説明

グロープラグ

【課題】発熱コイル内部におけるアルミニウムの移動を抑制でき、発熱コイルの断線をより確実に防止する。
【解決手段】グロープラグ1は、軸線CL1方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のチューブ7と、チューブ7内に収容される発熱コイル9とを有する。前記発熱コイル9は、Feを主成分とし、Crを5質量%以上30質量%以下、Alを4質量%以上15質量%以下含有する。また、発熱コイル9は、0.7質量%以上3.0質量%以下のTi、1.0質量%以上5.0質量%以下のMo、1.0質量%以上5.0質量%以下のW、及び、0.7質量%以上1.5質量%以下のTaのうちの少なくとも一種を含んでなるフェライト鋼から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの始動補助等に用いられるグロープラグに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの予熱などに使用するグロープラグとしては、一般に、先端部の閉じた金属製のチューブ内に、クロム(Cr)やアルミニウム(Al)等を含有する発熱コイルを封入したシースヒータを有するものが知られている。より詳しくは、前記発熱コイルは、その先端部がチューブの先端部に溶融・接合されている一方で、その後端部が、直接又は制御コイルを介して、チューブの後端側に挿入された中軸に接合されている。また、前記チューブ内であって発熱コイルの周囲には絶縁粉末が封入されている。そして、中軸を介して通電されることにより、前記発熱コイルが発熱するようになっている。
【0003】
ところで、グロープラグを長期間使用していると、発熱コイルに断線が生じ得る。この断線の要因としては、発熱コイル内部の窒化を挙げることができる。すなわち、発熱コイルの内部窒化に伴い、発熱コイル中における通電可能な領域が小さくなってしまう。その結果、抵抗値の局所的な増大を招いてしまい、ひいては発熱コイルが断線してしまうのである。
【0004】
そこで、発熱コイル内部への窒素の侵入を防止すべく、発熱コイルの表面に酸化アルミニウム層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。当該特許文献1に記載の技術においては、前記絶縁粉末に酸素ドナーとして働く物質を添加することで、発熱コイルの表面における酸化アルミニウム層の形成促進が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−507068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本件発明者が鋭意検討したところ、発熱コイル内部の窒化防止を図ったとしても、発熱コイルに断線が生じ得ることを見出した。そこで、本件発明者が更なる検討を加えた結果、高温環境下において発熱コイルに生じた電位差により、高電位側から低電位側へとアルミニウムが移動(拡散)してしまい、その結果、発熱コイル内部に空洞が生じてしまうこと(いわゆるエレクトロマイグレーションが発生してしまうこと)が断線の要因であることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、発熱コイル内部におけるアルミニウムの移動を抑制でき、発熱コイルの断線をより確実に防止することができるグロープラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成のグロープラグは、軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のチューブと、
当該チューブ内に収容される発熱コイルとを有するグロープラグであって、
前記発熱コイルは、鉄(Fe)を主成分とし、クロム(Cr)を5質量%以上30質量%以下、アルミニウム(Al)を4質量%以上15質量%以下含有するとともに、
0.7質量%以上3.0質量%以下のチタン(Ti)、1.0質量%以上5.0質量%以下のモリブデン(Mo)、1.0質量%以上5.0質量%以下のタングステン(W)、及び、0.7質量%以上1.5質量%以下のタンタル(Ta)のうちの少なくとも一種を含んでなるフェライト鋼から構成されることを特徴とする。
【0010】
尚、「主成分」とあるのは、材料中、最も質量比の高い成分を指すものである(以下、同様)。
【0011】
上記構成1によれば、発熱コイルには、Crが5質量%以上30質量%以下含有されている。そのため、発熱コイルに過度の細径化を施すことなく、発熱コイルの抵抗値を十分に増大させることができ、ひいては十分な発熱性能を実現することができる。また、発熱コイルの過度の細径化を図る必要がないことから、発熱コイルを比較的太いものとすることでき、その結果、発熱コイルの耐久性の向上を図ることができる。
