ケラチノサイト機能を調節するための方法および組成物
本開示は、一般に、ケラチノサイトの機能を調節するための方法および組成物に関し、より詳細には、ケラチノサイトの増殖および分化を正常化するための組成物および方法、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロール(PG)のレベルを調節するための組成物および方法、ならびにケラチノサイトの増殖を調節することにより皮膚の状態を治療するための組成物および方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ケラチノサイト機能を調節するための方法および組成物に関し、より詳細には、ケラチノサイトの増殖および分化を正常化するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、身体の最も大きな器官であり、表皮と真皮から成る。皮膚の最も重要な機能は、不可欠な物理的および水透過性バリアを提供することである。表皮は、分化して機械的および水透過性バリアを生じさせ、従って、陸上生活を可能にする継続再生組織である。このバリアは、異なる表皮層を結果として生じさせる精密に調整されたケラチノサイト分化プログラムにより表皮内で樹立される。表皮の構造は、ケラチノサイトの微調整された増殖−分化間バランスによって維持され、その結果として、基底層、有棘層、顆粒層および角化層から成る多層構造が生じる。
【0003】
基底膜と接触している最も内側の基底層は、増殖能を有する未分化ケラチノサイトの単層から成る。有棘層は、初期分化段階の非増殖性ケラチノサイトから成り、これらの細胞は、基底上層から外側に向かって移動するにつれて漸進的に成熟していく。有棘層分化後、顆粒層における後期分化、および最も外側の角化層における最終分化と続く(図1参照)。分化に入ると、基底層の細胞は増殖能を失い、最終分化角化層の方へと移動する。高細胞外カルシウムレベル、1,25ジヒドロキシビタミンD3および他の分子に関する熱心な研究およびデータにもかかわらず、ケラチノサイト分化プロセスを開始および調整する正確なメカニズムは、未だ不明である。
【0004】
適正な層化およびバリア形成の発生には、表皮における分化の精密な調整が重要である。表皮の恒常性は、ひとつには、分化の各段階での正しいケラチノサイトにおける遺伝子の発現を編成することにより維持されている。この分化プログラムの変更により、皮膚疾患、例えば、乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎、皮膚癌(例えば、扁平上皮癌および基底細胞癌)、ならびに無秩序な細胞分裂を特徴とする他の皮膚の状態が生じ得る。
【0005】
従って、皮膚細胞の増殖シグナルと分化シグナルのバランスのあらゆる混乱により、様々な疾患または他の望ましくない皮膚の状態が生じ得る。ケラチノサイト増殖の過剰な刺激は、高増殖性皮膚状態、例えば、上で述べたもの(すなわち、乾癬および様々な非黒色腫性皮膚癌)をもたらすことがある一方で、ケラチノサイト増殖の刺激不足は、成長が低下した状況、例えば、老化皮膚(皮膚細胞老化)または損傷した皮膚を特徴とする状況をもたらすことがある。従って、ケラチノサイトの増殖の減少および/または阻害に向けた治療は、皮膚細胞の増殖亢進を特徴とする状態の治療に有用である。同様に、ケラチノサイトの増殖を増加させるための治療は、新たな成長が減速している老化または損傷皮膚状態の改善に、および/または創傷治癒の加速に有用である。特に有益な治療は、両方の状態を同時にまたは必要に応じて治療する能力を備えるものであるが、現在利用できるこのような治療はない。
【0006】
従って、皮膚細胞の増殖過多または増殖不足に関連した状態および/または疾病のための新たなおよび有効な治療が必要とされている。ケラチノサイトの増殖および/または挙動を調節するための方法も必要とされている。特に、ケラチノサイト増殖を正常化するための新たな方法および治療が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
簡単に説明すると、本開示は、ケラチノサイト機能および/または増殖を正常化するための方法および組成物を提供する。本開示の態様は、ケラチノサイト機能の調節、および/またはケラチノサイト中のホスファチジルグリセロール(PG)のレベルの調節も含む。加えて、本開示は、ケラチノサイト増殖を調節することにより皮膚の状態を治療するための方法および組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、ケラチノサイト機能を調節するための本開示の方法の実施形態は、ケラチノサイト中のPGまたはこの機能性誘導体の量の変更を含む。他の実施形態としては、ケラチノサイトを、このケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するために有効量のPGまたはこのプロドラッグと接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法が挙げられる。ホスファチジン酸およびPG生成の調節方法の実施形態は、ケラチノサイトを非グリセロール系アルコールと接触させることを含む。
【0009】
さらに、皮膚の状態を治療するための本開示の実施形態は、この皮膚疾患の治療に有効量で、一定量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを宿主に投与することを含む。宿主における皮膚の状態を治療する他の実施形態は、宿主ケラチノサイト中のPGの量を増加させることを含む。宿主における皮膚の状態の治療方法は、この皮膚の状態の治療に有効量のPGを宿主に投与することも含み、この場合、PGは、この皮膚の状態が皮膚細胞の増殖不足を特徴とするときには、皮膚細胞増殖を刺激し、ならびにこの皮膚の状態が皮膚細胞の増殖過多を特徴とするときには、皮膚細胞増殖を阻害する。
【0010】
宿主におけるケラチノサイト増殖を正常化する方法の実施形態は、一定量のPGを宿主に投与することを含み、この場合、PGは、増殖減少状態下ではケラチノサイト増殖を刺激し、ならびにPGは、増殖過多状態下ではケラチノサイト増殖を阻害する。本開示は、宿主における創傷治癒の加速方法も提供し、この方法は、宿主ケラチノサイト中のPGの量を増加させることを含む。
【0011】
本開示は、様々な皮膚の状態を治療するための組成物も提供する。本開示の組成物の実施形態としては、皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグが挙げられる。本開示の組成物の他の実施形態としては、皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量のPGまたはこの機能性誘導体のリポソームが挙げられる。
【0012】
本開示の他の系、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明の考察をもとに、当業者には明らかになる、またはなってくる。すべてのこのようなさらなる系、方法、特徴および利点は本明細書に含まれ、本開示の範囲内であり、添付の特許請求の範囲により保護されると解釈する。
【0013】
本開示の多くの側面が以下の図面を参照することにより理解することができる。これら図面における構成要素は必ずしも尺度でなく、むしろ本開示の本質を明確に例示するためにあることが強調される。
【0014】
本開示の実施形態は、別の指示がない限り、当分野の範囲内である合成有機化学、生化学および分子生物学などの技術を利用する。このような技術は、文献において十分に説明されている。
【0015】
ここで開示し、特許請求する方法をどのように実施し、組成物および化合物をどのように使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために、以下の実施例を記載する。数(例えば、量、温度など)に関して確実に正確であるように努力したが、多少の間違いおよび逸脱はあると考えなければならない。別の指示がない限り、部は、重量部であり、温度は、℃でのものであり、圧力は、大気圧またはほぼ大気圧である。標準温度および圧は、20℃で1気圧と定義する。
【0016】
本開示の実施形態を詳細に説明する前に、他に別の指示がない限り、本開示は、特定の材料、試薬、反応材料または製造プロセスなどに限定されず、従って、変わる場合があることを理解しなければならない。ここで用いる専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、限定するためのものではないことも理解しなければならない。本開示において、論理的に可能である場合には、段階を別の順序で実行することもできる。
【0017】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、この文脈が明確に別様に命じていない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。従って、例えば、「単数の支持体」への言及は、複数の支持体を含む。本明細書および後続の特許請求の範囲において多数の用語に言及するが、これらは、相反する意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義する。
【0018】
定義:
ここで用いる用語「宿主」または「生物」は、ヒトも、哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマなど)も、皮膚の状態/疾病の治療が必要な他の現生種も含む。現生生物は、例えば単個真核細胞ほども単純である場合もあり、哺乳動物ほども複雑である場合もある。さらに、「組成物」は、下で説明するような、1つ以上の化合物を含むことができる。
【0019】
用語「誘導体」は、開示化合物の加水分解、還元または酸化生成物を含む(しかし、これらに限定されない。)開示化合物の変形を指す。加水分解、還元および酸化反応は、当分野では公知である。
【0020】
用語「機能性誘導体」は、開示化合物の機能を保持する開示化合物の誘導体を指す。例えば、PGの場合、本開示の文脈でのPGの機能性誘導体としては、皮膚細胞のシグナル伝達および/または増殖を調節する効果を有するPGの誘導体が挙げられる。本開示におけるPGの機能性誘導体の非限定的な例は、プロピレングリコールを使用してホスファチジル基転移反応で形成されたホスファチジルアルコールであり、これは、1つのヒドロキシル基を除きPGと同じ化学構造を有し、PGの活性を保持する。
【0021】
ここで用いる用語「治療有効量」は、ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足が直接または間接的な原因となる1つ以上の症状をある程度軽減する投与される化合物の量を指す。ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足が直接または間接的な原因となる状態/疾病に関して、治療有効量は、この疾病の素質を有するかもしれないが、この状態/疾病の症状をまだ経験および示していない動物におけるこの状態/疾病の発生の予防(予防的治療)、この状態/疾病の症状の緩和、この状態/疾病の程度の低下、この状態/疾病の安定化(すなわち、悪化させないこと)、この状態/疾病の進展の予防、この状態/疾病の進行の遅延または減速、この状態/疾病状態の改善または軽減、およびこれらの組み合わせの効果を有する量を指す。
【0022】
「医薬的に許容される塩」は、生物学的有効性および遊離塩基の特性を保持する塩を指し、これらは、無機または有機酸(例えば、限定ではないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸およびクエン酸など)との反応によって得られる。
【0023】
「医薬組成物」は、ここに記載する1つ以上の化合物またはこれらの医薬的に許容される塩と、他の化学成分(例えば、生理学的に許容される担体および賦形剤)との混合物を指す。医薬組成物の1つの目的は、生物への化合物の投与を可能にすることである。
【0024】
ここで用いる「医薬的に許容される担体」は、生物に対して有意な刺激をもたらさず、投与化合物の生物活性および特性を無くさせない担体または希釈剤を指す。
【0025】
「賦形剤」は、化合物の投与をさらに助長するために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ここで用いる「治療する」、「治療すること」および「治療」は、有益なまたは所望の臨床結果を得るためのアプローチである。本開示の実施形態のために、有益なまたは所望の臨床結果としては、この状態/疾病の素質を有するかもしれないが、この疾病の症状をまだ経験および示していない動物におけるこの状態/疾病の発生の予防(予防的治療)、この状態/疾病の症状の緩和、この状態/疾病の程度の低下、この状態/疾病の安定化(すなわち、悪化させないこと)、この状態/疾病の進展の予防、この状態/疾病の進行の遅延または減速、この状態/疾病状態の改善または軽減、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。加えて、「治療する」、「治療すること」および「治療」は、治療を受けなかった場合に期待される生残と比較して生残を延長することも意味する。
【0027】
用語「プロドラッグ」は、インビボで生物活性形態に変換される物質を指す。プロドラッグは、状況によっては親化合物より投与しやすいことがあるため、多くの場合有用である。これらは、例えば、経口投与により生体利用できるのに対し、親化合物はできない。プロドラッグは、親薬物と比較して、医薬組成物への溶解性が向上している場合もある。プロドラッグは、酵素的プロセスおよび代謝性加水分解を含む様々なメカニズムにより親薬物に変換され得る。Harper,NJ.(1962).Drug Latentiation in Jucker,ed.Progress in Drug Research,4:221−294;Morozowichら.(1977).Application of Physical Organic Principles to Prodrug Design in E.B.Roche ed.Design of Biopharmaceutical Properties through Prodrugs and Analogs,APhA;Acad.Pharm.ScL;E.B.Roche,ed.(1977).Bioreversihle Carriers in Drug Design,Theory and Application,APhA;H.Bundgaard,ed.(1985)Design of Prodrugs,Elsevier;Wangら.(1999)Prodrug approaches to the improved delivery of peptide drug,Curr.Pharm.Design.5(4):265−287;Paulettiら.(1997).Improvement in peptide bioavailability:Peptidomimetics and Prodrug Strategies,Adv.Drug.Delivery Rev.27:235−256;Mizenら.(1998).The Use of Esters as Prodrugs for Oral Delivery of β−Lactam antibiotics,Pharm.Biotech.ll,:345−365;Gaignaultら.(1996).Designing Prodrugs and Bioprecursors I. Carrier Prodrugs,Pract.Med.Chem.671−696;M.Asgharnejad(2000).Improving Oral Drug Transport Via Prodrugs,in G.L.Amidon,P.I.Lee and E.M.Topp,Eds.,Transport Processes in Pharmaceutical Systems,Marcell Dekker,p.185−218;Balantら.(1990).Prodrugs for the improvement of drug absorption via different routes of administration,Eur.J.DrugMetab.Pharmacokinet.,15(2):143−53;Balimane and Sinko(1999).Involvement of multiple transporters in the oral absorption of nucleoside analogues,Adv.Drug Delivery Rev.,39(l−3):183−209;Browne(1997).Fosphenytoin(Cerebyx),Clin.Neuropharmacol.20(1):1−12;Bundgaard(1979).Bioreversible derivatization of drugs−principle and applicability to improve the therapeutic effects of drugs,Arch.Pharm.Chemi.86(1):1−39;H.Bundgaard,ed.(1985).Design of Prodrugs,New York:Elsevier;Fleisherら.(1996).Improved oral drug delivery:solubility limitations overcome by the use of prodrugs,Adv.Drug Delivery Rev.19(2):115−130;Fleisherら.(1985).Design of prodrugs for improved gastrointestinal absorption by intestinal enzyme targeting,Methods Enzymol.112:360−81;Farquhar D.ら.(1983).Biologically Reversible Phosphate−Protective Groups,J.Pharm.Sd.,72(3):324−325;Han,H.K.ら.(2000).Targeted prodrug design to optimize drug delivery,AAPS PharmSci.,2(1):E6;Sadzuka Y.(2000).Effective prodrug liposome and conversion to active metabolite,Curr.DrugMetab.,1(1):31−48;D.M.Lambert(2000).Rationale and applications of lipids as prodrug carriers,Eur.J.Pharm.ScL,11 Suppl 2:S15−27;Wang,W.ら.(1999).Prodrug approaches to the improved delivery of peptide drugs.Curr.Pharm.Des.,5(4):265−87。
【0028】
ここで用いる用語「局所活性薬剤」は、宿主への適用(接触)部位における薬理応答を惹起する、本開示の組成物を指す。
【0029】
ここで用いる用語「局所的に」は、皮膚および粘膜細胞および組織の表面への本開示の組成物の適用を指す。
【0030】
ここで用いる用語「阻害する」および/または「減少させる」は、自然の、期待されるもしくは平均的な状態を基準にして、または現在の状態を基準にして、機能、活性または挙動を直接または間接的に減少させる作用を一般に指す。例えば、ケラチノサイトの増殖を阻害するまたは減少させる何かが、新たなケラチノサイトの成長を停止または減速させることがある。
【0031】
ここで用いる用語「増加させる」、「強化する」および/または「誘導する」は、一般に、自然の、期待されるもしくは平均的な状態を基準にして、または現在の状態を基準にして、機能または挙動を直接または間接的に改善するまたは増加させる作用を指す。例えば、ケラチノサイトの増殖を増加させるまたは強化する何かが、増殖が減速もしくは停止してしまっているケラチノサイトの増殖を誘導することがあり、または増殖の速度を通常の速度より加速することがある。
【0032】
本明細書で用いる用語「調節する」、「修飾する」、および/または「調節因子」は、特定の機能または挙動に対する直接または間接的な促進/活性化または干渉/阻害作用を一般に指す。例えば、ケラチノサイト機能の調節因子は、ケラチノサイトの増殖もしくは分化を活性化もしくは増加させることがあり、またはケラチノサイト機能の調節因子は、ケラチノサイトの増殖もしくは分化を阻害することがある。場合により、調節因子は、一定の活性または機能を、この自然な状態を基準にして、または一般に期待される平均的な活性レベルを基準にして、または現在の活性レベルを基準にして、増加および/または減少させることができる。
【0033】
ここで用いる用語「正常化する」は、2つ以上の活性、機能または状態の間の相対バランスまたは平衡を確立するおよび/または維持する作用を指す。例えば、ケラチノサイトの増殖の正常化は、一般に様々な状態のもとでケラチノサイトの増殖と分化の間の相対バランスを維持することを指す。増殖過多の状態のもとでの正常化は、増殖の減速または阻害を意味する一方で、成長が減速している状態のもとでの正常化は、増殖の誘導または増加を意味する。
【0034】
ここで用いる用語「発現」は、構造遺伝子によりポリペプチドが生産されるプロセスを指す。これは、転写と翻訳の組み合わせである。従って、PLD2またはAQP3の発現の誘導または増加は、PLD2またはAQP3ポリペプチドの生産の増加または誘導を指し、これは、様々なアプローチ、例えば、このポリペプチドをコードする遺伝子の数を増加させること、(例えば、構成的プロモーターの制御下に遺伝子を置くことにより)この遺伝子の転写を増加させること、もしくはこの遺伝子の翻訳を増加させること、またはこれらのアプローチおよび/もしくは他のアプローチの組み合わせによって行われる。
【0035】
用語「含む」、「など」、「例えば」などは、具体例としての実施形態を指すためのものであり、本開示の範囲を限定するためのものではない。
【0036】
考察
ホスホリパーゼD
ホスホリパーゼD(PLD)は、成長、分化、小胞輸送および細胞骨格再配列を含む多数の細胞プロセスに関係付けられている脂肪分解酵素である。PLDは、ホスファチジルコリンの加水分解を触媒して、ホスファチジン酸(PA)およびコリンを生じさせる。PAおよびこの代謝産物、ジアシルグリセロールおよびリソホスファチジン酸は、多数の生理事象に関与している。第一アルコールの存在下、PLDは、ホスファチジル基転移反応を触媒して、ホスファチジルアルコールを生じさせる。このメカニズムに従って、PLDは、生理的第一アルコールグリセロールの存在下でホスファチジルコリンを代謝して、ホスファチジルグリセロール(PG)を生じさせることができる。PLDの反応を図2に示す。
【0037】
哺乳動物PLDの2つのアイソフォーム、PLD1およびPLD2が、同定されている。PLD1は、低い基礎活性を有し、小さなGタンパク質(Arf、RhoおよびRac)およびプロテインキナーゼCによって活性化され、これに対してPLD2は、インビトロでモニターされた昆虫細胞への形質移入によって証明されるように、構成的活性であるようである。両方のPLOが、ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸(PIP2)を補因子として利用し、ならびにケラチノサイトにおいて発現されることが証明されている。1,25−ジヒドロキシビタミンD3、ケラチノサイト分化剤は、PLD1の発現を誘導するが、PLD2の発現は誘導しない。図3は、PLDの様々なシグナル伝達経路を説明する図である。HaCaT細胞において、PLD2は、カベオリンリッチな膜マイクロドメインに位置している。
【0038】
より詳細に下で論じるように、PLD2の位置およびホスファチジルグリセロール(PG)を生産するこの能力が、PLD2をケラチノサイトの挙動、特に、ケラチノサイトの増殖および分化を調節するためのシグナル伝達に関する挙動の調節に関与させる。
【0039】
アクアポリン3
アクアポリンは、小さな膜貫通型水および/またはグリセロールチャネルの一ファミリーである。現在、11の哺乳動物アクアポリン(AQPO−IO)が、同定および特性付けされている。これらの構造および機能特性に従って、アクアポリンは、2つのサブグループ(水のみを輸送する「アクアポリン」、および水とグリセロールの両方を輸送することができる「アクアグリセロポリン」)に分けることができる。アクアグリセロポリンサブグループに属するAQP3は、水の比較的弱い輸送体であるが、グリセロールの有効な輸送体である。AQP3は、尿管、消化管および気道ならびに表皮を含む様々な組織からの、腎臓採取細胞、赤血球、樹状細胞および上皮細胞において発現される。表皮、気管および鼻咽頭上皮では、AQP3は、表皮の基底細胞中に存在する。
【0040】
AQP3欠失マウスは、グリセロール含量の選択的減少、ならびに水分保持能力低下、表皮に関して、皮膚弾力性減損、角質層剥離後のバリア回復遅延および創傷治癒遅延を示し、これは、ケラチノサイトの増殖および分化の調整におけるAQP3の一定の役割を示唆している。この表現型は、グリセロールの局所または経口適用により修正できるが、他の浸透活性分子ではできず、これは、この効果が、単にグリセロールの親水特性の作用でないことを示唆している。上で論じたようにPGを生成するために用いることができるグリセロールを輸送するAQP3の能力、および下で論じるこの位置は、PGの生成およびケラチノサイトの機能の調節におけるAQP3の一定の役割を暗示し、このことは、より詳細に下で論じる。
【0041】
PLD2/AQP3/グリセロール/PG シグナル伝達モジュール
本開示の発明者らは、ケラチノサイトでは、AQP3およびPLD2が、カベオリンリッチな膜マイクロドメインにおいて会合すること、ならびにAQP3グリセロールチャネルが、正常な表皮機能にとって重要であることを、以前に証明した(Zheng,X.and Bollag,W.B.(2003)J.Invest.Dermatol,121,1487−1495(これは、本明細書に参考として組み込まれる。))。小窩は、電子顕微鏡により原形質膜における直径50〜100nmのフラスコ形陥入として特性付けられている、脂質ラフトマイクロドメインのサブセットである。カベオリン1は、小窩内で同定された最初の構造タンパク質成分であり、機能的に、広範なシグナル伝達プロセスに関係付けられている(Smartら、1999)。加えて、カベオリン1は、ケラチノサイト内の層状体と会合することが、最近、証明された(Sandoら、2003)。
【0042】
カベオリンリッチな膜マイクロドメインにおけるPLD2とAQP3の共在性(colocation)は、AQP3が、PGを生成させるホスファチジル基転移反応において用いるためのグリセロールをPLD2に輸送すること、また、このPGが、ケラチノサイト機能を調節するための脂質第二メッセンジャーとして作用することを示唆しており、このことは、下の実施例1および2によってさらに証明する。実際、本明細書中の実施例により、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成る新規シグナル伝達モジュールの存在を実証する。
【0043】
PGリポソームの直接供給により急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成が用量依存的に阻害されたが、成長が阻害された細胞では、PGリポソームによりDNAへの[3H]チミジン組み込みが用量依存的に強化されたことも、実施例2によって証明する。PGリポソームがトランスグルタミナーゼ活性を刺激する傾向も観察された。これらのデータは、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成るシグナル伝達モジュールが、増殖性ケラチノサイトの成長阻害および/または初期分化の促進に関与しており、その結果、ケラチノサイトの挙動および/または増殖を調節するためのメカニズム、ならびにケラチノサイトの増殖の増加または減少を特徴とする様々な皮膚の状態を治療するための方法をもたらすことを支持している。
【0044】
ケラチノサイトの増殖を調節する方法および皮膚の状態を治療する方法
本開示の実施形態は、PLD2/AQP3/グリセロール/PGシグナル伝達モジュールの様々な成分の量および/または活性を調節することにより、ケラチノサイト機能、特に増殖、を調節する方法を含む。本開示の一定の実施形態において、ケラチノサイトの増殖は、ケラチノサイトにより生産される、またはケラチノサイトと接触しているPG、またはこの機能性誘導体の量を調節することによって正常化する。本開示の実施形態において、ケラチノサイトと接触している、またはケラチノサイトによって生産されるPGの量の調節は、皮膚細胞成長減速または増殖不足状態にある皮膚細胞の増殖を刺激すること、および成長増加または増殖亢進状態にある皮膚細胞の増殖の減少させることによって、ケラチノサイト増殖を正常化する。
【0045】
ケラチノサイトと接触しているPGの量を調節する一部の実施形態は、ケラチノサイトと接触しているPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグの量を増加させることを含む。PGの機能性誘導体の例としては、1つのヒドロキシ基をマイナスしたPGと同じ構造を有するプロピレングリコールのホスファチジル基転移反応生成物が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
ケラチノサイトと接触しているPGの量を増加させてケラチノサイトの挙動を調節する実施形態は、ケラチノサイト増殖、ケラチノサイト皮膚細胞シグナル伝達および/またはケラチノサイト核酸合成を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグとケラチノサイトを接触させることを含む。下の実施例により、PGが、ケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するように作用し、様々な条件に依存してケラチノサイトにおける核酸合成を増加または減少させることができることを証明する。
【0047】
本開示の驚くべき、有益な態様は、PGが、ケラチノサイトにおいて二相性作用を示し、成長減速状態、例えば加齢(すなわち、細胞老化)または皮膚細胞傷害、例えば好ましくない状態(例えば、煙、日光、風および極端な温度)への暴露に起因する皮膚細胞障害または物理的傷害(例えば、創傷、やけど、すり傷、瘢痕、潰瘍など)のもとでは増殖のシグナルを誘導し、ならびに乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌および他の非黒色腫性皮膚癌を含む(しかし、これらに限定されない)疾患などにおける増加したまたは過増殖性成長状態のもとでは増殖を阻害または減速するシグナルを誘導することである。従って、PGレベルおよび/もしくは生成を調節することにより、ならびにまたはPLD2/AQP3/グリセロール/PGシグナル伝達モジュールを別様に調節することにより、成長過多状態または成長不足状態を別々に治療するのではなく、これらの状態に同時に対処することができる。
【0048】
