説明

ケーソン用中詰材

【課題】汚染土壌を安定化処理した土壌を原料としたケーソン用中詰材を提供する。
【解決手段】汚染土壌に固化材を添加して重金属の溶出量を抑制し、さらに該土壌に粒状化剤を添加して粒径75μm以下の細粒分の含有量を5.0wt%以下にし、また製錬スラグを添加して比重を2.5以上および充填密度を1.6g/cm3以上にしたことを特徴とするケーソン用中詰材であって、好ましくは、鉛溶出量0.01mg/L以下、水銀溶出量0.0005mg/L、ホウ素溶出量を1.0mg/L以下に低減したケーソン用中詰材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーソン用中詰材に関し、より詳しくは、汚染土壌を安定化処理した土壌を原料としたケーソン用中詰材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎や港湾工事に用いられるケーソンの中詰材としては、通常、 HYPERLINK "http://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88" コンクリート、 HYPERLINK "http://kotobank.jp/word/%E7%9F%B3%E6%9D%90" 石材、砂質材料などが用いられている。この砂質材料として従来から山砂、海砂などが採掘されているが、近年は環境破壊や環境汚染などの問題を生じないように採掘が制限されており、良質な材料が減少している。
【0003】
ケーソン用中詰材としての砂質材料に要求される物性はJIS規格などには定められていない。一般的には,砂礫に近似した物性であればよいと考えられており、例えば、高波による流失がないこと、有害物質の溶出がないことが求められ、またケーソン内への充填が容易であることなどの施工性も考慮する必要がある。
【0004】
ケーソン用中詰材について、一般には次のような物性を満たせばよいと考えられている。(イ)75μm以下の細粒分が5%未満であること、(ロ)粒子の比重が2.5以上であること、(ハ)充填密度が1.6g/cm3以上であること、(ニ)有害物質の溶出による環境汚染がないこと。
【0005】
一方、汚染土壌について環境破壊や環境汚染を生じない対策が求められており、その処理方法として、掘削除去・土壌入れ換え、浄化処理、原位置封じ込め、固化不溶化処理などが知られているが、現状では大部分が掘削除去されている。具体的には、汚染土壌を掘削して散逸や流出しないように厳重に管理された埋立て処分場に廃棄している。しかし、廃棄処理が進むのに伴い、次第に処分場の埋設可能面積は減少し、しかも新規の処分場建設は難しい状況にある。
【0006】
また、セメントや石灰系材料用いて汚染土壌を固化不溶化して汚染物質の溶出量を低減させる処理が行われている(特許文献1,2)。具体的には、特許文献1の処理方法は、重金属で汚染された土壌に対してカルシウム化合物およびリン酸塩水溶液を散布することによって、カドミウム、鉛などの重金属が土壌から溶出するのを防止する方法。また、特許文献2の処理方法は、汚染土壌に不溶化剤を加え、汚染土壌に含有する六価クロムを不溶化する方法であり、不溶化剤として、スラグ含有量31〜70%の高炉セメントを汚染土壌1m3あたり150kg以上加えて、水セメント比(W/C)80〜120%に調整する方法である。
【0007】
また、特許文献3には、ケーソン用中詰材として、JIS標準網篩74μmを通過する粒子が5%未満,固結粒子の比重2.5以上,充填密度1.6g/cm3以上のボーキサイト溶解残渣を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−57937号公報
【特許文献2】特開2001−321756号公報