【0012】
さらに、発熱コイルには、Alが4質量%以上15質量%以下含有されている。そのため、発熱コイル表層に酸化アルミニウム等の被膜を形成することができ、ひいては発熱コイル内部への窒素の侵入防止を期待することができる。
【0013】
一方で、発熱コイルにAlが含有されることに伴い、発熱コイル内部における空洞の発生が懸念される。ここで、電圧が印加されたときのAlの移動方向や移動のしやすさは、原子間における摩擦力やクーロン力等の種々の要因に起因して変化するものである。また、原子間における摩擦力やクーロン力等は、Alの周囲に存在する発熱コイルの主成分や含有物質によって変化する。
【0014】
この点、本構成1によれば、Feを主成分とし、Crを含有する発熱コイルにおいて、TiやMo等の上述の元素が所定範囲内の量だけ含有されている。これらの元素が含有されることで、Feを主成分とし、Crを有する合金内部において、原子間の摩擦力やクーロン力等の要因をAlの移動(拡散)を抑制する方向へと働かせることができる。また、WやMo等の比較的重い元素を含有することで、Alの移動が妨げられることとなり、この点においてもAlの移動抑制を図ることができる。この結果、Alの移動に起因する発熱コイル内部における空洞の発生をより確実に防止することができ、耐久性の飛躍的な向上を図ることができる。
【0015】
尚、本発明の合金系におけるTiやMo等の含有量の上限値は、TiやMo等のそれぞれの固溶限界を示す。従って、この上限値を超えてTi等を含有させた場合には、金属間化合物が生成されてしまい、加工性が悪くなってしまう(例えば、発熱コイルを所定のコイル形状や所定の線径に加工することが困難になってしまう)おそれがある。一方で、TiやMo等の含有量が上述の下限値を下回ってしまうと、Alの移動抑制という作用効果が十分に奏されないおそれがある。
【0016】
ところで、TiやMo等は、それぞれ上述の固溶限界を持つものの、一の成分を固溶限界まで含有させたとしても、他の成分を更に固溶させることができる場合がある。例えば、Tiを3質量%含有させた材料系に対して、更にTiを固溶させることは困難であるが、1.5質量%のWであれば固溶させることができるという場合である。しかしながら、グロープラグに使用する発熱コイルとしての形状・サイズに金属材料を加工するためには、上記TiやMo等の総含有量をある程度少なくしておくことが好ましい。従って、この観点から、TiやMo等の総含有量を10.0質量%以下としておくことが好ましい。
【0017】
但し、総含有量がこの上限値以下であっても、上記Ti,Mo、W、及び、Taのうち、一種でも上記上限値を超えて含有されてしまうと、加工が困難となり好ましくないことは言うまでもない。
【0018】
構成2.本構成のグロープラグは、上記構成1において、使用時において、前記チューブ表面の温度が970℃以上となることを特徴とする。
【0019】
尚、「使用時(例えば、エンジン始動後のアフターグロー時)において、チューブ表面温度が970℃以上となるグロープラグ」の一例としては、次のようなものを挙げることができる。すなわち、直列的に接続された、Niを主成分とする制御コイルとFe−Cr−Al合金からなる発熱コイルとを有するとともに、発熱コイルが断面楕円形状をなし、当該断面における長径が約650μm、短径が450μmとされたものである。当該グロープラグに対して、約2秒間に亘ってバッテリー電圧(11V)を印加した後に、Duty制御により実効電圧を4V〜7Vに調整して通電することで、通電開始から60秒間経過したときに、チューブのうちその先端から2mm後端側の部位における表面温度を熱電対による計測で970℃以上とすることができる。
【0020】
上述した発熱コイル内部におけるAlの移動は、特に高温環境下で電圧が印加されたときに生じやすい。従って、上記構成2のように、チューブ表面温度が970℃以上と比較的高温となる場合には、使用時における発熱コイル内部におけるAlの移動が一層懸念される。この点、上記構成1を採用することで、高温下であっても、Alの移動を十分に抑制することができる。換言すれば、上記構成1は、使用時において、チューブの表面温度が970℃以上という高温となり得るグロープラグにおいて、特に有意であるといえる。
【0021】
構成3.本構成のグロープラグは、上記構成1又は2において、前記チューブ内の前記発熱コイルの周囲には、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする絶縁粉末が充填され、
前記発熱コイルは、Tiを1.0質量%以上3.0質量%以下含むことを特徴とする。
【0022】
上記構成3によれば、発熱コイルには、Tiが1.0質量%以上と比較的多量に含有されるため、Alの移動抑制という作用効果が一層確実に奏されることとなる。
