説明

ゲル状組成物

【課題】電磁波抑制能と熱伝導性を供え、柔軟性にすぐれ、かつ揮発ガスの問題が生じにくいゲル状組成物を提供することである。
【解決手段】高分子と、この高分子の網目中に含有されるイオン液体とを含むゲルと、
そのゲル中に分散された電磁波抑制材とを有し、熱伝導度が0.8W/mK以上であるゲル状組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル状組成物に関し、特に、イオン液体と電磁波抑制材を含むゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)やIC(Integrated Circuit)といった半導体素子の高密度化、高性能化により無線機器やデジタルカメラ等の電子機器の性能はめざましく向上してきた。これに伴い使用周波数は高周波化しており、電子機器への外部からの電磁波の影響を阻止するため、また、電子機器自体が発生する電磁波の外部への放出を阻止するため、電磁波シールドあるいは電磁波吸収効果のある電磁波抑制部材の使用が求められている。
【0003】
ところで、イオン液体(イオン性液体、あるいは常温溶融塩とも呼ばれる)は、高いイオン導電性と、常温で液体であり、不揮発性である点等から近年注目を浴びている材料であり、主として電解液等の用途で検討されている。
【0004】
特許文献1(特開2006-128570号公報)および特許文献2(特開2007-27470号公報)は、このイオン液体を用いた電磁波抑制部材について述べられている。特許文献1には、「ゴムやエラストマからなる部材で電磁波シールド性を有する電磁波シールド材であり、「イオン液体と、導電性微粒子及び導電性繊維の少なくとも一方とを含有する高分子弾性体を特徴」とし、「導電性の充填剤である導電性カーボンや金属繊維、炭素繊維の一部をイオン液体で置換したもの」が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、実質的にイオン液体のみからなる電磁波抑制部材、および実質的にイオン液体のみを保有したゲル状材料からなる電磁波抑制部材が記載されている。
【0006】
さらに、イオン液体を用いた電磁波吸収材に関連し、特許文献3には、一対の窓ガラス間にイオン液体を封止したものが記載されており、特許文献4には、イオン液体を構成するモノマーを重合した電磁波抑制部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−128570号公報、請求項1および段落〔0012〕の記載。
【特許文献2】特開2007−27470号公報、請求項1、2および段落〔0038〕の記載。
【特許文献3】米国特許出願公開US2004/0149472号公報、請求項1等。
【特許文献4】WO2006/053083号公報、請求項1および段落〔0053〕の記載。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子機器製品の小型化、高集積化に伴い、電磁波ノイズとともに問題視されているのが、電子機器からの発熱量の増加である。電子機器の多くは、放熱体(ヒートシンク)を備えているが、発熱量の増加に伴い、発熱源となる集積回路から効率良く放熱体に熱を移動させるための熱伝導部材の使用が検討されている。
【0009】
しかしながら、小型電子機器等では一般にスペースが限られているため、電子機器内に電磁波抑制部材と熱伝導部材の両方をコンパクトに収納できることが望ましい。好ましくは、電磁波抑制機能と熱伝導性の両方を併せ持つ部材の開発が望まれる。また、シート状、あるいはスペースにあわせた形状に成形可能な成形性、柔軟性を持つことも望まれる。
【0010】
シリコーン樹脂やシリコーンゲル中に磁性体のような電磁波吸収材と熱伝導性粒子を分散させることで、電磁波吸収機能と熱伝導機能を併せ持つ材料も存在する。しかし、これらは、シリコーン樹脂自体が高価であることに加え、ハードディスクの動作不良やカメラのレンズの曇りの原因となる低分子量のシロキサンガスがシリコーン樹脂より発生することが懸念されており、シリコーンを用いない材料の使用が望まれている。
【0011】
上述する、イオン液体を用いた従来の電磁波抑制部材では、シリコーンは含まれていない。しかしながら、これらの材料は専ら電磁波吸収もしくは電磁シールドを目的とするものであり、熱伝導機能についての記載はなく、良好な熱伝導機能を持ち合わせたものは知られていない。
【0012】
そこで、本発明の課題は、電磁波抑制能と熱伝導性を備え、成型性と柔軟性にすぐれ、かつ揮発ガスの問題が生じにくい材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、高分子と、その高分子の網目中に含有されるイオン液体とを含むゲルと、このゲル中に分散された電磁波抑制材とを有し、熱伝導度が0.8W/mK以上であるゲル状組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、イオン液体の誘電体としての性質およびゲル中に分散された電磁波抑制材の機能に基づき相乗的な電磁波抑制能を発揮できるとともに、イオン液体とそこに分散された電磁波抑制材との相互作用に基づき熱伝導性を発現し、0.8W/mK以上の熱伝導度を有するゲル状組成物を提供できる。また、このゲル状組成物は、イオン液体を用いるため揮発ガスの問題が少ない。さらに、高分子の網目中にイオン液体を含有するため、安定した柔軟性と成形性を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、比較例4および比較例5の電磁波吸収性能を示すグラフである。
【図2】実施例3と比較例1〜3の電磁波吸収性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示のゲル状組成物は、高分子とこの高分子の網目中に含有されたイオン液体を含むゲルと、このゲル中に分散された電磁波抑制材とを含み、電磁波抑制効果のみならず熱伝導性を備えたものであり、少なくとも0.8W/mK以上の熱伝導度を持つものである。
【0017】
本開示のゲル状組成物は、イオン液体中に電磁波抑制材を分散させたことにより、両者の相乗的な作用により、電磁波抑制効果のみならず、熱伝導性を発現し、実用的な熱伝導度である、0.8W/mK以上の実用的な熱伝導度を備えるものである。
【0018】
また、本開示のゲル状組成物は、高分子の網目中にイオン液体を含有することで、安定した柔軟性と成形性を持ち、電磁波抑制機能と熱伝導性を兼ね添える材料を提供できる。また、本開示のゲル状組成物は、不揮発性のイオン液体を使用しており、シリコーンを含まないため、シロキサンガス発生の懸念がない。
【0019】
「ゲル」とは、一般に、高粘度で流動性を失った分散系物質をいう。本発明における「ゲル」は、イオン液体を分散媒とし、高分子を分散質として含む分散系物質を意味する。すなわち本発明における「ゲル」とは、分散質のひとつである高分子の持つ網目構造中に分散媒であるイオン液体が含まれることで、流動性を失ったものである。質量において、イオン液体を高分子より多く含むため、柔軟性を併せ持つ。なお、高分子網目構造とイオン液体とは、完全に分離されたものばかりでなく、一部で化学結合や物理結合されたものも含む。
「イオン液体」とは、アニオンとカチオンから成る電解質でありながら、常温常圧(25℃、1気圧(1×105Pa))下において液体状態で存在する物質をいう。なお、「イオン液体」は一般には「常温溶融塩」とも呼ばれる。また、「電磁抑制材」とは、電磁波を反射あるいは吸収する能力を有する材料をいう。
【0020】
なお、本明細書中において、「ゲル中に電磁波抑制材が分散されること」と、「イオン液体中に電磁波抑制材が分散されること」とは、特に区別なく、「ゲルを構成するイオン液体中に電磁波抑制材が分散されている」ことを意味するものとする。
【0021】
以下に、本開示のゲル状組成物の具体的組成とその効果について説明する。
ゲル状組成物の形状は特に限定されないが、代表的にはシート状に成形して電磁波抑制および放熱が必要な電子回路等の上に直接、あるいは絶縁層を介して被覆させて使用できる。なお、具体的な使用方法は後述する。
【0022】
