説明

ケイ素化合物の製造方法

【課題】グリニャール反応を用いた合成過程において合成時間を短縮し、かつ簡便な工程で高い収率の生成物を得ることのできるケイ素化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機マグネシウム化合物と、有機シラン化合物とを、下記一般式(3)等で表される化合物を含む溶媒の下で反応させて、ケイ素化合物を製造する。


・・・(3)(式中、RおよびRは同一または異なり1価の有機基を示し、R〜R11は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R〜Rの組み合わせ内ないしR〜R11の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模半導体集積回路(ULSI)は、増大する情報処理量や機能の複雑さに対応するため、さらなる高速処理が強く望まれている。ULSIの高速化は、チップ内素子の微細化・高集積化や膜の多層化により実現されてきている。しかしながら、素子の微細化に伴い配線抵抗や配線間寄生容量が増大し、配線遅延がデバイス全体の信号遅延の支配的要因となりつつある。この問題を回避するために、低抵抗率配線材料や低誘電率(Low−k)層間絶縁膜材料の導入が必須の技術となっている。
【0003】
配線材料としては、Alに代わり抵抗率の低い金属であるCuの使用が検討され、実用化されている。一方、層間絶縁膜材料は、化学的気相成長(CVD)法などの真空プロセスにより形成されたシリカ(SiO)膜が多用されているが、層間絶縁膜の低誘電率(Low−k)化に対しては、種々の提案がなされている。
【0004】
低誘電率の層間絶縁膜としては、例えば、シリカ(SiO)の膜密度を低下させたポーラスシリカ膜、Fをドープしたシリカ膜であるFSG、CをドープしたSiOC膜等の無機系層間絶縁膜や、ポリイミド、ポリアリーレン、ポリアリーレンエーテル等の有機系層間絶縁膜が挙げられる。
【0005】
また、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG膜と呼ばれるテトラアルコキシシランの加水分解縮合生成物を主成分とする塗布型の層間絶縁膜や、有機アルコキシシランを加水分解縮合して得られるポリシロキサンからなる有機SOG膜が提案されている。
【0006】
ここで、層間絶縁膜の形成方法について話題を転換する。層間絶縁膜の形成方法については、大別して2つの方法に分類できる。一つは、スピンコーター等を用いて絶縁膜形成用ポリマー溶液を塗布して成膜を行う塗布法(またはスピンコート法)であり、もう一つは、反応ガスをチャンバー内に送り込み気相中での反応を利用して膜を堆積させる化学気相成長(CVD)法である。
【0007】
塗布法および化学気相成長法のいずれにおいても、無機系材料および有機系材料の提案がなされている。一般的に、塗布法では膜の均一性が良好であるものの、基板やバリアメタルとの密着性が劣る場合が多い。一方、化学気相成長法では、膜の均一性が課題となったり、膜の低誘電率化が不十分である場合が多いことが指摘されているが、汎用されている層間絶縁膜の多くがCVD法によって成膜されているため、操作上優位であったり、基板との密着性が良好であるといった利点が勝っており、成膜手法としては優位性がある。
【0008】
したがって、化学的気相成長法による提案が多数なされている。とりわけ、反応に使用するシラン化合物に特徴があるものが多数提案されている。例えば、ジアルコキシシランを用いたもの(特開平11−288931号公報、特開2002−329718号公報)、環状シラン化合物を用いたもの(特表2002−503879号公報、特表2005−513766号公報)、第3級炭素または第2級炭素とSiとが結合したシラン化合物を用いたもの(特開2004−6607号公報、特開2005−51192号公報)が提案されている。このような材料を用いることで、低誘電率でかつバリアメタル等との密着性が十分確保された膜が得られるとしている。
【0009】
しかしながら、これらのシラン化合物は、化学的に安定であるため化学的気相成長法による成膜時に極度な条件を必要とするものや、逆に化学的に不安定であり、チャンバー内に供給する配管中で反応を起こすものや、さらにはシラン化合物自身の貯蔵安定性が悪いものが存在する。また、実際の半導体装置の製造工程においては、層間絶縁膜をRIE(Reactive Ion Etching)を用いて加工する工程が多く用いられており、このRIEの際に膜の誘電率が上昇する問題や、その後の洗浄工程で用いられるフッ素酸系の薬液により層間絶縁膜にダメージが入る問題が存在しており、加工耐性が高い層間絶縁膜が求められている。
【0010】
この課題に対して本願出願人は、炭素鎖と結合された1つのケイ素原子を含み、そのケイ素原子にアルコキシ基が結合したケイ素化合物を提案し、これを用いて得られた絶縁膜が薬液耐性に優れていることを示している(例えば特開2005−350653号公報参照)。
【0011】
さて、これらの化合物を合成するためにはグリニャール反応を用いることが有用であるが、いくつか問題がある。一つには、グリニャール反応剤とアルコキシシランのカップリング反応の速度が遅いことが挙げられる。従来用いられていた反応溶媒では、反応が完結するまでに十数時間以上かかることもあり工業生産上好ましくない。
【0012】
また、カップリング反応の後には、副生成物のマグネシウム塩を除去する必要がある。このマグネシウム塩の除去工程において、主生成物であるケイ素化合物が加水分解性を示すため、水や酸性の水溶液を用いた液相抽出を用いることができない。そのため塩の分離には、ろ過あるいは傾斜法・上澄み抜き取り等の方法を経る必要がある。ろ過による方法は大量合成の際、処理する塩の量も膨大になり煩雑である。一方、傾斜法・上澄み抜き取り等の方法は前者に比べ簡便ではあるが、従来の溶媒を用いて合成した場合、副生したマグネシウム塩の分散度が高いため一般的には遠心分離などの手法を用いた沈降操作が不可欠であった。
【0013】
なお、グリニャール反応におけるマグネシウム塩除去を、非水溶液系を用いた液相抽出について行う方法については既に公知である(特許3656168号)。しかしながら、当該事例は比較的極性溶媒に溶解しやすいハロゲン化マグネシウムの除去を開示するものであって、アルコキシ化マグネシウムについてはその難溶性から適用が困難であり、また有機溶剤同士の液相抽出であるため目的物の非極性溶媒相への分配比が小さく、その回収には大量の非極性溶媒を要することも課題であった。
【特許文献1】特開平11−288931号公報
【特許文献2】特開2002−329718号公報
【特許文献3】特表2002−503879号公報
【特許文献4】特表2005−513766号公報
【特許文献5】特開2004−6607号公報
【特許文献6】特開2005−51192号公報
【特許文献7】特開2005−350653公報
【特許文献8】特許3656168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、グリニャール反応を用いた合成過程において反応時間を短縮し、かつ簡便な工程で高い収率の生成物を得ることのできるケイ素化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様にかかるケイ素化合物の製造方法は、
下記一般式(5)で表されるケイ素化合物を製造する方法であって、
下記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物と、下記一般式(2)で表される有機シラン化合物とを、下記一般式(3)で表される化合物および下記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む溶媒の下で反応させる工程を含む。
【0016】
RMgX ・・・(1)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
Si(OR4−m ・・・(2)
(式中、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
【0017】
【化6】

