説明

ケーブル式ステアリング装置

【課題】容易なインナーケーブルのセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができるケーブル式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング側ケーブルプーリ51と操向輪側ケーブルプーリ52に対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結する2本のインナーケーブル53,54と、前記2本のインナーケーブル53,54を覆うと共に、第1プーリケース55と第2プーリケース56を連結する2本のアウターチューブ57,58とを備えたケーブル式ステアリング装置において、前記第1プーリケース55は、前記ステアリング側ケーブルプーリ51を回転自在に支持するプーリ支持ケース部551と、前記2本のアウターチューブ57,58の2つの端部を支持すると共に、前記プーリ支持ケース部551に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部552を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵ハンドルとステアリングギヤ機構とをボーデンケーブル等の操作ケーブルで接続したケーブル式ステアリング装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵ハンドルとステアリングギヤ機構とを操作ケーブルで接続したケーブル式ステアリング装置におけるセット張力調整機構は、プーリケーシングに対するアウターチューブの2箇所の接続部を、各々のアジャストナットで移動させることで、インナーケーブルのセット張力を調整可能にしており、操舵ハンドルを有する操作部側に設けられたトルクセンサからのセンサ値を測定して、各々のアジャストナットを調整している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−142644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来例におけるセット張力調整機構にあっては、ステアリングギヤ機構および操舵ハンドルが共にニュートラル状態で、操作ケーブルユニットを組み付け、プーリケーシングに対する2箇所のアウターチューブ接続部を、各々のアジャストナットの回転量・送り込み量を管理しながら調整作業が行われる。このように、2箇所のアウターチューブ接続部のそれぞれに対するセット張力の調整作業となるため、作業が面倒であるし、工数を要してしまうし、さらに、2箇所のセット張力を均等に調整するのが困難である。そして、面倒な調整作業を行っても均等に操舵ハンドルの左右ガタ(=ステアリング左右ガタ)を設定することができない場合、ハンドル操作方向が右方向か左方向かで操舵力と操舵角にバラツキが発生する、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、2分割したプーリケースを相対移動させるだけの短時間で、且つ、容易なインナーケーブルのセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができるケーブル式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、
運転者が操作する操作部に設けられたステアリング側ケーブルプーリと、
操向輪を転舵する転舵部に設けられた操向輪側ケーブルプーリと、
前記両ケーブルプーリに対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結する2本のインナーケーブルと、
前記ステアリング側ケーブルプーリを収納する第1プーリケースと、
前記操向輪側ケーブルプーリを収納する第2プーリケースと、
前記2本のインナーケーブルを覆うと共に、両プーリケースを連結する2本のアウターチューブと、
を備えたケーブル式ステアリング装置において、
前記第1プーリケースと第2プーリケースのうち少なくとも一方のプーリケースは、
前記プーリを回転自在に支持するプーリ支持ケース部と、
前記2本のアウターチューブの2つの端部を支持すると共に、前記プーリ支持ケース部に対してインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のケーブル式ステアリング装置において、2本のインナーケーブルのセット張力を調整する際は、操作部と転舵部とをニュートラル状態とし、プーリケースを構成するプーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部とをインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し相対移動させる。
このとき、プーリ支持ケース部はプーリを回転自在に支持しているし、ケーブル支持ケース部は2本のアウターチューブの2つの端部を支持しているため、プーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部との相対移動により、プーリ支持位置と2本のアウターチューブの支持位置との間隔が変動する。言い換えると、2本のインナーケーブルのセット張力の調整は、プーリ支持位置に対し2本のアウターチューブ支持位置を均等に移動させることで行われる。
すなわち、従来のセット張力調整作業は、プーリケーシングに対する2箇所のアウターチューブ接続部を、各々のアジャストナットの回転量・送り込み量を管理しながら行うため、作業が面倒であるし、時間を要してしまう。
これに対し、本発明のセット張力調整作業では、プーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部とを相対移動させるだけの作業により、短時間で、且つ、容易にインナーケーブルのセット張力調整作業を行うことができる。
さらに、従来のセット張力調整作業は、2箇所のアウターチューブ接続部のそれぞれに対するセット張力の調整作業となるため、独立した2箇所のセット張力を均等に調整するのが困難である。
これに対し、本発明のセット張力調整作業では、プーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部とを相対移動させると、プーリ支持位置に対し2本のアウターチューブ支持位置を均等に移動させることになるため、左右操舵時の操舵力と操舵角のバラツキ原因となるステアリング左右ガタを均等に設定することができる。
この結果、2分割したプーリケースを相対移動させるだけの短時間で、且つ、容易なインナーケーブルのセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のケーブル式ステアリング装置を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例4に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
[全体構成]
図1は、実施例1のケーブル式ステアリング装置をバックアップケーブルとして適用したステアバイワイヤ(SBW)システムの構成図である。
実施例1のSBWシステムは、ハンドル(操作部)1と、操舵反力モータ2と、操舵角センサ3と、バックアップクラッチ4と、バックアップケーブル5と、転舵モータ6と、転舵角センサ7と、舵取り機構8(転舵部)と、右前輪9a(操向輪)と、左前輪9b(操向輪)と、操舵反力コントローラ10と、転舵コントローラ11と、車速センサ12と、を備えている。
