コアロス測定装置の試料台、コアロス測定装置
【課題】試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るコアロス測定装置の試料台10は、非磁性金属で形成された筐体11と、絶縁性を有する材料で形成され、筐体11の上面に配置される試料テーブル12とを備え、筐体11は、試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されていることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係るコアロス測定装置の試料台10は、非磁性金属で形成された筐体11と、絶縁性を有する材料で形成され、筐体11の上面に配置される試料テーブル12とを備え、筐体11は、試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品のコア材のコアロスを測定するコアロス測定装置、該コアロス測定装置に用いられる試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や家電機器の基幹部品である電源トランス、モーター、チョークコイルなどのコイル部品は、コア材として軟磁性体等の磁性体が用いられている(例えば特許文献1を参照)。このようなコイル部品においては、電力損失であるコアロスが問題となる場合がある。ここでコアロスとは、磁性材料からなるコア材そのもので失われる電気エネルギーであり、ヒステリシス損、渦電流損、残留損を含む。したがって上記のようなコイル部品においてコアロスは、可能な限り小さい方が良いのは言うまでもない。そして近年は、軟磁性体コア材のコアロスを低減する技術が進歩するのに伴い、微小なコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置のニーズが高まりつつある。
【0003】
以下、コアロス測定装置の従来技術の一例とその課題について、図11、図12を参照しながら説明する。
図11は、従来技術のコアロス測定装置100の試料台10Pの斜視図である。図12は、従来技術のコアロス測定装置100の要部を図示した概略構成図である。
【0004】
コアロスの被測定対象である公知のトロイダルコイル50は、軟磁性体コア51、一次巻線52及び二次巻線53を含む。測定試料としての軟磁性体コア51は、軟磁性材料を所謂トロイダル形状に加工して形成したものである。一次巻線52は巻線数N1で軟磁性体コア51に巻かれている。二次巻線53は巻線数N2で軟磁性体コア51に巻かれている。
【0005】
コアロス測定装置100は、試料台10P、信号発生器20、第1電圧測定回路30、第2電圧測定回路40及びシャント抵抗31を備える。
【0006】
コアロス測定装置100の試料台10Pは、トロイダルコイル50を支持する台であり、筐体11、試料テーブル12、4つの端子13〜16を含む。筐体11は、略直方体形状をなし、電磁放射及び磁化による測定値への影響を防止するため非磁性金属で形成されている。筐体11の上面に配置される試料テーブル12は、トロイダルコイル50を載置する薄板状の部材であり、トロイダルコイル50の巻線と筐体11との電気的絶縁を確実にするため樹脂等の絶縁性を有する材料で形成されている。4つの端子13〜16は、トロイダルコイル50の一次巻線52及び二次巻線53の端部を信号発生器20、第1電圧測定回路30及び第2電圧測定回路40に電気的に接続するために設けられている。より具体的には端子13、14には、一次巻線52の両端が接続され、端子15、16には、二次巻線53の両端が接続される。
【0007】
信号発生器20は、シャント抵抗31を介して端子13、14に接続されており、トロイダルコイル50の一次巻線52に周期Tの正弦波の励磁電流(交流電流)I1を流す。シャント抵抗31は、抵抗値Rsの抵抗器であり、一次巻線52に流れる励磁電流I1を電圧Vsに変換する。第1電圧測定回路30は、その電圧Vs(シャント抵抗31の両端の電位差)を測定する回路であり、シャント抵抗31の両端に接続されている。第2電圧測定回路40は、端子15、16に接続されており、トロイダルコイル50の二次巻線53に生ずる誘起電圧V2を測定する回路である。
【0008】
上記説明した構成のコアロス測定装置100において、トロイダルコイル50のコアロスは以下のようにして測定することができる。
【0009】
まず信号発生器20から周期Tの正弦波の励磁信号を発生させる。そして電圧Vsを第1電圧測定回路30で測定し、測定した電圧Vsから以下の式(1)により、一次巻線52に流れる励磁電流I1を算出する。
I1=Vs/Rs …(1)
また二次巻線53の両端に生じる誘起電圧V2を第2電圧測定回路40で測定し、測定した誘起電圧V2、一次巻線52の巻線数N1、二次巻線53の巻線数N2から以下の式(2)により、一次巻線52のインダクタンス分に加わる電圧V1を算出する。
V1=(N1/N2)V2 …(2)
トロイダルコイル50のコアロスPcは、軟磁性体コア51の電力損失であるから、上記の電圧V1、励磁電流I1及び励磁電流I1の周期Tを用いて以下の式(3)により算出することができる。
【数1】
またトロイダルコイル50のコアロスPcは、上記の式(1)及び式(2)を式(3)に代入して得られる以下の式(4)から求めることもできる。
【数2】
このようにして求めたトロイダルコイル50のコアロスPcは、前記の通り、ヒステリシス損、渦電流損、残留損を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−176974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
出願人は、コアロス測定装置の研究開発を鋭意行う過程で、従来技術のコアロス測定装置は、試料テーブルに対するコイル部品の配置が僅かに異なるだけでコアロスの測定値が大きく変動してしまう場合があるという課題を発見した。さらに出願人は、このコアロスの測定値の変動は、特にコアロスが小さいコイル部品において顕著となることも突き止めた。このようなコアロスの測定値の変動は、コアロス測定装置の測定精度を低下させる要因となり、特にコアロスが小さいコイル部品においては無視できない測定誤差を生じさせることになる。
【0012】
このような状況に鑑み本発明はなされたものであり、その目的は、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、非磁性金属で形成された筐体と、絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備え、前記筐体は、前記試料テーブルが配置される領域に凹部が形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、非磁性金属の筐体で発生する寄生渦電流損(後述)を低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定することができる。
【0014】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、前述した本発明の第1の態様において、前記筐体の凹部は、試料となるトロイダルコイルの直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ前記試料テーブルの上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、非磁性金属の筐体で発生する寄生渦電流損(後述)をさらに低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスをより高精度に測定することができる。
