説明

ケフィアを用いた糖尿病治療剤とその製造方法、及びケフィアを用いた放射線障害防護剤、並びにケフィアを用いた健康食品

【課題】健康食品として利用される発酵乳ケフィアの分子量1000以下の水溶性抽出物をグルコース取り込み担当細胞に添加することによりグルコース取り込み活性を増強させる。
【解決手段】ケフィア抽出物により生体内グルコース取り込みの主体である筋肉細胞のグルコース取り込みの増強が可能となり、生体のグルコース取り込みを増強させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品であるケフィアによる血糖値降下作用あるいは放射線障害防護作用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケフィアはグルジア共和国コーカサス地方の人々が愛飲している発酵乳で、ウシやヤギ、ヒツジの乳をヤギの革袋に入れて保存していたものに偶然、乳酸菌、酵母が混入して乳酸及びアルコール発酵して生じたものである。コーカサス型発酵乳ケフィアは独立国家共同体のロシア共和国科学アカデミー微生物中央研究所が長年の歳月をかけ、製造方法を研究して得た安定なケフィア粒を菌種としたものである。消化機能を亢進させ、腎臓病、循環器疾患など、様々な疾患の治療食として医療機関で用いられている。ケフィア粒は1〜3cm前後のスポンジ状の固まりで約20種類の乳酸菌の他、酵母菌、酢酸菌を有し、日本においては一般にヨーグルトきのこと呼ばれている。ケフィア粒に牛乳を入れ、所定時間常温で密閉することによりケフィア粒混入のケフィア(ケフィアヨーグルトと呼ばれる)が得られ、これをざるで濾してケフィア粒を取り除くことにより簡単にケフィアを得ることができ、健康食品として一般家庭でも愛用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、日本においては近年、欧米型の食生活から、インスリン非依存性のII型糖尿病が増加の一途をたどり、多くの日本人を苦しめている。このII型糖尿病においては、健康維持の中核の生理作用である細胞のグルコース取り込みが行なえないことで、生態の恒常性維持が行えず、結果として様々な合併症を併発し深刻な症状を呈することが珍しくない。また、現代の原子力発電所の事故等による放射線障害、さらには放射線障害を抱えた多くの人への有効な薬剤の開発はまだ十分とはいえない。
本発明は日本人の糖尿病の9割を占めるII型糖尿病の治療において中核となる細胞のグルコース取り込みを増強することが可能な薬剤又は食品及びその製造方法を提供することを第1の目的とする。さらに、数多くの有益な生体防御機能が考えられるケフィアの放射線障害への利用を第2の目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分子量が1000以下のケフィア抽出物を用いることにより、活性酸素低減により細胞の酸化ストレスを緩和すること、グルコース取り込みを制御するPI3キナーゼの活性を促進すること、細胞のグルコース取り込みを増強させることに成功し、糖尿病、主としてII型糖尿病治療に使用する薬剤又は食品としての第1の発明を完成させた。
【0005】
第1の発明に係る糖尿病治療に使用するケフィア抽出物は、水溶性を有し、酸性、あるいは中性で安定で、かつ高圧蒸気滅菌にも安定である。ここで、酸性あるいは中性で安定とは、ケフィア上清にアルカリ性溶液を加えて中性となったものが活性を有することをいう。
ケフィアを有効成分として用いた糖尿病治療剤の製造方法はケフィア(ケフィア原液)から、遠心分離、デカンテーション又は濾過等の公知の方法にて残渣を分離して、その上澄液(上清という)をゲル濾過、透析等の公知の方法によって得た分子量1000以下のケフィア抽出液(抽出物の一例)を用いることを特徴とする。
【0006】
第2の発明におけるケフィアを有効成分として含む放射線障害防護剤は、第1の発明である活性酸素の低減作用による酸化ストレスの低減作用の他数多くの有益な生体防御機能の考えられるケフィアの放射線障害への適用を目的として、本発明者等が鋭意研究した結果、ケフィアに放射線照射により動物に生じる放射線高感受性臓器(骨髄、脾臓、胸腺、小腸、大腸)のアポトーシス死に対して防護作用があることを発見し本発明を完成させた。
