説明

ケトチフェン経皮薬物送達システム及び眼科疾患の治療方法

ケトチフェン経皮薬物送達システムが提供される。ある実施形態において、本システムは、支持体層と該支持体の上に設けられたプラスター層を含むものであり、ここにおいて、該プラスター層は、ケトチフェン遊離塩基を含むものである。また、該送達システムを、例えば眼科疾患の治療に用いる方法、及び該送達システムを含むキットが提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[導入]
経皮パッチや皮膚パッチとしても知られている、経皮薬物送達システムは、皮膚を通して薬物を送達するために皮膚に取り付けられる、薬物の入った接着性のパッチである。経皮パッチは、経皮的吸収(それは、無傷の皮膚を通しての物質の吸収である)により、薬物を送達する。経皮パッチが皮膚に貼付されると、パッチに含まれる薬物は皮膚を通過、すなわち透過し、全身血流を通じて、その作用部位に到達することができる。あるいは、経皮パッチは、パッチに含まれる薬物が局所的に送達されるように、所望の治療部位に貼り付けてもよい。
【0002】
ケトチフェン(4,9−ジヒドロ−4−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−10H−ベンゾシクロヘプタ[1,2b]チオフェン−10−オン)は、アレルギー性結膜炎、又はアレルギーによって引き起こされる痒みを伴う眼の充血の治療に使用される、抗ヒスタミン及び肥満細胞安定化剤である。典型的には、ケトチフェンは、フマル酸ケトチフェンの溶液として、提供される(商品名のついた溶液には、NovartisのZaditor及びBausch and LombのAlawayがある)。人々は、アレルギー症状を治療するため、フマル酸ケトチフェンの溶液製剤を、点眼剤として使用する。
【発明の概要】
【0003】
[要約]
ケトチフェン経皮薬物送達システムが提供される。ある実施形態においては、該システムは、支持体層と、該支持体の上に設けられたプラスター層を含むものであり、ここにおいて、該プラスター層はケトチフェン遊離塩基を含む。また、該経皮薬物送達システムの、例えば眼科疾患の治療のための使用方法が提供される。また、本方法に使用するための、該経皮薬物送達システムを含むキットも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、実施例製剤1及び2を用いた、ラット・インビトロ透過試験についての、透過量(μg/cm2)対時間(hours)のグラフを示している。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である実施例製剤1と比較例製剤3のラット・インビトロ透過試験についての、透過量(μg/cm2)対時間(hours)のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0005】
[定義]
用語「プラスター」及び「プラスター層」は、布、プラスチック、又はその他の材料といった支持体の表面に塗り拡げられ、そして患者の皮膚表面に貼付される、固体又は半固体の調製物を意味する。
用語「感圧接着剤」、「自己接着剤」、及び「自己接着性の接着剤」は、接着剤と表面が接着するよう圧力をかけた時に接着を形成する接着剤を意味する。典型的には、該接着剤を活性化するのに、溶媒、水、又は熱を必要としない。感圧接着剤では、接着強度の程度は、接着剤を表面に貼付するのに用いた圧力の大きさに比例する。
用語「皮膚表面」及び「皮膚の表面」は、皮膚の外表面を意味し、眼瞼の前面の皮膚表面を含むものであり、例えば、上下眼瞼の前面の皮膚表面、及び上下眼瞼及びその付近の前面の皮膚表面であるが、これらに限定される訳ではない。眼瞼の前面は皮膚で覆われており、一方、その裏面は結膜で覆われている。
【0006】
[詳細な説明]
ケトチフェン経皮薬物送達システムが提供される。ある実施形態においては、本システムは支持体層と該支持体の上に設けられたプラスター層を含み、ここにおいて、該プラスター層は、ケトチフェン遊離塩基を含む。また、該経皮薬物送達システムの、例えば眼科疾患の治療のための使用方法が提供される。また、本方法に使用するための、該経皮薬物送達システムを含むキットも提供される。
【0007】
本発明をより詳細に説明する前に、この発明が、記載された特定の具体例に限定されるものではないということが、理解されるべきである。そういったものは、もちろん、変化してよいからである。また、本明細書で使用する用語は、特定の具体例を記述することのみを目的としたものであり、限定することを意図したものでないことも理解されるべきである。なぜなら、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ、限定されるからである。
【0008】