【0015】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、絶縁性を有する材料で形成された筐体と、絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備えるコアロス測定装置の試料台である。
本発明の第3の態様によれば、筐体で発生する寄生渦電流損(後述)を低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定することができる。
【0016】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、前述した本発明の第1〜第3の態様のいずれかにおいて、前記筐体に設けられた四つの端子をさらに備える、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、試料台に載置された試料とコアロス測定装置との電気的接続を容易に行うことができるので、コアロス測定装置の操作性を向上させることができる。
【0017】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、前述した本発明の第1〜第4の態様のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台と、試料となるトロイダルコイルの一次巻線にシャント抵抗を介して正弦波の励磁電流を流す信号発生器と、前記シャント抵抗の両端の電位差を測定する第1電圧測定回路と、試料となるトロイダルコイルの二次巻線に生ずる誘起電圧を測定する第2電圧測定回路と、を備えるコアロス測定装置である。
本発明の第5の態様によれば、コアロス測定装置において、前述した本発明の第1〜第4の態様のいずれかに記載の発明による作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図2】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の筐体の側面図。
【図3】トロイダルコイルの巻線方向の磁束を図示した斜視図。
【図4】トロイダルコイルの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図。
【図5】1ターンコイルの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図。
【図6】第3実験に用いたコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図7】第3実験の測定結果のグラフ。
【図8】第4実験に用いたコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図9】第4実験の測定結果のグラフ。
【図10】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の変形例の外観斜視図。
【図11】従来技術のコアロス測定装置の試料台の斜視図。
【図12】従来技術のコアロス測定装置の要部を図示した概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
<コアロス測定装置の試料台の構成>
本発明に係るコアロス測定装置の試料台の構成について、図1、図2を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の外観斜視図である。図2は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の筐体11の側面図である。
【0022】
本発明に係るコアロス測定装置の試料台10(以下、単に「試料台10」という。)は、「コイル部品」としてのトロイダルコイル50を支持する台であり、筐体11、試料テーブル12、4つの端子13〜16を含む。ここで試料テーブル12、4つの端子13〜16については、図11に図示した従来技術のコアロス測定装置の試料台10Pと同じ構成であるため、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0023】
本発明に係る試料台10の筐体11は、略直方体形状をなし、電磁放射及び磁化による測定値への影響を防止するため非磁性金属で形成されている点は、従来と同様である。そして本発明に係る試料台10の筐体11は、試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されている点に従来にない特徴がある。凹部17は、直径Dの大きさの円形開口を有する円形凹部である。また凹部17は、筐体11の上面から底面までの長さ(深さ)がHに設定されている(以下、「深さH」という。)。
尚、コアロス測定装置の全体構成については、試料台10の構成以外は図12に図示した従来技術のコアロス測定装置100と同じであるため、図示及び説明を省略する。
【0024】
以下、本発明の技術的意義について、図3〜図9を参照しながら説明する。
図3は、トロイダルコイル50の巻線方向の磁束を図示した斜視図である。図4は、トロイダルコイル50の巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図である。図5は、1ターンコイルLの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図である。
【0025】
出願人は、鋭意研究を重ねた結果、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置が僅かに異なるだけでコアロスの測定値が大きく変動してしまう原因を解明した。以下、詳細に説明する。
【0026】
コアロス測定装置100(図12)は、コアロス測定時にコイル部品から漏れ磁束があると、コアロス測定装置100を含む周辺の金属に渦電流を発生させ、その渦電流損がコアロスに含まれて測定されてしまう。この渦電流損(以下、「寄生渦電流損」という。)は、コアの渦電流損ではないから、コアロスの測定値に含まれてはならない。そのためコアロス測定装置100で測定する試料として一般的にトロイダルコイル50が採用されている。トロイダルコイル50は、磁路が閉じているため、一次巻線52に流れる電流によって巻線方向の磁束Aが生じ、漏れ磁束はほとんど生じないと従来考えられていたからである(図3)。
【0027】
ところが漏れ磁束が生じないと従来考えられていたトロイダルコイルにおいて、出願人は、巻線方向と直交する方向の漏れ磁束B(以下、「垂直漏れ磁束B」という。)が発生する可能性があるとの知見を得るに至った(図4)。トロイダルコイル50は、巻線方向に対して直交する方向から見ると、一次巻線52及び二次巻線53がそれぞれ1ターンだけ巻かれたコイルL(以下、「1ターンコイルL」という。)とみなすことができるからである(図5)。これは例えば軟磁性体コア51の断面を無限小にしていくことを考えると理解しやすい。つまり従来技術の試料台10P(図11)を用いたコアロス測定装置100は、トロイダルコイル50の一次巻線52に電流が流れた時にトロイダルコイル50に発生する垂直漏れ磁束Bによって、試料テーブル12の直下の非磁性金属の筐体11で寄生渦電流損が生じ、この寄生渦電流損も含めてコアロスとして測定されてしまうことになる。
