説明

ケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体

【課題】側壁が破損して中詰材が流出したケーソンを潜水作業を軽労化し、容易にかつ確実に補修可能とするケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体を提供する。
【解決手段】ケーソン1の上面から隔室10に作業者が往来可能な貫通穴7を穿設し、この貫通穴7から隔室10に、芯棒11に一端部を固定して巻回した土木シート13を複数搬入し、複数の土木シート13をそれぞれ展開して隔室10の四方それぞれの壁面Wに張設し、端部どうしをファスナで連結して隔室10の壁面Wに沿った筒状に形成して破損部5を塞いだ後に、この隔室10にコンクリートCを打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体に関し、さらに詳しくは、潜水作業を軽労化し、容易にかつ確実に側壁が破損して中詰材が流出したケーソンを補修可能とするケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーソンの港外側には、消波ブロックが配置されているが、この消波ブロックは波力によって動かされて、ケーソンの側壁に衝突して側壁を破損させることがある。このような破損を図8〜9に例示したケーソン1に基づいて説明する。
【0003】
ケーソン1の内部は隔壁4で仕切られ、複数の隔室10が設けられている。それぞれの隔室10には中詰材Sが収容され、ケーソン1の上面は上部コンクリート6で覆われている。図9では左側が港外側で、右側が港内側となっており、ケーソン1の港内側側壁3側には消波ブロック18は配置されないが、港外側側壁2には壁面に沿って消波ブロック18が配置されるため、波力で移動した消波ブロック18が港外側側壁2に衝突して側壁2が破損し、この破損部5が隔室10まで達すると中詰材Sが外部に流出することになる。
【0004】
ケーソン1は、安定して設置するために内部に十分な重量の中詰材Sを収容しているが、中詰材Sの流出が進行して重量が大幅に減少するとケーソン1の安定性が損なわれるため、小さな破損部5であっても、確実に補修して十分な重量を確保する補修方法が必要となる。
【0005】
ケーソンの補修に関しては、連設されたケーソンどうしの目地に隙間が生じた際にこの隙間を補修する方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案では、隙間に沿って袋材を配置して、この袋材の内部に硬化材を注入して硬化させてケーソンの目地の隙間を塞ぐようにしている。
【0006】
しかしながら、消波ブロックが配置されている側壁に沿ってこの提案されている補修材を配置するのは困難であり、また、破損部をこの補修材で完全に塞ぎきれないという問題がある。さらに、この提案では流出した中詰材の重量を補完してケーソンの安定性を確保することはできず、ケーソンを補修するための新たな手段が必要であった。
【特許文献1】特開2003−41549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、側壁が破損して中詰材が流出したケーソンを潜水作業を軽労化し、容易にかつ確実に補修可能とするケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のケーソンの補修方法は、側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修方法であって、前記ケーソンの上面から前記隔室に作業者が往来可能な貫通穴を穿設し、該貫通穴から前記隔室に芯棒に一端部を固定して巻回した土木シートを搬入し、該搬入した土木シートを展開して、前記隔室の壁面に張設して前記破損部を塞いだ後に、この隔室にコンクリートを打設することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の補修体は、側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修に用いる補修シートであって、両端部にファスナを有し、コンクリートを保持可能な複数の土木シートを備え、該複数の土木シートは、前記隔室のそれぞれの壁面に張設され、端部どうしを前記ファスナで互いに連結されて前記隔室の壁面に沿った筒状に形成されて、前記破損部を塞ぐことを可能とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のケーソンの補修方法によれば、側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修方法であって、ケーソンの上面から隔室に作業者が往来可能な貫通穴を穿設し、この貫通穴から隔室に芯棒に一端部を固定して巻回した土木シートを搬入し、搬入した土木シートを展開して、隔室の壁面に張設して破損部を塞ぐので、作業者の潜水作業は、波の影響が少ない隔室のみで行われて安全である。また、芯棒に一端部を巻回した土木シートを固定しているので、面積の大きい土木シートでも容易に搬入することができ、搬入した後に土木シートを展開して隔室の壁面に張設して破損部を塞ぐだけなので、作業の軽労化を図ることができる。