【0009】
実施例1のSBWシステムは機構構成として、運転者が操作するハンドル1と、前記ハンドル1とは機械的に切り離され、左右前輪9a,9bを転舵する舵取り機構8と、前記ハンドル1に操舵反力を付与する操舵反力モータ2と、前記舵取り機構8に転舵力を付与する転舵モータ6と、前記ハンドル1と前記舵取り機構8とを機械的に断接するバックアップ機構として、バックアップクラッチ4およびバックアップケーブル5と、を備えている。
【0010】
実施例1のSBWシステムは制御構成として、前記バックアップクラッチ4の開放により前記ハンドル1と前記舵取り機構8を切り離し、前記ハンドル1の操作状態に応じた転舵角となるように前記転舵モータ6を駆動する制御指令を出力する転舵装置用コントローラ11と、前記舵取り機構8の転舵状態に応じた操舵反力を付与するように前記操舵反力モータ2を駆動する制御指令を出力する操舵反力装置用コントローラ10と、を備えている。
【0011】
また、SBWシステムの一部に異常が認められた場合には、速やかにバックアップクラッチ4を接続し、バックアップケーブル5を介してハンドル1と舵取り機構8とを機械的に連結してSBW制御を中止する。このシステム異常のうち、操舵反力モータ2と転舵モータ6の少なくとも一方を駆動可能である場合には、SBW制御から、運転者の操作力にアシスト力を付加するように操舵反力モータ2と転舵モータ6の少なくとも一方を駆動するアシスト制御に変更する。
【0012】
[バックアップケーブルの構成]
図2は実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側のケーブルプーリ部を示す上方斜視図、図3は実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側のケーブルプーリ部を示す下方分解斜視図である。
【0013】
実施例1のバックアップケーブル5は、図1に示すように、運転者が操作する操作部に設けられたステアリング側ケーブルプーリ51と、左右前輪9a,9bを転舵する転舵部に設けられた操向輪側ケーブルプーリ52と、を備えている。
【0014】
前記ステアリング側ケーブルプーリ51と前記操向輪側ケーブルプーリ52とは、図3に示すように、2本のインナーケーブル53,54により前記両ケーブルプーリ51,52に対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結されている。
【0015】
実施例1のバックアップケーブル5は、図1に示すように、前記ステアリング側ケーブルプーリ51を収納する第1プーリケース55と、前記操向輪側ケーブルプーリ52を収納する第2プーリケース56と、を備えている。
【0016】
前記第1プーリケース55と前記第2プーリケース56とは、図2及び図3に示すように、2本のアウターチューブ57,58により連結され、かつ、前記2本のインナーケーブル53,54を覆っている。
【0017】
前記第1プーリケース55は、図2及び図3に示すように、前記ステアリング側ケーブルプーリ51を回転自在に支持するプーリ支持ケース部551と、前記2本のアウターチューブ57,58の2つの端部を支持すると共に、前記プーリ支持ケース部551に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部552と、を有する。
【0018】
前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552との間には、図2及び図3に示すように、インナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し互いの相対位置関係を調整する第1ケーブル張力調整手段A1を有する(図4及び図5参照)。
【0019】
前記プーリ支持ケース部551は、図2及び図3に示すように、プーリ支持ケースアッパー551aとプーリ支持ケースロア551bとの上下分割構造により構成され、プーリ支持ケースアッパー551aとプーリ支持ケースロア551bは、ボルト60,61,62により締結されている。
そして、前記プーリ支持ケース部551には、図2及び図3に示すように、ステアリング側ケーブルプーリ51の上面を覆う上面カバー63と、ステアリング側ケーブルプーリ51の下面の一部を覆うと共に、操作部側に固定する下面ブラケット64と、が固定されている。
【0020】
前記ケーブル支持ケース部552は、図2及び図3に示すように、ケーブル支持ケースアッパー552aとケーブル支持ケースロア552bとの上下分割構造により構成され、ケーブル支持ケースアッパー552aとケーブル支持ケースロア552bは、ボルト65,66,67により締結されている。
そして、前記ケーブル支持ケース部552は、前記プーリ支持ケース部551の端部位置を覆う形状に設定され、図3に示すように、プーリ支持ケース部551の端部位置がケーブル支持ケースアッパー552aに組み込まれ、その上からケーブル支持ケースロア552bを挟み込み、ボルト65,66,67により締結することで、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とが組み付けられる。
【0021】
[両ケース部の摺動嵌合機構と第1ケーブル張力調整手段の構成]
図4は実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55を示す断面図、図5は実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第1ケーブル張力調整手段A1を示す拡大断面図である。
【0022】
前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552とは、図4及び図5に示すように、前記プーリ支持ケース部551の両側外周部に一対の第1ガイド凸面70,71と第1ガイド凹面72,73を形成し、前記ケーブル支持ケース部552の両側内周部に一対の第2ガイド凸面74,75と第2ガイド凹面76,77を形成し、前記第1ガイド凸面70,71と前記第2ガイド凸面74,75とをインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対しずらした位置に配置している。
そして、前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552とのスライド嵌合構造は、前記第1ガイド凸面70,71を第2ガイド凹面76,77に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合し、前記第2ガイド凸面74,75を第1ガイド凹面72,73に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合することで構成されている。
【0023】
前記ケーブル張力調整手段は、実施例1〜実施例4に共通する構成として、前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552とを、互いに逆方向傾斜に切られた第1ネジ部80aと第2ネジ部80bをそれぞれに螺合することで連結するスライドネジ軸80と、前記スライドネジ軸80を回転操作することによりインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に相対移動させる回転操作部材と、前記回転操作部材による回転操作位置でロックするロック部材と、を有する。