ここで、放射線障害防護剤の防護作用は、電離性放射線の生物学的効果を軽減し、放射線障害をやわらげることであり、放射線の化学間接作用によるラジカル形成にひき続いて起こる化学的変量を減少させる効果があると考えられている。そのため、防護剤は、照射を受ける前にあらかじめ投与しておく必要がある。
【0007】
アポトーシスとは生理的な細胞死の過程又は形態であって、事故的な細胞死のネクローシス(壊死)とは区別され、放射線照射による細胞死には多くの場合アポトーシスが見られる。従って、放射線障害防護剤の作用も放射線照射により動物に生じる生体細胞のアポトーシス死に対する有効性を調べる事によって知りえる。放射線障害は一般に温度などの物質要因、酸素分圧・水分含量などの化学的要因、及び生物種・細胞の種類・遺伝子構成・細胞分裂周期・年齢・生理条件など多くの生物的要因によって変化するが、細胞分裂の盛んな器官ほど放射線に高感受性があり、骨髄、脾臓、胸腺、小腸、大腸等の放射線高感受性臓器のアポトーシスを見る事により放射線障害防護剤の効果を調べる。使用する放射線の単位は吸収線量のグレイ(Gy)が用いられる。
【0008】
分子量が1000以下のケフィア抽出物を有効成分として含むことを特徴とするケフィアを用いた健康食品は成分中にケフィア抽出物を含むので、抗糖尿病作用、放射線障害防護作用を有し、抗糖尿病食品、放射線障害防護食品として使用できる。
【発明の効果】
【0009】
実施例に示すように、分子量が1000以下のケフィア抽出物がグルコース取り込み細胞の活性酸素を低減させ、細胞の酸化ストレスを緩和させ、グルコース取り込みを制御するPI3キナーゼの活性を促進させ、細胞のグルコース取り込みを増強させることにより、生体の恒常性維持をはかり、糖尿病、主としてII型糖尿病治療に有効であることが判明した。
また、ケフィアを用いた糖尿病治療剤において、ケフィアの抽出液(ケフィア抽出物)が水溶性を有し、酸性、あるいは中性で安定、高圧蒸気滅菌にも安定であることが分かった。
そして、ケフィアから、遠心分離、デカンテーション又は濾過等の公知の方法にて残渣を分離して、その上澄液をゲル濾過、透析等の公知の方法によって分子量1000以下のケフィア抽出液を得ることによって、糖尿病治療剤が製造できることが分かった。
【0010】
さらに、実施例により、ケフィアは放射線照射により動物に生じる放射線高感受性臓器(骨髄、脾臓、胸腺、小腸、大腸)のアポトーシス死に対して防護作用があることが判明した。特に、小腸の絨毛腺を再生していく再生腺管の放射線による照射死、胸腺、脾臓、結腸において細胞のアポトーシス、さらに消化管死だけでなく、骨髄死をもケフィアが防御できることが示唆された。
胸腺は免疫系に重要な働きをしているT細胞が作られる臓器であり、脾臓はリンパ球の増殖と機能発現に重要な働きをしている臓器である。したがって、ケフィアが放射線障害によっておきる免疫力の低下を防ぎ、放射線によって引き起こされる様々な急性及び慢性の疫病を防御できることが示唆された。
分子量が1000以下のケフィア抽出物を有効成分として含むことを特徴とするケフィアを用いた健康食品は成分中にケフィア抽出物を含むので、抗糖尿病食品あるいは放射線障害防護食品として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ケフィアはケフィアヨーグルトからケフィア粒を除いた上澄(培養液)であり、その成分の多くは水分で、水に溶けた蛋白質、糖、アルコールと脂溶性の脂質等がコロイド状に存在している。ここで使用するケフィアは日本ケフィア株式会社より供与されたもの(ケフィア原液という)を使用した。菌種はロシア共和国のライセンスイントルグ社からの菌種を適当な条件下で保管し、必要に応じて活性化するために継代培養を行い、ケフィア粒を十分活性化したものを使用した。培養は必要に応じて乳固形分は4〜18%、耐熱安定剤としてペクチンを使用し、固形分調製後に殺菌・冷却して30〜25℃になれば、上記マザースターター(活性化した種菌)を3〜5%添加し、発酵タンク中で適当な温度・時間で培養して乳酸濃度を終点で決めて培養したものを使用した。実験の方法によって、ケフィア(ケフィア原液)は培養した液状のものを殺菌・瓶詰保存して使うか、凍結乾燥して粉砕して包装保存したものを使用した。
【0012】