【0028】
上記の仮説を検証するため、出願人は、平均直径(外径と内径の和の1/2の長さ。以下、同じ。)を39mmとし、コアロスPcが極めて小さいトロイダルコイル50(具体的には、後述する実験用のトロイダルコイルTC)及び1ターンコイルLをそれぞれ作製した。そして従来技術の試料台10Pとコアロス測定装置100を用いて、両者のコアロスPcをそれぞれ測定して対比する実験を行った。具体的には、信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流してトロイダルコイル50と1ターンコイルLのコアロスPcをそれぞれ測定した。また両者の測定条件を同じにするため、1ターンコイルLのコアロスPcの測定は、トロイダルコイル50の平均高さ(高さの1/2の長さ。以下、同じ。)である5mmだけ、試料テーブル12から浮かせた状態で行った。
【0029】
測定結果は、トロイダルコイル50のコアロスPcは1.30×10-4 Wであり、1ターンコイルLのコアロスPcは1.35×10-4Wであった。つまり両者のコアロスPcは略同じ値であった。この測定結果は、垂直漏れ磁束Bだけに注目すれば、トロイダルコイル50は1ターンコイルLとみなせるという上記仮説が正しいことを意味する。つまり前記の通り、漏れ磁束がないと従来考えられていたトロイダルコイル50においても実は垂直漏れ磁束Bが発生しているということである。
【0030】
このようなことから従来技術の試料台10Pにおいては、試料テーブル12に対するコイル部品の配置が異なると、トロイダルコイル50から試料テーブル12直下の非磁性金属の筐体11までの距離が変わるため、筐体11を貫く垂直漏れ磁束Bの大きさが変化し、それに従って寄生渦電流損も変化することになる。すなわち試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置が僅かに異なるだけでコアロスPcの測定値が大きく変動するという従来技術の試料台10Pの課題は、そのトロイダルコイル50の配置が異なることによって筐体11を貫く垂直漏れ磁束Bに起因する寄生渦電流損が変化するために生ずるという結論に至る。また寄生渦電流損は、コアロスが大きいトロイダルコイル50であるほど、トロイダルコイル50のコアロスに対して相対的に小さくなる。したがって上記結論は、試料テーブル12に対するコイル部品の配置が異なることによるコアロスの測定値の変動が、特にコアロスが小さいコイル部品において顕著になるという現象とも整合することになる。
【0031】
本発明に係る試料台10は、筐体11の試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されているので、非磁性金属の筐体11から一定以上の間隔をもって離れた位置にトロイダルコイル50を支持することができる。それによって非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を大幅に低減することができる。すなわち本発明に係る試料台10によれば、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を低減することができるので、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置に左右されることなくトロイダルコイル50のコアロスを高精度に測定することができる。
【0032】
本発明の効果を検証するため出願人は、以下説明する第1実験及び第2実験を行った。
【0033】
以下、第1実験について説明する。
実験用の試料としては、平均直径、高さ、コア材質及び巻線の巻数が異なる三種類のトロイダルコイルTA、TB、TCを作製した(表1)。
【表1】
第1実験は、まず信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、トロイダルコイルTA、TB、TCを本発明に係る試料台10(図1)の試料テーブル12の上に載置し、それぞれのコアロスをコアロス測定装置100で測定した。また同じ条件で、トロイダルコイルTA、TB、TCを従来技術の試料台10P(図11)の試料テーブル12の上に載置し、それぞれのコアロスをコアロス測定装置100で測定した。
【0034】
表2は、第1実験の測定結果である。
【表2】
表2からは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても本発明に係る試料台10で測定したコアロスの方が大幅に減少していることが容易に読み取れる。これは本発明に係る試料台10において寄生渦電流損が大幅に減少していることを意味する。また表2からは、特に平均高さが小さいトロイダルコイルほど、より顕著にコアロスが減少していることが分かる。これは従来技術の試料台10Pでは、平均高さが小さいトロイダルコイルほど非磁性金属の筐体11との間の距離が短いため、それによって寄生渦電流損が大きくなって寄生渦電流損に起因するコアロスの増加が顕著になるためと考えられる。
【0035】
以下、第2実験について説明する。
実験用の試料としては、上記のトロイダルコイルTCを用いた。第2実験では、まず信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、本発明に係る試料台10(図1)の試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置し、コアロス測定装置100でコアロスを測定した。つづいて本発明に係る試料台10において試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態でコアロスを測定した。また同じ条件で、従来技術の試料台10P(図11)の試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置し、コアロス測定装置100でコアロスを測定した。つづいて従来技術の試料台10Pにおいて試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態でコアロスを測定した。
【0036】
表3は、第2実験の測定結果である。
【表3】
従来技術の試料台10Pでは、試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置した状態と、試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態とで、約20%ものコアロス変化率が生じた。それに対して本発明に係る試料台10では、コアロス変化率が僅か2.8%だった。すなわち本発明に係る試料台10は、試料テーブル12に対するトロイダルコイルの配置に左右されることなくトロイダルコイルのコアロスを高精度に測定できることが第2実験によって裏付けられた。
【0037】