【0024】
実施例1のケーブル張力調整手段は、図4及び図5に示すように、前記2本のインナーケーブル53,54の中間位置に1本配置したスライドネジ軸80の中央部に固定し、スライドネジ軸80を直接回転させるローレットボルト81を前記回転操作部材とし、前記スライドネジ軸80の第2ネジ部80bに螺合し、前記ケーブル支持ケース部552に対する締め付けによりロックするロックナット82を前記ロック部材とする第1ケーブル張力調整手段A1としている。なお、ケーブル支持ケース部552のケーブル支持ケースアッパー552aには、ケーブル張力調整窓83が開口されている。
【0025】
前記2本のアウターチューブ57,58の2つの端部を支持するアウターチューブ端部支持構造は、図5に示すように、前記インナーケーブル53,54を内挿したケーブルパイプ40,41と、該ケーブルパイプ40,41と前記ケーブル支持ケース部552との間に介装されるスプリング42,43と、前記アウターチューブ57,58の端部を覆うチューブカバー44,45と、を備えている。
前記ケーブルパイプ40,41は、前記ケーブル支持ケース部552に係合するケース係合段差面40a,41aと、前記スプリング42,43の一端部を支持するスプリング支持面40b,41bと、前記チューブカバー44,45が取り付けられるチューブカバー取付け部40c,41cと、を有する。
前記スプリング42,43は、その自由長がケース係合段差面40a,41aとケーブル支持ケース部552との間隔より長く設定され、例えば、インナーケーブル53,54のセット張力調整時に縮めたとき、縮め量とバネ定数を掛け合わせたバネ力が、インナーケーブル53,54のセット張力と一致するように設定される。
【0026】
次に、作用を説明する。
ケーブル式ステアリング装置に使用される操作ケーブルは、外側のアウターチューブと、その内側のインナーケーブルとで構成されており、アウターチューブに対しインナーケーブルを相対移動させることで、ハンドルに入力された操舵トルクをステアリングギヤに伝達するようになっている。そして、ハンドルに操舵トルクが入力されていないときは、インナーケーブルに所定のセット張力(例えば、40N〜50N)が付与されており、このセット張力によって、ハンドルのガタが必要以上に大きくなるのを防いでいる。
【0027】
このセット張力調整機構として、従来例(特開2004−142644号公報)では、図6に示すように、ケーブルプーリを収納するプーリケーシングに対するアウターチューブの2箇所の接続部を、各々のアジャストナットの回転量・送り込み量を管理しながら調整し、調整が終了したらロックナットによりその位置にロックする機構としている。
この従来のセット張力調整機構の場合、下記の工程を経過してセット張力調整作業が行われる。一対のロックナットを緩め、一対のアジャストナットを回転させてアウターチューブを矢印a方句に移動させることで張力をゼロとする(図7(A))。ハンドルをニュートラル位置に拘束した状態で、一方のアジャストナットを回転させて一方のアウターチューブを矢印b方向に移動させて一方のインナーケーブルの張力を調整する(図7(B))。ハンドルの拘束を解除し、一方のインナーケーブルの張力でハンドルを反時計回りに回転させる(図7(C))。このハンドルの反時計回転状態から他方のアジャストナットを回転させて他方のアウターチューブを矢印c方向に移動させることで張力が増加し、ハンドルが時計方向に回転し、その位相がニュートラルとなる位置まで行い、この位置にて一対のロックナットを締め込み、一対のインナーケーブルの張力が共に目標セット張力Ftとなるように調整する(図7(D))。
【0028】
このように、2箇所のアウターチューブ接続部のそれぞれに対するセット張力の調整作業となるため、作業が面倒であるし、時間を要してしまうし、さらに、2箇所のセット張力を均等に調整するのが困難である。そして、長時間の面倒な調整作業を行っても均等にステアリング左右ガタを設定することができない場合、ハンドル操作方向が右方向か左方向かで操舵力と操舵角にバラツキが発生する。
【0029】
これに対し、実施例1のケーブル式ステアリング装置では、2分割した第1プーリケース55(プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552)を相対移動させるだけの短時間で、且つ、容易なインナーケーブル53,54のセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができるようにした。
【0030】
すなわち、セット張力調整作業とは、プーリ支持位置と2本のアウターチューブ支持位置との間隔を調整する作業である点に着目し、実施例1では、第1プーリケース55を、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とに2分割し、プーリ支持ケース部551に対してケーブル支持ケース部552をインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持することで、2本のインナーケーブル53,54のセット張力を同時に調整する手段を採用した。
【0031】
実施例1のケーブル式ステアリング装置において、2本のインナーケーブル53,54のセット張力を調整する際は、操作部のハンドル1と転舵部の舵取り機構8とをニュートラル状態とし、第1プーリケース55を構成するプーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とをインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し相対移動させる。
このとき、プーリ支持ケース部551はステアリング側ケーブルプーリ51を回転自在に支持しているし、ケーブル支持ケース部552は2本のアウターチューブ57,58の2つの端部を支持しているため、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対移動により、プーリ支持位置と2本のアウターチューブ57,58の支持位置との間隔が変動する。言い換えると、2本のインナーケーブル53,54のセット張力の調整は、プーリ支持位置に対し2本のアウターチューブ支持位置を均等に移動させることで行われる。
【0032】
したがって、実施例1のセット張力調整作業では、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とを相対移動させるだけの作業により、短時間で、且つ、容易にインナーケーブル53,54のセット張力調整作業を行うことができる。
また、実施例1のセット張力調整作業では、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とを相対移動させることが、プーリ支持位置に対し2本のアウターチューブ支持位置を均等に移動させることになるため、左右操舵時の操舵力と操舵角のバラツキ原因となるステアリング左右ガタを均等に設定することができる。
【0033】
この結果、2分割した第1プーリケース55を相対移動させるだけの短時間で、且つ、容易なインナーケーブル53,54のセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができる。
以下、実施例1のケーブル式ステアリング装置におけるインナーケーブル53,54のセット張力調整作用について詳しく説明する。
【0034】