まず、本開示のゲル状組成物中に分散される電磁波抑制材について説明する。この電磁波抑制材としては、電磁波吸収効果を有するもののみならず、電磁波を反射するものも使用できる。例えば、電磁波抑制材として、導体、カーボン、誘電体或いは磁性体を使用できる。導体としては、例えば、Al、Fe、Ni、Cr、Cu、Au、Ag、またはこれらの合金を例示できる。カーボンとしては、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、フラーレン、またはダイヤモンドを例示できる。誘電体としては、SiO2、Al23、チタン酸バリウム、または酸化チタンを例示できる。さらに、磁性体としては、遷移元素を含んだ合金や酸化物である、フェライト、パーマロイ(Fe-Ni系合金)、センダスト(Al-Si-Fe系合金)等を例示できる。
【0023】
特に、電磁波抑制能をより効果的に発揮させるためには、電磁波抑制材として、電磁波吸収性が高い軟磁性体であるセンダストやフェライト等を使用することが好ましい。軟磁性フェライトとしては、具体的にはマンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト等が挙げられる。
【0024】
なお、ゲル状組成物中に含まれる電磁波抑制材の種類は、一種に限らず、2種以上の電磁波抑制材を混合して使用することもできる。
【0025】
本開示のゲル状組成物では、これらの電磁波抑制材がそれ自身で電磁波吸収または反射効果を示すとともに、イオン液体の持つ電磁波抑制効果が加わり、効果的に電磁波抑制機能を発揮できる。電磁波抑制能は100MHz〜3GHzを含む広い範囲で有効なものであるが、代表的には、後述する条件での測定において、センダストやフェライト等の軟磁性体を使用した場合、0.3mm〜5.0mm厚みのシート状ゲル状組成物で、1GHzでの電磁波吸収性能の指標であるパワーロスを、例えば3%以上、あるいは15%以上とすることができる。
【0026】
ゲル状組成物中に分散される電磁波抑制材の形状に限定はなく、球形だけでなく、ロッド状、板状、繊維状、扁平状等の不定形などの微粒子として使用される。比表面積が大きい扁平状や針状等の微粒子を使用する場合は、より効果的に電磁波抑制能を高めることができる。電磁波抑制材の微粒子サイズには特に限定はないが、ゲル状組成物をシート状に加工する場合は、シートの厚みに対して十分小さい微粒子である方がシートの柔軟性を維持するため望ましい。例えば、微粒子の粒径は、シート厚みの1/5以下、あるいは1/10以下とすることが好ましい。あるいは、微粒子のサイズは、0.1μm以上、500μm以下、もしくは1μm以上200μm以下とする。
【0027】
微粒子の粒径は、走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置、あるいは動的光散乱光度計(DLS)等を用いることによって測定することができる。なお、微粒子の粒径とは、例えば、粒子の略重心を通る最大粒子径寸法で示すことができる。略球状微粒子であれば、重心を通る断面での最大直径であり、ロッド状微粒子であれば、ロッドの底面の直径とロッド高さのうちいずれか長い方、扁平形状微粒子であれば、板状面の最大径寸法、また、繊維状形状であれば、その繊維の長さをそれぞれ微粒子の粒径とする。
【0028】
また、扁平状の微粒子であれば、そのサイズを厚みとアスペクト比で表すこともできる。例えば、電磁波抑制材として、扁平状のセンダスト微粒子を使用する場合、平均粒子厚みが0.5〜3μmであり、アスペクト比(粒子径/ 粒子厚み)が2〜100、または10〜60のものを使用することができる。なお、微粒子の平均厚みが0.5μm以下になるまで扁平化すると、加工の影響により透磁率が本来の値よりも低下するため好ましくない。一方、平均粒子厚みが3μmを超えると渦電流による透磁率の低下が生じる可能性がある。
【0029】
なお、イオン液体中の電磁波抑制材は、その周囲をイオン電荷により囲まれる傾向があるため、個々の微粒子が電荷で囲まれ、反発しあう結果、微粒子同士の凝集が抑制され、結果として良好な分散性が示される。したがって、分散助剤等の添加なしに、比較的多量の電磁波抑制材をイオン液体中に良好に分散させることができる。
【0030】
電磁波抑制能は、基本的にはゲル状組成物中に含まれる電磁波抑制材の種類や形状、サイズ、含有量に依存する。一般に、電磁波抑制材の含有量が増加するほど、電磁波抑制効果も高い。例えば、粒状の電磁波抑制材は、一般的にはゲル状組成物中に20質量%以上、好ましくは30質量%以上、あるいは60質量%以上と増量することで、より高い電磁波抑制能を得ることができる。また、扁平形状のセンダスト微粒子等使用する場合は、効果的に電磁波吸収能を発揮できるため、10質量%以上、あるいは20質量%以上で実用的な電磁波吸収能を得ることができる。
【0031】
なお、イオン液体中の電磁波抑制材の量が一定量を超えると、電磁波抑制材の含有量から予想される以上の電磁波抑制能の大幅な増加が生じる場合がある。この理由は、明らかではないが、イオン液体と電磁波抑制材の組み合わせで生じる相乗的な効果であると考えられる。
【0032】
具体的には、電磁波抑制材として、フェライトを使用する場合、電磁抑制材の含有量が一定量を超えると、大幅に電磁抑制効果が増加する傾向が見られる。例えば、マンガン亜鉛フェライトを用いた場合、約60質量%あるいは約70質量%を超える場合、あるいは約30vol%を超え、約40vol%以上、あるいは約45vol%以上で電磁波抑制効果の急激な上昇が見られる。なお、ここで使用するファライト微粒子としては、例えば、略球状微粒子で、平均粒径が1μm〜50μm、または1μm〜10μmのものを使用することができる。
【0033】
また、電磁波抑制材として、扁平状のセンダスト微粒子、例えば、アスペクト比10〜50の扁平形状で、平均粒子径が約100μm以下、例えば30μm〜50μmの微粒子を使用する場合、ゲル状組成物中に約7vol%以上、約8vol%以上、または10vol%以上において、あるいは、ゲル状組成物中に30質量%以上もしくは40質量%以上含まれる場合において、電磁波抑制材それぞれの単独の電磁波抑制機能から予想されるより高い電磁波抑制効果を発現させることができる。
【0034】
一方、本開示のゲル状組成物の別の主たる特徴のひとつは、イオン液体中に電磁波抑制材を分散させることで、電磁波抑制効果のみでなく、高い熱伝導性を発現させたことである。この熱伝導性の発現は、本発明者等の鋭意検討により明らかになったものである。本開示のゲル状組成物は、熱伝導材として実用可能な0.8W/mK以上発現できるものである。なお、1.0W/mK以上、あるいは1.2W/mK以上とすることもできる。
【0035】
熱伝導性の発現の理由は明らかではないが、イオン液体中に分散された、電磁シールドや電磁吸収効果を有する電磁波抑制材は、通常、電気的極性を持つ。この電気的極性が、周囲のイオン液体に電気的なバランスを作り、イオン液体中に配向状態を作りだし、この配向が分散された電磁波抑制材間に一種の架橋状態をつくり、この架橋が熱を効率的に運ぶ熱伝導経路となり得ることが考えられる。特に、ゲル中に分散された電磁波抑制材の含有量が一定量を超え、電磁波抑制材同士の間隔が近づくとその傾向がより顕著になり、熱伝導度が増大すると考えられる。ただし、この理由に何ら限定されるものではない。
【0036】
本開示のゲル状組成物で得られる熱伝導度は、使用するイオン液体や電磁波抑制材の種類や含有量、粒子形状や粒子サイズ等によっても多少変化するものの、例えば、軟磁性体として、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、もしくは、銅亜鉛フェライト等のフェライトを使用する場合、フェライトが30vol%を超え、40vol%以上、あるいは45vol%以上含有される場合、0.8W/mK以上の熱伝導度を得ることが可能であり、50vol%以上含有されている場合は、1.2W/mK以上の熱伝導度を得ることも可能となる。あるいは、軟磁性フェライトが70質量%以上含有される場合、0.8W/mK以上の熱伝導度を得ることが可能であり、80質量%以上含有される場合、1.2W/mK以上の熱伝導度を得ることも可能となる。なお、ここで使用するファライト微粒子としては、例えば、略球状微粒子で、平均粒径が1μm〜50μm、または1μm〜10μmのものを使用することができる。
【0037】
また、ゲル状組成物中に、例えば電磁波抑制材として、センダスト微粒子が7vol%以上含有される場合、0.8W/mK以上の熱伝導度を得ることが可能であり、あるいは、センダスト微粒子が25質量%以上含有される場合、0.8W/mK以上の熱伝導度を得ることが可能である。さらに、より効果的な熱伝導度を得るために、センダスト含有量を8vol%以上もしくは10vol%以上、または、30質量%以上もしくは40質量%以上にすることができる。なお、センダスト微粒子として略球状のものを使用できるが、アスペクト比が10以上50以下の扁平形状の微粒子を用いる場合、少量の微粒子含有量で高い熱伝導性を発揮することができる。なお、平均粒子径が1μm〜100μm以下、あるいは10μm〜50μmを使用できる。
