説明

ケーブルを脱気するための改善された方法

本発明は、(i)エチレンと4から20個の炭素原子を有する不飽和エステルとの極性コポリマーから本質的になる相Iの材料、(ii)無極性の低密度ポリエチレンから本質的になる相IIの材料、ならびに(iii)相Iの材料および/または相IIの材料の中に分散された導電性充填剤材料から作製されるまたはこれらを含有する組成物から調製された架橋済半導体シールド層を有する電気ケーブルの脱気方法である。脱気温度は、セ氏70度を超える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ケーブルを脱気する方法に関する。より具体的には、本発明は、従来使用されていた温度を超える温度で電気ケーブルを脱気する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ケーブルのための脱気時間は、しばしば、高圧ケーブル作製時における律速的なステップである。1カ月以下の脱気時間が一般的である。脱気時間を少なくすることは、生産性に直接的に影響する。
【0003】
脱気時間は、生成された架橋副生成物ガスの量と、そのガスが完成したケーブルの外に拡散することができる速度とにより影響される。拡散速度は、主として、温度により決定される。
【0004】
ケーブル組成物を架橋させるために用いられる過酸化物の量を低減することにより、脱気の問題を処理しようとする試みがなされてきた。しかし、この低減は、一般に、ケーブルの電気的特性に悪影響を及ぼす添加剤を組み込むことを必要とした。これは著しい不利益である。
【0005】
温度を上昇させることは、許容できない手段であることが分かっている。特に、ケーブルは、より高い温度において、それ自体の上に融着または変形する傾向があるので、ケーブルを脱気するための処理温度は、セ氏約60から70度に限定される。
【0006】
ケーブルの物理的特徴に悪影響を及ぼすことなく、ケーブルを脱気するための処理温度を上昇させることが望ましい。特に、処理温度を、セ氏60から70度の従来の処理温度より少なくともセ氏5度上昇させることが望ましい。その温度を、少なくともセ氏10度上昇させることがなおより望ましい。処理温度をセ氏10度上昇させることにより、いくつかのケーブルのための脱気時間は、30パーセント程度低減されると予測される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来適用されてきた脱気温度を超える温度における、架橋済半導体シールド層の改善された脱気の方法である。第1の実施形態において、本方法は、架橋済半導体シールド層をセ氏約70度を超える温度で脱気するステップを含む。その温度は、セ氏約75度以上であってもよい。さらに、その温度は、セ氏約80度以上であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
第2の実施形態において、本方法は、従来のエチレン/不飽和エステルコポリマー系半導体シールド組成物を脱気するために用いられる温度より、少なくともセ氏約5度高い温度で、架橋済半導体シールド層を脱気するステップを含む。
【0009】
両方の記載した実施形態について、その方法は、WO/2007/092454に記載の半導体シールド組成物を優先的に用いる。その組成物は、
(i)エチレンと4から20個の炭素原子を有する不飽和エステルとの極性コポリマーから本質的になる相Iの材料、
(ii)無極性の低密度ポリエチレンから本質的になる相IIの材料、ならびに
(iii)相Iおよび相IIの材料中に連続的な導電性ネットワークを形成するのに必要とされる量以上であるために十分な量で、相Iの材料および/または相IIの材料の中に分散された導電性充填剤材料
を含む。
【0010】
相Iの材料は、エチレンおよび不飽和エステルの極性コポリマーから本質的になる。この極性コポリマーは、一般に、高圧の工程により作製される。従来の高圧の工程は、Introduction to Polymer Chemistry、Stille、Wiley and Sons、ニューヨーク、1962、149から151頁に記載されている。高圧の工程は、一般に、管形反応器または撹拌式オートクレーブの中で行われるフリーラジカル開始重合である。撹拌式オートクレーブ中において、圧力は、1平方インチ当たり10000から30000ポンド(psi)の範囲内であり、温度は、セ氏175から250度の範囲内であり、管形反応器中において、圧力は、25000から45000psiの範囲内であり、温度は、セ氏200から350度の範囲内である。
【0011】
不飽和エステルは、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキルおよびカルボン酸ビニルであることができる。アルキル基は、1から8個の炭素原子を有することができ、好ましくは、1から4個の炭素原子を有する。カルボン酸基は、2から8個の炭素原子を有することができ、好ましくは、2から5個の炭素原子を有する。
【0012】
エステルコモノマーに起因する、コポリマーの一部は、コポリマーの重量に基づいて約10から約55重量パーセントの範囲内であることができ、好ましくは、約15から約30重量パーセントの範囲内である。モルパーセントを単位とすると、エステルコモノマーは、5から30モルパーセントの量で存在することができる。エステルは、4から20個の炭素原子を有することができ、好ましくは、4から7個の炭素原子を有する。
【0013】