[インナーケーブル53,54のセット張力調整作用]
プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対間隔調整は、下記のように行われる。
プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対間隔を縮める場合は、ロックナット82を緩め(図8(a))、ロックナット82による拘束を解いた状態でローレットボルト81を一方向(例えば、左方向)に回転させると、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とがスライドネジ軸80に対する螺合位置を変え、両支持ケース部551, 552の相対間隔がローレットボルト81の回転に応じて縮まり(図8(b))、その後、ロックナット82をケーブル支持ケース部552のケース面に締め付けてロックすることで行われる(図8(c))。
プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対間隔を拡げる場合は、ロックナット82を緩め(図8(a))、ロックナット82による拘束を解いた状態でローレットボルト81を他方向(例えば、右方向)に回転させると、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とがスライドネジ軸80に対する螺合位置を変え、両支持ケース部551, 552の相対間隔がローレットボルト81の回転に応じて拡がり(図8(d))、その後、ロックナット82をケーブル支持ケース部552のケース面に締め付けてロックすることで行われる(図8(e))。
【0035】
インナーケーブル53,54のセット張力調整作業を行う際は、ハンドル1をニュートラル状態で拘束すると共に、舵取り機構8をニュートラル状態で拘束しておく。
(a) ロックナット82を緩め(図8(a))、ローレットボルト81を一方向に回転させてプーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対間隔を縮め、ケーブルパイプ40,41のケース係合段差面40a,41aがケーブル支持ケース部552に対して離れた位置とする(図8(b))。
(b) この状態からローレットボルト81を他方向に回転させてプーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対間隔を、ケーブルパイプ40,41のケース係合段差面40a,41aがケーブル支持ケース部552に対し接する位置まで徐々に拡げてゆく(図8(d))。
(c) この状態で、ロックナット82をケーブル支持ケース部552のケース面に締め付けてロックする(図8(e))。
上記作業により、スプリング42,43は、ケース係合段差面40a,41aとケーブル支持ケース部552との間隔まで縮められ、このときの縮め量とバネ定数を掛け合わせたバネ力が、インナーケーブル53,54のセット張力と一致するように設定されてるため、2本のインナーケーブル53,54は、同じセット張力に調整されることになる。
つまり、上記(a),(b),(c)の3工程により、インナーケーブル53,54のセット張力調整作業を完了することができるし、また、予め(a)の状態で組み付け設定されている場合は、(b),(c)の2工程により、インナーケーブル53,54のセット張力調整作業を完了することができる。
【0036】
上記のように、実施例1のケーブル式ステアリング装置において、前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552との間には、インナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し互いの相対位置関係を調整する第1ケーブル張力調整手段A1を有する。
例えば、ケーブル張力調整治具等を用いた初期設定により、プーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部との相対移動位置を調整し、その位置で両支持ケース部を溶接等により固定した場合、セット張力の過不足や部品交換等でセット張力の再調整を行う場合、再調整ができなくなる。
これに対し、実施例1では、上記のように、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との間にケーブル張力調整手段を有するため、セット張力の過不足や部品交換等でセット張力の再調整が必要な場合、何度でも再調整を行うことができる。
【0037】
実施例1のケーブル式ステアリング装置において、前記プーリ支持ケース部551の両側外周部に一対の第1ガイド凸面70,71と第1ガイド凹面72,73を形成し、前記ケーブル支持ケース部552の両側内周部に一対の第2ガイド凸面74,75と第2ガイド凹面76,77を形成し、前記第1ガイド凸面70,71と前記第2ガイド凸面74,75とをインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対しずらした位置に配置し、前記第1ガイド凸面70,71を第2ガイド凹面76,77に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合し、前記第2ガイド凸面74,75を第1ガイド凹面72,73に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合した。
例えば、箱形のプーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部とを嵌め合わせただけのスライド支持構造とした場合、スライド性を確保するには、スライド支持面間にクリアランスを確保する必要がある。この場合、クリアランスがプーリ支持ケース部に対してケーブル支持ケース部が倒れる原因となり、ケーブル張力調整時、スライド移動にふらつきが出るし、ケーブル張力調整後の使用状態でも安定した支持を確保できない。
これに対し、実施例1では、上記のように、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との両側位置でそれぞれ2点、合計4点(70,71,74,75)にて支持するスライド嵌合構造を採用したため、ケーブル張力調整時、プーリ支持ケース部551に対しケーブル支持ケース部552をふらつくことなく整然とスライド移動させることができると共に、ケーブル張力調整後の使用状態でもケーブル支持ケース部552の安定した4点支持が確保され、2本のアウターチューブ57,58の端部支持位置にズレが生じることを防止することができる。
【0038】
実施例1のケーブル式ステアリング装置において、前記ケーブル張力調整手段は、前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552とに螺合することで連結するスライドネジ軸80と、前記スライドネジ軸80を回転操作することによりインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に相対移動させる回転操作部材と、前記回転操作部材による回転操作位置でロックするロック部材と、を有する。
