説明

ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセス

組換え型微生物が、例えば、レボジオンレダクターゼ遺伝子、例えばC. アクアチクム(C. aquaticum)AKU611(FREM BP-6448)またはその変異体のようなコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子によって、ケトイソフォロンをレボジオンに還元することができる、市販のパン酵母、出芽酵母菌(Saccharomyces cerevisie)ATCC7754、サッカロミセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)HUT7191(IFO 0494)、サッカロミセス・デルブルエキイ(Saccharomyces unisporus、IFO 0298)、サッカロミセス・デルブルエキイ(Torulaspora delbrueckeii)HUT7102、サッカロミセス・ウィリアヌス(Saccharomyces willianus)HUT7106、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)ATCC11486、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)IFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス(Saccharomyces)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、およびカンジダ(Candida)属の微生物からなる群より選択される、宿主微生物を形質転換することによって得ることができる、反応混合物において組換え型微生物またはその無細胞抽出物にケトイソフォロンを接触させる段階、ならびに反応混合物から産生されたアクチノールを単離する段階を含む、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセスを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,6,6-トリメチル-シクロヘキセン-1,4-ジオン(以降、ケトイソフォロンと呼ぶ)から(4R,6R)-4-ヒドロキシ-2,2,6-トリメチルシクロヘキサノン(以降アクチノールと呼ぶ)の微生物による一段階産生プロセス、およびそのようなプロセスに関与する組換え型微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチノールは、ゼアキサンチンのようなカロチノイドの合成にとって有用である。欧州特許第982,406号は、セルロモナス(Cellulomonas)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、プラノコッカス(Planococcus)、およびアルスロバクター(Arthrobacter)属の微生物からなる群より選択され、レボジオンのアクチノールへの選択的不斉還元を行うことができる微生物にレボジオンを接触させる段階、ならびに得られたアクチノールを反応混合物から回収する段階を含む、アクチノールの微生物による効率的な産生を開示する。欧州特許第1,026,235号は、コリネバクテリウム・アクアチクム(Corynebacterium aquaticum)AKU611(FERM BP-6448)から単離された、レボジオンに作用してアクチノールを産生させる酵素であるレボジオンレダクターゼを開示している。レボジオンレダクターゼ活性を有する酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたDNA、そのようなDNAによってコードされるポリペプチド、組換え型微生物等のような遺伝子材料は、欧州特許第1,122,315号に開示されている。
【0003】
欧州特許第1,074,630号は、ケトイソフォロンをレボジオンに変換することができ、サッカロミセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、サッカロミセス・デルブルエキイ(Saccharomyces unisporus、Torulaspora delbrueckii)、サッカロミセス・ウィリアヌス(Saccharomyces willianus)、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からなる種の群より選択される少なくとも一つの種類の酵母にケトイソフォロンを接触させる段階を含む、レボジオンの微生物による効率的な産生を開示する。ケトイソフォロンに作用してレボジオンを産生させる酵素ケトイソフォロンレダクターゼの単離および特徴付けは、最近報告された。
【0004】