【特許文献3】特開平7−180159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1または特許文献2に記載された重金属の溶出試験の結果によれば、これらの方法では重金属を土壌に固定する効果が十分ではなく、周辺の環境保全が充分に行うことができない場合、法的な環境基準を充たすことが難しい場合もあり得る。しかも、これらの固化不溶化処理は汚染物質を封じ込めた状態であるため、継続的に汚染物質が流出しないように、土壌汚染対策法では処理場所を指定区域とし、モニタリングを継続する必要を課している。そのため,固化不溶化処理は増加していないのが現状である。さらに、汚染土壌については、調査費用や汚染土壌の浄化処理費用、掘削除去・入れ換え費用が高いため、再開発や再利用が進まず、すなわちブラウンフィールド問題となっている。
【0010】
特許文献3の中詰材は、物性を限定したボーキサイト溶解残渣を用いるものであり、一般的な材料ではないため、条件が適合するものを入手するには難しく、利用し難いと云う問題がある。
【0011】
本願発明は、従来の処理方法ないし中詰材について、上記問題を解決したものであり、重金属で汚染された土壌を、セメントや石灰またはセメント系固化材により固化不溶化処理し、これをケーソン用中詰材として有効利用する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下の構成からなるケーソン用中詰材が提供される。
〔1〕汚染土壌に固化材を添加して重金属の溶出量を抑制し、さらに該土壌に粒状化剤を添加して粒径75μm以下の細粒分の含有量を5.0wt%以下にし、また製錬スラグを添加して比重を2.5以上および充填密度を1.6g/cm3以上にしたことを特徴とするケーソン用中詰材。
〔2〕汚染土壌に固化材を添加して鉛溶出量を0.01mg/L以下、水銀溶出量を0.0005mg/L以下に低減した上記[1]に記載するケーソン用中詰材。
〔3〕汚染土壌に固化材を添加して固化処理したものを水に浸漬し、その上澄み水のpHが7.5〜8.5のものを原料土壌として用いる上記[1]または上記[2]に記載するケーソン用中詰材。
〔4〕原料の土壌に生石灰を添加してホウ素溶出量を1mg/L以下に低減した上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するケーソン用中詰材。
〔5〕粒状化剤として硫酸、リン酸、硝酸、または水溶性アクリル樹脂を含有する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するケーソン用中詰材。
〔6〕粒径75μm以下の細粒分の含有量が5.0wt%以下である原料土壌については粒状化剤を含まない上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するケーソン用中詰材。
〔7〕比重2.5以上および充填密度1.6g/cm3以上の原料土壌については製錬スラグを含まない上記[1]〜上記[6]の何れかに記載するケーソン用中詰材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の中詰材は、汚染土壌を原料とするので、汚染土壌の利用を図ることができる。さらに、本発明の中詰材は、粒径75μm以下の細粒の含有量を5.0wt%以下であり、比重を2.5以上および充填密度を1.6g/cm3以上であるので、ケーソン用として好適であり、また好ましくは、鉛溶出量を0.01mg/L以下、水銀溶出量を0.01mg/L以下、ホウ素溶出量を0.6mg/L以下に低減されており、汚染物質の固形安定化効果が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の中詰材は、汚染土壌に固化材を添加して重金属の溶出量を抑制し、さらに該土壌に粒状化剤を添加して粒径75μm以下の細粒分の含有量を5.0wt%以下にし、また製錬スラグを添加して比重を2.5以上および充填密度を1.6g/cm3以上にしたことを特徴とするケーソン用中詰材である。
【0015】
本発明の中詰材は、重金属で汚染された土壌に固化材を添加して重金属の溶出量を抑制した土壌を原料として用いる。固化材としてはセメント、石灰、またはセメントを主成分にしたセメント系固化材などを用いることができる。
【0016】