例えば、ケーブル張力調整では、プーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部との相対間隔調整機能と連結機能が必要で、ケーブル張力調整手段として、それぞれの機能を達成する相対間隔調整機構と連結機構を設けた場合、両機構について操作部材やロック部材が必要となり、構造的にも操作的にも複雑になってしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、スライドネジ軸80を利用したケーブル張力調整手段としたため、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とをスライドネジ軸80により螺合するという簡単な構成でありながら、スライドネジ軸80に対して回転操作を行うだけで、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552の連結を維持しながら相対間隔調整を達成することができる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1のケーブル式ステアリング装置にあっては、以下に列挙する効果が得られる。
【0040】
(1) 運転者が操作する操作部に設けられたステアリング側ケーブルプーリ51と、左右前輪9a,9bを転舵する転舵部に設けられた操向輪側ケーブルプーリ52と、両ケーブルプーリ51,52に対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結する2本のインナーケーブル53,54と、前記ステアリング側ケーブルプーリ51を収納する第1プーリケース55と、前記操向輪側ケーブルプーリ52を収納する第2プーリケース56と、前記2本のインナーケーブル53,54を覆うと共に、両プーリケース55,56を連結する2本のアウターチューブ57,58と、を備えたケーブル式ステアリング装置において、前記第1プーリケース55は、前記ステアリング側ケーブルプーリ51を回転自在に支持するプーリ支持ケース部551と、前記2本のアウターチューブ57,58の2つの端部を支持すると共に、前記プーリ支持ケース部551に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部552と、を有するため、2分割した第1プーリケース55を相対移動させるだけの短時間で、且つ、容易なインナーケーブル53,54のセット張力調整作業により、ステアリング左右ガタを均等に設定することができる。
【0041】
(2) 前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552との間には、インナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対し互いの相対位置関係を調整する第1ケーブル張力調整手段A1を有するため、セット張力の過不足や部品交換等でセット張力の再調整が必要な場合、何度でも再調整を行うことができる。
【0042】
(3) 前記プーリ支持ケース部551の両側外周部に一対の第1ガイド凸面70,71と第1ガイド凹面72,73を形成し、前記ケーブル支持ケース部552の両側内周部に一対の第2ガイド凸面74,75と第2ガイド凹面76,77を形成し、前記第1ガイド凸面70,71と前記第2ガイド凸面74,75とをインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に対しずらした位置に配置し、前記第1ガイド凸面70,71を第2ガイド凹面76,77に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合し、前記第2ガイド凸面74,75を第1ガイド凹面72,73に対してインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合したため、ケーブル張力調整時、プーリ支持ケース部551に対しケーブル支持ケース部552をふらつくことなく整然とスライド移動させることができると共に、ケーブル張力調整後の使用状態でもケーブル支持ケース部552の安定した4点支持が確保され、2本のアウターチューブ57,58の端部支持位置にズレが生じることを防止することができる。
【0043】
(4) 前記ケーブル張力調整手段は、前記プーリ支持ケース部551と前記ケーブル支持ケース部552とに螺合することで連結するスライドネジ軸80と、前記スライドネジ軸80を回転操作することによりインナーケーブル53,54の巻き取り・送り出し方向に相対移動させる回転操作部材と、前記回転操作部材による回転操作位置でロックするロック部材と、を有するため、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とをスライドネジ軸80により螺合するという簡単な構成でありながら、スライドネジ軸80に対して回転操作を行うだけで、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552の連結を維持しながら相対間隔調整を達成することができる。
【0044】
(5) 前記ケーブル張力調整手段は、前記2本のインナーケーブル53,54の2つの端部の間に配置したスライドネジ軸80の中央部に固定し、スライドネジ軸80を直接回転させるローレットボルト81を前記回転操作部材とし、前記スライドネジ軸80の第2ネジ部80bに螺合し、前記ケーブル支持ケース部552に対する締め付けによりロックするロックナット82を前記ロック部材とする第1ケーブル張力調整手段A1であるため、両側ネジ構造によるスライドネジ軸80を配置し、スライドネジ軸80に固定されたローレットボルト81を回転操作部材とし、スライドネジ軸80に螺合されたロックナット82をロック部材とするという、極めて簡単構造にて第1ケーブル張力調整手段A1を構成することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例2は、ケーブル張力調整手段の片側ネジ構造によるスライドネジ軸80の回転をスムーズにする例である。
なお、全体構成については、図1に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0046】
図9は実施例2のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第2ケーブル張力調整手段A2を示す拡大断面図である。
実施例2のケーブル張力調整手段は、図9に示すように、前記2本のインナーケーブル53,54の2つの端部の間に配置したスライドネジ軸80の中央部に固定し、スライドネジ軸80を直接回転させるローレットボルト81を前記回転操作部材とし、前記スライドネジ軸80の第1ネジ部80aに螺合し、前記プーリ支持ケース部551に対する締め付けによりロックするロックナット82を前記ロック部材とし、前記スライドネジ軸80のケーブル支持ケース部552側の第2支軸部80b'の端面位置にスラストベアリング84を配置した第2ケーブル張力調整手段A2としている。
なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
次に、作用を説明すると、ローレットボルト81を回転させることによるケーブル張力調整時、スライドネジ軸80のケーブル支持ケース部552側の第2支軸部80b'の端面位置にスラストベアリング84が配置されているため、ローレットボルト81の回転操作力が小さく抑えられると共に、回転操作トルクの変動がないスムーズな回転にすることができる。なお、他の作用については、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
次に、効果を説明する。
実施例2のケーブル式ステアリング装置にあっては、実施例1の効果(1)〜(4)に加え、下記の効果が得られる。