現在まで、ケトイソフォロンから光学活性アクチノールを直接産生するための生物学的一段階プロセスはなく、この産生は、ケトイソフォロンからレボジオン、およびレボジオンからアクチノールへの二連続段階を必要としている。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、ケトイソフォロンをレボジオンに、そしてレボジオンをアクチノールに同時に還元することができる組換え型微生物を用いる一段階反応によって非常に光学純度の高いケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセスに向けられる。
【0006】
より詳しく述べると、本発明は、ケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子もしくはレボジオンレダクターゼ遺伝子、またはその双方が導入されたためにケトイソフォロン還元活性とレボジオン還元活性の双方を有する組換え型微生物またはその無細胞抽出物にケトイソフォロンを接触させること、および得られたアクチノールを反応混合物から単離することによって、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセスを提供する。
【0007】
もう一つの局面において、本発明は、ケトイソフォロンのレボジオンへの変換を触媒することができるケトイソフォロンレダクターゼ、およびレボジオンのアクチノールへの変換を触媒することができるレボジオンレダクターゼの両者にケトイソフォロンを同時に接触させることによって、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセスを提供する。
【0008】
本発明は、レボジオンレダクターゼ遺伝子によってケトイソフォロンをレボジオンに還元することができる宿主微生物を形質転換することによって得られる組換え型微生物をさらに提供する。
【0009】
より詳しく述べると、本発明は、ケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子によってレボジオンをアクチノールに還元することができる宿主微生物を形質転換することによって得られる組換え型微生物を提供する。
【0010】
さらにもう一つの局面において、本発明は、ケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子とレボジオンレダクターゼ遺伝子の両者を発現する組換え型微生物を提供する。
【0011】
本発明において、ケトイソフォロンからアクチノールを産生することができる如何なる組換え型微生物も用いることができる。本発明において、その中にレボイオンレダクターゼ遺伝子を導入することによって、ケトイソフォロンからアクチノールを産生することができる組換え型微生物を得るために、ケトイソフォロンからレボジオンを産生することができる如何なる微生物も宿主微生物として用いることができる。該微生物はまた、ケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子に関するドナー株として用いることができる。好ましい微生物は、サッカロミセス(Saccharomyces)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、およびカンジダ(Candica)属の微生物からなる群より選択される。例には、出芽酵母ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、その変異体、およびさらに市販のパン酵母(オリエンタル酵母(株)から入手できる)が含まれる。これらの酵母は、欧州特許第1,074,630号に開示され、寄託所アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801 University Boulevard Manassae,VA20100-2209、USA;HUT微生物遺伝資源保存室、発酵技術専攻、広島大学;および財団法人発酵研究所(IFO)、大阪市淀川区十三本町2丁目17-85、日本、の少なくとも一つに寄託されている。それぞれは、要請に応じて誰でも適切な寄託所から入手できる。
【0012】
本発明において、その中にケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子を導入することによって、ケトイソフォロンからアクチノールを産生することができる組換え型微生物を得るために、レボジオンからアクチノールを産生することができる如何なる微生物も宿主微生物として用いることができる。該微生物はまた、レボジオンレダクターゼ遺伝子に関するドナー株として用いることができる。好ましい微生物は、セルロモナス種AKU672(FERM BP-6449)、コリネバクテリウム・アクアチクムAKU610(FERM BP-6447)、C.アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)、P.オケアノコイテスAKU152(IFO 15880)、A.スルフレウスAKU635(IFO 12678)、およびその変異体を含む、セルロモナス、コリネバクテリウム、プラノコッカス、およびアルスロバクター属の微生物からなる群より選択される。これらの微生物は、欧州特許第982,406号に開示されている。