ビニルエステル(すなわちカルボン酸塩)の例は、酢酸ビニル、酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、ネオノナン酸ビニル、ネオデカン酸ビニルおよび2−エチルヘキサン酸ビニルである。酢酸ビニルが好ましい。アクリル酸およびメタクリル酸のエステルの例は、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ミリスチル、メタクリル酸パルミチル、メタクリル酸ステアリル、3−メタクリルオキシ−プロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸オレイル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルである。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルまたはアクリル酸t−ブチルが好ましい。アルキル基を、例えば、オキシアルキルトリアルコキシシランで置換することができる。
【0014】
コポリマーは、1立方センチメートル当たり0.900から0.990グラムの範囲内の密度を有することができ、好ましくは、1立方センチメートル当たり0.920から0.970グラムの範囲内の密度を有する。コポリマーは、10分当たり0.1から100グラムの範囲内のメルトインデックスも有することができ、好ましくは10分当たり1から50グラムの範囲内、より好ましくは10分当たり5から21グラムの範囲内のメルトインデックスを有する。
【0015】
相Iの材料は、組成物の重量に基づいて10から80重量パーセントの量で組成物中に存在することができ、好ましくは、20から60重量パーセントの量で存在する。
【0016】
相IIの材料は、エチレンのホモポリマーとして一般に高圧の工程により調製される無極性の低密度ポリエチレン(LDPE)から本質的になる。前述のように、従来の高圧の工程は、Introduction to Polymer Chemistry、Stille、Wiley and Sons、ニューヨーク、1962、149から151頁に記載されている。高圧の工程は、一般に、管形反応器または撹拌式オートクレーブの中で行われるフリーラジカル開始重合である。撹拌式オートクレーブ中において、圧力は、10000から30000psiの範囲内であり、温度は、セ氏175から250度の範囲内であり、管形反応器中において、圧力は、25000から45000psiの範囲内であり、温度は、セ氏200から350度の範囲内である。
【0017】
これらのLDPEポリマーは、ASTM D−792による測定時に、1立方センチメートル当たり約0.910グラムから1立方センチメートル当たり約0.940グラムの間の密度を有する。
【0018】
無極性の低密度ポリエチレンは、好ましくは、1.1から10の範囲内の多分散性(Mw/Mn)を有する。Mwは、重量平均分子量と定義され、Mnは、数平均分子量と定義される。Mwは、好ましくは、10000から1000000の範囲内である。それらは、10分当たり0.25から30グラムの範囲内、好ましくは10分当たり1から20グラムの範囲内、より好ましくは10分当たり5から10グラムの範囲内のメルトインデックスも有することができる。
【0019】
相IIの材料は、組成物の重量に基づいて10から80重量パーセントの量で組成物中に存在することができ、好ましくは、20から60重量パーセントの量で存在する。
【0020】
場合によって、他のポリマー材料のさらなる相が、相Iの材料または相IIの材料のいずれかの特性と一致する特性を有する場合において、それらを、組成物中に導入することができる。
【0021】
好ましくは、相IIの材料は、相Iの材料の融点を超える融点を有する。
【0022】
樹脂を加水分解性にすることにより、ポリマーを水分硬化性にすることができ、これは、共重合またはグラフト化により、−Si(OR)(式中、Rがヒドロカルビル基である)等の加水分解性の基を樹脂構造に加えることにより達成される。適切なグラフト化剤は、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、過酸化t−ブチルクミルおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン−3等の有機過酸化物である。過酸化ジクミルが好ましい。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランおよびガンマ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシ−シラン等の1種もしくは複数の−Si(OR)基を有するエチレン系不飽和化合物とエチレンを共重合すること、または上述の有機過酸化物の存在下でこれらのシラン化合物を樹脂にグラフト化することにより、加水分解性の基を加えることができる。次いで、その加水分解性樹脂を、ジラウリン酸ジブチル錫、マレイン酸ジオクチル錫、二酢酸ジブチル錫、酢酸第一錫、ナフテン酸鉛およびカプリル酸亜鉛等のシラノール縮合触媒の存在下で、水分により架橋する。ジラウリン酸ジブチル錫が好ましい。
【0023】
導電性充填剤材料(導電性粒子)は、半導体シールド中において一般に用いられる従来の導電性カーボンブラックであることができる。これらの導電性粒子は、一般に、微粒のカーボンブラックにより与えられてきた。有用なカーボンブラックは、1グラム当たり50から1000平方メートルの表面積を有することができる。この表面積は、ASTM D 4820−93a(多点B.E.T.窒素吸着)の下で測定される。WO/2007/092454において、カーボンブラックは、組成物の重量に基づいて10から50重量パーセントの量で半導体シールド組成物中において用いられていると述べられており、好ましくは、15から45重量パーセント、より好ましくは25から35重量パーセントの量で用いられる。これを、導電性充填剤の添加と呼ぶことができ、最も好ましくは27から33重量パーセントである。