【0023】
一方で、本構成3によれば、絶縁粉末としてMgOを主成分とするものを用いているため、発熱コイルの表層に形成されたAl23の被膜とMgOとが反応してしまい、発熱コイルの表層に、MgAl24の被膜が形成され得る。この被膜は、振動等に対して比較的割れやすく、また、ガスの侵入抑制効果に乏しい。従って、当該被膜は、耐久性の向上という面で決して好ましくはない。さらに、振動等に伴いMgAl24の被膜が欠落してしまうと、新たなAl23被膜の形成と、当該Al23被膜及びMgO粉末との反応によるMgAl24被膜の形成とが繰り返し発生することとなってしまう。その結果、発熱コイルの断面積の減少、及び、それに伴う局所的な抵抗値の増加を招いてしまい、ひいては発熱コイルに断線が生じてしまうおそれがある。
【0024】
この点、上記構成3によれば、Tiが1.0質量%以上と比較的多く含有されている。そのため、Tiが酸素や窒素と反応することで、発熱コイル(を構成する合金)とMgAl24の被膜との間に、発熱コイルの表面略全域に亘って窒化チタン(TiN)や酸化チタン(TiO2)の被膜を形成することができる。このTiN等の被膜を形成することにより、発熱コイル内部への酸素の侵入を防止することができ、ひいては発熱コイル中のAlと酸素との反応(すなわち、Al23の生成)を抑制することができる。その結果、MgAl24被膜の形成が進行してしまうという事態をより確実に防止することができ、上述したAlの移動抑制効果と相俟って、発熱コイルの断線をより一層確実に防止することができる。
【0025】
尚、MgOは本来比較的安定した物質であるが、チューブ表面の温度が高温となる環境下で連続的に使用されるような状況、例えば、アフターグロー時など、チューブ表面の温度が970℃以上となるように使用される状況では、MgOの安定性が損なわれてしまい、上記のようにMgAl24被膜が形成されやすい。換言すれば、使用時にチューブ表面の温度が970℃以上となり得るグロープラグにおいて、本発明はより一層有意である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は、本実施形態のグロープラグの一部破断正面図であり、(b)は、グロープラグ先端部の部分拡大断面図である。
【図2】(a),(b)は、発熱コイルの表面に形成される被膜を説明するための部分拡大断面模式図である。
【図3】サンプル表面に形成された凹み等を示す部分拡大断面模式図である。
【図4】凹みの深さの測定方法を説明するための断面端面模式図である。
【図5】Ti等を含有していないサンプルについて、一端側から他端側に向けてのAl濃度の変化を示すグラフである。
【図6】Ti等を所定量含有してなるサンプルについて、一端側から他端側に向けてのAl濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1(a)は、グロープラグの一例を示す全体図であり、図1(b)はその縦断面図である。
【0028】
図1(a),(b)に示すように、グロープラグ1は、筒状の主体金具2と、主体金具2に装着されたシースヒータ3とを備えている。
【0029】
主体金具2は、軸線CL1方向に貫通する軸孔4を有するとともに、その外周面には、ディーゼルエンジンへの取付用のねじ部5と、トルクレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部6とが形成されている。
【0030】
シースヒータ3は、チューブ7とリード部材としての中軸8とが軸線CL1方向に一体化されて構成されている。
【0031】
前記チューブ7は、先端部が閉じた金属製の筒状チューブである。また、当該チューブ7の内側には、チューブ7先端に接合される発熱コイル9と、当該発熱コイル9の後端に直列接続された制御コイル10とが酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする絶縁粉末11とともに封入されている。絶縁粉末11が介在することにより、発熱コイル9及び制御コイル10の外周面とチューブ7の内周面とは、絶縁された状態となっている。加えて、チューブ7の後端は、中軸8との間で環状ゴム17により封止されている。
【0032】
尚、本実施形態において、発熱コイル9は、鉄(Fe)を主成分とする合金から構成されており、制御コイル10はニッケル(Ni)を主成分とする合金から構成されている(発熱コイル9を構成する合金の組成については、後に詳述する)。また、発熱コイル9の軸線CL1に沿った長さは、約10mmとされる一方で、制御コイル10の軸線CL1に沿った長さは、約11mmとされている。このように発熱コイル9及び制御コイル10の組成及び長さが設定されることで、発熱コイルと制御コイルとの抵抗比が約6:1とされるとともに、グロープラグ1(シースヒータ3)の抵抗値が約400μmとされている。
