説明

ゲート駆動回路の制御方法

【課題】スイッチング素子の入力容量を高速に充放電させ、スイッチング速度の増加、スイッチング損失の低減を可能にしたゲート駆動回路の制御方法を提供する。
【解決手段】直流電源11,12に接続された複数のスイッチ4〜6を備え、これらのスイッチ4〜6のオン・オフによりN(Nは3以上の整数)個のレベルの電圧を出力して半導体スイッチング素子1のゲートに供給するゲート駆動回路の制御方法において、スイッチング素子1をオンさせる時に、出力電圧のレベルを第1の電圧レベルからそれより高い第2の電圧レベルに変化させ、その後、出力電圧のレベルを第1のレベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させるように前記スイッチ4〜6をオン・オフさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子を高速にオンまたはオフさせるゲート駆動回路の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、この種のゲート駆動回路の従来技術を示す回路図、図7はその動作波形を示している。
図6において、1はMOSFET等の電圧駆動形の半導体スイッチング素子、2はそのゲート駆動回路、3はゲート駆動回路の内部抵抗、4,5は別の半導体スイッチング素子等からなるスイッチ、12は直流電源である。
【0003】
スイッチング素子1をターンオンする場合、図7(a)に示すように、時刻t1においてゲート駆動回路2内のスイッチ4をオフ状態からオン状態にし、同時にスイッチ5をオン状態からオフ状態に変化させる。これにより、スイッチ4,5同士の接続点であるA点の電位は、零から直流電源12の電圧であるVGMに変化し、スイッチング素子1のゲート電圧は時刻t2においてVGMに達する。
スイッチング素子1をターンオフする場合は、図7(b)に示すように、時刻t1においてスイッチ4をオン状態からオフ状態にし、同時にスイッチ5をオフ状態からオン状態に変化させる。これにより、A点の電位は上記VGMから零に変化し、スイッチング素子1のゲート電圧は時刻t2において0になる。
【0004】
ここで、ゲート駆動回路2とスイッチング素子1との間にゲート抵抗が接続されていない場合でも、図6に示すように、ゲート駆動回路2には内部抵抗3が存在する。このため、スイッチング素子1のゲート電圧VGMは、ターンオン時、ターンオフ時の何れの場合も、スイッチング素子1のゲート・ソース間のコンデンサ(入力容量)と内部抵抗3の抵抗値とにより決定される時定数に依存して変化することになる。
よって、スイッチング素子1の入力容量を高速に充放電させることにより、スイッチング素子1のスイッチング速度を増加させたり、スイッチング損失を低減させたりすることが困難であるという問題がある。
【0005】
なお、ゲート駆動回路とスイッチング素子との間にゲート抵抗が接続されている従来技術としては、例えば特許文献1に記載された「電圧駆動型半導体素子の制御装置」が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−180074号公報(段落[0024]〜[0031]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、図6,図7に記載した従来技術の問題点を解決することにある。
すなわち、本発明は、ゲート駆動回路の出力電圧を第1〜第3のレベルに変化させることにより、スイッチング素子の入力容量を高速に充放電させ、スイッチング速度の増加、スイッチング損失の低減を可能にしたゲート駆動回路の制御方法を提供しようするものである。
【0008】
なお、前述した特許文献1には、ゲートに供給する電圧を3段階に変化させることが開示されているが、この従来技術は、スイッチング素子に並列接続されたスナバコンデンサの放電電流のピーク値を制限してスイッチング素子やその他の回路部品に加わる電気的ストレスを低減させることを目的としており、スイッチング素子の入力容量を高速に充放電するという課題の解決は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、直流電源に接続された複数のスイッチを備え、これらのスイッチのオン・オフによりN(Nは3以上の整数)個のレベルの電圧を出力して半導体スイッチング素子のゲートに供給するゲート駆動回路の制御方法において、前記半導体スイッチング素子をオンさせる時に、出力電圧のレベルを第1の電圧レベルからそれより高い第2の電圧レベルに変化させ、その後、前記出力電圧のレベルを第1の電圧レベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させるように前記スイッチをオン・オフさせるものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記半導体スイッチング素子をオフさせる時に、出力電圧のレベルを第1の電圧レベルからそれより低い第2の電圧レベルに変化させ、その後、前記出力電圧のレベルを第1の電圧レベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させるように前記スイッチをオン・オフさせるものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記ゲート駆動回路は、複数の前記スイッチ同士の接続点が前記ゲートに直接接続されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スイッチング素子の入力容量を急速に充放電させることができ、そのオン時またはオフ時におけるスイッチング速度を増加させると共に、スイッチング損失を低減させることが可能である。このため、装置の冷却部品を小形化、低コスト化することができると共に、スイッチング周波数を高周波化しても損失が大幅に増加しなくなるので、制御性能を向上させることができる。また、スイッチング周波数の高周波化により、このスイッチング素子と共に使用されるコイル等の磁気る。部品を小形化、低コスト化することが可能になる。