・・・(3)
(式中、RおよびRは同一または異なり1価の有機基を示し、R〜R11は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R〜Rの組み合わせ内ないしR〜R11の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【0018】
【化7】

・・・(4)
(式中、R12はアリール基を示し、R13〜R15は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R13〜R15の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【0019】
【化8】

・・・(5)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
上記ケイ素化合物の製造方法において、前記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物は、下記一般式(6)で表される有機マグネシウム化合物であり、前記一般式(5)で表されるケイ素化合物は、下記一般式(7)で表されるケイ素化合物であることができる。
【0020】
【化9】

・・・(6)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1から3の整数を示す。)
【0021】
【化10】

・・・(7)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示し、nは1から3の整数を示す。)
この場合、前記一般式(6)および前記一般式(7)において、nは1であることができる。
【0022】
上記ケイ素化合物の製造方法において、下記一般式(8)で表されるハロゲン化アルキルをマグネシウムと反応させて、前記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物を生成する工程をさらに含むことができる。
【0023】
RX ・・・・・(8)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【発明の効果】
【0024】
上記ケイ素化合物の製造方法によれば、上記一般式(3)で表される化合物および上記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む溶媒を用いて、上記一般式(1)および(2)で表される化合物をグリニャール反応させるため、反応時間を短縮し、副生成物であるマグネシウム塩を簡便な工程で除去し、高い収率で上記一般式(5)で表されるケイ素化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明について具体的に説明する。
【0026】
1.ケイ素化合物の製造方法
1.1.製造方法
本実施の形態にかかるケイ素化合物の製造方法は、下記一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物と下記一般式(2)で示される有機シラン化合物とを、下記一般式(3)で表される化合物および下記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む溶媒の下で反応させて、下記一般式(5)で示されるケイ素化合物を製造することができる。
【0027】
RMgX ・・・(1)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
Si(OR4−m ・・・(2)
(式中、Rは、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
【0028】
【化11】

・・・(3)
(式中、RおよびRは同一または異なり1価の有機基を示し、R〜R11は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R〜Rの組み合わせ内ないしR〜R11の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【0029】
【化12】

・・・(4)
(式中、R12はアリール基を示し、R13〜R15は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R13〜R15の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【0030】
【化13】

・・・(5)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
具体的には以下のとおりである。
【0031】
まず、下記一般式(8)で表されるハロゲン化アルキルをマグネシウムと反応させて、上記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物を生成する。この反応は、上記一般式(5)で示されるケイ素化合物を製造する際に使用する溶媒(上記一般式(3)または(4)で表される溶媒)と同一の溶媒を用いることが好ましい。
【0032】
ハロゲン化アルキルとマグネシウムとの混合比は、ハロゲン化アルキル1モルに対してマグネシウムが0.7〜1.5モルであることが好ましい。マグネシウムが0.7モル未満だと原料の消費が少なすぎてしまい、マグネシウムが1.5モルより多いと未反応のマグネシウムが大量に残ってしまうからである。
【0033】
また、このときの反応温度は0〜100℃が好ましい。温度が0℃未満だと反応が進みにくくなり、100℃より高いと反応が制御できず暴走してしまう恐れがあるからである。
【0034】
RX ・・・・・(8)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
ついで、上記溶媒中に生成されたグリニャール試薬としての有機マグネシウム化合物に、上記一般式(2)で表される有機シラン化合物を加え、上記一般式(3)で表される化合物および上記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む溶媒下で反応させる。
【0035】
有機マグネシウム化合物と有機シラン化合物との混合比は、有機マグネシウム化合物1モルに対して有機シラン化合物が0.7〜10モルであることが好ましく、0.8〜3モルであることがさらに好ましい。また、このときの反応温度は0〜250℃が好ましく、40〜150℃がさらに好ましい。
【0036】
1.2.有機マグネシウム化合物
上記工程で用いられる各材料および生成物について以下に説明する。
【0037】
本実施の形態にかかるケイ素化合物の製造方法で用いられる有機マグネシウム化合物としては、上記一般式(1)で表されるもののうち、少なくとも1つ以上の水素または炭化水素基が結合したケイ素を含む化合物であることが好ましく、より具体的には下記一般式(6)で表される有機マグネシウム化合物であることが好ましい。
【0038】
【化14】

・・・(6)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子を、nは1から3の整数を示す。)
式(6)中、アルコキシ基としては、炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数3〜10であることがさらに好ましい。
【0039】
かかる有機マグネシウム化合物としては、たとえば以下のものが挙げられる。
【0040】
【化15】