値に関してある範囲が規定される場合、その範囲の上限値と下限値の間に存在する、該下限値の単位量の10分の1までの各々の値、並びに、当該述べられた範囲内のあらゆる他の述べられた値又はそれらの間に存在する値はいずれも、文脈が他の意味を明確に指しているのでない限り、本発明に包含されるものであると解釈される。これらのより小さな範囲の上限値及び下限値は、当該範囲の限界値が個別に排除される場合にはそれに従うとして、それぞれ独立に該小さな種々の範囲に含まれてよく、かつ、本発明にも包含される。該述べられた範囲が、一方の又は双方の限界値を含むものである場合、それら含まれる一方の又は双方の限界値を排除した種々の範囲も、本発明に含まれる。
【0009】
本明細書において、いくつかの範囲は、用語「約」の付された数値で表される。この用語「約」は、本明細書において、それが先導する数値そのものの他、該数値の近傍の数値やその概数である数値に対して、文言上のサポートを与えるために用いられているものである。ある数値が、具体的に挙げられた特定の数値の近傍の数値又は概数であるかを判断するにおいて、近傍又は概数である挙げられていないその数値は、それが提示されている文脈で、具体的に挙げられた数値がもたらすのと実質的に同等な物を提供する数値であろう。
【0010】
別に規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと類似又は同等の如何なる方法及び材料も、本発明の実施又は試験に用いることができるが、説明のための代表的な方法及び材料をここに記載する。
【0011】
本明細書において引用された全ての刊行物及び特許公報は、各々の刊行物や特許公報が参照により組み入れられるよう具体的かつ個別的に指示されていたかのように、且つ、それらの刊行物の引用に関連した方法及び/又は材料を開示し説明するために、参照により本明細書に組み入れられる。いずれの刊行物の引用も、本願の出願日以前のその開示に関するものであり、本発明が先発明の観点からそのような開示に対して先んじる資格がないことを承認するものと、解釈されるべきではない。更に、提示されている刊行日は、実際の刊行日とは異なる可能性があるかもしれない。そのため個別に検証される必要がある場合がある。
【0012】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形態の”a”、”an”、及び”the”は、文脈が明確に除外しない限り、複数形の対象物も含むことを意味する。更に、請求項は、如何なる任意の要素も排除すべく作成されている可能性のあるものであることを意味する。そういうものとして、この記述は、請求項の構成要素の列挙に関連した「単に」、「唯一」などの排他的な用語の使用のための、あるいは、「否定的」な限定の使用のための先行する根拠としての役割を果たすことを意図したものである。
【0013】
当業者には本開示を読めば明らかなように、本明細書に記述され説明された各具体例のそれぞれは、本発明の範囲及び精神から離れることなく、残り全ての具体例のいずれについての特徴とも、それから容易に分離できあるいはそれと容易に結合できる、別々の構成要素及び特徴を有するものである。列挙された方法はいずれも、列挙された事象の順序又は論理的に可能な他のいずれの順序によっても、実施することができる。
【0014】
本発明の種々の具体例を更に記述するにおいて、まず、該経皮薬物送達システムの種々の特徴についてより詳しく説明し、その後に、該経皮送達システムを用いた実施形態についての詳細な記載、及び、該経皮送達システムを含むキットについての説明を続ける。
[ケトチフェン経皮薬物送達システム]
【0015】
上記で要約したとおり、ケトチフェン経皮薬物送達システムが提供される。本発明の経皮送達システムは、局所的に患者の皮膚表面に貼付された場合に、活性物質、具体的にはケトチフェンを患者に送達するように構成された、製剤又は組成物である。本発明の経皮薬物送達システムは、1又は2以上の層を有してよい。ある実施形態においては、該経皮薬物送達システムは、支持体層とプラスター層を有することができ、この場合において、プラスター層は支持体層の上に存在する。プラスター層は、眼科疾患用の活性物質を含むことができる。いくつかの実施形態においては、眼科疾患用の該活性物質は、ケトチフェン遊離塩基を包含するが、これに限定されるものではない。ケトチフェン遊離塩基は、式:C1919NOS
、及び、4,9−ジヒドロ−4−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−10H−ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2b]チオフェン−10−オンのIUPAC名で表される。ケトチフェンは、下記式で表される。
【0016】
【化1】

【0017】