グルコース取り込み測定に用いる細胞は生体の中でもインスリン刺激に応答してグルコース取り込みを行なう機能を有する筋肉組織様に分化させたL6筋管細胞として使用した。分化処理としては細胞がシャーレの中で一杯に増殖したコンフルエント状態のL6細胞に2%の低血清処理で1週間処理することで行なった。
【0013】
細胞のグルコース取り込みはケフィア抽出物の処理を終了した細胞にトリチウム標識した2−デオキシグルコースを取り込ませ、細胞を溶解した後シンチレーションカウンターによるカウント値を測定することにより行なった。
【0014】
ケフィア上清は以下の方法で調製したものを用いた。ケフィア原液を4℃にて5,000×gで1時間遠心処理して上清を集め、さらに10,000×gで20分間遠心処理した上清を集めケフィア上清1(pH4.0/ケフィア水抽出物)を得た。このケフィア上清はこの段階ではpH4.0程度である。
【0015】
ケフィア原液(培養上澄ともいう)を凍結乾燥した粉末を10倍容のクロロホルム/メタノール(2:1)混液に懸濁後、4℃にて24時間攪拌後、5,000×gで1時間遠心処理すると、クロロホルムに溶けない糖、蛋白質等の水溶性物質は下に沈殿する。ここで、上清(ケフィアクロロホルム/メタノール抽出物)を集め、減圧濃縮機にてクロロホルム、メタノールを除去し、得られた残渣をエタノールに溶かし、ケフィア上清2(ケフィアクロロホルム/メタノール抽出物)を得た。
【0016】
前記ケフィア上清1(pH4.0)にオートクレーブ処理(高圧蒸気滅菌処理)を120℃、20分した。処理により沈殿が生じるので10,000×gで20分間遠心処理して上清を集めケフィア上清3(加熱処理)を得た。前記ケフィア上清1(pH4.0)を水酸化ナトリウム水溶液を用い、pH7.0になるように中和した。中和により沈殿が生じるので10,000×gで20分間遠心処理して上清を集めケフィア上清4(pH7.0)を得た。
【0017】
前記ケフィア上清4(pH7.0)を排除限界分子量1,000の透析膜を用い、水に対して透析を行った。透析により沈殿が生じるので10,000×gで20分間遠心処理して上清を集めケフィア上清5(透析処理)を得た。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により説明する。が、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
筋管細胞に分化させたラット由来L6細胞を用い、L6細胞培養液の1/4容量のケフィア上清1(pH4.0)、ケフィア上清2(ケフィアクロロホルム/メタノール抽出物)を加え、4時間処理(無菌状態、37℃、5%炭酸ガス/95%空気下)後、ケフィア抽出物のグルコースの取り込みに対する影響を調べた。L6細胞のグルコース取り込みはトリチウム標識した2−デオキシグルコースを細胞に取り込ませ測定した。
【0020】
その結果を図1に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図1から明らかなように、ケフィア上清1(pH4.0)において、L6細胞のグルコース取り込み能が増強されていた。この増強効果はインスリン刺激の有無に関わらず認められた。一方でケフィア上清2(ケフィアクロロホルム/メタノール抽出物)においてはむしろ取り込み能が抑制されていた。このことから、ケフィア活性成分は脂溶性ではなく、水溶性であることがわかる。
【0021】
(実施例2)
実施例1と同様、筋管細胞に分化させたラット由来L6細胞に、L6細胞培養液の1/4容量のケフィア上清1(pH4.0)、ケフィア上清3(加熱処理)、ケフィア上清4(pH7.0)を加え、4時間処理(無菌状態、37℃、5%炭酸ガス/95%空気下)で、ケフィア抽出物のグルコースの取り込みに対する影響を調べた。
【0022】
その結果を図2に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図2から明らかなように、ケフィア上清のグルコース取り込み増強活性は120℃、20分間の加熱処理やpH7.0への中和処理、両者においても保持されていた。これらのことからグルコース取り込み増強活性は、酸性(pH4.0)、中性(pH7.0)、そして120℃、20分間のオートクレーブ処理において安定であることが明らかとなった。
【0023】
(実施例3)
実施例1と同様の条件で、ケフィア上清4(pH7.0)、ケフィア上清5(透析処理)を加え、ケフィア抽出物のグルコースの取り込みに対する影響を調べた。