セルロモナス種AKU672(FERM BP-6449)、コリネバクテリウム・アクアチクムAKU610(FERM BP-6447)、およびC.アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)は、ブダペスト条約に基づいて1998年8月4日に、Grenzacherstrasse 124、CH-4070、Basle、SwitzerlandのホフマンラロシュAGの名称で、産業技術総合研究所(AIST)、茨城県つくば市東1-1-1、中央第6、305-8566、日本に寄託されている。P.オケアノコイテスAKU152(IFO 15880)およびA. スルフレウスAKU635(IFO 12678)は、上記の寄託番号でIFOに寄託されており、寄託所から誰でもそれらを入手することができる。最も好ましい株の一つは、A.アクアチクムAKU611である。
【0013】
本発明において、ケトイソフォロンからレボジオンを当初産生することができず、レボジオンからアクチノールも産生することができない如何なる微生物も、ケトイソフォロンレダクターゼおよびレボジオンレダクターゼをコードする双方の遺伝子をその中に導入することによって、ケトイソフォロンからアクチノールを産生することができる組換え型微生物を得るための宿主生物として用いることができる。
【0014】
アクチノールを産生するために、該組換え型微生物の増殖期細胞培養、休止期細胞培養、不死化細胞、または無細胞抽出物等のいずれを用いてもよい。増殖期の細胞培養物は、炭素源として、グルコースもしくは蔗糖、エタノールもしくはグリセロールのようなアルコール、オレイン酸およびステアリン酸もしくはそのエステルのような脂肪酸、または菜種油もしくは大豆油のような油、のような糖質;窒素源として硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、ペプトン、アミノ酸、コーンスティープリカー、ブラン、酵母抽出物等;無機塩源として硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、燐酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム等;ならびに他の栄養源として麦芽抽出物、肉抽出物等を含む栄養培地において組換え型微生物を培養することによって得ることができる。
【0015】
組換え型微生物の培養は、pH 4.0〜9.0、温度範囲10〜50℃で15分〜72時間、好ましくはpH 5.0〜8.0で、温度範囲20〜40℃で30分〜48時間好気的または嫌気的に行うことができる。
【0016】
このようにして得られた増殖期の細胞培養物を用いて、休止期細胞培養物、不死化細胞、または無細胞抽出物を、当技術分野で一般的に既知の任意の手段によって調製してもよい。
【0017】
反応混合物におけるケトイソフォロンの濃度は、他の反応条件に応じて変化しうるが、一般的に0.1 g/l〜300 g/l、好ましくは1 g/l〜30 g/lの範囲である。
【0018】
本発明において、アクチノールはまた、ケトイソフォロンレダクターゼおよびレボジオンレダクターゼをケトイソフォロンに同時に接触させることによって産生することができる。
【0019】
最も好ましいレボジオンレダクターゼの一つおよびその調製法は欧州特許第1,026,235号に記述されている。この酵素は、以下の物理化学的特性を特徴とした:
1)レボジオンレダクターゼは、レボジオンのアクチノールへの部位および立体選択的還元を触媒する。
2)酵素の相対的分子量は、分子量36,000±5,000 Daを有する四つの相同なサブユニットからなる142,000〜155,000±10,000 Daである。
3)至適温度はpH 7.0で15〜20℃、至適pHは7.5である。
4)酵素は共因子としてNAD+またはNADHを必要とし、K+、Na+、Cs+、Rb+、およびNH4+のような一価陽イオンによって高度に活性化される。
【0020】
レボジオンレダクターゼは、以下の式に従って共因子の存在下でレボジオンのアクチノールへの還元を触媒する:

【0021】
ケトイソフォロンレダクターゼおよびケトイソフォロンレダクターゼ活性を有する酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離DNAのようなその遺伝子材料は、ケトイソフォロンをレボジオンに還元することができる微生物から得ることができる。好ましい微生物は、出芽酵母ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、その変異体、およびさらに市販のパン酵母(オリエンタル酵母(株)から入手できる)を含む、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、およびカンジダ属の微生物からなる群より選択される。これらの微生物は、欧州特許第1,074,630号に開示される。
【0022】
酵素反応は、例えば以下のように行ってもよい:基本反応混合物(総容積:1 ml):1 M燐酸カリウム緩衝液(pH 7.0)200 μl、8 mM NADHの0.2 mM KOH溶液40 μl、ケトイソフォロン溶液200 μl、および酵素溶液20〜80 μl、および水によって全量1 mlにしたものを、pH 4.0〜9.0、温度範囲10〜50℃で5分〜48時間、好ましくはpH 5.0〜8.0で、温度範囲20〜40℃で15分〜24時間インキュベートする。