本件送達システムの一特徴は、保存安定であるということである。保存安定とは、ケトチフェン活性物質の有意な分解及び/又はその活性の有意な低下なしに、組成物を長期間保存し得ることを意味する。ある実施形態において、本件組成物は、25℃で維持した場合、3年又はそれより長期間安定である。
【0018】
いくつかの場合において、本システム中のケトチフェン遊離塩基の量の、初期量に対する比は、約60℃で少なくとも1ヵ月保存後において、92%又はそれより大、93%又はそれより大、例えば94%又はそれより大であって、95%又はそれより大を含むものであり、あるいは更に大きい範囲である。ある実施形態において、本システム中のケトチフェン遊離塩基の量の、初期量に対する比は、以下の実験の項において報告される試験手順を用いて測定した場合、約60℃で少なくとも1ヵ月保存後において、92%又はそれより大である。
【0019】
本件送達システムの特徴は、ケトチフェンの効果的な経皮送達を提供することである。「ケトチフェンの効果的な経皮送達」という句は、本経皮薬物送達システムの皮膚の表面への貼付により、所望の効果を生み出すに十分な量のケトチフェンが、皮膚を通じて移行する結果となることを意味する。ある実施形態において、約12時間後のケトチフェン遊離塩基の透過量は、1μg/cm又はそれより大、2μg/cm又はそれより大、例えば3μg/cm又はそれより大であって、4μg/cm又はそれより大を含むものであって、例えば5μg/cm又はそれより大、例えば10μg/cm又はそれより大、などである。いくつかの場合において、ケトチフェン遊離塩基の透過量は、以下の実験の項において報告される試験手順を用いて測定した場合、約12時間後において、1μg/cm又はそれより大である。
【0020】
ある実施形態において、該経皮薬物送達システムは、接着性テープ又は接着性パッチの形態で、提供することができる。これらの実施形態において、該経皮薬物送達システムは、感圧接着剤の皮膚表面への接着によって、感圧接着剤が眼瞼を含む皮膚表面に貼付されるように、皮膚表面に貼付することができる。
【0021】
[支持体層]
本明細書で用いられる経皮薬物送達システムは、支持体層を有することができる。該支持体層は、眼瞼の前面を含む皮膚表面に密着し得る程度に、柔軟であり得る。該支持体は、活性物質を吸収せず、かつ、活性物質の支持体の側からの放出を許容しないというものである。該支持体は、不織布、織物、フィルム(シートを含む)、多孔質体、気泡体、紙、フィルムを不織布又は織物の上に積層して得られる複合材料、及びこれらの組合せを含むものであるが、これらに限定される訳ではない。
【0022】
不織布は、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン);ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート);及び、その他に、レーヨン、ポリアミド、ポリ(エステルエーテル)、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、及びスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体;並びに、これらの組み合わせを含むものであるが、これらに限定される訳ではない。織物は、綿、レーヨン、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、及びそれらの組み合わせを含むものであるが、これらに限定される訳ではない。
【0023】
フィルムは、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン);ポリアクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル及びポリメタクリル酸エチル);ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート);及び、その他に、セロハン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、及びポリスルホン;並びにそれらの組み合わせを含むものであるが、これらに限定される訳ではない。
【0024】
紙は、含浸紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、和紙、グラシン紙、合成紙及びそれらの組み合わせを含むものであるが、これらに限定される訳ではない。複合材料は、上記フィルムを上記不織布又は織物の上に積層することによって得られる複合材料を含むものであるが、これらに限定される訳ではない。
【0025】
[プラスター層]
本明細書で用いられる経皮薬物送達システムは、支持体層の上に設置されるプラスター層を有するものであってよい。該プラスター層は、ケトチフェン遊離塩基を含むものであり、以下、更に詳細に記載のとおりである。