本開示の方法は、PGまたはグリセロールをケラチノサイトまたは宿主に投与することによりPGレベルを調節することに限定されず、ケラチノサイトによって生産されるPGの量を調節する方法も包含する。ケラチノサイトによって生産されるPGの量の調節に関する実施形態は、例えば、PLD2および/もしくはAQP3の活性のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションにより、ならびに/またはケラチノサイトにおけるPLD2および/もしくはAQP3の発現を増加または減少させることにより、ホスホリパーゼD2(PLD2)および/またはアクアポリン−3(AQP3)の活性を調節することを含む。PLD2またはAQP3の発現を増加させるための実施形態は、PLD2またはAQP3ポリペプチドの生産の増加または誘導を含み、これは、当業者には公知の様々なアプローチによって行うことができ、この非限定的な例は、下の実施例で開示する。一般に、PLD2またはAQP3の発現を増加させるためのアプローチとしては、(例えば、宿主細胞をこの遺伝子のさらなるコピーでトランスフェクトすることにより、遺伝子療法の当業者には公知の様々な方法により)このポリペプチドをコードする遺伝子の数を増加させること、(例えば、構成的プロモーターの制御下にこの遺伝子を置くことにより)この遺伝子の転写を増加させること、もしくは遺伝子の翻訳を増加させることなどの方法、またはこれらのアプローチおよび/または他のアプローチの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本開示の実施形態は、ケラチノサイトの増殖および/または機能を正常化および/または調節することによる、ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足を特徴とする宿主の皮膚の状態/疾患を治療するための方法および組成物も提供する。本開示の方法および組成物により治療することができる皮膚の状態としては、高増殖性疾患、例えば乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌、および無秩序な細胞分裂;成長減速状態、例えば、加齢、瘢痕化、皮膚細胞老化、および(例えば、日光、煙、風、および極端な温度などへの)暴露に起因する皮膚障害;ならびに物理的創傷(例えば、裂傷、潰瘍、例えば糖尿病性および加齢性潰瘍、やけど、すり傷など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上の状態を治療する方法としては、数ある中でも、上で説明したケラチノサイト増殖および/または機能の調節/正規化方法が挙げられる。特に、上の状態を治療するための方法の実施形態は、ケラチノサイト増殖、ケラチノサイト皮膚細胞シグナル伝達および/またはケラチノサイト核酸合成を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含む。ケラチノサイトの挙動を調節するためおよび/または皮膚の状態を治療するための本開示の方法は、PGの投与と併用で、下で説明するようにケラチノサイトをグリセロールまたはこの機能性誘導体と接触させて、細胞のPG生産を刺激することも含む。本開示の方法は、より詳細に下で論じるように、非グリセロール系アルコールとケラチノサイトを接触させて、ホスファチジン酸、PA、ならびにPG生産を調節することも含む。本開示の実施形態は、この必要がある宿主に本開示の医薬組成物を投与することによる、上の状態を治療するならびにケラチノサイトの機能および増殖を調節する方法も含む。本開示の医薬組成物を、より詳細に下で論じる。
【0051】
医薬組成物
本開示の医薬組成物および剤形の実施形態は、PG、PGの医薬的に許容される塩もしくはこの機能性誘導体、またはこの医薬的に許容される多形、溶媒和物、水和物、脱水物、共結晶、無水またはその非晶質形態を含む。本開示の医薬組成物の実施形態は、グリセロールまたはこの機能性誘導体も含むことがある。グリセロールは、PGの生成のためにPLD2の基質として作用するので、グリセロールは、ホスファチジン酸(PA)をダウンレギュレートするさらなる効果を有し、下の実施例で実証するように、このPAも、ケラチノサイトの調節においても一定の役割を果たし得る。プロピレングリコールを含む(しかし、これに限定されない。)グリセロールの機能性誘導体は、PG機能性誘導体の生成増加においても、PAの生成の下方制御においても、グリセロールと同じまたは同様の効果を有する。
【0052】
本開示の組成物の他の実施形態は、下の実施例で実証するように、PGとPAの両方のPLD2生成を下方制御するグリセロールの非機能性誘導体、例えば他の第一、非グリセロール系アルコール(例えば、1−ブタノールおよびエタノール)を含むことがある。このような組成物は、所望の効果に依存して、PGを含むこともあり、含まないこともある。非グリセロール系アルコールを含み、PGを含まない組成物は、PAおよびPGの生成を阻害する/減少させることができ、一方、非グリセロール系アルコールおよびPGを含む組成物は、PA生産を阻害する/減少させることができ、ならびにケラチノサイトの挙動に対するPG媒介調節を誘導することができる。
【0053】
医薬組成物および単位剤形は、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤または希釈剤も含む。本活性組成物によってもたらされる利点、例えば、溶解度上昇および/または流動、純度もしくは安定(例えば、吸水)特性向上により(しかし、これに限定されない)、本組成物は、医薬調合物および/または患者への投与に、先行技術より良好に適するものであることができる。
【0054】
本活性組成物の医薬単位剤形は、患者への局所投与、経皮投与、経口投与、粘膜投与(例えば、経鼻、舌下、経膣、口腔内または直腸内投与)、または非経口投与(例えば、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内もしくはボーラス注射)に適する。剤形の例としては、錠剤;キャプレット;カプセル、例えば、ハードゼラチンカプセルおよびソフトゼラチンカプセル;カシェ剤;トローチ;ロゼンジ;分散液;坐剤;軟膏;ハップ剤(湿布剤);ペースト;粉末;包帯剤;クリーム;硬膏剤;溶液;パッチ;エーロゾル(例えば、鼻スプレー剤または吸入剤);ゲル;懸濁剤(例えば、水性または非水性懸濁液、水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョン)、溶液およびエリキシルを含む、患者への経口または粘膜投与に適する液体剤形;患者への非経口投与に適する液体剤形;ならびに再構成して、患者への非経口投与に適する液体剤形を提供することができる滅菌固体(例えば、結晶質または非晶質固体)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
活性組成物の剤形の組成、形状およびタイプは、これらの用途に依存して様々であり得る。例えば、疾病または疾患の急性治療において使用される剤形は、同じ疾病または疾患の慢性治療において使用される剤形より多くの量の活性成分(すなわち、活性組成物)を含有し得る。同様に、非経口剤形は、同じ疾病または疾患を治療するために使用される経口剤形より少ない量の活性成分を含有し得る。これらの方法、および本開示に包含される特定の剤形が互いに異なる他の方法は、当業者には容易にわかる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.,Mack Publishing,Easton,Pa(1990))。
【0056】
典型的な医薬組成物および剤形は、1つ以上の賦形剤を含むことができる。適する賦形剤は、調剤または医薬分野の当業者には周知である。特定の賦形剤が、医薬組成物または剤形への配合に適するかどうかは、この剤形を患者に投与する方法を含む(しかし、これに限定されない)、当分野では周知の様々な要因に依存する。例えば、錠剤またはカプセルなどの経口剤形は、非経口剤形での使用には適さない賦形剤を含有することがある。個々の賦形剤の適性は、この剤形中の具体的な活性成分にも依存し得る。
【0057】
本開示は、活性成分が分解する速度を低下させる1つ以上の化合物を含む、医薬組成物および剤形を、さらに包含する。ここでは「安定剤」と呼ぶこのような化合物としては、抗酸化物質、例えばアスコルビン酸、pH緩衝剤、または塩緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、本開示の医薬組成物または剤形は、1つ以上の溶解度調節剤、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウムもしくはカリウムまたは有機酸、を含有することがある。具体的な溶解度調節剤は、酒石酸である。
【0058】
賦形剤の量およびタイプと同様に、剤形中の活性成分の量および具体的なタイプは、これを患者に投与する経路、治療すべき状態、宿主のサイズなど(しかし、これらに限定されない)の要因に依存して異なることがある。しかし、本開示の化合物の典型的な剤形は、PG、この医薬的に許容される塩、または医薬的に許容される多形、溶媒和物、水和物、脱水物、共結晶、無水もしくは非晶質形態を、約0.05mgから約50mgの量で、好ましくは、約0.25mgから約10mgの量で、およびさらに好ましくは、約0.5mgから5mgの量で含む。
【0059】
具体例としての実施形態において、PG、この機能性誘導体、医薬的に許容される塩、またはこのプロドラッグは、リポソームの形態で、場合によっては1つ以上の上記添加剤と混合して、送達することができる。本開示の組成物は、任意の形態で送達することができるが、皮膚疾患の治療には、局所剤形が好ましいだろう。
【0060】
局所、経皮および粘膜用剤形
本開示の局所剤形としては、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、シャンプー、スプレー剤、エーロゾル、溶液、エマルジョン、および当業者には公知の他の剤形が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990);and Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms,4th ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,Pa.(1985))。噴霧不能局所剤形については、局所適用に適合した担体または1つ以上の賦形剤を含み、好ましくは水より大きい動粘性率を有する、粘性から半固体または固体形態が、一般に利用される。適する調合物としては、所望される場合には、滅菌されているか、様々な特性(例えば、浸透圧など)に影響を及ぼすように助剤(例えば、保存薬、安定剤、湿潤剤、緩衝剤または塩)と混合されている、溶液、懸濁液、エマルジョン、クリーム、軟膏、粉末、リニメント剤および膏薬などが挙げられるが、これらに限定されない。他の適する局所剤形としては、噴霧可能エーロゾル製剤が挙げられ、この場合、活性成分は、好ましくは固体または液体不活性担体と併わせて、加圧揮発性物質(例えば、ガス状噴射剤、例えばフレオン)との混合物で、またはスクイーズボトルの中にパッケージングされる。所望される場合には、医薬組成物および剤形に、潤い付与剤または保湿剤も添加することができる。このような追加成分の例は、当分野では周知である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990))。
【0061】
本活性組成物の経皮および粘膜用剤形としては、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、溶液、エマルジョン、懸濁液、坐剤、点眼剤、パッチ、スプレー剤、エーロゾルまたは当業者には公知の他の剤形が挙げられるが、これらに限定されない{例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990);and Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms,4th Ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,Pa.(1985))。口腔内の粘膜組織を治療するために適する剤形は、マウスウォッシュとして、経口ゲルとして、または口腔内パッチとして調合することができる。さらなる経皮剤形としては、皮膚に貼り、特定の期間にわたって身に着けて所望量の活性成分を浸透させることができる、「レザバー型」または「マトリックス型」パッチが挙げられる。
【0062】
本開示に包含される経皮および粘膜用剤形をもたらすために使用することができる、適する賦形剤(例えば、担体および希釈剤)および他の材料は、医薬分野の当業者には周知であり、ならびに所与の医薬組成物または剤形が適用されることとなる特定の組織または器官に依存する。非毒性であり、医薬的に許容される剤形を形成することを念頭において、典型的な賦形剤としては、水、リン酸緩衝生理食塩水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
治療すべき具体的な組織に依存して、活性組成物の医薬的に許容される塩での治療前に、治療と共に、または治療後に、追加成分を使用してもよい。例えば、浸透向上剤は、組織にまたは組織を横断して活性成分を送達することを助長するために使用することができる。適する浸透向上剤としては、アセトン;様々なアルコール、例えば、エタノール、オレイルおよびテトラヒドロフリルアルコール;アルキルスルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド;ジメチルアセトアミド;ジメチルホルムアミド;ポリエチレングリコール;ピロリドン、例えば、ポリビニルピロリドン;コリドングレード(ポビドン、ポリビドン);尿素;ならびに様々な水溶性または水不溶性糖エステル、例えば、TWEEN 80(ポリソルベート80)およびSPAN 60(ソルビタンモノステアラート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
医薬組成物もしくは剤形のpHまたはこの医薬組成物もしくは剤形を適用する組織のpHを調整して、活性成分(単数または複数)の送達を向上させることができる。同様に、溶媒担体の極性、このイオン強度または張度を調整して、送達を向上させることもできる。ステアラートなどの化合物を医薬組成物または剤形に追加して、送達を向上させるために有利に活性成分(単数または複数)の親水性または親油性を変えることもできる。これに関して、ステアラートは、この調合物のための脂質ビヒクルとして、乳化剤または界面活性剤として、および送達向上または浸透向上剤としての役割を果たすことができる。活性組成物の医薬的に許容される塩の種々の水和物、脱水物、共結晶、溶媒和物、多形、無水または非晶質形態を用いて、得られる組成物の特性をさらに調整することができる。
【0065】
以下の図面を参照すると、本開示の多数の態様をより良好に理解できる。これらの図面の構成要素は、必ずしも縮尺で描かれているとは限らず、これよりも、本開示の原理を明瞭に説明することに重きを置いている。
【0066】
(実施例)
さて、ケラチノサイトの機能および/または増殖を調節および/または正常化するための組成物および方法、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールレベルを調節する方法、ならびに皮膚の状態を治療するための方法および組成物の実施形態を一般に説明してきたが、以下の実施例では、ケラチノサイトの機能および/または増殖を調節および/または正常化するための組成物および方法、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールレベルを調節する方法、ならびに皮膚の状態を治療するための方法および組成物の一定の実施形態を説明する。実施例1から3ならびに対応する本文および図との関連で、このような実施形態を説明するが、これらの説明に本開示の実施形態を限定する意図はない。これどころか、本意図は、本開示の実施形態の精神および範囲に含まれるすべての代案、変形および等価物を包含することである。
【実施例1】
【0067】
本実施例では、高細胞外カルシウム濃度へのケラチノサイトの長期暴露が、PLD活性を増大させること、および高細胞外カルシウムは、[3H]または[14C]グリセロールで標識した細胞におけるPLD媒介ホスファチジルグリセロール生成を増加させるが、1,25−ジヒドロキシビタミンD3はさせないことの証拠を提供する。慢性的高細胞外カルシウム暴露に基づくホスファチジルグリセロール生成のこの増加は、すべて、グリセロール取り込みの増加の結果というわけではない。加えて、PMAは、PLD活性を増大させるが、ホスファチジルグリセロールの形成を増進しない。(1)PLD−1の発現および活性は、1,25−ジヒドロキシビタミンD3によって増加されるが、PLD−2の発現および活性はされず、ならびに(2)PMAは、PLD−2より大きな程度にPLD−1を活性化するので、これは、グリセロールへの暴露に基づく放射標識PG生成が、ケラチノサイトにおけるPLD−2の活性化の尺度であることを示唆している。
【0068】
実験材料
PLD−2を過発現するSf9昆虫細胞から得た膜は、米国、カリフォルニア州のOnyx Pharmaceuticalsによって提供されたものであった。[3H]オレイン酸、[3H−パルミトイル]ホスファチジルコリン、[3H]グリセロール{製品が打ち切られたので、3つの異なる形態を使用した。[1,2,3−3H]グリセロール(200mCi/mmolの相対活性強度)、[1,2,3−3H]グリセロール(40〜80mCi/mmolの相対活性強度)および[2−3H]グリセロール(200mCi/mmolの相対活性強度)}ならびに[1,3−14C]グリセロールは、NEN/DuPont(米国、マサチューセッツ州、ボストン)から入手した。ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ならびにホスファチジルエタノール、ホスファチジン酸およびホスファチジルグリセロールの標準物質は、Avanti Polar Lipids(米国、アラバマ州、アラバスター)から購入した。ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸は、Calbiochem(米国、カリフォルニア州、サンディエゴ)またはSigma(米国、ミズーリ州、セントルイス)から入手した。カルシウム不含MEMおよび抗生物質は、Biologos,Inc.(米国、イリノイ州、Maperville)から購入した。ウシ脳下垂体エキス、表皮成長因子およびHEPES溶液(1M、pH7.4)は、Gibco BRL(米国、ニューヨーク州、グランドアイランド)から入手した。ITS+は、Collaborative Biomedical Products(米国、マサチューセッツ州、ベッドフォード)によって供給され、Atlanta Biologicals(米国、ジョージア州、アトランタ)がウシ胎仔血清を透析した。濃縮ゾーンを有するSilica gel 60 TLC プレートは、EM Science(米国、ニュージャージー州、ギブスタウン)から入手した。慣例に従って、他の試薬は、標準的な供給業者から入手し、これらは、入手できる最高グレードのものであった。
【0069】
ホスファチジルグリセロール形成のインビトロアッセイ
[3H−パルミトイル]ホスファチジルコリンを基質として用いて、PLD−2の活性をインビトロで測定した。R.D.Griner,F.Qin,E.M.Jung,CK.Sue−Ling,K.B.Crawford,R.Mann−Blakeney,RJ.Bollag,W.B.Bollag,1,25−Dihydroxyvitamin D3 induces phospholipase D−1 expression in primary mouse epiermal keratinocytes,J.Biol.Chem.274(1999)4663−4670(本明細書に参考として組み込まれる。)に記載されているように、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸から調製した脂質小胞に、放射標識ホスファチジルコリンを組み込んだ。グリセロールおよび/またはエタノールをこれらのリポソームと併せ、米国、カリフォルニア州、リッチモンドのOnyx Pharmaceuticalsによって提供されたPLD−2過発現Sf9細胞膜の添加により反応を開始させた。その後、37℃で30分間、反応を進行させた後、5mM EDTAを含有する0.2% SDSの添加により反応を停止させた。Bligh and Dyerの方法に従って脂質を抽出し、W.B.Bollag,「Measurement of phospholipase D activity,Methods」,MoI.Biol.105(1998)151−160(本明細書に参考として組み込まれる。)に記載されているとおり、放射標識リン脂質を分離し、定量した。
【0070】
細胞培養
日齢1〜3日の新生子ICRマウスから、皮膚のトリプシン浮上分離法および表皮と真皮の機械分離後、1次表皮ケラチノサイトを調製した。表皮細胞を擦過により剥離させ、遠心分離により回収し、25μM カルシウム、2% 透析ウシ胎仔血清、2mM グルタミン、5ng/mL EGF、ITS+(6.25μg/mL インスリン+6.25μg/mL トランスフェリン+6.25ng/mL 亜セレン酸+5.35μg/mL リノール酸+1.25% ウシ血清アルブミン)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンおよび0.25μg/mL フンギゾンを含有するMEMから成る培地中、6ウエルシャーレにプレーティングした。一晩、インキュベートした後、これらの細胞に、2% 透析ウシ胎仔血清を90μg/mL ウシ脳下垂体エキスに替えた無血清ケラチノサイト培地(SFKM)を再供給した。1〜3日ごとに新たな培地を細胞に再供給した。
【0071】
PLD活性および[3H]または[14C]ホスファチジルグリセロール形成
PLDアッセイのために、培養1次ケラチノサイトを、20〜24時間、2.5μCi/mL [3H]オレイン酸で標識した。その後、0.5% エタノールの存在下、ビヒクルまたは100nM PMAに、30分間、これらの細胞を暴露した。放射標識ホスファチジルグリセロールの形成を測定するために、ビヒクル、250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3または125μM カルシウムを含有するSFKMで、24時間、細胞を処理し、その後、さらに30分間、1〜2.5μCi/mL [3H]または0.4〜0.5μCi/mL [14C]グリセロールで標識した。PG形成の細胞外カルシウム依存性を調査する実験については、様々なカルシウム濃度を含有するSFKM中で、24時間、細胞をインキュベートした後、30分にわたって5μCi/mL [3H]グリセロールを添加した。場合により、25μM カルシウム(対照)含有または125μM カルシウム含有SFKMで、24時間、細胞を刺激した後、1% エタノールが存在するおよび不在の状態の[14C]グリセロールを添加した。PMAに応じてのホスファチジルグリセロール形成を測定するために、未標識細胞を、上のように、放射標識グリセロールの存在下、100nM PMAで刺激した。反応を停止させ、放射標識ホスファチジルアルコールを抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、上で言及したBollag(1998)による記載のとおりに定量した。
【0072】
[14C]ホスファチジルグリセロールのヘッドグループ位置における放射標識の実証
対照(25μM カルシウム)または125μM カルシウム含有培地で、24時間、前処理したケラチノサイトを、さらに30分間、0.4〜0.5μCi/mL [14C]グリセロールに暴露した。上で説明したように、脂質をクロロホルム/メタノールに抽出した。乾燥させた脂質抽出物を、その後、広範にボルテックスし、37℃で短時間インキュベートすることにより、ホスホリパーゼ緩衝液(100mM Tris(pH7.4)、6mM MgCl2+0.1% Triton−XIOO)に可溶化し、各抽出物の約半分を清浄な試験管に移した。その後、蒸留水(未処理)、または蒸留水で稀釈した1 IU/mL(最終濃度)のストレプトミセス・クロモフスカス PLD(Streptomyces chromofuscus PLO)(ミズーリ州、セントルイスのSigma)(PLD−処理)を、脂質抽出サンプルの各々の添加し、これらを37℃で60分間、インキュベートした。その後、放出されたヘッドグループを、本質的にはFolch.J.Rolch,M.Lees,G.H.S.Stanley,「A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues」,J.Biol.Chem.226(1957)497−509(本明細書に参考として組み込まれる)の方法に従って、水性相への抽出によりリン脂質と分離した。簡単に言うと、75μL 反応混合物を1.5mLのクロロホルム/メタノール(2:1 容量:容量)で稀釈し、その後、300μLの0.05M NaClを添加した。その後、上部水性層の一部を回収し、液体シンチレーションスペクトル分析により定量した。この水性層におけるPLD放出放射活性を、PLD処理サンプルに放出された量−対応する未処理サンプルにおいて検出された量として計算した。他の実験では、PGを、上で説明したように薄層クロマトグラフィーによって脂質抽出物から先ず単離し、ヨウ素蒸気で可視化した。クロロホルム/メタノール(2:1 容量:容量)を使用して薄層プレートからPGを抽出し、窒素下で乾燥させた。その後、この単離されたPGを可溶化し、細菌性PLDとともにまたは伴わずにインキュベートし、上のように抽出した。カウンティングのために水性アリコートを除去した後、残りの水性相を吸引し、有機相を窒素下で乾燥させた。その後、この脂質抽出物を薄層クロマトグラフィーによって分離し、サンプル中のPGおよびホスファチジン酸を、上のように定量した。
【0073】
[3H]グリセロール取り込み
集密1次ケラチノサイトを、30、60、90、120、300または600秒間、20mM HEPES(さらなるpH緩衝のため)、1μCi/mL [3H]グリセロールおよび0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKMとともにインキュベートした。二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄することにより、反応を停止させた。その後、これらの細胞を0.3M NaOHに可溶化し、この抽出物のアリコートを液体シンチレーションカウンティングに付した。各時点での二重重複サンプルから得られたカウントを平均し、グラフにし、各条件について一次方程式を決定した。得られた相関係数は、典型的に、0.99以上であった(対照についての平均相関係数は、0.992±0.002であり、PMAについては、0.994±0.001であった)。多数の実験から得られた傾きを平均し、条件間の有意差について統計解析した。
【0074】
上で決定したグリセロール取り込みの直線性により、単一の時点での取り込みを測定して、このプロセスに対する他の処理の効果を判定することができる。例えば、集密ケラチノサイトを、30分間、0.1% DMSO(対照)または100nM PMAとともにプレインキュベートした後、上のとおりだが5分でのみ、[3H]グリセロール取り込みを測定した。同様に、ほぼ集密の1次ケラチノサイトを、様々なカルシウム濃度を含有するSFKMとともに24時間、インキュベートした後、5分間の放射標識グリセロール取り込みを測定した。
【0075】
統計解析
平均値間の差の有意性は、プログラム Instat(カリフォルニア州、サンディエゴのGraphPad Software)により行う分散分析(ANOVA)を用いて判定した。
【0076】
結果
PLD−2は、インビトロでのホスファチジル基転移反応に第一アルコールとしてグリセロールを利用する(応答の特性付け)
無傷細胞において、PLDは、ホスファチジン酸を形成するにリン脂質の加水分解ばかりでなく、第一アルコールの存在下、ホスファチジルアルコールを生成させるホスファチジル基転移反応も触媒するユニークな特性を有する。従って、ホスファチジルアルコールの生成は、PLD活性の尺度として用いられている。一般には、エタノールまたは1−ブタノールなどの第一アルコールが使用される。これは、細胞によって容易に代謝されない新規ホスファチジルアルコールを生成させるからである。無傷細胞での以前の研究は、生理的第一アルコール、グリセロールも、ホスファチジル基転移反応のための基質としての役割を果たすことができることを示唆していた。PLD2過発現Sf9膜を使用して、グリセロールがインビトロでPLD2のための基質でであるかどうかを調査した。図5Aに示すように、PLD2は、グリセロールの存在下、ホスファチジルコリンからのPGの形成を触媒した。この形成は、この反応混合物中のグリセロールの濃度に依存し(図5A)、添加するPLD2の量およびインキュベーション時間にも依存した(データは示さない)。さらに、グリセロールは、第一アルコールエタノールと競合して、ホスファチジルエタノールの代わりにPGを生成させることができた(図5B)。PLD−Iが、グリセロールの存在下、インビトロでPGを生成させることも観察された(データは示さない)。
【0077】
無傷細胞への[3H]または[14C]グリセロールの添加により形成される放射標識ホスファチジルグリセロールの生成は、ケラチノサイトを高いカルシウム濃度に暴露すると増加され、1,25−ジヒドロキシビタミンD3処理で減少される
本発明者らは、ケラチノサイト分化剤、1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、24時間暴露後、PLD−Iの発現および活性を増加させることを以前に証明した(上で言及したGrinerら参照)。この実験では、[3H]グリセロールの添加前、24時間にわたって前処理した細胞におけるホスファチジルグリセロールの形成に対する、ケラチノサイトの分化を引き起こす1,25−ジヒドロキシビタミンD3および他の物質、高細胞外カルシウムレベルの効果を調査した。以前の結果に基づき、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PLD−Iの活性および発現を刺激する物質であるので、PGの生成を増加させると予想した。意外にも、1,25−ジヒドロキシビタミンD3への暴露は、対照細胞を基準にして、放射標識PGの形成を増加させず、実際、むしろ、明らかな減少が観察された(図6)。一方、125μM カルシウム含有培地での前処理は、その後のPG生成の増加を誘導した(図6)。この結果は、高いカルシウムがPLDの活性化を誘導する可能性、またはグリセロール−3−リン酸をCDP−ジアシルグリセロールに付加させるメカニズムなどの他の経路がPG合成に関係している可能性を示唆していた。
【0078】
PG生産およびグリセロール取り込みに対する高カルシウム濃度の効果は、用量依存的である
高細胞外カルシウムレベルは、ケラチノサイトの様々な分化段階を濃度依存的に誘導する。100〜125μMの範囲のカルシウム濃度は、ケラチン−1、初期(有棘層)分化のマーカー、の発現を刺激するのに対し、より高い濃度は、後期分化のマーカー、例えばトランスグルタミナーゼ活性、を誘導する。従って、ここでは、PG生産に対する高細胞外カルシウムレベルの効果の用量依存性を調査した。[25μM(対照)から1mMの範囲にわたる]高細胞外カルシウム濃度に応じてのPG形成は、二相性の用量依存性を示した(図7A)。従って、放射標識PG形成の最大刺激が、125μM カルシウムで観察され、カルシウム濃度が高くなるにつれて徐々に低下した。
【0079】
中間カルシウム濃度がPG形成を最大に刺激できるのは、グリセロール取り込みの増加、PLD活性の強化、または両方の結果であり得る。後の放射標識グリセロール取り込みに対する様々なカルシウム濃度でのケラチノサイトの前処理の影響を、説明するとおり判定した。125μMおよび250μM カルシウム含有培地への事前暴露は、25μM カルシウム対照と比較してグリセロール取り込みの(それぞれ、56%および41%の)増加を誘導し、これに対して、500μM カルシウム前処理ケラチノサイトにおけるグリセロール取り込みは、対照値とほぼ同値であった(図7B)。一方、1mMの濃度は、グリセロール取り込みのわずかではあるが、有意な阻害を(これらの実験において)誘導した。125μM カルシウム前処理で観察されたグリセロール取り込みの小さな増加が、単独で、放射標識PG生産の大きな増加の原因である可能性は低く、このことは、PLDが、中間カルシウム濃度によっても活性化されることを示唆していた。
【0080】
中間カルシウム濃度がPG合成を刺激できることは、このプロセスが初期分化事象と関係があることを示唆していた。従って、初期分化マーカーケラチン−1(10nM)の発現を刺激することもわかっている、中間1,25−ジヒドロキシビタミンD3濃度のPG合成に対する効果を検査した。中間カルシウム濃度での結果とは対照的に、1,25−ジヒドロキシビタミンD3の濃度は、PG合成を増加させず、実際、中間濃度と高濃度(250nM)、両方の1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、PG生成を有意に阻害した(図8)。