【0023】
反応混合物におけるケトイソフォロン濃度は、他の反応条件に応じて変化しうるが、一般的に、0.1 g/l〜300 g/l、好ましくは1 g/l〜30 g/lの範囲であってもよい。
【0024】
上記のように酵素混合物において生物学的または酵素的に産生されたアクチノールは、酢酸エチル、n-ヘキサン、トルエン、またはn-ブチルのような有機溶媒によって抽出して、有機溶媒層にアクチノールを回収してもよい。抽出物を、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー等のような既知の方法によって分析する。
【0025】
反応後、反応混合物におけるアクチノールを、例えばn-ヘキサン、トルエン、または酢酸n-ブチルのようなアクチノールを容易に溶解する水に非混和性の有機溶媒によって回収してもよい。アクチノールのさらなる精製は、抽出物を濃縮してアクチノールを直接結晶化させるか、または様々な種類のクロマトグラフィー、例えば薄層クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、もしくは高速液体クロマトグラフィーを組み合わせることによって行うことができる。
【0026】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、これらはそれによって本発明の範囲を制限しない。
【0027】
実施例1:出芽酵母INVScI休止期細胞を用いるケトイソフォロンの還元によるレボジオンの産生
出芽酵母INVScIを、10 g/lバクト酵母抽出物、20 g/lバクトペプトン、および20 g/lラフィノースを含むYP-ラフィノース培地(試験管に5 ml)に接種して、30℃で20時間培養した。シード培養物の一部を同じ培地(試験管に10 ml)に接種して、30℃で5時間培養した。波長600 nmでの培養物の最初の吸光度の値を0.2に調節した。20%ガラクトース溶液(1 ml)を加えた後、培養を16時間継続した。それぞれの試験管の主な培養ブロスを回収して、遠心によって回収した。遠心の沈降物を、0.1 M KPB(pH 6.0)によって洗浄した後、以下のケトイソフォロン-還元反応の休止期細胞として用いた。
【0028】
ケトイソフォロン還元反応は以下のように実施した。休止期細胞0.11 gを、50 g/lグルコース、および5.0 g/lケトイソフォロンを含む0.1 M KPB(pH 6.0)である反応緩衝液1 mlに浮遊させて、試験管において30℃で緩く振とうさせながら(200 rpm)インキュベートした。反応混合物を遠心して、休止期細胞沈降物を除去することによって反応溶液を回収した。得られた反応溶液を等量の酢酸エチルによって抽出して、ガスクロマトグラフィー[カラム:BGB-176(BGBアナリティク(BGB Analytik AG)、スイス)、機器:GC-14A(島津、日本)、担体ガス:ヘリウム、カラム温度:100℃から150℃まで1℃/分の上昇、注入器の温度:200℃]によって分析した。
【0029】
反応の結果を表1に示す。17.0時間の反応後、5.0 g/lケトイソフォロンから2.8 g/lレボジオンが産生された。主要な副産物であるアクチノール(S,R)-異性体の濃度は0.7 g/lであると分析された。
【0030】
(表1)出芽酵母INVScI細胞を用いたケトイソフォロン還元反応

【0031】
実施例2:C.アクアチクムAKU611に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子の出芽酵母INVScIへの導入
レボジオンレダクターゼ遺伝子をコードするDNA断片は、下記のような精製レボジオンレダクターゼの部分的アミノ酸配列に基づく情報から設計したPCRプライマーを用いて既にクローニングされている。
【0032】
第一に、コリネバクテリウム・アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)のゲノムDNAを、ゲノム単離キット(BIO101)を用いて調製した。調製したゲノムDNAを鋳型として用いて、過剰な隣接領域を含まないレボジオンレダクターゼ遺伝子の完全なコード配列を、サーマルサイクラー(パーキンエルマー2400、アメリカ)を用いてPCR増幅によって得た。用いた二つの合成プライマーは:LV-ORF(+)(配列番号:1)(EcoRI部位GAATCCを有する)、およびLV-ORF(-)(配列番号:2)(PstI部位CTGCAGを有する)であった。PCR混合物(0.02 ml)は、各プライマー5 pmol、0.2 mM各dNTP、およびLA Taq(宝酒造(株)、京都/日本)1 Uを含んだ。初回鋳型変性段階は94℃で1分からなった。98℃で20秒、70℃で2分、および72℃で4分の増幅サイクルを25回繰り返した。
【0033】