【0024】
その結果を図3に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図3から明らかなように、ケフィア上清のグルコース取り込み増強活性は透析処理により消失した。このことからグルコース取り込み増強活性は、排除限界分子量1,000の透析膜を通過するサイズであると考えられた。
【0025】
(実施例4)
実施例1と同様の条件で、ケフィア上清4(pH7.0)を加え、ただし、処理時間を72時間まで変化させて、ケフィア抽出物のグルコース取り込み増強活性を調べた。
【0026】
その結果を図4に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図4から明らかなように、ケフィア上清のグルコース取り込み増強活性は48時間まで直線的に上昇し、以降はプラート(平面)に達していた。
このことからグルコース取り込み増強活性は、48時間まで時間依存的に増強活性が上昇し、その後安定して効果が持続することが明らかとなった。
【0027】
(実施例5)
未分化状態のL6細胞にケフィア上清1(pH4.0)、ケフィア上清4(pH7.0)を加え、ケフィア抽出物の細胞内酸化還元状態を還元状態に誘導する活性を調べた。
すなわち、35mm培養皿にてセミコンフルエント状態(細胞がシャーレに半分程度まで増殖)のL6細胞に5分から30分間ケフィア抽出物を添加し、処理後HBSS(ハンクス緩衝生理食塩水)で細胞を洗浄後、5μMの蛍光試薬DCFH−DA(ジクロロフルオレセインジアセテート)を含むHBSSで5分間処理し、HBSSで2回洗浄後、レーザー生物顕微鏡で細胞中のDCF(ジクロロフルオレセイン)の蛍光強度を測定し数値化し細胞の酸化還元状態の指標とした。
【0028】
その結果を図5に示す。縦軸は細胞内過酸化水素と反応し蛍光を発しているDCFの蛍光強度をコントロール(ケフィア抽出物未処理)を1とした相対値で示したもの。横軸は処理時間を示す。グラフの白抜きはケフィア上清1(pH4.0)を、黒はケフィア上清4(pH7.0)の結果である。
図5から明らかなように、pHの状態に関わらず、ケフィア上清1(pH4.0)、ケフィア上清4(pH7.0)を処理した細胞中のDCFの蛍光強度は急速に下降しており、ケフィア抽出物は細胞内酸化還元状態を素早く還元状態へ移行させる活性があることが明らかとなった。
この現象は細胞内活性酸素減少によるものと考えられ、一方で細胞のグルコース取り込み能が活性酸素による酸化ストレスにより阻害されることから、ケフィア上清のグルコース取り込み増強活性の作用にこの活性酸素減少が関与していることが考えられる。
【0029】
(実施例6)
実施例1と同様の条件で、あらかじめ細胞にPI3キナーゼ阻害剤であるワートマニンを処理しPI3キナーゼを抑制した細胞に、ケフィア上清4(pH7.0)を加え、ケフィア抽出物のグルコース取り込み増強活性を調べた。
【0030】
その結果を図6に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図6から明らかなように、ワートマニンの濃度依存的にケフィア抽出物のグルコース取り込み増強活性が抑制された。
この結果から、ケフィア抽出物は細胞のグルコース取り込みを制御するPI3キナーゼを中心としたインスリンシグナル伝達経路のPI3キナーゼを含めた上流側を活性化し、細胞のグルコース取り込み増強活性を増強していると考えられた。
【0031】
(実施例7)
ケフィア上清4(pH7.0)50mlをBIO−RAD社製のP2ゲルろ過カラム(ベッド800ml、流速240ml/時)に供し、素通り画分(分子量1,800以上)を含めた6画分(ケフィアP2画分という)を分取した。結果を図7に示す。縦軸は吸光度を、横軸は溶出時間を示したもの。グラフの実線は280nmにおける吸光度を示し、蛋白質成分で吸光度が大となる。図7より、画分4、5には、活性の邪魔になる蛋白質が多く含まれ、画分3は蛋白質含有量が少ない事がわかる。
【0032】
実施例1と同様の条件で、調製したケフィアP2画分を加え、ケフィア抽出物のグルコースの取り込みに対する影響を調べた。
その結果を図8に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図8から明らかなように、ケフィアP2画分3にグルコース取り込み増強活性が最も高く保持されていた。
