウム属の培養物および評価用糞便サンプルの調製)
上記ビフィドバクテリウム属の菌株を24時間培養したものを、0.05%のシステイン(MRS−C)を含有する10mlのMRS増殖培地(Scharlau Chemie S.A.社、Barcelona、Spain)に、1%で播種し、嫌気条件において37℃で22時間インキュベートした(AnaeroGen; Oxoid、Basingstoke、UK)。遠心分離(6,000g、15分間)によって、細胞を回収し、PBS(10mMのリン酸ナトリウム、130mMの塩化ナトリウム、pH7.4)で2回洗浄し、20%のグリセロールを含有するPBSで再懸濁した。これらの懸濁液の等分試料を液体窒素により凍結させ、−80℃で保存した。凍結・融解サイクルを経た後の生細胞の個数を、48時間のインキュベーションの後にMRSC寒天プレート上で計数することによって同定した。生存能は、どの場合にも90%を超えていた。等分された各試料は1回の試験にのみ使用した。これを細胞刺激のために使用する前に、遠心分離によって細胞を洗浄し、PBSで再懸濁した。
【0105】
(2.末梢血液から得られた樹状細胞(DC)の単離および活性化)
ヘパリンを含むチューブにおいて、4人の健康なボランティア(24歳〜40歳、平均年齢30歳)の末梢血液から、PBMCを単離した。このPBMCは、フィコール勾配(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)において遠心分離によって単離した。RPMI1640培地(Cambrex社、New York、USA)を用いて細胞を洗浄し、10の%ウシ胎児血清(Gibco社、Barcelona、Spain)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、および100U/mlのペニシリン(Sigma社)をさらに含有するRPMI1640培地により1×10個/mlの密度に調節した。そのPBMCを、刺激剤の存在下または非存在下で、平底型24ウェルのポリスチレン製プレート(Corning社、Madrid、Spain)において、5%のCOのもとで、37℃で24時間インキュベートした。ビフィドバクテリウム属および他の腸内細菌の存在下および非存在下で、刺激としてグリアジン(0.1mg/ml)およびIFN−γ(150UI)を使用した。ポジティブコントロールとして、大腸菌O111:B4の、精製されたリポ多糖類(LPS)(Sigma、St. Louis、MO)を、1μg/mlの濃度で使用した。ネガティブコントロールとして、非活性化されたPBMCにおけるサイトカインの産生量について試験を行なった。刺激については、各種類を各実験につき二回ずつ試験した。培養液の上清を、遠心分離によって回収し、分割し、等分試料の形態で、サイトカインの検出まで−20℃で保存した。
【0106】
(3.サイトカインおよび細胞性活性化マーカーの同定)
ELISA kits of Bioscience(BD Biosciences、San Diego、CA)を製造業者の指示にしたがって使用して、上述した上清のサイトカイン(IFN−γ、IL−10、およびTGF−β)の濃度を測定した。FITC(eBioscience、San Diego、CA)で標識をしたHLA−DR、CD86、CD40、およびCD83に対する抗体を用いて、活性化分子のマーカーを検出し、フローサイトメトリー(フローサイトメーターEPICS(登録商標)XL−MCL;Beckman Coulter 、Florida)によって定量化した。
【0107】
(結果)
本発明の菌株(IATA−ES1)は、IFN−γの産生量を少なくとも10%低下させた。なお、IFN−γは、セリアック病患者においてグリアジンに応答して産生される主要な炎症性のサイトカインであり、グリアジンおよび他の潜在的に炎症促進性を有する腸内細菌(例えば、セリアック病患者から単離されたBacteroidesおよび腸内細菌)を有する樹状細胞の活性化によって誘発される。さらに、本菌株は、樹状細胞による抗炎症のサイトカインIL−10の合成量を、グリアジンを用いた活性化によってなされた効果に比較すると少なくとも200%増加させた。本発明の菌株(IATA−ES1)は、グリアジンおよびIFN−γの存在下で樹状細胞をインキュベートした後に誘導されるHLA−DRおよびCD86分子の発現を、15%から20%低減させた。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】グリアジンの異なる消化のタンパク質のプロファイルのSDS−PAGE分析。パネルA:1)ペプシンを用いて消化した後のグリアジン(G−P)のコントロール;2)ペプシンおよびトリプシンを用いて消化した後のグリアジン(G−P−T)のコントロール;3)本発明の菌株とともにインキュベートしたG−P;4)本発明の菌株(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)IATA−ES1)とともにインキュベートしたG−P−T。パネルB:1)コントロールG−P;2)コントロールG−P−T;3)本発明の菌株およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NCDO712とともにインキュベートしたG−P;4)本発明の菌株およびLactococcus lactis NCDO712とともにインキュベートしたG−P−T。
【図2】インビトロによるグリアジンの消化の透析可能な画分から得られるクロマトグラムを示す。ピーク2が、本発明の菌株によって加水分解されたと考えられるピークである。