本発明に係る試料台10の筐体11の凹部17は、試料となるトロイダルコイル50の直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ試料テーブル12の上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されているのが好ましい。例えば当該実施例において、トロイダルコイル50の平均直径は39mmであり、筐体11の凹部17は、直径Dが59mm、深さHが15mmに設定されている。このような特徴によれば、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損をさらに低減することができるので、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置に左右されることなくトロイダルコイル50のコアロスをより高精度に測定することができる。これは以下説明する出願人が行った第3実験及び第4実験の結果に基づくものである。
【0038】
以下、第3実験について図6及び図7を参照しながら説明する。
図6は、第3実験に用いたコアロス測定装置の試料台10Aの外観斜視図である。
出願人は、従来技術の試料台10Pの試料テーブル12を非磁性金属からなる第3実験用の試料テーブル12Aに置き換えた第3実験用の試料台10Aを用いて第3実験を行った(図6)。試料としては、前記の実験用のトロイダルコイルTA、TB、TCを用いた。具体的には、試料テーブル12Aの上にトロイダルコイルを載置し、信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、試料テーブル12Aの上面(導体面)からトロイダルコイルの平均高さまでの距離hを変えながらコアロス測定装置100でコアロスを順次測定していった。
【0039】
図7は、第3実験の測定結果のグラフであり、縦軸が相対コアロス、横軸が距離hである。ここで相対コアロスは、上記の距離hが最も短いときのコアロスを1として相対換算したものであり、以下、同様とする。
第3実験の測定結果のグラフからは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても距離hが15mm以上で相対コアロスPcが0.1以下になることを容易に読み取ることできる。そして第3実験における距離hは、本発明に係る試料台10における筐体11の凹部17の深さHに相当する。よって第3実験の測定結果からは、本発明に係る試料台10において筐体11の凹部17の深さHを15mm以上に設定することによって、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を効果的に低減できることが理解できる。
【0040】
以下、第4実験について図8及び図9を参照しながら説明する。
図8は、第4実験に用いたコアロス測定装置の試料台10Bの外観斜視図である。
さらに出願人は、上記の第3実験用の試料テーブル12A(非磁性金属)の中央にさらに円形開口部18を形成した第4実験用の試料テーブル12Bを作製した。また従来技術の試料台10Pの筐体11の上面には、充分な大きさで深さが約40mmの凹部を形成した(図示省略)。そして上記の実験用の三種類のトロイダルコイルTA、TB、TCを用いて、上記の筐体11と試料テーブル12Bで第4実験用の試料台10Bを構成して第4実験を行った(図8)。具体的には、第4実験用の試料テーブル12Bの上に、図示の如くトロイダルコイルの中心に円形開口部18が位置するようにトロイダルコイルを載置する。そして信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、第4実験用の試料テーブル12Bの円形開口部18の直径を変更しながらコアロス測定装置100でコアロスを順次測定していった。
【0041】
図9は、第4実験の測定結果のグラフであり、縦軸が相対コアロス、横軸が直径差ΔDである。ここで直径差ΔDは、円形開口部18の直径からトロイダルコイルの平均直径を減算した値であり、以下、同様とする。
第4実験の測定結果のグラフからは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても直径差ΔD20mm以上で相対コアロスPcが0.1以下になることを容易に読み取ることできる。そして第4実験における直径差ΔDは、本発明に係る試料台10(図1)における筐体11の凹部17の直径Dとトロイダルコイル50の平均直径との差に相当する。よって第4実験の測定結果からは、本発明に係る試料台10において筐体11の凹部17をトロイダルコイル50の平均直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさとすることによって、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を効果的に低減できることが理解できる。
【0042】
<他の実施例、変形例>
本発明は、上記説明した実施例に特に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変形が可能であること言うまでもない。
【0043】
図10は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の変形例を図示した外観斜視図である。
この変形例の試料台10は、凹部17が略矩形の開口形状を有している以外は、前述した実施例(図1)と同じ構成である。すなわち本発明に係る試料台10の凹部17は、特に前述した実施のように円形の開口形状を有するものに限定されないのであり、どのような形状であってもよい。
【0044】
また本発明に係る試料台10は、コアロスの測定において寄生渦電流損を無視できる程に低減できればよいので、例えば筐体11を非磁性金属ではなく樹脂等の絶縁性を有する材料で形成することによっても目的を達成することができる。この場合は、筐体11の上面に凹部17を設けなくてよい。
【符号の説明】
【0045】
10 試料台
11 筐体
12 試料テーブル
13〜16 端子
17 凹部
20 信号発生器
30 第1電圧測定回路
31 シャント抵抗
40 第2電圧測定回路
50 トロイダルコイル
100 コアロス測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品のコア材のコアロスを測定するコアロス測定装置、該コアロス測定装置に用いられる試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や家電機器の基幹部品である電源トランス、モーター、チョークコイルなどのコイル部品は、コア材として軟磁性体等の磁性体が用いられている(例えば特許文献1を参照)。このようなコイル部品においては、電力損失であるコアロスが問題となる場合がある。ここでコアロスとは、磁性材料からなるコア材そのもので失われる電気エネルギーであり、ヒステリシス損、渦電流損、残留損を含む。したがって上記のようなコイル部品においてコアロスは、可能な限り小さい方が良いのは言うまでもない。そして近年は、軟磁性体コア材のコアロスを低減する技術が進歩するのに伴い、微小なコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置のニーズが高まりつつある。
【0003】
以下、コアロス測定装置の従来技術の一例とその課題について、図11、図12を参照しながら説明する。
図11は、従来技術のコアロス測定装置100の試料台10Pの斜視図である。図12は、従来技術のコアロス測定装置100の要部を図示した概略構成図である。
【0004】