【0038】
以上の説明するように、本開示のゲル状組成物は、イオン液体中に電磁波抑制材を分散させたことにより、電磁波吸収効果のみならず、熱伝導特性をあわせもつものであるが、特に、ゲル状組成物中に一定以上の電磁波抑制材を含むことで、実用的な電磁波吸収特性と熱伝導特性を得ることができる。
【0039】
次に、本開示のゲル状組成物を構成するイオン液体について説明する。
本開示のゲル状組成物は、高分子の網目中にイオン液体を含有することで、ゲル状態を維持しているため、安定した柔軟性を持つとともにイオン液体の漏れがないため、取扱いがしやすい。市販のシリコーンを用いたゲルとは異なり、イオン液体が不揮発性であるため、ガスの発生に伴う問題は少ない。
【0040】
使用するイオン液体としては、特に限定はなく、通常、種々のイオン液体を使用することができる。いずれのイオン液体も、常温で液体であり、不揮発性と誘電体的性質を持ちあわせる。この誘電体的性質に基づきイオン液体も電磁波吸収性能を発現する。
【0041】
使用するカチオン、アニオンとその組み合わせに限定はない。例えば、カチオンとしては、第一級(R1NH3+)、第二級(R1R2NH2+)、第三級(R1R2R3NH+)、第四級(R1R2R3R4N+)鎖状アンモニウムカチオン(式中、R1、R2、R3、 R4は各々独立に炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいは1個以上のヒドロキシル基を側鎖に持つ炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいはフェニル基である。)および環状アンモニウムカチオンが使用できる。環状アンモニウムカチオンとしては、オキサゾリウム、チアゾリウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピロリニウム、フラザニウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、イミダゾリジニウム、ピラゾリジニウム、ピロリニウム、イミダゾリニウム、ピラゾリニウム、ピラジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、インドリウムおよびカルバゾリウムが挙げられる。さらに別のカチオンとしては、鎖状ホスホニウムカチオン(R5R6R7P+およびR5R6R7R8P+)、鎖状スルホニウムカチオン(R9R10R11S+)(式中、R5、R6、R7、R8、 R9、R10、R11は各々独立に炭素数1〜12個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基又はフェニル基である。)および環状スルホニウムカチオンが挙げられる。環状スルホニウムカチオンには、チオフェニウム、チアゾリニウムおよびチオピラニウムが例示できる。
【0042】
なお、ここで、カチオンとして、特に第4級アンモニウムカチオンを使用した場合は、120℃以上の高温耐熱性を付与することが可能になる。電子機器、およびそれに使用される半導体装置からの発熱により、高温化した使用状態においても、安定した性能を維持できる。よって、高温耐熱性が必要な、車載用途で使用する電子機器等に対しても使用できる。
【0043】
アニオンとしては、リン酸、硫酸、カルボン酸等の無機酸系イオン、フッ素系イオン等が使用できる。ここで、フッ素系アニオンとしては、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-)、トリフルオロメチルスルホネート(CF3SO3-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド[(FSO2)2N-]、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド [(CF3SO2)2N-]、ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド[(CF3CF2SO2)2N-]、トリス(トリフルオロメチルスルホニルメチド)[(CF3SO2)3C-]を挙げることができる。
【0044】
さらに、アニオンとしては、非ハロゲン系のアニオンを使用することが望ましく、特に、リン酸系イオンを使用すれば、フッ素系イオンを用いる場合に比較し安価で、経済性が高いとともに、高い難燃性を得ることができる。たとえば、リン酸系アニオンとして以下のリン酸基を含む一般式[PO43-]、 [RPO42-]または [RR’PO4-](式中、R、R’は水素、炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基を表す。)で示される塩が使用できる。具体的には、リン酸 (PO43-, HPO42-, H2PO4-), リン酸モノエステル (RPO42-, HRPO4-), リン酸ジエステル (R2PO4-) [Rは炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基]を挙げることができる。
【0045】
イオン液体は、市販のものを使用することもできるが、酸エステル法、錯形成法、および中和法などの方法を用いて合成することもできる。また、1種類のみならず複数種類を混ぜ合わせて使用することもできる。
【0046】
たとえば、リン酸系イオン液体を中和法を用いて合成する場合は、アルコール等の有機溶媒で5倍に希釈したリン酸、リン酸ジブチル等の無機/有機リン酸に、アミンを低温条件下、例えば、0℃の条件下で、滴下し、室温で十分に攪拌する。その後、これを減圧下で蒸留し、溶媒を揮発させる。
【0047】
たとえば、リン酸系イオン液体を酸エステル法を用いて合成する場合には、リン酸トリメチル等の有機リン酸エステルに、アミンを加え、60℃で十分に撹拌する。その後、これを減圧下で蒸留し、未反応原料を揮発させる。
【0048】
ゲル状組成物におけるイオン液体の含有量は、限定されないが、電磁波抑制材を除く、ポリマーとイオン液体とで構成されるゲル状組成物質量を100%とする場合に、イオン液体を50%以上含む。さらに、70%以上含むとき、ゲル状組成物に高い柔軟性を付与できる。ゲル状組成物の高い柔軟性は、電子部品等の上に被覆させた場合に、電子部品等への良好な密着性が得られることになり、放熱効率を上げることが可能になる。
【0049】
一方、ゲル状組成物中のイオン液体の量は、ゲル構造が維持できればよく、イオン液体の量は、ゲル状組成物全体の90質量%以下、もしくは80質量%以下とすることが好ましい。しかしながら、イオン液体の含有量は、必要な電磁波抑制機能と熱伝導性に応じて必要とされる電磁波抑制材の量に応じて変更してもよい。
【0050】
なお、イオン液体は、カチオンとアニオン間のイオン結合と、高分子構造とイオン液体間の水素結合等の存在により、結合部分で振動による摩擦を生じ易いため、衝撃エネルギーを振動と摩擦で、熱エネルギーに変換し、より高い衝撃吸収能を発揮することができる。衝撃吸収能は、ゲル状組成物におけるイオン液体の比率が高い程、高い効果が期待できる。したがって、ゲル状組成物に衝撃吸収能を付加するために、ゲル構造が維持できる範囲で、イオン液体含有量を増やしてもよい。
【0051】
次に、本開示のゲル状組成物で使用される高分子について説明する。
この高分子としては、ゲル状態を形成できるものであれば限定せずに使用できる。高分子の網目の存在は、温度変化があってもゲル状態を安定に維持し、イオン液体の漏れを防ぎ、ゲル状組成物に安定した柔軟性と成形性を付与することができる。
【0052】
この高分子の網目は、架橋剤の関与のもとモノマーもしくはポリマーを共重合することにより作製できる。なお、高分子の網目を構成するポリマーの構成単位に少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれか一を含むポリマーを使用する場合は、イオン液体存在下で重合を行うと、イオン液体との間で水素結合等のインタラクションを形成しやすいため、高分子の網目中にイオン液体を保持し、安定したゲル状態を形成しやすい。このため、ゲル状組成物におけるイオン液体の含有量を増やすことも可能である。
【0053】