【図3】インビトロにおけるビフィドバクテリウム属の存在下または非存在下で、グリアジン(Gld)の、溶解性を有し消化される画分によって引き起こされる細胞の生存能の変化(リソソーム内の活性として測定)を示す。ウシアルブミン(BSA)(ネガティブコントロール);BifA2(ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis));Bb(ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum))、およびBL(本発明の菌株;ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)IATA−ES1−)。結果は平均値で示し、標準偏差は4通りにて決定する。
【図4】インビトロにおけるビフィドバクテリウム属の存在下または非存在下で、グリアジン(Gld)の、溶解性を有し消化される画分に曝されるCaco−2細胞培養における、炎症促進性のサイトカイン(TNF−α)の生成および核内因子κB(NF−κB)の発現。ウシアルブミン(BSA)(ネガティブコントロール);BifA2(B. animalis);Bb(B. bifidum)、およびBL(本発明の菌株;B. longum IATA−ES1−)。結果は平均値で示し、標準偏差は4回繰り返すことにより決定する。
【受託番号】
【0109】
CECT 7347
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物アレルギーの治療または予防において使用する微生物を選別するための方法であって、
a.健常者由来のサンプルから微生物を単離するステップと、
b.免疫応答を制御し、食物アレルギーを引き起こす少なくとも1つの媒介物の作用機構を加水分解、不活性化、または妨害することができる、ステップa)の微生物を選別するステップとを含む、方法。
【請求項2】
上記健常者が母乳栄養児である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記食物アレルギーがセリアック病である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
セリアック病の治療または予防において使用するための微生物。
【請求項5】
免疫応答を制御し、セリアック病を引き起こす少なくとも1つのグルテンペプチドの有害な作用機構を加水分解、不活性化、または妨害することができる、請求項4に記載のセリアック病の治療または予防において使用するための微生物。
【請求項6】
ビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)から選別される、請求項4または5に記載のセリアック病の治療または予防において使用するための微生物。
【請求項7】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)種から選別される、請求項6に記載のセリアック病の治療または予防において使用するための微生物。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の微生物を含む、セリアック病の治療または予防において使用するための薬学的組成物または食品組成物。
【請求項9】
受託番号7347でCECTに寄託されている、菌株。
【請求項10】
医薬、食品、栄養補助食品、食品サプリメント、プロバイオティクスもしくはシンバイオティクス、または新規な食品として使用するための、請求項9に記載の菌株。
【請求項11】
セリアック病の治療または予防のための医薬として使用するための、請求項10に記載の菌株。
【請求項12】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、組成物。
【請求項13】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、薬学的組成物または食品組成物。
【請求項14】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、食品。
【請求項15】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、栄養補助食品。
【請求項16】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、食品サプリメント。
【請求項17】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、プロバイオティクスまたはシンバイオティクス。
【請求項18】
請求項9に記載の菌株または該菌株により生成される生理活性化合物を含む、新規な食品。
【請求項19】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の微生物または請求項9に記載の菌株により生成される、生理活性化合物。
【請求項20】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の微生物または請求項9に記載の菌株の培養液から得られる、上清。
【請求項21】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の微生物または請求項9に記載の菌株の培養液から得られる、抽出物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−507540(P2011−507540A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540149(P2010−540149)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/ES2008/070243
【国際公開番号】WO2009/080862
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(508014327)
【Fターム(参考)】