総じて本発明によれば、装置の小形化、低コスト化、高効率化、高性能化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
ここで、本発明の要点は、出力電圧レベルをN(Nは3以上の整数)個有するゲート駆動回路において、スイッチング素子をオンまたはオフさせる時に出力電圧レベルを第1の電圧レベルから第2の電圧レベルに変化させ、その後、更に、第1の電圧レベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させることにより、スイッチング素子の入力容量を急速に充電または放電させることにある。
【0014】
まず、図1は、請求項1,3に係る本発明の第1実施形態を示す回路図、図2はその動作波形である。図1において、図6と同一の構成要素には同一の番号を付してあり、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0015】
図1において、ゲート駆動回路2Aは、各一端がA点において共通接続された第1〜第3のスイッチ4〜6と、第1のスイッチ4の他端と第2のスイッチ5の他端との間に接続された第1の直流電源11と、第2のスイッチ5の他端と第3のスイッチ6の他端との間に接続された第2の直流電源12とから構成されている。なお、3は前記同様にゲート駆動回路2Aの内部抵抗である。
また、直流電源11,12の極性は図示の通りであり、直流電源12の負極及び半導体スイッチング素子1のソースは接地されている。
【0016】
次に、この実施形態の動作を図2を参照しつつ説明する。
スイッチング素子1をオンさせる場合には、図2に示すように、時刻t1においてオン状態にあるスイッチ6をオフ状態に変化させる。同時に、スイッチ4をオフ状態からオン状態に変化させる。このとき、スイッチ5はオフ状態のままとする。
【0017】
これにより、A点の電位は、時刻t1以前の0[V](第1の電圧レベルとする)から、スイッチ4→A点→内部抵抗3→スイッチング素子1のゲート・ソース間→直流電源12→直流電源11→スイッチ4の経路で印加される直流電源11,12の電圧の和VGON(第2の電圧レベルとする)に変化する。直流電源11,12の電圧をある程度大きくすれば、高い電圧VG0Nを用いて内部抵抗3を介しスイッチング素子1のゲート・ソース間のコンデンサ(入力容量)を急速に充電することができるので、スイッチング素子1のゲート電圧は直ちに上昇する。
【0018】
時刻t2において、スイッチング素子1のゲート電圧が、スイッチング素子1がオンするために十分な電圧に上昇すると、スイッチ4をオフ状態とし、スイッチ5をオン状態とする。このとき、A点の電位は、直流電源12→スイッチ5→A点→内部抵抗3→スイッチング素子1のゲート・ソース間→直流電源12の経路で印加される直流電源12の電圧VGM1(第3の電圧レベルとする)となる。
よって、スイッチング素子1のゲート電圧を大幅に上昇させることなく一定値VGM1に維持しながらスイッチング素子1のオン状態を保つことができる。
【0019】
このように、スイッチング素子1のゲート電圧をVGM1でクランプすることにより、ゲート電圧の耐圧を超えずにスイッチング素子1を安全に動作させることができる。また、スイッチング素子1の入力容量に蓄えられるエネルギーはスイッチング素子1のオフ時に放出されて損失となるが、入力容量を高い電圧まで充電するものではないから、入力容量への余分なエネルギーの蓄積による損失の増加を抑制することができる。
【0020】
本実施形態によれば、スイッチング素子1をオンさせる際に、第2の電圧レベルであるVGONをゲートに印加して入力容量を急速に充電することができるので、スイッチング素子1のオン時におけるスイッチング速度を上昇させ、スイッチング損失を低減することができる。
また、本実施形態を適用することで、スイッチング素子1をオンさせる時のゲート電流を増加させることもできるので、電流駆動形の半導体スイッチング素子においてもスイッチング速度を上昇させ、スイッチング損失を低減させる効果があることは言うまでもない。
【0021】
次に、図3は請求項2,3に係る本発明の第2実施形態を示す回路図であり、図4はその動作波形である。
この実施形態のゲート駆動回路2Bは、各一端がA点において共通接続された第1,第2のスイッチ7,8と、第1のスイッチ7の他端と接地点との間に接続された第1の直流電源13と、第1のスイッチ7の他端と第2のスイッチ8の他端との間に接続された第2の直流電源14とから構成されている。これらの直流電源13,14の極性は図示の通りである。
【0022】
この実施形態において、スイッチング素子1をオフさせる場合には、図4に示すように、まず、時刻t1においてオフ状態であるスイッチ8をオン状態とする。なお、スイッチ7はオフ状態のままである。
【0023】
時刻t1でスイッチ8がオンすると、A点の電位は、時刻t1以前のVGM1(第1の電圧レベルとする)から、スイッチング素子1のゲート・ソース間→内部抵抗3→A点→スイッチ8→直流電源14→直流電源13→スイッチング素子1のゲート・ソース間の経路で印加されるVGMOFF(第2の電圧レベルとする)に変化する。この電圧VGMOFFは、VGM1より大幅に低く、負方向に直流電源13,14の電圧を加算した値である。