【0026】
いくつかの実施形態において、該プラスター層は、ケトチフェン遊離塩基を含むアクリル系感圧接着剤層である。ある実施形態において、該アクリル系感圧接着剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと少なくとも一つの他のモノマー(例えば、酢酸ビニル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチル)とのランダム共重合体である。
【0027】
いくつかの実施形態において、該アクリル系感圧接着剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとのランダム共重合体である。これらの実施形態において、該接着剤は、DuroTak(登録商標)87−4098(National Adhesives, Bridgewater, NJ)の組成と実質的に同じ組成を有していてよい。用語「実質的に同じ」は、ここでは、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとの共重合体であってかつ上記の如き保存安定な機能性を提供する組成のことをいう。いつくかの実施形態において、該アクリル系感圧接着剤は、DuroTak(登録商標)87−4098である。DuroTak(登録商標)87−4098は、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとのランダム共重合体であるところの、感圧接着剤である。
【0028】
いくつかの実施形態において、該アクリル系感圧接着剤は、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルのランダム共重合体である。これらの実施形態において、該接着剤は、DuroTak(登録商標)87−900A(National Adhesives, Bridgewater, NJ)の組成と実質的に同じ組成を有していてよい。用語「実質的に同じ」は、ここでは、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルの共重合体であってかつ上記の如き保存安定な機能性を提供する組成のことをいう。いつくかの実施形態において、該アクリル系感圧接着剤は、DuroTak(登録商標)87−900Aである。DuroTak(登録商標)87−900Aは、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルのランダム共重合体であるであるところの、感圧接着剤である。
【0029】
いくつかの場合において、該プラスター層は、更に可塑剤を含んでいても良い。このような場合において、該可塑剤は、流動パラフィンを含むものであるが、これに限定される訳ではない。本件経皮送達システムの接着剤層は、いくつかの実施形態において、上述した構成成分に加えて、1又は2以上の追加の構成成分を含む。関心のある追加の構成成分は、経皮吸収促進剤、保存剤(例えば、パラベン)、抗酸化剤、安定化剤、親水性ポリマーを含む充填剤;及び架橋剤である。
【0030】
ある実施形態において、該プラスター層は、アクリル系感圧接着剤としてDuroTak(登録商標)87−4098又はDuroTak(登録商標)87−900Aのいずれか、及び活性物質としてケトチフェン遊離塩基からなるものである。ある実施形態において、該プラスター層は、アクリル系感圧接着剤としてDuroTak(登録商標)87−4098又はDuroTak(登録商標)87−900Aのいずれか、可塑剤として流動パラフィン、及び活性物質としてケトチフェン遊離塩基からなるものである。これらの実施形態において、プラスター層におけるDuroTak(登録商標)87−4098又はDuroTak(登録商標)87−900Aのいずれかの量は、60%〜99%(w/w)、例えば70%〜98%(w/w)、及び80%〜97%(w/w)を含む範囲に亘るものであってよい。加えて、該プラスター層における流動パラフィンの量は、0.1%〜20%(w/w)、例えば1%〜8%(w/w)、及び2%〜6%(w/w)を含む範囲に亘るものであってよい。さらに、該プラスター層におけるケトチフェン遊離塩基の量は、0.5%〜20%(w/w)、例えば1%〜10%(w/w)、及び2%〜6%(w/w)を含む範囲に亘るものであってよい。場合によっては、該プラスター層は、91%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−4098;5%(w/w)の量の流動パラフィン;及び4%の量のケトチフェン遊離塩基の組成を有することができる。場合によっては、該プラスター層は、94%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−900A;及び4%の量のケトチフェン遊離塩基の組成を有することができる。
