説明

ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法、緩下剤及び飲食品

【課題】沈香の溶媒抽出物において、安全性が高く生体に容易に適用することができる抽出物及びその抽出方法を提供する。
【解決手段】本発明のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、沈香よりエタノール/水の混合液を溶媒として用いてゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出したことを特徴とする。例えば、前記溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に容易に適用可能なゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法、並びにそれを含有する緩下剤及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒト又はその他の動物において、便の排泄が困難になっている消化器の状態として便秘が知られている。便秘は、種々の原因、例えば過度の脱水症状、食事の偏り、腸の蠕動運動の低下、及び精神的ストレスが関係することにより発生することが知られている。今日、過度のストレスから生じる過敏性腸症により便秘になる人が増加傾向にある。さらに高齢者は、腸の蠕動運動の低下及び筋力の低下により慢性的な便秘になる人が多い。特に将来、高齢化社会の到来により便秘に悩まされる人の大幅な増加を招くことが予想され、老人介護の上でも大きな問題となる可能性がある。
【0003】
一般に、便秘の予防及び解消方法として、食生活の改善、例えば食物繊維の摂取、水分の十分な補給、適度な運動、腹部のマッサージ等が挙げられる。しかしながら、緩下剤を服用することが最も一般的で確実な方法として実行されている。従来より、安全性の高い植物由来の天然成分からなる緩下剤として特許文献1に開示される組成物が知られている。特許文献1に開示される緩下剤は、有効成分としてセンナエキスを配合している。
【特許文献1】特開平11−180884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示される緩下剤は、有効成分として配合されるセンナエキスが副作用、例えば下痢症状を伴う場合があるといった問題があった。そのため、栄養補助食品のように毎日常用することが困難であるといった問題が生じていた。
【0005】
本発明は、沈香より有効成分であるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出する際、特定の溶媒を用いて抽出することにより、安全性が高く容易に生体に適用することができる抽出物が得られることを発見したことに基づくものである。
【0006】
本発明の目的とするところは、沈香の溶媒抽出物において、安全性が高く生体に容易に適用することができる抽出物及びその抽出方法を提供することにある。また、沈香の溶媒抽出物において、安全性が高く生体に容易に適用することができる緩下剤及び飲食品を適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、沈香より溶媒を用いてゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出したゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物において、前記溶媒は、エタノール/水の混合液であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物において、前記溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、沈香に溶媒を添加することによりゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出するゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法において、前記溶媒は、エタノール/水の混合液であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法において、前記溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明の緩下剤は、請求項1又は請求項2に記載されるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明の飲食品は、請求項1又は請求項2に記載されるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、沈香の溶媒抽出物において、安全性が高く生体に容易に適用することができる抽出物及びその抽出方法を提供することができる。また、沈香の溶媒抽出物において、安全性が高く生体に容易に適用することができる緩下剤及び飲食品を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、沈香の溶媒抽出物から構成される。ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド(Genkwanin5−O−β−primeveroside)は、下記一般式(1)で示される構造を有するフラボノイド配糖体である。尚、一般式(1)中の「Me」はメチル基を示す。
【0014】
【化1】