【0041】
【化16】

【0042】
【化17】

【0043】
【化18】

【0044】
【化19】

【0045】
【化20】

【0046】
【化21】

【0047】
【化22】

【0048】
【化23】

【0049】
1.3.有機シラン化合物
本実施の形態にかかるケイ素化合物の製造方法で用いられる有機シラン化合物は、上記一般式(2)で表される。
【0050】
上記一般式(2)において、置換基Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、ビニル基、アリール基等が挙げられる。
【0051】
また、上記一般式(2)において、置換基ORとしては、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、フェノキシ基等が挙げられる。
【0052】
上記一般式(2)で表される有機シラン化合物としては、たとえばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリノルマルプロポキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、メチルトリノルマルブトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリノルマルプロポキシシラン、トリイソブトキシシラン、トリノルマルブトキシシラン、トリアセトキシシラン、トリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジノルマルプロポキシシラン、ジメチルジイソブトキシシラン、ジメチルジノルマルブトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジイソプロポキシシラン、メチルジノルマルプロポキシシラン、メチルジイソブトキシシラン、メチルジノルマルブトキシシラン、メチルジアセトキシシラン、メチルジフェノキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジイソプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラノルマルブトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。
【0053】
1.4.溶媒
本実施の形態にかかる上記一般式(5)で表されるケイ素化合物の製造方法では、上記一般式(3)で表される化合物および上記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種のエーテル化合物を溶媒として用いることができる。この場合、上記一般式(3)または(4)で表される化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒中には上記一般式(3)または(4)で表される化合物を20重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがさらに好ましく、70重量%以上含むことが特に好ましい。
【0054】
上記一般式(3)または(4)で表されるエーテル化合物を溶媒として用いる場合、有機マグネシウム塩とアルコキシランとの反応速度を向上するか、もしくは、副生するマグネシウム塩の沈降が促進されるが、その理由は溶媒の極性や立体構造によるものと推察される。詳細なメカニズムは明らかではないが、例えば、上記一般式(3)または(4)で表される化合物において、RおよびRで表される1価の有機基がいずれも、エーテル結合の酸素原子に結合している炭素原子と直接結合する炭素原子を有する場合、当該化合物を溶媒として有機マグネシウム塩とアルコキシランとを反応させることにより、有機マグネシウム塩とアルコキシランとの反応を促進させることができ、かつ、マグネシウム塩を速やかに沈降させることができる。
【0055】
上記一般式(3)において、Rで表される1価の有機基およびRで表される1価の有機基がいずれも、エーテル結合の酸素原子に結合している炭素原子と直接結合する炭素原子を有することが好ましい。例えば、RおよびRで表される1価の有機基は炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基などがさらに好ましい。また、R〜R11で表される1価の有機基としては、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基などがさらに好ましい。
【0056】
また、R〜Rの組み合わせ内ないしR〜R11の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成する際の置換基の例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基が挙げられる。また、上記一般式(3)で表されるエーテル化合物としては、総炭素数5〜8のエーテル化合物であることが好ましい。
【0057】
上記一般式(3)で表されるエーテル化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0058】
【化24】

【0059】
上記一般式(4)において、R12で表されるアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。また、上記一般式(4)において、R13〜R15で表される1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。このうち、沸点が低く分留操作が容易である点で、上記一般式(4)で表されるR13〜R15は水素原子であることがより好ましい。
【0060】
上記一般式(4)で表されるエーテル化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0061】
【化25】

【0062】
1.5.ケイ素化合物
本実施の形態にかかるケイ素化合物の製造方法によって製造されるケイ素化合物は、上記一般式(5)で表される。そして、反応物である有機マグネシウム化合物として上記一般式(6)で表されるケイ素化合物を用いた場合には下記一般式(7)で表されるケイ素化合物が得られる。
【0063】
【化26】