コアロスの被測定対象である公知のトロイダルコイル50は、軟磁性体コア51、一次巻線52及び二次巻線53を含む。測定試料としての軟磁性体コア51は、軟磁性材料を所謂トロイダル形状に加工して形成したものである。一次巻線52は巻線数N1で軟磁性体コア51に巻かれている。二次巻線53は巻線数N2で軟磁性体コア51に巻かれている。
【0005】
コアロス測定装置100は、試料台10P、信号発生器20、第1電圧測定回路30、第2電圧測定回路40及びシャント抵抗31を備える。
【0006】
コアロス測定装置100の試料台10Pは、トロイダルコイル50を支持する台であり、筐体11、試料テーブル12、4つの端子13〜16を含む。筐体11は、略直方体形状をなし、電磁放射及び磁化による測定値への影響を防止するため非磁性金属で形成されている。筐体11の上面に配置される試料テーブル12は、トロイダルコイル50を載置する薄板状の部材であり、トロイダルコイル50の巻線と筐体11との電気的絶縁を確実にするため樹脂等の絶縁性を有する材料で形成されている。4つの端子13〜16は、トロイダルコイル50の一次巻線52及び二次巻線53の端部を信号発生器20、第1電圧測定回路30及び第2電圧測定回路40に電気的に接続するために設けられている。より具体的には端子13、14には、一次巻線52の両端が接続され、端子15、16には、二次巻線53の両端が接続される。
【0007】
信号発生器20は、シャント抵抗31を介して端子13、14に接続されており、トロイダルコイル50の一次巻線52に周期Tの正弦波の励磁電流(交流電流)I1を流す。シャント抵抗31は、抵抗値Rsの抵抗器であり、一次巻線52に流れる励磁電流I1を電圧Vsに変換する。第1電圧測定回路30は、その電圧Vs(シャント抵抗31の両端の電位差)を測定する回路であり、シャント抵抗31の両端に接続されている。第2電圧測定回路40は、端子15、16に接続されており、トロイダルコイル50の二次巻線53に生ずる誘起電圧V2を測定する回路である。
【0008】
上記説明した構成のコアロス測定装置100において、トロイダルコイル50のコアロスは以下のようにして測定することができる。
【0009】
まず信号発生器20から周期Tの正弦波の励磁信号を発生させる。そして電圧Vsを第1電圧測定回路30で測定し、測定した電圧Vsから以下の式(1)により、一次巻線52に流れる励磁電流I1を算出する。
I1=Vs/Rs …(1)
また二次巻線53の両端に生じる誘起電圧V2を第2電圧測定回路40で測定し、測定した誘起電圧V2、一次巻線52の巻線数N1、二次巻線53の巻線数N2から以下の式(2)により、一次巻線52のインダクタンス分に加わる電圧V1を算出する。
V1=(N1/N2)V2 …(2)
トロイダルコイル50のコアロスPcは、軟磁性体コア51の電力損失であるから、上記の電圧V1、励磁電流I1及び励磁電流I1の周期Tを用いて以下の式(3)により算出することができる。
【数1】
またトロイダルコイル50のコアロスPcは、上記の式(1)及び式(2)を式(3)に代入して得られる以下の式(4)から求めることもできる。
【数2】
このようにして求めたトロイダルコイル50のコアロスPcは、前記の通り、ヒステリシス損、渦電流損、残留損を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−176974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
出願人は、コアロス測定装置の研究開発を鋭意行う過程で、従来技術のコアロス測定装置は、試料テーブルに対するコイル部品の配置が僅かに異なるだけでコアロスの測定値が大きく変動してしまう場合があるという課題を発見した。さらに出願人は、このコアロスの測定値の変動は、特にコアロスが小さいコイル部品において顕著となることも突き止めた。このようなコアロスの測定値の変動は、コアロス測定装置の測定精度を低下させる要因となり、特にコアロスが小さいコイル部品においては無視できない測定誤差を生じさせることになる。
【0012】
このような状況に鑑み本発明はなされたものであり、その目的は、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、非磁性金属で形成された筐体と、絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備え、前記筐体は、前記試料テーブルが配置される領域に凹部が形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、非磁性金属の筐体で発生する寄生渦電流損(後述)を低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定することができる。
【0014】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、前述した本発明の第1の態様において、前記筐体の凹部は、試料となるトロイダルコイルの直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ前記試料テーブルの上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、非磁性金属の筐体で発生する寄生渦電流損(後述)をさらに低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスをより高精度に測定することができる。
【0015】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、絶縁性を有する材料で形成された筐体と、絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備えるコアロス測定装置の試料台である。
本発明の第3の態様によれば、筐体で発生する寄生渦電流損(後述)を低減することができるので、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定することができる。
【0016】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、前述した本発明の第1〜第3の態様のいずれかにおいて、前記筐体に設けられた四つの端子をさらに備える、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台である。
このような特徴によれば、試料台に載置された試料とコアロス測定装置との電気的接続を容易に行うことができるので、コアロス測定装置の操作性を向上させることができる。
【0017】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、前述した本発明の第1〜第4の態様のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台と、試料となるトロイダルコイルの一次巻線にシャント抵抗を介して正弦波の励磁電流を流す信号発生器と、前記シャント抵抗の両端の電位差を測定する第1電圧測定回路と、試料となるトロイダルコイルの二次巻線に生ずる誘起電圧を測定する第2電圧測定回路と、を備えるコアロス測定装置である。