【0081】
無傷細胞における高カルシウム濃度での処理による放射標識ホスファチジルグリセロール形成の増加は、少なくとも一部はPLDによって媒介される
図6Aにおいて観察されるように、高細胞外カルシウム濃度は、PGの合成ばかりでなく、ホスファチジルコリンおよびホスファジン酸の合成の増加も誘導するようであった。従って、カルシウムは、一般的なリン脂質合成を増進させて、リン脂質のヘッドグループへではなく骨格へのグリセロールの組み込みを刺激した可能性があり、従って、PG合成増加は、PLD活性とは無関係に発生する可能性があった。エタノールおよびグリセロールは、両方とも、ホスファチジル基転移反応のための基質として作用する(図5B)ので、エタノールを使用して、高細胞外カルシウム濃度により惹起されるPG形成刺激が、PLDの活性化によって発生するのかどうかを判定した。[14C]グリセロールでPG生成を開始させる数分前に125μM カルシウムで前処理したケラチノサイトに、エタノール(1%)を添加した。図9に示すように、エタノールは、高細胞外カルシウムレベルへの事前暴露により刺激されたPG形成を有意に阻害したが、基礎(対照)PG生成には影響を及ぼさなかった。グリセロールと競合するエタノールの能力は、すべてではないかもしれないが一部は、高いカルシウム濃度により刺激されたPGの形成が、PLD活性強化の結果であることを示唆している。
【0082】
高細胞外カルシウムによって誘導されるPG合成へのPLDの関与を、脂質抽出物および単離されたPGから放射標識を放出させる細菌性PLDの能力によってさらに実証した。これらの実験では、24時間、125μM カルシウム含有培地で、またはこれを用いずに細胞を前処理した後、30分にわたって[14C]グリセロールを添加した。その後、脂質抽出物を調製し、Triton X100含有緩衝液に可溶化し、1時間、細菌性PLDとともに、または伴わずにインキュベートした。この細菌性PLDを用いて、羊水中のホスファチジルグリセロールを、このグリセロールヘッドグループを放出させるこの能力によって定量した。その後、放出されたヘッドグループを、上で説明したようなFolch法を用いて水性相に分配した。細菌性PLDとインキュベートすると、125μM カルシウム前処理細胞からの[14C]グリセロール標識脂質抽出物は、対照前処理細胞からのものの約4倍の量の放射標識を水性画分に放出した(対照:1.00±0.09;カルシウム:対照レベルに対して4.2±0.4倍;3回の独立した実験からの6つのサンプルの平均±SEMを表す値でp0.001)。この結果は、PLD媒介ホスファチジル基転移反応の増進と一致して、カルシウム暴露につれて、より多くのグリセロールがヘッドグループ位置に組み込まれていったことを示唆している。
【0083】
対照または高細胞外カルシウムで前処理細胞から単離されたPGを用いる類似の実験を図10に示す。これもまた、細菌性PLDは、対照細胞からと比較して3倍より多い放射活性を125μM カルシウム前処理細胞から単離されたPGから放出させた(対照:1.00±0.04;カルシウム:対照レベルに対して3.3±0.5倍;3回の独立した実験からの6つのサンプルの平均±SEMを表す値でp<0.01)。これらの細菌性PLD処理および未処理PGサンプルの薄層クロマトグラフ分析により、放射標識PGの一部が、放射標識PAに変換されたことを証明した。これは、一部のグリセロールが、リン脂質骨格中に存在することを示唆していた(図10)。しかし、PGにおいて見出された最初の放射標識の約40%しか、PAでは回収されず、これは、PG中の放射標識の約60%が、ヘッドグループ位置に存在することを示していた。
【0084】
ホルボールエステルは、PLD活性を増大させるが、放射標識PG形成を増加させない
無傷細胞における持続性PLD活性とケラチノサイト分化の両方を誘導することが知られているもう1つの物質は、ホルボールエステル、PMAである。従って、PG形成に対するPMAの効果を判定した。実際、PMAは、[3H]オレエートを予め標識しておいたものにおける放射標識ホスファチジルエタノールの形成を尺度として用いてモニターしところ、PLD活性の大きな増加(p<0.02)を刺激した(図11、左)にもかかわらず、PG生成の有意な(対応のないスチューデントt−検定により、p<0.01)減少を惹起した(図11、右)。放射標識PG生成を阻害するPMAの能力は、PMAにより媒介されるグリセロール取り込み減少の結果であり得る。100nM PMAの存在下および不在下での[3H]グリセロールとケラチノサイトの同時インキュベーションは、10分にわたって測定したが、グリセロール取り込みに対する有意な効果を惹起しなかった(図11)。ならびに「方法」および参考文献[25]における記載のとおり判定して、1.00の対照値に対してPMAの傾き値 0.998±0.009倍;n=3)。しかし、5分間の放射標識グリセロールの添加前のビヒクルまたはPMAでの30分間のケラチノサイトの前処理は、PMAにより誘導されるグリセロール取り込み減少を生じさせ(図12)、これは、発現に(10分より長い)時間を要するグリセロール輸送に対するホルボールエステルの効果を示唆していた。1,25−ジヒドロキシビタミンD3がPG形成を増加できないこととともに、これらの結果は、PGの生成が、PLD活性化の普遍的で当然な結果ではないことを示唆している。
【0085】
考察
PLDに関して、興味深い、有用な発見をした。ホスファチジル基転移反応における新規ホスファチジルアルコールの生成に第一アルコールを利用するこの能力。これらの特性は、PLD活性を特異的に測定するためおよびPLD媒介シグナル生成を阻害するためにシグナル伝達の研究者に利用される。しかし、本データは、PLDが、非生理アルコールを利用するこの能力を保持するための生理アルコール、グリセロールが存在することを実証している。実際、インビトロ実験において、PLD2は、ホスファチジル基転移反応のための基質としてグリセロールを利用できることが実証されている(図5)。さらに、これらの結果は、ホスファチジル基転移反応にグリセロールを利用することにより、PLDが、潜在的脂質シグナル伝達分子、PGを生じさせることを実証している。
【0086】
PLD−2がホスファチジル基転移反応に第一生理アルコールとしてグリセロールを利用する推論されるメカニズムの1つは、PLD−2が共局在し、グリセロールを取り込むメカニズムである。実際、以前の研究において、本開示の発明者らは、PLD2が、カベオリンリッチな膜マイクロドメインにアクアポリン−3と共在することを発見した(上で言及したZhang and Bollag(2003)参照)。アクアポリン−3タンパク質発現が、表皮の基底層に局在することは証明されている。この結果と一致して、分化剤、高細胞外カルシウム濃度および1,25−ジヒドロキシビタミンD3で1次ケラチノサイトを刺激するとアクアポリン−3 mRNAおよびタンパク質発現が減少することを研究により証明した。この発現減少が、また、阻害作用をもたらし、高細胞外カルシウム濃度と1,25−ジヒドロキシビタミンD3の両方が、放射標識グリセロール取り込みを減少させた。しかし、これら2つの物質による阻害に有意な差はなく、これは、放射標識PG生成に対するこれらの本質的に異なる効果が、放射標識グリセロールの取り込みを阻害するこれらの能力の差によるものでないことを示唆していた。一方、125μM カルシウムが、PG生成の最大増加を引き起こすことができるのは、これが、PLD活性を刺激し、グリセロール取り込みを阻害しない結果である可能性が高い(実際、この濃度のカルシウムでの前処理は、グリセロール取り込みを刺激した)。より高いカルシウム濃度によるグリセロール取り込みの阻害によって、様々なカルシウム濃度に応じて観察された二相性PG生産が説明される(図7)。興味深いことに、PMAもグリセロール取り込みを阻害した(図12)。これは、PKCが、アクアポリン−4について観察されたようにアクアポリン−3機能を調節するという考えと一致する。高カルシウム濃度が、PKC活性を刺激することも報告されており、これは、高カルシウムレベルがグリセロール取り込みに影響を及ぼすメカニズムと言ってもよかろう。
【0087】
高細胞外カルシウム濃度がPG生成を刺激できるのに対し、追加のケラチノサイト分化剤、1,25−ジヒドロキシビタミンD3およびPMAができないということは、これら3つの物質が分化応答を引き起こすメカニズム関する重要な相違を示唆している。従って、最高細胞外カルシウムおよび1,25−ジヒドロキシビタミンD3濃度は、これら2つの物質が完全に共通の経路を利用する場合に予想されるような付加的未満にではなく、相乗的に作用して、ケラチノサイト分化の様々なマーカーを増加させる。加えて、PMAは、後期(顆粒層)分化の誘導に準じたケラチノサイトの変化を生じさせることが知られており、実際、高細胞外カルシウムおよび1,25−ジヒドロキシビタミンD3レベルの効果とは対照的に、初期分化のマーカーを阻害する。外因性(細菌性)PLDは、ケラチノサイト分化を誘導することができ、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PLD−Iの発現および活性を誘導させるという発見に基づき、PLD−Iは、1,25−ジヒドロキシビタミンD3により誘導されるケラチノサイトの後期分化を少なくとも一部は媒介することを提案した。一方、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PGの形成を増進せず(図6および8)、PMAもしない(図11)。1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、PLD−2の発現を増加させないこと、およびPMAが、PLD−2より大きな程度にPLD−1を活性化すると報告されていることから、グリセロールへの暴露に基づくケラチノサイトにおける放射標識PGの生成は、PLD−2活性化の尺度になり得る。従って、このアッセイは、両方のPLDアイソフォームをプロセッシングする無傷細胞系において、ただ1つのPLD、PLD−2の活性をモニターする方法となる。
【0088】
これらの研究の興味深い態様は、放射標識グリセロールを付加させたときに観察される、ホスファチジルコリンおよびホスファチジン酸の形成であった。PGでは、グリセロールが、ホスファチジル基転移反応において、おそらく、少なくとも一部はヘッドグループとして組み込まれる。この組み込みをエタノールによって阻害することができるからである(図9)。実際、細菌性PLDを利用してリン脂質ヘッドグループを放出させるインビトロ実験は、高細胞外カルシウム前処理が、ヘッドグループ位置へのグリセロールの組み込みを増進することを示した(図10)。ホスファチジルコリンおよびホスファチジン酸において、グリセロールは、グリセロール骨格としてリン脂質に組み込まれる可能性が最も高い。グリセロールに対するグリセロールキナーゼの作用によって生じる、グリセロール3−リン酸への2つの脂肪酸の付加(脂肪−アシルCoA経由)によって、ホスファチジン酸が新たに形成され、脱リン酸化ホスファチジン酸(ジアシルグリセロール)へのコリンのその後の付加(CDP−コリン経由)によって、ホスファチジルコリンを生成する。放射標識グリセロールを合計30分間しか付加させなかったので、この結果は、急速で能動的なリン脂質合成を示唆していよう。この考えは、皮膚の水透過性バリアを形成するための脂質の生成におけるケラチノサイトの役割と一致する。放射標識グリセロールが、PGの骨格にも組み込まれ、これが、放射標識PG形成の増加の原因の一部であることも明らかになった。従って、この結果は、PG合成が、少なくとも2つ方法(PLD媒介ホスファチジル基転移反応による方法、ならびにCDP−ジアシルグリセロールへのグリセロール−3−リン酸の付加およびその後のリン酸基除去という、より伝統的な経路による方法)で発生し得ることを追認する。
【0089】
ケラチノサイトにおけるPGの役割については、幾つかの可能性が存在する。皮膚の基底層へのグリセロール輸送性アクアポリン−3の局在に基づき、このシグナル伝達経路が増殖能力またはおそらく初期分化事象において機能すると予想することができよう。この考えは、放射標識PG生成が、ケラチン−1(初期分化のマーカー)のほぼ最大の発現を誘導することがわかっている中間カルシウム濃度(125μM;図7)によって最大に刺激されるという観察結果と一致する。このような解釈は、PKC−βue−媒介有糸分裂進行におけるPGの一定の役割を示すデータによっても支持される。以前の研究は、マウスケラチノサイトのノーザン分析によりPKC−βの検出可能な発現がなかったと報告しているが、マウスとヒトの両方における他の研究は、ケラチノサイトにおけるこのアイソフォームの発現を示唆していた。一方、アクアポリン−3ヌルマウス突然変異体の最近の作製および初期特性付けは、正常な皮膚生理に対するこのアクアグリセロポリンの重要性を示唆している。これらのヌルマウスは、乾燥皮膚の皮膚表現型および変化した保水能力を示した。加えて、表皮からこの水不透過性外層(角質層)が剥がれることによる水分の吸収が、アクアポリン−3ヌルマウスでは異常であり、これは、この水分補給能力を阻害する、表皮構造の一部の態様の変化を示唆している。この結果に基づき、アクアポリン−3ヌルマウスにおけるPG形成の減少によってケラチノサイトの成長および/または分化に欠陥が生じ、その結果、これらの突然変異体では異常な皮膚生理が観察されるのだと考えられる。
【実施例2】
【0090】
本実施例では、酸感受性アクアグリセロポリンを通して進入するグリセロールが、PGを形成するためにPLDに利用されることを実証する、ケラチノサイトにおけるPLD2/AQP3/グリセロール/PGモジュールについてのさらなる証拠を提供する。一過性共形質移入試験において、ケラチノサイト増殖または分化状態のマーカーのプロモーターがルシフェラーゼ発現を発動するレポーター構築物と、AQP3を共発現させた。これらの試験は、AQP3の共発現が、ケラチン5(基底、増殖性ケラチノサイトのマーカー)のプロモーター活性を阻害し、ケラチン10(初期ケラチノサイト分化のマーカー)のプロモーター活性を増大させ、ならびにインボルクリン(中期分化のマーカー)のプロモーター活性に対する高細胞外カルシウムレベルの効果を強化したことを示した。グリセロールおよび1,2−プロピレングリコール(3番の末端炭素上のヒドロキシル基が1個ないグリセロール)は、低カルシウム濃度(25μM)においても、中間カルシウム濃度(125μM)においても、用量依存的にDNA合成を阻害し、これに対して等価濃度の浸透活性物質、キシリトールおよびソルビトールは、ほとんどまたは全く効果がなかった。PGリポソームの直接供給によっても、急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成が用量依存的に阻害されたが、成長阻害細胞では、PGリポソームにより、DNAへの[3H]チミジン組み込みが用量依存的に増進された。PGリポソームがトランスグルタミナーゼ活性を刺激する傾向も観察された。これらのデータが、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成り、ならびに増殖性ケラチノサイトの成長阻害および/または初期分化の促進に関与する、シグナル伝達モジュールのアイデアを支持している。
【0091】
実験手順
ケラチノサイト調製および細胞培養
ケラチノサイトは、ICR CD−I 非近交系交配マウスから、研究機関内動物管理使用委員会(the Institutional Animal Care and Use committee)により承認されたプロトコルに従って調整した。簡単に言うと、皮膚を回収し、一晩、0.25% トリプシン中、4℃でインキュベートした。表皮と真皮を分離し、基底ケラチノサイトをこの表皮の下側からかき落とした。遠心分離により細胞を回収し、Dodd,M.E.,Ristich,V.L.,Ray,S.,Lober,R.M.and Bollag,W.B.(In press)J.Invest.Dermatol(本明細書に参考として組み込まれる)に記載されているようなプレーティング培地中で一晩、95% 空気/5% 二酸化炭素の雰囲気下、37℃でインキュベートした。このプレーティング培地を、同じくDoddらに記載されているような無血清ケラチノサイト培地(SFKM)に替え、使用するまで1〜2日ごとに新たな培地を細胞に供給した。
【0092】
[3H]グリセロール取り込みアッセイ
ほぼ集密のケラチノサイト培養物を、SFKM(25μM カルシウム)、または125μM カルシウムを含有するSFKM(125μM Ca2+−SFKM)中で24時間、インキュベートし、Zheng & Bollag(2003)に以前に記載されたとおりグリセロール取り込みアッセイを行った。簡単に言うと、細胞を、20mM HEPES(さらなるpH緩衝のため)および1μCi/mL [3H]グリセロールを含有するSFKMとともに、5分間[この時点が、[3H]グリセロール取り込みの線形範囲内にあることが以前に証明されている(Zheng & Bollag(2003))ので]、インキュベートした。二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS−)での3回の迅速な洗浄により反応を停止させた。その後、これらの細胞を0.3M NaOHに可溶化し、[3H]グリセロール取り込みを液体シンチレーションスペクトル分析により定量した。
【0093】
PG合成
ほぼ集密のケラチノサイトを、SFKM(25μM カルシウム)、または125μM カルシウムを含有するSFKM(125μM Ca2+−SFKM)中で24時間、インキュベートした後、0.5から1μCi/mL [14C]グリセロールを10分にわたって添加し、PG合成を[6]におけるがごとく判定した。簡単に言うと、放射標識PGをクロロホルム/メタノールに抽出し、Zheng,X.,Ray,S.and Bollag,W.B.(2003)Biochim.Biophys.Acta,1643,25−36(本明細書の参考として援用されている)に記載されているとおりシリカゲル60プレートでの薄層クロマトグラフィーによって分離した。
【0094】
共形質移入分析
共形質移入実験は、pcDNA3空ベクターまたはAQP3をプロセッシングする構築物を1ng、ケラチン5、ケラチン10またはインボルクリンのプロモーターがルシフェラーゼの発現を発動するレポーター構築物のうちの1つを1ng、および形質移入効率を正常化するためのpRL−SV40 コントロールベクター(Promega Dual Luciferase Repoter Assay kitに含まれているもの)を0.25ng使用して行った。ケラチン5およびケラチン10プロモーター−ルシフェラーゼ構築物は、Dr.Bogi Andersen(カリフォルニア州、アーヴィンのUniversity of California)によって提供され、インボルクリンプロモーター−ルシフェラーゼ構築物は、Dr.Daniel Bikle(カリフォルニア州、サンフランシスコのUniversity of California)によって提供された。TransItKeratinocyteをこの製造業者の説示に従って使用して、亜集密(約30%)ケラチノサイトをトランスフェクトした。24時間後、25μM(対照)または1mM−Ca2+を含有する培地をさらに24時間にわたって細胞に供給した。その後、Dual Luciferase Reporter Assay kit(ウィスコンシン州、マディソンのPromega)をこの製造業者による指図どおりに使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0095】
DNA合成のアッセイ
上述のGrinerらの以前の記載のとおり、DNA合成の尺度としてDNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。ほぼ集密のケラチノサイト培養物を、示した添加物を含有するSFKM中で24時間、インキュベートした。SFKN中の乾燥PGのバス超音波処理(bath sonication)により調製したリポソームの形態でPGを添加して、2mg/mLの原液を作った。その後、1μCi/mLの最終濃度で[3H]チミジンを細胞に添加して、さらに1時間、インキュベートした。PBS−での洗浄により反応を停止させ、氷冷5%トリクロロ酢酸で高分子を沈殿させた。細胞を0.3M NaOHに可溶化し、DNAに組み込まれた放射活性を液体シンチレーションスペクトル分析によって定量した。
【0096】
トランスグルタミナーゼアッセイ
ケラチノサイトをPGリポソームで処理し、かき落とすことで回収し、均質化用緩衝液中で遠心分離し、1回の冷凍解凍サイクル後に超音波処理により溶解させた。これらの破壊細胞におけるトランスグルタミナーゼ活性を、Bollag,W.B.,Zhong,X.,Dodd,M.E.,Hardy,D.M.,Zheng,X.and Allred,W.T.(2005)J.Pharm.Exp.Ther.,312,1223−1231(本明細書に参考として組み込まれる)に記載されているとおり、ジメチル化カゼインに架橋した[3H]プトレッシンの量としてモニターした。架橋したプトレッシン−カゼインをトリクロロ酢酸で沈殿させ、濾過によって回収した。データを各サンプル中のタンパク質の量に対して正規化し、標準物質としてウシ血清アルブミンを用いるBiorad protein assayを使用して判定し、適切な対照を基準にして表した。
【0097】
統計
実験は、指示どおり最低3回は行った。Instat(カリフォルニア州、サンディエゴのGraphPad Software)を用いてStudent−Newmann−Keuls 多重比較検定での分散分析(ANOVA)により、値の統計学的有意性を分析した。
【0098】
結果
酸性培地でのグリセロール取り込みの阻害は、PG合成を阻害する
上で論じたように、本発明者らは、PLD2およびAQP3が、ケラチノサイト中のカベオリンリッチな膜マイクロドメインに局在することを以前に示した。加えて、示したように、PLD媒介PG合成は、ケラチノサイト中の高細胞外カルシウムレベルによって刺激され、ならびにPGを生成するホスファチジル基転移反応のために、AQP3が、PLD2にグリセロールを供給するようである。肺細胞AQP3は、酸性培地によって阻害されるので、低pHの培地がグリセロール取り込みおよびPG合成を阻害するかどうかを調査した。ケラチノサイトを、対照SFKM(25μM Ca2+)、または125μM Ca2+を含有するSFKMとともに24時間、インキュベートした後、pH4または7.4のSFKM中での[3H]グリセロール取り込みおよび[14C]PG生成を測定した。図13Aに示すように、125μM Ca2+は、対照培地におけるグリセロール取り込みを有意に刺激した。低pH培地は、基底条件下でも、中間カルシウム濃度で刺激したときも、グリセロール取り込みを有意に阻害した(図13A)。同様に、pH4培地は、対照培地とともにインキュベートした細胞においても、125μM Ca2+培地とともにインキュベートした細胞においても、[14C]グリセロールとの10分のインキュベーション後、放射標識PG合成を有意に阻害した(図13B)。pH4培地によるグリセロール取り込みおよび/またはPG生産の阻害が毒性と関係しないことを保障するために、一部の細胞は、pH4培地との5分間のプレインキュベーションも行い、その後、対照pH7.4培地中でのグリセロール取り込みまたはPG合成を測定した(pH4/7)。pH4培地とのプレインキュベーションは、グリセロール取り込みまたはPG生成に対して本質的に効果がなかった(図13)。
【0099】
AQP3の共発現は、ケラチン5プロモーター活性を阻害し、ケラチン10プロモーター活性を刺激し、インボルクリンプロモーター活性に対する高細胞外カルシウムレベルの効果を強化する
1次マウス表皮ケラチノサイトは、高効率でトランスフェクトすることが難しい場合がある。この限界を克服するために、細胞を、AQP3または空ベクターと、Doddらが記載したようなケラチノサイト増殖または分化マーカーのプロモーターがルシフェラーゼ発現を制御するレポーター構築物とでコ・トランスフェクトした。トランフェクション前にベクターを入念に混合するので、1つのベクターを取り込む細胞が、他のベクターを受け入れることができ、その結果、AQP3または空ベクターも有する細胞のみのレポータールシフェラーゼ活性を測定することができる。ケラチン5発現は、基底増殖性ケラチノサイトの特徴であるのに対し、ケラチン10およびインボルクリンは、分化性有棘細胞の特色であり、ケラチン10は、初期分化マーカーとしておよびインボルクリンは、中間分化のマーカーとしての役割を果たす。図14Aは、基底条件下の、および分化剤(1mM カルシウム)とともに24時間インキュベートした後の、ケラチン5プロモーターに対するAQP3共発現の効果を説明する図である。AQP3共発現は、ケラチン5プロモーター活性の(空ベクターでトランスフェクトされた対照の49±12%への)有意な減少を誘導した。カルシウム(1mM)もケラチン5プロモーターを(64%)阻害し、AQP3共発現の有意なさらなる効果はなかった。一方、AQP3共発現は、ケラチン10プロモーター活性を刺激した(図14B)。1mM カルシウムでの処理は、ケラチン10の発現を22%阻害し、この効果は、AQP3共発現によって、一部、くつがえされた。分化剤として、1mM カルシウムは、ケラチノサイト10プロモーター活性を増大させると予想されるが、このような高いカルシウム濃度は、ケラチンを後期分化に駆り立て、実際には初期分化マーカーの発現を減少させる。最後に、AQP3共発現は、インボルクリンプロモーターのみに対しては有意な効果はなかったが、1mM カルシウムにより誘導された刺激を強化した(図14C)。これらの結果は、AQP3共発現が初期ケラチノサイト分化を促進することと一致する。
【0100】
グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールはDNA合成を阻害するが、キシリトールおよびソルビトールはしない
AQP3およびPLD2は、PGを生成させるためのホスファチジル基転移反応においてPLD2が使用するグリセロールを提供するために共局在するようであり、その後、このPGが、初期ケラチノサイト分化を促進するように作用する。これは、AQP3チャネルを通したグリセロールの送達の増加も、初期分化を引き起こすことができることを示唆している。初期分化の第一の顕著な特徴の1つが、細胞周期からの退出およびDNA合成の減少であるので、DNA合成の尺度であるDNAへの[3H]チミジン組み込みに対する(このチャネルを通るフラックスを増す)外因性グリセロールの効果を調査した。図15Aに示すように、0.02%のような低いグリセロール濃度(=2.73mM)が、ケラチノサイトDNA合成を有意に阻害した。より高いグリセロール濃度の効果も調査した。しかし、浸透ストレスがケラチノサイト機能を調整するので、グリセロール等価濃度の2つの他の浸透圧調整剤(キシリトールおよびソルビトール)の任意の浸透効果に対する制御も、対照として用いた。図15Bに示すように、0.1から1%の濃度のグリセロールは、DNA合成を阻害し、125μM Ca2+の阻害効果を強化した。一方、キシリトールは、基底または125μM Ca2+阻害DNA合成に対して有意な効果を有さなかった。同様に、対照に対しても、125μM Ca2+によって低減されるDNAへの[3H]チミジンの組み込みに対しても、有意な効果が観察されなかった(図15C)。
【0101】
AQP3ヌル突然変異マウスの試験において、グリセロールは、このノックアウトモデルの表皮表現型を修正することができたが、キシリトールまたは1,2−プロピレングリコール(または1,3−プロピレングリコール)は、できなかった。従って、1,2−プロピレングリコールを、基本的に、および125μM Ca2+での分化時に、DNA合成を阻害するこの能力についても検査した。1,2−プロピレングリコールの効果は、グリセロールのものと類似しており、対照(25μM Ca2+)条件下でおよび125μM Ca2+での分化時に[3H]チミジンの用量依存的阻害を示した。グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールの類似性の証拠となるこれらの構造も、図16Bに示す。
【0102】
PGリポソームは、急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成を阻害し、トランスグルタミナーゼ活性を刺激する
さらに、PGそれ自体の直接供給も初期分化を引き起こすと考えられる。リポソームの形態のPGをケラチノサイトに直接供給することにより、高増殖性細胞におけるDNA合成が阻害されることが判明した(図17A)。最大阻害は25μg/mLで観察され、50〜100μg/mLはプラトーであった。細胞死の特徴である形態学的変化が観察されなかった(データは示さない)ので、この効果が毒性を意味する可能性は低い。加えて、PGリポソームは、トランスグルタミナーゼ活性(後期ケラチノサイト分化のマーカー)増加方向の用量依存的傾向を誘導した(図17B)。
【0103】
PGリポソームは遅増殖性細胞におけるDNA合成を刺激する
毒性がないことのさらなる証拠は、おそらく接触阻害の結果として増殖減少を示す、観察されたケラチノサイトに対するPGリポソームの効果によって提供される。従って、(対照条件下でのDNAへの[3H]チミジン組み込みの減少によって示されるような)増殖能力が低下したケラチノサイトにPGリポソームを適用した場合、DNA合成は、約35μg/mLの濃度で半最大効果および100μg/mLで最大刺激と、用量依存的に刺激された(図18)。この結果は、急速分裂性細胞の増殖を阻害し、成長が低下した設定では増殖を増加させるケラチノサイトの増殖を正常化する能力をPGが有することを示唆している。
【0104】
考察
PGを合成するためのホスファチジル基転移反応においてグリセロールを利用するPLDの能力、およびPLD2とAQP3との相互作用は、グリセロールがホスファチジル基転移のためにこのアイソエンザイムに到達することができるメカニズムを示唆している。AQP3のグリセロール取り込み機能に対するこの阻害は、PG合成も減少させ得る。図13は、酸性培地が、125μM Ca2+により惹起されるグリセロール取り込みとPG合成の同時減少を誘導することを示している。しかし、他のアクアポリン、例えばアクアポリン−9、は、グリセロールを輸送することができ、ケラチノサイトによって発現されるので、これら他のアクアグリセロポリンも、ケラチノサイトにおけるグリセロール取り込みおよびPG合成に寄与し得る。
【0105】
PLD2/AQP3シグナル伝達モジュールによって合成されるPGは、ケラチノサイトおよび表皮機能を調整する脂質メッセンジャーとしての役割を果たすと考えられる。AQP3ヌル突然変異マウスは、グリセロールによって修正され得るが、他の浸透活性物質によっては修正されない表皮表現型を示す。本共発現試験は、AQP3が、初期ケラチノサイト分化を促進する:AQP3が、ケラチン5(基底増殖層のマーカー)のプロモーター活性を低下させることを示唆している(図14A)。ケラチン5発現のダウンレギュレーションは、有棘層における第一基底上細胞への基底ケラチノサイトの移行の特徴である。ケラチン10の発現の増加;AQP3の共発現によって減少するケラチン10プロモーター活性も、有棘ケラチノサイトの特徴である(図14B)。高いカルシウムレベルは、ケラチノサイトを、初期分化段階を通り過ぎて後期分化段階に進ませることがあり、その結果、ケラチン10プロモーター活性がわずかに減少する(図14B)。ケラチノサイトが、多数の有棘層を通って上に移動するように進むにつれて、インボルクリンを発現し始める。AQP3共発現だけでは、インボルクリンプロモーター活性を有意に増大させなかったが、AQP3は、この中間分化マーカーのプロモーター活性に対する別の分化剤、高細胞外カルシウム濃度の効果を強化した(図14C)。AQP3が、これらの様々なマーカーのプロモーター活性に、直接、すなわち、他の転写因子および/またはプロモーターこれら自体との相互作用により、影響を及ぼす可能性は低いようであることに留意しなければならない。むしろ、これらの結果は、初期分化表現型を誘導するAQP3の発現、ならびに細胞の分化状態がこれらのプロモーターの活性を制御することに準じる。
【0106】