【0011】
さらに、破損部を土木シートで塞いだ後にコンクリートを打設するので、容易にかつ確実に破損部を塞いで、流出した中詰材をコンクリートで補完してケーソンを所定重量にして安定させて補修を完了させることができる。
【0012】
本発明の補修体によれば、側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修に用いる補修体であって、両端部にファスナを有し、コンクリートを保持可能な複数の土木シートを備え、この複数の土木シートは、隔室のそれぞれの壁面に張設され、端部どうしをファスナで互いに連結されて隔室の壁面に沿った筒状に形成されて、破損部を塞ぐことを可能とするので、上記した本発明のケーソンの補修方法に用いることができ、この補修方法による効果を得ることができる。即ち、潜水作業を軽労化し、容易にかつ確実に破損部を塞いで、コンクリートで補完してケーソンを所定重量にして安定させるように補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のケーソンの補修方法およびこれに用いる補修体を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図8〜9に例示した破損したケーソン1を補修するには、第1過程として図1に示すように、ケーソン1の上面である上部コンクリート6から中詰材Sが流出した隔室10に貫通穴7を穿設する。この貫通穴7は作業者が往来可能な大きさとする。貫通穴7から作業者である潜水士が隔室10に潜入して隔室10の壁面Wの上部に前もってアンカー17を固設しておくことが好ましい。
【0015】
第2過程として図2に示すように、芯棒11に一端部を固定して巻回した土木シート13を貫通穴7から隔室10に搬入する。これによって、広い面積の土木シート13をコンパクトにして容易に搬入することができる。土木シート13の巻回方法は特に限定されず、芯棒11に一端部が固定されてコンパクトに巻回されていればよい。尚、本発明において巻回するとは、小さく折り畳むことを含むものである。
【0016】
側壁2の外側の破損部5周辺に空間的な余裕があれば、土木シート13を隔室10に搬入する前に、予め破損部5を覆うように側壁2の外側に防波板8をアンカー9等で固定しておくと、隔室10に海水が流入するのを防ぐことができ、作業を容易にすることができる。
【0017】
第3過程として図6に示すように、土木シート13の一端部を固定した芯棒11を予め固設しておいたアンカー17に取付けてから土木シート13を展開する。芯棒11を固定してから巻回した土木シート13展開するので、潜水作業でも容易である。
【0018】
土木シート13は、打設するコンクリートCを保持可能な材質からなっており、いわゆるジオテキスタイルと呼ばれる土木等の用途に使用される高分子材料からなる織布や不織布、編物等を用いることができる。その他に、ゴム製シートや各種樹脂シートなどコンクリートCを保持可能なものであれば使用することができる。
【0019】
土木シート13の上端部は複数の通し穴15を有するベルト状になっており、この通し穴15に紐等を通して結束して芯棒11に固定されている。固定手段は、これに限らず一般的な手段を用いることができる。
【0020】
土木シート13を張設するのは、少なくとも破損部5がある壁面W、即ち、隔室10の破損した壁面Wとして、土木シート13で破損部5を塞ぐようにするが、隔室10の四方の壁面Wに張設し、壁面Wに沿った筒状に形成することが好ましい。
【0021】
具体的には、図5に例示するように、隔室10の四方それぞれの壁面Wに張設する4枚の土木シート13a〜13dの両端部にファスナ14を設け、ファスナ14で端部どうしを連結して筒状に形成する。このように張設することによって、土木シート13a〜13dの位置ずれを生じにくくして、より安定して張設できる。
【0022】
4枚の土木シート13a〜13dのうち、破損部5を塞ぐ一枚の土木シート13の引張り強度を他の土木シート13よりも高くしておくのが好ましい。また、土木シート13a〜13dに十分な補強をする場合には、補強ベルト16が設けられる。
【0023】
土木シート13の下端部を折りこみ可能としておくと、図3に示すように、折り込んだ下端部を底面Lに沿わせ、押え具12等で固定することでコンクリートC打設時の土木シート13のめくれを防止して、確実に隔室10にコンクリートCを充填することが可能となる。それぞれの土木シート13の下端部を密に連結して袋状に形成すると、打設するコンクリートCのもれを最小限にすることができる。