本発明の第5の態様によれば、コアロス測定装置において、前述した本発明の第1〜第4の態様のいずれかに記載の発明による作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、試料テーブルに対するコイル部品の配置に左右されることなくコイル部品のコアロスを高精度に測定可能なコアロス測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図2】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の筐体の側面図。
【図3】トロイダルコイルの巻線方向の磁束を図示した斜視図。
【図4】トロイダルコイルの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図。
【図5】1ターンコイルの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図。
【図6】第3実験に用いたコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図7】第3実験の測定結果のグラフ。
【図8】第4実験に用いたコアロス測定装置の試料台の外観斜視図。
【図9】第4実験の測定結果のグラフ。
【図10】本発明に係るコアロス測定装置の試料台の変形例の外観斜視図。
【図11】従来技術のコアロス測定装置の試料台の斜視図。
【図12】従来技術のコアロス測定装置の要部を図示した概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
<コアロス測定装置の試料台の構成>
本発明に係るコアロス測定装置の試料台の構成について、図1、図2を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の外観斜視図である。図2は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の筐体11の側面図である。
【0022】
本発明に係るコアロス測定装置の試料台10(以下、単に「試料台10」という。)は、「コイル部品」としてのトロイダルコイル50を支持する台であり、筐体11、試料テーブル12、4つの端子13〜16を含む。ここで試料テーブル12、4つの端子13〜16については、図11に図示した従来技術のコアロス測定装置の試料台10Pと同じ構成であるため、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0023】
本発明に係る試料台10の筐体11は、略直方体形状をなし、電磁放射及び磁化による測定値への影響を防止するため非磁性金属で形成されている点は、従来と同様である。そして本発明に係る試料台10の筐体11は、試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されている点に従来にない特徴がある。凹部17は、直径Dの大きさの円形開口を有する円形凹部である。また凹部17は、筐体11の上面から底面までの長さ(深さ)がHに設定されている(以下、「深さH」という。)。
尚、コアロス測定装置の全体構成については、試料台10の構成以外は図12に図示した従来技術のコアロス測定装置100と同じであるため、図示及び説明を省略する。
【0024】
以下、本発明の技術的意義について、図3〜図9を参照しながら説明する。
図3は、トロイダルコイル50の巻線方向の磁束を図示した斜視図である。図4は、トロイダルコイル50の巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図である。図5は、1ターンコイルLの巻線方向に直交する方向の磁束を図示した斜視図である。
【0025】
出願人は、鋭意研究を重ねた結果、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置が僅かに異なるだけでコアロスの測定値が大きく変動してしまう原因を解明した。以下、詳細に説明する。
【0026】
コアロス測定装置100(図12)は、コアロス測定時にコイル部品から漏れ磁束があると、コアロス測定装置100を含む周辺の金属に渦電流を発生させ、その渦電流損がコアロスに含まれて測定されてしまう。この渦電流損(以下、「寄生渦電流損」という。)は、コアの渦電流損ではないから、コアロスの測定値に含まれてはならない。そのためコアロス測定装置100で測定する試料として一般的にトロイダルコイル50が採用されている。トロイダルコイル50は、磁路が閉じているため、一次巻線52に流れる電流によって巻線方向の磁束Aが生じ、漏れ磁束はほとんど生じないと従来考えられていたからである(図3)。
【0027】
ところが漏れ磁束が生じないと従来考えられていたトロイダルコイルにおいて、出願人は、巻線方向と直交する方向の漏れ磁束B(以下、「垂直漏れ磁束B」という。)が発生する可能性があるとの知見を得るに至った(図4)。トロイダルコイル50は、巻線方向に対して直交する方向から見ると、一次巻線52及び二次巻線53がそれぞれ1ターンだけ巻かれたコイルL(以下、「1ターンコイルL」という。)とみなすことができるからである(図5)。これは例えば軟磁性体コア51の断面を無限小にしていくことを考えると理解しやすい。つまり従来技術の試料台10P(図11)を用いたコアロス測定装置100は、トロイダルコイル50の一次巻線52に電流が流れた時にトロイダルコイル50に発生する垂直漏れ磁束Bによって、試料テーブル12の直下の非磁性金属の筐体11で寄生渦電流損が生じ、この寄生渦電流損も含めてコアロスとして測定されてしまうことになる。
【0028】
上記の仮説を検証するため、出願人は、平均直径(外径と内径の和の1/2の長さ。以下、同じ。)を39mmとし、コアロスPcが極めて小さいトロイダルコイル50(具体的には、後述する実験用のトロイダルコイルTC)及び1ターンコイルLをそれぞれ作製した。そして従来技術の試料台10Pとコアロス測定装置100を用いて、両者のコアロスPcをそれぞれ測定して対比する実験を行った。具体的には、信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流してトロイダルコイル50と1ターンコイルLのコアロスPcをそれぞれ測定した。また両者の測定条件を同じにするため、1ターンコイルLのコアロスPcの測定は、トロイダルコイル50の平均高さ(高さの1/2の長さ。以下、同じ。)である5mmだけ、試料テーブル12から浮かせた状態で行った。
【0029】
測定結果は、トロイダルコイル50のコアロスPcは1.30×10-4 Wであり、1ターンコイルLのコアロスPcは1.35×10-4Wであった。つまり両者のコアロスPcは略同じ値であった。この測定結果は、垂直漏れ磁束Bだけに注目すれば、トロイダルコイル50は1ターンコイルLとみなせるという上記仮説が正しいことを意味する。つまり前記の通り、漏れ磁束がないと従来考えられていたトロイダルコイル50においても実は垂直漏れ磁束Bが発生しているということである。
【0030】