【0033】
さらに、前記チューブ7には、スウェージング加工等によって、その先端部に発熱コイル9等を収容する小径部7aが形成されるとともに、その後端側において小径部7aよりも径の大きい大径部7bが形成されている。そして、この大径部7bが、主体金具2の軸孔4に形成された小径部4aに対し圧入接合されることにより、チューブ7が主体金具2の先端より突出した状態で保持されている。
【0034】
尚、上述したチューブ7に対するスウェージング加工は、発熱コイル9等を内部に収容した状態で行われる。そのため、スウェージング加工後の発熱コイル9は、長径が約650μm、短径が約450μmの断面楕円形状をなしている。また、スウェージング加工により、前記小径部7aの内径は、所定の大きさ(本実施形態では、約4.8mm)とされる。
【0035】
前記中軸8は、自身の先端がチューブ7内に挿入され、前記制御コイル10の後端と電気的に接続されるとともに、主体金具2の軸孔4に挿通されている。中軸8の後端は主体金具2の後端から突出しており、この主体金具2の後端部においては、ゴム製等のOリング12、樹脂製等の絶縁ブッシュ13、絶縁ブッシュ13の脱落を防止するための押さえリング14、及び、通電用のケーブル接続用のナット15がこの順序で中軸8に嵌め込まれた構造となっている。
【0036】
次に、発熱コイル9の組成等について詳述する。
【0037】
本実施形態において、前記発熱コイル9は、Feを主成分とするとともに、Crを5質量%以上30質量%以下、Alを4質量%以上15質量%以下含有する合金から構成されている。また、当該合金は、0.7質量%以上3.0質量%以下のTi、1.0質量%以上5.0質量%以下のMo、1.0質量%以上5.0質量%以下のW、及び、0.7質量%以上1.5質量%以下のTaのうちの少なくとも一種を含んでなるフェライト鋼である。尚、本実施形態においては、Tiが1.0質量%以上と比較的多めに含有されている。また、Ti,Mo,W,及び、Taの総含有量は、10.0質量%以下とされている。
【0038】
ところで、発熱コイル9はAlを含有して構成されることから、グロープラグ1の使用に伴い、図2(a)に示すように、発熱コイル9の表面を覆うようにして、発熱コイル9内部のAlとチューブ7内のO2とが反応してなる酸化アルミニウム被膜21が形成される。この状態で、グロープラグ1を使用し続けると、図2(b)に示すように、前記酸化アルミニウム被膜21とMgOを主成分とする前記絶縁粉末11とが反応して、発熱コイル9の表面を覆うようにMgAl24からなる被膜22が形成される。一方で、発熱コイル9は、Tiを比較的多めに(1.0質量%以上)含有することから、発熱コイル9の表面とMgAl24からなる前記被膜22との間には、発熱コイル9の表面略全域に亘って、TiNやTiO2からなるチタン被膜23が形成されることとなる。
【0039】
尚、前記グロープラグ1に対する通電制御の態様について一例を挙げると、前記グロープラグ1は、FET等のスイッチング手段を有する通電制御装置を用いて、Duty制御によりバッテリーからの実効電圧を調節することで通電制御することができる。すなわち、グロープラグ1は、通電初期状態において、バッテリー電圧(例えば、11V)が印加されることで、所定の高温域まで急速昇温させられ、急速昇温後(例えば、2秒後)には、実効電圧がDuty制御により所定電圧(例えば、4V〜7V)に調整され、約60秒後には所定の高温域となるように(例えば、チューブ7の表面温度が970℃以上となるように)用いられ得る。すなわち、前記グロープラグ1は、従前よりも高い温度で、かつ、より長期間に亘って加熱することが要求される内燃機関等に用いることが可能な構成となっている。
【0040】
次に上記のように構成されてなるグロープラグ1の製造方法について説明する。尚、特に明記しない部位については、従来公知の方法により製造している。
【0041】
まず、Feを主成分とし、Crを5.0質量%以上30.0質量%以下、Alを4.0質量%以上15.0質量%以下、TiやMo等の上述した元素を上記所定範囲内の量だけ含有してなるFe−Cr−Al系合金を作製するとともに、当該合金に線引き加工を施すことで抵抗発熱線を形成する。そして、当該抵抗発熱線をコイル形状に加工することで、発熱コイル9を得る。尚、前記抵抗発熱線の線径は、400μm以上とされている。
【0042】
次いで、前記発熱コイル9の後端部分と、Ni系合金等の抵抗発熱線をコイル形状に加工することで形成した制御コイル10の先端部分とをアーク溶接等によって接合する。
【0043】