【0049】
(6) 前記ケーブル張力調整手段は、前記2本のインナーケーブル53,54の2つの端部の間に配置したスライドネジ軸80の中央部に固定し、スライドネジ軸80を直接回転させるローレットボルト81を前記回転操作部材とし、前記スライドネジ軸80の第1ネジ部80aに螺合し、前記プーリ支持ケース部551に対する締め付けによりロックするロックナット82を前記ロック部材とし、前記スライドネジ軸80のケーブル支持ケース部552側の第2支軸部80b'の端面位置にスラストベアリング84を配置した第2ケーブル張力調整手段A2であるため、簡単構造にて第2ケーブル張力調整手段A2を構成することができると共に、ケーブル張力調整時、ローレットボルト81の回転操作力が小さく抑えられると共に、回転操作トルクの変動がないスムーズな回転にすることができる。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、スライドネジ軸の中央部に固定したウォームホイールと、このウォームホイールと噛み合うウォームギヤと、ウォームホイールに沿って配置されたウォームギヤシャフトと、ウォームギヤシャフトの端部に設けたアジャストつまみを設定し、プーリケースの側面から調整作業できるようにした例である。
なお、全体構成については、図1に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0051】
図10は実施例3のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第3ケーブル張力調整手段A3を示す拡大断面図、図11は実施例3のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第3ケーブル張力調整手段A3を示す縦断面図である。
実施例3のケーブル張力調整手段は、図10及び図11に示すように、前記2本のインナーケーブル53,54に沿って配置した一対のスライドネジ軸80,80の中央部に固定した一対のウォームホイール85,85と、該一対のウォームホイール85,85と噛み合う一対のウォームギヤ86a,86aが形成され、前記一対のウォームホイール85,85に沿って配置されたウォームギヤシャフト86と、該ウォームギヤシャフト86の一端部に設けられたアジャストつまみ87と、を有して前記回転操作部材とし、前記ウォームギヤシャフト86をケーブル支持ケース部552に対して回り止めする回り止めボルト88を前記ロック部材とする第3ケーブル張力調整手段A3としている。
前記アジャストつまみ87には、端面部に六角溝や十字溝による工具溝87aが形成され、工具挿入により回転させるようにしている。
前記ウォームギヤシャフト86のケーブル支持ケース部552に対する回転支持部には、ベアリング89,89が設定されている。
なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
次に、作用を説明すると、ケーブル張力調整時、アジャストつまみ87を工具を用いて右方向あるいは左方向に回転させると、一対のウォームギヤ86a,86aが形成されたウォームギヤシャフト86とが回転し、一対のウォームギヤ86a,86aが噛み合う一対のウォームホイール85,85が減速回転し、この一対のウォームホイール85,85が減速回転することにより2本のインナーケーブル53,54に沿って配置した一対のスライドネジ軸80,80が回転する。この一対のスライドネジ軸80,80の回転により、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とが均等なスライド動作をし、両支持ケース部551,552の間隔が調整される。
このプーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とのスライド動作は、2本のアウターチューブ57,58の支持端部に対応する2箇所位置にスライドネジ軸80,80を設定しているため、プーリケース55,56の側面から調整作業ができ、周辺部品との干渉を避けながら、作業しやすい位置に配置することができる。また、相対移動するプーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とのこじれが緩和され、実施例1,2に比べ、さらなる均等なスライド動作となる。
さらに、ウォームギヤシャフト86のケーブル支持ケース部552に対する回転支持部には、ベアリング89,89が設定されているため、ウォームギヤシャフト86の回転操作力が小さく抑えられると共に、回転操作トルクの変動がないスムーズな回転にすることができる。なお、他の作用については、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
次に、効果を説明する。
実施例3のケーブル式ステアリング装置にあっては、実施例1の(1)〜(4)の効果に加え、下記の効果が得られる。
【0054】
(7) 前記ケーブル張力調整手段は、前記2本のインナーケーブル53,54に沿って配置した一対のスライドネジ軸80,80の中央部に固定した一対のウォームホイール85,85と、該一対のウォームホイール85,85と噛み合う一対のウォームギヤ86a,86aが形成され、前記一対のウォームホイール85,85に沿って配置されたウォームギヤシャフト86と、該ウォームギヤシャフト86の一端部に設けられたアジャストつまみ87と、を有して前記回転操作部材とし、前記ウォームギヤシャフト86をケーブル支持ケース部552に対して回り止めする回り止めボルト88を前記ロック部材とする第3ケーブル張力調整手段A3であるため、プーリケース55,56の側面から調整作業ができ、周辺部品との干渉を避けながら、作業しやすい位置に配置することができる。
【実施例4】
【0055】
実施例4は、スライドネジ軸の中央部に固定したウォームホイールと、このウォームホイールと噛み合うウォームギヤと、一対のインナーケーブルの2つの端部の間を貫通して直交配置されたウォームギヤシャフトと、該ウォームシャフトの上端部に設定したアジャストつまみを備え、プーリケースの序面または下面に対して回軸操作で調整作業をできるようにした例である。
なお、全体構成については、図1に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0056】
図12は実施例4のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第4ケーブル張力調整手段A4を示す拡大断面図、図13は実施例3のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第4ケーブル張力調整手段A4を示す縦断面図である。
実施例4のケーブル張力調整手段は、図12及び図13に示すように、前記2本のインナーケーブル53,54の中間位置に1本配置したスライドネジ軸80の中央部に固定したウォームホイール85と、該ウォームホイール85と噛み合うウォームギヤ86aが形成され、前記一対のインナーケーブル53,54の中間位置を貫通して直交配置されたウォームギヤシャフト86と、該ウォームギヤシャフト86の上端部に設けられたアジャストつまみ87と、を有して前記回転操作部材とし、前記ウォームギヤシャフト86をケーブル支持ケース部552に対して回り止めする回り止めボルト88を前記ロック部材とする第4ケーブル張力調整手段A4としている。