【0033】
(実施例8)
先に調製したケフィアP2画分3の10mlをTOHSO株式会社製のDEAE−Toyopearl陰イオン交換カラム(ベッド10ml)に供し、素通りした画分を分取した(DEAEカラム素通り画分)。ケフィアP2画分3中の陰イオンは陰イオン交換カラムに吸着されるため、素通りした画分にはケフィアP2画分3中の陽イオン又は非荷電物質が含まれる。
次にケフィアP2画分3の陰イオンを吸着した陰イオン交換カラムをリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄後、150mMのNaClで溶出した画分を分取した(DEAEカラム150mMNaCl溶出画分)。ここで、陰イオン交換カラムに吸着した陰イオンはNaClの塩素イオンと置換して、DEAEカラム150mMNaCl溶出画分には陰イオンが含まれる。
【0034】
実施例1と同様の条件で、DEAEカラム素通り画分、DEAEカラム150mMNaCl溶出画分について、ケフィア抽出物のグルコースの取り込みに対する影響を調べた。
その結果を図9に示す。縦軸は、2−デオキシグルコース取り込み量をコントロール(インスリン刺激無)を1とした相対値で示したもの。グラフの白抜きはインスリン刺激無を、黒はインスリン刺激有の結果である。
図9から明らかなように、DEAEカラム150mMNaCl溶出画分にグルコース取り込み増強活性が保持されていた。
従って、ケフィアP2画分3中の陰イオンを含むDEAEカラムNaCl溶出画分にグルコース取り込み増強作用物質が含まれることが分かる。従って、ケフィアP2画分3中の陰イオン性物質にグルコース取り込み増強作用があることが分かる。
【0035】
(実施例9/参考試験)
未分化L6細胞を培養した場合のケフィア上清(ケフィア抽出物)処理の細胞増殖に対する影響を調べた。培養液としては上記のL6細胞を培養した培養液を用いた。処理前日に細胞を播取し、L6細胞培養液の1/4容量の上清1或いは上清4を添加し、4時間処理した後、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄後通常の培養培地に交換し、細胞数を測定した。
【0036】
結果を図10に示す。縦軸は細胞数を、横軸は培養時間を示す。グラフの白抜きはコントロールを、黒はケフィア抽出物の結果である。
図10に示すように、ケフィア抽出物を4時間処理しても細胞増殖には影響を与えなかった。
従って、ケフィア抽出物のグルコース取り込み増強作用はグルコース取り込み細胞の増殖作用では無いことがわかる。
【0037】
以上により、ケフィア抽出物に含まれる活性を有する物質は水溶性、アルカリ処理に安定、120℃で20分間の高圧蒸気滅菌処理、凍結処理、酸処理により安定であるが、クロロホルム/メタノールにより抽出されないこと、排除限界分子量1,000の透析膜を用いた透析により失われる性質を有することがわかる。
さらに、ケフィア抽出物の細胞のグルコース取り込み増強作用は細胞の活性酸素量を低下させ、細胞の酸化ストレスを緩和させ、PI3キナーゼの活性を促進することによるものであることがわかる。
また、ケフィア抽出物の細胞のグルコース取り込み増強作用は、インスリン刺激の有無に関わらず、細胞培養に4時間の期間で加えることで、グルコース取り込みが上昇、さらに72時間の長時間処理でさらに増強されることがわかる。
【0038】
上記の結果より、ケフィア抽出物はケフィア(ケフィア原液)を遠心分離、デカンテーション(傾けて上澄みをとる)、濾過などの公知の方法にて残渣を分離し、上澄液(上清)をpHが中性となるまで水酸化ナトリウムにより中和する。中和によって出現した沈殿を再び、遠心分離、デカンテーション、濾過など公知の方法にて分離して得られた上澄液(上清)をゲル濾過に供し、分子量1,000以下の画分のケフィア抽出液を得ることによって活性効果の強い糖尿病治療剤が製造できる。
【0039】
上記、実施例ではケフィア抽出物を製造するのに日本ケフィア株式会社より供与されたケフィアをそのまま用いたが、ロシア以外のその他国由来のものでも、日本で製造、販売されたケフィアを使用しても良く、あるいはケフィア粒を求めて自分で培養したものを使用しても良い。