・・・(7)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示し、nは1から3の整数を示す。)
上記一般式(7)において、R〜Rは、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。
【0064】
〜Rとしては、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、ビニル基であることが特に好ましい。
【0065】
また、上記一般式(7)において、Rは、同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基を示す。ここで、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、上記R〜Rとして例示したものと同様のアルキル基を挙げることができる。Rとしては水素原子、メチル基、ビニル基であることが特に好ましい。
【0066】
また、上記一般式(7)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示す。ここで、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、上記R〜Rとして例示したものと同様のアルキル基を挙げることができる。Rとしては、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0067】
上記一般式(7)において、n=1でかつm=1のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0068】
【化27】

【0069】
【化28】

【0070】
【化29】

【0071】
【化30】

【0072】
【化31】

【0073】
上記一般式(7)において、n=1でかつm=2のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0074】
【化32】

【0075】
【化33】

【0076】
【化34】

【0077】
【化35】

【0078】
【化36】

【0079】
上記一般式(7)において、n=2でかつm=2のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0080】
【化37】

【0081】
【化38】

【0082】
【化39】

【0083】
【化40】

【0084】
【化41】

【0085】
上記一般式(7)において、n=2でかつm=1のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0086】
【化42】

【0087】
【化43】

【0088】
【化44】

【0089】
【化45】

【0090】
上記一般式(7)において、n=3でかつm=1のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0091】
【化46】

【0092】
【化47】

【0093】
上記一般式(7)において、n=3でかつm=2のケイ素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0094】
【化48】