【0031】
[眼科疾患用の活性物質]
上記で説明したとおり、本件組成物の活性物質は、ケトチフェン遊離塩基である。ある実施形態において、プラスター層に含まれるケトチフェン遊離塩基の重量パーセントは、0.5%〜20%(w/w)にわたる量、例えば1%〜10%(w/w)にわたる量、及び2%〜6%(w/w)にわたる量を含むものであり得る。いくつかの場合において、プラスター層に含まれるケトチフェン遊離塩基の重量パーセントは、4%(w/w)である。
【0032】
上述したとおり、ある実施形態において、ケトチフェン遊離塩基は、保存の間安定であり、有意な分解をすることがない。ある場合には、該経皮薬物送達システムにおけるケトチフェン遊離塩基の量の、初期量に対する比は、約60℃で少なくとも1ヵ月保存後において、93%より大である。また、上述のとおり、ある実施形態において、眼科疾患のためのケトチフェン遊離塩基は、ケトチフェン遊離塩基の有効量が送達されるように、皮膚を透過する。ある場合には、ケトチフェン遊離塩基の透過量は、約12時間後において、少なくとも1μg/cmである。
【0033】
ある実施形態において、経皮薬物送達システムは、接着性パッチ又は接着性テープ製剤として調製される。このような実施形態において、該経皮薬物送達システムは、眼科疾患用の活性物質を含む、感圧接着剤層の如きプラスター層を含むものである。該プラスター層は、支持体層の上に設けられる。いくつかの実施形態において、該プラスター層の上に、取り外し可能な裏当てが設けられる。取り外し可能な該裏当ては、プラスター層の保護を容易にする。皮膚表面への貼付の前に、該取り外し可能な裏当てを取り除き、それにより、プラスター層を露出させることができる。取り外し可能な該裏当ては、ポリエチレンで被覆された上質紙、ポリオレフィンで被覆されたグラシン紙、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)フィルム、ポリプロピレンフィルムなどの一方の側を、シリコーンで処理することにより調製することができる。
【0034】
ある場合には、該経皮薬物送達システムは、感圧接着剤を含む接着性パッチ製剤である。このような場合において、該経皮薬物送達システムは、液体コーティング法などに従って、調製することができる。
【0035】
ある実施形態において、該経皮薬物送達システムは、アクリル系感圧接着剤を使用した、感圧接着剤のテープ型製剤を用いて、調製することができる。典型的には、プラスター層の厚さは、感圧接着剤型製剤に関しては、約20〜300μmである。
【0036】
[有用性]
該経皮薬物送達システムは、ケトチフェンの投与により患者が恩恵を受け得る如何なる適用においても使用できる。ある実施形態においては、該システムは、ある疾病状態の治療に使用される。治療は、患者を苦しめるその疾病状態に関連した症状について、少なくとも改善を達成することを意味し、この場合において、「改善」とは、治療を受けている該疾病状態に関連した何らかのパラメーター(例えば、症状)の大きさにおける、少なくとも何らかの低下をいうものとして、広範な意味で使用されている。そのようなものとして、「治療」は、患者が該疾病状態あるいは少なくとも該疾病状態を特徴付ける症状でもう苦しまないように、病理学的な状態あるいは少なくともそれに関連した症状が完全に抑制される(例えば、発生が妨げられる)、又は完全に停止される(例えば、終了させられる)状況をも含むものである。
【0037】
一般に、本件方法に従ったケトチフェンの投与は、アレルギー性結膜炎、春季カタル、慢性結膜炎、花粉症などを含む(但し、これらに限定される訳ではない)疾病又は疾病状態を治療するために、使用することができる。結膜炎(一般に、「ピンク・アイ」と呼ばれるもの)は、結膜(例えば、眼の最外層及び眼瞼の内表面)の炎症であり、一般に、アレルギー反応または感染(通常、細菌、又はウイルス)が原因である。花粉症(「アレルギー性鼻炎」としても知られ、また、一般に「枯れ草熱」と呼ばれている)は、花粉や、その他の顕微鏡レベルの物質(粉塵、ダニ、カビ、動物のフケ、羽毛など)に対するアレルギー反応である。
【0038】
本経皮薬物送達システムは、患者にケトチフェンを投与するために用いることができる。このような場合において、該方法は、本明細書に記載のとおり、患者の皮膚表面に経皮薬物送達システムを貼付することを含むものである。患者は、ヒト又は動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、ウサギなどであるが、これらに限定される訳ではない)を含むものである。
【0039】