この反応によって、レボジオンレダクターゼ遺伝子の完全なORF(0.8 kb)を含むDNA断片が増幅された。増幅されたレボジオンレダクターゼ遺伝子をEcoRIおよびPstIによって処置して、予めEcoRIおよびPstIによって消化したベクターpKK223-3(アマシャムバイオサイエンス(Amersham Bioscience)/バッキンガムシャー、イギリス)にライゲーションして、プラスミドpKKLR(1-15)を構築した。大腸菌JM109をライゲーション混合物によって形質転換して、いくつかのクローンを配列分析のために選択した。各候補クローンのクローニングしたレボジオンレダクターゼ遺伝子の配列を調べた。コリネバクテリウム・アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)のレボジオンレダクターゼ配列と完全に同じ配列を示したクローンの一つをJM109[pKKLR(1-15)]と命名した。pKKLR(1-15)をこの株から単離して、さらなる実験に用いた。
【0034】
レボジオンレダクターゼ遺伝子をコードする0.8 kb DNA断片を、レボジオンレダクターゼ遺伝子および大腸菌ベクターpKK223-3を含むプラスミドpKKLR(1-15)から切り出して、出芽酵母の発現ベクターであるpYES2に挿入した。その両者が当初からpYES2上に存在するGAL1プロモーターおよびCYC1ターミネーターを、0.8 kbレボジオンレダクターゼ断片とプラスミドpYES2のEcoRI消化型とのライゲーションの後、ライゲーションしたDNAの平滑化およびDNAの自己ライゲーションの結果として、プラスミド上のレボジオンレダクターゼ遺伝子に結合させた。挿入されたレボジオンレダクターゼ遺伝子の方向を確認した後、このプラスミドをpLVRS1と命名し、これを用いて出芽酵母INVScIを形質転換した。プラスミドを、プラスミドDNA、pLVRS1を示す図に示し、LVR遺伝子をZ.バイリイATCC11486細胞に導入した。PGAL1、TCYC1、pMB1ori、AmpR、URA3、2ミクロンori、およびf1 oriはそれぞれ、GAL1プロモーター、CYC1ターミネーター、pMB1(pUC-由来プラスミド)開始点、アンピシリン耐性遺伝子、URA3遺伝子、2ミクロンDNA開始点およびf1開始点を意味する。LVR遺伝子を灰色の矢印で示す。
【0035】
S.C. EasyComp形質転換キット(インビトロジェン(Invitrogen))を用いてレボジオンレダクターゼコードプラスミドpLVRS1を出芽酵母INVScIに導入した。形質転換法は、形質転換キットのプロトコールと基本的に同じであった。形質転換された細胞は、親細胞株にウラシル栄養要求性が存在することからウラシルを欠損する固体合成培地上に得られた形質転換溶液を広げて、これらのプレートを30℃で4日間インキュベートすることによって選択することができる。酵母株におけるプラスミドの存在は、ドナーDNAとして出芽酵母INVScI形質転換株の候補体の総DNAを用いることによって、大腸菌株の形質転換後のpLVRS1-含有大腸菌DH5α株の発生をチェックすることによって確認した。pLVRS1を保有する株である出芽酵母pLVRS1をさらなる実験のために用いた。
【0036】
実施例3:C.アクアチクムAKU610に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子を含む出芽酵母INVScI休止期細胞を用いてケトイソフォロンを還元することによるアクチノールの産生
出芽酵母INVScI保有pLVRS1の休止期細胞を用いるケトイソフォロン還元反応は当初、実施例1に記述した方法と基本的に同じ方法によって行った。反応の結果を表2に記述する。19.0時間反応させた後、5.0 g/lケトイソフォロンから1.6 g/lアクチノールが産生された。(S,R)-異性体濃度(0.48 g/l)の値が比較的高かったために、アクチノールの光学純度はそれほど高くなかった(67.2%)。
【0037】
(表2)出芽酵母INVScI保有pLVRS1を用いるケトイソフォロン還元反応

KIP:ケトイソフォロン;(R)-LDN:(R)-レボジオン;(R,R)-ACT:(R,R)-アクチノール;(S,R)-ACT:(S,R)-アクチノール、(S)-PHO:(S)-フォレノール
【0038】
休止期細胞0.33 gを、150 g/lグルコースおよび10.0 g/lケトイソフォロンを含む0.1 M KPB(pH 6.0)である反応緩衝液1 mlに浮遊させて、軽く振とうさせながら(200 rpm)試験管において20℃でインキュベートした。反応溶液を回収して、抽出し、実施例1に記述するようにガスクロマトグラフィーによって分析した。
【0039】
反応の結果を表3に記述する。25.0時間の反応後、10.0 g/lケトイソフォロンから3.3 g/lアクチノールが産生された。(S,R)-異性体の濃度を0.52 g/lに抑制することができたことから、アクチノールの光学純度は81.5%に増加した。
【0040】
(表3)出芽酵母INVScI保有pLVRS1を用いたケトイソフォロン還元反応

KIP:ケトイソフォロン;(R)-LDN:(R)-レボジオン;(R,R)-ACT:(R,R)-アクチノール;(S,R)-ACT:(S,R)-アクチノール、(S)-PHO:(S)-フォレノール