前記アジャストつまみ87には、端面部に六角溝や十字溝による工具溝87aが形成され、工具挿入により回転させるようにしている。
前記ウォームギヤシャフト86のケーブル支持ケースアッパー552a及びケーブル支持ケースロア552bに対する回転支持部には、ベアリング89,89が設定されている。
なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
次に、作用を説明すると、ケーブル張力調整時、アジャストつまみ87を工具を用いて右方向あるいは左方向に回転させると、ウォームギヤ86aが形成されたウォームギヤシャフト86とが回転し、ウォームギヤ86aが噛み合うウォームホイール85が減速回転し、このウォームホイール85が減速回転することにより2本のインナーケーブル53,54の中間位置に平行に配置したスライドネジ軸80が回転する。このスライドネジ軸80の回転により、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552とがスライド動作をし、両支持ケース部551,552の間隔が調整される。
ここで、ウォームギヤシャフト86のケーブル支持ケースアッパー552a及びケーブル支持ケースロア552bに対する回転支持部には、ベアリング89,89が設定されているため、ウォームギヤシャフト86の回転操作力が小さく抑えられると共に、回転操作トルクの変動がないスムーズな回転にすることができる。
なお、他の作用については、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例4のケーブル式ステアリング装置にあっては、実施例1の(1)〜(4)の効果に加え、下記の効果が得られる。
【0059】
(8) 前記ケーブル張力調整手段は、前記2本のインナーケーブル53,54の中間位置に1本配置したスライドネジ軸80の中央部に固定したウォームホイール85と、該ウォームホイール85と噛み合うウォームギヤ86aが形成され、前記一対のインナーケーブル53,54の中間位置を貫通して直交配置されたウォームギヤシャフト86と、該ウォームギヤシャフト86の上端部に設けられたアジャストつまみ87と、を有して前記回転操作部材とし、前記ウォームギヤシャフト86をケーブル支持ケース部552に対して回り止めする回り止めボルト88を前記ロック部材とする第4ケーブル張力調整手段A4であるため、ケーブル張力調整時、第1プーリケース55の上部位置に設定されたアジャストつまみ87を右方向あるいは左方向に回転させるという簡単な回転操作により、プーリ支持ケース部551とケーブル支持ケース部552との相対位置を調整することができる。
【0060】
以上、本発明のケーブル式ステアリング装置を実施例1〜実施例4に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0061】
例えば、実施例1〜4では、第1プーリケースを構成するプーリ支持ケース部とケーブル支持ケース部とを上下分割構造とする例を示したが、具体的な構成は実施例1〜4の構成に限られることはない。また、実施例1〜4では、第1プーリケースと第2プーリケースのうち、第1プーリケースのみを2分割ケース構造とする例を示したが、第2プーリケースのみを2分割ケース構造としても良いし、第1プーリケースと第2プーリケースの両者を2分割ケース構造としても良い。また、実施例1〜実施例4では、ケーブル張力調整手段をケースに備えた例を示したが、ケーブル張力調整手段を別体をして有する構成としても良い。要するに、第1プーリケースと第2プーリケースのうち少なくとも一方のプーリケースは、プーリを回転自在に支持するプーリ支持ケース部と、2本のアウターチューブの2つの端部を支持すると共に、プーリ支持ケース部に対してインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部と、を有する構成であれば、本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
実施例1〜4では、ステアバイワイヤシステムのバックアップケーブルとしてケーブル式ステアリング装置を適用した例を示したが、例えば、ステアリングコラムシャフトに代えてケーブルを用いたケーブル式パワーステアリング装置等としても適用することができる。要するに、ケーブルプーリが収納された2つのプーリケース間を、2本のアウターチューブと2本のインナーケーブルにより連結するケーブル式ステアリング装置であれば適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1のケーブル式ステアリング装置をバックアップケーブルとして適用したステアバイワイヤ(SBW)システムの全体構成図である。
【図2】実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側のケーブルプーリ部を示す上方斜視図である。
【図3】実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側のケーブルプーリ部を示す下方分解斜視図である。
【図4】実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55を示す断面図である。
【図5】実施例1のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第1ケーブル張力調整手段A1を示す拡大断面図である。
【図6】従来のケーブル式ステアリング装置のケーブル張力調整機構を有するプーリケーシング部を示す断面図である。
【図7】従来のケーブル式ステアリング装置のケーブル張力調整機構によるケーブル張力調整作用の説明図である。
【図8】実施例1のケーブル式ステアリング装置によるケーブル張力調整作用説明図である。
【図9】実施例2のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第2ケーブル張力調整手段A2を示す拡大断面図である。
【図10】実施例3のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第3ケーブル張力調整手段A3を示す拡大断面図である。
【図11】実施例3のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第3ケーブル張力調整手段A3を示す縦断面図である。
【図12】実施例4のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第4ケーブル張力調整手段A4を示す拡大断面図である。
【図13】実施例4のバックアップケーブル5のステアリング側ケーブルプーリ51の第1プーリケース55に備えた第4ケーブル張力調整手段A4を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ハンドル(操作部)
2 操舵反力モータ
3 操舵角センサ
4 バックアップクラッチ
5 バックアップケーブル
6 転舵モータ
7 転舵角センサ
8 舵取り機構(転舵部)
9a 右前輪(操向輪)
9b 左前輪(操向輪)
10 操舵反力コントローラ
11 転舵コントローラ
12 車速センサ
51 ステアリング側ケーブルプーリ
52 操向輪側ケーブルプーリ
53,54 インナーケーブル
55 第1プーリケース
551 プーリ支持ケース部
552 ケーブル支持ケース部
56 第2プーリケース
57,58 アウターチューブ
A1 第1ケーブル張力調整手段
A2 第2ケーブル張力調整手段