酸性基としては、たとえばカルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン酸基等を挙げることができる。塩基性基としては、たとえば第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等を挙げることができる。本開示のゲル状組成物で使用される高分子としては、これらの酸性基もしくは塩基性基を有するビニル系誘導体あるいはその塩より選ばれる少なくとも1種のものをモノマーとするホモポリマー、コポリマー、ターリマー、若しくはセルロース、デンプン、ヒアルロン酸等の多糖類、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0054】
たとえば、酸性基としてカルボキシル基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-メタクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルフタレート、2-メタクリロイロキシプロピルフタレート、エチレンオキシド変性コハク酸アクリレート、エチレンオキシド変性コハク酸メタクリレート、プロピレンオキシド変性コハク酸アクリレート、プロピレンオキシド変性コハク酸メタクリレート等を挙げることができる。
【0055】
高分子として、特に、ポリアクリル酸を使用する場合は、イオン液体との相溶性も良く、ブリードアウトを生じにくい。また、イオン液体との間で、水素結合等のインタラクションを形成しやすく、ポリマーマトリックス中に多量のイオン液体を保持しやすい。よってイオン液体成分を多く含有するゲル状組成物を提供できる。
【0056】
さらに、高分子として、アクリル酸ホモポリマーあるいはコポリマー等のアクリル樹脂を使用する場合は、ゲル状組成物に粘着性を付与することができる。別途、粘着剤層を必要とせず、必要な場所に直接ゲル状組成物を貼り付けて使用することが可能になる。
【0057】
ここで、酸性基としてヒドロキシル基を有するモノマーの例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、エピクロルヒドリン(ECH)変性フェノキシアクリレート、ECH変性フェノキシメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、エチレングリコールアクリレート、エチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、プロピレングリコールアクリレート、プロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、2-ヒドロキシプロピルアクリルアミド、2-ヒドロキシブチルアクリルアミド、ビニルアルコール、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0058】
また、酸性基としてスルホン酸基を有するモノマーの例としては、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸、2-メタクリロキシエチルスルホン酸、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸ナトリウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸リチウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸アンモニウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸イミダゾリウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸ピリジニウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸ナトリウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸リチウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸アンモニウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸イミダゾリウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸ピリジニウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸イミダゾリウム、スチレンスルホン酸ピリジニウム等を挙げることができる。
【0059】
さらに、塩基性基として第1級、第2級、第3級の各アミン基を有するモノマーの例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノブチルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジメチルアミノプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノブチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノブチルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジエチルアミノプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノブチルアクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノブチルアクリルアミド等を挙げることができる。
【0060】
なお、ゲル状組成物中に含まれる電磁波抑制材として酸化されやすい金属性磁性体材料を含む場合は、その酸化を抑制するため、酸性基を含む場合は、酸性基として、酸化度が低い水酸基やカルボルシル基を使用することが好ましい。
【0061】
また、塩基性基として第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基を有するモノマーの例としては、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムブトミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムブトミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムヨージド等を挙げることができる。
【0062】
さらに、塩基としてアミド基を有するモノマーの例としては、ジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド等を挙げることができる。
また、塩基としてイミダゾール基、イミド基、モルホリン基、ピペリジル基を有するモノマーの例としては、ビニルイミダゾール、イミドアクリレート、イミドメタクリレート、アクリロイルモルホリン、テトラメチルピペリジルアクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、ペンタメチルピペリジルアクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート等を挙げることができる。
【0063】
次に、本開示のゲル状組成物の製造方法について説明する。
本開示のゲル状組成物は、イオン液体、電磁波抑制材、および1種または2種以上のモノマーもしくはポリマーと架橋剤とを混合した後、EB照射等の放射線照射、もしくは加熱によりモノマーを重合および架橋、もしくはポリマーを架橋させることにより作製できる。
【0064】
ここで、電磁波抑制材としては、上述する種々の電磁波抑制材や電磁波シールド材を単一または複数使用することができる。混合される電磁波抑制材の量に特に限定はないが、必要とされる柔軟性や加工形状に合わせて、含有量を調整することができる。
【0065】
モノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン酸基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー、あるいは、第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー等を用いることができる。モノマーは1種に限られず、2種以上を使用してもよい。
【0066】