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】Z.バイリイATCC11486細胞にLVR遺伝子を導入するためのプラスミドDNA、pLVRS1。PGAL1、TCYC1、pMB1ori、AmpR、URA3、2ミクロンori、およびf1 oriはそれぞれ、GAL1プロモーター、CYC1ターミネーター、pMB1(pUC-由来プラスミド)開始点、アンピシリン耐性遺伝子、URA3遺伝子、2ミクロンDNA開始点およびf1開始点を意味する。LVR遺伝子を灰色の矢印で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え型微生物が、例えば、レボジオンレダクターゼ遺伝子、例えばC. アクアチクム(C. aquaticum)AKU611(FREM BP-6448)またはその変異体のようなコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子によって、ケトイソフォロンをレボジオンに還元することができる、市販のパン酵母、出芽酵母菌(Saccharomyces cerevisie)ATCC7754、サッカロミセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)HUT7191(IFO 0494)、サッカロミセス・デルブルエキイHUT7116(Saccharomyces unisporus、IFO 0298)、サッカロミセス・デルブルエキイ(Torulaspora delbrueckii)HUT7102、サッカロミセス・ウィリアヌス(Saccharomyces willianus)HUT7106、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)ATCC11486、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)IFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス(Saccharomyces)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、およびカンジダ(Candica)属の微生物からなる群より選択される、宿主微生物を形質転換することによって得ることができる、反応混合物において組換え型微生物またはその無細胞抽出物にケトイソフォロンを接触させる段階、ならびに産生されたアクチノールを反応混合物から単離する段階を含む、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセス。
【請求項2】
反応がpH値4.0〜9.0、好ましくはpH 5.0〜8.0、温度範囲10〜50℃、好ましくは温度範囲20〜40℃で、15分〜72時間、好ましくは30分〜48時間行われる、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
該組換え型微生物が、例えば市販のパン酵母、出芽酵母菌ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、またはカンジダ属に属する微生物に由来するケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子によってレボジオンをアクチノールに還元することができる、例えばセルロモナス(Cellulomonas)種AKU672(FERM BP-6449)、コリネバクテリウム・アクアチクム(Corynebacterium acquaticum)AKU610(FERM BP-6447)、C.アクアチクム(C. aquaticum)AKU611(FERM BP-6448)、P.オケアノコイテス(P. okeanokoites)AKU152(IFO 15880)、A.スルフレウス(A. sulfureus)AKU635(IFO 12678)、およびその変異体のような、セルロモナス、コリネバクテリウム、プラノコッカス(Planococcus)、およびアルスロバクター(Arthrobacter)属の微生物からなる群より選択される、宿主微生物を形質転換することによって得ることができる、反応混合物において組換え型微生物またはその無細胞抽出物にケトイソフォロンを接触させる段階、ならびに得られたアクチノールを反応混合物から単離する段階を含む、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセス。
【請求項4】
反応がpH値4.0〜9.0、好ましくはpH 5.0〜8.0、温度範囲10〜50℃、好ましくは温度範囲20〜40℃で、15分〜72時間、好ましくは30分〜48時間行われる、請求項3記載のプロセス。
【請求項5】