次に、最終寸法より加工代分だけ大径に形成され、かつ、先端の閉じていない筒状のチューブ7内に、中軸8の先端と、当該中軸8と一体となった発熱コイル9及び制御コイル10とが配置される。そして、アーク溶接により、チューブ7を構成する金属及び発熱コイル9を構成する金属を相互に溶融させて、チューブ7の先端部分を閉塞させるとともに、チューブ7の先端部分と発熱コイル9の先端部分とを接合する。
【0044】
その後、チューブ7内に絶縁粉末11を充填するとともに、当該チューブ7に対してスウェージング加工を施す。これにより、小径部7aを有するチューブ7が形成され、チューブ7と中軸8とが一体化されたシースヒータ3が得られる。尚、スウェージング加工により、前記発熱コイル9は、断面楕円形状に形成される。
【0045】
次いで、前記シースヒータ3が主体金具2の軸孔4に圧入固定されるとともに、主体金具2の後端部分において、前記Oリング12や絶縁ブッシュ13等が中軸8に嵌め込まれる。これにより、上述したグロープラグ1が得られる。
【0046】
以上詳述したように、本実施形態によれば、発熱コイル9には、Crが5質量%以上30質量%以下含有されている。そのため、発熱コイル9に過度の細径化を施すことなく、発熱コイル9の抵抗値を十分に増大させることができ、ひいては十分な発熱性能を実現することができる。また、発熱コイル9の過度の細径化を図る必要がないことから、発熱コイル9を比較的太いものとすることでき、その結果、発熱コイル9の耐久性の向上を図ることができる。
【0047】
さらに、発熱コイル9には、Alが4質量%以上15質量%以下含有されているため、発熱コイル9表層に酸化アルミニウム被膜21を形成することができ、ひいては発熱コイル9への窒素の侵入防止を期待することができる。
【0048】
加えて、本実施形態によれば、Feを主成分とし、Crを含有する発熱コイル9において、TiやMo等の上述の元素が所定範囲内の量だけ含有されている。すなわち、これらの元素が含有されることで、Feを主成分とし、Crを有する合金内部において、原子間の摩擦力やクーロン力等をAlの移動を抑制する方向へと働かせることができる。また、WやMo等の比較的重い元素を含有することで、Alの移動が妨げられることとなり、この点においてもAlの移動抑制を図ることができる。その結果、Alの移動に起因する発熱コイル内部9における空洞の発生をより確実に防止することができ、耐久性の飛躍的な向上を図ることができる。
【0049】
特に、本実施形態におけるグロープラグ1のように、チューブ7の表面温度が970℃以上と比較的高温となる得るものにおいては、使用時におけるAlの移動が一層懸念されるが、TiやMo等の上述の元素を所定範囲内の量だけ含有することで、Alの移動を効果的に抑制することができる。
【0050】
さらに、発熱コイル9には、Tiが1.0質量%以上と比較的多く含有されており、グロープラグ1の使用に伴い、TiN等からなるチタン被膜23を形成することができる。そのため、発熱コイル9内部への酸素の侵入を防止することができ、ひいては発熱コイル9中のAlと酸素との反応(すなわち、Al23の生成)を抑制することができる。その結果、MgAl24からなる被膜22の形成が進行してしまうという事態をより確実に防止することができ、上述したAlの移動抑制効果と相俟って、発熱コイル9の断線をより一層確実に防止することができる。
【0051】
加えて、本実施形態においては、TiやMo等の総含有量が10.0質量%以下とされている。そのため、特段の困難を伴うことなく、合金を発熱コイル9の形状へと比較的容易に加工することができる。
【0052】
次に、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、空洞深さ評価試験を行った。空洞深さ評価試験の概要は次の通りである。すなわち、主成分をFeとし、Al、Cr,並びに、Ti,Mo、Ta、及び、Wの含有量を種々変更してなる合金を作製するとともに、当該合金に対して線引き加工を行うことにより、線径が0.4mmの抵抗発熱線のサンプルを作製した。そして、各サンプルについて、大気中にて100時間に亘って1300℃となるように、一端(正極)から他端(負極)へと通電加熱を行った。100時間経過後、サンプルの一端部分のうち凹みの形成が確認された部位の断面をSEM(25倍:4mm×4mmの視野)にて観察し、サンプル内部における空洞の大きさを確認すべく、図3に示すように、サンプル表面に形成された凹み(空洞)D1〜D10を無作為に10点抽出するとともに、抽出された各凹みD1〜D10の表面からの深さを測定し、各深さの平均値(空洞深さ)を算出した。尚、凹みの深さの測定方法は、次の通りである。図4に示すように、まず、測定対象の凹みD1〜D10を塞ぐような線分SE1〜SE10を想定する。この線分SE1〜SE10は、凹みD1〜D10の両隣に残存するリブの頂点同士を結ぶものである。そして、線分SE1〜SE10の垂線に沿った、線分SE1〜SE10から凹みD1〜D10の底部までの距離のうち最も長くなったものを各凹みD1〜D10の深さとして取得した。尚、図3及び図4においては、サンプル表面に形成され得る酸化アルミニウム等の被膜を省略して示している。また、凹みの深さを測定する際には、上記線分の端点が、前記被膜と抵抗発熱線との境界上に位置するようにして測定を行った。