グリセロールインフラックスの増加により、PG合成が促進され、この初期分化表現型が促進される(この主要事象は、成長停止である)と考えられる。実際、グリセロールは、DNA合成を阻害し、この阻害は、等価濃度の2つの他の浸透活性化合物(キシリトールおよびソルビトール)によっては再現されなかった(図15)。これは、この阻害が、浸透圧重量モル濃度の増加の結果ではないことを示唆していた。興味深いことに、1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)は、DNA合成に対してグリセロールと本質的に同じ効果を生じさせた(図16)。1,2−プロピレングリコールでのホスファチジル基転移によって形成されたリン脂質(末端炭素上のヒドロキシ基がないPG)は、PGエフェクター酵素を活性化するために十分、PGに似ていると考えられる。
【0107】
グリセロールが、PG形成のための基質としての役割を果たすことにより、ケラチノサイト増殖を改変するように機能する場合には、PGの直接供給もDNA合成を阻害する。実際、(基底条件下でのDNAへの高い[3H]チミジン組み込みによって判定されるような)急成長細胞の場合、PGは、DNA合成を用量依存的に減少させた(図17)。毒性の形態学的相関現象が観察されなかった(データは示さない)ので、この効果は、非特異的毒性の結果であるようではなかった。加えて、PG用量の増加によってトランスグルタミナーゼ活性(後期ケラチノサイト分化のマーカー)が刺激される傾向も明らかになった。しかし、意外にも、DNA合成減少を示したケラチノサイトでは、おそらく接触阻害の結果として、PGは、用量依存的に、DNA合成を刺激した(図18)。この二相性応答のメカニズムは、不明である(しかし、可能性は、下で論じる)が、表皮が高増殖性である場合、PGリポソームはケラチノサイト成長を阻害すると予想され、これに対して増殖が少なすぎる条件下(例えば、老化)ではこれらのリポソームは成長を増進させる。従って、これらの結果は、PGリポソームが、病的条件下においても、生理状態下においても皮膚機能を正常化する理想的な治療法であり得ることを示唆している。
【0108】
PGシグナルのエフェクター酵素も不明であるが、可能性としては、PG感受性プロテインキナーゼ、例えばプロテインキナーゼC−II、PKC−およびPk−Pが挙げられる。もしくは、PGを血漿膜および/または特定のマイクロドメインに組み込み、膜タンパク質構築および/またはマイクロドメイン機能に影響を及ぼすことができる。一例として、PGは、青緑色細菌およびホウレンソウのチラコイド膜における光化学系構築に利用される。PGは、カルジオリピン(=ジホスファチジルグリセロール)の前駆体でもあり、PGおよびカルジオリピンは、両方とも、ミトコンドリア機能において重要である。カルジオリピンは、シトクロムcに結合し、この脂質の酸化は、ミトコンドリアからシトクロムcを放出させると考えられ、この事象が、アポトーシスを開始させ得る。加えて、ミトコンドリアを枯渇させたカルジオリピンとPG、両方のインキュベーションは、これらの膜電位を一部保持することができ、これは、シトクロムc放出およびアポトーシスに対抗する。実際、PGは、網膜上皮細胞においてアポトーシスを阻害することができる。従って、PGは、プロテインキナーゼ経路の活性化により急速増殖性ケラチノサイトの成長阻害を誘導することができる(図17Aにおけるとおり)が、このリン脂質は、ミトコンドリアの機能およびエネルギー生産を向上させることにより、阻害細胞における増殖を促進することができる(図18におけるとおり)。紫外線への暴露によりAQP3発現に関して観察されたアップレギュレーションは、PG生成、ミトコンドリアの健康、および照射のストレスからの回復を促進する細胞の反応であると考えられる。従って、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成る新規シグナル伝達モジュールは、皮膚におけるグリセロールの有益な効果についてのメカニズムであると言える。さらに、本結果は、このモジュールが、インビトロおよびインビボでのケラチノサイトの成長および分化の重要な調節因子であり、様々な皮膚の疾患および/または状態のための新規治療法をもたらすことを示している。
【実施例3】
【0109】
グリセロールおよびホスファチジルグリセロールは創傷治癒を加速する
本実施例では、ICR CD1マウスにおいて得られた創傷治癒に対するグリセロールおよびホスファチジルグリセロール治療の効果に関する最近のデータを提示する。約4mmの2箇所の全厚皮膚パンチ生検を合計16匹のマウスの背中において行った。各マウスについて、一方の創傷は、(a)治療しなかったか、(b)水中2Mのグリセロールで治療、(c)二価カチオン不含の酸緩衝生理食塩水(PBS−)で治療、または(d)100μg/mL ホスファチジルグリセロールを含有するPBS−(超音波処理してリポソームにしたもの)で治療した。その後、創傷治癒率を、デジタル写真およびコンピューター画像分析により、4日間にわたって追跡した。4グループの各々についての1日目を基準にした4日目における創傷治癒のパーセンテージを棒グラフとして図19に示す。予想どおり、グリセロール治療は、創傷治癒率を向上させた。さらに重要なこととして、PGリポソームも創傷治癒率を上昇させ、この向上は、統計学的に有意であった。これらの結果により、皮膚機能においてPGが重要であるという考えが確認される。
【0110】
本開示の上記実施形態は、実施の単なる可能例であり、本開示の原理を明瞭に理解するために示すものであることを強調しておく。本開示の精神および原理を実質的に逸脱することなく、本開示の上記実施形態に多くの変形および変更を成すことができる。慣例に従って、このような変更および変形は、ここでは本開示の範囲内に包含され、以下の特許請求の範囲によって保護されると解釈する。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】皮膚の層ならびにケラチノサイトの増殖および分化の段階の説明図である。
【図2】PLDのホスファチジル基転移反応を説明する図である。水の存在下、PLDは、リン脂質ホスファチジルコリンの加水分解を触媒して、ホスファチジン酸(PA)およびコリンを生じさせる。しかし、少量の第一アルコール、例えばエタノール、1−ブタノールまたはグリセロールの存在下では、PLDは、ホスファチジル基転移反応を触媒して、対応するホスファチジルアルコールを生成させる。
【図3】調節酵素、シグナル生成酵素およびエフェクター酵素を含む、PLDシグナル伝達経路を説明する図である。
【図4】AQP3−PLD2−グリセロール−ホスファチジルグリセロールシグナル伝達モジュールのモデルである。
【図5】グリセロールが、インビトロでのホスファチジル基転移反応においてホスホリパーゼDの基質としての役割を果たすことを説明する図である。リポソームは、[3H−ジパルミトイル]ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸から超音波処理によって作製した。1%エタノールの不在(A)または存在(B)下、示されている濃度のグリセロールをこの反応混合物に添加した。Sf9 PLD2過発現膜(1μg タンパク質)の添加により反応を開始させ、30分間、37℃でインキュベートし、0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加により停止させた。脂質を抽出し、分離し、定量した。この図は、少なくとも2つの追加実験の代表である。形成されたホスファチジン酸(PA)、PGおよびホスファチジルエタノール(PEt)の絶対レベルには、多少の可変性があった。これは、超音波処理中に多層小胞が形成される程度のばらつきに起因する可能性が高い。
【図6】ホスファチジルグリセロール形成は、高細胞外カルシウム濃度に暴露された分化性細胞では増加されるが、1,25−ジヒドロキシビタミンD3に暴露された分化性細胞ではされないことを実証する図である。ほぼ集密のケラチノサイトを(A)25μM−カルシウム−SFKM含有ビヒクル(Con;0.05% エタノール)、250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3(D3)、または125μM カルシウム(+0.05% エタノール;Ca2+)とともに、24時間、インキュベートした。その後、2.5〜5μCi/ウエル [3H]グリセロールをさらに30分にわたって37℃で添加した。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、リン脂質を抽出し、分離し、定量した。結果は、対照値に対して〜倍と表し、3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照に対して、*p<0.001。パネルBに示す薄層クロマトグラムは、パネルAにおいて定量した3つの実験の代表である。
【図7】高細胞外カルシウム濃度が、ホスファチジルグリセロールの生成およびより少ない程度ではあるがグリセロールの取り込みを用量依存的に増加させることを示す図である。ほぼ集密のケラチノサイトを、様々な濃度のカルシウムを含有するSFKMとともに、24時間インキュベートした。(A)その後、これらの細胞を、さらに30分間、5μCi/ウエル [3H]グリセロールとともにインキュベートした後、0.2% SDS(±5mM EDTA)で反応を停止させ、放射標識PGを抽出し、分離し、定量した。値は、対照(25μM−カルシウム−SFKM)に対して〜倍と表し、5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05。(B)様々なカルシウム濃度で24時間、前処理した後、これらの細胞を、20mM HEPESを含有するSFKM中の1μCi/ウエル [3H]グリセロールとともに、5分間、インキュベートし、その後、二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水での広範な洗浄によって反応を停止させた。値は、対照(25μM−カルシウム−SFKM)に対して〜倍と表し、5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、**p<0.01、*p<0.05。
【図8】中および高濃度の1,25−ジヒドロキシビタミンD3に暴露された分化性細胞ではホスファチジルグリセロールの形成が阻害されることを示す棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを、0.05% エタノール(Con)、10nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3、または250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3(D3)を含有するSFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、2.5〜5μCi/ウエル [3H]グリセロールを、さらに30分にわたって、37℃で添加した。0.2% SDS(+5mM EDTA)の添加により反応を停止させ、「方法」において説明したようにリン脂質を抽出し、分離し、定量して、対照値に対して〜倍と表した。結果は、3回の独立した実験の平均±SEMを意味する。;対照に対して、*p<0.01、**p<0.001。
【図9】細胞外カルシウム濃度により刺激されがホスファチジルグリセロールの形成が、エタノールにより阻害されることを説明する棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM−カルシウム SFKM(対照)または125μM−カルシウム SFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、1% エタノールの存在下および不在下で、0.5〜1μCi/ウエル [14H]グリセロールとともに、さらに30分間、インキュベートした。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、放射標識PGを抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、定量した。値は、対照(エタノール不含)に対して〜倍と表し、4回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照に対して、*p<0.01、**p<0.001、125μMカルシウム SFKMのみに対して、○p<0.01。
【図10】細菌性ホスホリパーゼDによって、対照細胞に対して高濃度の細胞外カルシウムで前処理した細胞から単離されたホスファチジルグリセロールからのほうが、増加した放射標識が放出されたことを示す図である。ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM−カルシウム SFKM(対照)または125μM−カルシウム SFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、1μCi/ウエル [14C]グリセロールとともに、さらに30分間、インキュベートし、その後、これらの脂質をクロロホルム/メタノールに抽出し、薄層クロマトグラフィーによってPGを分離した。可溶化後、対照細胞(Con)または125μM カルシウム処理細胞(Ca2+)から単離されたPGを、細菌性(PLD)とともに、または伴わずに(H2O)インキュベートし、薄層クロマトグラフ分離後、PG中に残存する放射活性(明るい縞模様の棒)およびホスファチジン酸中に残存する放射活性(暗い縞模様の棒)を定量した。値は、3回の独立した実験からの平均±SEMを意味する;対応する未処理対照値に対して、*p<0.001、対応する未処理カルシウム処理値対して、○p<0.001。
【図11】ホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA)は、PLDを活性化するにもかかわらず、ホスファチジルグリセロールの形成を誘導しないことを示す棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを放射標識なしで(ホスファチジルグリセロール生成のため)または2.5μCi/mL [3H]オレエートで前標識して(ホスファチジルエタノール形成のため)、20〜24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、[3H]グリセロールの存在下(ホスファチジルグリセロール生成のため)、または0.5% エタノールの存在下(ホスファチジルエタノール形成のため)で、ビヒクル(0.05〜0.1% DMSO;Con)または100nM PMAで刺激した。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、放射標識ホスファチジルグリセロール(PG)またはホスファチジルエタノール(PEt)を抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、定量した。値は、対照に対して〜倍と表し、二重重複または三重重複で行った3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対応のないスチューデントt−検定により、適切な対照に対して、*p<0.02。
【図12】PMAとの同時インキュベーションではなく、PMAでの前処理により、[3H]グリセロール取り込みが阻害されることを説明する図である。グリセロール取り込みは、PMAを用いておよび用いずに、前処理または同時に処理した細胞において測定した。「前処理なし」サンプルについては、20mM HEPES、1μCi/mL [3H]グリセロールおよび0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKM中で、5分間、細胞をインキュベートした。「PMAで30分の前処理」サンプルについては、集密ケラチノサイトを、0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKM中で、30分間、プレインキュベートした。その後、20mM HEPESおよび1μCi/mL [3H]グリセロールを含有するSFKM中で、5分間、細胞をインキュベートした。サンプルの両方のセットについて、放射標識グリセロールの取り込みを測定した。値は、二重重複または三重重複で行った3回(前処理なし)または5回(30分の前処理)の独立した実験の平均を意味する;100%の対照値(点線)に対して、*p<0.001。
【図13】pH4の細胞外培地が、放射標識グリセロール取り込み(A)およびPG合成(B)を阻害することを説明する図である。ケラチノサイトを、対照(25μM Ca2+)培地(Con)または125μM Ca2+(Ca2+)含有培地で、24時間、前処理した。その後、一部の細胞を、5(パネルA)分間、pH4の培地とともにインキュベートし、その後、示されているようにpH4または7(7.4)で、(A)5分間の[3H]グリセロール取り込みを測定または(B)10分間の[14C]PG合成を行った。結果は、二重重複で行った(A)4回または(B)3回の実験の平均±SEMを意味する;対照値(pH7で測定した対照細胞におけるグリセロールの取り込みまたはPG合成)に対して、*p<0.05、**p<0.001;pH7(7.4)で測定したCa2+値に対して、tp<0.01、‖p<0.001。[3H]グリセロール取り込み(パネルA)および[14C]PG合成(パネルB)に対する低pHの効果が本質的に可逆的であったことに注目すべし(pH7とpH4/7を比較)。
【図14】AQP3過発現が、ケラチン5プロモーター活性を低下させ、ケラチン10プロモーター活性を増大させ、ならびにインボルクリンプロモーター活性に対する高[Ca2+]eの効果を強化することを実証する棒グラフである。TransIT keratinocyteをこの製造業者が説明しているとおりに使用して、1次ケラチノサイトを、pcDNA3ベクター単独(対照)またはAQP3を有するこのベクターおよび(A)ケラチン5プロモーター/レポーター遺伝子構築物または(B)インボルクリンプロモーター/レポーター遺伝子構築物(および正規化のためにpRL−SV40)で、コ・トランスフェクトした。24時間後、25μM(対照)または1 HiM−Ca2+を含有する培地をさらに24時間にわたって細胞に供給した。その後、Dual Luciferase kitをこの製造業者が指示しているとおりに使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。活性は、pcDNA3でトランスフェクトした対照細胞を基準にして示し、三重重複で行った3回の実験の平均±SEMを意味する;対照(未処理pcDNA3ベクター)値に対して、*p<0.01、**p<0.001;対照条件下、AQP3でトランスフェクトした値に対して、fp0.01、f†pθ .001;およびCa2+で処理したpcDNA3ベクター対照値に対して、§p<0.001。
【図15】グリセロールは、DNA合成を阻害し、高い細胞外Ca2+濃度の阻害効果を強化するが、キシリトールおよびソルビトールではしないことを説明する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、24時間、0.02または0.1% グリセロールとともにインキュベートし、DNAへの[3H]チミジン組み込みについての組み込みとして、DNA合成を測定した。(B)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G、四角)または等価濃度のキシリトール(X、丸)とともに、24時間、インキュベートした。(C)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G)または等価濃度のソルビトール(S、三角)とともに、24時間、インキュベートした。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。値は、二重重複で行った4から5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05、**p<0.01;Ca2+が存在する状態での値のみに対して、fp<0.05。
【図16】1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)が、DNA合成を阻害し、高い細胞外 Ca2+濃度の阻害効果を強化することを実証する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G、四角)または等価濃度の1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、三角)とともに、24時間、インキュベートした。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを、[3]におけるがごとく判定した。値は、二重重複で行った3から5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05、**p<0.01;Ca2+が存在する状態での値のみに対して、|p<0.05。(B)グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールの構造が、これらの立体配置の類似性の証拠となる。
【図17】PGリポソームが、増殖性ケラチノサイトにおけるDNA合成を阻害し、トランスグルタミナーゼ活性を用量依存的に刺激することを説明する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。対照におけるDNAへの[3H]チミジン組み込みは、85,550±5,730cpm/ウエルであった。値は、二重重複で行った7から9回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.01、**p<0.001。(B)ほぼ集密のケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。その後、トランスグルタミナーゼ活性を判定した。値は、二重重複で行った独立した実験の平均±SEMを意味する;用量が増すにつれて、有意な刺激の傾向を示した;*p<0.05。
【図18】PGリポソームが、成長阻害ケラチノサイトにおけるDNA合成を増加させることを示す図である。集密ケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。[3H]チミジン組み込みを上のとおり判定した。対照条件下でのDNAへの[3H]チミジン組み込みは、12,880±1,040cpm/ウエルであった。値は、二重重複で行った3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.01、**p<0.001。
【図19】創傷治癒率に対するグリセロールおよびホスファチジルグリセロールの効果を示す棒グラフである。
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ケラチノサイト機能を調節するための方法および組成物に関し、より詳細には、ケラチノサイトの増殖および分化を正常化するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、身体の最も大きな器官であり、表皮と真皮から成る。皮膚の最も重要な機能は、不可欠な物理的および水透過性バリアを提供することである。表皮は、分化して機械的および水透過性バリアを生じさせ、従って、陸上生活を可能にする継続再生組織である。このバリアは、異なる表皮層を結果として生じさせる精密に調整されたケラチノサイト分化プログラムにより表皮内で樹立される。表皮の構造は、ケラチノサイトの微調整された増殖−分化間バランスによって維持され、その結果として、基底層、有棘層、顆粒層および角化層から成る多層構造が生じる。
【0003】
基底膜と接触している最も内側の基底層は、増殖能を有する未分化ケラチノサイトの単層から成る。有棘層は、初期分化段階の非増殖性ケラチノサイトから成り、これらの細胞は、基底上層から外側に向かって移動するにつれて漸進的に成熟していく。有棘層分化後、顆粒層における後期分化、および最も外側の角化層における最終分化と続く(図1参照)。分化に入ると、基底層の細胞は増殖能を失い、最終分化角化層の方へと移動する。高細胞外カルシウムレベル、1,25ジヒドロキシビタミンD3および他の分子に関する熱心な研究およびデータにもかかわらず、ケラチノサイト分化プロセスを開始および調整する正確なメカニズムは、未だ不明である。
【0004】
適正な層化およびバリア形成の発生には、表皮における分化の精密な調整が重要である。表皮の恒常性は、ひとつには、分化の各段階での正しいケラチノサイトにおける遺伝子の発現を編成することにより維持されている。この分化プログラムの変更により、皮膚疾患、例えば、乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎、皮膚癌(例えば、扁平上皮癌および基底細胞癌)、ならびに無秩序な細胞分裂を特徴とする他の皮膚の状態が生じ得る。
【0005】
従って、皮膚細胞の増殖シグナルと分化シグナルのバランスのあらゆる混乱により、様々な疾患または他の望ましくない皮膚の状態が生じ得る。ケラチノサイト増殖の過剰な刺激は、高増殖性皮膚状態、例えば、上で述べたもの(すなわち、乾癬および様々な非黒色腫性皮膚癌)をもたらすことがある一方で、ケラチノサイト増殖の刺激不足は、成長が低下した状況、例えば、老化皮膚(皮膚細胞老化)または損傷した皮膚を特徴とする状況をもたらすことがある。従って、ケラチノサイトの増殖の減少および/または阻害に向けた治療は、皮膚細胞の増殖亢進を特徴とする状態の治療に有用である。同様に、ケラチノサイトの増殖を増加させるための治療は、新たな成長が減速している老化または損傷皮膚状態の改善に、および/または創傷治癒の加速に有用である。特に有益な治療は、両方の状態を同時にまたは必要に応じて治療する能力を備えるものであるが、現在利用できるこのような治療はない。
【0006】
従って、皮膚細胞の増殖過多または増殖不足に関連した状態および/または疾病のための新たなおよび有効な治療が必要とされている。ケラチノサイトの増殖および/または挙動を調節するための方法も必要とされている。特に、ケラチノサイト増殖を正常化するための新たな方法および治療が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
簡単に説明すると、本開示は、ケラチノサイト機能および/または増殖を正常化するための方法および組成物を提供する。本開示の態様は、ケラチノサイト機能の調節、および/またはケラチノサイト中のホスファチジルグリセロール(PG)のレベルの調節も含む。加えて、本開示は、ケラチノサイト増殖を調節することにより皮膚の状態を治療するための方法および組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、ケラチノサイト機能を調節するための本開示の方法の実施形態は、ケラチノサイト中のPGまたはこの機能性誘導体の量の変更を含む。他の実施形態としては、ケラチノサイトを、このケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するために有効量のPGまたはこのプロドラッグと接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法が挙げられる。ホスファチジン酸およびPG生成の調節方法の実施形態は、ケラチノサイトを非グリセロール系アルコールと接触させることを含む。
【0009】
さらに、皮膚の状態を治療するための本開示の実施形態は、この皮膚疾患の治療に有効量で、一定量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを宿主に投与することを含む。宿主における皮膚の状態を治療する他の実施形態は、宿主ケラチノサイト中のPGの量を増加させることを含む。宿主における皮膚の状態の治療方法は、この皮膚の状態の治療に有効量のPGを宿主に投与することも含み、この場合、PGは、この皮膚の状態が皮膚細胞の増殖不足を特徴とするときには、皮膚細胞増殖を刺激し、ならびにこの皮膚の状態が皮膚細胞の増殖過多を特徴とするときには、皮膚細胞増殖を阻害する。
【0010】
宿主におけるケラチノサイト増殖を正常化する方法の実施形態は、一定量のPGを宿主に投与することを含み、この場合、PGは、増殖減少状態下ではケラチノサイト増殖を刺激し、ならびにPGは、増殖過多状態下ではケラチノサイト増殖を阻害する。本開示は、宿主における創傷治癒の加速方法も提供し、この方法は、宿主ケラチノサイト中のPGの量を増加させることを含む。
【0011】
本開示は、様々な皮膚の状態を治療するための組成物も提供する。本開示の組成物の実施形態としては、皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグが挙げられる。本開示の組成物の他の実施形態としては、皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量のPGまたはこの機能性誘導体のリポソームが挙げられる。
【0012】
本開示の他の系、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明の考察をもとに、当業者には明らかになる、またはなってくる。すべてのこのようなさらなる系、方法、特徴および利点は本明細書に含まれ、本開示の範囲内であり、添付の特許請求の範囲により保護されると解釈する。
【0013】
本開示の多くの側面が以下の図面を参照することにより理解することができる。これら図面における構成要素は必ずしも尺度でなく、むしろ本開示の本質を明確に例示するためにあることが強調される。
【0014】
本開示の実施形態は、別の指示がない限り、当分野の範囲内である合成有機化学、生化学および分子生物学などの技術を利用する。このような技術は、文献において十分に説明されている。
【0015】
ここで開示し、特許請求する方法をどのように実施し、組成物および化合物をどのように使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために、以下の実施例を記載する。数(例えば、量、温度など)に関して確実に正確であるように努力したが、多少の間違いおよび逸脱はあると考えなければならない。別の指示がない限り、部は、重量部であり、温度は、℃でのものであり、圧力は、大気圧またはほぼ大気圧である。標準温度および圧は、20℃で1気圧と定義する。
【0016】
本開示の実施形態を詳細に説明する前に、他に別の指示がない限り、本開示は、特定の材料、試薬、反応材料または製造プロセスなどに限定されず、従って、変わる場合があることを理解しなければならない。ここで用いる専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、限定するためのものではないことも理解しなければならない。本開示において、論理的に可能である場合には、段階を別の順序で実行することもできる。
【0017】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、この文脈が明確に別様に命じていない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。従って、例えば、「単数の支持体」への言及は、複数の支持体を含む。本明細書および後続の特許請求の範囲において多数の用語に言及するが、これらは、相反する意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義する。
【0018】
定義:
ここで用いる用語「宿主」または「生物」は、ヒトも、哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマなど)も、皮膚の状態/疾病の治療が必要な他の現生種も含む。現生生物は、例えば単個真核細胞ほども単純である場合もあり、哺乳動物ほども複雑である場合もある。さらに、「組成物」は、下で説明するような、1つ以上の化合物を含むことができる。
【0019】
用語「誘導体」は、開示化合物の加水分解、還元または酸化生成物を含む(しかし、これらに限定されない。)開示化合物の変形を指す。加水分解、還元および酸化反応は、当分野では公知である。