固化材の添加量は、処理後の重金属溶出量が、「土壌汚染に係る環境基準について(平成3年8月23日,環境庁告示第46号)」に定める基準値以下になる量が好ましい。具体的には、汚染土壌に固化材を加えて固化処理した土壌について、上記規定に基づく重金属の溶出試験を行い、例えば、鉛の溶出量が0.01mg/L以下、水銀の溶出量が0.0005mg/L以下になる量が好ましい。
【0017】
また、ホウ素が含まれる汚染土壌については、生石灰などを加えてホウ素の溶出量を1.0mg/L以下に低減するのが好ましい。
【0018】
固化材を添加して固化処理した土壌は、これを水に浸漬して、その上澄み水が中性域であるもの、具体的にはそのpHが7.5〜8.5のものが好ましい。
【0019】
上記固化処理した土壌に、あるいは固化処理と共に、粒状化剤を加えて粒径75μm以下の細粒分の含有量を5.0wt%以下に調整する。粒状化剤としては、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸、あるいは水溶性アクリル樹脂(吸水性高分子化合物:商品名ソイルハード)などを用いることができる。粒状化剤の添加量は粒径75μm以下の細粒分の含有量が5.0wt%以下になる量である。
【0020】
例えば、汚染土壌に固化材と共に粒状化剤を加えて混合し、粒状化状態を目視観察し、十分に粒状化して混合容器への付着が少なくなった段階で混合終了すればよい。なお、粒状化を行う前の汚染土壌について、細粒分の量が少なく、粒径75μm以下の細粒の含有量が5.0wt%以下であるものは、粒状化剤を添加する必要はない。
【0021】
また本発明の中詰材は、軽量な汚染土壌、例えば、関東ロームや腐植土などについては、汚染土壌に製錬スラグを添加して比重および充填密度を高めると良い。具体的には、土壌に製錬スラグを加えて比重を2.5以上にして、ケーソンへの充填密度を1.6g/cm3以上にすると良い。製錬スラグは銅スラグ、鉄鋼スラグやフェロニッケルスラグなどを用いることができる。これらの製錬スラグは土壌よりも重いので、土壌の比重を大きくすることができる。製錬スラグは固化材と共に、あるいは固化材および粒状化剤と共に添加すればよい。
【0022】
なお、汚染土壌が製錬スラグを加えない状態で比重2.5以上ないし充填密度1.6g/cm3以上であるものは、製錬スラグを加えなくても良い。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。使用した材料を以下に示す。
〔汚染土壌〕
汚染土壌A:鉛溶出量0.08mg/L、粘性土、湿潤密度1.65g/cm3
汚染土壌B:水銀溶出量0.0051mg/L、関東ローム、湿潤密度1.38g/cm3
汚染土壌C:ホウ素溶出量4.7mg/L、砂質土、湿潤密度1.97g/cm3
〔固化材〕
特殊土用セメント系固化材ユースタビラー50(宇部三菱セメント社製:US50)
生石灰(菱光石灰工業社製:CA)
〔粒状化剤〕
水溶性アクリル樹脂:吸水性高分子剤ソイルハード(三菱化学社製:SH)
リン酸:関東化学社製品
〔製錬スラグ〕
銅スラグ:小名浜製錬社製品(密度3.6g/cm3
【0024】
〔試験方法〕
汚染土壌A、B、Cにおのおの固化材を加え(固化材の添加量は土壌1m3に対して80kg/m3)、さらに、表1〜表3に示す固化材、粒状化剤、製錬スラグをおのおの添加し、ホバート型ミキサーで3分間混合した。粒状化の状態は目視により観察し、表4に示す3段階で判定した。その後、処理土の細粒分含有率を孔径75μmの篩を用いて測定した。この処理土を用いて供試体を作成した。各供試体はサミットモールド(寸法φ5cm×10cm)を使用して作成し、地盤工学会基準「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法(JGS 0821)」に準拠して、材齢1日まで気中養生し、その後水中養生させ、材齢7日で上澄み水のpH測定と重金属の溶出試験を実施した。供試体重量と水中養生用の水量の比は1:20とした。この結果を表1〜表3に示した。
【0025】
〔実施例1〜3〕