また、本実施例ではケフィアは培養した液状のものを殺菌・瓶詰保存して使うか、凍結乾燥して粉砕して包装保存したものを使用したが、濃縮物、あるいは乾燥物をあるいはその他の形状のものでもケフィアであれば何れの形状のものも原料として用いることが可能である。なお、濃縮又は乾燥には、例えば、凍結濃縮、凍結乾燥、減圧濃縮、減圧乾燥、泡沫乾燥などの公知の方法が用いられる。
【0040】
上記実施例は糖尿病治療剤としての作用について実験したが、分子量1,000以下のケフィア抽出物を含む健康食品についても上記実施例から抗糖尿病作用を有し、抗糖尿病食品なることがわかる。
また、分子量1,000以下のケフィア抽出物を用いた健康食品は、美味しくするため、栄養価を上げる、更なる効果を期待するために更に他の栄養素、物質を加える事も可能である。
【0041】
次に、第2の発明であるケフィア抽出物の放射線障害防御作用について以下に説明する。ケフィアが生体内で放射線誘発アポトーシスを抑制する効果があるかどうかを調べるため、高感受性臓器である小腸(空腸)、大腸(結腸)、脾臓、胸腺、骨髄のエックス線照射によるアポトーシスの発現を定量した。すなわち、ラットにケフィア投与後、ラットの各臓器での低線量照射後短時間のアポトーシスの出現、LD50値の変化を調べることによりケフィアの生体内での放射線障害予防効果について実験した。放射線の消化管に対する障害は放射線照射後、直ぐに現れるためエックス線照射、2時間後のラットの臓器について観察した。骨髄に対する作用は凡そ30日経過後で現れ約30日以後も生存した場合には骨髄死は現れないのが通常のため、約30日経過後の生存数を調べる事で調査した。
【0042】
以下に実施例を示す。
ケフィアは日本ケフィア株式会社供与のケフィア(ケフィア原液)を使用し、遠心分離して上清液を調製しラットに投与した。
【0043】
(実施例10)
雄性ウィスターラット、7週齢を用いて、以下に調製したケフィア上清を用いて実験を行った。
(1)ケフィア上清の調製
ケフィア原液(ケフィア培養液)を10,000×gで2時間遠心分離後、上清を回収し、濾紙の上にセライトを入れた濾過装置に加え、吸引濾過し、その上清を0.22μmのフィルター装置にセットし、濾過滅菌してケフィア上清とした。
(2)ラットへの投与
調製した上清を2倍希釈し、飲水ボトルに入れ14日間自由飲水させた。ケフィア投与群、対照群は各線量あたり、3〜5匹ずつを一群とした。
(3)エックス線照射
東芝EXS−300を用いて、ラットにエックス線全身照射を行った。
(200KV、15mAの条件、0.5mmCu+0.5mmアルミニウムフィルター、線量率0.443Gy/min)を用いた。
ケフィア投与群と対照群に0.25Gy、0.5Gy、1Gyの照射を行なった。
(4)照射とアポトーシスのカウント
X線照射2時間後、麻酔下で屠殺したラットから空腸、結腸、脾臓、胸腺を摘出し、ホルマリン固定した。空腸、結腸は長軸方向に切り出し、脾臓、胸腺共にパラフィン包埋し、3μmの切片に薄切した。H&E(ヘマトキシリンアンドエオシン)染色を行い、細胞が凝縮、断片化したアポトーシス細胞をカウントした。空腸、結腸は400倍の顕微鏡下で1クリプトあたりのアポトーシスをカウントし、その平均値をアポトーシスインデックスとした。1ラット当たり50以上のクリプトをカウントした。脾臓、胸腺は、脾臓の白脾隋領域と胸腺の皮質領域を1000倍の倍率で、1視野の総リンパ球数あたりのアポトーシス数をカウントし、アポトーシスの割合(%)をアポトーシスインデックスとした。
(5)統計学的処理
実験結果は平均値±標準偏差で表し、有意差検定はMann−WhitneyU─testを用いた。
【0044】
(6)結果
図11に示すように、空腸では0.25Gy、0.5Gy、1Gyのいずれの線量でもクリプトあたりのアポトーシス数は対照群、ケフィア群に有為な差は認められなかった。
図12、図13、図14に示すように、胸腺、脾臓、結腸ではリンパ数に対するアポトーシスインデックスの割合が1Gyで有意に抑制された。
また、低線量(0.25及び0.5Gy)では、胸腺及び脾臓細胞の放射線障害によるアポトーシスが有意に制御できることが明らかとなった。
従って、ケフィア投与ラットの胸腺、脾臓、結腸において、1Gy以下のエックス全身照射後アポトーシス数が有為に抑制されることがわかった。1Gy以下の線量ではケフィアは胸腺、脾臓、結腸において細胞の放射線障害を何らかの方法で抑制していると考えられる。