【0020】
用語「機能性誘導体」は、開示化合物の機能を保持する開示化合物の誘導体を指す。例えば、PGの場合、本開示の文脈でのPGの機能性誘導体としては、皮膚細胞のシグナル伝達および/または増殖を調節する効果を有するPGの誘導体が挙げられる。本開示におけるPGの機能性誘導体の非限定的な例は、プロピレングリコールを使用してホスファチジル基転移反応で形成されたホスファチジルアルコールであり、これは、1つのヒドロキシル基を除きPGと同じ化学構造を有し、PGの活性を保持する。
【0021】
ここで用いる用語「治療有効量」は、ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足が直接または間接的な原因となる1つ以上の症状をある程度軽減する投与される化合物の量を指す。ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足が直接または間接的な原因となる状態/疾病に関して、治療有効量は、この疾病の素質を有するかもしれないが、この状態/疾病の症状をまだ経験および示していない動物におけるこの状態/疾病の発生の予防(予防的治療)、この状態/疾病の症状の緩和、この状態/疾病の程度の低下、この状態/疾病の安定化(すなわち、悪化させないこと)、この状態/疾病の進展の予防、この状態/疾病の進行の遅延または減速、この状態/疾病状態の改善または軽減、およびこれらの組み合わせの効果を有する量を指す。
【0022】
「医薬的に許容される塩」は、生物学的有効性および遊離塩基の特性を保持する塩を指し、これらは、無機または有機酸(例えば、限定ではないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸およびクエン酸など)との反応によって得られる。
【0023】
「医薬組成物」は、ここに記載する1つ以上の化合物またはこれらの医薬的に許容される塩と、他の化学成分(例えば、生理学的に許容される担体および賦形剤)との混合物を指す。医薬組成物の1つの目的は、生物への化合物の投与を可能にすることである。
【0024】
ここで用いる「医薬的に許容される担体」は、生物に対して有意な刺激をもたらさず、投与化合物の生物活性および特性を無くさせない担体または希釈剤を指す。
【0025】
「賦形剤」は、化合物の投与をさらに助長するために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ここで用いる「治療する」、「治療すること」および「治療」は、有益なまたは所望の臨床結果を得るためのアプローチである。本開示の実施形態のために、有益なまたは所望の臨床結果としては、この状態/疾病の素質を有するかもしれないが、この疾病の症状をまだ経験および示していない動物におけるこの状態/疾病の発生の予防(予防的治療)、この状態/疾病の症状の緩和、この状態/疾病の程度の低下、この状態/疾病の安定化(すなわち、悪化させないこと)、この状態/疾病の進展の予防、この状態/疾病の進行の遅延または減速、この状態/疾病状態の改善または軽減、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。加えて、「治療する」、「治療すること」および「治療」は、治療を受けなかった場合に期待される生残と比較して生残を延長することも意味する。
【0027】
用語「プロドラッグ」は、インビボで生物活性形態に変換される物質を指す。プロドラッグは、状況によっては親化合物より投与しやすいことがあるため、多くの場合有用である。これらは、例えば、経口投与により生体利用できるのに対し、親化合物はできない。プロドラッグは、親薬物と比較して、医薬組成物への溶解性が向上している場合もある。プロドラッグは、酵素的プロセスおよび代謝性加水分解を含む様々なメカニズムにより親薬物に変換され得る。Harper,NJ.(1962).Drug Latentiation in Jucker,ed.Progress in Drug Research,4:221−294;Morozowichら.(1977).Application of Physical Organic Principles to Prodrug Design in E.B.Roche ed.Design of Biopharmaceutical Properties through Prodrugs and Analogs,APhA;Acad.Pharm.ScL;E.B.Roche,ed.(1977).Bioreversihle Carriers in Drug Design,Theory and Application,APhA;H.Bundgaard,ed.(1985)Design of Prodrugs,Elsevier;Wangら.(1999)Prodrug approaches to the improved delivery of peptide drug,Curr.Pharm.Design.5(4):265−287;Paulettiら.(1997).Improvement in peptide bioavailability:Peptidomimetics and Prodrug Strategies,Adv.Drug.Delivery Rev.27:235−256;Mizenら.(1998).The Use of Esters as Prodrugs for Oral Delivery of β−Lactam antibiotics,Pharm.Biotech.ll,:345−365;Gaignaultら.(1996).Designing Prodrugs and Bioprecursors I. Carrier Prodrugs,Pract.Med.Chem.671−696;M.Asgharnejad(2000).Improving Oral Drug Transport Via Prodrugs,in G.L.Amidon,P.I.Lee and E.M.Topp,Eds.,Transport Processes in Pharmaceutical Systems,Marcell Dekker,p.185−218;Balantら.(1990).Prodrugs for the improvement of drug absorption via different routes of administration,Eur.J.DrugMetab.Pharmacokinet.,15(2):143−53;Balimane and Sinko(1999).Involvement of multiple transporters in the oral absorption of nucleoside analogues,Adv.Drug Delivery Rev.,39(l−3):183−209;Browne(1997).Fosphenytoin(Cerebyx),Clin.Neuropharmacol.20(1):1−12;Bundgaard(1979).Bioreversible derivatization of drugs−principle and applicability to improve the therapeutic effects of drugs,Arch.Pharm.Chemi.86(1):1−39;H.Bundgaard,ed.(1985).Design of Prodrugs,New York:Elsevier;Fleisherら.(1996).Improved oral drug delivery:solubility limitations overcome by the use of prodrugs,Adv.Drug Delivery Rev.19(2):115−130;Fleisherら.(1985).Design of prodrugs for improved gastrointestinal absorption by intestinal enzyme targeting,Methods Enzymol.112:360−81;Farquhar D.ら.(1983).Biologically Reversible Phosphate−Protective Groups,J.Pharm.Sd.,72(3):324−325;Han,H.K.ら.(2000).Targeted prodrug design to optimize drug delivery,AAPS PharmSci.,2(1):E6;Sadzuka Y.(2000).Effective prodrug liposome and conversion to active metabolite,Curr.DrugMetab.,1(1):31−48;D.M.Lambert(2000).Rationale and applications of lipids as prodrug carriers,Eur.J.Pharm.ScL,11 Suppl 2:S15−27;Wang,W.ら.(1999).Prodrug approaches to the improved delivery of peptide drugs.Curr.Pharm.Des.,5(4):265−87。
【0028】
ここで用いる用語「局所活性薬剤」は、宿主への適用(接触)部位における薬理応答を惹起する、本開示の組成物を指す。
【0029】
ここで用いる用語「局所的に」は、皮膚および粘膜細胞および組織の表面への本開示の組成物の適用を指す。
【0030】
ここで用いる用語「阻害する」および/または「減少させる」は、自然の、期待されるもしくは平均的な状態を基準にして、または現在の状態を基準にして、機能、活性または挙動を直接または間接的に減少させる作用を一般に指す。例えば、ケラチノサイトの増殖を阻害するまたは減少させる何かが、新たなケラチノサイトの成長を停止または減速させることがある。
【0031】
ここで用いる用語「増加させる」、「強化する」および/または「誘導する」は、一般に、自然の、期待されるもしくは平均的な状態を基準にして、または現在の状態を基準にして、機能または挙動を直接または間接的に改善するまたは増加させる作用を指す。例えば、ケラチノサイトの増殖を増加させるまたは強化する何かが、増殖が減速もしくは停止してしまっているケラチノサイトの増殖を誘導することがあり、または増殖の速度を通常の速度より加速することがある。
【0032】
本明細書で用いる用語「調節する」、「修飾する」、および/または「調節因子」は、特定の機能または挙動に対する直接または間接的な促進/活性化または干渉/阻害作用を一般に指す。例えば、ケラチノサイト機能の調節因子は、ケラチノサイトの増殖もしくは分化を活性化もしくは増加させることがあり、またはケラチノサイト機能の調節因子は、ケラチノサイトの増殖もしくは分化を阻害することがある。場合により、調節因子は、一定の活性または機能を、この自然な状態を基準にして、または一般に期待される平均的な活性レベルを基準にして、または現在の活性レベルを基準にして、増加および/または減少させることができる。
【0033】
ここで用いる用語「正常化する」は、2つ以上の活性、機能または状態の間の相対バランスまたは平衡を確立するおよび/または維持する作用を指す。例えば、ケラチノサイトの増殖の正常化は、一般に様々な状態のもとでケラチノサイトの増殖と分化の間の相対バランスを維持することを指す。増殖過多の状態のもとでの正常化は、増殖の減速または阻害を意味する一方で、成長が減速している状態のもとでの正常化は、増殖の誘導または増加を意味する。
【0034】
ここで用いる用語「発現」は、構造遺伝子によりポリペプチドが生産されるプロセスを指す。これは、転写と翻訳の組み合わせである。従って、PLD2またはAQP3の発現の誘導または増加は、PLD2またはAQP3ポリペプチドの生産の増加または誘導を指し、これは、様々なアプローチ、例えば、このポリペプチドをコードする遺伝子の数を増加させること、(例えば、構成的プロモーターの制御下に遺伝子を置くことにより)この遺伝子の転写を増加させること、もしくはこの遺伝子の翻訳を増加させること、またはこれらのアプローチおよび/もしくは他のアプローチの組み合わせによって行われる。
【0035】
用語「含む」、「など」、「例えば」などは、具体例としての実施形態を指すためのものであり、本開示の範囲を限定するためのものではない。
【0036】
考察
ホスホリパーゼD
ホスホリパーゼD(PLD)は、成長、分化、小胞輸送および細胞骨格再配列を含む多数の細胞プロセスに関係付けられている脂肪分解酵素である。PLDは、ホスファチジルコリンの加水分解を触媒して、ホスファチジン酸(PA)およびコリンを生じさせる。PAおよびこの代謝産物、ジアシルグリセロールおよびリソホスファチジン酸は、多数の生理事象に関与している。第一アルコールの存在下、PLDは、ホスファチジル基転移反応を触媒して、ホスファチジルアルコールを生じさせる。このメカニズムに従って、PLDは、生理的第一アルコールグリセロールの存在下でホスファチジルコリンを代謝して、ホスファチジルグリセロール(PG)を生じさせることができる。PLDの反応を図2に示す。
【0037】
哺乳動物PLDの2つのアイソフォーム、PLD1およびPLD2が、同定されている。PLD1は、低い基礎活性を有し、小さなGタンパク質(Arf、RhoおよびRac)およびプロテインキナーゼCによって活性化され、これに対してPLD2は、インビトロでモニターされた昆虫細胞への形質移入によって証明されるように、構成的活性であるようである。両方のPLOが、ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸(PIP2)を補因子として利用し、ならびにケラチノサイトにおいて発現されることが証明されている。1,25−ジヒドロキシビタミンD3、ケラチノサイト分化剤は、PLD1の発現を誘導するが、PLD2の発現は誘導しない。図3は、PLDの様々なシグナル伝達経路を説明する図である。HaCaT細胞において、PLD2は、カベオリンリッチな膜マイクロドメインに位置している。
【0038】
より詳細に下で論じるように、PLD2の位置およびホスファチジルグリセロール(PG)を生産するこの能力が、PLD2をケラチノサイトの挙動、特に、ケラチノサイトの増殖および分化を調節するためのシグナル伝達に関する挙動の調節に関与させる。
【0039】
アクアポリン3
アクアポリンは、小さな膜貫通型水および/またはグリセロールチャネルの一ファミリーである。現在、11の哺乳動物アクアポリン(AQPO−IO)が、同定および特性付けされている。これらの構造および機能特性に従って、アクアポリンは、2つのサブグループ(水のみを輸送する「アクアポリン」、および水とグリセロールの両方を輸送することができる「アクアグリセロポリン」)に分けることができる。アクアグリセロポリンサブグループに属するAQP3は、水の比較的弱い輸送体であるが、グリセロールの有効な輸送体である。AQP3は、尿管、消化管および気道ならびに表皮を含む様々な組織からの、腎臓採取細胞、赤血球、樹状細胞および上皮細胞において発現される。表皮、気管および鼻咽頭上皮では、AQP3は、表皮の基底細胞中に存在する。
【0040】
AQP3欠失マウスは、グリセロール含量の選択的減少、ならびに水分保持能力低下、表皮に関して、皮膚弾力性減損、角質層剥離後のバリア回復遅延および創傷治癒遅延を示し、これは、ケラチノサイトの増殖および分化の調整におけるAQP3の一定の役割を示唆している。この表現型は、グリセロールの局所または経口適用により修正できるが、他の浸透活性分子ではできず、これは、この効果が、単にグリセロールの親水特性の作用でないことを示唆している。上で論じたようにPGを生成するために用いることができるグリセロールを輸送するAQP3の能力、および下で論じるこの位置は、PGの生成およびケラチノサイトの機能の調節におけるAQP3の一定の役割を暗示し、このことは、より詳細に下で論じる。
【0041】
PLD2/AQP3/グリセロール/PG シグナル伝達モジュール
本開示の発明者らは、ケラチノサイトでは、AQP3およびPLD2が、カベオリンリッチな膜マイクロドメインにおいて会合すること、ならびにAQP3グリセロールチャネルが、正常な表皮機能にとって重要であることを、以前に証明した(Zheng,X.and Bollag,W.B.(2003)J.Invest.Dermatol,121,1487−1495(これは、本明細書に参考として組み込まれる。))。小窩は、電子顕微鏡により原形質膜における直径50〜100nmのフラスコ形陥入として特性付けられている、脂質ラフトマイクロドメインのサブセットである。カベオリン1は、小窩内で同定された最初の構造タンパク質成分であり、機能的に、広範なシグナル伝達プロセスに関係付けられている(Smartら、1999)。加えて、カベオリン1は、ケラチノサイト内の層状体と会合することが、最近、証明された(Sandoら、2003)。
【0042】
カベオリンリッチな膜マイクロドメインにおけるPLD2とAQP3の共在性(colocation)は、AQP3が、PGを生成させるホスファチジル基転移反応において用いるためのグリセロールをPLD2に輸送すること、また、このPGが、ケラチノサイト機能を調節するための脂質第二メッセンジャーとして作用することを示唆しており、このことは、下の実施例1および2によってさらに証明する。実際、本明細書中の実施例により、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成る新規シグナル伝達モジュールの存在を実証する。
【0043】
PGリポソームの直接供給により急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成が用量依存的に阻害されたが、成長が阻害された細胞では、PGリポソームによりDNAへの[3H]チミジン組み込みが用量依存的に強化されたことも、実施例2によって証明する。PGリポソームがトランスグルタミナーゼ活性を刺激する傾向も観察された。これらのデータは、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成るシグナル伝達モジュールが、増殖性ケラチノサイトの成長阻害および/または初期分化の促進に関与しており、その結果、ケラチノサイトの挙動および/または増殖を調節するためのメカニズム、ならびにケラチノサイトの増殖の増加または減少を特徴とする様々な皮膚の状態を治療するための方法をもたらすことを支持している。
【0044】
ケラチノサイトの増殖を調節する方法および皮膚の状態を治療する方法
本開示の実施形態は、PLD2/AQP3/グリセロール/PGシグナル伝達モジュールの様々な成分の量および/または活性を調節することにより、ケラチノサイト機能、特に増殖、を調節する方法を含む。本開示の一定の実施形態において、ケラチノサイトの増殖は、ケラチノサイトにより生産される、またはケラチノサイトと接触しているPG、またはこの機能性誘導体の量を調節することによって正常化する。本開示の実施形態において、ケラチノサイトと接触している、またはケラチノサイトによって生産されるPGの量の調節は、皮膚細胞成長減速または増殖不足状態にある皮膚細胞の増殖を刺激すること、および成長増加または増殖亢進状態にある皮膚細胞の増殖の減少させることによって、ケラチノサイト増殖を正常化する。
【0045】
ケラチノサイトと接触しているPGの量を調節する一部の実施形態は、ケラチノサイトと接触しているPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグの量を増加させることを含む。PGの機能性誘導体の例としては、1つのヒドロキシ基をマイナスしたPGと同じ構造を有するプロピレングリコールのホスファチジル基転移反応生成物が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
ケラチノサイトと接触しているPGの量を増加させてケラチノサイトの挙動を調節する実施形態は、ケラチノサイト増殖、ケラチノサイト皮膚細胞シグナル伝達および/またはケラチノサイト核酸合成を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグとケラチノサイトを接触させることを含む。下の実施例により、PGが、ケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するように作用し、様々な条件に依存してケラチノサイトにおける核酸合成を増加または減少させることができることを証明する。
【0047】
本開示の驚くべき、有益な態様は、PGが、ケラチノサイトにおいて二相性作用を示し、成長減速状態、例えば加齢(すなわち、細胞老化)または皮膚細胞傷害、例えば好ましくない状態(例えば、煙、日光、風および極端な温度)への暴露に起因する皮膚細胞障害または物理的傷害(例えば、創傷、やけど、すり傷、瘢痕、潰瘍など)のもとでは増殖のシグナルを誘導し、ならびに乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌および他の非黒色腫性皮膚癌を含む(しかし、これらに限定されない)疾患などにおける増加したまたは過増殖性成長状態のもとでは増殖を阻害または減速するシグナルを誘導することである。従って、PGレベルおよび/もしくは生成を調節することにより、ならびにまたはPLD2/AQP3/グリセロール/PGシグナル伝達モジュールを別様に調節することにより、成長過多状態または成長不足状態を別々に治療するのではなく、これらの状態に同時に対処することができる。
【0048】
本開示の方法は、PGまたはグリセロールをケラチノサイトまたは宿主に投与することによりPGレベルを調節することに限定されず、ケラチノサイトによって生産されるPGの量を調節する方法も包含する。ケラチノサイトによって生産されるPGの量の調節に関する実施形態は、例えば、PLD2および/もしくはAQP3の活性のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションにより、ならびに/またはケラチノサイトにおけるPLD2および/もしくはAQP3の発現を増加または減少させることにより、ホスホリパーゼD2(PLD2)および/またはアクアポリン−3(AQP3)の活性を調節することを含む。PLD2またはAQP3の発現を増加させるための実施形態は、PLD2またはAQP3ポリペプチドの生産の増加または誘導を含み、これは、当業者には公知の様々なアプローチによって行うことができ、この非限定的な例は、下の実施例で開示する。一般に、PLD2またはAQP3の発現を増加させるためのアプローチとしては、(例えば、宿主細胞をこの遺伝子のさらなるコピーでトランスフェクトすることにより、遺伝子療法の当業者には公知の様々な方法により)このポリペプチドをコードする遺伝子の数を増加させること、(例えば、構成的プロモーターの制御下にこの遺伝子を置くことにより)この遺伝子の転写を増加させること、もしくは遺伝子の翻訳を増加させることなどの方法、またはこれらのアプローチおよび/または他のアプローチの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本開示の実施形態は、ケラチノサイトの増殖および/または機能を正常化および/または調節することによる、ケラチノサイトの増殖過多または増殖不足を特徴とする宿主の皮膚の状態/疾患を治療するための方法および組成物も提供する。本開示の方法および組成物により治療することができる皮膚の状態としては、高増殖性疾患、例えば乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌、および無秩序な細胞分裂;成長減速状態、例えば、加齢、瘢痕化、皮膚細胞老化、および(例えば、日光、煙、風、および極端な温度などへの)暴露に起因する皮膚障害;ならびに物理的創傷(例えば、裂傷、潰瘍、例えば糖尿病性および加齢性潰瘍、やけど、すり傷など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上の状態を治療する方法としては、数ある中でも、上で説明したケラチノサイト増殖および/または機能の調節/正規化方法が挙げられる。特に、上の状態を治療するための方法の実施形態は、ケラチノサイト増殖、ケラチノサイト皮膚細胞シグナル伝達および/またはケラチノサイト核酸合成を調節するために有効量のPG、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含む。ケラチノサイトの挙動を調節するためおよび/または皮膚の状態を治療するための本開示の方法は、PGの投与と併用で、下で説明するようにケラチノサイトをグリセロールまたはこの機能性誘導体と接触させて、細胞のPG生産を刺激することも含む。本開示の方法は、より詳細に下で論じるように、非グリセロール系アルコールとケラチノサイトを接触させて、ホスファチジン酸、PA、ならびにPG生産を調節することも含む。本開示の実施形態は、この必要がある宿主に本開示の医薬組成物を投与することによる、上の状態を治療するならびにケラチノサイトの機能および増殖を調節する方法も含む。本開示の医薬組成物を、より詳細に下で論じる。
【0051】
医薬組成物
本開示の医薬組成物および剤形の実施形態は、PG、PGの医薬的に許容される塩もしくはこの機能性誘導体、またはこの医薬的に許容される多形、溶媒和物、水和物、脱水物、共結晶、無水またはその非晶質形態を含む。本開示の医薬組成物の実施形態は、グリセロールまたはこの機能性誘導体も含むことがある。グリセロールは、PGの生成のためにPLD2の基質として作用するので、グリセロールは、ホスファチジン酸(PA)をダウンレギュレートするさらなる効果を有し、下の実施例で実証するように、このPAも、ケラチノサイトの調節においても一定の役割を果たし得る。プロピレングリコールを含む(しかし、これに限定されない。)グリセロールの機能性誘導体は、PG機能性誘導体の生成増加においても、PAの生成の下方制御においても、グリセロールと同じまたは同様の効果を有する。
【0052】
本開示の組成物の他の実施形態は、下の実施例で実証するように、PGとPAの両方のPLD2生成を下方制御するグリセロールの非機能性誘導体、例えば他の第一、非グリセロール系アルコール(例えば、1−ブタノールおよびエタノール)を含むことがある。このような組成物は、所望の効果に依存して、PGを含むこともあり、含まないこともある。非グリセロール系アルコールを含み、PGを含まない組成物は、PAおよびPGの生成を阻害する/減少させることができ、一方、非グリセロール系アルコールおよびPGを含む組成物は、PA生産を阻害する/減少させることができ、ならびにケラチノサイトの挙動に対するPG媒介調節を誘導することができる。
【0053】
医薬組成物および単位剤形は、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤または希釈剤も含む。本活性組成物によってもたらされる利点、例えば、溶解度上昇および/または流動、純度もしくは安定(例えば、吸水)特性向上により(しかし、これに限定されない)、本組成物は、医薬調合物および/または患者への投与に、先行技術より良好に適するものであることができる。
【0054】
本活性組成物の医薬単位剤形は、患者への局所投与、経皮投与、経口投与、粘膜投与(例えば、経鼻、舌下、経膣、口腔内または直腸内投与)、または非経口投与(例えば、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内もしくはボーラス注射)に適する。剤形の例としては、錠剤;キャプレット;カプセル、例えば、ハードゼラチンカプセルおよびソフトゼラチンカプセル;カシェ剤;トローチ;ロゼンジ;分散液;坐剤;軟膏;ハップ剤(湿布剤);ペースト;粉末;包帯剤;クリーム;硬膏剤;溶液;パッチ;エーロゾル(例えば、鼻スプレー剤または吸入剤);ゲル;懸濁剤(例えば、水性または非水性懸濁液、水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョン)、溶液およびエリキシルを含む、患者への経口または粘膜投与に適する液体剤形;患者への非経口投与に適する液体剤形;ならびに再構成して、患者への非経口投与に適する液体剤形を提供することができる滅菌固体(例えば、結晶質または非晶質固体)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
活性組成物の剤形の組成、形状およびタイプは、これらの用途に依存して様々であり得る。例えば、疾病または疾患の急性治療において使用される剤形は、同じ疾病または疾患の慢性治療において使用される剤形より多くの量の活性成分(すなわち、活性組成物)を含有し得る。同様に、非経口剤形は、同じ疾病または疾患を治療するために使用される経口剤形より少ない量の活性成分を含有し得る。これらの方法、および本開示に包含される特定の剤形が互いに異なる他の方法は、当業者には容易にわかる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.,Mack Publishing,Easton,Pa(1990))。
【0056】
典型的な医薬組成物および剤形は、1つ以上の賦形剤を含むことができる。適する賦形剤は、調剤または医薬分野の当業者には周知である。特定の賦形剤が、医薬組成物または剤形への配合に適するかどうかは、この剤形を患者に投与する方法を含む(しかし、これに限定されない)、当分野では周知の様々な要因に依存する。例えば、錠剤またはカプセルなどの経口剤形は、非経口剤形での使用には適さない賦形剤を含有することがある。個々の賦形剤の適性は、この剤形中の具体的な活性成分にも依存し得る。
【0057】
本開示は、活性成分が分解する速度を低下させる1つ以上の化合物を含む、医薬組成物および剤形を、さらに包含する。ここでは「安定剤」と呼ぶこのような化合物としては、抗酸化物質、例えばアスコルビン酸、pH緩衝剤、または塩緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、本開示の医薬組成物または剤形は、1つ以上の溶解度調節剤、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウムもしくはカリウムまたは有機酸、を含有することがある。具体的な溶解度調節剤は、酒石酸である。
【0058】
賦形剤の量およびタイプと同様に、剤形中の活性成分の量および具体的なタイプは、これを患者に投与する経路、治療すべき状態、宿主のサイズなど(しかし、これらに限定されない)の要因に依存して異なることがある。しかし、本開示の化合物の典型的な剤形は、PG、この医薬的に許容される塩、または医薬的に許容される多形、溶媒和物、水和物、脱水物、共結晶、無水もしくは非晶質形態を、約0.05mgから約50mgの量で、好ましくは、約0.25mgから約10mgの量で、およびさらに好ましくは、約0.5mgから5mgの量で含む。
【0059】
具体例としての実施形態において、PG、この機能性誘導体、医薬的に許容される塩、またはこのプロドラッグは、リポソームの形態で、場合によっては1つ以上の上記添加剤と混合して、送達することができる。本開示の組成物は、任意の形態で送達することができるが、皮膚疾患の治療には、局所剤形が好ましいだろう。
【0060】
局所、経皮および粘膜用剤形
本開示の局所剤形としては、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、シャンプー、スプレー剤、エーロゾル、溶液、エマルジョン、および当業者には公知の他の剤形が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990);and Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms,4th ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,Pa.(1985))。噴霧不能局所剤形については、局所適用に適合した担体または1つ以上の賦形剤を含み、好ましくは水より大きい動粘性率を有する、粘性から半固体または固体形態が、一般に利用される。適する調合物としては、所望される場合には、滅菌されているか、様々な特性(例えば、浸透圧など)に影響を及ぼすように助剤(例えば、保存薬、安定剤、湿潤剤、緩衝剤または塩)と混合されている、溶液、懸濁液、エマルジョン、クリーム、軟膏、粉末、リニメント剤および膏薬などが挙げられるが、これらに限定されない。他の適する局所剤形としては、噴霧可能エーロゾル製剤が挙げられ、この場合、活性成分は、好ましくは固体または液体不活性担体と併わせて、加圧揮発性物質(例えば、ガス状噴射剤、例えばフレオン)との混合物で、またはスクイーズボトルの中にパッケージングされる。所望される場合には、医薬組成物および剤形に、潤い付与剤または保湿剤も添加することができる。このような追加成分の例は、当分野では周知である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990))。