実施例1は汚染土壌Aに製錬スラグを添加せず、粒状化剤として水溶性アクリル樹脂を添加した。実施例2は汚染土壌Aに製錬スラグを添加せず、粒状化剤としてリン酸を添加した。実施例3は汚染土壌Aに銅スラグ50kg/m3を添加し、粒状化剤としてリン酸を添加した。一方、比較例1は製錬スラグおよび粒状化剤の何れも添加していない。
【0026】
実施例1〜3は、何れも細粒(粒径75μm以下)の含有量が2.1wt%〜2.4wt%、および比重(2.55〜2.70)、充填密度1.69g/cm3〜1.81g/cm3であり、ケーソンへの充填性に優れている。また、上澄み水のpHが中性域であって、鉛溶出量が検出限界以下(<0.0001mg/L)であり、汚染物質の固定安定化効果に優れている。また、銅スラグを添加した実施例3は比重および充填密度が大きい。
【0027】
一方、製錬スラグおよび粒状化剤の何れも添加していない比較例1は固化材を添加しているので鉛溶出量は少ないが、上澄み水のpHがアルカリ性であり、また塊状であるためハンドリング、運搬やケーソンへの充填に支障が生じる懸念があるので、ケーソン用中詰材として不適である。
【0028】
〔実施例4〜5〕
実施例4および実施例5は、銅スラグを添加しているので比重が大きく、また粒状化剤を添加しているので細粒分の割合が3.3wt%以下であり、ケーソンへの充填密度が高い。実施例4と実施例5を比較すると、充填密度は銅スラグ量に応じて高い。また、何れも上澄み水のpHが中性域であり、水銀の溶出量が検出限界以下であり、汚染物質の固定安定化効果に優れている。
【0029】
一方、比較例2は、原料土壌が関東ロームであり、銅スラグを添加しないので、比重が小さく、従って充填密度が1.45g/cm3と低く、ケーソン用中詰材として不適である。
【0030】
〔実施例6〜7〕
実施例6および実施例7は、不溶化材として生石灰を添加しているので、ホウ素の溶出量は0.6mg/L以下であり、環境基準を満足している。また、原料土壌が砂質土であって湿潤密度が高いので、製錬スラグを添加しなくても充填密度が2.0g/cm3以上であり、さらに何れも上澄み水のpHが中性域であり、細粒分の割合が3.1wt%以下であるのでケーソン用中詰材として好適である。
【0031】
一方、比較例3は、細粒分の割合が6wt%以上と大きく、しかもホウ素の溶出量が2.5mg/Lであって環境基準を超えるので、ケーソン用中詰材として不適である。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌に固化材を添加して重金属の溶出量を抑制し、さらに該土壌に粒状化剤を添加して粒径75μm以下の細粒分の含有量を5.0wt%以下にし、また製錬スラグを添加して比重を2.5以上および充填密度を1.6g/cm3以上にしたことを特徴とするケーソン用中詰材。
【請求項2】
汚染土壌に固化材を添加して鉛溶出量を0.01mg/L以下、水銀溶出量を0.0005mg/L以下に低減した請求項1に記載するケーソン用中詰材。
【請求項3】
汚染土壌に固化材を添加して固化処理したものを水に浸漬し、その上澄み水のpHが7.5〜8.5のものを原料土壌として用いる請求項1または請求項2に記載するケーソン用中詰材。
【請求項4】
原料の土壌に生石灰を添加してホウ素溶出量を1.0mg/L以下に低減した請求項1〜請求項3の何れかに記載するケーソン用中詰材。
【請求項5】
粒状化剤として硫酸、リン酸、硝酸、または水溶性アクリル樹脂を含有する請求項1〜請求項4の何れかに記載するケーソン用中詰材。
【請求項6】
粒径75μm以下の細粒の含有量が5.0wt%以下である原料土壌については粒状化剤を含まない請求項1〜請求項4の何れかに記載するケーソン用中詰材。
【請求項7】
比重2.5以上および充填密度1.6g/cm3以上の原料土壌については製錬スラグを含まない請求項1〜請求項6の何れかに記載するケーソン用中詰材。

【公開番号】特開2011−132049(P2011−132049A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290995(P2009−290995)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】