セルロモナス種AKU672(FERM BP-6449)、コリネバクテリウム・アクアチクムAKU610(FERM BP-6447)、C.アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)、P.オケアノコイテスAKU152(IFO 15880)、A.スルフレウスAKU635(IFO 12678)、およびその変異体のような、セルロモナス、コリネバクテリウム、プラノコッカス、およびアルスロバクター属の微生物からなる群より選択される該微生物が、ケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子とレボジオンレダクターゼ遺伝子、例えばC.アクアチクムAKU611(FERB BP-6448)、またはその変異体のようなコリネバクテリウム属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子の双方を発現する、反応混合物において組換え型微生物またはその無細胞抽出物にケトイソフォロンを接触させる段階、ならびに産生されたアクチノールを反応混合物から単離する段階を含む、ケトイソフォロンからアクチノールを産生するプロセス。
【請求項6】
反応がpH値4.0〜9.0、好ましくはpH 5.0〜8.0、温度範囲10〜50℃、好ましくは温度範囲20〜40℃で、15分〜72時間、好ましくは30分〜48時間行われる、請求項5記載のプロセス。
【請求項7】
ケトイソフォロンのレボジオンへの変換を触媒することができる、例えば市販のパン酵母、出芽酵母菌ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、またはカンジダ属に属する微生物に由来する精製ケトイソフォロンレダクターゼ、およびレボジオンのアクチノールへの変換を触媒することができる精製レボジオンレダクターゼ、例えばC.アクアチクムAKU611(FERB BP-6448)、またはその変異体のようなコリネバクテリウム属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼに、ケトイソフォロンを同時に接触させることによってケトイソフォロンをアクチノールから産生するプロセス。
【請求項8】
反応がpH値4.0〜9.0、好ましくはpH 5.0〜8.0、温度範囲10〜50℃、好ましくは温度範囲20〜40℃で、5分〜48時間、好ましくは15分〜24時間行われる、請求項7記載のプロセス。
【請求項9】
レボジオンレダクターゼ遺伝子、例えばC. アクアチクムAKU611(FREM BP-6448)またはその変異体のようなコリネバクテリウム属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子によって、ケトイソフォロンをレボジオンに還元することができる、宿主生物、例えば市販のパン酵母、出芽酵母菌ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、またはカンジダ属に属する微生物を形質転換することによって得ることができる組換え型微生物。
【請求項10】
例えば市販のパン酵母、出芽酵母菌ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、またはカンジダ属に属する微生物に由来するケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子によってレボジオンをアクチノールに還元することができる、宿主生物、例えばセルロモナス種AKU672(FERM BP-6449)、コリネバクテリウム・アクアチクムAKU610(FERM BP-6447)、C.アクアチクムAKU611(FERM BP-6448)、P.オケアノコイテスAKU152(IFO 15880)、A.スルフレウスAKU635(IFO 12678)、およびその変異体のような、セルロモナス、コリネバクテリウム、プラノコッカス、およびアルスロバクター属の微生物を形質転換することによって得ることができる組換え型微生物。
【請求項11】
例えば、市販のパン酵母、出芽酵母菌ATCC7754、S.ロウキシイHUT7191(IFO 0494)、S.デルブルエキイHUT7116(IFO 0298)、S.デルブルエキイHUT7102、S.ウィリアヌスHUT7106、Z.バイリイATCC11486、C.トロピカリスIFO 1403、およびその変異体のような、サッカロミセス属、チゴサッカロミセス属、またはカンジダ属に属する微生物に由来するケトイソフォロンレダクターゼ遺伝子、ならびにレボジオンレダクターゼ、例えばC.アクアチクムAKU611(FERB BP-6448)、またはその変異体のようなコリネバクテリウム属に属する微生物に由来するレボジオンレダクターゼ遺伝子の双方を発現する組換え型微生物。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2006−500047(P2006−500047A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538915(P2004−538915)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010295
【国際公開番号】WO2004/029263
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】