【0024】
以上のように、土木シート13によって隔室10側から破損部5を塞ぐ第3過程が完了する。
【0025】
第4過程として図4に示すように、貫通穴7から隔室10にコンクリートCを打設して、隔室10および貫通穴7を埋める。コンクリートCの打設は、一度でも複数回に分けてもよい。破損部5は土木シート13で塞がれているので、コンクリートCが外部に流出することはなく、隙間なくコンクリートCが充填されて固化する。これによって、中詰材Sの流出で軽くなったケーソン1は、コンクリートCで所定重量に補完されて安定化して補修される。
【0026】
実施形態では、土木シート13の隔室10の壁面Wへの固定にアンカー17を用いているが、これに限定されず、他の固定具を使用することができる。また、連結する土木シート13の数や形状は、破損部5や隔室10等の条件によって適宜決定することができる。
【0027】
コンクリートCの打設前に破損部5からの海水の流入が激しい場合は、隔室10の壁面Wに張設した土木シート13が破損または脱落し易くなる。このような場合は図7に示すように、まず、破損部5にファスナ14が位置するように土木シート13を隔室10の壁面Wに張設し、ファスナ14を下方から破損部5の下端部まで締め、締めた高さまでコンクリートCを打設する。次に、コンクリートCの養生後、ファスナ14で破損部5を塞ぐように土木シート13の上端部まで締め、隔室10の残りの部分にコンクリートCを打設する。
【0028】
この補修方法によれば、破損部5から隔室10に流入してくる海水による土木シート13のずれを最小限にしつつ、作業を効率化して補修を完了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の補修方法の第1過程を説明する縦断面図である。
【図2】本発明の補修方法の第2過程を説明する縦断面図である。
【図3】本発明の補修方法の第3過程を説明する縦断面図である。
【図4】本発明の補修方法の第4過程を説明する縦断面図である。
【図5】本発明の補修体の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の補修体を構成する土木シートを隔室の壁面に固定する状態を示す説明図である。
【図7】破損部からの海水の流入が激しい場合の補修方法において、土木シートのファスナを締める状態を例示する説明図である。
【図8】破損したケーソンを示す正面図である。
【図9】図7のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ケーソン 2 港外側側壁 3 港内側側壁 4 隔壁
5 破損部
6 上部コンクリート(ケーソンの上面)
7 貫通穴
8 防波板 9 防波板用アンカー
10 隔室
11 芯棒
12 押え具
13、13a〜13d 土木シート
14 ファスナ
15 通し穴
16 補強ベルト
17 土木シート固定用アンカー
18 消波ブロック
S 中詰材
C コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修方法であって、前記ケーソンの上面から前記隔室に作業者が往来可能な貫通穴を穿設し、該貫通穴から前記隔室に芯棒に一端部を固定して巻回した土木シートを搬入し、該搬入した土木シートを展開して、前記隔室の壁面に張設して前記破損部を塞いだ後に、この隔室にコンクリートを打設するケーソンの補修方法。
【請求項2】
前記隔室に前記芯棒に一端部を固定して巻回した土木シートを複数搬入し、該複数の土木シートをそれぞれ展開して前記隔室のそれぞれの壁面に張設し、端部どうしを連結して前記隔室の壁面に沿った筒状に形成して、前記破損部を塞ぐ請求項1に記載のケーソンの補修方法。
【請求項3】
前記それぞれの土木シートの両端部にファスナを設け、該ファスナで端部どうしを連結して筒状に形成する請求項2に記載のケーソンの補修方法。
【請求項4】
前記破損部をケーソンの側壁の外側から防波板で覆ってから前記土木シートを前記隔室に搬入する請求項1〜3のいずれかに記載のケーソンの補修方法。
【請求項5】
側壁が破損して、隔室に収容した中詰材がこの破損部から流出したケーソンの補修に用いる補修体であって、両端部にファスナを有し、コンクリートを保持可能な複数の土木シートを備え、該複数の土木シートは、前記隔室のそれぞれの壁面に張設され、端部どうしを前記ファスナで互いに連結されて前記隔室の壁面に沿った筒状に形成されて、前記破損部を塞ぐことを可能とする補修体。
【請求項6】
前記複数の土木シートのうち一枚の土木シートの引張り強度を他の土木シートよりも高くした請求項5に記載の補修体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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