このようなことから従来技術の試料台10Pにおいては、試料テーブル12に対するコイル部品の配置が異なると、トロイダルコイル50から試料テーブル12直下の非磁性金属の筐体11までの距離が変わるため、筐体11を貫く垂直漏れ磁束Bの大きさが変化し、それに従って寄生渦電流損も変化することになる。すなわち試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置が僅かに異なるだけでコアロスPcの測定値が大きく変動するという従来技術の試料台10Pの課題は、そのトロイダルコイル50の配置が異なることによって筐体11を貫く垂直漏れ磁束Bに起因する寄生渦電流損が変化するために生ずるという結論に至る。また寄生渦電流損は、コアロスが大きいトロイダルコイル50であるほど、トロイダルコイル50のコアロスに対して相対的に小さくなる。したがって上記結論は、試料テーブル12に対するコイル部品の配置が異なることによるコアロスの測定値の変動が、特にコアロスが小さいコイル部品において顕著になるという現象とも整合することになる。
【0031】
本発明に係る試料台10は、筐体11の試料テーブル12が配置される領域に凹部17が形成されているので、非磁性金属の筐体11から一定以上の間隔をもって離れた位置にトロイダルコイル50を支持することができる。それによって非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を大幅に低減することができる。すなわち本発明に係る試料台10によれば、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を低減することができるので、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置に左右されることなくトロイダルコイル50のコアロスを高精度に測定することができる。
【0032】
本発明の効果を検証するため出願人は、以下説明する第1実験及び第2実験を行った。
【0033】
以下、第1実験について説明する。
実験用の試料としては、平均直径、高さ、コア材質及び巻線の巻数が異なる三種類のトロイダルコイルTA、TB、TCを作製した(表1)。
【表1】
第1実験は、まず信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、トロイダルコイルTA、TB、TCを本発明に係る試料台10(図1)の試料テーブル12の上に載置し、それぞれのコアロスをコアロス測定装置100で測定した。また同じ条件で、トロイダルコイルTA、TB、TCを従来技術の試料台10P(図11)の試料テーブル12の上に載置し、それぞれのコアロスをコアロス測定装置100で測定した。
【0034】
表2は、第1実験の測定結果である。
【表2】
表2からは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても本発明に係る試料台10で測定したコアロスの方が大幅に減少していることが容易に読み取れる。これは本発明に係る試料台10において寄生渦電流損が大幅に減少していることを意味する。また表2からは、特に平均高さが小さいトロイダルコイルほど、より顕著にコアロスが減少していることが分かる。これは従来技術の試料台10Pでは、平均高さが小さいトロイダルコイルほど非磁性金属の筐体11との間の距離が短いため、それによって寄生渦電流損が大きくなって寄生渦電流損に起因するコアロスの増加が顕著になるためと考えられる。
【0035】
以下、第2実験について説明する。
実験用の試料としては、上記のトロイダルコイルTCを用いた。第2実験では、まず信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、本発明に係る試料台10(図1)の試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置し、コアロス測定装置100でコアロスを測定した。つづいて本発明に係る試料台10において試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態でコアロスを測定した。また同じ条件で、従来技術の試料台10P(図11)の試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置し、コアロス測定装置100でコアロスを測定した。つづいて従来技術の試料台10Pにおいて試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態でコアロスを測定した。
【0036】
表3は、第2実験の測定結果である。
【表3】
従来技術の試料台10Pでは、試料テーブル12の上にトロイダルコイルTCを載置した状態と、試料テーブル12から20mmだけ上方へトロイダルコイルTCを浮かせた状態とで、約20%ものコアロス変化率が生じた。それに対して本発明に係る試料台10では、コアロス変化率が僅か2.8%だった。すなわち本発明に係る試料台10は、試料テーブル12に対するトロイダルコイルの配置に左右されることなくトロイダルコイルのコアロスを高精度に測定できることが第2実験によって裏付けられた。
【0037】
本発明に係る試料台10の筐体11の凹部17は、試料となるトロイダルコイル50の直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ試料テーブル12の上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されているのが好ましい。例えば当該実施例において、トロイダルコイル50の平均直径は39mmであり、筐体11の凹部17は、直径Dが59mm、深さHが15mmに設定されている。このような特徴によれば、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損をさらに低減することができるので、試料テーブル12に対するトロイダルコイル50の配置に左右されることなくトロイダルコイル50のコアロスをより高精度に測定することができる。これは以下説明する出願人が行った第3実験及び第4実験の結果に基づくものである。
【0038】
以下、第3実験について図6及び図7を参照しながら説明する。
図6は、第3実験に用いたコアロス測定装置の試料台10Aの外観斜視図である。
出願人は、従来技術の試料台10Pの試料テーブル12を非磁性金属からなる第3実験用の試料テーブル12Aに置き換えた第3実験用の試料台10Aを用いて第3実験を行った(図6)。試料としては、前記の実験用のトロイダルコイルTA、TB、TCを用いた。具体的には、試料テーブル12Aの上にトロイダルコイルを載置し、信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、試料テーブル12Aの上面(導体面)からトロイダルコイルの平均高さまでの距離hを変えながらコアロス測定装置100でコアロスを順次測定していった。
【0039】
図7は、第3実験の測定結果のグラフであり、縦軸が相対コアロス、横軸が距離hである。ここで相対コアロスは、上記の距離hが最も短いときのコアロスを1として相対換算したものであり、以下、同様とする。
第3実験の測定結果のグラフからは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても距離hが15mm以上で相対コアロスPcが0.1以下になることを容易に読み取ることできる。そして第3実験における距離hは、本発明に係る試料台10における筐体11の凹部17の深さHに相当する。よって第3実験の測定結果からは、本発明に係る試料台10において筐体11の凹部17の深さHを15mm以上に設定することによって、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を効果的に低減できることが理解できる。
【0040】