【0053】
ところで、上記評価試験において、サンプル内部における空洞の大きさを確認すべく、サンプル表面に形成された凹みの深さを測定したことは、次の理由による。すなわち、発熱コイルの内部に形成される空洞は、発熱コイルの表面に表れやすい。これは、表面では、原子間の結びつきが比較的弱く、かつ、空洞となった部分へとAlが供給されにくい(移動しにくい)ためである。そのため、本試験においては、表面に形成された凹みの深さを測定することで、発熱コイル内部に形成される空洞の大きさを間接的に計測することとした。
【0054】
さらに、上記各抵抗発熱線をコイル形状に加工することで、発熱コイルを作製するとともに、当該発熱コイルを有してなるグロープラグのサンプルを複数作製した。そして、各グロープラグのサンプルについて耐久性評価試験を行った。耐久性評価試験の概要は、次の通りである。すなわち、チューブのうち先端から2mmの部位(測定部位)の表面が1100℃となるように300秒間通電し、その後、120秒間冷却することを1サイクルとして、各サンプルについて断線までのサイクル数(断線サイクル)を測定した。尚、温度測定は、前記測定部位に取付けた熱電対により行った。また、各サンプルについては、それぞれ所定の抵抗値(発熱性能)を有するように発熱コイルの線径を調節することとした。
【0055】
表1に、抵抗発熱線(発熱コイル)の組成と、組成ごとの空洞深さ及び断線サイクルとを示す。尚、線径0.4mmの抵抗発熱線に線引き加工できなかったり、コイル形状に成形することができなかったりしたものについては、表1中の試験結果の欄に「加工困難」と記した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、Al含有量を4質量%未満としたり、Cr含有量を5質量%未満としたりしたサンプル(サンプル1〜3)は、所定の抵抗値を実現するために線径を過度に細くする必要があり、耐久性が不十分となってしまうことがわかった。つまり、サンプル1〜3の組成を採用した抵抗発熱線は、抵抗値を他のサンプルと同程度とするために過度に細くせざるを得ず、その結果、断線サイクルが短くなってしまったのである。一方で、Al含有量を15質量%よりも大きくしたり、Cr含有量を30質量%よりも大きくしたりしたサンプル(サンプル4,5)は、加工性が悪化してしまい、従来同様の線引き加工では所定の線径へと細径化することが困難であった。従って、線径を過度に小さくする(耐久性を過度に低下させる)ことなく、所望の抵抗値を実現でき、かつ、加工性の低下を防止するという観点からは、Al含有量を4質量%以上15質量%以下とし、Cr含有量を5質量%以上30質量%以下とすることが好ましいといえる。
【0058】
次いで、Al及びCrの含有量が上記範囲内にあるサンプル(サンプル6〜15)について着目してみると、TiやMo等が含有されていない、又は、Ti等の含有量が比較的少ないサンプル(サンプル6,7)は、空洞深さが40μmを超えてしまい、断線サイクルが8000サイクル以下と比較的少なくなってしまうことがわかった。一方で、TiやMo等の含有量を所定量以上含有するサンプルは、空洞深さが40μm以下となり、断線サイクルが10000サイクル以上と比較的大きくなることがわかった。従って、空洞深さが40μm以下となるように、すなわちAlの移動を抑制して発熱コイル内部の空洞の発生を抑制できるようにTiやMo等の含有量を調節することで、優れた耐久性を実現できるといえる。
【0059】
そこで、空洞深さを40μm以下とすることが可能なTi、Ta、Mo、及び、Wの含有量を確認すべく、Alの含有量を7質量%、Crの含有量を25質量%とした上で、TiやMo等の含有量を種々変更してなる抵抗発熱線のサンプルを作製し、各サンプルについて上述の空洞深さ評価試験を行った。そして、空洞深さが40μm以下であったサンプルは、耐久性に優れるとして「○」の評価を下す一方で、空洞深さが40μmを超えてしまったり、線引き加工が困難であったりしたサンプルは、「×」の評価を下すこととした。表2に、各サンプルの組成と、空洞深さ及び評価とを示す。尚、サンプルを作製するにあたり、Ti、Ta、Mo、及び、Wについて、これらが複数種類含有されないように材料の調整を行った。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示すように、Tiの含有量を0.7質量%未満としたサンプル(サンプル21)、Taの含有量を0.7質量%未満としたサンプル(サンプル22)、Moの含有量を1.0質量%未満としたサンプル(サンプル23)、及び、Wの含有量を1.0質量%未満としたサンプル(サンプル24)は、空洞深さが40μmを超えてしまい、耐久性が不十分となってしまうことがわかった。