たとえば、カルボキシル基を含むモノマーである、アクリル酸モノマーを使用する場合は、アクリル酸、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸、メタクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム等のモノマーを使用できる。
【0067】
イオン液体とモノマーとの混合比率は、最終的に得られるゲル状組成物に柔軟性を与えたい場合は、イオン液体100質量部に対し、モノマーを100質量部以上加える。
【0068】
モノマーの代わりにポリマーを使用することもできる。また、モノマーとポリマーの両方もしくは、複数種類のモノマーおよびポリマーを使用することも可能である。いずれの場合も、イオン液体100質量部に対し、ポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計が100質量部以下となるよう加える。
【0069】
架橋剤は、モノマー、またはポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計100質量部に対し、約0.1質量部〜10質量部、もしくは0.1〜50質量部加える。
【0070】
また、アクリル酸モノマーを使用する場合、架橋剤としては、たとえば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ECH変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ECH変性1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エチレンオキシド(EO)変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキシド(PO)変性ビスフェノールAジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジメタクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジメタクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、エピクロルヒドリン(ECH)変性ジアクリレート、ECH変性ジメタクリレート、ECH変性エチレングリコールジアクリレート、ECH変性エチレングリコールジメタクリレート、ECH変性プロピレングリコールジアクリレート、ECH変性プロピレングリコールジメタクリレート、ECH変性フタル酸ジアクリレート、ECH変性フタル酸ジメタクリレートPO変性グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリメタクリレート、PO変性グリセロールトリメタクリレート、ECH変性グリセロールトリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタレート、ジグリシジルフタレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0071】
重合手段としては、熱や放射線のいずれの重合手段を利用してもよいが、本開示のゲル状組成物では、重合前の混合液が電磁波抑制材を含有し、通常は不透明であるため光重合より熱重合を用いるほうが望ましい。放射線としては、EB(Electron Beam)照射線等を使用できる。なお、熱重合を行う場合には、熱重合開始剤を添加する。熱重合開始剤は、モノマー100質量部に対し、たとえば約0.01質量部〜1質量部加える。
【0072】
熱重合開始剤としては、たとえば、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン] ジハイドロクロリド(VA-044, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン] ジサルフェイトジハイドレイト(VA-046B, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン) ジハイドロクロリド (V-50, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン] ハイドレイト (VA-057, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン} ジハイドロクロリド (VA-060, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン (VA-061, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロールイジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロリド (VA-067, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド}(VA-080, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド (VA-086, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロ二トリル) (V-70, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) (V-65, 和光純薬社)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネイト) (V-601, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル) (V-59, 和光純薬社)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (V-40, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド] (VF-096, 和光純薬社)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド (V-30,和光純薬社)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド) (VAm-110, 和光純薬社)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド) (VAm-111, 和光純薬社)、ジイソブチリル パーオキサイド (パーロイルIB, 日油社)、クミル パーオキシネオデカノアイト (パークミルND, 日油社)、ジ-n-プロピル パーオキシジカーボネイト (パーロイルNPP, 日油社)、ジイソプロピル パーオキシジカーボネイト (パーロイルIPP, 日油社)、ジ-sec-ブチル パーオキシジカーボネイト (パーロイルSBP, 日油社)、1,1,3,3-テトラメチルブチル パーオキシデカノエイト (パーオクタND, 日油社)、ジ(2-エチルヘキシル) パーオキシジカーボネート (パーロイルOPP, 日油社)、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル) パーオキシジカーボネート (パーロイルTCP, 日油社)、tert-ヘキシル パーオキシネオデカノエイト (パーヘキシルND, 日油社)、tert-ブチル パーオキシネオデカノエイト (パーブチルND, 日油社)、tert-ブチル パーオキシネオヘプタノエイト (パーブチルNHP, 日油社)、tert-ヘキシル パーオキシピバレイト (パーヘキシルPV, 日油社)、tert-ブチル パーオキシピバレイト (パーブチルPV, 日油社)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド (パーロイル355, 日油社)、ジラウリル パーオキサイド (パーロイルL, 日油社)、1,1,3,3-テトラメチルブチル パーオキシ-2-エチルヘキサノエイト (パーオクタO, 日油社)、ジサクシニックアシッド パーオキサイド (パーロイルSA, 日油社)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキシルパーオキシ)ヘキサン (パーヘキサ250, 日油社)、tert-ヘキシル パーオキシ-2-エチルヘキサノエイト (パーヘキシルO, 日油社)、ジ(4-メチルベンゾイル) パーオキシド (ナイパーPMB, 日油社)、tert-ブチル パーオキシ2-エチルヘキサノエイト (パーブチルO, 