沈香とは、主としてタイ、ベトナム、カンボジア、及びマレーシア等の東南アジアに生息するジンチョウゲ科アクイラリア属(Aquilaria)の植物である。沈香の幹等から得られる油及び樹脂は「沈香」と呼ばれる天然香料として線香等に利用されている。ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは、沈香木の葉(沈香葉)、幹、根、及び花部のいずれからでも抽出することができる。好ましくは含有量の多い葉(沈香葉)から抽出される。
【0015】
沈香からのゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法は、エタノール/水の混合液を溶媒として用いて抽出する方法が適用される。溶媒としてエタノール/水の混合液を使用することにより、飲食品及び医薬品に安全且つ容易に適用することができる。エタノール/水の混合液中のエタノールの濃度は、好ましくは55〜95容量%、より好ましくは60〜80容量%、最も好ましくは70〜80容量%である。エタノール濃度が55容量%未満の場合には、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出量が少ないので好ましくない。一方、エタノール濃度が95容量%を超える場合には、沈香から溶媒溶解成分の抽出率が低下し、抽出効率が低下するため好ましくない。
【0016】
エタノール溶媒の使用容量は、沈香の質量に対して好ましくは1〜30倍量、より好ましくは5〜25倍量、さらに好ましくは10〜20倍量である。エタノール溶媒の使用容量が1倍量未満の場合には、有効成分であるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出率が悪いので好ましくない。逆にエタノール溶媒の使用容量が30倍量を超える場合には、不必要に大きな装置が必要となるばかりでなく、濃縮等の工程に時間を要し、作業性が著しく低下するので好ましくない。
【0017】
また、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出効率を向上させるために、抽出処理前に採取時に混入するゴミ等の夾雑物を除去し、粉砕することが好ましい。抽出温度は好ましくは5〜60℃、より好ましくは5〜40℃である。抽出温度が5℃未満の場合には、有効成分の抽出率が悪いので好ましくない。逆に抽出温度が60℃を超える場合には、抽出溶媒(エタノール)が蒸発するため好ましくない。なお、抽出操作は、前記抽出温度で攪拌又は静置しながら0.5〜24時間行えばよい。そして、上記の抽出条件で有効成分を十分に抽出した後、濾紙濾過、珪藻土濾過などの濾過処理を行なうことにより沈香からのゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を得ることができる。
【0018】
本実施形態の沈香から抽出されたゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは、緩やかな瀉下作用を有し、また、下痢となる副作用も少ないという特徴を有する。したがって、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を濃縮又は乾燥して緩やかな瀉下作用を得ることを目的とした健康食品、サプリメントとして適用してもよい。また、緩下剤として各種医薬品、医薬部外品に適用してもよい。
【0019】
本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を飲食品に適用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。また、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を茶飲料(茶剤)等の形態で適用してもよい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0020】
本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は経口摂取により投与されることが望ましい。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0021】
このゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を飲食品又は医薬品として摂取する場合、摂取量は、摂取者の年齢、性別、体重、便秘の症状等を考慮して適宜設定することができる。好ましくは、成人1日当たり上記有効成分であるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの配合量として1mg〜1000mg/日である。
【0022】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、エタノール/水の混合液よりなる溶媒を用いて抽出される。したがって、飲食品又は医薬品に安全且つ容易に適用することができる。
【0023】
(2)本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、エタノール/水の混合液よりなる溶媒を用いて抽出される。したがって、緩やかな瀉下作用を有するゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを高効率で容易に抽出することができる。
【0024】
(3)本実施形態において抽出溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%の水溶液が好ましく使用される。したがって、沈香中に多く含まれるフラボノイド類であるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドをより効率的に抽出することができる。
【0025】
(4)本実施形態の沈香から抽出されたゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは、緩やかな瀉下作用を有する。したがって、緩やかな瀉下作用を得ることを目的とした飲食品、緩下剤としての医薬品等に好ましく適用することができる。
【0026】
(5)本実施形態の沈香から抽出されたゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは、緩やかな瀉下作用を有するとともに、下痢となる副作用が少ない。したがって、常用により、便秘の改善又は予防を円滑に行なうことができる。
【0027】
(6)本実施形態のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは、好ましくは原料として沈香の葉部(沈香葉)が使用される。したがって、他の原料部位より大量のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを得ることができる。
【0028】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態におけるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、エタノール/水の混合液よりなる溶媒を用いて抽出した抽出液をそのまま飲食品、医薬品等に適用してもよく、溶媒を蒸発させて濃縮処理して適用してもよく、乾燥及び粉末化して適用してもよい。
【0029】
・上記実施形態におけるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物は、ヒトが摂取する飲食品及び医薬品等に対して適用することができるのみならず、家畜の飼料にサプリメント、栄養補助食品、医薬品等として配合してもよい。
【0030】
・エタノール/水の混合液よりなる溶媒を用いた抽出方法は、コスト削減のために抽出後の濾過液を次の抽出処理に複数回用いてもよい。
【実施例】
【0031】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例1)
沈香から各種濃度のエタノール/水の混合液を溶媒として抽出処理した場合の可溶成分の回収率について求めた。
【0032】
原料として沈香葉を使用した。沈香葉の粉砕物30gに抽出溶媒として表1に示される濃度のエタノール/水の混合液を配合した。抽出条件1として、原料の10倍量の溶媒を配合し、室温で4時間静置することにより抽出した。抽出条件2として、原料の20倍容量の溶媒を適用し、室温で4時間撹拌することにより抽出した。そして、それぞれの前記沈香葉粉砕物の抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して残渣を除去することによって、各エタノール濃度の抽出液を得た。得られた抽出液は、溶媒が除去されることにより抽出物の乾燥重量を求めた。抽出回収率(%)は、抽出処理前の乾燥重量に対する抽出物の乾燥重量の割合(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

表1に示されるように50容量%エタノールの時、最も溶媒溶解成分の回収率が高いことが確認される。エタノール濃度が上昇するに連れて、溶媒溶解成分の回収率が大幅に低下することが確認された。尚、アセトンを抽出溶媒として使用した場合は、さらに回収率が低下することが確認された。
【0034】
(試験例2)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、試験例1で得られた各エタノール濃度の抽出液中におけるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの濃度を求めた。抽出液中のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの濃度は、標準品を用いて検量線を作成することにより定量した。HPLCの条件を以下に示す。
【0035】
装置:HPLC 600 controller、Photodiode Array Detector 996(Waters社製)
解析ソフト:Millennium32 システム
カラム:Capcell Pak C18 AG120 内径4.6×長さ250mm(資生堂社製)
流速:1.0ml/分、カラム温度:40℃、分析時間:30分
移動相:50容量%メタノール
測定波長:UV210〜400nm(分析UV330nm)
検量線より求めた抽出液中のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの濃度より、各抽出液中のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの含有量を求めた。そして、各抽出液の乾燥重量に対するゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの含有率(w/w%)を求めた。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

表2に示されるように、エタノール濃度が50容量%以下では、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは抽出されないことが確認された。エタノール濃度が上昇するに連れて、各抽出液の乾燥重量に対するゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの含有率が上昇することが確認された。表1に示される抽出回収率のデータ及び表2に示される乾物中の含有率のデータより、エタノール濃度が70容量%〜80容量%の時が一番原料である沈香葉からのゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出量が多いことが確認された。尚、溶媒としてアセトンを使用した場合は、ゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドは殆ど抽出されないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈香より溶媒を用いてゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出したゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物において、前記溶媒は、エタノール/水の混合液であることを特徴とするゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物。
【請求項2】
前記溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%であることを特徴とする請求項1に記載のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物。
【請求項3】
沈香に溶媒を添加することによりゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドを抽出するゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法において、前記溶媒は、エタノール/水の混合液であることを特徴とするゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法。
【請求項4】
前記溶媒は、エタノール濃度が55〜95容量%であることを特徴とする請求項3に記載のゲンクワニン5−O−β−プリメベロシドの抽出方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載されるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を有効成分として含有することを特徴とする緩下剤。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載されるゲンクワニン5−O−β−プリメベロシド含有抽出物を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2008−303198(P2008−303198A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154047(P2007−154047)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】