【0062】
また、Tiの含有量を3.0質量%よりも大きくしたサンプル(サンプル25)、Taの含有量を1.5質量%よりも大きくしたサンプル(サンプル26,27)、Moの含有量を5.0質量%よりも大きくしたサンプル(サンプル28)、及び、Wの含有量を5.0質量%よりも大きくしたサンプル(サンプル29)は、所望の形状に加工することが困難となってしまうことがわかった。
【0063】
これに対して、Tiの含有量を0.7質量%以上3.0質量%以下としたサンプル(サンプル30〜33)、Taの含有量を0.7質量%以上1.5質量%以下としたサンプル(サンプル34〜36)、Moの含有量を1.0質量%以上5.0質量%以下としたサンプル(サンプル37〜39)、及び、Wの含有量を1.0質量%以上5.0質量%以下としたサンプル(サンプル40〜42)は、成形加工が困難となることなく、空洞深さが40μm以下となり、優れた耐久性を実現できることがわかった。
【0064】
さらに、Tiについて着目してみると、耐久性の一層の向上を図るという観点からは、Tiを比較的多く含有させることが好ましいことが明らかとなった。従って、Tiの含有量を1.0質量%以上とすることがより好ましく、Tiの含有量を1.7質量%以上とすることがより一層好ましいといえる。
【0065】
尚、これらの元素を上記範囲内の量だけ含有させたとしても、それらの総含有量が10.0質量%よりも大きくなってしまうと、加工性の低下や製造コストの増大を招いてしまうおそれがある。従って、これらの元素の総含有量は、10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0066】
次に、上述の元素を上記所定範囲内の量だけ含むことによる発熱コイル内部で生じる現象を確認すべく、上述の元素を含有していないサンプル(表1中のサンプル6)、及び、上述の元素を上記所定範囲内の量だけ含有してなるサンプル(表1中のサンプル10)について、通電加熱後における各サンプルの長手方向に沿ったAl濃度の変化を測定した。ここで、通電加熱方法、及び、Al濃度の測定方法等について説明すると、まず、両サンプルについて、100時間に亘って1300℃で、一端側から他端側へと通電・加熱した。次いで、100時間経過後、両サンプルを樹脂チップに埋設するとともに、両サンプルを長手方向に沿って切断し、切断面を研磨した。そして、EPMA(X線マイクロアナライザ)を用いて、前記切断面のAl濃度を一端側から他端側へと5μmごとに測定した。図5に、上述の元素を含有していないサンプルについて、一端側から他端側へのAl濃度の変化を表すグラフを示す。一方、図6に、上述の元素を上記所定範囲内の量だけ含有してなるサンプルについて、一端側から他端側へのAl濃度の変化を表すグラフを示す。
【0067】
図5に示すように、上述の元素を含有してないサンプルは、一端側におけるAl濃度が低下してしまう一方で、他端側における広範囲でAl濃度が高くなってしまうことがわかった。すなわち、一端側から他端側(電位の高い側から低い側)へとAlが移動(拡散)してしまっていることがわかった。
【0068】
一方で、図6に示すように、上述の元素を上記所定範囲内の量だけ含有してなるサンプルは、一端側におけるAl濃度の低下が抑制されるとともに、他端側においてAl濃度が比較的高い部分も狭い範囲に限定されることが明らかとなった。すなわち、一端側から他端側へのAlの移動(拡散)が抑制されていることが明らかとなった。
【0069】
以上の結果より、上述の元素が上記所定範囲内の量だけ含有されることで、Alの移動を抑制できることが確認された。従って、上述の評価試験の結果を併せて鑑みれば、発熱コイル内部における空洞の形成が抑制され、優れた耐久性を実現できた要因は、Alの移動抑制が図られた点にあるということができる。
【0070】
次いで、Feを主成分とし、7質量%のAl、及び、25質量%のCrを含有する発熱コイルを有するグロープラグのサンプルと、Feを主成分とするとともに、7質量%のAl、及び、25質量%のCrを含有し、さらに3質量%のTiを含んでなる発熱コイルを有するグロープラグのサンプルとを作製し、各サンプルについて、使用温度を種々変更しつつ、耐久性評価試験を行った。尚、当該耐久性評価試験は、チューブの先端から2mmの部位の表面温度(チューブ表面温度)が所定の温度となるように通電電圧を調整して、200秒間通電し、その後、120秒間冷却することを1サイクルとして、発熱コイルに断線が生じるまでのサイクル数を測定することで行った。表3に、各サンプルについて、チューブ表面温度と断線サイクルとの関係を示す。