また、眼科疾患用の活性物質を患者の眼の局所組織に投与するための方法をも提供する。いくつかの実施形態において、該方法は、プラスター層中のケトチフェン遊離塩基を経皮的透過により眼の局所組織に投与するために、経皮薬物送達システムを、本明細書に記載のとおり、眼瞼の前面を含む皮膚表面に貼付することを含むものである。
【0040】
本経皮薬物送達システムは、プラスター層中の眼科疾患用の活性物質を経皮的透過により眼の局所組織に移行させるために、該経皮薬物送達システムを眼瞼の前面を含む皮膚表面に貼付することにより、眼科疾患の治療に使用することができる。該経皮薬物送達システムの感圧接着剤層は、該感圧接着剤層の皮膚表面への接着により、眼瞼を含む皮膚表面に直接貼付することができる。
【0041】
また、プラスター層中の眼科疾患用活性物質を経皮的透過により眼の局所組織に移行させるために、該経皮薬物送達システムを眼瞼の前面を含む皮膚表面に貼付することにより、眼科疾患用活性物質を眼の局所組織に移行させる方法をも提供する。
【0042】
ある実施形態において、該経皮薬物送達システムは接着性パッチとして提供され、そして、眼瞼の前面を含む皮膚表面に貼付され、これにより、プラスター層中の活性物質が眼の局所組織への経皮的透過によって投与できる。該経皮薬物送達システムが皮膚表面に貼付されると、該パッチと接触した皮膚を活性物質が透過し、結膜、涙腺組織又は角膜など(但し、これらに限定される訳ではない)外眼部の組織に到達する。
【0043】
いくつかの実施形態において、プラスター層中の該活性物質は、全身血流を通じて実質的に投与されることなしに、経皮的透過によって眼の局所組織に投与される。このような場合において、該活性物質は、皮膚表面(該皮膚表面上に、経皮薬物送達システムが貼付されている)から、結膜、涙腺組織、角膜など(但し、これらに限定される訳ではない)外眼部の組織に主に経皮的透過によって移行するという様式により、投与される。経皮薬物送達システムの有効性は、一部の活性物質が全身血流を通じて眼の局所組織に到達する前に、活性物質の局所的適用を通して生じる。従って、このことは、眼科疾患用の活性物質の一部が全身血流を通じて眼の局所組織に送達され得るという事実を排除しようとするものではない。
【0044】
[キット]
また、本明細書に記載の、特定の方法を実施するのに使用するキットをも提供する。ある実施形態において、該キットは、支持体層と該支持体層の上に設けられたプラスター層とを含む経皮薬物送達システムを含むものであり、ここに、該プラスター層は、上記のとおり、ケトチフェン遊離塩基を含む。
【0045】
ある実施形態において、該キットは、本件方法を実施するための取扱説明書又はそれを入手する手段(例えば、ユーザーを取扱説明書を提供しているウェブページへ向かわせるウェブサイトURL)を更に含むものであり、この場合に、これら取扱説明書は基材上に印刷されていてもよく、この場合に、基材は、添付文書、包装、試薬容器などの1又は2以上であってもよい。本件キットにおいて、1又は2以上の構成要素は、都合により又は所望により、同じ容器に入っているか、又は、別々の容器に入っている。
【0046】
以下の実施例は、説明の目的で提供されるものであり、限定の目的で提供されるものではない。
【実施例】
【0047】
I.製剤中のケトチフェン遊離塩基の安定性試験に使用される分析手順
下記表1に記載された種々のケトチフェン・パッチ製剤を調製した。各々の製剤について、2cm×2cmサイズのケトチフェン・パッチを切り出した。該パッチを裏当てからはがして、50mlメスフラスコに入れた。5mlのテトラヒドロフラン(THF)を加え、30分間超音波処理することにより、ポリアクリレート系接着剤を溶解した。その後、メタノールを加え、希釈して50mlとした。得られた溶液は、析出した接着剤により、濁っていた。該溶液の一部を0.45μmPTFEフィルターを通して濾過した後、HPLCバイアルに充填した。濾液のケトチフェン濃度をHPLCを用いて測定した。移動相は、トリエチルアミンでpH8.0に調整された0.01Mリン酸緩衝液(KH2PO4):メタノール:アセトニトリル(30:15:55、体積比)からなるものであった。該移動相を、1.0ml/分の流速で送液して、40℃においてC−18カラム(4.6mmI.D.×15cm、5μm)に通し、また検出波長は300nmであった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


II.ラット・インビトロ透過試験
【0050】