(7)考察
胸腺は免疫系に重要な働きをしているT細胞が作られる臓器であり、脾臓はリンパ球の増殖と機能発現に重要な働きをしている臓器である。したがって、ケフィアが放射線障害によって生じる免疫力の低下を防ぎ、放射線によって引き起こされる様々な急性及び慢性の疫病を防御できることが示唆された。
【0045】
(実施例11)
次にケフイアの放射線防御効果として放射線の高感受性臓器である小腸消化管死の防御について実験した。
その目的は急性放射線障害において、骨髄死は骨髄移植により効果的に防ぐことができるが、消化管死を防ぐ有効な手法は少ない。そこで、ケフィアをマウスに投与し、小腸の放射線による腺管死をケフィアが防御できるかどうか調べた。
(1)方法
動物;6週齢雄Crj(チャールスリバー社製):B6C3F1マウスを使用
原液を2倍希釈後(×2)、4倍希釈液(×4)、10倍希釈液(×10)を各々飲み水としてX線照射前1週間目より実験終了まで投与。
対照群としては蒸留水を用いた。2〜3日に一度交換、摂水量を測定。
餌;オリエンタル酵母(株)社製MF餌(摂取量を測定)
X線照射;フィルター無し/450cGy(センチグレイ)/1分の線量率で全身照射
照射量;0、7、8、9、10、12Gy
マウス頭数;各照射群5匹。照射時には各群の動物を2匹ずつ入れ照射する。
屠殺;照射後3日目に頸椎脱臼により屠殺。体重測定後、小腸を取り出し内容物を洗浄し、カルノア液で固定。H&E染色を行い小腸の再生腺管(クリプト)数を測定する。
【0046】
【表1】

【0047】
(3)結果
結果を表1に示す。
表1に示すように8グレイでの2倍希釈液投与群から9グレイ以上のすべての群でコントロールに比べて小腸再生腺管数がケフィア投与群で統計的に有意の差で増加しており、ケフィアに放射線障害(小腸腺管死)を防ぐ効果があることが判明した。
表1で、MFは対照群を示す。Pは統計上の有意の差があるを0.05で示し、このPが小さい程有意の差が大である事を示す。つまり、Pが0.01以下とは有意の差が非常に大きい事を示す。
(4)考察
小腸腺管細胞は活発に分裂し、絨毛を形成するが、放射線により腺管が死滅すると、小腸は絨毛のない状態になり食物中の栄養成分の吸収ができなくなり、出血し生体は死滅する。このような放射線による消化管死を有効に防御できる薬剤もしくは食品はこれまでほとんど知られておらず、放射線障害を防御するケフィアの存在は大である。
【0048】
(実施例12)
ここまで、放射線によるマウス小腸腺管死をケフィアが抑制する効果があることを明らかにした。
次にケフィアの放射線防御効果として放射線による骨髄死の防御について実験した。ここでは、骨髄死を抑制できるかどうかを見るために、放射線照射後約1ヶ月間のマウスの生存率を調べた。1ヶ月間放射線照射マウスが生存した場合は骨髄死を免れたと考えることができる。
(1)方法
動物;6週齢雄Crj(チャールスリバー社製):B6C3F1マウスを使用
(2)ケフィア上清の調製
ケフィア原液を10,000×gで3時間遠心分離した上清を用いた。
ケフィア上清:10倍希釈液(×10)
飲料水として投与(2日ごとに交換)
コントロール(蒸留水)
実験群;
コントロール区 10匹
8Gy(グレイ)Coγ照射線照射区 10匹
(2)実験方法
ケフィアを1週間前より投与し、コバルトγ線照射後28日間の生存率を観察する。
観察;朝、昼、夜の一日3回観察
いつ何匹死んだか確認する。もし新鮮な死亡例は剖検し、病理検索を行う。
28日後に屠殺、解剖時に組織重量、病理検索。
【0049】
(3)結果
図15に示すようにコントロール群ではすべてのマウスが23日後には死んだが、ケフィア10倍希釈液投与群では3匹が生存し、体重も増加してきて28日後にも生き残った。
(4)考察
このことから、8Gyの照射線による骨髄死をケフィア投与区の3匹のマウスが免れ、放射線による消化管死だけでなく、骨髄死をもケフィアが防御できることが示唆された。
【0050】