日油社)、ジ(2-メチルベンゾイル)パーオキシド, ベンゾイル(3-メチルベンゾイル) パーオキシド, ジベンゾイル パーオキシド混物 (ナイパーBMT, 日油社)、ジベンゾイル パーオキシド (ナイパーBW, 日油社)、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン (パーヘキサMC, 日油社)、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン (パーヘキサTMH, 日油社)、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン (パーヘキサHC, 日油社)、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン (パーヘキサC, 日油社)、2,2-ジ(4,4-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン (パーテトラA, 日油社)、tert-ヘキシルパオキシイソプロピルモノカーボネイト (パーヘキシルI, 日油社)、tert-ブチル パーオキシマレイックアシッド (パーブチルMA, 日油社)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエイト (パーブチル355, 日油社)、tert-ブチル パーオキシラウレイト (パーブチルL, 日油社)、tert-ブチル パーオキシイソプロピルモノカーボネイト (パーブチルL, 日油社)、tert-ブチル パーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネイト (パーブチルI, 日油社)、tert-ヘキシル パーオキシベンゾエイト (パーヘキシルZ, 日油社)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン (パーヘキサ25Z, 日油社)、tert-ブチル パーオキシアセテイト (パーブチルA, 日油社)、2,2-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ブタン (パーヘキサ22, 日油社)、tert-ブチル パーオキシベンゾエイト (パーブチルZ, 日油社)、n-ブチル 4,4-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)バーレイト (パーヘキサV, 日油社)、ジ(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン (パーブチルP, 日油社)、ジクミル パーオキシド (パークミルD, 日油社)、ジ-tert-ヘキシル パーオキシド (パーヘキシルD, 日油社)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン (パーヘキサ25B, 日油社)、tert-ブチルクミル パーオキシド (パーブチルC, 日油社)、ジ-tert-ブチル パーオキシド (パーブチルD, 日油社)、p-メンタン ヒドロパーオキシド (パーメンタH, 日油社)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3 (パーヘキシン25B, 日油社)、ジイソプロピルベンゼン ヒドロパーオキシド (パークミルP, 日油社)、1,1,3,3-テトラメチルブチル ヒドロパーオキシド (パーオクタH, 日油社)、クメン ヒドロパーオキシド (パークミルH, 日油社)、tert-ブチル ヒドロパーオキシド (パーブチルH, 日油社)、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン (ノフマーBC, 日油社)を例示できる。
【0073】
なお、本開示のゲル状組成物に対しては、さらに、種々の添加物を加えることもできる。顔料や色素を添加することで、色彩を施すこともできる。さらに必要に応じて、粘着付与剤や表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤などを添加することも可能である。
【0074】
上述するように、本開示のゲル状組成物は、熱伝導性を備えるものであるが、さらに熱伝導性を高めるために電磁波抑制材に加えて、熱伝導粒子を任意成分として加えても良い。このような熱伝導性粒子としては、酸化アルミニウムや炭化ケイ素などの公知の粒子が使用できる。
【0075】
また、ゲル状組成物はリン酸系アニオンを用いた難燃性イオン液体を使用することで難燃性を付与することができるが、難燃材を加えることで難燃性を付与することもできる。難燃材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの公知の難燃材が使用できる。例えば、水酸化アルミニウムを加える場合、平均粒径が0.1〜100μmの微粒子を、例えば10質量%〜50質量%加えることで、UL−94におけるV−0レベルの難燃性を得ることができる。
【0076】
また、本開示のゲル状組成物は、ゲル化のためにモノマーを重合の際、使用用途に合わせて、必要な加工を施すこともできる。その形状に限定はない。たとえば厚みが数mmから数十mmのシート状であってもよく、数mm以下のフィルム状であってもよい。電子機器内部に設置させる場合、設置する場所の周囲の形状に合わせて成形加工してもよい。
【0077】
シート状、あるいはフィルム状に加工する場合は、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)等の比較的耐熱性のよい樹脂フィルム上に上記混合液をコーティングし、さらに、その上に剥離処理した別のPETフィルムでラミネートし、樹脂フィルムの耐熱温度以下で加熱することで、混合液を重合し、かつ重合後、両フィルムを剥離することで、シート状のゲル状組成物を得ることができる。あるいは、2枚の樹脂フィルムの間にゲル状組成物を挟んだ状態のまま電磁波抑制材として使用することもできる。また、2枚の樹脂フィルムの端部をシールし、ゲル状組成物を密封した構成としてもよい。
【0078】
2枚の樹脂フィルムのうち一方のみに剥離処理を施し、ユーザがこれを使用する際に、一方の樹脂フィルムを剥離し、ゲル状組成物を使用したい場所にはく離した側のゲル状組成物面を貼り付けてもよい。ゲル状組成物のポリマーとしてアクリル酸ホモポリマーもしくはコポリマーが使用されている場合は、ゲル状組成物自身に粘着力があるため、必要な場所に直接貼り付けて使用することができる。使用する樹脂フィルムに特に制限はないが、可とう性を備えたフィルムであれば望ましい。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、セロハン(登録商標)、フッ化ビニルデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン及び塩化ビニルデンアクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(PVdF, ETFE等)、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどの樹脂フィルムを挙げることができる。
【0079】
本開示のゲル状組成物は、電磁波抑制能と熱伝導性をあわせもち、さらに、衝撃吸収性、振動吸収性、難燃性等の種々の機能を付加できるものであり、様々な用途に使用できる。これらの複数の機能を使用することも可能であるし、単独の機能のみを使用することもできる。
【0080】
本開示のゲル状組成物を電磁波抑制材および熱伝導材として使用する場合において、具体的な用途としては、例えば、本開示のゲル状組成物をシート状に成形し、発熱を伴う半導体回路等が実装された基板の上に本開示のゲル状組成物を被覆する方法で使用することができる。液晶TVやプラズマTV等の駆動回路基板や、パーソナルコンピュータ、ゲーム機等に含まれるCPUやグラフィック動作等に用いられる高性能IC回路基板、あるいはパワートランジスタや電源部品でも使用できる。
【0081】
さらに、ゲル状組成物は、電磁波抑制能と熱伝導性のみならず、柔軟性、衝撃吸収性および振動吸収性を伴うことができるため、自動車のエンジン周囲や、洗濯機、冷蔵庫、オーディオ、各種モータの下や周囲に設置すれば、振動を抑制し、騒音対策にもなる。また、電気電子製品では、精密機械の梱包部材、あるいは、筺体内壁または外壁の位置に貼り付ける部材として使用できるが、この場合は、ゲル組成中に含まれるイオン液体と電磁波抑制材が衝撃吸収効果と静電防止の効果をも果たすことも可能である。