【0061】
本活性組成物の経皮および粘膜用剤形としては、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、溶液、エマルジョン、懸濁液、坐剤、点眼剤、パッチ、スプレー剤、エーロゾルまたは当業者には公知の他の剤形が挙げられるが、これらに限定されない{例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing,Easton,Pa.(1990);and Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms,4th Ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,Pa.(1985))。口腔内の粘膜組織を治療するために適する剤形は、マウスウォッシュとして、経口ゲルとして、または口腔内パッチとして調合することができる。さらなる経皮剤形としては、皮膚に貼り、特定の期間にわたって身に着けて所望量の活性成分を浸透させることができる、「レザバー型」または「マトリックス型」パッチが挙げられる。
【0062】
本開示に包含される経皮および粘膜用剤形をもたらすために使用することができる、適する賦形剤(例えば、担体および希釈剤)および他の材料は、医薬分野の当業者には周知であり、ならびに所与の医薬組成物または剤形が適用されることとなる特定の組織または器官に依存する。非毒性であり、医薬的に許容される剤形を形成することを念頭において、典型的な賦形剤としては、水、リン酸緩衝生理食塩水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
治療すべき具体的な組織に依存して、活性組成物の医薬的に許容される塩での治療前に、治療と共に、または治療後に、追加成分を使用してもよい。例えば、浸透向上剤は、組織にまたは組織を横断して活性成分を送達することを助長するために使用することができる。適する浸透向上剤としては、アセトン;様々なアルコール、例えば、エタノール、オレイルおよびテトラヒドロフリルアルコール;アルキルスルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド;ジメチルアセトアミド;ジメチルホルムアミド;ポリエチレングリコール;ピロリドン、例えば、ポリビニルピロリドン;コリドングレード(ポビドン、ポリビドン);尿素;ならびに様々な水溶性または水不溶性糖エステル、例えば、TWEEN 80(ポリソルベート80)およびSPAN 60(ソルビタンモノステアラート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
医薬組成物もしくは剤形のpHまたはこの医薬組成物もしくは剤形を適用する組織のpHを調整して、活性成分(単数または複数)の送達を向上させることができる。同様に、溶媒担体の極性、このイオン強度または張度を調整して、送達を向上させることもできる。ステアラートなどの化合物を医薬組成物または剤形に追加して、送達を向上させるために有利に活性成分(単数または複数)の親水性または親油性を変えることもできる。これに関して、ステアラートは、この調合物のための脂質ビヒクルとして、乳化剤または界面活性剤として、および送達向上または浸透向上剤としての役割を果たすことができる。活性組成物の医薬的に許容される塩の種々の水和物、脱水物、共結晶、溶媒和物、多形、無水または非晶質形態を用いて、得られる組成物の特性をさらに調整することができる。
【0065】
以下の図面を参照すると、本開示の多数の態様をより良好に理解できる。これらの図面の構成要素は、必ずしも縮尺で描かれているとは限らず、これよりも、本開示の原理を明瞭に説明することに重きを置いている。
【0066】
(実施例)
さて、ケラチノサイトの機能および/または増殖を調節および/または正常化するための組成物および方法、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールレベルを調節する方法、ならびに皮膚の状態を治療するための方法および組成物の実施形態を一般に説明してきたが、以下の実施例では、ケラチノサイトの機能および/または増殖を調節および/または正常化するための組成物および方法、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールレベルを調節する方法、ならびに皮膚の状態を治療するための方法および組成物の一定の実施形態を説明する。実施例1から3ならびに対応する本文および図との関連で、このような実施形態を説明するが、これらの説明に本開示の実施形態を限定する意図はない。これどころか、本意図は、本開示の実施形態の精神および範囲に含まれるすべての代案、変形および等価物を包含することである。
【実施例1】
【0067】
本実施例では、高細胞外カルシウム濃度へのケラチノサイトの長期暴露が、PLD活性を増大させること、および高細胞外カルシウムは、[3H]または[14C]グリセロールで標識した細胞におけるPLD媒介ホスファチジルグリセロール生成を増加させるが、1,25−ジヒドロキシビタミンD3はさせないことの証拠を提供する。慢性的高細胞外カルシウム暴露に基づくホスファチジルグリセロール生成のこの増加は、すべて、グリセロール取り込みの増加の結果というわけではない。加えて、PMAは、PLD活性を増大させるが、ホスファチジルグリセロールの形成を増進しない。(1)PLD−1の発現および活性は、1,25−ジヒドロキシビタミンD3によって増加されるが、PLD−2の発現および活性はされず、ならびに(2)PMAは、PLD−2より大きな程度にPLD−1を活性化するので、これは、グリセロールへの暴露に基づく放射標識PG生成が、ケラチノサイトにおけるPLD−2の活性化の尺度であることを示唆している。
【0068】
実験材料
PLD−2を過発現するSf9昆虫細胞から得た膜は、米国、カリフォルニア州のOnyx Pharmaceuticalsによって提供されたものであった。[3H]オレイン酸、[3H−パルミトイル]ホスファチジルコリン、[3H]グリセロール{製品が打ち切られたので、3つの異なる形態を使用した。[1,2,3−3H]グリセロール(200mCi/mmolの相対活性強度)、[1,2,3−3H]グリセロール(40〜80mCi/mmolの相対活性強度)および[2−3H]グリセロール(200mCi/mmolの相対活性強度)}ならびに[1,3−14C]グリセロールは、NEN/DuPont(米国、マサチューセッツ州、ボストン)から入手した。ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ならびにホスファチジルエタノール、ホスファチジン酸およびホスファチジルグリセロールの標準物質は、Avanti Polar Lipids(米国、アラバマ州、アラバスター)から購入した。ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸は、Calbiochem(米国、カリフォルニア州、サンディエゴ)またはSigma(米国、ミズーリ州、セントルイス)から入手した。カルシウム不含MEMおよび抗生物質は、Biologos,Inc.(米国、イリノイ州、Maperville)から購入した。ウシ脳下垂体エキス、表皮成長因子およびHEPES溶液(1M、pH7.4)は、Gibco BRL(米国、ニューヨーク州、グランドアイランド)から入手した。ITS+は、Collaborative Biomedical Products(米国、マサチューセッツ州、ベッドフォード)によって供給され、Atlanta Biologicals(米国、ジョージア州、アトランタ)がウシ胎仔血清を透析した。濃縮ゾーンを有するSilica gel 60 TLC プレートは、EM Science(米国、ニュージャージー州、ギブスタウン)から入手した。慣例に従って、他の試薬は、標準的な供給業者から入手し、これらは、入手できる最高グレードのものであった。
【0069】
ホスファチジルグリセロール形成のインビトロアッセイ
[3H−パルミトイル]ホスファチジルコリンを基質として用いて、PLD−2の活性をインビトロで測定した。R.D.Griner,F.Qin,E.M.Jung,CK.Sue−Ling,K.B.Crawford,R.Mann−Blakeney,RJ.Bollag,W.B.Bollag,1,25−Dihydroxyvitamin D3 induces phospholipase D−1 expression in primary mouse epiermal keratinocytes,J.Biol.Chem.274(1999)4663−4670(本明細書に参考として組み込まれる。)に記載されているように、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸から調製した脂質小胞に、放射標識ホスファチジルコリンを組み込んだ。グリセロールおよび/またはエタノールをこれらのリポソームと併せ、米国、カリフォルニア州、リッチモンドのOnyx Pharmaceuticalsによって提供されたPLD−2過発現Sf9細胞膜の添加により反応を開始させた。その後、37℃で30分間、反応を進行させた後、5mM EDTAを含有する0.2% SDSの添加により反応を停止させた。Bligh and Dyerの方法に従って脂質を抽出し、W.B.Bollag,「Measurement of phospholipase D activity,Methods」,MoI.Biol.105(1998)151−160(本明細書に参考として組み込まれる。)に記載されているとおり、放射標識リン脂質を分離し、定量した。
【0070】
細胞培養
日齢1〜3日の新生子ICRマウスから、皮膚のトリプシン浮上分離法および表皮と真皮の機械分離後、1次表皮ケラチノサイトを調製した。表皮細胞を擦過により剥離させ、遠心分離により回収し、25μM カルシウム、2% 透析ウシ胎仔血清、2mM グルタミン、5ng/mL EGF、ITS+(6.25μg/mL インスリン+6.25μg/mL トランスフェリン+6.25ng/mL 亜セレン酸+5.35μg/mL リノール酸+1.25% ウシ血清アルブミン)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンおよび0.25μg/mL フンギゾンを含有するMEMから成る培地中、6ウエルシャーレにプレーティングした。一晩、インキュベートした後、これらの細胞に、2% 透析ウシ胎仔血清を90μg/mL ウシ脳下垂体エキスに替えた無血清ケラチノサイト培地(SFKM)を再供給した。1〜3日ごとに新たな培地を細胞に再供給した。
【0071】
PLD活性および[3H]または[14C]ホスファチジルグリセロール形成
PLDアッセイのために、培養1次ケラチノサイトを、20〜24時間、2.5μCi/mL [3H]オレイン酸で標識した。その後、0.5% エタノールの存在下、ビヒクルまたは100nM PMAに、30分間、これらの細胞を暴露した。放射標識ホスファチジルグリセロールの形成を測定するために、ビヒクル、250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3または125μM カルシウムを含有するSFKMで、24時間、細胞を処理し、その後、さらに30分間、1〜2.5μCi/mL [3H]または0.4〜0.5μCi/mL [14C]グリセロールで標識した。PG形成の細胞外カルシウム依存性を調査する実験については、様々なカルシウム濃度を含有するSFKM中で、24時間、細胞をインキュベートした後、30分にわたって5μCi/mL [3H]グリセロールを添加した。場合により、25μM カルシウム(対照)含有または125μM カルシウム含有SFKMで、24時間、細胞を刺激した後、1% エタノールが存在するおよび不在の状態の[14C]グリセロールを添加した。PMAに応じてのホスファチジルグリセロール形成を測定するために、未標識細胞を、上のように、放射標識グリセロールの存在下、100nM PMAで刺激した。反応を停止させ、放射標識ホスファチジルアルコールを抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、上で言及したBollag(1998)による記載のとおりに定量した。
【0072】
[14C]ホスファチジルグリセロールのヘッドグループ位置における放射標識の実証
対照(25μM カルシウム)または125μM カルシウム含有培地で、24時間、前処理したケラチノサイトを、さらに30分間、0.4〜0.5μCi/mL [14C]グリセロールに暴露した。上で説明したように、脂質をクロロホルム/メタノールに抽出した。乾燥させた脂質抽出物を、その後、広範にボルテックスし、37℃で短時間インキュベートすることにより、ホスホリパーゼ緩衝液(100mM Tris(pH7.4)、6mM MgCl2+0.1% Triton−XIOO)に可溶化し、各抽出物の約半分を清浄な試験管に移した。その後、蒸留水(未処理)、または蒸留水で稀釈した1 IU/mL(最終濃度)のストレプトミセス・クロモフスカス PLD(Streptomyces chromofuscus PLO)(ミズーリ州、セントルイスのSigma)(PLD−処理)を、脂質抽出サンプルの各々の添加し、これらを37℃で60分間、インキュベートした。その後、放出されたヘッドグループを、本質的にはFolch.J.Rolch,M.Lees,G.H.S.Stanley,「A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues」,J.Biol.Chem.226(1957)497−509(本明細書に参考として組み込まれる)の方法に従って、水性相への抽出によりリン脂質と分離した。簡単に言うと、75μL 反応混合物を1.5mLのクロロホルム/メタノール(2:1 容量:容量)で稀釈し、その後、300μLの0.05M NaClを添加した。その後、上部水性層の一部を回収し、液体シンチレーションスペクトル分析により定量した。この水性層におけるPLD放出放射活性を、PLD処理サンプルに放出された量−対応する未処理サンプルにおいて検出された量として計算した。他の実験では、PGを、上で説明したように薄層クロマトグラフィーによって脂質抽出物から先ず単離し、ヨウ素蒸気で可視化した。クロロホルム/メタノール(2:1 容量:容量)を使用して薄層プレートからPGを抽出し、窒素下で乾燥させた。その後、この単離されたPGを可溶化し、細菌性PLDとともにまたは伴わずにインキュベートし、上のように抽出した。カウンティングのために水性アリコートを除去した後、残りの水性相を吸引し、有機相を窒素下で乾燥させた。その後、この脂質抽出物を薄層クロマトグラフィーによって分離し、サンプル中のPGおよびホスファチジン酸を、上のように定量した。
【0073】
[3H]グリセロール取り込み
集密1次ケラチノサイトを、30、60、90、120、300または600秒間、20mM HEPES(さらなるpH緩衝のため)、1μCi/mL [3H]グリセロールおよび0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKMとともにインキュベートした。二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄することにより、反応を停止させた。その後、これらの細胞を0.3M NaOHに可溶化し、この抽出物のアリコートを液体シンチレーションカウンティングに付した。各時点での二重重複サンプルから得られたカウントを平均し、グラフにし、各条件について一次方程式を決定した。得られた相関係数は、典型的に、0.99以上であった(対照についての平均相関係数は、0.992±0.002であり、PMAについては、0.994±0.001であった)。多数の実験から得られた傾きを平均し、条件間の有意差について統計解析した。
【0074】
上で決定したグリセロール取り込みの直線性により、単一の時点での取り込みを測定して、このプロセスに対する他の処理の効果を判定することができる。例えば、集密ケラチノサイトを、30分間、0.1% DMSO(対照)または100nM PMAとともにプレインキュベートした後、上のとおりだが5分でのみ、[3H]グリセロール取り込みを測定した。同様に、ほぼ集密の1次ケラチノサイトを、様々なカルシウム濃度を含有するSFKMとともに24時間、インキュベートした後、5分間の放射標識グリセロール取り込みを測定した。
【0075】
統計解析
平均値間の差の有意性は、プログラム Instat(カリフォルニア州、サンディエゴのGraphPad Software)により行う分散分析(ANOVA)を用いて判定した。
【0076】
結果
PLD−2は、インビトロでのホスファチジル基転移反応に第一アルコールとしてグリセロールを利用する(応答の特性付け)
無傷細胞において、PLDは、ホスファチジン酸を形成するにリン脂質の加水分解ばかりでなく、第一アルコールの存在下、ホスファチジルアルコールを生成させるホスファチジル基転移反応も触媒するユニークな特性を有する。従って、ホスファチジルアルコールの生成は、PLD活性の尺度として用いられている。一般には、エタノールまたは1−ブタノールなどの第一アルコールが使用される。これは、細胞によって容易に代謝されない新規ホスファチジルアルコールを生成させるからである。無傷細胞での以前の研究は、生理的第一アルコール、グリセロールも、ホスファチジル基転移反応のための基質としての役割を果たすことができることを示唆していた。PLD2過発現Sf9膜を使用して、グリセロールがインビトロでPLD2のための基質でであるかどうかを調査した。図5Aに示すように、PLD2は、グリセロールの存在下、ホスファチジルコリンからのPGの形成を触媒した。この形成は、この反応混合物中のグリセロールの濃度に依存し(図5A)、添加するPLD2の量およびインキュベーション時間にも依存した(データは示さない)。さらに、グリセロールは、第一アルコールエタノールと競合して、ホスファチジルエタノールの代わりにPGを生成させることができた(図5B)。PLD−Iが、グリセロールの存在下、インビトロでPGを生成させることも観察された(データは示さない)。
【0077】
無傷細胞への[3H]または[14C]グリセロールの添加により形成される放射標識ホスファチジルグリセロールの生成は、ケラチノサイトを高いカルシウム濃度に暴露すると増加され、1,25−ジヒドロキシビタミンD3処理で減少される
本発明者らは、ケラチノサイト分化剤、1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、24時間暴露後、PLD−Iの発現および活性を増加させることを以前に証明した(上で言及したGrinerら参照)。この実験では、[3H]グリセロールの添加前、24時間にわたって前処理した細胞におけるホスファチジルグリセロールの形成に対する、ケラチノサイトの分化を引き起こす1,25−ジヒドロキシビタミンD3および他の物質、高細胞外カルシウムレベルの効果を調査した。以前の結果に基づき、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PLD−Iの活性および発現を刺激する物質であるので、PGの生成を増加させると予想した。意外にも、1,25−ジヒドロキシビタミンD3への暴露は、対照細胞を基準にして、放射標識PGの形成を増加させず、実際、むしろ、明らかな減少が観察された(図6)。一方、125μM カルシウム含有培地での前処理は、その後のPG生成の増加を誘導した(図6)。この結果は、高いカルシウムがPLDの活性化を誘導する可能性、またはグリセロール−3−リン酸をCDP−ジアシルグリセロールに付加させるメカニズムなどの他の経路がPG合成に関係している可能性を示唆していた。
【0078】
PG生産およびグリセロール取り込みに対する高カルシウム濃度の効果は、用量依存的である
高細胞外カルシウムレベルは、ケラチノサイトの様々な分化段階を濃度依存的に誘導する。100〜125μMの範囲のカルシウム濃度は、ケラチン−1、初期(有棘層)分化のマーカー、の発現を刺激するのに対し、より高い濃度は、後期分化のマーカー、例えばトランスグルタミナーゼ活性、を誘導する。従って、ここでは、PG生産に対する高細胞外カルシウムレベルの効果の用量依存性を調査した。[25μM(対照)から1mMの範囲にわたる]高細胞外カルシウム濃度に応じてのPG形成は、二相性の用量依存性を示した(図7A)。従って、放射標識PG形成の最大刺激が、125μM カルシウムで観察され、カルシウム濃度が高くなるにつれて徐々に低下した。
【0079】
中間カルシウム濃度がPG形成を最大に刺激できるのは、グリセロール取り込みの増加、PLD活性の強化、または両方の結果であり得る。後の放射標識グリセロール取り込みに対する様々なカルシウム濃度でのケラチノサイトの前処理の影響を、説明するとおり判定した。125μMおよび250μM カルシウム含有培地への事前暴露は、25μM カルシウム対照と比較してグリセロール取り込みの(それぞれ、56%および41%の)増加を誘導し、これに対して、500μM カルシウム前処理ケラチノサイトにおけるグリセロール取り込みは、対照値とほぼ同値であった(図7B)。一方、1mMの濃度は、グリセロール取り込みのわずかではあるが、有意な阻害を(これらの実験において)誘導した。125μM カルシウム前処理で観察されたグリセロール取り込みの小さな増加が、単独で、放射標識PG生産の大きな増加の原因である可能性は低く、このことは、PLDが、中間カルシウム濃度によっても活性化されることを示唆していた。
【0080】
中間カルシウム濃度がPG合成を刺激できることは、このプロセスが初期分化事象と関係があることを示唆していた。従って、初期分化マーカーケラチン−1(10nM)の発現を刺激することもわかっている、中間1,25−ジヒドロキシビタミンD3濃度のPG合成に対する効果を検査した。中間カルシウム濃度での結果とは対照的に、1,25−ジヒドロキシビタミンD3の濃度は、PG合成を増加させず、実際、中間濃度と高濃度(250nM)、両方の1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、PG生成を有意に阻害した(図8)。
【0081】
無傷細胞における高カルシウム濃度での処理による放射標識ホスファチジルグリセロール形成の増加は、少なくとも一部はPLDによって媒介される
図6Aにおいて観察されるように、高細胞外カルシウム濃度は、PGの合成ばかりでなく、ホスファチジルコリンおよびホスファジン酸の合成の増加も誘導するようであった。従って、カルシウムは、一般的なリン脂質合成を増進させて、リン脂質のヘッドグループへではなく骨格へのグリセロールの組み込みを刺激した可能性があり、従って、PG合成増加は、PLD活性とは無関係に発生する可能性があった。エタノールおよびグリセロールは、両方とも、ホスファチジル基転移反応のための基質として作用する(図5B)ので、エタノールを使用して、高細胞外カルシウム濃度により惹起されるPG形成刺激が、PLDの活性化によって発生するのかどうかを判定した。[14C]グリセロールでPG生成を開始させる数分前に125μM カルシウムで前処理したケラチノサイトに、エタノール(1%)を添加した。図9に示すように、エタノールは、高細胞外カルシウムレベルへの事前暴露により刺激されたPG形成を有意に阻害したが、基礎(対照)PG生成には影響を及ぼさなかった。グリセロールと競合するエタノールの能力は、すべてではないかもしれないが一部は、高いカルシウム濃度により刺激されたPGの形成が、PLD活性強化の結果であることを示唆している。
【0082】
高細胞外カルシウムによって誘導されるPG合成へのPLDの関与を、脂質抽出物および単離されたPGから放射標識を放出させる細菌性PLDの能力によってさらに実証した。これらの実験では、24時間、125μM カルシウム含有培地で、またはこれを用いずに細胞を前処理した後、30分にわたって[14C]グリセロールを添加した。その後、脂質抽出物を調製し、Triton X100含有緩衝液に可溶化し、1時間、細菌性PLDとともに、または伴わずにインキュベートした。この細菌性PLDを用いて、羊水中のホスファチジルグリセロールを、このグリセロールヘッドグループを放出させるこの能力によって定量した。その後、放出されたヘッドグループを、上で説明したようなFolch法を用いて水性相に分配した。細菌性PLDとインキュベートすると、125μM カルシウム前処理細胞からの[14C]グリセロール標識脂質抽出物は、対照前処理細胞からのものの約4倍の量の放射標識を水性画分に放出した(対照:1.00±0.09;カルシウム:対照レベルに対して4.2±0.4倍;3回の独立した実験からの6つのサンプルの平均±SEMを表す値でp0.001)。この結果は、PLD媒介ホスファチジル基転移反応の増進と一致して、カルシウム暴露につれて、より多くのグリセロールがヘッドグループ位置に組み込まれていったことを示唆している。
【0083】
対照または高細胞外カルシウムで前処理細胞から単離されたPGを用いる類似の実験を図10に示す。これもまた、細菌性PLDは、対照細胞からと比較して3倍より多い放射活性を125μM カルシウム前処理細胞から単離されたPGから放出させた(対照:1.00±0.04;カルシウム:対照レベルに対して3.3±0.5倍;3回の独立した実験からの6つのサンプルの平均±SEMを表す値でp<0.01)。これらの細菌性PLD処理および未処理PGサンプルの薄層クロマトグラフ分析により、放射標識PGの一部が、放射標識PAに変換されたことを証明した。これは、一部のグリセロールが、リン脂質骨格中に存在することを示唆していた(図10)。しかし、PGにおいて見出された最初の放射標識の約40%しか、PAでは回収されず、これは、PG中の放射標識の約60%が、ヘッドグループ位置に存在することを示していた。
【0084】
ホルボールエステルは、PLD活性を増大させるが、放射標識PG形成を増加させない
無傷細胞における持続性PLD活性とケラチノサイト分化の両方を誘導することが知られているもう1つの物質は、ホルボールエステル、PMAである。従って、PG形成に対するPMAの効果を判定した。実際、PMAは、[3H]オレエートを予め標識しておいたものにおける放射標識ホスファチジルエタノールの形成を尺度として用いてモニターしところ、PLD活性の大きな増加(p<0.02)を刺激した(図11、左)にもかかわらず、PG生成の有意な(対応のないスチューデントt−検定により、p<0.01)減少を惹起した(図11、右)。放射標識PG生成を阻害するPMAの能力は、PMAにより媒介されるグリセロール取り込み減少の結果であり得る。100nM PMAの存在下および不在下での[3H]グリセロールとケラチノサイトの同時インキュベーションは、10分にわたって測定したが、グリセロール取り込みに対する有意な効果を惹起しなかった(図11)。ならびに「方法」および参考文献[25]における記載のとおり判定して、1.00の対照値に対してPMAの傾き値 0.998±0.009倍;n=3)。しかし、5分間の放射標識グリセロールの添加前のビヒクルまたはPMAでの30分間のケラチノサイトの前処理は、PMAにより誘導されるグリセロール取り込み減少を生じさせ(図12)、これは、発現に(10分より長い)時間を要するグリセロール輸送に対するホルボールエステルの効果を示唆していた。1,25−ジヒドロキシビタミンD3がPG形成を増加できないこととともに、これらの結果は、PGの生成が、PLD活性化の普遍的で当然な結果ではないことを示唆している。
【0085】
考察
PLDに関して、興味深い、有用な発見をした。ホスファチジル基転移反応における新規ホスファチジルアルコールの生成に第一アルコールを利用するこの能力。これらの特性は、PLD活性を特異的に測定するためおよびPLD媒介シグナル生成を阻害するためにシグナル伝達の研究者に利用される。しかし、本データは、PLDが、非生理アルコールを利用するこの能力を保持するための生理アルコール、グリセロールが存在することを実証している。実際、インビトロ実験において、PLD2は、ホスファチジル基転移反応のための基質としてグリセロールを利用できることが実証されている(図5)。さらに、これらの結果は、ホスファチジル基転移反応にグリセロールを利用することにより、PLDが、潜在的脂質シグナル伝達分子、PGを生じさせることを実証している。
【0086】
PLD−2がホスファチジル基転移反応に第一生理アルコールとしてグリセロールを利用する推論されるメカニズムの1つは、PLD−2が共局在し、グリセロールを取り込むメカニズムである。実際、以前の研究において、本開示の発明者らは、PLD2が、カベオリンリッチな膜マイクロドメインにアクアポリン−3と共在することを発見した(上で言及したZhang and Bollag(2003)参照)。アクアポリン−3タンパク質発現が、表皮の基底層に局在することは証明されている。この結果と一致して、分化剤、高細胞外カルシウム濃度および1,25−ジヒドロキシビタミンD3で1次ケラチノサイトを刺激するとアクアポリン−3 mRNAおよびタンパク質発現が減少することを研究により証明した。この発現減少が、また、阻害作用をもたらし、高細胞外カルシウム濃度と1,25−ジヒドロキシビタミンD3の両方が、放射標識グリセロール取り込みを減少させた。しかし、これら2つの物質による阻害に有意な差はなく、これは、放射標識PG生成に対するこれらの本質的に異なる効果が、放射標識グリセロールの取り込みを阻害するこれらの能力の差によるものでないことを示唆していた。一方、125μM カルシウムが、PG生成の最大増加を引き起こすことができるのは、これが、PLD活性を刺激し、グリセロール取り込みを阻害しない結果である可能性が高い(実際、この濃度のカルシウムでの前処理は、グリセロール取り込みを刺激した)。より高いカルシウム濃度によるグリセロール取り込みの阻害によって、様々なカルシウム濃度に応じて観察された二相性PG生産が説明される(図7)。興味深いことに、PMAもグリセロール取り込みを阻害した(図12)。これは、PKCが、アクアポリン−4について観察されたようにアクアポリン−3機能を調節するという考えと一致する。高カルシウム濃度が、PKC活性を刺激することも報告されており、これは、高カルシウムレベルがグリセロール取り込みに影響を及ぼすメカニズムと言ってもよかろう。
【0087】
高細胞外カルシウム濃度がPG生成を刺激できるのに対し、追加のケラチノサイト分化剤、1,25−ジヒドロキシビタミンD3およびPMAができないということは、これら3つの物質が分化応答を引き起こすメカニズム関する重要な相違を示唆している。従って、最高細胞外カルシウムおよび1,25−ジヒドロキシビタミンD3濃度は、これら2つの物質が完全に共通の経路を利用する場合に予想されるような付加的未満にではなく、相乗的に作用して、ケラチノサイト分化の様々なマーカーを増加させる。加えて、PMAは、後期(顆粒層)分化の誘導に準じたケラチノサイトの変化を生じさせることが知られており、実際、高細胞外カルシウムおよび1,25−ジヒドロキシビタミンD3レベルの効果とは対照的に、初期分化のマーカーを阻害する。外因性(細菌性)PLDは、ケラチノサイト分化を誘導することができ、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PLD−Iの発現および活性を誘導させるという発見に基づき、PLD−Iは、1,25−ジヒドロキシビタミンD3により誘導されるケラチノサイトの後期分化を少なくとも一部は媒介することを提案した。一方、1,25−ジヒドロキシビタミンD3は、PGの形成を増進せず(図6および8)、PMAもしない(図11)。1,25−ジヒドロキシビタミンD3が、PLD−2の発現を増加させないこと、およびPMAが、PLD−2より大きな程度にPLD−1を活性化すると報告されていることから、グリセロールへの暴露に基づくケラチノサイトにおける放射標識PGの生成は、PLD−2活性化の尺度になり得る。従って、このアッセイは、両方のPLDアイソフォームをプロセッシングする無傷細胞系において、ただ1つのPLD、PLD−2の活性をモニターする方法となる。