【0095】
【化49】

【0096】
上記一般式(7)で表されるケイ素化合物において、合成および精製の容易性、取り扱いの容易性の観点から、R〜Rにおいて水素原子の総数が0〜2であるのが好ましく、0〜1であるのがより好ましい。
【0097】
本実施形態に係るケイ素化合物は、ケイ素、炭素、酸素、および水素を含む絶縁膜を形成するために用いることができる。このような絶縁膜は、半導体製造工程中の洗浄工程で汎用されているフッ酸系の薬液に対して高い耐性を有するため、加工耐性が高いという特徴を有する。上記一般式(7)で表されるケイ素化合物を絶縁膜材料として用いる場合には、ケイ素含有膜の機械的強度の観点から、m=0,1であることがより好ましい。また、同様に上記一般式(7)で表されるケイ素化合物を絶縁膜材料として用いる場合には、n=1、2であるのが好ましく、n=1であることがより好ましい。
【0098】
また、本実施形態に係るケイ素化合物は、絶縁膜形成用材料として使用する場合、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素(以下、「不純物」ともいう。)の含有量が10ppb未満であり、かつ含水分量が100ppm未満であることものが好ましい。このような絶縁膜形成用材料を用いて絶縁膜を形成することにより、低比誘電率でかつ加工耐性に優れた絶縁膜を収率良く得ることができる。
【0099】
2.実施例および比較例
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」は、特記しない限り、それぞれ重量%であることを示している。
【0100】
2.1.評価方法
各種の評価は、次のようにして行った。
【0101】
2.1.1.反応進行度測定
反応途中の溶液をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(装置本体:Agilent technologies社製6890N、カラム:Supelco社製SPB−35)により溶液中の化合物存在比を調べた。なお各化合物の同定は標品のGCを測定することによって実施した。
【0102】
なおサンプリングの箇所は、加熱開始前および加熱開始後2時間、6時間、10時間、16時間にて行い、直後にGC測定を実施した。なお、測定結果については原料のアルコキシシラン、および目的生成物の2成分の比を示した。
【0103】
2.1.2.副生塩の沈降度測定
各反応において、合成終了後の反応液を、磁気撹拌子を用いて分速1000回転の速度で撹拌したのち、室温に放置した。この後30分、1時間、3時間後の塩の沈降度合いを上澄み層と沈殿層との高さ比で計測し、沈降度の指標とした。
【0104】
2.1.3.傾斜法試験
上記静置試験を開始してから24時間後、反応液の上澄み部の分離を傾斜法にて実施した。具体的には、反応液の入った容器を傾けて上澄み液だけを流し出すことで上澄み部の分離を実施した。この際、その様子により以下の判定を行った。
A:沈殿が落ちることなく、上澄みを回収することができた。
B:傾斜と同時に沈殿も流れたため、傾斜法による上澄みの分離は困難だった。
【0105】
2.2.ケイ素化合物の合成
上述したケイ素化合物の製造方法を適用してケイ素化合物を合成した。具体的には以下のとおりである。
【0106】
2.2.1.実施例1
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびジイソプロピルエーテル500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにジイソプロピルエーテル250mlおよびメチルトリメトキシシラン89gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(トリメチルシリル)メチル]メチルジメトキシシラン80gを得た。なお、分留後の生成物の収率は64%、純度は99.2%であった。
【0107】
2.2.2.実施例2
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびtert-ブチルメチルエーテル500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにtert-ブチルメチルエーテル250mlおよびビニルトリメトキシシラン96gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、60℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(トリメチルシリル)メチル]ビニルジメトキシシラン83gを得た。なお、分留後の生成物の収率は63%、純度は99.4%であった。
【0108】
2.2.3.実施例3
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびアニソール(フェニルメチルエーテル)500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)ジメチルフェニルシラン38gを加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)ジメチルフェニルシランを得た。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)ジメチルフェニルシラン83gを30分かけて加えた。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにアニソール250mlおよびテトラメトキシシラン107gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、100℃で16時間加熱させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(ジメチルフェニルシリル)メチル]トリメトキシシラン105gを得た。なお、分留後の生成物の収率は60%、純度は99.2%であった。
【0109】
2.2.4.実施例4