【0082】
また、エンジン周りの自動車部材や建築部材として使用する場合は、ゲル状組成物は衝撃吸収材としての効果とともに、イオン液体の有する難燃性が防火剤として寄与できる。また、不揮発性であるため、広い温度範囲において、安定した特性を得られる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明について、実施例を参照しながら説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に制限されるものではない。
【0084】
I.イオン液体の合成方法
本実施例のゲル状組成物は、以下の条件で2種類のイオン液体を合成した。
【0085】
<イオン液体[(EtOH)3MeN-Me2PO4]の合成>
還流冷却器と回転子を装備した500 mLナスフラスコにリン酸トリメチル(Me3PO4 、大八化学工業社製) 52 質量部、トリエタノールアミン((EtOH)3N、日本アルコール販売社製) 50 質量部を加え、大気中で、オイルバスを用いて、60℃の条件で24時間加熱撹拌した。反応物を120 ℃ 、100 Paで2時間減圧留去して、イオン液体(EtOH)3MeN-Me2PO4を得た。室温で淡黄色粘性液体であった。
【0086】
<イオン液体[(EtOH)2Me2N-Me2PO4]の合成>
還流冷却器と回転子を装備した500 mLナスフラスコにリン酸トリメチル(Me3PO4 、大八化学工業社製) 50 質量部、N-メチルジエタノールアミン((EtOH)2MeN、日本乳化剤社製) 43 質量部を加え、大気中で、オイルバスを用いて、60℃の条件で24時間加熱撹拌した。反応物を120 ℃、100 Paで2時間減圧留去して、イオン液体(EtOH)2Me2N-Me2PO4を得た。室温で淡黄色粘性液体であった。
【0087】
II.各実施例でのゲル状組成物の調製条件
各実施例と比較例の条件を以下に示す。あわせて、表1にゲル状組成物の組成比を示す。
【0088】
<実施例 1>
イオン液体((EtOH)3MeN-Me2PO4 100 質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリルアミドモノマー(HEAA、株式会社興人製) 43質量部、架橋剤として1, 6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA、日本触媒株式会社製) 0.69 質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2, 4-ジメチルバレロニトリル)(製品名「V-65」、和光純薬工業株式会社製) 0.17 質量部、および電磁波抑制材として、扁平な軟磁性体微粒子であるセンダスト(Fe-Al-Si、製品名「PST-4」,平均粒子径 D50 50 μm, アスペクト比 15, 山陽特殊製鋼株式会社製) 95 質量部を混合し、100 Paで15分間真空脱気した。この混合溶液を25 μm厚みの剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、製品名「SP-PET-01-25-Bu」、東セロ株式会社製)上に膜厚1.3 mmになるようにナイフコーターでコーティングし、さらにその表面を同じPETフィルムでラミネートした。これを100 ℃で10分間加熱することで完反応硬化させてシート状のゲル状組成物を作製した。
【0089】
<実施例 2>
電磁波抑制材を、軟磁性体微粒子Ni-Zn系フェライト(製品名:「BSN-828」, 平均粒子径 D50 5.1 μm, 戸田工業株式会社製) に変更し、混合液中に572質量部に加えた。これ以外は、実施例1と同じ条件で、ゲル状組成物を作製した。
【0090】
<実施例 3>
電磁波抑制材を、軟磁性体微粒子Mn-Zn系フェライト(製品名「BSF-547」, 平均粒子径 D50 3.2 μm, 戸田工業株式会社製) に変更し、混合液中に572質量部に加えた。これ以外は、実施例1と同じ条件で、ゲル状組成物を作製した。
【0091】
<実施例 4>
イオン液体(EtOH)3MeN-Me2PO4 100 質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレートモノマー(HEMA、和光純薬株式会社製) 25質量部、架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(製品名「NK エステルA-600」新中村化学株式会社製) 0.75質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2, 4-ジメチルバレロニトリル)(製品名「V-65」、和光純薬工業株式会社製) 0.13 質量部、電磁波抑制材として、球状センダスト(製品名「PSP」, 平均粒子径 D50 30 μm, 山陽特殊製鋼株式会社製) 500 質量部を混合し、100 Paで15分間真空脱気した。
【0092】
この混合溶液を25 μm厚みの剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、製品名「SP-PET-01-25-Bu」、東セロ株式会社製)上に膜厚1.3 mmになるようにナイフコーターでコーティングし、さらにその表面を同じPETフィルムでラミネートした。これと100 ℃で10分間加熱することで硬化させてシート状のゲル状組成物を作製した。
【0093】
<実施例 5>
電磁波抑制材を扁平形状のセンダスト(製品名「EMS」、平均粒子径 D50 61 μm, アスペクト比 45.1, 株式会社ジェムコ製) に変更し、混合液中に55質量部に加えた。これ以外は、実施例4と同じ条件で、ゲル状組成物を作製した。
【0094】
<実施例 6>
実施例1の混合液に、さらに難燃性材料である水酸化アルミニウム(製品名「H-34」、昭和電工株式会社製)102質量部を追加混合した。それ以外は、実施例1と同じ条件で、ゲル状組成物を作製した。また、実施例1と同様な条件で、ただし厚み1.6mmのシート状のゲル状組成物を作製した。
【0095】
<実施例 7>
(EtOH)2Me2N-Me2PO4 100 質量部、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド((HEAA、株式会社興人) 43質量部、HDDA (1, 6-ヘキサンジオールジアクリレート、日本触媒) 0.69 質量部、V-65 (2,2’-アゾビス(2, 4-ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業) 0.17 質量部、扁平センダスト(Fe-Al-Si) (製品名:「PST-4」山陽特殊製鋼株式会社製) 95 質量部を混合し、100 Paで15分間真空脱気した。混合溶液を2枚の剥離処理PETフィルム(SP-PET-01-25-Bu、25 μm厚、東セロ)に膜厚1.3 mmになるようにナイフコーターでコーティングし、さらにその表面を同じPETフィルムでラミネートし、100 ℃で10分間加熱することで反応硬化させてゲル状組成物を作製した。
【0096】
<比較例 1〜3>
電磁波抑制材として、実施例3と同じ軟磁性体微粒子Mn-Zn系フェライト(製品名「BSF-547」, 平均粒子径 D50 3.2 μm, 戸田工業株式会社製) を使用し、比較例1ではイオン液体(EtOH)3MeN-Me2PO4 100 質量部に対して軟磁性体微粒子Mn-Zn系フェライトを36質量部、比較例2では96質量部、比較例3では216質量部をそれぞれ混合した。それ以外は実施例3と同じ条件でゲル状組成物を作製した。
【0097】
<比較例 4>
以下の条件で、電磁波抑制材を含まないゲル状組成物を作製した。
イオン液体(EtOH)3MeN-Me2PO4 100 質量部、モノマーHEAA 43質量部、架橋剤HDDA 0.17 質量部、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(製品名「DarcurTM 1173」、チバ・スペシャリティケミカルズ株式会社製)0.17 質量部を混合し、100 Paで15分間真空脱気した。この混合溶液を25 μm厚みの剥離処理を施したPETフィルム上に膜厚1.3 mmになるようにナイフコーターでコーティングし、さらにその表面を同じPETフィルムでラミネートし、2500 mJ/cm2の紫外線を照射し、重合硬化させ、シート状のゲル状組成物を得た。
【0098】
<比較例 5>