【0088】
これらの研究の興味深い態様は、放射標識グリセロールを付加させたときに観察される、ホスファチジルコリンおよびホスファチジン酸の形成であった。PGでは、グリセロールが、ホスファチジル基転移反応において、おそらく、少なくとも一部はヘッドグループとして組み込まれる。この組み込みをエタノールによって阻害することができるからである(図9)。実際、細菌性PLDを利用してリン脂質ヘッドグループを放出させるインビトロ実験は、高細胞外カルシウム前処理が、ヘッドグループ位置へのグリセロールの組み込みを増進することを示した(図10)。ホスファチジルコリンおよびホスファチジン酸において、グリセロールは、グリセロール骨格としてリン脂質に組み込まれる可能性が最も高い。グリセロールに対するグリセロールキナーゼの作用によって生じる、グリセロール3−リン酸への2つの脂肪酸の付加(脂肪−アシルCoA経由)によって、ホスファチジン酸が新たに形成され、脱リン酸化ホスファチジン酸(ジアシルグリセロール)へのコリンのその後の付加(CDP−コリン経由)によって、ホスファチジルコリンを生成する。放射標識グリセロールを合計30分間しか付加させなかったので、この結果は、急速で能動的なリン脂質合成を示唆していよう。この考えは、皮膚の水透過性バリアを形成するための脂質の生成におけるケラチノサイトの役割と一致する。放射標識グリセロールが、PGの骨格にも組み込まれ、これが、放射標識PG形成の増加の原因の一部であることも明らかになった。従って、この結果は、PG合成が、少なくとも2つ方法(PLD媒介ホスファチジル基転移反応による方法、ならびにCDP−ジアシルグリセロールへのグリセロール−3−リン酸の付加およびその後のリン酸基除去という、より伝統的な経路による方法)で発生し得ることを追認する。
【0089】
ケラチノサイトにおけるPGの役割については、幾つかの可能性が存在する。皮膚の基底層へのグリセロール輸送性アクアポリン−3の局在に基づき、このシグナル伝達経路が増殖能力またはおそらく初期分化事象において機能すると予想することができよう。この考えは、放射標識PG生成が、ケラチン−1(初期分化のマーカー)のほぼ最大の発現を誘導することがわかっている中間カルシウム濃度(125μM;図7)によって最大に刺激されるという観察結果と一致する。このような解釈は、PKC−βue−媒介有糸分裂進行におけるPGの一定の役割を示すデータによっても支持される。以前の研究は、マウスケラチノサイトのノーザン分析によりPKC−βの検出可能な発現がなかったと報告しているが、マウスとヒトの両方における他の研究は、ケラチノサイトにおけるこのアイソフォームの発現を示唆していた。一方、アクアポリン−3ヌルマウス突然変異体の最近の作製および初期特性付けは、正常な皮膚生理に対するこのアクアグリセロポリンの重要性を示唆している。これらのヌルマウスは、乾燥皮膚の皮膚表現型および変化した保水能力を示した。加えて、表皮からこの水不透過性外層(角質層)が剥がれることによる水分の吸収が、アクアポリン−3ヌルマウスでは異常であり、これは、この水分補給能力を阻害する、表皮構造の一部の態様の変化を示唆している。この結果に基づき、アクアポリン−3ヌルマウスにおけるPG形成の減少によってケラチノサイトの成長および/または分化に欠陥が生じ、その結果、これらの突然変異体では異常な皮膚生理が観察されるのだと考えられる。
【実施例2】
【0090】
本実施例では、酸感受性アクアグリセロポリンを通して進入するグリセロールが、PGを形成するためにPLDに利用されることを実証する、ケラチノサイトにおけるPLD2/AQP3/グリセロール/PGモジュールについてのさらなる証拠を提供する。一過性共形質移入試験において、ケラチノサイト増殖または分化状態のマーカーのプロモーターがルシフェラーゼ発現を発動するレポーター構築物と、AQP3を共発現させた。これらの試験は、AQP3の共発現が、ケラチン5(基底、増殖性ケラチノサイトのマーカー)のプロモーター活性を阻害し、ケラチン10(初期ケラチノサイト分化のマーカー)のプロモーター活性を増大させ、ならびにインボルクリン(中期分化のマーカー)のプロモーター活性に対する高細胞外カルシウムレベルの効果を強化したことを示した。グリセロールおよび1,2−プロピレングリコール(3番の末端炭素上のヒドロキシル基が1個ないグリセロール)は、低カルシウム濃度(25μM)においても、中間カルシウム濃度(125μM)においても、用量依存的にDNA合成を阻害し、これに対して等価濃度の浸透活性物質、キシリトールおよびソルビトールは、ほとんどまたは全く効果がなかった。PGリポソームの直接供給によっても、急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成が用量依存的に阻害されたが、成長阻害細胞では、PGリポソームにより、DNAへの[3H]チミジン組み込みが用量依存的に増進された。PGリポソームがトランスグルタミナーゼ活性を刺激する傾向も観察された。これらのデータが、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成り、ならびに増殖性ケラチノサイトの成長阻害および/または初期分化の促進に関与する、シグナル伝達モジュールのアイデアを支持している。
【0091】
実験手順
ケラチノサイト調製および細胞培養
ケラチノサイトは、ICR CD−I 非近交系交配マウスから、研究機関内動物管理使用委員会(the Institutional Animal Care and Use committee)により承認されたプロトコルに従って調整した。簡単に言うと、皮膚を回収し、一晩、0.25% トリプシン中、4℃でインキュベートした。表皮と真皮を分離し、基底ケラチノサイトをこの表皮の下側からかき落とした。遠心分離により細胞を回収し、Dodd,M.E.,Ristich,V.L.,Ray,S.,Lober,R.M.and Bollag,W.B.(In press)J.Invest.Dermatol(本明細書に参考として組み込まれる)に記載されているようなプレーティング培地中で一晩、95% 空気/5% 二酸化炭素の雰囲気下、37℃でインキュベートした。このプレーティング培地を、同じくDoddらに記載されているような無血清ケラチノサイト培地(SFKM)に替え、使用するまで1〜2日ごとに新たな培地を細胞に供給した。
【0092】
[3H]グリセロール取り込みアッセイ
ほぼ集密のケラチノサイト培養物を、SFKM(25μM カルシウム)、または125μM カルシウムを含有するSFKM(125μM Ca2+−SFKM)中で24時間、インキュベートし、Zheng & Bollag(2003)に以前に記載されたとおりグリセロール取り込みアッセイを行った。簡単に言うと、細胞を、20mM HEPES(さらなるpH緩衝のため)および1μCi/mL [3H]グリセロールを含有するSFKMとともに、5分間[この時点が、[3H]グリセロール取り込みの線形範囲内にあることが以前に証明されている(Zheng & Bollag(2003))ので]、インキュベートした。二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS−)での3回の迅速な洗浄により反応を停止させた。その後、これらの細胞を0.3M NaOHに可溶化し、[3H]グリセロール取り込みを液体シンチレーションスペクトル分析により定量した。
【0093】
PG合成
ほぼ集密のケラチノサイトを、SFKM(25μM カルシウム)、または125μM カルシウムを含有するSFKM(125μM Ca2+−SFKM)中で24時間、インキュベートした後、0.5から1μCi/mL [14C]グリセロールを10分にわたって添加し、PG合成を[6]におけるがごとく判定した。簡単に言うと、放射標識PGをクロロホルム/メタノールに抽出し、Zheng,X.,Ray,S.and Bollag,W.B.(2003)Biochim.Biophys.Acta,1643,25−36(本明細書の参考として援用されている)に記載されているとおりシリカゲル60プレートでの薄層クロマトグラフィーによって分離した。
【0094】
共形質移入分析
共形質移入実験は、pcDNA3空ベクターまたはAQP3をプロセッシングする構築物を1ng、ケラチン5、ケラチン10またはインボルクリンのプロモーターがルシフェラーゼの発現を発動するレポーター構築物のうちの1つを1ng、および形質移入効率を正常化するためのpRL−SV40 コントロールベクター(Promega Dual Luciferase Repoter Assay kitに含まれているもの)を0.25ng使用して行った。ケラチン5およびケラチン10プロモーター−ルシフェラーゼ構築物は、Dr.Bogi Andersen(カリフォルニア州、アーヴィンのUniversity of California)によって提供され、インボルクリンプロモーター−ルシフェラーゼ構築物は、Dr.Daniel Bikle(カリフォルニア州、サンフランシスコのUniversity of California)によって提供された。TransItKeratinocyteをこの製造業者の説示に従って使用して、亜集密(約30%)ケラチノサイトをトランスフェクトした。24時間後、25μM(対照)または1mM−Ca2+を含有する培地をさらに24時間にわたって細胞に供給した。その後、Dual Luciferase Reporter Assay kit(ウィスコンシン州、マディソンのPromega)をこの製造業者による指図どおりに使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0095】
DNA合成のアッセイ
上述のGrinerらの以前の記載のとおり、DNA合成の尺度としてDNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。ほぼ集密のケラチノサイト培養物を、示した添加物を含有するSFKM中で24時間、インキュベートした。SFKN中の乾燥PGのバス超音波処理(bath sonication)により調製したリポソームの形態でPGを添加して、2mg/mLの原液を作った。その後、1μCi/mLの最終濃度で[3H]チミジンを細胞に添加して、さらに1時間、インキュベートした。PBS−での洗浄により反応を停止させ、氷冷5%トリクロロ酢酸で高分子を沈殿させた。細胞を0.3M NaOHに可溶化し、DNAに組み込まれた放射活性を液体シンチレーションスペクトル分析によって定量した。
【0096】
トランスグルタミナーゼアッセイ
ケラチノサイトをPGリポソームで処理し、かき落とすことで回収し、均質化用緩衝液中で遠心分離し、1回の冷凍解凍サイクル後に超音波処理により溶解させた。これらの破壊細胞におけるトランスグルタミナーゼ活性を、Bollag,W.B.,Zhong,X.,Dodd,M.E.,Hardy,D.M.,Zheng,X.and Allred,W.T.(2005)J.Pharm.Exp.Ther.,312,1223−1231(本明細書に参考として組み込まれる)に記載されているとおり、ジメチル化カゼインに架橋した[3H]プトレッシンの量としてモニターした。架橋したプトレッシン−カゼインをトリクロロ酢酸で沈殿させ、濾過によって回収した。データを各サンプル中のタンパク質の量に対して正規化し、標準物質としてウシ血清アルブミンを用いるBiorad protein assayを使用して判定し、適切な対照を基準にして表した。
【0097】
統計
実験は、指示どおり最低3回は行った。Instat(カリフォルニア州、サンディエゴのGraphPad Software)を用いてStudent−Newmann−Keuls 多重比較検定での分散分析(ANOVA)により、値の統計学的有意性を分析した。
【0098】
結果
酸性培地でのグリセロール取り込みの阻害は、PG合成を阻害する
上で論じたように、本発明者らは、PLD2およびAQP3が、ケラチノサイト中のカベオリンリッチな膜マイクロドメインに局在することを以前に示した。加えて、示したように、PLD媒介PG合成は、ケラチノサイト中の高細胞外カルシウムレベルによって刺激され、ならびにPGを生成するホスファチジル基転移反応のために、AQP3が、PLD2にグリセロールを供給するようである。肺細胞AQP3は、酸性培地によって阻害されるので、低pHの培地がグリセロール取り込みおよびPG合成を阻害するかどうかを調査した。ケラチノサイトを、対照SFKM(25μM Ca2+)、または125μM Ca2+を含有するSFKMとともに24時間、インキュベートした後、pH4または7.4のSFKM中での[3H]グリセロール取り込みおよび[14C]PG生成を測定した。図13Aに示すように、125μM Ca2+は、対照培地におけるグリセロール取り込みを有意に刺激した。低pH培地は、基底条件下でも、中間カルシウム濃度で刺激したときも、グリセロール取り込みを有意に阻害した(図13A)。同様に、pH4培地は、対照培地とともにインキュベートした細胞においても、125μM Ca2+培地とともにインキュベートした細胞においても、[14C]グリセロールとの10分のインキュベーション後、放射標識PG合成を有意に阻害した(図13B)。pH4培地によるグリセロール取り込みおよび/またはPG生産の阻害が毒性と関係しないことを保障するために、一部の細胞は、pH4培地との5分間のプレインキュベーションも行い、その後、対照pH7.4培地中でのグリセロール取り込みまたはPG合成を測定した(pH4/7)。pH4培地とのプレインキュベーションは、グリセロール取り込みまたはPG生成に対して本質的に効果がなかった(図13)。
【0099】
AQP3の共発現は、ケラチン5プロモーター活性を阻害し、ケラチン10プロモーター活性を刺激し、インボルクリンプロモーター活性に対する高細胞外カルシウムレベルの効果を強化する
1次マウス表皮ケラチノサイトは、高効率でトランスフェクトすることが難しい場合がある。この限界を克服するために、細胞を、AQP3または空ベクターと、Doddらが記載したようなケラチノサイト増殖または分化マーカーのプロモーターがルシフェラーゼ発現を制御するレポーター構築物とでコ・トランスフェクトした。トランフェクション前にベクターを入念に混合するので、1つのベクターを取り込む細胞が、他のベクターを受け入れることができ、その結果、AQP3または空ベクターも有する細胞のみのレポータールシフェラーゼ活性を測定することができる。ケラチン5発現は、基底増殖性ケラチノサイトの特徴であるのに対し、ケラチン10およびインボルクリンは、分化性有棘細胞の特色であり、ケラチン10は、初期分化マーカーとしておよびインボルクリンは、中間分化のマーカーとしての役割を果たす。図14Aは、基底条件下の、および分化剤(1mM カルシウム)とともに24時間インキュベートした後の、ケラチン5プロモーターに対するAQP3共発現の効果を説明する図である。AQP3共発現は、ケラチン5プロモーター活性の(空ベクターでトランスフェクトされた対照の49±12%への)有意な減少を誘導した。カルシウム(1mM)もケラチン5プロモーターを(64%)阻害し、AQP3共発現の有意なさらなる効果はなかった。一方、AQP3共発現は、ケラチン10プロモーター活性を刺激した(図14B)。1mM カルシウムでの処理は、ケラチン10の発現を22%阻害し、この効果は、AQP3共発現によって、一部、くつがえされた。分化剤として、1mM カルシウムは、ケラチノサイト10プロモーター活性を増大させると予想されるが、このような高いカルシウム濃度は、ケラチンを後期分化に駆り立て、実際には初期分化マーカーの発現を減少させる。最後に、AQP3共発現は、インボルクリンプロモーターのみに対しては有意な効果はなかったが、1mM カルシウムにより誘導された刺激を強化した(図14C)。これらの結果は、AQP3共発現が初期ケラチノサイト分化を促進することと一致する。
【0100】
グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールはDNA合成を阻害するが、キシリトールおよびソルビトールはしない
AQP3およびPLD2は、PGを生成させるためのホスファチジル基転移反応においてPLD2が使用するグリセロールを提供するために共局在するようであり、その後、このPGが、初期ケラチノサイト分化を促進するように作用する。これは、AQP3チャネルを通したグリセロールの送達の増加も、初期分化を引き起こすことができることを示唆している。初期分化の第一の顕著な特徴の1つが、細胞周期からの退出およびDNA合成の減少であるので、DNA合成の尺度であるDNAへの[3H]チミジン組み込みに対する(このチャネルを通るフラックスを増す)外因性グリセロールの効果を調査した。図15Aに示すように、0.02%のような低いグリセロール濃度(=2.73mM)が、ケラチノサイトDNA合成を有意に阻害した。より高いグリセロール濃度の効果も調査した。しかし、浸透ストレスがケラチノサイト機能を調整するので、グリセロール等価濃度の2つの他の浸透圧調整剤(キシリトールおよびソルビトール)の任意の浸透効果に対する制御も、対照として用いた。図15Bに示すように、0.1から1%の濃度のグリセロールは、DNA合成を阻害し、125μM Ca2+の阻害効果を強化した。一方、キシリトールは、基底または125μM Ca2+阻害DNA合成に対して有意な効果を有さなかった。同様に、対照に対しても、125μM Ca2+によって低減されるDNAへの[3H]チミジンの組み込みに対しても、有意な効果が観察されなかった(図15C)。
【0101】
AQP3ヌル突然変異マウスの試験において、グリセロールは、このノックアウトモデルの表皮表現型を修正することができたが、キシリトールまたは1,2−プロピレングリコール(または1,3−プロピレングリコール)は、できなかった。従って、1,2−プロピレングリコールを、基本的に、および125μM Ca2+での分化時に、DNA合成を阻害するこの能力についても検査した。1,2−プロピレングリコールの効果は、グリセロールのものと類似しており、対照(25μM Ca2+)条件下でおよび125μM Ca2+での分化時に[3H]チミジンの用量依存的阻害を示した。グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールの類似性の証拠となるこれらの構造も、図16Bに示す。
【0102】
PGリポソームは、急速分裂性ケラチノサイトにおけるDNA合成を阻害し、トランスグルタミナーゼ活性を刺激する
さらに、PGそれ自体の直接供給も初期分化を引き起こすと考えられる。リポソームの形態のPGをケラチノサイトに直接供給することにより、高増殖性細胞におけるDNA合成が阻害されることが判明した(図17A)。最大阻害は25μg/mLで観察され、50〜100μg/mLはプラトーであった。細胞死の特徴である形態学的変化が観察されなかった(データは示さない)ので、この効果が毒性を意味する可能性は低い。加えて、PGリポソームは、トランスグルタミナーゼ活性(後期ケラチノサイト分化のマーカー)増加方向の用量依存的傾向を誘導した(図17B)。
【0103】
PGリポソームは遅増殖性細胞におけるDNA合成を刺激する
毒性がないことのさらなる証拠は、おそらく接触阻害の結果として増殖減少を示す、観察されたケラチノサイトに対するPGリポソームの効果によって提供される。従って、(対照条件下でのDNAへの[3H]チミジン組み込みの減少によって示されるような)増殖能力が低下したケラチノサイトにPGリポソームを適用した場合、DNA合成は、約35μg/mLの濃度で半最大効果および100μg/mLで最大刺激と、用量依存的に刺激された(図18)。この結果は、急速分裂性細胞の増殖を阻害し、成長が低下した設定では増殖を増加させるケラチノサイトの増殖を正常化する能力をPGが有することを示唆している。
【0104】
考察
PGを合成するためのホスファチジル基転移反応においてグリセロールを利用するPLDの能力、およびPLD2とAQP3との相互作用は、グリセロールがホスファチジル基転移のためにこのアイソエンザイムに到達することができるメカニズムを示唆している。AQP3のグリセロール取り込み機能に対するこの阻害は、PG合成も減少させ得る。図13は、酸性培地が、125μM Ca2+により惹起されるグリセロール取り込みとPG合成の同時減少を誘導することを示している。しかし、他のアクアポリン、例えばアクアポリン−9、は、グリセロールを輸送することができ、ケラチノサイトによって発現されるので、これら他のアクアグリセロポリンも、ケラチノサイトにおけるグリセロール取り込みおよびPG合成に寄与し得る。
【0105】
PLD2/AQP3シグナル伝達モジュールによって合成されるPGは、ケラチノサイトおよび表皮機能を調整する脂質メッセンジャーとしての役割を果たすと考えられる。AQP3ヌル突然変異マウスは、グリセロールによって修正され得るが、他の浸透活性物質によっては修正されない表皮表現型を示す。本共発現試験は、AQP3が、初期ケラチノサイト分化を促進する:AQP3が、ケラチン5(基底増殖層のマーカー)のプロモーター活性を低下させることを示唆している(図14A)。ケラチン5発現のダウンレギュレーションは、有棘層における第一基底上細胞への基底ケラチノサイトの移行の特徴である。ケラチン10の発現の増加;AQP3の共発現によって減少するケラチン10プロモーター活性も、有棘ケラチノサイトの特徴である(図14B)。高いカルシウムレベルは、ケラチノサイトを、初期分化段階を通り過ぎて後期分化段階に進ませることがあり、その結果、ケラチン10プロモーター活性がわずかに減少する(図14B)。ケラチノサイトが、多数の有棘層を通って上に移動するように進むにつれて、インボルクリンを発現し始める。AQP3共発現だけでは、インボルクリンプロモーター活性を有意に増大させなかったが、AQP3は、この中間分化マーカーのプロモーター活性に対する別の分化剤、高細胞外カルシウム濃度の効果を強化した(図14C)。AQP3が、これらの様々なマーカーのプロモーター活性に、直接、すなわち、他の転写因子および/またはプロモーターこれら自体との相互作用により、影響を及ぼす可能性は低いようであることに留意しなければならない。むしろ、これらの結果は、初期分化表現型を誘導するAQP3の発現、ならびに細胞の分化状態がこれらのプロモーターの活性を制御することに準じる。
【0106】
グリセロールインフラックスの増加により、PG合成が促進され、この初期分化表現型が促進される(この主要事象は、成長停止である)と考えられる。実際、グリセロールは、DNA合成を阻害し、この阻害は、等価濃度の2つの他の浸透活性化合物(キシリトールおよびソルビトール)によっては再現されなかった(図15)。これは、この阻害が、浸透圧重量モル濃度の増加の結果ではないことを示唆していた。興味深いことに、1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)は、DNA合成に対してグリセロールと本質的に同じ効果を生じさせた(図16)。1,2−プロピレングリコールでのホスファチジル基転移によって形成されたリン脂質(末端炭素上のヒドロキシ基がないPG)は、PGエフェクター酵素を活性化するために十分、PGに似ていると考えられる。
【0107】
グリセロールが、PG形成のための基質としての役割を果たすことにより、ケラチノサイト増殖を改変するように機能する場合には、PGの直接供給もDNA合成を阻害する。実際、(基底条件下でのDNAへの高い[3H]チミジン組み込みによって判定されるような)急成長細胞の場合、PGは、DNA合成を用量依存的に減少させた(図17)。毒性の形態学的相関現象が観察されなかった(データは示さない)ので、この効果は、非特異的毒性の結果であるようではなかった。加えて、PG用量の増加によってトランスグルタミナーゼ活性(後期ケラチノサイト分化のマーカー)が刺激される傾向も明らかになった。しかし、意外にも、DNA合成減少を示したケラチノサイトでは、おそらく接触阻害の結果として、PGは、用量依存的に、DNA合成を刺激した(図18)。この二相性応答のメカニズムは、不明である(しかし、可能性は、下で論じる)が、表皮が高増殖性である場合、PGリポソームはケラチノサイト成長を阻害すると予想され、これに対して増殖が少なすぎる条件下(例えば、老化)ではこれらのリポソームは成長を増進させる。従って、これらの結果は、PGリポソームが、病的条件下においても、生理状態下においても皮膚機能を正常化する理想的な治療法であり得ることを示唆している。
【0108】
PGシグナルのエフェクター酵素も不明であるが、可能性としては、PG感受性プロテインキナーゼ、例えばプロテインキナーゼC−II、PKC−およびPk−Pが挙げられる。もしくは、PGを血漿膜および/または特定のマイクロドメインに組み込み、膜タンパク質構築および/またはマイクロドメイン機能に影響を及ぼすことができる。一例として、PGは、青緑色細菌およびホウレンソウのチラコイド膜における光化学系構築に利用される。PGは、カルジオリピン(=ジホスファチジルグリセロール)の前駆体でもあり、PGおよびカルジオリピンは、両方とも、ミトコンドリア機能において重要である。カルジオリピンは、シトクロムcに結合し、この脂質の酸化は、ミトコンドリアからシトクロムcを放出させると考えられ、この事象が、アポトーシスを開始させ得る。加えて、ミトコンドリアを枯渇させたカルジオリピンとPG、両方のインキュベーションは、これらの膜電位を一部保持することができ、これは、シトクロムc放出およびアポトーシスに対抗する。実際、PGは、網膜上皮細胞においてアポトーシスを阻害することができる。従って、PGは、プロテインキナーゼ経路の活性化により急速増殖性ケラチノサイトの成長阻害を誘導することができる(図17Aにおけるとおり)が、このリン脂質は、ミトコンドリアの機能およびエネルギー生産を向上させることにより、阻害細胞における増殖を促進することができる(図18におけるとおり)。紫外線への暴露によりAQP3発現に関して観察されたアップレギュレーションは、PG生成、ミトコンドリアの健康、および照射のストレスからの回復を促進する細胞の反応であると考えられる。従って、AQP3、PLD2、グリセロールおよびPGから成る新規シグナル伝達モジュールは、皮膚におけるグリセロールの有益な効果についてのメカニズムであると言える。さらに、本結果は、このモジュールが、インビトロおよびインビボでのケラチノサイトの成長および分化の重要な調節因子であり、様々な皮膚の疾患および/または状態のための新規治療法をもたらすことを示している。
【実施例3】
【0109】
グリセロールおよびホスファチジルグリセロールは創傷治癒を加速する
本実施例では、ICR CD1マウスにおいて得られた創傷治癒に対するグリセロールおよびホスファチジルグリセロール治療の効果に関する最近のデータを提示する。約4mmの2箇所の全厚皮膚パンチ生検を合計16匹のマウスの背中において行った。各マウスについて、一方の創傷は、(a)治療しなかったか、(b)水中2Mのグリセロールで治療、(c)二価カチオン不含の酸緩衝生理食塩水(PBS−)で治療、または(d)100μg/mL ホスファチジルグリセロールを含有するPBS−(超音波処理してリポソームにしたもの)で治療した。その後、創傷治癒率を、デジタル写真およびコンピューター画像分析により、4日間にわたって追跡した。4グループの各々についての1日目を基準にした4日目における創傷治癒のパーセンテージを棒グラフとして図19に示す。予想どおり、グリセロール治療は、創傷治癒率を向上させた。さらに重要なこととして、PGリポソームも創傷治癒率を上昇させ、この向上は、統計学的に有意であった。これらの結果により、皮膚機能においてPGが重要であるという考えが確認される。
【0110】
本開示の上記実施形態は、実施の単なる可能例であり、本開示の原理を明瞭に理解するために示すものであることを強調しておく。本開示の精神および原理を実質的に逸脱することなく、本開示の上記実施形態に多くの変形および変更を成すことができる。慣例に従って、このような変更および変形は、ここでは本開示の範囲内に包含され、以下の特許請求の範囲によって保護されると解釈する。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】皮膚の層ならびにケラチノサイトの増殖および分化の段階の説明図である。
【図2】PLDのホスファチジル基転移反応を説明する図である。水の存在下、PLDは、リン脂質ホスファチジルコリンの加水分解を触媒して、ホスファチジン酸(PA)およびコリンを生じさせる。しかし、少量の第一アルコール、例えばエタノール、1−ブタノールまたはグリセロールの存在下では、PLDは、ホスファチジル基転移反応を触媒して、対応するホスファチジルアルコールを生成させる。
【図3】調節酵素、シグナル生成酵素およびエフェクター酵素を含む、PLDシグナル伝達経路を説明する図である。
【図4】AQP3−PLD2−グリセロール−ホスファチジルグリセロールシグナル伝達モジュールのモデルである。
【図5】グリセロールが、インビトロでのホスファチジル基転移反応においてホスホリパーゼDの基質としての役割を果たすことを説明する図である。リポソームは、[3H−ジパルミトイル]ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸から超音波処理によって作製した。1%エタノールの不在(A)または存在(B)下、示されている濃度のグリセロールをこの反応混合物に添加した。Sf9 PLD2過発現膜(1μg タンパク質)の添加により反応を開始させ、30分間、37℃でインキュベートし、0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加により停止させた。脂質を抽出し、分離し、定量した。この図は、少なくとも2つの追加実験の代表である。形成されたホスファチジン酸(PA)、PGおよびホスファチジルエタノール(PEt)の絶対レベルには、多少の可変性があった。これは、超音波処理中に多層小胞が形成される程度のばらつきに起因する可能性が高い。
【図6】ホスファチジルグリセロール形成は、高細胞外カルシウム濃度に暴露された分化性細胞では増加されるが、1,25−ジヒドロキシビタミンD3に暴露された分化性細胞ではされないことを実証する図である。ほぼ集密のケラチノサイトを(A)25μM−カルシウム−SFKM含有ビヒクル(Con;0.05% エタノール)、250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3(D3)、または125μM カルシウム(+0.05% エタノール;Ca2+)とともに、24時間、インキュベートした。その後、2.5〜5μCi/ウエル [3H]グリセロールをさらに30分にわたって37℃で添加した。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、リン脂質を抽出し、分離し、定量した。結果は、対照値に対して〜倍と表し、3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照に対して、*p<0.001。パネルBに示す薄層クロマトグラムは、パネルAにおいて定量した3つの実験の代表である。
【図7】高細胞外カルシウム濃度が、ホスファチジルグリセロールの生成およびより少ない程度ではあるがグリセロールの取り込みを用量依存的に増加させることを示す図である。ほぼ集密のケラチノサイトを、様々な濃度のカルシウムを含有するSFKMとともに、24時間インキュベートした。(A)その後、これらの細胞を、さらに30分間、5μCi/ウエル [3H]グリセロールとともにインキュベートした後、0.2% SDS(±5mM EDTA)で反応を停止させ、放射標識PGを抽出し、分離し、定量した。値は、対照(25μM−カルシウム−SFKM)に対して〜倍と表し、5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05。(B)様々なカルシウム濃度で24時間、前処理した後、これらの細胞を、20mM HEPESを含有するSFKM中の1μCi/ウエル [3H]グリセロールとともに、5分間、インキュベートし、その後、二価カチオン不含の氷冷リン酸緩衝生理食塩水での広範な洗浄によって反応を停止させた。値は、対照(25μM−カルシウム−SFKM)に対して〜倍と表し、5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、**p<0.01、*p<0.05。