第2の発明において、上記実施例では、ケフィアは日本ケフィア株式会社供与のケフィア(ケフィア原液)を使用したが、日本で製造、販売されたケフィア菌を使用したケフィアでも、ロシア以外のその他国由来のものでも、あるいはケフィア粒を求めて自分で培養したものを使用しても良い。あるいは濃縮物又は乾燥物を原料として用いることも可能である。本実施例は放射線障害防護剤としての作用について実験したが、放射線障害防護食品についても上記の実施例は適用される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ケフィア上清(pH4.0、クロロホルム/メタノール抽出物)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図2】ケフィア上清(pH4.0、pH7.0、加熱処理)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図3】ケフィア上清(pH7.0、透析処理)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図4】ケフィア上清(pH7.0)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図5】ケフィア上清(pH4.0、pH7.0)の未分化L6細胞に対する細胞内酸化還元状態に与える効果を蛍光試薬DCFH−DAを用いて測定した結果を示すグラフである。
【図6】ケフィア上清(pH7.0)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図7】ケフィア上清(pH7.0)のBIO−RADP2カラムでゲル濾過を行った結果を示すグラフである。
【図8】ケフィア上清(pH7.0)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図9】ケフィア上清(pH7.0)のL6筋管細胞に対するグルコース取り込み増強活性を測定した結果を示すグラフである。
【図10】ケフィア抽出物の未分化L6細胞に対する細胞増殖に与える効果を測定した結果を示すグラフである。
【図11】空腸での放射線照射による細胞のアポトーシスに対するケフィアの効果を示すグラフである。
【図12】胸腺での放射線照射による細胞のアポトーシスに対するケフィアの効果を示すグラフである。
【図13】脾臓での放射線照射による細胞のアポトーシスに対するケフィアの効果を示すグラフである。
【図14】結腸での放射線照射による細胞のアポトーシスに対するケフィアの効果を示すグラフである。
【図15】ケフィア投与による28日間生存数(骨髄死)に対する効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が1000以下のケフィア抽出物を用いたことを特徴とするケフィアを用いた糖尿病治療剤。
【請求項2】
請求項1記載のケフィアを用いた糖尿病治療剤において、前記ケフィア抽出物が活性酸素の低減作用を有することを特徴とするケフィアを用いた糖尿病治療剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のケフィアを用いた糖尿病治療剤において、前記ケフィア抽出物は、PI3キナーゼ活性化作用を有することを特徴とするケフィアを用いた糖尿病治療剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のケフィアを用いた糖尿病治療剤において、前記ケフィア抽出物は、水溶性を有し、酸性あるいは中性で安定で、かつ高圧蒸気滅菌にも安定であることを特徴とするケフィアを用いた糖尿病治療剤。
【請求項5】
ケフィアを用いた放射線障害防護剤。
【請求項6】
分子量が1000以下のケフィア抽出物を用いたことを特徴とするケフィアを用いた健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−206606(P2006−206606A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106568(P2006−106568)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【分割の表示】特願2000−300610(P2000−300610)の分割
【原出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(598170338)日本ケフィア株式会社 (7)
【出願人】(500457449)
【出願人】(591164174)
【出願人】(500457450)
【出願人】(500457391)
【Fターム(参考)】