以下の条件で、イオン液体を含まないポリマーシートを作製した。
2-エチルヘキシルアクリレートモノマー(製品名「2-EHA」、日本触媒株式会社製) 100質量部、光重合開始剤DarocurTM 1173 0.01 質量部を混合し10分間窒素ガスで置換した。この混合液に3 mJ/cm2の紫外線を照射することにより粘度約1000 cpの部分重合体を調製した。
【0099】
得られた部分重合体に架橋剤HDDA 0.4質量部、重合開始剤V-65 0.4質量部、分散助剤(製品名「DisperBYK-111」(BYK Chemie GmbH(ドイツ)社製)) 0.03質量部、電磁波抑制材である、扁平形状のセンダストPST-4 67質量部をそれぞれ混合し、100 Paで15分間真空脱気した。
【0100】
この混合溶液を25 μm厚みの剥離処理を施したPETフィルム上に膜厚1.3 mmになるようにナイフコーターでコーティングし、さらにその表面を同じPETフィルムでラミネートし、100 ℃で10分間加熱することで、硬化させ、シート状のゲル状組成物を得た。
【0101】
<比較例 6>
比較例5と同様な条件で、イオン液体を含まないポリマーシートを作製した。ただし、
電磁波抑制材として、Mn-Zn系フェライトを404質量部混合した。それ以外の条件は、比較例5と同様な条件で、シート状のゲル状組成物を得た。
【0102】
<比較例 7>
シリコーンゲルを基材とした市販の電磁波吸収熱伝導ゲル (株式会社タイカ製、RE-21)である。
【0103】
IV.ゲル状組成物の評価
各実施例および比較例のゲル状組成物について、以下の測定方法を用いて評価を行った。
【0104】
<電磁波抑制能の評価>
電磁波抑制能は、各実施例のゲル状組成物を50 mm x 50 mm角にカットしたものをサンプルとして使用して、測定した。このサンプルを、裏面に導電層を有した基板表面上に形成された長さ28mm(特性インピーダンス50 ohm)のマイクロストリップライン上に貼り付けた。マイクロストリップラインの両端をネットワークアナライザ端子に接続し、一方の端子から入力信号S11を供給し、他方の端子から出力信号S21を測定し、以下の式(1)より、パワーロスを算出し、百分率で示した。このパワーロス値より、ゲル状組成物の電磁波吸収性能、即ち電磁波抑制能を評価した。
【0105】
【数1】

【0106】
<熱伝導性評価>
熱伝導性評価は、各実施例のゲル状組成物を40 mm x 100 mm角にカットしたものをサンプルとして使用した。測定は、京都電子株式会社製Kemtherm (QTM-D3)及びプローブ(PD-13)を用いてJISR2616に準じて測定を行った。すなわち、サンプルと比較して十分に熱伝導率の低い基板であって、表面に線状の熱源とその中央部に温度センサーを配置したものを用意し、この基板表面にサンプルを貼り付け、一定時間の温度上昇を測定した。あらかじめ熱伝導率がわかっている標準材料を用いて、同様に一定時間の温度上昇を測定し、この基準値に基づき、温度上昇値からサンプルの熱伝導度を計算した。
【0107】
<ゲル状組成物の硬度測定>
各実施例、比較例のサンプルを複数重ねることで厚さ約6mmのゲル状組成物を用意し、これについて、「アスカーC硬度」を測定した。「アスカーC硬度」とは、日本ゴム協会標準規格SRIS0101に規定されたデュロメータ(スプリング式硬度計)であるアスカーC硬度計測定された硬度をいう。
【0108】
<ゲル状組成物の難燃性試験>
米国Underwriters Laboratories Inc.(UL)が定めた安全性基準UL−94規格の難燃試験方法に準じて行った。
【0109】
V.結果
実施例1〜7まで、各実施例のゲル状組成物の作製条件(イオン液体種、および組成比等)を表1に、評価結果を表2に示した。なお、同表2には、あわせてゲル状組成物の厚みと密度を記載した。
【0110】
比較例1〜3および実施例3からわかるように、フェライト含有量の増加に従い、電磁波抑制能に相当する1GHzにおけるパワーロス値は増加した。一方、熱伝導度もフェライト含有量の増加に伴い増加を示したが、特に電磁波抑制材を60質量%から80質量%に増える段階において、熱伝導度の値は顕著に上昇した。
【0111】
また、比較例4と5および実施例1からわかるように、扁平センダストを含まないゲル状組成物(比較例4)とイオン液体を含まないゲル状組成物(比較例5)がそれぞれ4%、5%のパワーロス値を示したのに対し、イオン液体と扁平センダストを含む実施例1のゲル状組成物において、顕著に高い16%のパワーロス値を示した。
【0112】
なお、難燃性試験については、実施例6についてのみ行い、V−0基準を達成できることが確認された。
【0113】
図1に、実施例1および比較例4および5について測定した0.1GHz〜3GHzにおける電磁波抑制効果を示す。横軸に周波数、縦軸にパワーロス(%)に示す。図1に示すように、電磁波抑制材を含まないイオン液体ゲルの比較例4、およびイオン液体を用いずポリマー中に扁平センダストを含む比較例5に比較し、イオン液体ゲル中に扁平センダストを含む実施例3のゲル状組成物が高い電磁波吸収性、すなわち電磁波抑制効果が高い。
【0114】
図2に、実施例3および比較例1〜3について測定した0.1GHz〜3GHzにおける電磁波抑制効果を示す。横軸に周波数、縦軸にパワーロス(%)に示す。図2に示すように、ゲル状組成物中のMn-Znフェライトの含有量が、20質量%(比較例1)、40質量%(比較例2)、および60質量%(比較例3)と増加するに伴い電磁波吸収性(パワーロス値)が上昇したが、Mn-Znフェライトの含有量が60質量%(比較例3)から80質量%(実施例3)に増加した段階において、電磁波吸収特性の数値が大きく上昇した。
【0115】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子と、前記高分子の網目中に含有されるイオン液体とを含むゲルと、
前記ゲル中に分散された電磁波抑制材とを有し、
熱伝導度が0.8W/mK以上であるゲル状組成物。
【請求項2】
前記電磁波抑制材は、導体、誘電体および磁性体からなる群より選択される少なくとも一以上の微粒子であり、前記ゲル中に分散されている、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記電磁波抑制材は、軟磁性体である、請求項2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
前記軟磁性体はフェライトであり、当該フェライトが50vol%以上含有されている請求項3に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
前記軟磁性体はフェライトであり、当該フェライトが80質量%以上含有されている請求項3に記載のゲル状組成物。
【請求項6】
前記軟磁性体はセンダストであり、当該センダストが7vol%以上含有されている請求項3に記載のゲル状組成物。
【請求項7】
前記軟磁性体はセンダストであり、当該センダストが25質量%以上含有されている請求項3に記載のゲル状組成物。
【請求項8】
前記イオン液体は、非ハロゲン系イオン液体である請求項1から7のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項9】
前記イオン液体は、リン酸アニオンおよびリン酸エステルアニオンからなる群から選択される少なくとも一のアニオンを有するものである、請求項1から8のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項10】
前記イオン液体は、第4級アンモニウムカチオンとリン酸ジエステルアニオンを含む請求項9に記載のゲル状組成物。
【請求項11】
前記高分子は、カルボキシル基もしくは水酸基を構成単位に含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項12】
前記高分子は、アクリルポリマーである請求項11に記載のゲル状組成物。
【請求項13】
厚み0.3mm〜5.0mmのシート状である請求項1から11のいずれか1項に記載のゲル状組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−165868(P2010−165868A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6994(P2009−6994)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】