【図8】中および高濃度の1,25−ジヒドロキシビタミンD3に暴露された分化性細胞ではホスファチジルグリセロールの形成が阻害されることを示す棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを、0.05% エタノール(Con)、10nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3、または250nM 1,25−ジヒドロキシビタミンD3(D3)を含有するSFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、2.5〜5μCi/ウエル [3H]グリセロールを、さらに30分にわたって、37℃で添加した。0.2% SDS(+5mM EDTA)の添加により反応を停止させ、「方法」において説明したようにリン脂質を抽出し、分離し、定量して、対照値に対して〜倍と表した。結果は、3回の独立した実験の平均±SEMを意味する。;対照に対して、*p<0.01、**p<0.001。
【図9】細胞外カルシウム濃度により刺激されがホスファチジルグリセロールの形成が、エタノールにより阻害されることを説明する棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM−カルシウム SFKM(対照)または125μM−カルシウム SFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、1% エタノールの存在下および不在下で、0.5〜1μCi/ウエル [14H]グリセロールとともに、さらに30分間、インキュベートした。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、放射標識PGを抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、定量した。値は、対照(エタノール不含)に対して〜倍と表し、4回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照に対して、*p<0.01、**p<0.001、125μMカルシウム SFKMのみに対して、○p<0.01。
【図10】細菌性ホスホリパーゼDによって、対照細胞に対して高濃度の細胞外カルシウムで前処理した細胞から単離されたホスファチジルグリセロールからのほうが、増加した放射標識が放出されたことを示す図である。ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM−カルシウム SFKM(対照)または125μM−カルシウム SFKMとともに、24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、1μCi/ウエル [14C]グリセロールとともに、さらに30分間、インキュベートし、その後、これらの脂質をクロロホルム/メタノールに抽出し、薄層クロマトグラフィーによってPGを分離した。可溶化後、対照細胞(Con)または125μM カルシウム処理細胞(Ca2+)から単離されたPGを、細菌性(PLD)とともに、または伴わずに(H2O)インキュベートし、薄層クロマトグラフ分離後、PG中に残存する放射活性(明るい縞模様の棒)およびホスファチジン酸中に残存する放射活性(暗い縞模様の棒)を定量した。値は、3回の独立した実験からの平均±SEMを意味する;対応する未処理対照値に対して、*p<0.001、対応する未処理カルシウム処理値対して、○p<0.001。
【図11】ホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA)は、PLDを活性化するにもかかわらず、ホスファチジルグリセロールの形成を誘導しないことを示す棒グラフである。ほぼ集密のケラチノサイトを放射標識なしで(ホスファチジルグリセロール生成のため)または2.5μCi/mL [3H]オレエートで前標識して(ホスファチジルエタノール形成のため)、20〜24時間、インキュベートした。その後、これらの細胞を、[3H]グリセロールの存在下(ホスファチジルグリセロール生成のため)、または0.5% エタノールの存在下(ホスファチジルエタノール形成のため)で、ビヒクル(0.05〜0.1% DMSO;Con)または100nM PMAで刺激した。0.2% SDS(±5mM EDTA)の添加によって反応を停止させ、放射標識ホスファチジルグリセロール(PG)またはホスファチジルエタノール(PEt)を抽出し、薄層クロマトグラフィーによって分離し、定量した。値は、対照に対して〜倍と表し、二重重複または三重重複で行った3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対応のないスチューデントt−検定により、適切な対照に対して、*p<0.02。
【図12】PMAとの同時インキュベーションではなく、PMAでの前処理により、[3H]グリセロール取り込みが阻害されることを説明する図である。グリセロール取り込みは、PMAを用いておよび用いずに、前処理または同時に処理した細胞において測定した。「前処理なし」サンプルについては、20mM HEPES、1μCi/mL [3H]グリセロールおよび0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKM中で、5分間、細胞をインキュベートした。「PMAで30分の前処理」サンプルについては、集密ケラチノサイトを、0.1% DMSO(対照)または100nM PMAを含有するSFKM中で、30分間、プレインキュベートした。その後、20mM HEPESおよび1μCi/mL [3H]グリセロールを含有するSFKM中で、5分間、細胞をインキュベートした。サンプルの両方のセットについて、放射標識グリセロールの取り込みを測定した。値は、二重重複または三重重複で行った3回(前処理なし)または5回(30分の前処理)の独立した実験の平均を意味する;100%の対照値(点線)に対して、*p<0.001。
【図13】pH4の細胞外培地が、放射標識グリセロール取り込み(A)およびPG合成(B)を阻害することを説明する図である。ケラチノサイトを、対照(25μM Ca2+)培地(Con)または125μM Ca2+(Ca2+)含有培地で、24時間、前処理した。その後、一部の細胞を、5(パネルA)分間、pH4の培地とともにインキュベートし、その後、示されているようにpH4または7(7.4)で、(A)5分間の[3H]グリセロール取り込みを測定または(B)10分間の[14C]PG合成を行った。結果は、二重重複で行った(A)4回または(B)3回の実験の平均±SEMを意味する;対照値(pH7で測定した対照細胞におけるグリセロールの取り込みまたはPG合成)に対して、*p<0.05、**p<0.001;pH7(7.4)で測定したCa2+値に対して、tp<0.01、‖p<0.001。[3H]グリセロール取り込み(パネルA)および[14C]PG合成(パネルB)に対する低pHの効果が本質的に可逆的であったことに注目すべし(pH7とpH4/7を比較)。
【図14】AQP3過発現が、ケラチン5プロモーター活性を低下させ、ケラチン10プロモーター活性を増大させ、ならびにインボルクリンプロモーター活性に対する高[Ca2+]eの効果を強化することを実証する棒グラフである。TransIT keratinocyteをこの製造業者が説明しているとおりに使用して、1次ケラチノサイトを、pcDNA3ベクター単独(対照)またはAQP3を有するこのベクターおよび(A)ケラチン5プロモーター/レポーター遺伝子構築物または(B)インボルクリンプロモーター/レポーター遺伝子構築物(および正規化のためにpRL−SV40)で、コ・トランスフェクトした。24時間後、25μM(対照)または1 HiM−Ca2+を含有する培地をさらに24時間にわたって細胞に供給した。その後、Dual Luciferase kitをこの製造業者が指示しているとおりに使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。活性は、pcDNA3でトランスフェクトした対照細胞を基準にして示し、三重重複で行った3回の実験の平均±SEMを意味する;対照(未処理pcDNA3ベクター)値に対して、*p<0.01、**p<0.001;対照条件下、AQP3でトランスフェクトした値に対して、fp0.01、f†pθ .001;およびCa2+で処理したpcDNA3ベクター対照値に対して、§p<0.001。
【図15】グリセロールは、DNA合成を阻害し、高い細胞外Ca2+濃度の阻害効果を強化するが、キシリトールおよびソルビトールではしないことを説明する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、24時間、0.02または0.1% グリセロールとともにインキュベートし、DNAへの[3H]チミジン組み込みについての組み込みとして、DNA合成を測定した。(B)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G、四角)または等価濃度のキシリトール(X、丸)とともに、24時間、インキュベートした。(C)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G)または等価濃度のソルビトール(S、三角)とともに、24時間、インキュベートした。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。値は、二重重複で行った4から5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05、**p<0.01;Ca2+が存在する状態での値のみに対して、fp<0.05。
【図16】1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)が、DNA合成を阻害し、高い細胞外 Ca2+濃度の阻害効果を強化することを実証する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、25μM(対照;白抜きの記号)または125μM Ca2+(Ca2+;黒塗りの記号)を含有するSFKM中、示されている濃度のグリセロール(G、四角)または等価濃度の1,2−プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、三角)とともに、24時間、インキュベートした。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを、[3]におけるがごとく判定した。値は、二重重複で行った3から5回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.05、**p<0.01;Ca2+が存在する状態での値のみに対して、|p<0.05。(B)グリセロールおよび1,2−プロピレングリコールの構造が、これらの立体配置の類似性の証拠となる。
【図17】PGリポソームが、増殖性ケラチノサイトにおけるDNA合成を阻害し、トランスグルタミナーゼ活性を用量依存的に刺激することを説明する図である。(A)ほぼ集密のケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。その後、DNAへの[3H]チミジン組み込みを判定した。対照におけるDNAへの[3H]チミジン組み込みは、85,550±5,730cpm/ウエルであった。値は、二重重複で行った7から9回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.01、**p<0.001。(B)ほぼ集密のケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。その後、トランスグルタミナーゼ活性を判定した。値は、二重重複で行った独立した実験の平均±SEMを意味する;用量が増すにつれて、有意な刺激の傾向を示した;*p<0.05。
【図18】PGリポソームが、成長阻害ケラチノサイトにおけるDNA合成を増加させることを示す図である。集密ケラチノサイトを、無血清ケラチノサイト培地中でのPGのバス超音波処理により調製した、示されている濃度のホスファチジルグリセロール(PG)で、24時間、処理した。[3H]チミジン組み込みを上のとおり判定した。対照条件下でのDNAへの[3H]チミジン組み込みは、12,880±1,040cpm/ウエルであった。値は、二重重複で行った3回の独立した実験の平均±SEMを意味する;対照値に対して、*p<0.01、**p<0.001。
【図19】創傷治癒率に対するグリセロールおよびホスファチジルグリセロールの効果を示す棒グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチノサイトを、ケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するために有効量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグと接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項2】
核酸合成が、調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸合成が、阻害される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸合成が、増進される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量の、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを含む、皮膚の状態を治療するための組成物。
【請求項6】
医薬的に許容される担体または賦形剤をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ホスファチジルグリセロールが、皮膚細胞分裂を阻害するまたは減少させるために有効量で存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ホスファチジルグリセロールが、皮膚細胞分裂を誘導または増進するために有効量で存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記皮膚の状態が、望ましくない皮膚細胞増殖を特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記皮膚の状態が、乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌および無秩序な細胞分裂のうちの少なくとも1つから選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
前記皮膚の状態が、細胞老化である、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記皮膚の状態が、創傷、瘢痕または他の物理的皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項13】
グリセロールまたはこの機能性誘導体をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量の、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグのリポソームを含む、皮膚の状態を治療するための組成物。
【請求項15】
皮膚の状態を治療するための方法であって、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを、前記皮膚の状態を治療するために有効量で宿主に投与することを含む方法。
【請求項16】
前記ホスファチジルグリセロールが、局所投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ホスファチジルグリセロールが、リポソームを使用して送達される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記皮膚の状態が、望ましくない皮膚細胞増殖を特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記皮膚の状態が、乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌および無秩序な細胞分裂のうちの少なくとも1つから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記皮膚の状態が、細胞老化、加齢、および露光に起因する皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記皮膚の状態が、創傷、日焼け、糖尿病性潰瘍、加齢性潰瘍、瘢痕および他の物理的皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
宿主のケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主における皮膚の状態を治療するための方法。
【請求項23】
宿主のケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主における創傷治癒の加速方法。
【請求項24】
ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を変更することによる、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項25】
前記ホスファチジルグリセロールの量の変更が、ホスファチジルグリセロールの量を増加させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ホスファチジルグリセロールの量の増加が、ケラチノサイトを一定量のホスファチジルグリセロールと接触させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ホスファチジルグリセロールの量の増加が、細胞のホスファチジルグリセロール生産を増加させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞のホスファチジルグリセロール生産の増加が、ホスホリパーゼD2、アクアポリン−3またはこれらの組み合わせの活性を増大させることを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ケラチノサイトを一定量のグリセロールまたはこの機能性誘導体と接触させることをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ケラチノサイト中のアクアポリン−3、ホスホリパーゼD2またはこれらの組み合わせの量または活性を調節して、このケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節することを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項31】
アクアポリン−3、ホスホリパーゼD2またはこれらの組み合わせの量または活性を調節することにより、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールのレベルが調節される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アクアポリン−3の量の調節が、ケラチノサイトにおけるアクアポリン−3の発現を増加させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記アクアポリン−3の活性の調節が、ケラチノサイトにおけるアクアポリン−3の活性を増大させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ホスホリパーゼD2の活性の調節が、ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の活性を増大させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の量の調節が、ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の発現を増加させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の量の調節が、ケラチノサイトにホスホリパーゼD2を投与することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
ホスファチド酸およびホスファチジルグリセロールの生産を調節するために有効量の非グリセロール系アルコールとケラチノサイトを接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項38】
宿主における皮膚の状態を治療する方法であって、この宿主に前記皮膚の状態を治療するために有効量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含み、前記皮膚の状態が皮膚細胞の増殖不足を特徴とする場合には、ホスファチジルグリセロールが皮膚細胞増殖を刺激し、ならびに前記皮膚の状態が皮膚細胞の増殖過多を特徴とする場合には、ホスファチジルグリセロールが皮膚細胞増殖を阻害する方法。
【請求項39】
宿主におけるケラチノサイト増殖を正常化する方法であって、この宿主に一定量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含み、増殖減少状態下ではホスファチジルグリセロールがケラチノサイト増殖を刺激し、増殖過多状態下ではホスファチジルグリセロールがケラチノサイト増殖を阻害する方法。
【請求項40】
宿主ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主におけるケラチノサイト増殖の調節方法。
【請求項1】
ケラチノサイトを、ケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節するために有効量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグと接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項2】
核酸合成が、調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸合成が、阻害される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸合成が、増進される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量の、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを含む、皮膚の状態を治療するための組成物。
【請求項6】
医薬的に許容される担体または賦形剤をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ホスファチジルグリセロールが、皮膚細胞分裂を阻害するまたは減少させるために有効量で存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ホスファチジルグリセロールが、皮膚細胞分裂を誘導または増進するために有効量で存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記皮膚の状態が、望ましくない皮膚細胞増殖を特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記皮膚の状態が、乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌および無秩序な細胞分裂のうちの少なくとも1つから選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
前記皮膚の状態が、細胞老化である、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記皮膚の状態が、創傷、瘢痕または他の物理的皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項13】
グリセロールまたはこの機能性誘導体をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚細胞シグナル伝達を調節するために有効量の、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグのリポソームを含む、皮膚の状態を治療するための組成物。
【請求項15】
皮膚の状態を治療するための方法であって、ホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを、前記皮膚の状態を治療するために有効量で宿主に投与することを含む方法。
【請求項16】
前記ホスファチジルグリセロールが、局所投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ホスファチジルグリセロールが、リポソームを使用して送達される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記皮膚の状態が、望ましくない皮膚細胞増殖を特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記皮膚の状態が、乾癬、湿疹、日光性角化症、アトピー性皮膚炎、基底細胞癌、非黒色腫性皮膚癌および無秩序な細胞分裂のうちの少なくとも1つから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記皮膚の状態が、細胞老化、加齢、および露光に起因する皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記皮膚の状態が、創傷、日焼け、糖尿病性潰瘍、加齢性潰瘍、瘢痕および他の物理的皮膚損傷のうちの少なくとも1つのから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
宿主のケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主における皮膚の状態を治療するための方法。
【請求項23】
宿主のケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主における創傷治癒の加速方法。
【請求項24】
ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を変更することによる、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項25】
前記ホスファチジルグリセロールの量の変更が、ホスファチジルグリセロールの量を増加させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ホスファチジルグリセロールの量の増加が、ケラチノサイトを一定量のホスファチジルグリセロールと接触させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ホスファチジルグリセロールの量の増加が、細胞のホスファチジルグリセロール生産を増加させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞のホスファチジルグリセロール生産の増加が、ホスホリパーゼD2、アクアポリン−3またはこれらの組み合わせの活性を増大させることを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ケラチノサイトを一定量のグリセロールまたはこの機能性誘導体と接触させることをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ケラチノサイト中のアクアポリン−3、ホスホリパーゼD2またはこれらの組み合わせの量または活性を調節して、このケラチノサイトにおけるシグナル伝達を調節することを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項31】
アクアポリン−3、ホスホリパーゼD2またはこれらの組み合わせの量または活性を調節することにより、ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールのレベルが調節される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アクアポリン−3の量の調節が、ケラチノサイトにおけるアクアポリン−3の発現を増加させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記アクアポリン−3の活性の調節が、ケラチノサイトにおけるアクアポリン−3の活性を増大させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ホスホリパーゼD2の活性の調節が、ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の活性を増大させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の量の調節が、ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の発現を増加させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記ケラチノサイトにおけるホスホリパーゼD2の量の調節が、ケラチノサイトにホスホリパーゼD2を投与することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
ホスファチド酸およびホスファチジルグリセロールの生産を調節するために有効量の非グリセロール系アルコールとケラチノサイトを接触させることを含む、ケラチノサイト機能の調節方法。
【請求項38】
宿主における皮膚の状態を治療する方法であって、この宿主に前記皮膚の状態を治療するために有効量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含み、前記皮膚の状態が皮膚細胞の増殖不足を特徴とする場合には、ホスファチジルグリセロールが皮膚細胞増殖を刺激し、ならびに前記皮膚の状態が皮膚細胞の増殖過多を特徴とする場合には、ホスファチジルグリセロールが皮膚細胞増殖を阻害する方法。
【請求項39】
宿主におけるケラチノサイト増殖を正常化する方法であって、この宿主に一定量のホスファチジルグリセロール、この機能性誘導体、この医薬的に許容される塩またはこのプロドラッグを投与することを含み、増殖減少状態下ではホスファチジルグリセロールがケラチノサイト増殖を刺激し、増殖過多状態下ではホスファチジルグリセロールがケラチノサイト増殖を阻害する方法。
【請求項40】
宿主ケラチノサイト中のホスファチジルグリセロールまたはこの機能性誘導体の量を調節することを含む、宿主におけるケラチノサイト増殖の調節方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2008−521818(P2008−521818A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543522(P2007−543522)
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/042748
【国際公開番号】WO2006/083373
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507166195)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/042748
【国際公開番号】WO2006/083373
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507166195)
【Fターム(参考)】
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