A3 第3ケーブル張力調整手段
A4 第4ケーブル張力調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作する操作部に設けられたステアリング側ケーブルプーリと、
操向輪を転舵する転舵部に設けられた操向輪側ケーブルプーリと、
前記両ケーブルプーリに対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結する2本のインナーケーブルと、
前記ステアリング側ケーブルプーリを収納する第1プーリケースと、
前記操向輪側ケーブルプーリを収納する第2プーリケースと、
前記2本のインナーケーブルを覆うと共に、両プーリケースを連結する2本のアウターチューブと、
を備えたケーブル式ステアリング装置において、
前記第1プーリケースと第2プーリケースのうち少なくとも一方のプーリケースは、
前記プーリを回転自在に支持するプーリ支持ケース部と、
前記2本のアウターチューブの2つの端部を支持すると共に、前記プーリ支持ケース部に対してインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持するケーブル支持ケース部と、
を有することを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記プーリ支持ケース部と前記ケーブル支持ケース部との間には、インナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し互いの相対位置関係を調整するケーブル張力調整手段を有することを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記プーリ支持ケース部の両側外周部に一対の第1ガイド凸面と第1ガイド凹面を形成し、
前記ケーブル支持ケース部の両側内周部に一対の第2ガイド凸面と第2ガイド凹面を形成し、
前記第1ガイド凸面と前記第2ガイド凸面とをインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対しずらした位置に配置し、
前記第1ガイド凸面を第2ガイド凹面に対してインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合し、前記第2ガイド凸面を第1ガイド凹面に対してインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に摺動可能に嵌合したことを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記ケーブル張力調整手段は、
前記プーリ支持ケース部と前記ケーブル支持ケース部とに螺合することで連結するスライドネジ軸と、
前記スライドネジ軸を回転操作することによりケーブルの巻き取り・送り出し方向に相対移動させる回転操作部材と、
前記回転操作部材による回転操作位置でロックするロック部材と、
を有することを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記ケーブル張力調整手段は、
前記2本のインナーケーブルの2つの端部の間に配置したスライドネジ軸の中央部に固定し、スライドネジ軸を直接回転させるローレットボルトを前記回転操作部材とし、
前記スライドネジ軸の互いに逆方向傾斜に切られた第1ネジ部または第2ネジ部に螺合し、前記プーリ支持ケース部または前記ケーブル支持ケース部に対する締め付けによりロックするロックナットを前記ロック部材とする第1ケーブル張力調整手段であることを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項6】
請求項4に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記ケーブル張力調整手段は、
前記2本のインナーケーブルの2つの端部の間に配置したスライドネジ軸の中央部に固定し、スライドネジ軸を直接回転させるローレットボルトを前記回転操作部材とし、
前記スライドネジ軸のネジ部に螺合し、前記プーリ支持ケース部または前記ケーブル支持ケース部に対する締め付けによりロックするロックナットを前記ロック部材とし、
前記スライドネジ軸の支軸部の端面位置にスラストベアリングを配置した第2ケーブル張力調整手段であることを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項7】
請求項4に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記ケーブル張力調整手段は、
前記2本のインナーケーブルに沿って配置したスライドネジ軸の中央部に固定したウォームホイールと、該ウォームホイールと噛み合うウォームギヤが形成され、前記ウォームホイールに沿って配置されたウォームギヤシャフトと、該ウォームギヤシャフトの一端部に設けられたアジャストつまみと、を有して前記回転操作部材とし、
前記ウォームギヤシャフトをケーブル支持ケース部に対して回り止めする回り止めボルトを前記ロック部材とする第3ケーブル張力調整手段であることを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項8】
請求項4に記載されたケーブル式ステアリング装置において、
前記ケーブル張力調整手段は、
前記2本のインナーケーブルの2つの端部の間に配置したスライドネジ軸の中央部に固定したウォームホイールと、該ウォームホイールと噛み合うウォームギヤが形成され、前記一対のインナーケーブルの2つの端部の間を貫通して直交配置されたウォームギヤシャフトと、該ウォームギヤシャフトの上端部に設けられたアジャストつまみと、を有して前記回転操作部材とし、
前記ウォームギヤシャフトをケーブル支持ケース部に対して回り止めする回り止めボルトを前記ロック部材とする第4ケーブル張力調整手段であることを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項9】
運転者が操作する操作部に設けられたステアリング側ケーブルプーリと、
操向輪を転舵する転舵部に設けられた操向輪側ケーブルプーリと、
前記両ケーブルプーリに対し互いに逆方向に巻き付けられた状態で連結する2本のインナーケーブルと、
前記ステアリング側ケーブルプーリを収納する第1プーリケースと、
前記操向輪側ケーブルプーリを収納する第2プーリケースと、
前記2本のインナーケーブルを覆うと共に、両プーリケースを連結する2本のアウターチューブと、
を備えたケーブル式ステアリング装置において、
前記第1プーリケースと第2プーリケースのうち少なくとも一方のプーリケースを、前記プーリを回転自在に支持するプーリ支持ケース部と、前記2本のアウターチューブの2つの端部を支持するケーブル支持ケース部と、による2分割の構成とし、
前記プーリ支持ケース部に対して前記ケーブル支持ケース部をインナーケーブルの巻き取り・送り出し方向に対し相対移動可能に支持することで、2本のインナーケーブルのセット張力を同時に調整可能にしたことを特徴とするケーブル式ステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−230470(P2007−230470A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57269(P2006−57269)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】