1.77cmの拡散表面積を有するFranz型垂直拡散セルを使用して、種々のケトチフェンパッチ製剤の透過性を検討した。具体的には、実施例製剤1と2とを比較した(図1参照)他、実施例製剤1と比較例製剤3とを比較した(図2参照)。皮膚サンプルは、4〜6週齢の雄性ウィスター系ラットから得た。バリカンを用いて、皮膚を傷つけることなく毛を剃った後、屠殺した各ラットの背面部から、皮膚の一片を切除した。切除したラット皮膚は、その状態のままで使用した。それらを、真皮の側が直接レセプター培養液に接触するようにして、セルのドナーコンパートメントとレセプターコンパートメントの間に置いた。20%エタノール含有のリン酸緩衝液(pH7.4)約10mlをレセプターコンパートメントに入れた。レセプターコンパートメントの外側を、恒温槽に接続したウォータージャケットで覆うことによって37℃に維持した。培養液は、600rpmで、実験を通して攪拌した。ドナーコンパートメントには、11mgのサンプル、すなわち、上記で報告され図1で示された実施例製剤1と2のテープ製剤:又は上記で報告され図2で示された実施例製剤1と比較例製剤3のテープ製剤が含まれていた。予め定めた時間間隔で、一部(0.3mL)を除去し、そして、同じ量の新たな緩衝液を、除去したものに代えるため、レセプターコンパートメントに加えた。薬物濃度は、HPLCを用いて分析した。結果を図1及び2に示す。これらの図に示された結果は、実施例製剤1及び2が良好な透過プロファイルを示したのに対し、比較例製剤3は示さなかったことを示している。
【0051】
本明細書で引用された全ての刊行物及び特許出願は、各々の刊行物及び特許出願が参照によって組み入れられるよう具体的かつ個別的に指示しされていたかのように、本明細書に参照により組み入れられる。いずれの刊行物の引用も、出願日より以前のその開示のためであり、本発明が先発明の観点からそのような刊行物に先んじる資格がないということを承認するものと、解釈されるべきでない。
【0052】
前記発明は、明確な理解を目的とした説明と例示のために、幾分詳細に説明してきたが、本発明についてのある種の変更や改変が、添付された特許請求の範囲の精神と範囲から離れることなく可能であるということは、当業者にとって、本発明の示唆の観点から、直ちに明らかなことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存安定な、ケトチフェン遊離塩基の経皮薬物送達システムであって、
支持体層;及び
該支持体層の上に設けられたプラスター層
を含んでなるものであり、
該プラスター層が、アクリル系感圧接着剤中にケトチフェン遊離塩基を含んでなるものであり、
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシルと、酢酸ビニル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも一つの追加的モノマーとの共重合体を含んでなるものである、経皮薬物送達システム。
【請求項2】
該経皮薬物送達システム中のケトチフェン遊離塩基の量の、初期量に対する比が、60℃で少なくとも1ヵ月保存後において、93%より大であり、かつ、ケトチフェン遊離塩基の透過量が、12時間後において、少なくとも1μg/cmである、請求項1の経皮薬物送達システム。
【請求項3】
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとのランダム共重合体を含んでなるものである、請求項2の経皮薬物送達システム。
【請求項4】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤と実質的に同じ組成を有するものである、請求項3の経皮薬物送達システム。
【請求項5】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤である、請求項4の経皮薬物送達システム。
【請求項6】
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルのランダム共重合体を含んでなるものである、請求項2の経皮薬物送達システム。
【請求項7】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤と実質的に同じ組成を有するものである、請求項6の経皮薬物送達システム。
【請求項8】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤である、請求項7の経皮薬物送達システム。
【請求項9】
該プラスター層が、柔軟剤を更に含んでなるものである、請求項2の経皮薬物送達システム。
【請求項10】
該柔軟剤が流動パラフィンである、請求項6の経皮薬物送達システム。
【請求項11】
該プラスター層が、
91%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤;
5%(w/w)の量の流動パラフィン;及び
4%(w/w)の量のケトチフェン遊離塩基
を含んでなるものである、請求項1の経皮薬物送達システム。
【請求項12】
該プラスター層が、
96%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤;及び