よって、スイッチング素子1のゲート電圧は、VGM1から急速に低下する。
【0024】
次に、ゲート電圧が、時刻t2においてスイッチング素子1がオフするために十分小さい電圧、例えば0[V]に達すると、スイッチ8をオフ状態とし、スイッチ7をオン状態とする。
これにより、A点の電位は、スイッチング素子1のゲート・ソース間→内部抵抗3→A点→スイッチ7→直流電源13→スイッチング素子1のゲート・ソース間の経路で印加される直流電源13の電圧VGM2(第3の電圧レベルとする)となる。
【0025】
このように、本実施形態では、スイッチング素子1のオフ状態ではゲート電圧を第3の電圧レベルであるVGM2でクランプすることにより、このゲート電圧を大幅に低下させずに一定値に保つことができる。従って、スイッチング素子1のゲート電圧の耐圧を超えずに安全に動作させることができる。
また、スイッチング素子1の入力容量に蓄えられるエネルギーはオンする際に放出されて損失となるが、入力容量を大幅に低い電圧まで充電して余分なエネルギーを蓄積することがないため、損失の増加を抑制することができる。
【0026】
本実施形態によれば、スイッチング素子1をオフさせる際に、第2の電圧レベルであるVGMOFFをゲートに印加して入力容量を急速に放電させることができるので、スイッチング素子1をオフさせる場合のスイッチング速度を上昇させ、スイッチング損失を低減させることができる。
また、本実施形態を適用することで、スイッチング素子1をオフさせる時のゲート電流を増加させることもできるので、電流駆動形の半導体スイッチング素子においてもスイッチング速度を上昇させ、スイッチング損失を低減させる効果があることは言うまでもない。
【0027】
次いで、図5は本発明の第3実施形態を示す回路図であり、前述した第1,第2実施形態を併用してスイッチング素子1のオン,オフの両制御を実現するための回路例である。
このゲート駆動回路2Cは、第1〜第5のスイッチ4〜8と、第1〜第4の直流電源11〜14とから構成されており、第2,第3の直流電源12,13同士の接続点が接地されている。
【0028】
本実施形態の動作波形は図2,図4を合成したものとなり、A点の電位は5つの電位に変化することになる。本実施形態によれば、スイッチング素子1のオン・オフ時におけるスイッチング速度の上昇、スイッチング損失の低減が可能である。
【0029】
この第3実施形態を図6に示した従来技術と比較すると部品点数は増加することになるが、スイッチング素子1のオン・オフ時に電流が通過するスイッチ数は常に同じであるため、ゲート駆動回路2Cにおける損失は従来と同等になる。また、ゲート駆動回路2Cを集積化(IC化)することで、部品点数の増加に伴うゲート駆動回路2Cの体積の増加やコストの増加を最小限にとどめることができる。
【0030】
なお、本発明は、高周波スイッチングを必要とするスイッチング電源、DC−DCコンバータ、高周波電源等への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態を示す回路図である。
【図2】図1の動作波形である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す回路図である。
【図4】図3の動作波形である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す回路図である。
【図6】従来技術を示す回路図である。
【図7】図6の動作波形である。
【符号の説明】
【0032】
1:半導体スイッチング素子
2A,2B,2C:ゲート駆動回路
3:ゲート駆動回路の内部抵抗
4〜8:スイッチ
11〜14:直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に接続された複数のスイッチを備え、これらのスイッチのオン・オフによりN(Nは3以上の整数)個のレベルの電圧を出力して半導体スイッチング素子のゲートに供給するゲート駆動回路の制御方法において、
前記半導体スイッチング素子をオンさせる時に、出力電圧のレベルを第1の電圧レベルからそれより高い第2の電圧レベルに変化させ、その後、前記出力電圧のレベルを第1の電圧レベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させるように前記スイッチをオン・オフさせることを特徴とするゲート駆動回路の制御方法。
【請求項2】
直流電源に接続された複数のスイッチを備え、これらのスイッチのオン・オフによりN(Nは3以上の整数)個のレベルの電圧を出力して半導体スイッチング素子のゲートに供給するゲート駆動回路の制御方法において、
前記半導体スイッチング素子をオフさせる時に、出力電圧のレベルを第1の電圧レベルからそれより低い第2の電圧レベルに変化させ、その後、前記出力電圧のレベルを第1の電圧レベルと第2の電圧レベルとの間の第3の電圧レベルに変化させるように前記スイッチをオン・オフさせることを特徴とするゲート駆動回路の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載したゲート駆動回路の制御方法において、
前記ゲート駆動回路は、複数の前記スイッチ同士の接続点が前記ゲートに直接接続されていることを特徴とするゲート駆動回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−50118(P2009−50118A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215508(P2007−215508)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】