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびジイソプロピルエーテル500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシラン115gを液温が30℃を超えないようにしながら30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシランを得た。滴下終了後、フラスコにジイソプロピルエーテル250mlおよびメチルトリメトキシシラン90gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(メチルジイソプロポキシシリル)メチル]メチルジメトキシシラン155gを得た。なお、分留後の生成物の収率は84%、純度は99.0%であった。
【0110】
2.2.5.比較例1
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびTHF500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにTHF250mlおよびメチルトリメトキシシラン89gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(トリメチルシリル)メチル]メチルジメトキシシラン77gを得た。なお、生成物の収率は62%、純度は99.3%であった。
【0111】
2.2.6.比較例2
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびジエチルエーテル500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにジエチルエーテル250mlおよびメチルトリメトキシシラン89gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、40℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(トリメチルシリル)メチル]メチルジメトキシシラン78gを得た。なお、分留後の生成物の収率は63%、純度は99.2%であった。
【0112】
2.2.7.比較例3
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびTHF500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにTHF250mlおよびビニルトリメトキシシラン96gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(トリメチルシリル)メチル]ビニルジメトキシシラン81gを得た。なお、分留後の生成物の収率は61%、純度は99.1%であった。
【0113】
2.2.8.比較例4
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびジエチレングリコールジエチルエーテル500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)トリメチルシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)トリメチルシラン55gを30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)トリメチルシランを得た。滴下終了後、液温が室温に戻ったのを確認した後、フラスコにジエチレングリコールジエチルエーテル250mlおよびビニルトリメトキシシラン96gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。
【0114】
この実験に関しては当初予定していた液相抽出ができず、また溶剤の沸点が目的物とほぼ同一だったため、単離操作の実施は行わなかった。
【0115】
2.2.9.比較例5
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。次いで、フラスコ内にマグネシウム20gおよびTHF500mlを加え、室温で撹拌しながら(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシラン25gを加えた。しばらく撹拌し、発熱を確認した後、滴下ロートから(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシラン115gを液温が30℃を超えないようにしながら30分かけて加えて、有機マグネシウム塩として(クロロメチル)メチルジイソプロポキシシランを得た。滴下終了後、フラスコにTHF250mlおよびメチルトリメトキシシラン90gの混合液を2時間かけて滴下した。続いて、70℃で16時間加熱還流させた。反応後の液において、マグネシウム塩の副生による白濁析出が確認された。生成したマグネシウム塩および未反応のマグネシウムを濾別し、濾液を分留することで、[(メチルジイソプロポキシシリル)メチル]メチルジメトキシシラン140gを得た。なお、分留後の生成物の収率は76%、純度は98.7%であった。
【0116】
2.3.評価結果
上記実施例1、2、3、4で得られたケイ素化合物の反応進行度測定の測定結果をそれぞれ表1、2、3、4に示す。また、上記比較例1〜5で得られたケイ素化合物の反応進行度測定の測定結果をそれぞれ表5〜表9に示す。表1〜表9においては、上段に原料である有機シラン化合物(アルコキシシラン)の存在比(%)を、下段に生成物であるケイ素化合物の存在比(%)を、示す。さらに、実施例1、2、3、4および比較例1〜5における反応進行度を図1に示す。図1において、横軸は加熱時間を示し、縦軸は生成物であるケイ素化合物の存在比を示す。図1および表1〜表9によれば、溶媒としてジイソプロピルエーテルやジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、アニソール、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒を適用した場合には、溶媒としてTHFを適用した場合と比べて、反応に要する時間を短縮できることが確認された。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
【表3】