尚、20000サイクル以上に亘って通電・冷却を行っても発熱コイルに断線が生じなかった場合、その使用温度においては、極めて優れた耐久性を有するものといえる。従って、この場合には、断線サイクルについてそれ以上の測定を行うことなく、表3においては、断線サイクルを「20000以上」と示すこととした。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示すように、チューブ表面温度を920℃とした場合には、両サンプルともに断線サイクルが20000サイクル以上となり、極めて優れた耐久性を有していた。ところが、チューブ表面温度を970℃以上と比較的高くした場合には、Tiを3質量%含有するサンプルの断線サイクルが、Tiを含有しないサンプルの断線サイクルを大きく上回ることが明らかとなった。これは、使用温度が上昇に伴い、Alが移動(拡散)しやすくなるところ、Tiを含有することによるAl移動抑制という効果が、使用温度の上昇に伴い顕著に発揮されたためであると考えられる。従って、使用時において、チューブ表面温度が970℃以上となり得る高温環境下で使用されるグロープラグにおいて、発熱コイルにTi等の上記元素を上述の所定範囲内の量だけ含有することが特に有意であるといえる。
【0073】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0074】
(a)上記実施形態におけるグロープラグ1の構成は例示であって、使用時においてチューブ7の表面温度が970℃以上となるグロープラグの構成はこれに限定されるものではない。
【0075】
(b)上記実施形態の評価試験においては、TiやMo等が複数種類含有されないように調整を行った合金を用いて抵抗発熱線を作製しているが、TiやMo等の元素を複数種類含有させた合金を用いて抵抗発熱線を作製することとしてもよい。このような場合であっても、各元素の含有量が上記所定の範囲内にあれば、優れた耐久性を実現することができる。例えば、Fe−7Al−1.7Ti−1.6Mo合金から抵抗発熱線のサンプルを作製し、当該サンプルに対して上述の空洞深さ評価試験や耐久性評価試験を行ったところ、空洞深さは20μmで、断線サイクルは13000サイクルとなり、十分な耐久性を有することが確認できた。
【0076】
(c)グロープラグ1の形状等は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、チューブ7について、大径部7bを省略し、その外径が略一定のストレート形状をなすように構成することとしてもよい。また、主体金具2の軸孔4の小径部4aを省略し、軸線方向にストレート形態となった軸孔4にチューブ7が圧入される構成としてもよい。
【0077】
(d)上記実施形態において、グロープラグ1は、制御コイル10を有しているが、制御コイル10を省略し、発熱コイル9の後端を中軸8に対して直接接合することとしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…グロープラグ、7…チューブ、9…発熱コイル、11…絶縁粉末、CL1…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のチューブと、
当該チューブ内に収容される発熱コイルとを有するグロープラグであって、
前記発熱コイルは、鉄を主成分とし、クロムを5質量%以上30質量%以下、アルミニウムを4質量%以上15質量%以下含有するとともに、
0.7質量%以上3.0質量%以下のチタン、1.0質量%以上5.0質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上5.0質量%以下のタングステン、及び、0.7質量%以上1.5質量%以下のタンタルのうちの少なくとも一種を含んでなるフェライト鋼から構成されることを特徴とするグロープラグ。
【請求項2】
使用時において、前記チューブ表面の温度が970℃以上となることを特徴とする請求項1に記載のグロープラグ。
【請求項3】
前記チューブ内の前記発熱コイルの周囲には、酸化マグネシウムを主成分とする絶縁粉末が充填され、
前記発熱コイルは、チタンを1.0質量%以上3.0質量%以下含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のグロープラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−7451(P2011−7451A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153151(P2009−153151)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】