以下、第4実験について図8及び図9を参照しながら説明する。
図8は、第4実験に用いたコアロス測定装置の試料台10Bの外観斜視図である。
さらに出願人は、上記の第3実験用の試料テーブル12A(非磁性金属)の中央にさらに円形開口部18を形成した第4実験用の試料テーブル12Bを作製した。また従来技術の試料台10Pの筐体11の上面には、充分な大きさで深さが約40mmの凹部を形成した(図示省略)。そして上記の実験用の三種類のトロイダルコイルTA、TB、TCを用いて、上記の筐体11と試料テーブル12Bで第4実験用の試料台10Bを構成して第4実験を行った(図8)。具体的には、第4実験用の試料テーブル12Bの上に、図示の如くトロイダルコイルの中心に円形開口部18が位置するようにトロイダルコイルを載置する。そして信号発生器20から一次巻線52に周波数100KHzの正弦波の励磁電流0.5Aを流した状態で、第4実験用の試料テーブル12Bの円形開口部18の直径を変更しながらコアロス測定装置100でコアロスを順次測定していった。
【0041】
図9は、第4実験の測定結果のグラフであり、縦軸が相対コアロス、横軸が直径差ΔDである。ここで直径差ΔDは、円形開口部18の直径からトロイダルコイルの平均直径を減算した値であり、以下、同様とする。
第4実験の測定結果のグラフからは、トロイダルコイルTA、TB、TC、いずれにおいても直径差ΔD20mm以上で相対コアロスPcが0.1以下になることを容易に読み取ることできる。そして第4実験における直径差ΔDは、本発明に係る試料台10(図1)における筐体11の凹部17の直径Dとトロイダルコイル50の平均直径との差に相当する。よって第4実験の測定結果からは、本発明に係る試料台10において筐体11の凹部17をトロイダルコイル50の平均直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさとすることによって、非磁性金属の筐体11で発生する寄生渦電流損を効果的に低減できることが理解できる。
【0042】
<他の実施例、変形例>
本発明は、上記説明した実施例に特に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変形が可能であること言うまでもない。
【0043】
図10は、本発明に係るコアロス測定装置の試料台10の変形例を図示した外観斜視図である。
この変形例の試料台10は、凹部17が略矩形の開口形状を有している以外は、前述した実施例(図1)と同じ構成である。すなわち本発明に係る試料台10の凹部17は、特に前述した実施のように円形の開口形状を有するものに限定されないのであり、どのような形状であってもよい。
【0044】
また本発明に係る試料台10は、コアロスの測定において寄生渦電流損を無視できる程に低減できればよいので、例えば筐体11を非磁性金属ではなく樹脂等の絶縁性を有する材料で形成することによっても目的を達成することができる。この場合は、筐体11の上面に凹部17を設けなくてよい。
【符号の説明】
【0045】
10 試料台
11 筐体
12 試料テーブル
13〜16 端子
17 凹部
20 信号発生器
30 第1電圧測定回路
31 シャント抵抗
40 第2電圧測定回路
50 トロイダルコイル
100 コアロス測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属で形成された筐体と、
絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備え、
前記筐体は、前記試料テーブルが配置される領域に凹部が形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項2】
請求項1に記載のコアロス測定装置の試料台において、前記筐体の凹部は、試料となるトロイダルコイルの直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ前記試料テーブルの上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項3】
絶縁性を有する材料で形成された筐体と、
絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備えるコアロス測定装置の試料台。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台において、前記筐体に設けられた四つの端子をさらに備える、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台と、
試料となるトロイダルコイルの一次巻線にシャント抵抗を介して正弦波の励磁電流を流す信号発生器と、
前記シャント抵抗の両端の電位差を測定する第1電圧測定回路と、
試料となるトロイダルコイルの二次巻線に生ずる誘起電圧を測定する第2電圧測定回路と、を備えるコアロス測定装置。
【請求項1】
非磁性金属で形成された筐体と、
絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備え、
前記筐体は、前記試料テーブルが配置される領域に凹部が形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項2】
請求項1に記載のコアロス測定装置の試料台において、前記筐体の凹部は、試料となるトロイダルコイルの直径より20mm以上長い直径の円を包含する大きさで、かつ前記試料テーブルの上面から底面までの長さが15mm以上となる深さで形成されている、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項3】
絶縁性を有する材料で形成された筐体と、
絶縁性を有する材料で形成され、前記筐体の上面に配置される試料テーブルと、を備えるコアロス測定装置の試料台。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台において、前記筐体に設けられた四つの端子をさらに備える、ことを特徴とするコアロス測定装置の試料台。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコアロス測定装置の試料台と、
試料となるトロイダルコイルの一次巻線にシャント抵抗を介して正弦波の励磁電流を流す信号発生器と、
前記シャント抵抗の両端の電位差を測定する第1電圧測定回路と、
試料となるトロイダルコイルの二次巻線に生ずる誘起電圧を測定する第2電圧測定回路と、を備えるコアロス測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−100995(P2013−100995A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243554(P2011−243554)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(503103109)岩通計測株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(503103109)岩通計測株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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