4%(w/w)の量のケトチフェン遊離塩基
を含んでなるものである、請求項1の経皮薬物送達システム。
【請求項13】
経皮薬物送達システムを皮膚表面に貼付することを含んでなる、ケトチフェンを患者に投与するための方法であって、該経皮薬物送達システムが
支持体層;及び
該支持体層の上に設けられたプラスター層
を含んでなるものであり、
該プラスター層が、アクリル系感圧接着剤中にケトチフェン遊離塩基を含んでなるものであり、
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシルと、酢酸ビニル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも一つの追加的モノマーとの共重合体を含んでなるものである、方法。
【請求項14】
経皮薬物送達システム中のケトチフェン遊離塩基の量の、初期量に対する比が、60℃で少なくとも1ヵ月保存後において、93%より大であり、かつ、ケトチフェン遊離塩基の透過量が、12時間後において、少なくとも1μg/cmである、請求項13の方法。
【請求項15】
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとのランダム共重合体を含んでなるものである、請求項14の方法。
【請求項16】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤と実質的に同じ組成を有するものである、請求項15の方法。
【請求項17】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤である、請求項16の方法。
【請求項18】
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルのランダム共重合体を含んでなるものである、請求項14の方法。
【請求項19】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤と実質的に同じ組成を有するものである、請求項17の方法。
【請求項20】
該アクリル系感圧接着剤が、DuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤である、請求項18の方法。
【請求項21】
該プラスター層が、柔軟剤を更に含んでなるものである、請求項14の方法。
【請求項22】
該柔軟剤が流動パラフィンである、請求項20の方法。
【請求項23】
該プラスター層が、
91%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−4098感圧接着剤;
5%(w/w)の量の流動パラフィン;及び
4%(w/w)の量のケトチフェン遊離塩基
を含んでなるものである、請求項14の方法。
【請求項24】
該プラスター層が、
96%(w/w)の量のDuroTak(登録商標)87−900A感圧接着剤;及び
4%(w/w)の量のケトチフェン遊離塩基
を含んでなるものである、請求項14の方法。
【請求項25】
該皮膚表面が眼瞼である、請求項13の方法。
【請求項26】
経皮薬物送達システムを含んでなるキットであって、
該経皮薬物送達システムが、
支持体層;及び
該支持体層の上に設けられたプラスター層
を含んでなるものであり、
該プラスター層が、アクリル系感圧接着剤中にケトチフェン遊離塩基を含んでなるものであり、
該アクリル系感圧接着剤が、アクリル酸2−エチルヘキシルと、酢酸ビニル、アクリル酸ブチル、t−オクチルアクリルアミド及びメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも一つの追加的モノマーとの共重合体を含んでなるものである、キット。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−523650(P2011−523650A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511584(P2011−511584)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/079211
【国際公開番号】WO2009/145801
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510314770)センジュ ユー・エス・エー,インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】SENJU USA, INC.
【住所又は居所原語表記】21700 Oxnard Street,Suite 940, Woodland Hills, California 91367 USA
【Fターム(参考)】