【0120】
【表4】

【0121】
【表5】

【0122】
【表6】

【0123】
【表7】

【0124】
【表8】

【0125】
【表9】

【0126】
次に、副生塩の沈降度測定および傾斜法試験の結果を表10に示す。表10は、静置時間毎の上澄み層と沈殿層の高さ比(%)および傾斜法試験の評価を示す。また、沈降度測定結果を図2に示す。図2において、横軸は静置時間(時間)を示し、縦軸は沈殿層の高さ比(%)を示す。
【0127】
【表10】

【0128】
図2および表10によれば、実施例1〜4におけるマグネシウム塩の沈降速度が高く、塩と上澄みの分離が容易で上澄みの回収を効率よく行うことできることが確認された。したがって、上記一般式(7)で表されるケイ素化合物の製造工程において、ジイソプロピルエーテルおよびtert-ブチルメチルエーテル等の上記一般式(3)で表される溶媒ならびにアニソール等の上記一般式(4)で表される溶媒を用いることにより、合成時間を短縮することができ、かつ合成過程および後処理の過程を容易に行うことができることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】実施例および比較例にかかる反応進行度を示す図である。
【図2】実施例および比較例にかかる沈降度測定の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(5)で表されるケイ素化合物を製造する方法であって、
下記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物と、下記一般式(2)で表される有機シラン化合物とを、下記一般式(3)で表される化合物および下記一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む溶媒の下で反応させる工程を含む、ケイ素化合物の製造方法。
RMgX ・・・(1)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
Si(OR4−m ・・・(2)
(式中、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
【化1】

・・・(3)
(式中、RおよびRは同一または異なり1価の有機基を示し、R〜R11は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R〜Rの組み合わせ内ないしR〜R11の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【化2】

・・・(4)
(式中、R12はアリール基を示し、R13〜R15は同一または異なり水素原子または1価の有機基を示す。なお、R13〜R15の組み合わせ内における置換基どうしで環状構造を形成してもよい。)
【化3】

・・・(5)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物は、下記一般式(6)で表される有機マグネシウム化合物であり、
前記一般式(5)で表されるケイ素化合物は、下記一般式(7)で表されるケイ素化合物である、請求項1に記載のケイ素化合物の製造方法。
【化4】

・・・(6)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは1から3の整数を示す。)
【化5】

・・・(7)
(式中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、フェニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、フェノキシ基、またはアルコキシ基を示し、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、またはフェニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基、またはフェニル基を示し、mは0から2の整数を示し、nは1から3の整数を示す。)
【請求項3】
前記一般式(6)および前記一般式(7)において、nは1である、請求項2に記載のケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(8)で表されるハロゲン化アルキルをマグネシウムと反応させて、前記一般式(1)で表される有機マグネシウム化合物を生成する工程をさらに含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のケイ素化合物の製造方法。
RX ・・・・・(8)
(式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−203215(P2009−203215A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177869(P2008−177869)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】