【0024】
WO/2007/092454のカーボンブラックの添加は、本発明において有用であるが、そのカーボンブラックの添加を、本発明の方法を適用するときに、従来の半導体シールド組成物中で用いられる量より少ない量で用いることができる。このようなとき、およびより少ないカーボンブラックの添加が望ましいときに、カーボンブラックは、好ましくは、25重量パーセント未満の量で存在し、より好ましくは、それは15重量パーセント未満の量で存在し、最も好ましくは、それは10重量パーセント未満の量で存在する。
【0025】
標準的な導電性のカーボンブラックと高導電性のカーボンブラックとの両方を、好ましい標準的な導電性のブラックとともに用いることができる。導電性カーボンブラックの例は、ASTM N550、N472、N351、N110により記載されている等級、ケッチェンブラック、ファーネスブラックおよびアセチレンブラックである。
【0026】
カーボンブラックは、炭化水素の熱分解により製造された、球状コロイド粒子および集合粒子凝集体の形態の元素炭素である。カーボンブラックは、グラファイトより低級であるが、カーボンブラックの微細構造は、本質的にグラファイト的である。カーボンブラックの重要な特徴の一つは、高度の多孔性と、カーボンブラック粒子の核における中空化とである。カーボンブラックは、本質的な半導体として知られている。
【0027】
カーボンナノチューブを用いることもできる。
【0028】
カーボンブラックまたはカーボンナノチューブ以外の導電性充填剤を用いることもできる。例は、金属粒子、フラーレン、ならびにポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリチオフェンおよびポリアニリン等の導電性ポリマーである。
【0029】
場合によって、アクリロニトリルがコポリマーの重量に基づいて20から60重量パーセントの量で存在し、好ましくは、30から40重量パーセントの量で存在する、アクリロニトリルおよびブタジエンのコポリマーを、半導体シールド組成物中に含ませることができる。このコポリマーは、通常、導電体またはストランドシールドより可剥性絶縁シールドの中において用いられる。そのコポリマーは、ニトリルゴム、またはアクリロニトリル/ブタジエンコポリマーゴムとしても知られている。密度は、例えば、1立方センチメートル当たり0.98グラムであることができ、ムーニー粘度は、(ML 1+4)50であることができる。望ましい場合、シリコーンゴムをニトリルゴムの代わりに用いることができる。
【0030】
場合によって、本発明の組成物は、エチレンアルファ−オレフィンコポリマーを、存在する全ポリマーの重量に基づいて約25重量パーセント未満の量で含む他のポリオレフィンを含有することができる。
【0031】
組成物中に導入することができる従来の添加剤は、抗酸化剤、カップリング剤、紫外線の吸収剤または安定剤、静電防止剤、顔料、色素、成核剤、強化用の充填剤またはポリマー添加剤、スリップ剤、可塑剤、加工助剤、潤滑剤、粘性制御剤、粘着付与剤、粘着防止剤、界面活性剤、エキステンダー油、金属活性低下剤、電圧安定剤、難燃性の充填剤および添加剤、架橋剤、起泡増進剤ならびに触媒ならびに防煙剤により例示される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)エチレンと4から20個の炭素原子を有する不飽和エステルとの極性コポリマーから本質的になる相Iの材料、
(ii)無極性の低密度ポリエチレンから本質的になる相IIの材料、ならびに
(iii)相Iおよび相IIの材料中に連続的な導電性ネットワークを形成するのに必要とされる量以上であるために十分な量で、相Iの材料および/または相IIの材料の中に分散された導電性充填剤材料
を含む、架橋性の半導体シールド組成物を選択するステップ、
(b)前記架橋性の半導体シールド組成物を金属導電体上に塗布して、半導体シールド層を得るステップ、
(c)前記半導体シールド層を架橋させて、架橋済半導体シールド層を有する電気ケーブルを得るステップ、
(d)前記電気ケーブルを、セ氏70度を超える脱気温度で脱気するステップ
を含む、電気ケーブルの脱気方法。
【請求項2】
脱気温度がセ氏75度を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱気温度がセ氏80度を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
相IIの材料が、相Iの材料の融点を超える融点を有する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。


【公表番号】特表2011−527088(P2011−527088A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516845(P2011−516845)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/049376
【国際公開番号】WO2010/002973
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】